(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014464
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】電動車
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20250123BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20250123BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20250123BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20250123BHJP
【FI】
B60H1/22 651Z
B60H1/22 671
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/633
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117043
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 幸児
【テーマコード(参考)】
3L211
5H031
【Fターム(参考)】
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA02
3L211BA32
3L211DA48
3L211EA01
3L211EA12
3L211EA56
3L211EA58
3L211EA66
3L211EA77
3L211EA79
3L211EA80
3L211EA82
3L211EA83
3L211FB08
3L211GA47
3L211GA93
5H031KK08
(57)【要約】
【課題】電動車における車室内の暖房に関して、エネルギー効率を向上し得る技術を提供すること。
【解決手段】電動車は、バッテリと、前記バッテリを冷却する冷却システムと、バッテリの供給電力による発熱と、冷却システムからの排熱とを用いて車室内を暖房する空調システムと、を備え、冷却システムは、空調システムに対して暖房要求が予測されるときに、バッテリの冷却目標温度を所定の標準値よりも高い温度に設定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車あって、
バッテリと、
前記バッテリを冷却する冷却システムと、
前記バッテリの供給電力による発熱と、前記冷却システムからの排熱とを用いて車室内を暖房する空調システムと、
を備え、
前記冷却システムは、前記空調システムに対して暖房要求が予測されるときに、前記バッテリの冷却目標温度を所定の標準値よりも高い温度に設定する、
電動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電動車に関し、特に、車室内の暖房に関する。ここでいう電動車は、バッテリ電動車(BEV)、ハイブリッド電動車(HEV)、プラグインハイブリッド電動車(PHEV)、燃料電池電動車(FCEV)などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、電動車が記載されている。この電動車は、走行用の高圧バッテリ(以下、単にバッテリ)を冷却する冷却システムと、室内を暖房する空調システムとを備える。空調システムは、バッテリの電力供給によるヒータの発熱と、冷却システムからの排熱とを用いて、車室内を暖房するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の構成では、車室内の暖房が実施されていない場合、冷却システムによる排熱は外部へ放出される。その後、車室内の暖房が開始されると、通常、冷却システムからの排熱だけでは熱量が不足するため、バッテリの電力供給による発熱体の発熱も併用される。車室内の暖房にバッテリの電力が消費されると、電動車のエネルギー効率(燃費又は電費とも称される)が低下する。本明細書では、電動車における車室内の暖房に関して、エネルギー効率を向上し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される電動車は、バッテリと、前記バッテリを冷却する冷却システムと、前記バッテリの供給電力による発熱と、前記冷却システムからの排熱とを用いて車室内を暖房する空調システムと、を備え、前記冷却システムは、前記空調システムに対して暖房要求が予測されるときに、前記バッテリの冷却目標温度を所定の標準値よりも高い温度に設定する。
【0006】
本技術に係る構成では、車室内の暖房が実施されていなくても、その後に車室内の暖房が予測されるときには、冷却システムから外部へ放出される排熱を抑制して、バッテリに熱量を蓄積しておくことができる。その結果、その後に暖房が開始されたときは、ヒータに必要とされる発熱量が低減され、バッテリからの電力消費が抑制される。これにより、電動車のエネルギー効率が向上する。
【0007】
上記した構成において、前記冷却システムは、前記空調システムに対して暖房要求が予測されるとともに、当該暖房予測よりも先に駐車が予測されるときは、前記バッテリの冷却目標温度を所定の標準値よりもさらに高い温度に設定してもよい。電動車が駐車されている間、バッテリは実質的に発熱しない。そこで、電動車の駐車が予測されるときは、冷却システムから外部へ放出される排熱をさらに抑制して、バッテリにより多くの熱量を蓄積しておくとよい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電動車によって実行される処理のフローチャートである。
【
図2】
図2(a)は、電動車が停車中のタイムチャートであり、
図2(b)は、電動車が走行中のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書は、バッテリと、走行用のモータと、を備える電動車に関する技術を開示する。本明細書における「電動車」とは、バッテリ電動車(BEV)、ハイブリッド電動車(HEV)、プラグインハイブリッド電動車(PHEV)、燃料電池電動車(FCEV)などが含まれる。
【0010】
バッテリが出力する電力は、電力変換装置によって変換される。電動車は、電力変換装置によって変換された電力が走行用のモータに供給されることによって走行可能である。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ等の二次バッテリである。
【0011】
バッテリの動作やバッテリの充電でバッテリに電流が流れると、バッテリは発熱する。このため、電動車は、バッテリを冷却するための冷却システムを備える。冷却システムは、例えば液体の冷媒(例えば水又はLLC(Long Life Coolantの略))を利用して、バッテリを冷却する。
【0012】
また、電動車は、車室内の暖房を行う空調システムを備える。本実施例の空調システムは、バッテリの供給電力による発熱と、上記の冷却システムからの排熱と、を用いて、車室内を暖房する。即ち、電動車は、バッテリからの供給電力によって発熱するヒータを備え、ヒータの発熱によって車室内を暖房できる。また、電動車は、バッテリを冷却することによって温度が上昇した冷媒を利用して温風を生成し、当該温風を車室内に供給することによって、車室内を暖房できる。
【0013】
バッテリの供給電力による発熱を用いた暖房では、ヒータを発熱させるためのバッテリの消費電力が大きい。このため、電動車のエネルギー効率が悪化するおそれがある。これを避けるためには、バッテリの冷却システムからの排熱(即ち、バッテリのジュール熱)をより多く利用して、暖房を行うことが有効である。そこで、本実施例の電動車の制御装置は、以下で説明する
図1の処理を実行することで、電動車のエネルギー効率を向上させる。
【0014】
図1を参照して、本実施例の電動車に搭載される制御装置によって実行される処理を説明する。以下では、理解の容易化のために、制御装置に代えて電動車を処理の主体として記載する。電動車は、S10において、電動車の充電中であるのか否かを判断する。電動車は、充電中であると判断する場合(S10でYES)にS12に進み、充電中でないと判断する場合(S10でNO)にS20に進む。
【0015】
電動車は、S12において、暖房を使用することが予測される(即ち空調システムに対して暖房要求が予測される)状況であるのか否かを判断する。電動車は、例えば、外気温、時刻、車室内の温度、日射情報、ユーザ情報、ワイパー動作情報、ヘッドライト点灯情報、及び、位置情報のうちの少なくとも1個の情報を利用して、暖房を使用することが予測される状況であるのか否かを判断する。例えば、電動車は、外気温が所定温度以下である場合に、暖房を使用することが予測される状況であると判断し、外気温が所定温度より高い場合に、暖房を使用しないことが予測される状況であると判断してもよい。電動車は、暖房を使用しないことが予測される状況であると判断する場合(S12でNO)にS14に進み、暖房を使用することが予測される状況であると判断する場合(S12でYES)に、S16に進む。
【0016】
電動車は、S14において、バッテリの冷却目標温度をX[℃]に設定する。ここで、温度X[℃]は、バッテリの充電中における冷却目標温度の所定の標準値である。
【0017】
電動車は、S16において、バッテリの冷却目標温度をX+A[℃]に設定する。即ち、電動車は、暖房を使用することが予測される状況であると判断する場合(S12でYES)に、バッテリの冷却目標温度を、バッテリの充電中における冷却目標温度の所定の標準値(即ちX[℃])よりも高い温度に設定する。
【0018】
また、電動車は、S10でNOと判断する場合に、S20の処理を実行する。S20の処理は、S12の処理と同様である。電動車は、S20でYESと判断する場合にS22に進み、S20でNOと判断する場合にS24に進む。
【0019】
電動車は、S22において、バッテリの現在の温度がバッテリ要冷却範囲内の温度であるのか否かを判断する。具体的には、電動車は、バッテリの現在の温度が、予め決められている所定温度よりも高いのか否かを判断する。電動車は、バッテリの現在の温度がバッテリ要冷却範囲内の温度である場合(S22でYES)にS26に進む。一方、電動車は、バッテリの現在の温度がバッテリ要冷却範囲内の温度でない場合(S22でNO)にS24に進む。
【0020】
電動車は、S24において、バッテリの冷却目標温度をY[℃]に設定する。ここで、温度Y[℃]は、バッテリの非充電中における冷却目標温度の所定の標準値である。温度Y[℃]は、バッテリ充電中における冷却目標温度の所定の標準値である温度X[℃]よりも高い温度である。
【0021】
電動車は、S26において、駐車が予測される状況であるのか否かを判断する。電動車は、例えば、カーナビゲーションシステムの情報を利用して、駐車が予測される状況であるのか否かを判断する。例えば、電動車は、電動車の現在位置と、電動車のユーザの自宅と、の距離が所定距離以下である場合に、駐車が予測される状況であると判断し、電動車の現在位置と、電動車のユーザの自宅と、の距離が所定距離よりも大きい場合に、駐車が予測される状況でないと判断してもよい。電動車は、駐車が予測される状況であると判断する場合(S26でYES)にS28に進み、駐車が予測される状況でないと判断する場合(S26でNO)に、S30に進む。
【0022】
電動車は、S28において、バッテリの冷却目標温度をY+B[℃]に設定する。即ち、電動車は、暖房を使用することが予測される状況であり、かつ、バッテリの温度が要冷却範囲であり、かつ、駐車が予測される状況であると判断する場合(S20でYES、S22でYES、S26でYES)に、バッテリの冷却目標温度を、バッテリの非充電中における冷却目標温度の所定の標準値(即ちY[℃])よりも高い温度に設定する。
【0023】
電動車は、S30において、バッテリの冷却目標温度をY+C[℃]に設定する。即ち、電動車は、暖房を使用することが予測される状況であり、かつ、バッテリの温度が要冷却範囲であり、かつ、駐車が予測される状況でないと判断する場合(S20でYES、S22でYES、S26でNO)に、バッテリの冷却目標温度を、バッテリの非充電中における冷却目標温度の所定の標準値(即ちY[℃])よりも高い温度に設定する。ここで、S30で設定される温度Y+C[℃]は、S28で設定される温度Y+B[℃]よりも低い温度である。
【0024】
続いて、
図2を参照して、具体的なケースを説明する。まず、
図2(a)を参照して、電動車が停車中のケースを説明する。
図2(a)の項目「プラグイン」は、電動車が非充電中であることを示す「OFF」と、電動車が充電中であることを示す「ON」と、のいずれか一方を示す。項目「暖房使用予測」は、暖房を使用しないことが予測される状況であることを示す「OFF」と、暖房を使用することが予測される状況であることを示す「ON」と、のいずれか一方を示す。項目「冷却目標温度」は、バッテリの冷却目標温度を示す。また、
図2(a)中の曲線は、バッテリの実際の温度の推移を示す。
【0025】
図2(a)に示されるように、時刻t0から時刻t1までの間は、電動車は充電中でなく(プラグイン=OFF)、かつ、暖房を使用しないことが予測される状況である(暖房使用予測=OFF)。従って、電動車は、時刻t0から時刻t1までの間は、バッテリの冷却目標温度をY[℃]に設定する(
図1のS10でNO、S20でNO、S24)。
【0026】
その後、時刻t1において、電動車の充電が開始される(プラグイン=ON)。時刻t1から時刻t2までの間は、暖房を使用しないことが予測される(暖房使用予測=OFF)。従って、電動車は、時刻t1から時刻t2までの間は、バッテリの冷却目標温度をX[℃]に設定する(
図1のS10でYES、S12でNO、S14)。上記の通り、温度X[℃]は温度Y[℃]よりも低い値である。
【0027】
その後、時刻t2において、暖房を使用することが予測される状況に変化する(暖房使用予測=ON)。従って、電動車は、時刻t2以降において、冷却目標温度をX+A[℃]に設定する(
図1のS10でYES、S12でYES、S16)。
【0028】
次いで、
図2(b)を参照して、電動車が走行中のケースを説明する。
図2(b)の項目「駐車予測」は、駐車が予測される状況でないことを示す「OFF」と、駐車が予測される状況であることを示す「ON」と、のいずれか一方を示す。また、
図2(b)に示されるように、バッテリ要冷却範囲内は、Y[℃]以上に設定される。
【0029】
図2(b)に示されるように、時刻t10から時刻t11までの間は、暖房を使用しないことが予測される状況であり(暖房使用予測=OFF)、かつ、駐車が予測される状況でない(駐車予測=OFF)。従って、電動車は、時刻t10から時刻t11までの間は、バッテリの冷却目標温度をY[℃]に設定する(
図1のS10でNO、S20でNO、S24)。
【0030】
その後、時刻t11において、暖房を使用することが予測される状況に変化する(暖房使用予測=ON)。また、時刻t11から時刻t12の間は、バッテリの温度がY[℃]未満であるので、バッテリの温度は、バッテリ要冷却範囲内の温度でない。従って、電動車は、時刻t11から時刻t12までの間は、バッテリの冷却目標温度をY[℃]に維持する(
図1のS10でNO、S20でYES、S22でNO、S24)。
【0031】
その後、時刻t12において、バッテリの温度が上昇してY[℃]になる。即ち、時刻t12以降のバッテリの温度はY[℃]以上である。また、時刻t12から時刻t13までの間は、駐車が予測される状況でない(駐車予測=OFF)。従って、電動車は、時刻t12から時刻t13の間は、バッテリの冷却目標温度をY+C[℃]に設定する(
図1のS10でNO、S20でYES、S22でYES、S26でNO、S30)。
【0032】
その後、時刻t13において、駐車が予測される状況に変化する(駐車予測=ON)。従って、電動車は、時刻t13以降において、冷却目標温度をY+B[℃]に設定する(
図1のS10でNO、S20でYES、S22でYES、S26でYES、S28)。
【0033】
上記の構成によると、本実施例の電動車は、車室内への暖房が実行されていなくても、その後に車室内の暖房が予測されるときには、バッテリの冷却目標温度を、所定の標準値よりも高い温度に設定する(
図1のS16、S28、S30参照)。即ち、冷却システムから外部へ放出される排熱を抑制して、バッテリに熱量を蓄積しておくことができる。その結果、その後に暖房が開始されたときは、ヒータに必要とされる発熱量が低減され、バッテリからの電力消費が抑制される。また、バッテリの冷却目標温度が所定の標準値よりも高い温度に設定されるので、冷却目標温度が所定の標準値である場合と比較して、バッテリを冷却するために必要なエネルギーを低減(例えば、冷媒を供給するポンプを駆動するために必要な電力を低減)することができる。これにより、電動車のエネルギー効率が向上する。
【0034】
また、上記の構成によると、電動車は、暖房を使用することが予測される状況において、駐車が予測されるときのバッテリの冷却目標温度を、駐車が予測されないときのバッテリの冷却目標温度よりも高くする(
図1のS28、S30参照)。電動車が駐車されている間、バッテリは実質的に発熱しない。そこで、電動車の駐車が予測されるときは、冷却システムから外部へ放出される排熱をさらに抑制して、バッテリにより多くの熱量を蓄積しておくことができる。即ち、電動車のエネルギー効率が向上する。