(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014555
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】高炉用羽口
(51)【国際特許分類】
C21B 7/16 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
C21B7/16 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117213
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000142872
【氏名又は名称】株式会社戸畑製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏治
(72)【発明者】
【氏名】与田 靖之
(72)【発明者】
【氏名】辻 賢二
【テーマコード(参考)】
4K015
【Fターム(参考)】
4K015FC02
4K015FC05
(57)【要約】
【課題】冷却水循環路となるパイプを内蔵した高炉用羽口を提供する。
【解決手段】本発明の高炉用羽口は、羽口本体部と、前記羽口本体部に囲まれて形成される通路と、前記羽口本体部の内部に内蔵されるパイプと、前記パイプに冷却水を供給する供給口と、前記パイプを循環した冷却水を排出する排出口と、を備え、前記パイプは、前記羽口本体部の内部を循環して、前記冷却水を循環させる冷却水循環路となり、前記パイプは、前記羽口本体部に内蔵されつつ独立した部材である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽口本体部と、
前記羽口本体部に囲まれて形成される通路と、
前記羽口本体部の内部に内蔵されるパイプと、
前記パイプに冷却水を供給する供給口と、
前記パイプを循環した冷却水を排出する排出口と、を備え、
前記パイプは、前記羽口本体部の内部を循環して、前記冷却水を循環させる冷却水循環路となり、
前記パイプは、前記羽口本体部に内蔵されつつ独立した部材である、高炉用羽口。
【請求項2】
前記パイプは、前記羽口本体部を周回するように循環する、請求項1記載の高炉用羽口。
【請求項3】
前記パイプは、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタンおよびこれらの一以上の合金のいずれかを素材とする、請求項1記載の高炉用羽口。
【請求項4】
前記パイプの内径は、10mm~50mm である、請求項1記載の高炉用羽口。
【請求項5】
前記パイプの内径、断面形状および断面積の少なくとも一つは、前記パイプの位置により相違する、請求項1記載の高炉用羽口
【請求項6】
前記パイプ内面の算術平均粗さは、1.5μm~2.5μmである、請求項1記載の高炉用羽口。
【請求項7】
前記パイプ内面の表面粗さは、前記羽口本体部と前記パイプの接触する部位の表面粗さよりも低い、請求項1記載の高炉用羽口。
【請求項8】
前記羽口本体部に、複数の前記パイプが内蔵される、請求項1記載の羽口。
【請求項9】
前記パイプは、前記羽口本体部を形成する際に内蔵される、請求項1から8のいずれか記載の高炉用羽口。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄などで使用される高炉に用いられ、高炉の熱への耐久性が高い高炉用羽口に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄に際しては、原料となる鉄鉱石を還元させて溶融した銑鉄を得る高炉が用いられる。高炉に設けられた投入口から原料となる鉄鉱石などが投入され、高炉内部を溶融温度の高温とするための熱が、高炉の別の投入口から供給される。高炉内部で溶融した銑鉄が取り出され、その後の必要な加工などが施される。
【0003】
この熱を供給する投入口には、熱源である熱風と石炭の微粉末が投入される。この投入口には、羽口と呼ばれる部材が装着され、この羽口から熱風と石炭の微粉末が投入される。
【0004】
羽口は、熱風と石炭の微粉末が投入される入り口であり、高炉内部で発生する溶融鉄やスラグが接触する環境となる。この環境下で、滴下する溶融鉄やスラグなどが、羽口に溶損を与えやすい状態にある。
【0005】
加えて、羽口は、高炉内部にその一部が挿入されて炉内に露出して使用されるので、高熱にさらされ、熱的な影響を高く受ける。熱的な影響を受けつつ機械的な摩耗を受けることで、羽口は損耗の可能性にさらされている。
【0006】
熱的な影響は、羽口自身を高熱化させてしまい、羽口における機械的摩耗の影響を高めてしまう。これが羽口の破損に繋がる可能性がある。
【0007】
高炉は、24時間などの連続稼働と、この連続稼働を所定期間継続するなどの長い期間での稼働を必要とする。長い期間での稼働においては、定期的あるいは不定期のメンテナンスがあるが、このメンテナンス時に羽口の損耗が著しい場合には、羽口の交換が必要となる。
【0008】
上述したような、機械的な摩耗や熱的な影響を高く受ける環境では、羽口が損耗することが多く、交換が必要となることも多い。羽口の交換が頻繁に生じることは、高炉のランニングコストを増加させる問題がある。更には、羽口の交換に時間を要する場合には、高炉のメンテナンスの際に操業停止期間が所定よりも長くなることがあり、高炉の稼働能力を低下させてしまうこともあり得る。
【0009】
一方で、メンテナンス時期が来る前に羽口が破損してしまって使用困難な状態になることもある。こうなると、羽口としての役割を続行できなくなり、高炉を停止して羽口を交換しなければならなくなる。羽口を交換するまで、高炉を停止させる必要があり、温度低下、交換、温度上昇からの再稼働までの休止時間が生じて、製造コストを増加させてしまう。
【0010】
もちろん、高炉での製鉄の前後の工程にも影響を与えたり、高炉での銑鉄の品質にも影響を与えたりしてしまう可能性もある。また、作業者の手間を増加させることにもなる。
【0011】
また、羽口交換においては高炉を停止させることに加えて、新しい羽口を用意する必要や、羽口交換の作業者を確保する必要などがある。このような作業には、時間、費用的コストが追加的に生じてしまう。これらの作業時間や作業コストも製鉄工場全体の稼働に悪影響を与える。
【0012】
機械的な摩耗に加えて、熱的な影響に対しても羽口が高い耐久性を有することが求められる。特に、高炉で使用される中で温度上昇して破損してしまうことを、可能な限り抑制できることが好ましい。
【0013】
このような中、温度上昇を抑制するために冷却水を循環させる羽口の技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、中央に送風ラインが貫設されているボディー部を備える製鉄工業炉用羽口であって、前記ボディー部は,内部に本体流路を有する截頭円錐状の胴部と前記ボディー部から突設される突出部とからなり、前記突出部の外周面との間に先端体流路が形成されるようにカバー部が前記突出部と連結され、内側に外郭冷却流路が形成され、前記カバー部を囲繞するように外郭部が連結されている羽口を開示する。
【0016】
特許文献1の羽口は、羽口中央の外周となるボディー部分の内部に冷却水循環路を備えることを特徴としている。冷却水循環路を備えて、ここを冷却水が循環し続けることで、高炉に挿入されている羽口の温度上昇を抑制できる。冷却水循環路を循環する冷却水が、羽口の熱を奪って冷却するからである。羽口の温度上昇を抑制し、温度上昇による羽口の損耗を抑制することを目指している。
【0017】
ここで、特許文献1の羽口は、複数の部材を鋳造で製造し、複数の部材を必要となる溶接個所において溶接して一体化する。一体化することで、部材に形成された空隙部分が冷却水循環路となる。特許文献1の図には、複数の部材が溶接されて一体化され、冷却水循環路が形成された状態を示している。
【0018】
このような複数の部材(鋳造により製造される)を、溶接個所で溶接して一体化して冷却水循環路を形成した羽口が提案されてきている。
【0019】
しかしながら、文献1のような溶接型羽口には次のような問題があった。
【0020】
(1)製造コストが大きい
複数の部材のそれぞれを鋳造で製造する必要があるので、部品製造コストが大きくなる。また、それぞれの部材を製造してから、溶接を行って一体化するので、製造時間がトータルで大きくなってコストが増加する。また、製造工程が増えることでの、製造コストの増加も生じてしまう。
【0021】
トータルの製造時間が大きくなることもデメリットである。
【0022】
(2)溶接個所の熱伝導性や耐久性が低い
溶接により一体化された羽口が、高炉に挿入されて使用される。既述したように、羽口は機械的・熱的負荷を受けるので、破損の可能性に晒されている。このとき、溶接個所は構造的にどうしても熱伝導性や耐久性が劣る。このため、使用の過程において溶接個所から破損しうる。
【0023】
(3)外周が破損されると使用継続できない
特許文献1のように、冷却水循環路は複数の部材が溶接されて一体化することで形成される。すなわち、冷却水循環路は構造により形成される。このため、外周が破損すると冷却水循環路が露出する状態となる。特許文献1の図のような羽口であると、外周が損耗すると形成されている冷却水循環路が露出する。
【0024】
冷却水循環路が露出すると、供給される冷水が高炉の中に入ってしまう問題につながる。また、冷却水循環路の機能が無くなるので、冷却機能も失ってしまう問題につながる。結果として、冷却水循環路が露出するような外周の破損が生じた段階で、羽口は使用不能となってしまう。
【0025】
以上のように、従来技術の羽口には問題点があった。
【0026】
本発明は、これらの問題を解決できるように、冷却水循環路となるパイプを内蔵した高炉用羽口を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題に鑑み、本発明の高炉用羽口は、羽口本体部と、
前記羽口本体部に囲まれて形成される通路と、
前記羽口本体部の内部に内蔵されるパイプと、
前記パイプに冷却水を供給する供給口と、
前記パイプを循環した冷却水を排出する排出口と、を備え、
前記パイプは、前記羽口本体部の内部を循環して、前記冷却水を循環させる冷却水循環路となり、
前記パイプは、前記羽口本体部に内蔵されつつ独立した部材である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の高炉用羽口は、冷却水循環路となるパイプと、これを内蔵して鋳造する羽口本体との部材で構成できる。このため、部材点数が少なくなり、部材コストを低減できる。また、羽口用の型にパイプを設置して溶融した原料を注入して鋳造することで製造できる。これにより製造に要する時間を短縮でき、手間、時間、コストを削減できる。
【0029】
また、溶接を不要とできるので、溶接個所という熱伝導性や耐久性が低い箇所が生じない。これにより、熱伝導性や耐久性でのボトルネックが減少して、トータルの耐久性が向上する。
【0030】
更に、外周が破損しても冷却水循環路はパイプであるのでその機能を維持できる。これにより、外周の破損が生じても冷却機能が維持されるので、羽口としての使用が継続できる。結果として、高炉の稼働時間を長くでき、製鉄コストの低減にもつながる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施の形態における高炉用羽口の外観斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態における高炉用羽口の内部透視図である。
【
図3】本発明の実施の形態における高炉用羽口の展開図である。
【
図4】本発明の実施の形態における高炉用羽口の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の発明に係る高炉用羽口は、羽口本体部と、
前記羽口本体部に囲まれて形成される通路と、
前記羽口本体部の内部に内蔵されるパイプと、
前記パイプに冷却水を供給する供給口と、
前記パイプを循環する冷却水を排出する排出口と、を備え、
前記パイプは、前記羽口本体部の内部を循環して、前記冷却水を循環させる冷却水循環路となり、
前記パイプは、前記羽口本体部に内蔵されつつ独立した部材である。
【0033】
この構成により、羽口本体部を冷水が循環する構成を確実に構成でき、製造工程や製造コストを低減できる。また、羽口本体部の破損が生じても、パイプが残存するので、パイプによる冷水循環が維持できる。
【0034】
本発明の第2の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプは、前記羽口本体部を周回するように循環する。
【0035】
この構成により、冷水循環が周回形態となり、羽口本体部の冷却能力を高めることができる。
【0036】
本発明の第3の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプは、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタンおよびこれらの一以上の合金のいずれかを素材とする。
【0037】
この構成により、パイプでの冷却水循環による冷却能力を高めることができる。また、そのバリエーションも拡大できる。
【0038】
本発明の第4の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプの内径は、10mm~50mmである。
【0039】
この構成により、冷却水の循環と冷却能力とのバランスを図ることができる。加えて、羽口本体部に内蔵しやすい点も確保できる。
【0040】
本発明の第5の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプの内径、断面形状および断面積の少なくとも一つは、前記パイプの位置により相違する。
【0041】
この構成により、冷却能力を高めることができる。
【0042】
本発明の第6の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプ内面の算術平均粗さは、1.5μm~2.5μmである。
【0043】
この構成により、冷却水の循環をスムーズにできる。
【0044】
本発明の第7の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記パイプ内面の表面粗さは、前記羽口本体部と前記パイプの接触する部位の表面粗さよりも低い。
【0045】
この構成により、冷却水の循環をスムーズにしつつ、冷却水が熱を奪う能力を高めることができる。
【0046】
本発明の第8の発明に係る高炉用羽口では、第1の発明に加えて、前記羽口本体部に、複数の前記パイプが内蔵される。
【0047】
この構成により、冷水循環路のバリエーションを高め、冷却能力を高めることができる。
【0048】
本発明の第9の発明に係る高炉用羽口では、第1から第8のいずれかの発明に加えて、前記パイプは、前記羽口本体部を形成する際に内蔵される。
【0049】
この構成により、パイプは容易かつ確実に羽口本体部に内蔵される。製造コストを低下させ、製造工程を簡素化できる。
【0050】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0051】
(実施の形態)
【0052】
(全体概要)
図1は、本発明の実施の形態における高炉用羽口の外観斜視図である。外観を示す図であるので、内部構造については図示されていない。本発明の高炉用羽口の全体を把握するために示している。
【0053】
図1に示されるように、高炉用羽口1は、羽口本体部2と、羽口本体部2に囲まれて形成される通路3とを、備える。内部および裏側に存在するので、
図1には表れていないが、羽口本体部2の内部にはパイプが内蔵されており、パイプに冷却水を供給する供給口と、パイプを循環した冷却水を排出する排出口を備える。
【0054】
高炉用羽口1は、
図1に示されるような形状を有することで、製鉄高炉の所定の位置に挿入されて使用される。通路3を通じて、製鉄高炉に必要な熱風と石炭の微粉末などが供給される。
【0055】
図2は、本発明の実施の形態における高炉用羽口の内部透視図である。高炉用羽口1の内部構造が分かるような透視状態で示されている。
【0056】
高炉用羽口1は、羽口本体部2、通路3、パイプ4、供給口5、排出口6とを、備える。羽口本体部2は、高炉用羽口2の形態を構成する。羽口本体部2は、
図1、2のように筒状になっており、羽口本体部2に囲まれて通路3が形成される。通路3は、製鉄高炉内部に熱風と石炭の微粉末などを供給する機能を実現する。
【0057】
パイプ4は、羽口本体部2内部に内蔵される。内蔵された状態で、羽口本体部2の内部を循環する構造を有する。この循環する構造により、パイプ4は、冷却水を循環させる。すなわち、パイプ4は、羽口本体部2内部において冷却水を循環させる冷却水循環路となる。これにより、羽口本体部2を冷却できる。
【0058】
パイプ4は、羽口本体部2に内蔵されつつ、羽口本体部2とは独立した部材である、従来技術で説明したように、羽口本体部が形成される際にできる空隙が冷却水循環路となる場合と異なる。すなわち、実施の形態の高炉用羽口1では、冷却水循環路が羽口本体部2とは独立した部材である。
【0059】
供給口5は、パイプ4に冷却水を供給する。排出口6は、供給口5から供給されてパイプ4を循環した冷却水を排出する。この供給口5と排出口6を介して、パイプ4内部を連続して冷却水が循環する。この連続的な冷却水の循環により、製鉄高炉に使用されている高炉用羽口1が、冷却し続けられる。
【0060】
この冷却が継続することで、高炉用羽口1が製鉄高炉に挿入されて使用される中で受ける熱に対する耐久性を高めることができる。耐熱性が高まることで、受ける熱による破損可能性を軽減することができる。
【0061】
(従来技術の羽口に対する優位性1:製造コストや手間)
実施の形態における高炉用羽口1は、羽口本体部2に対応する鋳型にパイプ4を設置して、羽口本体部2を形成する溶融金属を鋳型に流し込んで製造される。すなわち、冷却水循環路となるパイプ4が鋳込みにより口本体部2の内部に形成される。
【0062】
従来技術で説明したような、複数の部材を組み合わせて溶接して一体化する製造工程に比較して、少ない製造工程で済む。また、部材点数も少なくて済む。これにより、製造コストを低減できる。
【0063】
また、複数の部材を組み合わせる従来技術の場合には、それぞれの部材の製造精度のずれにより、溶接による一体成型が確実にできない可能性もある。この場合には、最終的な羽口の品質にばらつきが出て、場合によっては不良品として処理されうる。すなわち、歩留まりが低下する。これは、トータルのコストや製造能力に悪影響をもたらす。
【0064】
これに対して、実施の形態の高炉用羽口は、複数の部材を組み合わせる必要がないので、組み合わせ精度を考慮する必要が無い。これにより、最終製品の品質安定性が高まり、歩留まりも高まる。結果として、トータルの製造コストを低減し、製造能力を高めることもできる。
【0065】
(従来技術の羽口に対する優位性2:使用耐久性の高さ)
従来技術の羽口は、鋳造された複数の部材を溶接で組み合わせることで製造される。この組み合わせにおいて、複数の部材の形状に基づいて生じる空隙が、冷却水循環路となる。このとき、外周側の部材の内側の形状による空隙が、冷却水循環路となる。
【0066】
このような構造のため、羽口に機械的損耗や熱的負荷がかかり、外周が破損すると、冷却水循環路が表面に露出することになってしまう。露出してしまうと、冷却水は外部に漏れることになり、冷却機能は完全に停止する。また、冷却水が供給されている状態であると、露出した部分から高炉内に冷却水が入ってしまう問題が生じる。
【0067】
これに対して、実施の形態の高炉用羽口1は、羽口本体部2の外周が破損したとしても、内蔵されているパイプ4は残る。パイプ4の内部が露出することにはならない。このため、冷却水循環の機能は維持される。すなわち、冷却機能が維持される。もちろん、露出もしないので、冷却水が高炉内に入ってしまうことも防止できる。
【0068】
(従来技術の羽口に対する優位性3:冷却水循環路の自由度の高さ)
【0069】
ここで、パイプ4が構成する冷却水循環路での冷却水の循環での冷却能力は、循環する冷却水の流速に比例する。流速が大きければ冷却能力が高まる。流量は一定の下では、流速はパイプ4の内径により変化する。内径が小さければ流速は大きくなり、内径が大きければ流速は小さくなる。このとき、内径が小さいということは圧力損失が大きい状態であり、流速が大きい状態である。逆に内径が大きいということは圧力損失が小さい状態であり、流速が小さい状態である。
【0070】
このため、冷却能力を上げるために供給能力を上げることには限界があるので、冷却能力の要素である流速を上げるのには、パイプ4の内径を小さくすることで対応できる。
【0071】
また、冷却能力を高くする必要がない場合(高炉用羽口そのものにおいて、あるいは、高炉用羽口の部位において)には、パイプ4の内径を大きくして流速を下げ、圧力損失と供給ポンプの能力とにマージンを持たせることもできる。
【0072】
複数の部材を組み合わせる従来技術の羽口では、部材の形状により冷却水循環路を形成する必要がある。このため、冷却水循環路の形状には制約があり、その自由度は高くない。このため、冷却水循環路の内径を変えることは難しい問題があった。
【0073】
これに対して、本発明の高炉用羽口1では、羽口本体部2に内蔵されるパイプ4が冷却水循環路になる。このため、羽口本体部2を構成する部材への依存度が減少する。また、パイプ4は管路として形成されればよいので、その形成での自由度も高い。このため、従来技術に比較して、冷却水循環路の形状、構造、内径、循環経路などにおける自由度が高いメリットがある。
【0074】
つまり、冷却水循環路をパイプ4で構成する本発明の場合には、パイプ4の形状や内径などの設計自由度が高く、冷却能力の基本となる流速を設計の中で制御することができる。形状や内径により、流速を制御できることで、冷却能力のバリエーションを広げることができる。
【0075】
加えて、パイプ4は、その材質や仕上げ品質などにおいても自由度がある。上述の形状、構造に加えて、これらの材質などは、やはりパイプ4を循環する冷却水の流速を制御することができる(言い換えれば圧力損失を制御できる)。流速を制御できることは、冷却能力を制御できることである。すなわち、材質や仕上げ品質によっても、冷却能力のバリエーションを高めることができる。
【0076】
このように、冷却水循環路がパイプ4で構成される本発明の高炉用羽口1は、冷却能力のバリエーションを持たせることができる。
【0077】
(パイプ)
パイプ4は、上述の通り羽口本体部2内部で冷却水循環路を形成する。パイプ4が、冷却水を循環させることで、高炉用羽口1を冷却できる。この冷却効果を高めるために、パイプ4は、羽口本体部2を周回するように循環することもよい。
図2においては、パイプ4が羽口本体部2を周回する構造を有していることが示されている。
【0078】
もちろん、周回と言っても、1周以上であってもよいし、1周未満であってもよい。羽口本体部2の大きさや形状などに応じて、適宜選択されればよい。周回ではなく、他の循環経路での構成であってもよい。
【0079】
パイプ4は、冷却水循環路を形成するので、内部で冷却水を循環させる。パイプ4は、羽口本体部2に内蔵されているので、パイプ4による冷却水循環は、羽口本体部2内部での冷却水循環となる。
【0080】
高炉用羽口1は、高炉の所定部位に挿入されて使用される。このため、高炉用羽口1は、物理的負荷に加えて熱的負荷も受ける。この熱的負荷により、高炉用羽口1は、損耗のリスクにさらされている。
【0081】
この状態で、パイプ4による冷却水循環は、羽口本体部2を冷却する。羽口本体部2は、高炉用羽口1の全体外形であるので、羽口本体部2が冷却されることで、熱的負荷の度合いを低下させることができる。これにより、熱的負荷による損耗のリスクや度合いを低減させることができる。
【0082】
また、パイプ4は、羽口本体部2内部を周回するように備わっている。この周回するような構成により、冷却水は、羽口本体部2内部を周回するように循環できる。この循環により、冷却水は効率的に羽口本体部2から熱を奪い、奪った熱を排水によって排出することができる。
【0083】
冷却水は、連続的にパイプ4に供給され、羽口本体部2内部を循環した後で排出される。この供給、循環、排出の繰り返しにより、羽口本体部2が高炉から受ける熱を連続的に外部に排出できる。
【0084】
また、パイプ4は、冷却水を供給する供給口5と、循環した冷却水を排出する排出口6とに接続されている(パイプ4の端部が供給口5と排出口6とになっていてもよいし、別の部材としての供給口5と排出口6とにパイプ4が接続されていてもよい)。
【0085】
この構成により、パイプ4は、連続的に冷却水を羽口本体部2において循環させることができる。この循環により、熱的負荷を受けている羽口本体部2の冷却を連続的に行うことができる。
【0086】
(羽口本体部)
羽口本体部2は、高炉用羽口1の外形を形成する要素である。
【0087】
羽口本体部2は、金属製であればよく、一例として銅が使用される。銅であることで熱伝導率が高くなり、高炉から受ける熱を効率的にパイプ4に伝導させて、パイプ4の冷却水循環での排熱に効果的につなげることができる。
【0088】
また、鋳造での製造も容易となるメリットがある。上述では、銅を素材の一例として説明したが、他の素材を排除する意図ではない。
【0089】
(供給口と排出口)
供給口5は、冷却水循環路となるパイプ4に冷却水を供給する入り口である。外部に備わる冷却水供給装置と接続されて、冷却水をパイプ4に供給する。供給口5は、羽口本体部2の底面に備わってもよいし、内部に備わって冷却水供給装置からの管路が接続される構成でもよい。
【0090】
冷却水供給装置などと接続されることで、パイプ4に冷却水が次々と供給される。供給される際の水圧により、冷却水はパイプ4内部を循環する。循環しながら、パイプ4を介して羽口本体部2の熱を奪う。奪いつつ移動して、熱量を受け取った冷却水が循環して、排出口6から排出される。
【0091】
排出口6は、循環した冷却水を排出する部位である。供給口5と同様に、排出口6は、羽口本体部2の底面に備わってもよいし、内部に備わって管路がその内部で接続される構成でもよい。
【0092】
排出口6は、管路に接続されており、管路の先にある排水エリアなどに冷却水を排出する。勿論、排出された排水を冷却して、再びパイプ4内部を循環する冷却水として再利用することもよい。
【0093】
供給口5と排出口6とは、冷却水の供給および排出の動作に応じて、適切な位置に配置されればよい。冷却水の供給と排出とに関わるので、供給口5と排出口6は、適当に離れていることもよい。あるいは、冷却水供給装置の構造に基づき、近い位置に配置されることでもよい。
【0094】
供給口5および排出口6は、パイプ4の両端のそれぞれの端部が、その要素になってもよい。あるいは、それぞれの端部にさらに部材が取り付けられて、この部材が供給口5、排出口6となってもよい。
【0095】
また、後述するように複数のパイプ4が羽口本体部2に内蔵される場合には、供給口5および排出口6も複数である。
【0096】
(パイプのバリエーション)
パイプ4は、冷却水を循環させる。羽口本体部2を冷却して高炉用羽口1の耐久性を高めるために重要な要素である。
【0097】
パイプ4は、金属製あるいは合金製であることが好適である。製造が容易であり、羽口本体部2への内蔵が容易となるからである。ここで、パイプ4は、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、チタンおよびこれらの一以上の合金のいずれかを素材とすることも好適である。
【0098】
これらの素材であることで、熱伝導率が高く、羽口本体部2からの熱を効率的に奪って冷却することができる。また、いずれの素材もパイプ4のような管路としての部材への製造が容易であり、材料コストや製造コストの面で、適応性が高い。
【0099】
また、羽口本体部2との親和性がよく、鋳造型の中にパイプ4を設置して羽口本体部2を形成する溶融金属を流し込む場合でも、パイプ4への悪影響が少ない。
【0100】
このため、このような素材が選択されることが好適である。勿論、必要に応じて他の素材が選択されてもよい。
【0101】
パイプ4の内径は10mm~50mmであることも好適である。この内径であることで、流速が適切に制御されて、冷却水の循環による羽口本体部2から熱を奪うことが効率化される。
【0102】
ここで、高炉用羽口1が使用される高炉の仕様、高炉用羽口1に求められる性能、使用環境、高炉用羽口1の大きさなどにより、使用されるパイプ4の内径は高炉用羽口1によって異なってもよい。例えば、ある高炉用羽口Aのパイプ4の内径は20mmであり、別の高炉用羽口Bのパイプ4の内径は30mmである。
既述したように、同じ供給圧力であれば、パイプ4の内径が異なると冷却水の流速が異なる。同じ供給圧力で冷却水が供給されるとすると、高炉用羽口Aの方の流速が大きくなり、高炉用羽口Aの冷却能力が高い。
【0103】
逆に、高炉用羽口Bの方の圧力損失が低いので、供給ポンプの上限能力とのマージンを確保しやすいことにもなる。
【0104】
このように、高炉用羽口1に求められる性能や仕様に応じて、パイプ4の内径を変化させることも好適である。これにより、性能や仕様に対応する冷却能力の異なる高炉用羽口1を提供できるバリエーションが生まれるからである。
【0105】
また、この内径であることで、羽口本体部2に問題なく内蔵される。高炉用羽口1の大きさにおいて、無理がない内径であることで、製造時の歩留まりが高まり、使用時の耐久性や強度などへの影響も少なくて済む。
【0106】
また、この程度の内径であることで、パイプ4の周回形状なども適切に形成しやすい。特に、パイプ4は、
図3のように、羽口本体部2内部で屈曲して周回するような構成を有している。
【0107】
図3は、本発明の実施の形態における高炉用羽口の展開図である。高炉用羽口を展開した状態として示している。内部構造をより分かりやすくしたものである。
【0108】
図3のように、パイプ4は内部を屈曲したようになっている。このような構造を有するのにも、内径が上述のような範囲であることが好ましい。
【0109】
もちろん、羽口本体部2の大きさや材質などによって、パイプ4の内径は上述以外であってもよい。また、高炉用羽口1の使用態様に応じて、パイプ4の内径や素材が選択されてもよい。
【0110】
(パイプの内径などの変化)
パイプ4の位置によって、パイプ4の内径、断面形状および断面積の少なくとも一つが異なることも好適である。例えば、パイプ4のある位置の内径は別の位置の内径より大きい。あるいは、パイプ4のある位置の断面形状は円形であるが、別の位置の断面形状は楕円形(あるいは多角形)である。あるいは、パイプ4のある位置での断面積は他の位置での断面積より大きい。このような、パイプ4の位置に応じて異なることも好適である。
【0111】
このように、パイプ4の位置によって、内径、断面形状および断面積の少なくとも一つが異なることで、パイプ4の位置によって流速を変化させることができる。ある位置では流速が速く、別の位置では流速が遅いなどである。羽口本体部2において冷却能力を高くする必要のある部位では、パイプ4の内径や断面積を小さくすることで流速が大きくなり冷却能力が高くなる。一報、羽口本体部2において高い冷却能力を必要としない部位では、パイプ4の内径や断面積を大きくすればよい。
【0112】
例えば、外部からの熱的負荷が大きい部位では流速を速めるために内径や断面積を小さくし、そうではない部位では内径や断面積を相対的に大きくすればよい。
【0113】
パイプ4は、羽口本体部2とは別に製造できるので、このような部位によって内径、断面形状および断面積の少なくとも一つを異ならせることが可能である。これは、構造部材の組み合わせにより冷却水循環路を構成する従来技術の羽口では困難であったことである。
【0114】
これらにより、より多面的かつ多角的な冷却能力を発揮できる。また、よりカスタマイズされた冷却能力を実現できる。
【0115】
あるいは、パイプ4が屈曲する部分の内径や断面積が他の位置よりも大きいことで、パイプ4全体での冷却水の循環の流れを阻害しにくくすることも好適である。流速を部位によって制御するというよりも、パイプ4全体の冷却水の流れをスムーズにするために、内径や断面積を変化させる。
また、パイプ4は自由自在に断面積をコントロールできるため、設計の自由度も高い。
【0116】
(パイプ内部の算術平均粗さ)
【0117】
パイプ4内部の算術平均粗さは、1.5μm~2.5μmであることも好適である。パイプ4内部は、冷却水が循環する。このとき、冷却水がスムーズに循環することは、羽口本体部2の冷却において重要である。
【0118】
冷却水は、供給口5から供給されて循環する。冷却水の供給圧力に基づいて、冷却水が循環する。このとき、パイプ4内部は冷却水の循環に対する圧力損失が発生する。パイプ4は、羽口本体部2の内部において屈曲や湾曲しているので、この点でも冷却水の循環への圧力損失が大きくなる。
【0119】
この点で、パイプ4内部の算術平均粗さが上述のように1.5μm~2.5μmの範囲であることで、鋳肌の4μm以上よりも小さく、冷却水の循環がスムーズとなり、圧力損失が小さくなる。
【0120】
また、パイプ4内面の表面粗さは、羽口本体部2のパイプ4と接する壁面(部位)の表面粗さより小さいことも好適である。これにより、冷却水はスムーズに循環しつつ、パイプ4の羽口本体部2への内蔵の固定が十分となる。
【0121】
すなわち、パイプ4は羽口本体部2に確実に内蔵される。加えて、冷却水の循環はスムーズとなる。これらが相まって、冷却能力が高まる。
【0122】
また、パイプ4内部の冷却水の循環はスムーズでありながら、パイプ4の表面粗さが小さいことで、パイプ4と羽口本体部2との熱伝達が大きくなる。これらの2つが相まって、パイプ4内部を循環する冷却水による冷却能力が高まる。
【0123】
(複数のパイプの内蔵)
【0124】
羽口本体部2は、複数のパイプ4を内蔵してもよい。
図2などでは1つのパイプ4が内蔵されている状態が示されているが、複数のパイプ4が内蔵されてもよい。
【0125】
複数のパイプ4が内蔵されることで、羽口本体部2内部を循環する冷却水の量や循環ルートが増加して、冷却能力が更に高まる。例えば、一つのパイプ4は、羽口本体部2の一方側を周回し、他のパイプ4は、羽口本体部2の他方側を周回するなどのように、相互補完する形態での内蔵も好適である。このような相互補完での内蔵により、羽口本体部2の内部を、冷却水がくまなく循環できる。
【0126】
あるいは、一つのパイプ4は、羽口本体部2の内側を周回し、他のパイプ4は、その外側を周回するように、厚み方向での内側と外側とにパイプ4が周回している構成でもよい。これにより、羽口本体部2の内側と外側とをそれぞれ冷却できる。
【0127】
複数のパイプ4が内蔵されることで、羽口本体部2内部の冷却水の循環路が、多種多様となり、冷却能力が高まる。
【0128】
また、複数のパイプ4によって冷却水循環路を形成できるので、一つ一つのパイプ4の形状(屈曲形状や湾曲形状)は、シンプルにできる。これにより、パイプ4の製造コストを下げることができる。また、パイプ4の強度や耐久性を上げることもできる。
【0129】
更に、一つのパイプ4では構成しにくい循環路を、複数のパイプ4で構成することができる。結果として、複雑な循環路が構成できて、冷却能力を高めることができる。
【0130】
複数のパイプ4のそれぞれは、内径、素材、形状などが異なっていてもよい。冷却能力を高める循環路を構成するのに適した内径や形状などを有する複数のパイプ4が組み合わされればよい。例えば、一つのパイプ4の内径は、他のパイプ4の内径より小さいなどの相違により、循環路をより最適化できる。
【0131】
従来技術と異なり、パイプ4の内蔵で冷却水循環路が形成できるので、複数のパイプ4を内蔵することも可能である。結果として、従来技術より容易に複雑で冷却能力の高い冷却水循環路を形成できるため、冷却能力のバリエーションを高めることができる。
【0132】
ここで、複数のパイプ4を内蔵する場合に、パイプ4の断面形状を変化させることで、複数のパイプ4同士の干渉をさせずに、複数のパイプ4を配置することができるメリットもある。これは、パイプ4が単数である循環構造の場合でも同様である。
【0133】
(パイプの内蔵)
【0134】
図4は、本発明の実施の形態における高炉用羽口の側面図である。側面から内部が透視状態で見えるように示している。
図4に示されるように、羽口本体部2にパイプ4が内蔵されている。
【0135】
パイプ4は、羽口本体部2を形成する際に内蔵されればよい。例えば、羽口本体部2は、鋳型に溶融金属を注湯することより製造される。この鋳造の際に、鋳型にパイプ4が設置されており、パイプ4を鋳込むようにする。これにより、パイプ4が羽口本体部2に内蔵されればよい。
【0136】
【0137】
羽口本体部2の鋳造工程でパイプ4が鋳込まれることで、容易かつ確実にパイプ4が内蔵できる。
【0138】
もちろん、他の方法によってパイプ4が内蔵されることでもよい。
【0139】
上述したように複数のパイプ4が、このようにして内蔵されてもよい。また、パイプ4の形状なども最初に構成できるので、高炉用羽口1の製造も容易である。勿論、パイプ4を最初に用意しておけばよいので、製造工程の簡素化にもつながる。結果として歩留まりも向上する。
【0140】
なお、実施の形態で説明された高炉用羽口は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0141】
1 高炉用羽口
2 羽口本体部
3 通路
4 パイプ
5 供給口
6 排出口