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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025146507
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20250926BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20250926BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20250926BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16J15/3256
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047332
(22)【出願日】2024-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 智紀
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE34
3J006AE40
3J006AE46
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA06
3J043DA07
3J043DA20
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA16
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC38
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA11
(57)【要約】
【課題】車輪用軸受装置において、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガとシールリングとの相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができるものとする。
【解決手段】車輪用軸受装置1のインナー側シール部材9(密封装置)において、スリンガ30は、内方部材に外嵌される外嵌部31と、外嵌部31から径方向外側に延びる中板部32と、を備え、シールリング40は、内嵌部42と中板部43とを備える芯金41と、スリンガ30に接触するリップ部47と、外方部材に接触するシール部48と、を備える弾性部材45と、を備え、シール部48は、芯金41の内嵌部42の径方向外側面の一部及び芯金41の内嵌部42の径方向内側面の少なくとも一部を覆うように構成され、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出するように構成されるものとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪用軸受装置の外方部材と内方部材との間の空間の開口を密封するものであり、前記内方部材に外嵌されるスリンガと、前記外方部材に内嵌されるシールリングと、を備える、密封装置であって、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、前記外嵌部から径方向外側に延びる中板部と、を備え、
前記シールリングは、
前記外方部材に内嵌される内嵌部と、前記内嵌部から径方向内側に延びる中板部と、を備える、芯金と、
前記芯金に接合され、前記スリンガに接触するリップ部と、前記外方部材に接触するシール部と、を備える、弾性部材と、を備え、
前記シール部は、
前記芯金の前記内嵌部の径方向外側面の少なくとも一部及び前記芯金の前記内嵌部の径方向内側面の少なくとも一部を覆うように構成され、
軸方向外側から視て、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端が露出するように構成される、密封装置。
【請求項2】
前記弾性部材の前記シール部は、軸方向外側から視て、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端が全周に亘って露出するように構成される、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記弾性部材の前記シール部は、軸方向外側から視て、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成される、請求項1に記載の密封装置。
【請求項4】
前記弾性部材の前記シール部の軸方向外側端と、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端と、は軸方向において面一となるように構成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項5】
前記弾性部材の前記シール部の軸方向外側端が、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端よりも軸方向外側に配置される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記弾性部材の前記シール部の軸方向外側端が、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端よりも軸方向内側に配置される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の密封装置。
【請求項7】
前記弾性部材の前記シール部の軸方向外側端と、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端と、の間における軸方向の長さが、1mm以下で構成される、請求項5に記載の密封装置。
【請求項8】
前記芯金の前記内嵌部は、インナー側端に凹部を備え、
前記シール部は、前記芯金の前記内嵌部の前記凹部に配置されることによって、軸方向外側から視て、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成される、請求項4に記載の密封装置。
【請求項9】
前記芯金の前記内嵌部はステンレス鋼素材で構成される、請求項1に記載の密封装置。
【請求項10】
車輪用軸受装置の外方部材と内方部材との間の空間の開口を密封するものであり、前記内方部材に外嵌されるスリンガと、前記外方部材に内嵌されるシールリングと、を備える、密封装置であって、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、前記外嵌部から径方向外側に延びる中板部と、を備え、
前記シールリングは、
前記外方部材に内嵌される内嵌部と、前記内嵌部から径方向内側に延びる中板部と、を備える、芯金と、
前記芯金に接合され、前記スリンガに接触するリップ部と、前記外方部材に接触するシール部と、を備える、弾性部材と、を備え、
前記シール部は、
前記芯金の前記内嵌部の径方向外側面の少なくとも一部及び前記芯金の前記内嵌部の径方向内側面の少なくとも一部を覆うように構成され、
前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端の全周に亘って配置され、
前記シール部の軸方向外側端の厚みは、0.1mm以下で構成される、密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置の外方部材と内方部材との間の空間の開口を密封する密封装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪用軸受装置として、複列のアンギュラ玉軸受が一般に用いられている。前記車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道溝を有する外方部材と、外周のインナー側端部に小径段部を有するハブ輪、およびハブ輪の小径段部に設けられる内輪からなり、複列の外側軌道溝に対向する複列の内側軌道溝を有する内方部材と、外方部材と内方部材との間の軸受空間の開口を密封する密封装置を備えるものが種々知られている。
【0003】
前記自動車の車輪用軸受装置の密封装置は、内方部材に外嵌されるスリンガと、外方部材に内嵌されるシールリングと、を備え、密封装置内に侵入した泥水等の異物がさらに軸受空間に浸入していくことを防止している。密封装置は、内方部材に外嵌されるスリンガと、外方部材に内嵌されるシールリングと、を備える。シールリングは、芯金と、弾性部材と、を備える。シールリングの弾性部材は、スリンガに接触するリップ部と、外方部材の径方向内側面に接触するシール部と、を備える。弾性部材のシール部は、芯金の内嵌部の径方向外側面の少なくとも一部、及び芯金の内嵌部の軸方向端部を覆うように構成される。
【0004】
また、自動車の車輪用軸受装置の密封装置として、相対回転する二部材のうちの一方に取り付けられるスリンガと他方に取り付けられるシール部材との組み合わせよりなり、スリンガは筒状の取り付け部と環状の平面部とを一体に有し、シール部材は筒状の取り付け部とスリンガに摺動自在に密接するシールリップとを一体に有し、スリンガにおける平面部の径方向先端部とシール部材の取り付け部とが径方向に対向し、対向部位におけるシール部材の取り付け部に摺動リングを取り付け、摺動リングに対してスリンガにおける平面部の径方向先端部を摺動自在に接触させたものが公知となっている(特許文献1参照)。この密封装置においては、摺動リングの内周面に対してスリンガの平面部の径方向先端部が摺動自在に接触することで接触式のシールが構成され、これに伴って耐泥水性を向上させている。
【0005】
さらに、自動車の車輪用軸受装置の密封装置として、外輪に嵌められる円筒部を有する断面略L字状の第1芯金と、第1芯金に取り付けられた第1弾性シールと、内輪に嵌められる円筒部を有する断面略L字状の第2芯金と、第2芯金に取り付けられた第2弾性シールとを備え、第1芯金の円筒部の軸方向中程位置に、これを径方向に貫通する複数の貫通孔が周方向に所要間隔で設けられており、第1弾性シールは、第2芯金の円筒部の外周面に摺接するリップと、第1芯金の円筒部の軸方向内側部分の内周面に密着している第1円筒部と、第1芯金の円筒部の軸方向外側部分の外周面に密着している第2円筒部と、第1芯金の円筒部の複数の貫通孔に挿入されて第1円筒部と第2円筒部とを連結する複数の連結片とを有しており、第2弾性シールは、第1芯金の円筒部の軸方向外側部分の内周面に摺接するリップを有しているものが公知となっている(特許文献2参照)。この密封装置においては、第2弾性シールのリップが第1芯金の円筒部の軸方向外側部分の内周面に摺接することで接触式のシール構成としつつ、引用文献1の密封装置において摺動リングが使用されていることで製造や組立てが煩雑になる、という問題を解決している。さらに、この密封装置においては、外輪に、第1弾性シールの第2円筒部の端部に軸方向外側から密着する環状凸部が設けられることにより、密封装置が外輪から抜けにくいものとなり、外輪と密封装置との密着性が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-257015号公報
【特許文献2】特開2013-194756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、密封装置においては、異物の浸入を防止するにあたって、外方部材と内方部材との間の軸受空間にスリンガ及びシールリングを適切な位置に配置することを要する。スリンガとシールリングとの相対的位置が軸方向に離れるようにズレることによって、リップのスリンガに対する接触幅や押圧力等が小さくなり、異物の浸入を防止することが困難となる場合がある。また、スリンガとシールリングとの相対的位置が軸方向に近づくようにズレることによって、リップのスリンガに対する押圧力等が大きくなって、トルクが増大する場合がある。
【0008】
そして、外方部材と内方部材との間の軸受空間に密封装置を取り付けるにあたっては、まず、外方部材と内方部材との間の軸受空間の軸方向外側に密封装置を配置し、密封装置の軸方向外側部分に、取り付け治具の押圧面を接触させる。つまり、密封装置のスリンガと、シールリングにおける弾性部材のシール部の軸方向端(シール部における芯金の内嵌部の軸方向端部を覆っている部分)と、に取り付け治具の押圧面を接触させる。このような状態で、取り付け治具を移動させて、外方部材と内方部材との間における軸受空間に密封装置を圧入していく。このように、外方部材と内方部材との間における軸受空間に密封装置を取り付ける際に、取り付け治具によって弾性部材のシール部における芯金の内嵌部の軸方向端部を覆っている部分を押圧することから、当該シール部における芯金の内嵌部の軸方向端部を覆っている部分が弾性変形して、スリンガとシールリングとの相対的位置が軸方向にズレる場合がある。
【0009】
また、引用文献2の密封装置においては、第1弾性シールの第2円筒部の端部に外輪の環状凸部が軸方向外側から密着する構成にあたり、外輪の環状凸部に第1弾性シールの第2円筒部の端部が入り込んでいる。このため、第1芯金及び第1弾性シールと、第2芯金及び第2弾性シールと、の相対的位置が軸方向にズレることを抑制することが考えられる。もっとも、この密封装置においては、第1弾性シールは、第1芯金の円筒部の軸方向内側部分の内周面に密着している第1円筒部と、第1芯金の円筒部の軸方向外側部分の外周面に密着している第2円筒部と、第1芯金の円筒部の複数の貫通孔に挿入されて第1円筒部と第2円筒部とを連結する複数の連結片とを有することから、構造が複雑なものとなっていた。
【0010】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガとシールリングとの相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができる、密封装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、車輪用軸受装置の外方部材と内方部材との間の空間の開口を密封するものであり、前記内方部材に外嵌されるスリンガと、前記外方部材に内嵌されるシールリングと、を備える、密封装置であって、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、前記外嵌部から径方向外側に延びる中板部と、を備え、
前記シールリングは、
前記外方部材に内嵌される内嵌部と、前記内嵌部から径方向内側に延びる中板部と、を備える、芯金と、
前記芯金に接合され、前記スリンガに接触するリップ部と、前記外方部材に接触するシール部と、を備える、弾性部材と、を備え、
前記シール部は、
前記芯金の前記内嵌部の径方向外側面の少なくとも一部及び前記芯金の前記内嵌部の径方向内側面の少なくとも一部を覆うように構成され、
軸方向外側から視て、前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端が露出するように構成される、ものとしたものである。
また、車輪用軸受装置の外方部材と内方部材との間の空間の開口を密封するものであり、前記内方部材に外嵌されるスリンガと、前記外方部材に内嵌されるシールリングと、を備える、密封装置であって、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、前記外嵌部から径方向外側に延びる中板部と、を備え、
前記シールリングは、
前記外方部材に内嵌される内嵌部と、前記内嵌部から径方向内側に延びる中板部と、を備える、芯金と、
前記芯金に接合され、前記スリンガに接触するリップ部と、前記外方部材に接触するシール部と、を備える、弾性部材と、を備え、
前記シール部は、
前記芯金の前記内嵌部の径方向外側面の少なくとも一部及び前記芯金の前記内嵌部の径方向内側面の少なくとも一部を覆うように構成され、
前記芯金の前記内嵌部の軸方向外側端の全周に亘って配置され、
前記シール部の軸方向外側端の厚みは、0.1mm以下で構成される、ものとしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明の密封装置によれば、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガとシールリングとの相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る密封装置が用いられる車輪用軸受装置を示す断面図。
図2】同じく密封装置を示す拡大断面図。
図3】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図4】同じく密封装置を示す拡大斜視図。
図5】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図6】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図7】(A)図2におけるA-A線断面拡大図、(B)図2におけるA-A線断面拡大図。
図8】同じく密封装置を示す拡大断面図。
図9】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図10】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図11】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図12】(A)図8におけるA-A線断面拡大図、(B)図8におけるA-A線断面拡大図、(C)図8におけるA-A線断面拡大図。
図13】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図14】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図15】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
図16】同じく密封装置を示す拡大断面斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0015】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る密封装置が用いられるものであり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0016】
図1また図2に示すように、車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9と、アウター側シール部材10と、を備える。
【0017】
ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸Xに沿った方向を表し、軸方向外側とは、回転軸Xに沿って車輪用軸受装置1に離間する方向を表し、軸方向内側とは、回転軸Xに沿って車輪用軸受装置1に近接する方向を表す。また、車輪用軸受装置1の回転軸に直交する方向を径方向と表す。また以下において「断面」とは、車輪用軸受装置1の回転軸を通り、車輪用軸受装置1の回転軸に平行な断面を示すものとして説明する。
【0018】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道溝2cと、アウター側の外側軌道溝2dと、が形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2fが設けられる。
【0019】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、径方向外側に延びる車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dに対向するようにアウター側の内側軌道溝3cが設けられる。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道溝3cが構成される。車輪取り付けフランジ3bには、軸方向に貫通する複数のボルト孔3dが形成される。複数のボルト孔3dには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するための複数のハブボルトがそれぞれ圧入される。
【0020】
内輪4は、ハブ輪3の小径段部3aに設けられている。内輪4は、所定のシメシロを介して小径段部3aに圧入される。さらに、ハブ輪3における小径段部3aのインナー側端部を加締めることによって塑性変形させた加締部によって、ハブ輪3と内輪4とが一体化されて内輪4がハブ輪3に対して軸方向へ抜けることを防止している。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと対向するようにインナー側の内側軌道溝4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道溝4aが構成されている。
【0021】
外輪2とハブ輪3との間には環状空間である軸受空間が形成される。軸受空間のアウター側端部には、密封装置であるアウター側シール部材10が嵌合され、泥水等の異物の侵入を防止する。外輪2と内輪4との間における軸受空間のインナー側端部には、密封装置であるインナー側シール部材9が嵌合され、泥水等の異物の侵入を防止する。
【0022】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容される。インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成される。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと、内輪4の内側軌道溝4aと、の間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、外輪2のアウター側の外側軌道溝2dと、ハブ輪3の内側軌道溝3cと、の間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道溝間に転動自在に収容されている。車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成される。
【0023】
[インナー側シール部材の具体的構成]
図2または図3に示すように、インナー側シール部材9は、本発明に係る密封装置の位置実施形態である。インナー側シール部材9は、スリンガ30と、シールリング40と、を備える。
【0024】
スリンガ30は、例えば鋼板製の円環体であり、内輪4に外嵌される。スリンガ30は、外嵌部31と、中板部32と、磁気エンコーダ33と、を備える。外嵌部31は、内輪4におけるインナー側端部の径方向外側面に外嵌される円筒状の部分である。中板部32は、外嵌部31のインナー側端部から径方向外側へ延びるドーナツ板状の部分である。このようにして、スリンガ30の断面は略L字状に構成される。
【0025】
磁気エンコーダ33は、磁極(N極・S極)を配列した合成ゴム等であり、ドーナツ板状に構成される。磁気エンコーダ33は、加硫接着等によってスリンガ30に接合されている。磁気エンコーダ33は、スリンガ30の中板部32のインナー側面、中板部32の径方向外側端、及び中板部32のアウター側面における径方向外側部分を覆うように設けられる。
【0026】
磁気エンコーダ33は、スリンガ30の一部として構成される。即ち、磁気エンコーダ33におけるスリンガ30の中板部32のインナー側面を覆う部分は、スリンガ30の中板部32のインナー側面を示す。また、磁気エンコーダ33におけるスリンガ30の中板部32の径方向外側端部を覆う部分の径方向外側端面は、スリンガ30の中板部32の径方向外側端面を示す。また、磁気エンコーダ33におけるスリンガ30の中板部32のアウター側面における径方向外部分を覆う部分の径方向外側面、及び、スリンガ30の中板部32の磁気エンコーダ33に覆われていない部分のアウター側面は、スリンガ30の中板部32のアウター側面を示す。
【0027】
なお、磁気エンコーダ33は、このように構成されるものに限定されず、例えば、スリンガ30の中板部32のインナー側面のみに配置される構成であっても良いものとする。また例えば、スリンガ30は磁気エンコーダ33を備えない構成であっても良いものとする。
【0028】
インナー側シール部材9のシールリング40は、外輪2に内嵌される。シールリング40は、芯金41と、弾性部材45と、を備える。
【0029】
シールリング40の芯金41は、例えば鋼板製の円環体であり、内嵌部42と、中板部43と、を備える。内嵌部42は、外輪2におけるインナー側端部の径方向内側面に内嵌される円筒状の部分である。中板部43は、内嵌部42のアウター側端部から径方向内側へ延びるドーナツ板状の部分である。このようにして、芯金41の断面は略L字状に構成される。
【0030】
スリンガ30の外嵌部31の径方向内側面と芯金41の中板部43の径方向外側端との間には所定の隙間が形成され、スリンガ30と芯金41とは非接触に構成される。
【0031】
シールリング40の弾性部材45は、例えば合成ゴムからなり、加硫接着等によって芯金41に接合される。弾性部材45は、基部46と、リップ部47と、シール部48と、を備える。
【0032】
弾性部材45の基部46は、芯金41の中板部43のアウター側面の一部、中板部43の径方向内側端、及び中板部43のインナー側面の一部を覆うように設けられる。
【0033】
弾性部材45のリップ部47は、弾性変形可能に構成され、スリンガ30に接触してスリンガ30とシールリング40との間から泥水等の異物の侵入を防ぐ。リップ部47は、二つのサイドリップ47a・47bと、一つのラジアルリップ47cと、を備える。
【0034】
弾性部材45のリップ部47のサイドリップ47aは、基部46から径方向外側且つインナー側に延びる。サイドリップ47aの先端部はスリンガ30の中板部32のアウター側面に接触している。サイドリップ47bは、サイドリップ47aの径方向内側に配置される。サイドリップ47bは、基部46から径方向外側且つインナー側に延びる。サイドリップ47bの先端部はスリンガ30の中板部32のアウター側面に接触している。ラジアルリップ47cは、基部46から径方向内側且つアウター側に延びる。ラジアルリップ47cの先端部はスリンガ30の外嵌部31の径方向外側面に接触している。
【0035】
なお、弾性部材45のリップ部47は、このように構成されることに限定されず、例えば、一つのサイドリップと一つのラジアルリップとを備える構成であっても良く、一つのサイドリップと二つのラジアルリップとを備える構成であっても良く、二つのサイドリップと二つのラジアルリップとを備える構成であっても良く、また、サイドリップとラジアルリップとのうちいずれか一方を備えない構成であっても良いものとする。
【0036】
弾性部材45のシール部48は、弾性変形可能に構成される。シール部48は、外輪2におけるインナー側端部の径方向内側面に接触して外輪2と芯金41の内嵌部42との間から泥水等の異物の侵入を防ぐ。シール部48は、芯金41の内嵌部42の径方向外側面の少なくとも一部、芯金41の内嵌部42の径方向内側面の少なくとも一部、及び芯金41の中板部43のインナー側面を覆うように構成される。シール部48は、芯金41の中板部43のインナー側において基部46と接続されて、芯金41の内嵌部42の基部46と連続するように一体的に構成される。
【0037】
なお、弾性部材45のシール部48は、このように構成されることに限定されず、例えば、基部46と別体で構成されても良いものとする。また例えばシール部48は、芯金41の内嵌部42の径方向外側に配置されず、芯金41の中板部43のインナー側面にのみに配置されて構成されても良いものとする。
【0038】
インナー側シール部材9においては、スリンガ30における中板部32のインナー側面と、シールリング40における芯金41の内嵌部42のインナー側端42aまたは弾性部材45のシール部48のインナー側端48aと、は軸方向において面一となるように構成される。
【0039】
[インナー側シール部材を取り付ける動作]
外輪2と内輪4との間における軸受空間のインナー側端部にインナー側シール部材9を取り付ける動作は、取り付け治具を用いて行われる。取り付け治具は、外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を取り付ける際に、インナー側シール部材9のインナー側部分に接触させる部分である押圧面を備える。取り付け治具の押圧面は、アウター側に面し、径方向にフラットな面で構成される。
【0040】
外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を取り付けるにあたって、まず、外輪2と内輪4との間における軸受空間のインナー側に、インナー側シール部材9を配置する。そして、インナー側シール部材9のインナー側部分に、取り付け治具の押圧面を接触させる。つまり、インナー側シール部材9のスリンガ30における中板部32のインナー側面と、シールリング40における芯金41の内嵌部42のインナー側端42aまたは弾性部材45のシール部48のインナー側端48aとに、取り付け治具の押圧面を接触させる。このような状態で、取り付け治具をアウター側に移動させて、外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を圧入していく。外輪2と内輪4との間における軸受空間の所定の位置にインナー側シール部材9が配置された状態で、取り付け治具のアウター側への移動を停止する。このようにして、外輪2と内輪4との間における軸受空間のインナー側に、インナー側シール部材9を取り付ける動作を行う。
【0041】
[インナー側シール部材における芯金のインナー側端及び弾性部材のシール部のインナー側端の具体的構成]
インナー側シール部材9のシールリング40における弾性部材45のシール部48は、開口部49を備える。開口部49は、シール部48のインナー側端48aに形成される。開口部49は、シール部48における芯金41の内嵌部42のインナー側端42aのインナー側において、軸方向に沿って貫通する。シール部48の開口部49が形成される部分は、インナー側から視て、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aが露出するように構成される。このようにして、シール部48は、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出するように構成される。
【0042】
このように、シールリング40における弾性部材45のシール部48は、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出するように構成される。このため、露出する芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が取り付け治具によって押圧されることとなる。したがって、弾性部材45のシール部48が芯金41の内嵌部42の軸方向端部を覆っている構成に比べて、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができる。また、このように構成されることから、外輪の環状凸部にシール部が入り込む構成と比べて、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制することができるものを実現することができる。またこのように芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出することから、弾性部材45のシール部48が芯金41の内嵌部42の軸方向端部を覆っている構成に比べて、圧入時の力の強さの調節を容易に行うことができる。
【0043】
弾性部材45のシール部48の開口部49は、転軸Xを中心とする円環状に構成され、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aが露出するように全周に亘って形成される。このようにして、シール部48は、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が内嵌部42の軸方向外側端の全周に亘って露出するように構成される。
【0044】
このため、全周に亘って露出する芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が取り付け治具によって押圧されることとなる。したがって、弾性部材45のシール部48が芯金41の内嵌部42の軸方向端部を覆っている構成に比べて、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができる。また、このように構成されることから、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制することができるものを実現することができる。またこのように芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出することから、弾性部材45のシール部48が芯金41の内嵌部42の軸方向端部を覆っている構成に比べて、圧入時の力の強さの調節を容易に行うことができる。
【0045】
弾性部材45のシール部48のインナー側端48aと、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aと、は軸方向において面一となるように構成される。このようにして、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端と、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端と、は軸方向において面一となるように構成される。このため、取り付け治具によって押圧された際に、シール部48が変形することなく、外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を取り付けることができる。したがって、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができるものを実現することができる。
【0046】
芯金41はステンレス鋼素材で構成される。このように構成することによって、芯金41の内嵌部42が腐食することを防止することができる。
【0047】
図4から図6に示すように、弾性部材45のシール部48が複数の開口部49を備える構成とすることもできる。開口部49は、シール部48のインナー側端48aの一部が露出するように部分的に配置され、転軸Xを中心とする周方向に間欠的に配置される。このようにして、弾性部材45のシール部48は、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成される。このため、芯金41の内嵌部42の露出する部分を少なくして、芯金41の内嵌部42が劣化または損傷すること等を抑制することができる。
【0048】
なお、弾性部材45のシール部48における開口部49の周方向の長さ及び開口部49同士の間隔等については、仕様等に応じて適宜設定することができ、例えば、開口部49の周方向の長さと開口部49同士の間隔とが略同一または大きく異なる長さに構成することができる。また、開口部49の個数については、仕様等に応じて適宜設定することができ、例えば、一つの開口部49が形成されることによって、開口部49がシール部48のインナー側端48aの一部が露出するように部分的に配置される構成とすることもできる。
【0049】
このとき、図7に示すように、芯金41の内嵌部42は、内嵌部42のインナー側端42aに凹部42bを備える。芯金41の内嵌部42の凹部42bは、内嵌部42のインナー側端42aが切り欠かれるように構成される。シール部48は、芯金41の内嵌部42の凹部42bに配置されることによって、インナー側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成される。例えば、芯金41の内嵌部42の凹部42bは矩形に構成される(図7(A)参照)。また例えば、芯金41の内嵌部42の凹部42bは、例えば波型に構成される(図7(B)参照)。
【0050】
このように、シール部48は、芯金41の内嵌部42の凹部42bに配置されることによって、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成されることから、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制することができるものを実現することができる。またこのように芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出することから、圧入時の力の強さの調節を容易に行うことができる。
【0051】
図8または図9に示すように、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aが、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aよりもインナー側に配置されて構成することもできる。このとき、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aと、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aと、は軸方向においてそれぞれ異なる位置となるように構成され、弾性部材45のシール部48のインナー側端48a及び芯金41の内嵌部42のインナー側端42aの周辺部分の断面形状が、凹状に構成される。このようにして、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端が、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端よりも軸方向外側に配置される。
【0052】
このため、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端が取り付け治具によって押圧されて変形した後に、露出する芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が取り付け治具によって押圧されることとなる。したがって、弾性部材45のシール部48が芯金41の内嵌部42の軸方向端部を覆っている構成に比べて、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができる。また、このように構成されることから、簡易な構成で、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制することができるものを実現することができる。
【0053】
また、図10または図11に示すように、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aが芯金41の内嵌部42のインナー側端42aよりもインナー側に配置される場合においても、弾性部材45のシール部48が複数の開口部49を備える構成とすることもできる。開口部49は、シール部48のインナー側端48aの一部が露出するように部分的に配置され、転軸Xを中心とする周方向に間欠的に配置される。このようにして、弾性部材45のシール部48は、軸方向外側から視て、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が全周のうち部分的に露出するように構成される。このため、芯金41の内嵌部42の露出する部分を少なくして、芯金41の内嵌部42が劣化または損傷すること等を抑制することができる。
【0054】
なお、弾性部材45のシール部48における開口部49の周方向の長さ及び開口部49同士の間隔等については、仕様等に応じて適宜設定することができ、例えば、開口部49の周方向の長さと開口部49同士の間隔とが略同一または大きく異なる長さに構成することができる。また、開口部49の個数については、仕様等に応じて適宜設定することができ、例えば、一つの開口部49が形成されることによって、開口部49がシール部48のインナー側端48aの一部が露出するように部分的に配置される構成とすることもできる。
【0055】
またこのとき、弾性部材45のシール部48における開口部49の周方向端に位置する部分は軸方向に対して平行な面で構成され、開口部49の周縁部分が矩形に構成される(図10図11、及び図12(A)参照)。なお、弾性部材45のシール部48の周方向端は、軸方向に対して傾斜する面で構成することもできる(図12(B)、図13、及び図14参照)。また、弾性部材45のシール部48の周方向端は、曲面で構成することもできる(図12(C)参照)。
【0056】
このとき、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aと、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端42aと、の間における軸方向の長さが、1mm以下で構成される。このように構成されることによって、このため、取り付け治具によって押圧された際の弾性部材45のシール部48の変形量を小さくして、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端が取り付け治具によって押圧されて変形した後に、露出する芯金41の内嵌部42の軸方向外側端を取り付け治具によって確実に押圧させることができる。
【0057】
図15に示すように、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aが、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aよりもアウター側に配置されて構成することもできる。このとき、弾性部材45のシール部48のインナー側端48aと、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aと、は軸方向においてそれぞれ異なる位置となるように構成され、弾性部材45のシール部48のインナー側端48a及び芯金41の内嵌部42のインナー側端42aの周辺部分の断面形状が、凸状に構成される。またこのとき、スリンガ30における中板部32のインナー側面と、シールリング40における芯金41の内嵌部42のインナー側端42aと、は軸方向において面一となるように構成される。このように構成されることから、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端が、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端よりも軸方向内側に配置される。このため、取り付け治具によって押圧する際に、取り付け治具が、芯金41の内嵌部42に接触して、弾性部材45のシール部48に接触しない。このため、取り付け治具によって押圧する際に、シール部48が変形することなく、外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を取り付けることができる。したがって、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができるものを実現することができる。
【0058】
またこのき、弾性部材45のシール部48が、インナー側から視て、芯金41の内嵌部42のインナー側端42aが全周のうち部分的に露出するように構成される構成とすることもできる。このため、芯金41の内嵌部42の露出する部分を少なくして、芯金41の内嵌部42が劣化または損傷すること等を抑制することができる。
【0059】
図16に示すように、弾性部材45のシール部48は、開口部49を備える構成に代えて、シール部48のインナー側において全周に亘って配置される構成とすることもできる。このようにして、シール部48は、芯金41の内嵌部42の軸方向外側端が露出しないように全周に亘って配置される。このとき、弾性部材45のシール部48の軸方向外側端の厚みは、0.1mm以下で構成される。
【0060】
このため、取り付け治具によって押圧された際に、シール部48が取り付け治具によって押圧されたとしてもシール部48の変形量をより小さくして、外輪2と内輪4との間における軸受空間にインナー側シール部材9を取り付けることができる。したがって、軸受空間に圧入する際にスリンガ30とシールリング40との相対的位置がズレることを抑制して、異物の浸入を確実に防止することができ、また、トルクが増大することを抑制することができるものを実現することができる。また、芯金41の内嵌部42が露出しないように構成して、芯金41の内嵌部42が劣化または損傷すること等を抑制することができる。
【0061】
なお、第3世代と呼称される車輪用軸受装置を例示したが、本発明に係る密封装置が用いられる車輪用軸受装置はこうした構造に限定されず、例えば、ハブ輪の小径段部に一対の内輪を圧入した第1世代あるいは第2世代構造であっても良く、ハブ輪と等速自在継手の外周面それぞれに内側軌道溝を形成し内方部材とした第4世代構造であっても良いものとする。また、転動体をボール列5、6とした複列アンギュラ玉軸受を例示したが、これに限らず転動体に円錐ころを使用した複列円すいころ軸受であっても良いものとする。また、本発明に係る密封装置は、インナー側シール部材として説明したが、アウター側シール部材として用いても良いものとする。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2c (インナー側の)外側軌道溝
2d (アウター側の)外側軌道溝
2e 車体取り付けフランジ
2f ボルト孔
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
3c 内側軌道溝
3d ボルト孔
4 内輪
4a 内側軌道溝
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
8 保持器
9 インナー側シール部材
10 アウター側シール部材
30 スリンガ
31 外嵌部
32 中板部
33 磁気エンコーダ
40 シールリング
41 芯金
42 内嵌部
42a インナー側端
42b 凹部
43 中板部
45 弾性部材
46 基部
47 リップ部
47a サイドリップ
47b サイドリップ
47c グリースリップ
48 シール部
48a インナー側端
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16