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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014669
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】加熱調理器具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47J 37/06 20060101AFI20250123BHJP
   H05B 3/72 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
A47J37/06 321
H05B3/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117422
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】303028734
【氏名又は名称】オーエム産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 宜幸
(72)【発明者】
【氏名】福田 千紗
(72)【発明者】
【氏名】清水 昭弘
(72)【発明者】
【氏名】次田 亮一
【テーマコード(参考)】
3K092
4B040
【Fターム(参考)】
3K092PP03
3K092QA05
3K092QB02
3K092QB26
3K092QB36
3K092QB45
3K092QB69
3K092RF03
3K092RF11
3K092RF22
3K092VV15
3K092VV40
4B040AA08
4B040AB04
4B040AC03
4B040AD04
4B040CA05
4B040CA12
4B040CB05
4B040CB06
4B040EB01
4B040JA02
4B040JA17
(57)【要約】
【課題】昇温速度が速く、消費電力も小さい加熱調理器具を提供する。
【解決手段】セラミックス基材の表面にめっき層からなる配線が形成されてなり、該配線に通電することによって前記セラミックス基材を加熱する加熱調理器具である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の表面にめっき層からなる配線が形成されてなり、該配線に通電することによって前記セラミックス基材を加熱する、加熱調理器具。
【請求項2】
前記めっき層がNi、P及びWを含有する、請求項1に記載の加熱調理器具。
【請求項3】
前記めっき層の表面に絶縁層が形成された、請求項1又は2に記載の加熱調理器具。
【請求項4】
前記配線が形成されたセラミックス基材を収容し、前記配線に給電する給電装置を有する筐体をさらに備えた、請求項1又は2に記載の加熱調理器具。
【請求項5】
無電解めっきを行うことにより、前記セラミックス基材の表面に前記めっき層を形成する、請求項1又は2に記載の加熱調理器具の製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス基材の表面の一部の領域にパルスレーザーを照射することにより、前記領域の表面を粗化し、
前記無電解めっきを行うことにより、前記領域の表面に前記めっき層を形成する、請求項5に記載の加熱調理器具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理器具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
調理用のホットプレートは手軽に使用できることから、家庭用で広く使用されている。従来の多くのホットプレートは、プレート本体と、棒状のヒーター部を備えた本体ケースとが、着脱可能に形成されたものであった。しかしながら、このようなホットプレートは、昇温速度が遅く、消費電力も大きかった。また、プレート本体と本体ケースとを合わせた厚みが厚くて嵩張るうえに重かった。さらに、ヒーター部に対して近い部分と遠い部分との間の温度差が大きいため、焼きムラや焦げ付きが生じ易かった。
【0003】
特許文献1には、表面プレート、その下面側に配置されたフィルムヒーター、及びその下面側に配置された裏面プレートを備えた調理用ホットプレートが記載されている。当該ホットプレートによれば、ダウンサイジング及び軽量化を図ることができるとともに、熱源であるフィルムヒーターから放散される輻射熱の有効利用もできると記載されている。しかしながら、当該ホットプレートは、昇温速度が遅く、消費電力も大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3233768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、昇温速度が速く、消費電力も小さい加熱調理器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、セラミックス基材の表面にめっき層からなる配線が形成されてなり、該配線に通電することによって前記セラミックス基材を加熱する加熱調理器具を提供することによって解決される。このとき、前記めっき層がNi、P及びWを含有することが好ましい。前記めっき層の表面に絶縁層が形成されていることも好ましい。前記加熱調理器具が、前記配線が形成されたセラミックス基材を収容し、前記配線に給電する給電装置を有する筐体をさらに備えたものであることも好ましい。
【0007】
上記課題は、無電解めっきを行うことにより、前記セラミックス基材の表面に前記めっき層を形成する前記加熱調理器具の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、前記セラミックス基材の表面の一部の領域にパルスレーザーを照射することにより、前記領域の表面を粗化し、前記無電解めっきを行うことにより、前記領域の表面に前記めっき層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の加熱調理器具は、昇温速度が速く、消費電力も小さい。本発明の製造方法によれば、このような加熱調理器具を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1における、めっき層からなる配線が形成されたセラミックス基材下面の外観写真である。
図2】実施例1における、給電装置にセラミックス基材が設置された加熱調理器具の外観写真である。
図3】実施例1及び比較例1において、配線に通電した際のセラミックス基材の上側表面のサーモグラフィー画像である。
図4】実施例1及び比較例1において、通電時間(横軸)に対して、セラミックス基材の上側表面(配線に対応する部分)の温度(縦軸)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の加熱調理器具は、セラミックス基材の表面にめっき層からなる配線が形成されてなり、該配線に通電することによって前記セラミックス基材を加熱するものである。このような加熱調理器具は、昇温速度が速く、消費電力も小さい。
【0011】
図1は、後述する実施例1における、めっき層からなる配線4が形成されたセラミックス基材2下面の外観写真であり、図2は、実施例1における、給電装置3にセラミックス基材2が設置された加熱調理器具1の外観写真である。以下、これらの図面を参照しながら本発明の加熱調理器具1について具体的に説明する。
【0012】
前記加熱調理器具1に用いられる基材(プレート)として、セラミックス基材2が用いられる。セラミックス基材2は単層であっても多層であっても構わないが、高い遠赤外線効果が得られる点やコスト面からは単層であることが好ましい。セラミックス基材2が多層である場合、その少なくとも一層がセラミックス層である必要があり、当該セラミックス層の表面に前記配線4が形成される。前記セラミックス基材2として、調理器具や鍋等に一般的に用いられる耐熱性セラミックス基材2が用いられ、例えば、耐熱性陶磁器、耐熱性ガラス等が挙げられる。中でも、耐熱性陶磁器が好ましい。耐熱性がさらに向上する点から、前記セラミックス基材がペタライト、カオリナイト、フロゴパイト、ステアタイト及びシリコンナイトライドからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。中でも、前記セラミックス基材2がペタライトを含有するペタライト系セラミックス基材であることが好ましい。
【0013】
前記セラミックス基材2の形状は特に限定されず、調理に適した形状であればよい。強度が向上する点から、前記セラミックス基材2の厚みは0.3~30mmが好ましい。前記厚みが0.3mm以上であることにより前記セラミックス基材2の強度が向上する。前記厚みは0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。一方、前記厚みが30mm以下であることにより、前記セラミックス基材2の昇温速度がさらに高まるとともに、消費電力がさらに低下する。前記厚みは25mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましい。
【0014】
前記セラミックス基材2の表面にめっき層からなる配線4が形成される。当該配線4に通電することによって発熱し、前記セラミックス基材2の上面に乗せられた食材が加熱される。安全性や耐久性の点から、通常、前記セラミックス基材2の下面に前記配線4が形成される。本発明では、前記セラミックス基材2の表面に直接薄いめっき層からなる配線4が形成されている。そのため、当該セラミックス基材2は熱伝導性が高く、前記セラミックス基材2上面が短時間で昇温する。しかも、めっき層で配線4を形成することにより加熱調理器具全体を薄くすることが可能となる。
【0015】
前記セラミックス基材2において配線4が形成される位置は特に限定されず、食材と前記セラミックス基材2が接触する位置等に応じて決定すればよい。後述する加熱調理器具1の製造方法によれば、前記セラミックス基材2表面の任意の位置に任意の形状のめっき層を形成することができる。したがって、前記セラミックス基材を均一に加熱することができるため、焼きムラや焦げ付きが生じにくい。
【0016】
前記めっき層からなる配線4に通電することによって発生する熱の量は電流の二乗と配線の電気抵抗に比例するため、前記めっき層はある程度の電気抵抗を有するとともに、耐熱性に優れていることが好適である。かかる観点から、前記めっき層が、Ni、W、Zn、Co、Fe、Pt、Sn、Pb、Ir、Rh、Cr、Bi、Cd、Pd、In、Au及びMoからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有することが好ましく、Ni及びWからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含有することがより好ましく、Ni及びWを含有することがさらに好ましい。前記めっき層は前記金属元素以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、P、Bが挙げられる。
【0017】
電気抵抗と耐熱性のバランスの観点から、中でも、前記めっき層が、Ni、P及びWを含有することが特に好ましい。このときの前記めっき層中のNi、P及びWの合計量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上がよりさらに好ましく、前記めっき層が実質的にNi、P及びWのみからなることが特に好ましい。前記めっき層がNi、P及びWを含有する場合、当該めっき層中のPの含有量は、Ni100質量部に対して、通常、0.1~20質量部である。また、当該めっき層中のWの含有量は、Ni100質量部に対して、通常、0.1~40質量部である。
【0018】
前記めっき層の厚みは0.1~500μmが好ましい。前記めっき層の厚みが0.1μm未満の場合、断線するおそれがある。前記めっき層の厚みは0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、2μm以上が特に好ましい。一方、前記めっき層の厚みが500μmを超える場合、前記加熱調理器具の製造コストが上昇するおそれがある。前記めっき層の厚みは、250μm以下がより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下が特に好ましく、30μm以下が最も好ましい。
【0019】
前記めっき層からなる配線4の幅は0.2~50mmが好ましい。前記幅が0.2mm未満の場合、断線するおそれがある。前記幅は0.5mm以上がより好ましく、1mm以上がさらに好ましい。一方、前記幅が50mmを超える場合、必要なめっきの厚さを確保できないおそれがある。前記幅は、20mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
【0020】
前記めっき層を形成する方法は特に限定されないが、無電解めっきを行うことにより、前記セラミックス基材の表面に前記めっき層を形成することが好ましい。上記課題は、無電解めっきを行うことにより、前記セラミックス基材の表面に前記めっき層を形成する前記加熱調理器具の製造方法を提供することによっても解決される。
【0021】
このとき、様々な配線パターンへの対応が容易であり、不良品の発生も少ない点から、前記セラミックス基材表面の一部の領域にレーザーを照射することにより、前記領域の表面を粗化した後、無電解めっきを行うことにより、前記領域の表面に前記めっき層からなる配線を形成することがより好ましい。
【0022】
配線4を形成すべきではない領域に後述する無電解めっき触媒が付着するのを防止するため、前記セラミックス基材2表面へのレーザー照射を行う前に、必要に応じて、前記セラミックス基材2の保護処理を行ってもよい。前記セラミックス基材2に巣(空孔)が存在している場合等にこのような保護処理を行うことがある。保護処理方法としては、一般的な有機-無機ハイブリッドガラスコーティング剤、無機系ガラスコーティング等のコーティング剤を用いて保護膜を形成する方法、撥水剤やカップリング剤を塗布する方法等が挙げられる。保護膜を形成した場合、めっき層を形成した後に、必要に応じて当該保護膜を除去してもよい。前記コーティング剤としては、奥野製薬工業社製「Protector HB-LTC2」等の有機-無機ハイブリッドガラスコーティング剤が挙げられる。また、前記撥水剤としては、信越化学工業社製「KBM-3063」等が挙げられる。
【0023】
前記セラミックス基材2表面の配線4を形成すべき領域にレーザーを照射することにより、前記領域の表面を粗化する。前記セラミックス基材2と前記めっき層との界面が粗化されていることにより、前記セラミックス基材2と前記めっき層との密着性が良好になる。
【0024】
レーザーの照射方式は特に限定されないが、前記セラミックス基材2表面を効率良く粗化できる点から、前記領域にパルスレーザーを照射することが好ましい。通常、パルスレーザーのパルス幅(秒)は、1×10-18秒以上1×10-4秒以下であり、周波数は1~10000kHzであり、加工点での平均出力は0.01~1000Wである。レーザーの種類も特に限定されず、YAGレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザーなどの固体レーザー;炭酸ガスレーザー、エキシマレーザーなどの気体レーザーを用いることができる。パルスレーザーの波長は特に限定されず、セラミックス基材の種類などにより適宜設定することができ、通常は100~12000nmである。
【0025】
前記セラミックス基材2の表面に溝が形成されるとともに、該溝に前記めっき層が充填されていることが好ましい。これにより、前記めっき層からなる配線4が破損しにくくなるとともに、前記セラミックス基材2上面の昇温速度がさらに高まる。このとき、前記配線4を保護する観点から、めっき層の厚みと溝の深さは同じであるか、又は溝の深さよりもめっき層の厚みは小さい方が好ましい。溝の形成方法は特に限定されないが、前記セラミックス基材2の表面にレーザーを照射することにより、前記セラミックス基材2の表面に溝を形成する方法が挙げられる。前記セラミックス基材2の表面にレーザーを照射することにより、前記セラミックス基材2の界面の粗化と前記溝の形成とを同時に行うことが好ましい。
【0026】
前記溝の深さが0.1~1000μmであることが好ましい。溝の深さが0.1μm未満の場合、前記めっき層が溝から外れやすくなる場合がある。溝の深さは1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。一方、溝の深さが1000μmを超える場合、溝を形成するためのコストが上昇するおそれがある。溝の深さは300μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
前記配線4が形成された部分における前記セラミックス基材2の厚みは0.3~30mmが好ましい。前記厚みが0.3mm以上であることにより前記セラミックス基材2の強度が向上する。前記厚みは0.5mm以上がより好ましく、前記厚みは1mm以上がさらに好ましい。一方、前記厚みが30mm以下であることにより、前記セラミックス基材2の昇温速度がさらに高まるとともに、消費電力がさらに低下する。前記厚みは25mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましい。
【0028】
前記セラミックス基材2のレーザーが照射された前記領域に無電解めっきを行うことにより、前記領域の表面に前記めっき層からなる配線4を形成する。前記セラミックス基材2の表面に無電解めっき触媒を付着させる。無電解めっき触媒としては特に限定されず、無電解めっき液に対して触媒作用を有する金属元素を含有するものであればよい。当該金属元素としては、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)などが挙げられる。これらの金属元素は、無電解めっき液の種類により適宜選択できる。無電解めっき触媒として、一般的なものを使用することができる。例えば、上村工業株式会社製「A-10X」、株式会社ワールドメタル製「PT-4」等が挙げられる。そして、前記セラミックス基材2を上記金属元素を含む水溶液で処理した後に還元剤を含む水溶液で処理して、無電解めっき触媒を活性化させることができる。
【0029】
めっきを行う前に、前記レーザーが照射されていない部分に付着した前記触媒を選択的に除去する、又は前記触媒を選択的に失活させることが好ましい。これらの具体的な方法としては、特開2020-113469号公報の[0044]~[0050]に記載された方法が採用される。
【0030】
無電解めっきを行うことにより、レーザーを照射した領域に前記めっき層を形成する。無電解めっきを複数回行ってもよい。また、無電解めっきを行った後、さらに電解めっきを行ってもよい。複数回めっきを行う場合、形成するめっき層の種類は同じであっても異なっていてもよい。例えば、給電装置3の端子との接触による摩耗等を考慮して、配線4の両端の接続部5に銅めっき層、金めっき層、銀めっき層、スズめっき層などをさらに形成することができる(図1、2参照)。無電解めっき液として、一般的なものを使用することができる。例えば、無電解Ni-W-Pめっき液として、上村工業株式会社製「トリアロイNWP」、株式会社ワールドメタル製「リンデンNPW」、「ニボタリン」等が挙げられる。
【0031】
無電解めっきを行うことにより、前記セラミックス基材2の表面に前記めっき層からなる配線4を形成する方法として、前記めっき層が形成されるべき部分のみが露出されるように、前記セラミックス基材2の表面をマスキングした後、無電解めっきを行うことにより、前記めっき層からなる配線4を形成する方法も好ましい。
【0032】
安全性や前記配線の耐久性の点から、前記配線の表面に絶縁層が形成されていることが好ましい。前記セラミックス基材2及び配線4の表面に形成される絶縁層の種類は特に限定されないが、ガラス層(ガラスコート、ガラスシート等)及び樹脂層が好ましい。前記絶縁層の厚みは、通常0.1~100μmである。
【0033】
こうして得られるセラミックス基材2の表面に形成された配線4に通電することによって前記セラミックス基材2を加熱する。このときの給電方法は特に限定されない。本発明の加熱調理器具の好ましい態様の一例として、配線が形成された前記セラミックス基材と、それを収容し、前記配線に給電する給電装置を有する筐体とを備えた加熱調理器具が挙げられる。使用後の前記セラミックス基材の洗浄のし易さ等の点から、前記セラミックス基材は前記筐体から脱着可能であることが好ましい。本発明の加熱調理器具は、昇温速度が速く、消費電力も小さい。しかも、前記セラミックス基材を均一に加熱することが可能であるため焼きムラや焦げ付きも生じにくいうえに、薄型化が可能である。したがって、前記加熱調理器具は、家庭用と業務用とを問わず、好適に使用される。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0035】
実施例1
市販のペタライト系耐熱性陶磁器プレート(有限会社東彼セラミックス製、トーセラムプレート「焼き三昧」、プレートサイズ、24.5cm×17.5cm)の下側表面に株式会社アマダウエルドテック製のファイバーレーザーマーカー「ML-7350DL-3D」を用いて、レーザー照射(波長:1064nm、周波数:50kHz、出力:20W)することにより、深さ30μm、幅1.5mmの溝のパターン(略S字状の繰り返し単位からなる蛇行形状のパターン)を形成するとともに、溝の底面を粗化した。
【0036】
レーザー照射された前記陶磁器プレートを、上村工業株式会社製「A-10X」に30秒間浸漬させた後、イオン交換水で3回水洗することにより、溝のパターンに触媒を付着させた。当該陶磁器プレートを90℃に保温したpH.9.0の無電解Ni-W-Pめっき液に60分間浸漬させて、無電解めっき処理を行った後、イオン交換水で3回洗浄した。無電解Ni-W-Pめっき液は上村工業株式会社製「トリアロイNWP」を使用した。こうして前記陶磁器プレートの溝の底面に厚み10μm、幅1.5mmの無電解Niめっき層からなる配線4を形成した。
【0037】
無電解Ni-W-Pめっき層の表面に奥野製薬工業株式会社製「Protector S-6140」を塗布することにより、前記めっき層の表面に厚み1μmの絶縁層を形成した。図1は、両端に接続部5が形成された、めっき層からなる配線4が形成されたセラミックス基材2下面の外観写真である。
【0038】
こうして得られた、略S字状の繰り返し単位からなる蛇行形状のめっき層からなる配線が表面に形成されたセラミックス基材を給電装置3に設置した。図2は、給電装置3にセラミックス基材2が設置された加熱調理器具1の外観写真である。前記セラミックス基材2の接続部と給電装置3の端子とが接触した状態で、前記セラミックス基材2を前記給電装置3に設置し、電力100W(配線の両端間の抵抗値74Ωに設定して、AC100V)で12分間、前記配線に通電した。このときのセラミックス基材2の上側表面の温度変化をサーモグラフィーで測定した。図3に得られたサーモグラフィー画像を示す。図4に通電時間(横軸)に対して、セラミックス基材2の上側表面(配線と対応する部分)の温度(縦軸)をプロットしたグラフを示す。
【0039】
比較例1
金属製の表面プレート、その下面側に配置されたフィルムヒーター、及びその下面側に配置された裏面プレートを備えた市販の調理用ホットプレート(消費電力580W、プレートサイズ、25.5cm×23cm)に通電した際のプレート表面の温度変化をサーモグラフィーで測定した。図3にこのときのサーモグラフィー画像を示す。また、図4に通電時間(横軸)に対して、プレート表面の中心部における温度(縦軸)をプロットしたグラフを示す。なお、通電開始から6分後にホットプレートから白煙及び異臭が発生したため、通電を終了した。
【0040】
図3及び4に示されているとおり、セラミックス基材の表面にめっき層からなる配線が形成されてなる本発明の加熱調理器は、フィルムヒーターを用いた市販のホットプレートと比較して、昇温速度が高く、消費電力も少なかった。しかもセラミックス基材の上側表面(配線に対応する部分)が均一に昇温した。なお、図3はカラー画像をグレースケールの画像に変換したため、配線が形成された加熱部分の中心部が黒く(暗く)なっているが、実際は中心に近づくほど温度は高かった。
【符号の説明】
【0041】
1 加熱調理器具
2 セラミックス基材
3 給電装置
4 配線
5 接続部
図1
図2
図3
図4