(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014592
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法、精製たばこ成分含有組成物、及びピリジン化合物含有組成物
(51)【国際特許分類】
G01N 30/00 20060101AFI20250123BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20250123BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20250123BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20250123BHJP
A24B 15/26 20060101ALI20250123BHJP
G01N 27/62 20210101ALN20250123BHJP
【FI】
G01N30/00 E
B01D15/00 K
B01J20/22 C
B01J20/34 G
A24B15/26
G01N27/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117280
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100168066
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】重藤 敦嗣
【テーマコード(参考)】
2G041
4B043
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041FA07
2G041HA01
2G041JA13
4B043BC06
4B043BC18
4B043BC34
4D017AA03
4D017AA04
4D017BA04
4D017CA14
4D017CB01
4D017DA01
4D017DB02
4G066AA22C
4G066AB06B
4G066AB06D
4G066CA27
4G066DA07
4G066GA11
(57)【要約】
【課題】たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できる方法を提供する。
【解決手段】たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法。
【請求項2】
前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の前に、前記フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記フェニルボロン酸固相を前記第二の洗浄剤で洗浄する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理する工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記たばこ成分含有組成物が、たばこ成分と、非プロトン性溶媒とを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第一の洗浄剤及び前記第二の洗浄剤の少なくとも一方が非プロトン性溶媒である、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒が窒素原子を含まない、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記非プロトン性溶媒が、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、及びキシレンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記溶出剤がプロトン性溶媒である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記プロトン性溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、及びイソブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法において、前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理し、前記たばこ成分含有組成物に含まれる前記ピリジン化合物が選択的に除去されることで得られる、精製たばこ成分含有組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の精製たばこ成分含有組成物を含む、香味吸引器。
【請求項13】
請求項4に記載の方法において、前記フェニルボロン酸固相を前記溶出剤で処理することで得られる、ピリジン化合物含有組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のピリジン化合物含有組成物を含む、香味付与剤。
【請求項15】
たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法、精製たばこ成分含有組成物、及びピリジン化合物含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ピリジン化合物は、たばこ煙中で主にニコチンの生合成過程及び熱分解により生成し、たばこ煙の生物活性や香気特徴に大きな影響を与える。そのため、例えばたばこ煙中のたばこ成分を溶媒で捕捉し、得られた溶液を多次元GC-MSやターゲット分析的手法(MS/MS又は誘導体化)により分析することで、たばこ煙中に含まれるピリジン化合物を分析することが行われている。しかし、たばこ煙は10,000以上の成分を含むため、これらの方法では微量なピリジン化合物を精度よく検出することは難しい。
【0003】
一方、例えば特許文献1及び非特許文献1~3には、フェニルボロン酸固相(PBA-SPE)を使用した非糖化タンパク質やポリオールの精製が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Keiji Gamoh等、「Rapid and Selective Sample Preparation for the Chromatographic Determination of Brassinosteroids from Plant Material Using Solid-Phase Extraction Method」、Analytical Sciences、volume 10、pages 913-917(1994)
【非特許文献2】Yoshiaki Fujii等、「Simultaneous Determination of Aminoglycoside Residues in Livestock and Fishery Products by Phenylboronic Acid Solid-Phase Extraction and Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry」、Analytical Sciences、volume 35、Issue 9、pages 961-966(2019)
【非特許文献3】Jiaming Wang等、「DETERMINATION OF GLYCIDOL IN E LIQUIDS AND EMISSIONS FROM E CIGARETTES」、2020 Online CORESTA Congress、LABSTAT INTERNATIONAL INC.(https://www.coresta.org/sites/default/files/abstracts/2020_ST05_Rodriguez-Lafuente.bak_.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たばこ成分を含む溶液等のたばこ成分含有組成物中のピリジン化合物を精度よく検出するためには、該組成物から簡易な方法で選択的にピリジン化合物を分離することが望まれる。
【0007】
本発明は、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できる方法、該方法により得られるピリジン化合物が選択的に除去された精製たばこ成分含有組成物、及び該方法により得られるピリジン化合物含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の実施態様を含む。
【0009】
[1]たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法。
【0010】
[2]前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の前に、前記フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄する工程を含む、[1]に記載の方法。
【0011】
[3]前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄する工程を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
【0012】
[4]前記フェニルボロン酸固相を前記第二の洗浄剤で洗浄する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理する工程を含む、[3]に記載の方法。
【0013】
[5]前記たばこ成分含有組成物が、たばこ成分と、非プロトン性溶媒とを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
【0014】
[6]前記第一の洗浄剤及び前記第二の洗浄剤の少なくとも一方が非プロトン性溶媒である、[2]~[4]のいずれかに記載の方法。
【0015】
[7]前記非プロトン性溶媒が窒素原子を含まない、[5]又は[6]に記載の方法。
【0016】
[8]前記非プロトン性溶媒が、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、及びキシレンからなる群から選択される少なくとも一種である、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
【0017】
[9]前記溶出剤がプロトン性溶媒である、[4]に記載の方法。
【0018】
[10]前記プロトン性溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、及びイソブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、[9]に記載の方法。
【0019】
[11][1]~[10]のいずれかに記載の方法において、前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理し、前記たばこ成分含有組成物に含まれる前記ピリジン化合物が選択的に除去されることで得られる、精製たばこ成分含有組成物。
【0020】
[12][11]に記載の精製たばこ成分含有組成物を含む、香味吸引器。
【0021】
[13][4]に記載の方法において、前記フェニルボロン酸固相を前記溶出剤で処理することで得られる、ピリジン化合物含有組成物。
【0022】
[14][13]に記載のピリジン化合物含有組成物を含む、香味付与剤。
【0023】
[15]たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できる方法、該方法により得られるピリジン化合物が選択的に除去された精製たばこ成分含有組成物、及び該方法により得られるピリジン化合物含有組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例4におけるたばこ煙抽出液、MTBE洗浄液、及びMeOH溶出液のGC-MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法]
本実施形態に係るたばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法は、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程(以下、「ピリジン化合物吸着工程」ともいう。)を含む。
【0027】
本発明者は、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を分離する際に、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理することで、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できることを見出した。フェニルボロン酸固相は、通常シリカ粒子表面のシラノール基にフェニルボロン酸が結合した構造を有する。たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理すると、フェニルボロン酸とピリジン化合物のピリジン環との間で電荷移動を伴う相互作用が生じるため、フェニルボロン酸固相にピリジン化合物が吸着される。これにより、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できると推測される。また、後述するように、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理した後、該フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理することで、該フェニルボロン酸固相に吸着したピリジン化合物を容易に脱離できる。したがって、脱離後のピリジン化合物を分析することで、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物を精度よく検出することができる。
【0028】
本実施形態に係る方法は、ピリジン化合物吸着工程の前に、フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄する工程(以下、「第一の洗浄工程」ともいう。)を含んでもよい。また、本実施形態に係る方法は、ピリジン化合物吸着工程の後に、フェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄する工程(以下、「第二の洗浄工程」ともいう。)を含んでもよい。また、本実施形態に係る方法は、ピリジン化合物吸着工程又は第二の洗浄工程の後に、フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理する工程(以下、「ピリジン化合物溶出工程」ともいう。)を含んでもよい。例えば、本実施形態に係る方法は、第一の洗浄工程、ピリジン化合物吸着工程、第二の洗浄工程、及びピリジン化合物溶出工程をこの順序で含んでもよい。なお、本実施形態に係る方法はピリジン化合物吸着工程を少なくとも含めばよく、ピリジン化合物吸着工程に加えて第一の洗浄工程、第二の洗浄工程、及びピリジン化合物溶出工程のうちの一つの工程をさらに含んでもよく、二以上の工程をさらに含んでもよい。
【0029】
(第一の洗浄工程)
本実施形態に係る方法では、ピリジン化合物吸着工程の前に、フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄する工程を実施することが好ましい。フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄することにより、フェニルボロン酸固相中に含まれる不純物等の不要な成分を事前に除去することができる。
【0030】
フェニルボロン酸固相としては特に限定されず、公知のフェニルボロン酸固相から適宜選択して用いることができる。フェニルボロン酸固相は、例えばフェニルボロン酸固相がカラムやシリンジ等に充填された状態で使用することができる。
【0031】
第一の洗浄剤としては、後述するピリジン化合物吸着工程においてフェニルボロン酸固相へのピリジン化合物の吸着を妨げない観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。また、同様の理由により、該非プロトン性溶媒は窒素原子を含まないことが好ましい。このような非プロトン性溶媒としては、例えばペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、第一の洗浄剤としてはメチルt-ブチルエーテル又はジクロロメタンが好ましく、メチルt-ブチルエーテルがより好ましい。特に、第一の洗浄剤としては、非プロトン性溶媒であって、かつ、窒素原子を含まない洗浄剤からなることが好ましい。すなわち、第一の洗浄剤は、水、アルコール、含窒素系溶剤のいずれも含まないことが好ましい。また、第一の洗浄剤は、後述するたばこ成分含有組成物に含まれる溶媒、及び第二の洗浄剤と同じであることが好ましい。
【0032】
第一の洗浄剤によるフェニルボロン酸固相の洗浄は、フェニルボロン酸固相内に第一の洗浄剤を通液させることで実施することができる。第一の洗浄剤の通液量は特に限定されないが、例えばフェニルボロン酸固相100体積%に対して、第一の洗浄剤を200~1000体積%通液させることができる。
【0033】
(ピリジン化合物吸着工程)
本実施形態に係る方法は、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む。たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理することで、たばこ成分含有組成物に含まれるピリジン化合物がフェニルボロン酸固相に選択的に吸着する。したがって、フェニルボロン酸固相で処理した後のたばこ成分含有組成物(精製たばこ成分含有組成物)中にはピリジン化合物はほとんど含まれず、ピリジン化合物が選択的に除去される。フェニルボロン酸固相に吸着したピリジン化合物は、後述するピリジン化合物溶出工程により溶出させることができる。
【0034】
たばこ成分含有組成物としては、ピリジン化合物を少なくとも含むたばこ成分を含む組成物であれば特に限定されないが、例えばたばこ成分と溶媒とを含む溶液であることができる。この場合、たばこ成分含有組成物のフェニルボロン酸固相による処理は、フェニルボロン酸固相中にたばこ成分含有組成物を通液させることにより実施することができる。たばこ成分含有組成物は、たばこ成分と、非プロトン性溶媒とを含むことが好ましい。非プロトン性溶媒は、ピリジン化合物吸着工程においてフェニルボロン酸固相へのピリジン化合物の吸着を妨げないためである。また、同様の理由により、該非プロトン性溶媒は窒素原子を含まないことが好ましい。このような非プロトン性溶媒としては、例えばペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、たばこ成分含有組成物に含まれる溶媒としてはメチルt-ブチルエーテル又はジクロロメタンが好ましく、メチルt-ブチルエーテルがより好ましい。特に、たばこ成分含有組成物に含まれる溶媒は、非プロトン性溶媒であって、かつ、窒素原子を含まない溶媒からなることが好ましい。すなわち、該溶媒は、水、アルコール、含窒素系溶剤のいずれも含まないことが好ましい。また、該溶媒は、第一の洗浄剤及び後述する第二の洗浄剤と同じであることが好ましい。
【0035】
たばこ成分含有組成物は、具体的にはたばこ煙を溶媒中に通液して得られる溶液であることができる。この場合、たばこ煙を通液させる溶媒が、前述したたばこ成分含有組成物に含まれる溶媒に相当する。たばこ成分含有組成物中に含まれるピリジン化合物の含有量は、0.00000000001~10質量%が好ましく、0.0000000001~1質量%がより好ましい。
【0036】
たばこ成分含有組成物がたばこ成分と溶媒とを含む溶液である場合、フェニルボロン酸固相に対するたばこ成分含有組成物の通液量の好ましい範囲は、たばこ成分含有組成物中に含まれるピリジン化合物の含有量によって変化する。しかし、例えばフェニルボロン酸固相100体積%に対して、たばこ成分含有組成物を0.0000000001~1体積%通液させることが好ましい。通液速度は特に限定されないが、例えば0.1mL/min~1mL/minであることができる。また、通液速度を上げるために、フェニルボロン酸固相にたばこ成分含有組成物を通液させる際、導入側からたばこ成分含有組成物を加圧して圧入させてもよい。
【0037】
なお、本実施形態において「ピリジン化合物」とはピリジン環を有する化合物を示す。ピリジン化合物としては特に限定されないが、フェニルボロン酸固相への吸着性の観点から、アセチル基等の電子求引性基を有さないピリジン化合物であることが好ましい。また、ピリジン化合物は、後述するピリジン化合物溶出工程におけるフェニルボロン酸固相からの脱離性の観点から、アミノ基を有さないピリジン化合物であることが好ましい。
【0038】
(第二の洗浄工程)
本実施形態に係る方法では、ピリジン化合物吸着工程の後に、フェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄する工程を実施することが好ましい。ピリジン化合物吸着工程後にフェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄することにより、たばこ成分含有組成物に含まれていたピリジン化合物以外の不要な成分をフェニルボロン酸固相から除去することができる。なお、第二の洗浄剤による洗浄では、フェニルボロン酸固相からピリジン化合物は脱離しない。
【0039】
第二の洗浄剤としては、フェニルボロン酸固相からのピリジン化合物の脱離を防ぐ観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。また、同様の理由により、該非プロトン性溶媒は窒素原子を含まないことが好ましい。このような非プロトン性溶媒としては、例えばペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、キシレン等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、第二の洗浄剤としてはメチルt-ブチルエーテル又はジクロロメタンが好ましく、メチルt-ブチルエーテルがより好ましい。特に、第二の洗浄剤としては、非プロトン性溶媒であって、かつ、窒素原子を含まない洗浄剤からなることが好ましい。すなわち、第二の洗浄剤は、水、アルコール、含窒素系溶剤のいずれも含まないことが好ましい。また、第二の洗浄剤は、第一の洗浄剤、及びたばこ成分含有組成物に含まれる溶媒と同じであることが好ましい。
【0040】
第二の洗浄剤によるフェニルボロン酸固相の洗浄は、フェニルボロン酸固相内に第二の洗浄剤を通液させることで実施することができる。第二の洗浄剤の通液量は特に限定されないが、例えばフェニルボロン酸固相100体積%に対して、第二の洗浄剤を300~1000体積%通液させることができる。
【0041】
(ピリジン化合物溶出工程)
本実施形態に係る方法では、ピリジン化合物吸着工程又は第二の洗浄工程の後に、フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理する工程を実施することが好ましい。フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理することで、該フェニルボロン酸固相に吸着したピリジン化合物を溶出させることができる。したがって、溶出後のピリジン化合物を分析することで、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物を精度よく検出することができる。
【0042】
溶出剤としては、フェニルボロン酸固相からピリジン化合物を容易に脱離させることができる観点から、プロトン性溶媒が好ましい。プロトン性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、溶出剤としてはメタノール又はイソプロパノールが好ましく、メタノールがより好ましい。
【0043】
溶出剤によるフェニルボロン酸固相の処理は、フェニルボロン酸固相内に溶出剤を通液させることで実施することができる。溶出剤の通液量は特に限定されないが、例えばフェニルボロン酸固相100体積%に対して、溶出剤を300~1000体積%通液させることができる。
【0044】
溶出後のピリジン化合物の定性及び定量は、内部標準物質を使用してGC-MSやLC-MSにより分析することで実施することができる。
【0045】
[精製たばこ成分含有組成物、香味吸引器]
本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物は、前述した本実施形態に係るたばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法において、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理し、前記たばこ成分含有組成物に含まれるピリジン化合物が選択的に除去されることで得られる。該精製たばこ成分含有組成物は、ピリジン化合物が選択的に除去されているため、ピリジン化合物以外の成分を精度よく分析することができる。また、特有の香りを有するピリジン化合物が除去されているため、該精製たばこ成分含有組成物をたばこ原料として使用することで、所望の香味を有する香味吸引器を提供することができる。本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物に含まれるピリジン化合物の含有量は、10質量%以下が好ましく、0.0000000001~1質量%がより好ましい。
【0046】
本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物は、液タイプの電子シガレットにおいては、本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物をそのまま、あるいは一度溶媒を除去してエアロゾル源を添加することで使用することができる。また、たばこスティックのような固体香味源へ使用する場合には、本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物をスプレー添加する、たばこシート作製時に練りこむ等により、使用することができる。
【0047】
本実施形態に係る香味吸引器は、本実施形態に係る精製たばこ成分含有組成物を含む。香味吸引器としては特に限定されず、例えば非燃焼加熱型香味吸引器、燃焼型香味吸引器(シガレット)、非加熱型香味吸引器(口腔たばこ等)等であることができる。ピリジン化合物の多くは比較的高温にさらされたときに香味を発生させるため、本実施形態に係る香味吸引器は、高温加熱型の香味吸引器やシガレットであることが好ましい。
【0048】
[ピリジン化合物含有組成物、香味付与剤]
本実施形態に係るピリジン化合物含有組成物は、前述した本実施形態に係るたばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法において、フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理することで得られる。該ピリジン化合物含有組成物はピリジン化合物が濃縮されているため、たばこ成分含有組成物に含まれているピリジン化合物を精度よく分析することができる。また、該ピリジン化合物含有組成物を香味付与剤として添加することで、所望の香味を有する香味吸引器を提供することができる。香味吸引器としては特に限定されず、例えば非燃焼加熱型香味吸引器、燃焼型香味吸引器(シガレット)、非加熱型香味吸引器(口腔たばこ等)等であることができる。本実施形態に係るピリジン化合物含有組成物に含まれるピリジン化合物の含有量は、0.00000000001質量%以上が好ましく、0.0000000001~1質量%がより好ましい。
【0049】
[たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法]
本実施形態に係るたばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法は、たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む。本実施形態に係るたばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法は、前述した本実施形態に係るたばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法と同様の方法で実施することができる。本実施形態に係るたばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法によれば、フェニルボロン酸固相を用いた処理により、たばこ成分含有組成物からピリジン化合物を簡易にかつ選択的に分離できるため、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物を精度よく分析することができる。ピリジン化合物の分析(定性及び定量)は、例えば内部標準物質を使用してGC-MSにより分析することで実施することができる。
【実施例0050】
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されない。なお、本実施例におけるGC-MSの分析条件は以下の通りである。
【0051】
[GC-MSの分析条件]
Agilent製GC-MS(GC:Agilent 7890A、MS:5975C inertXL、カラム:DB-heavyWAX(60m×0.25mm i.d.,0.25μm film thickness)、注入量:1μL、注入口条件:250℃スプリットレスモード、オーブン条件:40℃(3min.保持) to 280℃ at the rate of 5℃/min.、キャリアガス:ヘリウム(流量1mL/min.)、MS条件:イオン化エネルギー70eV(EI)、イオン源温度30℃、四重極温度150℃、トランスファーライン280℃)を用いて定性及び定量を行った。
【0052】
[実施例1]
(モデル混合溶液の調製)
下記ピリジン化合物とその類縁体1~20(以下、「モデル化合物」ともいう。)を準備した。
【0053】
【0054】
前記ピリジン化合物とその類縁体1~20を各溶剤(メチルt-ブチルエーテル(MTBE)、ジクロロメタン、アセトン、イソプロパノール、メタノール(MeOH)、水(水については化合物1、14のみ溶解させた。))に50mg/Lとなるよう混合し、各溶剤のモデル混合溶液を調製した。2mLのモデル混合溶液を10mLメスフラスコに移し、5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、それぞれの溶剤でメスアップした(水についてはMeOHでメスアップした)。これを良く混合し、各溶剤の標準溶液を調製した。各溶剤の標準溶液をGC-MS分析に供した。
【0055】
(PBA-SPEによるモデル混合溶液の処理)
モデル混合溶液の調製に使用された各溶剤5mLで、PBA-SPE(Agilent製、製品名:Bond Elut PBA、シリンジ容量6mL、樹脂容量500mg、粒径40μm)を洗浄した。その後、該PBA-SPEに2mLのモデル混合溶液を通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧した。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。次に、モデル混合溶液の調製に使用された各溶剤を該PBA-SPEに5mL通液し、通液後の溶液を前記10mLメスフラスコに回収した(計7mL程度をメスフラスコに回収した。)。前記10mLメスフラスコに5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、各溶剤でメスアップした。これを良く混合し、各溶剤の溶出液を調製した。各溶剤の溶出液をGC-MS分析に供した。
【0056】
(溶出割合の算出)
各溶剤による各モデル化合物の溶出割合は、以下の式により算出した。
【0057】
【0058】
前記式において、Atは各モデル化合物の特徴イオンのエリア値を示す。また、AISはピリジン-d5(ISTD)の特徴イオン(m/z=84)のエリア値を示す。各溶剤によるモデル化合物の溶出割合を表1に示す。
【0059】
【0060】
表1に示されるように、溶剤としてMTBE及びジクロロメタンを用いた場合、化合物8、10~13を除いた化合物はほぼ全てPBA-SPEに吸着し、溶出しなかった。これより、MTBE及びジクロロメタン(特にMTBE)は洗浄剤及びたばこ成分含有組成物に含まれる溶媒として有用であることが分かった。一方、溶剤としてイソプロパノール及びMeOHを用いた場合、ほぼ全ての化合物がPBA-SPEに吸着せず、その大部分が溶出した。これより、イソプロパノール及びMeOH(特にMeOH)は溶出剤として有用であることが分かった。なお、化合物8は電子求引性基であるアセチル基を有するため、MTBEを使用した場合にもPBA-SPEに吸着しにくかったと推測される。また、化合物10~13は非ピリジン化合物であるため、PBA-SPEにほとんど吸着しなかったと推測される。これらのようなピリジン類縁構造の化合物は保持されないことから、含ピリジン化合物に対する高い保持選択性が認められた。また、化合物19及び20はフリーのアミノ基を有するため、PBA-SPEに強く吸着し、MeOHを使用した場合にも脱離しにくかったと推測される。
【0061】
[実施例2]
(PBA-SPEによるモデル混合溶液の処理)
5mLのMTBEで実施例1と同じPBA-SPEを洗浄した。その後、該PBA-SPEにMTBEで調製したモデル混合溶液2mLを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧した。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。次に、該PBA-SPEにMTBE5mLを通液し、通液後の溶液を前記10mLメスフラスコに回収した(計7mL程度をメスフラスコに回収した。)。前記10mLメスフラスコに5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、MTBEでメスアップした。これを良く混合し、MTBE洗浄液を調製した。該MTBE洗浄液をGC-MS分析に供した。
【0062】
前記MTBE洗浄後のPBA-SPEに対し、5mLのMeOHを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧することで、保持されているモデル化合物を溶出させた。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。該10mLメスフラスコに5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、MTBEでメスアップした。これを良く混合し、MeOH溶出液を調製した。該MeOH溶出液をGC-MS分析に供した。
【0063】
(MTBE洗浄による除去率及びMeOH溶出による回収率の算出)
各モデル化合物に対する、MTBE洗浄による除去率、及びMeOH溶出による回収率は以下の式で算出した。
【0064】
【0065】
前記式において、Atは各モデル化合物の特徴イオンのエリア値を示す。また、AISはピリジン-d5(ISTD)の特徴イオン(m/z=84)のエリア値を示す。各モデル化合物に対する、MTBE洗浄による除去率、及びMeOH溶出による回収率を表2に示す。なお、表2のMTBE洗浄による除去率及びMeOH溶出による回収率の値は、同じ試験を3回実施した際の平均値である。
【0066】
【0067】
表2に示されるように、モデル化合物を溶解する溶媒としてMTBEを用い、第一、第二の洗浄剤としてMTBEを使用することで、MTBE洗浄液中にはモデル化合物(化合物8、10~13を除く)はほとんど含まれず、洗浄を行ってもモデル化合物はPBA-SPEに吸着されたまま保持されることが分かった。一方、溶出剤としてMeOHを使用することで、MeOH溶出液中にモデル化合物(化合物19、20を除く)のほとんどが溶出し、回収できることが分かった。これより、本実施形態に係る方法では、モデル化合物に代表されるピリジン化合物を簡易な方法で選択的に分離できることが分かった。
【0068】
[実施例3]
(モデルたばこ煙抽出液の調製)
試験用標準巻たばこである1R6Fを、ISO3402に従い、温度22℃±1℃、湿度60%±3%にて48時間以上調和(調温・調湿)した。44mmケンブリッジフィルター(以下、「CF」ともいう。Borgwalt社製)、及び-78℃に冷却したMTBEを20mL含むインピンジャーを直列につなぎ、喫煙器(Cerulean社製、製品名:Linear Smoking Machine SM450)を用いて、所定の吸引方式(吸引量:55mL/回、吸引時間:2秒/回、吸引間隔:30秒)にて、前記1R6Fを3本喫煙した。喫煙条件は、ISO4387及びISO20778に従った。喫煙後、50mLバイアルにケンブリッジフィルターとインピンジャー中のMTBEを加え、振とう抽出機により30分振とう抽出した。その後、メンブランフィルター(Merck製)にて不溶物を除去することで、たばこ煙抽出液を得た。
【0069】
前記たばこ煙抽出液に対し、モデル化合物1~20をそれぞれ50mg/L添加し、モデルたばこ煙抽出液を調製した。2mLのモデルたばこ煙抽出液を10mLメスフラスコに移し、5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、MTBEでメスアップした。これを良く混合し、モデルたばこ煙標準溶液を調製した。該モデルたばこ煙標準溶液をGC-MS分析に供した。
【0070】
(PBA-SPEによるモデルたばこ煙抽出液の処理)
5mLのMTBEで実施例1と同じPBA-SPEを洗浄した。その後、該PBA-SPEにモデルたばこ煙抽出液2mLを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧した。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。次に、該PBA-SPEにMTBE5mLを通液し、通液後の溶液を前記10mLメスフラスコに回収した(計7mL程度をメスフラスコに回収した。)。前記10mLメスフラスコに5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、MTBEでメスアップした。これを良く混合し、モデルたばこ煙抽出液のMTBE洗浄液を調製した。該モデルたばこ煙抽出液のMTBE洗浄液をGC-MS分析に供した。
【0071】
前記MTBE洗浄後のPBA-SPEに対し、5mLのMeOHを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧することで、保持されているモデル化合物を溶出させた。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。該10mLメスフラスコに5mg/mLのpyridine-d5 MTBE溶液を内部標準物質として20μL添加した後、MTBEでメスアップした。これを良く混合し、モデルたばこ煙抽出液のMeOH溶出液を調製した。該モデルたばこ煙抽出液のMeOH溶出液をGC-MS分析に供した。
【0072】
(MTBE洗浄による除去率及びMeOH溶出による回収率の算出)
モデルたばこ煙抽出液中の各モデル化合物に対する、MTBE洗浄による除去率、及びMeOH溶出による回収率は以下の式で算出した。
【0073】
【0074】
前記式において、Atは各モデル化合物の特徴イオンのエリア値を示す。また、AISはピリジン-d5(ISTD)の特徴イオン(m/z=84)のエリア値を示す。各モデル化合物に対する、MTBE洗浄による除去率、及びMeOH溶出による回収率を表3に示す。なお、表3のMTBE洗浄による除去率及びMeOH溶出による回収率の値は、同じ試験を3回実施した際の平均値である。
【0075】
【0076】
表3に示されるように、本実施形態に係る方法では、たばこマトリックス中においてもモデル化合物に代表されるピリジン化合物の吸着及び脱離を同様に実施できることが確認された。
【0077】
[実施例4]
(たばこ煙濃縮液の調製)
試験用標準巻たばこである1R6Fを、ISO3402に従い、温度22℃±1℃、湿度60%±3%にて48時間以上調和(調温・調湿)した。44mmケンブリッジフィルター(以下、「CF」ともいう。Borgwalt社製)、及び-78℃に冷却したMTBEを20mL含むインピンジャーを直列につなぎ、喫煙器(Cerulean社製、製品名:Linear Smoking Machine SM450)を用いて、所定の吸引方式(吸引量:55mL/回、吸引時間:2秒/回、吸引間隔:30秒)にて、前記1R6Fを15本喫煙した。喫煙条件は、ISO4387及びISO20778に従った。喫煙後、50mLバイアルにケンブリッジフィルターとインピンジャー中のMTBEを加え、振とう抽出機により30分振とう抽出した。その後、メンブランフィルター(Merck製)にて不溶物を除去することで、たばこ煙濃縮液を得た。
【0078】
(PBA-SPEによるたばこ煙濃縮液の処理)
5mLのMTBEで実施例1と同じPBA-SPEを洗浄した。その後、該PBA-SPEに前記たばこ煙濃縮液2mLを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧した。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。次に、該PBA-SPEにMTBE5mLを通液し、通液後の溶液を前記10mLメスフラスコに回収した(計7mL程度をメスフラスコに回収した。)。得られたMTBE洗浄液をGC-MS分析に供した。その後、前記MTBE洗浄後のPBA-SPEに対し、5mLのMeOHを通液し、2滴/秒程度の速さとなるよう加圧することで、保持されている成分を溶出させた。その際、通液後の溶液を10mLメスフラスコに回収した。得られたMeOH溶出液をGC-MS分析に供した。
【0079】
(各成分の定性)
各成分の定性は、Agilent社製ソフトウェア(unknown analysis)でデコンボリューション(deconvolution parameters:Absolute area filter>100000、RT window size 100、Extraction window left m/z delta 0.3、Extraction window right m/z delta 0.7、m/z delta units AMU)し、各成分の検出時間とマススペクトルを、対応する標品と比較することで実施した。結果を表4及び
図1に示す。なお、
図1は結果を見やすくするため、分析した全範囲ではなく、RT0~32.5の範囲(表4の化合物No.1~14が検出できる範囲)を抜粋したものである。
【0080】
【0081】
表4及び
図1に示されるように、本実施形態に係る方法に基づいてたばこ煙濃縮液をPBA-SPEで処理することで、たばこ煙濃縮液に含まれる多くの成分を除去しつつ、ピリジン化合物を選択的に回収することができ、これらを精度よく定性及び定量することができる。
【0082】
本実施形態は以下の態様を含む。
【0083】
[1]たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物からのピリジン化合物の分離方法。
【0084】
[2]前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の前に、前記フェニルボロン酸固相を第一の洗浄剤で洗浄する工程を含む、[1]に記載の方法。
【0085】
[3]前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を第二の洗浄剤で洗浄する工程を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
【0086】
[4]前記フェニルボロン酸固相を前記第二の洗浄剤で洗浄する工程の後に、前記フェニルボロン酸固相を溶出剤で処理する工程を含む、[3]に記載の方法。
【0087】
[5]前記たばこ成分含有組成物が、たばこ成分と、非プロトン性溶媒とを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
【0088】
[6]前記第一の洗浄剤及び前記第二の洗浄剤の少なくとも一方が非プロトン性溶媒である、[2]~[4]のいずれかに記載の方法。
【0089】
[7]前記非プロトン性溶媒が窒素原子を含まない、[5]又は[6]に記載の方法。
【0090】
[8]前記非プロトン性溶媒が、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゼン、及びキシレンからなる群から選択される少なくとも一種である、[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
【0091】
[9]前記溶出剤がプロトン性溶媒である、[4]に記載の方法。
【0092】
[10]前記プロトン性溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、及びイソブタノールからなる群から選択される少なくとも一種である、[9]に記載の方法。
【0093】
[11][1]~[10]のいずれかに記載の方法において、前記たばこ成分含有組成物を前記フェニルボロン酸固相により処理し、前記たばこ成分含有組成物に含まれる前記ピリジン化合物が選択的に除去されることで得られる、精製たばこ成分含有組成物。
【0094】
[12][11]に記載の精製たばこ成分含有組成物を含む、香味吸引器。
【0095】
[13][4]に記載の方法において、前記フェニルボロン酸固相を前記溶出剤で処理することで得られる、ピリジン化合物含有組成物。
【0096】
[14][13]に記載のピリジン化合物含有組成物を含む、香味付与剤。
【0097】
[15]たばこ成分含有組成物をフェニルボロン酸固相により処理する工程を含む、たばこ成分含有組成物中のピリジン化合物の分析方法。