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特開2025-144097シェル形ころ軸受、並びにこれを備える回転機械及び電動アクスルユニット
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  • 特開-シェル形ころ軸受、並びにこれを備える回転機械及び電動アクスルユニット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144097
(43)【公開日】2025-10-02
(54)【発明の名称】シェル形ころ軸受、並びにこれを備える回転機械及び電動アクスルユニット
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/48 20060101AFI20250925BHJP
   F16C 19/30 20060101ALI20250925BHJP
   F16C 33/54 20060101ALI20250925BHJP
   F16C 19/24 20060101ALI20250925BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
F16C19/48
F16C19/30
F16C33/54 Z
F16C19/24
F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043709
(22)【出願日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】風間 貞経
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克史
(72)【発明者】
【氏名】久保田 好信
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA14
3J701AA24
3J701AA27
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA53
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA82
3J701BA34
3J701BA35
3J701BA44
3J701BA47
3J701BA56
3J701BA64
3J701CA17
3J701DA09
3J701DA16
3J701EA02
3J701FA02
3J701FA15
3J701FA46
3J701FA53
3J701GA02
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】軸の端部を支持する用途に対応のシェル外輪とラジアル軸受部とスラスト軸受部とを備えるシェル形ころ軸受の軸受幅を抑える。
【解決手段】シェル外輪4は、筒部4aの軸方向一端側から突き出た一端側内鍔部4bと、筒部4aの軸方向他端側から比較的に突き出た他端側内鍔部4cとを有する。ラジアル軸受部は、筒部4aの第一の軌道面4eと、複数の第一の針状ころ5と、第一の保持器6とを有し、スラスト軸受部は、他端側内鍔部4cの第二の軌道面4fと、複数の第二の針状ころ8と、第二の保持器9とを有し、第一の保持器6は一端側環部6aと他端側環部6bとを有する。他端側内鍔部4cは第二の保持器9を径方向内側から径方向に支持する中心筒部4dを有する。スラスト軸受部は筒部4aから径方向内側に離れた状態に配置され、他端側環部6bはスラスト軸受部に対して径方向外側に位置するように筒部4aとスラスト軸受部との間に突き出ている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向及び円周方向に延びる筒部と、前記筒部の軸方向一端側から径方向内側へ突き出た一端側内鍔部と、前記筒部の軸方向一端側とは反対の軸方向他端側から径方向内側へ前記一端側内鍔部よりも突き出た他端側内鍔部とを有するシェル外輪と、
前記筒部に形成された第一の軌道面と、前記第一の軌道面を転動する複数の第一のころと、これら第一のころを保持する第一の保持器とを有するラジアル軸受部と、
前記他端側内鍔部に形成された第二の軌道面と、前記第二の軌道面を転動する複数の第二のころと、これら第二のころを保持する第二の保持器とを有するスラスト軸受部と、を備え、
前記第一の保持器が、前記複数の第一のころに対して軸方向一端側で円周方向に延びる一端側環部と、これら第一のころに対して軸方向他端側で円周方向に延びる他端側環部とを有するシェル形ころ軸受において、
前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器に対して径方向内側に位置しかつ前記第二の保持器を径方向に支持する中心筒部を有し、
前記他端側環部が、前記スラスト軸受部に対して径方向外側に位置するように前記筒部と前記スラスト軸受部との間に配置されていることを特徴とするシェル形ころ軸受。
【請求項2】
前記他端側環部が前記一端側環部よりも幅広に設けられている請求項1に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項3】
前記一端側環部が、円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部を有し、
前記他端側環部が、前記一端側環部の接合部と軸方向に対向する位置で円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部と、溶接実施前に切り欠かれたノッチとを有する請求項2に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項4】
前記他端側環部が前記他端側内鍔部に軸方向に突き合い可能な状態に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項5】
前記複数の第二のころが、前記複数の第一のころと軸方向に対向不可な状態に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項6】
前記スラスト軸受部の外径が、前記複数の第一の針状ころのピッチ円直径よりも小さく設けられている請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項7】
前記スラスト軸受部が、前記他端側内鍔部と軸方向に対向する軌道盤を含み、
前記軌道盤が、前記第二の保持器に対して径方向外側に位置する外周部と、前記外周部を前記第二の保持器と径方向に対向する位置に保つ分離止め部とを有する請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項8】
前記軌道盤の外径が、前記複数の第一の針状ころに対する仮想内接円の直径よりも大きく設けられている請求項7に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項9】
前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器を前記中心筒部と径方向に対向する位置に保つ抜け止め部を有する請求項7に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項10】
前記第二の保持器の外径が、前記複数の第一の針状ころに対する仮想内接円の直径よりも大きく設けられており、
前記スラスト軸受部が軌道盤を含まない請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項11】
前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器を前記中心筒部と径方向に対向する位置に保つ抜け止め部を有し、
前記スラスト軸受部が軌道盤を含まない請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項12】
前記シェル外輪が、前記筒部と前記他端側内鍔とを繋ぐ外周端部から前記筒部の外周まで軸方向一端側に向かう程に大径になるテーパ状面を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項13】
前記第一の保持器及び前記第二の保持器の少なくとも一方の保持器が、少なくとも一か所のポケットを空にした状態で配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受と、
前記筒部を径方向に支持するハウジング内周と、
前記他端側内鍔部を軸方向に支持するハウジング端面と、
前記複数の第一のころに内接する円筒面と、前記複数の第二のころに軸方向に対向する端面と、これら円筒面と端面とを繋ぐ角部に形成された面取りとを有する軸と、を備え、
前記第一の保持器が軸方向他端側に移動し得る範囲内で前記第一のころが前記軸の面取りと径方向に対向し得るように設けられている回転機械。
【請求項15】
電動モータと、前記電動モータの回転を減速する歯車減速機構と、前記歯車減速機構を収容するハウジングとを備え、
前記歯車減速機構が、前記電動モータと同軸に配置された入力軸と、前記入力軸と平行に配置された軸と、前記軸に設けられたはすば歯車と、前記軸と前記ハウジングとの間に配置された請求項1から3のいずれか1項に記載のシェル形ころ軸受とを有する電動アクスルユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シェル外輪とラジアル軸受部とスラスト軸受部とを備え、軸の端部を支持するために使用されるシェル形ころ軸受、並びにこれを備える回転機械及び電動アクスルユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両駆動用の電動モータと平行軸歯車減速機とインバータとを一体化した電動アクスルユニット(いわゆるe-Axle)では、平行軸歯車減速機の二段目以降の軸に設ける歯車としてはすば歯車を採用したものがある。はすば歯車の噛み合い部においては、ラジアル荷重とアキシャル荷重の両方が発生する。これら両方の荷重は、その軸をハウジングに対して回転自在に支持する転がり軸受に負荷される。この例のように、ラジアル荷重及びアキシャル荷重を軸の端部とハウジング間で負荷する用途のコンパクトな転がり軸受として、ラジアル軸受部とスラスト軸受部とを備えるシェル形ころ軸受がある(特許文献1)。
【0003】
特許文献1に開示されたシェル形ころ軸受は、円形筒部の両側に内鍔部が設けられ、その一端側内鍔部よりも他端側内鍔部が径方向に高く設けられたシェル外輪を備え、そのシェル外輪の内側にラジアル軸受部とスラスト軸受部とが組み込まれたものである。そのラジアル軸受部は、シェル外輪の円筒状部に形成された軌道面と、この軌道面を転動する複数の針状ころと、これら針状ころを保持する保持器とを有する。そのスラスト軸受部は、軸の端面に軸方向に支持される軌道盤と、シェル外輪の他端側内鍔部に形成された軌道面と、この軌道面と軌道盤との間に配置された複数の針状ころと、これら針状ころを保持する保持器とを有する。スラスト軸受部の保持器は、シェル外輪の円筒状部によって径方向に案内されるか、他端側内鍔部に形成された中心筒部によって径方向に案内される。スラスト軸受部の軌道盤、保持器及び針状ころは、ラジアル軸受部の保持器及び針状ころと軸方向に対向するように径方向外側へ突き出た状態に配置されている。このようなスラスト軸受部の軌道盤、保持器及び針状ころの配置により、シェル形ころ軸受が単独の状態であってもスラスト軸受部の非固定要素(軌道盤、保持器、針状ころ)がシェル外輪から軸方向に抜け落ちないようにラジアル軸受部で規制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-206546号公報(図14図16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたシェル形ころ軸受は、ラジアル軸受部の針状ころとスラスト軸受部との間においてラジアル軸受部の保持器の他端側環部を配置するための軸方向間隔を確保する必要があり、その分、シェル形ころ軸受の幅を要する点で改良の余地がある。
【0006】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、軸の端部を支持する用途に対応のシェル外輪とラジアル軸受部とスラスト軸受部とを備えるシェル形ころ軸受の軸受幅を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、軸方向及び円周方向に延びる筒部と、前記筒部の軸方向一端側から径方向内側へ突き出た一端側内鍔部と、前記筒部の軸方向一端側とは反対の軸方向他端側から径方向内側へ前記一端側内鍔部よりも突き出た他端側内鍔部とを有するシェル外輪と、前記筒部に形成された第一の軌道面と、前記第一の軌道面を転動する複数の第一のころと、これら第一のころを保持する第一の保持器とを有するラジアル軸受部と、前記他端側内鍔部に形成された第二の軌道面と、前記第二の軌道面を転動する複数の第二のころと、これら第二のころを保持する第二の保持器とを有するスラスト軸受部と、を備え、前記第一の保持器が、前記複数の第一のころに対して軸方向一端側で円周方向に延びる一端側環部と、これら第一のころに対して軸方向他端側で円周方向に延びる他端側環部とを有するシェル形ころ軸受において、前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器に対して径方向内側に位置しかつ前記第二の保持器を径方向に支持する中心筒部を有し、前記スラスト軸受部が前記筒部から径方向内側に離れた状態に配置されており、前記他端側環部が、前記スラスト軸受部に対して径方向外側に位置するように前記筒部と前記スラス前記ト軸受部との間に突き出た状態に配置されていることを特徴とするシェル形ころ軸受、という構成1を採用した。
【0008】
上記構成1のように、シェル外輪の他端側内鍔部に第二の保持器を径方向に支える中心筒部を設け、第二の保持器を筒部で径方向に支持することを不要とし、スラスト軸受部とシェル外輪の筒部とを径方向内側に離して、第一の保持器の他端側環部をスラスト軸受部に対して径方向外側の位置へ突出させるための空間を確保することが可能になる。その他端側環部の突出分、第一の保持器及び複数の第一のころの全部を他端側内鍔部に近寄せて配置することが可能になり、これにより、第一のころとスラスト軸受部との間の軸方向間隔を狭く設けてシェル形ころ軸受の軸受幅を抑えることができる。
【0009】
上記構成1において、前記他端側環部が前記一端側環部よりも幅広に設けられている、という構成2を採用することができる。
【0010】
上記構成2によると、第一の保持器における一端側環部の幅を比較的短く設ける分で第一のころを長く設けつつ、他端側環部の幅を比較的長く設けて第一の保持器の円環剛性を確保することができる。
【0011】
上記構成2において、前記一端側環部が、円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部を有し、前記他端側環部が、前記一端側環部の接合部と軸方向に対向する位置で円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部と、前記一端側環部の接合部の軸方向長さと前記他端側環部の接合部の軸方向長さとの差を減少させるように溶接実施前に切り欠かれたノッチとを有する、という構成3を採用することができる。
【0012】
上記構成3によると、他端側環部の接合部と一端側環部の接合部間で溶接に伴う熱的影響の相違が抑えられた第一の保持器とすることができる。
【0013】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、前記他端側環部が前記他端側内鍔部に軸方向に突き合い可能な状態に配置されている、という構成4を採用することができる。
【0014】
上記構成4によると、スラスト軸受部の軸方向断面高さの略全部を他端側環部の配置に活用することが可能になり、ひいては第一のころとスラスト軸受部との間の軸方向間隔を特に狭く設けることができると共に、第一のころのスキュー挙動時にスラスト軸受部で第一のころや他端側環部を受けずとも、ハウジングに軸方向に支持される他端側内鍔部で他端側環部を受けて前記スキュー挙動を抑制することもできる。
【0015】
上記構成1から4のいずれか1つにおいて、前記複数の第二のころが、前記複数の第一のころと軸方向に対向不可な状態に配置されている、という構成5を採用することができる。
【0016】
上記構成5によると、スラスト軸受部の複数の第二のころの全部を軸の端面とハウジング間に配置することが可能になるので、第二のころをアキシャル荷重の負荷に無駄なく活用することができる。
【0017】
上記構成1から5のいずれか1つにおいて、前記スラスト軸受部の外径が、前記複数の第一の針状ころのピッチ円直径よりも小さく設けられている、という構成6を採用することができる。
【0018】
上記構成6によると、他端側環部とスラスト軸受部との干渉を避けることができる。
【0019】
上記構成1から6のいずれか1つにおいて、前記スラスト軸受部が、前記他端側内鍔部と軸方向に対向する軌道盤を含み、前記軌道盤が、前記第二の保持器に対して径方向外側に位置する外周部と、前記外周部を前記第二の保持器と径方向に対向する位置に保つ分離止め部とを有する、という構成7を採用することができる。
【0020】
上記構成7によると、シェル形ころ軸受の組み立てに際し、軌道盤の外周部及び分離止めで第二の保持器に対する軌道盤の径方向及び軸方向位置を所定に保持して非分離化し、これらをまとめて中心筒部で径方向に支持することができ、シェル形ころ軸受の組み立てを容易に行うことができる。
【0021】
上記構成7において、前記軌道盤の外径が、前記複数の第一のころに対する仮想内接円の直径よりも大きく設けられている、という構成8を採用することができる。
【0022】
上記構成8によると、軌道盤と複数の第一のころとの軸方向対向状態を確保し、シェル形ころ軸受が単独の状態であっても、第二の保持器と非分離化された軌道盤が軸方向に抜け落ちないように複数の第一のころで規制することができ、ひいては、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0023】
上記構成7又は8において、前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器を前記中心筒部と径方向に対向する位置に保つ抜け止め部を有する、という構成9を採用することができる。
【0024】
上記構成9によると、シェル形ころ軸受が単独の状態であっても、軌道盤と非分離化された第二の保持器を中心筒部で径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように抜け止め部で規制することができ、ひいては、軌道盤の外径と複数の第一のころに対する仮想内接円の直径との大小関係を問わず、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0025】
上記構成9において、前記軌道盤の外径が、前記複数の第一のころに対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられている、という構成10を採用することができる。
【0026】
上記構成10によると、他端側環部と軌道盤との間の空間を広く設け、スラスト軸受部とラジアル軸受部間で潤滑油を流動し易くすることができる。
【0027】
上記構成1から6のいずれか1つにおいて、前記第二の保持器の外径が、前記複数の第一のころに対する仮想内接円の直径よりも大きく設けられており、前記スラスト軸受部が軌道盤を含まない、という構成11を採用することができる。
【0028】
上記構成11によると、スラスト軸受部の軸方向断面高さに軌道盤を含まないため、軌道盤を含む場合よりもシェル外輪の幅を抑えてシェル形ころ軸受の軸受幅を抑えることになる。また、シェル形ころ軸受が単独の状態であっても、第二の保持器を中心筒部で径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように複数の第一のころで規制することができ、ひいてはスラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0029】
上記構成1から6、11のいずれか1つにおいて、前記他端側内鍔部が、前記第二の保持器を前記中心筒部と径方向に対向する位置に保つ抜け止め部を有し、前記スラスト軸受部が軌道盤を含まない、という構成12を採用することができる。
【0030】
上記構成12によると、スラスト軸受部の軸方向断面高さに軌道盤を含まないため、軌道盤を含む場合よりもシェル外輪の幅を抑えてシェル形ころ軸受の軸受幅を抑えることになる。また、シェル形ころ軸受が単独の状態であっても、第二の保持器を中心筒部で径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように抜け止め部で規制することができ、ひいては、第二の保持器の外径と複数の第一の針状ころに対する仮想内接円の直径との大小関係を問わず、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0031】
上記構成12において、前記第二の保持器の外径が、前記複数の第一のころに対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられている、という構成13を採用することができる。
【0032】
上記構成13によると、他端側環部と第二の保持器との間の空間を広く設け、スラスト軸受部とラジアル軸受部間で潤滑油を流動し易くすることができる。
【0033】
上記構成1から13のいずれか1つにおいて、前記一端側内鍔部のビッカース硬さが250以上である、という構成14を採用することができる。
【0034】
上記構成14によると、シェル外輪をハウジングに圧入する際に軸方向に押される一端側内鍔部の変形を防止することができる。
【0035】
上記構成1から14のいずれか1つにおいて、前記シェル外輪が、前記筒部と前記他端側内鍔とを繋ぐ外周端部から前記筒部の外周まで軸方向一端側に向かう程に大径になるテーパ状面を有する、という構成15を採用することができる。
【0036】
上記構成15によると、シェル外輪の一端側内鍔部を押してシェル外輪をハウジングに圧入する際に、外周端部からテーパ状面を経て筒部の外周まで連続する勾配でシェル外輪を圧入し易くすることができる。
【0037】
上記構成1から15のいずれか1つにおいて、前記第一の保持器及び前記第二の保持器の少なくとも一方の保持器が、少なくとも一か所のポケットを空にした状態で配置されている、という構成16を採用することができる。
【0038】
上記構成16によると、シェル形ころ軸受の運転中に潤滑油が軸受内部で空のポケットを通って流動し易くなるので、軸受内部の潤滑を促進することができる。
【0039】
上記構成1から16のいずれか1つに記載のシェル形ころ軸受と、前記筒部を径方向に支持するハウジング内周と、前記他端側内鍔部を軸方向に支持するハウジング端面と、前記複数の第一のころに内接する円筒面と、前記複数の第二のころに軸方向に対向する端面と、これら円筒面と端面とを繋ぐ角部に形成された面取りとを有する軸と、を備え、前記第一の保持器が軸方向他端側に移動し得る範囲内で前記第一のころが前記軸の面取りと径方向に対向し得るように設けられている回転機械、という構成17を採用することができる。
【0040】
上記構成17によると、スラスト軸受部と第一のころとが軸の面取り幅程度まで近づけて配置されるので、シェル形ころ軸受の軸受幅を特に抑えることができる。
【0041】
電動モータと、前記電動モータの回転を減速する歯車減速機構と、前記歯車減速機構を収容するハウジングとを備え、前記歯車減速機構が、前記電動モータと同軸に配置された入力軸と、前記入力軸と平行に配置された軸と、前記軸に設けられたはすば歯車と、前記軸と前記ハウジングとの間に配置された上記構成1から17のいずれか1つに係るのシェル形ころ軸受、という構成18を採用することができる。
【0042】
上記構成18によると、はすば歯車から軸に負荷されるアキシャル荷重とラジアル荷重を一個のシェル形ころ軸受で受けることができるので、ハウジングに対する軸の支持構造を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0043】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、軸の端部を支持する用途に対応のシェル外輪とラジアル軸受部とスラスト軸受部とを備えるシェル形ころ軸受の軸受幅を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】この発明の第一実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図2図1のシェル形ころ軸受の半断面付近の拡大図
図3】この発明の第二実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図4】この発明の第三実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図5】この発明の第四実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図6】この発明の第五実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図7】この発明の第六実施形態に係るシェル形ころ軸受及び回転機械の要部を示す縦断正面図
図8】上記実施形態に係るシェル外輪の変更例を示す部分縦断正面図
図9】上記実施形態に係る第一の保持器の変更例を示す部分展開平面図
図10】上記実施形態に係るシェル形ころ軸受を備える電動アクスルユニットを示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0045】
この発明の一例としての第一実施形態に係るシェル形ころ軸受及びこれを含む回転機械を添付図面の図1図2に基づいて説明する。なお、本実施形態では第一のころおよび第二のころの一例として針状ころを採用するが、これに限定する必要はなく、円筒ころや棒状ころ等を採用してもよい。
【0046】
図1図2に示す回転機械は、シェル形ころ軸受1と、軸2と、ハウジング3とを備える。シェル形ころ軸受1は、軸2の一端部をハウジング3に対して回転自在に支持し、軸2に負荷されるラジアル荷重及び一方向のアキシャル荷重を受けるためのものである。
【0047】
シェル形ころ軸受1は、シェル外輪4と、ラジアル荷重のみを受けるラジアル軸受部と、アキシャル荷重のみを受けるスラスト軸受部とを備える。
【0048】
以下、シェル形ころ軸受1の軸受中心軸に沿った方向のことを「軸方向」といい、その軸受中心軸に対して直角な方向のことを「径方向」といい、その軸受中心軸を中心とした円周が延びる方向のことを「円周方向」という。また、径方向において、軸受中心軸に近づく側を「径方向内側」といい、反対に軸受中心軸から離れる側を「径方向外側」という。図1図2において、軸方向は左右方向に相当し、径方向は上下方向に相当する。
【0049】
シェル外輪4は、軸方向及び円周方向に延びる筒部4aと、筒部4aの軸方向一端側(図示において右側、以下、同じ。)から径方向内側へ突き出た一端側内鍔部4bと、筒部4aの軸方向一端側とは反対の軸方向他端側(図示において左側、以下、同じ。)から径方向内側へ一端側内鍔部4bよりも突き出た他端側内鍔部4cとを繋ぎ目なく有する。シェル形ころ軸受1の軸受幅は、シェル外輪4の幅に一致している。ここで、ある対象の「幅」とは、軸方向における前記対象の全長を意味する。
【0050】
一端側内鍔部4bは、径方向に沿って延びている。他端側内鍔部4cは、径方向に沿って延びてから軸方向一端側へ曲げられた中心筒部4dを有する。中心筒部4dは、筒部4aと径方向に間隔を空けて対向し、かつ軸方向に沿って円周方向全周に延びる円筒部を含む。中心筒部4dの内径面は、シェル形ころ軸受1の内径を規定する部位となっている。
【0051】
シェル外輪4は、金属板によって形成されている。ここでは、その金属板として鋼板が採用されている。その鋼板として、例えばJIS規格に規定されたSCM415材、SPC材が挙げられる。
【0052】
なお、一枚の金属板からシェル外輪4をプレス加工で成形する都合上、他端側内鍔部4cの肉厚が最も厚くなっている。筒部4aの肉厚は、プレス加工時にしごかれたことにより他端側内鍔部4cの肉厚よりも薄くなっている。一端側内鍔部4bの肉厚は、筒部4aの軸方向一端側から径方向内側へ折り曲げるために筒部4aの肉厚よりも薄くなっている。
【0053】
シェル形ころ軸受1のラジアル軸受部は、筒部4aの内周側に形成された第一の軌道面4eと、第一の軌道面4eを転動する複数の第一の針状ころ5と、これら第一の針状ころ5を保持する第一の保持器6とで構成されている。
【0054】
シェル形ころ軸受1のスラスト軸受部は、他端側内鍔部4cと軸方向に対向する軌道盤7と、他端側内鍔部4cの軸方向一端側に形成された第二の軌道面4fと、第二の軌道面4fを転動する複数の第二の針状ころ8と、これら第二の針状ころ8を保持する第二の保持器9とで構成されている。
【0055】
第一の針状ころ5及び第二の針状ころ8は、それぞれ、その直径が5mmを超えず、その長さがその直径の3倍以上10倍以下である円筒ころからなる。第一の針状ころ5の長さが第二の針状ころ8の長さよりも大きく設けられている。第一の針状ころ5の直径が第二の針状ころ8の直径よりも大きく設けられている。なお、第一の針状ころ5の長さと第二の針状ころ8の長さの大小関係や第一の針状ころ5の直径と第二の針状ころ8の直径の大小関係は適宜に変更してもよく、また、第一の針状ころ5の総本数と第二の針状ころ8の総本数は適宜に決定すればよい。
【0056】
軸2は、複数の第一の針状ころ5に内接する円筒面2aと、円筒面2aよりも軸方向他端側の位置で径方向に沿った端面2bと、これら円筒面2aと端面2bとを繋ぐ角部に形成された面取り2cとを繋ぎ目なく有する。
【0057】
軸2の円筒面2aと一端側内鍔部4bとの間に径方向隙間が設けられている。この径方向隙間は、潤滑油がシェル外輪4の内外に出入りするための流路となる。
【0058】
軸2の端面2bは、軌道盤7の背面を軸方向に支持する。
【0059】
ハウジング3は、筒部4aを径方向に支持するハウジング内周3aと、他端側内鍔部4cを軸方向に支持するハウジング端面3bと、潤滑油の流路として使用される油路3cとを有する。
【0060】
ハウジング端面3bは、第二の軌道面4f及び複数の第二の針状ころ8の全部と軸方向に対向しており、径方向に沿っている。シェル外輪4が他端側内鍔部4cに対して軸方向他端側へ突き出た外周部分を含まないため、ハウジング端面3bの周囲にはシェル外輪4を配置するための凹空間を設けることが不要である。
【0061】
ハウジング端面3bは、油路3cと交差している。油路3cは、中心筒部4dの内周に囲まれた空間と軸方向に連通している。中心筒部4dの内外周間を径方向に貫通する切欠き4gが円周方向の一箇所以上に形成されている。潤滑油が油路3cから中心筒部4dの内方へ流出すると、切欠き4gと軸2の端面2bとの間、または中心筒部4dと軸2の端面2bの間を通ってスラスト軸受部へ容易に流入する。
【0062】
第一の保持器6は、複数の第一の針状ころ5に対して軸方向一端側の位置で円周方向に延びる一端側環部6aと、複数の第一の針状ころ5に対して軸方向他端側の位置で円周方向に延びる他端側環部6bと、一端側環部6aと他端側環部6bとの間を円周方向に均等間隔に区切る第一の柱部6cとを有する。
【0063】
第一の保持器6は、鋼板等の金属板によって形成されている。
【0064】
円周方向に隣り合う第一の柱部6c同士と、両環部6a、6bとが、第一の保持器6の内外周間を貫通する空間であるポケットを形成している。第一の針状ころ5は、そのポケットに収容されている。なお、第一の保持器6に形成されたポケットの総数は、第一の針状ころ5の総本数以上であればよい。
【0065】
第一の保持器6の幅は、一端側内鍔部4bと他端側内鍔部4c間の軸方向間隔よりも小さく設けられている。一端側環部6a及び他端側環部6bは、両内鍔部4b、4c間に配置されている。また、一端側環部6a及び他端側環部6bは、互いに軸方向に対向する円筒状になっており、それぞれ複数の第一の針状ころ5のピッチ円と軸方向に対向する位置で軸方向に延びている。
【0066】
円周方向に隣り合う第一の柱部6c同士は、第一の針状ころ5の径方向内側への落下を規制することができるように設けられている。第一の柱部6cの軸方向中間部位は、複数の第一の針状ころ5のピッチ円直径よりも径方向内側に位置しており、第一の針状ころ5の落下を規制する落ち止め部を含む。また、第一の柱部6cの軸方向長さの両端部は、前述のピッチ円と軸方向に対向する位置で軸方向に延びており、第一の針状ころ5の転動面を円周方向に受けることができる。
【0067】
ここで、「複数の第一の針状ころ5のピッチ円直径」は、正規の状態に配置された各第一の針状ころ5のころ中心軸を通る仮想円(すなわちピッチ円)の直径を意味する。その「正規の状態」は、各第一の針状ころ5のころ中心軸が軸方向に沿いかつ各第一の針状ころ5の転動面が第一の軌道面4eに接触する状態を意味する。複数の第一の針状ころ5のピッチ円直径は、(複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径dr+第一の軌道面4eの直径)/2の大きさに相当する。その「仮想内接円の直径dr」は、軸受を組んだ状態で複数の第一の針状ころ5の転動面に内接する仮想円の直径を意味する。
【0068】
第一の保持器6の径方向断面高さは、第一の柱部6cの軸方向中間部位の中で最も径方向内側に位置する表面と、第一の柱部6cの軸方向他端側から軸方向に延びる他端側環部6bの外径面との間での径方向高さに相当する。一端側環部6a、他端側環部6bは、第一の保持器6の径方向断面高さを抑えるため、第一の柱部6cから軸方向に延びており、径方向に曲げられた部位を含まない。
【0069】
第二の保持器9は、複数の第二の針状ころ8に対して径方向内側の位置で円周方向に延びる内径側環部9aと、複数の第二の針状ころ8に対して径方向外側で円周方向に延びる外径側環部9bと、内径側環部9aと外径側環部9bとの間を円周方向に均等間隔に区切る第二の柱部9cとを有する。
【0070】
第二の保持器9は、鋼板等の金属板によって形成されている。
【0071】
円周方向に隣り合う第二の柱部9c同士と、両環部9a、9bとが、第二の保持器9の軸方向一端側の側面と軸方向他端側の側面間を貫通する空間であるポケットを形成している。第二の針状ころ8は、そのポケットに収容されている。なお、第二の保持器9に形成されたポケットの総数は、第二の針状ころ8の総本数以上であればよい。
【0072】
内径側環部9aの内径面は、第二の保持器9の内径を規定する部位になっている。中心筒部4dは、内径側環部9aに対して径方向内側に位置する。シェル形ころ軸受1が単独の状態のとき、第二の保持器9は、中心筒部4dの外径面によって径方向に支持される。
【0073】
外径側環部9bの外径面は、第二の保持器9の外径を規定する部位になっている。外径側環部9bは、第二の柱部9cの外径側に連続する内リングと、この内リングの軸方向一端から径方向外側へ延びる外鍔と、この外鍔から軸方向他端側へ延びる外リングとを形成するように折り曲げられた二重環構造になっている。この二重環構造は、外径側環部9bの剛性を高めるために採用されている。
【0074】
円周方向に隣り合う第二の柱部9c同士は、第二の針状ころ8の軸方向一端側への落下を規制することができるように設けられている。
【0075】
軌道盤7は、第二の軌道面4fに軸方向に対向する円環面7aと、外径側環部9bに対して径方向外側に位置する外周部7bと、外周部7bを外径側環部9bと径方向に対向する位置に保つ分離止め部7cとを繋ぎ目なく有する。
【0076】
軌道盤7は、鋼板等の金属板によって形成されている。
【0077】
円環面7aは、複数の第二の針状ころ8の軸方向一端に接する軌道面になっている。複数の第二の針状ころ8は、複数の第一の針状ころ5と軸方向に対向不可な状態に配置されている。つまり、円環面7a及び複数の第二の針状ころ8の全部が軸2の端面2bと軸方向に対向する状態に配置されている。このため、軌道盤7がアキシャル荷重でテーパ形状に変形する懸念はなく、円環面7a及び第二の針状ころ8の転動面の全部をアキシャル荷重の負荷に無駄なく活用することができる。
【0078】
外周部7bは、円環面7aの外径側から軸方向他端側へ突き出ている。外周部7bの幅は、第二の保持器9の幅よりも大きく設けられている。外周部7bは、外径側環部9bと径方向に対向している。シェル形ころ軸受1が単独の状態のとき、外周部7bは、第二の保持器9に対する軌道盤7の径方向の移動を規制する。
【0079】
外周部7bの外径面は、軌道盤7の外径を規定する部位となっている。軌道盤7の外径は、スラスト軸受部の外径Dsに一致している。外径Dsは、スラスト軸受部を筒部4aから径方向に離された状態に配置して他端側環部6bをスラスト軸受部及び筒部4aに非接触の状態でスラスト軸受部に対して径方向外側に突出させるための空間を確保することができるように、筒部4aの内径よりも小さく設けられている。
【0080】
また、外径Dsは、軌道盤7と複数の第一の針状ころ5とが軸方向に対向する状態を確保することができるように、複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径drよりも大きく設けられている。
【0081】
また、外径Dsは、複数の第一の針状ころ5のピッチ円と軸方向に対向する位置で軸方向に延びる他端側環部6bとの間に径方向隙間を設けることができるように、複数の第一の針状ころ5のピッチ円直径よりも小さく設けられている。
【0082】
分離止め部7cは、外径側環部9bに対して軸方向他端側の位置で外周部7bから径方向内側へ突き出ている。分離止め部7cは、外径側環部9bの外周縁と軸方向に対向しており、軌道盤7と第二の保持器9とが軸方向に分離することを規制する。なお、分離止め部7cは、円周方向に間隔を置いた複数箇所に配置されており、例えば、外周部7bの軸方向他端側の縁を部分的に加締めることで設けられる。
【0083】
シェル形ころ軸受1の運転中における第二の保持器9の径方向案内は、内径側環部9aの内径面を中心筒部4dで径方向に案内する。
【0084】
一方、第一の保持器6は、複数の第一の針状ころ5によって径方向に案内される。
【0085】
シェル外輪4に対する第一の保持器6の軸方向一端側への移動は、一端側環部6aと一端側内鍔部4bとの軸方向の突き合いによって規制される。
【0086】
他端側環部6bは、スラスト軸受部に対して径方向外側に位置するように筒部4aとスラスト軸受部の外周部7bとの間に突出し、かつこれら両部4a、7bと径方向に対向する状態に配置されている。他端側環部6bは、スラスト軸受部の外周部7bと軸方向に対向する部位をもたず、シェル形ころ軸受1の運転中にスラスト軸受部と接触することはできない。
【0087】
他端側環部6bは、一端側環部6aよりも幅広に設けられている。一端側環部6aの幅を短く設けた分、シェル外輪4の幅を軸方向一端側へ延長することなく、第一の針状ころ5の長さを軸方向一端側へ延長することができる。一端側環部6aを短くすることは第一の保持器6の円環剛性を確保することにとって不利な変更となるが、他端側環部6bの幅を長く設けることにより、第一の保持器6の円環剛性を確保することができる。スラスト軸受部の軸方向断面高さ(図示例では、第二の軌道面4fから軌道盤7の背面までの軸方向間隔に相当)の範囲内で他端側環部6bを一端側環部6aよりも幅広に設ける限り、シェル外輪4の幅を長くすることは不要であるから、シェル形ころ軸受1の軸受幅を長くすることにはならない。
【0088】
シェル外輪4に対する第一の保持器6の軸方向他端側への移動は、他端側環部6bと他端側内鍔部4cとの軸方向の突き合いによって規制される。軌道盤7と第一の針状ころ5との間の軸方向間隔は、他端側環部6bと他端側内鍔部4cとが軸方向に突き合った状態で第一の針状ころ5が軌道盤7に接触することができないように設定されている。第一の針状ころ5のスキュー挙動は、第一の保持器6を一端側内鍔部4bや他端側内鍔部4cで受けることにより間接的に抑えられる。
【0089】
シェル外輪4及びスラスト軸受部に対して許容する第一の針状ころ5の軸方向他端側への移動量は、第一の針状ころ5が軸2の面取り2cと径方向に対向し得るように設定されている。すなわち、シェル形ころ軸受1の運転中に他端側環部6bが図示の位置から他端側内鍔部4cと軸方向に突き合うまで移動したとき、第一の針状ころ5の軸方向他端側の面取りが軸2の面取り2cと径方向に対向することは許容されている。第一の針状ころ5が軸2の面取り2cと径方向に対向することを許容すると、第一の針状ころ5及び第一の保持器6を可及的に他端側内鍔部4c、軸2の面取り2cに軸方向に近寄せて配置し、第一の針状ころ5とスラスト軸受部、軸2の端面2bとの間の軸方向間隔を可及的に狭く設けることができる。
【0090】
また、シェル外輪4及びスラスト軸受部に対して許容する第一の針状ころ5の軸方向他端側への移動量は、他端側環部6bが他端側内鍔部4cと軸方向に突き合うまで移動しても第一の針状ころ5の転動面の全部を円筒面2aと径方向に対向する状態に維持し得るように設定することが好ましい。第一の針状ころ5の転動面が軸2の円筒面2aから食み出てしまうと、ラジアル負荷能力の確保にとって不利となる。
【0091】
なお、第一の針状ころ5の軸方向他端側への移動量は、第一の針状ころ5と第一の保持器6間の軸方向のポケットすきま、スラスト軸受部(軸2の端面2b)と第一の針状ころ5の端面との間に確保する軸方向間隔に基づいて設定することが可能である。第一の針状ころ5の端面と、スラスト軸受部又は軸2の端面2bとの間の軸方向間隔は、例えば、0.3mm以上、1mm以下に設定することが可能である。
【0092】
シェル形ころ軸受1の組み立てに際し、筒部4a及び他端側内鍔部4cを有しかつ一端側内鍔部4bを曲げていない(一端側内鍔部4bとする部位を筒部4aから軸方向一端側に真っすぐ延ばした状態)シェル形ワークを使用する。このシェル形ワークは、筒部4a、他端側内鍔部4cの表面硬さを高めるためにシェル形ワークの全体を焼き入れした後、前述の曲げ加工時の割れ発生を防止するために一端側内鍔部4bとする部位を焼き鈍したものである。このシェル形ワークにスラスト軸受部を組み込んだ後、第一の保持器6をシェル形ワークの筒部4aの内側へ軸方向に挿入し、ラジアル軸受部の組み込みを終えた後、一端側内鍔部4bを径方向内側へ向ける曲げ加工を行うことにより、図1に示すシェル外輪4の形状が完成させられると共にシェル外輪4、スラスト軸受部及びラジアル軸受部がアセンブリの状態になって、シェル形ころ軸受1の組み立てが完了する。
【0093】
シェル形ワークの他端側内鍔部4cと筒部4a間にスラスト軸受部を組み込み後、ラジアル軸受を組み込むまでの組み立て中途段階では、軌道盤7と第二の保持器9の分離が分離止め7cによって規制されるので、スラスト軸受部が容易に分解されることはなく、ラジアル軸受部の組み込みを容易に行うことができる。
【0094】
シェル形ころ軸受1が単独の状態であっても、シェル外輪4の中心筒部4dが第二の保持器9を介して軌道盤7が径方向に支持され、かつ軌道盤7の外径Dsと複数の第一の針状ころ5に対する内接円径drとの径差に基づいて軌道盤7と複数の第一の針状ころ5の軸方向対向状態が確保されるため、軌道盤7が軸方向一端側へ移動しても複数の第一の針状ころ5に引っ掛かって抜け落ちることができず、結果的に第二の保持器9及び複数の第二の針状ころ8も軸方向一端側へ抜け落ちることができない。
【0095】
シェル形ころ軸受1をハウジング3と軸2間に組み込む場合、先ず、シェル形ころ軸受1の筒部4aをハウジング3のハウジング内周3aに対して圧入して他端側内鍔部4cをハウジング端面3bに当接させる嵌合工程を行う。
【0096】
その嵌合工程の際、焼き鈍しした一端側内鍔部4bを軸方向に押して圧入が進められる。その圧入力に対して一端側内鍔部4bの硬さが不十分だと、圧入力による一端側内鍔部4bの変形(径方向に対して一端側内鍔部4bが倒れる塑性変形)が問題化する。
【0097】
一端側内鍔部4bのビッカース硬さが250HV0.3以上であれば、一定以上の圧入力による一端側内鍔部4bの変形を防止することができる。ここで、ビッカース硬さは、日本産業規格(JIS Z2244-1)で規定された「ビッカース硬さ試験―第1部:試験方法」に準拠した試験で求める硬さのことをいう。
【0098】
一端側内鍔部4bのビッカース硬さは、シェル外輪4を形成する鋼板の材質及び熱処理条件に基づいて調節することが可能である。焼き鈍し時にビッカース硬さが低下しすぎないようにするため、その鋼板としてSCM415材を採用することが好ましい。
【0099】
その嵌合工程を実施した後、軸2の円筒面2aを複数の第一の針状ころ5に内接させるように挿入することになる。このとき、軸2は、面取り2cから複数の第一の針状ころ5に接触することになるので、軸2を挿入し易くまた、第一の針状ころ5の転動面を軸2で傷つけにくい。
【0100】
図1図2に示すシェル形ころ軸受1は、上述のようなものであって、軸方向及び円周方向に延びる筒部4aと、筒部4aの軸方向一端側から径方向内側へ突き出た一端側内鍔部4bと、筒部4aの軸方向一端側とは反対の軸方向他端側から径方向内側へ一端側内鍔部4bよりも突き出た他端側内鍔部4cとを有するシェル外輪4と、筒部4aに形成された第一の軌道面4eと、第一の軌道面4eを転動する複数の第一の針状ころ5と、これら第一の針状ころ5を保持する第一の保持器6とを有するラジアル軸受部と、他端側内鍔部4cに形成された第二の軌道面4fと、第二の軌道面4fを転動する複数の第二の針状ころ8と、これら第二の針状ころ8を保持する第二の保持器9とを有するスラスト軸受部と、を備え、第一の保持器6が複数の第一の針状ころ5に対して軸方向一端側で円周方向に延びる一端側環部6aと、これら第一の針状ころ5に対して軸方向他端側で円周方向に延びる他端側環部6bとを有することにより、シェル外輪4の筒部4aをハウジング3のハウジング内周3aで径方向に支持させ、他端側内鍔部4cをハウジング3のハウジング端面3bで軸方向に支持させ、軸2の円筒面2aを複数の第一の針状ころ5に内接させることにより、軸2の端部を支持する用途に対応できるものである。
【0101】
シェル形ころ軸受1は、特に、他端側内鍔部4cが第二の保持器9に対して径方向内側に位置しかつ第二の保持器9を径方向に支持する中心筒部4dを有し、スラスト軸受部が筒部4aから径方向内側に離れた状態に配置されており、他端側環部6bがスラスト軸受部に対して径方向外側に位置するように筒部4aとスラスト軸受部との間に突き出た状態に配置されていることにより、他端側環部6bをスラスト軸受部に対して径方向外側の位置へ突出させるための空間を確保し、その他端側環部6bの突出分、第一の保持器6及び複数の第一の針状ころ5の全部を他端側内鍔部4cに近寄せて配置することが可能になり、これにより、第一の針状ころ5とスラスト軸受部との間の軸方向間隔を狭く設けてシェル形ころ軸受1の軸受幅を抑えることができる。
【0102】
また、このシェル形ころ軸受1は、他端側環部6bが一端側環部6aよりも幅広に設けられていることにより、一端側環部6aの軸方向長さを比較的小さく設ける分で第一の針状ころ5の長さを大きく設けつつ、他端側環部6bの軸方向長さを比較的大きく設けて第一の保持器6の円環剛性を確保することができる。
【0103】
また、このシェル形ころ軸受1は、一端側環部6aが円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部6dを有し、他端側環部6bが一端側環部6aの接合部6dと軸方向に対向する位置で円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部6dと、一端側環部6aの接合部6dの軸方向長さと他端側環部6bの接合部6dの軸方向長さとの差を減少させるように溶接実施前に切り欠かれたノッチ6eとを有することにより、他端側環部6bの接合部6dと一端側環部6aの接合部6d間で溶接に伴う熱的影響の相違(すなわち溶接品質の相違)が抑えられた第一の保持器6とすることができる。
【0104】
また、このシェル形ころ軸受1は、他端側環部6bが他端側内鍔部4cに軸方向に突き合い可能な状態に配置されていることにより、スラスト軸受部の軸方向断面高さの略全部を他端側環部6bの配置に活用することが可能になり、ひいては第一の針状ころ5とスラスト軸受部との間の軸方向間隔を特に狭く設けることができると共に、第一の針状ころ5のスキュー挙動時にスラスト軸受部で第一の針状ころ5や他端側環部6bを受けずとも、ハウジング3に軸方向に支持される他端側内鍔部4cで他端側環部6bを受けて間接的に第一の針状ころ5のスキュー挙動を抑制することもできる。
【0105】
また、このシェル形ころ軸受1は、複数の第二の針状ころ8が複数の第一の針状ころ5と軸方向に対向不可な状態に配置されていることにより、複数の第二の針状ころ8の全部を軸2の端面2bとハウジング3のハウジング端面3b間に配置することが可能になるので、スラスト軸受部にアキシャル荷重を適切に負荷することができる。
【0106】
なお、特許文献1のように複数の第二の針状ころが複数の第一の針状ころと軸方向に対向する位置まで径方向外側に突出し、この突出部分に対応して軌道盤を軸の端面よりも径方向外側に突出した状態に配置すると、これら軌道盤、第二の針状ころの突出部分を軸の端面で軸方向に受けることができない。このため、アキシャル荷重が軸の端面から軌道盤に作用すると、軌道盤の径方向外側突出部分がテーパ状に変形し、第二の針状ころの転動面の全長をアキシャル負荷能力に活用し切れず、スラストころ軸受の使い方として良い状態にならない。
【0107】
また、このシェル形ころ軸受1は、スラスト軸受部の外径Dsが複数の第一の針状ころ5のピッチ円直径よりも小さく設けられていることにより、他端側環部6bとスラスト軸受部との干渉を避けることができる。
【0108】
また、このシェル形ころ軸受1は、スラスト軸受部が他端側内鍔部4cと軸方向に対向する軌道盤7を含み、軌道盤7が第二の保持器9に対して径方向外側に位置する外周部7bと、外周部7bを第二の保持器9と径方向に対向する位置に保つ分離止め部7cとを有することにより、シェル形ころ軸受1の組み立てに際し、軌道盤7の外周部7b及び分離止め7cで第二の保持器9に対する軌道盤7の径方向及び軸方向位置を所定に保持して非分離化し、これらをまとめて中心筒部4dで径方向に支持することができ、シェル形ころ軸受1の組み立てを容易に行うことができる。
【0109】
また、このシェル形ころ軸受1は、軌道盤7の外径Dsが複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径drよりも大径に設けられていることにより、軌道盤7と複数の第一の針状ころ5との軸方向対向状態を確保し、シェル形ころ軸受1が単独の状態であっても、第二の保持器9と非分離化された軌道盤7が軸方向に抜け落ちないように複数の第一の針状ころ5で規制することができ、ひいては、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0110】
また、このシェル形ころ軸受1は、一端側内鍔部4bのビッカース硬さが250以上であることにより、シェル外輪4をハウジング3に圧入する際に一端側内鍔部4bの変形を防止することができる。
【0111】
また、このシェル形ころ軸受1は、中心筒部4dの内外周間を径方向に貫通する切欠き4gが形成されていることにより、シェル形ころ軸受1の使用状態で外部から供給される潤滑油が中心筒部4dの切欠き4gを通ってスラスト軸受部と外部との間で流動し易くなるので、特にスラスト軸受部の潤滑を促進することができる。
【0112】
また、第一実施形態に係る回転機械は、シェル形ころ軸受1と、筒部4aを径方向に支持しかつ他端側内鍔部4cを軸方向に支持するハウジング3と、複数の第一の針状ころ5に内接する円筒面2aと、複数の第二の針状ころ8に軸方向に対向する端面2bと、これら円筒面2aと端面2bとを繋ぐ角部に形成された面取り2cとを有する軸2と、を備え、第一の保持器6が軸方向他端側に移動し得る範囲内で第一の針状ころ5が軸2の面取り2cと径方向に対向し得るように設けられていることにより、スラスト軸受部と第一の針状ころ5とが軸2の面取り2cの幅程度まで近づけて配置されるので、シェル形ころ軸受1の軸受幅を特に抑えることができる。
【0113】
この発明の第二実施形態に係るシェル形ころ軸受及びこれを含む回転機械を図3に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留め、第一実施形態に対応する構成要素に同一の符号を引き続き使用する。
【0114】
第二実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、軌道盤7の外周部7bを第一実施形態よりも大径に設けられている。軌道盤7は、径方向に沿った背面部分において第一の針状ころ5の軸方向他端側の端面と軸方向に対向している。図示の第一の針状ころ5と軌道盤7との間の軸方向間隔は、他端側環部6bと他端側内鍔部4cとの間の軸方向間隔よりも小さく設けられており、第一の針状ころ5と軌道盤7との接触が許容されている。第二実施形態では、第一の針状ころ5のスキュー挙動を軌道盤7で受けることになるが、第二の針状ころ8から径方向に距離を取って外周部7b近傍の高剛性部で受けることができる。第二実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、軌道盤7の外径を第一実施形態よりも大きく設けることになるが、第一の針状ころ5と軌道盤7との接触を許容しているので、第一の針状ころ5を第一実施形態よりもスラスト軸受部に近づけて配置することができる。
【0115】
この発明の第三実施形態に係るシェル形ころ軸受及びこれを含む回転機械を図4に示す。
【0116】
第三実施形態に係るシェル形ころ軸受1のスラスト軸受部は、軌道盤を含まず、複数の第二の針状ころ8と、第二の保持器9とで構成されている。第三実施形態に係る回転機械の軸2の端面2bは、複数の第二の針状ころ8の軸方向一端に接する軌道面を兼ねている。軸2の端面2bを軌道面としたことにより、第一の針状ころ5とスラスト軸受部との間の軸方向間隔を狭くし、シェル外輪4の幅を短くすることができる。
【0117】
また、スラスト軸受部の外径は、第二の保持器9の外径側環部9bの外径に一致しており、複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられている。
【0118】
他端側内鍔部4cは、第二の保持器9を中心筒部4dと径方向に対向する位置に保つ抜け止め部4hを有する。抜け止め部4hは、第二の保持器9の内径側環部9aに対して軸方向一端側の位置で中心筒部4dから径方向外側へ突き出ている。抜け止め部4hは、内径側環部9aの内周縁と軸方向に対向しており、シェル外輪4と第二の保持器9とが軸方向に分離することを規制する。なお、抜け止め部4hは、円周方向に間隔を置いた複数箇所に配置されており、例えば、中心筒部4dの軸方向一端側の縁を部分的に加締めることで設けられる。
【0119】
シェル形ワークの他端側内鍔部4cと筒部4a間にスラスト軸受部を組み込み後、ラジアル軸受を組み込むまでの組み立て中途段階や、シェル形ころ軸受1が単独の状態においては、中心筒部4dが第二の保持器9を径方向に支持すると共に、抜け止め部4hが第二の保持器9の軸方向一端側への移動を規制するため、第二の保持器9が軸方向一端側へ抜け落ちることができない。したがって、スラスト軸受部が容易に分解されることはない。
【0120】
このように、第三実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、スラスト軸受部の軸方向断面高さに軌道盤を含まないため、軌道盤を含む場合よりもシェル外輪4の幅を抑えてシェル形ころ軸受1の軸受幅を抑えることになる。また、第三実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、単独の状態であっても、第二の保持器9を中心筒部4dで径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように抜け止め部4hで規制することができ、ひいては、第二の保持器9の外径と複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径との大小関係を問わず、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0121】
また、第三実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、第二の保持器9の外径が複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられるので、他端側環部6bと第二の保持器9との間の空間を第一実施形態よりも広く設け、スラスト軸受部とラジアル軸受部間で潤滑油を流動し易くすることができる。
【0122】
この発明の第四実施形態に係る回転機械を図5に示す。
【0123】
第四実施形態に係る回転機械は、ハウジング3から油路を省略し、軸2に油路2dを設けたものである。油路2dは、軸2の端面2bと交差している。油路2dから中心筒部4dの内方へ流出した潤滑油は、切欠き4gを通ってスラスト軸受部に容易に流入する。なお、図5では、シェル形ころ軸受1として第一実施形態のものを例示したが、他の実施形態のものを採用することも可能である。
【0124】
この発明の第五実施形態に係るシェル形ころ軸受及びこれを含む回転機械を図6に示す。
【0125】
第五実施形態に係るシェル形ころ軸受1のスラスト軸受部が軌道盤を含まない点、及び第五実施形態に係る回転機械の軸2の端面2bが軌道面を兼ねる点は、第三実施形態と共通する。
【0126】
スラスト軸受部の外径は、第二の保持器9の外径側環部9bの外径に一致しており、複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径よりも大きく設けられている。
【0127】
シェル形ころ軸受1が単独の状態においては、シェル外輪4の中心筒部4dが第二の保持器9を径方向に支持し、第二の保持器9の外径が複数の第一の針状ころ5に対する内接円の直径drよりも大きいため、第二の保持器9が軸方向一端側へ移動しても複数の第一の針状ころ5に引っ掛かって抜け落ちることができず、結果的に複数の第二の針状ころ8も軸方向一端側へ抜け落ちることができない。したがって、スラスト軸受部が容易に分解されることはない。
【0128】
このように、第五実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、スラスト軸受部の軸方向断面高さに軌道盤を含まないため、軌道盤を含む場合よりもシェル外輪4の幅を抑えてシェル形ころ軸受1の軸受幅を抑えることになる。また、第五実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、単独の状態であっても、第二の保持器9を中心筒部4dで径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように複数の第一の針状ころ5で規制することができ、ひいてはスラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0129】
なお、組み立て中途段階でも第二の保持器の抜け落ちを防止してシェル形ころ軸受1の組み立て性も良くしたい場合は、中心筒部4dに第三実施形態のような抜け止め部を追加すればよい。
【0130】
この発明の第六実施形態に係るシェル形ころ軸受及びこれを含む回転機械を図7に示す。
【0131】
第六実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、第二の保持器9の外径側環部9bを折り重ねた二重環構造に変更して第二の保持器9の外径を小さくし、これに併せて軌道盤7の外径も小さくすることにより、スラスト軸受部の外径が複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられ、中心筒部4dに第三実施形態のような抜け止め部4hが追加されたものである。
【0132】
シェル形ワークの他端側内鍔部4cと筒部4a間にスラスト軸受部を組み込み後、ラジアル軸受を組み込むまでの組み立て中途段階や、シェル形ころ軸受1が単独の状態においては、第一実施形態と同様に軌道盤7と第二の保持器9の分離が規制され、かつ第三実施形態と同様に第二の保持器9の軸方向一端側への移動が規制されるので、軌道盤7、第二の保持器9が軸方向一端側へ抜け落ちることはできず、結果的に複数の第二の針状ころ8も軸方向一端側へ抜け落ちることができない。したがって、スラスト軸受部が容易に分解されることはない。
【0133】
このように、第六実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、単独の状態であっても、軌道盤7と非分離化された第二の保持器9を中心筒部4dで径方向に支持すると共に軸方向に抜け落ちないように抜け止め部4hで規制することができ、ひいては、軌道盤7の外径と複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径との大小関係を問わず、スラスト軸受部の分解を防止することができる。
【0134】
また、第六実施形態に係るシェル形ころ軸受1は、軌道盤7の外径が複数の第一の針状ころ5に対する仮想内接円の直径以下の大きさに設けられるので、他端側環部6bと軌道盤7との間の空間を広く設け、スラスト軸受部とラジアル軸受部間で潤滑油を流動し易くすることができる。
【0135】
上述のような各実施形態に係るシェル形ころ軸受1及び回転機械は、ハウジング3のハウジング内周3aに対してシェル外輪4を圧入するものであるが、その圧入を容易にするため、シェル外輪4の外周に勾配を設けてもよい。その変更例を図8に示す。
【0136】
図8に示すシェル外輪は、他端側内鍔部4cと筒部4aとを繋ぐ外周端部4iと、外周端部4iから筒部4aの外周まで軸方向一端側に向かう程に大径になるテーパ状面4jとを有する。外周端部4iは、シェル外輪4の外周のうち、他端側内鍔部4cと径方向に対向する部位である。外周端部4iは、他端側内鍔部4cに対して筒部4aを軸方向一端側へ曲げるプレス加工に伴って曲面状に形成されている。テーパ状面4jは、外周端部4iの外径側部分から、筒部4aの外径を規定する外周部位まで連続している。テーパ状面4jは、しごき加工等でプレス成形してもよいし、寸法精度を良くするために旋削してもよい。これら外周端部4iの外径側部分とテーパ状面4jは、図1等に示すハウジング3のハウジング内周3aに対して径方向の締め代を成す部位となる。
【0137】
ハウジング内周3aにシェル形ころ軸受1を圧入する際、シェル外輪4は、先ず、図8に示す外周端部4iの外径側部分がハウジング内周3aの開口縁に押し付けられ、続いて、テーパ状面4jが図1等に示すハウジング内周3aの開口縁に押し付けられながら筒部4aの外周まで嵌められることになる。したがって、圧入に要する力は徐々に高くなり、また、その力の径方向分力に基づいて筒部4aが縮径し易くなるので、圧入が容易になる。その結果、一端側内鍔部4bに作用する圧入力の最大値が抑制されると共に、その最大値の作用時間が短くなるので、一端側内鍔部4bの変形を防止するのに有利となる。
【0138】
このように、図1等に示すシェル外輪4として、図8に示すように筒部4aと他端側内鍔部4cとを繋ぐ外周端部4iから筒部4aの外周まで軸方向一端側に向かう程に大径になるテーパ状面4jを有するものを採用することにより、図1等に示すシェル外輪4の一端側内鍔部4bを押してシェル外輪4をハウジング3に圧入する際に、外周端部4iからテーパ状面4jを介して筒部4aの外周まで連続する勾配でシェル外輪4を圧入し易くすることができる。
【0139】
上述の各実施形態では、図1等に示す第一の保持器6の全体的な形状をプレス加工で繋ぎ目なく形成したもの(いわゆるプレス保持器)を例示したが、第一の保持器6の製造方法や材質は特に限定されない。例えば、第一の保持器6は、帯状板材を環状に丸め、その両端を円周方向に突き合わせ、その突き合わせ部位を溶接により接合した溶接保持器として構成することも可能である。このような溶接保持器は、年間に数十万個という大量の需要に好適である。
【0140】
一般に、両側に環部を有する溶接保持器の場合、ポケットを打ち抜いた帯状板材を円筒状に丸め、一端側環部となる帯部の両端を突き合わせた部位と、他端側環部となる帯部の両端を突き合わせた部位とを軸方向に対向する配置とし、一回の抵抗溶接で両側の突き合わせ部位を溶接することにより、一端側接合部と他端側接合部とを同時に繋ぎ、溶接保持器の製造効率を良くしている。このような溶接保持器に構成された第一の保持器6の場合、一端側環部6aと他端側環部6bとが、それぞれ円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部を有し、これら両接合部が互いに軸方向に対向する位置に存在するものとなる。
【0141】
両接合部の抵抗溶接時、一端側環部6aの接合部の軸方向長さと、他端側環部6bの接合部の軸方向長さとの差が大きい場合、一端側環部6aの接合部での電気抵抗と、他端側環部6bの接合部での電気抵抗との差が大きくなるので、これら両接合部間で熱的影響の相違が大きくなり、溶接制御によって両接合部の溶接品質を十分な品質に揃えることが難しくなる。したがって、前述の熱的影響の相違を抑える対策を施した状態で溶接工程を実施することが好ましい。
【0142】
具体的には、溶接実施前の段階において、他端側環部6bの接合部とする突き合わせ部位の軸方向長さと、一端側環部6aの接合部とする突き合わせ部位の軸方向長さとの差を積極的に減少させておけば、前述の電気抵抗の差を小さくして熱的影響の相違を抑えることが可能である。
【0143】
すなわち、図9に示すように、一端側環部6aが、円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部を有し、他端側環部6bが、一端側環部6aの接合部6dと軸方向に対向する位置で円周方向に突き合わせた部位を溶接した接合部6dと、一端側環部6aの接合部6dの軸方向長さと他端側環部6bの接合部6dの軸方向長さとの差を減少させるように溶接実施前に切り欠かれたノッチ6eとを有することにより、他端側環部6bの接合部6dと一端側環部6aの接合部6d間で溶接に伴う熱的影響の相違が抑えられた第一の保持器6とすることができる。
【0144】
ノッチ6eは、他端側環部6bとする帯部の帯長さ方向の端部において帯部の縁を切欠いた部位である。なお、図9例では、ノッチ6eの形成により、他端側環部6bの接合部6dの軸方向長さが一端側環部6aの接合部6dの軸方向長さと同等に設けられている最も好ましい態様を示している。
【0145】
第一の針状ころ5の軸方向他端側の端面を受ける他端側環部6bの軸方向一端側の縁にノッチを形成すると、ノッチのエッジが第一の針状ころ5を傷つける懸念がある。これを避けるため、ノッチ6eは、他端側環部6bの軸方向他端側の縁に形成することが好ましい。
【0146】
上述の各実施形態では、ラジアル負荷能力とアキシャル負荷能力を重視して、図1等に示す第一の保持器6の全てのポケットに第一の針状ころ5を収容し、第二の保持器9の全てのポケットに第二の針状ころ8を収容した例を示したが、いずれかの負荷能力に余裕がある場合、その余裕がある方のラジアル軸受部又はスラスト軸受部において、第一の保持器6又は第二の保持器9に保持させる第一の針状ころ5又は第二の針状ころ8の本数を減らし、第一の保持器6又は第二の保持器9に空のポケットを残してもよい。
【0147】
例えば、第一の針状ころ5が長く設けられることによってラジアル負荷能力に余裕がある場合、図9に示すように、第一の保持器6の一か所以上のポケット6fを空にした状態で第一の保持器6を配置することが可能である。勿論、図1等に示すスラスト軸受部のアキシャル負荷能力に余裕がある場合、第二の保持器9が、少なくとも一か所のポケットを空にした状態で配置されていてもよい。
【0148】
なお、第一の保持器6又は第二の保持器9の空のポケットは、対応のラジアル軸受部又はスラスト軸受部が滑らかに回転するように、対応の第一の保持器6又は第二の保持器9の円周方向の二か所以上かつ回転対称に配置することが好ましい。
【0149】
このように、第一の保持器6及び第二の保持器9の少なくとも一方の保持器が、少なくとも一か所のポケット(図9例ではポケット6f)を空にした状態で配置されていることにより、シェル形ころ軸受1の運転中に潤滑油が軸受内部で空のポケットを通って流動し易くなるので、軸受内部の潤滑を促進することができる。
【0150】
上記各実施形態のいずれかに係るシェル形ころ軸受1を組み込んだ電動アクスルユニットの一例を図10に示す。
【0151】
図10に示す電動アクスルユニット(いわゆるe-Axle)は、電動モータ10と、電動モータ10の回転を減速する歯車減速機構と、その歯車減速機構を収容するハウジング3とを備える。その歯車減速機構は、電動モータ10のロータ軸11と同軸に配置された入力軸12と、入力軸12と平行に配置された軸2と、入力軸12に設けられたはすば歯車13と、軸2に設けられたはすば歯車14及び歯車15と、軸2の軸方向一端側の端部とハウジング3との間に配置された軸方向一端側のシェル形ころ軸受1と、軸2の軸方向他端側の端部とハウジング3との間に配置された軸方向他端側のシェル形ころ軸受1と、最終段の歯車16と、を有する平行軸歯車減速機になっている。
【0152】
シェル形ころ軸受1と軸2と歯車減速機構のハウジング3は、上記各実施形態のいずれかに係る回転機械を構成している。
【0153】
はすば歯車13とはすば歯車14が噛み合い、ロータ軸11の回転を減速する。歯車15と歯車16とが噛み合い、軸2の回転を減速し、最終段の歯車16の軸から出力する。
【0154】
はすば歯車13、14の噛み合い部においては、ラジアル荷重と、アキシャル荷重の両方が発生し、軸2に作用する。これら両方の荷重は、軸2の端部をハウジング3に対して回転自在に支持する一個のシェル形ころ軸受1に負荷される。
【0155】
図10に示す電動アクスルユニットは、一個のシェル形ころ軸受1で前述の両方の荷重を受けることができるので、ハウジング3に対する軸2の支持構造を簡素化することができる。
【0156】
はすば歯車13、14の噛み合い部で分力として生成されるラジアル荷重は、アキシャル荷重よりも大きい。したがって、シェル形ころ軸受1に要求されるのは、ラジアル負荷能力がアキシャル負荷能力よりも大きいことである。したがって、ラジアル負荷能力の要求が比較的大きいラジアル軸受部については、図1等に示す第一の針状ころ5の本数を可及的に多くすることが好ましいため、第一の保持器6の全てのポケットに第一の針状ころ5が収容されている。一方、アキシャル負荷能力の要求が比較的小さいスラスト軸受部については、アキシャル負荷能力に余裕があるため、第二の保持器9は回転対称の二か所以上のポケットを空にした状態で配置されている。
【0157】
なお、はすば歯車13、14の噛み合い部で分力として生成されるアキシャル荷重は、一方向である。軸2に負荷されるアキシャル荷重が一方向に限られる。このため、アキシャル荷重を受ける方のシェル形ころ軸受1とは反対側のシェル形ころ軸受1に代えて玉軸受を採用することも可能である。一個のシェル形ころ軸受1で軸2に負荷されるアキシャル荷重を受けることができるため、玉軸受の外輪をハウジング3に対して軸方向に動かないように固定する必要はない。平行軸歯車減速機を備える電動アクスルユニットの構造上、組み立てに際し、軸2の端部付近において玉軸受の外輪を軸方向に動かないように固定することが困難な場合がある。このような場合であっても、前述のように反対側に玉軸受の外輪の固定を要しなければ、玉軸受の配置が容易になるので、電動アクスルユニットの組み立てが容易になる。
【0158】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0159】
1 シェル形ころ軸受
2 軸
2a 円筒面
2b 端面
2c 面取り
2d 油路
3 ハウジング
3a ハウジング内周
3b ハウジング端面
3c 油路
4 シェル外輪
4a 筒部
4b 一端側内鍔部
4c 他端側内鍔部
4d 中心筒部
4e 第一の軌道面
4f 第二の軌道面
4g 切欠き
4h 抜け止め部
4i 外周端部
4j テーパ状面
5 第一の針状ころ
6 第一の保持器
6a 一端側環部
6b 他端側環部
6c 第一の柱部
6d 接合部
6e ノッチ
6f ポケット
7 軌道盤
7a 円環面
7b 外周部
7c 分離止め部
8 第二の針状ころ
9 第二の保持器
9a 内径側環部
9b 外径側環部
10 電動モータ
14 はすば歯車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10