(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014439
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250123BHJP
C08K 7/18 20060101ALI20250123BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20250123BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/18
C08K3/36
C08K7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116988
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】396019974
【氏名又は名称】冨士ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星尾 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】尾原 正浩
(72)【発明者】
【氏名】仁科 匡宏
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 竜次
(72)【発明者】
【氏名】原田 達郎
(72)【発明者】
【氏名】江尻 一博
(72)【発明者】
【氏名】三井 康裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002FA042
4J002FA086
4J002FD016
4J002FD017
4J002GB00
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】流れ方向(MD)の線膨張係数が小さく、なおかつ外観にも優れる成形品が得られ、成形性にも優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)100質量部、球状充填材(B)3~150質量部、及び繊維状充填材(C)3~100質量部を含有し、球状充填材(B)が、平均粒子径D1が1~10μmである球状シリカ(B1)及び平均粒子径D2が0.1~3μmである球状シリカ(B2)からなり、平均粒子径D2(μm)に対する、平均粒子径D1(μm)の比(D1/D2)が2以上であり、球状シリカ(B2)に対する、球状シリカ(B1)の質量比(B1/B2)が10/90~90/10である、樹脂組成物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)100質量部、球状充填材(B)3~150質量部、及び繊維状充填材(C)3~100質量部を含有し、
球状充填材(B)が、平均粒子径D1が1~10μmである球状シリカ(B1)及び平均粒子径D2が0.1~3μmである球状シリカ(B2)からなり、
平均粒子径D2(μm)に対する、平均粒子径D1(μm)の比(D1/D2)が2以上であり、
球状シリカ(B2)に対する、球状シリカ(B1)の質量比(B1/B2)が10/90~90/10である、樹脂組成物。
【請求項2】
繊維状充填材(C)が、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を射出成形してなる、成形品。
【請求項4】
流れ方向(MD)における線膨張係数が40ppm/℃以下である、請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
請求項3に記載の成形品と、ガラス、セラミックス及び金属からなる群から選択される少なくとも一種からなる部材とが複合してなる、複合体。
【請求項6】
自動車用である、請求項3に記載の成形品。
【請求項7】
請求項5に記載の複合体を用いた、車載モニター。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を射出成形する、成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を射出成形することにより成形品を得た後、該成形品と、ガラス、セラミックス及び金属からなる群から選択される少なくとも一種からなる部材を複合する、複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形等に好適に用いることができる樹脂組成物、成形品及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いた成形品は、自動車用品、電気・電子用品、機械用品、医療用品、家庭用品等多くの分野に使用されている。このような成形品は、ガラス、セラミックス、金属等の他の部材と複合化されることがあるが、材料間の線膨張係数の差が大きいと温度変化が大きい環境で使用した際に、それらの境界部分に剥離や隙間等が生じ問題となることがあった。
【0003】
樹脂成形品の線膨張係数を調整する方法として、樹脂にフィラーを添加する方法が知られている。特許文献1には、(A)樹脂、(B1)繊維状フィラー及び(B2)球状フィラーを含み、(B1)繊維状フィラーの数平均繊維径をdとしたときに、前記(B2)球状フィラーの平均粒径が2.5d以上6.5d以下の範囲にある成形材料が記載されている。そして、特定の球状フィラーを用いることで、適度に分散する球状フィラーの間隙に繊維状フィラーをランダムに配置することができ、結果として、成形品としての異方性の発現を抑制することができると考えられると記載されている。
【0004】
しかしながら、前記成形材料を成形して得られる成形品、特に射出成形して得られる成形品の表面には、繊維状フィラーや球状フィラーに起因する凹凸やヒケが生じ、その外観が問題となることがあった。また、このような成形品に塗装を施した場合、塗膜にブツやムラが生じ、外観を改善するためには研磨を行う必要がありコストの上昇を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、流れ方向(MD)の線膨張係数が小さく、なおかつ外観にも優れる成形品が得られ、成形性にも優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、熱可塑性樹脂(A)100質量部、球状充填材(B)3~150質量部、及び繊維状充填材(C)3~100質量部を含有し、球状充填材(B)が、平均粒子径D1が1~10μmである球状シリカ(B1)及び平均粒子径D2が0.1~3μmである球状シリカ(B2)からなり、平均粒子径D2(μm)に対する、平均粒子径D1(μm)の比(D1/D2)が2以上であり、球状シリカ(B2)に対する、球状シリカ(B1)の質量比(B1/B2)が10/90~90/10である、樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、繊維状充填材(C)が、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記樹脂組成物を射出成形してなる成形品が本発明の好適な実施態様である。このとき、前記成形品の流れ方向(MD)における線膨張係数が40ppm/℃以下であることが好ましい。前記成形品が自動車用であることも好ましい。前記成形品と、ガラス、セラミックス、金属からなる群から選択される少なくとも一種からなる部材とが複合してなる複合体が本発明のより好適な実施態様である。当該複合体を用いた車載モニターが本発明のさらに好適な実施態様である。
【0009】
前記樹脂組成物を射出成形する、成形品の製造方法も本発明の好適な実施態様である。そして、前記樹脂組成物を射出成形することにより成形品を得た後、該成形品と、ガラス、セラミックス、金属からなる群から選択される少なくとも一種からなる部材を複合する、複合体の製造方法がより好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は成形性に優れるとともに、流れ方向(MD)の線膨張係数が小さく、外観にも優れる成形品を得ることができる。しかも前記樹脂組成物は成形性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~3、比較例1~7における自動車内装用成形品を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)100質量部、球状充填材(B)3~150質量部、及び繊維状充填材(C)3~100質量部を含有し、球状充填材(B)が、平均粒子径D1が1~10μmである球状シリカ(B1)及び平均粒子径D2が0.1~3μmである球状シリカ(B2)からなり、平均粒子径D2(μm)に対する、平均粒子径D1(μm)の比(D1/D2)が2以上であり、球状シリカ(B2)に対する、球状シリカ(B1)の質量比(B1/B2)が10/90~90/10であるものである。このような樹脂組成物は成形性に優れるとともに、流れ方向(MD)の線膨張係数が小さく、外観にも優れる成形品を得ることができる。
【0013】
熱可塑性樹脂(A)は、溶融成形が可能なものであれば特に限定されず、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、塩化ニリデン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリオレフィン、水架橋ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリスチレン、ポリアミド、メタクリル樹脂、ポリアセタール、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、アイオノマー樹脂、ポリフェニレンオキサイド、メチルペンテン重合体、ポリアリルスルホン、ポリアリルエーテル、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、全芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマー、それらの混合物などが挙げられ、中でも、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリプロピレン、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレン-プロピレン・スチレン)、AAS樹脂(アクリロニトリル・スチレン・アクリル酸エステル)、ACS樹脂(アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン)及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイ(混合物)及びポリカーボネート樹脂がより好ましく、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイがさらに好ましい。ここでいうアロイとは、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂がブレンドされたポリマーブレンドのことである。ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイは、例えば、テクノUMG株式会社から商品名「ハシュロイ(HUSHLLOY)」、帝人株式会社から「マルチロン」等の名称で販売されており、市販品を容易に入手して使用することが可能である。また、ポリカーボネート樹脂としては、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン」、帝人株式会社製「パンライト」等の市販品を用いることができる。
【0014】
球状充填材(B)は、平均粒子径D1が1~10μmである球状シリカ(B1)及び平均粒子径D2が0.1~3μmである球状シリカ(B2)からなる。このように、平均粒子径が異なる2種類の球状シリカ(B1)及び球状シリカ(B2)を後述する繊維状充填材(C)とともに、熱可塑性樹脂(A)に添加することにより、得られる成形品の外観を損ねることなく、流れ方向(MD)の線膨張係数を低下させることができる。しかも、本発明の樹脂組成物は成形性に優れるとともに、得られる成形品は優れた機械的強度を有する。この理由は明らかではないが、以下のようなことが考えられる。本発明者らは、流れ方向(MD)の線膨張係数を低下させるべく、熱可塑性樹脂(A)に添加する繊維状充填材(C)を添加したところ、成形品の表面に繊維状充填材(C)に由来する凹凸が発生した。また、通常、樹脂に添加する充填材の含有量を多くすると線膨張係数は低下するものの、樹脂組成物の流動性が低下して成形性が低下したり、成形品が脆くなり機械的強度が低下したりする。また、外観も悪化することがある。それに対して、平均粒子径が異なる球状シリカ(B1)及び球状シリカ(B2)を繊維状充填材(C)とともに熱可塑性樹脂(A)に添加すると、成形性及び機械的強度を維持しつつ、流れ方向(MD)の線膨張係数を低下させることができた。平均粒子径が大きい球状シリカ(B1)や繊維状充填材(C)の隙間を平均粒子径が小さい球状シリカ(B2)が埋めることによって、球状シリカ(B1)、球状シリカ(B2)及び繊維状充填材(C)の含有量が多い場合でも、これらが分散した状態で充填されるものと考えられる。その結果、得られる成形品の機械的強度を維持しつつ、流れ方向(MD)の線膨張係数を低下させることができるとともに、反りも抑制されるものと考えられる。また、平均粒子径が大きい球状シリカ(B1)を所定量含有させることによって、前記樹脂組成物の流動性が向上するため、成形性が向上するものと考えられる。さらに、表面に繊維状充填材(C)とともに微細な球状シリカ(B2)も存在し、この球状シリカ(B2)によって、繊維状充填材(C)近傍の樹脂のヒケによる凹凸の発生が抑制されて外観の良好な成形品が得られるものと考えられる。特に、射出成形を行う場合に、繊維状充填材(C)に起因する凹凸が生じ易いが、繊維状充填材(C)の近傍に球状シリカ(B2)が均一に分布することにより、効果的に表面が平滑化されるものと考えられる。
【0015】
前記樹脂組成物における、球状充填材(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、3~150質量部である。球状充填材(B)の含有量が3質量部以上であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、外観が良好となる。球状充填材(B)の含有量は5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、11質量部以上が特に好ましい。一方、球状充填材(B)の含有量が150質量部以下であることにより、得られる成形品の機械的強度が向上するとともに、成形性が良好となる。球状充填材(B)の含有量は、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下がよりさらに好ましく、35質量部以下が特に好ましく、25質量部以下が最も好ましい。
【0016】
球状シリカ(B1)の平均粒子径D1は1~10μmである必要がある。平均粒子径D1が1μm以上であることにより、前記樹脂組成物の流動性が向上して成形性が向上するとともに得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下する。平均粒子径D1は1.2μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、1.7μm以上がさらに好ましい。一方、平均粒子径D1が10μm以下であることにより、得られる成形品の外観が良好となる。平均粒子径D1は8μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2.5μm以下が特に好ましい。球状シリカの平均粒子径は球状シリカ微粒子の平均粒子径はレーザー解析式粒度分布計を用いたレーザー回折・散乱法により求められる。
【0017】
球状シリカ(B2)の平均粒子径D2は0.1~3μmである必要がある。平均粒子径D2が0.1μm以上であることにより、得られる成形品の表面状態、及び成形品を塗装した後の外観が向上する。平均粒子径D2は0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.4μm以上がさらに好ましい。一方、平均粒子径D2が3μm以下であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに外観が良好となる。平均粒子径D2は2.5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましく、1μm以下がよりさらに好ましく、0.8μm以下が特に好ましい。
【0018】
平均粒子径D2(μm)に対する、平均粒子径D1(μm)の比(D1/D2)が2以上である必要がある。これにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、機械的強度が向上する。さらに、得られる成形品の外観が向上する。比(D1/D2)は2.5以上が好ましく、3がより好ましい。一方、比(D1/D2)は、通常、50以下であり、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0019】
球状シリカ(B2)に対する、球状シリカ(B1)の質量比(B1/B2)が10/90~90/10である必要がある。質量比(B1/B2)が10/90以上であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、機械的特性が向上する。さらに、前記樹脂組成物の流動性が向上して成形性が向上する。質量比(B1/B2)は、20/80以上が好ましく、30/70以上がより好ましく、40/60以上がさらに好ましく、50/50以上がよりさらに好ましく、60/40以上が特に好ましい。一方、質量比(B1/B2)が90/10以下であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、機械的強度が向上する。さらに、得られる成形品の外観が良好となる。質量比(B1/B2)は、85/15以下が好ましく、80/20以下がより好ましい。
【0020】
球状シリカ(B1)の比表面積S1は0.5~3m2/gが好ましい。球状シリカの比表面積は窒素を用いたBET法により測定した値である。球状シリカ(B1)の比表面積S1がこのような範囲であることにより、前記樹脂組成物の流動性がさらに向上して成形性が向上する。前記比表面積S1は2.5m2/g以下がより好ましい。
【0021】
球状シリカ(B2)の比表面積S2は2~20m2/gが好ましい。球状シリカ(B2)の比表面積S2がこのような範囲であることにより、前記樹脂組成物の流動性がさらに向上して成形性が向上する。前記比表面積S2は3.5m2/g以上がより好ましい。一方、前記比表面積S2は、15m2/gがより好ましく、10m2/gがさらに好ましい。
【0022】
比表面積S2(m2/g)に対する、比表面積S1(m2/g)の比(S1/S2)が0.8以下であることが好ましい。これにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数がさらに低下するとともに、機械的強度がさらに向上する。さらに、得られる成形品の外観がさらに向上する。比(S1/S2)は0.5以下がより好ましく0.4以下がさらに好ましく、0.35以下が特に好ましい。一方、比(D1/D2)は、通常、0.05以上であり、0.1以上が好ましく、0.15以上がより好ましい。
【0023】
球状シリカ(B1)及び(B2)の製造方法は特に限定されず、例えば、酸素を含む雰囲気内において、バーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物微粒子の一部を形成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物微粒子を得る方法、即ちVMC法(Vapourized Metal Combution Method)等が採用される。VMC法としては、特開昭60-255602号公報に記載された方法等が採用される。また、このような方法で得られる球状シリカは、例えば、株式会社アドマテックスから商品名「アドマファイン」、株式会社日本触媒から「シーホスター」等の名称で販売されており、市販品を容易に入手することが可能である。
【0024】
熱可塑性樹脂(A)との相溶性の観点から、球状シリカ(B1)や球状シリカ(B2)に表面処理を施すことが好ましい。表面処理方法として、一般的なシリカの表面方法を採用することが可能であり、例えば、オルガノシラン、ビニルシラン等の表面処理剤を用いて球状シリカ(B1)や球状シリカ(B2)を処理する方法等が挙げられる。
【0025】
次に、前記樹脂組成物に含まれる繊維状充填剤(C)について説明する。本発明で用いられる繊維状充填剤(C)としては、無機繊維と有機繊維のいずれを使用することもできる。無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維(宇部マテリアルズ株式会社製「モスハイジ」等)、チタン酸カリウム繊維(大塚化学株式会社製「ティスモ」等)、カーボンナノチューブなどが挙げられる。有機繊維としては、全芳香族ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロースナノファイバーなどの有機繊維が挙げられる。繊維状充填剤(C)が無機繊維であることが好ましく、なかでも、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。前記樹脂組成物にこのような繊維状充填材(C)が含有されることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、機械的強度が向上する。
【0026】
繊維状充填材(C)の平均長さは0.1~20mmが好ましい。当該平均長さが0.1mm以上であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数がさらに低下するとともに、機械的特性がさらに向上する。前記平均長さは0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましく、2mm以上がよりさらに好ましく、4mm以上が特に好ましく、5mm以上が最も好ましい。一方、前記平均長さが20mm以下であることがより成形性がさらに向上する。前記平均長さは15mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましく、8mm以下が特に好ましい。繊維状充填材(C)の平均長さ及び平均直径は成形品の断面をマイクロスコープまたは電子顕微鏡で観察することにより測定される。このとき、アスペクト比(繊維長/繊維径)が10以上であることが好ましい。
【0027】
繊維状充填材(C)の平均直径は0.1~50μmが好ましい。前記平均直径が0.1μm以上であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数がさらに低下するとともに、機械的特性がさらに向上する。前記平均直径は0.5μm以上がより好ましい。一方、前記平均直径が50μm以下であることにより、得られる成形品の外観がさらに良好となる。前記平均直径は30μm以下がより好ましい。
【0028】
前記樹脂組成物における、繊維状充填材(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、3~100質量部である。繊維状充填材(C)の含有量が3質量部以上であることにより、得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数が低下するとともに、機械的強度が向上する。繊維状充填材(C)の含有量は、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、25質量部以上が特に好ましく、30質量部以上が最も好ましい。一方、繊維状充填材(C)の含有量が100質量部以下であることにより、得られる成形品の外観が良好となるとともに、成形性が良好となる。繊維状充填材(C)の含有量は、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、45質量部以下がよりさらに好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0029】
得られる成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数がさらに低下するとともに、外観がさらに良好となる観点から、前記樹脂組成物における、熱可塑性樹脂(A)、球状充填材(B)、及び繊維状充填材(C)の合計含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がよりさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0030】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記樹脂組成物が、熱可塑性樹脂(A)、球状充填材(B)、及び繊維状充填材(C)以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分の含有量は、40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がよりさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。前記他の成分としては、分散剤、可塑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、架橋剤等が挙げられる。
【0031】
成形性、特に射出成形性がさらに向上する点から、前記脂組成物のメルトフローレート(MFR、230℃、荷重98N)は、1g/10min以上が好ましく、3g/10min以上がより好ましく、5g/10min以上が特に好ましい。一方、成形性の点からは、前記MFRは100以下が好ましい。
【0032】
前記脂組成物の製造方法は特に制限されず、熱可塑性樹脂(A)、球状充填材(B)、繊維状充填材(C)、必要に応じて前記他の成分を混合してから、溶融混練する方法等が挙げられる。押出機、ニーダールーダー、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。溶融混練時の温度は、通常、100~300℃である。
【0033】
こうして得られる前記樹脂組成物を用いることにより、流れ方向(MD)の線膨張係数が低く、かつ外観が良好であるうえに、機械的強度にも優れる成形品が得られる。しかも、前記樹脂組成物は成形性に優れる。したがって、前記樹脂組成物は、各種成形品の材料として用いることができる。前記樹脂組成物からなる成形品が本発明の好適な実施態様である。当該成形品は、自動車用、電気・電子用、機械用、医療用、家庭用等、幅広い用途に好適に用いられる。
【0034】
中でも、前記成形品が自動車用であることも好ましい。上述したとおり、前記成形品は流れ方向(MD)の線膨張係数が低く、かつ外観が良好であるうえに、機械的強度にも優れる。したがって、前記成形品は、温度変化の大きい環境下で好適に使用される。このような自動車用成形品としては、自動車内装用成形品、バンパー等の外装用成形品、エンジンカバー等が挙げられ、自動車内装用成形品が好ましい。当該自動車内装用成形品としては、車載モニター用のパネル、ドアトリム、スピードメーター用パネル等が挙げられる。
【0035】
前記樹脂組成物の成形方法として、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形などの任意の方法を採用することができ、中でも射出成形が好ましい。前記樹脂組成物からなる射出成形品も本発明の好適な実施態様である。上述したように、射出成形を行う場合に、繊維状充填材(C)に起因する凹凸が生じ易いが、球状シリカ(B2)を用いることにより効果的に表面が平滑化されるため、本発明の樹脂組成物を用いるメリットが大きい。
【0036】
前記樹脂組成物の射出成形方法としては、例えば、金型に形成されたキャビティに、前記樹脂組成物を射出して充填する方法が採用される。射出成形時の成形条件は熱可塑性樹脂(A)の種類等によって適宜調整すればよく特に限定されるものではないが、シリンダー設定温度を100~330℃にして成形することが好ましい。
【0037】
こうして得られる前記樹脂組成物からなる成形品の流れ方向(MD)における線膨張係数が40ppm/℃以下であることが好ましい。このような成形品は、後述するガラス等からなる部材と線膨張係数が近いため、当該部材と複合した場合に剥がれや隙間が発生し難い。前記線膨張係数は、35ppm/℃以下がより好ましく、28ppm/℃以下がさらに好ましく、25ppm/℃以下がよりさらに好ましく、20ppm/℃以下が特に好ましく、15ppm/℃以下が最も好ましい。
【0038】
前記成形品の表面に対して、塗装やめっきなどを施してもよい。塗装方法としては、スプレー塗装、刷毛塗り、電着塗装、静電塗装、紫外線硬化塗装などが挙げられる。塗料としては、樹脂の塗装に一般的に使用されるものが採用され、アクリルウレタン塗料等が挙げられる。前記成形品の表面に形成される塗膜の厚みは、通常1~100μmである。めっきとしては、電気めっき、無電解めっき、蒸着などが挙げられる。また、前面板の表面にフィルムをラミネートすることもできる。このとき用いられるフィルムとしては、アンチグレアフィルム(反射防止フィルム)やアンチフィンガーフィルム(指紋付着防止フィルム)などが挙げられる。
【0039】
また、前記成形品と、樹脂以外の材料からなる他の部材との複合体、具体的には、前記成形品と、ガラス、セラミックス、金属からなる群から選択される少なくとも一種からなる部材とが複合してなる複合体も本発明のより好適な実施態様である。前記成形品の流れ方向(MD)の線膨張係数を低くして、前記他の部材の線膨張係数に近づけることができるため、前記複合体の境界における剥がれや隙間の発生が抑制される。前記他の部材としては、ガラスが好ましい。前記成形品と前記他の部材とは、直接接してもよいし、両面テープや接着剤等を介して複合化されていてもよい。前記金属としては、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタンなどが挙げられる。
【0040】
前記複合体の製造方法は特に限定されないが、前記樹脂組成物を射出成形することにより成形品を得た後、該成形品と、前記他の部材を複合する方法が好ましい。このとき、両面テープや接着剤を介して、前記成形品と前記他の部材を接着してもよい。また、インサート成形により前記複合体を製造することもできる。ここでインサート成形とは、金型内に装着された前記他の部材の表面に接触するように前記樹脂組成物を射出して、キャビティ内に前記樹脂組成物を充填して当該部材と前記樹脂組成物とを一体化する成形方法である。
【0041】
このような複合体は種々の用途に用いられ、中でも車載モニター等に好適に用いられる。
【実施例0042】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0043】
実施例1
<球状充填材>
球状シリカ(B1)として、平均一次粒子径D1が1.9μmであり、比表面積が1.7m2/gであるアドマテックス社製真球状シリカ微粒子「アドマファイン SC6500-SQ」)を用い、球状シリカ(B2)として、平均一次粒子径D2が0.6μmであであり、比表面積が5.6m2/gであるアドマテックス社製真球状シリカ微粒子「アドマファイン SC2500-SQ」)を用いた。これらの真球状シリカ微粒子は、酸素を含む雰囲気内において、バーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物微粒子の一部を形成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物微粒子を得る方法、即ちVMC法(Vapourized Metal Combution Method)(特公平1-55201号公報)によって合成した後、オルガノシランを用いて表面処理することにより得られたものである。真球状シリカ微粒子の平均粒子径はレーザー解析式粒度分布計を用いたレーザー回折・散乱法により測定した。
【0044】
<樹脂組成物ペレットの製造>
熱可塑性樹脂(A)として、テクノUMG株式会社製のポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイ(PC/ABS)である「ハシュロイ HS200E」100質量部、上記球状シリカ(B1)8.3質量部、上記球状シリカ(B2)3.6質量部、繊維状充填材(C)として、帝人株式会社製カーボンファイバー「Teijin Tenax-J HTC422」(平均長さ:6mm、平均直径:1μm)37.3質量部を配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した。株式会社日本製鋼所製の二軸押出機「TEX30α」を用いて、シリンダー設定温度220℃、スクリュー回転数80rpm、吐出量3.6kg/hrにて得られた混合物を押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練した後に切断することにより、樹脂組成物ペレットを得た。繊維状充填材(C)の平均長さ及び平均直径は得られた樹脂組成物ペレットの断面をマイクロスコープ観察してそれぞれ10か所測定し、それを平均することにより求めた。
【0045】
<樹脂組成物のMFR>
得られた樹脂組成物ペレットのMFR(g/10min)を、ISO1133に基づいて、230℃、荷重98Nの条件で測定した。結果を表1に示す。
【0046】
<流れ方向の線膨張係数>
JIS K7197に準拠して以下のとおり成形品の線膨張係数の測定を行った。住友重機械工業株式会社製の射出成形機「SE75DU」を用いて、シリンダー設定温度270℃、金型設定温度100℃、射出速度40mm/s、保圧80MPa、保圧時間2秒、冷却時間15秒で前記樹脂組成物ペレットを射出成形することにより、ダンベル形の成形品を得た後、長さ10mm、一辺の長さが5mmの角柱状に切り出して試験片を作成した。得られた試験片の流れ方向(MD)の線膨張係数測定を以下の条件で行った。結果を表1に示す。
・測定装置:日立ハイテクノロジ社製「TMA TA7000」
・測定温度:-40℃から80℃
・昇温速度:5℃/分
【0047】
<成形品の製造>
住友重機械工業株式会社製の射出成形機「SE75DU」を用いて、シリンダー設定温度270℃、金型設定温度100℃、射出速度40mm/s、保圧80MPa、保圧時間2秒、冷却時間15秒で前記樹脂組成物ペレットを射出成形(金型寸法:縦151.11mm、横101.06mm、厚み2.00mm)することにより、長さ150mm、幅100mm、厚み2mmの板状の試験片を得た。
【0048】
<成形性>
得られた試験片を目視で観察した後、以下の基準で評価した。
A:反りがないうえに、表面に凹凸がなく外観が良好であった
B:少し反りがあるか、表面に少し凹凸が確認された
C:反りが大きいか、表面に多数の凹凸が確認された
【0049】
<成形品の塗装>
武蔵塗料株式会社製の塗料「EC-MH62-1806SG」、硬化剤「Z-EC-H760」、シンナー「Z-K139」を100:40:100の質量比で混合し、Devilbiss製の塗装ガン「T2AGPV」を使用して、上記「成形品の製造」で得られた試験片に吹き付けた後、80℃にて30分間乾燥することにより、前記成形品の塗装(膜厚15μm)を行った。塗装後の成形品の外観を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(表面ムラ)
A:ムラが全くなかった
B:1、2か所ムラがあった
C:全体的にムラがあった
(ブツ)
A:ブツが全くなかった
B:数個ブツがあった
C:全体的にブツがあった
【0050】
<自動車内装用成形品の製造>
住友重機械工業株式会社製の射出成形機「SE75DU」を用いて、シリンダー設定温度270℃、金型設定温度100℃、射出速度40mm/s、保圧80MPa、保圧時間2秒、冷却時間15秒で前記樹脂組成物ペレットを射出成形することにより、
図1に示す形状(縦151.03mm、横812.37mm、厚み14mm)の車載モニター用のパネルを得た。
【0051】
<自動車内装部品の耐久性>
得られたパネルの左右の開口部に、当該開口部と対応する形状のモニターのガラス部を嵌め込み、パネルとガラスとを両面テープで固定した。「0.5℃/秒の速度で80℃に昇温、80℃で1時間保持、0.5℃/秒の速度で-30℃に降温、-30℃で1時間保持」を1サイクルとして、得られた複合体の昇温と降温とを500サイクル繰り返した後、パネルとガラス部の境界を目視で観察し、耐久性を以下の基準で評価した。
A:パネルとガラス部の境界に剥がれや隙間が発生していなかった
B:パネルとガラス部の境界に剥がれ又は隙間が1、2か所発生した
C:パネルとガラス部の境界全体に剥がれや隙間が発生した
【0052】
<自動車内装部品の耐衝撃性>
上記「自動車内装用成形品の製造」で得られたパネルを50cmの高さから落下させた後にパネルを目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:ひび割れが生じておらず、外観が良好であった
B:少しひび割れたが生じていた
C:パネルが割れて破損した
【0053】
実施例2
平均長さ0.6mm、平均直径15μmのガラスファイバーを20質量%含有するテクノUMG株式会社製のポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイ(PC/ABS)である「ハシュロイHG230E」125質量部、上記球状シリカ(B1)21.9質量部、上記球状シリカ(B2)9.4質量部を配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合したものを二軸押出機に供した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物、成形品の製造及びそれらの評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例3
樹脂組成物の組成が表1に示されるとおりとなるように球状シリカ(B1)及び球状シリカ(B2)の配合量を調節した以外は実施例2と同様にして樹脂組成物、成形品の製造及びそれらの評価を行った。結果を表1に示す。
【0055】
比較例1、2
樹脂組成物ペレットの代わりに、炭素長繊維(平均長さ:3mm、平均直径:6μm)を25質量%含有するポリカーボネートである帝人株式会社製「セリーボ LCF-1015」(比較例1)又ガラス繊維(平均長さ:0.3mm、平均直径:5μm)を40質量%含有するポリカーボネートである三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン FGH3140F2」(比較例2)を用いた以外は実施例1と同様にして成形品の製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例3~7
熱可塑性樹脂(A)、球状シリカ(B1)、球状シリカ(B2)及び繊維状充填材(C)の配合比を表1に示すとおりに変更した以外は実施例2と同様にして樹脂組成物、成形品の製造及びそれらの評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】