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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144119
(43)【公開日】2025-10-02
(54)【発明の名称】転がり軸受および軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20250925BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20250925BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20250925BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/06
F16C19/52
F16C35/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043738
(22)【出願日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝誌
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【テーマコード(参考)】
3J117
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117CA01
3J117CA06
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB01
3J217JA02
3J217JA15
3J217JA16
3J217JA42
3J217JB17
3J217JB25
3J217JB84
3J217JB87
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA77
3J701DA09
3J701DA16
3J701EA01
3J701FA22
3J701FA24
3J701FA41
3J701FA44
3J701FA46
(57)【要約】
【課題】転がり軸受の運転状態を精度よく監視することができ、かつ、低コストの転がり軸受を提供する。
【解決手段】外輪2の軸方向端面10にセンサ取付部材11を固定して設け、センサ取付部材11は、外輪2の軸方向端面10の径方向外側の端部が覆われずに環状に露出するように、軸方向端面10の径方向外側の端から径方向内方にずれた位置に軸方向一端が突き当てて固定される円筒部24と、円筒部24の軸方向他端から径方向内方に延びる円環板部25とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(2)と、
前記外輪(2)の径方向内側に配置される内輪(3)と、
前記外輪(2)と前記内輪(3)の間に形成される環状の軸受空間(4)に組み込まれる複数の転動体(5)とを有し、
前記外輪(2)と前記内輪(3)のうちの一方は、回転しないように固定して設けられる固定輪であり、他方は、前記転動体(5)を介して前記固定輪に回転可能に支持される回転輪であり、
前記固定輪が、前記回転輪の側とは反対側の端に位置する円筒状のはめあい面(21)と、前記はめあい面(21)に直角な平面状の軸方向端面(10)とを有する転がり軸受において、
前記固定輪の前記軸方向端面(10)に、転がり軸受(1)の運転状態を監視する軸受監視センサ(30)が着脱可能に取り付けられるセンサ取付面(31)をもつセンサ取付部材(11)を固定して設け、
前記センサ取付部材(11)は、前記軸方向端面(10)の前記はめあい面(21)の側の径方向端部が覆われずに環状に露出するように、前記軸方向端面(10)の前記はめあい面(21)の側の径方向の端から反対側の径方向にずれた位置に軸方向一端が突き当てて固定される円筒部(24)と、前記円筒部(24)の軸方向他端から前記はめあい面(21)の側とは反対側の径方向に延びる円環板部(25)とを有することを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記センサ取付面(31)は、軸方向から見て前記軸受空間(4)と重なる径方向範囲に前記軸受監視センサ(30)を取り付け可能とされている請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記軸受空間(4)の前記軸方向端面(10)の側の端部開口を塞ぐシール部材(7)を有し、
前記センサ取付部材(11)の前記円環板部(25)が、前記シール部材(7)と軸方向に対向して配置されている請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記センサ取付面(31)は磁性材料で形成され、前記軸受監視センサ(30)に設けた永久磁石を前記センサ取付面(31)に吸着させることで前記軸受監視センサ(30)を着脱可能に取り付け可能とされている請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記センサ取付面(31)にはねじ穴(32)が形成され、前記軸受監視センサ(30)に設けたねじ軸を前記センサ取付面(31)の前記ねじ穴(32)にねじ込むことで前記軸受監視センサ(30)を着脱可能に取り付け可能とされている請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記センサ取付面(31)が、前記円環板部(25)に形成された軸方向に垂直な円環状の平面である請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記センサ取付部材(11)は、前記円環板部(25)の前記はめあい面(21)の側とは反対側の端から軸方向に延びる第2円筒部(46)を更に有し、
前記センサ取付面(31)が、前記第2円筒部(46)の外周に形成された径方向に垂直な平面である請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項8】
前記円筒部(24)の軸方向一端の前記軸方向端面(10)への固定が、周方向に間隔をおいて形成した複数のスポット溶接部(27)により行われている請求項1または2に記載の転がり軸受。
【請求項9】
前記円筒部(24)の軸方向一端に、前記軸方向端面(10)に対して傾斜した面取り面(26)が形成され、
前記スポット溶接部(27)が前記面取り面(26)と前記軸方向端面(10)との間に形成される断面三角状の環状隙間に収容されている請求項8に記載の転がり軸受。
【請求項10】
請求項1または2に記載の転がり軸受(1)と、
前記転がり軸受(1)を収容するハウジング(33)と、
前記転がり軸受(1)で回転可能に支持される回転軸(34)と、
前記転がり軸受(1)の前記センサ取付部材(11)に取り付けられた軸受監視センサ(30)とを有し、
前記軸受監視センサ(30)で前記転がり軸受(1)の運転状態を監視可能とした軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受監視センサを取り付け可能な転がり軸受およびその転がり軸受を用いた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業設備などの分野では、機械装置の回転軸や回転体を支持する軸受として、転がり軸受が使用される。転がり軸受は、一般に、外輪と、外輪の径方向内側に配置される内輪と、外輪と内輪の間の環状の軸受空間に組み込まれる複数の転動体とを有する。
【0003】
近年、この転がり軸受の故障等による設備の突発的な稼働停止を回避するため、転がり軸受の運転状態を監視する軸受監視センサ(振動センサ、温度センサ等)を設け、その軸受監視センサで得られるデータに基づいて、転がり軸受のメンテナンスや交換等を計画的に行なうという取り組みが進められている。
【0004】
この軸受監視センサに関連し、特許文献1,2においては、転がり軸受を収容するハウジングに、転がり軸受の振動を検出する振動センサを取り付け、その振動センサで得られる振動のデータに基づいて、転がり軸受の運転状態を監視するという方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-128477号公報
【特許文献2】特開2003-149090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2のように、転がり軸受を収容するハウジングに振動センサを取り付ける場合、振動センサ(軸受監視センサ)を取り付けることができるようにハウジングを加工する必要がある。
【0007】
ここで、本願の発明者らは、転がり軸受の運転状態を監視するセンサ(以下「軸受監視センサ」という)を、ハウジングに取り付けるのではなく、転がり軸受に取り付けることを検討した。軸受監視センサを転がり軸受に取り付けることができれば、ハウジングの加工が不要となるので低コストであり、また、軸受監視センサをハウジングに取り付けるよりも、転がり軸受の監視を直接的に行なうことができるので、転がり軸受の運転状態を精度よく監視することが可能となる。
【0008】
さらに、本願の発明者らは、転がり軸受を構成する外輪や内輪を、軸受監視センサを取り付けるための専用の形状に加工するのではなく、既存の転がり軸受の外輪や内輪の形状をそのまま利用して軸受監視センサを取り付けることができないかを検討した。既存の転がり軸受の外輪や内輪の形状をそのまま利用することができれば、軸受監視センサを取り付けるのに必要なコストを大幅に低減することができ、軸受監視センサの普及を加速することが可能となる。さらに、軸受監視センサを着脱可能とすれば、転がり軸受を交換する際に、交換前の転がり軸受に取り付けていた軸受監視センサを再利用することが可能となり、より低コストになると考えた。
【0009】
この発明が解決しようとする課題は、転がり軸受の運転状態を精度よく監視することができ、かつ、低コストの転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の転がり軸受を提供する。
[構成1]
外輪と、
前記外輪の径方向内側に配置される内輪と、
前記外輪と前記内輪の間に形成される環状の軸受空間に組み込まれる複数の転動体とを有し、
前記外輪と前記内輪のうちの一方は、回転しないように固定して設けられる固定輪であり、他方は、前記転動体を介して前記固定輪に回転可能に支持される回転輪であり、
前記固定輪が、前記回転輪の側とは反対側の端に位置する円筒状のはめあい面と、前記はめあい面に直角な平面状の軸方向端面とを有する転がり軸受において、
前記固定輪の前記軸方向端面に、転がり軸受の運転状態を監視する軸受監視センサが着脱可能に取り付けられるセンサ取付面をもつセンサ取付部材を固定して設け、
前記センサ取付部材は、前記軸方向端面の前記はめあい面の側の径方向端部が覆われずに環状に露出するように、前記軸方向端面の前記はめあい面の側の径方向の端から反対側の径方向にずれた位置に軸方向一端が突き当てて固定される円筒部と、前記円筒部の軸方向他端から前記はめあい面の側とは反対側の径方向に延びる円環板部とを有することを特徴とする転がり軸受。
【0011】
この構成を採用すると、固定輪に設けたセンサ取付部材に軸受監視センサを取り付けることができるので、転がり軸受を収容するハウジング等に軸受監視センサを取り付けるよりも、転がり軸受の運転状態の監視を直接的に行なうことができ、転がり軸受の運転状態を精度よく監視することが可能となる。
【0012】
また、センサ取付部材を固定輪の軸方向端面に固定した構成を採用しているので、既存の転がり軸受の固定輪(外輪と内輪のうちの一方)や回転輪(外輪と内輪のうちの他方)の形状をそのまま利用することができる。そのため、転がり軸受の外輪と内輪を、軸受監視センサを取り付けるための専用の形状に加工する必要がなく、低コストである。
【0013】
また、軸受監視センサのセンサ取付部材への取り付けが、着脱可能の取り付けとされているので、転がり軸受を交換する際に、交換前の転がり軸受のセンサ取付部材に取り付けていた軸受監視センサを再利用することが可能であり、低コストである。
【0014】
また、固定輪の軸方向端面のはめあい面の側の径方向端部が、センサ取付部材で覆われずに環状に露出しているので、転がり軸受を組み付ける際に、その露出した部分を軸方向に突き当てて転がり軸受の軸方向の固定を行なうことが可能である。
【0015】
[構成2]
前記センサ取付面は、軸方向から見て前記軸受空間と重なる径方向範囲に前記軸受監視センサを取り付け可能とされている構成1に記載の転がり軸受。
【0016】
この構成を採用すると、軸受監視センサを、軸方向から見て軸受空間と重なる径方向範囲(すなわち転がり軸受を組み付けるときに周囲の部材と干渉しにくい径方向範囲)に取り付けることができるので、軸受サイズが小さい場合にも、軸受監視センサを取り付けるスペースを確保しやすい。
【0017】
[構成3]
前記軸受空間の前記軸方向端面の側の端部開口を塞ぐシール部材を有し、
前記センサ取付部材の前記円環板部が、前記シール部材と軸方向に対向して配置されている構成1または2に記載の転がり軸受。
【0018】
この構成を採用すると、既存のシール付軸受のシール部材をそのまま利用して、軸受監視センサを取り付けることが可能となる。すなわち、信頼性と経済性が両立した既存のシール付軸受を使用しながら、そのシール付軸受の運転状態を軸受監視センサで監視することが可能となる。
【0019】
[構成4]
前記センサ取付面は磁性材料で形成され、前記軸受監視センサに設けた永久磁石を前記センサ取付面に吸着させることで前記軸受監視センサを着脱可能に取り付け可能とされている構成1から3のいずれかに記載の転がり軸受。
【0020】
[構成5]
前記センサ取付面にはねじ穴が形成され、前記軸受監視センサに設けたねじ軸を前記センサ取付面の前記ねじ穴にねじ込むことで前記軸受監視センサを着脱可能に取り付け可能とされている構成1から4のいずれかに記載の転がり軸受。
【0021】
[構成6]
前記センサ取付面が、前記円環板部に形成された軸方向に垂直な円環状の平面である構成1から5のいずれかに記載の転がり軸受。
【0022】
この構成を採用すると、センサ取付面が円環状の平面とされているので、センサ取付面の面積が広い。そのため、複数の軸受監視センサを取り付ける場合にも、それらの軸受監視センサの取り付けスペースを確保しやすい。
【0023】
[構成7]
前記センサ取付部材は、前記円環板部の前記はめあい面の側とは反対側の端から軸方向に延びる第2円筒部を更に有し、
前記センサ取付面が、前記第2円筒部の外周に形成された径方向に垂直な平面である構成1から5のいずれかに記載の転がり軸受。
【0024】
この構成を採用すると、センサ取付面に対して垂直な方向と、軸受回転中に固定輪に生じる振動の方向とが同じ方向となる。そのため、軸受監視センサとして振動センサをセンサ取付面に取り付けたときに、軸受回転中に固定輪に生じる振動を精度よく検出することが可能となる。
【0025】
[構成8]
前記円筒部の軸方向一端の前記軸方向端面への固定が、周方向に間隔をおいて形成した複数のスポット溶接部により行われている構成1から7のいずれかに記載の転がり軸受。
【0026】
この構成を採用すると、センサ取付部材の固定輪への固定をスポット溶接により行なうので、溶接に伴う固定輪の熱歪みを抑えることができ、固定輪の熱歪みによる転がり軸受の性能低下を防止することが可能となる。
【0027】
[構成9]
前記円筒部の軸方向一端に、前記軸方向端面に対して傾斜した面取り面が形成され、
前記スポット溶接部が前記面取り面と前記軸方向端面との間に形成される断面三角状の環状隙間に収容されている構成8に記載の転がり軸受。
【0028】
この構成を採用すると、スポット溶接部が、固定輪の軸方向端面のうちセンサ取付部材で覆われずに環状に露出した部分(すなわち、転がり軸受を組み付ける際に軸方向の突き当て面となる部分)に大きくはみ出すのを防止することができる。
【0029】
また、この発明では、上記構成の転がり軸受を用いた軸受装置として、以下の構成のものを併せて提供する。
[構成10]
構成1から9のいずれかに記載の転がり軸受と、
前記転がり軸受を収容するハウジングと、
前記転がり軸受で回転可能に支持される回転軸と、
前記転がり軸受の前記センサ取付部材に取り付けられた軸受監視センサとを有し、
前記軸受監視センサで前記転がり軸受の運転状態を監視可能とした軸受装置。
【発明の効果】
【0030】
この発明の転がり軸受は、固定輪に設けたセンサ取付部材に軸受監視センサを取り付けることができるので、転がり軸受を収容するハウジング等に軸受監視センサを取り付けるよりも、転がり軸受の運転状態の監視を直接的に行なうことができ、転がり軸受の運転状態を精度よく監視することが可能となる。
【0031】
また、センサ取付部材を、固定輪の軸方向端面に固定した構成を採用しているので、既存の転がり軸受の固定輪(外輪と内輪のうちの一方)や回転輪(外輪と内輪のうちの他方)の形状をそのまま利用することができる。そのため、転がり軸受の外輪と内輪を、軸受監視センサを取り付けるための専用の形状に加工する必要がなく、低コストである。
【0032】
また、軸受監視センサのセンサ取付部材への取り付けが、着脱可能の取り付けとされているので、転がり軸受を交換する際に、交換前の転がり軸受のセンサ取付部材に取り付けていた軸受監視センサを再利用することが可能であり、低コストである。
【0033】
また、固定輪の軸方向端面のはめあい面の側の径方向端部が、センサ取付部材で覆われずに環状に露出しているので、転がり軸受を組み付ける際に、その露出した部分を軸方向に突き当てて転がり軸受の軸方向の固定を行なうことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】この発明の第1実施形態にかかる転がり軸受を示す斜視図
図2図1の転がり軸受の断面図
図3図2のセンサ取付部材の近傍を拡大して示す図
図4図3のセンサ取付部材の外輪の軸方向端面への突き合わせ部分の近傍を拡大して示す図
図5図2に示す転がり軸受を用いた軸受装置を示す断面図
図6】この発明の第2実施形態にかかる転がり軸受を示す斜視図
図7図6の転がり軸受の断面図
図8図7に示す転がり軸受を用いた軸受装置を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1図2に、この発明の第1実施形態にかかる転がり軸受1を示す。この転がり軸受1は、図2に示すように、外輪2と、外輪2の径方向内側に同軸に配置される内輪3と、外輪2と内輪3の間に形成される環状の軸受空間4に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の転動体5と、軸受空間4の軸方向一方側(図では左側)の端部開口を塞ぐ環状のシール部材6と、軸受空間4の軸方向他方側(図では右側)の端部開口を塞ぐ環状のシール部材7と、複数の転動体5の周方向の間隔を保持する保持器8と、外輪2の両側の軸方向端面9,10のうち一方の軸方向端面10に固定したセンサ取付部材11とを有する。軸受空間4には、図示しない潤滑剤が封入されている。
【0036】
軸方向とは、外輪2の中心軸(軸受の中心軸)と平行な方向であり、径方向とは、外輪2の中心軸に垂直な方向であり、周方向とは、外輪2の中心軸を中心とする円周に沿った方向である。
【0037】
外輪2の内周には、転動体5が転がり接触する外輪軌道溝12と、外輪軌道溝12の両側を周方向に延びる一対の外輪肩部13と、一対の外輪肩部13の両側を周方向に延びる一対の外輪シール溝14とが形成されている。一対の外輪シール溝14には、シール部材6,7の外周がそれぞれ嵌合して固定されている。
【0038】
外輪軌道溝12は、外輪2の内周の軸方向中央を周方向に延びる溝である。外輪肩部13は、外輪軌道溝12の縁に沿って周方向に延びる土手状の部分であり、軸方向に沿って内径が一定の円筒状に形成されている。一対の外輪シール溝14は、外輪2の内周の軸方向一方側の端部と軸方向他方側の端部とに形成され、互いに対称の形状とされている。外輪2は、外輪2の軸方向中央を通る仮想の軸直角平面に対して対称形状となっている。
【0039】
内輪3の外周には、転動体5が転がり接触する内輪軌道溝15と、内輪軌道溝15の両側に位置する一対の内輪肩部16と、一対の内輪肩部16の両側に位置する一対の内輪シール溝17とが形成されている。一対の内輪シール溝17には、シール部材6,7の径方向内端がそれぞれ収容されている。
【0040】
内輪軌道溝15は、内輪3の外周の軸方向中央を周方向に延びる溝である。内輪肩部16は、内輪軌道溝15の縁に沿って周方向に延びる土手状の部分であり、軸方向に沿って外径が一定の円筒状に形成されている。一対の内輪シール溝17は、内輪3の外周の軸方向一方側の端部と軸方向他方側の端部とに形成され、互いに対称の形状とされている。内輪3は、内輪3の軸方向中央を通る仮想の軸直角平面に対して対称形状となっている。
【0041】
転動体5は、外輪軌道溝12と内輪軌道溝15とで径方向に挟み込まれている。この実施形態では、転動体5は玉であり、外輪軌道溝12は、外輪2の軸方向中央に対して対称の凹円弧状の断面をもつ円弧溝であり、内輪軌道溝15も、内輪3の軸方向中央に対して対称な凹円弧状の断面をもつ円弧溝である。すなわち、この実施形態の転がり軸受1は深溝玉軸受である。
【0042】
図3に示すように、シール部材7は、円環板状の芯金18にゴム19を加硫接着して形成されている。シール部材7の径方向内端にはゴム製のシールリップ20が形成され、そのシールリップ20と内輪シール溝17の内面との間に、微小なラビリンス隙間が形成されている。シールリップ20は、内輪シール溝17の内面に摺接させてもよい。シール部材7として、金属板をプレス成形したシールド板を採用することも可能である。図2に示すシール部材6も、シール部材7と同様に構成されている。
【0043】
図3に示すように、外輪2は、内輪3の側とは反対側(つまり径方向外側)の端に位置するはめあい面21と、はめあい面21に直角な軸方向端面10とを有する。はめあい面21は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面であり、軸方向端面10は、軸方向に直角な環状の平面である。軸方向端面10は、断面円弧状の面取り部22を介してはめあい面21と交差している。軸方向端面10の径方向外端は面取り部22に接続し、軸方向端面10の径方向内端は、外輪シール溝14の溝肩部23に接続している。溝肩部23は、外輪シール溝14の溝底径よりも小径、かつ、外輪肩部13よりも大径の内周を有する部位である。
【0044】
センサ取付部材11は、円筒部24と円環板部25を有する。円筒部24の軸方向一端(図では左端)は、外輪2の軸方向端面10のはめあい面21の側の径方向の端(ここでは径方向外側の端)から反対側の径方向(ここでは径方向内方)にずれた位置に突き当てて固定されている。円環板部25は、円筒部24の軸方向他端(図では右端)からはめあい面21の側とは反対側の径方向(ここでは径方向内方)に延びて形成されている。円筒部24と円環板部25は断面L字の環状体を形成している。
【0045】
図4に示すように、円筒部24の軸方向一端(図では左端)には、外輪2の軸方向端面10に対して傾斜した面取り面26が形成されている。円筒部24の軸方向一端(図では左端)は、周方向に間隔をおいて形成した複数のスポット溶接部27により外輪2の軸方向端面10に固定されている。スポット溶接部27は、外輪2と円筒部24の突き合わせ部分を周方向に間隔をおいてレーザ溶接した部分である。スポット溶接部27は、面取り面26と軸方向端面10との間に形成される断面三角状の環状隙間に収容されている。なお、スポット溶接部27は点状に溶接するのではなく、連続する線状に溶接してもよい。ここでは溶接で円筒部24を軸方向端面10に固定したが、接着剤で固定することも可能である。
【0046】
図3に示すように、円環板部25は、円筒部24からピッチ円の径方向位置を超える位置まで径方向内方に真っ直ぐ延びて形成されている。ピッチ円は、複数の転動体5の中心を結ぶ仮想の円である。円環板部25は、シール部材7と軸方向に対向している。外輪2の軸方向端面10から円環板部25の軸方向一方側(図では左側)の端面までの軸方向の距離は10mm以下(好ましくは5mm以下)に設定されている。
【0047】
外輪2の軸方向端面10は、軸方向から見て、はめあい面21のある側(ここでは径方向外側)の径方向端部がセンサ取付部材11で覆われずに環状に露出し、それ以外の部分がセンサ取付部材11で覆われた状態となっている。外輪2の軸方向端面10の露出部分の径方向幅(具体的には、軸方向端面10と面取り部22の境界位置から円筒部24の外周までの径方向距離)は、日本産業規格JISB1566:2015「転がり軸受-取付関係寸法及びはめあい」に規定されるラジアル軸受の「5.2 軸及びハウジングの肩の高さ及び直径」に規定されるハウジングの肩の高さに対応する寸法と同じかそれ以上の大きさに設定され、例えば、2.25mm以上、好ましくは2.75mm以上に設定されている。
【0048】
センサ取付部材11は、磁性材料(鉄など強磁性を示す金属)で形成されている。センサ取付部材11は、切削加工で形成することも可能であるが、金属板(磁性鋼板など)のプレス加工で形成すると低コストである。
【0049】
円環板部25の軸方向端面は、軸受監視センサ30(図5参照)が着脱可能に取り付けられるセンサ取付面31となっている。センサ取付面31は、軸方向に垂直な円環状の平面である。センサ取付面31には、センサ取り付け用のねじ穴32(図1図2参照)が複数形成されている。センサ取付面31は、軸方向から見て軸受空間4と重なる径方向範囲に軸受監視センサ30(図5参照)を取り付け可能とされている。
【0050】
図5に、この実施形態の転がり軸受1を組み込んだ軸受装置を示す。この軸受装置は、上記の転がり軸受1と、転がり軸受1を収容するハウジング33と、転がり軸受1で回転可能に支持される回転軸34と、転がり軸受1を軸方向に押さえて固定する蓋部材35と、軸受監視センサ30とを有する。
【0051】
ハウジング33は、一端が開口するハウジング穴36と、ハウジング穴36の開口縁の周囲に形成される蓋取付面37とを有する。蓋取付面37は、軸方向に垂直な円環状の平面である。ハウジング穴36の内周には、外輪2の外周のはめあい面21に嵌合する円筒状の内周嵌合面38と、内周嵌合面38の軸方向一方側の端部から径方向内方に立ち上がる環状の段差部39とが形成されている。段差部39は、外輪2の軸方向端面9を軸方向に受け止めることで外輪2を軸方向に位置決めしている。回転軸34は、内輪3の内周に嵌め込まれている。
【0052】
ここで、外輪2は、回転しないように固定して設けられる固定輪であり、内輪3は、転動体5を介して外輪2に回転可能に支持される回転輪である。すなわち、この転がり軸受1は、内輪回転型の転がり軸受である。
【0053】
蓋部材35は、ハウジング33の蓋取付面37にボルト40で固定される円環板状のフランジ部41と、フランジ部41の径方向内端からハウジング33の内周嵌合面38に沿って軸方向に突出する環状突起部42と、フランジ部41から径方向内方に延びる蓋本体部43とを有する。環状突起部42の先端は、外輪2の軸方向端面10の径方向外側の端部(センサ取付部材11で覆われずに露出した環状の部分)に突き当てられている。
【0054】
転がり軸受1は、センサ取付部材11がハウジング穴36の開口側(図では右側)を向くようにハウジング穴36に挿入されている。センサ取付部材11のセンサ取付面31には、転がり軸受1の運転状態を監視する軸受監視センサ30が取り付けられている。軸受監視センサ30としては、振動センサ、温度センサ等を使用することができる。軸受監視センサ30として振動センサをセンサ取付面31に取り付ける場合、互いに直交する3軸加速度を検出するタイプのセンサを採用すると、軸受回転中に外輪2に生じる振動を精度よく検出することが可能となる。
【0055】
軸受監視センサ30は、軸受監視センサ30に固定して設けた図示しない永久磁石をセンサ取付面31に吸着させることでセンサ取付面31に着脱可能に取り付けられている。図に鎖線で示すように、軸受監視センサ30に設けたねじ軸をセンサ取付面31のねじ穴32にねじ込むことで軸受監視センサ30を取り付けることも可能である。このように、センサ取付面31は、複数の軸受監視センサ30を取り付けることが可能となっている。
【0056】
また、図3に示すように、円環板部25は、外輪2の軸方向端面10を通る仮想の軸直角平面と隙間をもって対向するように配置しているので、図5に示すように、軸受監視センサ30(図5参照)のねじ軸が環状板部25の裏側に飛び出しても、その飛び出した部分がシール部材7等に干渉するのを防止可能となっている。
【0057】
図5に示すように、軸受監視センサ30には、軸受監視センサ30に電源を供給するとともに、センサ信号を出力するセンサケーブル44が接続されている。センサケーブル44は、蓋本体部43に形成された貫通孔45を通って外部に引き出されている。センサケーブル44の軸受監視センサ30への接続は、コネクタによる切り離し可能な接続としてもよい。
【0058】
この転がり軸受1は、固定輪としての外輪2に設けたセンサ取付部材11に軸受監視センサ30を取り付けることができるので、ハウジング33に軸受監視センサ30を取り付けるよりも、転がり軸受1の運転状態の監視を直接的に行なうことができ、転がり軸受1の運転状態を精度よく監視することが可能である。
【0059】
また、この転がり軸受1は、図2に示すように、センサ取付部材11を固定輪としての外輪2の軸方向端面10に固定した構成を採用しているので、既存の転がり軸受1の外輪2や内輪3の形状をそのまま利用することができる。特に、標準品の転がり軸受1、すなわち、日本産業規格JISB1512-1「転がり軸受-主要寸法-第1部:ラジアル軸受」やJISB1521「転がり軸受-深溝玉軸受」等に規定される形状および寸法をもつ外輪2と内輪3をそのまま使用することが可能である。そのため、外輪2と内輪3を、軸受監視センサ30を取り付けるための専用の形状に加工する必要がなく、低コストである。
【0060】
また、この転がり軸受1は、軸受監視センサ30のセンサ取付部材11への取り付けが、着脱可能の取り付けとされているので、転がり軸受1を交換する際に、交換前の転がり軸受1のセンサ取付部材11に取り付けていた軸受監視センサ30を再利用することが可能であり、低コストである。また、軸受監視センサ30として市販のセンサを使用することも可能であり、経済的である。
【0061】
また、この転がり軸受1は、図3に示すように、外輪2の軸方向端面10のはめあい面21の側(径方向外側)の端部が、センサ取付部材11で覆われずに環状に露出しているので、図5に示すように、転がり軸受1を組み付ける際に、その軸方向端面10の露出した部分を蓋部材35に軸方向に突き当てて転がり軸受1の軸方向の固定を行なうことが可能である。
【0062】
また、この転がり軸受1は、図3に示すように、センサ取付部材11が円筒部24と円環板部25とを有し、この円筒部24と円環板部25が断面L字の環状体を形成しているので、円筒部24を無くして円環板部25のみで構成した断面直線状のセンサ取付部材11を採用するよりも、センサ取付部材11の剛性が高い。そのため、軸受監視センサ30として振動センサ(例えば加速度センサ)をセンサ取付面31に取り付けたときに、センサ取付部材11の振動によるノイズを防止することができ、安定した監視が可能となる。
【0063】
また、この転がり軸受1は、図5に示すように、軸受監視センサ30を、軸方向から見て軸受空間4と重なる径方向範囲(すなわち転がり軸受1を組み付けるときに周囲の部材と干渉しにくい径方向範囲)に取り付けることができるので、軸受サイズが小さい場合にも、軸受監視センサ30を取り付けるスペースを確保しやすい。
【0064】
また、この転がり軸受1は、図2に示すように、センサ取付部材11の円環板部25が、シール部材7と軸方向に対向して配置されているので、既存のシール付軸受のシール部材7をそのまま利用して、軸受監視センサ30を取り付けることが可能である。すなわち、信頼性と経済性が両立した既存のシール付軸受を使用しながら、そのシール付軸受の運転状態を軸受監視センサ30で監視することが可能である。
【0065】
また、この転がり軸受1は、図2に示すように、センサ取付面31が、円環板部25に形成された軸方向に垂直な円環状の平面なので、センサ取付面31の面積が広い。そのため、図5の実線と鎖線に示すように、複数の軸受監視センサ30を取り付ける場合にも、それらの軸受監視センサ30の取り付けスペースを確保しやすい。
【0066】
また、この転がり軸受1は、図4に示すように、円筒部24の軸方向一端の軸方向端面10への固定が、周方向に間隔をおいて形成した複数のスポット溶接部27により行なっているので、溶接に伴う外輪2の熱歪みを抑えることができ、外輪2の熱歪みによる転がり軸受1の性能低下を防止することが可能となっている。
【0067】
また、この転がり軸受1は、図4に示すように、円筒部24の軸方向一端に形成した面取り面26と外輪2の軸方向端面10との間に形成される断面三角状の環状隙間にスポット溶接部27を収容しているので、スポット溶接部27が、外輪2の軸方向端面10のうちセンサ取付部材11で覆われずに環状に露出した部分(すなわち、図5に示すように、転がり軸受1を組み付ける際に軸方向の突き当て面となる部分)に大きくはみ出すのを防止することが可能となっている。
【0068】
図6図8に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べてセンサ取付部材11の一部の構成のみが異なり、それ以外の構成は同じである。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
図7に示すように、センサ取付部材11は、円筒部24と円環板部25と第2円筒部46とを有する。第2円筒部46は、円環板部25のはめあい面21の側とは反対側の端(ここでは径方向内端)から軸方向に延びる円筒状に形成されている。円筒部24と円環板部25は断面L字の環状体を形成し、円環板部25と第2円筒部46も断面L字の環状体を形成している。
【0070】
第2円筒部46の外周には、軸受監視センサ30(図8参照)が着脱可能に取り付けられるセンサ取付面31が形成されている。センサ取付面31は、径方向に垂直な平面である。センサ取付面31は、第2円筒部46の外周に周方向に等間隔(ここでは90°間隔)に複数(ここでは4つ)設けられている。センサ取付面31には、センサ取り付け用のねじ穴32(図6図7参照)が形成されている。センサ取付面31は、軸方向から見て軸受空間4と重なる径方向範囲に軸受監視センサ30(図8参照)を取り付け可能とされている。
【0071】
この転がり軸受1は、図7に示すように、センサ取付面31に対して垂直な方向(径方向)と、軸受回転中に外輪2に生じる振動の方向(径方向)とが同じ方向となる。そのため、軸受監視センサ30として、センサ取付面31に対して垂直方向の1軸加速度を検出するタイプの加速度センサをセンサ取付面31に取り付けたときに、軸受回転中に外輪2に生じる振動を精度よく検出することが可能である。その他、第1実施形態と同じ作用効果を得ることができる。
【0072】
上記各実施形態では、外輪2が固定輪であり、内輪3が回転輪の転がり軸受1(つまり内輪回転型の転がり軸受)を例に挙げて説明したが、この発明は、内輪3が固定輪であり、外輪2が回転輪の転がり軸受1(つまり外輪回転型の転がり軸受)にも同様に適用することができる。この場合、上記各実施形態のセンサ取付部材11の径方向内側と径方向外側の関係を逆にし、そのセンサ取付部材11を内輪3の軸方向端面にスポット溶接等により固定すればよい。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 転がり軸受
2 外輪(固定輪)
3 内輪(回転輪)
4 軸受空間
5 転動体
7 シール部材
10 軸方向端面
11 センサ取付部材
21 はめあい面
24 円筒部
25 円環板部
26 面取り面
27 スポット溶接部
30 軸受監視センサ
31 センサ取付面
32 ねじ穴
33 ハウジング
34 回転軸
46 第2円筒部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8