(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014593
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】アンカー試験装置
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117281
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】398034319
【氏名又は名称】エヌパット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117651
【弁理士】
【氏名又は名称】高垣 泰志
(72)【発明者】
【氏名】生野 真
(72)【発明者】
【氏名】石川 将司
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA58
2E125CA75
2E125EB00
(57)【要約】
【課題】構造が簡単で軽量化でき、デッキプレート上の躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験に好適に利用し得ると共に、効率的にアンカーの強度試験を行えるようにする。
【解決手段】躯体に埋め込まれたアンカーの引き抜き試験を行うアンカー試験装置1は、複数の脚部11,11によって支持される支持板10を有する基台2と、支持板10に形成された挿通孔10aに挿通される軸部5aの先端にナット5bが取り付けられた引張部材5と、ナット5bに装着され、軸方向に所定値以上の引張力が作用したときに破断する破断部23を有するヒューズ部材7と、支持板10に形成された挿通孔10aから基台2の外側に突出する軸部5aの後端に取り付けられる締付ナット8と、を備え、ヒューズ部材7がアンカーに取り付けられた状態で締付ナット8が締め付けられることにより、ヒューズ部材7を介してアンカーに引張力を作用させる構成である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体に埋め込まれたアンカーの引き抜き試験を行うアンカー試験装置であって、
複数の脚部によって前記躯体の表面から所定距離の位置に支持される支持板を有する基台と、
前記支持板に形成された挿通孔に挿通される引張部材と、
前記引張部材の先端に設けられ、軸方向に所定値以上の引張力が作用したときに破断する破断部を有するヒューズ部材と、
前記支持板に形成された前記挿通孔から前記基台の外側に突出する前記引張部材の後端に取り付けられる締付ナットと、
を備え、
前記ヒューズ部材が前記アンカーに取り付けられた状態で前記締付ナットが締め付けられることにより、前記引張部材が前記ヒューズ部材を介して前記アンカーに引張力を作用させることを特徴とするアンカー試験装置。
【請求項2】
前記複数の脚部の間には、前記引張部材の外周面に接触して前記引張部材の回転を防止する回転防止部材、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のアンカー試験装置。
【請求項3】
前記回転防止部材は、上部及び下部が長方形状に開口した筒状体であり、長方形の長辺方向に前記引張部材の傾斜を許容することを特徴とする請求項2に記載のアンカー試験装置。
【請求項4】
前記回転防止部材は、前記複数の脚部に対して揺動可能に取り付けられ、前記引張部材の傾斜に応じた角度姿勢とすることが可能であることを特徴とする請求項2に記載のアンカー試験装置。
【請求項5】
前記回転防止部材は、前記複数の脚部に対して揺動可能に取り付けられ、前記引張部材の傾斜に応じた角度姿勢とすることが可能であることを特徴とする請求項3に記載のアンカー試験装置。
【請求項6】
前記支持板と前記締付ナットとの間に設けられる球面座金、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアンカー試験装置。
【請求項7】
前記脚部の先端に設けられた磁石、
を更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアンカー試験装置。
【請求項8】
前記脚部の先端に設けられた磁石、
を更に備えることを特徴とする請求項6に記載のアンカー試験装置。
【請求項9】
前記軸部には、前記破断部が破断したときに前記挿通孔から抜けることを防止する抜け止め部材が設けられることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のアンカー試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験を行うためのアンカー試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルや工場等の建築物では、デッキプレートの上にコンクリートが打設され、床スラブとなる躯体が形成されている。床スラブの下方空間は、下階の天井空間となる。その天井空間には、吊りボルト等を介して空気調和機などの様々な機器が吊り下げた状態に設置される。機器を吊り下げた状態に設置するために、躯体に対してあと施工タイプのアンカーが設置され、そのアンカーに吊りボルトなどが取り付けられる。
【0003】
従来、躯体に埋め込まれたアンカーが適切な強度で固定されているか否かをテストするための装置が知られている(例えば、特許文献1)。この従来の試験装置は、躯体に固定されたアンカーを、カップリングを介してセンターシャフトに連結し、引張荷重に対するアンカーの抗力と変位量を測定する。センターシャフトは、筒状の引張部材に挿通され、上部にシャフト用ナットが引張部材の上端面に接して螺着されている。引張部材は、基台の中央を貫通して配設され、基台は複数の支柱により支持されている。引張部材の外周ねじ部には、負荷ナットが螺着されている。負荷ナットを締め付けると、引張部材がセンターシャフトを引き上げ、アンカーを引き抜き方向に引っ張る。このときの負荷荷重がロードセルにより測定されると共に、アンカーの変位量がポテンショメータ式変位計によって測定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の試験装置は、アンカーの強度試験を行うために、ロードセルとポテンショメータ式変位計とを用いるため、ロードセルやポテンショメータ式変位計から出力される電気信号を読み取って表示する表示器が別途必要となる。そのため、強度試験を行う際には、表示器の表示値を確認しながら負荷ナットを締め付けていくことが必要であり、作業に時間がかかるという問題がある。
【0006】
また、天井のデッキプレート上に形成された躯体(床スラブ)に埋め込まれたアンカーの強度試験は、下階天井空間での高所作業となるため、十分な作業スペースを確保することが難しい。そのため、高所作業で表示器の表示値を確認しながら負荷ナットを締め付けていくことが難しく、作業効率が著しく低下するという問題もある。
【0007】
また、従来の試験装置は、構造が複雑であるため、装置自体が重量物となる。そのため、従来の試験装置を高所作業でデッキプレートに取り付けることは危険であり、デッキプレート上の躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験には適さない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するためのものであって、従来よりも構造が簡単で軽量化でき、デッキプレート上の躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験に好適に利用し得ると共に、効率的に強度試験を行うことができるアンカー試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、第1に、本発明は、躯体に埋め込まれたアンカーの引き抜き試験を行うアンカー試験装置であって、複数の脚部によって前記躯体の表面から所定距離の位置に支持される支持板を有する基台と、前記支持板に形成された挿通孔に挿通される引張部材と、前記引張部材の先端に設けられ、軸方向に所定値以上の引張力が作用したときに破断する破断部を有するヒューズ部材と、前記支持板に形成された前記挿通孔から前記基台の外側に突出する前記引張部材の後端に取り付けられる締付ナットと、を備え、前記ヒューズ部材が前記アンカーに取り付けられた状態で前記締付ナットが締め付けられることにより、前記引張部材が前記ヒューズ部材を介して前記アンカーに引張力を作用させることを特徴とする構成である。
【0010】
第2に、本発明は、第1の構成を有するアンカー試験装置において、前記複数の脚部の間には、前記引張部材の外周面に接触して前記引張部材の回転を防止する回転防止部材、を更に備えることを特徴とする構成である。
【0011】
第3に、本発明は、第2の構成を有するアンカー試験装置において、前記回転防止部材は、上部及び下部が長方形状に開口した筒状体であり、長方形の長辺方向に前記引張部材の傾斜を許容することを特徴とする構成である。
【0012】
第4に、本発明は、第2の構成を有するアンカー試験装置において、前記回転防止部材は、前記複数の脚部に対して揺動可能に取り付けられ、前記引張部材の傾斜に応じた角度姿勢とすることが可能であることを特徴とする構成である。
【0013】
第5に、本発明は、第3の構成を有するアンカー試験装置において、前記回転防止部材は、前記複数の脚部に対して揺動可能に取り付けられ、前記引張部材の傾斜に応じた角度姿勢とすることが可能であることを特徴とする構成である。
【0014】
第6に、本発明は、第1乃至第5のいずれかの構成を有するアンカー試験装置において、前記支持板と前記締付ナットとの間に設けられる球面座金、を更に備えることを特徴とする構成である。
【0015】
第7に、本発明は、第1乃至第5のいずれかの構成を有するアンカー試験装置において、前記脚部の先端に設けられた磁石、を更に備えることを特徴とする構成である。
【0016】
第8に、本発明は、第6の構成を有するアンカー試験装置において、前記脚部の先端に設けられた磁石、を更に備えることを特徴とする構成である。
【0017】
第9に、本発明は、第1乃至第5のいずれかの構成を有するアンカー試験装置において、前記軸部には、前記破断部が破断したときに前記挿通孔から抜けることを防止する抜け止め部材が設けられることを特徴とする構成である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来よりも構造が簡単で軽量化でき、デッキプレート上の躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験に好適に利用し得ると共に、効率的に強度試験を行うことができるようになる。特に、天井のデッキプレート上の躯体に埋め込まれたアンカーの強度試験を行う場合には、安全に、且つ、効率的に強度試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図4】強度試験の対象となるアンカーを例示する図である。
【
図5】アンカー試験装置をアンカーに取り付けた状態を示す図である。
【
図6】アンカー試験装置によるアンカー強度試験の例を示す図である。
【
図7】アンカー試験装置によるアンカー強度試験の例を示す図である。
【
図8】アンカー試験装置によるアンカー強度試験の例を示す図である。
【
図9】アンカーの軸部が傾斜している場合のアンカー強度試験を行う例を示す図である。
【
図10】アンカーの軸部が傾斜している場合のアンカー強度試験を行う別の例を示す図である。
【
図11】抜け止め部材を備えたアンカー試験装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下において参照する各図面では互いに共通する部材に同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態におけるアンカー試験装置1を示す図であり、(a)は斜視図を、(b)は正面図を、(c)は側面図を示している。
図2は、アンカー試験装置1の断面図であり、(a)は
図1(c)に示すB-B断面を、(b)は
図1(b)に示すA-A断面を示している。アンカー試験装置1は、建造物の躯体に埋め込まれたアンカー30(
図4参照)の引き抜き試験を行うための装置である。このアンカー試験装置1は、基台2と、回転防止部材3と、球面座金4と、引張部材5と、ヒューズ部材7と、締付ナット8とを備えている。
【0022】
基台2は、複数の脚部11,11によって躯体の表面から所定距離の位置に支持される支持板10を有している。例えば複数の脚部11,11は、金属板によって構成され、その基端部が支持板10に接合している。本実施形態の基台2は、2つの脚部11,11を備えている。しかしこれに限られるものではなく、脚部11,11の数は3つ以上であっても構わない。また、基台2は、2つの脚部11,11を相互に連結する連結部材を備えていても構わない。支持板10は、矩形状の金属板によって構成される。支持板10の中央には、引張部材5を挿通するための挿通孔10aが形成される。
【0023】
また、複数の脚部11,11の先端(上端)は、基台2の外側に向けて略直角に折り曲げられた平板部11a,11aを有する。複数の脚部11,11は、その平板部11a,11aの上面側に磁石9,9が設けられている。
【0024】
回転防止部材3は、上部及び下部が長方形状に開口した筒状体によって構成され、その内側に引張部材5を挿通可能な空間3aが形成されている。回転防止部材3の両端には、
図2(a)に示すようにボルト13が装着される。そのボルト13は、基台2の脚部11,11を貫通し、脚部11,11の外側でナット14,14が装着される。これにより、回転防止部材3は、脚部11,11の中央の高さ位置に保持されると共に、
図1(a)に示すようにボルト13,13の軸芯13aを中心にして揺動方向R1に揺動可能に保持される。
【0025】
球面座金4は、凹部材4aと、凸部材4bとを備えている。凹部材4aは、中央に貫通孔4dが形成され、その下面側に球面状の凹部が形成されている。凸部材4bは、中央に貫通孔4eが形成され、その上面側に球面状の凸部が形成されている。この凸部材4bの下面側にはナット形状の凸状部4cが一体形成されている。球面座金4は、凹部材4aの上面を基台2の支持板10に接合させた状態に配置され、凸部材4bの凸部を凹部材4aの凹部に接合させた状態に配置される。
【0026】
引張部材5は、軸部5aと、軸部5aの先端に取り付けられるナット5bとを有する。軸部5aの外周面には、雄螺子が形成される。ナット5bは、軸方向に所定長さを有するロングナットであり、その内側に雌螺子が形成される。ナット5bの一端は、軸部5aの先端に取り付けられる。すなわち、軸部5aの先端がナット5bの一端の雌螺子に螺合することにより、軸部5aとナット5bとが相互に組み付けられた状態となる。ただし、これに限られるものではなく、ナット5bは、軸部5aの先端に固定されたものであっても構わない。
【0027】
引張部材5は、軸部5aの基端部が支持板10に形成された挿通孔10aに挿通され、更に球面座金4に形成された貫通孔4d,4eに挿通される。また、引張部材5は、先端のナット5bが回転防止部材3の内側の空間3aに挿入された状態に配置される。
【0028】
引張部材5は、回転防止部材3の内側に挿入されると、
図2(a)に示すように回転防止部材3の水平な長手方向において空間3a内に比較的大きな隙間を形成する。これに対し、
図2(b)に示すように、回転防止部材3の水平な短手方向において形成される空間3a内の隙間は僅かであり、ナット5bの外面と回転防止部材3の内面とが近接した状態となる。
【0029】
ナット5bの先端(他端)には、ヒューズ部材7が装着される。
図3は、ヒューズ部材7を示す図である。ヒューズ部材7は、一端に雄螺子部21を有し、他端に雄螺子部22を有する。また、ヒューズ部材7は、それら雄螺子部21,22の間の中央部に、縮径した破断部23を有している。この破断部23は、
図3に示すように雄螺子部21,22に対して軸方向に所定値以上の引張力Fが作用したときに破断するように設計されている。例えば、破断部23の直径を変化させることにより、破断する引張力Fを調整することができる。例えば、ヒューズ部材7は、雄螺子部22がナット5bに装着される。
【0030】
締付ナット8は、球面座金4の下方に突出する軸部5aの端部にワッシャーを介して装着される。
【0031】
上記構成を有するアンカー試験装置1は、従来よりも構造が簡単であり、軽量化を図ることができる。そのため、高所作業でも簡単にデッキプレートに取り付けることが可能である。
【0032】
次に、強度試験の対象となるアンカー30について説明する。
図4(a),(b)は、それぞれ異なるタイプのアンカー30を例示している。
図4(a)に示すアンカー30は、躯体110に形成された取付孔Hに埋設固定され、躯体110の表面にロングナット31を突出させる。取付孔Hは、躯体110の表面に設けられるデッキプレート100を貫通して形成される。アンカー30は、ロングナット31と、取付孔Hに挿入される軸部32と、軸部32の外周面を覆うように配置される拡張スリーブ33と、軸部32の先端に装着されるコーンナット34とを有する。このアンカー30は、取付孔Hの内部でコーンナット34を拡張スリーブ33の内側に進入させることにより、拡張スリーブ33の先端を拡開させて取付孔Hの内周壁に係止させることにより、躯体110に固定される。
【0033】
図4(b)に示すアンカー30は、躯体110に形成された取付孔Hに埋設固定され、躯体110の表面に雄螺子が形成された軸部35を突出させる。このアンカー30は、軸部32と、軸部32の端部に装着されるナット36と、拡張スリーブ33と、コーンナット34とを有する。このアンカー30も上記と同様、取付孔Hの内部でコーンナット34を拡張スリーブ33の内側に進入させることにより、拡張スリーブ33の先端を拡開させて取付孔Hの内周壁に係止させることにより、躯体110に固定される。ナット36を軸部32に対して十分な強度で締め付けることにより、アンカー30が躯体110に固定され、デッキプレートの表面から軸部32の端部32a(軸部35)が突出した状態となる。
【0034】
例えば、
図4(a)に示すアンカー30の強度試験を行うとき、ヒューズ部材7の雄螺子部21がロングナット31に装着される。また、
図4(b)に示すアンカー30の強度試験を行うとき、軸部35にロングナットが装着され、そのロングナットにヒューズ部材7の雄螺子部21が装着される。
【0035】
図5は、アンカー試験装置1をアンカー30に取り付けた状態を示す図である。尚、
図5では、
図4(a)に示したアンカー30のロングナット31にヒューズ部材7の雄螺子部21を装着した状態を示している。
図5に示すようにアンカー試験装置1を取り付ける際には、まず脚部11,11の先端をデッキプレート100の表面に接合させる。脚部11,11の先端には磁石9,9が設けられているため、脚部11,11をデッキプレート100に接合させると、アンカー試験装置1は、磁石9,9によってデッキプレート100の表面に磁着される。そのため、作業者がアンカー試験装置1から両手を離しても、アンカー試験装置1はデッキプレート100から落下しない。したがって、作業者は、両手を自由に使える状態でヒューズ部材7の雄螺子部21をアンカー30のロングナット31に装着することができる。ヒューズ部材7をアンカー30のロングナット31に装着すると、作業者は、インパクトドライバーなどの電動工具に取り付けたソケット39を締付ナット8に取り付ける。このときも、作業者は、両手を自由に使える状態でソケット39を締付ナット8に取り付けることができる。
【0036】
図6乃至
図8は、アンカー試験装置1によるアンカー強度試験の例を示す図である。ソケット39を締付ナット8に取り付けると、まず、
図6示すように、電動工具を動作させてソケット39を締付方向(R2方向)に回転させる。これにより、締付ナット8が締付方向に回転し、引張部材5の軸部5aに対して軸方向の引張力Fを作用させる。このとき、引張部材5のナット5bの外周面が回転防止部材3の内面に接触するため、ナット5bの回転が規制される。そのため、締付ナット8が締付方向に回転しても、引張部材5は締付ナット8と共に回転せず、ナット5bには軸方向の引張力Fだけが作用する。
【0037】
躯体110に埋め込まれたアンカー30の固定強度が十分である場合、軸部5aに引張力Fが作用してもアンカー30は取付孔Hから抜けることはない。そのため、引張力Fは、軸部5a及びナット5bを介してヒューズ部材7の破断部23に伝わる。その引張力Fが所定値以上となったとき、
図7に示すように、ヒューズ部材7の破断部23が破断する。これにより、アンカー30が十分な強度で躯体110に固定されていることが分かる。
【0038】
これに対し、躯体110に埋め込まれたアンカー30の固定強度が不十分である場合、
図8に示すように。軸部5aに引張力Fが作用すると、アンカー30が取付孔Hから抜け出してくる。これにより、アンカー30の固定強度が不十分であることが分かる。
【0039】
このように本実施形態のアンカー試験装置1は、電動工具を使用して締付ナット8を締め付けたとき、破断部23が破断するか、或いは、アンカー30が取付孔Hから抜け出すかを目視によって確認するだけでアンカー30の強度を試験することができる。
【0040】
ところで、躯体110に形成される取付孔Hは、躯体110の表面に対して垂直な孔として形成されず、若干傾いていることがある。そのような場合、アンカー強度試験を行うときには、アンカー30の傾いた軸方向に沿って引張力Fを作用させる必要がある。本実施形態のアンカー試験装置1は、躯体110に対してアンカー30が若干傾斜した状態で埋め込まれている場合でも適切に強度試験を行うことが可能である。
【0041】
図9は、アンカー30の軸部が傾斜している場合のアンカー強度試験を行う例を示す図である。上述したように、引張部材5は、回転防止部材3の内側において水平な長手方向に比較的大きな隙間を形成している。つまり、
図9に示すように、ナット5bと、回転防止部材3の内壁との間の隙間が大きい。そのため、回転防止部材3は、水平な長手方向(長辺方向)においてナット5b(引張部材5)の傾斜を許容する。これにより、引張部材5は、回転防止部材3の内側においてアンカー30の軸部と同軸に傾斜させた状態に配置することができる。また、軸部5aの基端部に装着される締付ナット8は、球面座金4を介して支持板10の下面に取り付けられているため、球面座金4の凹部材4aと凸部材4bとの相対姿勢を変化させることにより、軸部5aの基端部をアンカー30の軸部と同軸に傾斜させた状態に配置することができる。その結果、
図9に示すように、アンカー30、ヒューズ部材7及び引張部材5を全て同軸上に配置することが可能である。そして、締付ナット8にソケット39を装着して締付ナット8を締付方向に回転させることにより、引張力Fをアンカー30の軸方向に対して適切に作用させることが可能であり、強度試験を適切に行うことができる。
【0042】
図10は、アンカー30の軸部が傾斜している場合のアンカー強度試験を行う別の例を示す図である。上述したように、回転防止部材3は、複数の脚部11,11に対して揺動可能に取り付けられている。そのため、回転防止部材3を、複数の脚部11,11に対して揺動させてアンカー30の傾斜に応じた角度姿勢とすることにより、水平な短辺方向(短手方向)においてナット5b(引張部材5)の傾斜を許容する。また、球面座金4の凹部材4aと凸部材4bとの相対姿勢を変化させることにより、軸部5aの基端部をアンカー30の軸部と同軸に傾斜させた状態に配置することができる。その結果、
図10に示すように、アンカー30、ヒューズ部材7及び引張部材5を全て同軸上に配置することが可能である。そして、締付ナット8にソケット39を装着して締付ナット8を締付方向に回転させることにより、引張力Fをアンカー30の軸方向に対して適切に作用させることが可能であり、強度試験を適切に行うことができる。
【0043】
このようにアンカー試験装置1は、前後方向及び左右方向のいずれの方向にアンカー30が傾斜していてもアンカー30と同軸方向に引張力Fを作用させることができる。例えば、デッキプレート100が山部と谷部が交互に連続する波形プレートである場合、あと施工アンカーはデッキプレート100の山部に取り付けられる。この場合、アンカー30がデッキプレート100の壁部に近接した位置に取り付けられることがあり、アンカー試験装置1の脚部11,11を設置する位置に制約を受けることがある。しかし、本実施形態のアンカー試験装置1は、前後方向及び左右方向のいずれの方向にアンカー30が傾斜していてもアンカー30と同軸方向に引張力Fを作用させることができるため、脚部11,11をデッキプレート100の山部に磁着させることができれば、アンカー30の強度試験を適切に行うことができる。
【0044】
以上のように本実施形態のアンカー試験装置1は、引張部材5のナット5bに装着されたヒューズ部材7がアンカー30に取り付けられた状態で締付ナット8が締め付けられることにより、ヒューズ部材7を介してアンカー30に引張力Fを作用させるように構成されている。ヒューズ部材7は、軸方向に所定値以上の引張力Fが作用したときに破断する破断部23を有するため、締付ナット8を締め付けているとき、破断部23が破断するか否かを確認することでアンカー30の強度試験を行うことができる。
【0045】
また、アンカー試験装置1の締付ナット8は、電動工具を使用して締付方向に回転させることができるため、電動工具を作動させてから1~3秒程度で試験結果を得ることが可能であり、作業効率に優れている。また、アンカー試験装置1は、従来のように表示器などを別途容易する必要がないため、作業スペースの狭い高所作業であっても効率的に強度試験を行うことが可能である。したがって、アンカー試験装置1は、デッキプレート100上の躯体110に埋め込まれたアンカー30の強度試験に好適に利用することができる。
【0046】
また、本実施形態のアンカー試験装置1は、引張部材5のナット5bの外周面に接触してナット5bの回転を防止する回転防止部材3を備えている。ヒューズ部材7の破断部23に対して引張力F以外の回転力が作用すると、引張力Fが所定値以上となっていない場合でも破断部23が破断してしまうことがあり、適切にアンカー30の強度試験を行うことができない。回転防止部材3は、ナット5bの回転を防止することによってヒューズ部材7の回転を防止し、引張力Fが所定値以上となっていない状態で破断部23が破断してしまうことを防止する機能を有している。また、回転防止部材3は、アンカー30の回転を防止する機能も有している。回転防止部材3によるこれらの機能により、アンカー試験装置1は、アンカー30の強度試験を適切に行うことが可能である。
【0047】
以上、本発明に関する好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態において説明したものに限定されるものではない。すなわち、本発明には、上記実施形態において説明したものに種々の変形例を適用したものが含まれる。
【0048】
図11は、アンカー試験装置1の変形例を示す図である。
図11に示すアンカー試験装置1は、引張部材5の軸部5aに抜け止め部材18を取り付けたものである。抜け止め部材18は、例えば支持板10に形成された挿通孔10aよりも大径のナットによって構成される。この抜け止め部材18は、例えば回転防止部材3と支持板10との間で軸部5aに取り付けられる。そのため、例えば作業者がアンカー試験装置1から手を離したとき、或いは、アンカー30の強度試験中に破断部23が破断したときに、引張部材5が落下しようとしても抜け止め部材18が支持板10に係合するため、引張部材5が挿通孔10aから抜け落ちてしまうことを防止することができる。
【0049】
次に上記実施形態では、アンカー試験装置1が天井のデッキプレート100上に形成された躯体110に埋め込まれているアンカー30を試験する例を説明した。しかし、上述したアンカー試験装置1を適用可能なアンカー30は、天井のデッキプレート100上に形成された躯体110に埋め込まれているアンカー30には限られない。すなわち、上述したアンカー試験装置1は、壁面又は床面に埋め込まれているアンカー30の強度試験を行う際にも利用し得るものである。
【0050】
また、上記実施形態では、強度試験の対象となるアンカー30を
図4に例示した。しかし、強度試験の対象となるアンカー30の構成は
図4に示したものに限られない。すなわち、上記実施形態で説明したアンカー試験装置1は、
図4に示したアンカー30とは異なる構成のアンカーにも適用し得るものである。
【符号の説明】
【0051】
1…アンカー試験装置、2…基台、3…回転防止部材、4…球面座金、5…引張部材、5a…軸部、5b…ナット、7…ヒューズ部材、8…締付ナット、9…磁石、18…抜け止め部材、30…アンカー。