(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144010
(43)【公開日】2025-10-02
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20250925BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20250925BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
F04C15/00 H
F04C15/06 A
F04C2/10 341G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043563
(22)【出願日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】水尻 健児
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC06
3H041DD02
3H041DD09
3H041DD14
3H041DD15
3H041DD38
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC06
3H044CC12
3H044DD01
3H044DD05
3H044DD11
3H044DD18
(57)【要約】
【課題】電動オイルポンプにおいてモータ部の出力軸の支持軸受を効率良く潤滑する。
【解決手段】ポンプ部2及びモータ部3を収容するハウジング6を備え、モータ部3の出力軸5が、第1及び第2転がり軸受16,17によりハウジング6に対して回転自在に支持され、出力軸5が回転するのに伴って、出力軸5の軸方向一方側の端部に設けたインナロータ21がポンプ室6A内で回転することにより、オイルが吸入及び吐出されると共に、ポンプ室6A内のオイルが給油路を介して第2転がり軸受17に供給される電動オイルポンプ1である。第2転がり軸受17にオイルを供給する第2給油路32は、モータ室6Bの第2転がり軸受17の収容空間とポンプ室6Aとを連通している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを吸入及び吐出するポンプ部と、該ポンプ部を駆動するモータ部と、前記ポンプ部及び前記モータ部を軸方向に並べた状態で収容するハウジングとを備え、
前記モータ部の出力軸が、その外周に結合したロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配した第1及び第2転がり軸受により前記ハウジングに対して回転自在に支持され、
前記出力軸が回転するのに伴って、前記出力軸の軸方向一方側の端部に設けられたポンプロータがポンプ室内で回転することにより、前記オイルが吸入及び吐出されると共に、前記ポンプ室内の前記オイルが給油路を介して前記第1及び第2転がり軸受に供給される電動オイルポンプであって、
前記第2転がり軸受に前記オイルを供給する給油路は、前記ポンプ室と前記第2転がり軸受の収容空間とを連通していることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項2】
前記第2転がり軸受に前記オイルを供給する給油路は、前記ハウジングに形成した外側給油路を含む請求項1に記載の電動オイルポンプ。
【請求項3】
前記第2転がり軸受に前記オイルを供給する給油路は、前記出力軸に形成した内側給油路を含む請求項1に記載の電動オイルポンプ。
【請求項4】
前記第2転がり軸受を潤滑した前記オイルをオイルタンクに排出する径方向のドレーン孔が前記ハウジングに設けられ、
前記ドレーン孔の孔中心と前記給油路の始端との軸方向離間距離が、前記第2転がり軸受の軸受中心と前記給油路の始端との軸方向離間距離よりも大きい請求項1に記載の電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に搭載される油圧機器にオイル(作動油)を供給するための油圧供給源として用いられる電動オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の特許文献1には、電動モータを有するモータ部と、モータ部の出力を受けて駆動されるポンプ部とが軸方向に連ねて配置された電動オイルポンプが記載されている。この電動オイルポンプにおいて、電動モータの出力軸は、軸方向に間隔を空けて配置された二つの転がり軸受(第1及び第2転がり軸受)によってハウジングに対して回転自在に支持されている。
【0003】
出力軸を支持する転がり軸受の軸受性能を長期間に亘って安定的に発揮可能とするには、潤滑油やグリース等の潤滑剤による内部潤滑が必要になるところ、特許文献1の電動ポンプにおいては、ポンプ部の内部(ポンプ室)から漏れ出たドレンオイルを潤滑剤として活用するようにしている。
【0004】
より詳しくは、中空状に形成された電動モータの出力軸はポンプ部の入力軸の外周に嵌合されており、両転がり軸受のうち相対的にポンプ室に近い側に配置された第1転がり軸受には、ポンプ部の入力軸の外周に沿って形成された給油路を介して上記ドレンオイルが供給される一方で、両転がり軸受のうち相対的にポンプ室から離れた側(ロータを挟んで第1転がり軸受の軸方向反対側)に配置された第2転がり軸受には、第1転がり軸受を通過(潤滑)した後、電動モータのロータとステータの間(に形成される僅かな径方向隙間)に導入されたドレンオイルが供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような軸受潤滑構造を採用した場合、ポンプ室に近接配置された第1転がり軸受には潤滑剤としてのドレンオイルを潤沢に供給することができる。その一方、第1転がり軸受を通過したドレンオイルは、電動モータのロータとステータの間(の径方向隙間)、及び電動モータの出力軸とポンプ部の入力軸の間(の径方向隙間)に導入されることから、第2転がり軸受には十分量のドレンオイルを供給することができず、第2転がり軸受の内部潤滑を適切に行うことができない可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、電動モータの出力軸をロータの軸方向両側で回転自在に支持する2つの転がり軸受を均等に潤滑可能とし、もって高品質で長寿命の電動オイルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、オイルを吸入及び吐出するポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータ部と、ポンプ部及びモータ部を軸方向に並べた状態で収容したハウジングとを備え、
モータ部の出力軸が、その外周に結合したロータの軸方向一方側及び他方側にそれぞれ配した第1及び第2転がり軸受によりハウジングに対して回転自在に支持され、
出力軸が回転するのに伴って、出力軸の軸方向一方側の端部に設けられたポンプロータがポンプ室内で回転することにより、オイルが吸入及び吐出されると共に、ポンプ室内のオイルが給油路を介して第1及び第2転がり軸受に供給される電動オイルポンプであって、
第2転がり軸受にオイルを供給する給油路は、ポンプ室と第2転がり軸受の収容空間とを連通していることを特徴とする。
【0009】
上記のように、ポンプ室と第2転がり軸受の収容空間とを連通する給油路を介して第2転がり軸受にオイルを供給するようにすれば、第2転がり軸受にオイルを直接的に供給することが可能となる。これにより、第1及び第2転がり軸受のうち、出力軸の軸方向一方側の端部に設けられるポンプロータ(が配置されるポンプ室)との軸方向離間距離が相対的に大きい第2転がり軸受にオイルを潤沢に供給すること、さらに言えば、第1及び第2転がり軸受を均等に潤滑することが可能になる。
【0010】
第2転がり軸受にオイルを供給する給油路は、ハウジングに形成した外側給油路、及び出力軸に形成した内側給油路の何れか一方又は双方を含むものとすることができる。
【0011】
上記構成において、ハウジングには、第2転がり軸受を潤滑したオイルをオイル回収部に向けて排出する径方向のドレーン孔を設けることができる。これにより、第2転がり軸受の内部潤滑に使用したオイルを再利用可能とし、新品のオイル使用量を減じることができる。この場合に、ドレーン孔の孔中心と給油路の始端との軸方向離間距離を、第2転がり軸受の軸受中心と給油路の始端との軸方向離間距離よりも大きくしておけば(給油路の始端を基準として、ドレーン孔を第2転がり軸受よりも軸方向で遠く離れた位置に配置すれば)、第2転がり軸受を効率良く潤滑することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のことから、本発明によれば、電動モータの出力軸を回転自在に支持する2つの転がり軸受を均等に潤滑することが可能となるので、高品質で長寿命の電動オイルポンプを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプの概略縦断面図である。
【
図2】
図1の電動オイルポンプに設けられるポンプ部の構成を説明するための概要図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプの概略縦断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプの概略縦断面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプの概略縦断面図である。
【
図7】(a)図及び(b)図は、何れも、本発明の実施形態に係る電動オイルポンプに組み込まれる第1転がり軸受の変形例を示す概略縦断面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプ1の概略縦断面図である。同図に示す電動オイルポンプ1は、例えば、自動車等の車両に搭載され、エンジンの停止中にトランスミッションに油圧を発生させるために使用されるものであって、オイルを吸入及び吐出するポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、これらを収容したハウジング6とを備える。以下の説明で使用する「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、それぞれ、電動モータ4の出力軸5の回転中心であるモータ部3の軸心Oと平行な方向、軸心Oを中心とする円の径方向及び周方向である。また、電動オイルポンプ1のうちポンプ部2が配置された側(
図1においては紙面右側)及びモータ部3が配置された側(
図1においては紙面左側)を、それぞれ、「軸方向一方側」及び「軸方向他方側」と言う。
【0016】
本実施形態のポンプ部2の概要を
図2も参照しながら説明する。ポンプ部2は、ポンプロータとしてのインナロータ21と、インナロータ21に対して偏心配置されたアウタロータ22と、ポンプ室6A(の内部空間)にオイルを吸入する吸入孔24と、ポンプ室6A外にオイルを吐出する吐出孔25とを有するトロコイドポンプで構成されている。インナロータ21には複数(図示例では6つ)の外歯が形成されており、当該外歯の一部がアウタロータ22に形成された複数(図示例では7つ)の内歯の一部と噛み合っている。インナロータ21は、モータ部3に設けられる電動モータ4の出力軸5の軸方向一方側の端部に結合され、モータ部3の軸心Oを回転中心として出力軸5と一体的に回転(図示例の形態では反時計回りに回転)する。アウタロータ22は、モータ部3の軸心Oに対して径方向外側にシフトした点(図示例の状態では点Os)を中心として回転可能な状態でポンプ室6Aに嵌合されている。これにより、出力軸5とともにインナロータ21が回転するのに伴ってアウタロータ22が従動回転する。
【0017】
上記構成のポンプ部2においてロータ21,22が回転すると、これに伴い、互いに噛合った外歯と内歯の間のロータ間すきま23の体積(容積)は徐々に増加し、最大容積になった後に徐々に減少する。このようなロータ間すきま23の容積変動プロセスにおいて、容積増加時には吸入孔24を介してポンプ室6Aの内部空間にオイルが吸入され、容積減少時には吐出孔25を介してポンプ室6A外にオイルが吐出される。吐出孔25を介して吐出されたオイルは、図示外の油圧配管を介してトランスミッションに供給される。なお、
図2にも示すように、オイルの吐出圧を高めるため、吐出孔25の孔径は、吸入孔24の孔径よりも小さく設定されるのが一般的である。
【0018】
モータ部3は、ハウジング6(に設けられるモータ室6B)の内周面に固定されたステータ11と、ステータ11の径方向内側に径方向すきまを介して対向配置されたロータ12とを有するラジアルギャップ型の電動モータ4を備えており、ポンプ部2と軸方向に並べて配置される。電動モータ4には、U相、V相及びW相を有する三相モータ(三相ブラシレスモータ)が採用される。そのため、ステータ11は、U相、V相及びW相に対応した複数のコイル11Bを有する。
【0019】
ステータ11は、その軸方向他方側の端部に円筒状のバスバーユニット13を取り付けたアセンブリの状態でモータ室6Bの内周面に固定される。ステータ11は、周方向に間隔を空けて配置された複数のティースを有するスタータコア11Aと、各ティースの外周に、インシュレータ等の絶縁部材を介してコイル線を巻き回すことで形成された複数のコイル11Bとを備える。上述したとおり、コイル11Bには、U相、V相及びW相コイルがあり、各コイル11Bはいわゆる集中巻きによって形成される。
【0020】
バスバーユニット13は、銅等の金属材料で形成された複数のバスバー13Aと、複数のバスバー13Aを互いに非接触の状態で絶縁保持した樹脂製のバスバーホルダ13Bとを備える。バスバーホルダ13Bは、上記のインシュレータに相当する部分を一体に有する場合もある。バスバー13Aとしては、少なくとも、U相用バスバー、V相用バスバー、及びW相用バスバーが設けられる。各バスバー13Aの長手方向の一端には、軸方向に延びるピン状の端子13A1が設けられ、各バスバー13Aの長手方向の他端は、対応する相のコイル11B(を構成するコイル線の端末部)と電気的に接続される。
【0021】
図示は省略しているが、ハウジング6を構成するモータカバー9の軸方向他方側には、電動モータ4の作動を制御する制御部を保持した基板が径方向に沿って配置され、各バスバー13Aに設けられた端子13A1は、基板に形成された端子嵌合孔に嵌合される。これにより、各バスバー13Aと制御部とが電気的に接続される。制御部には外部電源(図示省略)から電力が供給され、制御部で制御された電流は、バスバー13Aを介して電動モータ4の各コイル11Bに供給される。
【0022】
ロータ12は、電動モータ4の出力軸5と、この出力軸5の外周に出力軸5と一体回転可能に取り付けられたロータコア14と、ロータコア14の外周に周方向に間隔を空けて取り付けられた複数のマグネット15とを有する。出力軸5の軸方向一方側及び他方側の端部はロータコア14の軸方向外側に突出しており、この突出した部分に装着された第1転がり軸受16及び第2転がり軸受17により出力軸5がハウジング6に対して回転自在に支持されている。第1転がり軸受16及び第2転がり軸受17としては、例えば深溝玉軸受が使用される。
【0023】
本実施形態のモータ部3は、ロータ12(出力軸5)の回転角を検出する回転角検出部18を有する。回転角検出部18は、ブラケットを介して出力軸5の軸方向他方側の端部に取り付けられたセンサマグネット18Aと、センサマグネット18Aと軸方向で対向するように上記基板に取り付けられる図示しない回転センサとを備える。回転センサは、基板に設けられる制御部と電気的に接続され、その検出値が制御部に入力される。これにより、回転センサによる検出値が電動モータ4の作動制御に活用される。なお、回転角検出部18は必ずしも設ける必要はなく、省略しても構わない。すなわち、モータ部3は、回転センサを具備しないセンサレスの状態で使用される場合もある。
【0024】
ハウジング6は、軸方向一方側及び他方側の端部が開口した筒状のハウジング本体7と、ハウジング本体7の一端及び他端開口をそれぞれ封口するポンプカバー8及びモータカバー9とを備える。
【0025】
ハウジング本体7には、ポンプ部2を収容するポンプ室6Aと、モータ部3を収容するモータ室6Bと、ポンプ室6Aとモータ室6Bを軸方向に隔絶する環状の隔壁6Cとが設けられており、図示例のハウジング本体7は、電気及び熱の伝導性や加工性が良好なアルミニウム合金等の金属材料に切削等の機械加工を施すことで形成された機械加工品である。また、ポンプカバー8は、ハウジング本体7と同種の金属材料で形成され、ボルト部材を用いてハウジング本体7に対して固定されている。
【0026】
モータカバー9は、ハウジング本体7と同種の金属材料で形成され、内周に出力軸5(の軸方向他方側の端部)が配置されると共に第2転がり軸受17の外輪装着面が設けられた内側筒部9aと、ハウジング本体7の他端開口部の内周に嵌合される外側筒部9bとを一体に有する。このモータカバー9には、U相用、V相用及びW相用バスバー13Aの端子13A1が個別に挿通される3つの端子挿通孔9cが間隔を空けて形成されており、各端子13A1は、樹脂製のバスバーホルダ13Bに設けた端子保持部13B1に保持されている。これにより、ハウジング6(モータカバー9)とバスバー13Aの間の絶縁性が確保される。
【0027】
後述するように、本実施形態の電動オイルポンプ1においては、ポンプ室6Aの内部空間に介在するオイル(ポンプ部2によって吸入及び吐出されるオイル)を用いて転がり軸受16,17の内部潤滑、さらには電動モータ4の冷却が行われるため、モータ室6Bの内部空間にはオイルが常時存在する。このオイルがモータ室6B(ハウジング6)外に漏れ出し、例えば、基板に保持された制御部(を構成する電子部品等)に付着すると制御部が正常に作動しなくなるおそれがある。
【0028】
そこで、ハウジング6のうち、ハウジング本体7の内周面とこれに対向するモータカバー9の外側筒部9bの外周面との間、及びモータカバー9に設けた端子挿通孔9cの内周壁面とこれに対向する端子保持部13B1の外周面との間に、オイルシールとして機能するリング状の弾性部材(Oリング等)10を弾性的に圧縮変形させた状態で介在させている。また、出力軸5の軸方向他方側の端部が内周に配置される内側筒部9aの他端開口部は凹字状のカバーで閉塞される。以上の構成により、モータ室6B外への意図せぬオイル漏れが可及的に防止される。
【0029】
前述したように、本実施形態の電動オイルポンプ1においては、ポンプ室6Aの内部空間に介在するオイルを用いて転がり軸受16,17の内部潤滑、さらには電動モータ4の冷却が行われる。このため、電動オイルポンプ1は、電動モータ2が回転駆動されるのに伴ってその出力軸5の一端に結合されたインナロータ21がポンプ室6A内で回転することにより、ポンプ室6A内に介在するオイルを第1転がり軸受16及び第2転がり軸受17のそれぞれに直接的に供給可能な第1給油路31及び第2給油路32を有している。
【0030】
第1給油路31は、ハウジング本体7に設けた軸方向の貫通孔で構成され、その長手方向(軸方向)の一端がポンプ室6Aに開口すると共に、その長手方向の他端がモータ室6Bのうち第1転がり軸受16の収容空間(より詳細には、軸方向一方側の内外輪間の開口部の配置位置)に開口している。なお、第1転がり軸受16(を収容したモータ室6B)には、上記の第1給油路31のみならず、出力軸5の回転を担保するためにハウジング6の隔壁6Cの内周面と出力軸5の外周面との間に形成される径方向隙間を介してもオイルが供給されるが、この径方向隙間を介してのオイル供給量は、第1給油路31を介してのオイル供給量に比べて少ない。
【0031】
第1給油路31、及び隔壁6Cの内周面で形成される径方向隙間を介して第1転がり軸受16(の収容空間)に供給されたオイルは、第1転がり軸受16の内部(部材同士の摺動接触部)を潤滑した後、電動モータ4のロータ12及びステータ11等の冷却を行いながらモータ室6Bの内部空間を下方に移動し、ハウジング6(ハウジング本体7)に設けられた径方向のドレーン孔33を介してモータ室6Bの外側(下側)に排出される。ドレーン孔33の下側にはオイルタンク34が配置されており、モータ室6Bの外側に排出されたオイルは、オイルタンク34に回収される(
図1に符号35で示す油面を参照)。オイルタンク34に回収されたオイルは再利用されるかたちでポンプ室6Aに還流する。
【0032】
第2給油路32は、長手方向の一端32aがポンプ室6A(の内壁面)に開口すると共に長手方向の他端がモータ室6Bのうち第2転がり軸受17の収容空間(の内壁面)に開口することにより、ポンプ室6Aと第2転がり軸受17の収容空間とを連通している。本実施形態の第2給油路32は、ハウジング6に形成される外側給油路40で構成されており、ロータ12の回転を担保するためにステータ11とロータ12の間に設けられる径方向隙間とは別に設けられている。外側給油路40は、長手方向の一端がポンプ室6Aの内壁面に開口すると共に長手方向の他端がハウジング本体7の軸方向他方側の端面に開口するようにハウジング本体7に設けられ、モータカバー9の内側筒部9aと外側筒部9bの間(モータカバー9とバスバーユニット13の間)に画成される環状空間19とポンプ室6Aとを連通させる屈曲形態の連通孔41と、上記の環状空間19と、長手方向の一端及び他端がモータカバー9の内側筒部9aの内周面及び外周面にそれぞれ開口し、上記環状空間19と第2転がり軸受17の収容空間とを連通させる連通孔42とからなる。
【0033】
図2にも示すように、第2転がり軸受17を潤滑するために設けられた第2給油路32(外側給油路40)のうちポンプ室6Aに対する開口部である長手方向の一端32aは、ポンプ室6Aの内壁面のうち、アウタロータ22の外径面と径方向で重なる位置に配置されている。これは、仮に、第2給油路32の一端32aがロータ間隙間23と径方向で重なる位置に開口していると、第2給油路32、ひいては第2転がり軸受17に必要以上にオイルを供給してしまい、電動オイルポンプ1の機能を低下させる可能性が高まるからである。
【0034】
また、第2給油路32の一端32aがオイルの吸入孔24に近い位置に開口していると、電動オイルポンプ1の駆動時に吸入孔24に生じる吸引力により、第2給油路32へのオイルの流れ込み量、ひいては第2転がり軸受17に対するオイル供給量が減少することが懸念される。そのため、第2給油路32の一端(一端開口)32aは、吐出孔25に対する周方向の離間距離が吸入孔24に対する周方向の離間距離よりも小さくなる位置(周方向において、吸入孔24よりも吐出孔25に接近した位置)に配置するのが好ましい。例えば、本実施形態の場合、
図2中に符号Wで示す周方向範囲内に第2給油路32の一端32aを配置する。また、第2給油路32の一端32aをポンプ室6Aに直接接続するように設けることで、例えば、第2給油路32の一端32aを吸入孔24や吐出孔25に直接接続するように設けるよりも部品点数や加工コストを削減する事ができる。
【0035】
金属材料の機械加工品であるハウジング本体7に設けられる図示例の屈曲形態の連通孔41は、例えば、
(1)軸方向(径方向)に対して傾斜した傾斜貫通孔と、モータ室6Bよりも径方向外側で軸方向に延びる軸方向貫通孔とを両者がハウジング本体7の所定位置で交差するように形成し、その後、
(2)傾斜貫通孔のうち両貫通孔の交差部よりも径方向外側の部分(
図1に破線で示す部分)と、軸方向貫通孔のうち両貫通孔の交差部よりも軸方向一方側の部分(
図1に破線で示す部分)とを埋める、
という手順を踏んで形成することができる。
【0036】
以上で説明した本実施形態の電動オイルポンプ1のように、モータ部3のロータ12の回転を担保するためにロータ12とステータ11との間に通常設けられる隙間(径方向隙間)とは別に、ポンプ室6Aとモータ室6Bの第2転がり軸受17の収容空間とを連通する給油路(第2給油路)32を設け、この第2給油路32を介して第2転がり軸受17にオイルを供給するようにすれば、第2転がり軸受17にオイルを直接的に供給することが可能となる。これにより、第1転がり軸受16及び第2転がり軸受17のうち、出力軸5の軸方向一方側の端部に設けられるインナロータ21(が配置されるポンプ室6A)との軸方向離間距離が相対的に大きい第2転がり軸受17にもオイルを潤沢に供給することができるので、第1転がり軸受16と第2転がり軸受17を等しく潤滑することが可能になる。これにより、高品質で長寿命の電動オイルポンプ1を実現することができる。
【0037】
モータ室6B内の第2転がり軸受17(付近)に供給されたオイルは、第2転がり軸受17の内部潤滑、さらには電動モータ4のステータ11及びロータ12等の冷却を行いながらモータ室6Bの内部空間を下方に移動し、ドレーン孔33を介してモータ室6Bの下側に排出される。
【0038】
ここで、ドレーン孔33の孔中心C2は、第2転がり軸受17の軸受中心C1よりも軸方向他方側に位置している。つまり、ドレーン孔33の孔中心C2と第2給油路32の始端(長手方向の一端32a)との軸方向離間距離は、第2転がり軸受17の軸受中心C1と第2給油路32の長手方向の一端32aとの軸方向離間距離よりも大きくなっている。これにより、第2転がり軸受17を効率良く潤滑することができる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態に係る電動オイルポンプ1について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0040】
図3に、本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプ1の概略縦断面図を示す。なお、
図3においては、
図1に記載していたポンプカバー8を省略しているが、完成品の電動オイルポンプ1においてはポンプ室6Aの一端開口がポンプカバー8で封口される。
【0041】
図3に示す電動オイルポンプ1が
図1に示すものと異なる主な点は、
・出力軸5及びポンプロータ21が回転するのに伴ってポンプ室6A内のオイルを第2転がり軸受17に供給するための第2給油路32として、ハウジング6に形成した上記の外側給油路40に加え、出力軸5に形成した内側給油路50が設けられている点、及び
・出力軸5の外周面とロータコア14の内周面との間にロータ12の軸方向両側を連通させる軸方向の連通路を設けた点、にある。
【0042】
上記の1つ目の相違点に関し、図示例の内側給油路50は、出力軸5を軸方向に貫通する軸方向孔51と、出力軸5を径方向に貫通する径方向孔52とを組み合わせることで形成されている。径方向孔52は、出力軸5の外周面のうち、ハウジング6の隔壁6Cと対向する軸方向領域と、第2転がり軸受17の軸方向他方側に隣接した軸方向領域とに開口するように設けられている。この場合、出力軸5が回転するのに伴ってポンプロータ21が回転すると、ポンプ室6A内のオイルは、ハウジング6に形成した外側給油路40、及び出力軸5に形成した内側給油路50に流れ込み、両給油路40,50を介して第2転がり軸受17の収容空間にオイルが供給される。そのため、第2転がり軸受17を一層効率良く潤滑することができる。
【0043】
上記の2つ目の相違点に関し、軸方向の連通路は、例えば、
図4に示すように、ロータコア14の内周面に軸方向溝14aを設けることで形成される。この軸方向の連通路は、出力軸5の外周面に軸方向溝を設けることで形成することもできる。このような連通路を設けておけば、第1転がり軸受16の内部空間を通過(潤滑)して第1転がり軸受16の軸方向他方側(ロータ12の軸方向一方側)に到達したオイルを上記軸方向の連通路を介してロータ12の軸方向他方側、つまり第2転がり軸受17に供給することができる。そのため、第2転がり軸受17をより一層効率良く潤滑することができる。なお、出力軸5とロータコア14との間に設ける上記の連通路は、
図1に示す電動オイルポンプ1に設けても良い。
【0044】
図5に、本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプ1の概略縦断面図を示す。同図に示す電動オイルポンプ1においても
図3に示すものと同様に、
図1に記載していたポンプカバー8を省略しているが、完成品の状態においてはポンプ室6Aの一端開口がポンプカバー8で封口される。
【0045】
この実施形態の電動オイルポンプ1が
図1に示す電動オイルポンプ1と異なる主な点は、ハウジング6が、ハウジング本体7の一部及びモータカバー9を一体化したものに相当する第1のハウジング形成部材61と、ハウジング本体7の残部に相当する第2のハウジング形成部材62と、図示しないポンプカバー8とからなる点にある。
【0046】
図6に、本発明の他の実施形態に係る電動オイルポンプ1の概略縦断面図を示す。同図に示す電動オイルポンプ1においても
図3に示すものと同様に、
図1に記載していたポンプカバー8を省略しているが、完成品の状態においてはポンプ室6Aの一端開口がポンプカバー8で封口される。
【0047】
この実施形態の電動オイルポンプ1が
図1に示す電動オイルポンプ1と異なる主な点は、ハウジング本体7を金属材料の機械加工品ではなく、3Dプリンタによる造形品とした点にある。係る造形品であれば、軸方向及び径方向(径方向に対して所定角度傾斜した斜め方向)の貫通孔を組み合わせずとも、屈曲形態の給油路(第2給油路32)を形成することができる。そのため、給油路32を構成する貫通孔のうち給油路32にはならない部分(例えば
図1等に破線で示す部分)を封止する、という孔埋め作業が不要になる。
【0048】
以上で説明した電動オイルポンプ1に組み込んだ第1転がり軸受16は、内輪と外輪の間の軸方向一方側(ポンプ部側)及び軸方向他方側(モータ部側)開口部を何れも開放したシールレスタイプの転がり軸受であるが、第1転がり軸受16は、
図7(a)(b)に例示するようなシール付きタイプに置き換えることも可能である。
図7(a)に示す転がり軸受は、モータ部側開口部を封口するシール部材Saを具備する片側シールタイプであり、
図7(b)に示す転がり軸受(第1転がり軸受16)は、モータ部側開口部を封口するシール部材Saと、ポンプ部側開口部に配置された孔開きのシール部材(貫通孔を介して軸受内外でオイルを行き来させることができるシール部材)Sbとを具備する両側シールタイプである。
図7(a)(b)に例示するような第1転がり軸受16を採用した場合、内部空間への積極的なオイル流入を許容しつつ、内部空間に流入したオイルの滞留性が向上するので、第1転がり軸受16の潤滑効果を高めることができる。
【0049】
また、図示は省略するが、第2転がり軸受17についても、第1転がり軸受16と同様に、シールレスタイプからシール付きタイプに置き換えることが可能である。この場合、第2給油路32の終端位置に応じて、シール部材の配置位置等を決定すれば良い。例えば、
図1に示す実施形態の電動オイルポンプ1では、第2給油路32の終端側開口部が第2転がり軸受17よりも軸方向他方側に位置しているので、第2転がり軸受17として、内外輪間のポンプ部側開口部がシール部材で封口されたタイプのシール付き転がり軸受を使用すれば、第2転がり軸受17の内部空間への積極的なオイル流入を許容しつつ、内部空間に流入したオイルの滞留性が向上する。
【0050】
本発明は以上で説明した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電動オイルポンプ
2 ポンプ部
3 モータ部
4 電動モータ
5 出力軸
6 ハウジング
6A ポンプ室
6B モータ室
7 ハウジング本体
8 ポンプカバー
9 モータカバー
11 ステータ
11B コイル
12 ロータ
16 第1転がり軸受
17 第2転がり軸受
21 インナロータ(ポンプロータ)
22 アウタロータ
23 ロータ間すきま
24 吸入孔
25 吐出孔
31 第1給油路
32 第2給油路
33 ドレーン孔
40 外側給油路
50 内側給油路
O 軸心