(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025145843
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】めっき皮膜付銅端子材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20250926BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20250926BHJP
C25D 5/50 20060101ALI20250926BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
C25D5/50
H01R13/03 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024046299
(22)【出願日】2024-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA09
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB02
4K024GA03
(57)【要約】
【課題】コネクタとして使用した際に主に凝着の発生を防止することにより、挿抜力を安定的に低減しためっき皮膜付銅端子材を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる基材の上にニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層、銅錫合金層、錫又は錫合金からなる錫層がこの順で積層されてなる皮膜が形成されるとともに、銅錫合金層は、Cu
6Sn
5合金層を主成分とし、Cu
6Sn
5合金層は、その銅の一部がニッケルに置換した化合物を有する合金層であり、一部が錫層の表面に露出しており、錫層の表面に露出する銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であり、錫層は、0.2μm以上1.2μm以下の平均厚さを有し、ニッケル層は、その平均厚さが0.05μm以上2.0μm以下であり、皮膜の表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm
―1を超え200mm
―1以下で、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材の上にニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層、銅と錫との合金からなる銅錫合金層、錫又は錫合金からなる錫層がこの順で積層されてなる皮膜が形成されるとともに、前記銅錫合金層は、Cu6Sn5合金層を主成分とし、前記Cu6Sn5合金層は、その銅の一部がニッケルに置換した化合物を有する合金層であり、一部が前記錫層の表面に露出しており、前記錫層の表面に露出する前記銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であり、前記錫層は、0.2μm以上1.2μm以下の平均厚さを有し、前記ニッケル層は、その平均厚さが0.05μm以上2.0μm以下であり、前記皮膜の表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下で、かつ10視野測定時の前記Spcの標準偏差/平均値が30%以内であることを特徴とするめっき皮膜付銅端子材。
【請求項2】
前記Cu6Sn5合金層中にニッケルが0.1at%以上25at%以下含有されていることを特徴とする請求項1記載のめっき皮膜付銅端子材。
【請求項3】
前記銅錫合金層は、前記ニッケル層の少なくとも一部の上に配置されるCu3Sn合金層と、該Cu3Sn合金層又は前記ニッケル層の少なくともいずれかの上に配置される前記Cu6Sn5合金層とからなり、かつ、前記Cu6Sn5合金層に対するCu3Sn合金層の体積比率が20%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のめっき皮膜付銅端子材。
【請求項4】
銅又は銅合金からなる基材の上に皮膜が形成されためっき皮膜付銅端子材を製造する方法であって、前記基材の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層、銅又は銅合金からなる銅めっき層、錫又は錫合金からなる錫めっき層を順に形成してなるめっき材を形成するめっき工程と、前記めっき材を加熱してリフロー処理するリフロー工程とを有し、前記ニッケルめっき層の厚さを0.05μm以上2.0μm以下とし、前記銅めっき層の厚さを0.05μm以上0.40μm以下とし、前記錫めっき層の厚さを0.5μm以上1.5μm以下とし、前記リフロー工程は、前記めっき材を20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上まで加熱する一次加熱工程と、該一次加熱工程の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱する二次加熱工程と、該二次加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、該一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有し、前記一次冷却工程では前記めっき材の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付けることを特徴とするめっき皮膜付銅端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子、特に多ピンコネクタ用の端子として有用なめっき皮膜付銅端子材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被膜付銅端子材として、銅合金からなる基材の上に銅(Cu)めっき層及び錫(Sn)めっき層を形成した後に、ウイスカの発生を抑制するためリフロー処理することにより、表層の錫層の下層に銅錫(CuSn)合金層が形成されたものがあり、接続信頼性が高く、安価に製造できるため、端子材として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cu合金板条からなる母材の表面に、Cu6Sn5相を主体とするCu-Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された導電材料が開示されている。この導電材料は、母材表面を、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上かつ全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さに粗面化し、その母材表面にCuめっき層及びSnめっき層を順に形成した後、リフロー処理することにより製造される。
【0004】
また、特許文献2には、銅または銅合金からなる基材上の下地層の表面に、多数のCu-Sn系合金の結晶粒からなるCu-Sn系合金層と、最表面において隣接するCu-Sn系合金の結晶粒間の凹部内のSn層とからなる最表層が形成されたSnめっき材が開示されており、最表面においてSn層16が占める面積率が20~80%であり、Sn層16の最大厚さがCu-Sn系合金の結晶粒の平均粒径より小さくなっていると記載されている。
【0005】
しかしながら、錫層(Sn層)は軟らかいことから、接点同士で凝着が起こりやすく、また、接点同士の接触面積が大きくなることでコネクタ挿入時の摩擦力が過大になり、特に多ピン端子などで挿入が困難になるという問題がある。
【0006】
特許文献3には、導電性基体上にNiなどの下地層が設けられ、その上に銅または銅合金の中間層が設けられ、その上にCu-Sn金属間化合物からなる最外層が設けられためっき材料が開示されており、最外層が硬質のCu-Sn金属間化合物層からなるため、端子間の接触圧力を小さくしても、フレッティング現象が起き難いと記載されている。
しかし、最外層がCu-Sn金属間化合物層では、高温時に銅(Cu)が拡散して表面に銅の酸化物が形成され易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-077307号公報
【特許文献2】特開2015-180770号公報
【特許文献3】特開2007-247060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、コネクタとして使用した際に主に凝着の発生を防止することにより、挿抜力を安定的に低減しためっき皮膜付銅端子材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のめっき皮膜付銅端子材は、銅又は銅合金からなる基材の上にニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層、銅と錫との合金からなる銅錫合金層、錫又は錫合金からなる錫層がこの順で積層されてなる皮膜が形成されるとともに、前記銅錫合金層は、Cu6Sn5合金層を主成分とし、前記Cu6Sn5合金層は、その銅の一部がニッケルに置換した化合物を有する合金層であり、一部が前記錫層の表面に露出しており、前記錫層の表面に露出する前記銅錫合金層の露出面積率が1%以上60%以下であり、前記錫層は、0.2μm以上1.2μm以下の平均厚さを有し、前記ニッケル層は、その平均厚さが0.05μm以上2.0μm以下であり、前記皮膜の表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下で、かつ10視野測定時の前記Spcの標準偏差/平均値が30%以内である。
【0010】
このめっき皮膜付銅端子材は、表面が錫層からなるため、錫層本来の良好な電気特性を有している。この錫層の平均厚さは0.2μm未満であると、高温時にCuが拡散して表面にCuの酸化物が形成され易くなることから接触抵抗が増加するおそれがあり、1.2μmを超えると、柔軟な錫層によりコネクタとしての使用時の挿抜力が増大し、コネクタの多ピン化に伴う挿抜力の低減を図り難い。
銅錫合金層は、Cu6Sn5合金層を主成分とし、Cu6Sn5合金層は、その銅の一部がニッケルに置換した化合物である(Cu,Ni)6Sn5合金が存在することにより、錫層との界面を急峻な凹凸形状とすることができる。
また、皮膜表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下としたことにより、動摩擦係数を低減でき、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以内としたことにより、その動摩擦係数が安定し、局部的に変動することも抑制される。
【0011】
この山頂点の算術平均曲がりSpcはISO-25178で規定されており、その値が大きいほど尖っていることを示す。Spcが70mm―1以下では平坦に近くなるため、コネクタとして相手端子に接触したときの接触面積が大きくなり、また凝着が発生しやすくなるため、動摩擦係数が増大する。Spcが200mm―1を超えると、表面の凹凸が急峻になり過ぎるため、相手端子の掘り起こしが発生する。Spcの標準偏差/平均値が30%を超えると、動摩擦係数に局部的な変動が生じて安定しない。Spcは90mm―1以上180mm―1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0012】
また、錫層と銅錫合金層との界面を急峻な凹凸形状とすることができ、表層付近が錫層の錫と銅錫合金が複合した構造となり、硬い銅錫合金層の間にある軟らかい錫が潤滑剤の作用を果たし動摩擦係数を下げることができ、耐摩耗性も向上する。
この場合、錫層の表面における銅錫合金層の露出面積率が1%未満では動摩擦係数を低減する効果に乏しく、60%を超えると、電気接続特性が低下するおそれがある。面積率の下限は望ましくは1.5%以上、上限は50%以下である。より望ましくは、下限は2%以上、上限は40%以下である。
【0013】
ニッケル層の平均厚さを0.05μm以上2.0μm以下としたのは、0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するNi含有量が少なくなるため、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなり、2.0μmを超えると曲げ加工等が困難となる。ニッケル層の平均厚さは望ましくは0.075μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。なお、ニッケル層に基材からのCuの拡散を防ぐ障壁層としての機能をもたせ耐熱性を向上させる場合には、ニッケルめっき層の厚みは0.1μm以上とすることが望ましい。
【0014】
本発明のめっき皮膜付銅端子材は、前記Cu6Sn5合金層中にニッケルが0.1at%以上25at%以下含有されているとよい。
【0015】
ニッケル含有量を0.1at%以上と規定したのは、0.1at%未満ではCu6Sn5合金層の銅の一部がニッケルに置換した化合物を有する合金層が形成されず、急峻な凹凸形状となりにくいためであり、25at%以下と規定したのは、25at%を超えると銅錫合金層の形状が微細になりすぎる傾向にあり、銅錫合金層が微細になりすぎると動摩擦係数を0.3以下にすることができない場合があるためである。Cu6Sn5合金層中のニッケル含有量の下限は望ましくは2at%以上、上限は好ましくは20at%以下である。
【0016】
本発明のめっき皮膜付銅端子材は、前記銅錫合金層は、前記ニッケル層の少なくとも一部の上に配置されるCu3Sn合金層と、該Cu3Sn合金層又は前記ニッケル層の少なくともいずれかの上に配置される前記Cu6Sn5合金層とからなり、かつ、前記Cu6Sn5合金層に対するCu3Sn合金層の体積比率が20%以下であるとよい。
【0017】
ニッケル層、又は当該層の少なくとも一部にCu3Sn合金層が形成され、それらの上にCu6Sn5合金層が形成されることにより、銅錫合金層の表面を急峻な凹凸形状とするのに有利である。この場合、Cu6Sn5合金層に対するCu3Sn合金層の体積比率が20%以下としたのは、Cu3Sn合金層の体積比率が20%を超えるとCu6Sn5合金層が縦方向に成長せず、Cu6Sn5合金層が急峻な凹凸形状となりにくいためである。Cu6Sn5合金層に対するCu3Sn合金層の体積比率は望ましくは15%以下、より望ましくは10%以下である。
【0018】
本発明のめっき皮膜付銅端子材の製造方法は、前記基材の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層、銅又は銅合金からなる銅めっき層、錫又は錫合金からなる錫めっき層を順に形成してなるめっき材を形成するめっき工程と、前記めっき材を加熱してリフロー処理するリフロー工程とを有し、前記ニッケルめっき層の厚さを0.05μm以上2.0μm以下とし、前記銅めっき層の厚さを0.05μm以上0.40μm以下とし、前記錫めっき層の厚さを0.5μm以上1.5μm以下とし、前記リフロー工程は、前記めっき材を20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃以上まで加熱する一次加熱工程と、該一次加熱工程の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱する二次加熱工程と、該二次加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、該一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有し、前記一次冷却工程では前記めっき材の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付ける。一次冷却工程の冷却炉におけるめっき材通板部の断面積が4m2であるため、風速に換算すると冷却風を2.5m/分以上75m/分以下の風速で吹き付けることになる。
【0019】
前述したように基材にニッケル又はニッケル合金めっきすることにより、リフロー処理後(Cu,Ni)6Sn5合金を形成させ、これにより銅錫合金層の凹凸が急峻になって動摩擦係数を0.3以下とすることができる。
ニッケルめっき層の厚さが0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金が形成されなくなり、2.0μmを超えると曲げ加工等が困難となる。なお、ニッケル層に基材からの銅の拡散を防ぐ障壁層としての機能をもたせ耐熱性を向上させる場合、あるいは、耐摩耗性を向上させる場合には、ニッケルめっき層の厚さは0.1μm以上とすることが望ましい。めっき層は、純ニッケルに限定されず、ニッケルコバルト(Ni-Co)やニッケルタングステン(Ni-W)等のニッケル合金でも良い。
【0020】
銅めっき層の厚さが0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するニッケル含有量が多くなり、銅錫合金の形状が微細になりすぎてしまい、表面に露出するほど縦方向(表面法線方向)に十分に成長しないため、動摩擦係数を0.3以下とすることができず、0.40μmを超えると、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、横方向(表面法線方向に直交する方向)に大きく成長し、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなる。
錫めっき層の厚さが0.5μm未満であると、リフロー後の錫層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、1.5μmを超えると、表面への銅錫合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。
【0021】
加熱工程を二段階の異なる条件で実施することにより、錫凝固部を生成し易くしている。一次加熱工程では急加熱して、早い段階で240℃以上の高温状態まで加熱し、その後、240℃以上300℃以下の温度で二次加熱することにより、表面の錫層の溶融時間を長く確保している。
【0022】
これにより、錫層との界面が鋭利な凹凸状となった銅錫合金層の一部が表面に露出することと相まって、溶融状態の錫が銅錫合金層にはじかれるようにして凝集する。この場合、一次加熱での昇温速度が20℃/秒未満であると、錫が溶融するまでの間に銅原子が錫の粒界中を優先的に拡散し粒界近傍で金属間化合物が異常成長するため、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されにくくなる。一方、昇温速度が75℃/秒を超えると、金属間化合物の成長が不十分となり、その後の冷却において所望の金属間化合物層を得ることが難しくなる。一次加熱工程での到達温度が240℃未満では、錫の溶融が不十分となる。二次加熱工程では、ピーク温度が300℃を超えると、銅錫金属間化合物が急激に成長し銅錫合金層の凹凸が過大になるので好ましくない。その加熱時間が15秒を超えると錫の凝集が過大となって動摩擦係数が大きくなる傾向にある。1秒未満では、錫の溶融が不十分となり、所望の表面状態の錫層が形成され難い。二次加熱工程の昇温速度は0℃/s以上19℃/s以下が好ましい。つまり、二次加熱工程では、240℃以上300℃以下の温度の温度範囲において、温度を適宜昇降してもよいし、一定温度に維持してもよい。
【0023】
次いで冷却工程において、一次冷却工程を設けて、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下として錫の融点以下の温度まで冷却し、その後、二次冷却工程において大きい冷却速度で急冷する。この冷却工程において、一次冷却工程では、所定の炉内温度の冷却炉においてめっき材の表面に所定の冷却風を吹き付けることにより、錫の融点以下の温度で表面形状を適切に制御して、めっき皮膜表面における山頂点の算術平均曲がりSpcを70mm―1を超え200mm―1以下で、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値(CV値)を30%以内にすることができる。
【0024】
この場合、冷却炉の炉内温度が20℃未満では冷却速度が速すぎてSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまい、Spcを200mm―1以下、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を30%以内にすることができない。70℃を超えると錫の融点以下の温度までの冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。めっき材の材料到達温度については150℃未満では冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。220℃を超えると錫が半溶融状態のまま二次冷却されてしまい、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。材料到達温度は好ましくは160℃以上210℃以下であり、さらに好ましくは170℃以上200℃以下である。冷却風量が10m3/分未満では、冷却が十分に行われないことでSpcが過小となってしまい70mm―1以上にすることができない。一方、冷却風量が300m3/分を超えると、多量の風が当たることで、溶融した錫が流動してしまいSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0025】
次いで二次冷却工程によって急冷して金属間化合物層の成長を所望の構造で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、金属間化合物がより進行し、所望の金属間化合物形状を得ることができない。300℃/秒を超える冷却速度とするのは難しい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、錫層表面における山頂点の算術平均曲がりSpcを70mm―1を超え200mm―1以下とし、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値を30%以内としたことにより、コネクタとして使用した際に主に凝着の発生を防止することにより、動摩擦係数を低減するとともにその動摩擦係数が安定し、挿抜力を安定して低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のめっき皮膜付銅端子材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1のめっき皮膜付銅端子材の製造途中のめっき材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のめっき皮膜付銅端子材の実施形態を説明する。
この実施形態の皮膜付銅端子材1は、
図1に示すように、銅又は銅合金からなる基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層3、銅及び錫の合金からなる銅錫合金層4、錫又は錫合金からなる錫層5がこの順に積層されてなる皮膜6が形成されている。
【0029】
基材2は帯板状に形成された条材であり、表面が銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0030】
基材2の上の皮膜6は、後述するように、基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき、銅又は銅合金からなる銅めっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施した後、加熱してリフロー処理することにより形成される。
【0031】
ニッケル層3の平均厚さを0.05μm以上2.0μm以下としたのは、0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するNi含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層4が形成されなくなり、2.0μmを超えると曲げ加工等が困難となる。ニッケル層3の平均厚さは望ましくは0.075μm以上、より好ましくは0.1μm以上である。なお、ニッケル層3に基材2からのCuの拡散を防ぐ障壁層としての機能をもたせ耐熱性を向上させる場合には、ニッケルめっき層12の厚みは0.1μm以上とすることが望ましい。
【0032】
銅錫合金層4は、0.2μm以上2.5μm以下の平均厚さに形成される。その厚さが0.2μm未満であると、高温環境下で接触抵抗が増大するおそれがある。その厚さが2.5μmを超えると、この銅錫合金層4が硬質であるため、曲げ加工時に割れ発生の原因となる可能性がある。銅錫合金層4の平均結晶粒径は0.2μm以上1.5μm以下であるのが好ましい。
【0033】
この銅錫合金層4は、Cu6Sn5合金層8を主成分とし、Cu6Sn5合金層8は、その銅の一部がニッケルに置換した化合物を有する合金層である。
この場合、Cu6Sn5合金層8中にニッケルが0.1at%以上25at%以下含有されているとよい。
Cu6Sn5合金層8中のニッケル含有量が0.1at%未満ではCu6Sn5の銅の一部がニッケルに置換した化合物合金層が形成されず、急峻な凹凸形状となりにくい。25at%を超えると銅錫合金層4の形状が微細になりすぎる傾向にあり、銅錫合金層4が微細になりすぎると動摩擦係数を0.3以下にすることができない場合がある。Cu6Sn5合金層8中のニッケル含有量の下限は望ましくは2at%以上、上限は20at%以下である。
【0034】
銅錫合金層4は、前記ニッケル層の少なくとも一部の上に配置されるCu3Sn合金層7と、該Cu3Sn合金層7又は前記ニッケル層の少なくともいずれかの上に配置される前記Cu6Sn5合金層8とからなり、かつ、前記Cu6Sn5合金層8に対するCu3Sn合金層7の体積比率が20%以下であるとよい。
この場合、Cu6Sn5合金層8に対するCu3Sn合金層7の体積比率は20%以下が好ましい。
【0035】
このCu3Sn合金層7の上にCu6Sn5合金層8が形成されることにより、銅錫合金層4の表面(錫層5との界面)を急峻な凹凸形状とするのに有利である。この場合、Cu6Sn5合金層8に対するCu3Sn合金層7の体積比率が20%を超えるとCu6Sn5合金層8が縦方向に成長しにくく、Cu6Sn5合金層8が急峻な凹凸形状となりにくい。Cu6Sn5合金層8に対するCu3Sn合金層7の体積比率は望ましくは15%以下、より望ましくは10%以下である。
【0036】
また、錫層5の表面に露出する銅錫合金層4の露出面積率は1%以上60%以下であるとよい。錫層5の表面における銅錫合金層4の露出面積率が1%未満では動摩擦係数を低減する効果に乏しく、60%を超えると、電気接続特性が低下するおそれがある。面積率の下限は望ましくは1.5%以上、上限は50%以下である。より望ましくは、下限は2%以上、上限は40%以下である。
【0037】
錫層5の平均厚さは0.2μm以上1.2μm以下である。錫層5は、その潤滑性によりコネクタとしての挿抜力を低く抑えるとともに、接触抵抗を低減して優れた電気特性を発揮するが、その平均厚さが0.2μm未満では錫の優れた特性を得ることが難しくなる。また、はんだ付け性や耐食性も低下するおそれがある。一方、錫層5の平均厚さが1.2μmを超えると、軟らかいため凝着が生じ易くなり、コネクタとしての使用時の挿抜力が増大し、コネクタの多ピン化に伴う挿抜力の低減を図り難い。この錫層5の平均厚さは望ましくは0.3μm以上1.1μm以下である。
【0038】
そして、この錫層5の表面において、前述したように銅錫合金層4の一部が露出しているとともに、この銅錫合金層4の露出部を含む錫層5の全面において、山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下であり、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以内である。
この山頂点の算術平均曲がりSpcはISO-25178で規定されており、その値が大きいほど尖っていることを示す。Spcが70mm―1以下では平坦に近くなるため、コネクタとして相手端子に接触したときの接触面積が大きくなり、また凝着が発生しやすくなるため、動摩擦係数が増大する。Spcが200mm―1を超えると、表面の凹凸が急峻になり過ぎるため、相手端子の掘り起こしが発生する。Spcの標準偏差/平均値が30%を超えると、動摩擦係数に局部的な変動が生じて安定しない。Spcは90mm―1以上180mm―1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0039】
以上のように構成された皮膜付銅端子材1の製造方法について説明する。
この皮膜付銅端子材1は、基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき、銅又は銅合金からなる銅めっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを施すことにより、
図2に示すように、基材2上にニッケルめっき層12、銅めっき層13、錫めっき層14を順に積層しためっき材11を形成した後、加熱してリフロー処理することにより形成される。
基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にする。
【0040】
ニッケルめっき層12を形成するためのニッケルめっきは一般的なニッケルめっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸ニッケル(NiSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上60℃以下、電流密度は5~60A/dm2以下とされる。このニッケルめっき層12の膜厚は0.05μm以上2.0μm以下とされる。0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなり、2.0μmを超えると曲げ加工等が困難となるためである。
【0041】
銅めっき層13を形成するための銅めっきは一般的な銅めっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO4)及び硫酸(H2SO4)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20~50℃、電流密度は1~30A/dm2とされる。このCuめっきにより形成される銅めっき層13の膜厚は0.05μm以上0.40μm以下とされる。0.05μm未満では、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するNi含有量が大きくなり、銅錫合金の形状が微細になりすぎてしまい、0.40μmを超えると、(Cu,Ni)6Sn5合金に含有するニッケル含有量が少なくなり、急峻な凹凸形状の銅錫合金層が形成されなくなるためである。
【0042】
錫めっき層14を形成するための錫めっきのめっき浴としては、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸第一錫(SnSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1~30A/dm2とされる。この錫めっき層14の膜厚は0.5μm以上1.5μm以下とされる。錫めっき層の厚さが0.5μm未満であると、リフロー後の錫層が薄くなって電気接続特性が損なわれ、1.5μmを超えると、表面への銅錫合金層の露出が少なくなって動摩擦係数を0.3以下にすることが難しい。
【0043】
リフロー処理はめっき材11を加熱して、銅めっき層13及び錫めっき層14を一旦溶融させた後急冷する。具体的には、めっき材11をCO還元性雰囲気にした加熱炉内で20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で240℃まで加熱する一次加熱工程と、該一次加熱工程の後に、240℃以上300℃以下の温度で1秒以上15秒以下の時間加熱する二次加熱工程と、二次加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。
この場合、一次冷却工程ではめっき材11の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付けることが行われる。冷却風の温度は30℃以上60℃以下が好ましい。
【0044】
このリフロー処理を還元性雰囲気で行うことにより錫めっき層14表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となり、所望の銅錫合金構造を作製することが容易となる。
【0045】
また、加熱工程を二段階の異なる条件で実施することにより、銅錫合金層4の一部が錫層5に露出し易くしている。一次加熱工程では急加熱して、早い段階で240℃の高温状態まで加熱し、その後、240℃以上300℃以下の温度で二次加熱することにより、表面の錫層5の溶融時間を長く確保している。
【0046】
これにより、錫層5との界面が鋭利な凹凸状となった銅錫合金層4の一部が表面に露出することと相まって、溶融状態の錫が銅錫合金層4にはじかれるようにして凝集する。この場合、一次加熱での昇温速度が20℃/秒未満であると、錫が溶融するまでの間に銅原子が錫の粒界中を優先的に拡散し粒界近傍で金属間化合物が異常成長するため、急峻な凹凸形状の銅錫合金層4が形成されにくくなる。一方、昇温速度が75℃/秒を超えると、金属間化合物の成長が不十分となり、その後の冷却において所望の金属間化合物層を得ることが難しくなる。この一次加熱工程での到達温度が240℃未満では、錫の溶融が不十分となる。
【0047】
二次加熱工程では、240℃以上300℃以下の範囲内であれば温度は適宜昇降させても特定の温度で保持しても良いが、ピーク温度が300℃を超えると、銅錫金属間化合物が急激に成長し銅錫合金層の凹凸が過大になるので好ましくない。その加熱時間が15秒を超えると錫の凝集が過大となって動摩擦係数が大きくなる傾向にある。1秒未満では、錫の溶融が不十分となり、所望の表面状態の錫層5が形成され難い。この二次加熱の時間は一次加熱工程の到達温度からの昇温・降温がある場合はその時間も含むものとする。二次加熱のピーク温度は250℃以上がより好ましい。二次加熱の昇温速度は0℃/s以上19℃/s以下が好ましい。
【0048】
また、加熱後の冷却工程も二段階とし、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程を設けて、錫の融点以下まで冷却し、その後、二次冷却工程において大きい冷却速度で急冷する。この冷却工程において、一次冷却工程では、所定の炉内温度の冷却炉においてめっき材5の表面に所定の冷却風を吹き付けることにより、錫の融点以下の温度で表面形状を適切に制御して、皮膜(錫層5)表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下で、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値(CV値)を30%以内にすることができる。
【0049】
この場合、冷却炉の炉内温度が20℃未満では冷却速度が速すぎてSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまい、Spcを200mm―1以下、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を30%以内にすることができない。70℃を超えると錫の融点以下の温度までの冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。めっき材の材料到達温度については150℃未満では冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。220℃を超えると錫が半溶融状態のまま二次冷却されてしまい、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。材料到達温度は好ましくは160℃以上210℃以下であり、さらに好ましくは170℃以上200℃以下である。冷却風量が10m3/分未満では、冷却が十分に行われないことでSpcが過小となってしまい70mm―1以上にすることができない。一方、冷却風量が300m3/分を超えると、多量の風が当たることで、溶融した錫が流動してしまいSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
なお、冷却風は、めっき材11の表面から10cm程度の高さ位置から、めっき材11に垂直に吹き付けられる。
【0050】
次いで二次冷却工程によって急冷して所望の表面形状で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、銅錫金属間化合物が成長するため好ましくない。300℃/秒を超える冷却速度とするのは難しい。
【0051】
このように製造されためっき皮膜付銅端子材1の皮膜は、表面が錫層5からなるため、錫本体の良好な電気特性を有している。また、銅錫合金層4の一部が錫層5の表面に露出し、銅錫合金層4と錫層5との界面が急峻な凹凸状に形成されており、表層付近が錫層5の錫と銅錫合金が複合した構造となり、硬い銅錫合金層4の間にある軟らかい錫が潤滑剤の作用を果たし動摩擦係数を下げることができ、耐摩耗性も向上する。
【0052】
そして、皮膜の表面における山頂点の算術平均曲がりSpcが70mm―1を超え200mm―1以下であるので、主に相手端子との間での凝着の発生が防止されて動摩擦係数を低減することができる。また、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以内とされていることにより、その動摩擦係数が安定し、局部的に変動することも抑制される。
したがって、コネクタの端子材として使用した際に、挿抜力を安定して低減させることができる。
【0053】
また、皮膜の最下層にニッケル層33を有することから、基材からの銅の拡散が防止されて、耐熱性を向上させることができる。
【実施例0054】
板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、以下のめっき浴条件で、ニッケルめっき、銅めっき、錫めっきを順に施した。
(ニッケルめっき)
硫酸ニッケル:300g/L
硫酸:2g/L
液温:45℃
電流密度:20ASD
(銅めっき)
硫酸銅:250g/L
硫酸:50g/L
液温:25℃
電流密度:5ASD
(錫めっき)
硫酸錫:75g/L
硫酸:85g/L
添加剤:10g/L
液温:25℃
電流密度:2ASD
【0055】
これらの各めっき層を順に形成しためっき材を作製し、表1の条件でリフロー処理した。
【0056】
【0057】
得られた試料について、表面の錫層の平均厚さ、ニッケル層の平均厚さ、Cu6Sn5合金層中のニッケル含有量、Cu6Sn5合金層に対するCu3Sn合金層の体積比率、銅錫合金層の錫層表面上の露出面積率、山頂点の算術平均曲がりSpc、動摩擦係数を測定し、安定性を評価した。
【0058】
[各層の平均厚さの測定方法]
ニッケル層の平均厚さ、錫層の平均厚さは、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)にて測定した。錫層の厚さの測定には、最初にリフロー後のサンプルの全錫含有層の厚さ(銅錫合金層部分及び錫層部分を含む厚さであるが、錫凝固物は凹凸があるため平均厚さで算出される)を測定した後、銅錫合金層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液(レイボルド株式会社製「ストリッパーL80」の10%水溶液)に5分間浸漬することにより錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させ銅錫合金層の厚さを測定した後、(全錫含有層の厚さ-銅錫合金層の厚さ)を錫層の厚さと定義した。ニッケル層の厚さの測定には、ニッケル層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液(レイボルド株式会社製「ストリッパーL80」の原液)に1時間程度浸漬することにより錫層及び銅錫合金層を除去し、その下層のニッケル層を露出させニッケル層の厚さを測定した。
【0059】
[Cu6Sn5合金層中のニッケル含有量、Cu3Sn合金層の有無の測定方法]
Cu6Sn5合金層中のニッケル含有量、Cu3Sn合金層の有無は、断面STEM像の観察及びEDS分析による面分析で合金の位置を特定し、点分析でCu6Sn5合金層中のニッケルの含有量を、深さ方向の線分析によりCu3Sn合金層の有無を求めた。また、断面観察に加え、より広範囲におけるCu3Sn合金層の有無については、錫めっき被膜剥離用のエッチング液(レイボルド株式会社製「ストリッパーL80」の10%水溶液)に5分間浸漬して錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させた後、CuKα線によるX線回折パターンを測定することで判定した。測定条件は以下のとおりである。
PANalytical製:MPD1880HR
使用管球:Cu Kα線
電圧:45 kV
電流:40 mA
【0060】
[銅錫合金層の露出面積率の測定方法]
銅錫合金層の露出面積率は、表面酸化膜を除去後、100μm×100μmの領域を走査イオン顕微鏡により観察した。測定原理上、最表面から約20nmまでの深さ領域にCu6Sn5合金が存在すると、白くイメージングされるので、画像処理ソフトを使用し、測定領域の全面積に対する白い領域の面積の比率を銅錫合金層の露出面積率とみなした。
【0061】
[Cu6Sn5合金層とCu3Sn合金層の体積比率の測定方法]
銅錫合金層のCu6Sn5合金層とCu3Sn合金層の体積比率は、断面を走査イオン顕微鏡により観察した。測定方法としては3視野の各断面図に対して50本の線を縦方向(深さ方向)に引き、Cu6Sn5合金層、Cu3Sn合金層のある場所で長さを測定して平均値から高さを算出した。次に横方向の線をCu6Sn5合金層、Cu3Sn合金層ごとに最も長い箇所を通るように1本引いて幅を測定した。算出した高さ、幅から面積および面積比が算出でき、体積比≒面積比の仮定から体積比を算出した。
【0062】
[山頂点の算術平均曲がりSpcの測定方法]
レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製VKX-1100、対物レンズ×10)にて10視野について観察し、ISO25178に準拠して視野全画面にてSpcを測定し、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を算出した。
【0063】
[動摩擦係数および安定性の測定方法]
嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料について内径1.5 mmの半球状のメス試験片と板状のオス試験片を作成し、アイコーエンジニアリング株式会社製の摩擦測定機(横型荷重試験機 型式M-2152ENR)を用い、メス試験片とオス試験片との間に100gf以上500gf以下の荷重をかけた状態でオス試験片を摺動速度80mm/minで水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。動摩擦係数が0.3以下を合格(A)とし、それを超えるものを不合格(B)とした。
上記方法で30回測定した値の平均値を算出し、30回の測定値が平均値±25%の範囲にあったものを安定性「A」、±25%以上の測定値があったものを安定性「B」とした。
【0064】
[接触抵抗値の測定方法]
電気的信頼性を評価するため、大気中で150℃で500時間加熱し、接触抵抗を測定した。測定方法はJIS-C-5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS-113-AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化-接触抵抗を測定し、荷重を50gとしたときの接触抵抗値で評価した。
【0065】
これらの結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
これらの結果より、実施例は、動摩擦係数及びその安定性、接触抵抗のいずれも良好であった。
【0068】
これに対して、比較例1は、一次冷却風量が強すぎたため、Spc、SpcのCV値が過大となってしまい、動摩擦係数が高く、かつその安定性に劣っていた。比較例2は、一次冷却時の炉内温度が低すぎてSpc、SpcのCV値が過大となってしまい、動摩擦係数が高く、かつその安定性が劣っていた。比較例3は、銅めっき層が厚すぎたため、銅錫合金層の露出面積率が大きくなりすぎ、接触抵抗が10mΩを超えて高くなった。比較例4は、錫層の平均厚さが薄すぎたことから、銅錫合金層の露出面積率が過大になり、接触抵抗が10mΩを超えて高くなった。
【0069】
比較例5は、ニッケル層の平均厚さが薄すぎたため、銅錫合金層の露出面積率が小さくなりすぎ、動摩擦係数が高かった。比較例6は、一次冷却時の炉内温度が高すぎたため、SpcのCV値が過大となってしまい、動摩擦係数の安定性に劣っていた。比較例7は、銅めっき層が薄すぎたこと、及び一次加熱工程時の昇温速度が高すぎ、かつ一次加熱到達温度が低すぎたために、錫の溶融が不十分であったこと、により、銅錫合金層の露出面積率が過小となり、動摩擦係数が高く、かつその安定性に劣っていた。比較例8は、一次冷却風量が弱すぎ、Spcが過小となってしまい、真実接触面積が大きくなり、また凝着が発生しやすくなるため、動摩擦係数が高くなった。比較例9は、錫めっき層が厚すぎて銅錫合金層の露出面積率が過小となり、動摩擦係数が高かった。また、一次冷却到達温度が低すぎてSpcのCV値が過大となってしまい、動摩擦係数の安定性が劣っていた。比較例10は、一次冷却到達温度が高すぎてSpcのCV値が過大となってしまい、動摩擦係数の安定性が劣っていた。