(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025143285
(43)【公開日】2025-10-01
(54)【発明の名称】再灌流療法のために患者を選択する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20250924BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2025094595
(22)【出願日】2025-06-06
(62)【分割の表示】P 2021566495の分割
【原出願日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】19382384.6
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512274953
【氏名又は名称】フンダシオ オスピタル ウニベルシタリ バル デブロン-インスティテュート デ レセルカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムンタネー ビジャロンガ,ホアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するための方法、また、虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別する方法、および方法を行うための試薬を含むキットに関する。
【解決手段】患者の単離試料中のレチノール結合タンパク質-4(RBP4)のレベルとB型ナトリウム利尿ペプチドのN末端フラグメント(NT-proBNP)のレベルとを決定することを含む。グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)のレベルを決定することをさらに含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するためのインビトロ方法であっ
て、前記患者の単離試料中のレチノール結合タンパク質-4(RBP4)のレベルとB型
ナトリウム利尿ペプチドのN末端フラグメント(NT-proBNP)のレベルとを決定
することを含むインビトロ方法。
【請求項2】
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)のレベルを決定することをさらに含む、請求
項1に記載のインビトロ方法。
【請求項3】
RBP4、NT-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、各タンパ
ク質に関する対応する基準値または基準範囲とを比較する工程をさらに含み、前記基準値
または基準範囲が、虚血性脳卒中に罹患している対象から得られた値または値の範囲から
選択され、前記対象が、少なくともRBP4およびNT-proBNPのレベルがともに
、虚血性脳卒中に罹患している対象から得られた前記値内または前記値の範囲内にある場
合に、再灌流療法の候補として分類される、請求項1から2のいずれか一項に記載のイン
ビトロ方法。
【請求項4】
RBP4、NT-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、各タンパ
ク質に関する対応する基準カットオフ値とを比較する工程をさらに含み、
・RBP4およびNT-proBNPのレベルのみが決定される場合、RBP4および
NT-proBNPのレベルが同時に、虚血性脳卒中患者と脳内出血患者とを識別する、
前記タンパク質の各々に関する対応する基準カットオフ値Ref1RBP4およびRef
1NT-proBNP以上であることが、前記患者が再灌流療法の候補であることを示し
、または
・RBP4、NT-proBNPおよび追加のGFAPのレベルが決定される場合、第
1の工程でGFAPのレベルが基準カットオフ値RefGFAP以下であり、第2の工程
でRBP4およびNT-proBNPのレベルが同時に、対応する基準カットオフ値Re
f2RBP4およびRef2NT-proBNP以上であれば、前記患者が、再灌流療法
の候補として選択され、前記カットオフ値が、虚血性脳卒中患者と脳内出血患者とを識別
する、請求項1から2のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項5】
前記対象が再灌流療法の候補として分類される場合、該対象がまた、修正ランキングス
コア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義され、脳卒中発症後1~5カ月以
内に決定された予後を有するとして、および/または25%~30%から構成される発症
後3カ月死亡率によって定義された予後を有するとして、分類される、請求項1から4の
いずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項6】
前記対象が再灌流療法の候補として分類される場合、該対象がまた、大血管閉塞に罹患
していると診断される、請求項1から5のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項7】
前記再灌流療法が、抗血栓剤による療法、血栓除去、およびそれらの組合せからなる群
から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項8】
前記抗血栓剤が血栓溶解剤である、請求項7に記載のインビトロ方法。
【請求項9】
前記血栓溶解剤がプラスミノーゲン活性化因子である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記プラスミノーゲン活性化因子が組織プラスミノーゲン活性化因子である、請求項9
に記載の方法。
【請求項11】
前記血栓溶解剤が、アルテプラーゼ、レテプラーゼおよびテネクテプラーゼならびにそ
れらの組合せからなる群から選択される組換え組織プラスミノーゲン活性化因子である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が生体液である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生体液が、血漿または血清である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
RBP4およびNT-proBNP、ならびに決定される場合GFAPのレベルを決定
することが、脳卒中発症後の最初の2時間以内に行われる、請求項1から13のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項15】
患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別するためのインビトロ方法であって、前記
患者の単離試料中のRBP4およびNT-proBPNのレベルを決定することを含むイ
ンビトロ方法。
【請求項16】
GFAPのレベルを決定することをさらに含む、請求項15に記載のインビトロ方法。
【請求項17】
RBP4、NT-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、対応する
基準値とを比較する工程であって、
・前記基準値もしくは基準範囲が、虚血性脳卒中に罹患している対象および/または出
血性脳卒中に罹患している対象から得られた値もしくは値の範囲から選択され、前記対象
が、少なくともRBP4およびNT-proBNPのレベルがともに、虚血性脳卒中に罹
患している対象から得られた前記値内もしくは前記値の範囲内にある場合に、虚血性脳卒
中として分類されるか、RBP4のレベルおよびNT-proBNPのレベルのうちの少
なくとも1つが、出血性脳卒中に罹患している対象から得られた前記値内もしくは前記値
の範囲内で一致する場合に、出血性脳卒中として分類される工程、または代わりに
・RBP4、NT-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、各タン
パク質に関する対応する基準カットオフ値とを比較する工程であって、(a)RBP4お
よびNT-proBNPのレベルのみが決定される場合、RBP4およびNT-proB
NPのレベルが同時に、虚血性脳卒中患者と脳内出血患者とを識別する、前記タンパク質
の各々に関する対応する基準カットオフ値Ref1RBP4およびRef1NT-pro
BNP以上であることが、前記患者が虚血性脳卒中に罹患していることを示し、もしくは
(b)RBP4、NT-proBNPおよび追加のGFAPのレベルが決定される場合、
第1の工程でGFAPのレベルが基準カットオフ値RefGFAP以下であり、第2の工
程でRBP4およびNT-proBNPのレベルが同時に、対応する基準カットオフ値R
ef2RBP4およびRef2NT-proBNP以上であれば、前記患者が、虚血性脳
卒中に罹患しているとして分類され、前記カットオフ値が、虚血性脳卒中患者と脳内出血
患者とを識別する工程、をさらに含む、請求項15から16のいずれか一項に記載のイン
ビトロ方法。
【請求項18】
前記対象が虚血性脳卒中として分類される場合、該対象が、修正ランキングスコア(m
RS)に従って2を超える依存度によって定義され、脳卒中発症後1~5カ月以内に決定
された予後を有するとして、および/または25%~30%から構成される発症後3カ月
死亡率によって定義された予後を有するとして、分類される、請求項15から17のいず
れか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項19】
前記対象が虚血性脳卒中として分類される場合、該対象がまた、大血管閉塞に罹患して
いると診断される、請求項15から18のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項20】
RBP4およびNT-proBNP、ならびに決定される場合GFAPのレベルを決定
することが、脳卒中発症後の最初の2時間以内に行われる、請求項15から19のいずれ
か一項に記載のインビトロ方法。
【請求項21】
1つ以上の臨床パラメータを決定することをさらに含む、請求項1から14のいずれか
一項に記載の脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するためのインビトロ
方法、または請求項15から20のいずれかに記載の患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中
から区別するためのインビトロ方法。
【請求項22】
前記臨床パラメータが、収縮期血圧および/または拡張期血圧を含む血圧、血糖、年齢
、脳卒中関連神経障害の系統的評価ツールからのスコア、性別およびそれらの組合せから
なる群から選択される、請求項21に記載のインビトロ方法。
【請求項23】
大血管閉塞(LVO)の診断のためのインビトロ方法であって、対象の単離試料中のR
BP4およびNT-proBNPのレベルを決定することを含むインビトロ方法。
【請求項24】
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)のレベルを決定することをさらに含む、請求
項23に記載の大血管閉塞の診断のためのインビトロ方法。
【請求項25】
RBP4、NT-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、対応する
基準値とを比較する工程をさらに含み、前記基準値または基準範囲が、LVOに罹患して
いる対象から得られた値または値の範囲から選択され、前記対象が、少なくともRBP4
、NT-proBNPおよびGFAPのうちの1つのレベルがともに、LVOに罹患して
いる対象から得られた前記値内または前記値の範囲内にある場合に、LVOとして診断さ
れる、請求項23から24のいずれか一項に記載のインビトロ方法。
【請求項26】
1つ以上の臨床パラメータを決定することをさらに含む、請求項23から25のいずれ
か一項に記載のインビトロ方法。
【請求項27】
前記臨床パラメータが、収縮期血圧および/または拡張期血圧を含む血圧、血糖、血中
d-ダイマーのレベル、年齢、脳卒中関連神経障害の系統的評価ツールからのスコア、性
別およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項26に記載のインビトロ方法
。
【請求項28】
前記単離試料中のRBP4、NT-proBNPおよびGFAPのレベル、血糖、d-
ダイマー、およびさらなる拡張期血圧、および脳卒中関連神経障害の系統的評価ツールか
らのベースラインスコアを決定することを含む、請求項23から27のいずれか一項に記
載のインビトロ方法。
【請求項29】
RBP4およびNT-proBNP、ならびに決定される場合GFAPのレベルを決定
することが、脳卒中発症後の最初の2時間以内に行われる、請求項23から28のいずれ
か一項に記載のインビトロ方法。
【請求項30】
虚血性脳卒中に罹患している患者の予後のためのインビトロ方法であって、前記患者の
単離試料中のレチノール結合タンパク質-4(RBP4)のレベルとB型ナトリウム利尿
ペプチドのN末端フラグメント(NT-proBNP)のレベルとを決定することを含む
インビトロ方法。
【請求項31】
少なくともRBP4または2つのタンパク質のレベルが基準値と比較され、前記基準値
が、前記対象が虚血性脳卒中に罹患していることを示すか確認する値または値の範囲から
選択される、請求項30に記載の予後のためのインビトロ方法。
【請求項32】
前記予後が、修正ランキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義
され、脳卒中発症後1~5カ月以内に決定され、および/または25%~30%から構成
される発症後3カ月死亡率によって定義される、請求項30から31のいずれか一項に記
載の予後のためのインビトロ方法。
【請求項33】
患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別するための、または脳卒中に罹患している
患者を再灌流療法のために選択するためのインビトロ方法であって、場合により、収縮期
血圧および/または拡張期血圧を含む血圧、血糖、年齢、脳卒中関連神経障害の系統的評
価ツールから得られたスコア、性別およびそれらの組合せからなる群から選択される臨床
パラメータの決定と組み合わせて、前記患者の単離試料中のNT-proBNPのレベル
およびGFAPのレベルを決定することを含むインビトロ方法。
【請求項34】
RBP4およびNT-proBNPのレベルを検出するための試薬手段と、場合により
、GFAPのレベルを検出するための試薬手段とを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月16日に出願された欧州特許出願EP19382384.6
の利益を主張する。
【0002】
本発明は、診断またはコンパニオン診断の分野、特に虚血性脳卒中を出血性脳卒中から
区別する方法、および脳卒中事象のタイプに応じた適切な療法の選択に関する。
【背景技術】
【0003】
脳血管疾患(CVD)とも呼ばれる脳卒中は、最も重要な神経学的疾患の1つである。
これは、世界で2番目の予防可能な死因であり、生産性低下の主な原因である。脳卒中の
2つの主要なサブタイプは、虚血性脳卒中(IS)、および出血性脳卒中とも呼ばれる脳
内出血(ICH)である。あらゆる脳卒中の80~85%超が脳動脈閉塞によって引き起
こされるISであるのに対して、残りの15~20%は動脈破裂によって現れるICHで
ある。30日死亡率が8~12%であるISに罹患している患者とは対照的に、ICH患
者では、症状発現から30日後の死亡率が37~38%と転帰が不良である。
【0004】
急性期には、ISとICHとの間で特異的で大きく異なる最適な治療プロトコルを規定
するために、両サブタイプを正確に区別することが重要である。急性ISに推奨される一
次治療には、薬物投与または血管内手術(血栓除去)による血流の回復である再灌流が含
まれる。使用される主な薬物は、血栓溶解剤、例えば、脳動脈を閉塞する血餅を溶解する
セリンプロテアーゼである組換え組織プラスミノーゲン活性化因子、またはテネクテプラ
ーゼ(TNK、タンパク質構造の3つの部位での修飾によって天然のt-PAから誘導さ
れる組換えフィブリン特異的プラスミノーゲン活性化因子)である。血栓溶解は、症状発
現からわずか4.5時間という狭い治療時間枠を有するため、ISを迅速に特定すること
によって、早期血流再開が可能になり、周辺部からの組織の回復につながり、臨床転帰が
改善される可能性がある。一方、急性ICH患者は、通常、血腫の成長を遅らせるため、
または浮腫の出現、および再出血を避けるために血圧を低下させることによって管理され
る。今日、脳卒中サブタイプの診断は、コンピュータ断層撮影(CT)または磁気共鳴画
像法(MRI)による脳画像データに主に基づいている。したがって、脳卒中の疑いのあ
る患者は、CTスキャンまたはMRIを得るための貴重な時間を失って、そのような神経
画像処理技術を実施するために病院に搬送されなければならない。残念ながら、MRIお
よびCTスキャンは、特に未開発の地域では広く利用可能ではなく、一次病院では資源不
足のために繰り返し使用することはできない。さらに、これらの技術のいくつかは、放射
線または造影剤注射に主に関連する副作用を有する可能性がある。加えて、MRIおよび
CTを実施する医療従事者が経験を積んでいないか、十分な訓練を受けていない場合、M
RIおよびCTはエラーまたは不確実性の影響を受けやすい可能性がある。
【0005】
脳卒中サブタイプの迅速な区別を行うためのバイオマーカの使用を説明するいくつかの
文献の中で、特許文献1は、患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別する方法、およ
び1つ以上のバイオマーカと組み合わせて、上記患者の試料中のグリア線維性酸性タンパ
ク質(GFAP)のレベルの決定に基づいて、抗血栓剤、または血圧を低下させることが
できる薬剤による療法のために、脳卒中に罹患している患者を選択する方法を開示してい
る。
【0006】
急性ISに関連する可能性のあるバイオマーカを分析する試験の別の例は、Reyno
ldsらによる文献、非特許文献1から抽出することができる。この文献では、脳卒中患
者の血漿中の可能性のあるバイオマーカとして、S-100B分子、B型神経栄養成長因
子、フォンビルブランド因子、マトリックスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)、
および走化性タンパク質-1(MCP-1)としても知られるケモカインリガンド2(C
-Cモチーフを有する)(CCL-2)に関する結果が示されている。著者らは、MCP
-1タンパク質のみが急性虚血性脳卒中の診断に顕著な価値を有し、患者の脳脊髄液から
試料を抽出したが、血清濃度は対照患者と異ならなかったとの結論を下した。したがって
、疾患の正確な特定のためには実用性が低い手法であると想定された。
【0007】
心原性脳塞栓症の特定の診断のためのバイオマーカもまた、非特許文献2に開示されて
いる。脳卒中の急性期における心原性脳塞栓症の診断を改善するために、脳ナトリウム利
尿ペプチド(BNP)およびD-ダイマー(DD)が提案されている。
【0008】
厳密には疾患の重症度のために、非IS患者に対して再灌流療法を施すことは致命的で
ある可能性があるため、脳卒中サブタイプ間の正確な診断が重要である。このサブタイプ
の診断は、特に患者が自宅、路上、または一般開業医の診療所で急性期に発見された後、
できるだけ早く行われることが好ましい。したがって、救急車で容易に実施することがで
き、病院でさらに検証することができるキットまたはポイントオブケアがあればさらに良
い。
【0009】
他のチームは、病院外で脳卒中の診断を行い、再灌流療法をできるだけ早く施して、治
療された患者の神経学的転帰を改善することができるようにするために、CTスキャンを
組み込んだ救急車である移動式脳卒中ユニットなどの戦略を使用している。ただし、この
戦略は非常に高価であり、これらのハイテク救急車には莫大な費用がかかり、専門の人員
を必要とする。
【0010】
最近の試験では、大血管閉塞(LVO)に対する血管内治療により、この形態の重度の
急性虚血性脳卒中を経験している患者の罹患率および死亡率が低下することが示されてい
る。それにもかかわらず、多くの場合、血管内治療を実施することができる専門病院への
到着の遅れに起因して、LVOを経験している患者の少数が血管内治療を受けている(非
特許文献3)。急性脳卒中を経験している患者には、救急医療(EMS)専門家が最初に
遭遇することが多く、EMS専門家によって入院前の状況でLVO脳卒中が早期に認識さ
れるならば、血管内センターへの適時な輸送が改善され、さらに良好な患者転帰につなが
る可能性がある(非特許文献4)。Croweらによって、LVOの診断に使用される様
々なスケールが比較された(上記参照)。Croweらは、急性虚血性脳卒中を経験した
患者2,415例では、虚血性脳卒中患者の26%(n=628)がLVOと診断された
ことを示した。
【0011】
2以上のCPSSスコアは、LVOに対して69%の感度および78%の特異度を示し
た。4以上のRACEスコアは、63%の感度および73%の特異度を示した。3以上の
LAMSスコアは、63%の感度、72%の特異度を示し、正のVANスコア(posi
tive VAN score)は、86%の感度および65%の特異度を示した。各ス
ケールのROC曲線下面積を比較したところ、LVO脳卒中に対する識別能力に統計的有
意差は認められなかった。これは、LVOの信頼できるマーカの必要性を明らかにする。
【0012】
さらに、LVOは、急性虚血性脳卒中(AIS)患者では、3カ月および6カ月での不
良転帰と関連する(非特許文献5)。Lakomkinらは、系統的レビューに含まれる
16件の試験が、LVOの異なる9つの定義(動脈閉塞部位の異なる組合せ)を用いてお
り、Waqasらによって示されるたように、これがLVOの有病率を左右している可能
性があることを見出した(非特許文献6および非特許文献7を参照)。
【0013】
最後に、脳卒中の診断および治療の分野で注目に値するのは、いわゆる脳卒中ミミック
(stroke mimic)と実際の脳卒中とを区別することである。脳卒中ミミック
は、脳卒中様の臨床像を呈するが、神経学的組織梗塞を伴わない疾患または状態として定
義される。いくつかの臨床症候群は、急性虚血性脳卒中に類似した症状または徴候を呈す
ることがあり、したがって、脳卒中と脳卒中ミミックとの区別は、多種多様な重複する臨
床症状のために困難である。これは、介入的脳卒中治療の潜在的な有害作用のため、医師
にとって真の課題である。現在、患者の単離試料では、実際の脳卒中とミミックとを区別
することができるマーカはほとんどない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開WO2016/087611号号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Early Biomarkers of Stroke”,Clinical Chemistry-2003,vol.:49(10),pp.:1733-1739
【非特許文献2】Montaner et al.“Etiologic Diagnosis of Ischemic Stroke Subtypes With Plasma Biomarkers”,Stroke2008,vol.no.39,pp.:2280-2287
【非特許文献3】Rai AT et al.(2017).A population-based incidence of acute large vessel occlusions and thrombectomy eligible patients indicates significant potential for growth of endovascular stroke therapy in the USA.J Neurointerv Surg.9:722-6
【非特許文献4】Crowe RP,Myers JB,Fernandez AR,Bourn S,McMullan JT.The Cincinnati Prehospital Stroke Scale Compared to Stroke Severity Tools for Large Vessel Occlusion Stroke Prediction.Prehosp Emerg Care.2020Feb25:1-9
【非特許文献5】Gandhi CD,Al Mufti F,Singh iP,et al.Neuroendovascular management of emergent large vessel occlusion:update on the technical aspects and standards of practice by the Standards and Guidelines Committee of the Society of Neurointerventional Surgery.J Neurointerv Surg2018;10:315-20
【非特許文献6】Lakomkin N,Dhamoon M,Carroll K,et al.Prevalence of large vessel occlusion in patients presenting with acute ischemic stroke:a 10-year systematic review of the literature.J Neurointerv Surg2019;11:241-5
【非特許文献7】Waqas M,et al.Effect of definition and methods on estimates of prevalence of large vessel occlusion in acute ischemic stroke:a systematic review and meta-analysis.J Neurointerv Surg.2020Mar;12(3):260-265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、当技術分野では、患者のための最良の治療手法を最短の期間で決定するた
めに、当技術分野で開示されている方法の限界を克服し、かつ脳卒中サブタイプと除外さ
れるミミックとを確実に識別することができるバイオマーカを使用する代替的な検査の必
要性が存在する。さらに、LVOの明確な定義が確立されているのに対して、特定の治療
(すなわち、血管内治療または血栓除去)を必要とする状態であるLVOの信頼できるマ
ーカの必要性も満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1の態様では、本発明は、脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択する
ためのインビトロ方法であって、上記患者の単離試料中のレチノール結合タンパク質-4
(RBP4)のレベルとB型ナトリウム利尿ペプチドのN末端フラグメント(NT-pr
oBNP)のレベルとを決定することを含むインビトロ方法に関する。
【0018】
したがって、この方法はコンパニオン診断方法として包含される。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、単離試料中のこれら2つのタンパク質のレベルを決定
することにより、ISとICHとの間の良好な分類が可能であることを初めて発見した。
【0020】
したがって、本発明の別の態様は、患者のISをICHから区別するためのインビトロ
方法であって、上記患者の単離試料中のRBP4およびNT-proBPNのレベルを決
定することを含むインビトロ方法である。
【0021】
NT-proBNPおよびRBP4のレベルにより、主に抗血栓剤または血栓除去によ
る再灌流療法を受けることができる群と、致死的転帰を避けるために再灌流療法を避ける
べき群との2群に患者を分類することができる。後者の中で、ICH患者は、血圧を低下
させるか最適化する治療によって治療されやすい。
【0022】
以下の例に示されているように、NT-proBNPとRBP4との組合せのレベルに
より、100%またはほぼ100%の特異度で患者を分類することができる。したがって
、このマーカの組合せは非常に正確であり、適切な療法(すなわち、再灌流療法の候補患
者)を選択する真の安全な様式が想定される。本発明者の知る限りでは、患者の単離試料
(すなわち、生体液試料)中で検出可能なマーカが100%またはほぼ100%の特異度
値を達成するのはこれが初めてである。さらに、非常に有利なことに、両マーカは、症状
発現後6時間以内またはそれ以下、さらには3時間以内またはそれ以下に測定された場合
であっても、異なる脳卒中タイプ間の識別を可能にする。言い換えれば、批評時間(超急
性期)中の正確な識別が可能である。
【0023】
さらに、以下の実施例に例示されるように、単離試料中のこれら2つのタンパク質を決
定することにより、比較的高い死亡率を有するという意味で予後または転帰が不良な、脳
卒中に罹患している患者を検出することもできる。したがって、これらの患者は、不良転
帰の進行を避けるために、可能な限り迅速に治療される必要がある。
【0024】
したがって、本発明はまた、脳卒中、特に虚血性脳卒中に罹患している患者、したがっ
て再灌流療法の候補の予後のための方法であって、場合により、患者の単離試料中のNT
-proBNPの発現レベルと組み合わせて、RBP4の発現レベルを決定することを含
む方法に関する。本発明者の知る限りでは、RBP4、またはRBP4およびNT-pr
oBNPとのこの不良転帰の関連が示されるのはこれが初めてである。予後のための方法
の特定の実施形態では、患者の試料中の両タンパク質のレベルが決定され、この試料は、
別の特定の実施形態では、生体液試料、さらに具体的には、血液(血漿または血清)であ
る。脳卒中に罹患している患者の予後のための方法のさらに別の特定の実施形態では、少
なくともRBP4または2つのタンパク質のレベルが基準値と比較され、上記基準値は、
対象が虚血性脳卒中に罹患していることを示す値または値の範囲から選択される。
【0025】
さらに別の態様では、本発明は、RBP4およびNT-proBNPのレベルを検出す
るための試薬手段を含むキットに関する。
【0026】
本発明はまた、GFAP、RBP4、NT-proBNPまたはそれらの組合せから選
択されるマーカのレベルを検出するための試薬を含むキットを開示する。
【0027】
さらに別の態様では、本発明はまた、第1の態様に定義される再灌流療法のために脳卒
中に罹患している患者を選択するため、または患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区
別するための方法を行うための、イムノアッセイ、タンパク質移動、クロマトグラフィー
、質量分析、比濁法、ネフェロメトリーおよびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)からなる
群から選択される、検査試料中のRBP4、NT-proBNPのいずれかの存在を検出
するための手段の使用を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(A)では、2つの脳卒中サブタイプの100%の特異度に対するNT-proBNP(pg/mLのY軸)のカットオフ(水平黒線)レベルを示し、(B)では、RBP4(μg/mLのY軸)のカットオフ(水平黒線)レベルを示している。パネルCでは、log10(NT-proBNP)およびRBP4レベルを、各タンパク質について先に決定された対応するカットオフとともに同時にプロットした。100%特異度ISとは、グラフ(図)のそのスペースに値を有する全患者がいずれも虚血性脳卒中患者であったことを意味する。
【
図2】(A)では、異なる患者コホートにおける>325pg/mlのGFAP(log(GFAP))のカットオフレベルを示している。パネル(B)では、log10(NT-proBNP)およびRBP4レベルを、この患者コホートの各タンパク質について以前に決定された対応するカットオフとともに同時にプロットした。100%特異度ISは、
図1と同じ意味を有する。
【
図3】サポートベクターマシン手順(SVM)を用いて検索されたデータの分析から得られたグラフである。S字状曲線上の値は100%ISであり、曲線下の値はICHまたはISサブタイプのいずれかを有する患者に対応する。NT-proBNPのY軸レベル(pg/mL);RBP4のX軸レベル(μg/mL)。「ガウスカーネルを用いたサポートベクターマシン手順に導入され得る」。100%特異度ISは、
図1と同じ意味を有する。
【
図4】虚血性脳卒中状態の有意な予測因子として、GFAP(pg/ml)、NT-proBNP(pg/ml)および拡張期血圧(mmhg)の対数変換を含むロジスティックモデルスコアを使用した、対象コホートの分類を示すグラフである。
【
図5】脳卒中症状発現後最初の1時間以内にマーカのレベルの決定が行われ、虚血性脳卒中状態の有意な予測因子として、GFAP(pg/ml)、NT-proBNP(pg/ml)および拡張期血圧(mmhg)の対数変換を含むロジスティックモデルスコアを使用した、対象コホートの分類を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本出願の本明細書で使用されるすべての用語は、特に明記しない限り、当技術分野で知
られている通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される特定の用語の他のさ
らに具体的な定義は、以下に記載されており、他に明示的に定められた定義がさらに広い
定義を提供しない限り、明細書および特許請求の範囲全体に均一に適用されることを意図
している。
【0030】
本明細書で使用される用語「患者」(または対象)は、脳卒中に典型的に関連する1つ
以上の徴候または症状、例えば、突然発症する顔面の筋力低下、腕のふらつき(arm
drift)、異常な発話ならびにそれらの組合せ、例えば、FAST(顔、腕、発話お
よび時間)、顔面の片麻痺および筋力低下、しびれ、感覚または振動感の低下、痙縮(緊
張亢進)に置き換わる初期の弛緩(緊張低下)、反射亢進、強制的な共同運動、および特
に、それらが身体の片方(片側)に現れる場合、嗅覚、味覚、聴覚または視覚の(全体的
または部分的な)変化、眼瞼下垂(下垂症)および眼筋力低下、反射減退(例えば、咽頭
、嚥下、および光に対する瞳孔反応)、顔面の感覚減退および筋力低下、平衡障害および
眼振、呼吸および心拍数の変化、頭部を片側に向けることができない胸鎖乳突筋の筋力低
下、舌の脱力(突出不能および/または左右への移動不能)、失語症、構音障害、失行症
、視野欠損、記憶障害、半側無視、支離滅裂な思考、錯乱、性欲過剰行動(hypers
exual gesture)、洞察力の欠如、通常脳卒中に関連する障害、歩行パター
ンの変化、運動協調の変化、眩暈、頭痛およびまたは平衡障害を示す任意の対象を指す。
本明細書で使用される用語「患者」は、哺乳動物として分類されるあらゆる動物も指し、
限定するものではないが、飼育動物および家畜、霊長類およびヒト、例えば、人間、ヒト
以外の霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたは齧歯類を含む。好ま
しくは、患者は、任意の年齢または人種の男性または女性のヒトである。好ましくは、患
者は、脳卒中に罹患している。
【0031】
本明細書で使用される用語「療法のために患者を選択すること」は、疾患を治療するか
、1つ以上の疾患または状態に関連する症状を緩和するように設計された療法のための患
者の特定に関する。脳卒中療法の特定の場合では、それは、脳卒中に関連する症状、さら
に具体的には、虚血性脳卒中あるいは出血性脳卒中に関連する症状を消失させるか、遅延
させるか、低減する任意の療法として理解される。
【0032】
用語「再灌流療法」は、閉塞した動脈を通るまたはその周囲の血流を回復させるための
医学的処置に関する。再灌流療法には、薬物および血管内手術が含まれる。薬物は、血栓
溶解と呼ばれるプロセスで使用される血栓溶解剤(抗血栓剤)および線維素溶解剤である
。実施される介入は、1つ以上のステント回収装置、吸引技術、またはステント回収装置
および吸引の両方を組み合わせた代替装置を使用する可能性がある、血栓を除去するため
の最小侵襲性血管内手技(血栓除去)であってよい。行われる他の手術は、閉塞の周りに
動脈を移植するさらに侵襲的なバイパス手術である。「機械的血栓除去」または単に血栓
除去は、血管から血餅(血栓)を除去する介入的手技である。これは一般的に、冠動脈(
インターベンショナルカーディオロジー)、末梢動脈(インターベンショナルラジオロジ
ー)および脳動脈(インターベンショナルニューロラジオロジー)に対して行われる。
患者の選択は、そうであることが好ましいが、本発明のこの第1の方法に従って選択さ
れた対象の100%にとって適切である必要はない。ただし、この用語は、対象の統計的
に有意な部分が正しく選択されることを必要とする。対象集団内の患者の選択が統計的に
有意であるかどうかは、様々な周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決
定、スチューデントのt検定、マンホイットニー検定などを使用して、当業者によって決
定され得る。詳細については、Dowdy and Wearden,Statisti
cs for Research,John Wiley&Sons,New York
1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%>
、少なくとも70%>、少なくとも80%>、少なくとも90%>または少なくとも95
%である。p値は、好ましくは、0.01、0.05、0.005、0.001またはそ
れ以下である。
【0033】
用語「虚血性脳卒中」(略してIS)は、脳のある領域への血流が物理的に遮断され、
その領域の脳細胞が死ぬことを指す。虚血性脳卒中は、血栓性脳卒中と塞栓性脳卒中とに
さらに分けることができる。血栓性脳卒中は、脳内に形成された血餅によって脳動脈が閉
塞されると発生する。塞栓性脳卒中は、末梢動脈または心臓内で形成され、脳に移動して
虚血を引き起こす血栓によって引き起こされる。別のタイプの虚血性脳卒中は、小さな脳
動脈の閉塞による小窩性卒中である。
【0034】
本明細書で使用される用語「出血性脳卒中」(脳内出血の場合、略してICH)は、血
管の破裂による脳組織への出血を指す。
【0035】
本発明の発明者らは、脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために正確に選択する
ための新しい血漿バイオマーカとしてRBP4およびBNPを同定した。したがって、こ
のマーカにより、ICHから急性ISを鑑別診断することができる。これら2つのマーカ
を用いたいくつかのデータ分析手法により、20%~30%の感度で100%の特異度が
達成された。さらに、第3のマーカ、特にGFAPのレベルが追加された場合、感度が6
0%増加する一方で、特異度が維持された。
【0036】
したがって、脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択する第1の態様の特
定の実施形態では、方法は、上記患者の単離試料中のGFAPのレベルを決定することを
さらに含む。
【0037】
感度の向上が望ましいが、本発明者らは、RBP4およびNT-proBNPのレベル
を検出するための手段のみを含む簡略化されたキットも開発した。脳卒中患者が看護され
ている際に救急車内で使用することができるこの簡略化されたキットを用いると、ISと
ICHとを正確に識別することができる。これにより、適切であれば、できるだけ早く再
灌流療法を施して(すなわち、救急車での抗血栓剤)、患者はすぐに治療されるため、少
なくともISでは不良転帰を避けることが可能になる。さらに、ICHでは、血圧が最適
化されていれば、症状の悪化が回避される。
【0038】
第1の態様のさらになお特定の実施形態では、方法は、上記レベルと、各タンパク質に
関する対応する基準値または基準範囲とを比較する工程を含み、上記基準値または基準範
囲は、虚血性脳卒中に罹患している対象から得られた値または値の範囲から選択され、対
象は、少なくともRBP4およびNT-proBNPのレベルがともに、ISに罹患して
いる対象から得られた値内または値の範囲内にある場合に、再灌流療法の候補として分類
される。
【0039】
さらに特定の実施形態では、基準値または基準範囲は、ISに罹患している対象または
ICHに罹患している対象から得られた値または値の範囲から選択され、対象は、少なく
ともRBP4およびNT-proBNPのレベルがともに、ISに罹患している対象から
得られた値内または値の範囲内にある場合に、再灌流療法の候補として分類される。IS
に罹患している対象から得られた値内または値の範囲内の両方のレベルでは、98%を超
える特異度、特に100%の特異度について、有意義な臨床的感度(約21%)が達成さ
れる。
【0040】
第1の態様の別の特定の実施形態では、方法は、RBP4、NT-proBNP、およ
び場合により決定される場合GFAPのレベルと、各タンパク質に関する対応する基準値
または基準範囲とを比較する工程を含み、上記基準値または基準範囲は、虚血性脳卒中に
罹患している対象から得られた値または値の範囲から選択され、対象は、
少なくともRBP4およびNT-proBNPのレベルがともに、虚血性脳卒中に罹患
している対象から得られた値内または値の範囲内にある場合、
・再灌流療法の候補として、および
・修正ランキングスコア(modified ranking score)(mRS
)に従って2を超える依存度によって定義され、脳卒中発症後1~5カ月以内に決定され
た予後を有するとして、および/または20%~30%から構成される発症後3カ月死亡
率によって定義された予後を有するとして、分類される。
【0041】
別のさらに特定の実施形態では、方法は、RBP4、NT-proBNPおよびGFA
Pのレベルを比較する工程を含み、対象が再灌流療法の候補として分類される場合、対象
はまた、修正ランキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義され、
脳卒中発症後1~5カ月以内に決定された予後を有するとして、および/または20%~
30%から構成される発症後3カ月死亡率によって定義された予後を有するとして、分類
される。
【0042】
予後は、修正ランキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度として定義され、
脳卒中発症後少なくとも3カ月で決定される。特定の実施形態では、発症後3カ月死亡率
は、少なくとも23%である。別の特定の実施形態では、25%である。
【0043】
RBP4およびNT-proBNPのレベルのうちの1つのみが、ISに罹患している
対象から得られた値内または値の範囲内にある特定の実施形態では、対象はまた、再灌流
の候補として分類される。
【0044】
第1の態様の別の特定の実施形態では、インビトロ方法は、RBP4、NT-proB
NP、および決定される場合GFAPのレベルと、各タンパク質に関する対応する基準カ
ットオフ値とを比較する工程をさらに含み、
・RBP4およびNT-proBNPのレベルのみが決定される場合、RBP4および
NT-proBNPのレベルが同時に、虚血性脳卒中患者と脳内出血患者とを識別する、
タンパク質の各々に関する対応する基準カットオフ値Ref1RBP4およびRef1N
T-proBNP以上であることは、患者が再灌流療法の候補であることを示し、または
・RBP4、NT-proBNPおよび追加のGFAPのレベルが決定される場合、第
1の工程でGFAPのレベルが基準カットオフ値RefGFAP以下であり、第2の工程
でRBP4およびNT-proBNPのレベルが同時に、対応する基準カットオフ値Re
f2RBP4およびRef2NT-proBNP以上であれば、患者は、再灌流療法の候
補として選択され、上記カットオフ値は、虚血性脳卒中患者と脳内出血患者とを識別する
。
【0045】
実際、検査レベルとそれぞれのカットオフ値または基準範囲とを比較する選択肢を含む
場合の第1の態様の方法の異なる代替の実施形態は、所望の感度および特異度の特定の値
を考慮して選択される。したがって、100%の特異度(2つの状態間の正確な分類)が
望まれる場合、感度(異なる状態を有する対象コホート中の1つの状態の検出)が低下し
得る。一方、特異度を低下させると(すなわち、約94%または98%)、方法の感度を
上げることができる。したがって、基準値は、所望の特異度および/または所望の感度に
応じて変えることができる。
【0046】
2つまたは3つのタンパク質レベルのカットオフ値との比較を含むこの方法のさらに特
定の実施形態では、対象が再灌流療法の候補として分類される場合、対象はまた、修正ラ
ンキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義され、脳卒中発症後1
~5カ月以内に決定された予後を有するとして、および/または20%~30%から構成
される発症後3カ月死亡率によって定義された予後を有するとして、分類される。
【0047】
また、脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するための第1の態様の方
法の別の特定の実施形態として、少なくともRBP4およびNT-proBNPのレベル
がともに、ISに罹患している対象から得られた値内または値の範囲内にある場合、上記
再灌流療法によって患者を治療する工程、あるいは、RBP4およびNT-proBNP
、場合によりGFAPの対応する基準カットオフ値の場合、患者を再灌流療法の候補とし
て分類する工程をさらに含むことが包含される。
【0048】
上に示したように、再灌流を促進するためのいくつかの治療プロトコルが存在する。本
発明の第1の態様の特定の実施形態では、再灌流療法は、抗血栓剤による療法、血栓除去
、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0049】
さらに特定の実施形態では、抗血栓剤は血栓溶解剤である。さらになお特定の実施形態
では、血栓溶解剤はプラスミノーゲン活性化因子である。さらに具体的には、プラスミノ
ーゲン活性化因子は組織プラスミノーゲン活性化因子である。
【0050】
本明細書で使用される用語「抗血栓剤」は、血餅形成を低減することができる薬物を指
す。本発明で使用するのに適した抗血栓剤には、限定するものではないが、血栓溶解剤、
抗血小板剤および抗凝固化合物が含まれる。
【0051】
本明細書で使用される用語「血栓溶解剤」は、血餅を溶解することができる薬物を指す
。血栓溶解剤はいずれも、セリンプロテアーゼであり、プラスミノーゲンをプラスミンに
変換し、フィブリノーゲンとフィブリンとを分解し、血餅を溶解する。現在利用可能な血
栓溶解剤には、レテプラーゼ(r-PAまたはRetavase、アルテプラーゼ(t-
PAまたはActivase)、ウロキナーゼ(Abbokinase)、プロウロキナ
ーゼ、アニソイル化精製ストレプトキナーゼ活性化因子複合体(anisoylated
purified streptokinase activator comple
x)(APSAC)、スタフィロキナーゼ(Sak)、テネクテプラーゼ(TNK-tP
A)、アテネクテプラーゼ(atenecteplase)(TNKasa)、アニスト
レプラーゼ(Eminase)、ストレプトキナーゼ(streptoquinase)
(Kabikinase、Streptase)またはウロキナーゼ(uroquina
se)(Abokinase)が含まれる。テネクテプラーゼ(TNK-tPA)は、急
速単回ボーラスとして投与することができ、救急車レベルで使用することができるため、
特定の実施形態で使用される。TNKは、投与後(注射後)1分後に効力をもつ。TNK
の供給者は、Boehringer Ingelheim(European Unio
n)およびGenentech Inc(USA)である。
【0052】
本明細書で使用される抗凝固化合物という用語は、凝固を防止し、限定するものではな
いが、ビタミンKアンタゴニスト(ワルファリン、アセノクマロール、フェンプロクモン
(fenprocoumon)およびフェニジオン(fenidione))、ヘパリン
およびヘパリン誘導体、例えば、低分子量ヘパリン、第Xa因子阻害剤、例えば、合成五
糖、直接トロンビン阻害剤(アルガトロバン、レピルジン、ビバリルジンおよびキシメラ
ガトラン)を含む化合物と、血小板凝集、したがって血栓形成の阻害によって作用し、限
定するものではないが、シクロオキシゲナーゼ阻害剤(アスピリン)、アデノシン二リン
酸受容体阻害剤(クロピドログレル(clopidrogrel)およびチクロピジン)
、ホスホジエステラーゼ阻害剤(シロスタゾール)、糖タンパク質IIB/IIIA阻害
剤(Abciximab、Eptifibatide、TirofibanおよびDef
ibrotide)およびアデノシン取込み阻害剤(ジピリダモール)を含む抗血小板化
合物とを指す。好ましい実施形態では、抗血栓剤は血栓溶解剤である。さらに好ましい実
施形態では、血栓溶解剤はプラスミノーゲン活性化因子である。さらになお好ましい実施
形態では、プラスミノーゲン活性化因子は、tPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)
である。
【0053】
本明細書で使用される用語「組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)」は、プラ
スミンへのプラスミノーゲンの変換を触媒する、内皮細胞上に見られるセリンプロテアー
ゼを指す。ヒトt-PAの完全なタンパク質配列は、UniProt KBアクセッショ
ン番号P00750(2012年7月11日)、配列番号1を有する。tPAは、組換え
バイオテクノロジー技術を使用して製造することができ、このようにして作製されたtP
Aは、組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)と呼ばれ得る。組換え組織プ
ラスミノーゲン活性化因子(r-tPA)には、血栓溶解剤アルテプラーゼ、レテプラー
ゼおよびテネクテプラーゼ(TNKase、TNK-tPAとも呼ばれる、配列番号2)
が含まれる。ヒトt-PAでは、296~299位のアミノ酸は、リジン、ヒスチジンお
よび2つのアルギニンである。TNK-tPAでは、これらのアミノ酸は、4つのアラニ
ンに置換されている。この変異は、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1(PAI-1)
に対する耐性の増加に関与する。
【0054】
t-PAの投与は、症状の発現から最初の3時間以内、または症状発現から最大4.5
時間以内に行われるべきである。推奨総用量:0.9mg/kg(最大用量は90mgを
超えるべきではない)を60分かけて注入する。0.09mg/kg(0.9mg/kg
用量の10%)を1分間かけて静脈内ボーラスとして投与し、続いて0.81mg/kg
(0.9mg/kg用量の90%)を60分間かけて持続注入として投与する。脳卒中で
は、アルテプラーゼの開始後24時間以上にわたりヘパリンを開始すべきではない。上記
t-PAは静脈内投与され、場合によっては動脈に直接投与されてもよく、脳卒中の最初
の症状の開始後すぐに投与されるべきである。上記用量および投与経路は、第1の態様の
実施形態のいずれかに適用される。また、特に、患者を治療する工程を含む実施形態では
。
【0055】
TNK-tPAの単回投与は、脳卒中に罹患している対象が再灌流療法の候補であると
決定した後できるだけ早く、かつ症状の発現の3時間以内または症状発現から最大4.5
時間以内、好ましくは脳卒中発症後1時間以内に行われるべきである。
【0056】
上に示したように、TNK-tPAの使用は、急速単回投与ボーラスとしての特定の処
方のために、救急車レベルであっても、投与後約1分で効力をもち、任意のポイントオブ
ケアで投与することができるため、特に有用である。
【0057】
再灌流療法のために選択されていない、脳卒中に罹患している患者は、特定の実施形態
では、血圧を低下させる療法のために選択される。特に、上記療法は、血圧を低下させる
ことができる薬剤を用いて行われる。
【0058】
「血圧」は、本明細書では、大動脈および頸動脈などの中心動脈の部位での血圧を指す
と理解されるべきである。中心血圧は、圧平眼圧測定法により、頸動脈または橈骨動脈で
非侵襲的に(以下に説明するように)好適に測定され得る。したがって、本明細書で使用
される「血圧」は、大動脈血圧を包含する。
【0059】
本発明で使用される「血圧を低下させることができる薬剤」は、様々な手段によって血
圧を下げる任意の薬物に関する。最も広く使用されている薬剤には、チアジド系利尿薬[
フロセミド、ニトロプルシド、ヒドララジンなど];ACE阻害剤、カルシウムチャネル
遮断薬(ニカルジピンまたはニモジピンなど);アドレナリン受容体拮抗薬(αアドレナ
リン拮抗薬、ウラピジルなど)、またはα遮断薬とβ遮断薬との組合せ(ラベタロールお
よびニトログリセリン);およびアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)がある。
血圧を下げるか低下させることができる薬剤の例示的で非限定的な例には、αメチルドー
パ(Aldomet)、11,17α-ジメトキシ-18β-[(3,4,5-トリメト
キシ-ベンゾイル)オキシル)]-3p,2a-ヨヒンバン-16β-カルボン酸メチル
エステル(Reserpine)もしくは2-(2,6-ジクロロフェニルアミノ)2-
イミダゾリン塩酸塩(クロニジン塩酸塩)、レルゴトリル、またはすなわち、欧州特許第
0005074号明細書に開示されている2-クロロ-6-メチルエルゴリン-8β-ア
セトニトリルがある。虚血性脳卒中、血栓溶解剤によって治療された虚血性脳卒中、また
は出血性脳卒中で血圧を低下させるために使用される基準値は、これらの値が更新される
可能性があるため、診療ガイドラインにより推奨される基準値である。今日、虚血性患者
では収縮期血圧が220~120mmHgに達し、出血性患者では収縮期血圧が180~
100mmHgに達した場合に、血圧を下げるための治療法を低下させることが目標とさ
れている。好ましい実施形態では、血圧は、血圧を低下させることができる薬剤の静脈内
投与、および経口降圧剤の同時投与によって低下させることができる。虚血性脳卒中、血
栓溶解剤によって治療された虚血性脳卒中、または出血性脳卒中で血圧を低下させるため
に使用される基準値は、これらの値が更新される可能性があるため、診療ガイドラインに
より推奨される基準値である。
【0060】
動脈圧を測定するのに適した任意の方法を使用して、薬剤が血圧を低下させることがで
きるかどうかを決定することができ、薬剤の投与後に動脈圧の低下が検出される。動脈圧
を測定するための方法の例示的で非限定的な例には、例示的で非限定的な例の動悸、聴診
、振動測定法および非観血式連続血圧(CNAP)などによる非侵襲的技術がある。
【0061】
本明細書で使用される用語「基準値」は、対象から収集された試料から得られた値また
はデータを評価するための基準として使用される所定の判定基準に関する。基準値または
基準レベルは、絶対値;相対値;上限もしくは下限を有する値;値の範囲;平均値;中央
値、中間値、または特定の対照値もしくはベースライン値と比較した値であり得る。基準
値は、例えば、検査される対象から、比較的早い時点で得られた試料から得られた値など
、個々の試料値に基づき得る。基準値は、暦年齢を一致させた群の対象の集団などから得
られた多数の試料に基づくか、検査される試料を含むか除外する試料のプールに基づき得
る。本発明のバイオマーカに関する基準値が決定されている。RBP4、NT-proB
NPおよびGFAPの各々の基準値は、以下の例を考慮して開示されるように、下限値お
よび上限値からのものであり得る。各バイオマーカの値の範囲(タンパク質レベル)、お
よび異なるバイオマーカの値の特定の組合せにより、高い感度および特異度で対象が正確
に分類される。
【0062】
バイオマーカ(本発明では、NT-proBNP、RBP4およびGFAPのいずれか
)のレベルは、基準値よりも少なくとも1.5%、少なくとも2%、少なくとも5%、少
なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも
30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、
少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくと
も75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%
、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なくとも130%
、少なくとも140%、少なくとも150%またはそれ以上高い場合、その基準値よりも
高いと考えられる。
【0063】
同様に、本発明の文脈では、バイオマーカのレベルは、試料中の上記バイオマーカのレ
ベルが基準値よりも低い場合に低下する。バイオマーカのレベルは、基準値よりも少なく
とも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%
、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なく
とも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70
%、少なくとも75%、少なくとも80%:少なくとも85%、少なくとも90%、少な
くとも95%、少なくとも100%、少なくとも110%、少なくとも120%、少なく
とも130%、少なくとも140%、少なくとも150%またはそれ以上低い場合、その
基準値よりも低いと考えられる。
【0064】
第1の態様の特定の実施形態では、生体液試料中のRBP4およびNT-proBNP
のレベルのみが決定され、対応する基準カットオフ値(本明細書ではRef1RBP4お
よびRef1NT-proBNPと呼ばれる)と比較される場合、これらの基準カットオ
フ値はRBP4 52μg/ml、NT-proBNP 4062pg/mlに対するも
のである。これらの特定の基準カットオフ値は、特定の実施形態では、単離された血漿試
料に対するもの、および酵素免疫測定法(ELISA)によってアッセイされる場合に対
するものである。
【0065】
第1の態様の別の特定の実施形態では、RBP4、NT-proBNPおよびGFAP
のレベルが決定され、対応する基準カットオフ値(本明細書ではRef2RBP4、Re
f2NT-proBNPおよびRefGFAPと呼ばれる)と比較される場合、これらの
基準カットオフ値は、RBP4 38μg/ml、BNP1 305pg/ml、および
GFAP 0.325ng/mlに対するものである。これらの特定の基準カットオフ値
は、さらに特定の実施形態では、単離された血漿試料に対するものであり、GFAPがア
ッセイされた場合、このマーカのレベルは、比較的感度の高い(ピコモルレベル)単一分
子アッセイ(SIMOA:single molecular assay)によって決
定され、他のものは、ELISAアッセイによって決定される。これらのカットオフレベ
ルでは、特定の方法が2つの別個の工程または条件で行われる。第1の工程では、GFA
Pのレベルが決定され、それが基準カットオフ値RefGFAP以下である場合、患者は
虚血性脳卒中に罹患していると考えられ、さらに第2の工程で、RBP4およびNT-p
roBNPのレベルが同時に、対応する基準カットオフ値Ref2RBP4およびRef
2NT-proBNP以上である場合、再灌流の候補と考えられる。
【0066】
例によって示されるように、ICH患者では、ISよりもGFAPレベルが高く、RB
P4およびNT-proBNPが低かった。RBP4>52μg/mLとGFAP>0.
18ng/mLとの組合せにより、6.5%のISおよび34.3%のICHの正確な診
断が得られた。NT-proBNPを追加すると、RBP4>52μg/mLとBNPカ
ットオフ>4060pg/mLとを使用することによって、ISの100%の特異度が保
たれ、感度が最大20%(31/155)向上した。
【0067】
上に示したように、基準値が臨床プロトコルの除外基準の決定に応じて変化する可能性
があることは広く知られている。加えて、診断を行うと考えられる変数に応じて、これら
の値はまた、脳卒中では非常に重要である特異度を維持しながら感度を高めるために、常
に調節され得る。
【0068】
さらに、検出されたタンパク質のレベルに応じた患者の適切な分類は、計算法を使用し
て行われ得、それによって、タンパク質の決定された値は、予測因子を与える式で計算さ
れ、上記予測因子は、タンパク質の発現レベルに基づいて計算され、上記発現レベルは、
特定の係数によって補正される。他の計算方法(本明細書に例示され、サポートベクター
マシン法と呼ばれるものの1つなど)では、あらゆる決定されたタンパク質のレベルを考
慮して患者を適切に分類する関数を開示することが可能になる。
【0069】
特定の実施形態で示されるこれらの基準値はいずれも、脳卒中に罹患している対象の単
離された血漿試料に対して決定されたものである。熟練者であれば、血清および他の生体
液中の対応するものを見出す方法を知っている。
【0070】
本明細書で使用される用語「試料」は、患者から得ることができる任意の試料に関する
。本発明の方法は、患者から得られた任意のタイプの生物学的試料、例えば、生検試料、
組織、細胞または生体液(血漿、血清、唾液、精液、痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液
、汗、乳汁、脳抽出液などに適用され得る。
【0071】
したがって、場合により、上記または下記の任意の実施形態と組み合わせて、別の特定
の実施形態では、対象(すなわち、脳卒中に罹患している患者)の単離試料は生体液であ
る。例示的で非限定的な生体液は、血液、血漿、血清、唾液、尿または脳脊髄液である。
さらに好ましい実施形態では、生体液は血漿または血清である。
【0072】
本発明の方法の好ましい実施形態では、試料はベースラインで得られる。
【0073】
様々なマーカのレベルを決定するために、様々な試料が使用され得る。したがって、本
発明の方法によるあらゆるマーカのレベルが同じタイプの試料に対して測定される必要は
ない。したがって、別の好ましい実施形態では、RBP4、NT-proBNPおよびG
FAPのレベルが血清に対して測定される。別の好ましい例では、それらのレベルは血漿
に対して測定される。
【0074】
本発明で使用される「ベースライン」は、症状の発現から患者が初めて診察されるまで
の任意の時点で考慮される。これは通常、脳卒中後の最初の数時間以内であり、通常、救
急車または病院で最初に注意が向けられる。好ましい実施形態では、ベースラインは、症
状発現から最初の4.5時間以内、もしくは脳卒中後6時間未満、または別の好ましい実
施形態では、症状発現から24時間未満である。
【0075】
この態様の別の特定の実施形態では、RBP4およびNT-proBNP、ならびに決
定される場合GFAPのレベルを決定する工程は、脳卒中発症後の最初の2時間以内に行
われる。以下の例に示すように、単離試料中のマーカの決定が早く行われるほど、方法の
精度および感度が向上する。この態様の別の特定の実施形態では、RBP4およびNT-
proBNP、ならびに決定される場合GFAPのレベルを決定する工程は、脳卒中発症
後の最初の1時間以内に行われる。
【0076】
脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するための方法の第1の態様の別
の実施形態では、それは、1つ以上の臨床パラメータを決定することをさらに含む。した
がって、本発明の方法は、RBP4およびBNPのレベルと、1つ以上の臨床パラメータ
とを決定することを含む。
【0077】
本明細書で使用される用語「臨床パラメータ」または臨床データは、個人の背景因子(
年齢または生年月日、人種および/または民族性)、患者の臨床症状、または脳卒中関連
の疾患/状態に関連する徴候を指す。この用語には、d-ダイマーまたは血糖の決定など
の検査パラメータも含まれる。
【0078】
特定の実施形態では、臨床パラメータは高血圧であり、患者が高血圧を有する場合、患
者が虚血性脳卒中に罹患している、または患者が再灌流療法の候補であることを示してい
る。
【0079】
第1の態様の別の特定の実施形態では、インビトロ方法は、収縮期血圧および/または
拡張期血圧を含む血圧、血糖、年齢、系統的評価ツール脳卒中関連神経障害からのスコア
、例えば、NIHSSスコア、性別およびそれらの組合せからなる群から選択される臨床
パラメータを決定することをさらに含む。これらのあらゆるパラメータの値は、特定の実
施形態では、患者を再灌流療法に対する候補として正確に分類するための適切なアルゴリ
ズムにおいて、RBP4、NT-proBNP、および場合によりGFAPのレベルと組
み合わせて使用される。例えば、2つまたは3つのタンパク質の特定のレベルと組み合わ
せた特定の範囲内の血圧は、正確な分類のための決定プロトコルで使用される。別のさら
に特定の実施形態では、値は、回帰モデルの式に導入されて、そのような分類を可能にす
るスコアまたは最終値を与える。
【0080】
動脈性高血圧と呼ばれることもある「高血圧症」は、動脈内の血圧が上昇する慢性的な
病状として理解されるべきである。安静時の正常血圧は、収縮期血圧100~140mm
Hg(上の測定値)、拡張期血圧60~90mmHg(下の測定値)の範囲である。それ
が持続的に140/90mmHg以上であると、高血圧があると言われる。上に示したよ
うに、虚血性脳卒中、血栓溶解剤によって治療された虚血性脳卒中、または出血性脳卒中
では、血圧を低下させるために使用される基準値は、これらの値が更新される可能性があ
ることから、診療ガイドラインによって推奨されている基準値であって、今日では、虚血
性患者では収縮期血圧が220~120mmHg、出血性患者では180~100mmH
gに達すると、血圧を下げるための好適な治療法として受け入れられている基準値である
。
【0081】
用語「系統的評価ツール脳卒中関連神経障害」は、脳卒中に最も頻繁に見られる神経障
害を測定し、評価するために設計されたツールに関する。意識レベル、視野、顔面の筋力
低下、四肢の運動能力、注視、感覚障害、協調(運動失調)、言語(失語症)、発話(構
音障害)など、いくつかの側面またはパラメータが評価される。これらいずれに対しても
値が与えられ、正常であれば0である。したがって、これらのツールのほとんどでは、ス
コアが高いほど、神経障害が悪化する。熟練者であれば、National Insti
tutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア、脳
卒中のためのRapid Arteria occlusion evaluation
スケール(RACE)、Cincinnati Prehospital Stroke
Scale Compared to Stroke Severity Tools
for Large Vessel Occlusion Stroke Predi
ction(Cincinnatiスコア)、Los Angeles Motor S
cale(LAMS)、または修正Rankin ScaleもしくはScore(mR
S)として、この目的のための様々なツールの存在を知っている。これらのスケールはい
ずれも、脳卒中後の初期の神経機能の迅速で標準化された評価を提供するように設計され
ている。修正Rankin ScaleまたはScore(mRS)は、脳卒中発症後の
障害の程度を評価するためのスケールでもある。それは主に退院時および発症後3カ月の
時点で適用される。
【0082】
別の好ましい実施形態では、臨床パラメータは、年齢、NIHSSスコア、性別、収縮
期血圧およびそれらの組合せから選択される。本発明で使用される用語「NIHSSスコ
ア」は、脳卒中関連神経障害の定量的測定を提供する系統的評価ツールであるNatio
nal Institutes of Health Stroke Scale(NI
HSS)スコアを指す(Adams HP Jr Neurology.1999 Ju
l 13;53(1):126-31)。NIHSSはもともと、急性脳卒中の臨床試験
で患者に対してベースラインデータを測定するための研究ツールとして設計された。現在
、このスケールは、脳卒中患者の急性度を評価し、適切な治療を決定し、患者の転帰を予
測する臨床評価ツールとしても広く使用されている。NIHSSは、意識、言語、半側空
間無視、視野欠損、外眼運動、運動強度、運動失調、構音障害および感覚消失のレベルに
対する急性脳梗塞の影響を評価するために使用される15項目の神経学的検査脳卒中スケ
ールである。訓練を受けた観察者は、質問に答え、活動を行う患者の能力を評価する。各
項目の評価は、3~5段階で採点され、正常は0であり、検査不可能な項目には許容範囲
がある。NIH脳卒中スケールスコアリングシステムによって測定される脳卒中重症度の
レベル:0=脳卒中なし、1~4=軽度の脳卒中、5~15=中等度の脳卒中、15~2
0=中等度/重度の脳卒中、21~42=重度の脳卒中。本発明では、用語「比較的高い
スコア」は、NIH脳卒中スケールスコアリングシステムにおける5~42のスコアを指
す。
【0083】
また、脳卒中のためのRapid Arteria occlusion evalu
ationスケール(RACE)、または大血管閉塞を伴う虚血性脳卒中を特定するため
に使用される他のスコアなどのNIHSSの変形例も使用され得る。
【0084】
さらに、第1の態様の別の特定の実施形態では、場合により、上記または下記の実施形
態のいずれかと組み合わせて、対象が再灌流療法の候補として分類される場合、対象はま
た、大血管閉塞に罹患していると診断される。
【0085】
第2の態様として、本発明は、患者のISをICHから区別するためのインビトロ方法
であって、上記患者の単離試料中のRBP4およびNT-proBPNのレベルを決定す
ることを含むインビトロ方法に関する。
【0086】
第2の態様の特定の実施形態では、方法は、GFAPのレベルを決定することを含む。
【0087】
第2の態様の別のさらに特定の実施形態では、方法は、RBP4、NT-proBNP
、および決定される場合GFAPのレベルと、対応する基準値とを比較する工程をさらに
含み、
・RBP4およびBNPのレベルのみが決定される場合、RBP4およびBNPのレベ
ルが同時に、対応する基準値Ref1RBP4およびRef1NT-proBNPよりも
高いことは、患者がIS患者であることを示し、または
・RBP4、BNPおよびGFAPのレベルが決定される場合、RBP4およびBNP
のレベルが同時に、対応する基準値Ref2RBP4およびRef2NT-proBNP
よりも高く、GFAPのレベルが基準値RefGFAPよりも低いことは、患者がIS患
者であることを示す。
【0088】
第2の態様の別の特定の実施形態では、RBP4およびBNP、ならびに場合によりG
FAPのレベルを決定する場合に対象が虚血性脳卒中として分類されると、対象はまた、
修正ランキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義され、脳卒中発
症後1~5カ月以内に決定された予後を有するとして、および/または20%~30%か
ら構成される発症後3カ月死亡率によって定義された予後を有するとして、分類される。
【0089】
第2の態様の別の特定の実施形態では、それは、第1の態様およびその特定の実施形態
に示されるように、療法、特に再灌流療法を選択する工程をさらに含む。
【0090】
したがって、鑑別診断が達成された後、第2の態様の別の特定の実施形態では、それは
、ISと診断された患者に再灌流療法を推奨する、および/または主に抗血栓剤または血
栓除去による再灌流療法によって、ISと診断された上記患者を治療する工程をさらに含
む。あるいは、ICHと診断され、致死的転帰を避けるために再灌流療法を避けるべき患
者は、別の特定の実施形態では、血圧を低下させるか最適化する療法を推奨されるか、そ
れを用いて治療される。
【0091】
この特定の実施形態は、脳卒中に罹患している患者を治療する方法として立案すること
ができ、上記方法は、第2の態様に従って、患者のISをICHから区別するためのイン
ビトロ方法を行うこと、および主に抗血栓剤もしくは血栓除去による再灌流療法によって
、ISと診断された患者を治療すること、または血圧を低下させるか最適化する療法によ
って、ICHと診断された患者を治療することを含む。有利なことに、この方法では、患
者は、症状の発現から最初の数時間以内に、最も適切な治療レジメンを用いて治療される
か、治療されることが推奨される。
【0092】
第1の態様について先に開示されたあらゆる特定の実施形態は、この第2の態様にも適
用される。特に、それらの好ましい基準値、単離試料の種類、および1つ以上の臨床パラ
メータをさらに決定する選択肢。したがって、第2の態様の別の特定の実施形態では、イ
ンビトロ方法は、収縮期血圧および/または拡張期血圧を含む血圧、血糖、年齢、系統的
評価ツール脳卒中関連神経障害からのスコア、例えば、NIHSSスコア、性別およびそ
れらの組合せからなる群から選択される臨床パラメータを決定することをさらに含む。先
と同様に、これらのあらゆるパラメータの値は、特定の実施形態では、患者を再灌流療法
に対する候補として正確に分類するための適切なアルゴリズムにおいて、RBP4、NT
-proBNP、および場合によりGFAPのレベルと組み合わせて使用される。例えば
、2つまたは3つのタンパク質の特定のレベルと組み合わせた特定の範囲内の血圧は、正
確な分類のための決定プロトコルで使用される。別のさらに特定の実施形態では、値は、
回帰モデルの式に導入されて、そのような分類を可能にするスコアまたは最終値を与える
。
【0093】
また、第2の態様の別の特定の実施形態では、RBP4およびNT-proBNP、な
らびに決定される場合GFAPのレベルを決定することは、脳卒中発症後の最初の2時間
以内に行われる。さらに具体的には、最初の1時間以内。これは、第1の態様について示
したように、方法の感度を高めるという利点を意味する。
【0094】
さらに、この第2の態様の別の特定の実施形態では、場合により、上記または下記の実
施形態のいずれかと組み合わせて、対象が虚血性脳卒中として分類される場合、対象はま
た、大血管閉塞に罹患していると診断される。
【0095】
本発明はまた、場合によりGFAPのレベルと組み合わせて、脳卒中に罹患している対
象の単離試料中のRBP4およびNT-proBPNのレベルを検出する方法であって、
(a)対象から試料を得ること、および
(b)(i)対応する発現タンパク質に結合することができる手段と上記試料を接触さ
せ、上記結合を検出すること、または(ii)対応するタンパク質のうちの1つ以上に翻
訳される対応するRNAに結合することができる手段と上記試料を接触させ、上記結合を
検出することによって、タンパク質のうちの1つ以上が単離試料に存在するかどうかを検
出すること、を一般的に包含する。
【0096】
第2の態様について本明細書で使用される用語「区別する」は、異なる状態の決定に関
する。当業者によって理解されるように、区別は、そうであることが好ましいが、診断ま
たは評価される対象の100%に対して正確である必要はない。ただし、この用語は、対
象の統計的に有意な部分が、2つのタイプの脳卒中のうちの1つを有する可能性が高いと
特定され得ることを必要とする。対象が統計的に有意であるかどうかは、様々な周知の統
計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マンホイ
ットニー検定などを使用して、当業者によってさらに苦労することなく決定され得る。詳
細については、Dowdy and Wearden,Statistics for
Research,John Wiley&Sons,New York1983に見出
される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%
、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%である。p値は、好まし
くは、0.05、0.01、0.005またはそれ以下である。
【0097】
本発明で同定されたバイオマーカは、患者のISをICHから区別することを可能にす
るため、これら2つのタイプの患者に異なる療法(虚血性脳卒中に罹患している患者には
抗血栓剤、および出血性脳卒中に罹患している患者には血圧を低下させることができる薬
剤)が適用されることを考慮すると(Tsivgoulis G.et al,Neur
ology.2014 Sep19を参照)、本発明はまた、脳卒中に罹患している患者
に対する療法の選択のための上記第1の方法を提供する。したがって、両態様は密接かつ
概念的に関連している。
【0098】
本発明ではRBP4が言及される場合、それは、リポカリンファミリーに属し、血中の
レチノールの特異的担体であるレチノール結合タンパク質4、血漿を指す。ヒトレチノー
ル結合タンパク質4の完全な配列は、UniProtKBアクセッション番号P0275
3(2013年8月8日)、配列番号3を有する。
【0099】
本明細書で使用される用語「GFAP」は、中枢神経系の多数の細胞型によって発現さ
れる中間径フィラメントタンパク質であるグリア線維性酸性タンパク質を指す。グリア線
維性酸性タンパク質の完全なヒト配列は、UniProtKBアクセッション番号P14
136(2013年8月8日)、配列番号4を有する。
【0100】
B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)のN末端フラグメント(配列番号
5)は、B型ナトリウム利尿ペプチドプロホルモンの76アミノ酸のN末端フラグメント
である。pro-BNPを切断すると、NT-proBNPフラグメントと活性型B型ナ
トリウム利尿ペプチド(BNP)とが生じる。BNPは、心室の血液量の増加によって引
き起こされる伸張に応答して、心室の心筋細胞によって分泌されるホルモンである。BN
Pの完全なヒト配列は、UniProt KBアクセッション番号P16860(199
0年8月1日-配列のバージョン1、および2019年5月8日のデータベースリリース
187)を有する。
【0101】
これらのタンパク質はいずれも、他の哺乳動物種(ネコ、イヌ、マウス、ラットなど)
に相同性を有する。熟練者であれば、公開データベースで対応する完全な配列を検索する
ことができる。
【0102】
当業者が理解するように、NT-proBNP、RBP4および/またはGFAPの発
現レベルは、対応する遺伝子によってコードされるmRNAのレベルを測定することによ
って、または上記遺伝子によってコードされるタンパク質のレベル、もしくはその変異体
のレベルを測定することによって決定することができる。
【0103】
非限定的な例示として、発現レベルは、上記遺伝子によってコードされるmRNAのレ
ベルの定量によって決定される。後者は、従来の方法、例えば、mRNAの増幅、および
上記mRNAの増幅産物の定量を含む方法、例えば、電気泳動および染色を使用すること
によって、あるいは、ノーザンブロット、および好適なプローブの使用、ノーザンブロッ
ト、および目的の遺伝子のmRNAの特異的プローブ、またはそれらの対応するcDNA
/cRNAの特異的プローブの使用、SIヌクレアーゼによるマッピング、RT-PCR
、ハイブリダイゼーション、マイクロアレイなどによって定量することができる。同様に
、マーカ遺伝子によってコードされる上記mRNAに対応するcDNA/cRNAのレベ
ルも、従来の技術を使用することによって定量することができる。この場合、本発明の方
法は、対応するmRNAの逆転写(RT)による対応するcDNAの合成、続いて、上記
cDNAに相補的なcRNAの合成(RNAポリメラーゼ)および増幅の工程を含む。発
現レベルを定量する従来の方法は、実験室マニュアルに見出され得る。
【0104】
異なる試料間のmRNA発現の値を正規化するために、検査試料中の目的のmRNAの
発現レベルと、対照RNAの発現とを比較することが可能である。本明細書で使用される
「対照RNA」は、その発現レベルが変化しないか、限られた量でのみ変化するRNAに
関する。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に由来し、構成的に発現さ
れ、必須の細胞機能を実行するタンパク質をコードするmRNAである。本発明で使用す
るための好ましいハウスキーピング遺伝子には、18-Sリボソームタンパク質、β-2
-ミクログロブリン、ユビキチン、シクロフィリン、GAPDH、PSMB4、チューブ
リンおよびβ-アクチンが含まれる。
【0105】
あるいは、遺伝子の発現が増加すると対応するタンパク質の量が増加し、遺伝子の発現
が減少すると対応するタンパク質の量が減少するため、上記遺伝子によってコードされる
タンパク質の発現レベルを決定することによって、マーカ遺伝子の発現レベルを決定する
こともできる。
【0106】
タンパク質の発現レベルの決定は、免疫学的試験、生物発光、蛍光、化学発光、電気化
学および質量分析からなる群から選択される定性的検査および/または定量的検査によっ
て行うことができる。マーカレベルの決定を容易かつ迅速に行うために、ポイントオブケ
ア検査形式(POCT:point of care test format)で実施
され得る特定の検査が推奨される。特定の実施形態では、ポイントオブケア検査は、特別
で高価な機器を必要とせずに、液体試料(マトリックス)中の標的分析物の存在(または
非存在)を検出することを可能にするラテラルフロー検査を含むが、読取り機器によって
補助される多くの実験室ベースの用途が存在する。
【0107】
例に示すように、特定のPOCTが開発され、救急車およびヘリコプター内で試験され
た。このPOCTにより、虚血性脳卒中に対する100%の特異度で有用な高い感度率が
達成され、これにより、選択された症例では、標準技術を使用するよりもはるかに迅速に
入院前再灌流療法を開始することが可能になった。
【0108】
検査形式とは関係なく、特定の定量的検査が、免疫学的試験、生物発光、蛍光、化学発
光、電気化学および質量分析からなる群から選択される。
【0109】
一実施形態では、発現レベルは、免疫学的技術、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(E
LISA)、酵素イムノドットアッセイ、凝集アッセイ、抗体-抗原-抗体サンドイッチ
アッセイ、抗原-抗体-抗原サンドイッチアッセイ、イムノクロマトグラフィー、または
通常の当業者に周知の他のイムノアッセイ形式、例えば、ラジオイムノアッセイ、および
タンパク質マイクロアレイ形式、例えば、単一分子アッセイ(SIMOA)、ウェスタン
ブロットまたは免疫蛍光法によって決定される。
【0110】
ウェスタンブロットは、変性条件下でゲル電気泳動によって先に分離され、メンブレン
上に固定化されたタンパク質、一般的には、抗体特異的とのインキュベーション、および
現像システム(例えば化学発光)によるニトロセルロースの検出に基づいている。免疫蛍
光法による分析では、発現の分析のために標的タンパク質に特異的な抗体を使用する必要
がある。ELISAは、抗原、または酵素によって標識された抗体の使用に基づいている
ため、標的抗原と標識された抗体との間に形成されたコンジュゲートが、酵素的に活性な
複合体を形成する。成分(抗原または標識された抗体)の1つが支持体上に固定化されて
いるため、抗体-抗原複合体は支持体上に固定化され、したがって、例えば、分光光度法
、蛍光光度法、質量分析またはタンデム質量タグ(TMT)によって検出可能な生成物に
、酵素によって変換される基質を加えることによって、抗体-抗原複合体が検出され得る
。SIMOAは、単一酵素分子を単離および検出することができる単一分子アレイ(Si
moa(商標))と呼ばれるフェムトリッターサイズの反応チャンバのアレイを使用する
ため、ELISAよりも感度の高いアッセイの一種である。アレイの容積は、従来のEL
ISAの約20億分の1であるため、標識されたタンパク質が存在する場合、蛍光産物の
迅速な蓄積が生じる。拡散が阻止されると、この高い局所濃度の産物が容易に観察され得
る。検出限界に達するのに必要な分子は1つだけである。従来のELISAと同じ試薬を
使用して、この方法を使用して、フェムトモル(fg/mL)濃度で様々な異なるマトリ
ックス(血清、血漿、脳脊髄液、尿、細胞抽出液など)中のタンパク質を測定したところ
、感度が約1000倍改善された。
【0111】
一方、タンパク質発現レベルの決定は、集合させた対象試料を含有する組織マイクロア
レイ(TMA)を構築し、当技術分野で周知の技術によってタンパク質の発現レベルを決
定することによって行うことができる。
【0112】
好ましい実施形態では、マーカのレベルの決定は、免疫学的技術によって決定される。
さらに好ましい実施形態では、免疫学的技術はELISAである。
【0113】
免疫学的方法を使用する場合、標的タンパク質に高い親和性で結合することが知られて
いる任意の抗体または試薬を使用して、標的タンパク質の量を検出することができる。そ
れでもなお、抗体、例えば、ポリクローナル血清、ハイブリドーマ上清またはモノクロー
ナル抗体、抗体フラグメント、Fv、Fab、Fab´およびF(ab’)2、ScFv
、ダイアボディ、トライアボディ、テトラボディならびにヒト化抗体の使用が好ましい。
【0114】
先に引用したように、NT-proBNPおよび/またはRBP4および/またはGFA
Pの発現レベルは、タンパク質のレベル、およびその変異体のレベル、例えば、フラグメ
ント、アイソフォーム、類似体および/または誘導体の両方を測定することによって決定
することができる。
【0115】
用語「機能的に同等の変異体」は、上記変異体の機能が実質的に維持される場合は常に
、修飾、挿入および/または欠失によってNT-proBNPおよび/またはRBP4およ
び/またはGFAPの配列から誘導されるあらゆるタンパク質、または1つ以上のアミノ
酸を意味すると理解される。好ましくは、NT-proBNPおよび/またはRBP4お
よび/またはGFAPの変異体は、(i)保存されたまたは保存されていないアミノ酸残
基(好ましくは保存されたアミノ酸残基)によって1つ以上のアミノ酸残基が置換されて
おり、そのような置換されたアミノ酸が遺伝暗号によってコードされていてもされていな
くてもよいポリペプチド、(ii)1つ以上の修飾アミノ酸残基、例えば、置換基結合に
よって修飾された残基が存在するポリペプチド、(iii)同様のmRNAの代替プロセ
シングから生じるポリペプチド、(iv)ポリペプチドフラグメントおよび/または(v
)NT-proBNPおよび/またはRBP4および/またはGFAPの融合から生じるポ
リペプチド、または他のポリペプチド、例えば、分泌リーダ配列、もしくは精製(例えば
、Hisタグ)もしくは検出(例えば、Sv5エピトープタグ)に使用される配列を有す
る、(i)~(iii)に定義されるポリペプチドである。フラグメントは、元の配列の
タンパク質分解性切断(多部位タンパク質分解を含む)によって生成されたポリペプチド
を含む。変異体は、翻訳後修飾され得るか、化学的に修飾され得る。そのような変異体は
、当業者には明らかであるはずである。
【0116】
当技術分野で知られているように、2つのタンパク質間の「類似性」は、1つのタンパ
ク質のアミノ酸配列およびその保存されたアミノ酸置換物と、第2のタンパク質の配列と
を比較することによって決定される。変異体は、元の配列と異なるポリペプチド配列、好
ましくは、関連する1セグメント当たり残基の40%未満が元の配列と異なるポリペプチ
ド配列、さらに好ましくは、関連する1セグメント当たり残基の25%未満が元の配列と
異なるポリペプチド配列、さらに好ましくは、関連する1セグメント当たり残基の10%
未満が元の配列と異なるポリペプチド配列、さらに好ましくは、関連する1セグメント当
たりわずか数残基が元の配列と異なるポリペプチド配列、および同時に、元の配列と十分
に相同であって元の配列の機能性を保持するポリペプチド配列を含むように定義される。
本発明による変異体は、元のアミノ酸配列と少なくとも60%、65%、70%、72%
、74%、76%、78%、80%、90%または95%類似しているか同一であるアミ
ノ酸配列を含む。2つのタンパク質間の同一性の程度は、当業者に広く知られているコン
ピュータアルゴリズムおよび方法を使用して決定される。2つのアミノ酸配列間の同一性
は、好ましくは、BLASTPアルゴリズムを使用して決定される[BLASTManu
al,Altschul,S.,et al,NCBI NLM NIH Bethes
da,Md.20894,Altschul,S.,et al,J.Mol.Biol
.215:403-410(1990)]。
【0117】
タンパク質は翻訳後修飾され得る。例えば、本発明の範囲内にある翻訳後修飾には、シ
グナルペプチド切断、グリコシル化、アセチル化、イソプレニル化、タンパク質分解ミリ
ストイル化、タンパク質フォールディングおよびタンパク質分解性プロセシングなどが含
まれる。さらに、タンパク質は、翻訳後修飾によって、または翻訳中に非天然アミノ酸を
導入することによって形成された非天然アミノ酸を含み得る。
【0118】
療法を選択するための鑑別診断および情報を提供する、本発明のインビトロ方法の別の
特定の実施形態では、それらは、(i)診断情報を収集する工程、および(ii)情報を
データキャリアに保存する工程をさらに含む。
【0119】
本発明の意味では、「データキャリア」は、ISおよびICHの鑑別診断のための、お
よび/または再灌流療法の候補の選択のための有意義な情報データを含む任意の手段、例
えば、紙として理解されるべきである。キャリアはまた、療法を選択するための鑑別診断
データまたは情報を運ぶことができる任意の実在物または装置であり得る。例えば、キャ
リアは、ROMなどの記憶媒体、例えば、CD ROMもしくは半導体ROM、または磁
気記録媒体、例えば、フロッピーディスクもしくはハードディスクを含み得る。さらに、
キャリアは、電気信号または光信号などの伝達可能なキャリアであり得、電気信号または
光信号は、電気ケーブルもしくは光ケーブルを介して、または無線もしくは他の手段によ
って伝達され得る。診断/療法選択データが、ケーブルまたは他の装置もしくは手段によ
って直接伝達され得る信号に具体化される場合、キャリアは、そのようなケーブルまたは
他の装置もしくは手段によって構成され得る。他のキャリアは、USB装置およびコンピ
ュータアーカイブに関連する。好適なデータキャリアの例には、紙、CD、USB、PC
内のコンピュータアーカイブ、または同じ情報を用いた音声登録がある。
【0120】
本発明はまた、虚血性脳卒中に罹患している患者の予後のためのインビトロ方法であっ
て、上記患者の単離試料中のレチノール結合タンパク質-4(RBP4)のレベルとB型
ナトリウム利尿ペプチドのN末端フラグメント(NT-proBNP)のレベルとを決定
することを含むインビトロ方法を包含する。
【0121】
予後のためのインビトロ方法の特定の実施形態では、少なくともRBP4または2つの
タンパク質のレベルが基準値と比較され、上記基準値は、対象が虚血性脳卒中に罹患して
いることを示すか確認する値または値の範囲から選択される。別のさらに特定の実施形態
では、予後は、修正ランキングスコア(mRS)に従って2を超える依存度によって定義
され、脳卒中発症後1~5カ月以内に決定され、および/または20%~30%から構成
される発症後3カ月死亡率によって定義される。
【0122】
先に示したように、本発明はまた、RBP4およびNT-proBNPのレベルを検出
するための試薬手段を含むキットに関する。
【0123】
本発明のキットの特定の実施形態では、それらは、GFAPのレベルを検出するための
試薬手段をさらに含む。
【0124】
本明細書で使用される用語「キット」は、それらの輸送および貯蔵を可能にするように
梱包された、本発明の方法を行うために必要な様々な試薬(または試薬手段)を含む製品
を指す。キットの構成要素を梱包するのに適した材料には、結晶、プラスチック(例えば
、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、ボトル、バイアル、紙または封
筒が含まれる。
【0125】
さらに、本発明のキットは、キット内にある様々な構成要素を同時に、連続して、また
は別個に使用するための説明書を含むことができる。上記説明書は、例えば、電子記憶媒
体(例えば、磁気ディスク、テープ)、または光学媒体(例えば、CD-ROM、DVD
)、またはオーディオ素材など、読みやすい、または理解されやすい、説明書を記憶する
ことができる印刷物の形態または電子支持体の形態であり得る。さらに、または代わりに
、媒体は、上記説明書を提供するインターネットアドレスを含むことができる。
【0126】
キットの試薬手段(または単に試薬)は、マーカタンパク質に特異的に結合する化合物
を含む。好ましくは、上記化合物は、抗体、アプタマーまたはそのフラグメントである。
【0127】
好ましい実施形態では、試薬は、抗体またはそのフラグメントである。したがって、試
薬手段は、目的のタンパク質(すなわち、NT-proBNP、RBP4、および決定さ
れる場合GFAP)を特異的に認識する1つ以上の抗体である。本発明のキットの抗体は
、例えば、フローサイトメトリー、ウェスタンブロット、ELISA、RIA、競合EI
A、DAS-ELISA、バイオチップの使用に基づく技術、タンパク質マイクロアレイ
、または反応性ストリップ内のコロイド沈殿のアッセイなど、タンパク質発現レベルを決
定するための当技術分野で公知の技術に従って使用することができる。
【0128】
抗体は、メンブレン、プラスチックまたはガラスなどの固体支持体に固定され得、場合
により、上記抗体の支持体への固定を容易にするために処理され得る。上記固体支持体は
、少なくとも、マーカ(すなわち、目的のタンパク質)を特異的に認識し、上記マーカの
発現レベルを検出するために使用され得る抗体のセットを含む。
【0129】
さらに、本発明のキットは、構成遺伝子によってコードされるタンパク質を検出するた
めの試薬を含む。上記追加の試薬の利用可能性は、バイオマーカの発現の差が、発現の相
対的レベルにおける実際の差よりも、試料中の総タンパク質量の異なる量によるものであ
ることを除外するために、異なる試料(例えば、分析される試料および対照試料)に対し
て行われた測定を正規化することを可能にする。本発明では、構成遺伝子とは、常に活性
であるか、絶えず転写されており、構成的に発現され、必須の細胞機能を実行するタンパ
ク質をコードする遺伝子である。構成的に発現され、本発明で使用され得るタンパク質に
は、限定するものではないが、β-2-ミクログロブリン(B2M)、ユビキチン、18
-Sリボソームタンパク質、シクロフィリン、GAPDH、PSMB4、チューブリンお
よびアクチンが含まれる。
【0130】
好ましい実施形態では、様々なバイオマーカのレベルをアッセイするための試薬手段は
、キットを形成するバイオマーカをアッセイするための試薬の総量の少なくとも10%、
少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくと
も60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも1
00%を占める。したがって、RBP4、NT-proBNPおよび場合によりGFPA
のレベルをアッセイするための試薬を含むキットの特定の場合では、上記バイオマーカに
特異的な試薬(すなわち、RBP4、NT-proBNPおよび場合によりGFPAに特
異的に結合する抗体)は、キットに存在する抗体の少なくとも10%、少なくとも20%
、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なく
とも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%を占める。
したがって、これらのキットは、主に、2つ(または3つ)のタンパク質のレベルを検出
するための試薬手段を含む簡略化されたキットである。
【0131】
別の特定の実施形態では、本発明のキットは、ポイントオブケア検査として考えられて
いる。さらに具体的には、それらは、ラテラルフロー検査の形態である。
【0132】
別の特定の実施形態では、本発明によるキットは、生体液試料、特に全血を沈着させる
ための支持体および1つ以上の試料入口ポート;マーカタンパク質、特に抗体に特異的に
結合する手段/試薬を含む反応領域を含み、試料入口ポートは、反応領域に接続されてい
る。別のさらに特定の実施形態では、キットは、検出されるマーカ(1つ、2つ、または
3つ)と同じ数の試料入口ポートと、それに接続された対応する反応領域とを含む。別の
実施形態では、キットは、同じ数の反応領域に接続する毛細管トラックとして、1つの単
一の入口インポートを含み、上記毛細管トラックは、試料の一部を対応する各接続された
反応領域に導く。複数の反応領域を含むキットは、複合キットである。
【0133】
別の態様では、本発明は、ISをICHから区別するための、または脳卒中に罹患して
いる患者を再灌流療法のために選択するための本発明のキットの使用に関し、上記再灌流
療法は、特定の実施形態では、抗血栓剤による療法、血栓除去およびそれらの組合せから
なる群から選択される。
【0134】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、本発明の方法のいずれかにおける本発明
のキットの使用に関する。
【0135】
以下の例に示すように、本発明者らは、驚くべきことに、RBP4およびNT-pro
BNPのレベル、場合によりGFAPおよび/または特定の追加の臨床パラメータのレベ
ルの組合せを決定することにより、大血管閉塞(LVO)を有する、脳卒中に罹患してい
る患者の診断が可能になることを見出した。LVOは、虚血性脳卒中患者の先に注記され
た不良転帰または不良予後の一部に関与している可能性がある。
【0136】
したがって、脳卒中に罹患している患者のこの選択および正確な分類に関連して、本発
明はまた、LVOの診断のためのインビトロ方法であって、対象の単離試料中のRBP4
およびNT-proBNPのレベルを決定することを含むインビトロ方法に関する。特定
の実施形態では、対象は虚血性脳卒中患者である。
【0137】
LVOの診断のためのインビトロ方法の特定の実施形態では、それは、GFAPのレベ
ルを決定することをさらに含む。別のさらに特定の実施形態では、方法は、RBP4、N
T-proBNP、および決定される場合GFAPのレベルと、対応する基準値とを比較
する工程をさらに含み、上記基準値または基準範囲は、LVOに罹患している対象から得
られた値または値の範囲から選択され、対象は、少なくともRBP4、NT-proBN
PおよびGFAPのうちの1つのレベルがともに、LVOに罹患している対象から得られ
た値内または値の範囲内にある場合に、LVOとして診断される。さらに、LVOの診断
のためのインビトロ方法のさらに特定の実施形態では、それは、1つ以上の臨床パラメー
タを決定することを含む。これらの臨床パラメータは、特に、収縮期血圧および/または
拡張期血圧を含む血圧、血糖、血中d-ダイマーのレベル、年齢、脳卒中関連神経障害の
系統的評価ツールからのスコア、性別およびそれらの組合せからなる群から選択される。
さらに特定の実施形態では、LVOの診断のためのインビトロ方法は、単離試料中のRB
P4、NT-proBNPおよびGFAPのレベル、血糖、d-ダイマー、およびさらな
る拡張期血圧、および脳卒中関連神経障害の系統的評価ツールからのベースラインスコア
、例えば、NIHSSスコア、RACE、Cincinnati、LAMSなどを決定す
ることを含む。他の態様および実施形態と同様に、単離試料は、好ましくは生体液であり
、さらに具体的には、血漿および血清から選択される。また、本発明の他の態様について
開示されるように、臨床パラメータの値は、患者をLVOに罹患していると正確に分類す
るための適切なアルゴリズムでは、RBP4、NT-proBNP、および場合によりG
FAPのレベルと組み合わせて使用され得る。LVOの診断のためのインビトロ方法の別
の特定の実施形態では、RBP4およびNT-proBNP、ならびに決定される場合G
FAPのレベルを決定することは、脳卒中発症後の最初の2時間以内、さらに具体的には
脳卒中発症後の最初の1時間以内に行われる。
【0138】
本発明者の知見によれば、血清および/または血漿中のマーカの組合せが、LVOの正
確な診断のための信頼できる情報を提供するのは、これが初めてである(IS患者中の高
い感度)。これは、今日では、それらが臨床診療では十分に実施されていない理由として
、100%の感度の値からは遠く離れており、適切な精度を有しない臨床スコアまたは臨
床プロトコルが使用されているため、当技術分野への別の真の貢献を想定している。
【0139】
RBP4、NT-proBNPおよび場合によりGFAPの上記レベルの決定に関連す
る、虚血性脳卒中患者のLVOの診断における高い感度は、これらの患者を機械的血栓除
去が適用され得る最も近い基準病院に誘導することを可能にする。
【0140】
したがって、RBP4、NT-proBNPおよび場合によりGFAPのレベルを使用
して、例えば、救急車レベルで、可能であれば発症後最初の2時間以内、さらに最初の1
時間以内に、脳卒中症状を示す患者を迅速に良好に分類すると、患者を再灌流の候補とし
て分類して、救急車で抗血栓剤を最初に投与し、LVOを治療する施設を有する病院に誘
導することができる。
【0141】
また、本明細書では、患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別するための、または
脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するためのインビトロ方法であって
、場合により、収縮期血圧および/または拡張期血圧を含む血圧、血糖、年齢、系統的評
価ツール脳卒中関連神経障害からのNIHSSスコア、性別およびそれらの組合せからな
る群から選択される臨床パラメータと組み合わせて、患者の単離試料中のNT-proB
NPのレベルおよびGFAPのレベルを決定することを含むインビトロ方法も開示される
。さらに具体的には、方法は、患者の血圧と組み合わせて、単離試料中のNT-proB
NPのレベルおよびGFAPのレベルを決定することを含む。この特定の組合せにより、
以下の実施例に示すように、高い感度および特異度での識別が可能になる。別のさらに特
定の実施形態では、方法は、単離試料中のRBP4のレベルも決定することを含む。さら
に具体的には、単離試料は、生検試料、組織、細胞または生体液(血漿、血清、唾液、精
液、痰、脳脊髄液(CSF)、涙、粘液、汗、乳汁および脳抽出液から選択される。特に
血清または血漿である。
【0142】
第1および第2の態様について先に開示されたあらゆる特定の実施形態は、患者の虚血
性脳卒中を出血性脳卒中から区別するための、および/または脳卒中に罹患している患者
を再灌流療法のために選択するためのこの方法にも適用され、方法は、NT-proBN
PおよびGFAPのレベルを比較する工程を含む。
【0143】
さらに具体的な実施形態では、患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別するための
、および/または脳卒中に罹患している患者を再灌流療法のために選択するためのインビ
トロ方法は、NT-proBNPおよびGFAPのレベルと、各タンパク質に関する対応
する基準値または基準範囲とを比較する工程を含み、上記基準値または基準範囲は、虚血
性脳卒中に罹患している対象から得られた値または値の範囲から選択され、対象は、少な
くともGFAPおよびNT-proBNPのレベルがともに、虚血性脳卒中に罹患してい
る対象から得られた値内または値の範囲内にあり、場合により、血圧も、虚血性脳卒中に
罹患している対象の値内にある場合に、再灌流療法の候補として分類される。別の特定の
実施形態では、本発明の他の態様について先に示したように、NT-proBNPおよび
GFAPの単離試料中のレベルの値は、再灌流療法の候補として患者を正確に分類するた
めの適切なアルゴリズムにおいて、決定された血圧と組み合わせて使用される。2つのタ
ンパク質の特定のレベルと組み合わせた特定の範囲内の血圧は、療法の正確な分類および
選択のための決定プロトコルで使用される。別の特定の実施形態では、値は、回帰モデル
の式に導入されて、そのような分類を可能にするスコアまたは最終値を与える。方法の感
度を高めるために、NT-proBNPおよびGFAPのレベルの決定は、脳卒中発症後
最初の2時間以内に行われる。さらに具体的には、最初の1時間以内。別の特定の実施形
態では、NT-proBNPおよびGFAPのレベルが決定され、値がベースラインNI
HSSスコアおよび/または血液中のd-ダイマーのレベルおよび/または血圧値などの臨
床変数と組み合わせて使用されると、特定の血栓除去療法手法の候補としての、大血管閉
塞を伴う虚血性脳卒中の検出のための高い感度が達成される。
【0144】
患者の虚血性脳卒中を出血性脳卒中から区別するための、または脳卒中に罹患している
患者を再灌流療法のために選択するためのインビトロ方法であって、患者の単離試料中の
NT-proBNPのレベルおよびGFAPのレベルを決定することを含むインビトロ方
法の別の特定の実施形態では、レベルは、単離試料中のこれら2つのタンパク質の分析の
ための試薬手段を含む(備える)POCTを用いて測定される。さらに具体的には、この
キットは、試薬手段の中に、NT-proBNPおよびGFAPの一方または両方のレベ
ル(タンパク質レベルまたはmRNAレベルのいずれか)を検出するための手段のみを含
む。
【0145】
説明および請求項全体を通して、単語「含む」およびその単語の変形例は、他の技術的
特徴、添加剤、構成要素または工程を除外することを意図するものではない。さらに、単
語「含む」は、「からなる」の場合を包含する。本発明の追加の目的、利点および特徴は
、説明を検討することによって当業者に明らかになるか、本発明の実施によって学習され
得る。以下の実施例は例示として提供されており、それらは本発明を限定することを意図
するものではない。さらに、本発明は、本明細書に記載の特定の好ましい実施形態のすべ
ての可能な組合せを包含する。
【実施例0146】
血液バイオマーカを使用して、虚血性脳卒中(IS)と脳内出血(ICH)とを入院前
に区別する方法を提供するために、本発明者らは、手元の脳卒中患者の試料の広範囲な分
析を行った。主な目的は、神経画像処理技術を必要とせずに再灌流療法(主に静脈内血栓
溶解)を開始するための情報を提供する信頼できるマーカを発見することであった。
【0147】
実施例1;2つの異なるコホート(患者190例を含むコホート1;患者67例を含むコ
ホート2)を対象とした患者の分類および療法の選択
【0148】
材料および方法
2013年12月から2014年7月まで、脳卒中発症後4.5時間以内に入院した、
脳卒中が疑われる患者を登録した。入院時(ベースライン)に血液試料を収集した。EL
ISAおよびSIMOAによってバイオマーカを主に測定した。神経画像処理技術によっ
て脳卒中サブタイプを確認した。ICH患者にtPAを投与することによる過誤を最小限
に抑えるために、ISに対する100%の特異度とともに最高感度を有するものとして選
択されたバイオマーカをカットオフによって二分した。
【0149】
患者コホートは以下の通りであった:
コホート1(ELISAコホート):脳卒中に罹患している患者190例(虚血性15
5例、出血性35例)。
コホート2(SIMOAコホート):脳卒中に罹患している患者67例(虚血性33例
、出血性34例)。
【0150】
マーカの分析用キットは以下の通りであった:
・RBP4の場合->カタログ番号DRB400、Quantikine R&D S
ystems;
・GFAPの場合(Simoaキットを使用して測定し、コホート2にSIMOAコホ
ートの名称を付ける)->カタログ番号102336および消耗品:
・Simoa Accelerator-1 Plate Lab Service
Fee、カタログ番号100835
・Accelerator Consumables Kit、カタログ番号ACC1
001
・NT-proBNPの場合->自動Roche(登録商標)システムで使用する場合
、以下の参照カタログ反応物(4842464130-proBNP GEN.2 EL
ECSYS;4917049922-Precicontrol cardiac G4
;4842472190-CALSET proBNO GEN.2 ELECSYS)
【0151】
脳卒中に罹患していないが脳卒中の臨床的徴候を有する患者であるミミックを除外した
後に、これらのコホート1および2を選択した。
【0152】
全患者に対して、ELISA技術(NT-proBNPおよびRBP4の場合、上記を
参照)またはSIMOA(GFAPの場合、上記を参照)を使用して、GFAP、NT-
proBNPおよびRBP4のベースラインでの発現レベルを測定した。
【0153】
検索されたデータを分析するための様々な方法をアッセイした:基本的なカットオフ(
方法1)、主成分分析(PCA)(方法2)、PCAの改良(さらに多くのラウンド);
およびサポートベクターマシン手順(SVM)(方法4)。
【0154】
いずれの方法でも、ここでの関心は、ICH患者への再灌流療法(すなわち、tPAま
たはTNK)の提供は致死的副作用を有する可能性があるため、いかなる過誤も避けるた
めに、患者が100%の精度で分類されたことを保証することができる、各バイオマーカ
の正確な値を示し得る、これらの血液バイオマーカ値の最適なカットオフ値を見出すこと
であった。
【0155】
結果
方法1(基本的なカットオフ)
この方法では、訓練コホートにおける固有のバイオマーカの最も単純なカットオフを使
用し、その後、最終的な分類を得るために全カットオフを組み合わせた。
【0156】
コホート1(ELISAコホート)では、NT-proBNPまたはRBP4のレベル
が高い患者を検査することによって、虚血性患者を検出することができた。
【0157】
したがって、100%の特異度を求めて、以下の場合、患者を虚血性として分類した:
・NT-proBNP>4062pg/mL。100%の特異度および14.3%の感
度が得られた(22/155)虚血性患者がリスクを伴わず検出された)(
図1(A)を
参照)、または
・RBP4>52μg/mL。100%の特異度および6.5%の感度が得られた(1
0/155例の虚血性患者がリスクを伴わず検出された)(
図1(B)を参照)
【0158】
これら2つの条件のうちの1つだけが満たされる必要があった。最後に、両条件が同時
に満たされた場合、31/155例の虚血性患者が100%の特異度で分類された(20
.1%)(
図1(C)を参照)。
【0159】
データは
図1に示されており、NT-proBNPでは4062pg/mlのカットオ
フ(パネルAおよびBの両方の暗線)、またはRBP4では52μg/mLのカットオフ
が、ISとICHとの間の信頼できる識別を可能にした。パネルCでは、log10(N
T-proBNP)およびRBP4レベルを、各タンパク質について先に決定された対応
するカットオフとともに同時にプロットした。
【0160】
このタンパク質についてSIMOA検査を使用したGFAPの決定を含むコホート2(
患者67例)(ここではSIMOAコホートとも呼ばれる)では、虚血性患者の安全かつ
良好な検出を行うために、GFAPと他のバイオマーカを組み合わせる最初の手法を行っ
た。
【0161】
分類は2つの段階を有した。最初に、第1の条件としてGFAP<325ng/mLの
値を有する個体を可能性のある虚血性候補として選択した。出血性患者27例、および潜
在的な虚血性患者のうち虚血性患者6例のみを除外した。この第1の識別工程の視覚的表
現は
図2(A)にプロットされており、ここで、3Dグラフは、GFAPの検出されたレ
ベル(log(GFAP)として、NT-proBNPのレベル(log(NT-pro
BNP)として、およびRBP4のレベルに従って患者を分類している。GFAP<32
5ng/mLの値を定義する正方形未満の値(矢印によって示される3D空間)は、第1
の段階で虚血性候補として選択された患者の値に対応する。
【0162】
第2の条件として、虚血性としての患者は、以下のいずれかを有する患者であった:
・NT-proBNP>1305pg/mL。100%の特異度および30.3%の感
度が得られた(10/33例の虚血性患者が検出された)、または
・RBP4>38μg/mL。100%の特異度および30.3%の感度が得られた(
10/33例の虚血性患者が検出された)。
【0163】
第1の段階で選択された、可能性のある虚血性候補に対してGFAPをもはや考慮しな
い場合、NT-proBNP>1305pg/mLおよびRBP4>38μg/mLを有
する患者を候補として考慮すると、リスクを伴わず(100%の特異度)17/33例の
虚血性患者(51.5%)が検出された。データを
図2(B)に示す。
【0164】
異なる特異度値(100%とは異なる)でいくつかの分析を行った。
【0165】
97%の特異度では、虚血性患者はGFAP<325ng/mLの値を有する患者であ
り、かつ
・NT-proBNP>600pg/mL。100%の特異度および51.5%の感度
が得られた(17/33例の虚血性患者が検出された)
・RBP4>36.6μg/mL。97%の特異度および39.4%の感度が得られた
(13/33例の虚血性患者が検出された)
【0166】
これにより、97%の特異度で23/33例の虚血性患者(69.7%)を検出するこ
とができた。
【0167】
94%の特異度では、虚血性患者はGFAP<325ng/mLの値を有する患者であ
り、かつ
・NT-proBNP>147pg/mL。94%の特異度および69.7%の感度が
得られた(23/33例の虚血性患者が検出された)
・RBP4>31μg/mL。94%の特異度および51.5%の感度が得られた(1
7/33例の虚血性患者が検出された)
【0168】
これにより、94%の特異度で26/33例の虚血性患者(78.7%)を検出するこ
とができた。
【0169】
カットオフ値は、様々な要因による偏差または一定の変動性を常に意味する。ここに示
されているものはいずれも、特定の固定予測精度(通常IC95%)に関するため、それ
らもまた正の値または識別値と考えられる範囲内にある。
【0170】
方法1を使用すると、脳卒中患者を確実に分類するための最良のカットオフは、ELI
SAコホートの個々のカットオフであった(RBP4>52μg/mlおよびNT-pr
oBNP>4062.0pg/ml)
【0171】
方法2(主成分分析)
PCAの計算を使用して、これら3つのバイオマーカのうち、どれが比較的少ない主成
分における最も大きな変動性を説明するかが示された(Jolliffe,I.T.(2
002).Principal Component Analysis,second
edition(Springer),ISBN0-387-95442-2)。手順
は、主成分分析を行うことからなった。計算後、どの変数が主成分に最も寄与しているか
が分かり、結果は、GFAPがPC1と最も相関する変数であり、RBP4がPC2と最
も相関する変数であった。したがって、患者を分類するために従うべき最良の順序は、G
FAP>RBP4>NT-proBNPである。
【0172】
要約すると、主成分分析(PCA)は、直交変換を使用して、相関する可能性のある変
数(それぞれが様々な数値を取るエンティティ)の観測値のセットを、主成分と呼ばれる
線形に相関しない変数の値のセットに変換する統計的手順である。p個の変数を有するn
個の観測値がある場合、別個の主成分の数はmin(n-1,p)である。この変換は、
第1の主成分が最大の可能性のある分散を有し(すなわち、データの変動性を可能な限り
多く説明する)、後続の各成分が、先行する成分に直交するという制約の下で最高の可能
性のある分散を順番に有するように定義される。得られたベクトル(それぞれが変数の線
形結合であり、n個の観測値を含む)は、非相関直交基底セットである。PCAは、元の
変数の相対的なスケーリングに敏感である。PCAは主に、探索的データ分析のツールと
して、および予測モデルを作成するために使用される。PCAは、データの何らかの投影
による最大分散が第1の座標(第1の主成分と呼ばれる)上にあり、第2の最大分散が第
2の座標上にあり、以下同様になるように、データを新しい座標系に変換する直交線形変
換として数学的に定義される。
【0173】
このカットオフバイオマーカの順序(GFAP>RBP4>NT-proBNP)を使
用して、患者を分類した。最初に、GFAPカットオフを使用して、100%の感度また
は100%の特異度で患者の最大数を分類した。次いで、RBP4カットオフを使用して
、以前のカットオフでは分類できなかった患者を100%の感度または100%の特異度
で分類した。最後に、NT-proBNPカットオフを使用して、まだ分類されていない
患者を100%の感度または100%の特異度で分類した。これら3つのカットオフの適
用後、カットオフの第1のラウンドが完了したと見なした。
【0174】
2つのバイオマーカ(RBP4およびNT-proBNP)のみを使用して同じ分析を
再度行った。
【0175】
GFAPを使用するこの場合、カットオフを表1に示した:
【表1】
【0176】
コホート1(患者190例)のカットオフは、ELISA検査を使用したNT-pro
BNPおよびRBP4の決定の他に、SIMOA検査を使用してGFAPも決定したコホ
ート2(すなわち、SIMOAコホート(67例))を使用して見出されたものよりも堅
牢であった。
【0177】
ELISAコホート(コホート1)のカットオフを使用して、コホート全体の23.1
6%(出血性患者では37.14%、虚血性患者では20%)を100%の感度または1
00%の特異度で分類することができた。
【0178】
SIMOAコホート(コホート2)のカットオフを使用して、コホート全体の31%(
38%出血性患者、24%虚血性患者)を100%の感度または100%の特異度で分類
することができた。
【0179】
コホート2では少数の個体を使用することにより、それらをさらに良好に区別すること
が可能になった(ほぼ1%多い出血性患者、4%多い虚血性患者を分類)。
【0180】
RBP4+NT-proBNPのみを使用すると、カットオフは表2の通りであった:
【表2】
【0181】
ここでも、コホートa(患者190例)は、コホート2(患者67例)よりも堅牢であ
った。(上記と同じカットオフ)
【0182】
ELISAコホート(コホート1)からのカットオフを使用して、コホート全体の16
.8%(出血性患者では3%、虚血性患者では20%)を100%の感度または100%
の特異度で分類することができた。
【0183】
SIMOAコホート(コホート2)からのカットオフを使用して、コホート全体の13
.4%(3%出血性患者、24%虚血性患者)を100%の感度または100%の特異度
で分類することができた。
【0184】
SIMOAコホートでは少数の個体を使用することにより、それらをさらに良好に区別
することが可能になった(4%多い虚血性患者を分類)。
【0185】
方法3(主成分分析)
この方法は方法2の拡張であり、分類されていない個体を用いてさらに多くのラウンド
を計算した。
【0186】
第1のラウンドの完了後、ロジスティック回帰を行って、転帰に関連する何らかのバイ
オマーカの傾向がまだあるかどうかを確認した。その後、まだ分類されていない患者と同
じ順序で、カットオフを再度計算した。
【0187】
この方法は、傾向が観察されなくなるか、100%の感度または100%の特異度でさ
らに多くの個体を分類することができなくなるまで行った。個体が分類されたら、第1の
ラウンドから最後のラウンドまでのカットオフの順序に従わなければならないことに留意
することが重要である。
【0188】
方法3は、2つのバイオマーカ(RBP4およびNT-proBNP)のみを使用して
行った。
【0189】
ELISAコホート(コホート1)では、バイオマーカとしてGFAP、RBP4およ
びNT-proBNPを使用して、以下のカットオフが得られた:
【表3】
【0190】
この方法では、51%の個体が100%の感度または特異度で分類された(出血性では
60%、虚血性では49%)。
【0191】
ELISAコホート(コホート1)では、バイオマーカとしてRBP4およびNT-p
roBNPを使用して、以下のカットオフが得られた:
【表4】
【0192】
100%の感度または特異度で個体の36.5%(出血性では6%、虚血性では44%
)。
【0193】
方法4(SVM)
全ICH患者を100%の特異度で分類する際に良好に分類されたIS患者の数を最大
化するために、サポートベクターマシン手順(SVM)を使用して、RBP4およびNT
-proBNPのレベルを計算した(“A User’s Guide to Supp
ort Vector Machines”,Article in Methods
in Molecular Biology,(Clifton N.J),2010,
Asa Ben-Hur and Jason Westonを参照)。動径カーネル分
析を使用し、パラメータは以下の通りであった:c=100およびσ=0.05。ICH
に関するデータでは、100%の特異度を有する分類器を得るために、0.71の各ポイ
ントで判定値を大きくしなければならない(判定値の背後にある直観は、正の値が大きい
ほどICH患者をISとして分類する機会が少なくなり、IS患者をISとして分類する
機会が失われるということである)。
【0194】
この方法では、ISについては29.7%の感度が達成された。
【0195】
データを
図3に示し、ここで、「S字状曲線」上の値は100%IS(矢印によって示
される)であり、曲線の下の値はICHまたはISサブタイプのいずれかを有する患者に
対応する。
【0196】
この
図3から導き出せるように、RBP4およびNT-proBNPのレベルの組合せ
により、患者の良好な分類と療法の適切な選択とが可能になった。上記レベルは、ガウス
カーネルを用いたサポートベクターマシン手順に導入され、
図3のようなグラフを与える
ことができ、一方のタンパク質の値に応じて、他方のタンパク質の値から患者がISまた
はICHとして正確に分類される。
【0197】
SVMによれば、検査試料の決定された値が得られると、それらは、検査試料を1つの
カテゴリ(IS)またはもう1つのカテゴリ(ICH)に分類することを可能にする判定
値を返す訓練されたSVMに導入される。特に、上記判定値は通常0.5であり、必要に
応じて、対象の正確な分類を改善するためにそれを調整することができる。訓練されたマ
シンに応じて、この値を超えると、患者は1つのカテゴリに分類され、この値を下回ると
、もう1つのカテゴリに分類される。判定値は調整することができる。
【0198】
結論:
ELISAコホート(コホート1)では方法1(基本的なカットオフ)を使用し、RB
P4とNT-proBNPとを別個に使用すると、ICHに対して100%の特異度でそ
れぞれ6.5%および14.2%のISを適切に識別することができた。併用すると、識
別は、ICHに対して100%の特異度でIS患者の20%まで上昇し、これは別個の両
バイオマーカの合計よりも少なかった(その理由は、1例が両バイオマーカによって適切
に分類されるためである)。
【0199】
SIMOAコホート(コホート2)では、GFAPカットオフを使用してICH患者お
よびIS患者の最大数を分離し、次いで、GFAPカットオフの下限以内にIS患者を分
類しようとしたところ、IS患者に対する感度は増加(51.5%)したが、ICH患者
に対する特異度は100%に維持された。
【0200】
方法2(分類-除外としても知られる)および方法3(分類-除外-繰返しとしても知
られる)を使用すると、GFAPバイオマーカの追加がICH患者を適切に分類するのに
まさに役立つことを観察することができた(ELISAコホートでは、GFAPを使用し
た場合の60%に対して、GFAPを使用しなかった場合6%、SIMOAコホートの値
では、GFAPを使用した場合の37%に対して、GFAPを使用しなかった場合3%)
。また、GFAPを使用しなかった場合でも、IS患者を分類するための高い能力が失わ
れたわけではないことに留意することも重要である(GFAPバイオマーカの使用の有無
にかかわらず、ELISAコホートの値では49%対44%、SIMOAコホートの値で
は24%対24%)。
【0201】
GFAPを含めても、IS患者を識別する能力に影響が及ぼされない。
【0202】
最後に、さらに洗練された方法である方法4(SVM)分類器を使用して、ICHに対
して100%の特異度でIS患者の29.7%を適切に識別することができた。
【0203】
これらのデータはいずれも、患者の正確な分類のための基準値が、同時に決定される他
のマーカの数、または患者のコホートからのデータ分析に使用される技術など、いくつか
のパラメータの関数であり得る動的値であることも明らかにしている。一方、タンパク質
の1つの固定された量またはレベルについては、最初のものによって決定され、良好な分
類を可能にする他の同時に存在するマーカの量は、変化し、使用されるいくつかの数学的
関数またはモデルによって表され得る(すなわち、基本的なカットオフ、ROC曲線、P
CA、SVMなど)。
【0204】
この説明の実施例1に従って患者の2つの異なるコホートによって提供された異なるデ
ータ分析から、RBP4およびNT-proBNPのレベル、ならびに場合によりGFA
Pのレベルが、ISとICHとの間の良好な識別を可能にし、また再灌流療法の候補の安
全な選択を可能にすることが明らかにされている。正確な分類のための基準範囲または基
準値は、この方法で計算された、いくつかの変数に応じて調整される。いずれの場合も、
これらの値は、この方法を行わなければならない担当者に示される。
【0205】
これら2つまたは3つのマーカにより、良好に分類された患者の全体像が得られたため
、それらは、試験患者の正確な分類に有用であった。
【0206】
さらに、特に興味深いのは、RBP4およびNT-proBNPバイオマーカを使用し
て適切に分類された虚血性患者は、転帰が不良な患者であるということである。
【0207】
以下の表5に示すように、これら2つのバイオマーカを使用して特定された虚血性脳卒
中(IS)の方が死亡率が高く、脳卒中後3カ月の時点で独立性が低下する。
【0208】
これは、今日の標準的な経路に従って後に治療された場合の致死的転帰を避けるために
、これらの患者をできるだけ早く再灌流技術を用いて治療するもう1つの理由である。
【0209】
【0210】
簡単に言えば、両バイオマーカの決定に基づくこの技術は、「ゴールデンアワー」(虚
血性脳卒中発症から60分未満)内に治療される確率を増加させ、その事実は、無症候性
になる確率をほぼ倍増させ、独立する確率を3倍にし、生存の確率を4倍に増加させる(
「ゴールデンアワー」および治療作用プロトコルに関する詳細については、Kunz e
t al.“Effects of Ultraearly Intravenous
Thrombolysis on Outcomes in Ischemic Str
oke:The STEMO(Stroke Emergency Mobile)Gr
oup”,Circulation-2017May2;135(18):1765-1
767を参照)。
【0211】
実施例2:患者32例の異なるコホートを対象とした患者の分類および療法の選択。
【0212】
データセットは、患者32例(出血性18例、虚血性14例)に存在した。目的は、誤
分類のリスクを伴わず、両クラスの最大の患者を分離することであった。
【0213】
それを行うために、GFAPバイオマーカのための4つの異なる手法を使用した。その
ため、異なる手法ごとに手順を計算した。
【0214】
手順は、GFAPに対する最良のカットオフを見出し、100%の感度または100%
の特異度で分類された患者を除外することにあり、残りのデータ(GFAPを用いて分類
/除外されず、その結果、完全に分類されなかった)を用いて、RBP4バイオマーカデ
ータによる次のカットオフを計算し、100%の感度または100%の特異度で患者を再
び分類し、それらを除外した。最後に、NT-proBNPバイオマーカデータを用いて
手順を繰り返すこと。
【0215】
以下に、GFAP決定のための各手法に使用されるカットオフ値を含めた。
【0216】
GFAP DxSYS_CLIA(DxSYS Inc.化学発光イムノアッセイ):
カットオフ>80.6pg/mlを使用して、出血性患者15例(全出血性患者の83%
)が正確に分類された。
GFAP DxSYS_TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TM
B)を使用するDxSYS Inc):カットオフ>88.685pg/mlを使用して
、出血性患者14例(全出血性患者の78%)が正確に分類された。100pg/mlの
カットオフを使用しても同じ結果が得られた。
GFAP Quanterix(登録商標):>2066.078pg/mlおよび<
166.67pg/mlのカットオフを使用して、出血性患者14例および虚血性患者3
例(全出血性患者の78%および虚血性患者の21.4%)が正確に分類された。
GFAP Elisa(Elisaキットカタログ番号RD192072200、Bi
oVendor):カットオフ>50.5pg/mlを使用して、出血性患者11例(全
出血性患者の61.1%)が正確に分類された。
【0217】
これらすべてのカットオフを適用し、前述のようにRBP4およびNT-proBNP
を進めた後、最終的に、17/18例の出血性患者および12/14例の虚血性患者が正
確に分類された。
【0218】
したがって、この手順は、3つのバイオマーカを一連の工程で決定することにより、適
切な医療レジメン(虚血性脳卒中に対する再灌流療法)を決定するための患者の正確な分
類が可能になることを示した。各分析手法の手順の概要を表6に示す。
【0219】
【0220】
実施例3:バイオマーカと臨床データとの組合せは、再灌流療法を必要とする虚血性脳卒
中を特定する精度を改善する
【0221】
以下の患者およびカットオフを用いて、データの分析を行った:
出血性n=35および虚血性n=155
【0222】
カットオフGFAP(pg/ml)<97.03およびNT-proBNP(pg/m
l)>4076.50およびRBP-4(μg/ml)>52.52を使用した組合せで
は、3つのバイオマーカは、感度0.32、特異度1.00(100%)、陽性的中率(
PPV)1.00および陰性適中率(NPV)0.25を示した。
【0223】
その上に臨床データ(特に血圧および血糖値)を追加すると、100%の特異度を維持
しながら感度が向上した。実際、GFAP(pg/ml)<97.03およびNT-pr
oBNP(pg/ml)>4076.50および収縮期血圧(SBP)mmhg<119
.00、ならびに拡張期血圧(DBP)(mmhg)<60.50およびRBP-4(u
g/ml)>52.52および血糖(mg/dl)<83.50は、0.45感度および
1.00特異度を有し、PPV=1.00およびNPV=0.29であった。
【0224】
ロジスティック回帰ベースのモデル:
過剰適合を制限しながら分類精度と堅牢性とを高めることができるデータの実現可能な
変換を見出すために、両コホート(実施例1の元のコホート1n=189、ならびに出血
性n=51および虚血性n=249の複製コホートn=300)から得られたプールした
データに対して、いくつかの多重ロジスティック回帰モデルを試験した。試験したモデル
には、マーカおよび関連する臨床変数のパネルを含めた。モデルは、Akaike In
formation Criteriaに従って選択し、虚血性脳卒中と出血性脳卒中と
の間で個体を分類するために使用した。
【0225】
選択したモデルには、虚血性脳卒中状態の有意な予測因子としてGFAP(pg/ml
)、NT-proBNP(pg/ml)および拡張期血圧(mmhg)の対数変換を以下
の組合せで含めた:
【0226】
-1.56log(GFAP(pg/ml))+0.0008NT-proBNP(pg
/ml)-0.041DBP(mmhg)
【0227】
この線形結合により、コンパウンドマーカとして扱うことができる推定対数オッズ比ス
コアが得られた。2群間で個体を分類するための所望の感度および特異度の要件を最大化
する閾値をこのスコアに配置することができた。マーカの重み付けおよび集計により、特
異度が95%を超えた場合、両コホートの生のマーカよりも分類感度が向上した。
【0228】
元のコホートでは、このモデルの適用は、感度=0.60、特異度=1.00および精
度=0.68を有した。
【0229】
図4は、このロジスティックモデルスコアを使用した対象の分類をグラフで示している
。
【0230】
複製コホート(n=300)の特性を以下に列挙する:
【0231】
脳卒中が疑われる症例(虚血性脳卒中または出血性脳卒中)では、脳卒中発症の3時間
以内に血液試料を得た。診断的および治療的精密検査は、いくつかの例(n=189)で
は、これらのファイルで使用された試験対象患者の実施例1の初期コホート1と同様であ
った。
【0232】
【0233】
実施例4:超早期の時点で再灌流療法の虚血性脳卒中患者候補を検出するための精度の向
上
【0234】
実施例1の元のコホート1(n=189)を対象に、症状発現からの採血の時間との関
係で、バイオマーカの性能を評価した。驚くべきことに、検査が早く行われるほど、検査
の精度が向上した:
【0235】
(i)0~2時間(出血性n=11および虚血性n=82)
GFAP(pg/ml)<175.85およびNT-proBNP(pg/ml)>3
916.50およびRBP-4(ug/ml)>38.15。
感度=0.70、特異度=1.00、PPV=1.00およびNPV0.31。
(ii)2~3時間(出血性n=13および虚血性n=35)
GFAP(pg/ml)<94.37およびNT-proBNP(pg/ml)>12
89.50およびRBP-4(ug/ml)>46.55。
感度=0.60、特異度=1.00、PPV=1.00およびNPV0.48。
(iii)3~4.5時間(出血性n=11および虚血性n=38)
GFAP(pg/ml)<98.96およびNT-proBNP(pg/ml)>42
54.50およびRBP-4(ug/ml)>53.34。
感度=0.34、特異度=1.00、PPV=1.00およびNPV0.31。
【0236】
複製コホート(n=300、出血性n=51および虚血性n=249)では、病院に非
常に早く到着した患者を選択し、脳卒中発症の最初の1時間以内に血液試料を採取した。
出血性n=8および虚血性n=33であった。
【0237】
そのサブコホートでは、GFAP(pg/ml)<300.03およびNT-proB
NP(pg/ml)>1033.01およびRBP-4(ug/ml)>32.93は優
れた精度を有し、感度=0.91、特異度=1.00、PPV=1.00およびNPV0
.73であった。
【0238】
いくつかの臨床変数(臨床パラメータ)、すなわち、GFAP(pg/ml)<300
.03およびDBP(mmhg)<82.00およびSBP(mmhg)<143.00
およびNT-proBNP(pg/ml)>2741.31および血糖(mgdl)<1
08.00を追加すると、それはさらに向上し、検査は完全に機能した。
【0239】
この組合せにより、感度=1.00、特異度=1.00、PPV=1.00およびNP
V1.00が得られた。
【0240】
患者のこのコホートでは、症状発現の最初の1時間に得られた試料を用いて、ロジステ
ィック回帰も行った。
【0241】
選択したモデルには、虚血性脳卒中状態の有意な予測因子として、GFAP(pg/m
l)、NT-proBNP(pg/ml)および拡張期血圧(mmhg)の対数変換を以
下の組合せで含めた:
【0242】
-1.56log(GFAP(pg/ml))+0.0008NT-proBNP(pg
/ml)-0.041DBP(mmhg)
【0243】
この線形結合により、コンパウンドマーカとして扱うことができる推定対数オッズ比ス
コアが得られた。脳卒中発症の最初の1時間以内に看護された複製コホートの患者に対す
るこのモデルの適用は、感度=0.79、特異度=1.00および精度=0.83を有し
た。
【0244】
図5は、脳卒中の発症後最初の1時間以内の単離試料のデータとともに、このロジステ
ィックモデルスコアを使用した対象の分類をグラフで示している。
【0245】
実施例4のこれらのデータはいずれも、選択されたバイオマーカRBP4、NT-pr
oBNPおよびGFAPが、脳卒中の発症後すぐに測定することができれば、高い感度を
可能にすることを示している。特に、それらが発症後1時間および2時間以内に決定され
得る場合。
【0246】
脳卒中では、検査が行われるのが早ければ早いほど、固定された特異度に対して良好な
感度が達成され得ることは驚くべき効果であり、一般に、バイオマーカは、発症後の比較
的長い期間の後に適切な合図を与える。この疾患の危機的な時期(例えば、救急車レベル
)に患者の良好で信頼できる分類を迅速に行うことができるため、この病状ではこれは不
利益になるどころか目標である。これにより、これらの重要な瞬間に最善かつ最も適切な
決定を下すことができ、後にこれを追加のバイオマーカを用いて検証することができる(
例えば、患者が病院に到着した後)。
【0247】
実施例5:急性虚血性脳卒中に類似する他の疾患(脳卒中ミミック状態および脳内出血)
から、再灌流療法を受けるに値する虚血性脳卒中患者を選択するために救急車で行われる
迅速ポイントオブケア血液検査
【0248】
救急車で再灌流療法(血栓溶解)を開始するため、またはこの患者を適切な病院に送っ
て最良の再灌流療法(血栓溶解または機械的血栓除去)を施すために血液試料を使用して
虚血性脳卒中を有する患者を特定し得る、救急車のためのポイントオブケア検査(POC
T)を使用して、本発明に含まれるバイオマーカのパネル(RBP4、NT-proBN
PおよびGFAP)を検証した。
【0249】
方法:
スペイン南部のセビリア地域の20台を超える救急車およびヘリコプターのネットワー
クにより、BIO-FAST試験(Biomarkers for Initiatin
g Onsite and Faster Ambulance Stroke The
rapies)に脳卒中が疑われる患者(6時間未満)を登録した。迅速POCT(結果
が出るまで10~15分)を使用してRBP-4/NT-pro-BNPを測定する救急
車によって血液試料を収集し、SIMOA-Quanterix技術によってGFAPを
測定した。
【0250】
算入基準:18歳を超える患者;コーディネータセンターによってアクティブ化された
脳卒中コード、および症状発現から6時間未満。時系列が不確かな脳卒中または起床時脳
卒中の場合、最初の時間が、患者が元気に見えた最後の瞬間と見なされる。
【0251】
除外基準:脳卒中とは異なる入院前診断;入院前の血液試料を入手することが不可能、
および患者/近親者によるインフォームドコンセントの提供の拒否。
【0252】
試料の種類
バイオバンク用の血液試料(10mL)の1つのEDTAチューブ+POC用の血液試
料(2mL)の1つのEDTAチューブの抽出。試料は、バイオマーカ発見研究のために
全面的に使用するまで、RD 1716/2011で確立された要件に従って、Vall
d’Hebron病院内でコードC.0003176によって登録された収集物に配置
された収集物に含めた。
【0253】
・RBP4迅速検査。RBP4 POCラテラルフローディスポジティブ(dispo
sitive)。
・NT-proBNP迅速検査。Nt-proBNP POCラテラルフローディスポ
ジティブ。
・GFAP SIMOA-Quanterix技術
【0254】
結果:
患者20例を含めた(10例は虚血性脳卒中、3例は脳内出血、7例は脳卒中ミミック
状態であった)。救急車でPOCTを実行することが可能であり、1例はヘリコプター内
で行われたが、事故はなかった。
【0255】
これらのバイオマーカのために選択したカットオフを用いた迅速POCT(RBP-4
-NT-proBNP)では、ICHまたはミミックを誤分類することなく、ISの50
%が正確に特定された(100%の特異度、50%の感度)。起床時脳卒中を除外した場
合、POCTでは、ICHまたはミミックを誤分類することなく、ISの62.5%が正
確に特定された(100%の特異度、62.5%の感度)。
【0256】
これらの患者から保存された血液試料を使用して、GFAP、RBP-4およびNT-
proBNPを組み込み得るPOCTを用いて結果がどのように改善され得るかを調べる
ために、SIMOA-Quanterix技術を使用してGFAPを測定した。GFAP
レベルが非常に高い患者4例が特定され、2例はICH、1例はIS、1例はミミックで
あった。これらの4例を除外することにより、感度を70%超まで高め、特異度を100
%に維持することができた。
【0257】
ISの20%は、POCTを使用して症状発現から最初の30分以内に治療された可能
性がある。さらに、POCTがISに対して陰性であったため、tPAを投与された1例
のミミックは避けられた可能性がある。tPAによって治療された患者は、救急車での検
査を使用することにより、1時間30分前にこの薬物を投与された可能性がある。3例の
虚血性患者(30%)は、検査のための4.5時間の時間枠に入っていた可能性があるが
、病院でCTスキャンが行われた時点でその時間外であった。
【0258】
結論:
RBP-4、NT-proBNPおよびGFAPを含むバイオマーカのパネルは、虚血
性脳卒中に対して100%の特異度で有用な感度率を提供する。これは、標準的な技術を
使用するよりもはるかに迅速に選択された症例に対して入院前再灌流療法を開始すること
ができるPOCTを使用することによって、標準的な臨床診療を変化させる可能性がある
。
【0259】
RBP4およびNT-proBNPの血中レベルの決定を可能にするPOCTによって
得られ、さらにGFAPでの決定によって仕上げられたデータは、ISおよびICH患者
が、既存のミミック(脳卒中のような症状を伴う非脳卒中患者)の存在下でスクリーニン
グされる現実の状況における最初の検査を想定したものであった。この現実の状況では、
100%の特異度を固定しながら、感度も先の実施例のいくつかよりも高かった(50%
超)。これは、良好で信頼できる分類を可能にする、バイオマーカのパネルに追加される
べきバイオマーカの予想外の利点であり、病院に到着する前に施され得る療法の適切な選
択に変換される。
【0260】
実施例6:RBP-4、NT-proBNPおよびGFAPは、機械的血栓除去を必要と
し、この療法が利用可能であれば基準施設に搬送される必要がある、大血管閉塞(LVO
)を有する虚血性脳卒中患者を特定する。
【0261】
先に開示された脳卒中患者の2つのコホート(n=189およびn=300)では、L
VOの特定は、病院到着時に行われたCT血管造影(CTA)における閉塞した脳動脈の
存在および位置に基づくものであった。以下のいずれかの動脈または動脈セグメントの閉
塞、すなわち、頭蓋内頸動脈(ICA)、脳底(BA)、および中大脳動脈閉塞のM1セ
グメントの閉塞として記述されるLVOの限定的な定義に従った。
【0262】
(Vanacker P,Heldner MR,Amiguet M,et al.
Prediction of large vessel occlusions in
acute stroke:National institute of Heal
th Stroke Scale is hard to beat.Crit Car
e Med2016;44:e336-43を参照)。
【0263】
以下に示す同じバイオマーカは、M2(ICA、M1、M2またはBAの閉塞として定
義されるLVO)などの中大脳動脈(MCA)のさらに遠位部分での閉塞も含むそれほど
厳密でない基準で、単に異なるカットオフを使用することによってLVOを特定するのに
も有用である。
【0264】
A.実施例1の初期コホート1(N=189):
【0265】
LVO患者の予測(LVO無し134例対LVO56例):
【0266】
GFAP(pg/ml)<694.48およびNT-proBNP(pg/ml)>1
764.50およびRBP-4(μg/ml)>35.22は、感度=0.98、特異度
=0.18、PPV=0.33およびNPV0.96を有した;これは、ベースラインN
IHSSスコア>11ポイントおよびd-ダイマー(ng/ml)>1432.43など
の臨床変数および検査変数を追加すると向上し、感度=1.00、特異度=0.46、P
PV=0.43およびNPV1.00を有した。
【0267】
症状発現から2時間以内に血液試料が得られた場合、ベースラインNIHSSスコア>
11ポイントおよびRBP-4(ug/ml)>51.53では、感度=1.00、特異
度=0.40、PPV=0.46およびNPV1.00とマーカの能力が向上した。
【0268】
さらに、血栓除去を実施した患者(血栓除去無し165例および血栓除去22例)では
、バイオマーカGFAP(pg/ml)>209.43およびNT-proBNP(pg
/ml)<848.15は、感度=1.00、特異度=0.23、PPV=0.15およ
びNPV1.00を有した。
【0269】
これは、ベースラインNIHSSスコア>11ポイントおよびGFAP(pg/ml)
<54.84などの臨床変数を追加すると向上し、感度=1.00、特異度=0.43、
PPV=0.19およびNPV1.00を有した。
【0270】
症状発現から2時間以内に血液試料が得られた場合、d-ダイマーを伴うNT-pro
BNPでは、感度=1.00、特異度=0.70、PPV=0.39およびNPV1.0
0と能力が向上した。
【0271】
B.複製コホート(n=300)
【0272】
LVO(限定的な定義)LVO無し=215例対LVO=85例
【0273】
バイオマーカGFAP(pg/ml)<153.18およびNT-proBNP(pg
/ml)>692.60およびRBP-4(μg/ml)<39.72は、感度=1.0
0、特異度=0.09、PPV=0.30およびNPV1.00を示した。
【0274】
これらの結果は、臨床データのベースラインNIHSSスコア>11ポイントおよびR
BP-4(ug/ml)<29.03および血糖(mg/dl)<71.50を追加する
ことによって向上し、感度=1.00、特異度=0.20、PPV=0.33およびNP
V1.00が示された。
【0275】
これらの結果は、発症後2時間以内に血液試料が得られた場合、ベースラインNIHS
SスコアおよびRBP-4についてはさらに良好であり、感度=1.00、特異度=0.
45、PPV=0.43およびNPV1.00を有した。
【0276】
血栓除去を受けた患者(血栓除去無しn=264および血栓除去n=35)では、バイ
オマーカGFAP(pg/ml)<153.18およびNT-proBNP(pg/ml
)<2049.01は、これらの患者を正確に特定するための感度=1.00、特異度=
0.14、PPV=0.13およびNPV1.00を有した。これは、臨床変数および検
査変数を追加することによって向上し、GFAP(pg/ml)<153.18およびd
-ダイマー(ng/ml)>7.29および拡張期血圧(mmhg)>89.50は感度
=0.97、特異度=0.33、PPV=0.16およびNPV0.99を有した。
【0277】
引用文献
特許文献
-国際公開WO2016/087611号公報
非特許文献
-Reynolds et al., “Early Biomarkers ofStroke”, Clinical Chemistry-2003, vol.:
49 (10), pp.: 1733-1739
-Montaner et al. “Etiologic Diagnosis of Ischemic Stroke Subtypes With Plasma
Biomarkers”, Stroke 2008, vol. no. 39, pp.:2280-2287
-Adams HP Jr Neurology. 1999 Jul 13;53(1): 126-31.
-Tsivgoulis G. et al, Neurology. 2014 Sep 19
-BLASTManual, Altschul, S., et al, NCBI NLMNIH Bethesda, Md. 20894, Altschul, S
., et al, J. Mol. Biol. 215: 403-410 (1990)
-Jolliffe, I.T. (2002). Principal Component Analysis, second edition(Springer),
ISBN 0-387-95442-2.
-Kunz et al. “Effects of Ultraearly Intravenous Thrombolysis onOutcomes in Isc
hemic Stroke: The STEMO (Stroke Emergency Mobile) Group”,Circulation- 2017 May
2;135(18):1765-1767.
-Vanacker P, Heldner MR, Amiguet M, et al. Prediction of largevessel occlusions
in acute stroke: National institute of Health Stroke Scale ishard to beat. Crit
Care Med 2016;44:e336-43.
-Rai AT et al. (2017). A population-based incidence of acutelarge vessel occlu
sions and thrombectomy eligible patients indicatessignificant potential for grow
th of endovascular stroke therapy in the USA. JNeurointerv Surg. 9:722-6.
-Crowe RP, Myers JB, Fernandez AR, Bourn S, McMullan JT.. Prehosp Emerg Care. 2
020 Feb 25:1-9.
-Gandhi CD, Al Mufti F, Singh iP, et al. Neuroendovascular managementof emergen
t large vessel occlusion: update on the technical aspects andstandards of practi
ce by the Standards and Guidelines Committee of the Societyof Neurointerventiona
l Surgery. J Neurointerv Surg 2018;10:315-20).
-Lakomkin N, Dhamoon M, Carroll K, et al. Prevalence of large vesselocclusion i
n patients presenting with acute ischemic stroke: a 10-yearsystematic review of
the literature. J Neurointerv Surg 2019;11:241-5.
-Waqas M, et al. Effect of definition and methods on estimates ofprevalence of
large vessel occlusion in acute ischemic stroke: a systematicreview and meta-ana
lysis. J Neurointerv Surg. 2020 Mar;12(3):260-265