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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014520
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】窓吊り具及び窓の取付方法
(51)【国際特許分類】
   E06B 1/56 20060101AFI20250123BHJP
   E04G 21/16 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
E06B1/56 B
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117142
(22)【出願日】2023-07-18
(71)【出願人】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 雅之
【テーマコード(参考)】
2E011
2E174
【Fターム(参考)】
2E011JA01
2E011KD13
2E011KJ02
2E174BA01
2E174CA03
2E174CA12
2E174DA11
2E174DA34
(57)【要約】
【課題】壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける際に、作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整できる窓吊り具を得る。
【解決手段】窓吊り具10は、吊り部20から延びる第1アーム部26と、第1アーム部26の先端部に回転可能に軸支された保持部30を有する。窓吊り具10は、吊り部20の下端部に設けられたギア50と、当該ギア50に噛合したピニオン52とを有し、ピニオン52は、第2アーム部60によって回転可能に支持され、手動操作によって正逆回転されることでギア50の周方向に沿って移動する。ピニオン52は、第2アーム部60を介して保持部30に連結されているため、第1操作部70を通じてピニオン52に対する回転操作を行うことにより、第2アーム部60を第1アーム部26に対して傾動させ、保持部30に保持されたフィックス窓12を任意の角度に傾斜させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの先端に取り付けられる吊り部と、
前記吊り部から延びる第1アーム部と、
前記第1アーム部の先端部に回転可能に支持され、フィックス窓のガラス面を保持可能とする保持部と、
前記吊り部の下端部に設けられたギアと、
前記ギアに噛合し、回転とともに該ギアの周方向に沿って移動するピニオンと、
前記ピニオンを回転可能に支持するとともに前記ピニオンと前記保持部とを連結する第2アーム部と、
前記第2アーム部に接続され、前記ピニオンの正逆回転を手動にて操作可能に構成され、前記ピニオンに対する回転操作により、前記第2アーム部を前記第1アーム部に対して傾動させ、前記保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させる第1操作部と、
を有する窓吊り具。
【請求項2】
前記第2アーム部は、前記ピニオンの軸方向の両側に一対の状態で配置され、該一対の第2アーム部の内側に前記第1アーム部が配置されている、
請求項1に記載の窓吊り具。
【請求項3】
前記第1操作部は、前記第2アーム部から操作者の操作位置に向かって延びる操作ハンドルを有し、
前記操作ハンドルは、前記第2アーム部の延在方向に沿った軸周りの回転操作により、前記ピニオンを固定するロック位置と、前記ピニオンの固定を解除する解除位置とに設定可能となっている、
請求項1又は請求項2に記載の窓吊り具。
【請求項4】
前記吊り部に取り付けられた第2操作部を更に有し、
前記第2操作部は、前記吊り部が正面に配置される操作位置から見て、前記吊り部の右側に配置される第1把手と、前記吊り部の左側に配置される第2把手とを有し、該第1把手及び該第2把手を持ちながら前後左右方向への前記吊り部の移動を操作可能となっており、
前記第1把手と前記第2把手との間に前記第1操作部が配置されている、
請求項1又は請求項2に記載の窓吊り具。
【請求項5】
前記第1把手及び前記第2把手は、鉛直方向に沿って延びる縦把持部と、水平方向に沿って延びる横把持部とを有している、
請求項4に記載の窓吊り具。
【請求項6】
前記保持部は、フィックス窓のガラス面に吸着する真空パッドと、前記真空パッドを支持する支持フレームとを備え、該真空パッドは、パッド内のエアの圧力が負圧にされることにより、前記ガラス面に吸着してフィックス窓を保持可能に構成されており、
パッド内のエアの圧力をコントロールするコントローラとパッド内のエアの圧力を計測するメータ部が前記第1把手及び前記第2把手の少なくとも一方に設けられている、
請求項4に記載の窓吊り具。
【請求項7】
請求項1に記載の窓吊り具を用いて壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける方法であって、
前記保持部を介してフィックス窓を保持する保持工程と、
前記保持工程の後、前記吊り部をクレーンで吊り上げる吊り上げ工程と、
前記吊り上げ工程の後、前記壁パネルとの対面位置において、前記ピニオンが正方向に回転するように前記第1操作部を操作し、前記保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させた状態で、該フィックス窓の上端部及び下端部の一方を前記開口部に嵌め合わせる第1嵌合工程と、
前記第1嵌合工程の後、前記ピニオンが逆方向に回転するように前記第1操作部を操作し、フィックス窓の上端部及び下端部の他方を前記開口部に嵌め合わせる第2嵌合工程と、
を含む窓の取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓吊り具及び窓の取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁等において、壁パネルの開口部に窓を取り付ける際に、重量物である窓を持ち上げて所定の取付位置まで運搬する必要がある。これらの作業は、作業者が直接行う場合には重筋作業となるため、クレーン等で吊り上げて行うことが好ましい。
【0003】
例えば、特許文献1には、出窓サッシを組み付ける方法として、出窓サッシの組付けを予定された壁パネルを該壁パネルの組立て個所に固定し、その壁パネルの上方に屋根パネルを葺設する前に、予め組み立てられた出窓サッシを吊込みラックに収めてクレーン等で組付け個所に吊り上げて組付ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-034192号公報
【0005】
ところで、壁パネルの開口部に板状の窓ガラスを嵌め込んで固定するフィックス窓が知られている。フィックス窓は、壁パネルの開口部の高さまで持ち上げられた後、全体を斜めに傾けた状態で、上端部及び下端部の一方が開口部に嵌め合わされ、その後、傾きを戻しながら、他方の端部を壁面側に押し込むようにして開口部に嵌め合わせる。このような嵌め合わせの作業は、壁面側への押し込みが強すぎる場合にはフィックス窓のサッシに過度の応力が作用し、歪みが発生する虞がある。
【0006】
クレーンに取り付けられる電動式の吊り具では、モータ等を動力源とする電動力を利用してフィックス窓を任意の方向に傾斜させるものがある。しかしながら、このような電動式の吊り具は、運搬時の姿勢を任意のものとすることを目的としており、細やかな角度調整が難しい。従って、上記嵌め合わせの作業においては、作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整できることが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける際に、作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整できる窓吊り具及び窓の取付方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様に係る窓吊り具は、クレーンの先端に取り付けられる吊り部と、前記吊り部から延びる第1アーム部と、前記第1アーム部の先端部に回転可能に支持され、フィックス窓のガラス面を保持可能とする保持部と、前記吊り部の下端部に設けられたギアと、前記ギアに噛合し、回転とともに該ギアの周方向に沿って移動するピニオンと、前記ピニオンを回転可能に支持するとともに前記ピニオンと前記保持部とを連結する第2アーム部と、前記第2アーム部に接続され、前記ピニオンの正逆回転を手動にて操作可能に構成され、前記ピニオンに対する回転操作により、前記第2アーム部を前記第1アーム部に対して傾動させ、前記保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させる第1操作部と、を有する。
【0009】
第1の態様に係る窓吊り具では、吊り部から延びる第1アーム部と、第1アーム部の先端部に回転可能に軸支された保持部とを有している。保持部は、フィックス窓のガラス面を保持可能とされている。また、窓吊り具は、吊り部の下端部に設けられたギアと、当該ギアに噛合したピニオンとを有する。ピニオンは、第2アーム部によって回転可能に支持されており、第1操作部への手動操作によって正逆回転し、ギアの周方向に沿って移動する。ここで、ピニオンは、第2アーム部を介して保持部に連結されている。かかる窓吊り具では、第1操作部を通じてピニオンに対する回転操作を行うことにより、第2アーム部を第1アーム部に対して傾動させ、保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させることができる。これにより、壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける際に、第1操作部に対する作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整することができる。
【0010】
第2の態様に係る窓吊り具は、第1の態様に記載の構成において、前記第2アーム部は、前記ピニオンの軸方向の両側に一対の状態で配置され、該一対の第2アーム部の内側に前記第1アーム部が配置されている。
【0011】
第2の態様に係る窓吊り具では、第2アーム部がピニオンの軸方向の両側に一対の状態で配置されており、一対の第2アーム部の内側には、第1アーム部が配置されている。従って、フィックス窓を保持する保持部には、第1アーム部を中心にして一対の第2アーム部が連結される。これにより、第1アーム部に対する保持部の傾動を安定させることができ、作業性の向上を図ることができる。
【0012】
第3の態様に係る窓吊り具は、第1の態様又は第2の態様に記載の構成において、前記第1操作部は、前記第2アーム部から操作者の操作位置に向かって延びる操作ハンドルを有し、前記操作ハンドルは、前記第2アーム部の延在方向に沿った軸周りの回転操作により、前記ピニオンを固定するロック位置と、前記ピニオンの固定を解除する解除位置とに設定可能となっている。
【0013】
第3の態様に係る窓吊り具では、第1操作部は、第2アーム部から操作者の操作位置に向かって延びる操作ハンドルを有しており、操作ハンドルは、ロック位置においてピニオンを固定し、解除位置においてピニオンの固定を解除する。従って、作業者は、操作ハンドルをロック位置から解除位置へと変更した後にピニオンの回転を操作することができる。ここで、操作ハンドルの操作は、第2アーム部の延在方向に沿った軸周りの回転操作となっている。このため、操作ハンドルに与える操作力によって第2アーム部の前後左右への揺動が生じにくくなっており、吊り上げられた状態のフィックス窓の荷振れを抑制することができる。
【0014】
第4の態様に係る窓吊り具は、第1の態様又は第2の態様に記載の構成において、前記吊り部に取り付けられた第2操作部を更に有し、前記第2操作部は、前記吊り部が正面に配置される操作位置から見て、前記吊り部の右側に配置される第1把手と、前記吊り部の左側に配置される第2把手とを有し、該第1把手及び該第2把手を持ちながら前後左右方向への前記吊り部の移動を操作可能となっており、前記第1把手と前記第2把手との間に前記第1操作部が配置されている。
【0015】
第4の態様に係る窓吊り具では、吊り部に取り付けられた第2操作部を有している。第2操作部は、吊り部が正面に配置される操作位置から見て、吊り部の左右に配置される第1操作把手と第2操作把手を有している。作業者は、第1把手と第2把手とを持ちながら、前後左右方向への吊り部の移動を操作可能となっている。ここで、第1操作部は、左右に配置された第1把手と第2把手との間に配置されている。これにより、例えば、作業者が利き手を使って第1操作部を操作している間に、片方の手を第1把手又は第2把手に添えることができる。これにより、吊り部の揺動を効果的に抑制することができ、安全性を高めることができる。
【0016】
第5の態様に係る窓吊り具は、第4の態様に記載の構成において、前記第1把手及び前記第2把手は、鉛直方向に沿って延びる縦把持部と、水平方向に沿って延びる横把持部とを含んでいる。
【0017】
第5の態様に係る窓吊り具では、第1把手及び第2把手のそれぞれが、鉛直方向に沿って延びる縦把持部と、水平方向に沿って延びる横把持部とを有している。これにより、吊り部の移動方向に合わせて、操作力を与えやすい部位を把持することができ、操作性に優れる。
【0018】
第6の態様に係る窓吊り具は、第4の態様に記載の構成において、前記保持部は、フィックス窓のガラス面に吸着する真空パッドと、前記真空パッドを支持する支持フレームとを備え、該真空パッドは、パッド内のエアの圧力が負圧にされることにより、前記ガラス面に吸着してフィックス窓を保持可能に構成されており、パッド内のエアの圧力をコントロールするコントローラとパッド内のエアの圧力を計測するメータ部が前記第1把手及び前記第2把手の少なくとも一方に設けられている。
【0019】
第6の態様に係る窓吊り具では、第1操作部の左右において、パッド内のエアの圧力をコントロールするコントローラとパッド内のエアの圧力を計測するメータ部とが第1把手及び第2把手の少なくとも一方に設けられている。これにより、作業者の手元の近傍にコントローラとメータ部が配置されるため、作業者の視線移動を少なくすることができ、操作性を高めることができる。
【0020】
第7の態様に係る窓の取付方法は、第1の態様~第6の態様の何れか1態様に記載の窓吊り具を用いて壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける方法であって、前記保持部を介してフィックス窓を保持する保持工程と、前記保持工程の後、前記吊り部をクレーンで吊り上げる吊り上げ工程と、前記吊り上げ工程の後、前記壁パネルとの対面位置において、前記ピニオンが正方向に回転するように前記第1操作部を操作し、前記保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させた状態で、該フィックス窓の上端部及び下端部の一方を前記開口部に嵌め合わせる第1嵌合工程と、前記第1嵌合工程の後、前記ピニオンが逆方向に回転するように前記第1操作部を操作し、フィックス窓の上端部及び下端部の他方を前記開口部に嵌め合わせる第2嵌合工程と、を含む。
【0021】
第7の態様に係る窓の取付方法では、フィックス窓を保持した後、クレーンで吊り部を吊り上げる。その後、壁パネルとの対面位置において、ピニオンが正方向に回転するように第1操作部を操作する。これにより、保持部に保持されたフィックス窓を任意の角度に傾斜させた状態に、該フィックス窓の上端部及び下端部の一方を開口部に嵌め合わせることができる。その後、ピニオンが逆方向に回転するように第1操作部を操作し、フィックス窓の上端部及び下端部の他方を開口部に嵌め合わせることで、フィックス窓の取付が完了する。かかる工程では、上記の窓吊り具の構成により、作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に係る窓吊り具及び窓の取付方法によれば、壁パネルの開口部にフィックス窓を取り付ける際に、作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓の傾斜角度を微調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る窓吊り具の斜視図である。
図2】本実施形態に係る窓吊り具を一部拡大して示す側面図であって、ピニオンのロック状態を示している。
図3】本実施形態に係る窓吊り具を一部拡大して示す側面図であって、ピニオンの解除状態を示している。
図4】本実施形態に係る第1操作部を示す正面図であって、(A)は、操作レバーが固定位置に設定された状態を示しており、(B)は、操作レバーが解除位置に設定された状態を示している。
図5】本実施形態に係る第2操作部を示す斜視図である。
図6】本実施形態に係る保持部の要部構成を示すブロック図である。
図7】(A)~(F)は、本実施形態に係る窓の取付方法の各工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔第1実施形態〕
以下、図1図7を参照して、本実施形態に係る窓吊り具10について説明する。なお、各図に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印RHは、窓吊り具10の操作者(作業者)の操作位置Pから見た前方側、上方側、右方側を示している。また、以下の説明で特記なく前後、上下、左右の方向を用いる場合は、操作位置Pから見た場合の前後、上下、左右を示すものとする。
【0025】
図1は、窓吊り具10の斜視図である。この図に示されるように、窓吊り具10は、平坦なガラス面を有する窓部材をクレーンで吊り上げて運搬する際に用いられる。本実施形態では、特に、フィックス窓12の運搬を例として説明する。フィックス窓12は、透明の窓部材を構成するガラス板14と、ガラス板14を支持するサッシ16とを有し、建物の外壁等の開口部に嵌め込まれて固定される窓として知られている。
【0026】
上記のフィックス窓12は、全体を斜めに傾けた状態で外壁等の開口部に上端部(又は下端部)を嵌め合わせた後、傾きを戻しながら下端部(又は上端部)を壁面側に押し込むようにして全体が嵌め込まれる。このような嵌め合わせの作業は、壁面側への押し込みが強すぎる場合にはフィックス窓12のサッシ16に過度の応力が作用し、歪みが発生する虞がある。
【0027】
なお、クレーンに取り付けられる電動式の吊り具では、モータ等を動力源とする電動力を利用して吊り上げたフィックス窓を任意の方向に傾斜させるものがある。しかしながら、このような電動式の吊り具は、運搬時の姿勢を任意のものとすることを目的としており、細やかな角度調整が難しい。
【0028】
上記のような事情から、通常は、フィックス窓12をクレーンで吊り上げて所定の取付位置まで運搬した後、複数の作業者でフィックス窓12を持ち上げて傾きを微調整しながら開口部への嵌め合わせの作業が行われている。このため、フィックス窓12の取付は、複数の作業者によって行われる重筋作業となることが多く、作業が容易ではない。
【0029】
これに対して、本実施形態の窓吊り具10では、フィックス窓を所定の取付位置に運搬した後、吊り上げた状態のまま、壁パネルの開口部に取り付けることができるという点に特徴がある。
【0030】
(吊り部)
窓吊り具10は、クレーン18の先端に取り付けられる吊り部20を有している。吊り部20は、操作位置Pから見て前方側に延びる水平部22と、水平部22の後端部から鉛直に垂下された鉛直部24とを有している。
【0031】
水平部22には、リング状のアイボルト21が固定されており、当該アイボルト21を介して、クレーン18の先端に取り付けられたフック19との連結が可能になっている。鉛直部24は、操作位置Pから見て、幅方向(左右方向)の略中心に配置されており、鉛直方向(上下方向)に沿って延在している。
【0032】
(第1アーム部)
吊り部20は、鉛直部24から延びる第1アーム部26を介して後述する保持部30に連結されている。第1アーム部26は、鉛直部24の下端部から前方側へ向かって略水平に延びており、先端部が後述する第2アーム部60に軸支されている。この第1アーム部26は、鉛直部24と同様に操作位置Pから見て、幅方向(左右方向)の略中心に配置されている。
【0033】
(保持部)
図1及び図2に示されるように、保持部30は、フィックス窓12のガラス面に吸着する複数の真空パッド32(A~D)と、当該複数の真空パッド32(A~D)を支持する支持フレーム34とを備えている。本実施形態の支持フレーム34は、矩形枠状となっており、四隅の位置のそれぞれに、真空パッド32A~32Dが設置されている。また、支持フレーム34の後方側には、後述する第2アーム部60の先端部が接続されている。
【0034】
各真空パッド32には、パッド内に連通するチューブ36とチューブ36内のエアを排出するイジェクタ38が接続されている。各真空パッド32をフィックス窓12のガラス面に当てた状態でイジェクタ38を作動させると、エアの排出によりパッド内が負圧になり、フィックス窓12のガラス面に真空パッド32を吸着させることができる。イジェクタ38の作動は、作業者の操作するコントローラ40によって操作される。また、四つの真空パッド32のそれぞれは、真空センサ42(A~D)によってパッド内の空気圧が監視されている。また、四つの真空パッドから延びるチューブ36は、イジェクタ38の手前で合流しているが、この合流地点の空気圧も真空センサ42(E)によって監視されている。そして、これら五つの真空センサ42の検出値が、メータ部44に表示される構成となっている。
【0035】
(ギアとピニオン)
図1に戻り、鉛直部24の下端部には、ギア50が設けられている。ギア50は、左右方向を軸方向とする姿勢で鉛直部24の下端部に固定されている。ギア50の歯50Aは、左右方向に沿った側方視で、後方の操作位置Pに向かって突出するように円弧状に並んでおり、ギア50の後方側に配置されたピニオン52の歯52Aと噛合している。
【0036】
なお、本実施形態では、図3及び図4に示されるように、ギア50とピニオン52を透明のカバー体54A,54Bで覆っている。カバー体54A,54Bは、例えば、樹脂成型品で構成される。従って、操作者の操作位置Pからは、ギア50とピニオン52の噛合い位置が視認可能となっている。
【0037】
(第2アーム部)
ピニオン52は、左右方向を軸方向とする姿勢で配置され、第2アーム部60に回転可能に支持されている。この第2アーム部60は、ピニオン52の軸方向の両側に一対の状態で配置されている。また、一対の第2アーム部60の内側に、第1アーム部26が配置されている。一対の第2アーム部60は、第1アーム部26に沿って前後方向に延在しており、その先端部が、略上下方向に延びるブラケット状に形成されている。当該先端部は、真空パッド32を支持する支持フレーム34の上端と下端に架け渡して固定されている。また、一対の第2アーム部60の先端部には、左右方向を軸方向とする第1回転軸62が架け渡されており、第1回転軸62の軸周りに、第1アーム部26の先端部が回動可能に支持されている。これにより、保持部30の支持フレーム34は、第2アーム部60及び第1回転軸62を介して、第1アーム部26の先端部に回転可能に支持されている。
【0038】
ここで、一対の第2アーム部60の基端部には、左右方向を軸方向とする第2回転軸64が架け渡されている。一対の第2アーム部60の内側では、ピニオン52が、第2回転軸64の軸周りに回転可能に支持されている。このため、ピニオン52は、回転とともに、ギア50の周方向に沿って移動し、第2アーム部60を第1アーム部26に対して傾動させる。その結果、第2アーム部60の先端部に連結された保持部30が第2アーム部60に連動して傾き、保持部30に保持されたフィックス窓12を任意の角度に傾斜させることができる(図3及び図4参照)。
【0039】
(第1操作部)
図5(A)及び図5(B)に示されるように、ピニオン52の正逆方向の回転操作は、第1操作部70を介して手動にて操作可能となっている。第1操作部70は、第2アーム部60の基端部に取り付けられた支持ブラケット72と、支持ブラケット72に支持された操作ハンドル74とを有している。支持ブラケット72は、ピニオン52の側方に配置されている。操作ハンドル74は、第2アーム部60の基端部から操作位置Pに向かって延びる棒状に形成され、ピニオン52の歯52Aに対向して配置された先端部にロック片76が設けられている。また、操作ハンドル74は、後方側(操作位置P側)に突出した基端部に操作者によって把持されるグリップ78が形成されている。窓吊り具10の操作者は、操作位置Pに立って操作ハンドル74のグリップ78を把持し、ハンドルを押し下げたり引き上げたりして上下に移動させることで、ピニオン52を正逆回転させることができる。
【0040】
また、操作ハンドル74は、支持ブラケット72に支持されることにより、第2アーム部60の延在方向(前後方向)に沿った軸周りの回転操作が可能となっている。操作ハンドル74は、所定の回転操作によってロック位置と解除位置とに設定可能となっている。操作ハンドル74がロック位置に設定されると、ロック片76がピニオン52の歯52Aに係合し、係合した位置でピニオン52を固定することができる(図5(A))。また、操作ハンドル74が解除位置に設定されると、ロック片76がピニオン52の歯52Aと重ならない位置に移動され、ピニオン52の固定を解除することができる(図5(B))。
【0041】
(第2操作部)
図6に示されるように、窓吊り具10は、上述した吊り部20に取り付けられた第2操作部80を有している。第2操作部80は、吊り部20の鉛直部24が操作者の正面に配置される操作位置Pから見て、鉛直部24の右側に配置される第1把手82と、鉛直部24の左側に配置される第2把手84とを有している。第1把手82及び第2把手84は、ブラケット(符号省略)を介して鉛直部24の中間部に取り付けられた支持アーム部86を介して左右方向に連結されている。窓吊り具10の操作者は、第1把手82及び第2把手84を持ちながら、フィックス窓12を前後方向へ移動させる押し引きの操作や、フィックス窓12を左右方向へ移動させる横方向への操作が可能となっている。
【0042】
上記の第1把手82及び第2把手84は、吊り部20の下端部の高さ(即ち、ギア50、ピニオン52、第1操作部70の高さ)よりも高い位置に配置されることが好ましい。これにより、操作位置Pから見て、第1操作部70の周囲の視認性が良好となり、第2アーム部60の傾きの調整が容易になる。
【0043】
更に、本実施形態では、吊り部20の右方に配置された第1把手82にイジェクタ38の作動操作を行うコントローラ40が設置されている。また、吊り部20の左方に配置された第2把手84に真空センサ42のメータ部44が設置されている。これにより、操作者は、操作位置Pから前方側へ視線を向けたまま、フィックス窓12の吊り上げ、搬送、取付に要する操作を少ない視線移動で行うことができる。
【0044】
ここで、第1把手82及び第2把手84は、鉛直方向に沿って延びる縦把持部90と、水平方向に沿って延びる横把持部92とを有している。縦把持部90は、フィックス窓12を前後方向へ移動させる押し引きの操作において、操作者の操作力を効率良く伝えることができる。横把持部92は、左右方向へ移動させる横方向への操作において、操作者の操作力を効率良く伝えることができる。このため、操作者は、フィックス窓の移動方向に応じて、操作性を良好にすることができる把持部を選択することができるため、作業中の負担を軽減させることができる。
【0045】
また、操作位置Pから見て、第2操作部80の第1把手82と第2把手84の間には、第1操作部70の操作ハンドル74が配置される。このような配置とすることで、右利きの操作者も、左利きの操作者も、利き手にて操作ハンドル74を操作しつつ、片方の手を補助として第1把手82又は第2把手84に置いて作業を行うことができる。
【0046】
(窓の取付方法の手順)
以下、図7を参照して、上記構成の窓吊り具10を用いて、壁パネル100の開口部102にフィックス窓12を取り付ける工程について説明する。一例として、壁パネル100は、工場内で、建物ユニットの躯体に取り付けられている。窓吊り具10は、工場内の天井に設置されたクレーン18の先端に取り付けて使用され、フィックス窓12を所定の高さまで吊り上げた状態で、工場内の所定の取付位置まで搬送する。
【0047】
(保持工程)
まず、工場内の所定の位置で、パレット106上に置かれたフィックス窓12を窓吊り具10で保持する。この工程では、作業者が、コントローラ40の操作によってイジェクタ38を作動させ、フィックス窓12のガラス面に真空パッド32(A~D)を吸着させる(図7(A)~図7(B))。
【0048】
(吊り上げ工程)
保持工程の後、クレーン18の操作により、フィックス窓12を所定の高さまで吊り上げて、フィックス窓12の組付けが予定されている壁パネル100との対面位置まで搬送する(図7(C)~図7(D))。
【0049】
(第1嵌合工程)
吊り上げ工程の後、壁パネル100との対面位置において、ピニオン52が正方向に回転するように第1操作部70を引き上げるように操作し、保持部30に保持されたフィックス窓12を前傾させるように傾斜させる。この状態で、フィックス窓12を前方へ移動させ、その上端部を壁パネル100の開口部102に嵌め合わせる(図7(E))。
【0050】
(第2嵌合工程)
第1嵌合工程の後、ピニオン52が第1嵌合工程とは逆の方向に回転するように第1操作部70を押し下げるように操作し、フィックス窓12の下端部を壁パネル100の開口部102に嵌め合わせる。この際、フィックス窓12が壁面と平行になるように直立姿勢にしつつ、壁面側に押し込むことで、フィックス窓12のサッシ16の全周が開口部102に嵌合する。これにより、フィックス窓12の取り付けが完了する。
【0051】
以上説明した工程では、窓吊り具10の第1操作部70に対する手動操作により、作業者の操作力を直接的に伝え、任意の傾斜角度へとフィックス窓の傾きを微調整することができる。従って、フィックス窓のサッシに過度の応力が作用することを抑制することができる。
【0052】
なお、上記の工程では、フィックス窓12の上端部を開口部に嵌め合わせた後に、下端部を嵌め合わせる方法を説明したが、これに限らず、フィックス窓12の下端部を開口部に嵌め合わせた後に、上端部を嵌め合わせてもよい。
【0053】
(作用並びに効果)
以上説明したように、本実施形態に係る窓吊り具10では、吊り部20から延びる第1アーム部26と、第1アーム部26の先端部に回転可能に軸支された保持部30とを有している。保持部30は、フィックス窓12(図7参照)のガラス面を保持可能とされている。また、窓吊り具10は、吊り部20の下端部に設けられたギア50と、当該ギア50に噛合したピニオン52とを有する。ピニオン52は、第2アーム部60によって回転可能に支持されており、第1操作部70に対する手動操作によって正逆回転し、ギア50の周方向に沿って移動する。ここで、ピニオン52は、第2アーム部60を介して保持部30に連結されている。
【0054】
上記の窓吊り具10では、第1操作部70を通じてピニオン52に対する回転操作を行うことにより、第2アーム部60を第1アーム部26に対して傾動させ、保持部30に保持されたフィックス窓12を任意の角度に傾斜させることができる。これにより、壁パネル100の開口部102にフィックス窓12を取り付ける際に、第1操作部70に対する作業者の操作力を直接的に伝え、フィックス窓12の傾斜角度を微調整することができる。
【0055】
また、本実施形態では、第2アーム部60がピニオン52の軸方向の両側に一対の状態で配置されており、一対の第2アーム部60の内側には、第1アーム部26が配置されている。従って、フィックス窓12を保持する保持部30には、第1アーム部26を中心にして一対の第2アーム部60が連結される。これにより、第1アーム部26に対する保持部30の傾動を安定させることができ、作業性の向上を図ることができる。
【0056】
また、本実施形態では、第1操作部70は、第2アーム部60から操作者の操作位置に向かって延びる操作ハンドル74を有しており、操作ハンドル74は、図5(A)に示すロック位置においてピニオン52を固定し、図5(B)に示す解除位置においてピニオン52の固定を解除する。従って、作業者は、操作ハンドル74をロック位置から解除位置へと変更した後にピニオン52の回転を操作することができる。ここで、操作ハンドル74の操作は、第2アーム部60の延在方向に沿った軸周りの回転操作となっている。このため、操作ハンドル74に与える操作力によって第2アーム部60の前後左右への揺動が生じにくくなっており、吊り上げられた状態のフィックス窓12の荷振れを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、吊り部20に取り付けられた第2操作部80を有している。第2操作部80は、吊り部20が正面に配置される操作位置Pから見て、吊り部20の左右に配置される第1把手82と第2把手84を有している。このため、作業者は、第1把手82と第2把手84とを持ちながら、前後左右方向への吊り部20の移動を操作可能となっている。ここで、第1操作部70は、左右に配置された第1把手82と第2把手84との間に配置されている。これにより、例えば、作業者が利き手を使って第1操作部70を操作している間に、片方の手を第1把手82又は第2把手84に添えることができる。これにより、吊り部20の揺動を効果的に抑制することができ、安全性を高めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、第1把手82及び第2把手84のそれぞれが、鉛直方向に沿って延びる縦把持部90と、水平方向に沿って延びる横把持部92とを有している。これにより、吊り部20の移動方向に合わせて、操作力を与えやすい部位を把持することができ、操作性に優れる。
【0059】
[補足説明]
以上、本実施形態に係る窓吊り具について説明したが、本発明はこれに限らない。上記実施形態に含まれる各構成は、その要旨を逸脱しない範囲で変更や組み合わせが可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、建物ユニットに組付けられた壁パネルにフィックス窓を取り付ける工程を例として説明したが、ユニット工法により建築される建物に限らず、在来工法や、鉄骨軸組工法によって建築される建物の施工にも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
10 窓吊り具
12 フィックス窓
18 クレーン
20 吊り部
26 第1アーム部
30 保持部
32 真空パッド
40 コントローラ
44 メータ部
50 ギア
52 ピニオン
60 第2アーム部
70 第1操作部
74 操作ハンドル
80 第2操作部
82 第1把手
84 第2把手
90 縦把持部
92 横把持部
100 壁パネル
102 開口部
P 操作位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7