(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014355
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/182 20200101AFI20250123BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20250123BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20250123BHJP
F16H 59/50 20060101ALI20250123BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250123BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20250123BHJP
B60K 28/10 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B60W30/182
F16H61/02
F16H63/50
F16H59/50
B60W60/00
B60W40/02
B60K28/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116849
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 京平
【テーマコード(参考)】
3D037
3D241
3J552
【Fターム(参考)】
3D037FA13
3D037FA19
3D037FA23
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3J552MA01
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3J552VC02W
(57)【要約】
【課題】動力伝達機構を保護しつつ、車両の性能を適切に発揮させることが可能な車両の制御装置を提供する。
【解決手段】駆動力源と、駆動力源と駆動輪との間で駆動力源の動力を伝達する動力伝達機構とを備え、運転者による運転操作を行うことなく予め定められた走行経路を走行する自動運転走行を選択的に設定可能な車両の制御装置であって、駆動力源を制御するコントローラを備え、コントローラは、動力伝達機構への入力トルクが予め定められた第1制限トルクを超えることが予測された場合に、入力トルクが第1制限トルクより小さくなるように駆動力源の出力を制御する出力制限制御を行う(ステップS2)ように構成され、自動運転走行が設定された場合(ステップS1でYES)には、走行経路から予測される車両の走行状態に基づいて算出される第2制限トルクに基づいて出力制限制御を実行する(ステップS3)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と、
前記駆動力源と駆動輪との間で前記駆動力源の動力を伝達する動力伝達機構とを備え、
運転者による運転操作を行うことなく予め定められた走行経路を走行する自動運転走行を選択的に設定可能な車両の制御装置であって、
前記駆動力源を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記動力伝達機構への入力トルクが予め定められた第1制限トルクを超えることが予測された場合に、前記入力トルクが前記第1制限トルクより小さくなるように前記駆動力源の出力を制御する出力制限制御を行うように構成され、
前記自動運転走行が設定された場合には、前記走行経路から予測される前記車両の走行状態に基づいて算出される第2制限トルクに基づいて前記出力制限制御を実行する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転走行を選択的に設定することが可能な車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動変速機のパワーオンダウンシフトの際に、エンジンが過回転となることによる、部品の耐久性の悪化などを抑制することを目的としたハイブリッド車両の制御装置が開示されている。特許文献1のハイブリッド車両は、エンジンおよび第2回転機を含む走行用の動力源と、第2回転機との間で電力のやり取りが可能なバッテリと、動力源と駆動輪との間で複数の変速段を設定可能な自動変速機と、を備えている。特許文献1の制御装置では、自動変速機の入力回転速度が目標よりも速く上昇してしまう場合に、第2回転機の指令値よりも第2回転機のトルクを低減することによって自動変速機への入力トルクを低減し、自動変速機への入力回転速度が目標値となるように制御する。一方で、バッテリへの充電が制限されていることなどにより、第2回転機のトルクを十分に低減することができない場合には、エンジン回転速度を上昇させることによって低減できなかった分のトルクに応じたパワーを消費する。このときに、特許文献1の装置では、エンジン回転速度が所定の回転速度を超えることが予測された場合に、予めエンジンパワー(エンジントルク)を所定パワー(所定トルク)以下となるように制限する。特許文献1では、このような構成により、エンジンを過回転させることなく、パワーオンダウンシフトを実行させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、エンジンパワーを制限するときの基準となる所定パワーを、自動変速機のパワーオンダウンシフト時に許容される上限のエンジンパワーであるとしている。このようなエンジンパワーの上限値などは、自動変速機を構成するギヤやクラッチ等を保護することができるように定められている。特に、手動運転においては、運転者によってどのような運転操作が行われるか予測することが困難である。そのため、ギヤやクラッチなどのハードへの入力トルクが過大になって耐久性が低下することなどを確実に防ぐために、そのハードに入力されるトルクの上限値あるいは制限値が比較的低く設定されている。言い換えれば、常に最も悪い作用をハードに与える運転操作が行われた場合を想定して、ハードへの入力トルクの制限値が設定されている。そのため、運転者によって急激な運転操作が行われた場合であっても、ギヤやクラッチを確実に保護することができる。一方で、実際にはその制限値より大きなトルクがハードに入力されたとしてもハードの保護が可能であるにもかかわらず、動力源の出力が制限されてしまう可能性がある。すなわち、そのようにハードへの入力トルクの上限値が設定されていることにより、動力源の出力が過剰に抑制されてしまい、運転者の意図した加速度や速度が得られない可能性がある。
【0005】
また、自動運転走行が可能な車両では、自動運転走行中には予め定められた経路に沿って走行するため、手動運転走行と比較して、上述したような要求駆動力の急激な増大などが生じる可能性が低い。仮に、そのような要求駆動力の急激な増大が生じるとしても、制御装置等によってハード上の制約を考慮して動力源の出力の大きさを制御することが可能である。しかしながら、上述したように、動力源の出力が設定されていることにより、結果として動力源の出力が過剰に制限されることになってしまう。そのため、車両の性能を十分に活かしきれないなどの不都合が生じる可能性があった。
【0006】
本発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、動力伝達機構を保護しつつ、車両の性能を適切に発揮させることが可能な車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、駆動力源と、前記駆動力源と駆動輪との間で前記駆動力源の動力を伝達する動力伝達機構とを備え、運転者による運転操作を行うことなく予め定められた走行経路を走行する自動運転走行を選択的に設定可能な車両の制御装置であって、前記駆動力源を制御するコントローラを備え、前記コントローラは、前記動力伝達機構への入力トルクが予め定められた第1制限トルクを超えることが予測された場合に、前記入力トルクが前記第1制限トルクより小さくなるように前記駆動力源の出力を制御する出力制限制御を行うように構成され、前記自動運転走行が設定された場合には、前記走行経路から予測される前記車両の走行状態に基づいて算出される第2制限トルクに基づいて前記出力制限制御を実行することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両の制御装置によれば、動力伝達機構への入力トルクが予め定められた第1制限トルクを超えることが予測された場合に、その第1制限トルクを超えないように駆動力源の出力を制御する出力制限制御が実行される。そのため、動力伝達機構を構成するギヤやクラッチなどの耐久性の低下を抑制することができる。また、予め定められた走行経路に基づいて車両を走行させる自動運転走行が設定された場合には、その走行経路から予測される車両の走行状態に基づいて算出される第2制限トルクに基づいてその出力制限制御が実行される。つまり、自動運転走行が設定されている場合には、走行経路や車両の状態に応じて動力伝達機構への入力トルクの制限値を変更することができる。例えば、入力トルクの制限値を緩和したり、一時的にそのトルクの制限値を実質的になくしたりすることができる。したがって、駆動力源に対する出力の制限を緩和することができるので、車両の性能を有効に活用することができ、ひいては、車両の燃費を向上させたり、車両の応答性を向上させたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態における制御装置を搭載した車両の一例を示す図である。
【
図2】コントローラに入力されるデータの一例を説明するための説明図である。
【
図3】本発明の実施形態における制御装置によって実行される制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を具体化した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0011】
図1に、本発明の実施形態における制御装置を搭載した車両Veの構成の一例を示してある。
図1に示す車両Veは、運転者による運転操作によって車両を走行させる手動運転走行と、その運転操作を行うことなく車両を走行させる自動運転走行とが可能な車両である。自動運転走行では、車両の外部から取得した周辺情報に基づいて走行環境の認識や周辺状況の監視などを行うことにより、搭乗者が運転操作することなく駆動力や制動力、操舵量などが制御される。例えば、車両Veは、推定あるいは実測された車両Veの位置に関するデータをトレースし、その車両Veの位置に関するデータや地図データなどに基づいて予め定められた目標軌道に沿って車両Veが走行することができるように、駆動力や制動力、操舵量などの制御量を演算して車両Veを制御することにより自動運転走行が実行される。
【0012】
車両Veは、走行のための駆動力を出力する駆動力源として、エンジン(Eng)1およびモータジェネレータ(MG)2を有し、その駆動力源のトルクを駆動輪に伝達するための動力伝達機構を備えたハイブリッド車両である。
図1に示すように、車両Veは、動力伝達機構3として、K0クラッチ4、ロックアップクラッチ5、トルクコンバータ6および変速機(Gear Train)7を備えており、また、これらの機構を収容するケース8を備えている。また、車両Veは、エンジン1やモータ、動力伝達機構3に対して、必要に応じてオイルを供給するための、電動式オイルポンプ(EOP)9、機械式オイルポンプ10、および、バルブボディ11(V/B)を備えている。さらに、車両Veは、検出部12およびコントローラ(ECU)13を備えている。なお、モータ2、K0クラッチ4、および、トルクコンバータ6を総称してフロントモジュールと称することがある。
【0013】
エンジン1は、従来知られたガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどと同様に構成することができる。エンジン1は、例えば、可変動弁システムや電子制御スロットルなどの、出力トルク可変機構を備えている。エンジン1は、供給される燃料と空気との混合気を燃焼することにより駆動トルクを出力し、また、その混合気の燃焼を停止することにより、フリクショントルクやポンピングロスなどに応じた制動トルクを出力することができるように構成されている。エンジン1は、運転状態や走行状態に応じて燃料噴射量や点火タイミング、スロットル開度等が制御され、適宜、出力トルクが増減されるように構成されている。なお、エンジン1は、スタータモータ、クラッチスタート、あるいは、モータ2などによってクランキングされる。
【0014】
エンジン1の出力軸1aには、摩擦式の係合機構であって、油圧によって係合もしくは解放されるK0クラッチ4が設けられている。K0クラッチ4は、エンジン1と駆動輪との間の動力伝達経路において、エンジン1の出力軸1aとモータ2の連結軸2aとの間に設けられたクラッチである。K0クラッチ4が係合されることにより、エンジン1が動力伝達機構3にトルクを伝達可能な状態になる。反対に、K0クラッチ4が解放されることにより、エンジン1が動力伝達機構3から切り離され、トルクを伝達できない状態になる。例えば、その状態でモータ2がトルクを出力することにより、車両Veをモータ2のトルクのみで走行させる、いわゆるEV走行が可能である。また、K0クラッチ4をスリップ制御することにより、エンジン1を始動するときにエンジン回転数を上昇させる(クランキングする)ことが可能に構成されている。なお、K0クラッチ4は、湿式タイプもしくは乾式タイプのいずれであってもよい。
【0015】
モータ2ジェネレータ(以下、モータ2と記す)2は、例えば、磁極を有する固定子2bの内部に、永久磁石が取り付けられた回転子2cを配置した三相交流型の同期モータである。モータ2は、図示しないバッテリに電気的に連結され、バッテリから供給された電力に応じて車両Veを走行させるための駆動トルクを出力する。また、モータ2は、連れ回された場合には、発電してバッテリを充電することが可能に構成されている。
【0016】
モータ2の連結軸2aのK0クラッチ4と反対側には、トルクコンバータ6が連結されている。このトルクコンバータ6は、従来のトルクコンバータと同様に構成されている。すなわち、トルクコンバータ6は、モータ2の連結軸2aに連結されたポンプインペラ6aと、ポンプインペラ6aに対向して配置されたタービンランナ6bと、ポンプインペラ6aとタービンランナ6bとの間に配置され、かつ、ケース8に連結されたステータ6cとによって構成されている。
【0017】
また、トルクコンバータ6には、入力されたトルクをトルクコンバータ6によって増幅することなく変速機7に伝達するためのロックアップクラッチ5が設けられている。ロックアップクラッチ5は、モータ2の連結軸2aとタービンランナ6bとを係合することができるように構成されている。このロックアップクラッチ5は、従来のロックアップクラッチ5と同様に構成することができる。すなわち、ロックアップクラッチ5は、スリップ制御によってモータ2の連結軸2a(もしくはエンジン1の出力軸1a)とタービンランナ6bとの回転数差を適宜変更することができるように構成されている。
【0018】
また、トルクコンバータ6のポンプインペラ6aには、機械式オイルポンプ10が連結されている。機械式オイルポンプ10は、エンジン1あるいはモータ2によって駆動させられることにより、動力伝達機構3において用いられるオイルを吐出する。
【0019】
トルクコンバータ6の出力軸6dには、変速機7が連結されている。変速機7は、変速比を適宜に変更できる装置であって、図示しないギヤの噛み合いやクラッチ7aなどの係合および解放等を組み合わせることによって変速比または変速段を変更する。そのギヤやクラッチ7aなどは、油圧を制御することによって選択的に係合されたり、あるいは、クラッチ7aが摩擦クラッチである場合には伝達トルク容量を連続的に変化させたりすることが可能である。変速機7から出力されたトルクは、変速機7の出力軸からプロペラシャフト、ディファレンシャルギヤおよびドライブシャフト(いずれも図示なし)などを介して駆動輪に伝達される。なお、変速機7は、無段式あるいは有段式の自動変速機であってもよいし、あるいは、手動変速機であってもよい。
【0020】
電動式オイルポンプ9は、図示しないポンプ用のモータから出力されたトルクによって駆動されてオイルを吐出する。オイルポンプは、例えば、ケース8の下部等に配置された、図示しないオイルパンに滞留しているオイルを吸い上げて、動力伝達機構3などにオイルを供給する。
【0021】
バルブボディ11は、油圧制御装置であって、機械式オイルポンプ10や電動式オイルポンプ9が吐出したオイルが供給される。バルブボディ11は、電動式オイルポンプ9や機械式オイルポンプ10から吐出されたときの油圧を元にして調圧し、上述したK0クラッチ4やロックアップクラッチ5、変速機7などの係合圧を供給する。また、バルブボディ11からエンジン1やモータ2、動力伝達機構3などの冷却や潤滑のためのオイルが供給される。
【0022】
検出部12は、車両Veを制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するための機器あるいは装置であり、例えば、電源部、マイクロコンピュータ、センサ、および、入出力インターフェース等を含んでいる。検出部12は、コントローラ13と電気的に接続されており、上記のような各種センサや機器・装置等の検出値または算出値に応じた電気信号等を検出データとしてコントローラ13に出力するように構成されている。図示は省略するが、検出部12に含まれるセンサの一例としては、エンジン回転数センサ、タービン回転数センサ、モータ回転数センサ、エンジントルクセンサおよびアクセル開度センサなどである。
【0023】
コントローラ13は、例えば、マイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置である。コントローラ13には、上記の検出部12で検出または算出された各種データ等が入力される。コントローラ13は、その入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。そして、コントローラ13は、その演算結果を制御指令信号として出力し、上記のように車両Veを制御するように構成されている。また、コントローラ13は、自動運転走行を実行するための走行経路情報などを取得するように構成されている。走行経路情報には、車両Veの位置情報、地図情報、渋滞情報を含む交通情報などが含まれている。コントローラ13は、その情報に基づいて、エンジン1やモータ2の出力、変速機7における変速比などを制御する。
【0024】
なお、検出部12、コントローラ13および車両Veの走行のための各アクチュエータやセンサなどは、例えば、CANやワイヤーハーネス等によって互いに電気的に接続されており、取得した検出値または算出値に応じた電気信号を検出データとしてコントローラ13に出力する。また、
図1では一つのコントローラ13が設けられた例を示しているが、コントローラ13は、制御する装置や機器毎に、あるいは、制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
【0025】
図2には、検出部12などからコントローラ13に入力されるデータの一例を
図2に示してある。具体的には、車両Veのデータとして、車速、アクセル開度、エンジン1の出力軸1aの回転数(エンジン回転数)、モータ2の出力軸の回転数(モータ回転数)、エンジン1の出力トルク、モータ2の出力トルク、タービンランナ6bの回転数(すなわち、変速機7の入力回転数)、変速機7の出力回転数、変速機7の変速比(シフトレンジ)などのデータが、コントローラ13に入力される。これらの値は、検出部12よって検出されたり、その検出値に基づいて算出されたりすることによって求められる。コントローラ13は、その入力されたデータに基づいて、エンジン1やモータ2の出力、変速機7を構成するギヤやクラッチ7aなどの係合もしくは解放、バルブボディ11からオイルの必要な部位に供給する油量や油圧などを制御する。
【0026】
このように構成されたコントローラ13によって種々の制御が実行される。停止しているエンジン1をクランキングして始動させるエンジン1の始動制御などがその一例である。エンジン1の始動制御には、従来知られているような、エンジン1の圧縮行程停止気筒を利用してエンジン1の自立回転でエンジン回転数を上昇させるTDC始動制御や、K0クラッチ4を係合してモータ2によってエンジン1の回転数を上昇させるPUSH始動制御などが用いられて良い。このように、コントローラ13は、エンジン1、モータ2、K0クラッチ4を協調制御することによって車両Veの始動制御、あるいは、停止制御を行うように構成されている。なお、さらにロックアップクラッチ5や変速機7と協調制御するように構成されていてもよい。
【0027】
このような制御以外にも、コントローラ13による制御には、油圧を制御してロックアップクラッチ5をスリップ制御するロックアップ制御、係合圧を制御することにより変速機7を構成する摩擦クラッチをスリップさせて係合もしくは解放するスリップ制御、予め記憶されている変速マップに基づき変速機7における変速を実行する変速判断制御、エンジン1のスロットルバルブを制御するスロットル制御、車両Veの発進時における駆動力源や動力伝達機構3の制御である発進時制御、K0クラッチ4の係合状態や伝達トルク容量を制御するK0クラッチ制御、モータ2の出力などを制御するモータ制御、充電残量や温度などに基づいてバッテリを制御するバッテリ制御などが含まれる。コントローラ13は、必要や要求に応じてこれらの制御を実行することにより車両Veの走行を適切に制御する。
【0028】
また、コントローラ13によって実行される制御には、車両Veの走行中に、変速機7におけるギヤやクラッチ7aなどのハードの耐久性が低下することを抑制するように、変速機7に入力されるトルクを制限するために、駆動力源の出力を制御する出力制限制御が含まれる。運転者の運転操作によって車両Veが走行する手動運転走行においては、車両Veの走行経路や、路面状態、あるいは、運転者の操作などを予測することは困難である。そのため、最もハードに負荷の掛かる操作が行われた場合を想定して、変速機7に入力されるトルクの制限値あるいは上限値が設定される。例えば、現在の車両Veの走行状態から最も急激にアクセル操作された場合を想定し、そのような場合であっても、変速機7を構成する部品を確実に保護することが可能なトルクの制限値あるいは上限値である第1制限トルクが予め定められている。出力制限制御では、その第1制限トルクに基づいて駆動力源の出力トルクが制御される。そのため、運転者によって急激なアクセル操作が行われたとしても、変速機7や動力伝達機構3における耐久性の低下を抑制することができる。
【0029】
一方で、そのように駆動力源の出力トルクが制限されることにより、運転者の意図した加速度や車速が得られない場合がある。また、車両Veが自動運転によって走行する場合には、予め走行経路が定められており、基本的にはその経路に沿って車両Veが走行する。そのため、予定走行経路に基づいて走行中の車両Veの挙動などを予測することができ、また、上述したような急激な要求加速度の増大も発生しにくい。もし仮に、そのような事態が生じたとしても、ハード上の制約を認識した上で駆動力源の出力を制御することが可能である。したがって、自動運転走行時に、手動運転走行時と同様に変速機7への入力トルクが制限されている場合には、駆動力源の出力が過剰に制限されてしまい、車両Veの性能を有効に活用することができない可能性があった。
【0030】
そこで本発明の実施形態における制御装置では、変速機7への入力トルクの制限値を、車両Veの走行モードに応じて変更することにより、車両Veの性能を活かして走行することができるように構成されている。
図3には、そのような制御の一例を説明するためのフローチャートを示してある。
【0031】
図3に示すフローチャートでは、まず、ステップS1において、自動運転走行が選択されているか否かが判定される。自動運転走行は、例えば、車両Veに設けられている専用のスイッチを押すことや、あるいは、外部のオペレータなどによる遠隔操作によって開始される。車両Veにおいて自動運転走行が選択されていることにより、ステップS1においてYESと判定された場合には、処理がステップS2に進む。
【0032】
ステップS2では、変速機7に入力されるトルクの制限値として第2制限トルクが設定される。処理がステップS2に進んだ場合には、車両Veが自動運転走行であることにより、上述したように、予め走行経路などが設定されており、その走行経路に関する情報に基づいて車両Veの挙動などを予測することができる。そのため、エンジン1やモータ2に対して、ハード上の制約を逸脱するような要求が生じにくい。そこで、ステップS2では、予め設定されている変速機7の第1制限トルクを緩和した第2制限トルクを設定する。
【0033】
具体的には、自動運転走行では、設定された予定走行経路に基づき、走行パターンが設定されている。すなわち、予定走行経路に関する情報、例えば、車両Veがこれから走行する予定の経路における、交差点や道路の湾曲度、渋滞や路面の傾斜の有無、障害物や他車両の存在などの情報に基づき、車両Veの走行制御が実行される。そのため、自動運転走行時には、車両Veの現在位置と予定走行経路とに基づき、加速や制動のタイミング、あるいは、変速機7における変速比やエンジン回転数などを予測することができる。第2制限トルクは、そのように予測される車両Veの走行状態に基づいて、エンジン回転数の変化量や出力回転数、あるいは、車速などを考慮した上で、適宜算出されることにより設定される。つまり、第2制限トルクは、車両Veの走行状態に応じて、適宜、駆動力源などの性能を十分に引き出すとともに、変速機7を保護することが可能な値に設定される。あるいは、一時的に変速機7への入力トルクの制限が実質的に解除されるようなトルクに設定される。このように、変速機7への入力トルクに対して、第1制限トルクから緩和された第2制限トルクが設定されたことにより、このフローチャートを一旦終了する。
【0034】
反対に、車両Veにおいて手動運転走行が選択されていることにより、ステップS1においてNOと判定された場合には、処理がステップS3に進む。ステップS3では、変速機7への入力トルクの制限値である第1制限トルクが維持される。第1制限トルクは、動力伝達機構3などに最も負荷の掛かる運転操作が行われた場合であっても、変速機7のギヤやクラッチ7aを保護することが可能な入力トルクである。ステップS3に進んだ場合には、運転者による手動運転によって車両Veが走行しているため、走行経路や、車両Veに対してどのような運転操作が行われるかを予測することが困難である。そのため、変速機の入力トルクに対して第1制限トルクが設定され、このフローチャートを一旦終了する。
【0035】
本発明の実施形態における制御装置によれば、変速機7のギヤやクラッチ7aなどのハードを保護するために、変速機7に入力されるトルクの制限値である第1制限トルクが設定されている。車両Veの走行中には、その第1制限トルクを超えないようにエンジン1やモータ2の出力を制御する、出力制限制御が実行される。そのため、変速機7を構成するギヤやクラッチ7aなどの耐久性の低下を抑制することができる。また、車両Veにおいて自動運転走行が設定された場合には、変速機7への入力トルクの制限値が、予定の走行経路から予測される車両Veの走行状態に基づいて算出される第2制限トルクに設定される。そして、その第2制限トルクに基づいて上述した出力制限制御が実行される。そのため、例えば、変速機7への入力トルクの制限値を緩和したり、一時的にその入力トルクの制限値を実質的になくすように設定したりすることができる。したがって、駆動力源に対する出力の制限を緩和することができるので、車両Veの性能を引き出すことができ、ひいては、車両Veの燃費を向上させたり、車両Veの応答性を向上させたりすることができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した例に限定されないのであって、本発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。例えば、サーキット走行など、特定の環境下で車両Veを走行させる場合には、手動運転であっても変速機7への入力トルクの制限を第2制限トルクに設定するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン
2 モータ
3 動力伝達機構
4 K0クラッチ
5 ロックアップクラッチ
6 トルクコンバータ
7 変速機
8 ケース
9 電動式オイルポンプ
10 機械式オイルポンプ
11 バルブボディ
12 検出部
13 コントローラ
Ve 車両