(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014572
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】誘電体薄膜付き基板、光導波路素子および光変調素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/035 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
G02F1/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117245
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】梅本 周作
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 権治
(72)【発明者】
【氏名】菊川 隆
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA02
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102CA23
2K102CA28
2K102CA30
2K102DA05
2K102DB04
2K102DC01
2K102DD05
2K102EA03
2K102EA12
2K102EA16
(57)【要約】
【課題】ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子を形成できる誘電体薄膜付き基板の提供。
【解決手段】単結晶基板2と応力緩和層31と誘電体薄膜3と、を有し、応力緩和層31層は、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、第1の結晶3aと、c軸を中心に前記第1の結晶3aを180°回転させた第2の結晶3bとを含むLiNbO
3の双晶構造と、LiNb
3O
8相とを含み、誘電体薄膜3は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、LiNbO
3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が応力緩和層31の最大ドメイン幅よりも大きく、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が5%~25%である、誘電体薄膜付き基板1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶基板と、
前記単結晶基板の主面上に接して形成された応力緩和層と、
前記応力緩和層上に接して形成された誘電体薄膜と、を有し、
前記応力緩和層は、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含むLiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相とを含み、
前記誘電体薄膜は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、前記LiNbO3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が前記応力緩和層の最大ドメイン幅よりも大きく、
前記誘電体薄膜の膜厚に対する前記応力緩和層の膜厚の割合が5%~25%である、誘電体薄膜付き基板。
【請求項2】
前記応力緩和層の最大ドメイン幅が20nm~70nmである、請求項1に記載の誘電体薄膜付き基板。
【請求項3】
前記単結晶基板は、前記主面がc面であるサファイア単結晶基板である、請求項1に記載の誘電体薄膜付き基板。
【請求項4】
前記誘電体薄膜の前記双晶構造は、X線回折法による極点測定において、前記第1の結晶に対応する第1の回折強度と前記第2の結晶に対応する第2の回折強度との比が0.5以上、2.0以下である、請求項1に記載の誘電体薄膜付き基板。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の誘電体薄膜付き基板を備える光導波路素子。
【請求項6】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の誘電体薄膜付き基板を備える光変調素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体薄膜付き基板、これを用いた光導波路素子および光変調素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光導波路素子および光変調素子として、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を用いたものがある。
例えば、特許文献1には、単結晶基板の主面にエピタキシャル形成されたc軸配向のニオブ酸リチウム膜からなる誘電体薄膜を備える誘電体薄膜付き基板が記載されている。特許文献1には、誘電体薄膜が、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含む双晶構造を有し、X線回折法による極点測定において、前記第1の結晶に対応する第1の回折強度と前記第2の結晶に対応する第2の回折強度の比が0.5以上、2.0以下であることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、単結晶基板の主面上に形成されたエピタキシャル膜であり、リッジ形状部を有するニオブ酸リチウム膜を有する光変調器が記載されている。また、特許文献2には、エピタキシャル成長を促進させるエピバッファ層を介して、シリコン単結晶基板上にニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させることが記載されている。特許文献2には、エピバッファ層として、ZrO2が好ましいことが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、Al2O3の組成を有する六方晶のサファイア基板上に、ルテニウム下部電極、その上にヘテロエピタキシャル形成した電気光学効果物質であるニオブ酸リチウム薄膜、金属材料による上部電極を順に積層した構造の光学素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/016428号
【特許文献2】特開2014-142411号公報
【特許文献3】特開2003-15098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板を用いた光導波路素子および光変調素子は、ニオブ酸リチウム単結晶基板を用いた光導波路素子および光変調素子と比較して、生産性に優れる。これは、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板では、成膜条件を調節することによって所望の膜厚のニオブ酸リチウム膜を形成できるためである。すなわち、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板を用いる場合、ニオブ酸リチウム単結晶基板を用いる場合のように、ニオブ酸リチウム単結晶基板を切断したり研磨したりすることによって厚みを調整する必要がない。しかも、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板は、ニオブ酸リチウム単結晶基板と比較して安価である。
【0007】
しかし、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を用いた光導波路素子および光変調素子では、ニオブ酸リチウム膜の厚みが光導波路素子および光変調素子の設計上の制限となる場合があった。より詳細には、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜は、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能である光導波路素子および光変調素子が得られるように、十分な膜厚を有していることが好ましい。しかしながら、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜は、クラックが発生しやすいものであり、膜厚を厚いものほどクラックが発生しやすいという不都合がある。
このため、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板として、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくいものが要求されている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有し、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子を形成できる誘電体薄膜付き基板を提供することを目的とする。
また、本発明は、ニオブ酸リチウム膜からなる誘電体薄膜を有する誘電体薄膜付き基板が備えられ、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る誘電体薄膜付き基板は、単結晶基板と、前記単結晶基板の主面上に接して形成された応力緩和層と、前記応力緩和層上に接して形成された誘電体薄膜と、を有し、前記応力緩和層は、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含むLiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相とを含み、前記誘電体薄膜は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、前記LiNbO3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が前記応力緩和層の最大ドメイン幅よりも大きく、前記誘電体薄膜の膜厚に対する前記応力緩和層の膜厚の割合が5%~25%である、誘電体薄膜付き基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の誘電体薄膜付き基板は、単結晶基板の主面上に接して形成されたc軸配向のエピタキシャル膜からなり、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含むLiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相とを含む応力緩和層と、応力緩和層上に接して形成された誘電体薄膜とを有し、誘電体薄膜がc軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、前記LiNbO3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が前記応力緩和層の最大ドメイン幅よりも大きく、前記誘電体薄膜の膜厚に対する前記応力緩和層の膜厚の割合が5%~25%である。したがって、本発明の誘電体薄膜付き基板では、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差に起因する歪および応力が、応力緩和層に吸収されて緩和される。このため、本発明の誘電体薄膜付き基板は、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくい。
【0011】
また、本発明の誘電体薄膜付き基板は、誘電体薄膜がc軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、クラックが発生しにくいものであるため、誘電体薄膜の膜厚を、例えば、誘電体薄膜付き基板を用いて光導波路素子および光変調素子を製造する場合に好適な0.5μm以上の厚みとすることができる。したがって、本発明の誘電体薄膜付き基板は、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能な光導波路素子および光変調素子を製造する場合に好ましく使用できる。
さらに、本発明の誘電体薄膜付き基板は、誘電体薄膜の膜厚に対する応力緩和層の膜厚の割合が25%以下であるため、応力緩和層が光導波路素子および光変調素子の特性に影響を与えることがなく、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子を形成できる。
【0012】
本発明の光導波路素子および光変調素子は、クラックが発生しにくいニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板を備える。このため、光導波路素子および/または光変調素子の製造工程において、例えば、アニールを行っても、誘電体薄膜付き基板の有するニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、生産性に優れる。また、誘電体薄膜付き基板の有するニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくいため、耐久性に優れる光導波路素子および光変調素子となる。
また、本発明の誘電体薄膜付き基板が、十分に厚い膜厚を有するニオブ酸リチウム膜からなる誘電体薄膜を有し、誘電体薄膜の膜厚に対する応力緩和層の膜厚の割合が適正なものであるため、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による誘電体薄膜付き基板1を示す略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を用いた光導波路素子100の一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した光導波路素子100のA-A´線の断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を用いたマッハツェンダ型の光変調素子200Aの一例を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示した光変調素子200AのB-B´線の断面図である。
【
図6】
図6は、実施例5の単結晶基板2と応力緩和層31との界面のマッピング分析によって得られたイメージ像を示した写真である。
図6(a)および
図6(b)は、応力緩和層31に含まれるLiNbO
3の双晶構造を形成している第1の結晶3aと第2の結晶3bの写真である。
図6(c)は、応力緩和層31に含まれるLiNb
3O
8相3cの写真である。
【
図7】
図7は、比較例1の単結晶基板2と誘電体薄膜3との界面のマッピング分析によって得られたイメージ像を示した写真である。
図7(a)および
図7(b)は、誘電体薄膜3に含まれるLiNbO
3の双晶構造を形成している第1の結晶3aと第2の結晶3bの写真である。
図7(c)は、誘電体薄膜3に含まれるLiNb
3O
8相3cの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決し、単結晶基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板において、ニオブ酸リチウム膜のクラックの発生を抑制するために、以下に示すように鋭意検討を重ねた。
すなわち、エピタキシャル成長されたニオブ酸リチウム膜が、単結晶基板上に接して形成されている誘電体薄膜付き基板では、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との界面に、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差に起因する大きな歪および応力が発生している。
【0015】
このため、従来の技術では、誘電体薄膜付き基板の製造工程において、ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させる際に、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しやすかった。さらに、上記の歪および応力は、ニオブ酸リチウム膜の膜厚を厚くするほど大きくなるため、膜厚の厚いニオブ酸リチウム膜を有する誘電体薄膜付き基板であるほど、製造時および製造後に、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しやすかった。また、誘電体薄膜付き基板を用いて光変調素子などを製造する際にアニールなどの工程を行うと、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との線膨張係数の差に起因する歪および応力がより大きくなりやすい。このため、誘電体薄膜付き基板を用いて光変調素子などを製造する場合、製造時および製造後に、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しやすかった。
【0016】
本発明者らは、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生することを抑制する方法として、ニオブ酸リチウム膜として、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含むLiNbO3の双晶構造を有するc軸配向のエピタキシャル膜を用いることを提案している。この場合、上記の双晶構造によって、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力が緩和されることにより、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくくなるものと推定される。
【0017】
しかし、ニオブ酸リチウム膜として、上記の双晶構造を有するc軸配向のエピタキシャル膜を用いた場合であっても、単結晶基板上にエピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜におけるクラックの発生を十分に抑制することはできなかった。このため、より一層、ニオブ酸リチウム膜のクラックの発生が抑制された誘電体薄膜付き基板が要求されている。
【0018】
そこで、本発明者らは、単結晶基板上に応力緩和層を介して、上記の双晶構造を有するc軸配向のニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させればよいと考え、ニオブ酸リチウム膜の成膜条件に着目して、鋭意検討を重ねた。
その結果、単結晶基板上に、上記の双晶構造を有するc軸配向のニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させる前に、上記の双晶構造を有するニオブ酸リチウム膜の形成に使用する材料と比較して、Nb含有量が多くLi含有量の少ない材料を用いて、上記の双晶構造とLiNb3O8相とを含み、最大ドメイン幅が上記の双晶構造を有するニオブ酸リチウム膜の最大ドメイン幅よりも小さいc軸配向のエピタキシャル膜からなる応力緩和層を形成すればよいことを見出した。
【0019】
このようにして形成した応力緩和層上に接して、膜厚が2μm以下である上記の双晶構造を有するc軸配向のニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させ、エピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜の膜厚に対する応力緩和層の膜厚の割合が5%以上となるようにした場合、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との界面に発生する歪および応力が、エピタキシャル成長させたニオブ酸リチウム膜の膜厚に対して十分な膜厚を有する応力緩和層によって緩和され、ニオブ酸リチウム膜のクラックの発生が抑制されるものと推定される。
【0020】
より詳細には、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜とが、応力緩和層を介して接している場合にも、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差に起因する歪および応力が発生する。しかし、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜とが、応力緩和層を介して接している場合、上記の歪および応力によってニオブ酸リチウム膜にクラックが発生する前に、応力緩和層にクラックの初期段階である微細なナノクラックが発生する。応力緩和層に発生したナノクラックの伸長は、応力緩和層の範囲内に制限される。このことにより、上記の歪および応力が応力緩和層に吸収されて緩和され、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生することが抑制されるものと推定される。
【0021】
また、本発明者らは、応力緩和層上に接して成長させたニオブ酸リチウム膜の膜厚を0.5μm以上とすることにより、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能な光導波路素子および光変調素子を製造する際に好適に使用できる誘電体薄膜付き基板となり、さらにニオブ酸リチウム膜の膜厚に対する応力緩和層の膜厚の割合が25%以下となるようにすることで、光損失の十分に少ない光導波路素子および光変調素子を形成できる誘電体薄膜付き基板となることを見出した。
【0022】
また、上記の応力緩和層は、最大ドメイン幅が上記の双晶構造を有するニオブ酸リチウム膜の最大ドメイン幅よりも小さいc軸配向のエピタキシャル膜からなり、LiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相とを含むものであるため、その上にエピタキシャル成長させる上記の双晶構造を有するc軸配向のニオブ酸リチウム膜との接合が良好であるし、誘電体薄膜付き基板を備える光変調素子の特性への影響が少ないものとなる。
【0023】
これに対し、例えば、上記の応力緩和層に代えて、ニオブ酸リチウムとは全く異なる材質であるZrO2からなるエピバッファ層を設けた場合、ニオブ酸リチウム膜との接合不良が生じやすいし、誘電体薄膜付き基板を備える光変調素子における光損失などの特性への影響も大きいものとなる。
【0024】
さらに、本発明者らは、単結晶基板とニオブ酸リチウム膜とが上記の応力緩和層を介して接している誘電体薄膜付き基板は、アニールを行ってもニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、光損失の少ない光導波路素子および光変調素子を歩留まりよく製造できることを確認し、本発明を想到した。
【0025】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 単結晶基板と、
前記単結晶基板の主面上に接して形成された応力緩和層と、
前記応力緩和層上に接して形成された誘電体薄膜と、を有し、
前記応力緩和層は、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、第1の結晶と、c軸を中心に前記第1の結晶を180°回転させた第2の結晶とを含むLiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相とを含み、
前記誘電体薄膜は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、前記LiNbO3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が前記応力緩和層の最大ドメイン幅よりも大きく、
前記誘電体薄膜の膜厚に対する前記応力緩和層の膜厚の割合が5%~25%である、誘電体薄膜付き基板。
【0026】
[2] 前記応力緩和層の最大ドメイン幅が20nm~70nmである、[1]に記載の誘電体薄膜付き基板。
【0027】
[3] 前記単結晶基板は、前記主面がc面であるサファイア単結晶基板である、[1]に記載の誘電体薄膜付き基板。
[4] 前記誘電体薄膜の前記双晶構造は、X線回折法による極点測定において、前記第1の結晶に対応する第1の回折強度と前記第2の結晶に対応する第2の回折強度との比が0.5以上、2.0以下である、[1]に記載の誘電体薄膜付き基板。
【0028】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の誘電体薄膜付き基板を備える光導波路素子。
[6] [1]~[4]のいずれかに記載の誘電体薄膜付き基板を備える光変調素子。
【0029】
以下、本実施形態の誘電体薄膜付き基板、光導波路素子および光変調素子について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0030】
[誘電体薄膜付き基板]
図1は、本発明の一実施形態による誘電体薄膜付き基板1を示す略断面図である。
図1に示すように、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1は、単結晶基板2と、単結晶基板2の主面2a上に接して形成された応力緩和層31と、応力緩和層31上に接して形成された誘電体薄膜3とを有する。
【0031】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1の有する応力緩和層31は、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、後述するLiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相3cとを含む。
また、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1の有する誘電体薄膜3は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、応力緩和層31のLiNbO3の双晶構造と同様のLiNbO3の双晶構造を有し、膜厚が0.5μm~2μmであり、最大ドメイン幅が応力緩和層31の最大ドメイン幅よりも大きい。
また、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1は、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が5%~25%である。
【0032】
(単結晶基板2)
単結晶基板2としては、LiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとを含む応力緩和層31をエピタキシャル膜として形成させることができる基板であればよく、公知の単結晶基板を用いることができる。単結晶基板2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)よりも屈折率の低いものであることが好ましく、例えば、サファイア単結晶基板、シリコン単結晶基板などを用いることができる。
【0033】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1では、単結晶基板2として、サファイア単結晶基板を用いることが特に好ましい。サファイア単結晶基板は、LiNbO3よりも屈折率が低いため、例えば、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、クラッド層としての役割を果たすことができる。したがって、単結晶基板2がサファイア単結晶基板である場合、単結晶基板2と誘電体薄膜3との間に、別途クラッド層を設けることなく、誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として好適に使用できる。
【0034】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1の有する応力緩和層31、および応力緩和層31を介して単結晶基板2上に形成される誘電体薄膜3は、さまざまな結晶方位の単結晶基板2に対して、c軸配向のエピタキシャル膜として形成されやすい。このため、単結晶基板2の結晶方位は、特に限定されない。
【0035】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1では、応力緩和層31が、c軸配向のエピタキシャル膜からなり、LiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとを含み、応力緩和層31を介して単結晶基板2上に形成される誘電体薄膜3が、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなり、LiNbO3の双晶構造を有するものであり、3回対称の対称性を有している。このため、単結晶基板2の主面2aの結晶方位は、誘電体薄膜3と同じ対称性を有することが望ましい。したがって、単結晶基板2として、例えば、サファイア単結晶基板を用いる場合には、主面2aがc面であることが好ましい。また、単結晶基板2として、例えば、シリコン単結晶基板を用いる場合には、主面2aが(111)面であることが好ましい。
【0036】
(応力緩和層31)
応力緩和層31は、c軸配向のエピタキシャル膜からなる。応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)を主成分とする。ニオブ酸リチウムは、大きな電気光学定数を有するため、光変調素子の光導波層などの材料として好適である。
【0037】
応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜の組成は、LiNbO3の双晶構造の組成とLiNb3O8相3cの組成とが共存する。このため、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜の組成は、LiNbO3の双晶構造の組成に対して、LiNb3O8相3cの含有量に対応する割合でLi2Oの量が少ないものとなる。具体的には、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜の組成は、LiNbO3の双晶構造の組成に対して、35~48mol%の割合でLi2Oの量が少ないものであることが好ましい。
【0038】
応力緩和層31は、LiNbO
3の双晶構造とLiNb
3O
8相3cとを含む。応力緩和層31を形成しているLiNbO
3の双晶構造は、第1の結晶3aと、c軸を中心に第1の結晶3aを180°回転させた第2の結晶3bとを含む。
図1に示すように、応力緩和層31を形成している第1の結晶3aおよび第2の結晶3b、LiNb
3O
8相3cは、いずれも単結晶基板2の主面2aに対して略垂直に成長したものである。
【0039】
本実施形態において、応力緩和層31を形成しているLiNbO3の双晶構造に含まれる第1の結晶3aとは、面内方位が単結晶基板2の面内方位と同じであるLiNbO3の結晶を指す。第2の結晶3bとは、面内方位が単結晶基板2の面内方位に対して180°回転したLiNbO3の結晶を指す。
【0040】
応力緩和層31を形成している第1の結晶3aおよび第2の結晶3bは、いずれも単結晶に近いものである。しかし、第1の結晶3aおよび第2の結晶3bが、完全な単結晶に近すぎると、上記の双晶構造によって、単結晶基板2と誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差に起因する歪および応力を緩和する効果が低下して、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しやすくなる場合がある。このため、第1の結晶3aおよび第2の結晶3bは、いずれもX線回折法により測定された(006)反射のロッキングカーブの半値幅が、0.3°以上、0.6°以下の範囲であることが好ましい。第1の結晶3aおよび第2の結晶3bの(006)反射のロッキングカーブの半値幅がこの範囲内である場合、第1の結晶3aおよび第2の結晶3bは光学的に単結晶であるとみなすことができる。しかも、第1の結晶3aおよび第2の結晶3bが、完全な単結晶に近すぎることがなく、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生することを効果的に抑制できる。
【0041】
断面視で、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜に含まれるLiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとの合計面積に対するLiNbO3の双晶構造の面積の割合は、例えば、0.6~0.95の範囲とすることができ、0.7~0.9の範囲であることが好ましい。また、上記の合計面積に対するLiNb3O8相3cの面積の割合は、例えば、0.05~0.4の範囲とすることができ、0.1~0.3の範囲であることが好ましい。
【0042】
断面視で、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜に含まれるLiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとの合計面積に対するLiNbO3の双晶構造の面積の割合が0.6以上(言い換えると、上記の合計面積に対するLiNb3O8相3cの面積の割合が0.4以下)であると、応力緩和層31の結晶方位に対して、応力緩和層31上に形成される誘電体薄膜3のニオブ酸リチウム膜の結晶方位がそろって配向されやすいものとなる。したがって、応力緩和層31が、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、光変調素子の光損失などの特性に影響を与えにくいものとなる。
【0043】
また、平面視で、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜に含まれるLiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとの合計面積に対するLiNbO3の双晶構造の面積の割合が0.95以下(言い換えると、上記の合計面積に対するLiNb3O8相3cの面積の割合が0.05以上)であると、LiNb3O8相3cを十分に含むものとなるため、応力緩和層31の最大ドメイン幅が小さいものとなりやすい。その結果、応力緩和層31によって、単結晶基板2と誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力を緩和する効果が顕著となる。したがって、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生することを、より効果的に抑制できる。
【0044】
断面視で、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜に含まれるLiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cとの合計面積に対する、LiNbO3の双晶構造およびLiNb3O8相3cの面積の割合は、例えば、以下に示す方法により算出できる。
誘電体薄膜付き基板1の断面を、走査透過電子顕微鏡(FEI社製)により10万~40万倍の倍率で観察する。走査透過電子顕微鏡を用いることにより、LiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相3cとを明瞭に区別できる像が得られる。得られた像の画像において、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm~800nmの範囲に存在する、LiNbO3の双晶構造の面積と、LiNb3O8相3cの面積とをそれぞれ測定する。その結果を用いて、LiNbO3の双晶構造の面積とLiNb3O8相3cの面積との合計面積に対する、LiNbO3の双晶構造の面積の割合、およびLiNb3O8相3cの面積の割合をそれぞれ算出する。
【0045】
本実施形態の応力緩和層31のLiNbO3の双晶構造は、X線回折法による極点測定において、第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度との比が0.5以上、2.0以下であることが好ましく、0.8以上、1.25以下であることがより好ましく、1.0に近いほど好ましい。X線回折法による極点測定において、第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度との比は、第1の結晶3aと第2の結晶3bの割合に対応する。
【0046】
応力緩和層31における第1の結晶3aと第2の結晶3bの割合は、均等であるほど好ましい。応力緩和層31のLiNbO3の双晶構造における第1の結晶3aと第2の結晶3bとの割合が均等であるほど、誘電体薄膜3のLiNbO3の双晶構造における第1の結晶3aと第2の結晶3bとの割合が均等となりやすいためである。誘電体薄膜3のLiNbO3の双晶構造における第1の結晶3aと第2の結晶3bとの割合が均等であるほど、上記の双晶構造によって、単結晶基板2とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力を効果的に緩和できる。したがって、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくくなる。
【0047】
応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜は、LiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cのみからなるものであってもよいし、LiNbO3の双晶構造およびLiNb3O8相3c以外の相を含むものであってもよく、LiNbO3の双晶構造とLiNb3O8相3cのみからなるものであることが好ましい。
【0048】
応力緩和層31の最大ドメイン幅は、誘電体薄膜3の最大ドメイン幅よりも小さい(言い換えると誘電体薄膜3の最大ドメイン幅は、応力緩和層31よりも大きい)ものである。このことにより、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1では、単結晶基板2と誘電体薄膜3との界面に発生する歪および応力が、応力緩和層31によって緩和される。
【0049】
本実施形態において、応力緩和層31の最大ドメイン幅とは、以下に示す寸法であることを意味する。すなわち、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm~800nmの範囲に存在する、LiNbO3の双晶構造に含まれる各第1の結晶3aおよび各第2の結晶3b、LiNb3O8相3cについて、それぞれ厚み方向に垂直な方向おける最大ドメイン幅を測定し、その結果から抽出した、長さ200nm~800nmの範囲に存在する、複数の第1の結晶3aおよび複数の第2の結晶3b、複数のLiNb3O8相3cの最大ドメイン幅における最大寸法である。
【0050】
本実施形態では、応力緩和層31のドメイン幅の指標として、最大ドメイン幅を用いる。応力緩和層31の最大ドメイン幅は、例えば、ドメイン幅の平均値と比較して、容易かつ正確に測定できるためである。その理由は、応力緩和層31のLiNbO3の双晶構造に含まれる第1の結晶3aおよび第2の結晶3b、LiNb3O8相3cには、ドメイン幅の非常に狭いものが含まれているためである。より詳細には、応力緩和層31のドメイン幅の平均値を求めるために、LiNbO3の双晶構造に含まれる各第1の結晶3aおよび各第2の結晶3b、各LiNb3O8相3cをそれぞれ判別し、それぞれのドメイン幅を測定することは容易ではないためである。
【0051】
本実施形態において、誘電体薄膜3の最大ドメイン幅とは、以下に示す寸法であることを意味する。すなわち、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm~800nmの範囲に存在する、LiNbO3の双晶構造に含まれる各第1の結晶3aおよび各第2の結晶3bについて、それぞれ厚み方向に垂直な方向おける最大ドメイン幅を測定し、その結果から抽出した、長さ200nm~800nmの範囲に存在する、複数の第1の結晶3aおよび複数の第2の結晶3bの最大ドメイン幅における最大寸法である。
【0052】
本実施形態において、応力緩和層31の最大ドメイン幅は、20nm~70nmであることが好ましい。応力緩和層31の最大ドメイン幅が20nm以上であると、単結晶基板2の主面2aにエピタキシャル成長された応力緩和層31の有するドメインが途切れにくく、厚みの均一な応力緩和層31が形成されやすいため、好ましい。また、応力緩和層31の最大ドメイン幅が70nm以下であると、応力緩和層31によって、単結晶基板2と誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力を効果的に緩和できる。したがって、より一層、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくくなる。応力緩和層31の最大ドメイン幅は、より望ましくは20nm~50nm、さらに望ましくは20nm~40nmである。
【0053】
(誘電体薄膜3)
誘電体薄膜3は、c軸配向のエピタキシャル膜であるニオブ酸リチウム膜からなる。誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)を主成分とする。ニオブ酸リチウムは、大きな電気光学定数を有するため、光変調素子の光導波層などの材料として好適である。
【0054】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の組成は、一般式LixNbAyOz(式中のAは、Li、Nb、O以外の元素である。xは0.5~1.2であり、yは、0~0.5であり、zは1.5~4である。)で示される。
式中のAは、Li、Nb、O以外の元素を表している。Aで表される元素としては、K、Na、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Zn、Sc、Ceなどが挙げられる。Aで表される元素は、1種のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
式中のxは0.5~1.2であり、好ましくは、0.9~1.05である。
式中のyは、0~0.5である。
式中のzは1.5~4であり、好ましくは2.5~3.5である。
【0055】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜は、上述した応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜と同様に、第1の結晶3aと、c軸を中心に前記第1の結晶3aを180°回転させた第2の結晶3bとを含むLiNbO3の双晶構造を有する。
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の有するLiNbO3の双晶構造は、上述した応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜に含まれるLiNbO3の双晶構造と同様に、第1の結晶3aおよび第2の結晶3bは、いずれもX線回折法により測定された(006)反射のロッキングカーブの半値幅が、0.3°以上、0.6°以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の有するLiNbO3の双晶構造は、X線回折法による極点測定において、第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度との比が0.5以上、2.0以下であることが好ましい。誘電体薄膜3のLiNbO3の双晶構造における第1の結晶3aと第2の結晶3bとの割合が均等であるほど、上記の双晶構造によって、単結晶基板2とニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力を効果的に緩和できる。したがって、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくくなる。誘電体薄膜3における上記の比は、0.8以上、1.25以下であることがより好ましく、1.0に近いほど好ましい。
【0057】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の有するLiNbO3の双晶構造は、第1の結晶3aと第2の結晶3bとが、粒界を介することなく互いに接合されているものであることが好ましい。第1の結晶3aと第2の結晶3bとの境界に粒界が存在していると、境界面において光の散乱が生じる。このため、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、光変調素子の光損失が増大するからである。これに対し、第1の結晶3aと第2の結晶3bとが互いに接合され、両者の境界に粒界が存在しない場合には、両者の屈折率が同じであることから、光の散乱が生じることはない。したがって、ニオブ酸リチウム膜が、単結晶である場合と同等の光学特性が得られる。
【0058】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜は、LiNbO3の双晶相からなる単相であることが望ましい。誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜は、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、光変調素子の光損失などの特性に影響を与えない範囲で、LiNb3O8相3cを含んでいてもよい。
【0059】
誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にLiNb
3O
8相3cが含まれる場合のLiNb
3O
8相3cは、単結晶基板2の主面2aに対して略垂直な方向に成長したものではない。これに対し、
図1に示すように、応力緩和層31を形成しているLiNb
3O
8相3cは、単結晶基板2の主面2aに対して略垂直に成長したものである。したがって、誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にLiNb
3O
8相3cが含まれている場合であっても、誘電体薄膜3と応力緩和層31とは容易に区別できる。
【0060】
誘電体薄膜3の膜厚は、0.5μm以上である。誘電体薄膜3の膜厚が0.5μm以上であるので、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能である。
誘電体薄膜3の膜厚は、2μm以下である。誘電体薄膜3の膜厚が2μm以下であるので、誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にクラックが発生することを効果的に抑制できる。
【0061】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1において、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合((応力緩和層31/誘電体薄膜3)×100(%))は、5%以上である。誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が5%以上であるので、応力緩和層31によって、単結晶基板2と誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差によって発生する歪および応力を効果的に緩和できる。したがって、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくくなる。
【0062】
誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合は、25%以下である。誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が25%以下であるので、応力緩和層31が、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を光変調素子の光導波層として使用した場合に、光変調素子の光損失などの特性に影響を与えることがない。誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合は、望ましくは5%~20%、より望ましくは5%~15%である。
【0063】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1において、応力緩和層31および誘電体薄膜3は、エピタキシャル成長によって成膜されたエピタキシャル膜である。したがって、誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の結晶方位は、下地である単結晶基板2および下地膜である応力緩和層31の結晶方位に対して、そろって配向している。より詳細には、誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜の膜面内をX-Y面とし、膜厚方向をZ軸としたとき、単結晶基板2、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜、誘電体薄膜3を形成しているエピタキシャル膜の結晶が、X軸、Y軸およびZ軸方向にともにそろって配向している。
【0064】
応力緩和層31および誘電体薄膜3がエピタキシャル膜であることは、例えば、第1に2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認と、第2に極点測定による極点の確認とを行うことにより証明できる。
【0065】
具体的には、応力緩和層31および誘電体薄膜3がエピタキシャル膜であることを証明するには、第1の条件として、2θ-θX線回折による測定を行ったとき、目的とする面以外の全てのピーク強度が目的とする面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。応力緩和層31および誘電体薄膜3を形成しているc軸配向エピタキシャル膜では、(00L)面以外のピーク強度が、(00L)面の最大ピーク強度の10%以下、好ましくは5%以下である。(00L)は、(001)や(002)などの等価な面を総称する表示である。
【0066】
前述の2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認の条件においては、一方向における配向性を示しているのみである。したがって、前述の第1の条件を満たしていても、面内において結晶配向がそろっていない場合には、特定角度位置でX線の強度が高まることはなく、極点は見られない。
したがって、応力緩和層31および誘電体薄膜3がエピタキシャル膜であることを証明するには、第2の条件として、極点測定において、極点が見える必要がある。
【0067】
LiNbO3は、三方晶系の結晶構造であるため、単結晶におけるLiNbO3(014)の極点は3つとなる。ニオブ酸リチウム膜をエピタキシャル成長させた場合、c軸を中心に180°回転させた結晶が対称的に結合した、いわゆる双晶の状態にてエピタキシャル成長することが知られている。この場合、3つの極点が対称的に2つ結合した状態になるため、極点は6つとなる。
【0068】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1において、応力緩和層31を形成しているエピタキシャル膜のc軸、誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜のc軸は、例えば、単結晶基板2として、主面2aがc面であるサファイア単結晶基板を用いる場合には、応力緩和層31と誘電体薄膜3と単結晶基板2とのc軸のずれが5°以下であること好ましく、全て一致していることがより好ましい。応力緩和層31と誘電体薄膜3と単結晶基板2とのc軸のずれが5°以下であれば、誘電体薄膜付き基板1を用いた光変調素子の特性に実用上の問題が生じることはない。
【0069】
[誘電体薄膜付き基板の製造方法]
次に、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1の製造方法について、例を挙げて説明する。
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1を製造するには、まず、単結晶基板2の主面2a上に接して応力緩和層31を形成する(応力緩和層成膜工程)。その後、応力緩和層31上に接して誘電体薄膜3を形成する(誘電体薄膜成膜工程)。
【0070】
(応力緩和層成膜工程)
応力緩和層成膜工程では、単結晶基板2の主面2aにエピタキシャル成長させる方法によって応力緩和層31を成膜する。応力緩和層31の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、パルスレーザーアブレーション(PLD)法、化学蒸着法(CVD)、ゾルゲル法などを用いることができる。
【0071】
応力緩和層31の成膜方法としては、上記の中でもスパッタリング法を用いることが好ましい。スパッタリング法を用いて応力緩和層31を成膜することで、成膜後に特別な処理を施すことなく、成膜したままの状態で単分域構造が得られるためである。これは、スパッタリング時に印加される熱とセルフバイアスによる電界が分極処理を兼ねているためである。分極に分布があると、電気光学効果が低下する要因となる。単分域構造であれば、単結晶である場合と同様の電気光学係数を得ることができる。
【0072】
応力緩和層31の成膜方法としてスパッタリング法を用いる場合、ターゲットとして、目標の膜組成となる組成を有するものを用いる。具体的には、例えば、Li/(Li+Nb)=48%~51%の範囲の組成を有するものを用いることができる。
ターゲットは、例えば、以下に示す方法を用いて作製できる。原料として、例えば、純度3N以上のLi2CO3とNb2O5を主原料とする焼結体からなるものを用意する。次いで、ZrO2からなるボールを用いるボールミルを用いて、原料を粉砕して調合し、ターゲット粉材とする。得られたターゲット粉材を公知の方法を用いて焼結し、ターゲットを得る。
【0073】
なお、ターゲットの製造工程において、上記のボールミルを用いて原料を粉砕すると、ZrO2からなるボールが削られる。このため、原料を粉砕して調合した後に得られるターゲット粉材中には、数百ppm程度のZrが混入される。したがって、ターゲット粉材を焼結してなるターゲット中にもZrが混入される。しかし、ターゲット中に含まれるZr量は少量であるので、Zrが混入しているターゲットを用いて、単結晶基板2の主面2a上にスパッタリング法により、支障なく応力緩和層31をエピタキシャル成長させることができる。したがって、ターゲット中にZrが混入することによる問題は発生しない。
【0074】
応力緩和層31の成膜に使用するターゲットの形状は、特に限定されない。ターゲットは、均一な膜厚を有する応力緩和層31が得られるため、単結晶基板2の2倍以上の平面積を有する円形のものであることが好ましい。また、応力緩和層31の成膜は、均一な膜厚を有する応力緩和層31が得られるため、ターゲットを単結晶基板2と同軸に配置して行うことが好ましい。
【0075】
応力緩和層31の成膜方法としてスパッタリング法を用いる場合、例えば、スパッタガスとしてArとO2の混合ガスを用い、スパッタガス中のO2比率を35%~65%、ガス圧を0.08Pa~0.3Paに設定し、単結晶基板2の温度を450~700℃とし、1500~2000Wのパワーを印加して、成膜速度が300~1800nm/hとなるように行うことができる。
応力緩和層31は、成膜条件を途中で変更せず、いわゆるシングルステップにて成膜することが好ましい。
【0076】
(誘電体薄膜成膜工程)
誘電体薄膜成膜工程では、応力緩和層31上にエピタキシャル成長させる方法によって誘電体薄膜3を成膜する。誘電体薄膜3の成膜方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、パルスレーザーアブレーション(PLD)法、化学蒸着法(CVD)、ゾルゲル法などを用いることができる。
【0077】
誘電体薄膜3の成膜方法としては、上記の中でもスパッタリング法を用いることが好ましい。スパッタリング法を用いて誘電体薄膜3を成膜することで、成膜後に特別な処理を施すことなく、成膜したままの状態で単分域構造が得られるためである。これは、スパッタリング時に印加される熱とセルフバイアスによる電界が分極処理を兼ねているためである。分極に分布があると、電気光学効果が低下する要因となる。単分域構造であれば、単結晶である場合と同様の電気光学係数を得ることができる。
【0078】
誘電体薄膜3の成膜方法としてスパッタリング法を用いる場合、ターゲットとして、例えば、Li/(Li+Nb)=48%~51%の範囲の組成を有するものを用いることができる。
誘電体薄膜3の成膜に使用するターゲットの製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、応力緩和層31の成膜に使用するターゲットを製造する方法と同様の方法を用いて製造できる。
【0079】
誘電体薄膜3の成膜に使用するターゲットの形状は、特に限定されない。ターゲットは、均一な膜厚を有する誘電体薄膜3が得られるため、単結晶基板2の2倍以上の平面積を有する円形のものであることが好ましい。また、誘電体薄膜3の成膜は、均一な膜厚を有する誘電体薄膜3が得られるため、ターゲットを単結晶基板2と同軸に配置して行うことが好ましい。
【0080】
誘電体薄膜3の成膜方法としてスパッタリング法を用いる場合、例えば、スパッタガスとしてArとO2の混合ガスを用い、スパッタガス中のO2比率を35%~65%、ガス圧を0.08Pa~0.5Paに設定し、単結晶基板2の温度を450~700℃とし、1500~2000Wのパワーを印加して、成膜速度が300~1800nm/hとなるように行うことができる。
誘電体薄膜3は、成膜条件を途中で変更せず、いわゆるシングルステップにて成膜することが好ましい。
【0081】
誘電体薄膜3の成膜は、スパッタリング法により応力緩和層31を成膜した後、スパッタガス中のO2比率およびガス圧の条件を変更したこと以外は、応力緩和層31の成膜方法と同様にして、スパッタリング法により連続して成膜することが好ましい。
具体的には、応力緩和層31を成膜した後に、スパッタガス中のO2比率を低くするとともに、スパッタ中のガス圧を高くすることにより、誘電体薄膜3を成膜できる。
以上の工程により、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1が得られる。
【0082】
本実施形態の誘電体薄膜付き基板1では、単結晶基板2と誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜との格子定数の差および線膨張係数の差に起因する歪および応力が応力緩和層31に吸収されて緩和される。このため、本実施形態の誘電体薄膜付き基板1は、ニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくい。
【0083】
[光導波路素子]
図2は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を用いた光導波路素子100の一例を示す平面図である。
図3は、
図2に示した光導波路素子100のA-A´線の断面図である。
図2および
図3に示す光導波路素子100において、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1の有する部材については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0084】
図2および
図3に示す光導波路素子100は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3を、リッジ状(凸型形状)に加工したリッジ部4を有する。光導波路素子100のリッジ部4は、目的とする光がTM基本モードで伝搬する部分である。
図2および
図3に示す光導波路素子100は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3を、リッジ状(凸型形状)に加工することにより製造できる。誘電体薄膜3を、リッジ状に加工する方法としては、エッチング法など公知の方法を用いることができる。
【0085】
図2および
図3に示す光導波路素子100は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を備える。このため、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、生産性に優れる。また、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくいため、耐久性に優れる光導波路素子100となる。また、
図2および
図3に示す光導波路素子100は、誘電体薄膜3が十分に厚い膜厚を有し、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が適正なものであるため、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、光損失の少ないものとなる。
【0086】
[光変調素子]
図4は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を用いたマッハツェンダ型の光変調素子200Aの一例を示す平面図である。
図5は、
図4に示した光変調素子200AのB-B´線の断面図である。
図4に示した光変調素子200AのA-A´線の断面図は、
図3に示した光導波路素子100の断面図と同じである。
図4および
図5に示す光変調素子200Aにおいて、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1の有する部材については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0087】
図4および
図5に示す光変調素子200Aは、光導波路10で形成されたマッハツェンダ干渉計に電圧を印加して、光導波路10内を伝搬する光を変調するデバイスである。
図4に示すように、光導波路10は、1本の入力光導波路から分岐された第1光導波路10aおよび第2光導波路10bと、第1光導波路10aと第2光導波路10bとが合波された出力光導波路10cとを有する。
【0088】
図4および
図5に示すように、第1光導波路10aおよび第2光導波路10bの上には、それぞれ1本ずつ、すなわち、2本の第1電極7a、7bが設けられている。したがって、光変調素子200Aは、デュアル電極構造となっている。
【0089】
図4および
図5に示す光変調素子200Aは、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3を、リッジ状(凸型形状)に加工したリッジ部4を有する。光変調素子200Aでは、リッジ部4によって、光導波路10が形成されている。
図5に示すように、光導波路10の第1光導波路10aを構成するリッジ部4上には、バッファ層5を介して第1電極7aが形成されている。また、光導波路10の第2光導波路10bを構成するリッジ部4上には、バッファ層5を介して第1電極7bが形成されている。
【0090】
図4および
図5に示すように、第2電極8a、8b、8cは、第1電極7a、7bを介して互いに離間して設けられている。第2電極8a、8b、8cは、それぞれ誘電体薄膜3からなるスラブ部の上面に接して形成されている。誘電体薄膜3からなるスラブ部は、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3の上面の一部を、エッチング法などにより薄くしたものである。
図4に示すように、第1電極7a、7bと、第2電極8a、8b、8cとは、終端抵抗9で接続されている。また、
図5に示すように、バッファ層5の下面およびリッジ部4の側面に接するように、誘電体層6が形成されている。
【0091】
次に、光変調素子200Aの動作原理について説明する。
図4に示すように、2本の第1電極7a、7bと、第2電極8a、8b、8cとを、終端抵抗9で接続して進行波電極として機能させる。第2電極8a、8b、8cを接地電極とする。そして、2本の第1電極7a、7bに対して、絶対値が同じで正負の異なる位相がずれていない、いわゆる相補信号を、光変調素子200Aの第1電極7a、7bの入力側15a、15bから入力する。
【0092】
誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜は、電気光学効果を有している。このため、第1光導波路10aおよび第2光導波路10bに与えられる電界によって、第1光導波路10aおよび第2光導波路10bの屈折率がそれぞれ+Δn、-Δnのように変化する。その結果、第1光導波路10aおよび第2光導波路10b間の位相差が変化する。この位相差の変化によって強度変調された信号光が、第1光導波路10aと第2光導波路10bとが合波された出力光導波路10cから出力側12に出力される。
【0093】
本実施形態の光変調素子200Aは、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を備える。このため、本実施形態の光変調素子200Aは、誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3を形成しているニオブ酸リチウム膜にクラックが発生しにくく、可視光から赤外光まで幅広い光に適用可能であり、生産性および耐久性に優れ、光損失の少ないものである。
【0094】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例0095】
「実施例1~実施例8、比較例2~比較例5」
以下に示す方法により、
図1に示す誘電体薄膜付き基板1を製造した。
単結晶基板2として、主面2aがc面である4インチのサファイア単結晶基板を用意した。
【0096】
(応力緩和層成膜工程)
応力緩和層成膜工程では、単結晶基板2の主面2aに、スパッタリング法を用いてエピタキシャル成長させることによって応力緩和層31を成膜した。
ターゲットとしては、直径8インチの円形であって、組成がLi/(Li+Nb)=50%であるものを用いた。
ターゲットは、以下に示す方法を用いて作製した。原料として、純度3N以上のLi2CO3とNb2O5を主原料とする焼結体からなるものを用意した。次いで、ZrO2からなるボールを用いるボールミルを用いて、原料を粉砕して調合し、ターゲット粉材とした。得られたターゲット粉材を焼結して、ターゲットを得た。
【0097】
応力緩和層31の成膜は、このようにして得られたターゲットを、単結晶基板2の主面2aとの距離が110mmとなるように、単結晶基板2と同軸に配置して行った。
また、応力緩和層31の成膜は、スパッタガスとしてArとO2の混合ガスを用い、スパッタガス中のO2比率を45%~65%、ガス圧を0.08Pa~0.4Paに設定し、単結晶基板2の温度を550~700℃とし、1500~2000Wのパワーを印加して、成膜速度が500nm/h~600nm/hとなるように行った。また、成膜時間を変化させることにより、応力緩和層31の膜厚が、所定の膜厚となるようにした。
応力緩和層31は、成膜条件を途中で変更せず、いわゆるシングルステップにて成膜した。
【0098】
(誘電体薄膜成膜工程)
誘電体薄膜成膜工程では、応力緩和層31上に、スパッタリング法を用いてエピタキシャル成長させることによって誘電体薄膜3を成膜した。
ターゲットとしては、直径8インチの円形であって、組成がLi/(Li+Nb)=50%であるものを用いた。
ターゲットは、以下に示す方法を用いて作製した。原料として、純度3N以上のLi2CO3とNb2O5を主原料とする焼結体からなるものを用意した。次いで、ZrO2からなるボールを用いるボールミルを用いて、原料を粉砕して調合し、ターゲット粉材とした。得られたターゲット粉材を焼結して、ターゲットを得た。
【0099】
誘電体薄膜3の成膜は、このようにして得られたターゲットを、単結晶基板2の主面2aに形成されている応力緩和層31との距離が110mmとなるように、単結晶基板2と同軸に配置して行った。
誘電体薄膜3の成膜は、スパッタリング法により応力緩和層31を成膜した後、連続して行った。
【0100】
誘電体薄膜3の成膜は、スパッタガス中のO2比率およびガス圧の条件を変更したこと以外は、応力緩和層31の成膜方法と同様にして、スパッタリング法により行った。
具体的には、応力緩和層31を成膜した後に、スパッタガス中のO2比率を低くするとともに、スパッタ中のガス圧を高くすることにより、誘電体薄膜3の成膜を行った。また、成膜時間を変化させることにより、誘電体薄膜3の膜厚が、所定の膜厚となるようにした。
誘電体薄膜3の成膜条件は、途中で変更せず、いわゆるシングルステップにて行った。
以上の工程により、実施例1~実施例8、比較例2~比較例5の誘電体薄膜付き基板1を得た。
【0101】
「比較例1」
単結晶基板2の主面2aに応力緩和層31を成膜せずに誘電体薄膜3を成膜したこと以外は、実施例5と同様にして、誘電体薄膜付き基板を製造した。
【0102】
「実施例9、実施例10、比較例6~比較例8」
応力緩和層成膜工程における応力緩和層31の成膜時間と、誘電体薄膜成膜工程における誘電体薄膜3の成膜時間とを変化させたこと以外は、実施例5と同様にして、実施例9、実施例10、比較例6~比較例8の誘電体薄膜付き基板1を得た。
【0103】
このようにして得られた実施例1~実施例10、比較例1~比較例8の誘電体薄膜付き基板について、それぞれ以下に示す方法により、「応力緩和層31の有無」を調べ、上述した方法で、第1に2θ-θX線回折による配向位置でのピーク強度の確認と、第2に極点測定による極点の確認とを行うことにより、応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)がエピタキシャル膜であることを確認した。
【0104】
「応力緩和層31の有無」
誘電体薄膜付き基板1の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM)(FEI社製)により40万倍の倍率で観察した。得られた像の画像において、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm以上の範囲に、LiNbO3の双晶構造と、LiNb3O8相3cとが、それぞれ存在しているか否かを確認した。
【0105】
また、実施例1~実施例10、比較例1~比較例8の誘電体薄膜付き基板について、以下に示す方法により、応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)がLiNbO3の双晶構造を有するものであるか否かを調べた。その結果、実施例1~実施例10、比較例1~比較例8の誘電体薄膜付き基板の応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)は、いずれもLiNbO3の双晶構造を有するものであることが確認できた。
【0106】
「LiNbO3の双晶構造を有することの確認方法」
誘電体薄膜付き基板を厚み方向に切断した断面を、透過電子顕微鏡(TEM)(FEI社製)を用いて観察し、暗視野(DF)像を得た。このとき、応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)を形成しているLiNbO3の双晶構造に含まれる第1の結晶3aと第2の結晶3bのうち、いずれか一方の像がコントラストの高い(明るい)状態となるようにビームの入射条件を調整した。
【0107】
上記のようにビームの入射条件を調整して得た暗視野像では、応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)がLiNbO3の双晶構造を有している場合、第1の結晶3aと第2の結晶3bのうち、いずれか一方の像がコントラストの高い(明るい)状態、もう一方の像がコントラストの低い(暗い)状態となり、第1の結晶3aと第2の結晶3bとを明瞭に判別できる。これにより、応力緩和層31および誘電体薄膜3(応力緩和層31がない場合には誘電体薄膜3)がLiNbO3の双晶構造を有することを確認した。
【0108】
また、このようにして得られた実施例1~実施例10、比較例1~比較例8の誘電体薄膜付き基板について、それぞれ以下に示す方法により、「応力緩和層31の最大ドメイン幅」「誘電体薄膜3の最大ドメイン幅」「応力緩和層31の膜厚」「誘電体薄膜3の膜厚」「誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合」「第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度との比」を調べた。その結果を表1、表2に示す。
また、実施例1~実施例10、比較例1~比較例8の誘電体薄膜付き基板に使用した単結晶基板2の種類を表1、表2に示す。
また、実施例5については、比較のため表1と表2の両方に記載する。
【0109】
【0110】
【0111】
「応力緩和層31の最大ドメイン幅」
誘電体薄膜付き基板1の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM)(FEI社製)により40万倍の倍率で観察した。得られた像の画像において、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm~800nmの範囲に存在する、LiNbO3の双晶構造に含まれる各第1の結晶3aおよび各第2の結晶3b、LiNb3O8相3cについて、それぞれ厚み方向に垂直な方向おける最大ドメイン幅を測定した。その結果から、長さ200nm~800nmの範囲に存在する、複数の第1の結晶3aおよび複数の第2の結晶3b、複数のLiNb3O8相3cの最大ドメイン幅における最大寸法を抽出し「応力緩和層31の最大ドメイン幅」とした。
【0112】
「誘電体薄膜3の最大ドメイン幅」
誘電体薄膜付き基板1の断面を走査透過電子顕微鏡(STEM)(FEI社製)により40万倍の倍率で観察した。得られた像の画像において、単結晶基板2と応力緩和層31との界面上の長さ200nm~800nmの範囲に存在する、LiNbO3の双晶構造に含まれる各第1の結晶3aおよび各第2の結晶3bについて、それぞれ厚み方向に垂直な方向おける最大ドメイン幅を測定した。その結果から、長さ200nm~800nmの範囲に存在する、複数の第1の結晶3aおよび複数の第2の結晶3bの最大ドメイン幅における最大寸法を抽出し「誘電体薄膜3の最大ドメイン幅」とした。
【0113】
「応力緩和層31の膜厚」「誘電体薄膜3の膜厚」「誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合」
誘電体薄膜付き基板1における応力緩和層31の膜厚および誘電体薄膜3の膜厚は、走査透過電子顕微鏡(STEM)(FEI社製)を用いて高分解能解析を行うことにより、視野内の3箇所の膜厚を測定し、その平均値を算出することにより求めた。誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合は、上記の方法により算出した応力緩和層31の膜厚および誘電体薄膜3の膜厚を用いて、以下の式を用いて算出した。
応力緩和層31の膜厚の割合=(応力緩和層31/誘電体薄膜3)×100(%)
【0114】
「誘電体薄膜3の第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度との比」
誘電体薄膜付き基板1の誘電体薄膜3について、X線回折装置(リガク社製)を用いて、X線回折法による極点測定を行うことにより、誘電体薄膜3の第1の結晶3aに対応する第1の回折強度と第2の結晶3bに対応する第2の回折強度とを測定した。その結果を用いて、第1の回折強度と第2の回折強度との比を算出した。
【0115】
また、実施例1~実施例18、比較例1の誘電体薄膜付き基板について、「誘電体薄膜の応力」「誘電体薄膜3のクラックの有無」「アニールによって発生するクラックの有無」「誘電体薄膜の光損失」を調べた。その結果を表3、表4に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
「誘電体薄膜の応力」
誘電体薄膜付き基板1における誘電体薄膜3の反り量を、接針式段差計(KLA-Tenchore社製)を用いて測定し、Stoneyの式により、誘電体薄膜の応力を算出した。
得られた誘電体薄膜の応力の数値が「プラス(+)」である場合、引張応力であると評価した。誘電体薄膜の応力の数値が「マイナス(-)」である場合、圧縮応力であると評価した。
【0119】
「誘電体薄膜3のクラックの有無」
対物レンズ倍率が20倍で視野直径が0.5mm程度、対物レンズ倍率が100倍で視野直径が0.1mm程度である光学顕微鏡(オリンパス社製)を用いて、誘電体薄膜付き基板を観察し、誘電体薄膜3のクラックの有無を調べた。
クラックが1つも確認されなかった場合、クラック「無」と評価した。クラックが1つでも確認された場合、クラック「有」と評価した。
【0120】
「アニールによって発生する誘電体薄膜3のクラックの有無」
誘電体薄膜付き基板1に対し、酸素雰囲気中、1気圧で、600℃1時間のアニールを行った。
その後、上述した「誘電体薄膜3のクラックの有無」と同様にして、誘電体薄膜3のクラックの有無を調べ、評価した。
【0121】
「誘電体薄膜の光損失」
誘電体薄膜付き基板の誘電体薄膜に1550nmの赤外光を伝搬させ、プリズムカプラ(メトリコン社製)を用いて、誘電体薄膜における伝搬損失を測定した。
伝搬損失が1dB/cm未満である場合を合格と評価した。伝搬損失が1dB/cm以上である場合を不合格と評価した。
【0122】
表3および表4に示すように、実施例1~実施例10の誘電体薄膜付き基板は、いずれも「誘電体薄膜の応力」の数値が「マイナス(-)」で圧縮応力であり、誘電体薄膜3のクラックおよびアニールによって発生するクラックが[無]であった。また、実施例1~実施例10の誘電体薄膜付き基板は、いずれも誘電体薄膜における伝搬損失が1dB/cm未満であり、誘電体薄膜の光損失が少ないものであった。
【0123】
これに対し、表3および表4に示すように、応力緩和層31を有さない比較例1の誘電体薄膜付き基板は、「誘電体薄膜の応力」の数値が「プラス(+)」で引張応力であり、誘電体薄膜3のクラックおよびアニールによって発生するクラックが[有]であった。
このことから、単結晶基板2と誘電体薄膜3とが、応力緩和層31を介して接している誘電体薄膜付き基板とすることにより、誘電体薄膜3にクラックが発生しにくくなることが確認できた。
【0124】
また、表3に示すように、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が5%未満である比較例2および比較例3では、誘電体薄膜3のクラックは[無]であったものの、アニールによって発生するクラックが[有]であった。
また、表4に示すように、応力緩和層31の膜厚が2μmを超える比較例7および比較例8では、誘電体薄膜3のクラックは[無]であったものの、アニールによって発生するクラックが[有]であった。
【0125】
また、表3に示すように、誘電体薄膜3の膜厚に対する応力緩和層31の膜厚の割合が25%超である比較例4および比較例5では、誘電体薄膜3のクラックおよびアニールによって発生するクラックが[無]であった。しかし、比較例4および比較例5は、いずれも誘電体薄膜における伝搬損失が1dB/cm超であり、誘電体薄膜の光損失が多いものであった。
また、表4に示すように、応力緩和層31の膜厚が0.5μm未満である比較例6では、誘電体薄膜3のクラックおよびアニールによって発生するクラックが[無]であった。しかし、比較例6は、誘電体薄膜における伝搬損失が1dB/cm超であり、誘電体薄膜の光損失が多いものであった。
【0126】
[誘電体薄膜付き基板のマッピング分析]
実施例5および比較例1の誘電体薄膜付き基板について、走査透過電子顕微鏡(STEM)(FEI社製)を用いて、誘電体薄膜付き基板の断面における単結晶基板2と応力緩和層31または誘電体薄膜3との界面のマッピング分析を行った。その結果を
図6および
図7に示す。
【0127】
図6は、実施例5の単結晶基板2と応力緩和層31との界面のマッピング分析によって得られたイメージ像を示した写真である。
図6において、下部の単一相からなる領域は、単結晶基板2である。
図6(a)および
図6(b)は、応力緩和層31に含まれるLiNbO
3の双晶構造を形成している第1の結晶3aと第2の結晶3bの写真である。
図6(c)は、応力緩和層31に含まれるLiNb
3O
8相3cの写真である。
【0128】
図7は、比較例1の単結晶基板2と誘電体薄膜3との界面のマッピング分析によって得られたイメージ像を示した写真である。
図7において、下部の単一相からなる領域は、単結晶基板2である。
図7(a)および
図7(b)は、誘電体薄膜3に含まれるLiNbO
3の双晶構造を形成している第1の結晶3aと第2の結晶3bの写真である。
図7(c)は、誘電体薄膜3に含まれるLiNb
3O
8相3cの写真である。
【0129】
図6(a)~
図6(c)に示すように、実施例5の応力緩和層31は、
図7(a)~
図7(c)に示す比較例1の誘電体薄膜3と比較して、最大ドメイン幅が非常に小さいものであることが確認できた。
また、
図6(c)に示すように、実施例5の応力緩和層31に含まれるLiNb
3O
8相3cは、単結晶基板2の主面に対して略垂直に成長したものであり、
図6(a)および
図6(b)に示す単結晶基板2の主面に対して略垂直に成長したLiNbO
3の双晶構造を形成している第1の結晶3aと第2の結晶3bと、応力緩和層31に中において共存している。
これに対し、
図7(c)に示すように、比較例1の誘電体薄膜3に含まれるLiNb
3O
8相3cは、単結晶基板2から成長したものではない。
したがって、実施例5の応力緩和層31に含まれるLiNb
3O
8相3cと、比較例1の誘電体薄膜3に含まれるLiNb
3O
8相3cとは、容易に見分けることができる。