(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014645
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】急性腎障害の予防及び/又は治療薬
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20250123BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20250123BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P13/12
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117370
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】393028036
【氏名又は名称】丸石製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増井 邦晴
(72)【発明者】
【氏名】山村 睦朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 大介
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA16
4C084BA23
4C084BA31
4C084NA14
4C084ZA81
4C084ZC02
(57)【要約】
【課題】急性腎障害(AKI)の新たな予防治療薬を提供すること。
【解決手段】D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩を有効成分とする急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩を有効成分とする急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
【請求項2】
急性腎障害による尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善する請求項1記載の急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
【請求項3】
急性腎障害が、敗血症性急性腎障害である請求項1又は2記載の急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性腎障害の予防及び/又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
急性腎障害(acute kidney injury:AKI)は、腎機能の突然の低下として定義された広範な臨床症候群である(非特許文献1)。原因が腎臓以外に由来する腎前性(ショック、心不全、脱水、肝硬変など)、腎後性(尿管、膀胱、尿道など下部尿路閉塞)も含まれる。原因が腎臓由来の場合も腎臓自体に特異的に起こっている病態(糸球体腎炎、間質性腎炎、腎梗塞など)や全身性疾患の臓器症状の一つとして非特異的に起こっている病態(感染症、膠原病、血液疾患など)の場合がある。AKIの治療を考えるうえで、このような多彩な病態の結果であることを念頭に鑑別疾患を行うことが不可欠である。
【0003】
このような観点から、2012年にKidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO)から新しいAKI診療ガイドライン(KDIGOガイドライン)が発表された。そのガイドラインによれば、AKIは、次のように定義された(非特許文献2)。
・48時間以内にSCr(血清クレアチニン)値が≧0.3mg/dL上昇した場合。
・又はSCr値がそれ以前7日以内に判っていたか予想される基礎値より≧1.5倍の増加があった場合。
・又は尿量が6時間にわたって<0.5mL/kg/時に減少した場合。
【0004】
その結果、AKIとは急性の腎機能低下であれば軽度で可逆性の腎機能低下(機能的AKI)から重症で不可逆な腎機能低下(構造的AKI)まで包括した概念であること、さらにAKIは広範な臨床症候群であり、腎炎など臓器特異的腎疾患のみならず、腎外病変や全身性疾患を原因とした腎機能低下も包括した概念であることが明らかになった。また、Chertowらは、SCrの>0.3mg/dLの上昇が単独で死亡率と相関することを報告している(非特許文献3)。
従って、AKIの早期発見、早期治療、特に機能的AKIから構造的AKIとなる前の介入は、生命予後及び腎臓の臓器予後を改善させる可能性がある。
【0005】
このようなAKIの予防治療剤として{4-[5-(3-クロロ-フェノキシ)-オキサゾロ[5,4-d]ピリミジン-2-イル]-2,6-ジメチル-フェノキシ}-酢酸又はその薬理学的に許容される塩が有用であることが報告されている(特許文献1)。
【0006】
一方、特定のテトラペプチドアミド誘導体は、κオピオイド受容体作動性ペプチドであり、鎮痛剤及び透析患者のそう痒症抑制剤として有用であることが知られている(特許文献2、非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6458016号公報
【特許文献2】特許第5244810号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】透析会誌 51(2):117~122,2018
【非特許文献2】KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury、Kidney Int Suppl 2012;2:1-138.
【非特許文献3】Chertow GM, Burdick E, Honour M, Bonventre JV, Bates DW. Acute kidney injury, mortality, length of stay, and costs in hospitalized patients. J Am Soc Nephrol 2005;16:3365-70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、急性腎障害(AKI)の新たな予防治療薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者は、AKIのモデルを用いて種々の化合物のAKIの症状に対する作用を検討してきたところ、κオピオイド受容体作動性ペプチドとして知られている前記特許文献2記載のテトラペプチドアミドのうち、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩が、AKIによる尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善する点において優れた作用を有し、AKI予防及び/又は治療薬として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[12]を提供するものである。
[1]D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩を有効成分とする急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
[2]急性腎障害による尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善する[1]記載の急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
[3]急性腎障害が、敗血症性急性腎障害である[1]又は[2]記載の急性腎障害の予防及び/又は治療薬。
[4]急性腎障害の予防及び/又は治療薬製造のための、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩の使用。
[5]急性腎障害による尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善する[4]記載の使用。
[6]急性腎障害が、敗血症性急性腎障害である[4]又は[5]記載の使用。
[7]急性腎障害の予防及び/又は治療に用いるための、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩。
[8]急性腎障害による尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善するために使用する[7]記載の化合物又はその塩。
[9]急性腎障害が、敗血症性急性腎障害である[7]又は[8]記載の化合物又はその塩。
[10]D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩の有効量を投与することを特徴とする急性腎障害の予防及び/又は治療方法。
[11]急性腎障害による尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇を改善する[10]記載の方法。
[12]急性腎障害が、敗血症性急性腎障害である[10]又は[11]記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
前記D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH又はその塩を投与すれば、AKIの主要な症状である、AKIによる尿量の減少及び/又は血清クレアチニン値の上昇が顕著に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】敗血症性AKIモデル(LPSモデル)におけるCR845の腎機能改善効果を示す。「Vehicle Control」は生理食塩液のみを投与した群、「CR1.0 Control」はCR845(1.0mg/kg)のみを投与した群、「Vehicle LPS」はLPS投与前に生理食塩液を投与した群、「CR0.3 LPS」はLPS投与前にCR845(0.3mg/kg)を投与した群、及び「CR1.0 LPS」はLPS投与前にCR845(1.0mg/kg)を投与した群を示す。
【
図2】敗血症性AKIモデル(LPSモデル)におけるCR845の腎機能改善効果を示す。「normal control」は生理食塩液のみを投与した群、「LPS Vehicle」はLPS投与前に生理食塩液を投与した群、「CR0.3 LPS」はLPS投与前にCR845(0.3mg/kg)を投与した群、及び「CR1.0 LPS」はLPS投与前にCR845(1.0mg/kg)を投与した群を示す。
【
図3】敗血症性AKIモデル(CLPモデル)におけるCR845の腎機能改善効果を示す。「Vehicle Sham」は偽手術を実施し生理食塩液のみを投与した群、「CR1.0 Sham」は偽手術を実施しCR845(1.0mg/kg)のみを投与した群、「Vehicle CLP」は盲腸結紮及び穿刺を実施し生理食塩液を投与した群、「CR0.3 CLP」は盲腸結紮及び穿刺を実施しCR845(0.3mg/kg)を投与した群、及び「CR1.0 CLP」は盲腸結紮及び穿刺を実施しCR845(1.0mg/kg)を投与した群を示す。
【
図4】敗血症性AKIモデル(LPSモデル)におけるCR845の腎機能改善効果の持続時間を示す。「Vehicle LPS」はLPS投与前に生理食塩液を投与した群、及び「CR1.0 LPS(3d)」はLPS投与3日前にCR845(1.0mg/kg)を投与した群を示す。図中、p<0.05はVehicle LPS群との比較を示す。
【
図5】生存率の改善効果を示す。「Control」は生理食塩液を投与した群、「Treated」はCR845(0.3mg/kg)を投与した群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のAKI予防及び/又は治療剤の有効成分は、D-Phe-D-Phe-D-Leu-D-Lys-[ω(4-アミノピペリジン-4-カルボン酸)]-OH(以下、化合物(1)ともいう)又はその塩である。
この化合物(1)又はその塩は、前記のように特許文献2に記載されている化合物であり、κオピオイド受容体作動性ペプチドであり、鎮痛剤及び透析患者のそう痒症抑制剤として有用であることが知られているが、AKIに対する作用は全く知られていない。
【0015】
化合物(1)の塩としては、薬学的に許容される塩であればよく、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、クエン酸、リン酸、酒石酸などの酸付加塩、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の塩基性塩などが挙げられる。また、水和物などの形態であってもよい。
【0016】
化合物(1)又はその塩は、後述の実施例のように、急性腎障害モデル動物において、腎障害が生じることにより生じる尿量の減少及び血清クレアチニン量の増加を顕著に改善し、急性腎障害のこれらの症状を改善する効果を有する。さらに、腎障害モデル動物の腎障害後の生存率を顕著に上昇する効果を有する。従って、化合物(1)又はその塩は、急性腎障害の予防及び/又は治療薬として有用であり、特に敗血症性急性腎障害の予防及び/又は治療薬として有用である。
ここで、急性腎障害(AKI)とは、前述のように、急性の腎機能低下であれば軽度で可逆性の腎機能低下(機能的AKI)から重症で不可逆な腎機能低下(構造的AKI)まで包括した概念であり、さらに広範な臨床症候群であり、腎炎など臓器特異的腎疾患のみならず、腎外病変や全身性疾患を原因とした腎機能低下も包括した概念である。具体的には、AKIは、KDIGOガイドラインに基づき、以下のように定義される疾患である。
・48時間以内にSCr(血清クレアチニン)値が≧0.3mg/dL上昇した場合。
・又はSCr値がそれ以前7日以内に判っていたか予想される基礎値より≧1.5倍の増加があった場合。
・又は尿量が6時間にわたって<0.5mL/kg/時に減少した場合。
【0017】
前記AKI診療ガイドライン(非特許文献2)によれば、AKI、特に敗血症性急性腎障害の予防、治療のために利尿薬であるフロセミドを投与しないこととされている。従って、化合物(1)又はその塩がAKIに有用であることは、全く予想外であった。
【0018】
本発明のAKI予防及び/又は治療薬は、前記化合物(1)又はその塩を含有すればよいが、これに薬学的に許容される担体を配合して種々の投与形態の医薬組成物とするのが好ましい。
このような医薬組成物の投与形態としては、注射剤、経口剤(錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、坐剤等が挙げられる。
【0019】
これらの医薬組成物の形態とするために用いられる薬学的に許容される担体としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、防腐剤、界面活性剤等が挙げられる。
より具体的には、水(精製水、蒸留水、常水、注射用水等)、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、非イオン界面活性剤、単シロップ、クエン酸、グリセリン、マクロゴール、リン酸-水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、亜硫酸水素ナトリウム、カルメロース、ヒプロメロース等が挙げられる。
経口剤とする場合には、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤などが用いられ、常法によって製造できる。経口剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが好ましい。
注射剤とする場合には、溶剤溶解補助剤などが用いられ、特に注射用水が用いられる。注射剤としては、静脈内投与剤、皮下注射剤、筋肉内投与剤が好ましく、凍結乾燥製剤、粉末充填剤の形態が挙げられる。
軟膏剤、クリーム剤、外用液剤などの外用剤とする場合には、例えば、添加剤として、水(精製水、蒸留水、常水等)、増粘剤、乳化剤、中和剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、油脂等の成分が用いられる。例えば、水、増粘剤、乳化剤、中和剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、油脂等の成分が挙げられる。また、本発明の皮膚創傷治癒剤の製造には、必要に応じて、通常用いられる製剤用添加物を1種又は2種以上用いてもよい。このような製剤用添加物としては、例えば、水、増粘剤、乳化剤、中和剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、油脂等の成分が挙げられる。また、本発明の皮膚創傷治癒剤の製造には、必要に応じて、通常用いられる製剤用添加物を1種又は2種以上用いてもよい。このような製剤用添加物としては、例えば、水、増粘剤、乳化剤、中和剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、油脂等の成分が挙げられる。
【0020】
本発明の医薬の投与量は、有効成分、投与する対象の症状、年齢、投与方法によって異なるが、前記有効成分量として、例えば成人に対して1日あたり0.01mg~500mgとすることができる。またこの投与量は1日に1~4回に分けて投与することもできる。また、AKI発症時、AKI発症後に加えて、AKI発症前に投与してもよいが、AKI発症前の場合、3日以内の投与が好ましい。
マウス又はラットに投与する場合、有効成分は、例えば、一日当たり、非経口的には皮下、静脈内、皮下又は筋肉内等に、1回の投与当たり、前記化合物(1)又はその塩として、0.1~10mg/kg体重、好ましくは0.1~3mg/kg体重、更に好ましくは0.1~1mg/kg体重、更に好ましくは0.2~1mg/kg体重、特に好ましくは0.3~1mg/kg体重投与することができる。
また、経口的には、1回の投与当たり、前記化合物(1)又はその塩として、10~1000mg/kg体重、好ましくは10~300mg/kg体重、更に好ましくは10~100mg/kg体重、更に好ましくは20~100mg/kg体重、特に好ましくは30~100mg/kg体重投与することができる。
ヒトに投与する場合、有効成分は、例えば、成人一日当たり、非経口的には皮下、静脈内、皮下又は筋肉内等に、1回の投与当たり、前記化合物(1)又はその塩として、0.0001~0.03mg/kg体重、好ましくは0.0001~0.01mg/kg体重、更に好ましくは0.0003~0.01mg/kg体重、更に好ましくは0.0003~0.003mg/kg体重、特に好ましくは0.0003~0.001mg/kg体重投与することができる。
また、経口的には、1回の投与当たり、前記化合物(1)又はその塩として、0.01~3mg/kg体重、好ましくは0.01~1mg/kg体重、更に好ましくは0.03~1mg/kg体重、更に好ましくは0.03~0.3mg/kg体重、特に好ましくは0.03~0.1mg/kg体重投与することができる。
【実施例0021】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
7~10週齢の雄性C57BL/6Jマウス(日本クレア)を実験に使用した。インビボイメージングの測定は、モデル作製後6時間に実施した。敗血症性AKIモデル作製後5時間に、麻酔下で気管及び内頸静脈にカニューレを挿入した。腹部を小切開し腎臓を露出させ、カバーガラスを接着した。30分後にLucifer Yellow(LY)を2秒毎に300秒まで静脈内に投与し、多光子レーザー顕微鏡を用いて、遠位ネフロン内に蛍光が観察されるまでの時間を計測した。
【0023】
実施例1:敗血症性AKIモデル(LPSモデル)におけるCR845の腎機能改善効果
(方法)
LPS(5mg/kg)を腹腔内に投与し、敗血症性AKIモデル(LPSモデル)を作製した。CR845(0.3、1.0mg/kg)は、LPSモデル作製前1時間に静脈内投与した。尿サンプルの収集は、別のマウスを使用し、採尿の24時間前にマウスを代謝ケージに順応させた。尿はLPS投与後から24時間まで収集した。
【0024】
(結果)
CR845投与群では、LPS投与によって誘発された尿細管流動時間の減少を改善した。LYが150秒以内に遠位ネフロンに到達する割合は、0.3mg/kgで64%、0.1mg/kgで46%に増加した。一方、対照群では0%であった。300秒以上経過して遠位ネフロンに到着する割合は、対照群で95%であった。CR845 0.3mg/kg及び1.0mg/kgではそれぞれ21%、22%に減少した(
図1)。
LPS投与により尿量が減少し、CR845投与により尿量の減少が改善した(
図2)。
【0025】
実施例2:敗血症性AKIモデル(CLPモデル)におけるCR845の腎機能改善効果
(方法)
麻酔下で偽手術または盲腸結紮及び穿刺を実施し敗血症性AKIモデル(CLPモデル)を作製した。CR845(0.3、1.0mg/kg)は、CLPモデル作製前1時間に静脈内投与した。
【0026】
(結果)
対照群では、LYが150秒以内に遠位ネフロンに到達する割合は25%であり、300秒以上経過して到達する割合は71%であった。一方、CR845(1mg/kg)では、150秒以内に遠位ネフロンに到着する割合を増加させた(
図3)。
【0027】
実施例3:敗血症性AKIモデル(LPSモデル)におけるCR845の腎機能改善効果の持続時間
(方法)
LPS(5mg/kg)を腹腔内に投与し、敗血症性AKIモデル(LPSモデル)を作製した。CR845(1.0mg/kg)は、モデル作製3日前静脈内に投与した。
【0028】
(結果)
LPSモデル作製3日前にCR845を投与した群では、対照群で確認された尿細管流動時間の減少に対して有意な抑制効果を示した(
図4)。
【0029】
実施例4:生存率の改善効果
(方法)
片側の腎臓を摘出後、残りの腎臓に30分間の虚血と再灌流を行った。虚血再灌流後1、3、5日目にCR845(0.3mg/kg)または生理食塩水を静脈内投与した。6日目にLPS(15mg/kg)を投与し、その後12時間または24時間毎に生存を観察した。
【0030】
(結果)
対照群の50%生存時間は54時間であった。CR845の50%生存時間は144時間以上であった。CR845の処置により、生存率は改善した(
図5)。