(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014636
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】タイル張り浴槽の製造方法及びタイル張り用型部材
(51)【国際特許分類】
A47K 3/02 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
A47K3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117350
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】301051839
【氏名又は名称】日比野化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】日比野 康仁
【テーマコード(参考)】
2D132
【Fターム(参考)】
2D132AA00
2D132AB03
(57)【要約】
【課題】熟練した作業者でなくても、外観よくタイルが張られた浴槽を短時間で容易に製造することができるタイル張り浴槽の製造方法を提供する。
【解決手段】タイル張り用型部材として、浴槽本体の内表面に対応する外表面を有し、その外表面に少なくとも一つの平面を有する主成形型10と、平板状のベース部21のおもて面からからリブ25が突出している分離式型20を使用する。主成形型10のある平面に、対応させた分離式型20のベース部21の裏面を当接させ、ベース部21のおもて面にタイルのおもて面が当接し、且つ、タイルの側面がリブ25に沿うようにタイルの複数を分離式型20に重ねて配置し、分離式型20及びタイルの外側から主成形型をFRP層で被覆してタイルとFRP層とを一体化した後、分離式型20ごとタイル及びFRP層を主成形型10から離隔させ、FRP層と一体化したタイルから、分離式型20を分離させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル張り用型部材を使用したタイル張り浴槽の製造方法であって、
前記タイル張り用型部材は、主成形型と分離式型とを備えており、
前記主成形型は、浴槽本体の内表面に対応する外表面を有し、該外表面に少なくとも一つの平面を有するものであり、
前記分離式型は、平板状のベース部、及び、該ベース部の表裏面のうち、おもて面からから突出しているリブを有しており、
前記主成形型の前記平面に、前記ベース部の裏面が当接するように前記分離式型を配置し、
前記ベース部のおもて面にタイルのおもて面が当接し、且つ、前記タイルの側面が前記リブに沿うように、前記タイルの複数を前記分離式型に重ねて配置し、
前記分離式型及び前記タイルの外側から前記主成形型をFRP層で被覆し、前記タイルと前記FRP層とを一体化した後、
積層状態の前記分離式型、前記タイル、及び前記FRP層と、前記主成形型とを離隔させ、
前記FRP層と一体化した前記タイルから、前記分離式型を分離させる
ことを特徴とするタイル張り浴槽の製造方法。
【請求項2】
前記分離式型及び前記タイルの外側から、前記主成形型をFRP層で被覆する前に、
隣接する前記タイル間の空隙をマスキング用のテープで封止する
ことを特徴とする請求項1に記載のタイル張り浴槽の製造方法。
【請求項3】
前記主成形型の平面に前記ベース部の裏面を当接させて前記分離式型を配置した状態で、
前記ベース部の面積は、前記平面の面積より小さい
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイル張り浴槽の製造方法。
【請求項4】
主成形型と分離式型とを備えており、
前記主成形型は、外表面に少なくとも一つの平面を有するものであり、
前記分離式型は、平板状のベース部、及び、該ベース部の表裏面のうち、おもて面から突出しているリブを有しており、前記ベース部の裏面を前記主成形型の前記平面に当接させるためのものである
ことを特徴とするタイル張り用型部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル張り浴槽の製造方法、及び、この製造方法に使用されるタイル張り用型部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、内周面にタイルが張られた浴槽が存在する。例えば、大理石などの天然石製のタイルが張られた浴槽は、高級感を与えるため、そのような指向の需要者に好まれる。このようなタイル張りの浴槽は、従来、樹脂で形成された浴槽本体の内表面に、接着材を介してタイルの裏面を貼り付けることにより製造されていた。
【0003】
そのため、従来では、目地がきれいに揃うように外観よくタイルを貼り付けるためには、熟練した技術が必要であった。また、タイルの厚さは必ずしも均一ではないため、タイルのおもて面の高さが一定となるように外観よくタイルを貼り付けるためには、タイルの厚さに応じて接着層の厚さを調整する必要があり、手間と時間を要するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、熟練した作業者でなくても、外観よくタイルが張られた浴槽を短時間で容易に製造することができるタイル張り浴槽の製造方法、及び、この製造方法に使用されるタイル張り用型部材の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明にかかるタイル張り浴槽の製造方法は、
「タイル張り用型部材を使用したタイル張り浴槽の製造方法であって、
前記タイル張り用型部材は、主成形型と分離式型とを備えており、
前記主成形型は、浴槽本体の内表面に対応する外表面を有し、該外表面に少なくとも一つの平面を有するものであり、
前記分離式型は、平板状のベース部、及び、該ベース部の表裏面のうち、おもて面からから突出しているリブを有しており、
前記主成形型の前記平面に、前記ベース部の裏面が当接するように前記分離式型を配置し、
前記ベース部のおもて面にタイルのおもて面が当接し、且つ、前記タイルの側面が前記リブに沿うように、前記タイルの複数を前記分離式型に重ねて配置し、
前記分離式型及び前記タイルの外側から前記主成形型をFRP層で被覆し、前記タイルと前記FRP層とを一体化した後、
積層状態の前記分離式型、前記タイル、及び前記FRP層と、前記主成形型とを離隔させ、
前記FRP層と一体化した前記タイルから、前記分離式型を分離させる」ものである。
【0006】
本構成によれば、主成形型の外表面を構成する平面に平板状の分離式型を配置し、分離式型から突出しているリブに沿ってタイルを配置した後、分離式型及びタイルの外側から主成形型をFRP層で被覆してタイルとFRP層を一体化する。そのため、FRP層と一体化されたタイルから分離式型を取り外した後は、タイルとタイルとの間に、リブに対応した空隙が形成され、これが目地用の空隙となる。従って、熟練した技術がなくとも、目地用の空隙を一定に揃えることができ、目地がきれいにそろった外観のよいタイル張り浴槽を製造することができる。
【0007】
ここで、リブに沿ってタイルを配することにより目地用の空隙を一定に揃えるという作用効果のためには、主成形型の外表面を構成する平面にリブを直接に設けることも想到し得る。しかしながら、この場合は、タイルと一体化されたFRP層と主成形型とを離隔させる型抜きの際、型抜き方向と異なる方向に延びているリブが存在すると、型抜きの障害となる。これに対し、本発明では、主成形型の外表面を構成する平面に配置されている分離式型にリブが設けられているため、まずは分離式型ごとタイルと一体化されたFRP層を主成形型から離隔させる型抜きをしておき、その後で分離式型について、リブの延びている方向が型抜きの問題とならない方向に取り外すことができる。
【0008】
また、本発明では、タイルの表裏面のうち、製造されたタイル張り浴槽において外観にあらわれる「おもて面」を、分離式型のベース部に当接させる。そして、その後、分離式型及びタイルの外側から主成形型をFRP層で被覆することにより、タイルの裏面側がFRP層に埋設され一体化される。その結果、タイルの厚さが均一ではなくても、製造されたタイル張り浴槽において、必然的にタイルのおもて面の高さが一定となる。従って、従来技術で行っていたような、タイルの厚さに応じて接着層の厚さを調整するという煩雑で時間を要する作業が不要であり、短時間で容易に、外観のよいタイル張り浴槽を製造することができる。
【0009】
なお、「タイル」としては、大理石など天然石製のタイルの他、陶磁器製のタイル、樹脂製のタイルなど、種々の材質の装飾用薄板を使用することができる。
【0010】
本発明にかかるタイル張り浴槽の製造方法は、上記構成に加え、
「前記分離式型及び前記タイルの外側から、前記主成形型をFRP層で被覆する前に、
隣接する前記タイル間の空隙をマスキング用のテープで封止する」ものとすることができる。
【0011】
本構成では、分離式型及びタイルの外側から主成形型をFRP層で被覆する工程において、樹脂がタイル間に浸入してしまうことを、マスキング用のテープで防止することができる。これにより、その後の工程でタイル間の空隙に目地材を充填し目地を形成する目地処理を、問題なく行うことができると共に、外観のよい目地を形成することができる。
【0012】
なお、マスキング用のテープは、最終製品としてのタイル張り浴槽に残存するが、目地処理において目地材で被覆されるため、最終製品において外観にはあらわれない。
【0013】
本発明にかかるタイル張り浴槽の製造方法は、上記構成に加え、
「前記主成形型の平面に前記ベース部の裏面を当接させて前記分離式型を配置した状態で、
前記ベース部の面積は、前記平面の面積より小さい」ものとすることができる。
【0014】
分離式型のベース部は、タイルを支持する作用を有する。そのため、主成形型の平面の全面積をタイル張りとする場合、タイルの全面積を支持できるように、ベース部の面積を主成形型の平面の面積をカバーできる大きさとしようとするのが、通常の考え方であろう。これに対し、本構成では、分離式型のベース部の面積を、対応させた主成形型の平面の面積より小さいものとしている。これは、タイルの全面積をベース部で支持しなくても、タイルを安定的に支持し得るとの考え方による。これにより、分離式型を小さいものとし、軽量とすることができるため、タイル張り浴槽の製造にかかる労力負担を低減することができると共に、分離式型の原料を低減して製造コストを節減することができる。
【0015】
次に、本発明にかかるは、タイル張り用型部材は、
「主成形型と分離式型とを備えており、
前記主成形型は、外表面に少なくとも一つの平面を有するものであり、
前記分離式型は、平板状のベース部、及び、該ベース部の表裏面のうち、おもて面から突出しているリブを有しており、前記ベース部の裏面を前記主成形型の前記平面に当接させるためのものである」ことを特徴とする。
【0016】
これは、上記のタイル張り浴槽の製造方法に使用されるタイル張り用型部材の構成である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、熟練した作業者でなくても、外観よくタイルが張られた浴槽を短時間で容易に製造することができるタイル張り浴槽の製造方法、及び、この製造方法に使用されるタイル張り用型部材を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態であるタイル張り浴槽の製造方法で製造する目的の浴槽の(a)平面図、(b)A-A線断面図、及び(c)斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態であるタイル張り浴槽の製造方法において、主成形型に分離式型を配置した状態の斜視図である。
【
図3】
図2に引き続き、主成形型に分離式型を配置した状態の斜視図である。
【
図4】分離式型に重ねてタイルを配置した状態の断面図である。
【
図5】分離式型及びタイルの外側から主成形型をFRP層で被覆した状態の断面図である。
【
図6】積層状態の分離式型、タイル、及びFRP層と、主成形型とを離隔させた状態の断面図である。
【
図7】FRP層と一体化したタイルから、分離式型を分離させた状態の説明図である。
【
図9】分離式型の他の変形例を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態であるタイル張り浴槽100の製造方法、及び、この製造方法に使用されるタイル張り用型部材について、図面を参照して説明する。以下、タイル張り浴槽100を、単に浴槽100と表示することがある。
【0020】
本実施形態で製造目的とする浴槽100は、浴槽本体110の内周面にタイル30が張られた浴槽であり、浴槽本体110の内周面は複数の平面からなる。具体的に説明すると、浴槽100は、
図1に示すように、平面視の外形が長方形で、浴槽本体110の全体形状は凹形状であるが、平面視外形の長方形の一辺を構成する側面111に段部を備えている。本実施形態では段部は二つあり、浴槽本体110の底面113に近い方の第一段部115に腰かけて湯につかることができる。他方の第二段部116は、浴槽100に入るときや出るときに、第一段部115と共にステップとして使用される。
【0021】
浴槽本体110において、第一段部115及び第二段部116が形成されている側面111と対向する側面112は、上方に向かって外側に直線的に傾斜しており、バックレストとして使用される。浴槽本体110における残る二つの側面は鉛直面である。
【0022】
上記構成の浴槽本体110の内周面は、九つの平面から形成されており、各平面に複数のタイル30が張られている。各平面において隣接するタイル30間には空隙が設けられており、この空隙に目地材が充填されることにより、目地層(図示を省略)が形成されている。
【0023】
本実施形態では、浴槽100を製造するために、タイル張り用型部材として、一つの主成形型10と、複数の分離式型20を使用する。主成形型10は、浴槽本体110の凹形状に対応した凸形状を有する型である。従って、主成形型10の外表面は複数の平面からなり、これらの平面は浴槽本体110の内周面を構成する複数の平面にそれぞれ対応している。なお、本実施形態では、浴槽本体110の上縁に沿って枠材90を設置するため、浴槽本体110は上縁に沿って枠材90を載置するためのフランジ部119を有している。そのため、主成形型10もフランジ部119に対応させた型フランジ部19を有している。
【0024】
複数の分離式型20はそれぞれ、薄い平板状のベース部21から線状のリブ25が突出している形状の型である。分離式型20は、浴槽本体110の内周面を構成する平面のうち、タイル張りとする面にそれぞれ対応させてある。本実施形態では、浴槽本体110の内周面を構成する九つの平面の全てをタイル張りとするため、これら九つの平面に対応させて、分離式型20は九つある。本実施形態では、分離式型20のベース部21の面積は、対応させた主成形型10の平面それぞれの全面積をカバーできる大きさである。
【0025】
また、分離式型20には、一方向に延びるリブ25のみが平行に設けられている分離式型20と、直交する二方向に延びるリブ25によって格子が形成されている分離式型20が存在する。本実施形態では、いずれのリブ25も、ベース部21のある端辺から対向する端辺に至る長さを有している。
【0026】
次に、主成形型10及び複数の分離式型20を使用したタイル張り浴槽100の製造方法について、説明する。主成形型10は、浴槽本体110の底面113に対応する面が上面となるように設置する。ここでは、型フランジ部19が延出している面を設置面に載置する。
【0027】
この状態で、
図2及び
図3に示すように、主成形型10の外表面を構成する各平面に、それぞれに対応させた分離式型20を当接させる。ここで、分離式型20のベース部21の表裏面のうち、リブ25が突出している方をおもて面、他方の面を裏面とすると、ベース部21の裏面を主成形型10に当接させる。
図2は、主成形型10の外表面を構成する平面のうち、水平な平面に分離式型20を載置・当接させた状態を示しており、
図3は、主成形型10の外表面を構成する平面のうち、水平な平面以外の平面に分離式型20を当接させた状態を示している。このとき、主成形型10の外表面に、主成形型10から分離式型20を離隔させる妨げにはならない程度の弱い接着力で、主成形型10に対する分離式型20の移動を制限する接着剤を塗布し、或いは、接着テープを張り付けておいてもよい。
【0028】
なお、本実施形態では、型フランジ部19には分離式型20を配置しない。
【0029】
主成形型10の各平面に分離式型20を配置したら、
図4に示すように、タイル30の側面を分離式型20のリブ25に沿うように、ベース部21に重ねてタイル30を配置する。このとき、タイル30の表裏面のうち、製造された浴槽100において外観にあらわれる面、すなわちタイル30のおもて面を、分離式型20のベース部21のおもて面に当接させる。
【0030】
タイル30の側面がリブ25に沿うようにタイル30を配置することにより、一方向に延びるリブ25のみが平行に設けられている分離式型20では、タイル30が一方向に列設され、直交する二方向に延びるリブ25が設けられている分離式型20では、タイル30が縦横に配置される。
【0031】
その後、分離式型20とタイル30の外側から主成形型10をFRP層40で被覆する。このようなFRP層40による被覆に先立ち、隣接するタイル30間の空隙に樹脂が浸入しないように、空隙を封止するマスキングを行う。タイル30とタイル30との空隙にはリブ25が存在しているが、タイル30とリブ25との間の僅かな空隙から、樹脂が浸入するおそれがあるためである。そこで、マスキング用のテープ(図示を省略)を、隣接するタイル30の一方の側辺の少し内側から、他方のタイル30の側辺の少し内側まで至るように、リブ25を跨ぐように貼付する。また、主成形型10の外表面を構成する平面のうち、水平な面に当接させた分離式型20に配置したタイル30と、水平ではない面に当接させた分離式型20に配置したタイル30との境界にはリブ25は存在しないが、この境界にも樹脂が浸入するおそれがあるため、ここにもマスキング用のテープを貼付して、タイル30間の僅かな空隙を封止する。
【0032】
FRP層40による被覆は、ハンドレイアップ法、または、スプレーアップ法により行うことができる。ハンドレイアップ法では、ガラス繊維などの強化用繊維製のシートに、不飽和ポリエステル樹脂等の樹脂を含浸させて、分離式型20とタイル30の外側から主成形型10を被覆する。或いは、分離式型20とタイル30の外側から主成形型10を強化用繊維製のシートで被覆した後、樹脂を含浸させる。樹脂を含浸させた強化用繊維製のシートは、ローラなどで押圧することにより脱泡する。
【0033】
スプレーアップ法では、切断された強化用繊維が混合された樹脂を、スプレーガンによって、分離式型20とタイル30の外側から主成形型10に吹き付ける。
【0034】
樹脂には、硬化剤が添加されており、時間の経過により常温で硬化する。樹脂には、硬化剤に加えて、硬化促進剤を添加しておいてもよい。
【0035】
樹脂が硬化することにより、
図5に示すように、分離式型20及びタイル30の外側から、主成形型10を被覆しているFRP層40が形成される。FRP層40は、樹脂の硬化に伴ってタイル30と一体化している。
【0036】
なお、本実施形態では、型フランジ部19には分離式型20を配置しておらず、その結果としてタイル30も配置されていないが、型フランジ部19をもFRP層40で被覆する。枠材90を載置・支持するフランジ部119を形成するためである。型フランジ部19は、FRP層40が直接的に被覆することになるため、フランジ部119のうちFRP層40で被覆される面、すなわち、設置面に当接している面とは反対側の面には、FRP層40による被覆に先立ち離型剤をコーティングしておく。
【0037】
次に、
図6に示すように、タイル30と一体化されたFRP層40を、隣接するタイル30間にリブ25を挿入させている状態の分離式型20ごと、主成形型10から離隔させる(型抜き)。仮に、主成形型10に直接にリブ25が設けられていたとしたら、型抜き方向と異なる方向にリブ25が延びている場合に、型抜きを行うことができない。これに対し、本実施形態では、分離式型20にリブ25が設けられており、分離式型20ごと型抜きをするため、型抜き方向とは異なる方向にリブ25が延びていても、問題なく型抜きを行うことができる。
【0038】
その後、FRP層40と一体化されたタイル30から、分離式型20を取り外す、分離式型20は、主成形型10の外表面を構成する平面ごとに配置される平板状の構成であるため、分離式型20それぞれを別個に、タイル30間の空隙からリブ25が抜け出る方向に取り外すことができ、リブ25が延びている方向が分離式型20の取り外しの問題となることがない。
【0039】
また、FRP層40と主成形型10の間に分離式型20が存在するため、FRP層40が主成形型10と固着してしまうことがなく、主成形型10の外表面に離型剤をコーティングしておかなくても、問題なくFRP層40と主成形型10とを離隔させることができる。
【0040】
すべての分離式型20が取り外されると、
図7に示すように、FRP層40の内表面がタイル張りされ、タイル30間に空隙が存在する目地処理前浴槽50が得られる。FRP層40が、浴槽本体110を構成する。この状態では、タイル30間の空隙からマスキング用のテープが視認される。
【0041】
目地処理前浴槽50を反転させ、タイル30間の空隙に目地材を充填し硬化させる目地処理を行う。これにより、マスキング用のテープも外観にあらわれないこととなる。浴槽本体110のフランジ部119に枠材90を載置し固着させれば、
図1を用いて上述した構成のタイル張り浴槽100が得られる。
【0042】
以上のように、本実施形態のタイル張り浴槽100の製造方法によれば、主成形型10の外表面を構成する平面ごとに平板状の分離式型20を配置し、分離式型20から線状に突出しているリブ25に沿ってタイル30を配置した後、分離式型20及びタイル30の外側から主成形型10をFRP層40で被覆する。そのため、タイル30と一体化されたFRP層40を分離式型20ごと主成形型10から離隔させ、更にFRP層40と一体化したタイル30から分離式型20を取り外した後は、タイル30とタイル30との間に、リブ25に対応した空隙が形成され、これが目地用の空隙となる。従って、熟練した技術がなくとも、目地用の空隙を一定に揃えることができ、目地がきれにそろった外観のよいタイル張り浴槽100を製造することができる。
【0043】
また、本実施形態のタイル張り浴槽100の製造方法によれば、タイル30の表裏面のうち、製造されたタイル張り浴槽100において外観にあらわれる「おもて面」を、分離式型20のベース部21に当接させる。そして、その後、分離式型20及びタイル30の外側から主成形型10をFRP層40で被覆することにより、タイル30の裏面側がFRP層40に埋設される。その結果、タイル30の厚さが一定ではなくても、製造されたタイル張り浴槽100において、必然的にタイル30のおもて面の高さが一定となる。従って、従来技術で行っていたように、タイル30の厚さに応じて接着層の厚さを調整するという煩雑で時間を要する作業が不要であり、短時間で容易に外観のよいタイル張り浴槽100を製造することができる。
【0044】
更に、本実施形態のタイル張り浴槽100の製造方法によれば、分離式型20及びタイル30の外側から主成形型10をFRP層40で被覆する前に、マスキング用のテープでタイル30間の空隙を封止している。これにより、FRP層40で被覆する工程において、樹脂がタイル30間に浸入してしなうことを防止することができ、その後の工程でタイル30間の空隙に目地材を充填し目地を形成する目地処理を、問題なく行うことができると共に、外観のよい目地を形成することができる。
【0045】
上記では、主成形型10の外表面を構成する平面ごとに配される分離式型20について、ベース部21の面積を、対応させた主成形型10の平面の全面積をカバーできる大きさとした場合を例示した。これに限定されず、
図8に例示するように、変形例の分離式型20aでは、ベース部21の面積を、対応させた主成形型10の平面の面積より小さいものとすることができる。ベース部21はタイル30を支持する作用を有するが、タイル30の全面積を支持しなくても、タイル30を安定的に支持し得るとの考え方による。
【0046】
このように、ベース部21の面積を小さいものとすることにより、分離式型20aを軽量とすることができるため、タイル張り浴槽100の製造にかかる労力負担を低減することができると共に、分離式型20aの原料を低減して製造コストを節減することができる。
【0047】
なお、
図8では、分離式型20aのベース部21の全外周辺が、対応させた主成形型10の平面の全外周辺より内側に位置し、平面の全外周辺に沿ってベース部21のない部分が生じている場合を例示した。これに限定されず、ベース部21の全外周辺のうち少なくとも一辺は、対応させた主成形型10の平面の全外周辺のうちの一辺と一致するように、分離式型を配置することができる。このようにすることより、主成形型10に対する分離式型の位置決めが容易となる。
【0048】
また、上記では、分離式型20に形成されたリブ25のいずれも、ベース部21においてある端辺から対向する端辺に至る長さを有している場合を例示した。これに限定されず、変形例の分離式型20bとして、リブ25の長さが、リブ25の両端部の少なくとも一方が、ベース部21の端辺に至らない長さである構成とすることができる。リブ25は、タイル30間の空隙が一定となるようにタイル30の位置決めをするためのものであるが、タイル30の全長にわたりリブ25に沿わせなくても、タイル30の位置決めは可能であるとの考え方による。
【0049】
なお、
図9は、分離式型20bのベース部21の面積を、対応させた主成形型10の平面の面積より小さいものとした上で、リブ25の長さを、リブ25の端部がベース部21の端辺に至らない長さとした場合を例示している。これに限定されず、ベース部21の面積を、対応させた主成形型10の平面の全面積をカバーできる大きさとした上で、リブ25の長さを、リブ25の両端部の少なくとも一方が、ベース部21の端辺に至らない長さである構成の分離式型とすることができる。
【0050】
このように、リブ25の長さを短いものとすることにより、分離式型20をより軽量とすることができるため、タイル張り浴槽100の製造にかかる労力負担をより低減することができると共に、分離式型20の原料を低減して製造コストを節減することができる。
【0051】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および設計の変更が可能である。
【0052】
例えば、上記の実施形態では、タイル張り浴槽100の内表面を構成する平面の全部をタイル張りとするために、主成形型10の外表面を構成する平面の全部について、分離式型20を当接させ、分離式型20に重ねてタイル30を配置する場合を例示した。これに限定されず、浴槽100の内表面の一部をタイル張りにしない場合は、その部分に対応する主成形型10の外表面には、分離式型20を当接させず、タイル30も配置しない。この場合は、その部分で主成形型10の外表面を、直接的にFRP層40で被覆することとなるため、その部分では主成形型10の外表面に離型剤をコーティングしておく。
【0053】
また、上記では、主成形型10の型フランジ部19には分離式型20を配置せず、ひいてはタイル30を配置しない場合を例示した。これに限定されず、浴槽本体110のフランジ部119をもタイル張りとする場合は、主成形型10の型フランジ部19にも、これに対応させた分離式型20を配置し、分離式型20に重ねてタイル30を配置してから、分離式型20及びタイル30の外側から主成形型10をFRP層40で被覆する。
【符号の説明】
【0054】
10 主成形型
20,20a,20b 分離式型
21 ベース部
25 リブ
30 タイル
40 FRP層
100 浴槽(タイル張り浴槽)
110 浴槽本体