(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025143766
(43)【公開日】2025-10-02
(54)【発明の名称】半導体デバイス、通信装置、撮像システムおよびレーダー装置
(51)【国際特許分類】
H03B 7/08 20060101AFI20250925BHJP
H01Q 3/36 20060101ALI20250925BHJP
H01Q 23/00 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
H03B7/08
H01Q3/36
H01Q23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】42
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043186
(22)【出願日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村尾 竜耶
(72)【発明者】
【氏名】小山 泰史
(72)【発明者】
【氏名】北澤 佑記
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021AB06
5J021DB03
5J021FA03
5J021FA06
5J021FA13
5J021FA24
5J021GA02
5J021JA08
(57)【要約】
【課題】RTD発振器に注入同期を行いつつ、RTD発振器の発振状態を変化させた場合であっても、RTD発振器を安定した発振状態にすることができる技術を提供する。
【解決手段】RTD発振器と、前記RTD発振器を同期する基準発振器と、前記RTD発振器の発振信号を調整する発振調整部と、前記基準発振器と前記発振調整部とを制御する制御部と、を有し、前記発振調整部は、前記制御部からの信号により、前記基準発振器の動作に応じて前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする半導体デバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RTD発振器と、前記RTD発振器を同期させる基準発振器と、前記RTD発振器の発振信号を調整する発振調整部と、前記基準発振器と前記発振調整部とを制御する制御部と、を有し、前記制御部からの制御信号により、前記基準発振器の動作に応じて前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする半導体デバイス。
【請求項2】
前記制御部は、前記基準発振器の動作に応じて、前記発振調整部への前記制御信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項3】
前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号を用いて、前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項4】
前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号を用い、前記基準発振器の出力に対する伝送遅延または位相変化をもとに前記発振調整部を制御することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
バイアスを印加するバイアス部をさらに備え、前記発振調整部は、前記バイアス部および前記RTD発振器に電気的に接続され、前記RTD発振器のバイアスを調整することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項6】
前記発振調整部は、前記RTD発振器を同期させる同期信号に対して前記RTD発振器から反射する反射信号を確認することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項7】
前記発振調整部は、前記反射信号から前記RTD発振器の基準となるバイアス電位を決定することを特徴とする請求項6に記載の半導体デバイス。
【請求項8】
前記制御部は、前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応する制御信号を前記発振調整部に入力することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項9】
前記制御部は、前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応しない制御信号を前記発振調整部に入力し、前記発振調整部は、前記同期信号に応じた制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項10】
注入同期部をさらに有し、前記注入同期部は、前記基準発振器から出力された第1の同期信号をもとに、前記RTD発振器を同期させる第2の同期信号を前記RTD発振器に注入することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項11】
前記制御部は、前記注入同期部の制御を行い、前記注入同期部の動作に応じて、前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項12】
前記注入同期部は、前記第1の同期信号の遅延時間または位相または強度を調整し、調整後の同期信号である前記第2の同期信号を前記RTD発振器に注入することを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項13】
前記注入同期部は、前記RTD発振器に出力する信号の遅延時間または位相または強度に対応した信号を前記発振調整部に出力することを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項14】
前記制御部は、前記基準発振器または前記注入同期部から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応しない制御信号を前記発振調整部へ与え、前記発振調整部は、当該同期信号に応じた制御を行うことを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
前記発振調整部は、前記RTD発振器に電気的に接続され、前記RTD発振器のインピーダンスを調整するインピーダンス調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項16】
前記インピーダンス調整手段は、バラクタダイオードを含む回路を備えることを特徴とする請求項15に記載の半導体デバイス。
【請求項17】
前記RTD発振器は、1つ以上のRTDと共振用の導体とを電気的に接続した構成を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項18】
前記RTD発振器は、1つ以上のアンテナに電気的に接続され、前記アンテナは前記発振信号からなる電磁波を放射または検出することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項19】
前記RTD発振器はアクティブアンテナであり、前記共振用の導体はアンテナを兼ねることを特徴とする請求項17に記載の半導体デバイス。
【請求項20】
前記RTD発振器の発振信号の変調または復調を行う変復調部をさらに有し、前記変復調部は、前記RTD発振器と電気的に接続することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項21】
前記変復調部に入力するベースバンド信号の強度または帯域幅に応じて、前記発振調整部を調整することを特徴とする請求項20に記載の半導体デバイス。
【請求項22】
前記変復調部に入力するベースバンド信号の帯域幅が広がるほど、前記発振調整部は前記RTD発振器の自励発振周波数と基準信号に含まれる周波数成分を近づけるように調整することを特徴とする請求項21に記載の半導体デバイス。
【請求項23】
前記発振調整部は、前記バイアスを調整することで、前記RTD発振器で共振する信号の位相を変えることを特徴とする請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項24】
前記発振調整部は、前記RTD発振器のインピーダンスを調整することで、前記RTD発振器で共振する信号の位相または強度を変えることを特徴とする請求項15に記載の半導体デバイス。
【請求項25】
前記RTD発振器は、前記基準発振器の基準周波数のハーモニック成分に同期して発振するサブハーモニック周波数が注入同期されることを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項26】
前記基準発振器により周波数を変化させると同時に、前記発振調整部は、前記基準発振器から出力される周波数のハーモニック成分に同期するバイアス電位に調整して、前記RTD発振器にバイアスを印加することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項27】
前記RTD発振器のバイアス電位は、RTDの負性抵抗領域に設定されることを特徴とする請求項5に記載の半導体デバイス。
【請求項28】
前記RTD発振器と、前記RTD発振器と接続する前記アンテナとの組み合わせを複数、備えることを特徴とする請求項18に記載の半導体デバイス。
【請求項29】
前記発振調整部は、複数の前記アンテナから放射されるそれぞれの信号の位相差を調整することを特徴とする請求項28に記載の半導体デバイス。
【請求項30】
前記RTD発振器で発振する発振信号は、0.3THzから0.6THzうちのいずれかの周波数の信号を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項31】
前記基準発振器の出力する信号強度は、前記RTD発振器の出力よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項32】
N行M列(NとMは自然数)で配列された複数の前記RTD発振器を備え、前記発振調整部と前記注入同期部のそれぞれの個数はN×M以下であることを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項33】
1つ以上のRTD発振器を含む第1のグループと、他の1つ以上のRTD発振器を含む第2のグループに分けたとき、第1のグループにおける前記RTD発振器をそれぞれグループ内で共通の前記発振調整部に接続し、第2のグループにおける前記RTD発振器をそれぞれグループ内で共通の前記注入同期部に接続することを特徴とする請求項10に記載の半導体デバイス。
【請求項34】
N行M列(NとMは自然数)で配列された複数の前記RTD発振器を備え、1つ以上の隣接する前記RTD発振器の発振信号の位相差を変えることでビームフォーミングを行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項35】
複数の前記RTD発振器に対して、共通の基準発振器を備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項36】
複数の前記RTD発振器に対して、複数の基準発振器を備え、少なくとも2つの基準発振器の周波数および位相が一致することを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項37】
前記アンテナは、正方形のパッチアンテナであることを特徴とする請求項18に記載の半導体デバイス。
【請求項38】
前記電磁波は、テラヘルツ帯の周波数を持つ電磁波であることを特徴とする請求項18に記載の半導体デバイス。
【請求項39】
前記RTD発振器は、マイクロストリップライン共振器であることを特徴とする請求項1に記載の半導体デバイス。
【請求項40】
請求項1から39のいずれか一項に記載の半導体デバイスと、
電磁波を放射する発信部と、
電磁波を検出する受信部と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項41】
請求項1から39のいずれか一項に記載の半導体デバイスと、
電磁波を被写体に向けて放射する発信部と、
前記被写体から反射または透過した前記電磁波を検出する受信部と、
を有することを特徴とする撮像システム。
【請求項42】
請求項1から39のいずれか一項に記載の半導体デバイスと、
電磁波を放射する発信部と、
放射した前記電磁波の反射波を検出する受信部と、
放射波と反射波から距離を計測する
ことを特徴とするレーダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、通信装置、撮像システムおよびレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波を発生する電流注入型の光源として、テラヘルツ波の電磁波利得を有する素子と共振器とを集積した発振器が知られる。このうち、共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode:RTD)とアンテナを集積した発振器は、1THz近傍の周波数領域で室温動作する素子として期待されている。特許文献1には、RTDを用いた発振器に対してマスター信号を供給することで注入同期発振器となるよう構成し、マスター信号からRTD発振器の位相を制御することでRTD発振器の位相雑音を軽減するアンテナ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、RTD発振器に注入同期を行いつつ、RTD発振器の発振状態を変化させた場合であっても、RTD発振器を安定した発振状態にすることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による半導体デバイスは、RTD発振器と、前記RTD発振器を同期する基準発振器と、前記RTD発振器の発振信号を調整する発振調整部と、前記基準発振器と前記発振調整部とを制御する制御部と、を有し、前記制御部からの制御信号により、前記基準発振器の動作に応じて、前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、RTD発振器に注入同期を行いつつ、RTD発振器の発振状態を変化させた場合であっても、RTD発振器を安定した発振状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】RTD発振器における注入同期の特性を示すグラフである。
【
図3】発振調整部によるバイアス調整の構成例を示す模式図である。
【
図4】発振調整部によるフィードバック制御の構成例を示す模式図である。
【
図5】発振調整部によるインピーダンス調整回路の構成例を示す模式図である。
【
図6】RTD発振器とその周辺部品の等価回路の例を示す図である。
【
図8】注入同期部における位相調整の構成例を示す模式図である。
【
図12】その他の実施形態における構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照しながら各実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技
術思想を具体化するためのものであって、本発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須なものとは限らず、複数の特徴は任意に組み合わせることができる。各実施形態の説明において、他の実施形態と同一の構成については説明を省略する場合がある。実施形態は、適宜変更、あるいは他の実施形態と適宜組み合わせることが可能である。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係は、説明を明確にするために誇張していることがある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の半導体デバイスに係る装置10の構成例を示すブロック図である。なお、以降の説明では、便宜上、半導体デバイス100と装置10を区別して説明するが、本願明細書における半導体デバイスは、半導体デバイス100だけでなく、装置10を含む概念である。また、以下では、装置10を送信器として用いる場合について説明を行うが、装置10は受信器として用いることも可能である。
【0010】
装置10は、半導体デバイス100内部で生成した信号をテラヘルツ波103として空間中に放射するように構成される。ここで、テラヘルツ波とは、10GHz以上100THz以下、より好適には、30GHz以上30THz以下の周波数領域内の電磁波を示す。
【0011】
RTD発振器104は、発振源であるRTD108と共振構造をもつ共振導体109とで構成されている。RTD発振器は、半導体構造を有する共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode:RTD)と共振構造と組み合わせることで、テラヘルツ波103を発生または検出することができる。RTD発振器で発振する発振信号は0.3THzから0.6THzのいずれかの周波数の信号を含むことができる。RTD発振器104には、半導体デバイス100外部の基準発振器102による基準信号が入力される。RTD発振器104は単体でも自励発振周波数において自励発振を行うが、基準発振器102をマスター発振器として利用し、RTD発振器104をスレーブとして動作させることで、位相雑音の低減を行うことが可能である。基準発振器102は、テラヘルツ波のタイミングを同期させるための波源であり、テラヘルツ波の発振周波数fTHzのN分の1(Nは自然数)倍のサブハーモニック周波数を出力する。RTD発振器には、このサブハーモニック周波数が注入同期される。本実施形態では2分の1として説明する。また、基準発振器により周波数を変化させると同時に、発振調整部は基準発振器から出力される基準周波数のハーモニック成分に同期するバイアス電位を調整して、RTD発振器にバイアスを印加することができる。基準発振器102の信号出力は、スレーブとなるRTD発振器104の出力よりも大きい信号を出力する。
【0012】
基準発振器102からRTD発振器104への入力によって注入される電力は、RTD1個の出力PRTD((3/16)cosωτ×ΔIΔV)以上が望ましい。ここで、PRTDは、RTDの出力、ωはテラヘルツ波の角周波数、τは半導体層内のキャリア走行時間である。また、ΔI、ΔVは、RTDの負性抵抗領域の電流ピークと電流バレーのそれぞれ電流差、電圧差である。RTD発振器104の内部に搭載されるRTDの個数に限りはなく、搭載されるRTDの個数分を足し合わせた電力を基準発振器102からRTD発振器104へと入力されることが好適である。基準発振器102の出力は(RTD発振器104のRTD個数)×PRTD((3/16)cosωτ×ΔIΔV)に加えて、基準発振器102からRTD発振器104の各RTDまでの伝送損失分より大きい出力が望まれる。一方、基準発振器102からの出力はPRTDよりも小さい場合でもロッキングできる。具体的には、RTD1個の出力に対して1万分の1程度の小信号であっても、基準発振器102の信号に対してRTD発振器104が同期することが確認されている。本実施形態の適用を行う回路は、PRTD((3/16)cosωτ×ΔIΔV)よりも小さい出力を持つ基準発振器102を用いた場合でも、基準発振器102が出力する周波数
精度などを保ちつつ、RTD発振器104を同期させることが可能である。すなわち、基準発振器102が出力する信号強度はPRTDの値に大きく依存せずに設定可能である。
【0013】
発振調整部106は、半導体デバイス100の外部に配置された制御部101により入力される制御信号により、基準発振器102の動作に応じて、RTD発振器104の発振調整を行う。
【0014】
発振調整部106は、RTD発振器104と電気的に接続され、RTD発振器104が発振する際の電圧および電流の調整の他に、共振導体109のインピーダンスを制御するなどを行うインピーダンス調整手段を備えることができる。発振調整部106は、RTD発振器104が発生するテラヘルツ波の信号の周波数、位相、強度など物理的なパラメータを調整する。
【0015】
RTD発振器104の共振構造を持つ共振導体は、マイクロストリップライン共振器であり、広い下導体のGNDと、線路状の上導体と、その間の誘電体によって構成される。上導体の線長がRTD発振器104内で発振する信号の波長λに対してλ/2の倍数となるよう設定される。具体的には0.5[THz]の波長λは0.6[mm]となるため、共振器上の比誘電率が2程度であるからλ/2の電気長は0.15[mm]となる。この線長を基準として設計に用いることが好適である。誘電体の厚みはλ/10以上λ/3以下が好適に用いられる。
【0016】
半導体デバイス100は、バイアスを印加するバイアス部105を備えることができる。バイアスを発振調整部106の制御に使用する場合は、発振調整部106を介してRTD発振器104にバイアスを供給することができるが、直接、RTD発振器104に対して供給することも可能である。本発明を適用できるバイアス部の接続構成は本実施形態の限りではない。
【0017】
バイアス部105は、RTD108を駆動するために必要な電力を供給し、RTD108にかかるバイアス電位を調整する。RTDの場合、バイアス信号はRTDの微分負性抵抗領域となる電圧から選択されて、印加される。バイアス部105からRTD108へと印加されるRTDを駆動するバイアス電位はおよそ直流に近いため、直接的に接続が行われることやローパスフィルタなどを介して入力することが好適である。
【0018】
図2を用いて、基準発振器102からRTD発振器104に対して行う同期処理のふるまいについて説明する。
図2(a)は、RTD108に印加されたバイアス電位を横軸に、RTD発振器104で発振する周波数を縦軸にしてグラフにプロットした際のイメージを表している。基準発振器102からRTD発振器104に対して基準信号を入力し、RTD発振器104の周波数を安定させる処理は注入同期と呼ばれる。本実施形態では、RTD発振器104は基準発振器102が出力する信号のハーモニック(高調波)成分を利用している。グラフ内の実線は基準発振器102から入力がある場合、すなわち注入同期を行った場合のRTD発振器104内にみられる発振周波数とバイアス電位をプロットしたグラフのイメージ(注入同期プロット201)である。基準発振器102からは0.5[THz]の1/2倍のサブハーモニック周波数0.25[THz]が入力されている。グラフ内の破線は、注入同期を行っていない場合のRTD発振器104内に見られる発振周波数とバイアス電位をプロットしたイメージ(非注入同期プロット202)である。この周波数は一例であり、基準発振器102が出力する信号の周波数はRTD発振器104と同じ、あるいはハーモニック成分であれば、本実施形態の限りではない。
【0019】
まず、RTD108の自励発振周波数を確認する。
図2(a)の非注入同期プロット202を確認すると、バイアス電位0.7[V]のとき、0.5[THz]の発振を行うも
のとなっている。バイアス電位を下げると自励発振周波数は低いほうに遷移し、バイアス電位を上げると自励発振周波数は高いほうに遷移することがわかる。次に、注入同期プロット201を確認する。バイアス電位0.7[V]のとき、0.5[THz]であるポイントは同様だが、バイアス電位を0.69[V]まで下げる際も周波数は0.5[THz]を維持している。同様に、バイアス電位を0.71[V]へと上げた際も0.5[THz]を維持している。これは基準発振器102からの注入同期によってRTD発振器104の発振周波数がロックされているという現象である。このように周波数が固定されることをロックする、周波数の固定されている状態から固定されていない状態へと変化することをロックが外れるという。
【0020】
図2(a)のグラフでは、ロックする領域はバイアス電位が0.69[V]から0.71[V]の領域であることがわかり、この領域をロッキングレンジという。ロッキングレンジ内では被注入同期発振器であるRTD発振器104は基準発振器102の周波数に依存して固定される。また、このロッキングレンジの範囲についてはRTD発振器104へと入力される基準発振器102の信号が強ければ広がり、逆に弱い場合は、狭い電圧レンジとなることが知られている。
【0021】
図2(b)は注入同期時ありの場合における、RTD108のバイアス電位を横軸に、注入された基準発振器102の信号とRTD発振器104の信号の位相差を表したものである。0.7[V]の位置では位相差が0°であり、これは注入同期の周波数と自励発振の周波数が一致していることで、周波数および位相の一致が見られている。バイアス電位を下げていくと位相は-90°の方向へと変化し、バイアス電位を上げていくと+90°の方向へと位相が変化する。これらは基準発振器102とRTD発振器104の自励発振周波数がずれることによって、ロックした際に周波数差が位相差となって表れていることを意味する。この位相差は理論式で求めることができ、φ=sin
-1(Q√((P
o/P
i)×(f
1-f
0)/(f
1)))となる。φはRTD発振器104の発振位相であり、Piは発振電力である。Poは基準発振器から入力され同期する基準信号のハーモニック成分における発振電力で、QはRTD発振器104のQ値である。Q値は、周波数スペクトルが鋭いほど高くなり、発振回路の出力指標として用いられる。f
1は自励発振周波数であり、f
0は注入同期によって発振する周波数、すなわち基準発振器102の発振周波数である。この位相差は、式を見てわかる通り-90°から+90°の範囲で変化するという事を表している。すなわち、ロッキングレンジ範囲内での位相差は-90°から+90°の範囲で変化し、ロッキングレンジの幅は注入同期発振器の発振電力と注入電力の比に応じて変化するということがいえる。
【0022】
図3は、本実施形態の発振調整部106を説明する図である。発振調整部106はRTD発振器104の発振状態を調整するための回路であり、本実施形態ではその一例として説明する。制御部101から出力される制御信号をもとに発振調整部106を制御し、RTD発振器104へと調整を与える。その際、基準発振器102の動作に応じて制御を行うことを可能としている。
【0023】
図3(a)は、発振調整部106によって、バイアス部105のバイアス電位を調整する回路を備えている。発振調整部106はバイアス部105からRTD発振器104に供給する電源ラインを入力する。入力した電源は抵抗R1(301)を通して出力ポート302へと接続し、最終的にRTD発振器104へと接続される。抵抗R1(301)と出力ポート302の間ではGND電位との間に可変抵抗Rv(303)を接続されている。出力ポート302の電位はバイアス部105のバイアス電位を抵抗R1(301)と可変抵抗Rv(303)とで分圧した電位が出力されることになる。可変抵抗Rv(303)は入力ポート304に制御部101からの制御信号を入力し、その信号をもとに可変抵抗Rv(303)の抵抗値の調整を行う。可変抵抗Rv(303)の抵抗を調整することで
、RTD発振器104に与えるバイアス電位を制御することができる。RTD発振器104はバイアス電位が変わることにより、発振する信号の位相を変化させることができる。
【0024】
図3(b)に、発振調整部106bによってRTD発振器104を動的に調整する際の一例を示す。バイアス部105からくる配線は発振調整部106b内でインダクタL1(305)を介して出力ポート302へと接続される。インダクタL1と出力ポート302の間で分岐し、キャパシタC1(306)が接続される。このインダクタL1(305)とキャパシタC1(306)はバイアス・ティの役割を行い、バイアス部105からの直流成分とキャパシタC1(306)側からの交流成分を重畳させた信号を出力ポート302に出力することができる。キャパシタC1(306)の出力ポート302と反対側の端子は可変抵抗Rv(303)と制御信号源307がGNDとの間に並列に接続されている。制御部101からの制御信号は2つの入力ポート(304、308)を介して入力される。入力ポート308からの信号は、制御信号源307の発振周波数を制御する。制御信号源の信号は正弦波のような連続的なものであるが、離散的な値をとるパルスはなどであってもよい。入力ポート304からの信号は可変抵抗Rv(303)の抵抗値を変化させることで、発振する交流信号の振幅を制御する。出力ポート302からはRTD発振器104を発振させるために必要となる負性抵抗領域への直流成分の電位に加えて、その電位を時間に応じて上下させるような交流成分の調整ができる。そうすることで、時間的に変化するビーム走査を行う際の位相制御などへの対応が可能である。また、発振調整部106bによる交流成分の調整はRTD発振器104の離散的な電圧値の変化を送信したいデータ列に合わせて変化させることで、位相シフトキーイング(PSK)などの位相変調制御に用いることも可能である。上述したバイアス電位の調整手段において、RTD発振器104のバイアス電位を変更する他の回路構成や、RTD発振器104のGND側の電位を変化させる方法などは、他の手段でも代用可能である。RTD発振器104のRTD108に印加されるバイアス電位を変化させる手段は本実施形態の限りではない。
【0025】
図3(a)や
図3(b)において、
図1における基準発振器102の動作に応じて制御部101からの制御信号を調整することが可能である。具体的には、基準発振器102から出力される同期信号の周波数に応じて、入力ポート304に入力される可変抵抗Rv(303)の設定値を調整することができる。基準発振器102から出力される周波数はRTD発振器104の注入同期される際の周波数となるが、その際のバイアス電位は、
図2(a)に示したように自励発振周波数が変わってくるため、周波数に応じた電圧調整が必要である。制御部101は、基準発振器102の制御を行い、基準発振器102が出力する周波数を検知することができる。また、他の制御部(不図示)から基準発振器102を制御し、その情報を制御部101が信号として受信するなども可能であり、基準発振器の信号強度、位相、周波数などの設定情報を得る手段はこの限りではない。さらに、制御部101による制御の具体例として、基準発振器102が出力する信号の強度設定や位相変化なども考えられる。基準発振器102が出力する信号強度が変わると、RTD発振器104に入力される信号強度も変わるため、ロッキングレンジに変化が生じる。発振調整部による電圧調整は、ロッキングレンジ内で実施する必要があるため、調整量を変えた制御指示を制御部101から発振調整部106へと送る必要がある。位相変化においても先に説明した周波数やロッキングレンジとバイアス電圧の関係から同様に調整することができる。
【0026】
図4に、発振調整部106cのその他の調整方法を説明するためのブロック図を示す。発振調整部106cは、バイアス部105から抵抗R1(301)を介して出力ポート302へと接続される。抵抗R1(301)と出力ポート302の間にはスイッチ311とスイッチ317が接続され、スイッチのON/OFFを制御部101から入力ポート309に入力された制御信号により切り替えることができる。スイッチ311のもう一方の端子には可変抵抗Rv(303)が接続され、スイッチ311がONの場合は、
図3(a)
と同様の回路となる。スイッチ317のもう一方の端子には、調整回路314が接続されている。スイッチ317がONの場合は、調整回路314の出力が出力ポート302へとつながるように構成される。スイッチ311とスイッチ317は、排他的にON/OFFされるように構成される。
【0027】
調整回路314は、基準発振器102から出力された基準信号の出力の一部を入力ポート310から入力したものを、分周器313を通してN分周し、N分周後の信号をミキサ316に入力する。ミキサ316には、N分周の信号の他に調整用発振器315の出力信号が入力され、それらの位相を比較し、その位相差に応じた差分電圧を出力する。ミキサ316から出力された電圧値は、調整回路の出力として、フィルタ312によって出力信号を所望の周波数帯へと平滑化して出力する。
【0028】
発振調整部106cが制御部101の制御信号を受け、基準発振器102の動作に応じて制御する。発振調整部106cは、基準発振器102の出力するRTD発振器104を同期する信号や、それに準ずる信号(RTD発振器からの反射信号など)を受けることで調整のフィードバック制御が可能である。また、基準発振器102とRTD発振器104の位相がそろうことで戻り信号や反射波(反射信号)の影響が小さくなるなどの信号変化もフィードバック制御に有効に利用できる。位相がそろっていることが確認できれば、その時点のRTD発振器104のバイアスは基準となる中心点であることがわかるため、そこを基準にバイアスを±0.01[V]変化させるなどの調整に応用できる。そのために、基準発振器102の出力信号を入力して制御を行うといった構成が考えられる。他にも、調整用発振器315の代わりに基準発振器102が出力した基準信号を用いるなどもできる。
図4の回路構成は一例であり、本実施形態を適用した発振調整部の回路構成はこの限りではない。
【0029】
図5は、発振調整部106dにおいて、RTD発振器104のインピーダンス調整などを行う際の構成例である。RTD発振器104の共振導体109は、RTD発振器104の発振信号を共振させるために必要であり、共振導体109に
図5のような回路を接続することで、インピーダンス調整を行うことが可能である。発振調整部106dには、λ/2線路であるZ1とZ2が直列に接続されている。Z1のZ2と反対側の端子はオープンであり、オープンスタブとして機能する。Z2のZ1と反対側の端子はスイッチ321が接続されている。スイッチ321は、発振調整部106dに制御部101から入力された制御信号が入力ポート318を介して接続され、スイッチのON/OFFを制御している。Z1とZ2の接続部には、可変インピーダンス回路320が接続されている。可変インピーダンス回路320は、キャパシタC2とインピーダンスZ1と可変キャパシタンスCvであるバラクタダイオードがGNDとの間に接続されている。可変キャパシタンスCvの容量を調整するために、制御部101から入力ポート319を介して入力された信号が、インダクタL2を通ってZ1との間で接続されている。発振調整部106dは、スイッチ321をONすることにより、RTD発振器104と接続され、共振導体109のインピーダンスを調整することができる。さらに、
図5にあるようにCvなどバラクタダイオードなどの可変容量またはトランジスタを用いた可変インピーダンス回路を用いることで、制御部101からの制御性を高めることが可能である。
【0030】
図示した構成例の他にも、マイクロストリップ線路をスイッチで切り替えることで反射波の影響を変化させるインピーダンス調整回路を備えることができる。また、90°ハイブリッド回路と可変キャパシタンスを用いた反射型の位相調整回路など、インピーダンスや接続した線路の位相を可変できる回路を備えることができる。これらの回路は、共振導体109のインピーダンスを基準発振器102からくる同期信号の周波数などに合わせて調整を行うことで、RTD発振器104の発振時の損失を抑えて、発振の効率を上げることができる。また、損失を増やす構成をとることで発振強度の調整を行うことや、放射方
向を変化させるなど、発振調整部106dによってRTD発振器104の発振信号の調整を行う回路を構成することができる。さらに、入力ポート319の信号に、基準発振器102から出力された信号からなる周波数や位相の変化、伝送遅延などの情報を加えることもできる。また、RTD発振器104を同期する同期信号の変化に応じて可変インピーダンス回路320の制御パラメータへとフィードバックするなどの調整も可能である。
【0031】
次に、制御部101における制御について説明する。制御部101は、発振調整部106が調整を行うために必要な制御信号を送信することで、制御を行う。本実施形態では、制御部101は、基準発振器102と発振調整部106の制御を行っている。装置10を駆動させる際に、基準発振器102を制御し、周波数、位相、出力強度のパラメータを設定する。基準発振器は、一般的なPLL(Phase Locked Loop)回路を使って、さらに低い周波数の源振、例えば水晶発振子を用いた高精度の発振源などから入力した発振信号を所望の周波数を発振するよう構成する。制御部101は、基準発振器102の設定および基準発振器102の発振が安定したことを受け、発振調整部へと制御信号を送る。その際、基準発振器102が発振し、出力する周波数をもとに制御信号として与える発振調整部106の調整値を決定することができる。具体的な設定例として、基準発振器102はRTD発振器104の発振する周波数の2分の1の周波数で発振する。そのため、0.24[THz]で発振する場合は、RTD発振器104が0.48[THz]であるためバイアス電圧を0.69[V]に設定するように制御する。また、発振周波数が0.25[THz]の場合は、RTD発振器104が0.50[THz]となるためバイアス電圧を0.7[V]に設定するよう制御する。このように、制御部101は、基準発振器102がRTD発振器104を同期するために出力する基準信号の設定をもとに、発振調整部106の制御を行うことができる。
【0032】
さらに、基準発振器102が出力した信号がRTD発振器104に到達するまでの遅延などで、位相が変化することがあらかじめ分かっている場合がある。その場合は、制御部101がRTD発振器104の位相を調整する際に、変化する位相分を差し引いた位相調整を与えることで、基準発振器102からRTD発振器104への位相遅延分を補正することができる。あるいは、基準発振器102が出力するRTD発振器104を同期するための信号を分岐させ、制御部101へと入力させることができる。その場合は制御部101が基準発振器102を設定することが無い場合でも、RTD発振器104へ与えられる信号の周波数や位相、強度などを認識でき、発振調整部106へとフィードバックすることも可能である。また、基準発振器102の出力が装置の動作に応じて変化する場合、例えばRTD発振器104の発振により反射波や戻り信号などの影響で、位相や強度が変化してしまうなどの場合でも、変動に応じた緻密なフィードバック制御を行うことが可能である。また、注入同期の信号強度によってロッキングレンジの幅は広がるが、位相に関しては-90°から+90°の範囲を変化するという現象もみられる。このため、基準発振器102からの信号強度に応じて、バイアス調整のスピードや変更量を変えることも考えられる。
【0033】
他にも、
図4で説明した発振調整部106cを用いる場合では、制御部101から制御信号を与えられた発振調整部106cが基準発振器102の出力信号を受けて制御を行う回路を構成することができる。制御部101は、発振調整部106cで制御のON/OFFや調整量、調整タイミングなどを変更することができる。そうすることで、基準発振器102の動作に応じて、発振調整部106cの制御を行うことができる。いずれの場合も制御部101からの信号による指示を受け、発振調整部106cからRTD発振器104に対する発振信号の調整を、基準発振器102の動作に応じて行うことができる。制御部101の制御内容やフィードバック信号、基準発振器102の構成及び周波数や分周の割合、バイアス電圧の値などは説明のための一例であり、この限りではない。
【0034】
本実施形態における装置10の等価回路について
図6を用いて説明を行う。RTD発振器104は、バイアス部105の電位を発振調整部106の分圧回路で分圧した出力電位V1(330)とGNDとを等価回路素子を介して接続する。RTD発振器104は、RTD108とインピーダンスZ2で示される共振導体109やRTDが持つ寄生インピーダンスとの組み合わせである。図の左端には基準発振器102が配置されている。基準発振器102とRTD発振器104の間には、基準発振器102が出力し、RTD発振器104を同期する信号である基準信号の伝送路331を示す。伝送路331は寄生インダクタンスL3、L4や寄生キャパシタンスC5、C6、寄生抵抗R3、R4などとともに伝送路のインピーダンスZ3などを備える。基準発振器102と伝送路331との間は基準発振器102の信号を通過させるようにキャパシタンスC4によってACカップリングによって電気的に接続されている。RTD発振器104と伝送路331の間もまた基準信号を通過させるためにキャパシタンスC3によって電気的に接続されている。
【0035】
基準発振器102の基準信号の周波数はRTD発振器104の発振信号の周波数の1/2に設定されており、キャパシタンスC3は基準信号の周波数を通過させ、発振信号の周波数を遮断するよう構成することが好適である。制御部101は基準発振器102の発振状態および発振調整部106の可変抵抗Rvを制御するように構成されている。RTD発振器104にはアンテナ107がキャパシタンスC7を介して接続される。キャパシタンスC7はRTD発振器104が発振するテラヘルツ帯の周波数を通過させ、基準信号の周波数を遮断するよう構成された、キャパシタンスまたは扇型のラジアル・スタブによるフィルタ等を用いて接続することが望ましい。さらに、アンテナ107はパッチアンテナ等の平面アンテナを形成し、線路とのインピーダンス整合をとるためにパッチアンテナの端から多少インセットした位置へと接続される。RTD発振器104の出力は、アンテナ107上に定在波を形成し、空間中へと放射されることになる。
【0036】
キャパシタンスC7近傍にはACカップリングによる接続の他にも、フィルタ回路を用いることが考えられる。ここで、基準発振器102の出力する基準信号の波長をλinjとし、RTD発振器104の発生する発振信号の波長をλとして説明する。RTD発振器104の入力側では高周波回路で好適に使用される、λinj/4となるショートスタブが考えられる。RTD発振器104への入力端にショートスタブを適切に配置することで、基準信号の周波数では信号を通過させつつ、RTD発振器104の発振信号は2倍の周波数となるためGNDへとクランプされる。一方で、RTD発振器104の出力端、アンテナへと接続するほうではλinj/4のオープンスタブを配置しておく。オープンスタブのため、基準信号の周波数は通過させず、2倍の周波数である発振信号の周波数では通過するフィルタを構成することができる。スタブフィルタの構成はマイクロ波やミリ波の回路を応用して、テラヘルツ帯の周波数に合うようスケール調整を行って適宜配置することが可能であり、本実施形態の説明した限りではない。
【0037】
装置10に配置されている制御部101は、半導体デバイス100上ではなく、半導体デバイス100が実装されているプリント基板上の別の集積回路(IC)として実装されている。集積回路ICの出力がプリント基板上の配線を経由して半導体デバイス100に入力され、発振調整部106を制御するという構成である。しかし、本発明を適用できる制御部101の配置に関しては、本実施形態の限りではない。同一の半導体チップにおいて集積されたICとして実装されていてもよく、複数の半導体基板を積層した半導体チップの中で複数の基板に分かれて配置することもできる。さらには複数の半導体チップがフリップチップなどの接合技術で電気的に接続していてもよい。いずれの場合も基準発振器102の動作に応じて発振調整部106の制御を行うことで、RTD発振器104の発振信号を制御でき、本発明を適用した半導体デバイスを構成することが可能である。
【0038】
本実施形態で説明した発振調整部(106、106b、106c、106d)などによ
るRTD発振器104の発振信号の調整を行うことができる。その結果、装置10が出力するテラヘルツ波103の周波数、位相、放射強度、ビームの形状などを選択的または相補的に制御することが可能となる。周波数を変化させると周波数シフトキーイング(FSK)などのデジタル変調やFM変調が可能となり、通信やレーダーなどの応用が考えられる。また、位相を変化させると位相シフトキーイング(PSK)変調やQPSK変調、が可能となり、強度を変化させるとAM変調や強度シフトキーイング(ASK)変調などが可能となる。位相と強度を自在に変化できれば直交位相振幅変調なども組み合わせ次第で可能となる。ビームの形状を変化させればビームフォーミングにより所望の受信相手に向けて効率よくテラヘルツ波103を送信することができる。本実施形態をとることで、RTD発振器104において、注入同期による周波数精度の向上だけでなく、変調やビームフォーミングなどの付加機能をつけることができる。
【0039】
(第2実施形態)
第2実施形態では、テラヘルツ波を放射する装置11の説明を行う。
図7は、第2の実施形態におけるブロック図である。半導体デバイス100において、基準発振器102から出力された基準信号(第1の同期信号)は注入同期部110へと入力されている。注入同期部110は、発振調整部106とRTD発振器104に信号を出力する。また、RTD発振器104は、変調を行うよう構成されている。変調は、ベースバンド信号112をもとにRTD発振器104の信号と合成し、アンテナ107から変調されたテラヘルツ波113を放射するよう構成されている。本実施形態のブロックの接続以外にも、放射するテラヘルツ波を増幅するパワーアンプ(PA)や不要波を除去するなどのフィルタなどを適宜配置することもできる。
【0040】
注入同期部110について、説明する。注入同期部110は、基準発振器102から出力された基準信号(第1の同期信号)をもとに、RTD発振器104を同期するために注入する注入同期信号(第2の同期信号)を生成する。本実施形態における注入同期部は、基準信号(第1の同期信号)の位相を変化させる移相器を有している。
図8(a)は、本実施形態の注入同期部110に配置されている移相器である。λ/4の線路4本をループ状に接続し、一つのλ/4線路A(340)の両端を入力341と出力342としている。また、λ/4線路B(343)とλ/4線路C(344)の接続部および、λ/4線路C(344)とλ/4線路D(345)との接続部には可変キャパシタンスを配置した構成で、反射型の移相器である。
【0041】
図8(b)は注入同期部110のその他の参考例であり、例えば伝搬時間の異なる2つの線路(346、347)を入力端のスイッチ348と、出力端のスイッチ349により切り替える経路切換型の移相器などを用いることもできる。他にも、ミリ波やマイクロ波で使用されている、ローデッドライン型の移相器、ベクトル合成型の移相器も利用できる。また、配置する場所や設定したい移相量及び対応する帯域幅に応じて、集中定数のL・CおよびFETのスイッチを複数個組み合わせてLC型の低域通過フィルタ(LPF)を選択することができる。さらに、広域通過フィルタ(HPF)に切り替えることによる位相差を利用するLP/HP切換型なども、適宜選択することができる。
【0042】
注入同期部110は、制御部101から制御信号を入力し、注入同期信号(第2の同期信号)の位相を基準発振器の基準信号(第1の同期信号)の位相からずらすなどの調整を行うことが可能となる。さらに、注入同期部110は、基準発振器102よりもRTD発振器104に近いところで制御を行うことができる。これにより、基準発振器102から出力される基準信号の伝送路による遅延時間なども加味した状態で、個別のRTD発振器104に応じた調整を行うことが可能である。また、フィルタやインピーダンス調整回路をRTD発振器104との間に適宜配置することによって、反射波を抑制し、RTD発振器104の安定した発振を助けることができる。また、注入同期部は発振調整部106へ
と調整後の同期信号(第2の同期信号)を注入することで、発振調整部106のバイアス調整によるフィードバックを行うことが可能である。これにより、発振調整部106は基準発振器102の動作および、基準発振器102の動作によって出力される基準信号(第1の同期信号)をもとに生成された注入同期信号(第2の同期信号)の動作に応じて、発振調整部106の制御を行うことが可能である。
【0043】
本実施形態の構成例以外にも、注入同期部110の制御は、別の制御部によって制御されることも可能である。また、注入同期部110から直接発振調整部106へと信号を伝送しない構成を採用することができる。その場合は、注入同期部110を制御する制御部101がもつ制御情報から、発振調整部106に与える制御信号に調整を加えることで、発振調整部106は注入同期信号の動作に応じて制御を行うことができればよい。たとえば、制御部が、基準発振器や注入同期部から出力されるRTD発振器を同期する同期信号の設定値に対応しない制御信号を発振調整部へ伝送し、発振調整部が当該同期信号に応じた制御を行ってもよい。本実施形態の接続構成は特に限定されない。
【0044】
注入同期部110には、移相器の他にも、RTD発振器104と発振調整部106とに信号を分岐する分岐回路などを有していてもよい。分岐回路は通常マイクロ波回路などの高周波の回路に用いられるT型分岐の回路やパワーデバイダ、ハイブリッドカプラやラットレース回路を用いた接続を適宜利用することができる。等分に分岐することで出力信号の強度は半分となるため、注入同期信号の強度を補うような増幅回路を配置することも可能である。また、注入同期部110に基準発振器102から出力された基準信号の位相とRTD発振器104へと出力する注入同期信号の位相を確認する位相差検出手段を設けることができる。これにより、位相差に応じたフィードバック信号だけを発振調整部106に送ることができる。いずれの場合でも注入同期部110の役割は大きく2つであり、一つは、基準発振器102からくる基準信号をもとに、RTD発振器104へと注入同期する注入同期信号(第2の同期信号)を生成する。もう一つは、RTD発振器104へと注入同期する注入同期信号(第2の同期信号)の情報を発振調整部106へと出力する。以上2つの機能を実現でき、さらに、信号伝送を補助する増幅回路やフィルタ回路、反射波を低減するインピーダンス調整回路など、適宜配置されていても良い。
【0045】
図7のRTD発振器104には、ベースバンド信号112が入力されている。ベースバンド信号は周波数10[GHz]の振幅変調によるベースバンド信号である。ベースバンド信号112は半導体デバイス100の外部にあるベースバンドICによって生成され、入力される。RTD発振器104はベースバンド信号10[GHz]とRTD発振器104の発振信号である周波数0.5[THz]、すなわち500[GHz]の信号とを合成することで、550[GHz]の信号を生成する。この信号はアンテナ107へと伝わって空間中に放射されテラヘルツ波113として、受信相手(不図示)へと放射される。RTD発振器104を復調で使用する場合には、RTD発振器104の発振信号とアンテナ107から入力された入力信号をもとに、ベースバンド信号を出力する。ベースバンド信号の線路には適宜フィルタ等を用いて出力信号を選択するようにしてもよい。さらに、ベースバンド信号112や変調の状況に応じて、RTD発振器104の制御、すなわち発振調整部106の制御へとフィードバックすることも可能である。注入同期部110の注入する電力を高めることや、バイアス電圧を自励発振周波数と注入信号の持つ周波数が近づくように調整するなど、変調信号の持つ情報に応じて切り替えることも可能である。これにより、変調する際の帯域が広くなることでRTD発振器104のロックが外れるなどの不安定をなくすことができる。
【0046】
ベースバンド信号は入力前に一度アップコンバートされたIF(Intermediate Frequency)信号でもよく、周波数や帯域および変調方法については通信システムによって適宜選択されるものである。また、RTD発振器104の出力する周波
数も本装置が通信を行うために確保されるチャネルによって変わるものである。本実施形態ではRTD発振器への変調をもとに説明しているが、バイアス部からのバイアス電圧にバイアス・ティなどを使用してベースバンド信号を高周波信号側から入力することで変調するなどの対応も可能である。RTD発振器の発振信号の変調あるいは復調を行う変復調部は、RTD発振器と電気的に接続することができる。本発明を用いた変復調の構成は、前記で説明した限りではない。
【0047】
本実施形態の回路を用いることで、RTD発振器104を通信用のローカル発振器(LO発振器)として利用し、ベースバンドからの変調信号に対応して、テラヘルツ波を変調することができる。変復調部に入力するベースバンド信号の強度や帯域幅に応じて、発振調整部を調整することができる。変復調部に入力するベースバンド信号の帯域幅が広がるほど、発振調整部はRTD発振器の自励発振周波数と基準信号に含まれる周波数成分に近づけるように調整することができる。注入同期部110を設けることで、基準発振器102からの信号は一旦注入同期前に成形され、RTD発振器104に最適な形で入力を行うことができる。RTD発振器104の発振精度の向上と変調制御を両立した送信デバイスを構成することができる。
【0048】
(第3実施形態)
図9に示した第3の実施形態であるテラヘルツ放射装置12では、従来の実施形態とは異なる複数のアンテナ(107a、107b、アレイアンテナともいう)を有している。そのため、アンテナに接続されるRTD発振器(104a、104b)もアンテナの個数分、(図示では2つ)に分けて配置されている。注入同期部(110a、110b)や発振調整部(106a、106b)も同様である。一方、バイアス部105やGND部は同一の電源線であるが、図示する関係上分かれて図示している。図示した2つまたは複数のアンテナ(107a、107b)はそれぞれテラヘルツ波(113a、113b)を放射しているが、フェーズドアレイ配置となっている。アンテナ間の間隔は放射する波長以下、好適にはλ/2以下の間隔で配置されることが望ましい。アンテナが複数という構成の実施形態であり、半導体デバイス100の内部のブロックの分割構成はこの限りではない。
【0049】
図9の構成の中には複数のアンテナからなる構成においても共通の部分がいくつか存在する。基準発振器102は複数のRTD発振器(104a、104b)に対して共通としている。フェーズドアレイであるため、基準となる周波数および位相は同一の発振器から生成されることが望ましいが、複数の基準発振器の周波数や位相をそろえるよう調整したものをそれぞれ配置していても良い。ベースバンド入力信号112においても共通である。同じデータを複数のアンテナから同時に放射するため、一つのベースバンド入力信号112から2つのRTD発振器(104a、104b)に分岐して入力している。これらも基準発振器同様、同期のみ行い分離して入力されてもよい。制御部101は基準発振器102の制御および、2つの発振調整部(106a、106b)の制御を行うため、接続されている。
【0050】
図9では2つのブロックに分かれているが、共通にできる部分もある。例えば、注入同期部(110a、110b)はそれぞれのRTD発振器(104a、104b)に別々に配置されているが、共通の1モジュールとしても良い。共通化することで、基準発振器102からの基準信号の配線が簡略化できる。共通の場合には注入同期部にバトラー・マトリクス回路などを用いることで、基準発振器102からの位相を複数のRTD発振器104に対して位相差をつけて分配するなどの構成も可能である。また、複数のRTD発振器(104a、104b)の間の位相のずれなどを確認しつつ発振調整部(106a、106b)で個別調整を行うことが可能になる。そうすることで、アレイアンテナ間の位相調整をより高精度に実施することができる。発振調整部(106a、106b)においても
個別に制御する従来の実施形態と同様の制御の他、共通調整としてバイアス部105からくるバイアス電圧をRTD発振器(104a、104b)の相互の動作状態に応じて調整することができる。
【0051】
発振調整部(106a、106b)は、アレイアンテナ間の位相を合わせることで、アレイ配置された平面の鉛直上方(
図9の右側)方向に指向性のあるテラヘルツ波のビームを作り出すことができる。これはアレイアンテナから放射されるテラヘルツ波(113a、113b)の等位相で発振することによる信号の強め合いがその方向で起こるからである。一方で、アンテナ107aの位相をアンテナ107bの位相より少し遅らせることで、放射ビームをアンテナ107a側(
図9の右上側)に傾けることができる。位相制御を行うことで、フェーズドアレイアンテナのビームフォーミングの実現ができる。このことからも、ベースバンド信号112による変調と、発振調整部(106a、106b)で行うビームフォーミング制御との個別の対応が可能である。ビームフォーミングを行う際のアンテナ間の位相差と走査角の関係は、sinθ=(λφ)/(2πd)で表される。ここで、θはビームの放射角度、λは放射する電磁波の波長、φは位相差、dはアレイアンテナのピッチである。アンテナピッチd=λ/2のとき、位相差φ=π/2とすると、θ=π/6、すなわち30度の放射角でビームを放射することが可能となる。
【0052】
第3の実施形態によれば、アンテナアレイによるビームフォーミングなどの位相制御を発振調整部(106a、106b)で実現することが可能となる。本実施形態を採用することで、基準発振器102からの信号による注入同期を実現し、RTD発振器(104a、104b)の発振を安定させつつ、各RTD発振器の位相をずらしたビームフォーミングも行うことができる。これにより、テラヘルツ発振器の高機能化を行うことができる。
【0053】
(第4実施形態)
図10は、本実施形態の装置13の概要を表すブロック図である。従来の実施形態と異なり、4つのアンテナ(107a、107b、107c、107d)を備えている。4つのアンテナは縦と横にマトリクス状に配置され、2行2列のアレイを構成する。このアンテナアレイの2次元平面(紙面と同一方向に定義する)を基準に鉛直方向にビームを放射するテラヘルツ送信器となっている。このアレイの数は一例であり、N行M列(この場合N、Mは同一または異なる自然数)で配列されたアレイ配置で適宜実現することができる。2系統の注入同期部(110c、110d)は共通の基準発振器102から出力される基準信号を入力している。注入同期部110cは、横一列のRTD発振器(104a、104c)に注入同期を行い、注入同期部110dは、別の横一列のRTD発振器(104b、104d)に注入同期を行うよう構成される。さらに、2系統の発振調整部(106c、106d)を備える。発振調整部106cは縦一列のRTD発振器(104a、104b)の調整を行い、もう一方の発振調整部106dは別の縦一列のRTD発振器(104c、104d)の調整を行うよう構成される。このように1つ以上のRTD発振器を含む第1のグループと、他の1つ以上のRTD発振器を含む第2のグループに分けたとき、それぞれのグループ内で共通の発振調整部と注入同期部を用いることができる。
【0054】
注入同期部(110c、110d)は基準発振器102からの基準信号を入力し、各RTD発振器に注入同期する信号へと変換する。注入同期部110cと注入同期部110dとの相対的な位相差をずらすことで、2×2のアレイにおける、上下のビームフォーミングを実現できる。また、発振調部(106c、106d)による調整で、1つ以上の隣接するRTD発振器(104a、104b、104c、104d)の位相を調整することができる。これにより、発振調整部106cと発振調整部106dの位相を相対的に変化させることで左右方向のビームフォーミングが実現できる。これらを組み合わせることで、平面から出るビームの方向を自在に設定することができる。
【0055】
また、すべてのRTD発振器(104a、104b、104c、104d)に対応する個別の回路を配置する必要がなくなるため、配線の共通化などができ、回路レイアウトを効率よく行うことができる。テラヘルツ波の波長は0.5GHzの場合、波長λは0.6mmとなるため、λ/2以下のピッチでアンテナ(107a、107b、107c、107d)を配置する際の配置制約や、アンテナ周囲の回路構造による損失の増加などが効率の低下につながりやすい。そのため、アンテナを複数のグループに分割し、グループ内で共通の制御を行うことで、回路や配線の簡略化を実現できる。
図9のように縦列と横列でグループを分けて配線することや、横列に共通の注入同期部、発振調整部を設けるなどの対応も可能である。さらに、N行N列のアレイアンテナをM行M列(M<N、M、Nは自然数)のアレイアンテナグループとして制御するなどもできる。これにより、発振調整部と注入同期部のそれぞれの個数をN×N以下とすることができる。具体的な例でいうと、4×4のアレイアンテナに対して、2行2列のグループを4つ設け、それらを個別に制御するなどの対応が可能である。
【0056】
本実施形態の回路を利用することで、2次元アレイアンテナに対してもRTD発振器(104a、104b、104c、104d)に対して適切に注入同期を行いつつ、発振調整部による制御を実現できる。これにより、レイアウト性が悪化することによる損失を抑えることができる。
【0057】
(第5実施形態)
図11(a)は、本実施形態の装置14を表すブロック図である。RTD発振器114には、RTD108のほかに共振器と放射器を兼ねたパッチアンテナ115を備える。パッチアンテナ115は、RTD発振器114の発振信号を共振する共振構造となっており、さらに面内で共振した電磁波を空間中に放射するアンテナとしても機能する。空間中に放射されたテラヘルツ波103は、対向側の受信装置(不図示)によって受信される。本実施形態では、単一のRTD発振器114としているが、複数個を1列に並べた1次元のアレイアンテナや、平面上に配置した2次元アレイアンテナを構成することも可能である。
【0058】
図11(b)は、RTD発振器114の半導体基板上の構造を表す概略図である。発振調整部106から入力されるバイアスおよび調整値は導体層120を介してパッチアンテナ115近辺へと伝達され、ビア121を介してパッチアンテナ115へと入力される。パッチアンテナ115は放射用の上導体層122とGND用の下導体層123と、上導体層122と下導体層123の間に配置された誘電体層124とで構成され、GNDは下導体層123と接続することで基準電位を決定している。上導体層122と下導体層123の間にはRTD108が配置されている。RTD108を分解すると、RTDのデバイスを形成するRTD層125と上導体層122と接続するビアもしくは導体層126および下導体層123と接続する導体層127とで構成されている。パッチアンテナ115へと入力されたバイアスおよび調整値は上導体層122を介してRTD層125に接続され、GNDとの電位差によるバイアス電位がRTD108に印加される。基準発振器102からの信号は不図示とするが、RTD108またはいずれかの導体層に対して基準発振器102が発振して出力する信号の周波数帯近傍を通過させるようAC接続されて入力される。これらの素子は半導体基板128上に半導体集積技術を用いて積層、パターニングされて形成される。上導体層122の上側に配置された誘電体層129は保護層であり、この半導体デバイスを保護するためのものである。
【0059】
RTD発振器114がアンテナと一体化したアクティブアンテナとなることで、RTD108が発振した信号を短い線路で放射器(パッチアンテナ115)へと接続することができる。このとき、共振用の導体がアンテナを兼ねることができる。テラヘルツ波103の周波数帯では、基板上の配線による導体損失や誘電体損失が出力低下の大きな原因とな
る。そのため、本実施形態のデバイス装置ではコンパクトで小型のデバイスとなるだけでなく、低損失で効率よく放射できる形態を実現できる。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【0061】
例えば、上述の実施形態では無線通信装置における送信器を例にして説明しているが、用途はこれに限定されるものではなく、例えばレーダー装置であってもよい。FMCWレーダーであれば、定常的に周波数掃引を行う必要があるが、
図1のような第1実施形態の回路を用いて基準発振器102の出力周波数を掃引し、RTD発振器104で発振信号を生成して放射してもよい。その場合、周波数の掃引幅が大きくなることで注入同期のロックが外れることや、自励発振との周波数差でRTD発振器104の発振信号の位相が変化してしまうなどの問題がある。発振調整部は基準発振器102が出力する信号の周波数に応じてRTD発振器104のバイアスを適宜調整することで、周波数や位相の不安定さをなくすことができる。
【0062】
また、上述の実施形態ではテラヘルツ波のアンテナとして正方形パッチアンテナを用いているが、アンテナの形状はこれに限られない。例えば、矩形及び三角形などの多角形、円形、楕円系などのパッチ導体および、ループアンテナやログペリアンテナ、ビバルディアンテナなどの平面アンテナおよびホーンアンテナなどが用いられてもよい。
【0063】
また、例えば、上述の実施形態では、一つのRTD発振器に対して一つのRTDを配置した例を記載しているが、複数個のRTDを配置してPush-Push方式やPush-Pull方式によって共振器内で同時に発振させることもできる。また、一つのRTD発振器に対して一つのアンテナを対応づけて説明しているが、1対N、N対1、N対N(Nは自然数)の様な複数個の接続が配線されていてもよい。
【0064】
他にも、積層構造を用いてRTD発振器の構造を説明したが、これに限られない。すなわち、積層構造を用いない発振装置に対しても上述の議論を適用することができる。
また、RTDの材料として、以下の組み合わせのそれぞれが用いられてもよい。
・GaAs基板上に形成したGaAs/AlGaAs/およびGaAs/AlAs、InGaAs/GaAs/AlAs
・InP基板上に形成したInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAs、InGaAs/AlGaAsSb
・InAs基板上に形成したInAs/AlAsSbおよびInAs/AlSb
・Si基板上に形成したSiGe/SiGe
上述の構造と材料は、所望の周波数などに応じて適宜選定されうる。
【0065】
上述の実施形態のいずれかの半導体デバイスを、テラヘルツカメラシステム(撮像システム)に適用した場合について説明する。
以下、
図12(a)を参照して説明する。テラヘルツカメラシステム1100は、テラヘルツ波TWを放射する発信部1101と、テラヘルツ波TWを検出する受信部1102とを有する。さらに、テラヘルツカメラシステム1100は、外部からの信号に基づき、発信部1101や受信部1102の動作を制御し、検出したテラヘルツ波に基づく画像を処理し、または、外部へ出力するための制御部1103を有する。各実施形態の半導体デバイスは、発信部1101であってもよいし、受信部1102であってもよい。発信部1101から放射されたテラヘルツ波は被写体1105において反射し、受信部1102において検出される。このような発信部1101と受信部1102とを有するカメラシステムは、アクティブ型の反射イメージングカメラシステムとも呼ばれうる。また、発信部1
101と受信部1102を対向させ、その中間に被写体を配置することで、被写体を透過したテラヘルツ波を観察する透過イメージングシステムも考えうる。なお、発信部1101がないパッシブ型カメラシステムにおいて、上述の各実施形態のアンテナ装置を受信部1102として用いることができる。ビームフォーミングが可能な各実施形態のアンテナ装置を用いることにより、カメラシステムの検出感度を向上させ、高画質の画像を得ることが可能となる。
【0066】
上述の実施形態のいずれかの半導体デバイスをテラヘルツ通信システム(通信装置)に適用した場合について説明する。
以下、
図12(b)を参照して説明する。装置は、通信システムの構成部品として使用することができる。通信システムとして、単純なASK方式から、スーパーヘテロダインやダイレクトコンバージョンなどが想定される。スーパーヘテロダイン方式の通信システムは、例えば、アンテナ1200、増幅器1201、ミキサ1202、フィルタ1203、ミキサ1204、変換器1205、デジタルベースバンド変復調器1206、及び局部発振器(1207、1208)を含む。
【0067】
受信器の場合、アンテナ1200を介して受信されたテラヘルツ波が、ミキサ1202によって中間周波数の信号に変換される。その後、ミキサ1204によってベースバンド帯の信号に変換され、変換器1205においてアナログ波形がデジタル波形に変換される。そして、そのデジタル波形がベースバンドにおいて復調されて通信信号が得られる。
【0068】
送信器の場合、通信信号が変調された後に変換器1205によってデジタル波形からアナログ波形に変換され、その後にミキサ1204及びミキサ1202を介して周波数変換されて、アンテナ1200からテラヘルツ波として出力される。ダイレクトコンバージョン方式の通信システムは、アンテナ1200、増幅器1211、ミキサ1212)、変復調器1213、及び局部発振器1214を含む。ダイレクトコンバージョン方式では、受信時に、ミキサ1212により受信されたテラヘルツ波が直接ベースバンド帯の信号に変換され、送信時に、ミキサ1212により送信対象のベースバンド帯の信号がテラヘルツ帯の信号に変換される。その他の構成はスーパーヘテロダイン方式と同様である。
【0069】
上述の各実施形態に係る装置は、半導体デバイスの電気制御でテラヘルツ波のビームフォーミングをおこなうことができる。このため、送受信機間の電波のアライメントが可能である。したがって、ビームフォーミングが可能な各実施形態のアンテナ装置を用いることにより、通信システムにおいて、信号対雑音比等の無線品質を向上させ、大容量の情報伝達を広いカバレッジエリアで、かつ、低コストで行うことが可能となる。また、送信と受信に同じ局部発振器を用いて周波数スイープを行うことができれば、FMCWのレーダー装置として送信した信号と反射波の遅延や位相情報から距離を計測するなどの対応も可能である。たとえば、発信部から電磁波を放射して、放射した電磁波(放射波)が物体に反射し、その反射波を受信部で検出し、放射波と反射波から距離を計測することにより、距離をすることができる。本発明を適用することで信号対雑音比等の無線品質を向上させ、測距精度の向上が可能で、かつ、低コストで行うことが可能となる。
【0070】
以上、説明した実施形態は、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。なお、本明細書の開示内容は、本明細書に記載したことのみならず、本明細書および本明細書に添付した図面から把握可能な全ての事項を含む。
【0071】
本実施形態の開示は、以下の構成を含む。
(構成1)
RTD発振器と、前記RTD発振器を同期させる基準発振器と、前記RTD発振器の発振信号を調整する発振調整部と、前記基準発振器と前記発振調整部とを制御する制御部と
、を有し、前記制御部からの制御信号により、前記基準発振器の動作に応じて前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする半導体デバイス。
(構成2)
前記制御部は、前記基準発振器の動作に応じて、前記発振調整部への前記制御信号を生成することを特徴とする構成1に記載の半導体デバイス。
(構成3)
前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号を用いて、前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする構成1又は2に記載の半導体デバイス。
(構成4)
前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号を用い、前記基準発振器の出力に対する伝送遅延または位相変化をもとに前記発振調整部を制御することを特徴とする構成1~3のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成5)
バイアスを印加するバイアス部をさらに備え、前記発振調整部は、前記バイアス部および前記RTD発振器に電気的に接続され、前記RTD発振器のバイアスを調整することを特徴とする構成1~4のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成6)
前記発振調整部は、前記RTD発振器を同期させる同期信号に対して前記RTD発振器から反射する反射信号を確認することを特徴とする構成1~5のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成7)
前記発振調整部は、前記反射信号から前記RTD発振器の基準となるバイアス電位を決定することを特徴とする構成6に記載の半導体デバイス。
(構成8)
前記制御部は、前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応する制御信号を前記発振調整部に入力することを特徴とする構成1~7のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成9)
前記制御部は、前記基準発振器から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応しない制御信号を前記発振調整部に入力し、前記発振調整部は、前記同期信号に応じた制御を行うことを特徴とする構成1~8のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成10)
注入同期部をさらに有し、前記注入同期部は、前記基準発振器から出力された第1の同期信号をもとに、前記RTD発振器を同期させる第2の同期信号を前記RTD発振器に注入することを特徴とする構成1~9のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成11)
前記制御部は、前記注入同期部の制御を行い、前記注入同期部の動作に応じて、前記発振調整部の制御を行うことを特徴とする構成10に記載の半導体デバイス。
(構成12)
前記注入同期部は、前記第1の同期信号の遅延時間または位相または強度を調整し、調整後の同期信号である前記第2の同期信号を前記RTD発振器に注入することを特徴とする構成10又は11に記載の半導体デバイス。
(構成13)
前記注入同期部は、前記RTD発振器に出力する信号の遅延時間または位相または強度に対応した信号を前記発振調整部に出力することを特徴とする構成10~12のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成14)
前記制御部は、前記基準発振器または前記注入同期部から出力される前記RTD発振器を同期させる同期信号の設定値に対応しない制御信号を前記発振調整部へ与え、前記発振
調整部は、当該同期信号に応じた制御を行うことを特徴とする構成10~13のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成15)
前記発振調整部は、前記RTD発振器に電気的に接続され、前記RTD発振器のインピーダンスを調整するインピーダンス調整手段を有することを特徴とする構成1~14のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成16)
前記インピーダンス調整手段は、バラクタダイオードを含む回路を備えることを特徴とする構成15に記載の半導体デバイス。
(構成17)
前記RTD発振器は、1つ以上のRTDと共振用の導体とを電気的に接続した構成を有することを特徴とする構成1~16のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成18)
前記RTD発振器は、1つ以上のアンテナに電気的に接続され、前記アンテナは前記発振信号からなる電磁波を放射または検出することを特徴とする構成1~17のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成19)
前記RTD発振器はアクティブアンテナであり、前記共振用の導体はアンテナを兼ねることを特徴とする構成17に記載の半導体デバイス。
(構成20)
前記RTD発振器の発振信号の変調または復調を行う変復調部をさらに有し、前記変復調部は、前記RTD発振器と電気的に接続することを特徴とする構成1~19のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成21)
前記変復調部に入力するベースバンド信号の強度または帯域幅に応じて、前記発振調整部を調整することを特徴とする構成20に記載の半導体デバイス。
(構成22)
前記変復調部に入力するベースバンド信号の帯域幅が広がるほど、前記発振調整部は前記RTD発振器の自励発振周波数と基準信号に含まれる周波数成分を近づけるように調整することを特徴とする構成20又は21に記載の半導体デバイス。
(構成23)
前記発振調整部は、前記バイアスを調整することで、前記RTD発振器で共振する信号の位相を変えることを特徴とする構成1~22のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成24)
前記発振調整部は、前記RTD発振器のインピーダンスを調整することで、RTD発振器で共振する信号の位相または強度を変えることを特徴とする構成1~23のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成25)
前記RTD発振器は、前記基準発振器の基準周波数のハーモニック成分に同期して発振するサブハーモニック周波数が注入同期されることを特徴とする構成1~24のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成26)
前記基準発振器により周波数を変化させると同時に、前記発振調整部は、前記基準発振器から出力される周波数のハーモニック成分に同期するバイアス電位に調整して、前記RTD発振器にバイアスを印加することを特徴とする構成1~25のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成27)
前記RTD発振器のバイアス電位は、RTDの負性抵抗領域に設定されることを特徴とする構成1~26のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成28)
前記RTD発振器と、前記RTD発振器と接続する前記アンテナとの組み合わせを複数、備えることを特徴とする構成18~27のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成29)
前記発振調整部は、複数の前記アンテナから放射されるそれぞれの信号の位相差を調整することを特徴とする構成28に記載の半導体デバイス。
(構成30)
前記RTD発振器で発振する発振信号は、0.3THzから0.6THzうちのいずれかの周波数の信号を含むことを特徴とする構成1~29のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成31)
前記基準発振器の出力する信号強度は、前記RTD発振器の出力よりも大きいことを特徴とする構成1~30のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成32)
N行M列(NとMは自然数)で配列された複数の前記RTD発振器を備え、前記発振調整部と前記注入同期部のそれぞれの個数はN×M以下であることを特徴とする構成1~31のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成33)
1つ以上のRTD発振器を含む第1のグループと、他の1つ以上のRTD発振器を含む第2のグループに分けたとき、第1のグループにおける前記RTD発振器をそれぞれグループ内で共通の前記発振調整部に接続し、第2のグループにおける前記RTD発振器をそれぞれグループ内で共通の前記注入同期部に接続することを特徴とする構成10~32のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成34)
N行M列(NとMは自然数)で配列された複数の前記RTD発振器を備え、1つ以上の隣接する前記RTD発振器の発振信号の位相差を変えることでビームフォーミングを行うことを特徴とする構成1~33のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成35)
複数の前記RTD発振器に対して、共通の基準発振器を備えることを特徴とする構成1~34のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成36)
複数の前記RTD発振器に対して、複数の基準発振器を備え、少なくとも2つの基準発振器の周波数および位相が一致することを特徴とする構成1~35のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成37)
前記アンテナは、正方形のパッチアンテナであることを特徴とする構成18~36のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成38)
前記電磁波は、テラヘルツ帯の周波数を持つ電磁波であることを特徴とする構成18~37のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成39)
前記RTD発振器は、マイクロストリップライン共振器であることを特徴とする構成1~38のいずれかに記載の半導体デバイス。
(構成40)
構成1から39のいずれか一に記載の半導体デバイスと、
電磁波を放射する発信部と、
電磁波を検出する受信部と、
を有することを特徴とする通信装置。
(構成41)
構成1から39のいずれか一に記載の半導体デバイスと、
電磁波を被写体に向けて放射する発信部と、
前記被写体から反射または透過した前記電磁波を検出する受信部と、
を有することを特徴とする撮像システム。
(構成42)
構成1から39のいずれか一に記載の半導体デバイスと、
電磁波を放射する発信部と、
放射した前記電磁波の反射波を検出する受信部と、
放射波と反射波から距離を計測する
ことを特徴とするレーダー装置。
【符号の説明】
【0072】
100 半導体デバイス
101 制御部
102 基準発振器
104 RTD発振器
106 発振調整部