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特開2025-14719シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム
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  • 特開-シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014719
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20250123BHJP
【FI】
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117500
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】門井 優文
(72)【発明者】
【氏名】徳田 茂史
(72)【発明者】
【氏名】松本 健介
(72)【発明者】
【氏名】伴 拓実
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】ショウ アンビ
(72)【発明者】
【氏名】加賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 謙太
(72)【発明者】
【氏名】山内 慎祐
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】複数の作業員による複数の作業が協調して実施される作業ラインにおいて、これらの作業員の間の人間関係を考慮して、作業ライン全体での作業効率を高める。
【解決手段】デジタルツインシミュレーションが行われる。このシミュレーションでは、。複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルが計算される。また、この2人の作業員の間の人間関係のレベルと、現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータと、に基づいて、デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンが探索される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現実空間の作業ラインに配置される複数の作業員に関するデータが格納されたデータベースと、
前記現実空間の作業ラインでの作業計画のデータと、前記データベースに格納されたデータと、に基づいて、前記現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインに関するシミュレーションを行うプロセッサと、
を備え、
前記データベースに格納された前記複数の作業員に関するデータは、前記複数の作業員の個人属性に関するデータと、前記個人属性に関するデータに基づいて計算されるデータであって前記複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルに関するデータと、を含み、
前記現実空間の作業ラインでの作業計画のデータは、前記現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータを含み、
前記プロセッサは、前記シミュレーションにおいて、
前記実施予定の作業の作業内容のデータと、前記2人の作業員の間の人間関係のレベルに関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンを探索する
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項2】
前記データベースに格納された前記複数の作業員に関するデータは、前記複数の作業員の個人特性に関するデータを更に含み、
前記2人の作業員の間の人間関係のレベルが、前記個人属性に関するデータと、前記個人特性に関するデータと、に基づいて計算される
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項3】
前記実施予定の作業の作業内容のデータは、前記2人の作業員によりそれぞれ実施される作業内容の関連性のレベルのデータを含み、
前記プロセッサは、前記シミュレーションにおいて、更に、
前記関連性のレベルのデータに基づいて、前記実施予定の作業において要求される人間関係のレベルを前記実施予定の作業ごとに設定し、
前記シミュレーションにおいて、前記作業員の割り当てパターンの探索が、前記2人の作業員の間の人間関係のレベルと、前記実施予定の作業において要求される人間関係のレベルと、に基づいて行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、更に、前記現実空間の作業ラインに作業員を配置する人員配置処理を更に行い、
前記プロセッサは、前記人員配置処理において、
前記シミュレーションによる探索結果を用いた前記現実空間の作業ラインに配置予定の作業員のスケジュールのデータの参照により、前記現実空間の作業ラインに配置する複数の作業員を選出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項5】
前記シミュレーションによる探索結果に前記基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンが2パターン以上含まれる場合、前記人員配置処理において、前記作業ライン全体での作業効率が高い作業員の割り当てパターンから順番に、前記配置予定の作業員のスケジュールのデータを用いた参照が行われる
ことを特徴とする請求項4に記載のシミュレーションシステム。
【請求項6】
現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションをコンピュータに行わせるシミュレーションプログラムであって、
前記シミュレーションでは、
前記現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータと、前記現実空間の作業ラインに配置される複数の作業員の個人属性に関するデータに基づいて計算されるデータであって前記複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルのデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンが探索される
ことを特徴とするシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業ラインに関するシミュレーションを行うシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-57176号公報は、ビル設備の保全、修理等のサービスの作業スケジュールを作成するシステムを開示する。この従来のシステムは、サービスを担当する作業員による他の作業員に対する評価データに基づいて、作業員の間の人間関係上の相性データを生成する。作業スケジュールは、この相性データに基づいて作成される。具体的に、あるサービスに従事する作業者と相性の良い作業者が組み合わせとなるように作業スケジュールが生成される。
【0003】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特開2020-57176号公報の他に、国際公開第2014/083656号を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-57176号公報
【特許文献2】国際公開第2014/083656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシステムにおいて、評価データの生成は、作業者が情報端末に他の作業員に対する評価を入力することにより行われる。そのため、他の作業員に対する評価が入力されない場合は、評価データの生成が行われず、相性データの生成も行われない。また、他の作業員に対する評価は、評価者の主観的なものなる傾向がある。そのため、実は相性が良い作業者同士の組み合わせであるにも関わらず、この組み合わせが含まれる作業スケジュールが作成されるのを妨げている可能性もある。
【0006】
特に、複数の作業員による複数の作業が協調して実施される作業ラインでは、これらの作業員の間の人間関係による作業効率の上昇又は低下が、作業ライン全体での作業効率に影響する。従って、この観点からの開発の余地がある。
【0007】
本開示の1つの目的は、複数の作業員による複数の作業が協調して実施される作業ラインにおいて、これらの作業員の間の人間関係を考慮して、作業ライン全体での作業効率を高めることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の観点は、シミュレーションシステムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションシステムは、データベースと、プロセッサとを備える。前記データベースには、現実空間の作業ラインに配置される複数の作業員に関するデータが格納される。前記プロセッサは、前記現実空間の作業ラインでの作業計画のデータと、前記データベースに格納されたデータと、に基づいて、前記現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインに関するシミュレーションを行う。
前記データベースに格納された前記複数の作業員に関するデータは、前記複数の作業員の個人属性に関するデータと、前記個人属性に関するデータに基づいて計算されるデータであって前記複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルに関するデータと、を含む。
前記現実空間の作業ラインでの作業計画のデータは、前記現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータを含む。
前記プロセッサは、前記シミュレーションにおいて、前記実施予定の作業の作業内容のデータと、前記2人の作業員の間の人間関係のレベルに関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンを探索する。
【0009】
本開示の第2の観点は、シミュレーションプログラムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションプログラムは、現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションをコンピュータに行わせる。
前記シミュレーションでは、前記現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータと、前記現実空間の作業ラインに配置される複数の作業員の個人属性に関するデータに基づいて計算されるデータであって前記複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルのデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンが探索される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインに関するシミュレーションが行われる。このシミュレーションでは、複数の作業員に含まれる2人の作業員の間の人間関係のレベルが計算される。また、この2人の作業員の間の人間関係のレベルと、現実空間の作業ラインで実施予定の作業の作業内容のデータと、に基づいて、デジタル空間の作業ライン全体での作業効率が目標値以上となる基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンが探索される。基準条件が満たされる作業員の割り当てパターンによれば、この割り当てパターンに基づいて現実空間の作業ラインを稼働したときに、当該作業ライン全体での作業効率が高まることが期待される。故に、本開示によれば、複数の作業が協調して実施される作業ラインにおいて、これらの作業員の間の人間関係を考慮して、作業ライン全体での作業効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態が適用される作業ラインの例を説明する図である。
図2】作業員の作業効率に関する指標の計算例を説明する図である。
図3】実施形態に係るシミュレーションの概要を説明する図である。
図4】実施形態に係るシミュレーションシステムの構成例を説明する図である。
図5】作業員データの構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。尚、各図において、同一又は相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化し又は省略する。
【0013】
1.作業ライン
図1は、本開示の実施形態が適用される作業ラインの例を説明する図である。図1に描かれる作業ラインWLは、製品の生産、保管、包装といった各種の作業を協調して実施するためにライン化されたものである。作業ラインWLは、製品を大量生産する工場の敷地内、製品やその原材料を保管し又は製品をパッキングして出荷する物流倉庫の敷地内、商品の入荷、検品、保管、ピッキング、パッキング、出荷などを行う物流センタの敷地内に設けられる。
【0014】
作業ラインWLには複数の作業員が配置されている。これらの作業員は、作業ラインWLで協調して実施される各種作業に携わる。図1に示される作業員WK1、WK2、WK3及びWK4は、作業ラインWLに配置される複数の作業員の一例である。作業員WK1及びWK2は、作業内容WC1の作業に携わる。作業員WK3は作業内容WC2の作業に携わり、作業員WK4は作業内容WC3の作業に携わる。以下、説明の便宜上、複数の作業員のうちの何れか1人について言及する場合は「作業員WKx」とも称す。
【0015】
図1には、また、作業員WKxの個人属性ATが示されている。個人属性ATは、作業ラインWLを管理する組織における作業員WKxの役職、勤続年数、雇用形態といった公的な属性と、年齢、性別、家族構成、自宅住所、出身地といった私的な属性とを含む属性化要素を用いて決定される。図1に示される例では、作業員WK1の個人属性ATはAT1であり、作業員WK2の個人属性ATはAT2であり、作業員WK3の個人属性ATはAT3である。作業員WK4の個人属性ATは作業員WK2のそれと同じである。
【0016】
図1には、更に、人間関係レベルRLxyが示されている。人間関係レベルRLxyは、作業員WKxと、他の作業員WKx(以下、「作業員WKy」とも称す。)との間の人間関係Rxyのレベルを表す。以下、人間関係Rxyを単に「関係Rxy」と称し、人間関係レベルRLxyを単に「関係レベルRLxy」とも称す。
【0017】
例えば、作業員WKxと作業員WKyの関係Rxyが良好と認められる関係にあるほど、関係レベルRLxyが高い値を示す。関係Rxyが良好と認められる関係であるとは、現在において良好と認められる関係でもよいし、将来において良好となることが見込まれる関係でもよい。図1に示される例では、関係レベルRLxyが3段階で分けられている。作業員WKxが作業員WK1のとき(つまり、x=1)の関係レベルRL1yは、RL12=3(y=2)、RL13=2(y=3)及びRL14=1(y=4)である。
【0018】
図1には、また、作業員WKxが作業員WK2のとき(つまり、x=2)の関係レベルRL2y、作業員WKxが作業員WK3のとき(つまり、x=3)の関係レベルRL3y、及び、作業員WKxが作業員WK4のとき(つまり、x=4)の関係レベルRL4yがそれぞれ3段階で示されている。尚、作業員WKxと作業員WKyの間の関係レベルRLxyの値は、(x,y)=(1,2)と(x,y)=(2,1)の間で等しい。つまり、xの数値とyの数値を入れ替えた場合、入れ替え前の関係レベルRLxyの値と、入れ替え後のそれとは等しくなる。
【0019】
2.実施形態の特徴
実施形態では、デジタル空間を用いたシミュレーション(以下、「デジタルツインシミュレーション」又は「DTS」とも称す。)が実施される。このデジタル空間は、図1で説明した作業ラインWLが設けられる現実空間に基づいて再現されたものである。DTSでは、このデジタル空間において、現実空間の作業ラインWLで実施される各種の作業と同じ各種の作業が実施され、作業ラインWLにおける将来の状態が予測される。この将来の状態には、作業ラインWL全体での作業効率WE_WWLが含まれる。
【0020】
作業効率WE_WWLに影響を及ぼす因子としては、作業員WKxの作業効率WE_WKxが想定される。また、この作業効率WE_WKxに影響を及ぼす因子には、作業員WKxが携わる作業の作業内容WC_WKx、関係Rxyなどが想定される。例えば、作業内容WC_WKxと、作業員WKyが携わる作業の作業内容WC_WKyとの間に関連がある場合、関係Rxyが作業効率WE_WKxに影響を及ぼす。作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がある場合としては、これらの作業内容WCが同一である場合が例示される。別の例としては、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyは異なるものの、一方の作業内容WCの実施の直後に他方の作業内容WCが実施されるといった、これらの作業内容WCの連続的な実施が認められる場合が挙げられる。
【0021】
実施形態に係るDTSでは、作業効率WE_WKxに影響を及ぼすこれらの因子に着目し、作業効率WE_WKxに関する指標IN_WE_WKxが計算される。そして、この指標IN_WE_WKxを用いて作業効率WE_WWLが計算される。
【0022】
図2は、指標IN_WE_WKxの計算例を説明する図である。図2には、作業員WKx(但し、この作業員WKxは、作業員WK1-WK4以外の作業員)と、作業員WKyとの間の関係レベルRLxyの一例が示されている。関係レベルRLxyは、例えば、作業員WKxの個人属性ATと、作業員WKyの個人属性ATとを変数とする計算式に基づいて算出される。指標IN_WE_WKxの計算は、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がある場合と、そうでない場合とで異なる。前者の場合、指標IN_WE_WKxの計算の変数に関係レベルRLxyが用いられる。
【0023】
具体的に、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がない場合は、作業効率WE_WKxと相関を有し、かつ、その程度を数値で表すことができる変数PR(例えば、作業員WKyの疲労度、集中度、覚醒度など)を用いた計算により、指標IN_WE_WKxが算出される(IN_WE_WKx=f(PR))。一方、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がある場合は、この計算の変数PRに、個人属性ATに基づいて計算された関係レベルRLxyが追加される。
【0024】
図3は、実施形態に係るDTSの概要を説明する図である。図3に示されるように、実施形態に係るDTSでは、作業ラインWLで協調して実施される複数の作業のそれぞれに対し、作業員WKxが割り当てられる。複数の作業は、何れかの作業内容WCを有している。そのため、複数の作業のそれぞれに対する作業員WKxの割り当てが行われるということは、何れかの作業内容WCに作業員WKxを振り分けることを意味する。
【0025】
全ての作業に作業員WKxが割り当てられると、指標IN_WE_WKxが計算される。そうすると、計算された指標IN_WE_WKxに基づいて、作業効率WE_WWLが計算できる。作業効率WE_WWLの計算は、例えば、計算された指標IN_WE_WKxを変数とする計算式を用いて行われる(WE_WWL=f(IN_WE_WKx))。
【0026】
実施形態に係るDTSでは、更に、複数の作業に対する作業員WKxの割り当てが、想定される全てのパターン(作業員WKxの割り当てパターン)APに対して行われる(AP1-APn)。図3に示される例では、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連があると仮定して、指標IN_WE_WKxが全てのパターンAPについて計算されている。また、作業効率WE_WWLの計算も全てのパターンAPについて計算されている(WE_WWL_AP1-WE_WWL_APn)。
【0027】
全てのパターンAPについて作業効率WE_WWLが計算されたら、下記の基準条件を用いてこれらの作業効率WE_WWLを選別する。
基準条件:作業効率WE_WWLが目標値TG以上である
これにより、基準条件が満たされるパターンAPが特定される。尚、目標値TGには、作業ラインWLでの作業計画WPに基づいて別途設定されたものが適用される。
【0028】
実施形態に係るDTSでは、このような基準条件が満たされるパターンAPを特定するための探索が行われる。探索の結果、基準条件が満たされるパターンAPが特定できた場合、このパターンAPを参照して現実空間の作業ラインWLを稼働すれば、この作業ラインWL全体での作業効率WE_WWLが高まることが期待される。
【0029】
実施形態では、また、DTSにより特定されたパターンAPを参照して現実空間の作業ラインWLを稼働するため、DTSによる探索の結果を用いて、現実空間の作業ラインWLに作業員WKxを配置する「人員配置処理」が行われる。人員配置処理の詳細については後述される。
【0030】
3.実施形態の別の特徴
実施形態では、関係レベルRLxyの計算の変数には、作業員WKxの個人属性AT及び作業員WKyの個人属性ATに加えて、作業員WKxの個人特性TA及び作業員WKyの個人特性TAが用いられてもよい。個人特性TAは、例えば、複数の作業員に対するアンケートを通じて得られる性格、社会性といった特性化要素を用いて決定される。性格としては、思索型、活動型、努力型、積極型、自閉型などが例示される。社会性としては、積極性、協調性、責任感、自己信頼性、指導性、共感性、感情安定性、従順性、モラトリアム傾向などが例示される。
【0031】
図1で説明した個人属性ATが客観的な要素に基づいて決定されるのに対し、個人特性TAは、主観的な要素に基づいて決定される。また、個人属性ATの決定に必要な情報の収集は比較的容易であるのに対し、個人特性TAの決定に必要な情報の収集には時間を要する。何故なら、関係Rxyが構築されるには一定の時間が必要であり、この一定の時間が経過するまでは関係Rxyに関する情報の信頼性が低いと考えられるためである。このような理由から、実施形態では、個人属性ATを関係レベルRLxyの計算に必須の変数として用い、個人属性ATを任意の変数として用いている。但し、個人属性ATの決定に必要な情報が十分に収集された後は、関係レベルRLxyの計算の変数に個人特性TAを用いることで、この関係レベルRLxyの計算の精度が高まることが期待される。
【0032】
実施形態では、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がある場合、指標IN_WE_WKxの計算の変数PRに関係レベルRLxyが用いられる。詳細は後述するが、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyは、作業ラインWLの作業計画に基づいて特定される。また、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連があるか否かの判定も、この作業計画に基づいて行われる。このように、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間の関連性は作業計画に基づいて容易に判断されることから、その関連性のレベルを数値化(データ化)してもよい。
【0033】
作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間の関連性のレベルとしては、一定レベルの関係Rxyが要求される作業のレベル(中レベル)、一定レベル以上の関係Rxyが要求される作業のレベル(高レベル)、及び、一定レベル未満の人間関係でも可能な作業のレベル(低レベル)が例示される。実施形態では、このような関連性のレベルに基づいて、作業内容WC_WKxの作業において要求される関係Rxyのレベルが設定されてもよい。以下、説明の便宜上、作業内容WC_WKxの作業において要求される関係Rxyのレベルを「要求レベルRLRxy」とも称す。
【0034】
図3の例の説明では、作業ラインWLで協調して実施される複数の作業のそれぞれに対し、作業員WKxが割り当てられた。しかしながら、この割り当て方式では、割り当てパターンAPの総数が膨大となることが予想される。この点、要求レベルRLRxyが設定されれば、この要求レベルRLRxyに基づいた下記の絞り込み条件を用いることで、割り当てパターンAPの総数を減らすことができる。このことは、DTSの処理負荷の軽減に繋がる。
絞り込み条件:作業内容WC_WKxの作業に作業員WKxを割り当てる場合は、この作業員WKxとの間の人間関係レベルLRxyが要求レベルRLRxy以上である作業員WKyを、作業内容WC_WKyの作業に割り当てる
【0035】
3.構成例
3-1.システム構成例
図4は、実施形態に係るシステムの構成例を説明する図である。図4に示されるシミュレーションシステム1は、作業ラインWLが設けられる実工場2内の現実空間を再現したデジタル空間を用いたシミュレーション(つまり、デジタルツインシミュレーション)を行うための構成として、データベース11と、データ処理装置12と、を備えている。
【0036】
データベース11は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリの内部に形成される。図4に示される例では、データベース11は、2種類のデータベース11a及び11bを含んでいる。データベース11aには、関係レベルデータDRLが格納されている。データベース11bには、作業員データDWKが格納されている。
【0037】
関係レベルデータDRLは、関係レベルRLxyに関するデータを表す。既述したように、関係レベルRLxyは、作業員WKxと作業員WKyの間の関係Rxyのレベルを表す。また、既述したように、関係レベルRLxyの計算は、例えば、作業員WKxの個人属性ATと、作業員WKyの個人属性ATとを変数とする計算式に基づいて算出される。関係レベルRLxyは、作業ラインWLに配置される複数の作業員の全員について計算されている。関係レベルRLxyは、例えば、作業員WKxの個人属性ATの更新の都度に計算される。関係レベルRLxyの計算に個人特性TAが用いられる場合は、個人特性TAの更新の都度、関係レベルRLxyが計算されてもよい。
【0038】
作業員データDWKは、作業ラインWLに配置される複数の作業員に関するデータを表す。作業員データDWKは、作業員WKxに関するデータの集合でもある。図5は、作業員データDWKの構成例を説明する図である。図5に示される例では、作業員データDWKが、識別データDIDと、個人属性データDATと、個人特性データDTAと、作業履歴データDWHと、スケジュールデータDSCと、を含んでいる。
【0039】
識別データDIDは、作業員WKxを識別するためのデータを表す。個人属性データDATは、作業員WKxの個人属性ATに関するデータを表す。既述したように、個人属性ATは、作業ラインWLを管理する組織における作業員WKxの役職、勤続年数、雇用形態といった公的な属性と、年齢、性別、家族構成、自宅住所、出身地といった私的な属性とを含む属性化要素を用いて決定される。個人特性データDTAは、作業員WKxの個人特性TAに関するデータを表す。既述したように、個人特性TAは、複数の作業員に対するアンケートを通じて得られる性格、社会性といった特性化要素を用いて決定される。
【0040】
作業履歴データDWHは、作業員WKxの作業履歴に関するデータを表す。図5に示される例では、作業履歴データDWHが、作業内容データWC_Hと、作業時間データWT_Hと、バイタルデータVT_Hと、を含んでいる。
【0041】
作業内容データWC_Hは、作業員WKxが従事した作業内容WCの作業の履歴データを表す。作業時間データWT_Hは、作業員WKxが作業内容WCの作業に従事した時間の履歴データを表す。作業時間データWT_Hは、作業内容WCごとに生成される。バイタルデータVT_Hは、作業員WKxの脈拍、血圧、体温といった身体状況に関するデータを表す。バイタルデータVT_Hは、例えば、作業員WKxが着用する計測具から取得される。作業時間データWT_Hと同じく、バイタルデータVT_Hは、作業内容WCごとに生成される。
【0042】
スケジュールデータDSCは、作業員WKxのスケジュールSCに関するデータを表す。作業員WKxのスケジュールSCは、例えば、作業員WKxの一定期間(例えば、1日、1週間、1ヶ月)の勤務スケジュールである。勤務スケジュールには、作業ラインWLへの配置予定の時間帯、作業ラインWLでの作業内容WC以外の業務に従事する予定の時間帯、休憩予定の時間帯などの情報が含まれている。
【0043】
データ処理装置12は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つの記憶装置とを含むコンピュータである。少なくとも1つのプロセッサは、CPU(Central Processing Unit)を含む。少なくとも1つの記憶装置には、関係レベルRLxyの計算処理、DTS、人員配置処理、及びその他のデータ処理を実行するためのプログラムが格納されている。これらのプログラムは、データ処理装置12が読み取り可能な記録媒体に格納されていてもよい。
【0044】
3-2.データ処理装置の機能構成例
図4には、データ処理装置12が有する機能として、関係レベル計算部12aと、シミュレーション部12bと、人員配置処理部12cとが描かれている。これらの機能は、データ処理装置12のプロセッサが、データ処理装置12の記憶装置に格納された各種プログラムを実行することにより実現される。
【0045】
関係レベル計算部12aは、関係レベルRLxyの計算処理を行う。この計算処理では、データベース11bに格納された作業員データDWK(具体的には、個人属性データDAT)に基づいて、関係レベルRLxyが計算される。既述したように、関係レベルRLxyは、例えば、作業員WKxの個人属性ATと、作業員WKyの個人属性ATとを変数とする計算式に基づいて算出される。計算処理では、データベース11bに格納された作業員データDWK(具体的には、個人属性データDATと個人特性データDTA)に基づいて、関係レベルRLxyが計算されてもよい。
【0046】
シミュレーション部12bは、DTSを行う。このDTSでは、まず、作業ラインWLで実施中の複数の作業のそれぞれに対し、作業員WKxが割り当てられる。作業ラインWLで実施予定の複数の作業のそれぞれに対し、作業員WKxが割り当てられてもよい。
【0047】
作業ラインWLで実施中の複数の作業の作業内容WC、及び、作業ラインWLで実施予定の複数の作業の作業内容WCは、作業ラインWLの作業計画データDWPから特定される。ここで、作業計画データDWPは、例えば、実工場2が備えるコンピュータにより別途設定される。作業計画データDWPは、例えば、作業ラインWLで実施中の(又は実施が予定されている)作業内容WC_Pのデータと、この作業内容WC_Pの作業を実施する(又は実施が予定されている)時間WT_Pのデータと、を含んでいる。そのため、作業内容WC_Pのデータを参照することで、複数の作業の作業内容WC(つまり、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKy)が特定される。
【0048】
複数の作業のそれぞれに対して作業員WKが割り当てられたら、この割り当てパターンAPにおける指標IN_WE_WKxが計算される。更に、この指標IN_WE_WKxに基づいて、作業効率WE_WWLが計算される。既述したように、指標IN_WE_WKxの計算は、変数PR(例えば、作業員WKyの疲労度、集中度、覚醒度など)を用いて行われる。作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間に関連がある場合は、この計算の変数PRに関係レベルRLxyが追加される。尚、関係レベルRLxyは、作業員WKxと作業員WKyを用いたデータベース11aの参照により特定される。
【0049】
指標IN_WE_WKxの計算と、この指標IN_WE_WKxに基づいた作業効率WE_WWLの計算とは、想定される全ての割り当てパターンAPに対して行われる。全てのパターンAPについて作業効率WE_WWLが計算されたら、上記の基準条件を用いてこれらの作業効率WE_WWLが選別される。このように、DTSでは、上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが探索される。尚、上記の基準条件を用いた選別の結果、上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが2パターン以上残ることもある。この場合は、これらのパターンAPを選別し、かつ、作業効率WE_WWLのスコアが高い順にこれらのパターンAPを並べておくことが本開示の目的に沿うため望ましい。
【0050】
作業内容WC_Pのデータを参照することで、複数の作業の作業内容WC(つまり、作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKy)が特定されることから、想定される全ての割り当てパターンAPについて指標IN_WE_WKxの計算を行う前に、これらの割り当てパターンAPの絞り込みを行ってもよい。具体的には、作業内容WC_Pのデータを参照することで特定される作業内容WC_WKxと作業内容WC_WKyの間の関連性のレベルに基づいて、要求レベルRLRxyが設定されてもよい。そして、この要求レベルRLRxyを上記の絞り込み条件に適用する。これにより、要求レベルRLRxy未満の関係レベルRLxyを有する作業員WKxと作業員WKyの割り当てパターンAPが除外されるので、割り当てパターンAPの総数を減らすことができる。
【0051】
人員配置処理部12cは、現実空間の作業ラインWLに作業員を配置する人員配置処理を行う。人員配置処理では、DTSによる探索結果を参照して、作業ラインWLで実施予定の複数の作業のそれぞれに対して割り当てられる作業員WKxの候補WKx_Cが選出される。これにより、候補WKx_Cの提案が行われる。この提案の採用の判断は、例えば、現実空間の作業ラインWLの責任者によって行われる。
【0052】
作業ラインWLで実施予定の複数の作業は、作業ラインWLの作業計画データDWPから特定される。既述したように、作業計画データDWPは、作業ラインWLで実施が予定されている作業内容WC_Pのデータと、この作業内容WC_Pの作業の実施が予定されている時間WT_Pのデータとを含んでいる。そのため、作業内容WC_Pのデータを参照することで、実施予定の複数の作業と、これらの作業の作業内容WCとが特定される。
【0053】
作業ラインWLで実施予定の複数の作業と、これらの作業の作業内容WCが特定されたら、候補WKx_Cが特定される。例えば、作業計画データDWPに含まれる時間WT_Pのデータと、スケジュールデータDSCとが参照されて、作業ラインWLへの配置予定の時間帯が時間WT_Pの時間帯と重複する候補WKx_Cが特定される。この段階で特定される候補WKx_Cの人数は、通常2人以上である。
【0054】
候補WKx_Cが特定されたら、この候補WKx_Cと、DTSによる探索結果とが参照される。DTSによる探索によれば、上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが選別されている。そのため、この割り当てパターンAPを構成する作業員WKxがスケジュールデータDSCを参照して特定された候補WKx_Cに含まれていれば、当該作業員WKxが候補WKx_Cとして特定される。
【0055】
上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが2パターン以上ある場合は、作業効率WE_WWLのスコアが高い割り当てパターンAPから順番に、スケジュールデータDSCの参照が行われる。そのため、例えば、作業効率WE_WWLが最も高い割り当てパターンAPを構成する一部又は全部の作業員WKxの勤務スケジュールが作業ラインWLの作業計画と合わない場合に、作業効率WE_WWLが2番目に高い割り当てパターンAPの検討を行うことが可能となる。このような順番で参照が行われることで、候補WKx_Cの選出ができない状況となるのを抑えることが可能となる。同時に、作業効率WE_WWLのスコアのより高い割り当てパターンAPに基づいて、候補WKx_Cを選出することが可能となる。
【0056】
上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが1パターンしか無い場合において、この割り当てパターンAPを構成する一部の作業員WKxの勤務スケジュールが作業ラインWLの作業計画と合わないときは、割り当てパターンAPを構成する複数の作業員の個人属性ATに関するデータ(つまり、個人属性データDAT)を参照してもよい。個人属性データDATを参照することで、作業ラインWLの作業計画と合わない作業員WKxの個人属性ATと同じ個人属性ATを有し、かつ、作業ラインWLの作業計画と合う勤務スケジュールを有する別の作業員WKxを候補WKx_Cとして特定することが可能となる。尚、個人属性データDATは、データベース11bに格納されている。
【0057】
上記の基準条件が満たされる作業効率WE_WWLに対応する割り当てパターンAPが2パターン以上ある場合にも、上述した個人属性データDATの参照を行ってもよい。例えば、作業効率WE_WWLのスコアが最も高い割り当てパターンAPのグループCGを構成する一部又は全部の作業員WKxの勤務スケジュールが作業ラインWLの作業計画と合わない場合に、個人属性データDATを参照する。これにより、作業計画と合わない作業員WKxの個人属性ATと同じ個人属性ATを有し、かつ、作業ラインWLの作業計画と合う勤務スケジュールを有する別の作業員WKxを候補WKx_Cとして特定することが可能となる。
【0058】
4.効果
以上説明した実施形態によれば、DTSにおいて基準条件が満たされるときの割り当てパターンAPを特定することが可能となる。そして、この特定された割り当てパターンAPを参照して現実空間の作業ラインWLを稼働すれば、この作業ラインWL全体での作業効率WE_WWLが高まることが期待される。
【符号の説明】
【0059】
1…シミュレーションシステム、2…実工場、11…データベース、12…データ処理装置、AT,AT1-AT3…個人属性、AP,AP1-APn…割り当てパターン、TA…個人特性、WC,WC1-WC3…作業内容、WK1-WK4,WMx…作業員、WL…作業ライン、WT…作業時間、WE_WKx…作業員WKxの作業効率、WE_WWL…作業ラインWL全体での作業効率、WMx_C…作業員WKxの候補、IN_WE_WKx…指標、DAT…個人属性データ、DTA…個人特性データ、DWH…作業履歴データ、DSC…スケジュールデータ、DWK…作業員データ、DWP…作業計画データ
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図5