(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014418
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置および電源装置
(51)【国際特許分類】
H05G 1/54 20060101AFI20250123BHJP
H05G 1/34 20060101ALI20250123BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
H05G1/54 V
H05G1/34 E
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116947
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 洋平
【テーマコード(参考)】
2G001
4C092
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA03
2G001FA20
4C092AA01
4C092AB12
4C092AC08
4C092CC03
4C092CE12
4C092CF16
4C092CH02
4C092DD20
4C092EE03
(57)【要約】
【課題】X線を発生する装置において、ツェナーダイオードにおいて管電流がリークすることを抑制することである。
【解決手段】蛍光X線分析装置(1000)は、一次X線(10)を照射するX線管球(200)と、フィラメント電流を供給する第1電源(110)と、管電圧を印加する第2電源(120)と、電力線に接続される第1ダイオード(D33)と、接地端子に接続されたツェナーダイオード(D34)と、出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプ(M7)とを備える。非反転入力端子は、電力線に接続され、出力端子は、第2端子および反転入力端子に接続される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントおよびターゲットを含み、試料に一次X線を照射するX線管球と、
前記試料から発生する二次X線を検出する検出器と、
電力線を介して前記フィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、
前記ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、
第1端子と第2端子とを有し、前記電力線上に前記第1端子が接続された第1ダイオードと、
第3端子と第4端子とを有し、前記第2端子に前記第3端子が接続され、前記第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、
出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備え、
前記非反転入力端子は、前記電力線に接続され、
前記出力端子は、前記第2端子および前記反転入力端子に接続される、蛍光X線分析装置。
【請求項2】
第5端子と第6端子とを有し、前記電力線上に前記第5端子が接続された第2ダイオードをさらに備え、
前記第6端子は、前記第3端子および前記出力端子に接続され、
前記第1端子は、アノードであり、
前記第2端子は、カソードであり、
前記第5端子は、カソードであり、
前記第6端子は、アノードであり、
前記ツェナーダイオードは、双方向ツェナーダイオードである、請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記電力線に一方端が接続され、他方端が接地端子と接続された第1キャパシタをさらに備える、請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記第1ダイオードに対して並列に接続された第2キャパシタをさらに備える、請求項1または請求項2記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記非反転入力端子および前記出力端子の少なくとも一方に設けられたフィルタ回路をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
前記出力端子に接続されたクランプ回路をさらに備える、請求項1または請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項7】
フィラメントおよびターゲットを含むX線管球に電流を供給する電源装置であって、
電力線を介して前記フィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、
前記ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、
第1端子と第2端子とを有し、前記電力線上に前記第1端子が接続された第1ダイオードと、
第3端子と第4端子とを有し、前記第2端子に前記第3端子が接続され、前記第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、
出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備え、
前記非反転入力端子は、前記電力線に接続され、
前記出力端子は、前記第2端子および前記反転入力端子に接続される、電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光X線分析装置および電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料にX線を照射して試料の分析を行う蛍光X線分析装置が知られている。特許文献1(国際公開第2018/002977号)には、互いに間隔を隔てて配置されたフィラメントとターゲットとがX線管球内に配置されていることが記載されている。特許文献1の分析装置は、フィラメントとターゲットとの間に管電圧を印加することにより管電流を生じさせ、ターゲットへの熱電子の衝突によりX線を発生させる。
【0003】
ターゲットへの熱電子の衝突によって生じたX線は「一次X線」と称される。固体、粉粒体または液体の試料に一次X線が照射され、この一次X線の照射によって試料から蛍光X線が放出される。蛍光X線を用いる分析装置では、放出された蛍光X線を分光器で検出することによって、その試料に含まれる元素の定性分析または定量分析が行われる。
【0004】
特許文献1の分析装置は、ターゲットに高電圧を印加する管電圧制御回路と、フィラメントに一定の電流を供給するフィラメント電流制御回路とを有する。管電圧制御回路は、ターゲットの電位が目標の管電圧値と乖離しないようにフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような分析装置では、高電圧の印加によって意図せずに放電が発生してしまった場合に備えて、保護回路としてツェナーダイオードが設けられ得る。ツェナーダイオードは、ツェナー電圧を上回る放電が発生したときには、放電電流を接地端子へと流し、分析装置内の回路を保護する。
【0007】
しかしながら、ツェナーダイオードでは、その特性上、ツェナー電圧よりも小さい逆電圧が印加されているときに「逆電流」と呼ばれるリーク電流が発生してしまう。このため、一次X線を発生させるために管電圧を印加し、当該管電圧の印加によって管電流が流れている期間において、ツェナーダイオードではリーク電流が発生してしまう。管電流制御回路は、リーク電流の影響を受けた後の電流値を入力としてフィードバック制御を行うため、X線分析装置では、フィードバック制御のための入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間に乖離が生じてしまう場合があった。
【0008】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、フィラメントおよびターゲットに管電圧を印加してX線を発生させる蛍光X線分析装置において、放電保護用のツェナーダイオードにおける管電流のリークを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある局面に従う蛍光X線分析装置は、フィラメントおよびターゲットを含み、試料に一次X線を照射するX線管球と、試料から発生する二次X線を検出する検出器と、電力線を介してフィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、第1端子と第2端子とを有し、電力線上に第1端子が接続された第1ダイオードと、第3端子と第4端子とを有し、第2端子に第3端子が接続され、第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備える。非反転入力端子は、電力線に接続され、出力端子は、第2端子および反転入力端子に接続される。
【0010】
本開示の他の局面に従う電源装置は、フィラメントおよびターゲットを含むX線管球に電流を供給する電源装置である。電源装置は、電力線を介してフィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、第1端子と第2端子とを有し、電力線上に第1端子が接続された第1ダイオードと、第3端子と第4端子とを有し、第2端子に第3端子が接続され、第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備える。非反転入力端子は、電力線に接続され、出力端子は、第2端子および反転入力端子に接続される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、フィラメントおよびターゲットに管電圧を印加してX線を発生させる蛍光X線分析装置において、放電保護用のツェナーダイオードにおける管電流のリークを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】蛍光X線分析装置の電源装置およびX線管球を概略的に示す図である。
【
図3】オペアンプの電源を説明するための回路図である。
【
図4】比較例における電源装置における端子T1から端子T2までの間の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一の符号を付して、その説明は原則的に繰り返さない。
【0014】
<電源装置およびX線管球の構成>
図1は、蛍光X線分析装置1000の電源装置100およびX線管球200を概略的に示す図である。蛍光X線分析装置1000は、たとえば、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置(EDX:Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer)である。本実施の形態においては、一次X線を発生させる電源装置100が蛍光X線分析装置1000に適用される例を説明する。
【0015】
図1に示されるように、蛍光X線分析装置1000は、電源装置100、X線管球200、および検出器300を有する。電源装置100は、X線管球200に対して電圧を印加し、一次X線10を励起する。一次X線10は試料Sに照射される。一次X線10が照射された試料Sは、蛍光X線20を放出する。試料Sから放出された蛍光X線20は、一次X線に対して「二次X線」と称される。検出器300は、蛍光X線20を検出する。これにより、蛍光X線分析装置1000は、試料Sの定量分析または定性分析を行うことができる。
【0016】
X線管球200は、ターゲットTg1と、フィラメントF1とを有する。ターゲットTg1は陽極であり、フィラメントF1は陰極である。X線管球200内においてターゲットTg1とフィラメントF1とは、互いに間隔を隔てて配置されている。電源装置100は、フィラメント電源部110と、高圧電源部120と、管電流制御部130とを備える。
【0017】
フィラメント電源部110は、フィラメントF1の両端に電圧を印加して、フィラメントF1を加熱する。以下では、フィラメント電源部110の電圧印加によって供給される電流を「フィラメント電流」と称する。高圧電源部120は、ターゲットTg1およびフィラメントF1に高電圧を印加する。以下では、高圧電源部120によって印加される高電圧を「管電圧」と称する。管電流制御部130は、電力線L4に流れる電流値に基づいて、フィラメント電源部110の出力を調整するフィードバック制御を行う。
【0018】
X線管球200内では、フィラメント電源部110によるフィラメントF1の加熱によって、熱電子が発生する。高圧電源部120によってフィラメントF1とターゲットTg1との間に管電圧が印加されることにより、熱電子はターゲットTg1に衝突する。これにより、一次X線10が励起される。
【0019】
図1に示されるように、フィラメント電源部110は、電力線L1と電力線L1Aとを介してフィラメントF1と接続されている。電力線L1は、フィラメントF1の一方端と接続され、電力線L1Aは、フィラメントF1の他方端と接続されている。フィラメント電源部110の端子T1,T1Aは、電力線L1,L1Aとそれぞれ接続されている。電源装置100の端子T2,T2Aは、フィラメントF1と接続されている。接続点Cp1は、端子T1および端子T2の接続点と、端子T1Aおよび端子T2Aの接続点との間の接続点である。接続点Cp1と、端子T1および端子T2の接続点との間には、抵抗R322が接続されている。接続点Cp1と、端子T1Aおよび端子T2Aの接続点との間には、抵抗R316が接続されている。一例では、抵抗R316,R322の抵抗値は100Ωであり、定格電力は0.5Wである。電力線L4の一方端は、接続点Cp1に接続され、電力線L4の他方端は、抵抗を介して接地端子GNDと接続されている。なお、電力線L4の一方端は、接続点Cp1ではなく、端子T1および端子T2の接続点または端子T1Aおよび端子T2Aの接続点のいずれか一方に接続されていてもよい。
【0020】
電力線L1には、端子T1と端子T2との間に保護回路P1が接続されている。同様に、電力線L1Aには、端子T1Aと端子T2Aとの間において保護回路P1Aが接続されている。保護回路P1,P1Aは、後述するツェナーダイオードを有する。
【0021】
これにより、X線管球200内で意図しない放電が発生した場合においても、保護回路P1,P1Aによって、放電によって発生した過電圧からフィラメント電源部110、および管電流制御部130を保護することができる。なお、高圧電源部120の制御部と管電流制御部130とが同一の基板上に実装されている場合、保護回路P1,P1Aは、放電によって発生した過電圧から高圧電源部120も保護できる。
【0022】
高圧電源部120は、変圧器、整流器等の電気回路を有し、X線管球200に印加する高電圧を発生させる。
図1に示されるように、高圧電源部120は、電力線L3を介してターゲットTg1と接続される。また、高圧電源部120は、電力線L5を介して接地端子GNDと接続されている。
【0023】
フィラメント電源部110は、X線管球200のフィラメントF1にフィラメント電流を供給し、管電流を調整する。管電流制御部130は、電力線L4を流れる管電流を抵抗で検出して電圧に変換し、アンプAm1によって増幅させて、電力線L4に流れる管電流値を検出する。管電流制御部130は、検出された管電流値をフィラメント電流制御部111へと送信する。電力線L4に流れる管電流は、抵抗と接地端子GNDを介して電力線L5から高圧電源部120へと戻る。なお、管電流制御部130によってフィラメント電流制御部111へと送信される管電流値は、予め定められたフィラメント電流の上限値および下限値に基づいて、有効か否かが定められてもよい。なお、管電流制御部130において、アンプAm1の出力側にエラーアンプが配置され得る。
【0024】
フィラメント電流制御部111は、管電流制御部130によって検出された管電流値に応じてフィラメント電流の出力を制御する。このように、本実施の形態の蛍光X線分析装置1000では、電力線L4を流れる管電流値に基づいて、フィラメント電流のフィードバック制御が行われている。なお、フィラメント電源部110は、本開示における「第1電源部」に対応し得る。高圧電源部120は、本開示における「第2電源部」に対応し得る。
【0025】
<電気回路の構成>
図2は、保護回路P1の等価回路図である。
図2を参照して、電源装置100は、端子T1と端子T2との間において、保護回路P1として、キャパシタC32~C39と、ショットキーダイオードD31,D32,D33,D35と、ツェナーダイオードD34と、オペアンプM7と、抵抗R31~R33とを備える。保護回路P1Aは、
図2に示される保護回路P1と同様の構成を有する。そのため、以下では、保護回路P1Aについての説明を繰り返さない。
【0026】
図2に示されるように、電力線L1は、端子T1と端子T2とを接続する。キャパシタC32~C37の各々の一方端は、電力線L1と接続されている。また、キャパシタC32~C37の各々の他方端は、接地端子GNDと接続されている。これにより、電源装置100では、意図しない高電圧の放電の発生によって電力線L1に放電電流が流れる場合に、キャパシタC32~C37によって、電圧の上昇を抑えることができる。
図2の例では、キャパシタC32~C37の数は、6個である。なお、電圧の上昇を抑える目的で設けられるキャパシタC32~C37の静電容量値の合計は、管電流制御部130の制御への影響が生じることのない静電容量以下であることが望ましい。
【0027】
一例では、キャパシタC32,C33の静電容量は100pFであり、定格電圧は100Vである。キャパシタC34,C35の静電容量は2200pFであり、定格電圧は100Vである。キャパシタC36,C37の静電容量は0.01μFであり、定格電圧は250Vである。このように、本実施の形態では、高電圧の放電に伴う電圧の上昇を抑える目的で6個のキャパシタC32~C37が設けられている。なお、キャパシタC32~C37の各々は、本開示における「第1キャパシタ」に対応し得る。
【0028】
電源装置100は、ショットキーダイオードD33を有する。ショットキーダイオードD33は、端子E1と端子E2とを有する。
図2の例において、端子E1はアノードであり、端子E2はカソードである。端子E1は、電力線L1に接続されている。端子E2は、ツェナーダイオードD34と接続されている。
【0029】
なお、ショットキーダイオードD33は、本開示における「第1ダイオード」に対応し得る。ショットキーダイオードD33の端子E1は、本開示における「第1端子」に対応し得る。ショットキーダイオードD33の端子E2は、本開示における「第2端子」に対応し得る。
【0030】
本実施の形態において、ツェナーダイオードD34は、双方向ツェナーダイオードである。すなわち、ツェナーダイオードD34は、対向して配置された2つのツェナーダイオードを有している。ツェナーダイオードD34は、端子E3と端子E4とを有する。ツェナーダイオードD34の端子E3は、ショットキーダイオードD33の端子E2と接続されている。端子E4は、接地端子GNDと接続されている。ツェナーダイオードD34の端子E3は、本開示における「第3端子」に対応し得る。ツェナーダイオードD34の端子E4は、本開示における「第4端子」に対応し得る。本実施の形態において、ツェナーダイオードD34は、より具体的には、過渡電圧抑制(Transient-Voltage Suppression:TVS)ダイオードである。
【0031】
電源装置100は、ショットキーダイオードD33に加えて、ショットキーダイオードD31を有する。ショットキーダイオードD31は、端子E5と端子E6とを有する。
図2の例において、端子E5はカソードであり、端子E6はアノードである。なお、ショットキーダイオードD31は、本開示における「第2ダイオード」に対応し得る。ショットキーダイオードD31の端子E5は、本開示における「第5端子」に対応し得る。ショットキーダイオードD31の端子E6は、本開示における「第6端子」に対応し得る。また、ショットキーダイオードD31,D33は、ファストリカバリーダイオード(FRD:Fast Recovery Diode)など他の種類のダイオードであってもよい。
【0032】
図2に示されるように、本実施の形態における電源装置100では、アノードおよびカソードの方向が互いに逆方向となるようにショットキーダイオードD31,D33が並列に接続されている。X線管球200内にて意図しない放電が発生した場合、いずれの極性の放電電流が電力線L1に流れるかは判断できない。そのため、
図2に示されるように、電力線L1に対してアノードおよびカソードの方向が互いに逆方向となるショットキーダイオードD31,D33が並列に接続されていることによって、放電電流の極性がいずれの方向であっても、電力線L1から、ショットキーダイオードD31,D33のいずれかを介して、ツェナーダイオードD34へと放電電流を流すことができる。
【0033】
本実施の形態において、電源装置100は、ボルテージフォロワ回路を構成するためのオペアンプM7を有する。オペアンプM7は、反転入力端子、非反転入力端子および出力端子を有しており、電力線L1と接続ノードN10との間に接続されている。接続ノードN10は、ショットキーダイオードD33とツェナーダイオードD34との間の接続ノードである。
【0034】
オペアンプM7の出力端子は、直列接続された抵抗R31,R32を介して、接続ノードN10に接続されている。オペアンプM7の非反転入力端子は、抵抗R33を介して電力線L1に接続されている。また、オペアンプM7の出力端子は、オペアンプM7の反転入力端子にも接続されている。抵抗R31,R32は、オペアンプM7を保護するために設けられている。一例では、抵抗R31,R32の抵抗値は100Ωであり、定格電力は0.5Wである。
【0035】
抵抗R32とオペアンプM7の出力端子との間には、ショットキーダイオードD32,D35によって、クランプ回路が形成されている。
図3は、オペアンプM7の電源を説明するための回路図である。オペアンプM7のプラス電源端子には、+15Vの直流電源が接続されている。オペアンプM7のマイナス電源端子には、-5Vの直流電源が接続されている。なお、オペアンプM7のプラス電源端子およびマイナス電源端子の電圧値は、一例であって、他の電圧値であってもよい。
【0036】
オペアンプM7の電源ラインには、キャパシタC48,C49,C50,C51および抵抗R37,R38が接続されている。キャパシタC48,C49,C50,C51は、いわゆるバイパスコンデンサである。一例では、キャパシタC49,C50の静電容量は0.1μFであり、定格電圧は100Vである。キャパシタC48,C51の静電容量は4.7μFであり、定格電圧は50Vである。キャパシタC48~C51、抵抗R37,R38が設けられていることにより、オペアンプM7の電源ラインに発生するノイズを低減することができる。また、キャパシタC48~C51およびショットキーダイオードD32,D35は、オペアンプM7の出力端子の電圧上昇を抑制し、オペアンプM7を保護する。
【0037】
図2に戻り、上述にて説明したように、オペアンプM7の出力端子は、オペアンプM7の反転入力端子と接続されている。オペアンプM7はボルテージフォロワ回路として機能することから、オペアンプM7の出力電圧は、非反転入力端子からの入力電圧と同電位となる。
【0038】
これにより、オペアンプM7の出力端子と接続されているショットキーダイオードD33の端子E2における電位と、オペアンプM7の入力端子に接続されている電力線L1の電位差がゼロに近い値となる。同様に、オペアンプM7の出力端子と接続されているショットキーダイオードD31の端子E6における電位と、オペアンプM7の入力端子に接続されている電力線L1の電位差がゼロに近い値となる。ショットキーダイオードD31,D33では、アノード電圧とカソード電圧に差が生じているときに電流が流れる。本実施の形態では、オペアンプM7によって、ショットキーダイオードD31,D33のアノード電圧とカソード電圧の差がゼロに近づく。
【0039】
これにより、放電が発生せずに、一次X線を発生させるための管電圧の印加により、管電流が流れている期間において、ショットキーダイオードD31,D33を流れる電流値は、ゼロに近い値となる。
図4は、比較例における電源装置100Zにおける端子T1から端子T2までの間の回路図である。比較例の電源装置100Zでは、オペアンプM7によるボルテージフォロワ回路が設けられておらず、ツェナーダイオードD34が直接的に電力線L1に接続されている。
【0040】
比較例では、一次X線10を発生させるために管電圧を印加して、管電流が流れている期間において、ツェナーダイオードD34にツェナーダイオードD34の動作電圧以下の電圧が印可され続け、電力線L1に流れる管電流の一部がリーク電流として接地端子GNDへと流れ込んでしまう。その結果、比較例では、リーク電流の発生により、実際に管球に流れる管電流値と、フィードバック制御の入力として用いられる電流値(電力線L4に流れる電流値)との間に差が生じてしまう。
【0041】
一方で、
図2の本実施の形態の電源装置100では、一次X線10を発生させるために管電圧を印加して管電流が流れている期間において、オペアンプM7で形成されるボルテージフォロワ回路によって、ショットキーダイオードD31,D33の両端子の電位差がゼロに近づく。すなわち、電力線L1からショットキーダイオードD31,D33を介してツェナーダイオードD34へと流れ込む電流値は、ゼロに近づく。これにより、本実施の形態では、ツェナーダイオードD34において管電流がリークしてしまうことを抑制できる。
【0042】
キャパシタC38は、電力線L1とツェナーダイオードD34との間において、ショットキーダイオードD33に対して並列に接続されている。より具体的には、キャパシタC38の一方端は、電力線L1と接続され、キャパシタC38の他方端は、接続ノードN10を介してツェナーダイオードD34の端子E3と接続されている。
【0043】
これにより、電源装置100では、放電の発生によりショットキーダイオードD31,D33に放電電流が流れ込んでくる場合、電力線L1からツェナーダイオードD34へと放電電流が流れる経路としてキャパシタC38によって一時的な経路が形成される。放電電流は、基本的には、ショットキーダイオードD31またはショットキーダイオードD33を流れる。キャパシタC38は、ショットキーダイオードD31またはショットキーダイオードD33が導通するまでの間に電力線L1からツェナーダイオードD34へと放電電流が流れる経路として設けられる。なお、キャパシタC38は、本開示における「第2キャパシタ」に対応し得る。
【0044】
<応答速度について>
本実施の形態において、オペアンプM7から構成されるボルテージフォロワ回路の応答速度は、所定の範囲内に調整される。ボルテージフォロワ回路の応答速度が速すぎると、放電が発生した場合においても、ショットキーダイオードD31,33の両端子の電位差がボルテージフォロワ回路によってゼロに近づいてしまい、放電電流をツェナーダイオードD34へ流すことができなくなる。
【0045】
一方で、ボルテージフォロワ回路の応答速度が遅すぎると、放電が発生していない状態で、一次X線を発生させるために管電圧を印加して管電流が流れている期間において、ショットキーダイオードD31,33の両端子に電位差が生じてしまう場合がある。具体的には、電力線L1に流れる電流値の変動により電力線L1の電圧値が変動したとき、ボルテージフォロワ回路の応答速度が遅すぎると、ショットキーダイオードD31,33の両端子において、変動した分だけの電位差が生じてしまう。これにより、ショットキーダイオードD31からツェナーダイオードD34へと管電流が流れ込んでしまい、管電流のリークが発生してしまう。このとき、ボルテージフォロワ回路の応答速度が管電流制御のフィードバック制御の応答速度よりも遅い場合、フィードバック制御の入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間に乖離が生じてしまう。
【0046】
ボルテージフォロワ回路の応答速度は、所定の範囲内であることが望ましい。本実施の形態では、抵抗R33、キャパシタC39を用いて、ボルテージフォロワ回路の応答速度が調整されている。一例では、抵抗R33の抵抗値は、10kΩであり、定格電力は、0.25Wである。キャパシタC39の静電容量は2200pFであり、定格電圧は100Vである。
【0047】
電力線L1には、抵抗R33の一方端が接続されている。抵抗R33の他方端には、オペアンプM7の非反転入力端子およびキャパシタC39の一方端が接続されている。キャパシタC39の他方端には、接地端子が接続されている。キャパシタC39および抵抗R33は、遅延回路として機能する。
【0048】
これにより、電力線L1に流れる電流値の変動により電力線L1の電圧値が変動したときのボルテージフォロワ回路の応答速度を遅らせることができる。すなわち、本実施の形態では、抵抗R33とキャパシタC39とが設けられていることによって、オペアンプM7によって構成されるボルテージフォロワ回路の応答速度を調整できる。さらに、キャパシタC39、抵抗R33は、オペアンプM7を保護する役割も有する。このように、本実施の形態では、オペアンプM7の入力側に遅延回路として機能するフィルタ回路が形成されている。
【0049】
また、本実施の形態では、ツェナーダイオードD34の寄生容量と抵抗R31,R32とによってもフィルタ回路が形成されている。本実施の形態では、ツェナーダイオードD34と抵抗R31,R32とが設けられていることによって、オペアンプM7を保護することができる。このように、本実施の形態では、オペアンプM7の入力側だけでなく、出力側にもフィルタ回路が形成されている。
【0050】
上述にて説明したように、本実施の形態では、ツェナーダイオードD34における管電流のリークが抑えられることによって、フィードバック制御の入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間に乖離が生じることを抑制できる。電力線L4に流れる管電流値が小さいと、フィードバック制御の入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間の乖離に対するリーク電流の影響は大きくなる。本実施の形態では、管電流値が小さいことからリーク電流の影響が大きくなってしまう場合においても、ツェナーダイオードD34における管電流のリークの発生自体を抑えてフィードバック制御の入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間の乖離を抑制できる。
【0051】
さらに、本実施の形態では、ショットキーダイオードD31,D33を介してツェナーダイオードD34へと流れ込む電流値をゼロに近づけることができる。そのため、本実施の形態では、ツェナーダイオードD34の特性にかかわらず、管電流がリークしてしまうことを抑制することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、ツェナーダイオード、ショットキーダイオード、キャパシタ、オペアンプなどの一般的な電子部品から回路が構成されているため、コストの増大を抑制することができる。なお、ツェナーダイオードにおいて管電流がリークしてしまうことによる誤差を、補正係数を用いて管電流の設定値を補正することも考えられるが、この場合、補正係数を算出するソフトウェアの開発コストが発生する。本実施の形態では、フィードバック制御を補正するためのソフトウェアの開発コストを発生させずに、フィードバック制御の入力値としての管電流値と、実際に管球に流れる管電流値との間に乖離が生じることを抑制できる。
【0053】
さらに、本実施の形態における電源装置100では、ツェナーダイオードD34の温度変動および放電保護性能にかかわらず、管電流がリークすることを抑制することができる。
【0054】
本実施の形態では、X線を発生させる電源装置100が蛍光X線分析装置1000に適用される例を説明した。しかしながら、X線を発生させる電源装置100は、蛍光X線分析装置ではなく、たとえば、レントゲン装置、CT装置、ラジオグラフィー装置などに適用され得る。すなわち、電源装置100は、フィラメントF1およびターゲットTg1に管電圧を印加してX線を発生させる多種多様な装置に対して適用され得る。
【0055】
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0056】
(第1項) 一態様に係る蛍光X線分析装置は、フィラメントおよびターゲットを含み、試料に一次X線を照射するX線管球と、試料から発生する二次X線を検出する検出器と、電力線を介してフィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、第1端子と第2端子とを有し、電力線上に第1端子が接続された第1ダイオードと、第3端子と第4端子とを有し、第2端子に第3端子が接続され、第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備える。非反転入力端子は、電力線に接続され、出力端子は、第2端子および反転入力端子に接続される。
【0057】
第1項に記載の蛍光X線分析装置によれば、フィラメントおよびターゲットに管電圧を印加してX線を発生させる蛍光X線分析装置において、放電保護用のツェナーダイオードにおける管電流のリークを抑制できる。
【0058】
(第2項) 第1項に記載の蛍光X線分析装置において、第5端子と第6端子とを有し、電力線上に第5端子が接続された第2ダイオードをさらに備え、第6端子は、第3端子および出力端子に接続され、第1端子は、アノードであり、第2端子は、カソードであり、第5端子は、カソードであり、第6端子は、アノードであり、ツェナーダイオードは、双方向ツェナーダイオードである。
【0059】
第2項に記載の蛍光X線分析装置1000によれば、放電電流の極性がいずれの方向であっても、電力線から、ショットキーダイオードのいずれかを介して、ツェナーダイオードへと放電電流を流すことができる。
【0060】
(第3項) 第1項または第2項に記載の蛍光X線分析装置において、電力線に一方端が接続され、他方端が接地端子と接続された第1キャパシタをさらに備える。
【0061】
第3項に記載の蛍光X線分析装置によれば、意図しない高電圧の放電の発生によって電力線に放電電流が流れる場合に、第1キャパシタによって、電圧の上昇を抑えることができる。
【0062】
(第4項) 第1項~第3項のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置において、第1ダイオードに対して並列に接続された第2キャパシタをさらに備える。
【0063】
第4項に記載の蛍光X線分析装置によれば、放電の発生によりショットキーダイオードに放電電流が流れ込んでくる場合に、電力線からツェナーダイオードへと放電電流が流れる経路としてキャパシタによって一時的な経路が形成することができる。
【0064】
(第5項) 第1項~第4項のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置において、非反転入力端子および出力端子の少なくとも一方に設けられたフィルタ回路をさらに備える。
【0065】
第5項に記載の蛍光X線分析装置によれば、抵抗とキャパシタ、および、ツェナーダイオードと抵抗の少なくとも一方が設けられていることによって、オペアンプによって構成されるボルテージフォロワ回路の応答速度を調整できる。これにより、ボルテージフォロワ回路は、電力線における電圧変動に追従しないように構成されている。
【0066】
(第6項) 第1項~第5項のいずれか1項に記載の蛍光X線分析装置において、出力端子に接続されたクランプ回路をさらに備える。
【0067】
第6項に記載の蛍光X線分析装置によれば、オペアンプを保護することができる。
(第7項) 一態様に係る電源装置は、フィラメントおよびターゲットを含むX線管球に電流を供給する電源装置である。電源装置は、電力線を介してフィラメントにフィラメント電流を供給する第1電源と、ターゲットに管電圧を印加する第2電源と、第1端子と第2端子とを有し、電力線上に第1端子が接続された第1ダイオードと、第3端子と第4端子とを有し、第2端子に第3端子が接続され、第4端子が接地端子に接続されたツェナーダイオードと、出力端子、反転入力端子、および非反転入力端子を有するオペアンプとを備える。非反転入力端子は、電力線に接続され、出力端子は、第2端子および反転入力端子に接続される。
【0068】
第7項に記載の電源装置100によれば、フィラメントおよびターゲットに管電圧を印加してX線を発生させる蛍光X線分析装置において、放電保護用のツェナーダイオードにおける管電流のリークを抑制できる。
【0069】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
110 フィラメント電源部、111 フィラメント電流制御部、120 高圧電源部
130 管電流制御部、200 X線管球、300 検出器、1000 X線分析装置、Am1 アンプ、C32~C39,C48~C51 キャパシタ、D31~D33,D35 ショットキーダイオード、D34A,D34 ツェナーダイオード、E1~E4 端子、F1 フィラメント、GND 接地端子、L1A,L1~L4 電力線、M7 オペアンプ、N1Z,N1~N11,N14,N17 接続ノード、R31,R32,R33,R37,R38 抵抗、S 試料、T1A,T1,T2,T2A 端子、Tg1 ターゲット。