(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014646
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】自動運転情報算出システム、及び自動運転情報算出方法
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20250123BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
E02F9/20 Q
E02F9/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117371
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】武石 学
(72)【発明者】
【氏名】野田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】迫 樹哉
(72)【発明者】
【氏名】柚本 夏輝
(72)【発明者】
【氏名】土井 隆行
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB04
2D003BA02
2D003BA03
2D003CA02
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB04
2D003DB05
2D003FA02
2D015HA03
2D015HB04
2D015HB05
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち「作業機材」の挙動を指定するだけで所定の動作をする自動運転情報算出システムと、その自動運転に必要な情報を出力する自動運転情報算出方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の自動運転情報算出システムは、建設機械を自動運転させるための情報を求めるシステムであって、中継情報算出手段を備えたものである。作業機材は、所定の作業用途を実現するものであり、中継情報算出手段は、入力された作業機材に係る「機材挙動情報」に基づいて中継機構の「機構動作情報」を算出する手段である。機材挙動情報は、作機材位置情報と機材姿勢情報、経過時刻からなる複数の「ポイント挙動情報」を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械を自動運転させるための情報を求めるシステムであって、
前記建設機械は、本体部と、該本体部に取り付けられる中継機構と、該中継機構に取り付けられる作業機材と、を含んで構成され、
前記作業機材は、前記建設機械の作業用途を実現する機能を有し、
前記中継機構は、前記作業機材の挙動を制御する機能を有し、
前記作業機材に係る機材挙動情報に基づいて、前記中継機構の機構動作情報を算出する中継情報算出手段を、備え、
前記機材挙動情報は、前記作業機材のうちあらかじめ設定された特定点に係る機材位置情報、該作業機材の姿勢を示す機材姿勢情報、及び経過時刻からなる複数のポイント挙動情報を含み、
前記機材位置情報は、前記本体部のうちあらかじめ設定された基準点を原点とする座標系における3次元座標であり、
前記中継情報算出手段は、前記ポイント挙動情報の前記経過時刻において、前記作業機材が該ポイント挙動情報の前記機材位置情報と前記機材姿勢情報に適合するように、前記機構動作情報を算出する、
ことを特徴とする自動運転情報算出システム。
【請求項2】
機構制御手段を有する前記建設機械を、さらに備え
前記機構制御手段は、前記中継情報算出手段によって算出された前記機構動作情報に基づいて、前記中継機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動運転情報算出システム。
【請求項3】
前記建設機械が油圧ショベルであって、
前記作業機材が、地盤を掘削し、又は土砂を積み込むためのバケットであり、
前記中継機構は、アーム、ブーム、及び油圧シリンダを含んで構成され、
前記機構制御手段は、前記油圧シリンダを制御することによって、前記機構動作情報に適合するように前記作業機材を制御する、
ことを特徴とする請求項2記載の自動運転情報算出システム。
【請求項4】
前記中継情報算出手段は、前記中継機構の旋回が拘束されたことを条件として、前記機構動作情報を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動運転情報算出システム。
【請求項5】
前記中継情報算出手段は、前記中継機構が旋回可能であることを条件として、前記機構動作情報を算出する、
ことを特徴とする請求項1記載の自動運転情報算出システム。
【請求項6】
建設機械を自動運転させるための情報を求める方法であって、
前記建設機械は、本体部と、該本体部に取り付けられる中継機構と、該中継機構に取り付けられる作業機材と、を含んで構成され、
前記作業機材は、前記建設機械の作業用途を実現する機能を有し、
前記中継機構は、前記作業機材の挙動を制御する機能を有し、
前記作業機材に係る機材挙動情報を設定する挙動情報設定工程と、
前記機材挙動情報に基づいて、前記中継機構の機構動作情報を算出する中継情報算出工程と、を備え、
前記機材挙動情報は、前記作業機材のうちあらかじめ設定された特定点の機材位置情報、該作業機材の姿勢を示す機材姿勢情報、及び経過時刻からなる複数のポイント挙動情報を含み、
前記機材位置情報は、前記本体部のうちあらかじめ設定された基準点を原点とする座標系における3次元座標であり、
前記中継情報算出工程では、前記ポイント挙動情報の前記経過時刻において、前記作業機材が該ポイント挙動情報の前記機材位置情報と前記機材姿勢情報に適合するように、前記機構動作情報を算出する、
ことを特徴とする自動運転情報算出方法。
【請求項7】
オペレータが前記建設機械を操作しながら、前記ポイント挙動情報を取得するポイント挙動情報取得工程を、さらに備え、
前記挙動情報設定工程では、前記ポイント挙動情報取得工程で取得された前記ポイント挙動情報に基づいて、前記機材挙動情報を設定する、
ことを特徴とする請求項6記載の自動運転情報算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、建設機械の自動運転に関する技術であり、より具体的には、油圧ショベルにおけるバケットなどその建設機械の作業用途を実現する機材の位置や角度を用いて自動運転を行う建設機械と、自動運転に必要な情報を出力するプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建設業界における人手不足の問題が深刻化しており、行政が計画している工事の遂行にも少なからず影響を及ぼしている。他方、災害現場や事故現場など人が立ち入るには危険な場所で施工することもあるが、その場合の安全対策は極めて慎重に行わなければならない。このような背景のもと、さらに情報通信技術や測位技術の飛躍的な進歩もあって、無人の建設機械によって施工を行う「無人施工」が実用化されるようになってきた。
【0003】
この無人施工は、遠隔操作形式と自動運転形式に大別することができる。遠隔操作形式は、人が建設機械から離れた位置に立ち、無線操作送信機を操作することによって建設機械を操る手法であり、一方の自動運転形式は、一連の作業を指令する処理が組み込まれたプログラムを、コンピュータが実行することによって建設機械が自動的に稼働する手法である。
【0004】
建設機械による自動化施工に関しては、これまでにも様々な技術が提案されており、例えば特許文献1では、いわゆるティーチングデータとプレーバックによる手法を利用し、トラックの進入に応じて所定の作業を自動的に行う油圧ショベルについて提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1をはじめ従来の自動運転に係る技術は、特定の建設機械を対象とするものであった。すなわち、その建設機械に特有の諸条件やパラメータに基づいて当該建設機械が所定の動作を行うように計算し、そのうえで自動運転用のプログラムを作成していた。したがって、同種の建設機械、つまりその作業用途を実現するための機材(以下、「作業機材」という。)が共通する建設機械どうしでも、それぞれ建設機械ごとに計算し、プログラムを作成する必要があった。例えば、バケット(作業機械)を有するという点で共通する同じバックホウであっても、メーカーや仕様(バケット容量など)が異なれば、それぞれバックホウごとに自動運転用のプログラムを作成しなければならないわけである。
【0007】
また従来技術では、建設機械を構成する種々の機材を対象としたうえで、その建設機械が所定の動作を行うように計算していた。例えば特許文献1では、旋回体とブーム、アーム、バケットを対象とし、それぞれの角度などを算出したうえで、プログラムを作成することとしていた。この場合、その計算が煩雑であるうえ、建設機械の安定性や効率など考えると実際には実施しないような動作を指示したり、あるいは論理的には可能であっても現実的には実施できない動作を指示したりすることが考えられる。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち「作業機材」の挙動を指定するだけで所定の動作をする自動運転情報算出システムと、その自動運転に必要な情報を出力する自動運転情報算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、同種の建設機械に共通する「作業機材」の挙動を指定することによって、種々の建設機械の自動運転に共通して利用することができる、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の自動運転情報算出システムは、建設機械を自動運転させるための情報を求めるシステムであって、中継情報算出手段を備えたものである。なお、この建設機械は、本体部と、本体部に取り付けられる中継機構、中継機構に取り付けられる作業機材を含んで構成される。また作業機材は、建設機械の作業用途を実現する機能を有するもので、中継機構は、作業機材の挙動を制御する機能を有するものである。中継情報算出手段は、作業機材に係る「機材挙動情報」に基づいて中継機構の「機構動作情報」を算出する手段である。機材挙動情報は、作業機材のうちあらかじめ設定された特定点に係る「機材位置情報」と、作業機材の姿勢を示す「機材姿勢情報」、「経過時刻」からなる複数の「ポイント挙動情報」を含む。また機材位置情報は、本体部のうちあらかじめ設定された基準点を原点とする座標系における3次元座標である。そして中継情報算出手段が、ポイント挙動情報の経過時刻において、作業機材がポイント挙動情報の機材位置情報と機材姿勢情報に適合するように機構動作情報を算出する。
【0011】
本願発明の自動運転情報算出システムは、機構制御手段を有する建設機械をさらに備えたものとすることもできる。この機構制御手段は、中継情報算出手段によって算出された機構動作情報に基づいて中継機構を制御する手段である。なお、建設機械として油圧ショベルを利用することもできる。この場合の作業機材は地盤を掘削し、あるいは土砂を積み込むための「バケット」であり、中継機構は「アーム」と「ブーム」、「油圧シリンダ」を含んで構成される。そして機構制御手段が、油圧シリンダを制御することによって、機構動作情報に適合するように作業機材を制御する。
【0012】
本願発明の自動運転情報算出システムは、中継機構の旋回が拘束されたことを条件として機構動作情報を算出するものとすることもできる。
【0013】
本願発明の自動運転情報算出システムは、中継機構が旋回可能であることを条件として機構動作情報を算出するものとすることもできる。
【0014】
本願発明の自動運転情報算出方法は、本願発明の建設機械を自動運転させるための「機構動作情報」を求める方法であって、挙動情報設定工程と中継情報算出工程を備えた方法である。この挙動情報設定工程では、作業機材に係る機材挙動情報を設定し、また中継情報算出工程では、機材挙動情報に基づいて中継機構の機構動作情報を算出する。
【0015】
本願発明の自動運転情報算出方法は、ポイント挙動情報取得工程をさらに備えた方法とすることもできる。このポイント挙動情報取得工程では、オペレータが建設機械を操作しながら、ポイント挙動情報を取得していく。この場合、挙動情報設定工程では、ポイント挙動情報取得工程で取得されたポイント挙動情報に基づいて、機材挙動情報を設定する。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の自動運転情報算出システム、及び自動運転情報算出方法には、次のような効果がある。
(1)同種の建設機械に共通する「作業機材」の挙動を指定することによって、その建設機械は自動的に所定の作業を実施することができる。すなわち、メーカーや仕様などが異なる建設機械であっても、作業機材が共通する限り様々な建設機械に利用することができる。
(2)油圧ショベルにおける地盤の掘削や土砂の積み込みなど、その建設機械の作業用途を実現する作業機材の挙動を指定することから、建設機械に対して現実的かつ実現可能であって、しかも安定した動作を指令することができる。
(3)作業機材の挙動を指定するだけで建設機械による自動運転が可能となり、建設機械を構成する種々の機材(旋回体とブーム、アーム、バケットなど)をまとめて対象としたうえで、その動作を計算するといった煩雑な処理を行う必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本願発明の自動運転情報算出システムの主な構成を示すブロック図。
【
図2】(a)は地盤を掘削する前の油圧ショベルを示す側面図、(b)は地盤を掘削している油圧ショベルを示す側面図。
【
図3】対象領域を区分した施工ブロックごとに地盤を掘削する状況を模式的に示す平面図。
【
図4】地盤掘削におけるバケットの機材軌跡を模式的に示す斜視図。
【
図5】19のポイント挙動情報によって構成される機材挙動情報を示すモデル図。
【
図6】(a)バケットに係る特定点と機材姿勢情報を模式的に示す側面図、(b)は油圧ショベルの本体部に設定された座標原点とその座標系を模式的に示す平面図。
【
図7】施工領域内の境界壁に沿って掘削を行う状況を模式的に示す平面図。
【
図8】本願発明の自動運転情報算出方法の主な工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の自動運転情報算出システム、及び自動運転情報算出方法の実施形態の例を図に基づいて説明する。
【0019】
1.全体概要
本願発明は、建設機械が主目的としている作業(以下、「専用作業」という。)を直接実行する「作業機材」に着目するとともに、作業機材に係る挙動(いわば、振る舞い)を設定したうえで、その挙動を実現するように建設機械を制御することを技術的特徴の一つとしている。例えば、油圧ショベルの場合、まずは作業機材である「バケット」の挙動を設定し、その挙動を実現するように「アーム」と「ブーム」、「油圧シリンダ」の動きを制御するわけである。なお便宜上ここでは、油圧ショベルにおけるアームとブーム、油圧シリンダのように、作業機材(この場合、バケット)を直接的に制御する機構のことを「中継機構」ということとする。
【0020】
これまで、多くの建設機械メーカーによって建設機械の自動運転技術が開発されており、主な建設機械については概ね自動運転が可能とされている。通常、建設機械にその専用作業を実施させるにあたっては、中継機構と作業機材、本体を含めた動作を解析することによって自動運転に関する情報(以下、「制御情報」という。)を求め、その制御情報にしたがって各部材を制御している。建設機械メーカーは、当然ながら建設機械の構成に精通しており、「所定の動作」が与えられるとそれを実現するための制御情報を求めることができる。ところが建設機械メーカーは、建設機械の専用作業に関しては、実際のオペレータのように詳しいわけではない。例えば、油圧ショベルで地盤を掘削する場合、如何にバケットを挙動させるべきかといったノウハウなどを、建設機械メーカーが十分に備えていないこともある。
【0021】
そこで本願発明では、作業機材の挙動に関する情報(以下、「機材挙動情報」という。)を設定し、その機材挙動情報に基づいて中継機構の動作に関する情報(以下、「機構動作情報」という。)を算出することとし、つまり機材挙動情報と機構動作情報によって制御情報を構成することとした。これにより、オペレータなど建設機械を操作する専門家によって機材挙動情報を設定することができ、そして建設機械メーカーなど建設機械に精通した者によって機構動作情報を算出することができるわけである。
【0022】
本願発明は、中継機構と作業機材を備えている限り種々の建設機械を対象として実施することができる。例えば、作業機材が「排土板(ブレード)」であって、その排土板を制御する「シリンダ」が中継機構であるブルドーザや、作業機材が「ローラ」であって、そのローラを制御する「アーム」が中継機構である振動ローラ、あるいは作業機材が「荷台」であって、その荷台をダンプアップする「シリンダ」が中継機構であるダンプトラックなどを挙げることができる。
【0023】
2.自動運転情報算出システム
次に、本願発明の自動運転情報算出システムについて図を参照しながら詳しく説明する。なお、本願発明の自動運転情報算出システムと自動運転情報算出方法は、いずれも建設機械を自動運転させるための情報を求めるものであり、まずは本願発明の自動運転情報算出システムについて説明し、その後に本願発明の自動運転情報算出方法について説明することとする。
【0024】
図1は、本願発明の自動運転情報算出システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の自動運転情報算出システム100は、演算処理装置110を含んで構成され、さらに建設機械120を含んで構成することもできる。この演算処理装置110は、中継情報算出手段111を含んで構成され、さらに挙動情報入力手段112や管理側送受信手段113などを含んで構成することもできる。また建設機械120は、本体部121と中継機構122、作業機材123、機構制御手段124などを含んで構成され、計測手段125や機械側送受信手段126などを搭載することもできる。
【0025】
演算処理装置110を構成する要素のうち中継情報算出手段111は、専用のものとして製造することもできるし、汎用的なコンピュータ装置を利用することもできる。すなわち、所定のプログラムによってコンピュータ装置に演算処理を実行させることで、それぞれ手段特有の処理を行うわけである。このコンピュータ装置は、CPU等のプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、マウスやキーボード等の入力手段やディスプレイを具備するものであって所定のプログラムによって演算処理を実行するものであり、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバー、iPad(登録商標)といったタブレット型PC、スマートフォンを含む携帯端末などによって構成することができる。
【0026】
図1に示すように演算処理装置110は、管理棟や監督員詰所など作業現場から離れた場所に配置することができる。あるいは、
図1の「建設機械B」のように、中継情報算出手段111と挙動情報入力手段112を含むコンピュータ装置を建設機械120に搭載することもできる。後述するように中継情報算出手段111は、「機材挙動情報(作業機材の挙動に関する情報)」を入力情報としたうえで、「機構動作情報(中継機構の動作に関する情報)」を算出する。そして、その機構動作情報を取得した機構制御手段124は、その機構動作情報にしたがって中継機構122を制御する。そのため演算処理装置110を管理棟などに配置する場合、無線や有線を利用した管理側送受信手段113によって機構動作情報を機械側送受信手段126に送信し、さらに機械側送受信手段126が機構制御手段124に機構動作情報を伝達する仕様にするとよい。
【0027】
本願発明の自動運転情報算出システム100は、1種類の建設機械120を制御するものとして実施することもできるし、
図1に示すように複数種類(図では2種類)の建設機械120を同時に制御するものとして実施することもできる。例えば、同じ施工現場でバックホウとダンプトラックを同時に制御するわけである。この場合、当然ながら建設機械120ごとに機構動作情報が求められ、
図1の例では建設機械Aのための機構動作情報と建設機械Bのための機構動作情報がそれぞれ求められる。また、複数の同種の建設機械120を制御するものとして実施することもできる。例えば、同じ施工現場で2台のバックホウと3台のダンプトラックを同時に制御するわけである。
【0028】
以下、本願発明の自動運転情報算出システム100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。なお便宜上ここでは、建設機械120を油圧ショベルとする例で説明する。
【0029】
(建設機械)
図2は、建設機械120としての油圧ショベル120Eを示す側面図であり、(a)は地盤を掘削する前の状態を示し、(b)は地盤を掘削している状態を示している。この図に示すように油圧ショベル120Eは、本体部121と中継機構122、バケット123B(作業機材123)を備えており、さらに機構制御手段124も備えている。このうち本体部121は、キャビン(運転席)や走行用のクローラなどを含んで構成される。また中継機構122は、ブーム122Bとアーム122A、ブームシリンダ122C1、アームシリンダ122C2、バケットシリンダ122C3を含んで構成される。ブーム122Bはその後方で本体部121に取り付けられ、アーム122Aはその後方でブーム122Bに連結されるとともにその前方ではバケット123Bに連結される。そして、機構制御手段124がブームシリンダ122C1を制御することによってブーム122Bが動作し、またアームシリンダ122C2を制御することによってアーム122Aが動作し、バケットシリンダ122C3を制御することによってバケット123Bが動作する。
【0030】
油圧ショベル120Eは、作業対象となる領域(以下、「対象領域」という。)を計測するための計測手段125を搭載することもできる。例えば
図3に示すように、対象領域を区分した施工ブロック(図では、BL01~BL15)ごとに地盤を掘削することもある。この場合、対象領域の形状や寸法を把握したうえで施工ブロックを設定することになるが、このとき計測手段125を用いて対象領域を計測することができる。また計測手段125で計測することによって、地盤掘削の進捗状況を把握したり、掘削後の出来形を把握したりすることもできる。
【0031】
計測手段125としては、例えばレーザーセンサを利用して計測を行うレーザー計測機や、写真計測(2枚1組のステレオペア画像を利用した計測)を行うための画像取得手段(カメラやビデオカメラなど)、トータルステーション(Total Station)などを利用することができる。
【0032】
(演算処理装置)
演算処理装置110を構成する中継情報算出手段111は、機材挙動情報を入力情報として機構動作情報を算出する手段である。この機材挙動情報は、建設機械が主目的とする「専用作業」を実行する際の作業機材123の挙動を示す情報である。例えば油圧ショベル120Eの場合、「地盤の掘削」や「土砂の積み込み」が専用作業であり、その専用作業の開始から終了までのバケット123B(作業機材123)の挙動を示す情報が機材挙動情報である。以下、機材挙動情報についてさらに詳しく説明する。
【0033】
機材挙動情報は、専用作業の開始から終了まで刻々と変化するバケット123Bの位置と姿勢に関する情報の集合であって、
図4に示すように専用作業(図では地盤掘削)におけるバケット123Bの軌跡(以下、「機材軌跡」という。)を示す情報である。そのため機材挙動情報は、専用作業の開始から経過した時間(以下、「経過時刻」という。)と、経過時刻におけるバケット123Bの位置を示す情報(以下、「機材位置情報」という。)、経過時刻におけるバケット123Bの姿勢を示す情報(以下、「機材姿勢情報」という。)を含んでいる。そして、経過時刻と機材位置情報、機材姿勢情報からなる情報(以下、「ポイント挙動情報」という。)を、機材軌跡に沿って集めたものが機材挙動情報である。例えば
図5では、作業開始から完了まで機材軌跡に沿って19個所の地点(ポイント1~ポイント19)を設定し、それぞれの地点におけるポイント挙動情報によって機材挙動情報が構成されている。
【0034】
ポイント挙動情報のうち機材位置情報は、作業機材123のうちあらかじめ設定された「特定点」の座標である。例えばバケット123Bの場合、
図6(a)に示すように中央の刃先を特定点としたり、あるいはバケット123Bの背面中心を特定点としたりするなど、バケット123Bのうち所望の位置で特定点を設定することができる。また機材位置情報は、本体部121のうちあらかじめ設定された「基準点」を原点とする座標系における3次元座標とされる。例えば油圧ショベル120Eの場合、
図6(b)に示すように本体部121の平面中心を基準点(つまり、座標原点)としたり、あるいはキャビン上部の任意点を基準点としたりするなど、本体部121のうち所望の位置で基準点を設定することができる。
【0035】
ポイント挙動情報のうち機材姿勢情報は、作業機材123の姿勢を示す情報であり、作業機材123のうち着目した面に係る角度として設定することができる。例えばバケット123Bの場合、
図6(a)に示すようにバケット123Bの背面が水平面となす角度を機材姿勢情報とすることができる。もちろん、バケット123B上面(開口面)が水平面となす角度を機材姿勢情報とすることもできるし、水平面との交差角に代えて鉛直面との交差角を機材姿勢情報とすることもできる。あるいは、角度に代えて2つの着目点をもって機材姿勢情報とすることもできる。この場合、着目点の3次元座標を用いて作業機材123の角度を求めることになる。例えば、機材姿勢情報としてバケット123Bの背面に2つの着目点を設定し、それら着目点の3次元座標に基づいてバケット123Bの背面角度を求めるわけである。
【0036】
一連のポイント挙動情報からなる機材挙動情報を設定するにあたっては、建設機械120の操作に詳しい専門家の経験や知識に基づいて設定することもできるし、例えば3次元CAD(Computer Aided Design)で仮想的に建設機械120のモデルを操作し、いわばシミュレーションによって機材挙動情報を設定することもできる。あるいは、熟練のオペレータが実際に建設機械120を操作しながら、経過時刻と機材位置情報、機材姿勢情報を定期的に測定し、その測定結果に基づいて機材挙動情報を設定することもできる。
【0037】
中継情報算出手段111は、作業機材123がそれぞれ経過時刻における機材位置情報と機材姿勢情報に適合するように、つまり作業機材123(特定点)が機材位置情報に係る位置となり、しかも作業機材123(着目した面)が機材姿勢情報に係る姿勢となるように、機構動作情報を算出する。このとき、使用する建設機械120に特有のパラメータ(部材寸法や能力など)に基づいて機構動作情報を算出するとよい。つまり、機材挙動情報は建設機械120の種別等に依存することはないものの、機構動作情報は建設機械120に応じて算出するわけである。なお、機材挙動情報はポイント挙動情報の集合であって、経過時刻ごとのいわば離散的なデータである。したがって中継情報算出手段111は、ポイント挙動情報とポイント挙動情報の間を補完するように機構動作情報を算出する。そのため、ポイント挙動情報とポイント挙動情報との時間間隔に上限(例えば、0.5秒以下など)を設定したり、ポイント挙動情報とポイント挙動情報との点間距離に上限(例えば、300mm以下など)を設定したりするとよい。
【0038】
中継情報算出手段111は、中継機構122が略鉛直軸(鉛直軸を含む)周りの旋回(以下、「水平旋回」という。)を行わないことを条件(以下、「旋回拘束条件」という。)として機構動作情報を算出することもできるし、中継機構122が水平旋回することを条件(以下、「旋回条件」という。)として機構動作情報を算出することもできる。例えば、
図2に示すように上方から地盤に向かってバケット123Bが降下し、バケット123Bが地盤を掘削し、バケット123Bが掘削土を掬い取るといった一連の動作を対象とする場合、ブーム122Bやアーム122A(中継機構122)が水平旋回しない「旋回拘束条件」のもと機構動作情報を算出するとよい。
【0039】
一方、バケット123Bが掘削土を掬い取った後、さらにブーム122Bやアーム122Aが水平旋回してバケット123Bがダンプトラックの荷台まで移動し、バケット123Bが掘削土を荷台に降ろし、バケット123Bが荷台上の掘削度を均すといった作業も含めて対象とする場合は、ブーム122Bやアーム122A(中継機構122)が水平旋回する「旋回条件」のもと機構動作情報を算出するとよい。また
図7に示すように、施工領域内に境界壁が設置され、その境界壁に沿った掘削が強いられる場合も、「旋回条件」のもと機構動作情報を算出するとよい。
【0040】
既述したとおり、
図3に示す施工ブロックを設定するにあたっては、計測手段125を用いて対象領域を計測するとよい。この場合、各施工ブロックの位置を示す座標を取得し、その座標に基づいて中継情報算出手段111は機構動作情報を算出する。ただし、施工ブロックごとに機材挙動情報を変更する必要はない。つまり、ブーム122Bやアーム122Aの動作は施工ブロックによって異なるものの、バケット123Bの挙動は施工ブロックによって変化しないこととして、機構動作情報を算出するわけである。なお、施工ブロックごとに地盤を掘削する場合、1サイクルの掘削作業(バケット123Bの降下~掘削土の掬い取り)を対象として機材挙動情報を設定するときは「旋回拘束条件」のもと機構動作情報を算出し、施工ブロックが完了するまでの作業を対象として機材挙動情報を設定するときは「旋回条件」のもと機構動作情報を算出するとよい。
【0041】
演算処理装置110を構成する挙動情報入力手段112は、機材挙動情報を中継情報算出手段111に入力する手段である。この挙動情報入力手段112としては、ポインティングデバイス(マウスやタッチパネル、ペンタブレット、タッチパッド、トラックパッド、トラックボールなど)やキーボード等を利用することができる。
【0042】
3.自動運転情報算出方法
続いて、本願発明の自動運転情報算出方法について図を参照しながら説明する。なお、自動運転情報算出システム100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の自動運転情報算出方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.自動運転情報算出システム」で説明したものと同様である。
【0043】
図8は、本願発明の進入検知方法の主な工程を示すフロー図である。なお、この図のうち中央の列には実行する工程を示し、左列にはその工程に必要な情報を、右列にはその工程によって生ずる情報を示している。
【0044】
建設機械120を自動運転させるにあたっては、
図8に示すようにまずはモデル施工を行う(
図8のStep201)。このモデル施工は、例えば熟練のオペレータによって、いわば理想的な専用作業を行うとよい。そして、オペレータが建設機械120を操作している間、レーザー計測機や、写真計測用の画像取得手段、トータルステーションといった計測機によって、定期的にポイント挙動情報を取得していく(ポイント挙動情報取得工程)。ポイント挙動情報が得られると、機材軌跡に沿った一連のポイント挙動情報に基づいて機材挙動情報を設定する(
図8のStep202:挙動情報設定工程)。
【0045】
実際に専用作業を行う際には、計測手段125を用いて対象領域の計測を行う(
図8のStep203)。そして、その計測結果と機材挙動情報に基づいて、機構動作情報を算出する(
図8のStep204:中継情報算出工程)。
図3に示すような施工ブロックを設定する場合、施工ブロックの位置を示す座標を取得するとともに、その座標に基づいて機構動作情報を算出するとよい。
【0046】
機構動作情報が得られると、機構制御手段124が中継機構122を制御する(
図8のStep205)ことによって、作業機材123が専用作業を実行していく(
図8のStep206)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明の自動運転情報算出システム、及び自動運転情報算出方法は、油圧ショベルのほか、ブルドーザや振動ローラ、ダンプトラックなど種々の建設機械に利用することができる。本願発明が、建設業界における人手不足の問題を解決し、また人の立ち入りが危険な場所での施工も可能にすることを考えれば、本願発明は産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0048】
100 本願発明の自動運転情報算出システム
110 (自動運転情報算出システムの)演算処理装置
111 中継情報算出手段
112 挙動情報入力手段
113 管理側送受信手段
120 (自動運転情報算出システムの)建設機械
120E 油圧ショベル
121 本体部
122 中継機構
122A アーム
122B ブーム
122C1 ブームシリンダ
122C2 アームシリンダ
122C3 バケットシリンダ
123 作業機材
123B バケット
124 機構制御手段
125 計測手段
126 機械側送受信手段