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特開2025-14625消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法
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  • 特開-消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法 図1
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  • 特開-消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014625
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
B23K9/00 330Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117330
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、アンチスティック期間への移行時のアーク長が長くなっても良好な溶接終了制御を行うこと。
【解決手段】溶接電源PSに溶接終了信号Onが入力されると、溶接ワイヤ1の送給モータMは駆動を停止し、前記送給モータMが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中はアンチスティック溶接電圧設定値Varに基づいて溶接電圧Vwを制御して溶接を終了する消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法において、アンチスティック期間への移行時点から所定期間中に溶接ワイヤ1と母材2との間に短絡が発生しないときはアンチスティック溶接電圧設定値Varを減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電源に溶接終了信号が入力されると、溶接ワイヤの送給モータは駆動を停止し、前記送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中はアンチスティック溶接電圧設定値に基づいて溶接電圧を制御して溶接を終了する消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法において、
前記アンチスティック期間への移行時点から所定期間中に前記溶接ワイヤと母材との間に短絡が発生しないときは前記アンチスティック溶接電圧設定値を減少させる、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法。
【請求項2】
前記所定期間中に前記短絡が発生せず、かつ、前記所定期間経過後の溶接電圧が基準値以上であるときは前記アンチスティック溶接電圧設定値を減少させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法。
【請求項3】
前記アンチスティック溶接電圧設定値を0Vに減少させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極アーク溶接においては、溶接終了時に溶接ワイヤが溶融池に溶着(スティック)するのを防止し、溶接終了時に形成されるワイヤ先端粒のサイズを適正化して次のアークスタート性を良好にするための溶接終了制御(アンチスティック制御)が行われる。
【0003】
溶接終了制御としては、溶接電源に溶接終了信号が入力されると、溶接ワイヤの送給モータは駆動を停止し、送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中はアンチスティック溶接電圧設定値に基づいて溶接電圧を制御して溶接を終了する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-62926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
給電チップ・母材間距離、溶接姿勢、溶接電圧の設定値等の溶接条件によってアンチスティック期間への移行時のアーク長が変動すると、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び溶接ワイヤの先端粒径が変動する。特に、アンチスティック期間への移行時のアーク長が適正値よりも長くなると、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離が適正値よりも長くなり、先端粒径も適正サイズよりも過大になり、次のアークスタート性が悪くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、アンチスティック期間への移行時のアーク長が長くなっても、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になることを抑制することができる消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接電源に溶接終了信号が入力されると、溶接ワイヤの送給モータは駆動を停止し、前記送給モータが慣性によって過渡的に減速して停止し溶接が終了するまでのアンチスティック期間中はアンチスティック溶接電圧設定値に基づいて溶接電圧を制御して溶接を終了する消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法において、
前記アンチスティック期間への移行時点から所定期間中に前記溶接ワイヤと母材との間に短絡が発生しないときは前記アンチスティック溶接電圧設定値を減少させる、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記所定期間中に前記短絡が発生せず、かつ、前記所定期間経過後の溶接電圧が基準値以上であるときは前記アンチスティック溶接電圧設定値を減少させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記アンチスティック溶接電圧設定値を0Vに減少させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法によれば、アンチスティック期間への移行時のアーク長が長くなっても、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になることを抑制して、次のアークスタートが不良になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を実施するための溶接電源PSのブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第1のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第2のタイミングチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第3のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を実施するための溶接電源PSのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0014】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってサイリスタ位相制御、インバータ制御等の出力制御を行い、アーク溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。
【0015】
溶接ワイヤ1は、送給モータMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接トーチ4の先端からはシールドガス(図示は省略)が噴出される。
【0016】
溶接開始・終了回路ONは、溶接を開始するときにHighレベル(溶接開始信号)となり、溶接を終了するときにLowレベル(溶接終了信号)となる溶接開始・終了信号Onを出力する。この回路は、溶接トーチ4に取り付けられたスイッチである。また、この回路は、ロボット溶接の場合はロボット制御装置に内蔵されている。
【0017】
アンチスティック期間設定回路TARは、予め定めたアンチスティック期間設定信号Tarを出力する。
【0018】
期間判別回路SIは、上記の溶接開始・終了信号On及び上記のアンチスティック期間設定信号Tarを入力として、以下の処理を行い、期間判別信号Siを出力する。
1)溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは定常溶接期間Tcとなり、期間判別信号Si=1を出力する。
2)その後に、溶接開始・終了信号OnがLowレベル(溶接終了)に変化すると、その時点からアンチスティック期間設定信号Tarによって設定されるアンチスティック期間Ta中は、期間判別信号Si=2を出力する。
3)その後に、アンチスティック期間Taが終了すると、溶接電源の出力を停止するために期間判別信号Si=0を出力する。
【0019】
溶接電流設定回路IRは、予め定めた溶接電流設定信号Irを出力する。
【0020】
送給速度設定回路FRは、上記の溶接電流設定信号Irを入力として、予め定めた電流・送給速度変換関数によって算出された送給速度設定信号Frを出力する。
【0021】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0022】
短絡判別回路SDは、上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値(10V程度)未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。
【0023】
送給制御回路FCは、上記の溶接開始・終了信号On及び上記の送給速度設定信号Frを入力として、以下の処理を行い、上記の送給モータMを制御するための送給制御信号Fcを出力する。
1)溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始信号)のときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって設定された送給速度Fwで定速送給する。
2)溶接開始・終了信号OnがLowレベル(溶接終了信号)に変化してアンチスティック期間Taになると、送給モータMの駆動を停止する。これにより、送給速度Fwは慣性により減速する。
【0024】
送給モータMは、上記の送給制御信号Fcによって回転速度が制御されて、溶接ワイヤ1を送給速度Fwで送給する。
【0025】
定常溶接電圧設定回路VCRは、予め定めた定常溶接電圧設定信号Vcrを出力する。
【0026】
溶接状態判別回路ADは、上記の期間判別信号Si、上記の短絡判別信号Sd及び上記の溶接電圧検出信号Vdを入力として、以下の1)又は2)の処理を行い溶接状態判別信号Adを出力する。
1)期間判別信号Si=2(アンチスティック期間)に変化した時点から所定期間中に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)にならないときは、所定期間が経過した時点でHighレベルとなり期間判別信号Si=0(溶接終了)に変化した時点でLowレベルとなる溶接状態判別信号Adを出力する。
2)期間判別信号Si=2(アンチスティック期間)に変化した時点から所定期間中に短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)にならず、かつ、所定期間経過後の溶接電圧検出信号Vdの値が予め定めた基準値以上であるときは、所定期間が経過した時点でHighレベルとなり期間判別信号Si=0(溶接終了)に変化した時点でLowレベルとなる溶接状態判別信号Adを出力する。
【0027】
アンチスティック溶接電圧設定回路VARは、上記の溶接状態判別信号Adを入力として、溶接状態判別信号AdがLowレベルのときは予め定めたアンチスティック溶接電圧初期値となり、溶接状態判別信号AdがHighレベルのときはアンチスティック溶接電圧初期値よりも小さな値のアンチスティック溶接電圧減少値となるアンチスティック溶接電圧設定信号Varを出力する。アンチスティック溶接電圧減少値は、0Vに設定しても良い。
【0028】
溶接電圧設定回路VRは、上記の期間判別信号Si、上記の定常溶接電圧設定信号Vcr及び上記のアンチスティック溶接電圧設定信号Varを入力として、以下の処理を行い、溶接電圧設定信号Vrを出力する。
1)期間判別信号Si=1の定常溶接期間Tcのときは、定常溶接電圧設定信号Vcrを溶接電圧設定信号Vrとして出力する。
2)期間判別信号Si=2のアンチスティック期間Taのときは、アンチスティック溶接電圧設定信号Varを溶接電圧設定信号Vrとして出力する。
【0029】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧設定信号Vrと上記の溶接電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0030】
駆動回路DVは、上記の期間判別信号Si及び上記の電圧誤差増幅信号Evを入力として、期間判別信号Si=1又は2の期間中は、電圧誤差増幅信号Evに基づいて上記の電源主回路PMを駆動するための駆動信号Dvを出力する。したがって、溶接電源PSは、定常溶接期間Tc及びアンチスティック期間Ta中は出力制御を行う。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第1のタイミングチャートである。同図はアンチスティック期間への移行時のアーク長が適正範囲であった場合であり、従来技術と同一の動作となる。同図(A)は溶接開始・終了信号Onの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(F)は駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(G)は溶接状態判別信号Adの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0032】
同図において、時刻t1以前の期間が定常溶接期間Tcとなり、図1の期間判別信号Si=1となる。時刻t1~t2の期間が予め定めたアンチスティック期間Taとなり、期間判別信号Si=2となる。そして、時刻t2において、アンチスティック期間Taが終了すると、期間判別信号Si=0となり、溶接電源は出力を停止する。
【0033】
(1)時刻t1以前の定常溶接期間Tc中の動作
定常溶接期間TC中は、同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnはHighレベル(溶接開始)となっている。そして、同図(B)に示すように、送給速度Fwは、図1の送給速度設定信号Frによって設定された値となる。同図(E)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは、図1の定常溶接電圧設定信号Vcrによって設定された値となり、溶接電圧Vwの平均値がこの値となるように溶接電源は定電圧制御される。同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは、数Vの短絡電圧値となる短絡期間と、数十Vのアーク電圧値となるアーク期間とを繰り返す。同図(C)に示すように、溶接電流Iwは、短絡期間中は次第に増加し、アーク期間中は次第に減少する。同図(F)に示すように、駆動信号Dvは、時刻t2まではHighレベルとなり溶接電源は出力を行い、時刻t2においてLowレベルとなり溶接電源は出力を停止する。
【0034】
(2)時刻t1~t2のアンチスティック期間Ta中の動作)
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始)からLowレベル(溶接終了)に変化すると、アンチスティック期間Taに移行する。これに応動して送給モータMの駆動が停止されるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは慣性により減速して時刻t13に0となる。同時に、同図(E)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは定常溶接電圧設定信号Vcrの値から図1のアンチスティック溶接電圧設定信号Varによって設定されるアンチスティック溶接電圧初期値へと小さくなる。この期間中も、同図(C)及び同図(D)に示すように、短絡期間とアーク期間とが繰り返される。同図においては、アンチスティック期間Taへの移行時点t1から所定期間が経過した時点t11までに短絡が発生しているために、同図(G)に示すように、溶接状態判別信号AdはLowレベルのままである。
【0035】
その後、同図(D)に示すように、送給速度Fwが0となる直前の時刻t12において、最終の短絡期間が終了して最終アーク期間となる。同図(C)に示すように、最終アーク期間中の溶接電流Iwは小電流値となる。最終アーク期間中にアーク長が次第に長くなり、時刻t14においてアークを維持することができなくなると、アーク切れが発生する。アーク切れが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは80V程度の無負荷電圧値となる。時刻t2において、図1のアンチスティック期間設定信号Tarによって設定されたアンチスティック期間Taが終了すると、期間判別信号Si=0となり、同図(F)に示すように、駆動信号DvがLowレベルとなる。これに応動して、溶接電源の出力が停止されるので、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなる。これにより、溶接が終了する。アンチスティック期間Taは、時刻t14~t2の無負荷電圧が印加される期間が50ms程度になるように設定され、例えば200msに設定される。
【0036】
図3は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第2のタイミングチャートである。同図はアンチスティック期間への移行時のアーク長が適正範囲よりも長い状態のときであり、アンチスティック溶接電圧設定信号Varの値を減少させた場合である。同図(A)は溶接開始・終了信号Onの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(F)は駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(G)は溶接状態判別信号Adの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0037】
同図において、時刻t1以前の動作は図2と同一であるので、説明は繰り返さない。
【0038】
(2)時刻t1~t2のアンチスティック期間Ta中の動作)
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始)からLowレベル(溶接終了)に変化すると、アンチスティック期間Taに移行する。これに応動して送給モータMの駆動が停止されるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは慣性により減速して時刻t12に0となる。同時に、同図(E)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは定常溶接電圧設定信号Vcrの値から図1のアンチスティック溶接電圧設定信号Varによって設定されるアンチスティック溶接電圧初期値へと小さくなる。ここで、1)アンチスティック期間Taへの移行時点t1から所定期間が経過した時点t11までに短絡が発生していないとき、又は、2)所定期間が経過した時点t11までに短絡が発生せず、かつ、所定期間経過時点t11での溶接電圧が基準値以上であるときは、同図(G)に示すように、時刻t11~t2の期間において溶接状態判別信号AdがHighレベルに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、時刻t11において溶接電圧設定信号Vrは図1のアンチスティック溶接電圧設定信号Varによって設定されるアンチスティック溶接電圧減少値へと小さくなる。溶接電圧設定信号Vrの値が減少したために、アーク長が短くなり、短絡が発生する。そして、同図(C)及び同図(D)に示すように、短絡期間とアーク期間とが繰り返される。上記の所定期間は、アーク期間が所定期間継続しても溶滴が大きく成長しない時間に設定され、例えば10msに設定される。上記の基準値は、アーク長が長いために溶接電圧が大きくなっており、短絡が早期に発生しないと予想できる電圧値に設定され、例えば35Vに設定される。
【0039】
その後、同図(D)に示すように、送給速度Fwが0となる直前の時刻t12において、最終の短絡期間が終了して最終アーク期間となる。同図(C)に示すように、最終アーク期間中の溶接電流Iwは小電流値となる。最終アーク期間中にアーク長が次第に長くなり、時刻t14においてアークを維持することができなくなると、アーク切れが発生する。アーク切れが発生すると、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは80V程度の無負荷電圧値となる。時刻t2において、図1のアンチスティック期間設定信号Tarによって設定されたアンチスティック期間Taが終了すると、期間判別信号Si=0となり、同図(F)に示すように、駆動信号DvがLowレベルとなる。これに応動して、溶接電源の出力が停止されるので、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなる。これにより、溶接が終了する。
【0040】
図4は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接の溶接終了制御方法を示す図1の溶接電源における各信号の第3のタイミングチャートである。同図はアンチスティック期間への移行時のアーク長が適正範囲よりも長い状態のときであり、アンチスティック溶接電圧設定信号Varの値を0Vまで減少させた場合である。同図(A)は溶接開始・終了信号Onの時間変化を示し、同図(B)は送給速度Fwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧設定信号Vrの時間変化を示し、同図(F)は駆動信号Dvの時間変化を示し、同図(G)は溶接状態判別信号Adの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0041】
同図において、時刻t1以前の動作は図2と同一であるので、説明は繰り返さない。
【0042】
(2)時刻t1~t2のアンチスティック期間Ta中の動作)
時刻t1において、同図(A)に示すように、溶接開始・終了信号OnがHighレベル(溶接開始)からLowレベル(溶接終了)に変化すると、アンチスティック期間Taに移行する。これに応動して送給モータMの駆動が停止されるので、同図(B)に示すように、送給速度Fwは慣性により減速して時刻t13に0となる。同時に、同図(E)に示すように、溶接電圧設定信号Vrは定常溶接電圧設定信号Vcrの値から図1のアンチスティック溶接電圧設定信号Varによって設定されるアンチスティック溶接電圧初期値へと小さくなる。ここで、1)アンチスティック期間Taへの移行時点t1から所定期間が経過した時点t11までに短絡が発生していないとき、又は、2)所定期間が経過した時点t11までに短絡が発生せず、かつ、所定期間経過時点t11での溶接電圧が基準値以上であるときは、同図(G)に示すように、時刻t11~t2の期間において溶接状態判別信号AdがHighレベルに変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、時刻t11において溶接電圧設定信号Vrは図1のアンチスティック溶接電圧設定信号Varによって設定されるアンチスティック溶接電圧減少値へと小さくなる。同図においては、アンチスティック溶接電圧減少値が0Vの場合である。
【0043】
時刻t11において、同図(E)に示すように、溶接電圧設定信号Vrが0Vとなるので、同図(D)に示すように、溶接電圧Vwは0Vとなり、同図(C)に示すように、溶接電流Iwは0Aとなり、アークが消弧して溶接が終了する。時刻t2において、図1のアンチスティック期間設定信号Tarによって設定されたアンチスティック期間Taが終了すると、期間判別信号Si=0となり、同図(F)に示すように、駆動信号DvがLowレベルとなる。
【0044】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、アンチスティック期間への移行時点から所定期間中に溶接ワイヤと母材との間に短絡が発生しないときはアンチスティック溶接電圧設定値を減少させる。アンチスティック期間への移行時のアーク長が長くなると、アンチスティック期間に入っても短絡が発生せずにアーク期間が長く継続して溶滴が大きく成長するために、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になる。本実施の形態では、アンチスティック期間への移行時のアーク長が長くなり、所定期間中に短絡が発生しないときは、アンチスティック溶接電圧設定値を減少させている。このようにすると、溶接電圧が低下して短絡が早期に発生するようになり、短絡期間とアーク期間とを繰り返すようになる。この結果、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になることを抑制することができる。
【0045】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、所定期間中に短絡が発生せず、かつ、所定期間経過後の溶接電圧が基準値以上であるときはアンチスティック溶接電圧設定値を減少させる。所定期間中に短絡が発生せず、かつ、所定期間経過後の溶接電圧が基準値以上のときは、所定期間が経過しても短絡は早期に発生しない状態であることを示している本実施の形態では、このような状態のときは、アンチスティック溶接電圧設定値を減少させている。このようにすると、溶接電圧が低下して短絡が早期に発生するようになり、短絡期間とアーク期間とを繰り返すようになる。この結果、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になることを抑制することができる。
【0046】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、アンチスティック溶接電圧設定値を0Vに減少させる。本実施の形態では、所定期間が経過しても短絡が早期に発生しないような状態のときは、アンチスティック溶接電圧設定値を0Vまで減少させることによって、溶接電圧及び溶接電流の出力を停止してアークを消弧するようにしている。このようにすると、アーク期間が長く継続して溶滴が大きく成長することを抑制することができるので、溶接終了時の溶接ワイヤ先端と母材との距離及び先端粒径が過大になることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
AD 溶接状態判別回路
Ad 溶接状態判別信号
DV 駆動回路
Dv 駆動信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
IR 溶接電流設定回路
Ir 溶接電流設定信号
Iw 溶接電流
M 送給モータ
ON 溶接開始・終了回路
On 溶接開始・終了信号
PM 電源主回路
PS 溶接電源
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SI 期間判別回路
Si 期間判別信号
TAR アンチスティック期間設定回路
Tar アンチスティック期間設定信号
VAR アンチスティック溶接電圧設定回路
Var アンチスティック溶接電圧設定信号
VCR 定常溶接電圧設定回路
Vcr 定常溶接電圧設定信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
図1
図2
図3
図4