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特開2025-14421トランジスタ駆動装置、インバータ装置、トランジスタ駆動方法、トランジスタ駆動プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014421
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】トランジスタ駆動装置、インバータ装置、トランジスタ駆動方法、トランジスタ駆動プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20250123BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20250123BHJP
【FI】
H02M1/08 C
H02M1/08 A
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116953
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】木内 康太
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB09
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH05
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM01
5H770AA05
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770GA02
5H770GA03
5H770GA04
5H770GA07
5H770LA01X
(57)【要約】
【課題】ドライバがトランジスタに対して印加する制御信号におけるサージやノイズを効果的に抑制できるトランジスタ駆動装置等を提供する。
【解決手段】トランジスタ駆動装置30は、入力される駆動パルス(PWM信号)に応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号(スイッチングパルス)を生成するドライバ135と、ドライバ135に電力を供給するドライバ電源回路40であって、駆動パルス(PWM信号)の立ち上がり期間において、ドライバ135に供給する電圧を一時的に低下させるドライバ電源回路40と、を備える。駆動パルス(PWM信号)は、ドライバ電源回路40にも入力され、ドライバ電源回路40は、入力される駆動パルス(PWM信号)に基づくタイミングで、ドライバ135に供給する電圧を一時的に低下させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号を生成するドライバと、
前記ドライバに電力を供給するドライバ電源回路であって、前記駆動パルスの立ち上がり期間において、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させるドライバ電源回路と、
を備えるトランジスタ駆動装置。
【請求項2】
前記駆動パルスは、前記ドライバ電源回路にも入力され、
前記ドライバ電源回路は、入力される前記駆動パルスに基づくタイミングで、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させる、
請求項1に記載のトランジスタ駆動装置。
【請求項3】
前記ドライバ電源回路は、入力される前記駆動パルスに対して所定の電圧低下遅延を付加する遅延回路を備え、当該電圧低下遅延が付加されたタイミングで、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させる、請求項2に記載のトランジスタ駆動装置。
【請求項4】
前記ドライバ電源回路は、入力される前記駆動パルスに基づくタイミングで、所定の電圧低下期間の電圧低下パルスを生成する電圧低下パルス生成回路を備え、当該電圧低下期間に亘って前記ドライバに供給する電圧を低下させる、請求項2に記載のトランジスタ駆動装置。
【請求項5】
前記ドライバ電源回路は、前記ドライバに供給する電圧の低下量が所定の電圧低下限界に到達すると、当該電圧低下処理を停止する、請求項2から4のいずれかに記載のトランジスタ駆動装置。
【請求項6】
制御端子に印加される制御信号に応じたスイッチング動作によって直流を交流に変換するトランジスタと、
入力される駆動パルスに応じて、前記制御信号を生成するドライバと、
前記ドライバに電力を供給するドライバ電源回路であって、前記駆動パルスの立ち上がり期間において、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させるドライバ電源回路と、
を備えるインバータ装置。
【請求項7】
ドライバによって、入力される駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号を生成することと、
前記ドライバに電力を供給するドライバ電源回路によって、前記駆動パルスの立ち上がり期間において、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させることと、
を実行するトランジスタ駆動方法。
【請求項8】
ドライバによって、入力される駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号を生成することと、
前記ドライバに電力を供給するドライバ電源回路によって、前記駆動パルスの立ち上がり期間において、前記ドライバに供給する電圧を一時的に低下させることと、
をコンピュータに実行させるトランジスタ駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランジスタ駆動装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、直流を交流に変換するインバータ装置が開示されている。インバータ装置は、ゲートやベース等の制御端子に印加される制御信号に応じたスイッチング動作によって交流を出力する典型的には複数のトランジスタを備える。トランジスタの前段に設けられるドライバは、PWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)等に基づく駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加する制御信号(スイッチング信号)を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-171100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PWM信号等に含まれる各駆動パルスは急峻に立ち上がるため、それに応じてドライバが生成する制御信号に、瞬間的なサージやノイズが発生する恐れがある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、ドライバがトランジスタに対して印加する制御信号におけるサージやノイズを効果的に抑制できるトランジスタ駆動装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のトランジスタ駆動装置は、入力される駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号を生成するドライバと、ドライバに電力を供給するドライバ電源回路であって、駆動パルスの立ち上がり期間において、ドライバに供給する電圧を一時的に低下させるドライバ電源回路と、を備える。
【0007】
本態様によれば、ドライバに入力される駆動パルスの立ち上がり期間において、当該ドライバに供給される電圧が一時的に低下するため、ドライバがトランジスタに対して出力する制御信号におけるサージやノイズが効果的に抑制される。
【0008】
本開示の別の態様は、インバータ装置である。この装置は、制御端子に印加される制御信号に応じたスイッチング動作によって直流を交流に変換するトランジスタと、入力される駆動パルスに応じて、制御信号を生成するドライバと、ドライバに電力を供給するドライバ電源回路であって、駆動パルスの立ち上がり期間において、ドライバに供給する電圧を一時的に低下させるドライバ電源回路と、を備える。
【0009】
本開示の更に別の態様は、トランジスタ駆動方法である。この方法は、ドライバによって、入力される駆動パルスに応じて、トランジスタの制御端子に印加される制御信号を生成することと、ドライバに電力を供給するドライバ電源回路によって、駆動パルスの立ち上がり期間において、ドライバに供給する電圧を一時的に低下させることと、を実行する。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本開示に包含される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ドライバがトランジスタに対して印加する制御信号におけるサージやノイズを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モータに多相の交流を供給するインバータ装置を模式的に示す。
図2】ドライバに入力される駆動パルスと、当該ドライバがトランジスタの制御端子に対して出力する制御信号を模式的に示す。
図3】抵抗の大きさに応じたドライバの出力を模式的に示す。
図4】トランジスタ駆動装置の構成例を模式的に示す。
図5】ドライバ電源回路の具体的な構成例を示す。
図6】駆動パルス、電圧低下パルス、ドライバ電圧の例を示す。
図7】駆動パルス、電圧低下パルス、ドライバ電圧の例を示す。
図8】駆動回路の動作を模式的に示す表である。
図9】本実施形態の効果を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に記述する。記述および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する記述を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、記述の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本開示の範囲を何ら限定するものではない。実施形態において提示される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。実施形態は、便宜的に、それを実現する機能毎および/または機能群毎の構成要素に分解されて提示される。但し、実施形態における一つの構成要素が、実際には別体としての複数の構成要素の組合せによって実現されてもよいし、実施形態における複数の構成要素が、実際には一体としての一つの構成要素によって実現されてもよい。
【0014】
図1は、モータ20に多相の交流を供給する本実施形態に係るインバータ装置10を模式的に示す。インバータ装置10は、商用電源等から供給されるR相、S相、T相の3相の交流を整流して直流(脈流)に変換するコンバータ11と、コンバータ11で変換された直流を平滑して波形を整えるコンデンサ12と、コンデンサ12で平滑された直流を交流に変換するインバータ13を備える。
【0015】
コンバータ11は、商用電源等から供給される3相(R,S,T)の交流を一定の方向(図の下から上に向かう方向)に整流するダイオード111~116を備える。ダイオード111はR相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード112はR相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード113はS相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード114はS相の交流電圧が負の時に電流を流し、ダイオード115はT相の交流電圧が正の時に電流を流し、ダイオード116はT相の交流電圧が負の時に電流を流す。これらのブリッジ状に接続されたダイオード111~116によって、コンバータ11の出力端子間には、方向が一定で大きさが変動する脈流が現われる。コンデンサ12は、コンバータ11で得られた脈流を平滑した直流をインバータ13に供給する。
【0016】
以下では、コンバータ11およびコンデンサ12を経て、インバータ13の高電位入力端子131と低電位入力端子132の間に入力される直流電圧をVDCと表す。高電位入力端子131が接続される高電位ラインの電位をVdd、低電位入力端子132が接続される低電位ラインの電位をVssとすれば、VDC=Vdd-Vssである。
【0017】
インバータ13は、直流の高電位Vddを供給する高電位ラインと直流の低電位Vssを供給する低電位ラインの間に並列に接続されるU相、V相、W相の3相のトランジスタ対のスイッチング動作によって3相の交流を出力する。換言すれば、インバータ13は、高電位入力端子131と低電位入力端子132の間で入力される直流電圧VDCに基づいて3相の交流を生成する。具体的には、直流電圧VDCに基づいてU相の交流を生成するU相インバータ13Uと、直流電圧VDCに基づいてV相の交流を生成するV相インバータ13Vと、直流電圧VDCに基づいてW相の交流を生成するW相インバータ13Wが並列に設けられる。各相のインバータ13U、13V、13Wの構成は共通であるため、以下では適宜インバータ13と総称されてまとめて説明される。
【0018】
インバータ13は、高い直流電源電位Vddが入力される高電位入力端子131と、低い直流電源電位Vssが入力される低電位入力端子132と、高電位入力端子131が接続される高電位ラインと低電位入力端子132が接続される低電位ラインの間に設けられてVddとVssの間で変動する交流電圧を出力する交流出力端子133を備える。高電位ラインと交流出力端子133の間には高電位側トランジスタ134Hが接続され、低電位ラインと交流出力端子133の間には低電位側トランジスタ134Lが接続される。
【0019】
高電位側トランジスタ134Hは、その制御端子に接続されるドライバとしての高電位側ドライバ135Hから供給されるパルス(制御信号)に応じて、電流経路の導通状態を切り替えるスイッチング動作を行う。低電位側トランジスタ134Lは、その制御端子に接続されるドライバとしての低電位側ドライバ135Lから供給されるパルス(制御信号)に応じて、電流経路の導通状態を切り替えるスイッチング動作を行う。以下では、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lが、適宜トランジスタ134またはトランジスタ対134と総称され、高電位側ドライバ135Hおよび低電位側ドライバ135Lが、適宜ドライバ135またはドライバ対135と総称される。また、以下の説明においては「高電位側」を意味する「H」および「低電位側」を意味する「L」が適宜省略されるが、図面では必要に応じて「H」および「L」が符号の末尾に付されている。
【0020】
図示の例におけるトランジスタ134は、制御端子としてのゲート31と、高電位ライン側に接続される高電位側端子としてのコレクタ32と、低電位ライン側に接続される低電位側端子としてのエミッタ33を備える絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。但し、トランジスタ134は、制御端子としてのゲートと、高電位側端子としてのドレインと、低電位側端子としてのソースを備える電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)でもよいし、制御端子としてのベースと、高電位側端子としてのコレクタと、低電位側端子としてのエミッタを備えるバイポーラトランジスタでもよい。
【0021】
高電位側トランジスタ134Hにおいて、ゲート31Hは高電位側ドライバ135Hに接続され、コレクタ32Hは高電位入力端子131または高電位ラインに接続され、エミッタ33Hは交流出力端子133および低電位側トランジスタ134Lのコレクタ32Lに接続される。低電位側トランジスタ134Lにおいて、ゲート31Lは低電位側ドライバ135Lに接続され、コレクタ32Lは交流出力端子133および高電位側トランジスタ134Hのエミッタ33Hに接続され、エミッタ33Lは低電位入力端子132または低電位ラインに接続される。以上の構成において、高電位側トランジスタ134Hのエミッタ33Hと低電位側トランジスタ134Lのコレクタ32Lの接続点が交流出力端子133を形成する。
【0022】
各トランジスタ134において、コレクタ32とエミッタ33の間の電流経路またはチャネルは、各ドライバ135からゲート31に印加されるパルス(制御信号)に応じて導通状態が切り替わる。この電流経路またはチャネルと並列に、保護ダイオード要素としての保護ダイオード34が設けられる。保護ダイオード34は、トランジスタ134と別体のディスクリートな素子でもよいし、トランジスタ134を製造する半導体製造プロセスにおいて、当該トランジスタ134と一体的またはモノリシックに形成されるものでもよい。保護ダイオード34は、低電位ライン側から高電位ライン側に向かう方向のみに電流を流すように設けられる。
【0023】
集積回路(IC:Integrated Circuit)として構成されてもよいドライバ135は、トランジスタ134のゲート31にスイッチング動作のための制御信号としてのスイッチングパルスを供給する。例えば、ドライバ135は、PWMによってデューティ比が制御されたパルスをトランジスタ134のゲート31に印加する。トランジスタ134は、パルスの有無に応じてオン状態とオフ状態の間でスイッチング動作を行う。具体的には、パルスがゲート31に印加されている間はトランジスタ134がオン状態となり、コレクタ32とエミッタ33の間のチャネルが導通状態となる。また、パルスがゲート31に印加されていない間はトランジスタ134がオフ状態となり、コレクタ32とエミッタ33の間のチャネルが非導通状態となる。
【0024】
各相のドライバ135は、不図示の制御部による制御の下で、高電位側トランジスタ134Hおよび低電位側トランジスタ134Lからなるトランジスタ対の導通状態を相補的に切り替えるスイッチング制御を行うことで、直流を各相の交流に変換する。ここで「相補的に切り替える」とは、各相のトランジスタ対が同時にオン状態にならないように制御することを意味する。換言すれば、各相における一方のトランジスタがオン状態の時は、当該各相における他方のトランジスタがオフ状態に制御されることを意味する。但し、各相のトランジスタ対が同時にオフ状態になることは許容される。U相について具体的には、高電位側トランジスタ134Hがオン状態の時は低電位側トランジスタ134Lがオフ状態に制御され、低電位側トランジスタ134Lがオン状態の時は高電位側トランジスタ134Hがオフ状態に制御される。このため、高電位側トランジスタ134Hがオン状態の時はU相交流出力端子133Uに高電位Vddが現われ、低電位側トランジスタ134Lがオン状態の時はU相交流出力端子133Uに低電位Vssが現われる。このようなスイッチング制御を周期的に繰り返すことで、U相交流出力端子133Uには高電位Vddと低電位Vssが交互に現われるU相交流が生成される。
【0025】
以上のようにインバータ13で生成された3相の交流は、回転動力を発生させるモータ20に供給される。モータ20は、例えば、U相、V相、W相の3相のコイル20U、20V、20Wを備える3相ブラシレスモータである。U相コイル20UにはU相インバータ13Uの交流出力端子133UからのU相電流が流れ、V相コイル20VにはV相インバータ13Vの交流出力端子133VからのV相電流が流れ、W相コイル20WにはW相インバータ13Wの交流出力端子133WからのW相電流が流れる。各相のインバータ13U、13V、13Wは、モータ20のホール素子H1、H2、H3が検知した回転子の回転位置に基づき、互いに位相が異なる3相の交流を各相のコイル20U、20V、20Wに印加することで回転磁界を発生させる。この回転磁界によって回転する回転子から所望の回転動力が得られる。なお、モータ20は、交流によって駆動される他のタイプのモータでもよい。また、モータ20の相の数は3に限られず任意の自然数でよい。同様に、コンバータ11に入力される交流の相の数も3に限られず任意の自然数でよい。
【0026】
図2は、U相インバータ13Uにおける高電位側トランジスタ134Hに対するドライバ135を例として、当該ドライバ135に入力される駆動パルスと、当該ドライバ135がトランジスタ134の制御端子に対して出力する制御信号を模式的に示す。図示の例における駆動パルスは、PWMによってデューティ比が制御されたPWM信号である。ドライバ135は、このPWM信号(駆動パルス)に応じて、制御信号としてのスイッチングパルスを生成する。例えば、ドライバ135は、PWM信号に含まれる各駆動パルスに基づく幅のスイッチングパルスを生成する。このように、PWM信号としての駆動パルスに基づいて生成されるスイッチングパルス自体が、幅またはデューティ比が制御されたPWM信号を構成してもよい。
【0027】
ドライバ135とトランジスタ134の間には、スイッチングパルス(制御信号)が通るゲート抵抗等の抵抗136が設けられてもよい。図3は、抵抗136の大きさに応じたドライバ135の出力(または、トランジスタ134の入力)を模式的に示す。図3における一番上に模式的に示されるように、ドライバ135の入力である駆動パルスは垂直に立ち上がるものとする。
【0028】
抵抗136が小さい場合(ゲート抵抗:小)、駆動パルスの急峻な立ち上がりに応じて、制御信号に瞬間的なサージまたはオーバーシュートが発生しうる。このようなサージやオーバーシュートは、それを受けるトランジスタ134に過大な負荷をかけることで、トランジスタ134の低寿命化を招く恐れがある。また、瞬間的なサージやオーバーシュートは、トランジスタ134のスイッチング動作に対するノイズでもあり、エミッション(不要な電磁ノイズの放出)の増加にも繋がりうる。
【0029】
抵抗136を大きくすることで(ゲート抵抗:大)、制御信号における瞬間的なサージやノイズを抑制することも可能である。しかし、この場合は制御信号の立ち上がりが遅くなる(波形がなまる)ため、トランジスタ134のスイッチング動作の効率を悪化させうる。
【0030】
以上のように、抵抗136の大きさに関しては、トレードオフまたは一長一短がある。換言すれば、抵抗136だけでは、制御信号における瞬間的なサージやノイズの抑制(抵抗136が小さい場合)と、制御信号の急峻な立ち上がり(抵抗136が大きい場合)を両立させることが難しい。
【0031】
このような課題を解決するために、本実施形態では、図4に模式的に示されるような構成のトランジスタ駆動装置30が提案される。トランジスタ駆動装置30は、入力される駆動パルスに応じて、トランジスタ134の制御端子に印加される制御信号を生成する前述のドライバ135と、当該ドライバ135に電力を供給するドライバ電源回路40と、を備える。具体例については後述するように、ドライバ電源回路40は、駆動パルスの立ち上がり期間において、ドライバ135に供給する電圧を一時的に低下させる。このように、ドライバ電源回路40が駆動パルスに同期した電圧低下処理を実行できるように、駆動パルスはドライバ電源回路40にも入力される。
【0032】
図5は、ドライバ電源回路40の具体的な構成例を示す。なお、以下で説明するドライバ電源回路40の少なくとも一部の作用および/または効果が実現される限り、ドライバ電源回路40は図示の例と異なる態様で構成されてもよい。図示におけるドライバ電源回路40は、遅延回路41と、電圧低下パルス生成回路42と、電圧低下限界生成部43と、比較回路44と、駆動回路45と、一対のトランジスタ46H、46Lと、を備える。これらの構成要素および/または機能ブロックは、アナログ回路および/またはアナログ部品として実現されてもよいし、コンピュータおよび/またはプロセッサの演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータおよび/またはプロセッサに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働によってデジタル的に実現されてもよい。
【0033】
詳細については後述するが、図6および図7は、ドライバ電源回路40の入力である駆動パルス(PWM信号)、図5の「A点」(遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42と駆動回路45の間の点)における電圧低下パルス、ドライバ電源回路40の出力であるドライバ電圧Voutの例を示す。
【0034】
遅延回路41は、入力される駆動パルス(PWM信号)に対して、所定の電圧低下遅延を付加する。電圧低下パルス生成回路42は、入力される駆動パルス(PWM信号)に基づくタイミングで、所定の電圧低下期間の電圧低下パルスを生成する。模式的に図示されるように、遅延回路41および電圧低下パルス生成回路42は、実質的に一つの回路として構成されてもよい。
【0035】
図6および図7に示されるように、図5の「A点」には、遅延回路41によってPWM信号(駆動パルス)に対して所定の電圧低下遅延Dが付加され、電圧低下パルス生成回路42によって生成された所定の電圧低下期間Wの電圧低下パルスが現れる。換言すれば、PWM信号(駆動パルス)の立ち上がり時から電圧低下遅延Dが経過した後に、電圧低下幅Wの電圧低下パルスが生成される。ここで、遅延回路41による電圧低下遅延Dおよび/または電圧低下パルス生成回路42による電圧低下期間W(電圧低下幅W)は、任意に設定可能である。すなわち、遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42は、PWM信号(駆動パルス)から任意の時間(電圧低下遅延D)だけ遅延した、任意の幅(電圧低下期間W)の電圧低下パルスを生成できる。
【0036】
電圧低下限界生成部43は、ドライバ電源回路40がドライバ135に供給する電圧(ドライバ電圧Vout)を一時的に低下させる際の任意の限界(下限)である電圧低下限界Vrefを、電源電位(VCC)に基づいて生成する。
【0037】
比較回路44は、電圧低下限界生成部43によって生成された任意の電圧低下限界Vrefを、ドライバ電源回路40の出力であるドライバ電圧Voutと比較する。詳細については図7に関して後述するが、ドライバ135に供給される電力であるドライバ電圧Voutが電圧低下限界Vrefまで低下すると、ドライバ電源回路40は一時的な電圧低下処理を停止する。
【0038】
駆動回路45は、遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42によって生成された「A点」における電圧低下パルスと、比較回路44におけるドライバ電圧Voutと電圧低下限界Vrefの比較結果に応じて、後段の一対のトランジスタ46H、46Lに対する駆動信号を生成する。
【0039】
プッシュプル構成の一対のトランジスタ46H、46Lは、駆動回路45からの駆動信号に応じて、一方がオン状態に制御され、他方がオフ状態に制御される。図示の例では、NPN型の高電位側(または、ソース側)トランジスタ46HとPNP型の低電位側(または、シンク側)トランジスタ46Lが、電源電位(VCC)等の高電位とグラウンド等の低電位の間で直列に接続されている。高電位側トランジスタ46Hと低電位側トランジスタ46Lの接続点が、ドライバ電源回路40がドライバ電圧Voutを出力する電圧出力端子を構成する。各トランジスタ46H、46Lの制御端子としてのベースには、駆動回路45からの同じ駆動信号が印加されるが、トランジスタのタイプ(型)が異なるためにオン状態とオフ状態が反対になる。
【0040】
高電位側トランジスタ46Hがオン状態で、低電位側トランジスタ46Lがオフ状態の時は、電源電位(VCC)等の高電位がドライバ電圧Voutとなる。一方、低電位側トランジスタ46Lがオン状態で、高電位側トランジスタ46Hがオフ状態の時は、ドライバ電圧Voutが電源電位(VCC)等の高電位から低下する。なお、原則として、両方のトランジスタ46H、46Lが同時にオン状態となることはないため、高電位と低電位の間で貫通電流が発生するリスクも低い。
【0041】
以上のような構成のドライバ電源回路40において、駆動回路45は、図8に模式的に示される表に則って、高電位側トランジスタ46H(Q1)および低電位側トランジスタ46L(Q2)の一方をオン状態とし、他方をオフ状態とする駆動信号を生成する。
【0042】
遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42によって生成された「A点」における電圧低下パルスのレベルが「Low」(低)の場合、ドライバ電圧Voutと電圧低下限界Vrefの大小関係によらず、高電位側トランジスタ46H(Q1)がオン状態に制御され、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオフ状態に制御される。この場合のドライバ電圧Voutは、電源電位(VCC)等の高電位になる。
【0043】
遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42によって生成された「A点」における電圧低下パルスのレベルが「High」(高)の場合であって、ドライバ電圧Voutが電圧低下限界Vrefより大きい場合、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオン状態に制御され、高電位側トランジスタ46H(Q1)がオフ状態に制御される。この場合のドライバ電圧Voutは、電源電位(VCC)等の高電位から低下する。
【0044】
遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42によって生成された「A点」における電圧低下パルスのレベルが「High」(高)の場合であって、ドライバ電圧Voutが電圧低下限界Vref以下の場合、高電位側トランジスタ46H(Q1)がオン状態に制御され、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオフ状態に制御される。この場合のドライバ電圧Voutは、電圧低下限界Vrefから電源電位(VCC)等の高電位まで上昇する。
【0045】
図6および図7の例は、電圧低下パルス生成回路42が生成する電圧低下パルスにおける電圧低下期間W(電圧低下幅W)が異なる場合を示す。図6では電圧低下期間Wが比較的短く、図7では電圧低下期間Wが比較的長い。
【0046】
図6の例では、遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42が、PWM信号(駆動パルス)の立ち上がり時から電圧低下遅延Dだけ遅延したタイミングで、電圧低下期間Wの幅の電圧低下パルスを立ち上げる(A点)。この電圧低下期間Wでは、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオン状態となるため、ドライバ電圧Voutが電源電位(VCC)から一時的に低下する。
【0047】
電圧低下期間Wが比較的短い図6の例では、ドライバ電圧Voutが電圧低下限界Vrefまで低下しないため、電圧低下期間Wに亘って低電位側トランジスタ46L(Q2)がオン状態に維持される。そして、この電圧低下期間Wが終了すると高電位側トランジスタ46H(Q1)がオン状態に切り替えられて、一時的に低下したドライバ電圧Voutが電源電位(VCC)まで再上昇する。
【0048】
図7の例でも、遅延回路41/電圧低下パルス生成回路42が、PWM信号(駆動パルス)の立ち上がり時から電圧低下遅延Dだけ遅延したタイミングで、電圧低下期間Wの幅の電圧低下パルスを立ち上げる(A点)。この電圧低下期間Wでは、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオン状態となるため、ドライバ電圧Voutが電源電位(VCC)から一時的に低下する。
【0049】
電圧低下期間Wが比較的長い図7の例では、ドライバ電圧Voutが電圧低下限界Vrefまで低下するため、図8の表に則って、駆動回路45が高電位側トランジスタ46H(Q1)をオン状態に切り替える。このように、図7の例では、電圧低下期間Wの終了を待たずに、電圧低下処理が強制的に停止される。このため、ドライバ電圧Voutが下限の電圧低下限界Vrefを超えて低下しすぎる事態を効果的に防止できる。電圧低下処理の強制停止後、電圧低下限界Vrefまで低下したドライバ電圧Voutは電源電位(VCC)まで再上昇する。なお、この再上昇の際に、低電位側トランジスタ46L(Q2)をオン状態に切り替えるための条件「Vout > Vref」が形式上満たされるが、少なくとも現在の電圧低下期間Wが終了するまでの間は、低電位側トランジスタ46L(Q2)がオフ状態に維持されるものとする。
【0050】
以上のように、本実施形態では、ドライバ電源回路40が、入力される駆動パルス(PWM信号)に同期したタイミングで、当該駆動パルスの立ち上がり期間(例えば、駆動パルスの少なくとも前半)において、ドライバ135に供給するドライバ電圧Voutを一時的に低下させる。
【0051】
図9は、本実施形態の効果を模式的に示す。図9(A)は、図4に示されるように、ドライバ135およびドライバ電源回路40の両方に並列に入力されるPWM信号等の駆動パルス(ドライバ入力)の立ち上がり期間を模式的に示す。図9(B)は、図6および図7において例示されたドライバ電圧Voutを模式的に示す。前述のように、ドライバ電圧Voutは、駆動パルスの立ち上がり期間において一時的に低下する。
【0052】
図9(B)におけるドライバ電圧Voutは、t1、t2、t3の三つの期間に分けられる。第1期間t1は、図9(A)における駆動パルスの立ち上がり時から、ドライバ電圧Voutが低下を開始するまでの遅延である。この遅延は、前述の遅延回路41による電圧低下遅延Dに相当する。第2期間t2は、図6および図7において例示されたように、オン状態の低電位側トランジスタ46Lによって、ドライバ電圧Voutが一時的に低下する期間である。第3期間t3は、図6および図7において例示されたように、オン状態に切り替えられた高電位側トランジスタ46Hによって、ドライバ電圧Voutが再上昇する期間である。
【0053】
第1期間t1、第2期間t2、第3期間t3の長さは、互いに独立に設定可能である。これらは、互いに同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。例えば、第3期間t3は、ドライバ出力に生じうるリンギング等を抑制するために、第2期間t2より長く設定されてもよい。
【0054】
図9(C)は、図9(B)のようにドライバ電圧Voutが一時的に低下する場合(すなわち、ドライバ電源回路40が可変電源を構成する場合)に、ドライバ135が出力するスイッチングパルスとしての制御信号(ドライバ出力)を模式的に示す。図示されるように、ドライバ出力は、ドライバ電圧Voutが低下する前の第1期間t1においては、通常通りに急峻に上昇する。ドライバ電圧Voutが低下する第2期間t2では、ドライバ出力の上昇速度(傾き)が小さくなる(サージが抑制される)。ドライバ電圧Voutが再上昇する第3期間t3では、ドライバ出力が緩やかに下降して目標値に落ち着く。
【0055】
図9(D)は、図9(C)の比較例として、ドライバ電圧Voutが一定の場合(すなわち、ドライバ電源回路40が固定電源を構成する場合)に、ドライバ135が出力するスイッチングパルスとしての制御信号(ドライバ出力)を模式的に示す。これは、図3における「ゲート抵抗:小」の場合と同じである。すなわち、図9(A)における駆動パルスの急峻な立ち上がりに応じて、ドライバ出力に瞬間的なサージまたはオーバーシュートが発生している。
【0056】
これに対して、図9(C)では、ドライバ135に入力される駆動パルスの立ち上がり期間(図9(A))において、当該ドライバ135に供給される電圧が一時的に低下するため(図9(B))、ドライバ135がトランジスタ134に対して出力する制御信号におけるサージやノイズが効果的に抑制または低減される。また、図3における「ゲート抵抗:大」の場合と比べて、ドライバ出力(制御信号)の立ち上がりが速くなる(波形のなまりが低減される)ため、トランジスタ134のスイッチング動作の効率を高められる。このことは、特に、高速動作や高応答性が求められるモータ駆動装置(例えば、本実施形態におけるインバータ装置10)にとって有利である。
【0057】
以上、本開示を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本開示の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0058】
以上の実施形態では、本開示の適用対象としてインバータ装置10が例示されたが、本開示は、任意のトランジスタを駆動するためのドライバを備える任意の装置に適用可能である。
【0059】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0060】
10 インバータ装置、13 インバータ、20 モータ、30 トランジスタ駆動装置、40 ドライバ電源回路、41 遅延回路、42 電圧低下パルス生成回路、43 電圧低下限界生成部、44 比較回路、45 駆動回路、134 トランジスタ、135 ドライバ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9