(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144717
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20250926BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
F04C15/00 G
F04C15/00 K
F04C2/10 341F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044542
(22)【出願日】2024-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史恭
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB03
3H041CC15
3H041DD05
3H041DD08
3H041DD10
3H041DD38
3H044AA00
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC14
3H044DD05
3H044DD07
3H044DD18
3H044DD28
(57)【要約】
【課題】電動ポンプの部品点数を少なくする。
【解決手段】電動ポンプ100は、ポンプ部10と、モータ部20と、を備え、ポンプ部10は、ロータ12を有し、駆動シャフト1は、大径部2と小径部3との間にわたって形成される肩部4を有し、ロータ12は、駆動シャフト1の大径部2の外周面と嵌合する第一挿通孔12aと、駆動シャフト1の小径部3が挿通される第二挿通孔12bと、を有し、駆動シャフト1の小径部3の外周面には、ロータ12に対する駆動シャフト1の抜け止めをする止め輪70が設けられ、駆動シャフト1は、駆動シャフト1の肩部4が第一挿通孔12aと第二挿通孔12bとの間の段部12cに接触することによりロータ12に対する軸方向の一方への移動が規制され、止め輪70がロータ12に接触することによりロータ12に対する軸方向の他方への移動が規制される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するポンプ部と、
駆動シャフトを回転させて前記ポンプ部を駆動させるモータ部と、を備え、
前記ポンプ部は、前記駆動シャフトが挿通されて連結されるロータを有し、
前記駆動シャフトは、
大径部と、
前記大径部よりも小径に形成される小径部と、
前記大径部と前記小径部との間にわたって形成される肩部と、を有し、
前記ロータは、
前記駆動シャフトの前記大径部の外周面と嵌合する第一挿通孔と、
前記駆動シャフトの前記小径部が挿通し、前記小径部から回転トルクが伝達される第二挿通孔と、を有し、
前記駆動シャフトの前記小径部の外周面には、前記ロータに対する前記駆動シャフトの抜け止めをする抜け止め部材が設けられ、
前記駆動シャフトは、
前記駆動シャフトの前記肩部が前記第一挿通孔と前記第二挿通孔との間の段部に接触することにより前記ロータに対する軸方向の一方への移動が規制され、
前記抜け止め部材が前記ロータに接触することにより前記ロータに対する前記軸方向の他方への移動が規制されることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記抜け止め部材が前記ロータに接触した状態では、前記駆動シャフトの前記肩部と前記ロータの前記段部との間に隙間が形成されることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記駆動シャフトの前記小径部には、前記抜け止め部材の一部を収容する環状の収容孔が形成され、
前記ロータは、前記抜け止め部材が接触すると反力により前記抜け止め部材を前記収容孔に押し付ける押し付け部をさらに有することを特徴とする電動ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の電動ポンプであって、
前記ロータの前記押し付け部は、前記軸方向に対して傾斜するテーパ状に形成されることを特徴とする電動ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記駆動シャフトの前記小径部は、外周面の一部が前記軸方向に切り欠かれて形成される平面部を有し、
前記駆動シャフトの前記肩部は、前記大径部と前記平面部との間に形成されることを特徴とする電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユニットハウジング内にポンプ、ポンプ駆動用電動モータおよびモータのコントローラが組み込まれている電動ポンプユニットが開示されている。モータにより駆動されるポンプ駆動モータ軸の外周面には、軸受が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような電動ポンプユニットでは、軸受により、ポンプ駆動モータ軸の径方向の移動が規制される。さらに、スナップリング等が軸受を挟むように設けられることで、軸受を介してポンプ駆動モータ軸の軸方向の移動が規制される。このような電動ポンプユニットでは、ポンプ駆動モータ軸の移動を規制するために軸受及びスナップリング等が設けられるため、部品点数が多くなってしまう。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、電動ポンプの部品点数を少なくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液体を吐出するポンプ部と、駆動シャフトを回転させてポンプ部を駆動させるモータ部と、を備え、ポンプ部は、駆動シャフトが挿通されて連結されるロータを有し、駆動シャフトは、大径部と、大径部よりも小径に形成される小径部と、大径部と小径部との間にわたって形成される肩部と、を有し、ロータは、駆動シャフトの大径部の外周面と嵌合する第一挿通孔と、駆動シャフトの小径部が挿通し、小径部から回転トルクが伝達される第二挿通孔と、を有し、駆動シャフトの小径部の外周面には、ロータに対する駆動シャフトの抜け止めをする抜け止め部材が設けられ、駆動シャフトは、駆動シャフトの肩部が第一挿通孔と第二挿通孔との間の段部に接触することによりロータに対する軸方向の一方への移動が規制され、抜け止め部材がロータに接触することによりロータに対する軸方向の他方への移動が規制されることを特徴とする。
【0007】
この発明では、駆動シャフトの本体部の外周面とロータの第一挿通孔の内周面との嵌合により、ロータに対する駆動シャフトの径方向への移動が規制され、駆動シャフトの肩部及び駆動シャフトに設けられる抜け止め部材がロータに接触することにより、ロータに対する駆動シャフトの軸方向への移動が規制される。よって、少ない部品点数でロータに対する駆動シャフトの径方向及び軸方向への移動を規制することができる。
【0008】
また、本発明は、抜け止め部材がロータに接触した状態では、駆動シャフトの肩部とロータの段部との間に隙間が形成されることを特徴とする。
【0009】
この発明では、駆動シャフトの肩部とロータの段部との間の隙間により、駆動シャフト等の製造誤差を吸収することができる。
【0010】
また、本発明は、駆動シャフトの小径部には、抜け止め部材の一部を収容する環状の収容孔が形成され、ロータは、抜け止め部材が接触すると反力により抜け止め部材を収容孔に押し付ける押し付け部をさらに有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、ロータの押し付け部は、軸方向に対して傾斜するテーパ状に形成されることを特徴とする。
【0012】
これらの発明では、ロータの押し付け部により、抜け止め部材が収容孔から脱落しづらくすることができる。
【0013】
また、本発明は、駆動シャフトの小径部は、外周面の一部が軸方向に切り欠かれて形成される平面部を有し、駆動シャフトの肩部は、大径部と平面部との間に形成されることを特徴とする。
【0014】
この発明では、駆動シャフトの加工が容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電動ポンプの部品点数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動ポンプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る電動ポンプ100について説明する。電動ポンプ100は、例えば車両に搭載され、車両に搭載された電動モータを冷却するための冷却液(液体)を吐出したり、車両に搭載されたギヤを潤滑するための油(液体)を吐出するものである。電動ポンプ100は、機器を駆動するための作動流体(液体)を吐出する流体圧供給源として用いられてもよい。また、電動ポンプ100は、車両以外の産業機械に搭載されてもよい。
【0018】
図1に示すように、電動ポンプ100は、液体を吐出するポンプ部10と、駆動シャフト1を回転させてポンプ部10を駆動させるモータ部20と、モータ部20を制御する制御部30と、ポンプ部10、モータ部20、及び制御部30を収容するハウジング40と、を備える。電動ポンプ100では、
図1における上側から、制御部30、モータ部20、及びポンプ部10が、この順番で配置される。以後では、駆動シャフト1の軸方向を単に「軸方向」とも称し、駆動シャフト1の径方向を単に「径方向」とも称する。
【0019】
ポンプ部10は、内接ギヤポンプである。ポンプ部10は、駆動シャフト1が挿通されて連結されるロータとしてのインナーロータ12を有する。インナーロータ12の外側には、アウターロータ13が設けられる。駆動シャフト1の構成と、駆動シャフト1とインナーロータ12の連結部の構成については後述する。インナーロータ12とアウターロータ13は、ハウジング40(具体的には、後述するハウジング本体部41)に収容され、互いに偏心して設けられてハウジング40のポンプカバー56により覆われる。具体的には、インナーロータ12は中心が駆動シャフト1と重なるように同軸に設けられ、アウターロータ13は中心が駆動シャフト1からズレるように設けられる。インナーロータ12は、外周面に外歯(図示省略)を複数有し、アウターロータ13は、内周面に外歯と摺接する内歯(図示省略)を複数有する。外歯と内歯は、歯数が異なって形成され、インナーロータ12の隣り合う外歯とアウターロータ13の内歯によって、ポンプ室14が区画される。ポンプ室14は、ポンプ部10に複数形成される。
【0020】
駆動シャフト1が回転すると、インナーロータ12の外歯がアウターロータ13の内歯に摺接しながら、インナーロータ12及びアウターロータ13が回転する。インナーロータ12及びアウターロータ13の回転に伴い、ポンプ室14の容積は拡張と収縮とを繰り返す。ポンプ室14が拡張する拡張領域(吸込領域)では、ポンプカバー56に形成される吸込ポート(図示省略)を通じて液体が吸入され、ポンプ室14が収縮する収縮領域(吐出領域)では、ポンプカバー56に形成される吐出ポート(図示省略)を通じて液体が外部に吐出される。
【0021】
モータ部20は、環状のステータ21と、ステータ21の径方向内側に配置されるモータロータ(図示省略)と、を有する。ステータ21は、モータロータを取り囲むように配設される円環状のステータコア22と、ステータコア22に巻回されるコイル線23と、を有する。ステータコア22には、三相の駆動電流に対応するU相コイル、V相コイル及びW相コイルが形成され、各コイル線23の末端は、制御部30に接続される。モータロータは、駆動シャフト1の外周面に連結され駆動シャフト1とともに回転するロータコア(図示省略)と、ロータコアの外周面に設けられる複数の永久磁石(図示省略)と、を有する。モータ部20では、ステータコア22の磁化状態とモータロータの永久磁石との作用によって、モータロータが駆動シャフト1を軸として回転する。これにより、ポンプ部10が駆動される。
【0022】
制御部30は、モータ部20を駆動させるために、ステータ21に供給される電流を制御するものである。制御部30は、電子部品31と、電子部品31が実装されモータ部20のコイル線23が接続される基板32と、を有する。電子部品31には、例えば、駆動シャフト1の回転に応じて変化する磁気の変化を検出可能なホール素子等の磁気検出センサや、当該磁気検出センサの検出値に基づいて駆動シャフト1の回転角度及び回転数を演算する演算部等が含まれる。制御部30は、駆動シャフト1の回転角度に応じてステータ21のコイル線23を流れる電流の向きを制御するとともに、駆動シャフト1の回転数が外部から入力される目標回転数となるように、コイル線23に供給される電流の大きさを制御する。基板32とハウジング40との間には、基板32の熱を放熱する放熱部33が設けられる。
【0023】
ハウジング40は、開口部42を有するハウジング本体部41と、開口部42を覆うカバー51と、ポンプ部10を覆うポンプカバー56と、を有する。
【0024】
ハウジング本体部41は、駆動シャフト1が挿通される挿通孔43と、モータ部20が収容される環状のモータ収容凹部44と、挿通孔43と軸方向に連続して形成されオイルシール65が収容されるオイルシール収容凹部46と、ポンプ部10が収容されるポンプ収容凹部47と、を有する。
【0025】
挿通孔43は、オイルシール収容凹部46とポンプ収容凹部47の間にわたって軸方向に延びて形成される。モータ収容凹部44は、開口部42と連続して形成され、内周面44aにはモータ部20のステータコア22が接触して設けられる。オイルシール収容凹部46は、挿通孔43よりも大径に形成される。ポンプ収容凹部47は、中心が挿通孔43とはズレて形成されてポンプ部10のインナーロータ12及びアウターロータ13が収容される。
【0026】
カバー51は、ハウジング本体部41とは反対側に(
図2における上側に)突出する突部51aを有する。突部51aは中空状に形成され、突部51aの中空部には、制御部30の基板32及び放熱部33が収容される。基板32は、ハウジング本体部41に設けられるコネクタ(図示省略)により外部と電気的に接続される。カバー51は、締結部材81によりハウジング本体部41に固定される。
【0027】
ポンプカバー56は、ポンプ収容凹部47を覆うように設けられる。ポンプカバー56は、締結部材(図示省略)によりハウジング本体部41に固定される。ポンプカバー56には、駆動シャフト1の先端部1aを収容するシャフト収容部56aが形成される。
【0028】
次に、駆動シャフト1の構成及び駆動シャフト1とインナーロータ12の連結部の構成について詳しく説明する。
【0029】
図1、
図2に示すように、駆動シャフト1は、大径部2と、大径部2よりも小径に形成される小径部3と、大径部2と小径部3との間にわたって形成される肩部4(
図2参照)と、を有する。駆動シャフト1は、先端部1a側(
図1における下側)に小径部3が形成され、基端部1b側(
図1における上側)に大径部2が形成される。先端部1aは、ポンプカバー56のシャフト収容部56aに収容され、ポンプカバー56に接触しないように設けられる。基端部1bには、磁石67が制御部30の電子部品31及び基板32と接触しないように設けられ、制御部30は、磁石67による磁気の変化を検出し、駆動シャフト1の回転角度及び回転数を演算する。
【0030】
大径部2は、ハウジング40のハウジング本体部41のモータ収容凹部44、オイルシール収容凹部46、挿通孔43、及びポンプ収容凹部47にわたって形成される。大径部2は外径が軸方向に沿って一様であって円柱状に形成され、切り欠き等が形成されない。大径部2の外周面には、オイルシール65と、複数のブッシュ60が設けられる。複数のブッシュ60は、挿通孔43の内周面と大径部2の外周面との間に設けられ、駆動シャフト1をハウジング本体部41に対して回転自在に支持する。なお、ブッシュ60は一つのみ設けられてもよい。
【0031】
小径部3は、本実施形態では、いわゆるDカット状に形成される。具体的には、小径部3は、外周面の一部が軸方向に切り欠かれて形成される平面部3aを有する。平面部3aは、先端部1aから大径部2にわたって軸方向に延びて形成され、互いに平行に二つ形成される。つまり、小径部3は、二面幅を有する構成である。平面部3aが後述するようにインナーロータ12に接触して回転することにより、駆動シャフト1の回転トルクがインナーロータ12に伝達される。大径部2と二つの平面部3aとの間には、肩部4(
図2参照)がそれぞれ形成される。肩部4は、大径部2と二つの平面部3aとの間にわたって径方向に延びて形成される。
【0032】
図1及び
図3に示すように、小径部3の外周面には、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の抜け止めをする抜け止め部材としての止め輪70が設けられる。具体的には、駆動シャフト1の小径部3の外周面には、環状の収容孔3b(
図3参照)が形成され、収容孔3bに止め輪70の一部が収容される。止め輪70は、一部が収容孔3bから径方向に露出する。止め輪70は環状に形成され、収容孔3bに装着されていない状態で、内径が収容孔3bの最内径よりも小さく、あるいは、内径が収容孔3bの最内径と略同径に形成される。収容孔3bは、止め輪70の形状に沿って断面円弧状に形成される。止め輪70は、駆動シャフト1への取り付け時には、先にインナーロータ12を駆動シャフト1に取り付けた後、止め輪70に内側から力をかけて拡径するように弾性変形させて、小径部3の外周面に沿って移動させる。そして、収容孔3b上において止め輪70にかける力を緩めることで、止め輪70を縮径させて、収容孔3bに収容する。なお、止め輪70は、C字状やE字状に形成されてもよい。
【0033】
止め輪70はインナーロータ12(具体的には、後述する押し付け部12d)に接触可能であり、止め輪70がインナーロータ12に接触することにより、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向(
図1-3における上側)への移動が規制される。よって、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の抜け止めがされる。止め輪70は、インナーロータ12に接触しても、駆動シャフト1に設けられる磁石67が制御部30の電子部品31や基板32に接触しないような位置に設けられる。
【0034】
図2及び
図3に示すように、インナーロータ12は、駆動シャフト1の大径部2の外周面と嵌合する第一挿通孔12a(
図2参照)と、駆動シャフト1の小径部3が挿通される第二挿通孔12b(
図2参照)と、止め輪70と接触可能な押し付け部12d(
図3参照)と、を有する。第一挿通孔12a、第二挿通孔12b、及び押し付け部12dは、
図1における上側からこの順に並んで連続して形成される。
【0035】
図2に示すように、第一挿通孔12aは、インナーロータ12における軸方向の一端部(
図1-
図3における上側)に形成される。第一挿通孔12aの内径は、第二挿通孔12bの内径よりも大きく形成され、駆動シャフト1の大径部2と略同径に形成される。よって、駆動シャフト1がインナーロータ12に挿通されると、駆動シャフト1の大径部2の外周面とインナーロータ12の第一挿通孔12aの内周面とが嵌合する。これにより、駆動シャフト1とインナーロータ12が同軸に設けられるとともに、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向への移動が規制される。
【0036】
第二挿通孔12bは、第一挿通孔12aと押し付け部12dの間にわたって形成される。第二挿通孔12bは、駆動シャフト1の小径部3の形状に対応して形成される。具体的には、第二挿通孔12bは、小径部3の平面部3aに面接触する平面部12eを有する。駆動シャフト1が回転すると、駆動シャフト1の平面部3aからインナーロータ12の平面部12eに回転トルクが伝達されることにより、インナーロータ12が回転する。
【0037】
第一挿通孔12aと第二挿通孔12bとの間には、段状の段部12cが形成される。段部12cは、径方向に延びて形成される。段部12cは、駆動シャフト1の肩部4に軸方向に対向して形成され、肩部4と接触可能である。駆動シャフト1は、肩部4が段部12cに接触することにより、インナーロータ12に対する軸方向(
図1-
図3における下側)への移動が規制される。駆動シャフト1の肩部4は、インナーロータ12の段部12cに接触しても、駆動シャフト1の先端部1aがポンプカバー56に接触しないような位置に設けられる。
【0038】
図3に示すように、押し付け部12dは、インナーロータ12における軸方向の他端部(
図1-
図3における下側)に環状に形成される。押し付け部12dは、軸方向に対して傾斜するテーパ状に形成される。具体的には、押し付け部12dは、第二挿通孔12bから離れるにつれて徐々に大径となるように形成される。押し付け部12dは、止め輪70に接触可能である。テーパ状の押し付け部12dに止め輪70が接触すると、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向(
図1-
図3における上側)への移動が規制される。また、押し付け部12dに止め輪70が接触すると、止め輪70が押し付け部12dを押し付ける力の反力Fが、両者の接触する点Pから押し付け部12dの垂線方向に向けて作用する(
図3に示す矢印F)。反力Fの延長線は、収容孔3bと交差する。言い換えれば、収容孔3bは、点Pから延びる反力Fの延長線が交差する位置に設けられる。よって、止め輪70が駆動シャフト1の収容孔3bに押し付けられる。これにより、止め輪70が収容孔3bから脱落しづらくなる。また、止め輪70が収容孔3bから脱落しづらくなるため、押し付け部12dが設けられない構成よりも、収容孔3bを浅く形成することができ、小径部3の断面欠損が小さくなる。
【0039】
このように、電動ポンプ100では、駆動シャフト1の大径部2の外周面とインナーロータ12の第一挿通孔12aの内周面との嵌合により、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向への移動が規制され、駆動シャフト1の肩部4及び駆動シャフト1に設けられる止め輪70がインナーロータ12に接触することにより、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向への移動が規制される。つまり、軸受や当該軸受の軸方向の移動を規制するスナップリング及びワッシャ等を設けずに、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向及び軸方向への移動を規制することができる。よって、少ない部品点数でインナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向及び軸方向への移動を規制することができる。
【0040】
また、電動ポンプ100では、比較的高価な部材である軸受を設けないため、電動ポンプ100の製造コストが削減される。さらに、駆動シャフト1の大径部2の外周面とインナーロータ12の第一挿通孔12aの内周面とを嵌合させ、止め輪70を設けるだけで電動ポンプ100を組み立てることができるため、軸受とスナップリング及びワッシャ等により駆動シャフト1の移動を規制する構成と比較し、電動ポンプ100の組立性が向上する。
【0041】
また、
図1、
図2に示すように、電動ポンプ100では、止め輪70がインナーロータ12に接触した状態では、駆動シャフト1の肩部4とインナーロータ12の段部12cとの間に隙間S(
図2参照)が形成される。ここで、仮に隙間Sが形成されない構成の場合には、駆動シャフト1等の製造誤差により、駆動シャフト1がインナーロータ12をポンプカバー56に向けて押し付ける力が作用することがある。例えば、駆動シャフト1がモータ部20の図示しないモータロータから力を受け、インナーロータ12をポンプカバー56に向けて押し付ける力が作用する。この場合にはインナーロータ12の焼き付き等が生じてしまう。しかしながら、本実施形態の電動ポンプ100では、隙間Sが形成されるため、隙間Sにより駆動シャフト1等の製造誤差を吸収することができる。よって、インナーロータ12の焼き付き等が防止される。
【0042】
また、電動ポンプ100では、駆動シャフト1の大径部2の外周面の一部が切り欠かれて小径部3の平面部3aが形成されるため、駆動シャフト1の加工が容易になる。
【0043】
以上の本実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0044】
電動ポンプ100では、駆動シャフト1の大径部2の外周面とインナーロータ12の第一挿通孔12aの内周面との嵌合により、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向への移動が規制され、駆動シャフト1の肩部4及び駆動シャフト1に設けられる止め輪70がインナーロータ12に接触することにより、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向への移動が規制される。よって、少ない部品点数でインナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向及び軸方向への移動を規制することができる。
【0045】
次に、本実施形態の変形例について説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0046】
<変形例1>
上記実施形態では、駆動シャフト1は、先端部1a側に小径部3が形成され、基端部1b側に大径部2が形成される。これに限らず、駆動シャフト1は、先端部1a側に大径部2が形成され、基端部1b側に小径部3が形成されてもよい。この構成では、インナーロータ12は、
図1に示す形状とは上下逆に形成される。駆動シャフト1は、小径部3の外周面に設けられる止め輪70がインナーロータ12の押し付け部12dに接触することによりインナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向の一方への移動が規制され、肩部4がインナーロータ12の段部12cに接触することによりインナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向の他方への移動が規制される。この構成であっても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0047】
<変形例2>
上記実施形態では、止め輪70がインナーロータ12に接触した状態では、駆動シャフト1の肩部4とインナーロータ12の段部12cとの間に隙間Sが形成され、隙間Sにより駆動シャフト1等の製造誤差を吸収することができる。しかしながら、隙間Sは、形成されることが好ましいが、電動ポンプ100に必須の構成ではない。
【0048】
<変形例3>
上記実施形態では、収容孔3bは、止め輪70の形状に沿って断面円弧状に形成される。しかしながら、収容孔3bの形状はこれに限らず、例えば断面矩形状であってもよい。また、上記実施形態では、インナーロータ12の押し付け部12dがテーパ状に形成され、反力Fにより止め輪70を収容孔3bに押し付ける構成である。しかしながら、押し付け部12dは、反力Fにより止め輪70を収容孔3bに押し付けられればテーパ状に形成されなくてもよく、また、止め輪70が脱落するおそれが無い場合等では、押し付け部12dが形成されなくてもよい。
【0049】
<変形例4>
上記実施形態では、肩部4は、径方向に直線状に延びて形成される。しかしながら、肩部4は、インナーロータ12の段部12cと軸方向に接触することによりインナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向への移動が規制できれば、上記形状に限られない。例えば、肩部4は、曲面状に形成されてもよく、テーパ状に形成されてもよい。
【0050】
<変形例5>
上記実施形態では、駆動シャフト1の小径部3は、いわゆるDカット状に形成される。具体的には、小径部3は、大径部2の外周面の一部が切り欠かれて形成される二つの平面部3aを有する。しかしながら、小径部3の形状は、駆動シャフト1の回転トルクをインナーロータ12に伝達できればこれに限られない。小径部3は、平面部3aを一つのみ有する構成であってもよい。また、小径部3とインナーロータ12とをスプライン結合してもよい。
【0051】
<変形例6>
上記実施形態では、ポンプ部10は、インナーロータ12が外周面に外歯を複数有し、アウターロータ13が内周面に外歯と摺接する内歯を複数有する内接ギヤポンプである。しかしながら、ポンプ部10の構成はこれに限らず、例えば、ポンプ部10がカムリングや複数のベーンを有するベーンポンプであってもよい。
【0052】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0053】
電動ポンプ100は、液体を吐出するポンプ部10と、駆動シャフト1を回転させてポンプ部10を駆動させるモータ部20と、を備え、ポンプ部10は、駆動シャフト1が挿通されて連結されるロータとしてのインナーロータ12を有し、駆動シャフト1は、大径部2と、大径部2よりも小径に形成される小径部3と、大径部2と小径部3との間にわたって形成される肩部4と、を有し、インナーロータ12は、駆動シャフト1の大径部2の外周面と嵌合する第一挿通孔12aと、駆動シャフト1の小径部3が挿通し、小径部3から回転トルクが伝達される第二挿通孔12bと、を有し、駆動シャフト1の小径部3の外周面には、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の抜け止めをする抜け止め部材としての止め輪70が設けられ、駆動シャフト1は、駆動シャフト1の肩部4が第一挿通孔12aと第二挿通孔12bとの間の段部12cに接触することによりインナーロータ12に対する軸方向の一方への移動が規制され、止め輪70がインナーロータ12に接触することによりインナーロータ12に対する軸方向の他方への移動が規制される。
【0054】
この構成では、駆動シャフト1の大径部2の外周面とインナーロータ12の第一挿通孔12aの内周面との嵌合により、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向への移動が規制され、駆動シャフト1の肩部4及び駆動シャフト1に設けられる止め輪70がインナーロータ12に接触することにより、インナーロータ12に対する駆動シャフト1の軸方向への移動が規制される。よって、少ない部品点数でインナーロータ12に対する駆動シャフト1の径方向及び軸方向への移動を規制することができる。
【0055】
また、電動ポンプ100では、止め輪70がインナーロータ12に接触した状態では、駆動シャフト1の肩部4とインナーロータ12の段部12cとの間に隙間Sが形成される。
【0056】
この構成では、駆動シャフト1の肩部4とインナーロータ12の段部12cとの間の隙間Sにより、駆動シャフト1等の製造誤差を吸収することができる。
【0057】
また、電動ポンプ100では、駆動シャフト1の小径部3には、止め輪70の一部を収容する環状の収容孔3bが形成され、インナーロータ12は、止め輪70が接触すると反力により止め輪70を収容孔3bに押し付ける押し付け部12dをさらに有する。
【0058】
また、電動ポンプ100では、インナーロータ12の押し付け部12dは、軸方向に対して傾斜するテーパ状に形成される。
【0059】
これらの構成では、インナーロータ12の押し付け部12dにより、止め輪70が収容孔3bから脱落しづらくすることができる。
【0060】
また、電動ポンプ100では、駆動シャフト1の小径部3は、外周面の一部が軸方向に切り欠かれて形成される平面部3aを有し、駆動シャフト1の肩部4は、大径部2と平面部3aとの間に形成される。
【0061】
この構成では、駆動シャフト1の加工が容易になる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0063】
1…駆動シャフト、2…大径部、3…小径部、3a…平面部、3b…収容孔、4…肩部、10…ポンプ部、12…インナーロータ(ロータ)、12a…第一挿通孔、12b…第二挿通孔、12c…段部、12d…押し付け部、20…モータ部、70…止め輪(抜け止め部材)、100…電動ポンプ