(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001460
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】積層コア
(51)【国際特許分類】
B23K 10/02 20060101AFI20241225BHJP
B23K 31/00 20060101ALN20241225BHJP
【FI】
B23K10/02 A
B23K31/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101066
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】金原 宏
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB11
4E001CA07
(57)【要約】
【課題】疲労寿命が低下するおそれを抑制できる積層コアを提供する。
【解決手段】本開示に係る積層コア10は、鋼板1を積層した積層コア10である。積層コア10は、所定の溶接方法を用いて形成された溶接ビード1aと、母材1bと溶接ビード1aとの境界1cをプラズマ溶接したプラズマ溶接部1eとを備える。また、積層コア10は、溶接ビード1aと、母材1bと溶接ビード1aとの境界1dをプラズマ溶接したプラズマ溶接部1fとを備えるとよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を積層した積層コアであって、
所定の溶接方法を用いて形成された溶接ビードと、
母材と前記溶接ビードとの境界をプラズマ溶接したプラズマ溶接部とを備える、積層コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は積層コアに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の電磁鋼板積層コアは、電磁鋼板が積層された積層体と、前記積層体の外周面が溶接された溶接部とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者等は、以下の技術的な課題を発見した。
溶接ビードと母材との境界には、切り欠き部や凹部が形成し、硬度の変化が生じ得る。これらによって、溶接ビードと母材との境界には、応力が集中する傾向にある。そのため、溶接ビードと母材との境界において、疲労寿命が低下するおそれがあった。また、このような電磁鋼板積層コアがロータとして利用された場合、アンバランスや極数によって生じる吸引と反発(トルクリプル)による振動が発生する。また、このような電磁鋼板積層コアがステータとして利用された場合、同様に高速でN極とS極を切り替えるため、高周波の振動が発生する。そのため疲労寿命が悪化すると、容易に破断が生じる。
【0005】
本開示は、上述した課題を鑑みてなされたものであり、疲労寿命が低下するおそれを抑制できる積層コアを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る積層コアは、
鋼板を積層した積層コアであって、
所定の溶接方法を用いて形成された溶接ビードと、
母材と前記溶接ビードとの境界をプラズマ溶接したプラズマ溶接部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、疲労寿命が低下するおそれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】実施の形態1に係る積層コアの平面図である。
【
図1B】実施の形態1に係る積層コアの側面図である。
【
図2】実施の形態1に係る積層コアの製造方法を示す概略図である。
【
図3】実施例及び比較例にかかる測定位置に対する硬度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0010】
<実施の形態1>
図1A及び
図1Bを参照して実施の形態1について説明する。
図1Aは、実施の形態1に係る積層コアの平面図である。
図1Bは、
図1Aに示す積層コアの側面図である。
【0011】
なお、当然のことながら、
図1A及びその他の図面に示した右手系XYZ座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、Z軸プラス向きが鉛直上向き、XY平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0012】
図1A及び
図1Bに示すように、積層コア10は、積層した複数の鋼板1を含む。鋼板1は、例えば、略円形状板である。鋼板1は、例えば、電磁鋼板を打ち抜くことによって、形成してもよい。積層コア10は、モータにおけるステータ、又はロータとして利用されてもよい。
図1Bに示す積層コア10の一例は、Z1軸周りに回転可能なロータであり、シャフト2を備える。シャフト2が、積層した複数の鋼板1からZ1軸に沿って延びる。
図1Bに示す積層コア10の一例において、積層した複数の鋼板1は、略円柱体、又は、略円筒体である。
【0013】
積層コア10は、溶接領域1A、1B、1C、1D、1E、1Fを少なくとも1つ備えるとよい。
図1Bに示す積層コア10の一例は、溶接領域1A、1B、1C、1D、1E、1Fを備える。溶接領域1A、1B、1Cは、積層コア10の外周面における上端において所定の間隔を空けて配置されている。溶接領域1D、1E、1Fは、積層コア10の外周面における下端において所定の間隔を空けて配置されている。
【0014】
図2に示すように、溶接領域1Aの母材1b中において、溶接ビード1aと、プラズマ溶接部1e、1fとが形成されている。
【0015】
溶接ビード1aは、所定の溶接方法を用いて形成するとよい。当該溶接方法は、例えば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接、MIG(Metal Inert Gas)溶接、レーザ溶接等である。溶接ビード1aは、母材1bと比較して、不純物を多く含有してもよい。溶接ビード1aは、合金化されていてもよい。溶接ビード1aの硬さは、母材1bの硬さと比較して高くてもよい。溶接ビード1aの断面形状は、例えば、略円弧状、略半円、略半楕円等であるとよい。
【0016】
プラズマ溶接部1eは、母材1bと溶接ビード1aとの境界1cをプラズマ溶接して形成されている。具体的には、境界1c近傍における母材1bと溶接ビード1aを溶融させ凝固させて、プラズマ溶接部1eを形成する。プラズマ溶接部1fは、母材1bと溶接ビード1aとの境界1dをプラズマ溶接して形成される。境界1d近傍における母材1bと溶接ビード1aを溶融させ凝固させて、プラズマ溶接部1eを形成する。溶接領域1B、1C、1D、1E、1Fの母材1b中において、溶接領域1Aと同様に、溶接ビード1aと、プラズマ溶接部1e、1fとが形成されている。プラズマ溶接部1e、1fの厚みは、要求される機械的強度に応じて決めるとよい。
【0017】
<製造方法>
次に、
図2を参照して、積層コア10の製造方法について説明する。
【0018】
積層コア10の製造方法では、市販の溶接装置を使用できる。溶接装置は、例えば、ロボットと、ワイヤ送給モータと、
図2に示す溶接トーチTRと、溶接機とを備えるとよい。ロボットは溶接トーチTRを移動可能に把持し、ワイヤ送給モータを搭載する。ワイヤ送給モータは、溶接ワイヤを溶接トーチTRへ適宜供給する。溶接トーチTR、又は、溶接トーチTRに供給された溶接ワイヤと、積層した複数の鋼板1と、溶接機とが、アーク放電可能なように、電気回路上に配置される。溶接機は適宜、電流を電気回路に供給する。溶接方法に応じて、溶接装置の構成、例えば。溶接トーチTR等を交換してもよい。また、溶接方法に応じて、異なる溶接装置を用いてもよい。
【0019】
複数の鋼板1を溶接して、溶接ビード1aを形成する(ステップST1)。具体的には、複数の鋼板1を積層する。この積層した複数の鋼板1の外周面における上端及び下端を溶接する。本ステップST1で用いた溶接方法は、例えば、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接、MIG(Metal Inert Gas)溶接、レーザ溶接等である。
【0020】
続いて、溶接ビード1aと母材1bとの境界1cをプラズマ溶接し、プラズマ溶接部1eを形成する(ステップST2)。具体的には、溶接トーチTRを境界1cに接近させる。プラズマ溶接方法を用いて、アーク放電を境界1c近傍に発生させる。すると、境界1cが溶融した後、凝固する。これによって、プラズマ溶接部1eを形成する。なお、本ステップST2では、プラズマ溶接方法を用いて溶接ドレッシングを行ってもよい。プラズマ溶接部1eの厚みは、溶接条件、例えば、溶接電源の電圧、電流値、溶接トーチTRの姿勢、シールドガスの流量等を適宜変更することによって決めるとよい。
【0021】
最後に、溶接ビード1aと母材1bとの境界1dをプラズマ溶接し、プラズマ溶接部1fを形成する(ステップST3)。具体的には、溶接トーチTRを境界1dに接近させる。プラズマ溶接方法を用いて、アーク放電を境界1d近傍に発生させる。すると、境界1dが溶融した後、凝固する。これによって、プラズマ溶接部1fを形成する。なお、本ステップST3では、プラズマ溶接方法を用いて溶接ドレッシングを行ってもよい。プラズマ溶接部1fの厚みは、溶接条件、例えば、溶接電源の電圧、電流値、溶接トーチTRの姿勢、シールドガスの流量等を適宜変更することによって決めるとよい。
【0022】
積層コア10の溶接領域1B、1C、1D、1E、1Fについても、上記したステップST1からステップST3を実施する。
【0023】
以上より、積層コア10を製造できる。積層コア10の溶接領域1A等において、溶接ビード1aと母材1bとの間に、プラズマ溶接部1e、1fが形成されている。そのため、プラズマ溶接部1e、1fは、溶接ビード1aと母材1bとの境界1c、1dと比較して、平坦であり、凹部や切り欠き部を有しない。よって、疲労寿命が低下するおそれを抑制できる。
【0024】
また、溶接ビード1aが多量の不純物を含有しても、プラズマ溶接部1e、1fはプラズマ溶接を用いて形成される。これによって、溶接ビード1a及び母材1bの溶け込み深さを確保し、プラズマ溶接部1e、1fの厚みを確保できる。よって、疲労寿命が低下するおそれを抑制できる。
【0025】
また、
図1A及び
図1Bに示す積層コア10の一例は、ロータである。また、溶接領域1A、1B、1Cは、積層コア10の外周面における上端において所定の間隔を空けて配置されている。また、溶接領域1D、1E、1Fは、積層コア10の外周面における下端において所定の間隔を空けて配置されている。そのため、積層コア10が右回転及び左回転可能なロータとして利用された場合、積層コア10の回転時の異音、例えば、風切り音を抑制できる。また、多くの場合、ロータは高速回転するため、僅かなアンバランスが生じても振動が発生する。さらにIPM(Interior Permanent Magnet)モータのロータにおいて、磁石配置が均一ではないことから、磁石の吸引及び反発が周期的に発生する。そのためロータが受ける反発力は一定ではなく、振動が発生する。上記したように、積層コア10は疲労寿命が低下するおそれを抑制できることから、ロータとして利用されても十分な疲労寿命を確保できてよい。なお、積層コア10が一方向のみ回転可能なロータとして利用された場合、溶接領域1A、1B、1C、1D、1E、1Fの少なくとも1つが、積層コア10の外周面における下端又は上端において所定の間隔を空けて配置されていればよい。溶接ビード1aの断面形状は、例えば、略円弧状、略半円、略半楕円等であると、積層コア10がロータとして利用された場合、積層コア10の回転時の風切り音を抑制できる。
【0026】
ところで、多くの場合、ステータのコイルは高周波の交流が流れており、N極とS極を高速で切替えてロータを回転させている。切り替え数の一例は、ロータ回転数1.7万rpmと極数8極との積である。その度ごと、コイルには吸引力と反発力とが発生し、そのNV(振動・騒音)は伝播して、ステータ全体に振動が発生してしまう。そのため、従来のプラズマ溶接を行わない場合、ステータに容易に破断してしまう課題があった。上記したように、積層コア10は疲労寿命が低下するおそれを抑制できることから、ステータとして利用されても十分な疲労寿命を確保できてよい。
【0027】
<実施例>
次に、
図3を参照して、実施例及び比較例の硬度を測定した結果について説明する。
【0028】
実施例では、上記した積層コア10と同じ構成の積層コアにおいて、溶接領域1Aに相当する溶接領域の硬度を測定した。この硬度の測定位置は、溶接領域を横切る一直線上の各位置、具体的には、溶接領域1Aの近傍の母材1b、プラズマ溶接部1f、溶接ビード1a、プラズマ溶接部1e、母材1bに相当する位置である。この測定した硬度を示す硬度曲線PCを
図3に示した。
【0029】
比較例では、上記した積層コア10の製造方法のステップST1のみを実施することによって製造した積層コアの硬度を測定した。この硬度の測定位置は、実施例と同様に溶接領域を横切る一直線上の各位置、具体的には、溶接領域1Aの近傍の母材1b、境界1d、溶接ビード1a、境界1c、母材1bに相当する位置である。この測定した硬度を示す硬度曲線RCを
図3に示した。
【0030】
図3に示すように、比較例に係る硬度曲線RCは、比較例の母材1bから境界1dに相当する位置において一定であり、境界1dから溶接ビード1aに相当する位置にかけて上昇する。また、比較例に係る硬度曲線RCは、溶接ビード1aから境界1cに相当する位置にかけて下降し、境界1cから母材1bに相当する位置において一定である。つまり、境界1d、1cに相当する位置において、硬度曲線RCの傾きの変化が最も大きい。よって、比較例に係る積層コアにおける境界1d、1cに相当する位置において、応力が集中しやすい。
【0031】
一方、実施例に係る硬度曲線PCは、実施例の母材1bに相当する位置において一定であり、プラズマ溶接部1fから溶接ビード1aに相当する位置にかけて上昇する。また、実施例に係る硬度曲線PCは溶接ビード1aからプラズマ溶接部1eに相当する位置にかけて下降し、母材1bに相当する位置において一定である。硬度曲線PCの傾きの変化は、境界1d、1cにおける硬度曲線RCの傾きの変化と比較して、小さい。よって、実施例における各測定位置の硬度の傾きの変化が、比較例における境界1d、1cの硬度の傾きの変化と比較して小さい。これによって、実施例に係る積層コアは、比較例に係る積層コアと比較して、応力が集中し難い。従って、実施例に係る積層コアの疲労寿命は、比較例に係る積層コアの疲労寿命と比較して、長い。
【0032】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。また、本発明は、上記実施の形態やその一例を適宜組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 積層コア
1 鋼板
1A、1B、1C、1D、1E、1F 溶接領域
1a 溶接ビード
1b 母材
1c、1d 境界
1e、1f プラズマ溶接部
2 シャフト
TR 溶接トーチ
PC、RC 硬度曲線