IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特開2025-14504転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両
<>
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図1
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図2
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図3
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図4
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図5
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図6
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図7
  • 特開-転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014504
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250123BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117109
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都甲 高広
(72)【発明者】
【氏名】玉木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 麗奈
(72)【発明者】
【氏名】小野 仁章
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232CC20
3D232CC22
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA22
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA76
3D232DA84
3D232DA87
3D232DA88
3D232DA90
3D232DC01
3D232DC08
3D232DC09
3D232DC38
3D232DD02
3D232DD10
3D232DD17
3D232DE02
3D232DE14
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】制御周期ごとの舵角の目標値を適切に設定でき、舵角を円滑に変化させることが可能な転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両を提供する。
【解決手段】モータ41によって操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータ4を制御する転舵制御装置5は、所定の取得周期で目標舵角を取得する目標舵角取得部51と、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した目標舵角との差分値を演算する差分値演算部52と、取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部53と、制御周期ごとに実舵角が短期目標舵角に近づくようにモータ41を制御するモータ制御部54と、を備える。短期目標舵角演算部53は、目標舵角を新たに取得した後の制御周期の回数に応じた係数を差分値に乗算した乗算値と取得前の舵角の目標値とに基づいて短期目標舵角を演算する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータを制御する転舵制御装置であって、
所定の取得周期で目標舵角を取得する目標舵角取得部と、
前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、
前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、
前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、
前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、
転舵制御装置。
【請求項2】
前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角を新たに取得したときにカウンタ値を初期値にすると共に、前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数ごとに前記カウンタ値を加算し、前記取得周期の前記制御周期に対する倍率で前記カウンタ値を除した値を前記係数として前記乗算値を求め、前記乗算値を前記取得前の舵角の目標値に加算して前記短期目標舵角を演算する、
請求項1に記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後のn(ただし、nは1以上の整数)回目の前記制御周期における前記短期目標舵角が、その直前の前記制御周期における前記短期目標舵角に対し、車速に応じて設定される変化率閾値よりも大きい変化率で変化する場合に、前記変化率の大きさが前記変化率閾値以下となるように前記n回目の前記制御周期における前記短期目標舵角を補正する変化率補正部をさらに備え、
前記差分値演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したときの直前の前記制御周期で前記変化率補正部が前記補正を行っていた場合に、当該補正後の前記短期目標舵角と新たに取得した前記目標舵角との差を前記差分値とする、
請求項1又は2に記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記短期目標舵角演算部が演算した前記短期目標舵角の大きさが走行モードに応じて設定される舵角の最大値よりも大きい場合に前記短期目標舵角の大きさが前記最大値以下となるように前記短期目標舵角を補正する目標舵角制限部をさらに備え、
前記差分値演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したときの直前の前記制御周期で前記目標舵角制限部が前記補正を行っていた場合に、当該補正後の前記短期目標舵角と新たに取得した前記目標舵角との差を前記差分値とする、
請求項1又は2に記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記目標舵角取得部は、CAN通信により前記目標舵角を取得し、
前記制御周期が1ms以下である、
請求項1に記載の転舵制御装置。
【請求項6】
運転者によって操作されるステアリングホイールと、前記ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトに操舵反力を付与する反力アクチュエータと、モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータと、前記反力アクチュエータ及び前記転舵アクチュエータを制御する制御装置と、を備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置であって、
前記制御装置は、
車両情報に基づいて前記操向輪の舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部と、
前記目標舵角設定部から前記目標舵角を所定の取得周期で取得する目標舵角取得部と、
前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、
前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、
前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、
前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、
ステアリング装置。
【請求項7】
モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータと、
車両情報に基づいて舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部と、
前記目標舵角設定部から前記目標舵角を所定の取得周期で取得する目標舵角取得部と、
前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、
前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、
前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、
前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、
車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータを制御する転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動運転制御や先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance Systems:以下、「ADAS」という。)などの運転支援制御について、様々な提案がなされている。特許文献1には、各種の車載装置を制御する複数のECU(Electronic Control Unit)が上位コントローラであるADASECUと通信バスによって接続され、ADASECUが車載カメラによって得られた画像情報やGPS情報等の地理的情報等に基づいて各ECUに指令信号を送り、車両の走行を制御することが記載されている。ADASECUと通信バスによって接続された複数のECUには、エンジンの制御を行うエンジン制御ECU、変速機の制御を行う変速機ECU、ブレーキ等の制御を行うVSCECU、及び電動ステアリング装置を制御するEPSECUが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-160847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば上記のように構成された車両において、操向輪を転舵させる転舵機構を制御する転舵制御装置は、上位コントローラから指令信号が送られる周期よりも短い制御周期で舵角の制御を行うことが可能である。近年では、マイクロプロセッサ等の情報処理技術の高度化により、従来にも増して制御周期が短くなる傾向にある。転舵制御装置に対して上位コントローラから目標舵角の信号が所定の周期で送られる場合、転舵制御装置は、舵角の急変により振動や騒音が発生することを抑制するため、前回取得した目標舵角と今回取得した目標舵角との差を複数の制御周期に分配し、実際の舵角である実舵角を徐々に新たに取得した目標舵角に近づけることが考えられる。
【0005】
この場合、前回取得した目標舵角と新たに取得した目標舵角との差が小さいと、この差分を複数の制御周期に分配する際に、転舵制御装置が所定のビット数の数値情報として記憶している舵角の目標値の演算で桁落ちが発生し、各制御周期における舵角の目標値を適切に設定できないおそれがある。つまり、上位コントローラからの目標舵角が更新される間に転舵制御装置がn回(nは整数)の制御周期の処理を行い、前回取得した目標舵角と新たに取得した目標舵角との差分をnで除した値を制御周期ごとの舵角の目標値の増分として徐々に加算する場合に、前回取得した目標舵角と新たに取得した目標舵角との差分をnで除した値がLSB(Least Significant Bit;最下位ビット)によって表現される値よりも小さいと、この増分が0(ゼロ)となり、次に上位コントローラから目標舵角を取得するまで、制御周期ごとの舵角の目標値が変化しないこととなる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制御周期ごとの舵角の目標値を適切に設定でき、舵角を円滑に変化させることが可能な転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵機構を制御する転舵制御装置であって、所定の取得周期で目標舵角を取得する目標舵角取得部と、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、転舵制御装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、運転者によって操作されるステアリングホイールと、ステアリングホイールに連結されたステアリングシャフトと、ステアリングシャフトに操舵反力を付与する反力アクチュエータと、モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータと、前記反力アクチュエータ及び前記転舵アクチュエータを制御する制御装置と、を備えたステアバイワイヤ式のステアリング装置であって、前記制御装置は、車両情報に基づいて前記操向輪の舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部と、前記目標舵角設定部から前記目標舵角を所定の取得周期で取得する目標舵角取得部と、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、ステアリング装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、モータによって車両の操向輪を転舵させることが可能な転舵アクチュエータと、車両情報に基づいて舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部と、前記目標舵角設定部から前記目標舵角を所定の取得周期で取得する目標舵角取得部と、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と新たに取得した前記目標舵角との差である差分値を演算する差分値演算部と、前記差分値を分配して前記取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する短期目標舵角演算部と、前記制御周期ごとに実舵角が前記短期目標舵角に近づくように前記モータを制御するモータ制御部と、を備え、前記短期目標舵角演算部は、前記目標舵角取得部が前記目標舵角を新たに取得した後の前記制御周期の回数に応じた係数を前記差分値に乗算した乗算値と前記取得前の舵角の目標値とに基づいて前記短期目標舵角を演算する、車両を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る転舵制御装置、ステアリング装置、及び車両によれば、制御周期ごとの舵角の目標値を適切に設定でき、舵角を円滑に変化させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両の概略の構成例を示す構成図である。
図2】ADAS制御装置の一部及び転舵制御装置の機能構成、及びインバータ装置の構成例を示すブロック図である。
図3】転舵制御装置の差分値演算部、短期目標舵角演算部、及びモータ制御部が制御周期ごとに実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】目標舵角及び短期目標舵角の変化の一例を示すグラフである。
図5】比較例に係る目標舵角及び短期目標舵角の変化の一例を示すグラフである。
図6】第2の実施の形態に係る転舵制御装置の機能構成を示す概略構成図である。
図7】第3の実施の形態に係る車両の概略の構成例を示す構成図である。
図8】第3の実施の形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車両1の概略の構成例を示す構成図である。車両1は、運転者の運転操作を支援する運転支援機能を有している。より具体的には、自車両を目的の駐車スペースに駐車させる自動駐車機能や、高速道路を先行車に追従して走行するアダプティブクルーズコントロール機能を、運転支援機能として有している。図1では、車両1の操向輪である左右の前輪101,102を転舵させる転舵装置2の構成、及び運転支援制御を行うADAS制御装置11を含む車両1の制御系10の構成を示している。
【0014】
転舵装置2は、車両1の運転者が操作するステアリングホイール20と、ステアリングホイール20の操作によって左右の前輪101,102を転舵させることが可能な転舵機構3と、転舵機構3に取り付けられた転舵アクチュエータ4と、転舵アクチュエータ4を制御する転舵制御装置5と、転舵アクチュエータ4の駆動源であるモータ41に駆動電流を供給するインバータ装置6とを備えている。転舵アクチュエータ4は、運転者がステアリングホイール20等によって車両1の運転操作を行う手動運転時には転舵機構3に運転者の操舵操作を補助する操舵補助力を付与し、ADAS制御装置11の制御によって車両1を自動走行させる際には、運転者によるステアリングホイール20の操作によらず、モータ41によって転舵機構3を動作させ、前輪101,102を転舵させることが可能である。
【0015】
転舵機構3は、ステアリングシャフト31と、車幅方向に延在するラック軸32と、ラック軸32を収容する筒状のハウジング33と、ステアリングホイール20に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサ34とを有している。ステアリングシャフト31は、ステアリングホイール20が端部に取り付けられたコラムシャフト311と、コラムシャフト311にジョイント312を介して連結された中間シャフト313と、中間シャフト313にジョイント314を介して連結されたピニオンシャフト315とを有している。
【0016】
ピニオンシャフト315には、端部にピニオン歯部315aが形成されており、このピニオン歯部315aがラック軸32に設けられたラック歯部32aに噛み合っている。ステアリングシャフト31がステアリングホイール20と共に回転すると、ピニオン歯部315aとラック歯部32aとの噛み合いにより、ラック軸32が車幅方向に沿ってハウジング33に対して軸方向に移動する。
【0017】
ピニオンシャフト315は、ピニオン歯部315aよりも中間シャフト313側の一部がトーションバー315bによって形成されている。トーションバー315bは、操舵トルクによって捩れる程度の低い剛性を有している。トルクセンサ34は、トーションバー315bの捩じれ量によって操舵トルクを検出する。トルクセンサ34によって検出された操舵トルクの検出結果を示す信号は、転舵制御装置5に送られる。
【0018】
ラック軸32の両端部には、それぞれボールジョイント103,104が取り付けられており、左右のタイロッド105,106のそれぞれの一端部がボールジョイント103,104によってラック軸32に揺動可能に連結されている。タイロッド105,106のそれぞれの他端部は、左右の前輪101,102を支持する図示しないナックルに連結されている。ラック軸32が軸方向に移動すると、前輪101,102が転舵される。
【0019】
転舵アクチュエータ4は、モータ41によって左右の前輪101,102を転舵させることが可能である。本実施の形態では、転舵アクチュエータ4がラック軸32に軸方向の移動力を付与するように配置されている。転舵アクチュエータ4は、モータ41と、ラック軸32の外周に配置されたボールねじナット42と、ボールねじナット42とラック軸32との間を循環転動する複数のボール43と、モータ41の回転力をボールねじナット42に伝達するベルト44と、ボールねじナット42をハウジング33に対して回転可能に支持する軸受45とを有している。
【0020】
ラック軸32には、複数のボール43が転動する螺旋溝32bが形成されている。モータ41が回転すると、ラック軸32が軸方向に移動する。モータ41には、回転子に対する固定子の回転位置を示す回転位置センサ411が設けられている。回転位置センサ411の検出結果を示す信号は、転舵制御装置5に送られる。転舵制御装置5は、回転位置センサ411の検出結果により、前輪101,102の転舵角を演算により求めることができる。なお、転舵アクチュエータ4の構成は、これに限らず、例えば複数のギヤの噛み合いによってラック軸32に軸方向の移動力を付与するものであってもよく、コラムシャフト311又はピニオンシャフト315に回転力を付与するものであってもよい。
【0021】
転舵制御装置5は、手動運転時にはトルクセンサ34によって検出された操舵トルクに応じた操舵補助力を転舵アクチュエータ4により発生させる。また、転舵制御装置5は、車両1が運転支援機能によって走行する際には、ADAS制御装置11からの指令を受けて転舵アクチュエータ4を制御し、転舵機構3を動作させる。
【0022】
図1に示すように、転舵制御装置5とADAS制御装置11とは、車両1内における通信バス100に接続されており、通信バス100を介して送受信が可能である。本実施の形態では、通信バス100が、ISO11898で規格化された標準的なネットワークであるCAN(Controller Area Network)によって構成されている。通信バス100に接続された転舵制御装置5やADAS制御装置11等の各ノードは、通信バス100に信号が流れていないときに送信を始めることが可能であり、通信バス100に信号が流れているときには、通信バス100が空くのを待って送信を開始する。
【0023】
通信バス100には、転舵制御装置5及びADAS制御装置11の他に、駆動源制御装置12、変速機制御装置13、及びブレーキ制御装置14などの各種の制御装置が接続されている。駆動源制御装置12は、エンジンや電動モータ等の車両1の走行のための駆動源を制御する。変速機制御装置13は、駆動源の出力回転を変速する変速機を制御する。ブレーキ制御装置14は、車両1を制動するブレーキを制御する。ADAS制御装置11は、車両1が運転支援機能によって走行する際に、これらの制御装置に指令を送る。すなわち、ADAS制御装置11は、転舵制御装置5、駆動源制御装置12、変速機制御装置13、及びブレーキ制御装置14の上位コントローラにあたる。以下、車両1が運転支援機能によって走行する際のADAS制御装置11及び転舵制御装置5の制御内容について説明する。
【0024】
図2は、ADAS制御装置11の一部及び転舵制御装置5の機能構成、及びインバータ装置6の構成例を示すブロック図である。ADAS制御装置11は、自車両(車両1)に搭載された各種の装置やセンサ等から得られる車両情報を取得する車両情報取得部111と、車両情報取得部111が取得した車両情報に基づいて前輪101,102の転舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部112とを有している。この車両情報としては、例えば車載カメラが撮像した画像の画像情報71や、自車両の周辺の地理的情報である地図情報72、自車両の現在位置を示すGPS情報73、及びレーダー装置によって得られた回避対象の自車両に対する位置を示す回避対象位置情報74が挙げられる。なお、ここで回避対象とは、他車両や障害物あるいは歩行者等の、自車両との接触を回避すべき対象である。ADAS制御装置11の車両情報取得部111は、これらの情報を例えば通信バス100を介して取得することができる。
【0025】
転舵制御装置5は、機能構成として、目標舵角取得部51と、差分値演算部52と、短期目標舵角演算部53と、モータ制御部54とを有している。目標舵角取得部51、差分値演算部52、短期目標舵角演算部53、及びモータ制御部54は、例えば転舵制御装置5のCPU(演算処理装置)が半導体メモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現される。
【0026】
目標舵角取得部51は、ADAS制御装置11の目標舵角設定部112が設定した目標舵角を、通信バス100を介したCAN通信によって所定の取得周期で取得する。この取得周期は、例えば20msから50msである。差分値演算部52は、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得したとき、当該取得前の舵角の目標値と、新たに取得した目標舵角である目標舵角の今回値との差である差分値を演算する。短期目標舵角演算部53は、差分値演算部52が演算した差分値を分配し、目標舵角取得部51が目標舵角を取得する取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する。この制御周期は、例えば1.0ms以下である。
【0027】
モータ制御部54は、制御周期ごとに、前輪101,102の実際の転舵角である実舵角が短期目標舵角に近づくようにモータ41を制御する。具体的には、回転位置センサ411によって得られるモータ41の回転位置に対応する転舵角と短期目標舵角とが一致するように、モータ41をフィードバック制御する。モータ制御部54は、インバータ装置6の複数のスイッチング素子61をオン/オフさせるPWM(Pulse Width Modulation)信号をインバータ装置6に出力する。インバータ装置6は、複数のスイッチング素子61が三相ブリッジ接続されており、PWM信号によってこれらのスイッチング素子61のオン/オフ状態を切り替えて車両1のバッテリー107の直流電圧をスイッチングし、モータ41に三相交流電流を供給する。
【0028】
図3は、転舵制御装置5の差分値演算部52、短期目標舵角演算部53、及びモータ制御部54が制御周期ごとに実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。差分値演算部52は、前回の制御周期から今回の制御周期までの間に目標舵角取得部51が目標舵角を取得したか否かを判定し(ステップS1)、目標舵角を取得していれば(ステップS1:Yes)、前回の制御周期における短期目標舵角と新たに取得した目標舵角との差分値を演算する(ステップS2)。この差分値は、転舵制御装置5のメモリに記憶され、次に目標舵角取得部51が目標舵角を取得するまで、短期目標舵角演算部53の処理で用いられる。
【0029】
短期目標舵角演算部53は、ステップS1の判定結果がYesである場合、すなわち差分値演算部52が今回の制御周期で差分値を更新したとき、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得した後の制御周期の回数を示すカウンタ値であるnを初期値である1にセットする(ステップS3)。nは、制御周期ごとにインクリメントされる変数であり、1以上の正の整数である。また、短期目標舵角演算部53は、ステップS1の判定結果がNoである場合、すなわち差分値演算部52が今回の制御周期で差分値を更新していない場合には、nに1を加算する(ステップS4)。
【0030】
次に、短期目標舵角演算部53は、nに応じた係数を差分値に乗算した乗算値と、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得する直前の制御周期における短期目標舵角とに基づいて、今回の制御周期における短期目標舵角を演算する(ステップS5)。より具体的には、目標舵角取得部51が、目標舵角を新たに取得する直前の制御周期における短期目標舵角を基準角とし、差分値演算部52が演算した差分値に対してnに応じた係数を乗じて得られる乗算値に基準角を加算した値を短期目標舵角とする。この係数は、目標舵角取得部51が目標舵角を取得する時間の間隔である取得周期の制御周期に対する倍率をXとしたとき、nをXで除した値(n/X)である。Xは、取得周期の長さを制御周期の長さで除した値であり、例えば取得周期が30msで制御周期が1.0msである場合には、Xの値が30となる。なお、通信バス100のトラフィックやADAS制御装置11における処理の状況などにより、取得周期にばらつきが生じる場合には、Xの値を取得周期の長さの平均値とすることができる。また、車両1の走行モードに応じて取得周期を可変としてもよい。
【0031】
なお、取得周期のばらつきにより、Xの値を設定する際に用いた取得周期の時間よりも早いタイミング又は遅いタイミングで目標舵角取得部51が新たに目標舵角を取得した場合にも、その直前の制御周期における短期目標舵角を基準角として上記の演算を行う。なお、Xの値を設定する際に用いた取得周期の時間よりも遅いタイミングで目標舵角取得部51が新たに目標舵角を取得することがないよう、Xの値を取得周期の長さの最大値としてもよい。
【0032】
目標舵角及び短期目標舵角は、転舵制御装置5の処理において例えば12ビットのデジタル値として扱われる。この場合、最下位ビット(LSB;Least Significant Bit)から最上位ビット(MSB;Most Significant Bit)までの12ビットが全て“1”で表される二進数(符号なし)で表現される数(十進数)が4095であるので、目標舵角及び短期目標舵角の分解能は、1/4096となる。このため、この分解能よりも小さい値、すなわち二進数表現で“0000 0000 0001”で表される値よりも小さな値は、桁落ちによって0(ゼロ)として扱われる。
【0033】
ステップS5の処理では、この桁落ちを防いで演算を適切に行うため、例えば差分値にnを乗じた後に、その積をXで割り算することが望ましい。また、差分値にnを乗じた際に最上位ビットに桁上がりが発生し得るので、ステップS5の演算処理では、一時的に短期目標舵角をより多くのビット数の数値(例えば16ビット変数)として扱うことが望ましい。なお、ステップS5の演算を浮動小数点演算によって行うことも可能であるが、浮動小数点演算を行うとCPUの演算負荷が大きくなるため、好ましくない。
【0034】
モータ制御部54は、回転位置センサ411によって得られるモータ41の回転位置が短期目標舵角演算部53によって演算された短期目標舵角に対応する位置に近づくようにPWM信号のデューティー比を調整し、インバータ装置6に出力する(ステップS6)。
【0035】
図4は、上記の演算方法により短期目標舵角を演算した場合の目標舵角及び短期目標舵角の変化の一例を示すグラフである。図4のグラフでは、横軸を時間軸とし、縦軸に目標舵角及び短期目標舵角を表している。また、図4のグラフでは、目標舵角を太線で示し、短期目標舵角を細線で示すと共に、目標舵角取得部51が目標舵角を取得する取得周期をPで示し、制御周期をPで示している。図4に示すUは、短期目標舵角を示すデジタル値の最下位ビットで表される値の大きさであり、D~Dは、目標舵角の変化量である。
【0036】
本実施の形態では、図4に示すように、短期目標舵角が最下位ビットで表される値の単位で、徐々に目標舵角の前回値から今回値に近づくように変化する。短期目標舵角が変化する時間の間隔は、目標舵角取得部51が取得した目標舵角とその前回の制御周期における短期目標舵角(上記の基準角)との差である差分値が小さいほど長くなる。なお、目標舵角の前回値と今回値の差が大きい場合には、一回の制御周期で短期目標舵角が最下位ビットで表される値の整数倍分だけ変化することがあり得る。
【0037】
図5は、比較例として、目標舵角取得部51が取得した目標舵角とその直前の制御周期における短期目標舵角との差である差分値をX(取得周期の長さを制御周期の長さで除した値)で除した商を制御周期ごとの短期目標舵角の変化量として記憶し、制御周期ごとに前回の制御周期の短期目標舵角にこの変化量を順次加算した場合の目標舵角及び短期目標舵角の変化の一例を示すグラフである。
【0038】
このような演算方法では、差分値をXで割り算した際に最下位ビットに桁落ちが生じると、制御周期ごとの短期目標舵角の変化量が0となり、次に目標舵角取得部51が目標舵角を取得するまで短期目標舵角が変化せず、目標舵角取得部51が新たに目標舵角を取得したときに短期目標舵角が大きく変化する。このため、目標舵角取得部51が新たに目標舵角を取得したときに、モータ41に供給される電流が大きく変化し、転舵アクチュエータ4の作動音や振動が大きくなってしまう。
【0039】
これに対し、本実施の形態では、図4に示すように短期目標舵角が滑らかに変化するので、前輪101,102の転舵角を円滑に変化させることができる。すなわち、本実施の形態によれば、制御周期ごとの舵角の目標値を適切に設定することでモータ41を円滑に回転させることができ、転舵アクチュエータ4で発生する作動音や振動が抑えられる。
【0040】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図6を参照して説明する。第2の実施の形態では、転舵制御装置5Aの機能構成が第1の実施の形態と異なっている。
【0041】
図6は、第2の実施の形態に係る転舵制御装置5Aの機能構成を示している。転舵制御装置5Aは、短期目標舵角演算部53が変化率補正部531及び目標舵角制限部532を有している。第2の実施の形態の短期目標舵角演算部53は、第1の実施の形態における短期目標舵角演算部53の処理に加え、変化率補正部531及び目標舵角制限部532の処理を実行する。目標舵角取得部51、差分値演算部52、短期目標舵角演算部53、及びモータ制御部54の処理は、第1の実施の形態と同様である。
【0042】
変化率補正部531は、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得した後のn回目の制御周期における短期目標舵角が、その直前の制御周期における短期目標舵角に対し、車速に応じて設定される変化率閾値よりも大きい変化率で変化する場合に、この変化率の大きさが変化率閾値以下となるようにn回目の制御周期における短期目標舵角を補正する。この補正は、何らかの原因により短期目標舵角が車速に応じた適切な範囲を超えて大きく変動した場合に、舵角の急変によって車両1の走行状態は不安定とならないようにするものであり、車速が高いほど変化率閾値が小さく設定される。
【0043】
変化率補正部531は、例えば通信バス100を介して車速の情報を取得し、取得した車速の情報に基づいて変化率閾値を設定する。また、ADAS制御装置11が変化率閾値を設定し、通信バス100を介して変化率補正部531がその変化率閾値の情報を取得してもよい。
【0044】
目標舵角制限部532は、短期目標舵角演算部53が演算した短期目標舵角の大きさが車両1の走行モードに応じて設定される舵角の最大値よりも大きい場合に、短期目標舵角の大きさがこの最大値以下となるように短期目標舵角を補正する。この補正は、何らかの原因により短期目標舵角が車両1の走行モードに応じた適切な範囲を超えた場合に、舵角の急変によって車両1の走行状態は不安定とならないようにするものである。
【0045】
車両1の走行モードとしては、例えば自車両を目的の駐車スペースに駐車させる自動駐車モードや、高速道路等を先行車に追従して走行する追従走行モードが挙げられる。自動駐車モードでは、前輪101,102を大きく転舵させる必要があるので、舵角の最大値が大きく設定される。また、追従走行モードでは、車線変更を行える程度の比較的小さな舵角で走行が可能であるので、舵角の最大値が小さく設定される。
【0046】
短期目標舵角演算部53は、変化率補正部531又は目標舵角制限部532の処理を実行した場合、その処理後の短期目標舵角をモータ制御部54に出力する。また、差分値演算部52は、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得したときの直前の制御周期で変化率補正部531又は目標舵角制限部532が短期目標舵角の補正を行っていた場合に、当該補正後の短期目標舵角と新たに取得した目標舵角との差を差分値とする。これにより、変化率補正部531又は目標舵角制限部532が短期目標舵角を補正した場合にも、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得した後の各制御周期において、新たな目標舵角に向かって短期目標舵角を徐々に近づけることができる。
【0047】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図7及び図8を参照して説明する。第3の実施の形態では、ステアバイワイヤ式のステアリング装置8が車両1Aに搭載された場合について説明する。
【0048】
図7は、第3の実施の形態に係る車両1Aの概略の構成例を示す構成図である。図7において、第1の実施の形態で説明したものと共通する部材等については、図1に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0049】
ステアリング装置8は、運転者により操作されるステアリングホイール80と転舵機構3との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式のものであり、第1の実施の形態と同様の転舵機構3、転舵アクチュエータ4、及びインバータ装置6を備えている。
【0050】
また、ステアリング装置8は、ステアリングホイール80に連結されたステアリングシャフト81と、ラック軸32のラック歯部32aに噛み合うピニオン歯部82aを有するピニオンシャフト82と、ステアリングシャフト81とピニオンシャフト82とを相対回転不能に連結可能な電磁クラッチ83と、ステアリングホイール80に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサ84と、ステアリングシャフト81の回転角である操舵角を検出する操舵角センサ85と、反力モータ86及び減速機87によってステアリングシャフト81に操舵反力を付与する反力アクチュエータ88と、反力モータ86に駆動電流を供給するインバータ装置89と、転舵アクチュエータ4及び反力アクチュエータ88を制御する制御装置9とを備えている。
【0051】
減速機87は、反力モータ86の出力軸861に固定されたウォーム871と、ステアリングシャフト81に取り付けられたウォームホイール872とを有するウォームギヤ機構である。ステアリングシャフト81は、その一部がトーションバー811によって構成されており、トルクセンサ84が操舵トルクをトーションバー811の捩じれ量によって検出する。
【0052】
制御装置9には、トルクセンサ84及び操舵角センサ85の検出結果を示す信号が入力される。制御装置9は、インバータ装置89にPWM信号を出力することにより反力アクチュエータ88の反力モータ86を制御する。反力モータ86のトルクは、減速機87によって増幅されてステアリングシャフト81に伝達される。また、制御装置9は、反力アクチュエータ88や転舵アクチュエータ4に異常が発生した際に、電磁クラッチ83によってステアリングシャフト81とピニオンシャフト82とを相対回転不能に連結させる。
【0053】
図8は、制御装置9の機能構成を示すブロック図である。制御装置9は、トルクセンサ84による操舵トルクの検出結果、及び操舵角センサ85による操舵角の検出結果が入力される統括制御部90と、反力モータ86を制御する反力モータ制御部91と、転舵アクチュエータ4を制御する転舵制御部92とを有している。
【0054】
統括制御部90は、目標反力トルク設定部901及び目標舵角設定部902を有している。目標反力トルク設定部901は、車両情報に基づいて反力モータ86が発生する反力トルクの目標値である目標反力トルクを設定する。目標舵角設定部902は、車両情報に基づいて前輪101,102の転舵角の目標値である目標舵角を設定する目標舵角設定部902を有している。これらの車両情報には、トルクセンサ84及び操舵角センサ85によって検出される操舵トルク及び操舵角や車速の情報等が含まれる。車速の情報は、例えばCAN通信によって取得することができる。目標舵角設定部902は、車速が低くなるほど、操舵角センサ85によって検出される操作角に対する前輪101,102の転舵角の比であるステアリングギヤ比を小さくする。
【0055】
反力モータ制御部91は、目標反力トルク設定部901によって設定された目標反力トルクに応じたトルクが反力モータ86に発生するようにインバータ装置89にPWM信号を出力し、反力モータ86を制御する。
【0056】
転舵制御部92は、目標舵角取得部921、差分値演算部922、短期目標舵角演算部923、及びモータ制御部924を有している。目標舵角取得部921、差分値演算部922、短期目標舵角演算部923、及びモータ制御部924は、第1の実施の形態に係る転舵制御装置の目標舵角取得部51、差分値演算部52、短期目標舵角演算部53、及びモータ制御部54と同様に機能する。すなわち、目標舵角取得部921は、目標舵角設定部902が設定した目標舵角を所定の取得周期で取得する。差分値演算部922は、目標舵角取得部921が目標舵角を新たに取得したとき、その前回の制御周期における短期目標舵角と新たに取得した目標舵角との差である差分値を演算する。短期目標舵角演算部923は、差分値演算部922が演算した差分値を分配し、目標舵角取得部921が目標舵角を取得する取得周期よりも短い制御周期ごとの舵角の目標値である短期目標舵角を演算する。モータ制御部924は、制御周期ごとに、前輪101,102の実際の転舵角である実舵角が短期目標舵角に近づくようにモータ41を制御する。
【0057】
短期目標舵角演算部923は、目標舵角取得部921が目標舵角を新たに取得した後の制御周期の回数に応じた係数を差分値に乗算した乗算値と、目標舵角取得部921が新たに目標舵角を取得する直前の制御周期における短期目標舵角とに基づいて短期目標舵角を演算する。また、短期目標舵角演算部923は、目標舵角を新たに取得したときにカウンタ値を初期値にすると共に、目標舵角を新たに取得した後の制御周期の回数ごとにカウンタ値を加算し、取得周期の制御周期に対する倍率でカウンタ値を除した値を係数として乗算値を求め、この乗算値を、目標舵角取得部921が目標舵角を新たに取得する直前の制御周期における短期目標舵角に加算して短期目標舵角を演算する。なお、転舵制御部92が、第1の実施の形態で説明した変化率補正部531及び目標舵角制限部532に相当する機能構成を有していてもよい。
【0058】
この第3の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様、短期目標舵角が滑らかに変化するので、モータ41を円滑に回転させることができ、転舵アクチュエータ4で発生する作動音や振動が抑えられる。
【0059】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0060】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の第1の実施の形態では、目標舵角取得部51が目標舵角を新たに取得する直前の制御周期における短期目標舵角を基準角とし、差分値に対してnに応じた係数を乗じて得られる乗算値に基準角を加算した値を短期目標舵角とする場合について説明したが、定期的に(例えば30msごとに)目標舵角取得部51が目標舵角を取得できる場合には、目標舵角取得部51が取得する目標舵角の前回値と今回値との差によって差分値を求めてもよい。つまり、特許請求の範囲における「取得前の舵角の目標値」とは、目標舵角を新たに取得する直前の制御周期における短期目標舵角に限らず、目標舵角の前回値も含む趣旨である。
【符号の説明】
【0061】
1,1A…車両 101,102…前輪(操向輪)
11…ADAS制御装置 111…車両情報取得部
112…目標舵角設定部 2…転舵装置
20…ステアリングホイール 3…転舵機構
32…ラック軸 4…転舵アクチュエータ
41…モータ 5,5A…転舵制御装置
51…目標舵角取得部 52…差分値演算部
53…短期目標舵角演算部 531…変化率補正部
532…目標舵角制限部 54…モータ制御部
8…ステアリング装置 80…ステアリングホイール
81…ステアリングシャフト 88…反力アクチュエータ
9…制御装置 902…目標舵角設定部
91…反力モータ制御部 92…転舵制御部
921…目標舵角取得部 922…差分値演算部
923…短期目標舵角演算部 924…モータ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8