(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014581
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】積み付け方法、積み付け装置、積み付けプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20250123BHJP
B65G 67/60 20060101ALI20250123BHJP
B65G 1/137 20060101ALI20250123BHJP
G06Q 10/083 20240101ALI20250123BHJP
【FI】
G06Q10/04
B65G67/60 A
B65G1/137 B
G06Q10/083
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117261
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】591057256
【氏名又は名称】株式会社エクサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 圭一
【テーマコード(参考)】
3F077
3F522
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
3F077EA01
3F077EA04
3F077EA28
3F522CC05
3F522LL01
3F522LL02
3F522LL11
3F522LL16
3F522LL57
5L010AA04
5L010AA16
5L049AA04
5L049AA16
(57)【要約】
【課題】板状の荷物を運搬する船舶における積み付け順序を最適化することができる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る積み付け方法は、ホールドを等幅のホールドスライスへ分割し、前記ホールドスライスに対して板材を搭載したときの搭載状態を評価関数によって評価する。評価関数は、荷物間の配置関係を評価する係数と、ホールド間の配置関係を評価する係数とによって構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の荷物を運搬する船舶に対して前記荷物を積み込む順序を決定する積み付け方法であって、
前記船舶は、前記荷物を搭載する容器として、第1下段ホールドと、前記第1下段ホールドの上方に配置された第1上段ホールドとを備え、
前記積み付け方法は、
前記第1下段ホールドと前記第1上段ホールドをそれぞれ、前記船舶の前後方向において等しい幅を有するホールドスライスへ仮想的に分割するステップ、
前記分割するステップにおいて生成した第1ホールドスライスに第1荷物を搭載するとともに、前記第1ホールドスライスよりも下層または船首側に位置する第2ホールドスライスに第2荷物を搭載した搭載状態について、前記搭載状態の評価値を計算するための関数を定義するステップ、
前記関数にしたがって前記評価値を計算するステップ、
前記評価値を最適化することができる前記第1荷物と前記第2荷物の組み合わせを探索するステップ、
を有し、
前記関数は、
前記搭載状態における前記第1荷物と前記搭載状態における前記第2荷物との間の関係を評価する荷物スライス評価係数、
前記搭載状態における前記第1ホールドスライスと前記搭載状態における前記第2ホールドスライスとの間の関係を評価するホールドスライス評価係数、
によって構成されている
ことを特徴とする積み付け方法。
【請求項2】
前記関数は、
前記第1ホールドスライスに前記第1荷物が搭載されているか否かを表すバイナリ値、
前記第2ホールドスライスに前記第2荷物が搭載されているか否かを表すバイナリ値、
前記荷物スライス評価係数、
前記ホールドスライス評価係数、
を乗算することによって前記評価値を計算するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項3】
前記荷物スライス評価係数は、前記第1荷物と前記第2荷物の積み込み順序を評価する積込評価係数によって構成されており、
前記積込評価係数は、前記第2荷物の積込港が前記第1荷物の積込港よりも前である場合は、前記評価値を改善する作用を有するように構成されており、
前記積込評価係数は、前記第2荷物の積込港が前記第1荷物の積込港よりも後である場合は、前記評価値を改悪する作用を有するように構成されており、
前記積込評価係数は、前記第2荷物の積込港が前記第1荷物の積込港と同じである場合は、前記評価値を改善する作用も改悪する作用も有さないように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項4】
前記荷物スライス評価係数は、前記第1荷物と前記第2荷物の積み降ろし順序を評価する積降評価係数によって構成されており、
前記積降評価係数は、前記第2荷物の積降港が前記第1荷物の積降港よりも後である場合は、前記評価値を改善する作用を有するように構成されており、
前記積降評価係数は、前記第2荷物の積降港が前記第1荷物の積降港よりも前である場合は、前記評価値を改悪する作用を有するように構成されており、
前記積降評価係数は、前記第2荷物の積降港が前記第1荷物の積降港と同じである場合は、前記評価値を改善する作用も改悪する作用も有さないように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項5】
前記ホールドスライス評価係数は、前記第1ホールドスライスに対する積込が前記第2ホールドスライスに対する積込よりも前である場合は、前記評価値を改悪する作用を有するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項6】
前記船舶は、前記荷物を搭載する容器として、前記第1下段ホールドの横の船尾側に隣接して配置された第2下段ホールドと、前記第1上段ホールドの横の船尾側に隣接して配置された第2上段ホールドとを備え、
前記ホールドスライス評価係数は、前記第2下段ホールドに対する積込が前記第1下段ホールドに対する積込よりも前である場合は、前記評価値を改悪する作用を有するように構成されており、
前記ホールドスライス評価係数は、前記第2上段ホールドに対する積込が前記第1上段ホールドに対する積込よりも前である場合は、前記評価値を改悪する作用を有するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項7】
前記第1下段ホールドまたは前記第1上段ホールドのうち少なくともいずれかは、天井を開けることができない部位を有し、
前記ホールドスライス評価係数は、前記部位における積込順序については、ホールド内の奥から手前に向かって寄港順に積み込んだとき前記評価値を改善する作用を有するように構成されており、
前記ホールドスライス評価係数は、前記部位における積降順序については、ホールド内の手前から奥に向かって寄港逆順に積み降ろしたとき前記評価値を改善する作用を有するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項8】
前記関数は、前記順序が制約条件を充足しないとき前記評価値を改悪するペナルティ関数によって構成されており、
前記ペナルティ関数は、
前記第1ホールドスライスに前記第1荷物が搭載されているか否かを表すバイナリ値と前記第2ホールドスライスに前記第2荷物が搭載されているか否かを表すバイナリ値によって構成された行列が充足する必要がある行列制約、
前記第1下段ホールドに対して積み込まれた荷物の合計容量が前記第1下段ホールドの積込可能容量を超えているとき前記評価値を改悪するとともに、前記第1上段ホールドに対して積み込まれた荷物の合計容量が前記第1上段ホールドの積込可能容量を超えているとき前記評価値を改悪する、ホールド容量制約、
によって構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項9】
前記行列制約は、前記行列が全ての行と全ての列において1となる変数が必ず1つのみ存在するものでなければならないという制約である
ことを特徴とする請求項8記載の積み付け方法。
【請求項10】
前記船舶は、前記荷物を搭載する容器として、前記第1下段ホールドの横に隣接して配置された第2下段ホールドと、前記第1上段ホールドの横に隣接して配置された第2上段ホールドとを備え、
前記関数は、2組のギャングによって積降作業を実施する2-ギャング積降港における積降順序が制約条件を充足しないとき前記評価値を改悪するペナルティ関数によって構成されており、
前記ペナルティ関数は、前記2-ギャング積降港において前記第1下段ホールドと前記第2下段ホールドから並行して荷物を積み降ろす際に前記第1下段ホールドが搭載している荷物の個数と前記第2下段ホールドが搭載している荷物の個数との間の差分が閾値以上である場合は前記評価値を改悪するように構成されており、
前記ペナルティ関数は、前記2-ギャング積降港において前記第1上段ホールドと前記第2上段ホールドから並行して荷物を積み降ろす際に前記第1上段ホールドが搭載している荷物の個数と前記第2上段ホールドが搭載している荷物の個数との間の差分が閾値以上である場合は前記評価値を改悪するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項11】
前記積み付け方法は、前記船舶に対して積み込む荷物とその積込先容器であるホールドを指定する指定入力を受け取るステップを有し、
前記関数は、前記順序が制約条件を充足しないとき前記評価値を改悪するペナルティ関数によって構成されており、
前記ペナルティ関数は、前記指定入力が指定する荷物とホールドが前記探索の結果として充足されていない場合は前記評価値を改悪するように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項12】
前記関数は、前記評価値の数値が大きいほど前記搭載状態の評価が低いように構成されており、
前記探索するステップにおいては、シミュレーテッドアニーリングによって前記評価値を最適化する
ことを特徴とする請求項1記載の積み付け方法。
【請求項13】
板状の荷物を運搬する船舶に対して前記荷物を積み込む順序を決定する積み付け装置であって、
前記船舶は、前記荷物を搭載する容器として、第1下段ホールドと、前記第1下段ホールドの上方に配置された第1上段ホールドとを備え、
前記積み付け装置は、前記順序を決定する演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記第1下段ホールドと前記第1上段ホールドをそれぞれ、前記船舶の前後方向において等しい幅を有するホールドスライスへ仮想的に分割するステップ、
前記分割するステップにおいて生成した第1ホールドスライスに第1荷物を搭載するとともに、前記第1ホールドスライスよりも下層または船首側に位置する第2ホールドスライスに第2荷物を搭載した搭載状態について、前記搭載状態の評価値を計算するための関数を定義するステップ、
前記関数にしたがって前記評価値を計算するステップ、
前記評価値を最適化することができる前記第1荷物と前記第2荷物の組み合わせを探索するステップ、
を実施することにより前記順序を決定し、
前記関数は、
前記搭載状態における前記第1荷物と前記搭載状態における前記第2荷物との間の関係を評価する荷物スライス評価係数、
前記搭載状態における前記第1ホールドスライスと前記搭載状態における前記第2ホールドスライスとの間の関係を評価するホールドスライス評価係数、
によって構成されている
ことを特徴とする積み付け装置。
【請求項14】
請求項1から12のいずれか1項記載の積み付け方法をコンピュータに実行させることを特徴とする積み付けプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に対して荷物を積み込む順序を決定する積み付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板材を荷物として運搬する船舶は、荷物を収容する容器(ホールド)を1つ以上備えている。船舶は、例えば上段ホールドと下段ホールドのように上下方向に重ねて配置されたホールドを備える。さらに、船首側ホールドと船尾側ホールドを備える場合もある。この場合は、合計4つ以上のホールドを備えることになる。
【0003】
船舶に対して荷物を搭載する際には、その積込順序によって、作業効率が異なる。この影響は、積込港と積降港いずれにおいても発生する。例えば積降港において積み降ろす荷物がホールド内の奥まった位置に置かれていると、作業効率が低下する。あるいは上段ホールドに荷物が置かれている状態で下段ホールドから荷物を取り出す作業は、効率が悪いと考えられる。
【0004】
下記特許文献1は、『どのような条件の下でも,最良の積み付け位置計画を自動的に作成でき,又,積み付け作業の途中で作業バースをシフトさせる場合にも対応できる。』ことを課題として、『適宜の積み付け配置案を作成し所定の評価値を演算する配置案作成工程と,積み付け配置案の変更配置案を作成し所定の評価値を演算する変更配置案作成工程と,2つの評価値の比較結果に基づいてより良い配置案を選択する配置案選択工程と,選択された配置案若しくは新たな配置案を配置案作成工程における積み付け配置案として,配置案作成工程,変更配置案作成工程,及び配置案選択工程を繰り返す積み付け位置最適化工程とを具備して構成する。更に,積み付け途中で作業バースが変更される場合には,作業バース割り付け情報と所定のルールとに基づいて,各製品を各作業バースに割り当てる作業バース割り当て工程を具備して構成する。』という技術を記載している(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、船体バランスを考慮しつつ浜出し(荷物を船舶から降ろす)作業の効率を含めた作業全体の効率化を図ることを目的としている(同文献の0003参照)。また最適化アルゴリズムとしてシミュレーテッドアニーリングを用いている(同文献の0008参照)。ただし同文献記載の技術は、荷物として円筒状に巻かれたコイル(同文献の
図4参照)を想定したものであり、そのような荷物を積み付けることを前提として、組み合わせ最適化問題の状態変数や評価関数を設計している。したがって、板材を荷物として運搬する船舶については、別途考慮が必要であると考えられる。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、板状の荷物を運搬する船舶における積み付け順序を最適化することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積み付け方法は、ホールドを等幅のホールドスライスへ分割し、前記ホールドスライスに対して板材を搭載したときの搭載状態を評価関数によって評価する。評価関数は、荷物間の配置関係を評価する係数と、ホールド間の配置関係を評価する係数とによって構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る積み付け方法によれば、板状の荷物を運搬する船舶における積み付け順序を最適化することができる。上記以外の課題、構成、利点などについては、以下の実施形態の説明によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】船舶が備えるホールドの構造を模式的に示す図である。
【
図2】ホールドスライスと荷物スライスによって構成した荷物搭載状態の1例を模式的に示す図である。
【
図5】C
ijとA
nkの使い方を説明する例である。
【
図6】C
ijのうち積込評価係数について説明する図である。
【
図7】C
ijのうち積降評価係数について説明する図である。
【
図9】天井が開かないホールド内位置について説明する図である。
【
図10】ペナルティ関数H
AのうちOne-hot制約について説明する図である。
【
図11】ペナルティ関数H
Aのうちホールド容量制約について説明する図である。
【
図12】ペナルティ関数H
Aのうち2-gang制約について説明する図である。
【
図13】ペナルティ関数H
Aのうち固定スライス制約について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
本発明の実施形態においては、板材(板形状を有する荷物)を運搬する船舶に対してその荷物を搭載する順序(積み付け計画)を決定する手法について説明する。積み付け計画を作成する際には、考慮すべき条件がある。本実施形態においては、以下の条件を充足しつつ最適な積み付け計画を作成するものとする。
【0012】
(条件1)積込港(荷物を船舶に対して積み込む港)と積降港(荷物を船舶から積み降ろす港)ともに複数存在し得る。
(条件2)ホールドの一部には、天井が開かない部位が存在している。
(条件3)積込作業や積降作業を2つのホールドに対して平行して実施する港が存在し得る。すなわち、作業者(ギャング)集団が2組存在する港があり得る。以下ではこのような港を2-gang港と呼ぶ場合がある。またこの条件によって課される制約条件を2-gang制約と呼ぶ場合がある。
(条件4)積み込む荷物およびその積込先ホールドを指定する場合がある。
【0013】
図1は、本実施形態における船舶が備えるホールドの構造を模式的に示す図である。本実施形態においては、上下2段および船尾側と船首側で隣接する左右2つ、合計4つのホールドを有する船舶を想定する。各ホールドのサイズは同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0014】
板材(荷物)をホールドに対して積み付ける作業は、4つの大容器(ホールド)に対して、高さと奥行が同じ小容器(板材)を詰め込んでいく作業とみなすことができる。ただしそのようにみなした場合、小容器の船長方向(
図1のX方向)の長さは、積込港ごと/積降港ごとに異なることになる。本実施形態においては、積込作業をこのように抽象化し、荷物のX方向の長さを等分割することにより、全ての荷物を同サイズの容器の束として取り扱うこととする。ホールドも同様に等分割する。これにより、荷物の位置を上下前後に交換する試行が容易に可能となるので、組み合わせ最適化問題を解くアルゴリズムなどを用いて、積み付け計画の最適解を導出することができる。
【0015】
図2は、ホールドスライスと荷物スライスによって構成した荷物搭載状態の1例を模式的に示す図である。Loading Sliceは、ホールド内を等分割することによって構成したホールドスライスのスライス番号である。Package Sliceは、荷物を同様に等分割することによって構成した荷物スライスのスライス番号である。搭載状態は、これら2つの番号によって表すことができる。
【0016】
図2においてはさらに、荷物を積み込む積込港の番号(From)と、荷物を積み降ろす積降港の番号(To)とを併記した。積込港番号は{0,1}の2つのみであり、船舶はこの順に寄港する。積降番号は、{0,1,2,3,4,5,6}の7つであり、船舶はこの順に寄港する。例えばPackaging Slice 0は、港0において積み込まれ、港6において積み降ろされる。
図2内の[0,6]などの表記は、積込港と積降港がともに同じ荷物群を表している。
【0017】
図2のようなホールド構成においては、先に積み込んだ荷物を後に積み降ろすことが、作業効率の観点から望ましい。例えば積込作業時においては、上段ホールドに第1荷物を搭載するよりも前に下段ホールドに第2荷物を搭載し、積降作業時においては、上段ホールドの荷物を積み降ろした後に下段ホールドの荷物を積み降ろすことが望ましい。あるいは、積込作業時においては、船尾側ホールドに第1荷物を搭載するよりも前に船首側ホールドに第2荷物を搭載し、積降作業時においては、船尾側ホールドの荷物を積み降ろした後に船首側ホールドの荷物を積み降ろすことが望ましい。以下に説明する計画手順においては、このような条件を考慮することとする。
図2の搭載状態は、このような条件を考慮して作成した搭載状態の例である。
【0018】
図2のホールドスライスのうち、#0~#1、#10~#11、#12~#13、#22~#24、#34~#36、#44~#45は、天井が開かない部位である。この部位に対して荷物を搭載する際には、別途考慮すべき事項がある。これについては
図8~
図9と併せて後述する。
【0019】
図3は、評価関数Hの定義を説明する図である。評価関数Hは、ペナルティ関数H
Aと接続エネルギー関数H
Bの和によって表される。接続エネルギー関数H
Bは、荷物スライスの搭載状態を、荷物スライス間の接続エネルギーおよびホールドスライス間の接続エネルギーとして定式化することにより、その接続エネルギーを最小化するように状態変数を探索することを介して、最適な荷物積込状態を探索アルゴリズムによって解くためのものである。ペナルティ関数H
Aについては後述する。
【0020】
図3の数式において、qは荷物スライスの位置を表す状態変数である。C
ijは、荷物スライス間の接続エネルギーに対して重み付けすることにより、荷物スライス間の配置関係を評価するために用いる、荷物スライス評価係数である。A
nkは、ホールドスライス間の接続エネルギーに対して重み付けすることにより、ホールドスライス間の配置関係を評価するために用いる、ホールドスライス評価係数である。
【0021】
本実施形態においては、評価関数Hを最小化する(接続エネルギーを最小化する)ような状態変数qを、例えばシミュレーテッドアニーリングなどの最適化アルゴリズムによって探索する。
【0022】
図4は、状態変数qの例を示す。状態変数qは、荷物jがホールドiに搭載されているときq
ij=1、搭載されていないときq
ij=0、であるバイナリ値によって構成された行列として表すことができる。qは後述するOne-hot行列として構成する必要がある。
【0023】
図5は、C
ijとA
nkの使い方を説明する例である。
図5の例において、荷物スライス#3が持っている接続エネルギーは、以下の合計である:
A
3,2×C
3,1×q
3,3×q
2,1
A
3,1×C
3,0×q
3,3×q
1,0
A
3,0×C
3,2×q
3,3×q
0,2
【0024】
図6は、C
ijのうち積込評価係数について説明する図である。C
ijは、C
ij=CL
ij×AMP
LOADING+CD
ij×AMP
DISCHARGEとして定式化することができる。CL
ij×AMP
LOADINGは、荷物スライスを積み込む順番を評価する積込評価係数である。CD
ij×AMP
DISCHARGEは、荷物スライスを積み降ろす順番を評価する積降評価係数である。
図6はこれらのうちCL
ijの例を図示している。AMP
LOADINGとAMP
DISCHARGEは、任意に設定することができる。
【0025】
(1)CLijを-1と評価とするのは以下の積込状態の場合である:
下層または船首側の荷物jの積込港が、上層または船尾側の荷物iの積込港よりも手前である、つまり、if iの積込港>jの積込港:CL[i,j]=-1
(2)CLijを+1と評価するのは上記以外の積込状態の場合である:
下層または船首側の荷物jの積込港が、上層または船尾側の荷物iの積込港よりも後である、つまり、if iの積込港<jの積込港:CL[i,j]=1
(3)CLijを0と評価するのは上記以外の積込状態の場合:
下層または船首側の荷物jの積込港が、上層または船尾側の荷物iの積込港が同じである、つまり、if iの積込港=jの積込港:CL[i,j]=0
【0026】
図7は、C
ijのうち積降評価係数について説明する図である。CD
ijは以下のように定義することができる。
【0027】
(1)CDijを-1と評価とするのは以下の積込状態の場合である:
下層または船首側の荷物jの積降港が、上層または船尾側の荷物iの積降港よりも後である、つまり、if iの積降港<jの積降港:CD[i,j]=-1
(2)CDijを+1と評価するのは上記以外の積込状態の場合である:
下層または船首側の荷物jの積降港が、上層または船尾側の荷物iの積降港よりも手前である、つまり、if iの積降港>jの積降港:CD[i,j]=1
(3)CDijを0と評価するのは上記以外の積込状態の場合である:
下層または船首側の荷物jの積降港が、上層または船尾側の荷物iの積降港が同じである、つまり、if iの積降港=jの積降港:CD[i,j]=0
【0028】
図8は、A
nkの例を示す図である。A
nkは、荷物スライスq
niとq
kjを搭載した状態において、ホールドnとkとの間の配置関係が望ましいか否かを評価するために用いられる。A
nkは、ホールドnとkとの間の配置関係が望ましくない場合、評価関数Hを増加させる(評価値を改悪する)ように構成されている。
【0029】
例えば上段ホールドに対して荷物を搭載した後に下段ホールドに対して荷物を搭載するように、ホールドnとk(すなわち荷物スライスq
niとq
kj)との間の配置関係が構成されている場合、接続エネルギーを増加させる。
図8におけるAMP_Z_DIMENSIONはそのための係数である。同様に、船尾側ホールドに対して荷物を搭載した後に船首側ホールドに対して荷物を搭載するような配置関係についても、接続エネルギーを増加させる。AMP_X_DIMENSIONはそのための係数である。同一ホールド内における荷物配置についても、ホールド間の配置関係(AMP_X_DIMENSION)と同様に評価する。A
nk=-1となっている部分については
図9と併せて説明する。体格のホールドについては評価しない(A
nk=0)。
【0030】
図9は、天井が開かないホールド内位置について説明する図である。
図9において、各ホールドは船首側と船尾側それぞれにおいて天井が開かない部位を有している。
図9の楕円で囲んだ部分がこれに相当する。この部位に対して荷物を積み込む際には、新たな考慮が必要である。
【0031】
具体的には、この部位に対して荷物を積み込む際には、ホールドの奥から手前に向かって寄港順に積み込むことが望ましく、荷物を積み降ろす際には、ホールドの手前から奥に向かって寄港逆順に積み降ろすことが望ましい。そこで、そのような積み付け計画になっている場合は、評価値を改善するように、Ankをセットしてもよい。
【0032】
図2で説明した天井が開かないホールドスライスのうち、船尾側に配置されているもの(#10~#11、#22、#34、#44~#45)については、ホールド内の奥から手前に向かって寄港順に積み込むことが望ましい。すなわちこの場合においてのみ、船首側から積み込むのではなく船尾側から積み込むことが望ましいことになるので、そのような場合は評価を反転する必要がある。そこで
図8のA
nkのうち、これらのホールドスライスおよびこれに隣接するホールドスライスについては、本来であればA
nk=1とすべきところ、評価を反転してA
nk=-1とした。天井が開かないホールドスライスが船首側である場合は、このような反転は必要ない。
【0033】
図10は、ペナルティ関数H
AのうちOne-hot制約について説明する図である。ペナルティ関数H
Aは、状態変数qが制約条件を満たさないとき評価関数Hに対してペナルティを課すために構成された関数である。ペナルティ関数H
Aは、(a)One-hot制約、(b)ホールド容量制約、(c)2-gang制約、(d)固定スライス制約、の合算である。
【0034】
すべての荷物スライスはすべてのホールドスライスのうちいずれかに必ず1個だけ収まる。換言すると、状態変数qは、全ての行列について、値が1である変数が必ず1つだけ存在する、One-hot行列でなければならない。したがってOne-hot行列は、次元Nの正方行列となる。One-hot制約はこの制約条件を表すものである。状態変数qが
図10の各式を満たさない場合、評価関数Hに対してペナルティを加算する。
【0035】
図11は、ペナルティ関数H
Aのうちホールド容量制約について説明する図である。ホールド内の荷物の合計容量は、そのホールドが搭載可能な容量を超えてはならない。全てのホールドについてこの制約を満たす必要がある。いずれか1つでもホールド内の荷物容量の合計がそのホールドの搭載可能容量を超える場合、評価関数Hに対してペナルティを加算する。この制約は
図11の式によって表される。One-hot制約とホールド容量制約は、積み付け問題の性質上、デフォルトで加算される制約となる。
【0036】
図12は、ペナルティ関数H
Aのうち2-gang制約について説明する図である。2-gang港においては、2組のギャングがそれぞれ別のホールドに対して並行して荷物を積み降ろす作業を実施する。したがって、2-gang港において荷物を積み降ろす際に、隣接する2つのホールドから同時に荷物を積み降ろすことになるので、これらのホールドが搭載している荷物の個数は近接している(より望ましくは同数)ことが望ましい。
図12の式は、この制約条件を表している。
【0037】
例えば合計12個の荷物スライスが隣接する2つのホールドへ分配される場合、
図12の式は、(9,3)(8,4)(7,5)(6,6)のように各ホールドへ略均等に荷物が分配されていれば0を返し、(12,0)(11,1)(10,2)などのように偏って配分されている場合は1を返す。これにより、2-gang積降港において荷物スライスの配分が望ましければ評価値が改善し、望ましくなければ(偏って配分されていれば)評価値が改悪されることになる。
【0038】
図13は、ペナルティ関数H
Aのうち固定スライス制約について説明する図である。荷物を積み付ける際に、特定の荷物についてその積み付け先であるホールドを指定する場合がある。このような荷物については、その指定を充足しない場合、評価関数Hに対してペナルティを加算する。
図13の式は、この制約条件を表している。
【0039】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態に係る積み付け方法は、板状の荷物とホールドをそれぞれ等幅の荷物スライスとホールドスライスへ分割し、荷物スライス評価係数Cijとホールドスライス評価係数Ankによって構成された評価関数Hを用いて、荷物の搭載状態を表す状態変数qijを評価する。荷物とホールドをスライスへ分割することにより、荷物の配置を変更する試行を容易に実施することが可能となり、組み合わせ最適化問題を解くアルゴリズム(本実施形態においてはシミュレーテッドアニーリング)を用いて積み付け計画を作成することができる。すなわち、板状の荷物を積み付けるのに適した手法を用いて、最適な積み付け計画を作成することができる。
【0040】
本実施形態に係る積み付け方法は、積込評価係数CLij×AMPLOADINGと積降評価係数CDij×AMPDISCHARGEを用いて、積込順序と積降順序が作業効率のよいものとなっているか否かを評価する。これにより、積込作業と積降作業それぞれの作業効率を考慮した積み付け計画を作成することができる。
【0041】
本実施形態に係る積み付け方法は、ホールドに対する積込順序をホールドスライス評価係数Ankによって評価するとともに、天井が開かないホールド部位については、ホールドの奥から手前に向かって、積込時は寄港順に積み込むこと、積降時は寄港逆順に積み降ろすことを、肯定的に評価する。これにより、原則としては船首側から船尾側に向かって積み込むように搭載状態を最適化しつつ、天井が開かないホールド部位についてはその特殊条件を考慮した最適化が可能となる。
【0042】
本実施形態に係る積み付け方法は、ペナルティ関数HAが表すOne-hot制約とホールド容量制約を、評価関数Hに対して加算する。これにより、ホールドが充足すべき物理的な制約条件を満たす、現実的な積み付け状態を得ることができる。
【0043】
本実施形態に係る積み付け方法は、ペナルティ関数HAが表す制約条件として、2-gang制約を評価関数Hに対して加算する。2-gang制約は、実際の制約ではなく、2-gang港において効率的に作業できるような積み付け状態を得るために、便宜上ペナルティとして加算するものである。このように、積込港/積降港とは別の観点の評価項目をペナルティとして組み込むことにより、個別の評価項目についても探索プロセスのなかで最適化することができる。
【0044】
<実施の形態2>
図14は、本発明の実施形態2に係る積み付け装置1の構成図である。積み付け装置1は、実施形態1で説明した積み付け方法を実施する装置である。積み付け装置1は、演算部11、記憶部12を備える。演算部11は、積み付け装置1に対する指示(例:固定スライス制約における固定指定)を受け取ることもできる。
【0045】
演算部11は、実施形態1で説明した積み付け方法を実施する機能部である。演算部11は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0046】
記憶部12は、演算部11が用いるデータを格納する記憶装置である。例えば荷物スライスとホールドスライスの初期値を記述したデータ、評価関数Hおよびその各係数などを記述したデータ、固定スライス制約において指定する荷物とホールドを記述したデータ、などを格納することができる。演算部11による演算結果を格納することもできる。
【0047】
演算部11は、積み付け方法を実施することによって得た積み付け状態を記述したデータを、任意の方法によって出力する。例えばその結果を記述したデータを出力する、積み付け装置1が備えるディスプレイなどの出力デバイス上で提示する、などの態様で出力することができる。
【0048】
<本発明の変形例について>
以上の実施形態において、積み付け計画問題を解くアルゴリズムとしてシミュレーテッドアニーリングを例示したが、その他任意の最適化アルゴリズムを用いてもよい。積み付け装置1は、例えばイジングマシンとして構成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:積み付け装置
11:演算部
12:記憶部