(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025144949
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/08 20060101AFI20250926BHJP
【FI】
F16D41/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044888
(22)【出願日】2024-03-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(57)【要約】
【課題】内輪のカムリング部と外輪間に複数の係合子を保持する保持器と外輪側との干渉を避けつつ、内輪の軸方向長さを短縮する。
【解決手段】回転伝達装置の内輪1と外輪2間に転がり軸受3が配置される。保持器6が、カムリング部1bと内方の軌道輪3aとの間で径方向に延びる鍔部6aを有する。カムリング部1bが、鍔部6aを軸方向に受ける規制面1eと、鍔部6aを径方向に受ける保持器座面1fとを有する。鍔部6aの反規制面1e側にリング状の間座18を備える。内輪1は間座18を径方向に受けるスペーサ座面1gを有し、カムリング部1bは間座18を軸方向に受ける段差面1hを有する。間座18は段差面1hと内方の軌道輪3aとで軸方向に挟まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、前記内輪を取り囲む外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転がり軸受と、回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構と、を備え、
前記転がり軸受が、内方の軌道輪と、外方の軌道輪と、これら内外の軌道輪間に配置された複数の転動体とを有し、
前記内輪が、前記内方の軌道輪に嵌め合う軸受座面と、前記軸受座面よりも大径に設けられたカムリング部とを有し、
前記クラッチ機構が、前記カムリング部と前記外輪との間に周方向に所定間隔で配置された複数の係合子と、これら係合子を保持する保持器とを有し、
前記保持器が、前記カムリング部と前記内方の軌道輪との間で径方向に延びる鍔部を有し、
前記カムリング部が、前記係合子に接触するカム面と、前記鍔部を軸方向に受ける規制面と、前記鍔部を径方向に受ける保持器座面とを有する回転伝達装置において、
前記鍔部の反規制面側に間座をさらに備え、
前記間座がリング状になっており、
前記内輪が、前記間座を径方向に受けるスペーサ座面を有し、
前記カムリング部が、前記間座を軸方向に受ける段差面を有し、
前記間座が、前記段差面と前記内方の軌道輪とで軸方向に挟まれていることを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記スペーサ座面と前記軸受座面とが軸方向に連続する同一面状に形成されている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記保持器と前記外方の軌道輪との間で止め輪が前記外輪に取り付けられており、
前記間座と前記止め輪とが同一の軸方向位置に設けられている請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
前記間座が、プレス加工又はコイリング加工された単一部品からなる請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項5】
前記クラッチ機構が、電磁石と、前記電磁石によって軸方向に吸引されるアーマチュアと、前記アーマチュアを軸方向に前記電磁石から遠ざかる方へ付勢する離反ばねとを有し、かつ前記電磁石又は前記離反ばねによる前記アーマチュアの軸方向移動に応じて前記回転トルクの伝達と遮断を切り替えるように設けられている請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【請求項6】
前記内輪と前記外輪のうちの少なくとも一方の輪が、車両、船舶又は建設機械の駆動系又はステアリング装置に備わる回転軸に接続されている請求項1又は2に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転トルクの伝達と遮断を行う回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内輪と外輪との間に転がり軸受と複数の係合子とが配置され、これら係合子が環状の保持器の周方向複数箇所に保持され、電磁石の励磁時又は無励磁時にその保持器が係合位置に移動させられることにより係合子を介して内輪と外輪間で回転トルクの伝達が行われ、電磁石の無励磁時又は励磁時にその保持器が解放位置に移動させられることにより前述の回転トルク伝達が遮断されるように構成された回転伝達装置がある。
【0003】
特許文献1、2に開示された回転伝達装置は、その内輪が、転がり軸受の内方の軌道輪に嵌め合う軸受座面と、軸受座面よりも大径に設けられたカムリング部とを有する。複数の係合子は、カムリング部と外輪の内周との間に配置されている。内輪は、金属によって形成されている。カムリング部は、係合子と接触するカム面を有する。このカム面の表面硬度を向上させるため、カムリング部のカム面には、浸炭等の熱処理が施されている。保持器は、周方向の複数箇所に係合子収容用のポケットを削り加工で形成すると、コスト高になるため、一般に、打ち抜き加工、絞り加工等のプレス加工によって成形された単一部品からなる。保持器は、内輪に対して軸方向及び径方向に位置決めされている。
【0004】
特許文献1の回転伝達装置の場合、保持器は、カムリング部と内方の軌道輪との間に断面L字形の鍔部を有する。カムリング部は、保持器の鍔部を軸方向に受ける規制面と、その鍔部を径方向に受ける保持器座面と、内方の軌道輪を軸方向に受ける肩端面とを有する。保持器の鍔部は、その断面L字形の軸方向辺部の先端に位置する板厚面において内方の軌道輪に軸方向に突き合う。保持器は、保持器座面で径方向に位置決めされ、カムリング部の規制面と内方の軌道輪とで軸方向に挟まれている。
【0005】
特許文献2の回転伝達装置の場合、保持器は、カムリング部と内方の軌道輪との間で径方向に延びる鍔部を有する。カムリング部は、保持器の鍔部を軸方向に受ける規制面と、その鍔部を径方向に受ける保持器座面と、内方の軌道輪を軸方向に受ける肩端面とを有する。内輪は、保持器座面と、肩端面との間の中間部位に止め輪溝部を有する。保持器は、保持器座面で径方向に位置決めされ、カムリング部の規制面と、止め輪溝部に取り付けられた止め輪とで軸方向に位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-275247号公報
【特許文献2】特開2009-216213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の回転伝達装置のように、保持器の鍔部を断面L字形にプレス成形する場合、その径方向辺部から軸方向辺部に至る曲げ部でのクラックを防止するため、曲げ部の曲率半径を小さくすることが困難であること、更に、軸方向辺部の内径面において保持器案内に十分な軸方向長さを取る必要があることから、鍔部の軸方向長さが大きくなってしまう。結果的に、カムリング部の規制面と内方の軌道輪(軸受座面)間の軸方向長さが大きくなってしまう。
【0008】
特許文献2の回転伝達装置の保持器のように、径方向に延びる鍔部を採用すると、鍔部の軸方向長さを抑えることは可能である。
【0009】
しかしながら、特許文献2の回転伝達装置のように、保持器の鍔部の反規制面側に止め輪を配置する場合、内輪にあまりに薄肉部分があると前述の熱処理により薄肉部分で変形、クラックが発生するため、保持器座面や止め輪溝付近の肉厚を軸方向及び径方向に十分に確保する必要がある。したがって、止め輪溝部と肩端面間の軸方向長さを抑えることができず、やはり、カムリング部の規制面と内方の軌道輪(軸受座面)間の軸方向長さが大きくなってしまう。
【0010】
その一方、カムリング部の規制面と軸受座面間の軸方向長さを小さくし過ぎると、転がり軸受の外方の軌道輪を規制する止め輪と、保持器との間に軸方向の隙間を確保できず、内輪側の保持器と外輪側とが干渉する問題が生じてしまう。
【0011】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、内輪のカムリング部と外輪間に複数の係合子を保持する保持器と外輪側との干渉を避けつつ、内輪の軸方向長さを短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を達成するため、この発明は、内輪と、前記内輪を取り囲む外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された転がり軸受と、回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構と、を備え、前記転がり軸受が、内方の軌道輪と、外方の軌道輪と、これら内外の軌道輪間に配置された複数の転動体とを有し、前記内輪が、前記内方の軌道輪に嵌め合う軸受座面と、前記軸受座面よりも大径に設けられたカムリング部とを有し、前記クラッチ機構が、前記カムリング部と前記外輪との間に周方向に所定間隔で配置された複数の係合子と、これら係合子を保持する保持器とを有し、前記保持器が、前記カムリング部と前記内方の軌道輪との間で径方向に延びる鍔部を有し、前記カムリング部が、前記係合子に接触するカム面と、前記鍔部を軸方向に受ける規制面と、前記鍔部を径方向に受ける保持器座面とを有する回転伝達装置において、前記鍔部の反規制面側に間座をさらに備え、前記間座がリング状になっており、前記内輪が、前記間座を径方向に受けるスペーサ座面を有し、前記カムリング部が、前記間座を軸方向に受ける段差面を有し、前記間座が、前記段差面と前記内方の軌道輪とで軸方向に挟まれていることを特徴とする回転伝達装置、という構成1を採用した。
【0013】
上記構成1によると、リング状の間座が内輪のスペーサ座面で径方向に位置決めされ、カムリング部の段差面と転がり軸受の内方の軌道輪とで軸方向に位置決めされる。したがって、保持器の鍔部を軸方向に受けるカムリング部の規制面と、鍔部の反規制面側に隣接する位置に内方の軌道輪で規制された間座とにより、保持器が軸方向に位置決めされる。間座の位置決めに止め輪溝部のような溝部を使用しないため、間座と内方の軌道輪間に挟まれる溝肩部が存在しない分、内輪の軸方向長さが短縮される。また、保持器の鍔部に隣接する間座がカムリング部の段差面と内方の軌道輪とで挟まれることにより、外方の軌道輪と保持器間の軸方向距離を適切に確保することが可能になり、保持器と外輪側との干渉が避けられる。
【0014】
上記構成1において、前記スペーサ座面と前記軸受座面とが軸方向に連続する同一面状に形成されている、という構成2を採用することができる。
【0015】
上記構成2によると、スペーサ座面と軸受座面間に段差がなく、内輪形状の複雑化が避けられる。
【0016】
上記構成1又は2において、前記保持器と前記外方の軌道輪との間で止め輪が前記外輪に取り付けられており、前記間座と前記止め輪とが同一の軸方向位置に設けられている、という構成3を採用することができる。
【0017】
上記構成3によると、保持器と外輪側の止め輪とが干渉しない最小限の間座幅として、スペーサ座面の軸方向長さを最小限に抑えることができる。
【0018】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、前記間座が、プレス加工又はコイリング加工された単一部品からなる、という構成4を採用することができる。
【0019】
上記構成1から4のいずれか1つにおいて、前記クラッチ機構が、電磁石と、前記電磁石によって軸方向に吸引されるアーマチュアと、前記アーマチュアを軸方向に前記電磁石から遠ざかる方へ付勢する離反ばねとを有し、かつ前記電磁石又は前記離反ばねによる前記アーマチュアの軸方向移動に応じて前記回転トルクの伝達と遮断を切り替えるように設けられている、という構成5を採用することができる。
【0020】
上記構成1から5のいずれか1つにおいて、前記内輪と前記外輪のうちの少なくとも一方の輪が、車両、船舶又は建設機械の駆動系又はステアリング装置に備わる回転軸に接続されている、という構成6を採用することができる。
【発明の効果】
【0021】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、内輪のカムリング部と外輪間に複数の係合子を保持する保持器と外輪側との干渉を避けつつ、内輪の軸方向長さを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の実施形態に係る回転伝達装置の励磁時を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係る一例としての実施形態に係る回転伝達装置を添付図面の
図1~
図3に基づいて説明する。
【0024】
図1、
図2に示すこの回転伝達装置は、内輪1と、内輪1を取り囲む外輪2と、内輪1と外輪2との間に配置された転がり軸受3と、内輪1と外輪2間で回転の伝達と遮断とを行なうクラッチ機構と、を備える。
【0025】
ここでは、内輪1と外輪2の相対的な回転の中心軸線に沿った方向のことを「軸方向」といい、その中心軸線に直交する方向を「径方向」という。また、その中心軸線を中心とした円周方向を「周方向」という。軸方向は、
図1における左右方向に相当するので、以下では、軸方向一方のことを
図1に基づいて単に「左方」といい、軸方向一方とは反対の軸方向他方のことを
図1に基づいて単に「右方」という。
【0026】
内輪1は、他の機械に備わる回転軸100に接続されている。外輪2は、他の機械に備わる回転軸101に接続されている。他の機械は、例えば、車両、船舶又は建設機械に備わる駆動系であり、回転軸100、101は、動力を伝達する軸である。
【0027】
内輪1と外輪2は、それぞれ中空軸状に形成された金属部材からなる。これら金属部材は、例えば、鍛造された鋼製のものであり、浸炭等の熱処理によって表面が硬化させられたものである。
【0028】
内輪1の内周には、回転軸100と接続される継手部が形成されている。外輪2の内周の右端部には、回転軸101と接続される継手部が形成されている。これら継手部は、それぞれスプライン孔部になっている。
【0029】
転がり軸受3は、内方の軌道輪3aと、外方の軌道輪3bと、これら内外の軌道輪3a、3b間に配置された複数の転動体3cとを有する非分離形のラジアル軸受になっている。内輪1と外輪2が互いに軸方向にずれることは、非分離形の軌道輪3a、3bに複数の転動体3cが軸方向に係合することによって阻止される。図示例では、転がり軸受3が深溝玉軸受に構成されている。
【0030】
内輪1は、内方の軌道輪3aに嵌め合う軸受座面1aと、軸受座面1aよりも大径に設けられたカムリング部1bと、カムリング部1bよりも小径に設けられた筒部1cとを有する。すなわち、カムリング部1bは軸受座面1aよりも径方向外側に設けられ、筒部1cはカムリング部1bよりも径方向内側に設けられている。軸受座面1aは、カムリング部1bに対して右方側に位置し、筒部1cは、カムリング部1bに対して左方側に位置する。
【0031】
内輪1に対して内方の軌道輪3aを抜け止めするための止め輪4が軸受座面1aの右方側に隣接する位置に取り付けられている。
【0032】
クラッチ機構は、内輪1と外輪2間での回転トルクを伝達する係合状態と、内輪1と外輪2間での回転トルクの伝達を遮断する係合解除状態とを電磁的に切り替えることができるように設けられている。
【0033】
クラッチ機構は、カムリング部1bの外周に形成されたカム面1dと、外輪2の内周に形成された円筒面2aと、カム面1dと円筒面2aとの間に配置された係合子5と、係合子5を保持する保持器6と、内輪1及び保持器6に回り止めされたセンタリングばね7と、電磁石8と、保持器6に対して回り止めされかつ軸方向に移動可能に配置されたアーマチュア9と、アーマチュア9を電磁石8から遠ざかる右方へ付勢する離反ばね10と、を有する。
【0034】
円筒面2aは、周方向全周に延びている。カム面1dは、円筒面2aとの間にくさび空間を形成する。そのくさび空間は、カム面1dの周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となっている。すなわち、カム面1dと円筒面2aとの間の径方向の距離は、カム面1dの周方向中央に位置する
図2の係合子5の位置から周方向の一方向(
図2において左回り)に向かって次第に小さくなり、また、当該係合子5の位置から周方向の他方向(
図2において右回り)に向かって次第に小さくなっている。内輪1の外周には、周方向に間隔をおいて複数のカム面1dが形成されている。すなわち、複数のくさび空間が形成され、各くさび空間に係合子5が配置されている。なお、カム面1dを単一平面で構成した例を示したが、カム面を複数の面で構成してもよいし、単一の曲面で構成することも可能である。
【0035】
係合子5は、内輪1に対して保持器6が相対回転することにより、円筒面2aおよびカム面1dに係合して、内輪1と外輪2間で回転トルクを伝達する。係合子5は、円筒ころ状に形成されている。
【0036】
保持器6は、周方向の複数箇所に係合子5を収容するポケットが形成された環状部材からなる。保持器6は、プレス加工によって成形されている。
【0037】
係合子5は、保持器6との周方向の当接により、カム面1dに対する周方向位置が制限され、また、保持器6と共に強制的に回転させられる。
【0038】
保持器6は、内輪1に対して同軸周りに周方向に所定の係合位置と解放位置との間を移動することができる。その係合位置は、係合子5をカム面1dの周方向中央から周方向に移動させてカム面1dと円筒面2aに係合させる位置である。その解放位置は、係合子5をカム面1dの周方向中央の方へ移動させてカム面1dと円筒面2aに対する係合子5の係合を解除する位置である。
【0039】
保持器6は、複数の係合子5に対して右方側に位置する鍔部6aを有する。鍔部6aは、径方向に延びる金属板部からなる。鍔部6aは、保持器6の剛性向上に貢献する。
【0040】
センタリングばね7は、保持器6を解放位置に弾性的に保持する弾性部材からなる。センタリングばね7は、内輪1に対する保持器6の相対回転により弾性変形し、その復元弾性によって当該保持器6を復帰回転させる。
【0041】
センタリングばね7は、円弧状ばね部の周方向両端から径方向外方に延びる延出部7aを有する。センタリングばね7は、その円弧状ばね部において筒部1cの外周に通され、カムリング部1bの左方の端面に軸方向に支えられている。一対の延出部7aは、カムリング部1bの左側面に形成された切欠部を通り、保持器6の左側の環部に形成された切欠部6bに挿入されている。一対の延出部7aは、カムリング部1bの切欠部、保持器6の切欠部6bを周方向の相反する方向に向かって押すことができる。これにより、センタリングばね7は、保持器6を解放位置に弾性的に保持することが可能な状態にありながら、内輪1と一体的に回転するように内輪1に回り止めされるとともに、保持器6に回り止めされている。
【0042】
クラッチ機構は、センタリングばね7に対して左方側に隣接するばね押え部材11を有する。ばね押え部材11は、筒部1cの外周に通されたリング部材になっている。ばね押え部材11の左方への移動を規制するための止め輪が、筒部1cの外周に取り付けられている。
【0043】
アーマチュア9は、筒部1cの外周に対して軸方向にスライド自在に嵌合された環状部材からなる。アーマチュア9は、電磁石8に軸方向に対向している。
【0044】
ばね押え部材11は、保持器6及びアーマチュア9に回り止めされている。ばね押え部材11は、アーマチュア9に形成された係合窓部9aに軸方向に挿入され、保持器6の左方側の切欠部6bに嵌る係合突部11aを有する。アーマチュア9の軸方向の往復ストロークの全域で係合窓部9aと係合突部11a間、係合突部11aと切欠部6b間の各間で周方向に係合することができ、それら係合により、保持器6とアーマチュア9とばね押え部材11は、一体的に周方向に移動することできる。なお、アーマチュア9と保持器6の回り止めは、ばね保持リングを介在させず、保持器6に係合突部を設けてアーマチュア9の係合窓部9aに挿入する構造にしてもよい。
【0045】
クラッチ機構は、電磁石8とアーマチュア9との間で両者8、9に軸方向に対向するロータ12と、ロータ12を外輪2に連結するロータガイド13とを有する。ロータ12及びロータガイド13は、外輪2と一体に回転することができる。ロータ12の内周には、回転軸100を支持するためのニードル軸受14が嵌合されている。
【0046】
アーマチュア9は、離反ばね10により所定のセット位置(
図1に示す位置)に弾性的に保持され、そのセット位置から電磁石8の励磁によって磁気的に吸引される。そのセット位置は、アーマチュア9が保持器6の左側の端面に軸方向に突き合う位置に設定されている。なお、アーマチュア9のセット位置は、筒部1cの外周に取り付けられた止め輪に突き合う位置に設定することも可能である。
【0047】
離反ばね10は、アーマチュア9を右方へ付勢するためのばね部材である。離反ばね10は、アーマチュア9の左側面の凹部とロータ12の円環面状の右側面との間に配置されている。離反ばね10は、アーマチュア9がセット位置から左方へ移動させられることにより蓄勢する。離反ばね10は、例えば、ウェーブワッシャ状又はコイル状の金属ばねである。
【0048】
電磁石8は、ソレノイドコイルに通電されることにより無励磁状態から励磁状態に切り替わる。励磁状態になると、ロータ12とアーマチュア9とを通り、アーマチュア9を磁気的にロータ12の右側面に吸着させる磁気回路が生成される。なお、ロータ12は、内輪1と外輪2の相対回転速度が低速である場合等、アーマチュア9を電磁石8の右端面に吸着させても電磁石8の損傷等の懸念がない場合は、ロータ12、ロータガイド13を省略することも可能である。
【0049】
電磁石8は、円環状の基板15の右側面に固定されている。基板15は、他の機械に備わる静止部102に取り付けられている。静止部102には、基板15を抜け止めするための止め輪16が取り付けられている。
【0050】
電磁石8の無励磁時、アーマチュア9は、離反ばね10によりロータ12から離れたセット位置に支持されるため、外輪2側のロータ12と、アーマチュア9間で周方向力を伝達することはできない。このため、アーマチュア9、内輪1に対して回り止めされた保持器6は、外輪2の円筒面2aと内輪1のカム面1dに係合子5を係合させない解放位置にセンタリングばね7で弾性的に保持される。したがって、内輪1や外輪2が
図2における左回り又は右回りのいずれに回転したとしても、その回転トルクは、係合子5を介して内輪1と外輪2間で伝達されず、内輪1と外輪2が相対的に空転(フリー回転)する。つまり、クラッチ機構は、内輪1と外輪2間での回転トルクの伝達を遮断する係合解除状態にある。この係合解除状態のとき、内輪1の回転は、センタリングばね7を介して保持器6に伝達され、保持器6及び係合子5が共に回転することができる。また、アーマチュア9は、保持器6に対して回り止めされているため、アーマチュア9も共に回転することができる。
【0051】
内輪1と外輪2の少なくとも一方が回転し、これら両輪1、2が相対的に回転する状態において、電磁石8が無励磁状態から励磁状態に切り替わると、アーマチュア9が離反ばね10に抗してロータ12に吸着される。ロータ12とアーマチュア9の吸着面に作用する摩擦抵抗は、ばね押え部材11を介して保持器6を解放位置から係合位置へ向かわせる方向の周方向力として与えられる。その摩擦抵抗は、センタリングばね7のばね力よりも予め大きな値に設定されている。このため、センタリングばね7が保持器6から周方向に押されて弾性変形させられ、保持器6が内輪1に対して相対回転させられる。これにより、内輪1に対して保持器6が回転させられ、係合子5を外輪2の円筒面2aと内輪1のカム面1d間のくさび空間の狭小部に向かわせる。このため、保持器6が係合位置へ移動し、係合子5を内輪1のカム面1dと外輪2の円筒面2aに係合させる。これにより、この回転伝達装置は、内輪1と外輪2間で回転トルクの伝達を行う係合状態に切り替わる。
【0052】
この係合状態において、電磁石8が無励磁状態に切り替わると、離反ばね10の付勢力により、アーマチュア9がロータ12から離されてセット位置まで復帰させられ、これに伴い、センタリングばね7のばね力により、保持器6が内輪1に対して係合時の逆方向に回転させられる。このため、保持器6が解放位置に移動し、内輪1のカム面1dと外輪2の円筒面2aに対する係合子5の係合を解除する。これにより、この回転伝達装置は、係合解除状態に戻る。
【0053】
上述のように外輪2の円筒面2aと内輪1のカム面1dに対する係合とこの解除が適切に行われるには、保持器6の姿勢安定と、円筒面2aに対する内輪1の同軸性が重要である。このため、転がり軸受3がカムリング部1bの近くに配置されるとともに、保持器6の位置決めが軸方向及び径方向に行われ、転がり軸受3と保持器6の干渉が防止されている。
【0054】
図1、
図3に示すように、転がり軸受3の外方の軌道輪3bは、外輪2の内周に取り付けられた止め輪17により、左方への移動が規制される。止め輪17は、保持器6と外方の軌道輪3bとの間に突出しており、外方の軌道輪3bの左側面に隣接する。
【0055】
保持器6の鍔部6aの内径面は、カムリング部1bと内方の軌道輪3aとの間に位置する。カムリング部1bは、鍔部6aを軸方向に受ける規制面1eと、鍔部6aを径方向に受ける保持器座面1fとを有する。保持器6は、鍔部6aの内径面において保持器座面1fにより径方向に案内される。保持器6は、鍔部6aが規制面1eに引っ掛かることにより、左方への移動が規制される。
【0056】
さらに、鍔部6aの右側面(反規制面1e側)に隣接する間座18が配置されている。間座18は、周方向に延びるリング状になっている。内輪1は、間座18を径方向に受けるスペーサ座面1gと、間座18を軸方向に受ける段差面1hとを有する。間座18は、スペーサ座面1gに対する嵌合により、径方向に位置決めされている。間座18は、段差面1hと、内方の軌道輪3aとで軸方向に挟まれている。間座18の左方への移動は、段差面1hにより規制される。内方の軌道輪3aの左方への移動は、段差面1hに受けられた間座18により規制される。間座18の右方への移動は、内方の軌道輪3aにより規制される。なお、アーマチュア9のセット位置を決める保持器6の鍔部6aから間座18が右方へ押され、内方の軌道輪3aが右方へ押されたとしても、内方の軌道輪3aの右方への移動は、止め輪4により規制される。
【0057】
間座18を段差面1hと内方の軌道輪3aとで挟むことにより、スペーサ座面1gと内方の軌道輪3aとの間に突出する内輪肉部を無くして内輪1の軸方向長さを短縮しつつ、転がり軸受3の軸方向位置を、止め輪17と保持器6の右側面との間に軸方向の隙間を確保することが可能な位置に設定することができる。すなわち、間座18を省き、内方の軌道輪3aを段差面1hに突き合わせるならば、止め輪17が保持器6に干渉することになる。止め輪17を省くと、転がり軸受3に対して外輪2が右方へずれる懸念が生じる。
【0058】
間座18と止め輪17は、同一幅に設けられている。間座18の左側面と、止め輪17の左側面は、径方向に向き合っている。したがって、間座18と止め輪17は同一の軸方向位置に設けられている。つまり、止め輪17の配置分だけの最小限の軸方向距離を段差面1hと内方の軌道輪3a間に確保するだけで済み、スペーサ座面1gの幅が抑えられる。
【0059】
スペーサ座面1gは、周方向に延びる円筒面状に形成されている。スペーサ座面1gと軸受座面1aとは、軸方向に連続する同一面状に形成されている。
【0060】
スペーサ座面と内方の軌道輪3aとの間に突出する内輪肉部を形成することは、その分、内輪の軸方向長さを長くすることになるので、好ましくない。スペーサ座面の直径を軸受座面1aの直径よりも大きく設けることは可能である。この場合、スペーサ座面と軸受座面1aとの間に段差が生じ、内輪形状が内輪1よりも複雑になる。
【0061】
間座18が有するリング状は、スペーサ座面1gとの嵌合によって間座18を径方向に位置決めできる範囲で周方向に延びていればよく、
図4に示すように、周方向全周に連続する円環板状であってもよいし、
図5に示すように、周方向に延びる円孤板状であってもよい。
【0062】
図4に示す間座18は、プレス加工された単一部品からなる。
図5に示す間座18は、コイリング加工された単一部品からなる。間座18の直径がコイリング加工で形成可能な大きさの寸法であれば、コイルリング加工製にすることができる。間座18の直径がコイリング加工で形成できない小さな寸法であれば、プレス加工製にすることができる。コイリング加工製の間座18を採用する方が、金型コストが不要な分、間座18を安価に製造することができる。
【0063】
図1~
図3に示すこの回転伝達装置は、上述のように、内輪1と、内輪1を取り囲む外輪2と、内輪1と外輪2との間に配置された転がり軸受3と、回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構と、を備え、転がり軸受3が内方の軌道輪3aと、外方の軌道輪3bと、これら内外の軌道輪3a、3b間に配置された複数の転動体3cとを有し、内輪1が内方の軌道輪3aに嵌め合う軸受座面1aと、軸受座面1aよりも大径に設けられたカムリング部1bとを有し、クラッチ機構がカムリング部1bと外輪2との間に周方向に所定間隔で配置された複数の係合子5と、これら係合子5を保持する保持器6とを有し、保持器6がカムリング部1bと内方の軌道輪3aとの間で径方向に延びる鍔部6aを有し、カムリング部1bが係合子5に接触するカム面1dと、鍔部6aを軸方向に受ける規制面1eと、鍔部6aを径方向に受ける保持器座面1fとを有するものである。
【0064】
この回転伝達装置は、特に、鍔部6aの反規制面1e側に隣接する間座18をさらに備え、間座18がリング状になっており、内輪1が間座18を径方向に受けるスペーサ座面1gを有し、カムリング部1bが間座18を軸方向に受ける段差面1hを有し、間座18が段差面1hと内方の軌道輪3aとで軸方向に挟まれていることにより、リング状の間座18がスペーサ座面1gで径方向に位置決めされ、段差面1hと内方の軌道輪3aとで軸方向に位置決めされる。したがって、鍔部6aを軸方向に受ける規制面1eと、鍔部6aの反規制面1e側に隣接する位置に内方の軌道輪3aで規制された間座18とにより、保持器6が軸方向に位置決めされる。間座18の位置決めに止め輪溝部のような溝部を使用しないため、間座18と内方の軌道輪3a間に挟まれる溝肩部が存在しない分、内輪1の軸方向長さが短縮される。また、鍔部6aに隣接する間座18が段差面1hと内方の軌道輪3aとで挟まれることにより、外方の軌道輪3bと保持器6間の軸方向距離を適切に確保することが可能になるので、保持器6と外輪2側との干渉が避けられる。
【0065】
このように、この回転伝達装置は、内輪1のカムリング部1bと外輪2間に複数の係合子5を保持する保持器6と外輪2側との干渉を避けつつ、内輪1の軸方向長さを短縮することができる。
【0066】
また、この回転伝達装置は、スペーサ座面1gと軸受座面1aとが軸方向に連続する同一面状に形成されていることにより、スペーサ座面1gと軸受座面1a間に段差がなく、内輪1の形状の複雑化が避けられる。
【0067】
また、この回転伝達装置は、保持器6と外方の軌道輪3bとの間で外方の軌道輪3bに隣接する止め輪17が外輪2に取り付けられており、間座18と止め輪17とが同一の軸方向位置に設けられていることにより、保持器6と外輪2側の止め輪17とが干渉しない最小限の間座18の幅として、スペーサ座面1gの軸方向長さを最小限に抑えることができる。
【0068】
この回転伝達装置は、車両、船舶又は建設機械等の駆動系に備わる回転軸に適用する例を示したが、それら建設機械等のステアリング装置のステアリングロック等、回転軸の回転伝達を遮断するブレーキ用途の回転伝達装置に変更することも可能である。この場合、内輪又は外輪の一方にステアリングシャフト等の回転軸を接続し、他方を他の機械に備わる静止部に対して回り止めすればよい。
【0069】
また、この回転伝達装置は、円筒面2aを外輪2に形成し、カム面1dを内輪1に形成した例を示したが、円筒面を内輪に形成し、カム面を外輪の内周部に形成することも可能である。また、係合子としてスプラグを採用し、保持器の相対回転によりスプラグの傾動位置を制御するようにしてもよい。
【0070】
また、この回転伝達装置は、クラッチ機構が電磁石8の励磁時に回転トルクを伝達可能な状態に移行するように設けられた励磁作動形のものを例示したが、クラッチ機構を電磁石の無励磁時に回転トルクを伝達可能な状態に移行するように設けられた無励磁作動形のものに変更することも可能である。
【0071】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0072】
1 内輪
1a 軸受座面
1b カムリング部
1d カム面
1e 規制面
1f 保持器座面
1g スペーサ座面
1h 段差面
2 外輪
2a 円筒面
3 転がり軸受
3a 内方の軌道輪
3b 外方の軌道輪
3c 転動体
5 係合子
6 保持器
6a 鍔部
7 センタリングばね
8 電磁石
9 アーマチュア
10 離反ばね
17 止め輪
18 間座
100、101 回転軸