(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025146802
(43)【公開日】2025-10-03
(54)【発明の名称】サーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/04 20060101AFI20250926BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20250926BHJP
【FI】
H01C7/04
C04B35/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025046418
(22)【出願日】2025-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2024047202
(32)【優先日】2024-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】細川 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034BA09
5E034BB01
5E034BC01
5E034DA02
5E034DC01
(57)【要約】
【課題】 サーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法において、Y
2O
3層以外の保護層により高温でも還元による抵抗値変化が小さく、ギ酸リフロー実装時の抵抗値変化を抑制すること。
【解決手段】 サーミスタ用金属酸化物焼結体1であって、一般式:(1-z)(Ma
1-yMb
y)(Cr
1-xMn
x)O
3+zY
2O
3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部2の表面に(Ma,Y)酸化物層3が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタに用いられる金属酸化物焼結体であって、
一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層が形成されていることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載のサーミスタ用金属酸化物焼結体において、
前記(Ma,Y)酸化物層の層厚が、3.8μm以上であることを特徴とするサーミスタ用金属酸化物焼結体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサーミスタ用金属酸化物焼結体と、前記サーミスタ用金属酸化物焼結体の表面に互いに離間して形成された一対の電極とを有することを特徴とするサーミスタ素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法であって、
原料粉末を混合し焼成して、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部を得る焼成工程を備え、
前記焼成工程で、前記原料粉末として、Ma化合物とMb化合物とCr化合物とMn化合物とY2O3とを一括で混合し、粉砕した後に、成型して成型体を作成し、前記成型体を大気中、または酸素分圧20%以上の雰囲気中で焼成し、前記焼成後に室温まで冷却を行い、前記複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成することを特徴とするサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法において、
前記焼成工程で、大気中、または酸素分圧20%以上の雰囲気で焼成温度を1450℃以上とし、焼成時間を5時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として前記焼成を行い、前記複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成することを特徴とするサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車関係等の温度計測に用いられるサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車エンジン周りの触媒温度や排気系温度等を計測する温度センサとして、サーミスタ温度センサが採用されている。このサーミスタ温度センサに用いられるサーミスタ素子は、例えば、上記自動車関連技術、情報機器、通信機器、医療用機器、住宅設備機器等の温度センサとして利用され、大きな負の温度係数を有する酸化物半導体の焼結体の素子を用いている。
【0003】
従来、種々の金属酸化物焼結体からなるサーミスタ素子が用いられているが、代表的な材料として、例えば、特許文献1,2及び非特許文献1に記載されているように、Y(Cr,Mn)O3系ペロブスカイト酸化物が挙げられる。
近年、高温測定可能なサーミスタ素子では、高温での測定に加え、ギ酸リフローによる実装が求められている。しかし、ギ酸リフロー時の低酸素雰囲気により、サーミスタ素子が還元され、サーミスタ特性が不安定になってしまう不都合があった。
【0004】
上記問題を解決する金属酸化物焼結体として、特許文献3には、サーミスタに用いられる金属酸化物焼結体であって、一般式:(1-z)ABO3+zY2O3(ただし、ABO3はペロブスカイト型酸化物、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部の表面に層厚が3μm以上のY2O3層が形成され、前記複合酸化物焼結体部が、一般式:(1-z)Y(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(ただし、0.0≦x≦1.0、0<z≦0.8)で示されるものであるサーミスタ用金属酸化物焼結体が記載されている。
このサーミスタ用金属酸化物焼結体では、複合酸化物焼結体部から酸素が還元によって奪われることを表面の厚いY2O3層が抑制して、抵抗値変化を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3362651号公報
【特許文献2】特許第3776691号公報
【特許文献3】特許第5402553号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】倉野、「NOx触媒制御用触媒温センサの開発」、デンソーテクニカルレビュー、Vol.5、No.2、2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上述したように、特許文献1,2及び非特許文献1に記載されているY(Cr,Mn)O3系ペロブスカイト酸化物では、高温測定時や、ギ酸リフロー時の低酸素雰囲気により、サーミスタ素子が還元され、サーミスタ特性が不安定になってしまう問題があった。
これに対し、上記特許文献3のサーミスタ用金属酸化物焼結体では、表面のY2O3層が保護層となって、一般式:(1-z)Y(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(ただし、0.0≦x≦1.0、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部から酸素が還元によって奪われることを抑制しているが、同様の効果が得られる他の材料で構成された複合酸化物焼結体部及び保護層も要望されており、特に、保護層の密着性が高いものが求められている。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、Y2O3層以外の保護層により、高温でも還元による抵抗値変化が小さく、ギ酸リフロー実装時の信頼性の高いサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ペロブスカイト型酸化物(ABO3)について、鋭意、研究を進めたところ、Y2O3層以外の特定の保護層でも抵抗値変化が抑制されることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0010】
すなわち、第1の発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体は、サーミスタに用いられる金属酸化物焼結体であって、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層が形成されていることを特徴とする。
【0011】
このサーミスタ用金属酸化物焼結体では、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層が形成されているので、複合酸化物焼結体部から酸素が還元によって奪われることを表面の(Ma,Y)酸化物層が保護層として抑制して、抵抗値変化を抑えることができる。
なお、(Ma,Y)酸化物層は、Ma元素とY(イットリウム)元素を含んだ酸化物であることを示す。
【0012】
第2の発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体は、第1の発明において、前記(Ma,Y)酸化物層の層厚が、3.8μm以上であることを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物焼結体では、(Ma,Y)酸化物層の層厚が、3.8μm以上であるので、ギ酸リフロー実装時の抵抗値変化率を0.85%以下に抑えることが可能になる。
【0013】
第3の発明に係るサーミスタ素子は、第1から第2の発明のいずれかのサーミスタ用金属酸化物焼結体と、前記サーミスタ用金属酸化物焼結体の表面に互いに離間して形成された一対の電極とを有することを特徴とする。
【0014】
第4の発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法は、第1から第2の発明のいずれかのサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法であって、原料粉末を混合し焼成して、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部を得る焼成工程を備え、前記焼成工程で、前記原料粉末として、Ma化合物とMb化合物とCr化合物とMn化合物とY2O3を一括で混合し、粉砕した後に、成型して成型体を作成し、前記成型体を大気中、または酸素分圧20%以上の雰囲気中で焼成し、前記焼成後に室温まで冷却を行い、前記複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成することを特徴とする。
【0015】
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法では、焼成工程で、原料粉末として、Ma化合物とMb化合物とCr化合物とMn化合物とY2O3を一括で混合し、粉砕した後に、成型して成型体を作成し、前記成型体を大気中、または酸素分圧20%以上の雰囲気中で焼成し、焼成後に室温まで冷却を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成するので、高い密着性を有した(Ma,Y)酸化物層を得ることができる。
【0016】
第5の発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法は、第4の発明において、前記焼成工程で、大気中、または酸素雰囲気で焼成温度を1450℃以上とし、焼成時間を5時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として前記焼成を行い、前記複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成することを特徴とする。
すなわち、このサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法では、焼成工程で、大気中、または酸素雰囲気で焼成温度を1450℃以上とし、焼成時間を5時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として焼成を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成するので、層厚が3.8μm以上の(Ma,Y)酸化物層を複合酸化物焼結体部の表面に析出させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体及びそのサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法によれば、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層が形成されているので、複合酸化物焼結体部から酸素が還元によって奪われることを表面の(Ma,Y)酸化物層が抑制して、抵抗値変化を抑えて、良好な耐熱性及び耐還元性を得ることができる。
したがって、本発明のサーミスタ素子は、ギ酸リフロー実装可能であり、高温域での経時変化が小さく低温域から高温域までの広範囲で十分な測定精度が得られ、特に自動車エンジン周りの触媒温度や排気系温度を検出する高温測定用センサとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法の一実施形態において、サーミスタ用金属酸化物焼結体の要部断面を模式的に示す図である。
【
図2】本実施形態において、サーミスタ素子を示す正面図である。
【
図3】本実施形態において、酸化物層の厚さ定義を使用した際の測距例を示す図である。
【
図4】本実施形態において、酸化物層形成温度に対する酸化物層の厚さを示すグラフである。
【
図5】本実施形態において、サーミスタ用金属酸化物焼結体を焼成温度1450℃で作製した断面(a)と焼成温度1600℃で作製した断面(b)とを示すSEM画像である。
【
図6】本発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法の実施例において、(Ma,Y)酸化物層の形成温度(焼成温度)に対するギ酸リフロー実装時の抵抗値変化(ΔR)を示すグラフである。
【
図7】本実施形態において、サーミスタ素子の他の例を示す平面図(a)及び正面図(b)である。
【
図8】本実施形態において、サーミスタ素子の他の例を示す平面図(a)及び正面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法の一実施形態を、
図1から
図5を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態のサーミスタ用金属酸化物焼結体1は、サーミスタに用いられる金属酸化物焼結体であって、
図1に示すように、一般式:(1-z)(Ma
1-yMb
y)(Cr
1-xMn
x)O
3+zY
2O
3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部2の表面に(Ma,Y)酸化物層3が形成されている。
また、上記(Ma,Y)酸化物層3の層厚は、3.8μm以上であることが好ましい。なお、上記(Ma,Y)酸化物層3の層厚に上限はないが、厚くなり過ぎると特性のばらつきが大きくなるため、20μm以下程度が好ましい。
また、(Ma,Y)酸化物層3が、更にMbも含んでも構わない。
上記(Ma
1-yMb
y)(Cr
1-xMn
x)O
3は、ペロブスカイト型酸化物である。
なお、
図1において、白丸は(Ma,Y)酸化物結晶粒A、黒丸はペロブスカイト型酸化物の結晶粒Bを模式的に示したものである。
【0021】
また、本実施形態のサーミスタ素子5は、
図2に示すように、直方体形状に形成されたサーミスタ用金属酸化物焼結体1と、サーミスタ用金属酸化物焼結体1の表面に互いに離間して形成された一対の電極1aとを有する。
このサーミスタ素子5の電極1aは、サーミスタ用金属酸化物焼結体1の両端面に形成された一対の端面電極である。
【0022】
このサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法及びこれを用いたサーミスタ素子及びサーミスタ温度センサの製造方法及び構造について、
図2から
図5を参照して以下に説明する。
【0023】
本実施形態のサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法は、原料粉末を混合し焼成して、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部を得る焼成工程を備えている。
上記焼成工程では、原料粉末として、Ma化合物とMb化合物とCr化合物とMn化合物とY2O3を一括で混合し、粉砕した後に、成型して成型体を作成し、その成型体を大気中または酸素分圧20%以上の雰囲気中で焼成し、焼成後に室温まで冷却を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成する。なお、酸素100%の雰囲気でも構わないが、酸素を大気中よりも多くする場合は、酸素分圧50%以上70%以下の雰囲気が好ましい。
特に、上記焼成工程で、大気中、または酸素雰囲気で焼成温度を1450℃以上とし、焼成時間を5時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として焼成を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成することが好ましい。なお、焼成温度の上限は1700℃、焼成時間の上限は20時間、冷却時間の上限は20時間程度である。
【0024】
例えば、MaとしてLaを採用し、MbとしてCaを採用した場合、まず、0.5(La0.8Ca0.2)(Cr0.45Mn0.55)O3+0.5Y2O3になるように、La(OH)3、CaCO3、Cr2O3、MnCO3、Y2O3を秤量し、焼成温度1400℃で10時間加熱してペロブスカイト型酸化物の粉末を作製した。
この粉末を乳鉢で粗粉砕したのち、ボールミル等を用いて、1時間粉砕し乾燥させる。
【0025】
次に、PVA(ポリビニルアルコール、10wt%水溶液)を5wt%加えて混合し、乾燥させて混合仮焼粉とする。この乾燥したものを、断面の一辺が15mmの正方形の型を用いて一軸加圧成型(1000kg/cm2)を行い、成型する。
次に、脱バインダー処理後、大気中で焼成温度を1600℃以上とし、焼成時間を10時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として焼成を行う。
【0026】
次に、焼成したウエハを0.5mm厚に研磨し、0.5mm間隔で切断し、断面の一辺が0.5mmの正方形で、長さ15mmの短冊を作製する。
その後、短冊を大気中で焼成温度を1550℃以上とし、焼成時間を10時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として焼成を行うことで、短冊表面に(La,Y)酸化物層3を厚さ5.8μm形成する。このようにして、本実施形態のサーミスタ用金属酸化物焼結体1を作製する。
【0027】
さらに、この15mmの短冊であるサーミスタ用金属酸化物焼結体1を、1mm間隔で切り出し、両端面にPtペーストを印刷し、1400℃で熱処理することで、
図2に示すように、一対の電極1aを備えたチップタイプのサーミスタ素子5を作製する。
なお、上記チップ状のサーミスタ素子5の角部に対して、バリ取りや面取りを行って角部に丸み(R)を付ける処理を行っても構わない。
【0028】
なお、(Ma,Y)酸化物層3の厚みは以下の手順で計測する。
まず、
図3に示すように、サーミスタ用金属酸化物焼結体の断面を出し、平面方向に2.5μm間隔で50か所、位置決めし、その中央と、辺の中央部とを一致させる。
次に、位置決めした各点で、サーミスタ用金属酸化物焼結体の最表面から内部のサーミスタ粒子(ペロブスカイト型酸化物の粒子)までの距離を測定し、平均化する。
上記サーミスタ粒子までの距離は、SEM-EDXで計測し、各元素のwt%を算出し、Ma/(Ma+Mb+Cr+Mn+Y)の割合が35%以上となる箇所(グレーの粒)までの距離とする。
同じように4辺で計測し、平均化した値を算出する。
【0029】
次に、
図4に示すように、(Ma,Y)酸化物層3を形成していない同組成の金属酸化物焼結体でも同様の手順で値を算出し、その差分を(Ma,Y)酸化物層3の厚みと定義する。
このように算出した(Ma,Y)酸化物層3の厚みは、
図4及び
図5に示すように、SEM像で確認すると、実際の厚みとほぼ一致する。
【0030】
このように本実施形態のサーミスタ用金属酸化物焼結体1では、一般式:(1-z)(Ma1-yMby)(Cr1-xMnx)O3+zY2O3(但し、Maは、Yよりもイオン半径が大きい3価の金属元素の少なくとも1種類以上を示す。また、Mbは、Mg,Ca,Sr及びBaの少なくとも1種類以上を示す。0.0≦x≦1.0、0.0<y<0.5、0<z≦0.8)で示される複合酸化物焼結体部2の表面に(Ma,Y)酸化物層3が形成されているので、複合酸化物焼結体部2から酸素が還元によって奪われることを表面の(Ma,Y)酸化物層3が保護層として抑制して、抵抗値変化を抑えることができる。
【0031】
特に、(Ma,Y)酸化物層3の層厚が、3.8μm以上であることで抵抗値変化率を0.85%以下に抑えることが可能になる。
なお、(Ma,Y)酸化物層3の層厚を3.8μm以上としたのは、3.8μm未満であると、(Ma,Y)酸化物層3による上記抑制の効果が十分に発揮されないためである。また、(Ma,Y)酸化物層3の層厚は、10μm以下とすることが好ましい。これは、(Ma,Y)酸化物層3の層厚が、10μmを超えても上記抑制の効果がほとんど変わらないためであり、必要以上に焼成時間等が長くなることを防ぎ、生産効率を低下させないためである。
【0032】
また、本実施形態のサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法では、焼成工程で、原料粉末として、Ma化合物とMb化合物とCr化合物とMn化合物とを一括で混合し、粉砕した後に、成型し、その成型体を大気中、または酸素雰囲気で焼成し、焼成後に室温まで冷却を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成するので、高い密着性を有した(Ma,Y)酸化物層を得ることができる。
特に、上記焼成工程で、大気中で焼成温度を1450℃以上とし、焼成時間を5時間以上とし、焼成後の室温までの冷却時間を6時間以上として焼成を行い、複合酸化物焼結体部の表面に(Ma,Y)酸化物層を形成するので、層厚が3.8μm以上の(Ma,Y)酸化物層を複合酸化物焼結体部の表面に析出させることができる。
【実施例0033】
次に、本発明に係るサーミスタ用金属酸化物焼結体及びサーミスタ素子並びにサーミスタ用金属酸化物焼結体の製造方法を、実際に作製した実施例により評価した結果を、
図6を参照して具体的に説明する。
【0034】
<実施例1>
上記実施形態で具体的に記載した製法で作製し、複合酸化物焼結体部が0.5(La0.8Ca0.2)(Cr0.45Mn0.55)O3+0.5Y2O3になり、(Ma,Y)酸化物層を(La,Y)酸化物層としたサーミスタ用金属酸化物焼結体を、本発明の実施例1とする。
<実施例2>
組成比を0.5(Pr0.8Ca0.2)(Cr0.45Mn0.55)O3+0.5Y2O3になるように、原料をPr2(CO3)3、CaCO3、Cr2O3、MnCO3、(Ma,Y)酸化物層を(Pr,Y)酸化物層とした以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例2とした。
<実施例3>
実施例1の組成比の原料を混合し、グリーンシート法にて焼結後の厚みが1mmになるようにサーミスタシートを形成した。その後、Ptの端面電極を印刷し、0.5mm間隔でカットし、1600℃で10時間焼成した以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例3とした。
<実施例4>
上記実施例1の組成比の原料を混合し、押し出し法にて、短冊を形成し、その後、短冊を焼成し、ダイシングを行い、チップ形状にする。その後、切断した端面にPtの端面電極を印刷し、電極を焼き付ける。短冊の焼成を1600℃で10時間焼成した以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例4とした。
【0035】
<実施例5>
組成比を0.5(Nd0.8Ca0.2)(Cr0.45Mn0.55)O3+0.5Y2O3になるように、原料をNd2O3、CaCO3、Cr2O3、MnCO3、(Ma,Y)酸化物層を(Nd,Y)酸化物層とした以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例5とした。
<実施例6>
上記実施例1において短冊の熱処理温度を1450℃で実施し、表面に(La,Y)酸化物層の(Ma,Y)酸化物層を3.8μm形成した以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例6とした。
<実施例7>
上記実施例1の組成比の原料を混合し、グリーンシート法にて焼結後の厚みが0.2mmになるようにサーミスタシートを形成した。その後、Ptの端面電極を印刷し、1.5mm間隔でカットし、1600℃で10時間焼成した以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の実施例7とした。
<比較例1>
上記実施例1において短冊の1550℃熱処理工程を省き、表面に(La,Y)酸化物層の(Ma,Y)酸化物層を形成しない以外は、実施例1と同様に作製したものを、本発明の比較例1とした。
【0036】
これらの実施例及び比較例について、25℃における初期の抵抗値を測定後、ギ酸5%300℃2分間のギ酸リフローを実施した際の抵抗値の変化率をΔRとした。
この結果を表1及び
図6に示す。
この結果から分かるように、(Ma,Y)酸化物層を形成しない比較例1では、抵抗値変化が2.62%と大きいのに対し、(Ma,Y)酸化物層を形成している本発明の各実施例は、いずれも0.85%以下と小さく抑えられている。
すなわち、本発明の各実施例では、いずれも焼成温度1450℃以上、焼成時間5時間以上、かつ冷却時間6時間以上で作製しており、(Ma,Y)酸化物層が3.8μm以上析出されている。特に、焼成温度1550℃以上で作製した実施例では、(Ma,Y)酸化物層が5.7μm以上析出されており、抵抗値上昇率が比較例に比べて大幅に低減され、0.22%以下となっている。
【0037】
【0038】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0039】
例えば、上記実施形態では、サーミスタ素子の一対の電極が、チップ状のサーミスタ用金属酸化物焼結体の両端面に形成された一対の端面電極であるが、
図7及び
図8に示すように、サーミスタ素子の一対の電極を、サーミスタ用金属酸化物焼結体の端面以外の表面に互いに離間した一対の電極としても構わない。
すなわち、
図7に示すように、板状又はフレーク状に形成したサーミスタ用金属酸化物焼結体1の上下面に互いに対向した一対の電極1aを形成したサーミスタ素子5Aとしても良い。
また、
図8に示すように、板状又はフレーク状に形成したサーミスタ用金属酸化物焼結体1の上下面の一方だけに、互いに離間した一対の電極1aをパターン形成したサーミスタ素子5Bとしても構わない。
なお、この一対の電極1aを、互いに対向状態に配されて交互に櫛部が並んだ櫛型パターンの電極としても構わない。