特開 2025-14508 天井付けエアバッグ装置及び乗員拘束装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2025014508

(43)【公開日】2025-01-30

(54)【発明の名称】天井付けエアバッグ装置及び乗員拘束装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 21/214 20110101AFI20250123BHJP

   B60R 21/2338 20110101ALI20250123BHJP

【ＦＩ】

B60R21/214

B60R21/2338

【審査請求】未請求

【請求項の数】9

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023117120

(22)【出願日】2023-07-18

(71)【出願人】

【識別番号】000003207

【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110001519

【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】岩間 俊樹

【テーマコード（参考）】

3D054

【Ｆターム（参考）】

3D054AA07

3D054AA20

3D054CC04

3D054CC06

3D054CC11

3D054EE19

(57)【要約】

【課題】車両用シートの前後位置に関係なく、乗員を効果的に拘束できる天井付けエアバッグ装置と、それを備えた乗員拘束装置を得る。
【解決手段】車室の天井の上方側に搭載され、車両の前面衝突時にインフレータ２８からガスが供給されることにより、天井を開裂して車両用シート１２に着座している乗員Ｐの前方側に膨張展開する第１チャンバ３４と、第１チャンバ３４からガスが供給されることにより、乗員Ｐへ向けて膨張展開する第２チャンバ３６と、を有するエアバッグ３２と、第１チャンバ３４と天井の上方側に設けられた支持部２２とを連結するとともに、第１チャンバ３４の膨張展開に伴って天井を開裂して展開し、慣性力によって前方側へ移動しようとする乗員Ｐを第２チャンバ３６で拘束したときに、第１チャンバ３４を後方側で、かつ上方側へ相対的に引っ張る引張部材３８と、を備えた天井付けエアバッグ装置３０と、それを備えた乗員拘束装置１０とする。
【選択図】図３

【特許請求の範囲】

【請求項1】

車室の天井の車両上方側に搭載され、車両の前面衝突時に、インフレータからガスが供給されることにより、前記天井を開裂して車両用シートに着座している乗員の車両前方側に膨張展開する第１チャンバと、前記第１チャンバから前記ガスが供給されることにより、前記乗員へ向けて膨張展開する第２チャンバと、を有するエアバッグと、
前記第１チャンバと前記天井の車両上方側に設けられた支持部とを連結するとともに、前記第１チャンバの膨張展開に伴って前記天井を開裂して展開し、慣性力によって車両前方側へ移動しようとする前記乗員を前記第２チャンバで拘束したときに、前記第１チャンバを車両後方側で、かつ車両上方側へ相対的に引っ張る引張部材と、
を備えた天井付けエアバッグ装置。

【請求項2】

前記引張部材は、側面視で、膨張展開された前記第２チャンバの少なくとも上半分を覆う面テザーで構成されている請求項１に記載の天井付けエアバッグ装置。

【請求項3】

前記第２チャンバは、前記第１チャンバの車両上下方向中央部よも車両下方側に設けられ、前記乗員の少なくとも頭部及び胸部を拘束可能な構成とされている請求項１に記載の天井付けエアバッグ装置。

【請求項4】

前記第２チャンバの内部には、該第２チャンバの車両前後方向に沿った長さを規制する規制テザーが設けられており、
前記規制テザーは、前記車両用シートが所定位置以上車両後方側に位置しているときに、その規制が解除される構成とされている請求項１に記載の天井付けエアバッグ装置。

【請求項5】

前記規制テザーは、切れることで、その規制が解除される構成とされている請求項４に記載の天井付けエアバッグ装置。

【請求項6】

前記インフレータは、前記車両用シートの前後位置の検知結果を基に、その出力が変更可能に構成されており、
前記規制テザーは、前記インフレータの出力増加によって切れるように構成されている請求項５に記載の天井付けエアバッグ装置。

【請求項7】

請求項１～請求項６の何れか１項に記載の天井付けエアバッグ装置が、車両用シート毎に設けられている乗員拘束装置。

【請求項8】

請求項１～請求項６の何れか１項に記載の天井付けエアバッグ装置が、左右に隣接する車両用シート毎に設けられている乗員拘束装置。

【請求項9】

前記第１チャンバが、左右に隣接する車両用シートに対して単一で設けられ、
前記第２チャンバが、左右に隣接する車両用シートのそれぞれに対して設けられている請求項８に記載の乗員拘束装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、天井付けエアバッグ装置及び乗員拘束装置に関する。

【背景技術】

【0002】

車両の前面衝突時に車両の天井から下方に向かって展開して乗員の前側に配置される単一のチャンバで形成されたエアバッグと、エアバッグの下端部とエアバッグの収納部よりも後側の天井とを連結するテザーと、を有する乗員保護装置は、従来から知られている（例えば、特許文献１参照）。

【0003】

また、車両のルーフ側に収納され、車両の前面衝突時に下方に向かって展開して乗員の頭部を受け止める単一のチャンバで形成されたエアバッグと、エアバッグの下端両側面とエアバッグの収納部よりも後側のルーフとを連結する連結部材と、を備えた乗員保護装置も、従来から知られている（例えば、特許文献２参照）。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0004】

【特許文献1】特開２０１８－１６１９６５号公報

【特許文献2】特開２０２１－０５４１００号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

しかしながら、天井から下方に向かって展開して乗員の前側に配置されるエアバッグと乗員（頭部を含む上半身）との前後方向における相対的な位置関係は、車両用シートの前後位置によって変化する。したがって、車両用シートの前後位置によっては、そのエアバッグで充分な乗員拘束性能が得られない（効果的に拘束されない）おそれがある。

【0006】

そこで、本発明は、車両用シートの前後位置に関係なく、乗員を効果的に拘束できる天井付けエアバッグ装置と、それを備えた乗員拘束装置を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0007】

上記の目的を達成するために、本発明に係る第１の態様の天井付けエアバッグ装置は、車室の天井の車両上方側に搭載され、車両の前面衝突時に、インフレータからガスが供給されることにより、前記天井を開裂して車両用シートに着座している乗員の車両前方側に膨張展開する第１チャンバと、前記第１チャンバから前記ガスが供給されることにより、前記乗員へ向けて膨張展開する第２チャンバと、を有するエアバッグと、前記第１チャンバと前記天井の車両上方側に設けられた支持部とを連結するとともに、前記第１チャンバの膨張展開に伴って前記天井を開裂して展開し、慣性力によって車両前方側へ移動しようとする前記乗員を前記第２チャンバで拘束したときに、前記第１チャンバを車両後方側で、かつ車両上方側へ相対的に引っ張る引張部材と、を備えている。

【0008】

第１の態様の発明によれば、車両の前面衝突時に、インフレータからガスが供給されることにより、エアバッグの第１チャンバが、車室の天井を開裂して車両用シートに着座している乗員の車両前方側に膨張展開し、更に、その第１チャンバからガスが供給されることにより、エアバッグの第２チャンバが、その第１チャンバから乗員へ向けて膨張展開する。そして、第１チャンバの膨張展開に伴い、第１チャンバと天井の車両上方側に設けられた支持部とを連結する引張部材が天井を開裂して展開し、慣性力によって車両前方側へ移動しようとする乗員を第２チャンバで拘束したときに、第１チャンバを車両後方側で、かつ車両上方側へ相対的に引っ張る。

【0009】

したがって、慣性力によって車両前方側へ移動した乗員からの荷重が、引張部材によって第１チャンバを介して車両後方側で、かつ車両上方側へ相対的に引っ張られた第２チャンバによって効果的に受け止められる。つまり、乗員拘束時に、第２チャンバが車両前方側へ乗員によって押圧されても、引張部材によって引っ張られた第１チャンバで反力が得られるため、その第２チャンバの圧縮変形により乗員が効果的に拘束される。そのため、単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグに比べて、車両用シートの前後位置の変化を吸収し易く、乗員拘束性能（乗員保護性能）が得られる領域が拡大される。このように、本発明によれば、車両用シートの前後位置に関係なく、乗員が効果的に拘束される。なお、ここで言う「前面衝突時」には、前面衝突の不可避を予測（予知）したときも含まれる。

【0010】

また、本発明に係る第２の態様の天井付けエアバッグ装置は、第１の態様の天井付けエアバッグ装置であって、前記引張部材は、側面視で、膨張展開された前記第２チャンバの少なくとも上半分を覆う面テザーで構成されている。

【0011】

第２の態様の発明によれば、引張部材が、側面視で、膨張展開された第２チャンバの少なくとも上半分を覆う面テザーで構成されている。したがって、引張部材が、側面視で、膨張展開された第２チャンバの下端部しか覆わない左右一対の帯テザーで構成されている場合に比べて、例えば乗員の首部が帯テザーに引っ掛かるような不具合の発生が防止される。

【0012】

また、本発明に係る第３の態様の天井付けエアバッグ装置は、第１又は第２の態様の天井付けエアバッグ装置であって、前記第２チャンバは、前記第１チャンバの車両上下方向中央部よも車両下方側に設けられ、前記乗員の少なくとも頭部及び胸部を拘束可能な構成とされている。

【0013】

第３の態様の発明によれば、第２チャンバが、第１チャンバの車両上下方向中央部よも車両下方側に設けられ、乗員の少なくとも頭部及び胸部を拘束可能な構成とされている。したがって、少なくとも天井から乗員の胸部までを覆う単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグに比べて、エアバッグ（第１チャンバ及び第２チャンバ）の容量増加が抑制される。つまり、インフレータの出力増加が抑制され、その分、製造コストが低減される。また、乗員の少なくとも頭部及び胸部を第２チャンバの圧縮変形で拘束するため、乗員の首後屈が大きくなるおそれがない。

【0014】

また、本発明に係る第４の態様の天井付けエアバッグ装置は、第１～第３の何れか１つの態様の天井付けエアバッグ装置であって、前記第２チャンバの内部には、該第２チャンバの車両前後方向に沿った長さを規制する規制テザーが設けられており、前記規制テザーは、前記車両用シートが所定位置以上車両後方側に位置しているときに、その規制が解除される構成とされている。

【0015】

第４の態様の発明によれば、第２チャンバの車両前後方向に沿った長さ（厚み）を規制するために、その第２チャンバの内部に設けられた規制テザーは、車両用シートが所定位置以上車両後方側に位置しているときに、その規制が解除される構成とされている。したがって、車両用シートが所定位置よりも車両前方側に位置しているときには、規制テザーによって厚みが規制された第２チャンバによって乗員が拘束される。そして、車両用シートが所定位置以上車両後方側に位置しているときには、規制が解除されて車両後方側へ拡張された第２チャンバによって乗員が拘束される。つまり、車両用シートが所定位置以上車両後方側に位置している場合でも、単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグに比べて、乗員が効果的かつ適切に拘束される。

【0016】

また、本発明に係る第５の態様の天井付けエアバッグ装置は、第４の態様の天井付けエアバッグ装置であって、前記規制テザーは、切れることで、その規制が解除される構成とされている。

【0017】

第５の態様の発明によれば、規制テザーは、切れることで、その規制が解除される構成とされている。したがって、例えば規制テザーの一端部を離脱させることで、その規制を解除する構成に比べて、規制テザーの構造がシンプルで済む。

【0018】

また、本発明に係る第６の態様の天井付けエアバッグ装置は、第５の態様の天井付けエアバッグ装置であって、前記インフレータは、前記車両用シートの前後位置の検知結果を基に、その出力が変更可能に構成されており、前記規制テザーは、前記インフレータの出力増加によって切れるように構成されている。

【0019】

第６の態様の発明によれば、車両用シートの前後位置の検知結果を基に、その出力が変更可能に構成されたインフレータの出力増加によって、規制テザーが切れるように構成されている。したがって、例えば規制テザーを切るための機構が別途設けられている場合に比べて、その構成がシンプルで済む。

【0020】

また、本発明に係る第７の態様の乗員拘束装置は、第１～第６の何れか１つの態様の天井付けエアバッグ装置が、車両用シート毎に設けられている。

【0021】

第７の態様の発明によれば、車両用シート毎に第１～第６の何れか１つの態様の天井付けエアバッグ装置が設けられているため、各車両用シートの前後位置に応じて、乗員が効果的かつ適切に拘束される。

【0022】

また、本発明に係る第８の態様の乗員拘束装置は、第１～第６の何れか１つの態様の天井付けエアバッグ装置が、左右に隣接する車両用シート毎に設けられている。

【0023】

第８の態様の発明によれば、左右に隣接する車両用シート毎に第１～第６の何れか１つの態様の天井付けエアバッグ装置が設けられているため、部品点数の削減が図れ、製造コストの低減が図れる。

【0024】

また、本発明に係る第９の態様の乗員拘束装置は、第８の態様の乗員拘束装置であって、前記第１チャンバが、左右に隣接する車両用シートに対して単一で設けられ、前記第２チャンバが、左右に隣接する車両用シートのそれぞれに対して設けられている。

【0025】

第９の態様の発明によれば、左右に隣接する車両用シートに対して第１チャンバが単一で設けられ、左右に隣接する車両用シートのそれぞれに対して第２チャンバが設けられている。したがって、部品点数の削減（製造コストの低減）が図れるとともに、各車両用シートの前後位置に応じて、乗員が効果的かつ適切に拘束される。

【発明の効果】

【0026】

以上のように、本発明によれば、車両用シートの前後位置に関係なく、乗員を効果的に拘束することができる。

【図面の簡単な説明】

【0027】

【図1】第１実施形態に係る天井付けエアバッグ装置が車室の天井の上方側に搭載されている状態を示す概略側面図である。

【図2】第１実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開初期の状態を示す概略側面図である。

【図3】第１実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開後期の状態を示す概略側面図である。

【図4】（Ａ）～（Ｃ）第１実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開過程を示す概略平面図である。

【図5】第２実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開初期の状態を示す概略側面図である。

【図6】車両用シートが所定位置よりも前方側に位置しているときの第２実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開後期の状態を示す概略側面図である。

【図7】車両用シートが所定位置以上後方側に位置しているときの第２実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開後期の状態を示す概略側面図である。

【図8】（Ａ）～（Ｃ）左右に隣接する車両用シート毎に設けられた第３実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける膨張展開過程を示す概略平面図である。

【図9】（Ａ）～（Ｃ）左右に隣接する車両用シート毎に設けられた第３実施形態に係る天井付けエアバッグ装置のエアバッグにおける第２チャンバが各車両用シートに対して設けられている場合の膨張展開過程を示す概略平面図である。

【発明を実施するための形態】

【0028】

以下、本発明に係る実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。なお、説明の便宜上、各図において適宜示す矢印ＵＰを車両及び車両用シートの上方向、矢印ＦＲを車両及び車両用シートの前方向、矢印ＲＨを車両及び車両用シートの右方向とする。したがって、以下の説明で、特記することなく上下、前後、左右の方向を記載した場合は、車両及び車両用シートにおける上下、前後、左右を示すものとする。また、左右方向は、車幅方向及びシート幅方向と同義である。

【0029】

＜第１実施形態＞
まず、第１実施形態について説明する。図１～図４に示されるように、乗員拘束装置１０は、車両用シート１２と、車両用シート１２毎に設けられた天井付けエアバッグ装置３０（以下、単に「エアバッグ装置３０」という場合がある）と、によって構成されている。

【0030】

車両用シート１２は、自動運転車両等のシート前方側を前後方向に広く採れる車両のフロントシート又はリヤシートである。この車両用シート１２は、乗員が着座する（乗員の臀部及び大腿部を支持する）シートクッション１４と、シートクッション１４の後方側にシート幅方向を軸方向として回動可能に設けられ、乗員の背部を支持するシートバック１６と、シートバック１６の上端部に昇降可能に設けられ、乗員の頭部を支持するヘッドレスト１８と、を有している。

【0031】

なお、各図において、保護すべき乗員（着座者）のモデルとして、衝突試験用のダミー人形（人体ダミー）が、車両用シート１２のシートクッション１４に着座した状態が示されている。ダミー人形は、例えば前面衝突試験用ダミー（Ｈｙｂｒｉｄ ＩＩＩ）のＡＭ５０（米国人成人男性の５０パーセンタイル）である。ダミー人形は、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢で着座しており、車両用シート１２は、着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。以下、ダミー人形を「乗員Ｐ」と称する。

【0032】

また、車両用シート１２のシートクッション１４に着座した乗員Ｐは、シートベルト装置（図示省略）が備えるシートベルトによって車両用シート１２に拘束されるようになっている。なお、シートベルト装置は、３点式のシートベルト装置である。

【0033】

車両用シート１２の前方側における車室の天井（ルーフヘッドライニング）２０の上方側には、エアバッグ装置３０が搭載されている。エアバッグ装置３０は、エアバッグ３２と、インフレータ２８と、モジュールケース２６と、を備えている。エアバッグ３２は、通常時には折り畳まれた状態でインフレータ２８と共にモジュールケース２６内に収納されている。モジュールケース２６は、中空の略直方体形状に形成されており、車室の天井２０の上方側に設置されている。なお、モジュールケース２６は、図示しないルーフパネルの下方側（ルーフヘッドライニングとルーフパネルとの間）に設置されていてもよい。

【0034】

車両には、インフレータ２８の作動を制御する制御装置（ＥＣＵ）が備えられている。制御装置は、インフレータ２８及び図示しない衝突センサ（カメラ等も含む）と電気的に接続されており、車両の前面衝突を検出又は前面衝突の不可避を予測（予知）可能に構成されている。そして、制御装置は、衝突センサからの情報に基づいて、車両の前面衝突を検出又は予測（以下「前面衝突時」という）すると、インフレータ２８を作動させるようになっている。

【0035】

インフレータ２８は、例えば燃焼式又はコールドガス式の略円柱状シリンダ型インフレータであり、その軸線方向が前後方向に沿う姿勢で配置されている。そして、このインフレータ２８は、車両の前面衝突時に、制御装置によって作動されることで、ガスを発生させるようになっている。なお、制御装置がインフレータ２８を作動させる車両の前面衝突の形態には、フルラップ前面衝突の他、斜め衝突や微小ラップ衝突等のオフセット前面衝突も含まれる。

【0036】

エアバッグ３２は、インフレータ２８からガスが供給されることによる膨張圧で、天井２０を開裂して車両用シート１２に着座している乗員Ｐの前方側へ膨張展開（展開及び膨張）するようになっている。なお、天井２０には、開裂用の破断部としてのティアライン（図示省略）が形成されており、エアバッグ３２は、そのティアラインを破断して膨張展開するようになっている。また、そのティアラインから破断されて捲れる部分がエアバッグドア（図示省略）となっている。

【0037】

エアバッグ３２は、第１チャンバ３４と、第２チャンバ３６と、を有している。エアバッグ３２は、まず第１チャンバ３４へインフレータ２８からガスが供給されることにより、その第１チャンバ３４が天井２０に形成されているティアラインを開裂して下方側へ向かって膨張展開し、車両用シート１２に着座している乗員Ｐから所定長さ以上離れた前方側に配置されるようになっている。なお、膨張展開後の第１チャンバ３４は、膨張展開後の第２チャンバ３６よりも前後方向の長さが短い（厚みが薄い）構成になっている。

【0038】

第２チャンバ３６は、第１チャンバ３４の後壁３４Ｂの上下方向中央部よも下方側に、連通孔３５を介して設けられており、第１チャンバ３４から連通孔３５を通ってガスが供給されるようになっている。つまり、第２チャンバ３６は、第１チャンバ３４に対して所定のタイミングだけ遅れて乗員Ｐ（後方側）へ向けて膨張展開するように構成されている。そして、膨張展開後の第２チャンバ３６は、乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部の前方側に配置されるようになっている。

【0039】

なお、連通孔３５は、第２チャンバ３６の上下方向略中央部で、かつ左右方向略中央部に設けられている。また、膨張展開後の第２チャンバ３６は、車両の前面衝突時に、慣性力によって前方側へ移動しようとする乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を（乗員Ｐの頭部だけではなく胸部も）拘束可能な大きさ（高さ、幅、厚み）に形成されており、その乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部に押圧されることにより圧縮変形可能になっている（図３参照）。

【0040】

また、第１チャンバ３４及び第２チャンバ３６は、それぞれ２枚の基布が重ね合わされるとともに、その周縁部が縫製されることによって袋状に形成されている。基布は、例えばポリアミド系又はポリエステル系の布材によって構成されている。そして、例えば円形状に形成された連通孔３５の周囲が互いに縫製されることによって、第１チャンバ３４の後壁３４Ｂに第２チャンバ３６の前壁３６Ｆが取り付けられている。

【0041】

また、天井２０の上方側には、第１チャンバ３４の膨張展開に伴い、天井２０に形成されたティアライン（図示省略）を開裂して下方側へ向かって展開し、膨張展開後の第１チャンバ３４と、モジュールケース２６よりも所定長さ以上後方側における天井２０の上方側に左右一対で設けられた支持部２２と、を連結する引張部材としての面テザー３８が設けられている。

【0042】

面テザー３８は、慣性力によって前方側へ移動しようとする乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を第２チャンバ３６で拘束したときに、第１チャンバ３４を斜め後方上側（後方側で、かつ上方側）へ相対的に引っ張るように構成されている。つまり、面テザー３８で引っ張られた第１チャンバ３４によって、第２チャンバ３６が前方側から反力を得られる構成になっている。

【0043】

なお、展開後の面テザー３８は、膨張展開された第２チャンバ３６で乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を拘束したときに、車幅方向から見た側面視で、少なくとも乗員Ｐの頭部及び首部の左右両側方を覆うことができる程度の大きさに形成されている。換言すれば、この面テザー３８は、側面視で、膨張展開された第２チャンバ３６の少なくとも上半分を覆う大きさに形成されており、その上辺縁部３８Ｕが、膨張展開された第２チャンバ３６の上端面３６Ｕよりも上方側に位置するようになっている（図３参照）。

【0044】

また、この面テザー３８は、第１チャンバ３４の前壁３４Ｆ全体をほぼ覆う大きさに形成されており、第１チャンバ３４の前壁３４Ｆを覆うように重ねられている領域の周囲が、その第１チャンバ３４に縫製されることで、その第１チャンバ３４（エアバッグ３２）に取り付けられている。

【0045】

そして、この面テザー３８は、第１チャンバ３４を斜め後方上側へ効率よく相対的に引っ張り易くするため、側面視で、その前端上部が直角を成す略直角三角形状に形成されている。つまり、この面テザー３８は、例えばポリアミド系又はポリエステル系の１枚の布材によって、正面視で略鈍角二等辺三角形状に形成されている。

【0046】

以上のような構成とされた第１実施形態に係る天井付けエアバッグ装置３０及び乗員拘束装置１０において、次にその作用について説明する。

【0047】

車両の前面衝突時には、制御装置の制御によりインフレータ２８が作動し、インフレータ２８からガスが噴出される。インフレータ２８から噴出されたガスは、エアバッグ３２の第１チャンバ３４に供給される。すると、車室の天井２０に形成されているティアラインが第１チャンバ３４の膨張圧を受けて開裂し、そのエアバッグ３２の第１チャンバ３４が下方側へ向けて膨張展開する。

【0048】

すなわち、第１チャンバ３４が、車両用シート１２に着座している乗員Ｐから所定長さ以上離れた前方側に膨張展開する。そして、その第１チャンバ３４から連通孔３５を介してガスが供給されることにより、第２チャンバ３６が、その第１チャンバ３４から所定のタイミングだけ遅れて乗員Ｐ（後方側）へ向けて膨張展開する。

【0049】

また、第１チャンバ３４の膨張展開に伴い、膨張展開後の第１チャンバ３４と天井２０の上方側に設けられた左右一対の支持部２２とを連結する面テザー３８が、天井２０に形成されているティアラインを開裂して展開する。そして、この面テザー３８は、慣性力によって前方側へ移動しようとする乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を第２チャンバ３６で拘束したときに、第１チャンバ３４を斜め後方上側（後方側で、かつ上方側）へ相対的に引っ張る。つまり、この面テザー３８は、第１チャンバ３４と共に第２チャンバ３６に対する反力面を形成する。

【0050】

したがって、慣性力によって前方側へ移動した乗員Ｐからの荷重を、面テザー３８で第１チャンバ３４を介して斜め後方上側へ相対的に引っ張られた第２チャンバ３６によって効果的に受け止めることができる。つまり、乗員拘束時に、第２チャンバ３６が前方側へ乗員Ｐによって押圧されても、面テザー３８によって引っ張られた第１チャンバ３４で反力が得られるため、その第２チャンバ３６が圧縮変形して乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を拘束することができる。

【0051】

そのため、単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグ（図示省略）に比べて、車両用シート１２の前後位置の変化を吸収し易く、乗員拘束性能（乗員保護性能）が得られる領域を拡大させることができる。このように、第１実施形態によれば、車両用シート１２の前後位置に関係なく、車両の前面衝突の衝撃によって前方側へ慣性移動した乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を効果的かつ適切に拘束することができる。

【0052】

また、第１チャンバ３４を斜め後方上側へ引っ張る引張部材が、側面視で、膨張展開された第２チャンバ３６の少なくとも上半分を覆う面テザー３８で構成されている。したがって、引張部材が、例えば膨張展開された第２チャンバ３６の下端部と支持部２２とを連結する左右一対の帯テザー（図示省略）で構成されている場合に比べて、乗員Ｐの首部が帯テザーに引っ掛かって傷害を受けるような不具合の発生を防止することができる。

【0053】

また、第２チャンバ３６が、第１チャンバ３４の上下方向中央部よも下方側に設けられ、乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を拘束可能な構成とされている。したがって、少なくとも天井から乗員Ｐの胸部までを覆う単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグ（図示省略）に比べて、エアバッグ３２（第１チャンバ３４及び第２チャンバ３６）の容量増加を抑制することができる。つまり、インフレータ２８の出力増加を抑制することができ、その分、製造コストを低減させることができる。

【0054】

また、第２チャンバ３６は、乗員Ｐの上半身（少なくとも頭部及び胸部）に対して広い面積で接触し、乗員Ｐの頭部だけではなく胸部も第２チャンバ３６の圧縮変形で拘束するため、第２チャンバ３６によるエネルギー吸収性能を向上させることができるとともに、第２チャンバ３６から乗員Ｐに加わる荷重を低減させることができる。したがって、乗員Ｐに首後屈が発生するおそれがなく、首後屈が発生したとしても、その首後屈が大きくなるおそれがない。

【0055】

また、第２チャンバ３６は、第１チャンバ３４に対して遅れて膨張展開するため、第１チャンバ３４と同時に第２チャンバ３６が天井２０のティアラインを開裂して膨張展開する場合に比べて、エアバッグ３２における展開不良の発生を抑制又は防止することができる。また、このエアバッグ装置３０は、車両用シート１２毎に設けられているため、各車両用シート１２の前後位置に応じて、乗員Ｐを効果的かつ適切に拘束することができる。

【0056】

＜第２実施形態＞
次に、第２実施形態について説明する。なお、上記第１実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明は適宜省略する。

【0057】

図５～図７に示されるように、この第２実施形態では、第２チャンバ３６の内部に、その第２チャンバ３６の前後方向に沿った長さ（厚み）を規制する単一の規制テザー４０が設けられている点だけが、上記第１実施形態と異なっている。この規制テザー４０は、所定の厚み及び幅（左右方向に沿った長さ）を有する帯状に形成されており、その前端部４０Ｆが第２チャンバ３６の前壁３６Ｆの内面における上下方向略中央部で、かつ左右方向略中央部に縫製によって取り付けられ、その後端部４０Ｂが第２チャンバ３６の後壁３６Ｂの内面における上下方向略中央部で、かつ左右方向略中央部に縫製によって取り付けられている。

【0058】

なお、図示の連通孔３５は、側面視で、規制テザー４０よりも下方側に設けられており、連通孔３５から第２チャンバ３６に供給されたガスは、規制テザー４０の左右両側方の隙間を通って上方側へ流れるようになっているが、これに限定されるものではない。連通孔３５は、規制テザー４０よりも上方側に設けられていてもよく、連通孔３５から第２チャンバ３６に供給されたガスは、規制テザー４０の左右両側方の隙間を通って下方側へ流れるようになっていてもよい。

【0059】

また、この規制テザー４０は、車両用シート１２が所定位置以上後方側に位置しているときに、その規制が解除される構成とされている。具体的に説明すると、インフレータ２８は、車両用シート１２の前後位置の検知結果を基に、その出力が変更可能に構成されており、インフレータ２８の出力が増加されることによって、規制テザー４０が切れることで、その規制テザー４０による規制が解除される構成になっている。

【0060】

車両用シート１２の前後位置は、車両に設けられたシートスライドセンサ（図示省略）によって検知されるようになっており、このシートスライドセンサもインフレータ２８の作動を制御する制御装置に電気的に接続されている。また、インフレータ２８は、デュアルインフレータとされており、出力が２段階にコントロール可能に構成されている。

【0061】

規制テザー４０は、図示は省略するが、所定の部位の幅が他の部位の幅よりも小さく形成されたり、その所定の部位に幅方向に沿ったミシン目等の切り込みが入れられたりしており、その所定の部位が所定の張力を超えると切れるように構成されている。これにより、第２チャンバ３６の膨張によって作用する規制テザー４０の張力が所定の値を超えたときに、その所定の部位から自動的に切断される構成になっている。

【0062】

以上のような構成とされた第２実施形態に係る天井付けエアバッグ装置３０及び乗員拘束装置１０において、次にその作用について説明する。なお、上記第１実施形態と共通する作用については、その説明を適宜省略する。

【0063】

上記したように、第２チャンバ３６の内部に設けられた規制テザー４０により、その第２チャンバ３６の厚み（前後方向に沿った長さ）が規制されている。そのため、車両用シート１２が所定位置よりも前方側に位置しているときには、規制テザー４０によって厚みが規制された第２チャンバ３６によって乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を拘束することができる。つまり、車両の前面衝突の衝撃によって前方側へ慣性移動した乗員Ｐを効果的かつ適切に拘束することができる。

【0064】

一方、車両用シート１２が所定位置以上車両後方側に位置しているときには、インフレータ２８の出力増加により、規制テザー４０が切れて、その規制が解除される。そのため、車両用シート１２が所定位置以上後方側に位置しているときには、その規制が解除されて後方側へ拡張された第２チャンバ３６によって乗員Ｐの少なくとも頭部及び胸部を拘束することができる。つまり、車両用シート１２が所定位置以上後方側に位置している場合でも、単一のチャンバで形成された天井付けエアバッグに比べて、車両の前面衝突の衝撃によって前方側へ慣性移動した乗員Ｐを効果的かつ適切に拘束することができる。

【0065】

しかも、規制テザー４０は、切れることで、その規制が解除される構成とされているため、例えば規制テザー４０の一端部（前端部４０Ｆ又は後端部４０Ｂ）を第２チャンバ３６の前壁３６Ｆから機械的な構造によって離脱させることで、その規制を解除する構成に比べて、その規制テザー４０の構造がシンプルで済む。

【0066】

また、車両用シート１２の前後位置の検知結果を基に、その出力が変更可能に構成されたインフレータ２８の出力増加によって、規制テザー４０が切れるように構成されているため、例えば規制テザー４０を切るための機構が別途設けられている場合に比べて、その構成がシンプルで済む。

【0067】

なお、インフレータ２８は、デュアルインフレータとするのではなく、インフレータ２８を２個設けて出力を増加させるようにしてもよい。すなわち、車両用シート１２が所定位置よりも前方側に位置しているときには、１個のインフレータ２８のみを作動させ、車両用シート１２が所定位置以上後方側に位置しているときには、１個目のインフレータ２８の作動に続いて２個目のインフレータ２８を作動させるようにしてもよい。

【0068】

＜第３実施形態＞
次に、第３実施形態について説明する。なお、上記第１実施形態及び第２実施形態と同等の部位には、同じ符号を付して詳細な説明（共通する作用も含む）は適宜省略する。

【0069】

図８に示されるように、この第３実施形態では、エアバッグ装置３０が、左右に隣接する車両用シート１２毎に設けられている点だけが、上記第１実施形態及び第２実施形態と異なっている。具体的に説明すると、エアバッグ３２の第１チャンバ３４及び第２チャンバ３６が、左右に隣接する車両用シート１２毎に、それぞれ単一で設けられている。

【0070】

このような構成にすれば、左右に隣接する車両用シート１２毎にエアバッグ装置３０が設けられているため、車両用シート１２毎にエアバッグ装置３０が設けられている場合に比べて、部品点数の削減を図ることができ、製造コストの低減を図ることができる。

【0071】

なお、図９に示されるように、第１チャンバ３４が、左右に隣接する車両用シート１２に対して単一で設けられ、第２チャンバ３６が、左右に隣接する車両用シート１２のそれぞれに対して設けられていてもよい。すなわち、第２チャンバ３６は、右側の車両用シート１２Ｒに対する右側第２チャンバ３６Ｒと、左側の車両用シート１２Ｌに対する左側第２チャンバ３６Ｌと、で構成されていてもよい。

【0072】

このような構成にすれば、左右に隣接する車両用シート１２毎にエアバッグ装置３０が設けられているため、部品点数の削減（製造コストの低減）を図ることができるとともに、左右に隣接する各車両用シート１２の前後位置に応じて、乗員Ｐを効果的かつ適切に拘束することができる。

【0073】

以上、本実施形態に係る天井付けエアバッグ装置３０及び乗員拘束装置１０について、図面を基に説明したが、本実施形態に係る天井付けエアバッグ装置３０及び乗員拘束装置１０は、図示のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能なものである。

【0074】

例えば、引張部材は、乗員Ｐの首部が引っ掛からないようになっていればよく、面テザー３８に限定されるものではない。また、第２実施形態において、連通孔３５を、第２チャンバ３６の上下方向略中央部で、かつ左右方向略中央部に設け、規制テザー４０を、上記のものよりも幅を小さくして、連通孔３５の左右両側方に左右一対で設ける構成としてもよい。

【0075】

また、規制テザー４０は、切れることで、その規制を解除する構成に限定されるものではなく、例えば構造が複雑になるが、規制テザー４０の一端部（前端部４０Ｆ又は後端部４０Ｂ）を離脱させることで、その規制を解除する構成とされていてもよい。また、規制テザー４０は、インフレータ２８の出力増加によって切れる構成に限定されるものではなく、他の方法によって切れる構成とされていてもよい。

【符号の説明】

【0076】

１０ 乗員拘束装置
１２ 車両用シート
２０ 天井
２２ 支持部
２８ インフレータ
３０ 天井付けエアバッグ装置
３２ エアバッグ
３４ 第１チャンバ
３６ 第２チャンバ
３８ 面テザー（引張部材）
４０ 規制テザー
Ｐ 乗員

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】