(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014348
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】SiC単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20250123BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116835
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】595009109
【氏名又は名称】SECカーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩見 弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雅英
(72)【発明者】
【氏名】錦織 徳二郎
(72)【発明者】
【氏名】小田垣 学
(72)【発明者】
【氏名】山口 知希
(72)【発明者】
【氏名】曽根 慎之介
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077DA19
4G077EA02
4G077SA04
4G077SA07
(57)【要約】
【課題】坩堝が大型化した場合であっても、坩堝の位置に応じた温度ばらつきを抑制することのできる、SiC単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】SiC単結晶製造装置は、発熱源と、発熱源よりも上方に配置された均熱板と、鉛直方向から見て均熱板の外縁よりも内側に位置し均熱板の上方に配置された加熱容器と、鉛直方向から見て加熱容器の最も外側に位置する側面を覆うように配置された第一筒状体と、鉛直方向から見て離間部を有した状態で第一筒状体を覆うように配置された第二筒状体を備え、第一筒状体は、少なくとも第二筒状体に対向する側面が、赤外線を一部吸収し、且つ一部反射する材料で構成され、第二筒状体は、第一筒状体に対向する側面である第二面が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源と、
鉛直方向から見て前記発熱源を覆うように、前記発熱源よりも上方に配置された均熱板と、
前記鉛直方向から見て前記均熱板の外縁よりも内側に位置し、前記均熱板の上方に配置された、SiCからなる固体原料を収容する原料収容領域と、前記原料収容領域よりも前記鉛直方向に離間した位置にSiCの種結晶を配置する種結晶取付部とを含む加熱容器と、
前記鉛直方向から見て、前記加熱容器の最も外側に位置する側面を覆うように配置された、第一筒状体と、
前記鉛直方向から見て、離間部を有した状態で前記第一筒状体を覆い、且つ、前記均熱板及び前記発熱源を覆うように配置された、第二筒状体と、
前記第二筒状体の上面の一部を閉塞するように配置された、蓋体とを備え、
前記第一筒状体は、少なくとも前記第二筒状体に対向する側面である第一面が、赤外線を一部吸収し、且つ一部反射する材料で構成され、
前記第二筒状体は、前記第一筒状体に対向する側面である第二面が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成され、
前記蓋体の底面が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成されていることを特徴とする、SiC単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第一筒状体と前記第二筒状体との間に位置する前記離間部が、前記第一面と前記第二面との間で反射された赤外線を、鉛直上方に導光する伝播経路を形成することを特徴とする、請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項3】
前記第二筒状体の前記第二面は、前記第一筒状体の前記第一面よりも赤外線に対する反射率が高いことを特徴とする、請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項4】
前記第二筒状体は、断熱性を有する主材料からなり、前記第二面上に前記主材料よりも赤外線に対する反射率の高いコーティング材又はシート材が形成されていることを特徴とする、請求項3に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項5】
前記第二筒状体と前記蓋体は、同一部材で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項6】
前記蓋体は、前記鉛直方向から見て前記加熱容器の頂部に対向する領域の少なくとも一部に、抜熱用の開口部を有することを特徴とする、請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項7】
前記加熱容器を複数備え、
複数の前記加熱容器の全てが、前記鉛直方向から見て前記均熱板の外縁よりも内側に位置するように配置されており、
前記第一筒状体は、前記鉛直方向から見て、最も外側に位置する複数の前記加熱容器を覆うように配置されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項8】
それぞれの前記加熱容器は、断熱性を有する部材で覆われておらず、隣接する前記加熱容器同士の間で輻射による熱の伝搬が可能に構成されていることを特徴とする、請求項7に記載のSiC単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、電気的な優れた特性として、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊の電界強度の数値が1桁程度大きく、バンドギャップの数値が約3倍大きい特性を有する。また、SiCは、熱的な優れた特性として、Siに比べて熱伝導率が約3倍高い特性を有する。これらの優れた特性を有することから、SiCは、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等の各種デバイスへの応用が期待されている。これらのデバイスは、SiC単結晶インゴットから加工して得られるSiC単結晶基板に、化学的気相成長法(CVD)等を用いて、デバイスの活性領域となるエピタキシャル層を形成することで作製される。
【0003】
SiC単結晶は、昇華法で製造されるのが現在の主流である。この方法は、黒鉛製の坩堝(加熱容器)内において、固体原料となるSiC粉末を、2000℃を超える高温で加熱して昇華させ、この昇華ガスを、比較的低温の位置に配置された種結晶に供給することで、種結晶上に再結晶化させて単結晶インゴットを得る技術である。
【0004】
昇華法は、液相を利用した融液成長法とは異なり、ガスによる成長を利用しているため、高速で成長させた場合には欠陥が生じやすいという原理的な問題を有している。つまり、単一の単結晶インゴットを成長させるためにはある程度の加熱時間を必要とする。かかる観点から、本出願人は、炉一式に対して複数の坩堝及び種結晶を配置して、複数の単結晶インゴットを並列的に成長させる技術を過去に提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パワー半導体として注目されているSiCデバイスは、さらなる大電流化に対応することが要求され始めている。大電流に対応可能なSiCデバイスを実現するためには、大型のSiCウェハが必要となり、大型SiCウェハを製造するためには、大型の単結晶インゴットが必要となる。大型の単結晶インゴットを製造するためには、従来よりも坩堝のサイズを大型化する必要がある。
【0007】
しかし、大型の坩堝を複数配置して単一の炉で加熱した場合には、坩堝の配置位置によって温度にばらつきが生じやすくなる。このような温度のばらつきは、各坩堝で製造されるそれぞれの単結晶インゴットの結晶成長の速度のばらつきに繋がり、ひいては、性能のばらつきが生じる可能性がある。
【0008】
また、特許文献1の技術は、坩堝の底面と側面にそれぞれ別途の発熱源を配置し、各発熱源から供給される加熱エネルギーの比率を所定の範囲内に調整するというものである。しかし、坩堝が大型化すると装置自体も大型化するため、側面に配置された発熱源と炉内に配置された坩堝との距離が離れ、前記側面側の発熱源からの熱エネルギーが坩堝に届きにくくなる。よって、側面側の発熱源の出力を調整したタイミングと、出力が調整された後の側面側の発熱源からの熱エネルギーが坩堝に届くタイミングとの間には、時間差が生まれる。このような事情により、底面の発熱源からの加熱エネルギーと、側面の発熱源からの加熱エネルギーとの比率を、所定の範囲内に調整する制御が難しくなる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、坩堝が大型化した場合であっても、坩堝の位置に応じた温度ばらつきを抑制することのできる、SiC単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るSiC単結晶製造装置は、
発熱源と、
鉛直方向から見て前記発熱源を覆うように、前記発熱源よりも上方に配置された均熱板と、
前記鉛直方向から見て前記均熱板の外縁よりも内側に位置し、前記均熱板の上方に配置された、SiCからなる固体原料を収容する原料収容領域と、前記原料収容領域よりも前記鉛直方向に離間した位置にSiCの種結晶を配置する種結晶取付部とを含む加熱容器と、
前記鉛直方向から見て、前記加熱容器の最も外側に位置する側面を覆うように配置された、第一筒状体と、
前記鉛直方向から見て、離間部を有した状態で前記第一筒状体を覆い、且つ、前記均熱板及び前記発熱源を覆うように配置された、第二筒状体と、
前記第二筒状体の上面の一部を閉塞するように配置された、蓋体とを備え、
前記第一筒状体は、少なくとも前記第二筒状体に対向する側面である第一面が、赤外線を一部吸収し、且つ一部反射する材料で構成され、
前記第二筒状体は、前記第一筒状体に対向する側面である第二面が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成され、
前記蓋体の底面が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成されていることを特徴とする。
【0011】
本明細書において、「赤外線」とは、放射されることで熱を伝搬する機能を示す電磁波を指す。
【0012】
上記構成によれば、均熱板の下方に位置する発熱源から発生した熱が、均熱板を介して加熱容器の底部を加熱する。また、発熱源自体、又は加熱された均熱板から放射された赤外線(輻射熱)が、外側の第二筒状体に向かって進行する。第二筒状体は、その内側に位置する第一筒状体と対向する側の面(第二面)が、少なくとも一部の赤外線を反射する材料で構成されているため、この第二面で赤外線が反射されて、内側の第一筒状体側へと進行する。
【0013】
第一筒状体は、その外側に位置する第二筒状体と対向する側の面(第一面)が、赤外線を一部吸収し、且つ一部反射する材料で構成されている。このため、第二面で反射された赤外線を一部反射して第二筒状体側に戻すと共に、一部の赤外線を吸収することで、第一筒状体自体が加熱される。また、第一筒状体は、加熱された均熱板からの熱が伝搬されることでも加熱される。この結果、加熱された第一筒状体は二次熱源として機能し、内側に位置する加熱容器側及び外側に位置する第二筒状体側に向けて赤外線を放射する。更に、第一筒状体の第二筒状体側の面(第一面)は、反射面としても機能し、第二筒状体側から入射された赤外線の一部を反射して、第二筒状体側に戻す。
【0014】
第一筒状体の第一面から放射された赤外線は、第二筒状体の第二面で再び反射されて、第一筒状体に導かれる。第一筒状体に入射された赤外線は、上記と同様に、一部が吸収されることで第一筒状体を加熱すると共に、一部は第二筒状体側に再反射される。このように一部の赤外線が、第一筒状体と第二筒状体との間で反射を繰り返しながら、鉛直上方に伝搬される。つまり、第一筒状体と第二筒状体との間に位置する離間部によって、第一筒状体の第一面と第二筒状体の第二面との間で反射される赤外線を、鉛直上方に導光する伝播経路が形成される。
【0015】
この結果、第一筒状体は、鉛直方向に関して均熱体から蓋体側に遠ざかる位置(鉛直上方の位置)においても、第二筒状体の第二面から放射された赤外線が入射されるため、加熱されやすい。よって、第一筒状体は、高さ方向に関して全体的に二次熱源として機能し、この第一筒状体から内側に向けて放射される赤外線によって、第一筒状体の内側に配置された加熱容器を、高さ位置によらず加熱できる。
【0016】
更に、上記構成によれば、蓋体の底面についても赤外線を反射する材料で構成されている。このため、第一筒状体の第一面と第二筒状体の第二面との間で反射を繰り返しながら鉛直上方に伝搬された赤外線が、蓋体の底面に入射されると、この蓋体の底面で反射されて、下方へと伝搬される。この結果、加熱容器を上側から加熱することができる。
【0017】
上記構造のSiC単結晶製造装置によれば、一次熱源としての発熱源については、均熱板よりも鉛直下方の位置に配置しながらも、加熱容器に対して、底面側のみならず、側面側及び上面側からも加熱させることが可能となる。そして、側面や上面からの熱エネルギーは、一次熱源から直接的に供給されるものではなく、伝熱や輻射によって加熱された二次熱源として機能する第一筒状体由来の赤外線、及び反射面から反射された赤外線によって供給されるものである。このため、底面から加熱容器に対して供給される熱エネルギーに対する、側面及び上面から加熱容器に対して供給される熱エネルギーの比率は、第一筒状体、第二筒状体及び蓋体の材料、形状、寸法等によって一義的に決定される。
【0018】
つまり、予め、第一筒状体、第二筒状体及び蓋体の材料、形状、寸法等を、所望の熱バランスになるように調整したものを採用しておけば、温度制御のために均熱板の下方に配置された一次熱源としての発熱源の出力を調整したとしても、この出力制御に伴って加熱方向に応じた熱バランスが大きく崩れるということは起きにくい。したがって、大型の加熱容器を用いる場合であっても、加熱容器の位置に応じた温度ばらつきの発生が抑制される。
【0019】
前記第二筒状体の前記第二面は、前記第一筒状体の前記第一面よりも赤外線に対する反射率が高いものとしても構わない。より詳細には、前記第二筒状体は、断熱性を有する主材料からなり、前記第二面上に前記主材料よりも赤外線に対する反射率の高いコーティング材又はシート材が形成されているものとしても構わない。
【0020】
なお、本明細書において、「断熱性を有する」とは、熱伝導率が10[W/(m・K)])以下であるものを指す。
【0021】
上述したように、第一筒状体は、第二筒状体側に一部の赤外線を反射させる機能を有しつつも、二次熱源として、内側に赤外線を放射して第一筒状体の内側に配置された加熱容器を側方から加熱する機能も有している。これに対し、第二筒状体は、第一筒状体側に赤外線を反射させる機能を有していればよく、必ずしも、第二筒状体自体を二次熱源として機能させる必要はない。言い換えれば、第一筒状体と比べて、第二筒状体は赤外線に対する反射性が高いことがより好ましい。
【0022】
特に、第二筒状体を断熱性を有する主材料で構成することで、第二筒状体を通じて外側に排熱される熱量を低減できるため、発熱源から発せられた熱エネルギーを効率的に加熱容器に供給することができる。なお、本明細書において「主材料」とは、構成材料の50質量%以上を占める材料のことをいう。
【0023】
前記第二筒状体と前記蓋体は、同一部材で構成されているものとしても構わない。更には、前記第二筒状体と前記蓋体は、一体の部材であっても構わない。
【0024】
前記蓋体は、前記鉛直方向から見て前記加熱容器の頂部に対向する領域の少なくとも一部に、抜熱用の開口部を有するものとしても構わない。
【0025】
前記SiC単結晶製造装置は、前記加熱容器を複数備え、
複数の前記加熱容器の全てが、前記鉛直方向から見て前記均熱板の外縁よりも内側に位置するように配置されており、
前記第一筒状体は、前記鉛直方向から見て、最も外側に位置する複数の前記加熱容器を覆うように配置されているものとしても構わない。
【0026】
上記構成によれば、最も外側に位置する加熱容器については、第一筒状体から放射された赤外線によって側方から加熱され、その内側に位置する加熱容器については、隣接する加熱容器から放射された赤外線によって側方から加熱される。そして、上述したように、一次熱源としての発熱源は、均熱板の下方に存在しており、側方及び上方には別途の発熱源を設ける必要がない。
【0027】
よって、温度制御のために均熱板よりも下方に配置された一次熱源としての発熱源の出力を調整したとしても、この出力制御に伴って加熱方向に応じた熱バランスが大きく崩れるということは起きにくい。したがって、複数の加熱容器を用いる場合であっても、加熱容器の位置に応じた温度ばらつきの発生が抑制される。この結果、性能のばらつきを抑制しながら、大型のSiCインゴットを複数並列的に製造することが可能となる。
【0028】
上記の観点から、それぞれの前記加熱容器は、断熱性を有する部材で覆われておらず、隣接する前記加熱容器同士の間で輻射による熱の伝搬が可能に構成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のSiC単結晶製造装置によれば、加熱容器が大型化した場合であっても、加熱容器の位置に応じた温度ばらつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明のSiC単結晶製造装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示すSiC単結晶製造装置から、蓋体を除去した状態における模式的な平面図である。
【
図3】加熱容器の構造を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図1の一部拡大図であり、赤外線の伝搬の様子が模式的に付記されている。
【
図6】実施例1として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図2にならって図示した平面図である。
【
図7A】比較例1として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図2にならって図示した平面図である。
【
図7B】比較例1として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図1にならって図示した断面図である。
【
図8A】比較例2として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図2にならって図示した平面図である。
【
図8B】比較例2として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図1にならって図示した断面図である。
【
図9A】参考例1として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図2にならって図示した平面図である。
【
図9B】参考例1として準備されたSiC単結晶製造装置のモデルを、
図1にならって図示した断面図である。
【
図10A】温度分布を均一にした状態で6インチサイズの単結晶インゴットを成長させた場合の、3D計測の断面図である。
【
図10B】温度分布を不均一にした状態で6インチサイズの単結晶インゴットを成長させた場合の、3D計測の断面図である。
【
図11】本発明のSiC単結晶製造装置の別実施形態の構成を、
図1にならって図示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係るSiC単結晶製造装置の実施形態につき、以下において適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面はいずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しておらず、図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0032】
図1は、SiC単結晶製造装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。以下の説明では、
図1に付記されたX-Y-Z座標系が適宜参照される。ここで、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「Z方向」と記載されている場合には、「+Z方向」と「-Z方向」の双方が含まれる。
図1では、Z方向が鉛直方向に対応する。
【0033】
図2は、
図1に示すSiC単結晶製造装置1から、蓋体50を除去した状態における模式的な平面図であり、+Z側から-Z方向に見たときの平面図に対応する。
【0034】
図3は、
図1に示すSiC単結晶製造装置1が備える加熱容器10の構造を模式的に示す断面図である。
図4は、蓋体50の模式的な平面図であり、
図2と同様に、+Z側から-Z方向に見たときの平面図に対応する。
図5は、
図1の一部拡大図であり、赤外線の伝搬の様子が模式的に付記されている。
【0035】
以下において、
図1~
図5を参照しながら、SiC単結晶製造装置1の構造について詳述する。
【0036】
(発熱源3)
図1に示すように、SiC単結晶製造装置1は、発熱源3を備える。この発熱源3は、一次熱源として機能する。
【0037】
本実施形態のSiC単結晶製造装置1において、発熱源3の種類は特に限定されず、例えば抵抗加熱や誘導加熱等の公知の加熱方式が利用可能である。発熱源3からの発熱量の制御性に鑑みると、抵抗加熱を利用するのが好ましく、三相交流の給電機構を備えた構造とするのがより好ましい。
【0038】
(均熱板5)
図1に示すように、SiC単結晶製造装置1は、発熱源3に対して+Z側の位置に均熱板5を備える。
【0039】
均熱板5は、発熱源3から放射された熱を、X-Y面方向に拡げる目的で設けられている。この点に鑑みると、均熱板5は、Z方向に対する熱伝導率よりも、X-Y面方向に対する熱伝導率が高い、異方性熱伝導の性質を示すのが好ましい。一例として、均熱板5は、C/Cコンポジット材や、複数枚の炭素部材の積層体で構成される。
図5では、均熱板5によって熱EaがX-Y面方向に伝搬される様子が、模式的に二点鎖線で表記されている。
【0040】
なお、発熱源3からの放射熱により、均熱板5は2000℃以上の高温になる。このため、均熱板5は、2000℃以上の温度環境においても強度が確保される材料で構成される。上記に挙げた材料例であれば、このような温度環境下においても利用可能である。なあお、均熱板5に限らず、SiC単結晶製造装置1が備える、後述する各要素についても、同様に、2000℃以上の温度環境においても強度が確保される材料で構成されるのが好ましい。
【0041】
図1に示す例では、均熱板5は、発熱源3と比べてX-Y面方向に係る面積が大きいため、+Z側から見たときには、発熱源3は均熱板5の下方に隠れる。この場合には、均熱板5は、+Z側から見たときに発熱源3を覆うように配置されることになるため、
図2では、発熱源3が図示されていない。
【0042】
ただし、SiC単結晶製造装置1において、均熱板5のX-Y面方向に係る面積が、発熱源3のそれと比べて小さい場合を排除するものではない。例えば、発熱源3が、板状の部材にリング状に配列された抵抗加熱手段を備える構成を採用した場合や、リング状に配列された抵抗加熱手段単体を配置してなるような場合、発熱源3から生じる熱は、抵抗加熱手段の配列箇所に集中しやすくなる。このような事情から、X-Y面方向に熱を拡げる観点で均熱板5が設けられる。つまり、Z方向から見たときの、均熱板5と発熱源3との相対的な大小関係は任意である。
【0043】
なお、
図1では、発熱源3と均熱板5とがZ方向に離間しているが、本発明は、発熱源3と均熱板5とが接触する場合を排除するものではない。
【0044】
(加熱容器10)
図1に示すように、SiC単結晶製造装置1は、均熱板5の+Z側の位置に配置された加熱容器10を備える。本実施形態のSiC単結晶製造装置1は、複数の加熱容器10,10,…を備えている。
【0045】
図2に示すように、複数の加熱容器10,10,…は、いずれも、Z方向に見たときに均熱板5の外縁5aよりも内側に位置している。
【0046】
図3に示すように、加熱容器10は、SiCからなる固体原料11Sを収容するための原料収容領域13と、固体原料11Sに対してZ方向に離間した位置にSiCの種結晶12を配置するための種結晶取付部16とを有する。加熱容器10は、坩堝とも称される。
【0047】
原料収容領域13は、筒状の側部14と底部15とを有した有底筒状体であり、この内部空間の一部分に固体原料11Sを収容する。また、
図3の例では、側部14に対して+Z側に連結された、環状の種結晶取付部16が配置されており、この種結晶取付部16の上面にSiCの種結晶12が安定的に保持される。配置された種結晶12の-Z側の面は、原料収容領域13の内部空間に露出される。
【0048】
加熱容器10が加熱されると、原料収容領域13に収容された固体原料11Sが加熱されて昇華して、気体原料11Gに変化する。この気体原料11Gが、種結晶12の-Z側の面に到達することで、SiC単結晶が成長する。
【0049】
本実施形態のSiC単結晶製造装置1において、種結晶取付部16によって取り付けられるSiCの種結晶12の大きさは、特には限定されない。ただし、本実施形態のSiC単結晶製造装置1は、特に直径が6インチ(152.4mm)以上や8インチ(203.2mm)以上という大型の結晶を用いて、大型のSiC単結晶を成長させる場合であっても、加熱容器10の位置に応じた温度ばらつきを抑制することができるという効果が得られる。この点は、後述される。
【0050】
本発明において、種結晶取付部16の詳細な構造については特に限定されないが、例えば、側部14の内壁から突出する台座を設けて、種結晶12の外周を保持する方法が採用できる。
【0051】
固体原料11Sの昇華によって生成する気体原料11Gの蒸気圧を高める観点から、
図3に示すように、加熱容器10は蓋部19を備えることが好ましい。
【0052】
加熱容器10は、固体原料11Sを昇華させてSiC単結晶を成長させる際に高温になるため、高温に耐えることのできる素材によって形成されていることが望ましい。このような高温に耐えることのできる素材としては、黒鉛、黒鉛にタンタルを被覆したもの、及びタンタルカーバイドからなる群に属する1種以上を挙げることができる。
【0053】
(第一筒状体30)
図1及び
図2に示すように、SiC単結晶製造装置1は、Z方向から見て複数の加熱容器10,10,…を覆うように配置された、第一筒状体30を備える。
【0054】
本実施形態では、
図1に示すように、第一筒状体30は均熱板5の上面に保持されることで、均熱板5の上面が底面として機能しつつ、上方が開口された筒状空間を形成している。ただし、第一筒状体30自体が底部を備えていてもよい。また、本発明は、第一筒状体30と均熱板5とがZ方向に離間している場合を排除するものではない。
【0055】
第一筒状体30は、加熱体から放射された赤外線を受光すると、一部を吸収して加熱されると共に、一部を反射する機能を有する。より詳細には、第一筒状体30の面のうち、外側に位置する第一面31が、一部の赤外線を反射しつつ、一部の赤外線を吸収する機能を実現している。なお、第一筒状体30の内側の面についても同様の機能を実現していても構わない。
【0056】
このような機能を実現する第一筒状体30の例としては、炭素繊維フェルトや、炭素製の板状部材が隙間を空けた状態で複数配置された構造体を採用することができる。
【0057】
第一筒状体30の外側の面(第一面31)は、赤外線を受光した場合における反射率が、吸収率よりも低いものとして構わない。一方、第一筒状体30の内側の面においては、加熱後の第一筒状体30から赤外線を放射する面として専ら機能するものとしても構わない。ただし、第一筒状体30の内側の面においても、第一面31と同様に、一部の赤外線を反射する機能を有していても構わない。
【0058】
(第二筒状体40)
図1及び
図2に示すように、SiC単結晶製造装置1は、離間部60を有した状態で第一筒状体30を覆うように配置された、第二筒状体40を備える。
【0059】
より詳細には、第二筒状体40は、第一筒状体30のみならず、均熱板5及び発熱源3についても側方から覆うように配置されている。
【0060】
第二筒状体40は、特に内側の面(第二面41)が、加熱体から放射された赤外線を受光すると、少なくとも一部の赤外線を反射する機能を有する。第二筒状体40の第二面41は、第一筒状体30の第一面31と比べて、赤外線の反射率が高いものとしても構わない。
【0061】
好ましくは、第二筒状体40は断熱性を示す主材料で構成され、第二面41には主材料よりも赤外線に対する反射率の高いコーティング材又はシート材が形成されている。このような材料の例としては、炭素を主成分とする成形断熱材を主材料とし、炭素を主成分として金属光沢を示す黒鉛シートを表面に形成したものを採用することができる。また、コーティング材の他の例としては、炭化タンタルや炭化ニオブデン等の、高融点金属の炭化物が挙げられる。
【0062】
(蓋体50)
図1及び
図2に示すように、SiC単結晶製造装置1は、第二筒状体40の上面の一部を閉塞するように配置された、蓋体50を備える。蓋体50は、より詳細には、
図1及び
図4に示すように、Z方向に関して加熱容器10の頂部に対向する領域の少なくとも一部に、抜熱用の開口部53を有している。
【0063】
蓋体50は、少なくとも-Z側の面(底面51)が、第二筒状体40の第二面41と同様に、加熱体から放射された赤外線を受光すると、少なくとも一部の赤外線を反射する機能を有する。
【0064】
蓋体50は、第二筒状体40と同一の材料で構成されていても構わない。更に、蓋体50は、第二筒状体40と一体の部材で構成されていても構わない。
【0065】
(熱の流れ)
次に、
図5を参照しながら、SiC単結晶製造装置1における熱の流れを説明する。
【0066】
一次熱源としての発熱源3から発生した熱は、赤外線E0として均熱板5に受光され、均熱板5を加熱する。なお、発熱源3が均熱板5に接触している場合には、均熱板5に対して発熱源3からの熱が直接伝熱されることで加熱される。加熱された均熱板5は、X-Y面方向に熱を伝搬する(熱Ea)。
【0067】
加熱された均熱板5は、二次熱源として機能し、赤外線E1を+Z側に放射して、加熱容器10を-Z側から加熱する。また、均熱板5からの赤外線又は熱伝導によって、第一筒状体30が加熱される。
【0068】
第一筒状体30は、-Z側の領域が加熱されると、二次熱源として機能し、赤外線E2を発する。第一筒状体30から内側に向けて発せられた赤外線E2によって、加熱容器10が側方から加熱される。また、第一筒状体30から外側に向けて発せられた赤外線E3は、第二筒状体40の第二面41に入射される。なお、第二筒状体40に対しては、均熱板5からの赤外線E1の一部や、発熱源3からの赤外線E0の一部が入射される場合もあり得る。
【0069】
上述したように、第二筒状体40の第二面41は、赤外線に対して反射性を示す材料で構成されている。このため、外側に向けて進行し、第二筒状体40の第二面41に入射された赤外線E3は、第二筒状体40の第二面41で反射されて、内側に位置する第一筒状体30側に戻される。また、第二筒状体40が一部加熱されることで、第二筒状体40が二次熱源として赤外線を発するものとしても構わない。
【0070】
第二筒状体40から発せられた赤外線E3は、第一筒状体30の第一面31で受光されると、一部が吸収されることで、第一筒状体30が加熱される。この結果、第一筒状体30は二次熱源として機能し、上記と同様に、内側に向けて赤外線E2を発して、加熱容器10を側方から加熱する。また、一部の赤外線E3は、第一筒状体30の第一面31で再度反射されて、第二筒状体40側に戻される。
【0071】
つまり、離間部60内において、赤外線E3が反射を繰り返しながら+Z方向に伝搬される。この結果、第一筒状体30のZ方向に係る異なる位置で赤外線E3が入射されることになり、第一筒状体30は、Z方向に関して均熱板5から遠ざかる位置においても、赤外線E3によって加熱される。
【0072】
更に、一部の赤外線E3は、蓋体50の底面51に入射されると、蓋体50の底面51で反射されて下方へと伝搬され、加熱容器10を上側から加熱する。
【0073】
以上のように、本実施形態のSiC単結晶製造装置1によれば、一次熱源としての発熱源3については、均熱板5よりも-Z側に配置しながらも、加熱容器10に対して、底面側のみならず、側面側及び上面側からも加熱させることが可能となる。
【0074】
そして、上述したように、加熱容器10に対する上方からの加熱は、反射面から反射された赤外線E3に由来する。最も外側に位置する加熱容器10に対する側方からの加熱は、専ら二次熱源として機能する第一筒状体30由来の赤外線E2に由来する。また、内側に位置する加熱容器10に対する側方からの加熱は、外側に隣接した位置に配置された、加熱された加熱容器10由来の赤外線E2に由来する。このとき、加熱容器10自体が二次熱源として機能する。
【0075】
よって、上記の構成によれば、側面や上面に一次熱源を配置することなく、加熱容器10に対して側方及び上方からの加熱が可能となる。この結果、温度制御のために一次熱源としての発熱源3の出力を調整したとしても、加熱容器10に対する加熱方向別の熱エネルギーの比率を実質的に保持することが可能となる。よって、SiC単結晶製造装置1において、第一筒状体30、第二筒状体40及び蓋体50の材料、形状、寸法等を、予め適切に調整しておくことで、好ましい熱バランスを保ちながら、加熱容器10に対する温度調整を行うことができる。
【0076】
言い換えれば、SiC単結晶製造装置1によれば、各加熱容器10,10,…の位置によらず、加熱の態様をほぼ均一化することのできるように、第一筒状体30、第二筒状体40及び蓋体50の材料、形状、寸法等を、予め適切に調整しておくことで、加熱容器10,10,…の位置に応じた温度ばらつきの発生が抑制される。これにより、性能のばらつきを抑制しながら、SiCインゴットを複数並列的に製造することが可能となる。
【0077】
[検証]
上述したSiC単結晶製造装置1によれば、温度ばらつきが抑制される点について、実施例を参照して詳細に説明を行う。
【0078】
(実施例1)
図6は、実施例1として準備されたSiC単結晶製造装置1のモデルを、
図2にならって図示した平面図である。実施例1のモデルとしては、19個の加熱容器10,10,…を備えたものが採用された。
【0079】
円筒状の第二筒状体40を準備し、その底部に、3相交流の給電機構を有する抵抗加熱手段によって構成される発熱源3を配置した。第二筒状体40としては、表面に黒鉛シート材が施された、炭素を主成分とする成形断熱材が採用された。
【0080】
発熱源3は、抵抗加熱手段としてのヒータが採用され、中心位置を第二筒状体40の底部の中心に合わせ、第二筒状体40の底部の内径よりも小さい径を有する円環状に配列した。
【0081】
発熱源3の上面に、異方性材料であるC/Cコンポジット材からなる均熱板5を設置した。このとき、均熱板5の中心位置が、発熱源3によって形成される円環状の中心位置に合うように、均熱板5の位置を調整した。均熱板5の材料は、室温下で、Z方向の熱伝導率は4W/(m・K)、X-Y面方向の熱伝導率は30W/(m・K)であるものが採用された。
【0082】
均熱板5の上面に、
図6に示すような配置態様で、19個の加熱容器10,10,…を、等間隔に設置した。より詳細には、中心の位置に1個の加熱容器10cを設置し、その外側に同心円状に6個の加熱容器10,10,…を設置し(加熱容器群10b)、更にその外側に同心円状に12個の10,10,……を設置した(加熱容器群10a)。加熱容器10は、有底円筒体からなる原料収容領域13を有し(
図3参照)、底部15から所定の高さにかけて固体原料11SとしてのSiC粉末(太平洋ランダム株式会社製、型番:GMF-H)を収容した。更に、固体原料11Sの上面からZ方向に所定の離間距離を空けた位置に、種結晶取付部16によって直径6インチ(約150mm)の種結晶12を配置した。
【0083】
均熱板5の上面に、円筒形状の第一筒状体30を設置した。なお、第一筒状体30の中心位置が、均熱板5の中心位置に合うように、第一筒状体30の位置を調整した。第一筒状体30は、炭素繊維フェルト製の部材を採用した。
図6に示すように、第一筒状体30の内側面によって、19個の加熱容器10を取り囲むように第一筒状体30を配置した。第一筒状体30の外側面(第一面31)と、第二筒状体40の内側面(第二面41)との離間距離は、50mmと設定した。
【0084】
第二筒状体40の上面を覆うように蓋体50が載置された。ただし、蓋体50は、19個の加熱容器10,10,…の頂部の上方に対応する箇所に抜熱用の開口部53が形成されているものが利用された。
【0085】
蓋体50は、第二筒状体40と同一の素材からなる、円盤形状の部材が採用された。また、蓋体50に設けられた19個の開口部53は、加熱容器10の直径よりも小さい寸法とした。
【0086】
実施例1のモデルを用いて、均熱板5の上面温度を2350℃で一定になるように、発熱源3の出力を制御しながら、120時間にわたって加熱動作を行った。
【0087】
上記の検証の結果、発熱源3の出力は91kW±2kWの範囲内の制御の下で、均熱板5の上面温度が2350℃で維持された。このとき、最も内側に位置する加熱容器10cの上部温度は2113℃であり、加熱容器10cに隣接した外側に位置する6個の加熱容器群10bの上部温度の平均値は2110℃であり、最も外側に位置する12個の加熱容器群10aの上部温度の平均値は2119℃であった。この結果、各群の最高温度と最低温度の差は9℃であり、この値は全体平均の0.5%以下に留められた(全体平均は2116℃)。なお、温度値については小数点1位以下を四捨五入した値を採用した。また、温度差の全体平均温度に対する割合については、小数点第3位以下を四捨五入した値を採用した。以下の実施例等においても同様である。
【0088】
つまり、実施例1のモデルによれば、19個の加熱容器10,10,…に対して、均質な温度条件下で加熱できることが確認された。
【0089】
(実施例2)
第一筒状体30の外側面(第一面31)と、第二筒状体40の内側面(第二面41)との離間距離を25mmと設定した点を除いては、実施例1と共通の条件で加熱動作を行った。
【0090】
実施例2のモデルを用いた検証の結果、実施例1と同様に、発熱源3の出力は91kW±2kWの範囲内の制御の下で、均熱板5の上面温度が2350℃で維持された。
【0091】
このとき、最も内側に位置する加熱容器10cの上部温度は2121℃であり、加熱容器10cに隣接した外側に位置する6個の加熱容器群10bの上部温度の平均値は2122℃であり、最も外側に位置する12個の加熱容器群10aの上部温度の平均値は2133℃であった。この結果、各群の最高温度と最低温度の差は12℃であり、全体平均の0.57%以下に留められた。
【0092】
つまり、実施例2のモデルにおいても、19個の加熱容器10,10,…に対して、均質な温度条件下で加熱できることが確認された。
【0093】
(実施例3)
第一筒状体30の外側面(第一面31)と、第二筒状体40の内側面(第二面41)との離間距離を15mmと設定した点を除いては、実施例1と共通の条件で加熱動作を行った。
【0094】
実施例3のモデルを用いた検証の結果、実施例1と同様に、発熱源3の出力は91kW±2kWの範囲内の制御の下で、均熱板5の上面温度が2350℃で維持された。
【0095】
このとき、最も内側に位置する加熱容器10cの上部温度は2115℃であり、加熱容器10cに隣接した外側に位置する6個の加熱容器群10bの上部温度の平均値は2115℃であり、最も外側に位置する12個の加熱容器群10aの上部温度の平均値は2122℃であった。この結果、各群の最高温度と最低温度の差は7℃であり、全体平均の0.5%以下に留められた。
【0096】
つまり、実施例3のモデルにおいても、19個の加熱容器10,10,…に対して、均質な温度条件下で加熱できることが確認された。
【0097】
(比較例1)
図7A及び
図7Bは、それぞれ、比較例1として準備されたSiC単結晶製造装置1のモデルを、
図2及び
図1にならって図示した図面である。
【0098】
比較例1のモデルは、実施例1のモデルとは異なり、第一筒状体30を備えていない。一方で、第二筒状体40の内部に環状の第二発熱源61が搭載されている。第二発熱源61の表面は、加熱容器10,10,…側に露出されるように配置された。他の点は、実施例1のモデルと共通とされた。
【0099】
比較例1のモデルを用いて、均熱板5の上面温度を2350℃、第二筒状体40の内側面の温度(側面温度)を2320℃で一定になるように、発熱源3及び第二発熱源61の出力の制御を開始した。初期時点において発熱源3の出力を87kW、第二発熱源61の出力を25kWと設定した。しかし、70時間以上経過した時点で、温度が維持された状態のまま、発熱源3の出力が80kWに低下した一方、第二発熱源61の出力が32kWに上昇した。以下、目標温度を保持しながら、トータルで120時間の加熱動作を行った。
【0100】
結果として、加熱容器10,10,…の上部温度が、実施例1と比較して、平均で約20℃も上昇したことが確認された。この結果から、設定した温度条件を共通としても、120時間という長時間にわたる操炉を行うことで、発熱源同士(発熱源3と第二発熱源61)の相互干渉により温度分布が変化したものと推測される。
【0101】
(比較例2)
図8A及び
図8Bは、それぞれ、比較例2として準備されたSiC単結晶製造装置1のモデルを、
図2及び
図1にならって図示した図面である。
【0102】
比較例2のモデルは、実施例1のモデルから、第一筒状体30を外したものに対応し、他は実施例1のモデルと共通とされた。
【0103】
比較例2のモデルを用いて、均熱板5の上面温度を2350℃で一定になるように、発熱源3の出力を制御しながら、120時間にわたって加熱動作を行った。
【0104】
比較例2のモデルを用いた検証の結果、発熱源3の出力は98kW±2kWの範囲内の制御の下で、均熱板5の上面温度が2350℃で維持された。
【0105】
このとき、最も内側に位置する加熱容器10cの上部温度は2159℃であり、加熱容器10cに隣接した外側に位置する6個の加熱容器群10bの上部温度の平均値は2164℃であり、最も外側に位置する12個の加熱容器群10aの上部温度の平均値は2192℃であった。この結果、各群の最高温度と最低温度の差は33℃であり、全体平均の1.5%以上もの差が生じた。なお、この33℃という値は、各実施例1~3と比べて2倍以上の値である。
【0106】
つまり、比較例2のモデルによれば、各実施例1~3と比べて、19個の加熱容器10,10,…に対する温度条件にばらつきが生じていることが確認された。
【0107】
(参考例1)
図9A及び
図9Bは、それぞれ、参考例1として準備されたSiC単結晶製造装置1のモデルを、
図2及び
図1にならって図示した図面である。
【0108】
参考例1のモデルは、実施例1のモデルから、第一筒状体30を外した上で、第一筒状体30と同一の材料からなる第三筒状体63によって、各加熱容器10,10,…のそれぞれの外側面を覆ったものに対応する。他は実施例1のモデルと共通とされた。
【0109】
参考例1のモデルを用いて、均熱板5の上面温度を2350℃で一定になるように、発熱源3の出力を制御しながら、120時間にわたって加熱動作を行った。
【0110】
参考例1のモデルを用いた検証の結果、発熱源3の出力は95kW±2kWの範囲内の制御の下で、均熱板5の上面温度が2350℃で維持された。
【0111】
このとき、最も内側に位置する加熱容器10cの上部温度は2107℃であり、加熱容器10cに隣接した外側に位置する6個の加熱容器群10bの上部温度の平均値は2112℃であり、最も外側に位置する12個の加熱容器群10aの上部温度の平均値は2152℃であった。この結果、各群の最高温度と最低温度の差は45℃であり、全体平均の約2.1%もの差が生じた。なお、この45℃という値は、各実施例1~3と比べて4倍以上もの値である。
【0112】
つまり、参考例1のモデルにおいても、各実施例1~3と比べて、19個の加熱容器10,10,…に対する温度条件にばらつきが生じていることが確認された。表1は、上述した検証の結果をまとめたものである。
【0113】
【0114】
なお、参考例1と実施例1~3とを対比すると、参考例1のモデルでは、各加熱容器10,10,…のそれぞれが、炭素繊維フェルト製の部材からなる第三筒状体63で覆われているため、隣接する加熱容器10,10,…間での輻射熱の伝搬が抑制されたものと想定される。一方、実施例1~3では、二次熱源として機能する第一筒状体30から輻射熱由来の赤外線E2(
図5参照)が、最外周の加熱容器群10aに照射されて最外周の加熱容器群10aを側方から加熱しつつ、加熱された加熱容器群10a自身が二次熱源として機能して、内側に配置された加熱容器群10bに対して輻射熱由来の赤外線を照射することで、加熱容器群10bに対しても側方から加熱されたものと推定される。最も中心に位置する加熱容器10cについても、同様に、加熱された加熱容器群10b自身が二次熱源として機能して、内側に配置された加熱容器10cに対して輻射熱由来の赤外線を照射することで、側方から加熱されたものと推定される。
【0115】
図10Aは、温度分布を均一にした状態で6インチサイズの単結晶インゴットを成長させた場合の、3D計測の断面図のトレース図面である。また、
図10Bは、X-Y面方向について温度分布を意図的に不均一にした状態で6インチサイズの単結晶インゴットを成長させた場合の、3D計測の断面図のトレース図面である。なお、詳細には、
図10Aの場合は、位置に応じた温度ばらつきの程度が平均温度の1%以下に抑制されており、
図10Bの場合は、温度ばらつきの程度が平均温度の5%であった。
図10Bは、
図10Aと比べて、単結晶インゴットの形状が歪んでいる(図面上左右に非対称である)ことが確認される。このことより、成長時の加熱容器10の温度条件が場所に応じて異なることで、単結晶インゴットの形状に影響が生じ、得られる性能にも影響が及ぶことが示唆される。
【0116】
[別実施形態]
以下に、本発明に係るSiC単結晶製造装置の別実施形態について説明する。
【0117】
〈1〉
図11は、SiC単結晶製造装置1の別実施形態の構成を、
図1にならって図示した断面図である。
図11に示すSiC単結晶製造装置1は、上述した実施形態とは異なり、単一の加熱容器10を備えている。
【0118】
図11に示すような、単一の加熱容器10を備えたSiC単結晶製造装置1であっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0119】
すなわち、
図11に示すSiC単結晶製造装置1によっても、一次熱源としての発熱源3については、均熱板5よりも-Z側に配置しながらも、加熱容器10に対して、底面側のみならず、側面側及び上面側からも加熱させることが可能となる。
【0120】
そして、
図5を参照して上述したように、加熱容器10に対する上方からの加熱は、反射面から反射された赤外線E3に由来し、側方からの加熱は、専ら二次熱源として機能する第一筒状体30由来の赤外線E2に由来する。よって、加熱容器10のサイズが大型化した場合であっても、側面や上面に一次熱源を配置することなく、加熱容器10に対して側方及び上方からの加熱が可能となる。
【0121】
この結果、温度制御のために一次熱源としての発熱源3の出力を調整したとしても、加熱容器10に対する加熱方向別の熱エネルギーの比率を実質的に保持することが可能となる。よって、SiC単結晶製造装置1において、第一筒状体30、第二筒状体40及び蓋体50の材料、形状、寸法等を、予め適切に調整しておくことで、好ましい熱バランスを保ちながら、加熱容器10に対する温度調整を行うことができる。これにより、性能のばらつきを抑制しながら、比較的大型のSiCインゴットを製造することが可能となる。
【0122】
〈2〉 本発明において、一次熱源としての発熱源3は、均熱板5よりも-Z側に配置されていればよく、その個数は限定されない。ただし、複数の発熱源3,3,…が存在することで、加熱容器10の底面側であっても、発熱源3,3,…相互間の熱的なクロストークを生じさせる可能性もあることから、発熱源3は単一体であるのがより好ましい。
【0123】
なお、側面や上面に別途の発熱源を配置する場合と比べて、均熱板5よりも-Z側に複数の発熱源3,3,…を配置した場合に生じる熱的なクロストークの影響は著しく小さい。より詳細には、均熱板5よりも-Z側に複数の発熱源3,3,…を配置したとしても、加熱容器10に対する加熱方向別の熱エネルギーの比率に与える影響は小さいものである。
【符号の説明】
【0124】
1 :SiC単結晶製造装置
3 :発熱源
5 :均熱板
5a :均熱板の外縁
10 :加熱容器
10a :加熱容器群
10b :加熱容器群
10c :加熱容器
11G :気体原料
11S :固体原料
12 :種結晶
13 :原料収容領域
14 :原料収容領域の側部
15 :原料収容領域の底部
16 :種結晶取付部
19 :加熱容器の蓋部
30 :第一筒状体
31 :(第一筒状体の)第一面
40 :第二筒状体
41 :(第二筒状体の)第二面
50 :蓋体
51 :蓋体の底面
53 :開口部
60 :離間部
61 :第二発熱源
63 :第三筒状体
E0,E1,E2,E3 :赤外線
Ea :熱