(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014649
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】空冷式の燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04746 20160101AFI20250123BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20250123BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20250123BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250123BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/0258
H01M8/0432
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117379
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恭輔
(72)【発明者】
【氏名】野々山 順朗
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA11
5H126BB06
5H126DD02
5H126EE11
5H126EE33
5H126EE35
5H127AA06
5H127AC09
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA58
5H127BA59
5H127BA60
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127CC03
5H127DB93
5H127DC73
5H127EE14
(57)【要約】
【課題】氷点下で燃料電池の発電を継続することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】空冷式の燃料電池システムであって、前記燃料電池システムは、XY面が長方形状である発電部を有するセルをZ方向に複数個積層した燃料電池スタックと、外気温度を測定する手段と、を備え、前記セルは、反応空気と冷却空気とが独立した流路構造の反応空気流路と冷却空気流路を有し、前記セルは、平面視において、前記冷却空気の流れと前記反応空気の流れが交差するように、前記反応空気をX方向、前記冷却空気をY方向に流す前記流路構造を備え、前記外気温度によって、前記冷却空気の風量分布を変えることで、前記発電部の冷却能力がX方向に均一でない分布を付ける、ことを特徴とする燃料電池システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空冷式の燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、XY面が長方形状である発電部を有するセルをZ方向に複数個積層した燃料電池スタックと、外気温度を測定する手段と、を備え、
前記セルは、反応空気と冷却空気とが独立した流路構造の反応空気流路と冷却空気流路を有し、
前記セルは、平面視において、前記冷却空気の流れと前記反応空気の流れが交差するように、前記反応空気をX方向、前記冷却空気をY方向に流す前記流路構造を備え、
前記外気温度によって、前記冷却空気の風量分布を変えることで、前記発電部の冷却能力がX方向に均一でない分布を付ける、ことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空冷式の燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において開示されるような燃料電池(FC)に関して様々な技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、空冷の燃料電池において、氷点下環境では、生成水が溜まりやすく、温度が上がりにくい箇所では氷点下の冷却エアが導入され続けることで発電中に凍結現象が発生する。そのため、氷点下環境ではセルの凍結が生じる。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、氷点下で燃料電池の発電を継続することができる燃料電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1実施形態においては、空冷式の燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、XY面が長方形状である発電部を有するセルをZ方向に複数個積層した燃料電池スタックと、外気温度を測定する手段と、を備え、
前記セルは、反応空気と冷却空気とが独立した流路構造の反応空気流路と冷却空気流路を有し、
前記セルは、平面視において、前記冷却空気の流れと前記反応空気の流れが交差するように、前記反応空気をX方向、前記冷却空気をY方向に流す前記流路構造を備え、
前記外気温度によって、前記冷却空気の風量分布を変えることで、前記発電部の冷却能力がX方向に均一でない分布を付ける、ことを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の燃料電池システムは、氷点下で燃料電池の発電を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の燃料電池システムの一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本開示の燃料電池システムの一例を示す斜視模式図である。
【
図4】
図4は、従来の水冷式の燃料電池システムにおける凍結回避制御を説明する図である。
【
図5】
図5は、本開示が解決する課題を説明する図である。
【
図6】
図6は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本開示の実施に必要な事柄(例えば、本開示を特徴付けない燃料電池システムの一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
本開示において、燃料電池のアノードに供給されるガスは、燃料ガス(アノードガス)であり、燃料電池のカソードに供給されるガスは酸化剤ガス(カソードガス)である。燃料ガスは、主に水素を含有するガスであり、水素であってもよい。酸化剤ガスは、酸素を含有するガスであり、酸素、空気(エア)等であってもよい。本開示において、酸化剤ガスとしての空気を反応空気(反応エア)と称し、冷却ガスとしての空気を冷却空気(冷却エア)と称する。
【0010】
本開示は、空冷式の燃料電池の性能向上に関するもので、特に氷点下や低温環境での性能向上方法として有用である。
【0011】
燃料電池は水素と酸素が発電して、水ができることにより、エネルギーを取り出している。発電でできた水は、液水や水蒸気となって燃料電池スタックの出口マニホールドから、燃料電池スタックの外に排出され、その後調圧弁を通って外部に排出される。よって、生成水は反応空気下流の出口マニホールド付近に溜まりやすいといった構造的な特徴を持つ。
図4は、従来の水冷式の燃料電池システムにおける凍結回避制御を説明する図である。
図4に示すような従来の水冷式の燃料電池システムにおいては、外部気温が氷点下の環境においては上記生成水が凍結することで、始動ができないという課題があった。このような課題に対して、冷却水による過冷却を防ぐためにスタック通過後の冷却水を、バイパスラインを使用して再度スタック入口に戻すことにより、冷却水温度をセルの発熱により昇温させることで、セル全体の過冷却による凍結を回避するといった制御を行ってきた。
一方、空冷式の燃料電池においては、水冷式に対してスタック全体の熱容量が小さく、始動時にセルの発熱がスタック全体に短時間で伝達するため、始動時における凍結の危険性は低く、問題なくセルの始動が可能である。しかし、空冷式は外気を常に冷却用ガス(冷却ガス)として吸入し続けるため、Y方向に局所的な低温部ができ発電効率が低下する場合がある。また、Y方向に流れる冷却エアが反応エアとしての役割も兼ねる開放エア型の空冷FCではX方向の発電分布は比較的小さいが、独立反応エア型ではX方向は酸化剤ガスの上流下流方向となり、反応分布が生じて、X方向についても温度分布が大きくなりやすい。
図5は、本開示が解決する課題を説明する図である。
図5の(1)は従来の独立反応エア型の燃料電池システムの一例を示す平面模式図であり、(2)は、(1)の課題を説明する図である。
図5に示すように本研究者らは氷点下環境での独立反応エア型の空冷式の燃料電池について、始動後の定常発電中にセルが凍結するという新たな課題を見出した。凍結メカニズムの詳細を調査した結果、反応空気下流部のマニホールド部周辺は酸素濃度が低く、発電が弱くなり温度が上がりにくいためその領域の特に冷却空気の入口部分において、反応空気下流で増加した生成水が凍結することを明確化した。水素流路も同様に、水素下流部となるマニホールド付近にて、生成水が凍結するリスクがある。すなわち、セルにおいて最も低温となるマニホールド周辺部の温度が冷え過ぎないように冷却能力を抑えて、セル温度を0℃より高く維持することができれば、凍結課題を回避できる。
したがって、X方向について常に冷却能力に分布を持たせることで凍結課題を解決できることを見出した。
【0012】
第1実施形態
本開示の第1実施形態においては、空冷式の燃料電池システムであって、
前記燃料電池システムは、XY面が長方形状である発電部を有するセルをZ方向に複数個積層した燃料電池スタックと、外気温度を測定する手段と、を備え、
前記セルは、反応空気と冷却空気とが独立した流路構造の反応空気流路と冷却空気流路を有し、
前記セルは、平面視において、前記冷却空気の流れと前記反応空気の流れが交差するように、前記反応空気をX方向、前記冷却空気をY方向に流す前記流路構造を備え、
前記外気温度によって、前記冷却空気の風量分布を変えることで、前記発電部の冷却能力がX方向に均一でない分布を付ける、ことを特徴とする燃料電池システムを提供する。
【0013】
後述する
図1に示すように、第1実施形態によれば、所定温度(特に氷点下)を検知したら、冷却流量分布をつける制御を行い、発電状態の悪化を防ぐことができる。
【0014】
第2実施形態
本開示の第2実施形態においては、第1実施形態において、前記外気温度が所定温度以下である時に、前記反応空気流路の下流端付近の領域が、前記セルの発電面内平均に比べて冷却能力が低くてもよい。
【0015】
反応空気流路の下流端付近は、反応空気流路の下流端から発電部の1/4~1/20の面積を含んでもよい。反応空気流路の下流端付近の領域が、前記セルの発電面内平均に比べて冷却能力が-20%~-100%であってもよい。
【0016】
第3実施形態
本開示の第3実施形態においては、第1実施形態において、前記セルは、水素ガス流路を有し、
前記外気温度が所定温度以下である時に、前記水素ガス流路の下流端付近の領域が、前記セルの発電面内平均に比べて冷却能力が低くてもよい。
【0017】
水素ガス流路の下流端付近は、水素ガス流路の下流端から発電部の1/4~1/20の面積を含んでもよい。水素ガス流路の下流端付近の領域が、前記セルの発電面内平均に比べて冷却能力が-20%~-100%であってもよい。
【0018】
第2~3実施形態によれば、発熱量が少なく、生成水が溜まりやすい箇所が凍結等を要因とした発電量の低下が顕著となるため、
図5に示すような凍結箇所の温度を上げやすくすることができる。
【0019】
第4実施形態
本開示の第4実施形態においては、第1実施形態において、前記発電部の冷却能力の分布変更は、前記燃料電池スタックの冷却空気入口部又は冷却空気出口部の内の少なくとも一方に空気の流れを阻害する阻害物を配置することにより行ってもよい。
阻害物は、スタックに導入される空気の流れを阻害する圧損体であってもよく、圧損体として、ガス不透過材、樹脂板、ルーバー、グリルシャッター、パンチングメタル、多孔質物体、不織布、電子部品基板、センサ配線、配管、補器類、締結用のシャフトやボルト類、粗さの異なる防塵フィルタ、インシュレータ、隔壁などを採用してもよい。
後述する
図7に示すように、第4実施形態によれば、氷点下と高温環境両方に適応することが可能であり、簡易な制御で本開示の効果を実現できる。
【0020】
第5実施形態
本開示の第5実施形態においては、第1実施形態において、前記燃料電池システムは、X方向に複数の冷却空気供給手段を有し、各冷却空気供給手段のパワーを調整することで前記冷却空気の風量分布を変えてもよい。
後述する
図1に示すように、第5実施形態によれば、冷却空気供給手段として冷却ファンを複数台設置することで、氷点下時は端部のみ冷却能力を低下させ、外気温が高温の際は全ての冷却ファンを駆動することで氷点下と高温環境両方に適用することができる。
【0021】
第6実施形態
本開示の第6実施形態においては、第5実施形態において、前記冷却空気供給手段による冷却能力の分布付与が、反応空気流れ出口側、及び水素ガス流れ出口側の冷却空気供給量を下げる、または供給を停止することで、冷却能力が高い箇所と比較して温度を上げやすくしてもよい。
後述する
図2に示すように、第6実施形態によれば、過冷却となる端部のみの冷却能力を下げることができる。氷点下の場合は冷却ガスが少量でも供給されると凍結する場合があるため、凍結部にあたる部分の冷却ファンは停止することで、冷却能力分布付与効果が得られやすい。
【0022】
第7実施形態
本開示の第7実施形態においては、第5実施形態において、前記燃料電池システムは、Z方向に複数の前記冷却空気供給手段を有し、各冷却空気供給手段のパワーを調整し、前記発電部の冷却能力がZ方向に均一でなくてもよい。
後述する
図6に示すように、第7実施形態によれば、低温条件におけるセル性能低下は、積層方向各セルで起こり得ることに加えて、一部のセルのみに冷却能力分布を付けた場合は積層方向での温度差が生じるため、他セルでの性能低下を防ぐことができる。
【0023】
第8実施形態
本開示の第8実施形態においては、第4実施形態において、前記阻害物として、冷却空気流れ方向に羽板を設置し、前記冷却空気と交差する方向で前記羽板の開度に分布を付ける制御を行うことで冷却能力に分布を付けてもよい。
後述する
図9に示すように、第8実施形態によれば、氷点下と高温環境両方に適応することが可能であり、複数の羽板の開度を個別に調節することで冷却能力分布付与効果を得やすい。
【0024】
第9実施形態
本開示の第9実施形態においては、第5実施形態において、前記燃料電池システムは、電圧検知手段を有し、冷却空気供給量を低下させる制御により電圧が低下する場合は、過昇温状態であると判定してもよい。
セル温度分布は実働時に計測できないため、後述する
図10に示すように、第9実施形態によれば、電圧監視により過昇温を防ぐことができる。
【0025】
図3は、本開示の燃料電池システムの一例を示す斜視模式図であり、独立反応エア型の空冷式燃料電池の構成を示す。
図3の(1)は燃料電池システムの構成の一例であり、(2)は、セルの構成の一例である。
本開示では、外気温が所定温度以下であることを検知した場合、
図3のX方向である反応空気および水素流れ方向に対して冷却能力に均一でない分布をつける制御を行うことで、氷点下環境におけるセルの凍結を防止することを特徴としている。
【0026】
燃料電池システムは、水素と空気が反応して発電する燃料電池スタックとその発電に必要な水素を供給する水素供給系、反応空気を供給する空気供給系、発電によって生じた熱を冷却する冷却空気を供給する冷却空気供給系、外気温度を測定する手段、を備えている。
【0027】
燃料電池スタック(スタック)は、燃料電池の単セル(セル)をZ方向に複数個積層した積層体である。
本開示においては、セル及び燃料電池スタックのいずれも燃料電池と称する場合がある。
燃料電池スタックにおけるセルの積層数は特に限定されず、例えば、2~数百個であってもよい。
燃料電池スタックは、各セル間に冷却空気流路となる波状の冷却フィンを有していてもよい。
燃料電池スタックは、積層方向の端部に集電板、加圧板等を有していてもよい。
【0028】
セルは、XY面が長方形状である発電部を有し、反応空気と冷却空気とが独立した流路構造の反応空気流路(酸化剤ガス流路)と冷却空気流路(冷却ガス流路)を有し、さらに水素ガス流路(燃料ガス流路)を有していてもよい。
反応空気と冷却空気とが独立した流路構造とは、燃料電池への空気の供給から燃料電池からの空気の排出まで流路間で空気の共有が無いことを意味する。なお、燃料電池から排出された空気の燃料電池システムの外部への排出のための流路は、独立していてもよく、独立していなくてもよい。
セルは、平面視において、冷却空気の流れと反応空気の流れが交差するように、反応空気をX方向、冷却空気をY方向に流す流路構造を備える。冷却空気の流れと反応空気の流れは、交差していればよく、直交していてもよい。
発電部は、電解質膜および電極を含む膜電極接合体(MEA)であってもよい。
電解質膜は、固体高分子電解質膜であってもよい。固体高分子電解質膜としては、例えば、水分が含まれたパーフルオロスルホン酸の薄膜等のフッ素系電解質膜、及び、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。電解質膜としては、例えば、ナフィオン膜(デュポン社製)等であってもよい。
電極は、アノード(燃料極)及びカソード(酸素極)である。
電極は、触媒層を含み、必要に応じてガス拡散層を含んでいてもよく、発電部は、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)であってもよい。
触媒層は、例えば、電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、及び、電子伝導性を有する担体等を備えていてもよい。
触媒金属としては、例えば、白金(Pt)、及び、Ptと他の金属とから成る合金(例えばコバルト、及び、ニッケル等を混合したPt合金)等を用いることができる。
電解質としては、フッ素系樹脂等であってもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、ナフィオン溶液等を用いてもよい。
上記触媒金属は担体上に担持されており、各触媒層では、触媒金属を担持した担体(触媒担持担体)と電解質とが混在していてもよい。
触媒金属を担持するための担体は、例えば、一般に市販されているカーボンなどの炭素材料等が挙げられる。
ガス拡散層は、気孔を有する導電性部材等であってもよい。
導電性部材としては、例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質部材等が挙げられる。
燃料電池の単セルは、セパレータを含んでいてもよい。
セパレータは、発電により生じた電流を集電し、隔壁として機能する。セパレータは、燃料電池のセルにおいて、通常、一対のセパレータが発電部を挟持するように、発電部の積層方向の両側に配置される。一対のセパレータは、一方がアノードセパレータであり、もう一方がカソードセパレータである。
セパレータは、流体をセルの積層方向に流通させるための供給孔及び排出孔等のマニホールドを構成する孔を有していてもよい。
セパレータとしては、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン、及び、プレス成形した金属(例えば、鉄、チタン、及び、ステンレス等)等であってもよい。
セルは、アノードセパレータとカソードセパレータの間における膜電極接合体の面方向の外側(外周)に配置される絶縁用の樹脂フレームを備えていてもよい。樹脂フレームは、熱可塑性樹脂を用いて板状かつ枠状をなすように成形され、その中央領域に膜電極接合体を保持した状態で、アノードセパレータとカソードセパレータの間をシールする。樹脂フレームとしては、例えば、PE、PP、PET、PEN等の樹脂を用いることができる。樹脂フレームは、接着層を表層に配置した3層で構成される3層シートであってもよい。
【0029】
反応空気供給系は、燃料電池スタックに酸化剤ガスとして反応空気を供給し、且つ、前記反応空気の流量を調整する。反応空気供給系は、エアコンプレッサ、反応空気用配管、反応空気封止弁(反応空気入口弁、及び、反応空気出口弁)等を含んでいてもよい。
水素供給系は、燃料電池スタックに燃料ガスとして水素を供給し、且つ、前記水素の流量を調整する。水素供給系は、水素タンク、水素用配管、遮断弁、水素調圧弁、及び、水素インジェクタ等を含んでいてもよい。
冷却空気供給系は、燃料電池スタックに冷却ガスとして冷却空気を供給し、且つ、前記冷却空気の流量を調整する。冷却空気供給系は、冷却空気供給手段としてエアファン等を含んでいてもよい。冷却空気供給手段の個数は、1つ以上であればよく、2つ以上であってもよく、3つ以上であってもよい。
燃料電池システムは、制御装置を備えていてもよい。制御装置は、反応空気供給系、水素供給系、冷却空気供給系等を制御し、燃料電池システム全体を制御してもよい。
制御装置は、物理的には、例えば、CPU(中央演算処理装置)等の演算処理装置と、CPUで処理される制御プログラム及び制御データ等を記憶するROM(リードオンリーメモリー)、並びに、主として制御処理のための各種作業領域として使用されるRAM(ランダムアクセスメモリー)等の記憶装置と、入出力インターフェースとを有するものであり、ECU(エレクトロニックコントロールユニット)等であってもよい。
【0030】
X方向の冷却能力に均一でない分布をつける手段の具体的な構成・作動について以下に説明する。
図5に示すような、前述の凍結箇所は、外気温が氷点下時においては常に過冷却の状態となる。
外気温度を測定する手段である外気温検知手段により外気温が所定温度以下となった際には、冷却ガス供給手段となる冷却ファン出力を低下、または冷却ファンを停止することで冷却機能を制限する。これにより凍結を回避することは可能であるが、セル中央部は凍結が生じるセル端部とは異なり過昇温状態となる問題が発生する。
【0031】
図1は、本開示の燃料電池システムの一例を示す模式図である。前述の凍結箇所は外気温が氷点下時においては常に過冷却の状態となるため、
図1に示すように、複数の冷却ファン(第1冷却ファン17、第2冷却ファン18を使用することで、セル中央部とセル端部で冷却能力に均一でない分布を持たせることで、凍結箇所にあたるセル端部のみの冷却能力を制限することができる。また、停止している第2冷却ファン18と駆動している第1冷却ファン17が横並びとなる場合に、ダクト13内に隔壁14を設置することで、これらの冷却ファン付近で風が循環するのを抑制し、X方向の冷却能力に均一でない分布を付けやすくすることができる。
【0032】
図2は、本開示の燃料電池システムの制御の一例を示すフローチャートである。T0は0℃未満であり、氷点下条件の場合、微量でも氷点下風がセル内に供給されると凍結が生じる可能性があるため、冷却ガス供給を停止すると効果が得られやすい。T0以上T1以下の低温の場合は、両端に設置した冷却ファン出力を低下させてもよい。また、外気温が高温の際はすべての冷却ファンを駆動して、低温・高温両方の環境に適応することが可能である。
【0033】
図6は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
図6の(1)は本開示の燃料電池システムの一例を示す平面模式図であり、(2)は、(1)の燃料電池システムの断面模式図である。空冷式の燃料電池は複数の積層されたセルから構成されるため、積層方向における温度ばらつきが生じる。積層方向に対して中央のセル温度が最も高温となる点を考慮して、
図6に示すように、上層や下層よりも中層に設置した冷却ファンが高出力となるように制御することで、温度ばらつきを低減し、発電性能を向上させることが可能である。積層方向における冷却ファンの数は任意である。
【0034】
図7は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
図7の(1)は本開示の燃料電池システムの一例を示す低温時の平面模式図であり、(2)は、(1)の燃料電池システムの高温時の平面模式図である。
図7に示すように、スタック外のセルと冷却ファン17間の冷却ガス流路に可動隔壁19を設置することにより、外気温度に応じて冷却能力に均一でない分布をつけてもよい。
【0035】
図8は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
図8に示すように、冷却ガス流れ方向に可動のガス不透過材20やシャッターを設置することにより、外気温度に応じて冷却能力に均一でない分布をつけてもよい。ECU16でガス不透過材20のLの長さをアクチュエータ21で制御し、外気温度が低いほど、Lの長さを増加させてもよい。
【0036】
図9は、本開示の燃料電池システムの別の一例を示す模式図である。
図9に示すように、冷却ガス流れ方向に可動の羽板(ルーバー)22を複数設置することにより、外気温度に応じてその羽板の角度制御(開度調節)によって冷却能力に均一でない分布をつけてもよい。ECU16でルーバー開度をアクチュエータで制御し、外気温度が低いほど、端部ルーバー開度を閉じてもよい。
【0037】
図10は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
冷却能力を制限することで過昇温状態となり、膜乾燥で電圧が低下することを避けるため、電圧検知手段によりセル電圧を監視することで、最も発電電圧が高い状態になるような冷却ファン制御としてもよい。
図10に示すように、外気温が所定温度T1以下の場合に、冷却能力を下げる制御を実施し、セル電圧が増加している間は制御を継続し、セル電圧が増加しなくなったら制御を終了してもよい。
【0038】
図11は、本開示の燃料電池システムの制御の別の一例を示すフローチャートである。
図11に示すように、外気温が所定温度T0未満の場合、セル温度低下判定を実施し、セル温度低下の場合、冷却ガス流量分布変更運転を実施し、所定時間経過後、冷却ガス流量分布変更運転の中断要否判定を実施し、中断不要の場合は、冷却ガス流量分布変更運転を継続し、回復判定を実施し、燃料電池内の温度が所定の温度以上に回復した場合に、通常運転に戻し、制御を終了してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1.セル
2.冷却フィン(冷却空気流路)
3.反応空気入口
31.反応空気出口
4.水素ガス入口
41.水素ガス出口
5.外気温度検知手段
6.冷却空気(冷却ガス)
7.集電板
8.加圧板
9.反応空気
10.水素ガス
11.セパレータ
12.MEGA、樹脂フレーム
13.ダクト
14.隔壁
15.電圧検知手段
16.ECU
17.冷却ファン1
18.冷却ファン2
19.可動隔壁(圧損体)
20.ガス不透過材
21.アクチュエータ
22.可動ルーバー(羽板)
25.反応空気入口弁
26.反応空気出口弁
50.冷却水流れ
51.冷却水入口
52.冷却水出口
53.冷却水ポンプ
54.バルブ
55.バイパスライン