(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025146439
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】サーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/04 20060101AFI20250926BHJP
H01C 17/28 20060101ALI20250926BHJP
G01K 7/22 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
H01C7/04
H01C17/28
G01K7/22 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047203
(22)【出願日】2024-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】細川 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 裕
【テーマコード(参考)】
2F056
5E032
5E034
【Fターム(参考)】
2F056QF01
2F056QF04
5E032BA21
5E032BB08
5E032CA12
5E032CC11
5E034BA09
5E034BB01
5E034BC01
5E034DA02
5E034DC02
5E034DC05
5E034DC09
5E034DE20
(57)【要約】
【課題】 高温環境や耐熱試験で特性の経時変化が小さいサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体2と、サーミスタ素体の形成された一対の電極3とを備え、電極が、サーミスタ素体の表面に形成されたPt電極層3aと、Pt電極層の外側に形成されたPt,Sn及びMを含む金属間化合物層3bとを備え、前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、金属間化合物層の厚さが、50nm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体と、
前記サーミスタ素体の形成された一対の電極とを備え、
前記電極が、前記サーミスタ素体の表面に形成されたPt電極層と、
前記Pt電極層の外側に形成されたPt,Sn及びMを含む金属間化合物層とを備え、
前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、
前記金属間化合物層の厚さが、50nm以上であることを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサーミスタ素子において、
前記金属間化合物層の厚さが、190nm以上であり、
前記金属間化合物層における前記Mの濃度が、3.0~7.6wt%であることを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサーミスタ素子において、
前記一対の電極の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材が接合されていることを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項4】
請求項3に記載のサーミスタ素子において、
前記金属間化合物層が、前記Pt電極層側よりも前記はんだ材側に、多くの前記Mが含有されている高濃度M領域を有していることを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項5】
請求項3に記載のサーミスタ素子と、
前記一対の電極に前記はんだ材により一端部が接続された一対のリード線と、
前記一対のリード線の一端部を含んで前記サーミスタ素子全体を樹脂で封止する樹脂封止部とを備えていることを特徴とする温度センサ。
【請求項6】
請求項3に記載のサーミスタ素子と、
前記サーミスタ素子が実装された実装基板とを備え、
前記実装基板が、表面に形成された配線を備え、
前記サーミスタ素子が、前記配線上に前記はんだ材で接合されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項7】
結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体に一対の電極を形成する電極形成工程と、
前記一対の電極の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材を接合するはんだ接合工程とを有し、
前記電極形成工程が、前記サーミスタ素体の表面にPt電極層を形成するPt電極層工程と、
前記Pt電極層の外側にPt,Sn及びMを含む金属間化合物層を形成する金属間化合物層形成工程とを有し、
前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、
前記金属間化合物層の厚さを、50nm以上とすることを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のサーミスタ素子の製造方法において、
前記はんだ接合工程で、溶融させた前記Mを含有する前記はんだ材を前記Pt電極層に付着させた後に固化させる際に、前記はんだ材と前記Pt電極層との間に、前記はんだ材中の前記M及びSnと前記Pt電極層中のPtとを含有する前記金属間化合物層を形成する前記金属間化合物層形成工程を行うことを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のサーミスタ素子の製造方法において、
前記はんだ接合工程で、前記はんだ材を280℃以上の接合温度で接合させることを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載のサーミスタ素子の製造方法において、
前記金属間化合物層形成工程が、前記Pt電極層の表面に前記Mをスパッタ法で付着させてM層を形成するMスパッタ工程と、
前記はんだ接合工程で溶融させた前記はんだ材を前記M層に付着させた後に固化させる際に、前記はんだ材と前記Pt電極層との間に、前記M層中の前記Mと前記Pt電極層中のPtと前記はんだ材中のSnとを含有した前記金属間化合物層を形成するM固溶工程とを有することを特徴とするサーミスタ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱試験や高温環境でも特性の経時変化の小さいサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、サーミスタ素子は温度によって抵抗値が変化し、その変化が温度に対して非常に敏感なことから、温度センサや電子機器の保護回路など、幅広く使用されている。
従来、サーミスタ素子の耐環境性向上のため、例えば、サーミスタ素子を樹脂で封止したセンサが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、近年、電気自動車のモータ出力向上や、航続距離の延長、高速充電に伴って、モータ,バッテリー等の駆動環境の高温化を想定した耐熱試験によって、サーミスタ素子の特性が経時変化する問題が生じている。この問題は、ペロブスカイト系サーミスタ素子でより顕著に表れている。
特に、Ptで形成された電極を設けたサーミスタ素子の場合、電極の厚みが4μm未満であると、高温環境下や耐熱試験において抵抗値増加が顕著になってしまう問題があった。この対策としてPt電極を厚くする方法も考えられるが、材料コストが増加してしまう不都合があった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高温環境や耐熱試験で特性の経時変化が小さいサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ペロブスカイト系サーミスタ素子の高温環境や耐熱試験における特性の経時変化について研究を進めたところ、サーミスタ素子をはんだ材で実装する際のはんだ主成分であるSnの酸化によって、サーミスタ素体が低酸素環境にさらされることで、サーミスタ材料に還元による酸素欠陥が生じることが原因であると突き止めた。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
すなわち、第1の発明に係るサーミスタ素子では、結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体と、前記サーミスタ素体の形成された一対の電極とを備え、前記電極が、前記サーミスタ素体の表面に形成されたPt電極層と、前記Pt電極層の外側に形成されたPt,Sn及びMを含む金属間化合物層とを備え、前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、前記金属間化合物層の厚さが、50nm以上であることを特徴とする。
【0007】
このサーミスタ素子では、前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、金属間化合物層の厚さが、50nm以上であるので、耐熱性が高く酸素透過性の低い導電性材料である厚い金属間化合物層が酸素バリア層として機能することで、Pt電極層が薄くても、はんだ主成分のSnの酸化によるサーミスタ素体の酸素欠陥形成を抑制することができる。
特に、本発明では、Pt電極層が4μm未満の厚さの場合に有効である。
【0008】
第2の発明に係るサーミスタ素子では、第1の発明において、前記金属間化合物層の厚さが、190nm以上であり、前記金属間化合物層における前記Mの濃度が、3.0~7.6wt%であることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子では、金属間化合物層の厚さが、190nm以上であり、金属間化合物層における前記Mの濃度が、3.0~7.6wt%であるので、耐熱試験での抵抗値変化率を1.6%以下に抑制することが可能になる。
【0009】
第3の発明に係るサーミスタ素子では、第1又は第2の発明において、前記一対の電極の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材が接合されていることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子では、一対の電極の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材が接合されているので、高温ではんだ実装された際や高温環境下で使用された際、はんだ材中のSnが酸化しても、サーミスタ素体の酸素欠陥形成を抑制することができ、抵抗値変化率を低減することができる。
【0010】
第4の発明に係るサーミスタ素子では、第3の発明において、前記金属間化合物層が、前記Pt電極層側よりも前記はんだ材側に、多くの前記Mが含有されている高濃度M領域を有していることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子では、金属間化合物層が、Pt電極層側よりもはんだ材側に、多くの前記Mが含有されている高濃度M領域を有しているので、前記Mが濃い領域によって、より酸素バリア効果が高くなる。
【0011】
第5の発明に係る温度センサでは、第3の発明のサーミスタ素子と、前記一対の電極に前記はんだ材により一端部が接続された一対のリード線と、前記一対のリード線の一端部を含んで前記サーミスタ素子全体を樹脂で封止する樹脂封止部とを備えていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、一対のリード線の一端部を含んでサーミスタ素子全体を樹脂で封止する樹脂封止部を備えているので、耐熱試験における抵抗値変化率の低い樹脂封止タイプの温度センサが得られる。
【0012】
第6の発明に係る温度センサでは、第3の発明のサーミスタ素子と、前記サーミスタ素子が実装された実装基板とを備え、前記実装基板が、表面に形成された配線を備え、前記サーミスタ素子が、前記配線上に前記はんだ材で接合されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、上記発明のサーミスタ素子が、実装基板の配線上にはんだ材で接合されているので、サーミスタ素子が基板実装状態であっても高温環境下や耐熱試験等での抵抗値の変化を抑制することができる。
【0013】
第7の発明に係るサーミスタ素子の製造方法では、結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体に一対の電極を形成する電極形成工程と、前記一対の電極の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材を接合するはんだ接合工程とを有し、前記電極形成工程が、前記サーミスタ素体の表面にPt電極層を形成するPt電極層工程と、前記Pt電極層の外側にPt,Sn及びMを含む金属間化合物層を形成する金属間化合物層形成工程とを有し、前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、前記金属間化合物層の厚さを、50nm以上とすることを特徴とする。
【0014】
第8の発明に係るサーミスタ素子の製造方法では、第7の発明において、前記はんだ接合工程で、溶融させた前記Mを含有する前記はんだ材を前記Pt電極層に付着させた後に固化させる際に、前記はんだ材と前記Pt電極層との間に、前記はんだ材中の前記M及びSnと前記Pt電極層中のPtとを含有する前記金属間化合物層を形成する前記金属間化合物層形成工程を行うことを特徴とする。
このサーミスタ素子の製造方法では、はんだ接合工程で、溶融させた前記Mを含有するはんだ材をPt電極層に付着させた後に固化させる際に、はんだ材とPt電極層との間に、はんだ材中の前記M及びSnとPt電極層中のPtとを含有する金属間化合物層を形成する金属間化合物層形成工程を行うので、金属間化合物層形成工程をはんだ接合工程中に行うことができる。
【0015】
第9の発明に係るサーミスタ素子の製造方法では、第8の発明において、前記はんだ接合工程で、前記はんだ材を280℃以上の接合温度で接合させることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子の製造方法では、はんだ接合工程で、はんだ材を280℃以上の接合温度で接合させるので、耐熱試験での抵抗値変化率を1.6%以下に抑制することが可能になる。特に、はんだ材を380℃以上の接合温度で接合させると、Pt電極層側よりもはんだ材側に多くの上記Mが含有されている金属間化合物層が得られ、より酸素バリア効果が高くなって抵抗値変化率が低下する。
【0016】
第10の発明に係るサーミスタ素子の製造方法では、第7の発明において、前記金属間化合物層形成工程が、前記Pt電極層の表面に前記Mをスパッタ法で付着させてM層を形成するMスパッタ工程と、前記はんだ接合工程で溶融させた前記はんだ材を前記M層に付着させた後に固化させる際に、前記はんだ材と前記Pt電極層との間に、前記M層中の前記Mと前記Pt電極層中のPtと前記はんだ材中のSnとを含有した前記金属間化合物層を形成するM固溶工程とを有することを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ素子の製造方法では、金属間化合物層形成工程が、Pt電極層の表面に前記Mをスパッタ法で付着させてM層を形成するMスパッタ工程と、はんだ接合工程で溶融させたはんだ材をM層に付着させた後に固化させる際に、はんだ材とPt電極層との間に、M層中の前記MとPt電極層中のPtとはんだ材中のSnとを含有した金属間化合物層を形成するM固溶工程とを有するので、はんだ材中に前記Mが含有されていない場合でも、スパッタで形成させたM層の前記Mを固溶させて十分な量の前記Mを含有する金属間化合物層を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法によれば、前記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、金属間化合物層の厚さが、50nm以上であるので、耐熱性が高く酸素透過性の低い導電性材料である厚い金属間化合物層が酸素バリア層として機能することで、Pt電極層が薄くても、はんだ主成分のSnの酸化によるサーミスタ素体の酸素欠陥形成を抑制することができる。
したがって、高温環境下や耐熱試験でサーミスタ特性が経時変化することを抑制でき、高い信頼性を有したサーミスタ素子及び温度センサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法の一実施形態において、サーミスタ素子を示す要部の概念的な断面図である。
【
図2】本実施形態において、樹脂封止型の温度センサを示す断面図である。
【
図3】本実施形態において、サーミスタ素子を備えた温度センサを示す断面図である。
【
図4】本実施形態において、サーミスタ素子を備えた温度センサの他の例を示す断面図である。
【
図5】本実施形態において、サーミスタ素子の製造方法を製造工程順に示した概略的な断面図である。
【
図6】本発明に係るサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法の実施例において、サーミスタ素子の断面における接合温度280℃(a)及び接合温度380℃(b)での各元素(Ni,Sn,Pt)の組成分布画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るサーミスタ素子及びこれを備えた温度センサ並びにサーミスタ素子の製造方法の一実施形態を、
図1から
図5を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0020】
本実施形態のサーミスタ素子1は、
図1に示すように、結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体2と、サーミスタ素体2の形成された一対の電極3とを備えている。
なお、本実施形態のサーミスタ素子1は、フレーク状のサーミスタ素体2の上面及び下面にそれぞれ電極3を形成しているが、
図1では、上面側のみ図示している。
上記電極3は、サーミスタ素体2の表面に形成されたPt電極層3aと、Pt電極層3aの外側に形成されたPt,Sn及びMを含む金属間化合物層3bとを備えている。
上記Mは、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、金属間化合物層3bの厚さが、50nm以上である。
【0021】
特に、金属間化合物層3bの厚さが、190nm以上であり、金属間化合物層3bにおける上記Mの濃度が、3.0~7.6wt%であることが好ましい。
上記一対の電極3の少なくとも一方には、Snを主成分とするはんだ材4が接合されている。
上記金属間化合物層3bは、Pt電極層3a側よりもはんだ材4側に、多くの上記Mが含有されている高濃度M領域3cを有している。例えば、上記MがNiの場合、高濃度M領域3cは、高濃度Ni領域となる。
【0022】
上記金属間化合物層3b中の上記Mの濃度(M/(Sn+Pt+M)wt%)は、Niの場合、0.5~10wt%であり,Agの場合、3.0~15wt%であり,Coの場合、0.5~10wt%であり,Mnの場合、0.5~10wt%であることが好ましい。
なお、金属間化合物層3bは、Pt電極層3aとはんだ材4との間の全面に連続的に配されていることが好ましいが、非連続に複数の箇所に在ってもよい。
上記Pt電極層3aは、Ptペーストをサーミスタ素体2に印刷し焼き付けて形成している。
Pt電極層3aの厚さは、例えば1μmである。なお、本発明は、特に4μm未満の薄いPt電極層3aでも、有効に酸素バリア効果を得ることができる。
上記サーミスタ素体2のサーミスタ材料は、例えば0.5(La0.8Ca0.2)(Cr0.45Mn0.55)O3+0.5Y2O3等である。
【0023】
また、本実施形態の温度センサ10Aは、
図2に示すように、一対の電極3にはんだ材4により一端部が接続された一対のリード線5と、一対のリード線5の一端部を含んでサーミスタ素子1全体を樹脂で封止する樹脂封止部6とを備えている。
上記樹脂封止部6は、例えばエポキシ樹脂等で形成されている。
すなわち、本実施形態の温度センサ10Aは、樹脂封止型の温度センサである。
【0024】
また、他の例として本実施形態の温度センサ10Bは、
図3に示すように、サーミスタ素子1と、サーミスタ素子1が実装された実装基板8とを備えている。
上記実装基板8は、表面に形成された配線7を備えている。
上記サーミスタ素子1は、配線7上にはんだ材4で接合されている。
上記実装基板8は、例えば樹脂で形成されたFPC等の絶縁基板である。
上記配線7は、実装基板8上に銅箔等で形成されたパターン配線であり、実装用のパッド形状とされて少なくとも2つ設けられている。
なお、サーミスタ素子1は、下面の電極3だけが実装基板8の一方の配線7にはんだ材4で接合されており、上面の電極3と他方の配線7とがワイヤーボンディングによりAu線9で接続されている。
【0025】
さらに、他の例として本実施形態の温度センサ10Cは、
図4に示すように、立方体状のサーミスタ素体2の両端部にPt電極層3aをそれぞれ形成したサーミスタ素子1Cと、サーミスタ素子1Cが表面実装された実装基板8とを備えている。
すなわち、サーミスタ素子1Cは、チップサーミスタである。
この温度センサ10Cでは、一対のPt電極層3aの下部が、それぞれ実装基板8上の一対の配線7にはんだ材4で接合されている。したがって、Pt電極層3aの下部において、はんだ材4との間に金属間化合物層3bが形成されている。
【0026】
本実施形態のサーミスタ素子1の製造方法は、結晶構造がペロブスカイト型の酸化物サーミスタ材料を含むサーミスタ素体2に一対の電極3を形成する電極形成工程と、一対の電極3の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材4を接合するはんだ接合工程とを有している。
上記電極形成工程は、
図5の(a)に示すように、サーミスタ素体2の表面にPt電極層3aを形成するPt電極層工程と、
図5の(d)に示すように、Pt電極層3aの外側にPt,Sn及び上記Mを含む金属間化合物層3bを形成する金属間化合物層形成工程とを有している。
上記Mは、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、上記金属間化合物層3bの厚さを、50nm以上とする。
【0027】
なお、上記はんだ接合工程において、溶融させた上記Mを含有するはんだ材4をPt電極層3aに付着させた後に固化させる際に、はんだ材4とPt電極層3aとの間に、はんだ材4中の上記M及びSnとPt電極層3a中のPtとを含有する金属間化合物層3bを形成する上記金属間化合物層形成工程を行ってもよい。
また、はんだ接合工程において、はんだ材4を280℃以上の接合温度で接合させることが好ましい。
【0028】
なお、金属間化合物層形成工程として、
図5の(b)に示すように、Pt電極層3aの表面に上記Mをスパッタ法で付着させてM層3dを形成するMスパッタ工程と、
図5の(c)に示すように、はんだ接合工程で溶融させたはんだ材4をM層3dに付着させた後に固化させる際に、
図5の(d)に示すように、はんだ材4とPt電極層3aとの間に、M層3d中の上記MとPt電極層3a中のPtとはんだ材4中のSnとを含有した金属間化合物層3bを形成するM固溶工程とを有するものを採用しても構わない。
例えば、上記MとしてNiを採用する場合、Niをスパッタ法でPt電極層3aに付着させてNiのM層3dを形成し、このM層3dに加熱して溶融させたはんだ材4を付着させ固化させる際に、はんだ材4とPt電極層3aとの間に、M層3d中のNiとPt電極層3a中のPtとはんだ材4中のSnとを含有した金属間化合物層3bを形成する。
【0029】
このように本実施形態のサーミスタ素子1では、上記Mが、Ag,Ni,Co及びMnのうち少なくとも1種であり、金属間化合物層3bの厚さが、50nm以上であるので、耐熱性が高く酸素透過性の低い導電性材料である厚い金属間化合物層3bが酸素バリア層として機能することで、Pt電極層3aが薄くても、はんだ主成分のSnの酸化によるサーミスタ素体2の酸素欠陥形成を抑制することができる。
また、金属間化合物層3bの厚さが、190nm以上であり、金属間化合物層3bにおける上記Mの濃度が、3.0~7.6wt%であることで、耐熱試験での抵抗値変化率を1.6%以下に抑制することが可能になる。
【0030】
また、一対の電極3の少なくとも一方にSnを主成分とするはんだ材4が接合されているので、高温ではんだ実装された際や高温環境下で使用された際、はんだ材4中のSnが酸化しても、サーミスタ素体2の酸素欠陥形成を抑制することができ、抵抗値変化率を低減することができる。
さらに、金属間化合物層3bが、Pt電極層3a側よりもはんだ材4側に、多くの上記Mが含有されている高濃度M領域3cを有することで、上記Mが濃い領域によって、より酸素バリア効果が高くなる。
【0031】
本実施形態の温度センサ10Aでは、一対のリード線5の一端部を含んでサーミスタ素子1全体を樹脂で封止する樹脂封止部6を備えているので、耐熱試験における抵抗値変化率の低い樹脂封止タイプの温度センサが得られる。
また、本実施形態の温度センサ10B,10Cでは、サーミスタ素子1が、実装基板8の配線7上にはんだ材で接合されているので、サーミスタ素子1が基板実装状態であっても高温環境下や耐熱試験等での抵抗値の変化を抑制することができる。
【0032】
本実施形態のサーミスタ素子の製造方法では、はんだ接合工程で、溶融させた上記Mを含有するはんだ材4をPt電極層3aに付着させた後に固化させる際に、はんだ材4とPt電極層3aとの間に、はんだ材4中の上記M及びSnとPt電極層3a中のPtとを含有する金属間化合物層3bを形成する金属間化合物層形成工程を行うので、金属間化合物層形成工程をはんだ接合工程中に行うことができる。
【0033】
また、はんだ接合工程で、はんだ材4を280℃以上の接合温度で接合させることで、耐熱試験での抵抗値変化率を1.6%以下に抑制することが可能になり、はんだ材4を320℃以上の接合温度で接合させることで、耐熱試験での抵抗値変化率を0.8%以下に抑制することが可能になる。
特に、はんだ材4を380℃以上の接合温度で接合させると、Pt電極層3a側よりもはんだ材4側に多くの上記Mが含有されている金属間化合物層3bが得られ、より酸素バリア効果が高くなって抵抗値変化率が低下する。
【0034】
また、金属間化合物層形成工程が、Pt電極層3aの表面に上記Mをスパッタ法で付着させてM層3dを形成するMスパッタ工程と、はんだ接合工程で溶融させたはんだ材4をM層3dに付着させた後に固化させる際に、はんだ材4とPt電極層3aとの間に、M層3d中の上記MとPt電極層3a中のPtとはんだ材4中のSnとを含有した金属間化合物層3bを形成するM固溶工程とを有することで、はんだ材4中に上記Mが含有されていない場合でも、スパッタで形成させたM層3dの上記Mを固溶させて十分な量の上記Mを含有する金属間化合物層3bを容易に得ることができる。
【実施例0035】
<実施例1>
まず、サーミスタ素体となる厚さ0.35mmのサーミスタウェハにPtペーストを印刷後、焼き付けてPt電極層を形成した。この後、0.5mm□に切断することで、フレーク状サーミスタチップを作製した。
このフレーク状サーミスタチップのPt電極層表面に、Niをスパッタで厚さ20nmのM層を形成し、その後230℃のはんだ槽を用いてはんだ材にてリード線を接合した。
使用したはんだ材はニホンハンダ製のPF04(Sn/Cu0.7)である。
その後、エピフォーム(登録商標:ソマール株式会社製)をディッピング、120℃で60分間硬化させることで、Pt電極層とはんだ材との間にSn,Pt及びNi(上記M)から構成される金属間化合物層を介在させ、リード線を接続したサーミスタ素子及び温度センサを、本発明の実施例1として作製した。
【0036】
<実施例2>
実施例1と同様にフレーク状サーミスタチップを作製した後、Ni入りのはんだ材(SN100C:日本スペリア製、Sn/0.7Cu/0.05Ni/Ge)を用いて、280℃ではんだ付けすることで、Sn,Pt及びNi(上記M)から構成される金属間化合物層をPt電極層とはんだ材との界面に作製し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例2とした。
【0037】
<実施例3>
実施例2のはんだ付け温度を380℃とすることで、金属間化合物層のNi割合を変量し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例3とした。
<実施例4>
はんだ材としてM731(千住金属製、Sn/3.9Ag/0.6Cu/3.0Sb)を用いて、380℃ではんだ付けすることで、Sn,Pt及びAg(上記M)から構成される金属間化合物層を形成し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例4とした。
【0038】
<実施例5>
はんだ材としてSn992(巴工業製、99.2Sn/0.5Cu+Bi+Co)を用いて、400℃ではんだ付けすることで、Sn,Pt及びCo(上記M)から構成される金属間化合物層を形成し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例5とした。
<実施例6>
実施例1のはんだ接合温度を400℃にし、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例6とした。
【0039】
<実施例7>
はんだ材としてSACm(巴工業製、98.5Sn/0.5Ag/1.0Cu+Mn)を用いて、400℃ではんだ付けすることで、Sn,Pt,Ag(上記M)及びMn(上記M)から構成される金属間化合物層を形成し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例7とした。
<実施例8>
実施例2のはんだ接合温度を320℃とすることで、金属間化合物層のNi割合を変量し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例8とした。
<実施例9>
実施例2のはんだ接合温度を350℃とすることで、金属間化合物層のNi割合を変量し、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例9とした。
【0040】
<比較例1>
実施例1のスパッタでM層(Ni)を形成する工程を省略した以外は、実施例1と同様に作製し、上記Mを含む金属間化合物層を形成していないものを、本発明の比較例1とした。
<比較例2>
実施例1のM層を厚さ2nmとして金属間化合物層の厚みを4nmとし、それ以外は実施例1と同様に作製したものを、本発明の比較例2とした。
【0041】
これらの本発明の実施例及び比較例について、Sn,Pt,上記Mから構成される金属間化合物層のM固溶率(M/(Sn+Pt+M)wt%)及びその厚みを、表1に示す。
また、これらの本発明の実施例及び比較例に対して、25℃における初期の抵抗値を測定後、150℃1000時間の耐熱試験を実施し、その際の抵抗値を測定し、初期と耐熱試験後との抵抗値の変化率をΔRとし、表1に示す。
【0042】
【0043】
これらの結果から分かるように、比較例1では、上記Mを含む金属間化合物層が形成されていないため、酸素バリア効果がなく、耐熱試験後の抵抗値変化率が6.6%と大きいのに対し、上記Mを含む金属間化合物層が形成された本発明の各実施例では、いずれも耐熱試験後の抵抗値変化率が1.6%以下と小さくなっている。
なお、比較例2では、金属間化合物層が形成されているものの、その厚さが40nmと薄いため、十分な酸素バリア効果が得られず、抵抗値変化率が5.7%と大きいが、本発明の各実施例では、金属間化合物層の厚さが190nm以上と厚いため、上述したように、抵抗値変化率が1.6%以下と大幅に小さくなっている。
特に、はんだ材を320℃以上の接合温度で接合させると、金属間化合物層がさらに厚くなって、抵抗値変化率が0.8%以下に抑制されている。
【0044】
次に、はんだ接合温度が280℃の実施例2と、380℃の実施例3とについて、サーミスタ素子の断面における各元素(Ni,Sn,Pt)の組成分布画像を、
図6に示す。
はんだ接合温度が280℃の実施例2では、
図6の(a)に示すように、はんだ材のSnとPt電極層のPtとの間に、Sn,Pt及びNiから成る金属間化合物層が形成されていることが分かる。
また、はんだ接合温度が380℃の実施例3では、
図6の(b)に示すように、はんだ材のSnとPt電極層のPtとの間に、Sn,Pt及びNiから成る金属間化合物層が形成されていると共に、金属間化合物層内のはんだ材側に上記MであるNiが濃い領域(高濃度M領域)が形成されていることが分かる。このように、金属間化合物層が厚くなると共に上記M(Ni)が濃い領域が形成され、表1に示すように、抵抗値変化率が0.4%とかなり小さくなることが分かる。
なお、
図6において、Pt電極層内にもNiが分布しているように見えるが、これは検出されたPtのスペクトルの裾を拾っているものであり、実際はNiの反応ではない。
【0045】
本発明の技術範囲は上記実施形態および上記各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
1,1C…サーミスタ素子、2…サーミスタ素体、3…電極、3a…Pt電極層、3b…金属間化合物層、3d…M層、4…はんだ材、5…リード線、6…樹脂封止部、7…配線、8…実装基板図番変更、10A,10B,10C…温度センサ