(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014677
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】血管平滑筋細胞指向カプシド、アデノ随伴ウイルスベクター、医薬組成物、治療方法、核酸導入方法、及びカプシド製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20250123BHJP
C07K 14/015 20060101ALI20250123BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250123BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20250123BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250123BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250123BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250123BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250123BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250123BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250123BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250123BHJP
C12N 15/34 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C07K14/015 ZNA
C12N5/10
C12P21/02 A
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P25/28
A61P43/00 105
A61P29/00
A61K35/76
A61K48/00
C12N15/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117434
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】瀬原 吉英
(72)【発明者】
【氏名】今野 歩
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA20
4B064CC24
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4B065AA93X
4B065AA97X
4B065AB01
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4B065CA24
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4C084AA13
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4C084ZA151
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4C087AA01
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4C087ZC61
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】血管平滑筋への感染率を高めた血管平滑筋細胞指向カプシドを提供する。
【解決手段】
アデノ随伴ウイルスのカプシドであり、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたことを特徴とする。この指向性因子は、ウイルス粒子の表面に提示されるペプチドである。ペプチドは、マウス(Mus musculus)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「RENKLGE」「KDTVPRE」「TETGKTA」「STPAAKE」「RNREPTE」「ARNGTTE」「KDTAERQ」「NRGGNQD」「NRPDTNS」「TRATSQE」のいずれかを含む。ヒト(Homo sapiens)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「NRPETNP」「SHDPSKE」「SEIRRDQ」「NRNKHEE」「RQDNKME」「THPPAPQ」「TRGGGSE」「TEKQTNS」「RVTMGSE」「ATKNQNE」のいずれかを含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルスのカプシドであって、
血管平滑筋細胞への指向性因子が付加された
ことを特徴とする血管平滑筋細胞指向カプシド。
【請求項2】
前記指向性因子は、ウイルス粒子の表面に提示されるペプチドである
ことを特徴とする請求項1に記載の血管平滑筋細胞指向カプシド。
【請求項3】
前記ペプチドは、マウス(Mus musculus)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「RENKLGE」(配列番号5)、「KDTVPRE」(配列番号6)、「TETGKTA」(配列番号7)、「STPAAKE」(配列番号8)、「RNREPTE」(配列番号9)、「ARNGTTE」(配列番号10)、「KDTAERQ」(配列番号11)、「NRGGNQD」(配列番号12)、「NRPDTNS」(配列番号13)、及び「TRATSQE」(配列番号14)のアミノ酸配列のいずれかを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の血管平滑筋細胞指向カプシド。
【請求項4】
前記ペプチドは、ヒト(Homo sapiens)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「NRPETNP」(配列番号15)、「SHDPSKE」(配列番号16)、「SEIRRDQ」(配列番号17)、「NRNKHEE」(配列番号18)、「RQDNKME」(配列番号19)、「THPPAPQ」(配列番号20)、「TRGGGSE」(配列番号21)、「TEKQTNS」(配列番号22)、「RVTMGSE」(配列番号23)、「ATKNQNE」(配列番号24)のアミノ酸配列のいずれかを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の血管平滑筋細胞指向カプシド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の血管平滑筋細胞指向カプシドを備える
ことを特徴とするアデノ随伴ウイルスベクター。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の血管平滑筋細胞指向カプシドを備える
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
病気の治療用の組成物が含まれる請求項1乃至4のいずれかに記載の血管平滑筋細胞指向カプシドである
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項8】
動物の治療方法であって、
請求項1乃至4のいずれかに記載の血管平滑筋細胞指向カプシドにより治療用の組成物を前記血管平滑筋細胞に導入する
ことを特徴とする治療方法。
【請求項9】
請求項5に記載のアデノ随伴ウイルスベクターにより、核酸分子を前記血管平滑筋細胞に導入する
ことを特徴とする核酸導入方法。
【請求項10】
アデノ随伴ウイルスのカプシド製造方法であって、
血管平滑筋細胞への指向性因子を付加する
ことを特徴とするカプシド製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管平滑筋細胞を指向するアデノ随伴ウイルスの血管平滑筋細胞指向カプシド、アデノ随伴ウイルスベクター、医薬組成物、治療方法、核酸導入方法、及びカプシド製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus。以下、「AAV」という。)は1965年の発見以来、病原性がないウイルスとして存在が知られてきた。AAVは、単独での増殖能力がなく、アデノウイルスやヘルペスウイルス等に依存して宿主細胞内で増殖が可能となるウイルスであり、ヒトにおける病原性を示す報告はない。このため、近年では、AAVは、病原性がないため安全な遺伝子導入のツールとして、遺伝子治療や再生医療においての活用が期待されている。
従来、100種類以上の野生型のAAVが同定されている。これらのAAVは、最表面を構成する外被タンパク質(以下、「カプシド」という。)のアミノ酸配列が、それぞれ異なっている。このカプシドのアミノ酸配列の相違が、それぞれのAAVの臓器、細胞種への感染特異性(以下、「指向性(Tropism)」という。)に関連している。
【0003】
特許文献1を参照すると、親AAVカプシドタンパク質に対して1つ以上の修飾をアミノ酸配列に有し、AAVビリオン中に存在する場合、未修飾の親AAVカプシドタンパク質を含むAAVビリオンによる筋肉細胞の感染性と比較して増加した1種以上の筋肉細胞の感染性をもたらすAAVのカプシドタンパク質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のカプシドタンパク質を用いたAAVは、骨格筋については感染性を高めているものの、血管平滑筋への感染率は十分ではなかった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の血管平滑筋細胞指向カプシドは、アデノ随伴ウイルスのカプシドであって、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたことを特徴とする。
本発明の血管平滑筋細胞指向カプシドは、前記指向性因子は、ウイルス粒子の表面に提示されるペプチドであることを特徴とする。
本発明の血管平滑筋細胞指向カプシドは、前記ペプチドは、マウス(Mus musculus)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「RENKLGE」(配列番号5)、「KDTVPRE」(配列番号6)、「TETGKTA」(配列番号7)、「STPAAKE」(配列番号8)、「RNREPTE」(配列番号9)、「ARNGTTE」(配列番号10)、「KDTAERQ」(配列番号11)、「NRGGNQD」(配列番号12)、「NRPDTNS」(配列番号13)、及び「TRATSQE」(配列番号14)のアミノ酸配列のいずれかを含むことを特徴とする。
本発明の血管平滑筋細胞指向カプシドは、前記ペプチドは、ヒト(Homo sapiens)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、「NRPETNP」(配列番号15)、「SHDPSKE」(配列番号16)、「SEIRRDQ」(配列番号17)、「NRNKHEE」(配列番号18)、「RQDNKME」(配列番号19)、「THPPAPQ」(配列番号20)、「TRGGGSE」(配列番号21)、「TEKQTNS」(配列番号22)、「RVTMGSE」(配列番号23)、「ATKNQNE」(配列番号24)のアミノ酸配列のいずれかを含むことを特徴とする。
本発明のアデノ随伴ウイルスベクターは、前記血管平滑筋細胞指向カプシドを備えることを特徴とする。
本発明の医薬組成物は、前記血管平滑筋細胞指向カプシドを備えることを特徴とする。
本発明の医薬組成物は、病気の治療用の組成物が含まれる前記血管平滑筋細胞指向カプシドであることを特徴とする。
本発明の治療方法は、動物の治療方法であって、前記血管平滑筋細胞指向カプシドにより治療用の組成物を前記血管平滑筋細胞に導入することを特徴とする。
本発明の核酸導入方法は、前記アデノ随伴ウイルスベクターにより、核酸分子を前記血管平滑筋細胞に導入することを特徴とする。
本発明のカプシド製造方法は、アデノ随伴ウイルスのカプシド製造方法であって、血管平滑筋細胞への指向性因子を付加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたことで、血管平滑筋への感染率を従来より高めたAAVを製造可能な血管平滑筋細胞指向カプシドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例に係る血管平滑筋指向性AAVの作製方法の概念図である。
【
図2】本発明の実施例に係るAAVのカプシド以外プラスミドの構造を示す概念図である。
【
図3】本発明の実施例に係るAAVの配列付加カプシドプラスミドの構造を示す概念図である。
【
図4】本発明の実施例に係るマウス大動脈平滑筋細胞でのスクリーニング結果を示す写真及びグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係るヒト脳小血管平滑筋細胞でのスクリーニング結果を示す写真及びグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態>
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、長期に安全な遺伝子導入を可能とする。これは、病原性がなく、宿主ゲノムへの組み込みが少ない等の特徴があるためである。また、AAVベクターは、ヘルパーウイルスの非存在下では増殖しないため、分裂が盛んな細胞では細胞あたりの導入遺伝子コピー数が次第に低下する点も安全性に資する。加えて、AAVベクターは、長期保存可能であり、分裂細胞、非分裂細胞ともに高効率の遺伝子導入が可能であるという特徴も備えている。
一方、近年、脳小血管病等を含む幅広い疾患において、血管平滑筋に特異的な遺伝子治療の必用性が増している。しかしながら、従来、血管平滑筋への明らかな指向性を持つAAVは存在しなかった。すなわち、従来のAAVベクターは、血管平滑筋への遺伝子導入効率は高いとは言えなかった。さらに、血管平滑筋への遺伝子導入を目指したAAVベクターは、開発されていなかった。
【0011】
このため、本発明者らは、鋭意実験を繰り返し、AAVの表面構造であるカプシドタンパク質のアミノ酸配列を一部ランダムに改変し、培養血管平滑筋細胞に感染させた。そして、この培養血管平滑筋細胞を回収し、解析することによって、血管平滑筋へ遺伝子導入するのに好適な指向性を備えるAAVのアミノ酸の配列を同定した。これにより、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたAAVのカプシドを作製することに成功した。この血管平滑筋細胞指向カプシドを用いることで、血管平滑筋への明らかな指向性を持つAAVを製造することが可能となり、本発明を完成するに至った。
【0012】
より詳細に説明すると、野生株のAAVは、主に複製に関わる遺伝子であるRep、及び主に表面を構成するカプシドをコードするCapの2つの遺伝子から構成される、直径25nmの単鎖DNAウイルスである。さらに、AAVは自己複製能を持たないため、培養細胞での増殖にはアデノウイルス由来のヘルパー遺伝子を同時に導入する必要がある。
本実施形態においては、AAVのカプシドのアミノ酸配列の中で、最表層に位置すると予測される部位にランダムな7アミノ酸を挿入し、AAVを作製した。このAAVを培養血管平滑筋細胞に感染させ、AAVゲノムを回収し、PCRで増幅し再度AAV作製するというスクリーニングのサイクルを繰り返すことにより、血管平滑筋への遺伝子導入効率に優れたAAVベクターを作製した。
以下、本実施形態に係る血管平滑筋細胞指向カプシド、及びこれを含むAAV、医薬組成物、治療方法、核酸導入方法、及びカプシド製造方法の詳細について説明する。
【0013】
〔血管平滑筋細胞指向カプシド、カプシド製造方法、AAVベクター〕
本実施形態に係る血管平滑筋細胞指向カプシドは、AAVのカプシドであって、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたことを特徴とする。
【0014】
本実施形態において、血管平滑筋細胞は、成熟血管を構成する平滑筋の主な細胞である。この血管平滑筋細胞により構成される血管平滑筋は、収縮、弛緩することにより、血管径の調節を行う。平滑筋が収縮すると血管径が細くなり、血圧が上昇する。
【0015】
本実施形態において、血管平滑筋細胞への指向性因子は、ウイルス粒子の表面に提示されるペプチドであってもよい。より具体的には、この血管平滑筋細胞への指向性因子となるペプチドは、AAVがアセンブルされた後に、カプシドの表面に提示されるものであってもよい。たとえば、このペプチドは、カプシドの表面に提示されることが知られている野生株AAV2のVP1 587番目から588番目のアミノ酸の間の位置に付加されてもよい。さらに、このペプチドは、カプシドの表面に提示されるのであれば、この位置でなくてもよい。加えて、立体障害を避けるために、リンカーやスペーサー等の配列を介して、このペプチドが付加されていてもよい。このリンカーやスペーサー等の配列としては、例えば、「GGGGS」×3の配列であるGSリンカー等、当業者に一般的な配列であってもよい。
【0016】
より具体的には、本実施形態において、このペプチドは、マウス(Mus musculus)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、例えば、「RENKLGE」(配列番号5)、「KDTVPRE」(配列番号6)、「TETGKTA」(配列番号7)、「STPAAKE」(配列番号8)、「RNREPTE」(配列番号9)、「ARNGTTE」(配列番号10)、「KDTAERQ」(配列番号11)、「NRGGNQD」(配列番号12)、「NRPDTNS」(配列番号13)、及び「TRATSQE」(配列番号14)のアミノ酸配列のいずれかを含んでいてもよい。このうち、配列番号5、6のペプチドが、特に、マウスの血管平滑筋細胞への指向性が高く、好適に使用可能である。
【0017】
また、本実施形態において、このペプチドは、ヒト(Homo sapiens)の血管平滑筋細胞を感染対象とする場合、例えば、「NRPETNP」(配列番号15)、「SHDPSKE」(配列番号16)、「SEIRRDQ」(配列番号17)、「NRNKHEE」(配列番号18)、「RQDNKME」(配列番号19)、「THPPAPQ」(配列番号20)、「TRGGGSE」(配列番号21)、「TEKQTNS」(配列番号22)、「RVTMGSE」(配列番号23)、「ATKNQNE」(配列番号24)のアミノ酸配列のいずれかを含んでいてもよい。このうち、配列番号15、16のペプチドが、特に、ヒトの血管平滑筋細胞への指向性が高く、好適に使用可能である。
【0018】
本実施形態に係るカプシド製造方法は、AAVのカプシド製造方法であって、血管平滑筋細胞への指向性因子を付加することを特徴とする。
すなわち、本実施形態に係る血管平滑筋細胞指向カプシドとして、血管平滑筋細胞への指向性因子、例えば上述のペプチドが付加されたものを作製するように構成することが可能である。このため、本実施形態に係るカプシドが翻訳されるDNA又はRNAの配列に、上述のペプチドが翻訳されるようなコドンの配列が含まれていてもよい。すなわち、本実施形態に係る指向性因子として、AAVの製造時に必用なDNA又はRNAに、このペプチドの配列が翻訳されるようなコドンが含まれていてもよい。このコドンは、例えば、生物種に応じてより翻訳されやすく、下記で示すAAVを製造しやすくするために、最適化されていてもよい。
【0019】
また、本実施形態に係るAAVベクターは、この血管平滑筋細胞指向カプシドを備えることを特徴とする。すなわち、本実施形態に係るAAVベクターは、各種のAAVについて、翻訳時に血管平滑筋細胞指向カプシドが生成されて、他のAAVの構成要素とアセンブルされるようなDNA又はRNAの配列で構成されてもよい。
ここで、本実施形態に係るAAVベクターは、上述のペプチドが付加されたカプシドのDNA又はRNAの配列を含む単独のAAVベクターとして用意されてもよい。または、下記の実施例で示すように、カプシドが翻訳されないAAVベクターと、上述のペプチドが付加されたカプシドのベクターとに分けて提供されてもよい。
【0020】
本実施形態に係るAAVベクターに用いるAAVの種類としては、AAV2又はAAV9が血管平滑筋への指向性を付与するために、特に好適である。これに加えて、複数のAAVを掛け合わせたもの、人工的に生成したAAV、他の種類のAAV、突然変異を付加したAAV等も用いることができる。
【0021】
本実施形態に係るAAVベクター及びAAVの製造方法は、当業者に一般的な手法を用いて、上述のAAVベクターを、アデノウイルスやヘルペスウイルス等に由来するヘルパー遺伝子と供に細胞内で翻訳させてAAVのウイルスパーティクルを生成させ、これを超遠心法等の各種手法で精製して製造することが可能である。
製造されたAAVは、当業者に一般的な手法にて、例えば特定の保存用液に入れて、又は乾燥し、冷蔵、冷凍等して、長期間、保存することが可能である。
【0022】
〔医薬組成物〕
本実施形態に係る医療用組成物(医薬、医薬組成物)は、上述の血管平滑筋細胞指向カプシドを備えることを特徴とする。
具体的には、本実施形態に係る医薬組成物は、病気の治療用の組成物が含まれる血管平滑筋細胞指向カプシドであり、この治療用の組成物を血管平滑筋細胞に導入することを特徴とする。すなわち、本実施形態に係る医薬組成物は、血管平滑筋細胞が治療対象となる血管病を治療する物質(治療用の組成物)を、血管平滑筋細胞内に送達する。
【0023】
より具体的には、血管平滑筋細胞指向カプシドを備えたAAVベクターにより、核酸分子を血管平滑筋細胞に導入することを特徴とする。この核酸分子を、血管平滑筋細胞内で、転写、翻訳等させて機能させることで、医薬としての遺伝子治療等の効果を実現できる。すなわち、本実施形態においては、この核酸分子が治療用の組成物であってもよい。これにより、疾病において必用な酵素、構造タンパク質、機能性タンパク質、代謝産物、その他の薬理物質等の治療用のタンパク質を生成させ、又は遺伝子の発現を調節する等して、病態を改善させることが可能となる。また、この核酸分子は、上述の治療用のタンパク質以外にも、アンチセンス、siRNA、リボザイム等の核酸分子の医薬を用いることが可能である。また、発現調整の対象とする遺伝子やパスウェイに対する作用を介した遺伝子治療を行うことも可能である。
このように、本実施形態に係るAAVベクターは、病気を治療するツールとすることが可能である。
【0024】
さらに、本実施形態の医薬組成物としては、血管平滑筋細胞指向カプシド内に、核酸以外の治療用の組成物である薬剤を含ませてもよい。この薬剤は、血管平滑筋細胞が関連する下記の各種疾患、疾病、症状(以下、単に「病気」という。)に対する低分子医薬、抗体医薬、神経伝達物質、ホルモン、その他の薬剤、健康増進用の薬剤、栄養剤等であってもよい。すなわち、本実施形態に係る血管平滑筋細胞指向カプシドを、血管平滑筋細胞指向性のあるDDS(Drug Delivery System)のように用いることも可能である。
【0025】
本実施形態に係る医療用組成物の対象としては、血管平滑筋細胞に関する病気等であってもよい。
より具体的には、本実施形態に係る医療用組成物は、例えば、脳小血管病(Cerebral Small Vessel Disease、cerebral SVD)に対する治療用に用いることが可能である。
【0026】
本実施形態に係る脳小血管病は、広い概念であり、Type 1~Type 6に分類される。Type 1は、生活習慣病の動脈硬化症であり、フィブリノイド壊死、脂肪硝子変性、微小粥腫、微小動脈瘤等を代表的病態とする。Type 2は、脳アミロイドアンギオパチーである。Type 3は、遺伝性脳小血管病であり、Fabry病、CADASIL(Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarct and Leukoencephalopathy)、CARASIL(Cerebral Autosomal Recessive Arteriopathy with Subcortical Ischaemic Strokes and Leukoencephalopathy)、CARASAL(Cathepsin A Related Arteriopathy with Strokes and Leukoencephalopathy)、PADMAL(Pontine Autosomal Dominant Microangiopathy with Leukoencephalopathy)等である。Type 4は、免疫介在性小血管病であり、Wegener肉芽腫症、Churg Strauss症候群、IgA血管炎等である。Type 5は、静脈性膠原線維症(Venous Collagenosis)等である。
Type 6は、その他、放射線療法後血管炎、非アミロイド性微小血管変性等である。
より具体的には、本実施形態に係る医療用組成物は、特に、Faby病、CADASIL等の単一遺伝子の異常が先天的に存在する遺伝性脳小血管病の遺伝子治療に用いることが可能である。
【0027】
加えて、本実施形態に係る医療用組成物は、脳小血管病以外の血管平滑筋細胞に関する病態が生じる病気の治療に用いることも可能である。
これらの病気の治療は、例えば、全身の動脈硬化に関する酸化LDLのアテローム性プラークを、免疫系等により除去させるものであってもよい。
または、血管平滑筋細胞にβアミロイド等の異常タンパク質が蓄積された場合、これを除去するような治療に用いることも可能である。
さらに、血管の可塑性自体を上昇させたり、血液脳関門(Blood-brain barrier)の透過率の制御をしたりするような治療を行うことも可能である。
【0028】
また、本実施形態に係る医療用組成物は、任意の製剤上許容しうる担体を含んでいてもよい。この担体は、例えば、リポソーム担体、コロイド金粒子、ポリペプチド、リポ多糖類、多糖類、脂質膜等であってもよい。
【0029】
さらに、本実施形態に係る医療用組成物は、製薬上許容される担体として、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等を含んでいてもよい。さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等と共に投与することが可能である。また、適切な賦形剤等を更に含んでもよい。
【0030】
また、本実施形態に係る医療用組成物は、製剤上許容しうる担体を調製するために、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含んでいてもよい。このキャリアは、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。また、キャリアは、乳濁液として提供されてもよい。さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤等の製剤用添加物のいずれか又は任意の組み合わせを含有させてもよい。
【0031】
本実施形態に係る医療用組成物の投与経路は、特に限定されず、非経口的又は経口的に投与を行うことが可能である。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、鼻腔、皮下、真皮内、筋肉内、腹腔内の投与、又は、脳血管等への直接投与が可能である。
本発明の実施の形態に係る血管平滑筋用医薬は、非経口的又は経口的の投与に適した投与形態において、当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
【0032】
本実施形態に係る医療用組成物を上述の治療に用いる際に、投与間隔及び投与量は、疾患の状況、さらに対象の状態等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。
本実施形態に係る医療用組成物の1回の投与量及び投与回数は、投与の目的により、更に、患者の年齢及び体重、症状及び疾患の重篤度等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。投与回数及び期間は、1回のみでもよいし、1日1回~数回、数週間程度投与し、疾患の状態をモニターし、その状態により再度又は繰り返し投与を行ってもよい。
【0033】
加えて、本実施形態に係る医療用組成物は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善または軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善または軽減であってもよいし、一定期間の改善または軽減であってもよい。
【0034】
〔治療法、創薬方法〕
本実施形態に係る治療方法は、動物の治療方法であって、上述の血管平滑筋細胞指向カプシドを含む医療用組成物を、血管平滑筋細胞に導入することを特徴とする。
遺伝子治療を行う場合は、本実施形態に係る核酸導入方法として、上述の血管平滑筋細胞指向カプシドを含むAAVベクターにより、核酸分子を血管平滑筋細胞に導入してもよい。
または、上述の血管平滑筋細胞指向カプシド内に薬剤を含ませた場合、この薬剤を血管平滑筋細胞に導入することで、病気を治療してもよい。
【0035】
具体的には、本発明の実施の形態に係る血管平滑筋用医薬は、動物の治療を行う動物治療にも用いることが可能である。この動物は、例えば、マウス(Mus musculus)、ラット、フェレット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒト(Homo sapiens)、ヒト以外のサルや類人猿の霊長類等の哺乳類であってもよい。また、哺乳類の他にも、魚類、家禽を含む鳥類、爬虫類等を含んでいてもよい。
【0036】
すなわち、本発明の実施の形態に係る血管平滑筋用医薬は、ヒトの治療の他に、各種動物の治療、家畜の発育増進等の方法にも用いることができる。
なお、日本を含む医師の行う治療法が産業上の利用可能性がない国では、本実施形態に係る治療法は、ヒトに対する治療を除いてもよい。
【0037】
加えて、本発明の実施の形態に係る血管平滑筋用医薬は、動物の体内の一部分、又は動物から摘出または排出された臓器や組織等についても、治療用の対象とすることができる。さらに、この治療は広義の治療であり、バイオリアクター、モデル動物での培養、人体移植様の培養臓器の培養等にも適用可能である。
【0038】
また、本実施形態に係る上述の血管平滑筋細胞指向カプシドを含むAAVベクターにより、核酸分子を血管平滑筋細胞に導入することで、疾患モデル細胞に対して治療したり、疾患モデル細胞自体を作製したりして、創薬に用いることも可能である。この場合、細胞質内にて上述の核酸分子が翻訳されるようにして、疾患モデルに対する医療用組成物の作用を確かめることが可能である。
【0039】
または、本実施形態に係るAAVベクターにより、疾患モデル動物の作製に用いることも可能である。この場合、AAVの遺伝子は核内に移行しにくいため、逆転写酵素の遺伝子等を含ませて、核内に組み込まれるようにしてもよい。
このようにして、本実施形態に係るAAVベクターを、ヒトの病気の遺伝子治療開発のための創薬用に用いることが可能である。
【0040】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来から、病原性のないAAVベクターによる治療が期待されていた。しかしながら、上述のように、従来のAAVは血管平滑筋への遺伝子導入効率が高いとはいえず、明らかな血管平滑筋指向性を示すものがなかった。このため、血管病を治療するため、血管平滑筋への遺伝子導入を目指したAAVの技術的なニーズがあった。
【0041】
これに対して、本実施形態に係る血管平滑筋細胞指向カプシドは、血管平滑筋細胞への指向性因子が付加されたことで、血管平滑筋への感染率を従来より高めたAAVを製造可能となる。すなわち、従来より、血管平滑筋細胞へ遺伝子導入するために優れた指向性を備えたAAVベクターを提供することができる。
【0042】
これにより、血管病を治療するための、血管平滑筋への効果的な遺伝子導入が可能となる。すなわち、本実施形態に係るAAVベクターに任意の遺伝子を搭載し投与することにより、血管平滑筋への遺伝子導入効率の向上が期待できる。また、本実施形態に係るAAVベクターに、病気の治療剤となる物質を搭載し、その治療に利用することができる。よって、血管病に対する効果的な遺伝子治療が期待される。特に、単一遺伝子の異常が先天的に存在する遺伝性脳小血管病の遺伝子治療、脳梗塞等の血管病の治療等に対して、十分な遺伝子の導入により、効果的な治療が期待できる。
また、AAVベクターは、AAVそのものに病原性がなく、自己増殖能を持たない。このため、血管平滑筋のような分裂能に乏しい組織では、長期の発現による治療効果の持続性が期待できる。
【0043】
なお、本発明の実施の形態に係る医薬は、他の組成物等と併用することも可能である。本発明の組成物を、他の組成物と同時に投与、散布、塗布等をしてもよい。
加えて、AAVベクターを、医薬以外の用途に用いることも可能である。
【実施例0044】
以下で、本発明の実施の形態に係るAAVベクターについて、実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【0045】
〔材料と方法〕
本実施例においては、野生株AAV2及びAAV9を用いて、主にカプシドをコードするCapの領域で、表面に突出していると考えられるカプシドタンパク質VP1の配列の587番目、588番目のアミノ酸の位置の間に、ランダムな7アミノ酸を挿入する人工改変を行い、培養血管平滑筋細胞でスクリーニングを行った。
【0046】
具体的に、本実施例では、下記のスクリーニングの工程を複数回、繰り返すことにより、血管平滑筋への指向性を付与されたアデノ随伴ウイルスベクターを作製した:
(1)配列番号1、2、3の配列を用いたコンストラクトにより、AAVベクターの表面構造であるカプシドタンパク質の一部に、7アミノ酸分のランダム化されたアミノ酸配列を付加にした。
(2)ランダム化されたアミノ酸配列が付加されたカプシドを有するAAVを作製し、培養血管平滑筋細胞に感染させた。
(3)配列番号1、2、4の配列を用いて、当該AAVが感染した血管平滑筋細胞を回収し、感染ウイルスのカプシドのアミノ酸配列と感染性との関係を解析した。
(4)結果として、血管平滑筋細胞への感染性の高い(指向性の高い、遺伝子導入に優れた)AAVのカプシドタンパク質に付加するアミノ酸配列を、血管平滑筋細胞への指向性因子として同定した。
以下、このAAVベクターの製造とスクリーニングの詳細について説明する。
【0047】
(人工改変AAV2の作製)
図2によると、Capの一部にコードされるAssembly-Activating Protein(AAP)もAAVの粒子形成に必要であるため、AAPを発現させる目的で、pUC-GW-Amp vector(Azenta Life Sciences社製)に、AAV9(Genbank AY530579.1)のCapのカプシドタンパク質読み枠にのみ終止コドンとなる変異があるように改変したプラスミド(pUC-GW-Amp_Rep2_Cap9Stop_AAP、6633bp)を準備した(GENEWIZ社に合成依頼)。すなわち、このプラスミドはRepとAAPを発現するもののカプシドタンパク質は発現しないため、以下「カプシド以外プラスミド」という。
【0048】
次に、AAV2のカプシドタンパク質VP1 587番目と588番目の間に7アミノ酸のランダム配列を挿入するための鋳型配列を用意した(Azenta Life Sciences社に合成依頼)。。この鋳型配列を、配列番号1に示す。この鋳型配列は、後述するアセンブリのために、Genbank NC_001401.2の野生株の配列から、制限酵素XhoI認識部位の「CTC」の箇所を「CTT」に変更し、制限酵素HpaIでの認識部位を新たに作製するため、「GTC」を「GTT」に変更したものである。
【0049】
この上で、鋳型配列について、配列番号2に示すFwdプライマー「CAGACGCCGCGGCCCTCGAGCA」と、配列番号3に示すRevプライマー「GCCTTGTGTGTTAACATCTGCGGTAGCTGCTTGTCTNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGTTGCCTCTCTGGAGGTTGGTAGA」を用いてランダム配列が挿入された直鎖をPCRで増幅した。配列番号3の「N」の塩基は、A、G、C、Tのいずれかのランダム(任意)となっている。すなわち、21個の塩基にて、7コドンのランダムなペプチドの翻訳に対応させた。PCRは、東洋紡社製#KMM-201、KOD One(登録商標)PCR Master Mixを用いて、98℃10秒、58℃5秒、68℃1秒を30サイクル行ってPCR産物を得た。
【0050】
図3によると、このPCR産物を組み込むAAV2のカプシドのプラスミドであるpAAV-2Cap-acceptorを用意した(Azenta Life Sciences社に合成依頼)。このプラスミドは、制限酵素XhoI及びHpaIで処理して直鎖状にした。同様に、上述のPCR産物も、制限酵素XhoI及びHpaIで処理して直鎖状にした。これらを、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(登録商標)(New England Biolabs社製、#E2621)で組み換え、環状にした(以下、「配列付加カプシドプラスミド」という。)。
【0051】
同様に、AAV9のカプシドのプラスミド、pAAV-9Cap-acceptorを用意し(Azenta Life Sciences社に合成依頼)、これにもPCR産物を組み換えて、配列付加カプシドプラスミドとして作製した。
【0052】
その後、当業者に一般的なAAV作製方法と同様に、上述の「カプシド以外プラスミド」、及びAAV2若しくはAAV9の「配列付加カプシドプラスミド」と、アデノウイルス由来のヘルパープラスミド(Agilent Technologies社製)とを、293細胞(ATGC社製)にトランスフェクションし、72時間後にAAVを回収した。これらの作製されたAAVを以下、「ランダム化AAV」という。
【0053】
(候補配列のスクリーニング)
作製されたランダム化AAVは、マウス大動脈平滑筋細胞(ATCC社製、#CRL2797)又はヒト脳小血管平滑筋細胞(Human Brain Vascular Smooth Muscle Cells、ScienceCell Research Laboratories社製、#1100)が捲かれた培地に投与された。
AAVの感染が成立した細胞は、蛍光タンパクであるmCherryを発現する。これを用いて、72時間後にセルソーター(Becton Dickinson社製、BD FACSAria(TM) IIセルソーター)で、mCherry発現細胞を回収した。回収した細胞のDNAを、DNeasy Blood & Tissue Kit(50)(Qiagen社製、#69504)で抽出した。
【0054】
抽出したDNAを鋳型として、配列番号2に示すコレクション(回収)用のFwdプライマー「CAGACGCCGCGGCCCTCGAGCA」と、配列番号4に示すRevプライマー「AGAACGCCTTGTGTGTTAACATCTGCG」とを用いてPCRで増幅した。PCRは、東洋紡、#KMM-201、KOD One(登録商標) PCR Master Mixを用いて、98℃10秒、58℃5秒、68℃1秒を30サイクル行った。
この増幅産物は、上述の例と同様に、XhoIとHpaIにより制限酵素処理した。この上で、
図3のpAAV-2Cap-acceptor又は図示しないAAV9用のpAAV-9Cap-acceptorのプラスミドを、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(登録商標)で組み換えて、環状プラスミドにした。この環状プラスミドは、配列付加カプシドプラスミドの配列でランダム化された配列のいずれかを備えている。
【0055】
この環状プラスミドを精製し、上述と同様にカプシド以外プラスミド及びヘルパープラスミドと供に培養平滑筋細胞に再度、投与し、感染させた。72時間後に回収し、上述と同様に、mCherry発現細胞を回収した。この回収した各mCherry発現細胞について、シークエンス解析を行い(FASMAC社にて外注)、カプシドに付加されたペプチド箇所のDNA配列を確認した。
これらの感染及び回収のサイクルであるスクリーニングを複数回行って、挿入されたペプチドの配列の分布を調べた。以下、1回目のセルソーターでの回収までをスクリーニングの「1回目」、その後の2回目のセルソーターでの回収までを「2回目」、それ以降のスクリーニングを「3回目」、「4回目」……と記載する。
【0056】
〔結果〕
(血管平滑筋指向性AAV実験結果)
図4は、マウス大動脈平滑筋細胞でのスクリーニング結果を示す。
図4(a)は、1回目に回収を行った際に確認したPCR産物を示す写真である。下線と「2」にて示す、DNAマーカーのレーンの左2レーンがAAV2についてのポジティブコントロール、下線と「9」にて示す次の1レーンがAAV9についてのポジティブコントロールである。このポジティブコントロールは、作製された状態のランダム化AAVをPCRしてバンドの発現を調べたものである。
左から次の二レーンが、それぞれ、1回目のスクリーニングでmCherry陽性の細胞を、セルソーターで回収した際のAAV2及びAAV9についてのPCR産物を示す。それぞれ下線と「2」「9」にて示す。セルソーターで回収した後では、AAV2ではバンドが認められたものの、AAV9ではバンドが認められなかった。このため、マウス大動脈平滑筋細胞では、AAV2のみが感染すると考えられた。
【0057】
図4(b)は、マウス大動脈平滑筋細胞への感染と回収を行った際の配列の割合を示すグラフである。培養細胞への感染及び回収を行うスクリーニングのサイクルでは、2回目において、頻度で上位2つの配列が占める割合が増加した。すなわち、回収された細胞のうち、これら上位2つのペプチド配列がカプシドに付加されたAAV2が感染した細胞の割合(頻度)が多かった。具体的には、マウス血管平滑筋細胞によるスクリーニングでは、2回目のスクリーニング時に、上位から頻度順に「RENKLGE」(配列番号5)、「KDTVPRE」(配列番号6)、「TETGKTA」(配列番号7)、「STPAAKE」(配列番号8)、「RNREPTE」(配列番号9)、「ARNGTTE」(配列番号10)、「KDTAERQ」(配列番号11)、「NRGGNQD」(配列番号12)、「NRPDTNS」(配列番号13)、及び「TRATSQE」(配列番号14)となるアミノ酸配列が、野生株AAV2のVP1 587番目及び588番目のアミノ酸の間に付加されることが認められた。
また、スクリーニングのサイクルを続けると、頻度で上位2つの配列の割合は、更に多くなったものの、それ以下の配列の頻度は変化することがあった。
【0058】
図5は、ヒト脳小血管平滑筋細胞でのスクリーニング結果を示す。
図5(a)は、1回目のスクリーニングでmCherry陽性の細胞を、セルソーターで回収した際のAAV2及びAAV9についてのPCR産物を示す写真である。それぞれ、下線と「2」「9」にて示す。上述のマウス大動脈平滑筋細胞と同様に、セルソーターで回収後には、AAV2ではバンドが認められたものの、AAV9ではバンドが認められなかった。このため、ヒト脳小血管平滑筋細胞においても、AAV2のみが感染すると考えられた。
【0059】
図5(b)は、
図4(b)と同様に、ヒト脳小血管平滑筋細胞についての感染と回収を行った際の配列の割合を示すグラフである。このヒト脳小血管平滑筋細胞でのスクリーニングのサイクルでは、1回目から頻度で上位2つの配列が占める割合が多かった。具体的には、ヒト血管平滑筋細胞によるスクリーニングでは、2回目のスクリーニング時に上位から頻度順に、「NRPETNP」(配列番号15)、「SHDPSKE」(配列番号16)、「SEIRRDQ」(配列番号17)、「NRNKHEE」(配列番号18)、「RQDNKME」(配列番号19)、「THPPAPQ」(配列番号20)、「TRGGGSE」(配列番号21)、「TEKQTNS」(配列番号22)、「RVTMGSE」(配列番号23)、「ATKNQNE」(配列番号24)となるアミノ酸配列が、野生株AAV2 VP1 587番目と588番目アミノ酸の間に付加されることが認められた。また、スクリーニングのサイクルを続けると、頻度で上位2つの配列の割合は、更に多くなり、ほぼ支配的になった。
【0060】
以上のように、これらのペプチドのコドンに対応する配列をAAVに人工的に挿入することにより、血管平滑筋に優れた遺伝子導入効率が得られた。
【0061】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明によれば、血液中に存在するAAVベクターを血管平滑筋特異的バイオマーカーとして用いることで、血管平滑筋の早期診断と治療用の医薬の提供が期待でき、産業上利用可能である。