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  • -希土類磁石粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025146489
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】希土類磁石粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20250926BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20250926BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20250926BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250926BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20250926BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20250926BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20250926BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20250926BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 130
H01F1/057 110
B22F9/04 D
B22F9/04 C
B22F9/04 E
B22F1/00 Y
C21D6/00 B
B22F3/00 C
C22C33/02 J
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047309
(22)【出願日】2024-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】西山 篤秀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理央
(72)【発明者】
【氏名】新海 圭亮
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB01
4K017BB05
4K017BB08
4K017BB12
4K017BB13
4K017EA03
4K017EA08
4K017FA01
4K018BA18
4K018BD01
4K018CA04
4K018CA08
4K018CA11
4K018CA29
4K018GA04
4K018KA46
5E040AA04
5E040AA19
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN01
5E040NN17
5E040NN18
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG01
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】高磁気特性な希土類磁石粉末を効率的に得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の希土類磁石粉末の製造方法は、鋳造合金の加熱後に水素を導入して磁石原料を得る水素解砕工程と、この磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備える。再結合工程は、水素分圧が大きい雰囲気で脱水素を行なう制御排気工程と、制御排気工程よりも水素分圧が小さい雰囲気で脱水素を行なう強制排気工程とを備える。本発明の製造方法では、その強制排気工程前に、制御排気工程後の磁石原料を解砕または粉砕している。これにより、磁化容易軸方向の異なる単結晶が連結する多結晶化が抑制され、磁石粉末の磁気特性(特にBr)の向上が図られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素(R)、ホウ素(B)および遷移元素(TM)を含む鋳造合金を処理炉内で加熱した後に該処理炉へ水素を導入し、該鋳造合金を所定温度の水素雰囲気に曝した磁石原料を得る水素解砕工程と、
該磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、
該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、
該再結合工程は、所定の水素分圧を有する制御雰囲気でなされる制御排気工程と、該制御雰囲気より水素分圧が低い脱水素雰囲気でなされる強制排気工程とを備え、
該不均化工程の開始後から該強制排気工程の開始前までの間で該磁石原料を解砕または粉砕する解粉工程をさらに備える希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
前記解粉工程は、前記制御排気工程後の磁石原料に対してなされる請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
前記制御排気工程後の磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を加熱する拡散工程をさらに備える請求項2に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
前記拡散工程は、脱水素雰囲気でなされ、前記強制排気工程を兼ねる請求項3に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
前記水素解砕工程の水素雰囲気は、水素分圧が1kPa~250kPaで300~550℃である請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
前記制御雰囲気は、水素分圧が0.5~6kPaで750~880℃であり、
前記脱水素雰囲気は、水素分圧が100Pa以下で550~880℃である請求項1~5のいずれかに記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
前記強制排気工程後の磁石原料をさらに解砕する解砕工程を備える請求項1~4のいずれかに記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項8】
前記拡散原料は、Rと、Cuおよび/またはAlとを少なくとも含む合金または化合物からなる請求項3に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項9】
前記鋳造合金は、その全体に対してCu:0.02~1at%および/またはAl:0.1~3at%を含む請求項1または8に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項10】
前記鋳造合金は、前記水素解砕工程前に溶体化処理がなされる請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石等に用いられる希土類磁石粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石粉末をバインダ樹脂で固めたボンド磁石は、形状自由度に優れ、高磁気特性を発揮するため、省エネルギー化や軽量化等が望まれる電化製品や自動車等の各種電磁機器に多用されている。ボンド磁石のさらなる利用拡大を図るため、希土類磁石粉末の磁気特性の向上が望まれており、希土類磁石粉末の製造過程でなされる水素処理に関する提案が種々なされている。これに関連する記載が下記の特許文献にある。
【0003】
なお、水素処理は、主に、吸水素による不均化反応(Hydrogenation-Disproportionation/「HD反応」ともいう。)と、脱水素による再結合反応(Desorption-Recombination/「DR反応」ともいう。)とからなる。HD反応とDR反応を併せて「HDDR(反応)」またはその水素処理を「HDDR(処理)」という。ちなみに、本明細書でいうHDDRには、特に断らない限り、改良型であるd―HDDR(dynamic-Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)等も含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6760538号公報(WO2020/017529)
【特許文献2】特許第3452254号公報(特開2002-93610)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、鋳造合金に水素解砕処理を施した磁石原料に対して、高温水素化工程により順変態反応(HD反応)を生じさせた後、制御排気工程と強制排気工程を連続して行ない、逆変態反応(DR反応)を生じさせている。つまり特許文献1では、水素解砕処理後の磁石原料に、HDDR処理を一括して行なっている。
【0006】
特許文献2では、NdFeB系の水素化物粉末(NdFeBHx)と、Dy系拡散粉末(DyH、DyCo等)との混合物に拡散処理(800℃×10-2Pa以下×0.5時間)を施した後、さらに脱水素工程(第2排気工程)を行なって、異方性磁石粉末を製造している。つまり特許文献2は、高保磁力(低永久減磁率)な異方性磁石粉末を得るために、NdFeB系材料の酸化を抑制できる水素化物粉末を利用している。ちなみに、その水素化物粉末は、NdFeB系合金に、低温水素化工程(室温×0.1MPa×1時間)、高温水素化工程(820℃×0.03MPa×8時間)および第1排気工程(820℃×1kPa×240分間)を連続的に施して得られている。
【0007】
もっとも特許文献2では、特許文献1のような水素解砕工程はなされておらず、特許文献2の異方性磁石粉末内には、磁化容易軸方向の異なる結晶粒が混在した磁石粒子が多く含まれていた。このため特許文献2の異方性磁石粉末は、磁気特性(特にBr)が必ずしも十分ではなかった。
【0008】
本発明は、このような事情の下で為されたものであり、より高磁気特性な希土類磁石粉末を効率的に得ることができる製造方法等を新たに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究により、HDDR前の水素解砕処理により磁石合金の結晶粒界へ導入されたクラックが、制御排気工程後に続けてなされる強制排気工程で修復(溶着)され、磁化容易軸方向の異なる結晶粒群からなる磁石粒子が生じることを発見した。これに伴う磁気特性の劣化を抑止するため、そのクラックが修復される前に、水素解砕処理後の磁石合金(磁石原料)をそのクラック沿って割り、磁化容易軸方向が揃った単結晶粒子群を得ることを着想した。そして、不均化工程の開始後から強制排気工程の開始前まで間で、磁石原料を解砕または粉砕することにより、より高磁気特性な希土類磁石粉末を得ることに成功した。
【0010】
新たに見出した上記の課題に基づいて、再結合工程(DR)を構成していた一連の制御排気工程と強制排気工程を分離することも着想し、強制排気工程を後処理に集約化することにも成功した。これらの成果をさらに発展させることで、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0011】
《希土類磁石粉末の製造方法》
(1)本発明は、希土類元素(R)、ホウ素(B)および遷移元素(TM)を含む鋳造合金を処理炉内で加熱した後に該処理炉へ水素を導入し、該鋳造合金を所定温度の水素雰囲気に曝した磁石原料を得る水素解砕工程と、該磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、該再結合工程は、所定の水素分圧を有する制御雰囲気でなされる制御排気工程と、該制御雰囲気より水素分圧が低い脱水素雰囲気でなされる強制排気工程とを備え、該不均化工程の開始後から該強制排気工程の開始前までの間で該磁石原料を解砕または粉砕する解粉工程をさらに備える希土類磁石粉末の製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法によれば、機序の詳細は必ずしも定かではないが、従来よりも高磁気特性な希土類磁石粉末を得ることができる。
【0013】
(2)制御排気工程と強制排気工程を分離した場合、その強制排気工程はバッチ処理化でき、希土類磁石粉末の効率的な製造が可能となる。また、制御排気工程と強制排気工程の分離により、強制排気工程を他の処理(拡散処理等)で兼用して実質的に省略することも可能となり、希土類磁石粉末の製造に伴う工数、時間、エネルギー等も削減され得る。
【0014】
《希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石》
本発明は、上述した製造方法により得られる希土類磁石粉末としても把握される。またその希土類磁石粉末と、その粉末粒子を固結する樹脂とからなるボンド磁石や、そのボンド磁石の製造に用いられるコンパウンドとして本発明を把握することもできる。なお、コンパウンドは、粉末粒子表面にバインダである樹脂を予め付着させてなる。ボンド磁石やコンパウンドに用いられる磁石粉末は、平均粒径や合金組成等の異なる複数種が混在した複合粉末でもよい。
【0015】
《その他》
(1)本発明に係る希土類磁石粉末は、等方性磁石粉末でも、異方性磁石粉末でもよい。異方性磁石粉末は、一方向(磁化容易軸方向、c軸方向)の磁束密度(Br)が他方向の磁束密度よりも大きい磁石粒子からなる。等方性と異方性は、磁場をc軸方向に対して平行(//)および垂直(⊥)に加えた際に得られる異方化度(DOT:Degree of Texture)=[Br(//)-Br(⊥)]/Br(//)により区別でき、DOTの値が0であれば等方性、0よりも大きければ異方性となる。
【0016】
(2)本明細書でいう「R」は、Nd、Pr、Tb、Ce、La、Sm、Dy、Y等の一種以上である。Rの代表例はNdである。TMは、8~10族元素(主にFe、Co、Ni)の他、Nb、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Mo、Sn、Hf、Ta、W等の遷移金属元素である。TMの代表例はFeである。Bは、その一部がCで置換されてもよい。鋳造合金、磁石原料または磁石粉末は、特性改善に有効な改質元素や(不可避)不純物を含み得る。
【0017】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。例えば、「x~ykPa」はxkPa~ykPaを意味する。これは他の単位についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】磁石粉末の製造過程を示すフローチャートである。
図2】制御排気工程後で強制排気工程前の磁石原料(試料11)と、制御排気工程に続けて強制排気工程を行なった磁石原料(試料21)とを観察したSEM像である。
図3】強制排気工程が粒界相(クラック)に及ぼす機序を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の製造方法のみならず、磁石原料、希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石等にも適宜該当する。方法的な構成要素も物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0020】
《鋳造合金》
(1)合金組成
TM14型結晶(主相)を構成する正方晶化合物の理論組成は、原子割合で、R:11.8%、B:5.9%、TM:残部である。鋳造合金は、その理論組成値よりもRリッチであると、水素解砕処理時にRリッチな粒界相が形成され、その粒界相で単結晶に分離し易くなる。鋳造合金は、例えば、その全体を100%としたときに、R:11~15%または12~14%、B:5~9%または6~8%であるとよい。なお、本明細書では、特に断らない限り、成分組成(化学組成)は原子割合(at%)で示し、適宜、「%」または数値のみで表記する。
【0021】
鋳造合金は、R、TM、B以外に、Ga、Nb、Cu、Al、Zr、Ti、V、Cr、Ni、Ta、W、Dy、Tb、Co等の少なくとも一種含んでもよい。その全体に対して、例えば、Gaなら0.01~0.5at%または0.1~0.4%、Nbなら0.05~0.5at%または0.02~0.3%、Cuなら0.03~1at%、0.04~0.5at%、または0.04~0.20at%,Alなら0.1~3at%、0.3~2.7at %、または0.5~2.4at%である。これら元素は、Rと共に粒界相の形成に寄与し、磁石粉末の保磁力(Hc)を向上させ得る。それら元素は、過少なら効果が乏しいが、過多になると磁石粉末の残留磁束密度(Br)を低下させ得る。鋳造合金は、それら元素以外に少量の改質元素を含み得る。
【0022】
(2)鋳造
鋳造合金は、所望組成の合金溶湯を鋳型に注湯し、凝固させて得られたインゴット合金でも、その溶湯を急冷凝固させて得られた急冷凝固合金でもよい。急冷凝固合金は、例えば、ストリップキャスト法等により得られる。
【0023】
(3)溶体化処理(均質化処理)
鋳造合金は、水素解砕処理前に溶体化処理(工程)がなされてもよい。インゴット合金は、凝固が遅い(冷却速度が小さい)ため、軟磁性のαFe相が晶出(残存)しやすい。インゴット合金に溶体化処理が施されると、αFe相が消失し、偏析等が解消されて、微細な結晶粒が成長した均質的な組織(例えば、粒径:50~250μm)が得られる。
【0024】
急冷凝固合金はインゴット合金よりも凝固が早い(冷却速度が大きい)ため、軟磁性のαFe相は殆ど晶出(残存)しないか、微細に少量だけ晶出する。このような急冷凝固合金はインゴット合金よりも、結晶組織が比較的均質的である。急冷凝固合金に対しても、溶体化処理を施すことにより、微細な結晶粒が成長した組織(例えば、粒径:50~250μm)が得られる。インゴット合金でも急冷凝固合金でも、溶体化処理により、水素解砕処理前の鋳造合金の金属組織を均質化できる点は共通である。本明細書では、溶体化処理を均質化熱処理ともいう。
【0025】
溶体化処理は、例えば、処理炉(加熱炉)内で、水素解砕処理前の鋳造合金を、1050~1250℃または1100~1200℃で加熱して行う。その時間は、例えば、3~50時間または10~40時間である。その雰囲気は、例えば、不活性雰囲気(Ar等の不活性ガス雰囲気や真空雰囲気/以下同様)である。
【0026】
(4)分散処理
溶体化処理の温度よりも低く、水素解砕処理(工程)の温度(水素解砕温度)より高い温度域で、溶体化処理後の鋳造合金(鋳塊)をさらに加熱処理(「(Rリッチ)分散処理」という。)してもよい。その温度は、例えば、650~900℃、665~800℃または680~750℃である。その時間は、例えば、10分~10時間または0.5~3時間である。その雰囲気は、例えば、不活性雰囲気である。分散処理により、鋳造合金の結晶粒界への希土類元素(R)等の分散(分布)が促進され、鋳造合金の結晶粒がRリッチ相で均一的に覆われた状態になり得る。分散処理後の鋳造合金に後述の水素解砕処理を行うと、結晶粒界(相)へのクラックの導入が促進され、結晶粒界に沿って鋳造合金は割れ易くなる。
【0027】
《水素解砕処理》
鋳造合金に水素解砕処理(工程)を施した磁石原料がHDDRに供される。水素解砕処理は、鋳造合金を予め所定温度に加熱した後に、その鋳造合金を水素雰囲気に曝すとよい。例えば、処理炉内に入れた鋳造合金を300~550℃または325~525℃に加熱した後に、その処理炉内へ水素を導入するとよい。加熱温度は、鋳造合金の成分組成に応じて調整されるとよい。
【0028】
処理炉内は、例えば、鋳造合金の加熱前(水素導入前)に真空状態にされる。処理炉内には、水素ガスのみが導入されてもよいし、水素と不活性ガスの混合ガスが導入されてもよい。処理炉内へのガス導入は流動(フロー)状態でもよい。水素分圧は問わないが、効率性や安全性を考慮して、例えば、1kPa~250kPaまたは10kPa~150kPaとされる。
【0029】
水素解砕処理は、鋳造合金(雰囲気)の目標温度到達後に、例えば、0.3~5時間または0.6~3時間なされる。本明細書では、処理炉内にある鋳造合金の温度を、雰囲気を問わず、雰囲気温度ともいう。
【0030】
水素解砕処理された磁石原料は、脱水素されずに水素を含んだ状態で、HDDRへ供給されてもよい。これによりHDDRへ効率的に移行できる。その磁石原料は、HDDR前に解砕や粉砕等がされてもよい。磁化容易軸方向が揃った結晶粒からなる磁石原料(塊状、顆粒状、粉末状)をHDDRへ供給できる。
【0031】
《HDDR》
水素解砕処理後の磁石原料にHDDRを施すことにより、微細なRTM14型結晶(平均結晶粒径:0.05~1μm)が集合した多結晶体(磁石粒子)からなる磁石粉末が得られる。HDDRは、不均化工程(HD)と再結合工程(DR)からなる。
【0032】
(1)不均化工程(HD)
不均化工程は、処理炉に入れた磁石原料を所定の水素雰囲気に曝し、吸水素した磁石原料に不均化反応(順変態反応)を生じさせる工程である。これにより磁石原料は、三相分解組織(αFe相、RH相、FeB相)となる。
【0033】
不均化工程は、例えば、水素分圧:10~300kPaまたは15~50kPa、雰囲気温度:600~900℃または730~880℃、処理時間:1~6時間または2~5時間である。
【0034】
本工程中、水素分圧または雰囲気温度は、一定でも変化してもよい。例えば、反応速度が低下する後期に、水素分圧または温度の少なくとも一方を上昇させて反応速度を調整し、三相分解を促進させてもよい(組織安定化工程)。水素雰囲気は、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気でも良い(以下同様)。
【0035】
(2)再結合工程(DR)
再結合工程は、不均化工程後の磁石原料から脱水素して、上述した三相分解組織に再結合反応(逆変態反応)を生じさせる工程である。本工程は、所定の水素分圧を有する制御雰囲気でなされる制御排気工程と、制御雰囲気より水素分圧が低い脱水素雰囲気でなされる強制排気工程とに分けられる。
【0036】
制御排気工程により、RH相から水素が緩やかに除去されることに伴い、FeB相の結晶方位が転写した微細なRTM14型結晶の水素化物(RFeBH)が得られる。制御排気工程は、水素分圧が0.5~6kPaまたは1~5kPaで、750~890℃または800~880℃の制御雰囲気に磁石原料を曝してなされる。その処理時間は、例えば、0.5~3時間または1~2.5時間である。
【0037】
強制排気工程は、例えば、550~880℃、650~865℃、750~850℃の脱水素雰囲気に、制御排気工程を経た磁石原料を曝してなされる。脱水素雰囲気は、水素分圧が、例えば、100Pa以下、50Pa以下、25Pa以下、10Pa以下または1Pa以下である。その処理時間は、例えば、0.2~3時間または0.3~1時間である。ちなみに、脱水素雰囲気は、水素化物(RFeBH)から水素を除去できる雰囲気であればよい。このため脱水素雰囲気は、真空雰囲気でもよいし、水素分圧が所定値以下の混合ガス雰囲気でもよい。混合ガス雰囲気は、不活性ガスの気流雰囲気でもよい。なお、本明細書でいう水素分圧は、雰囲気全体(容積)に対する水素の絶対圧力である。
【0038】
強制排気工程により、磁石原料中に残留していた水素がほぼ完全に除去され、再結合工程による脱水素が完了する。本発明に係る強制排気工程は、制御排気工程に連続してなされないため、温度域、時期、処理方法等を設定・選択する自由度が大きい。
【0039】
《拡散処理》
磁石原料に拡散処理をさらに行ってもよい。拡散処理(工程)は、例えば、磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を不活性雰囲気で加熱してなされる。拡散処理により、RTM14型結晶の表面または結晶粒界に非磁性相(Rリッチ相)が形成され、磁石粉末の保磁力の向上が図られる。
【0040】
制御排気工程後(強制排気工程前)の磁石原料に対して脱水素雰囲気中で拡散処理を行なうと、強制排気工程は拡散工程中に実質的に実施されるため、強制排気工程を拡散処理後後に改めて行なう必要がない。つまり強制排気工程を省略することができる。拡散工程は、例えば、700~880℃または750~840℃の脱水素雰囲気で、0.3~2時間または0.5~1時間なされる。なお、各加熱処理後の冷却は、結晶粒の成長を抑止するため急冷されるとよい。ここでいう脱水素雰囲気も、上述した強制排気工程の脱水素雰囲気と同様である。つまり、その雰囲気中の水素分圧は、例えば、100Pa以下、50Pa以下、25Pa以下、10Pa以下または1Pa以下である。
【0041】
拡散原料は、例えば、Rと、Cuおよび/またはAlとを少なくとも含む合金または化合物からなる。Rは、軽希土類元素(Nd等)の他、重希土類元素(Dy、Tb等)でもよい。R-Cu(Al)合金(化合物)の他、Rの水素化物やフッ化物などを拡散原料に用いてもよい。
【0042】
本発明の鋳造合金に予めCuおよび/またはAlやGa等のNdリッチ相形成元素が含まれる場合、拡散処理を行なわなくても(つまり無拡散処理でも)、磁石粉末の保磁力を向上させ得る。このような場合でも、上述した拡散処理をさらに行なってもよい。
【0043】
《解砕・粉砕・分級》
(1)解粉工程
磁石原料は、不均化工程の開始後から強制排気工程の開始前(または拡散処理前)までの間に、解砕または粉砕されるとよい。これにより、水素解砕処理で結晶粒界に導入されたクラックが活かされ、磁化容易軸の向きが揃った微細な結晶粒群からなる磁石粒子が得られ易くなる。
【0044】
解砕や粉砕は、制御排気工程後の磁石原料から脱水素を生じない雰囲気や温度でなされるとよい。例えば、温冷間域(例えば、250~10℃または50~15℃程度)の不活性雰囲気中でなされるとよい。
【0045】
なお、「解砕」と「粉砕」は厳密に区別し難いが、例えば、剪断力を加えて粒子を意図的に微細化する場合が「粉砕」、軽い衝撃等を加えて塊を崩壊させる場合が「解砕」である。
【0046】
(2)分級工程
強制排気工程後または拡散処理後の磁石原料は、解砕または粉砕された後に、分級により粒度調整されてもよい。磁石粉末は、例えば、篩い分け(参照:JIS Z 8801)により粒度:-212μmにされる。
【0047】
《用途》
希土類磁石粉末は、例えば、ボンド磁石に用いられる。ボンド磁石は、主に希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。ボンド磁石は、圧縮成形されたものでも射出成形されたものでもよい。希土類異方性磁石粉末を用いたボンド磁石は、配向磁場中で成形されると、高磁気特性を発揮し得る。
【実施例0048】
強制排気工程を行なう時期が異なる試料(磁石粉末)を製作し、それらの磁気特性等を評価した。このような実施例に基づいて、本発明をより詳しく説明する。
【0049】
《試料の製造》
図1に示す処理を順に行い、表1に示す各試料を製作した。その詳細は次の通りである。
【0050】
[試料10、11]
(1)鋳造合金
下記の成分組成(合金A、B)を有する鋳塊を用意した。鋳塊は、高周波溶解炉で溶解して得た。成分組成は、合金全体に対する原子割合であり、残部はFe(TM)である。成分組成は特に断らない限り、「%」または数値のみで示す。
合金A:Nd12.7FeB6.4Nb0.2Ga0.3
合金B:Nd12.7FeB6.4Nb0.2Cu0.07Al1.1
【0051】
(2)溶体化工程
鋳塊をArガス雰囲気中で1140℃×20時間加熱して溶体化処理(均質化処理)した。
【0052】
(3)分散工程
溶体化処理後の鋳塊を真空雰囲気の処理炉内(10Pa以下)で磁石原料を700℃×1時間加熱して、(R(Nd)リッチ)分散処理した。
(4)水素解砕工程
分散処理後の鋳塊に水素解砕処理を施した。水素解砕処理は、鋳塊を配置した処理炉内を真空雰囲気(10Pa以下)にして、1時間かけて処理炉内を所望温度にした。その後、その処理炉内へ水素を導入した。その処理炉内の水素分圧を100kPa(一定)にして1時間保持した。水素解砕処理後の鋳造合金(鋳塊)を磁石原料という。なお、処理炉内の温度は、鋳塊に接触させた熱電対により測定し、合金A(含Ga):500℃、合金B(含CuAl):450℃とした。水素分圧は処理炉内に設置した圧力計により測定した。
【0053】
ちなみに、水素解砕処理は特許公報:WO2020/017529の記載を参考に実施した。本発明の趣旨に反しない限り、水素解砕処理のみならず、その特許公報に記載されている全内容が本明細書へ取り込まれるものとする。
【0054】
(5)不均化工程(HD工程)
水素解砕工程後の磁石原料(12.5g)を同じ処理炉内で、冷却せずに、処理を行った。合金A(含Ga)は、高温水素雰囲気に曝した後(780℃×30kPa×0.5時間:高温水素化工程)、より高温の水素雰囲気に曝した(840℃×30kPa×1時間:組織安定化工程)。合金B(含CuAl)は、高温水素雰囲気に曝した後(780℃×25kPa×2時間:高温水素化工程)、より高温の水素雰囲気に曝した(840℃×25kPa×2時間:組織安定化工程)。こうして磁石原料に不均化反応(順変態反応)を生じさせた。
【0055】
(6)制御排気工程
処理炉内の磁石原料を不均化工程後に続けて、水素分圧を低下させた制御雰囲気に曝した(合金A(含Ga):840℃×1.0kPa×1.5時間、合金B(含CuAl):840℃×2.5kPa×1.5時間)。これにより、不均化工程後の磁石原料に再結合反応(逆変態反応)を生じさせた(再結合工程/DR工程)。この段階の磁石原料には水素が残留しており、粒界相の少なくとも一部はNdHx(水素化物)状態であると考えられる。
【0056】
(7)解粉工程
制御排気工程後の磁石原料を室温域まで急冷した(冷却工程)。この磁石原料をさらに不活性ガス(窒素ガス)中で、ディスクミルにより粉砕した(粉砕工程)。
【0057】
(8)強制排気工程
粉砕した磁石原料を処理炉内に戻して、真空雰囲気(脱水素雰囲気)中で加熱した(800℃×1Pa以下×1時間)。
【0058】
(9)解砕
強制排気工程後の磁石原料を軽く解砕した後(解砕工程)、-212μmに篩分けした(解砕工程)。こうして、表1に示す試料10または試料11の磁石粉末を得た。
【0059】
[試料12]
拡散処理を施した試料12も製作した。拡散処理は、制御排気工程後(強制排気工程前)の磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を、さらに真空雰囲気(脱水素雰囲気)中で加熱(800℃ ×1Pa以下×1時間)して行なった(拡散工程)。
【0060】
拡散原料には、NdCu15Al34合金の粉末(<45μm)を用いた。拡散原料は、混合原料全体に対して2質量%添加した。拡散処理は真空雰囲気(脱水素雰囲気)中で行なったため、強制排気工程は省略した。
【0061】
[試料20~22]
試料20、21は、制御排気工程に続けて強制排気工程を行い、その後に粉砕を行なった。その他は試料10、11と同様である。当然、その粉砕後に強制排気工程は行っていない。
【0062】
試料22は、制御排気工程に続けて強制排気工程を行い、その後に拡散工程を行なった。その他は試料12と同様である。
【0063】
[試料30~32]
試料30~32は、水素解砕工程後(不均化工程前)にも磁石原料の解砕・粉砕を行なったものである。つまり試料30~32では、水素解砕工程後に解砕・粉砕した磁石原料に対して、不均化工程、制御排気工程および強制排気工程を連続的に行ない、その後さらに解砕および篩分けを行なった。その他は試料20~22と同様である。
【0064】
《測定》
各試料の磁石粉末をカプセルに詰め、溶融パラフィン(約80℃)中で磁場配向(1193kA/m)させた後、着磁(3580kA/m)を行った。着磁後の磁石粉末の磁気特性を、パルスBHトレーサー(OP電子工業株式会社製)を用いて測定した。各試料の磁気特性(残留磁束密度:Br、保磁力:iHc、最大エネルギー積:BHmax)を表1に併せて示した。
【0065】
《観察》
試料11、21について、強制排気工程前・後の磁石原料(粉末粒子)を電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した。そのSEM像を図2に示した。
【0066】
《評価》
(1)図2からわかるように、制御排気工程後(強制排気工程前)の磁石原料(試料11/図2の左側)には、水素解砕処理により導入された結晶粒界(クラック)が明確に存在しており、磁化容易軸方向が揃った単結晶から主に構成されていることが確認された。
【0067】
一方、制御排気工程に続けて強制排気工程を行なった磁石原料(試料21/図2の右側)では、その結晶粒界(クラック)が部分的に消失して、磁化容易軸方向の異なる単結晶が連結する多結晶化が観られた。制御排気工程に続けて強制排気工程で高温脱水素した場合、粒界にあるNdリッチ相(Nd合金相)が溶融して、結晶粒界にあったクラックが修復されたと考えられる。この様子を図3に模式的に示した。
【0068】
(2)表1に示した試料10~12と試料20~22を比較するとわかるように、制御排気工程と強制排気工程を分離して、その強制排気工程前に解砕または粉砕を行なうことにより、磁気特性(特にBr)が向上した。
【0069】
また試料10~12と試料30~32はともに、試料20~22より磁気特性が向上した。水素解砕工程後で強制排気工程前に解砕または粉砕を行なえば、高磁気特性な磁石粉末が得られることがわかった。また、試料10~12のように、水素解砕処理から制御排気工程まで連続的に行なえば、水素解砕工程後(不均化工程前)の解砕や粉砕を省略しつつ、拡散処理の有無にかかわらず、高磁気特性な磁石粉末が得られることもわかった。これにより、強制排気工程を分離してバッチ処理したり、その強制排気工程を拡散工程で兼ねることができ、製造工程の効率化(省エネルギー化、工程時間の削減等)が図られる。
【0070】
以上から、本発明の製造方法により、高磁気特性な希土類磁石粉末を効率的に得られることが確認された。
【0071】
【表1】
図1
図2
図3