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特開2025-144141細胞剥離方法、細胞剥離装置及び細胞凍結保管システム
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  • 特開-細胞剥離方法、細胞剥離装置及び細胞凍結保管システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144141
(43)【公開日】2025-10-02
(54)【発明の名称】細胞剥離方法、細胞剥離装置及び細胞凍結保管システム
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20250925BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20250925BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20250925BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N1/04
C12M1/26
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024043771
(22)【出願日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】池田 周平
(72)【発明者】
【氏名】大脇 悠介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG08
4B029GB05
4B065AA90X
4B065BB40
4B065BD09
(57)【要約】
【課題】細胞の損失を低減しつつ培養容器から細胞を回収すること。
【解決手段】 実施形態に係る細胞剥離方法は、剥離工程と回収工程とを有する。剥離工程では、細胞が培養された培養容器の細胞が接している面に対して細胞の凍結保存に用いる液を吐出することにより、細胞を当該面から剥離する。回収工程では、剥離された細胞を、吐出された凍結保存に用いる液と共に回収する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞が培養された培養容器の前記細胞が接している面に向けて前記細胞の凍結保存に用いる液を吐出することにより、前記細胞を前記面から剥離する剥離工程と、
剥離された前記細胞を、吐出された前記凍結保存に用いる液と共に回収する回収工程と、
を具備する細胞剥離方法。
【請求項2】
前記凍結保存に用いる液は、凍結保護剤と培地を含む溶液である、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項3】
前記凍結保存に用いる溶液は、凍結保護材を含み、
前記凍結保護剤は、ジメチルスルホキシド、グリセロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、デキストラン及び/又はトレハロースを含む、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項4】
前記回収工程では、吐出により生じた泡を避けて、剥離された前記細胞を、吐出された前記凍結保存に用いる液と共に回収する、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項5】
前記剥離工程では、前記凍結保存に用いる液を前記面に向けて複数の液滴として吐出すること、前記凍結保存に用いる液を前記細胞に吐出すること、又は前記凍結保存に用いる液の送液若しくは振動により発生した水流により、前記細胞を前記面から剥離する、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項6】
前記剥離工程の前段において、前記面に対する前記細胞の接着を弱めるために、前記培養容器に含まれる前記細胞に剥離液を添加する添加工程を更に備える、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項7】
前記剥離液は、タンパク質分解酵素及び/又はキレート剤を含む、請求項6記載の細胞剥離方法。
【請求項8】
前記剥離工程の前段において、前記面に前記細胞が接着している前記培養容器を洗浄液で洗浄することにより、前記培養容器から不純物を除去する洗浄工程を更に備える、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項9】
前記洗浄液は、生理食塩水又は液体培地である、請求項8記載の細胞剥離方法。
【請求項10】
回収された前記細胞と前記凍結保存に用いる液との懸濁液の濃度を所定値に調整するために、前記懸濁液に前記凍結保存に用いる液を追加する追加工程を更に備える、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項11】
回収された前記細胞が前記凍結保存に用いる液に懸濁された懸濁液を凍結させる凍結工程と、を更に備える、請求項1記載の細胞剥離方法。
【請求項12】
前記凍結工程は、
前記懸濁液を前記細胞が代謝可能な第1の温度域で凍結させる第1の凍結工程と、
前記第1の凍結工程の後、前記懸濁液を前記細胞が代謝不能な、前記第1の温度域に比して低い第2の温度域で凍結保管する第2の凍結工程と、を有する、
請求項11記載の細胞剥離方法。
【請求項13】
細胞が培養された培養容器の前記細胞が接している面に向けて液を吐出することにより、前記細胞を前記面から剥離する剥離工程と、
剥離された前記細胞を、吐出された前記液と共に回収する回収工程と、
回収された前記細胞と前記液とを凍結させる凍結工程と、
を具備する細胞剥離方法。
【請求項14】
細胞が培養された培養容器の前記細胞が接している面に向けて前記細胞の凍結保存に用いる液を吐出することにより、前記細胞を前記面から剥離する剥離部と、
剥離された前記細胞を、吐出された前記凍結保存に用いる液と共に回収する回収部と、
を具備する細胞剥離装置。
【請求項15】
前記回収部は、
前記凍結保存に用いる液が流通する吸引管と、
前記吸引管に着脱可能に設けられた凍結保管容器と、
前記吸引管を介して、剥離された前記細胞が、吐出された前記凍結保存に用いる液に懸濁された懸濁液を吸引し前記凍結保管容器に送液するポンプと、を有する、
請求項14記載の細胞剥離装置。
【請求項16】
前記凍結保管容器が収容され、前記凍結保管容器に含まれる前記懸濁液を凍結する冷凍庫を含む凍結部を更に備える、請求項15記載の細胞剥離装置。
【請求項17】
前記回収部は、更に、前記培養容器における前記吸引管が挿し入れられる第1の位置の前記懸濁液の深さが、他の第2の位置の前記懸濁液の深さに比して深くなるように、前記培養容器を水平に対して傾ける傾動機構を更に備え、
前記ポンプは、前記第1の位置に挿し入れられた前記吸引管を介して前記懸濁液を吸引する、
請求項15記載の細胞剥離装置。
【請求項18】
前記剥離部は、前記凍結保存に用いる液を前記面に対して噴霧するノズルを有する、請求項14記載の細胞剥離装置。
【請求項19】
細胞が培養された培養容器の前記細胞が接している面に向けて液を吐出することにより、前記細胞を前記面から剥離する吐出部と、
剥離された前記細胞を、吐出された前記液と共に回収する回収部と、
回収された前記細胞と前記液とを凍結させる凍結部と、
を具備する細胞凍結保管システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、細胞剥離方法、細胞剥離装置及び細胞凍結保管システムに関する。
【背景技術】
【0002】
培養容器において細胞を培養した後、生理食塩水や剥離液を用いて培養容器から細胞が剥離される。剥離された細胞を継代せずに長期間保管する場合、剥離された細胞が懸濁された懸濁液(以下、細胞懸濁剥離液)の溶媒を凍結保存液に置換し、細胞が懸濁された凍結保存液(以下、細胞懸濁保存液)を凍結保管している。
【0003】
液置換の一方法として、フィルタを用いた方法(以下、フィルタ液置換法)がある。フィルタ液置換法では、細胞懸濁剥離液をフィルタに通すことにより細胞を捕捉し,当該フィルタに凍結保存液を通すことにより細胞を回収する。しかしながら、フィルタ液置換法では、細胞懸濁剥離液に懸濁されている細胞の多くを回収することができず、細胞の損失が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-056813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、細胞の損失を低減しつつ培養容器から細胞を回収することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る細胞剥離方法は、剥離工程と回収工程とを有する。前記剥離工程では、細胞が培養された培養容器の前記細胞が接している面に向けて前記細胞の凍結保存に用いる液を吐出することにより、前記細胞を前記面から剥離する。前記回収工程では、剥離された前記細胞を、吐出された前記凍結保存に用いる液と共に回収する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、細胞凍結保管システムの構成例を示す図である。
図2図2は、細胞剥離装置の構成例を示す図である。
図3図3は、剥離機構の外観を模式的に示す図である。
図4図4は、細胞凍結保管システムによる剥離凍結保管の処理手順の一例を示す図である。
図5図5は、図4のステップS1~S8の処理手順を模式的に示す図である。
図6図6は、回収工程(S8)の処理手順を模式的に示す図である。
図7図7は、解凍して培養した後のiPS細胞の細胞数を本実施例と比較例とで比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る細胞剥離方法、細胞剥離装置及び細胞凍結保管システムについて詳細に説明する。
【0009】
図1は、本実施形態に係る細胞凍結保管システム1の構成例を示す図である。図1に示すように、細胞凍結保管システム1は、細胞を凍結して保管する機械システムである。本実施形態に係る細胞は、特に限定されず、如何なる種類の細胞でも良いが、一例として、iPS(induced Pluripotent Stem)細胞、上皮細胞、内皮細胞、滑膜細胞、心筋細胞、筋芽細胞、線維芽細胞及び神経芽細胞等であるとする。
【0010】
図1に示すように、細胞凍結保管システム1は、細胞剥離装置10と凍結保管ユニット20と恒温器(インキュベータ)30とを有する。細胞剥離装置10は、培養容器において培養された細胞を、培養容器から剥離し、剥離された細胞を細胞容器から回収する機械装置である。具体的には、細胞剥離装置10は、剥離機構11と回収機構13と制御装置15とを有する。剥離機構11は、培養容器において培養された細胞を、培養容器から剥離するための器具を装備した機械的な機構である。剥離機構11は、細胞が培養された培養容器の、細胞が接している面(以下、培養面)に向けて、細胞の凍結保存に用いる液(以下、凍結保存液)を吐出することにより、細胞を培養面から剥離する。回収機構13は、培養容器から剥離された細胞を、培養容器から回収するための器具を装備した機械的な機構である。回収機構13は、剥離機構11により剥離された細胞を、吐出された凍結保存液と共に回収する。細胞が懸濁された凍結保存液を細胞懸濁保存液と呼ぶことにする。制御装置15は、回収機構13と制御装置15とを統括的に制御するプロセッサを含むコンピュータである。回収機構13と制御装置15とは、制御装置15からの指令に従い動作する。
【0011】
凍結保管ユニット20は、細胞剥離装置100により回収された細胞を凍結したうえで保管する機械システムである。具体的には、凍結保管ユニット20は、超低温冷凍庫21と冷凍保管容器22とを有する。超低温冷凍庫21は、細胞懸濁保存液を当該細胞が代謝可能な第1の温度域で凍結させる。超低温冷凍庫21は、断熱の冷凍庫と、当該冷凍庫内への冷媒の循環と当該冷媒の冷却とを行う冷却循環装置とを有する。第1の温度域は、一例として、摂氏-90度~-50度程度を想定する。超低温冷凍庫21は、ディープフリーザとも呼ばれる。冷凍保管容器22は、超低温冷凍庫21による第1の凍結工程の後、細胞懸濁保存液を、当該細胞が代謝不能な、第1の温度域に比して低い第2の温度域で凍結保管する。この場合、第2の温度域は、摂氏-200度~-150度程度を想定する。
【0012】
恒温器30は、培養容器が収容されるチャンバと、当該チャンバ内の温度及び/又は湿度を一定に保つ制御回路とを含む。恒温器30は、細胞剥離装置10と別体で構成されても良いし、細胞剥離装置10が恒温器30を含んでも良い。後者の場合、一例として、チャンバ内に剥離機構11と回収機構13との全部又は一部の構成要素が設けられると良い。当該構成により細胞剥離装置10にて細胞を培養することが可能である。
【0013】
図2は、細胞剥離装置10の構成例を示す図である。図2に示すように、細胞剥離装置10は、剥離機構11と回収機構13と制御装置15とを有する。剥離機構11と回収機構13と制御装置15とは有線又は無線の信号線を介して接続されている。剥離機構11は、剥離液ポンプ111、送液管112、洗浄液ポンプ113、送液管114、凍結保存液ポンプ115、送液管116、廃液ポンプ117、吸引管118、駆動機器119及び支持機構121を有する。
【0014】
図2に示すように、剥離機構11及び回収機構13がアクセス可能な位置に培養容器40が設置されている。培養容器40において細胞が培養される。培養容器40の形状は、特に限定されないが、剥離機構11及び回収機構13が培養容器40内にアクセス可能な開口を有するディッシュ、シャーレ、フラスコ、ウェルプレート等を想定する。培養容器40の内底面を培養面41と呼ぶ。培養面41には培養された細胞が接している。剥離機構11による細胞の剥離処理前においては、培養容器40に細胞の複数の塊(コロニー)が形成されており、培養面41に接着している。
【0015】
剥離液ポンプ111は、駆動機器119からの駆動信号に応答して、送液管112を介して剥離液を吐出する。剥離液は、細胞と培養面41との接着や細胞間の接着を弱める作用を有する。一例として、剥離液は、タンパク質分解酵素及び/又はキレート剤を含む溶液である。剥離液は、図示しない剥離液タンクに収容されている。剥離液ポンプ111は、当該剥離液タンクから剥離液を吸引し、吸引された剥離液を、送液管112を介して培養容器40に吐出することにより、培養容器40に含まれる細胞に剥離液を添加する。
【0016】
送液管112は、剥離液ポンプ111に接続された、剥離液が流通する筒状構造物であり、例えば、チューブである。送液管112は、支持機構121により上下動可能に支持されている。支持機構121により、送液管112は、剥離液の吐出のため、培養面41に向けて下降し、剥離液の吐出の終了後、上昇する。支持機構121は上下動が不可能な態様であってもよい。
【0017】
洗浄液ポンプ113は、駆動機器119からの駆動信号に応答して、送液管114を介して洗浄液を吐出する。洗浄液は、培養容器40や不純物を洗い流すために使用される。一例として、洗浄液は、生理食塩水又は液体培地が使用される。洗浄液は、図示しない洗浄液タンクに収容されている。洗浄液ポンプ113は、当該洗浄液タンクから洗浄液を吸引し、吸引された洗浄液を、送液管114を介して培養容器40に吐出することにより、培養容器40及び/又は細胞を洗浄する。不純物は、例えば、洗浄液に浮遊している死細胞、培養容器40の培地に存在するカルシウムイオンやマグネシウムイオンである。洗浄が不十分であると、キレート剤が細胞間の結合を十分に切断できない虞がある。洗浄が不十分であると、培地中に存在するカルシウムイオンやマグネシウムイオンと、キレート剤と、が反応してしまう虞がある。
【0018】
送液管114は、洗浄液ポンプ113に接続された、洗浄液が流通する筒状構造物であり、例えば、チューブである。送液管114は、支持機構121により上下動可能に支持されている。支持機構121により、送液管114は、洗浄液の吐出のため、培養面41に向けて下降し、洗浄液の吐出の終了後、上昇する。
【0019】
凍結保存液ポンプ115は、駆動機器119からの駆動信号に応答して、送液管114を介して凍結保存液を吐出する。凍結保存液は、細胞を凍結して保管する際、当該細胞への損傷を低減するために使用される。凍結保存液は、凍結保護剤を含む溶液である。凍結保護剤は、細胞の脱水を促進させ、氷の結晶速度を遅らせ、氷の形成を阻害する作用を有する。当該作用により、氷の結晶が細胞の細胞膜を損傷することが抑制される。一例として、凍結保護剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO:Dimethyl sulfoxide)、グリセロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、デキストラン及び/又はトレハロースを含む。凍結保存液は、STEM-CELLBANKER(登録商標)等の市販の製品が用いられても良いし、培地に凍結保護剤を混ぜた液が用いられても良い。凍結保存液は、図示しない凍結保存液タンクに収容されている。凍結保存液ポンプ115は、当該凍結保存液タンクから凍結保存液を吸引し、吸引された凍結保存液を送液管116を介して培養容器40の培養面41に向けて吐出することにより、培養面41に接する細胞を培養面41から剥離する。
【0020】
送液管116は、凍結保存液ポンプ115に接続された、凍結保存液が流通する筒状構造物であり、例えば、チューブである。送液管116は、支持機構121により上下動可能に支持されている。支持機構121により、送液管116の先端部が、凍結保存液の吐出の際、培養面41に向けて下降し、凍結保存液の吐出の終了後、上昇して培養面41から遠ざけられる。
【0021】
廃液ポンプ117は、駆動機器119からの駆動信号に応答して、培養容器40に含まれる各種廃液を吸引管118を介して吸引する。廃液としては、例えば、培養容器40に吐出された剥離液や洗浄液が想定される。吸引された廃棄は、図示しない廃管を介して廃液タンクに収容される。
【0022】
吸引管118は、廃液ポンプ117に接続された、廃液が流通する筒状構造物であり、例えば、チューブである。吸引管118は、支持機構121により上下動可能に支持されている。支持機構121により、吸引管118は、廃液の吸引のため、培養面41に向けて下降し、廃液の吸引の終了後、上昇する。
【0023】
駆動機器119は、制御装置15からの指令に従い剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115及び廃液ポンプ117に駆動信号を個別に供給することにより、当該駆動信号に応じて剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115及び廃液ポンプ117を作動する。また、駆動機器119は、制御装置15からの指令に従い支持機構121に駆動信号を供給することにより、当該駆動信号に応じて送液管112、送液管114、送液管116又は吸引管118を上下動する。駆動機器119としては、一例として、モータが用いられる。
【0024】
なお、図2において駆動機器119は、1台で剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115、廃液ポンプ117及び支持機構121の全部を駆動するものとしたが、本実施形態はこれに限定されない。剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115、廃液ポンプ117及び支持機構121各々に対して駆動機器119が設けられても良いし、剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115、廃液ポンプ117及び支持機構121のうちの任意の組合せ毎に駆動機器119が設けられても良い。
【0025】
回収機構13は、回収ポンプ131、吸引管132、凍結保存容器133、駆動機器134、傾動機構135及び駆動機器136を有する。
【0026】
回収ポンプ131は、駆動機器134からの駆動信号に応答して、吸引管132を介して、凍結保存液の吐出により剥離された細胞を凍結保存液と共に回収する。上記の通り、細胞が懸濁された凍結保存液を細胞懸濁保存液と呼ぶ。細胞懸濁保存液は凍結保存容器133に収容される。
【0027】
具体的には、吸引管132は、回収ポンプ131に接続された、細胞懸濁保存液が流通する筒状構造物である。吸引管132は、培養容器40から細胞懸濁保存液を吸引するための吸引枝管141と、吸引された細胞懸濁保存液を凍結保存容器133に送液するための送液枝管142と、吸引された細胞懸濁保存液を吸引枝管141から送液枝管142に送液するための弁143とを有する。弁143は、駆動機器134からの駆動信号に応答して切り替えられる。
【0028】
吸引枝管141は、支持機構121により上下動可能に支持されている。支持機構121により、吸引枝管141の先端部が、細胞懸濁保存液の吸引の際、培養面41に向けて下降し、細胞懸濁保存液の吸引の終了後、上昇して培養面41から遠ざけられる。
【0029】
送液枝管142には複数個の凍結保存容器133が着脱可能に接続されている。吸引枝管141に吸引された細胞懸濁保存液は、送液枝管142を流通して、複数個の凍結保存容器133に順次に収容される。図2においては、一例として、4個の凍結保存容器133が接続されている。凍結保存容器133は、冷凍保管容器22による第2の温度域での凍結保管でも破損しない程度の耐久力を有する素材及び/又は構造を有する。一例として、凍結保存容器133としては、ポリプロピレン製のクライオチューブやポリオレフィン系の素材のフローズバッグ等が使用されれば良い。なお、送液枝管142に接続される凍結保存容器133の個数は複数個に限定されず、1個でも良い。
【0030】
駆動機器134は、制御装置15からの指令に従い回収ポンプ131に駆動信号を供給することにより、当該駆動信号に応じて回収ポンプ131を作動する。駆動機器134としては、一例として、モータが用いられる。
【0031】
傾動機構135は、駆動機器136からの駆動信号に応答して、培養容器40を水平に対して傾動するための機械的な機構である。具体的には、傾動機構135は、培養容器40において吸引管132が挿し入れられる第1の位置の細胞懸濁保管の深さが、他の第2の位置の細胞懸濁保存液の深さに比して深くなるように、培養容器40を水平に対して傾ける。傾動機構135の具体的な構造は特に限定されない。
【0032】
駆動機器136は、制御装置15からの指令に従い傾動機構135に駆動信号を供給することにより、当該駆動信号に応じて傾動機構135を作動する。駆動機器136としては、一例として、モータが用いられる。
【0033】
制御装置15は、剥離液ポンプ111、洗浄液ポンプ113、凍結保存液ポンプ115、廃液ポンプ117、回収ポンプ131及び傾動機構135を介して細胞の剥離及び回収を自動的に行うために、駆動機器119、駆動機器134及び駆動機器136を予め定められた順序に従い制御する。この際、制御装置15は、剥離液、洗浄液、凍結保存液、細胞懸濁保存液の吐出及び吸引の流量制御、上記各種液体の吐出及び吸引のタイミング制御等を行う。
【0034】
以下の実施形態の説明において「細胞」はiPS細胞であるとする。剥離機構11は、培養面41に対して凍結保存液を噴霧することにより、培養面41からiPS細胞を剥離するものとする。
【0035】
図3は、剥離機構11の外観を模式的に示す図である。図3に示すように、剥離機構11は、支持機構121を有する。支持機構121は、送液管112、送液管114、送液管116、吸引管118及び吸引枝管141各々を個別に上下動可能に支持する構造体である。一例として、支持機構121は、ボールネジやリニアガイド等が使用されれば良い。
【0036】
送液管112、送液管114、送液管116、吸引管118及び吸引枝管141の下方には載置面51が設けられ、載置面51のうちの送液管114、送液管116、吸引管118及び吸引枝管141の直下に培養容器40が設置される。
【0037】
送液管116の先端部にはノズル123が設けられる。ノズル123は、凍結保存液ポンプ115により送液管116を介して送液された凍結保存液を複数の液滴として吐出するための機械部品である。具体的には、ノズル123は、凍結保存液を噴霧、すなわち複数の微小な液滴に変換して霧状に吐出する。凍結保存液を霧状の微小な液滴に変換するため、ノズル123には微小な孔が形成される。孔の数は1つでも複数でもよい。凍結保存液ポンプ115により送液管116を介してノズル123に送液された凍結保存液は、ノズル123に形成された微小の孔を通過して微小な液滴に形成されて吐出される。これにより凍結保存液が培養容器40の培養面41に向けて噴霧され、噴霧された凍結保存液の力学的作用により、培養面41に接する細胞が剥離されることとなる。なお、凍結保存液の液滴の径や吐出速度、液量、範囲等は、任意に設定可能である。
【0038】
凍結保存液を培養面41の全面に向けて吐出するため、送液管116及びノズル123は、培養面41の略中心A1の略上方に位置するように、支持機構121に搭載されると良い。なお、送液管116及びノズル123は、一体に形成されても良い。
【0039】
載置面51の下方には傾動機構135が埋設される。傾動機構135は、空気の出し入れにより膨張及び伸縮するバルーンを想定する。この場合、駆動機器136はバルーン135に対して空気を出し入れする空気圧縮機やモータシリンダ、エアシリンダ等が想定される。バルーン135は培養容器40の一端部(以下、上昇側端部)42の下方に設置される。空気圧縮機を用いる場合、空気圧縮機によりバルーン135に空気が入り膨張することにより、バルーン135が上昇側端部42を押し上げることにより培養容器40を傾ける。これにより培養容器40に含まれる廃液や細胞懸濁保存液等が、培養容器40の他端部(以下、固定側端部)43に集まることとなる。固定側端部43は培養面41の略中心A1を挟んで上昇側端部42の反対側にある領域を指す。
【0040】
培養容器40から溶液を吸引することを容易にするため、吸引管118及び吸引枝管141は、固定側端部43の上方に位置するように、支持機構121に搭載されると良い。送液管112及び送液管114の位置は、特に限定されず、送液管116、吸引管118及び吸引枝管141の動作の妨げにならない位置に設けられれば良い。
【0041】
次に、図4及び図5を参照しながら、細胞凍結保管システム1による剥離凍結保管の処理手順について説明する。図4は、細胞凍結保管システム1による剥離凍結保管の処理手順の一例を示す図である。図4のステップS1~S8は、制御装置15による、剥離機構11の駆動機器119と回収機構13の駆動機器134及び駆動機器136とに対するシーケンス制御及び/又はフィードバック制御により自動的に行われる。図5は、図4のステップS1~S8の処理手順を模式的に示す図である。図5においては各工程の説明に必要な構成のみが図示されており、説明に必要ない構成については適宜省略している。なお、恒温器30と細胞剥離装置10とは、一体に形成されているものとする。具体的には、恒温器30のチャンバ内に送液管112、送液管114、送液管116、吸引管118及びノズル123が設けられているものとする。
【0042】
図4及び図5に示すように、ステップS1の開始時点において培養容器40は載置面51に載置されている。培養容器40には、培養されたiPS細胞のコロニーと当該培養に使用された培地とが収容されている。iPS細胞の培養は、恒温器30により行われても良いし、他の恒温器により行われても良い。
【0043】
まず、培養容器40から培地が除去される(ステップS1)。具体的には、制御装置15は、駆動機器119を介して廃液ポンプ117を作動する。廃液ポンプ117は、吸引管118を介して、培養容器40から培地を吸引することにより、培養容器40から培地を除去する。培養容器40内には、吸引されずに残留した培地等の不純物が残留することとなる。
【0044】
ステップS1が行われると、洗浄液でiPS細胞が洗浄される(ステップS2)。培地の中には、iPS細胞の他、栄養成分等を含む不純物が含まれている。ステップS2において制御装置15は、駆動機器119を介して洗浄液ポンプ113を作動する。洗浄液ポンプ113は、送液管114を介して、培養容器40内に洗浄液を吐出する。吐出された洗浄液により不純物が洗い流される。その後、廃液ポンプ117は、吸引管118を介して、培養容器40から、洗い流された不純物を含む洗浄液を吸引する。これにより培養容器40やiPS細胞が洗浄される。
【0045】
ステップS2が行われると、剥離液が添加される(ステップS3)。ステップS3において制御装置15は、駆動機器119を介して剥離液ポンプ111を作動する。剥離液ポンプ111は、送液管112を介して、培養容器40内に剥離液を吐出する。吐出された剥離液はiPS細胞に添加される。
【0046】
ステップS3が行われると、浸漬処理が行われる(ステップS4)。浸漬処理には、インキュベートも含まれうる。インキュベートを含む場合は、具体的には、制御装置15は、恒温器30にインキュベートの開始指令を通知する。開始指令を受けて恒温器30は、所定の恒温期間、剥離液が添加されたiPS細胞を含む培養容器40の環境を、一定の温度及び湿度に保つ。一定の温度及び湿度は、iPS細胞の培養に適した条件に設定されれば良く、例えば、温度は37度程度、湿度は95%程度に設定されれば良い。インキュベートの間、剥離液の作用により、iPS細胞間の接着やiPS細胞と培養面41との接着が低減される。恒温期間は、接着が十分に低減する時間長として経験的に定められた値に設定されれば良い。恒温期間の経過後、恒温器30は、温度及び湿度の制御を終了する。インキュベートを含まない場合は、浸漬処理の時間を管理する。浸漬期間は、接着が十分に低減する時間長として経験的に定められた値に設定されれば良い。浸漬期間の経過後、ステップS5に進む。ステップS4においてインキュベートを行わない場合、恒温器30は細胞凍結保管システム1に含まれなくても良い。
【0047】
ステップS4が行われると、剥離液が除去される(ステップS5)。ステップS5において制御装置15は、駆動機器119を介して廃液ポンプ117を作動する。廃液ポンプ117は、吸引管118を介して、培養容器40から剥離液を吸引する。培養容器40には、吸引されずに残留した剥離液等の不純物が存在することとなる。
【0048】
ステップS5が行われると、洗浄液でiPS細胞が洗浄される(ステップS6)。ステップS6において制御装置15は、駆動機器119を介して洗浄液ポンプ113を作動する。洗浄液ポンプ113は、送液管114を介して、培養容器40内に洗浄液を吐出する。吐出された洗浄液により培養容器40やiPS細胞に付着する不純物が洗い流される。その後、廃液ポンプ117は、吸引管118を介して、洗い流された不純物を含む洗浄液を培養容器40から吸引する。
【0049】
ステップS6が行われると、培養容器40の培養面41に対して凍結保存液が吐出される(ステップS7)。ステップS7において制御装置15は、駆動機器119を介して凍結保存液ポンプ115を作動する。凍結保存液ポンプ115は、送液管116及びノズル123を介して、凍結保存液を培養面41に対して噴霧する。剥離剤によりiPS細胞と培養面41との接着が弱まっているので、噴霧された凍結保存液の液滴の力学的作用により、iPS細胞が培養面41から剥離されることとなる。
【0050】
ステップS7が行われると、iPS細胞が懸濁された凍結保存液(細胞懸濁保存液)が、凍結保存容器133に回収される(ステップS8)。ステップS7において制御装置15は、駆動機器134を介して回収ポンプ131を作動する。回収ポンプ131は、吸引枝管141を介して、培養容器40から細胞懸濁保存液を吸引する。吸引された細胞懸濁保存液は、送液枝管142を介して凍結保存容器133に送液される。
【0051】
ここで、図6を参照しながら、回収工程(S8)の詳細について説明する。図6は、回収工程(S8)の処理手順を模式的に示す図である。図6の左図に示すように、凍結保存液を噴霧することにより、培養容器40に凍結保存液の泡が発生する。泡は培養容器40の培養面41の全体に発生する傾向にある。泡と共にiPS細胞を凍結保存容器133に収容すると、泡の破裂によりiPS細胞が損傷する虞がある。この虞を低減するため、バルーン135により培養容器40を傾けることにより、泡を避けて、細胞懸濁保存液を吸引する。
【0052】
具体的には、図6の右図に示すように、空気圧縮機136は、バルーン135を膨らませることにより培養容器40の上昇側端部42を持ち上げて傾ける。培養容器40を傾けることにより、固定側端部43に細胞懸濁保存液が集まる。その結果、細胞懸濁保存液の深さは、上昇側端部42に比して固定側端部43の方が深くなる。泡は軽いので上澄みとなる。固定側端部43において吸引枝管141を下降させ、吸引枝管141の先端部を泡よりも深い位置に到達させ、泡を避けるように細胞懸濁保存液を吸引する。泡を避けて細胞懸濁保存液を吸引することにより、培養面41に噴霧した細胞懸濁保存液のうちの95%程度を回収できることが見込まれる。
【0053】
ステップS8が行われると、細胞懸濁保存液の濃度が調整される(ステップS9)。具体的には、凍結保存容器133内の細胞懸濁保存液の濃度が所定値になるように、凍結保存容器133に凍結保存液が追加される。所定値は、一例として、200μlの細胞懸濁保存液に含まれるiPS細胞の個数が3.0×10個以上7.0×10以下の範囲になる割合である。細胞懸濁保存液の濃度は、フローサイトメータやセルカウンタ、濁度法その他の任意の方法により測定されれば良い。凍結保存液は、凍結保存液ポンプ115により送液管116を介して凍結保存容器133に注入されても良いし、人手により注入されても良い。
【0054】
ステップS9が行われると、凍結保存容器133が超低温冷凍庫21に収容され、細胞懸濁保存液が凍結される(ステップS10)。具体的には、作業者等により凍結保存容器133が送液枝管142から切り離され、超低温冷凍庫21に収容される。超低温冷凍庫21は、-80度程度の第1の温度域に庫内温度を維持する。これによりiPS細胞を-80度程度で凍結することが可能である。超低温冷凍庫21では比較的短時間の所定期間(以下、第1保管期間)だけ保管される。
【0055】
室温に馴染んでいるiPS細胞を、第1の温度域に比して低く代謝不能な第2の温度域で急激に凍結すれば、凍結保護剤を凍結保存液に含有させていたとしても、iPS細胞が損傷する虞がある。この急激な温度低下によるiPS細胞の損傷を低減するため、一時的に、代謝可能な第1の温度域での凍結が行われる。第1保管期間は、1日程度の比較的短期間が想定される。なお、上記の通り、第1の温度域ではiPS細胞は代謝が可能であるため、一ヶ月程度が第1保管期間の上限である。
【0056】
ステップS10が行われると、凍結保存容器133が冷凍保管容器22に収容され、細胞懸濁保存液が凍結保管される(ステップS11)。冷凍保管容器22としては、一例として、液体窒素が充填された断熱容器である液体窒素保存容器が用いられる。この場合、冷凍保管容器22内は、摂氏-180度程度の第2の温度域に維持される。上記の通り、第1の温度域でiPS細胞を凍結させた後、第2の温度域で凍結させているので、第2の温度域という極低温での凍結によるiPS細胞の損傷を低減することが可能である。冷凍保管容器22では比較的長時間の所定期間(以下、第2保管期間)だけ保管される。第2の温度域ではiPS細胞は代謝が不能であり、数年間保管することが可能である。
【0057】
以上により、細胞凍結保管システム1による剥離凍結保管が終了する。
【0058】
図7は、解凍して培養した後のiPS細胞の細胞数を本実施例と比較例とで比較した図である。「本実施例」は、上記の通り、凍結保存液を噴霧して剥離し、細胞懸濁保存液に対して液置換を行わずに凍結した。比較例は、生理食塩水を用いて手技で剥離し、iPS細胞が懸濁した生理食塩水に対して、遠心分離を用いた液置換を実施し、生理食塩水を凍結保存液に置換した後に凍結した。図7の縦軸は、解凍して培養した後のiPS細胞の細胞数を表す。図7の横軸は培養条件の分類を表す。「n=1、P3_Day7」はラベル「1」の細胞種のiPS細胞を、継代数「3」、培養期間「7日間」で培養したことを表す。同様に、「n=1、P4_Day7」はラベル「1」の細胞種のiPS細胞を、継代数「4」、培養期間「7日間」で培養したことを表し、「n=2、P3_Day7」はラベル「2」の細胞種のiPS細胞を、継代数「3」、培養期間「7日間」で培養したことを表し、「n=2、P4_Day7」はラベル「2」の細胞種のiPS細胞を、継代数「4」、培養期間「7日間」で培養したことを表す。
【0059】
図7に示すように、何れの培養条件においても本実施例が比較例に比してiPS細胞の細胞数が多い。これは、本実施例は、比較例に比して、液置換工程が不要なため、iPS細胞の損傷が低減されていることが一要因にあると考えられる。したがって、解凍後のiPS細胞数の観点から、本実施形態が比較例に比して優れていることが分かる。
【0060】
図4に示す剥離凍結保管の処理手順は、一例であり、発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の要素の削除、追加及び/又は変更が可能である。
【0061】
一例として、細胞懸濁保存液の濃度が既に適正である場合や濃度の調整が不要である場合、調整工程(S9)は省略可能である。他の例として、細胞懸濁保存液を凍結する必要がない場合、凍結工程(S10)及び凍結保管工程(S11)は省略可能である。他の例として、剥離液の添加をすることなく、凍結保存液を噴霧可能であれば、添加工程(S3)、インキュベート工程(S4)、除去工程(S5)及び洗浄工程(S6)は省略可能である。
【0062】
他の例として、培養容器40を傾動する機構136は、バルーンを膨張する方法のみに限定されない。一例として、傾動機構135は、シリンダの伸長により培養容器40の上昇側端部42を押し上げることにより培養容器40を傾動する機構、ワイヤ等で上昇側端部42を吊り上げることにより培養容器40を傾動する機構等でも実現可能である。
【0063】
他の例として、iPS細胞の剥離は、凍結保存液の噴霧による方法のみに限定されない。一例として、凍結保存液ポンプ115により、送液管116を介して凍結保存液をiPS細胞に吐出し、吐出された凍結保存液の力学的作用によりiPS細胞を培養面41から剥離しても良い。他の例として、凍結保存液ポンプ115により、送液管116を介して凍結保存液を培養容器40内に送液し、当該送液により発生した水流によりiPS細胞を培養面41から剥離しても良い。他の例として、凍結保存液ポンプ115により、送液管116を介して凍結保存液を培養容器40内に送液し、傾動機構135により培養容器40を振動し、当該振動により発生した水流によりiPS細胞を培養面41から剥離しても良い。
【0064】
他の例として、傾動機構135は、廃液ポンプ117による各種廃液の吸引時にも使用可能である。具体的には、傾動機構135は、廃液ポンプ117が吸引管118を介して各種廃液を吸引する際、吸引管118が挿し込まれる位置の廃液の深さを増加させるために、培養容器40を傾ける。これにより培養容器40から各種廃液を容易に回収することが可能である。
【0065】
他の例として、ステップS1~S8の全ての工程を剥離機構11が実行する必要はなく、ステップS1~S8の一部又は全ての工程を作業員の用手的に実行することも可能である。一例として、吐出工程(S7)については、作業員がピペット等で凍結保存液を培養面41に吐出することによりiPS細胞を培養面41から剥離しても良い。回収工程(S8)については、作業員がピペット等で、培養容器40から細胞懸濁保存液を吸引し、吸引された細胞懸濁保存液を凍結保存容器133に吐出することにより、細胞懸濁保存液を回収しても良い。
【0066】
上記の通り、本実施形態に係る細胞剥離方法は、剥離工程と回収工程とを有する。剥離工程では、iPS細胞が培養された培養容器のiPS細胞が接している培養面に向けて細胞の凍結保存液を吐出することにより、iPS細胞を培養面から剥離する。回収工程では、剥離されたiPS細胞を、吐出された凍結保存液と共に回収する。
【0067】
上記の構成によれば、細胞が懸濁された凍結保存液(細胞懸濁保存液)を培養容器から回収することが可能である。換言すれば、回収された細胞懸濁保存液を、そのまま凍結又は凍結保管することが可能であるので、生理食塩水等の剥離用の溶液で細胞を培養面から剥離する場合とは異なり、液置換工程を省略することが可能になる。したがって本実施形態は、液置換工程に要する手間を削減することが可能になる。液置換工程は、細胞懸濁剥離液に懸濁されている細胞の多くを回収することができず細胞の損失が大きいという問題があるが、本実施形態は、培養容器から回収された細胞懸濁保存液をそのまま凍結することが可能であるので、液置換工程に伴う細胞の損失を無くすことが可能である。また、本実施形態は、液置換工程が不要であるので、培養容器から回収された細胞を迅速に凍結することができるので、常温に曝すことに伴う細胞への損傷を、液置換工程を実施する場合に比して低減することが可能である。
【0068】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、細胞の損失を低減しつつ培養容器から細胞を回収することができる。
【0069】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び図2における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0070】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1 細胞凍結保管システム
10 細胞剥離装置
11 剥離機構
13 回収機構
15 制御装置
20 凍結保管ユニット
21 超低温冷凍庫
22 冷凍保管容器
30 恒温器(インキュベータ)
40 培養容器
41 培養面
42 上昇側端部
43 固定側端部
51 載置面
100 細胞剥離装置
111 剥離液ポンプ
112 送液管
113 洗浄液ポンプ
114 送液管
115 凍結保存液ポンプ
116 送液管
117 廃液ポンプ
118 吸引管
119 駆動機器
121 支持機構
123 ノズル
131 回収ポンプ
132 吸引管
133 凍結保存容器
134 駆動機器
135 傾動機構,バルーン
136 駆動機器,空気圧縮機
141 吸引枝管
142 送液枝管
143 弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7