(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014732
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】ナット部材及びフックスパナ
(51)【国際特許分類】
B23B 31/20 20060101AFI20250123BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20250123BHJP
B25B 13/50 20060101ALI20250123BHJP
B25B 13/08 20060101ALI20250123BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B23B31/20 F
B23Q3/12 A
B23Q3/12 G
B25B13/50 E
B25B13/08
F16B37/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117525
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000127042
【氏名又は名称】株式会社アルプスツール
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】金子 豊
(72)【発明者】
【氏名】中島 博樹
【テーマコード(参考)】
3C016
3C032
【Fターム(参考)】
3C016FA03
3C016FA36
3C032JJ12
(57)【要約】
【課題】締緩作業中のフックスパナの横滑りを防止し、作業安定性を高めることのできるナット部材と、このナット部材を締緩するためのフックスパナを提供する。
【解決手段】コレットチャック式ツールホルダのナット部材であって、基端方向に配置されるねじ部と、先端方向に配置される係合部と、前記ねじ部と同軸に配置される内周部と、を備え、前記係合部は、外周面に係止凹部と、嵌合溝と、を備え、前記係止凹部は、前記ねじ部の軸方向と直交する方向の断面形状が略矩形に形成され、前記嵌合溝は、前記ねじ部の軸方向の断面形状が略V字形に形成され、前記内周部は、前記先端方向の端面から前記基端方向の端面を貫通すると共に、押さえ面と、リブと、を備え、前記押さえ面は、前記基端方向に向かって拡径するように形成され、前記リブは、前記押さえ面に対して前記基端方向に配置されると共に、径方向内側に向かって突出するように形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレットチャック式ツールホルダのナット部材であって、
基端方向に配置されるねじ部と、先端方向に配置される係合部と、前記ねじ部と同軸に配置される内周部と、を備え、
前記係合部は、外周面に係止凹部と、嵌合溝と、を備え、
前記係止凹部は、前記ねじ部の軸方向と直交する方向の断面形状が略矩形に形成され、
前記嵌合溝は、前記ねじ部の軸方向の断面形状が略V字形に形成され、
前記内周部は、前記先端方向の端面から前記基端方向の端面を貫通すると共に、押さえ面と、リブと、を備え、
前記押さえ面は、前記基端方向に向かって拡径するように形成され、
前記リブは、前記押さえ面に対して前記基端方向に配置されると共に、径方向内側に向かって突出するように形成されることを特徴とするナット部材。
【請求項2】
請求項1に記載のナット部材において、
前記係止凹部は、前記係合部の外周面に沿って等間隔に複数配置されることを特徴とするナット部材。
【請求項3】
請求項1に記載のナット部材において、
前記係止凹部は、前記先端方向の端面と連通することを特徴とするナット部材。
【請求項4】
請求項1に記載のナット部材において、
前記嵌合溝は、前記係合部の外周面に沿って環状に形成されることを特徴とするナット部材。
【請求項5】
請求項1に記載のナット部材において、
前記ねじ部は、外周面にねじ溝が形成されることを特徴とするナット部材。
【請求項6】
請求項1から5に記載のナット部材を回動させるためのフックスパナであって、
柄部と、引掛け頭部と、を備え、
前記引掛け頭部は、円弧部と、前記ナット部材の前記係止凹部に係合する係合爪と、前記ナット部材の前記嵌合溝に嵌合する嵌合部と、を備え、
前記円弧部は、前記柄部の一方の端部から円弧状に延出し、
前記係合爪は、前記円弧部の一方の端部から前記円弧部の半径方向内側に向かって延出し、
前記嵌合部は、前記円弧部の他方の端部から前記半径方向内側に向かって延出することを特徴とするフックスパナ。
【請求項7】
請求項6に記載のフックスパナにおいて、
前記嵌合部は、前記円弧部の厚み方向の断面形状が前記嵌合溝に対応する略V字形に形成されていることを特徴とするフックスパナ。
【請求項8】
請求項6に記載のフックスパナにおいて、
前記係合爪は、前記係合爪の延出方向の先端部に、前記円弧部の内面に向かって傾斜する傾斜面を備えることを特徴とするフックスパナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等の切削加工に用いる工作機械に用いられ、主にドリル及びエンドミル等の切削工具のシャンクを把持するコレットチャックを締め付けるナット部材と、このナット部材を締緩するためのフックスパナと、に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転工具装置は、旋盤等の旋削加工に用いる工作機械の刃物台表面に取り付けられ、一例として、切削工具を保持する構造としてコレットチャック式ツールホルダが用いられる。また、この種のコレットチャック式ツールホルダは、ホルダ主軸の先端部にコレットを挿入し、ホルダ主軸の先端部に形成されたねじ部にナット部材を螺合させ、このナット部材を締め付けることで、コレットの内径を縮径させて切削工具のシャンクを把持する構造を有する。
【0003】
従来、このようなナット部材の締緩作業には、
図9に示すようなフックスパナ100が用いられていた。従来のフックスパナ100は、ナット部材の外周面に形成された係合溝にフックスパナ先端部に形成された係合部101を係合させ、係合部101から離れた位置に形成された当接面102をナット部材の外周面に当接させて、ナット部材を回動させるものである。このような従来のフックスパナ100は、ナット部材の締緩作業時に当接面102がナット部材の軸方向にずれてしまうこと(以下、本明細書において横滑りという。)があり、作業安定性に課題があった。
【0004】
また、従来、このようなナット部材の締付け用フックスパナとして、特許文献1に記載されるように、ナットの外周面に形成した係合溝にナット側方から係合セットしてナットを回動するフックスパナにおいて、フックスパナをナットにセットした時ナットの両側にナットの螺進方向と直交する方向に突出する鍔部材を設けたことを特徴とするフックスパナが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるフックスパナによれば、フックスパナに設けられた鍔部材により、フックスパナを操作するときのコレット等の被締結部材の脱落を防止することができる。また、当該鍔部材により、ナット部材を軸方向に保持することができるため、フックスパナの横滑りに対しても効果を発揮し、作業性を改善することができると考えられる。
【0007】
ところで、この種のコレットチャックをナット部材により締め付ける構造として、
図8に示すように、ナット部材10′の内周面に設けられた雌ねじ部とホルダ主軸30′に設けられた雄ねじ部とを螺合させる構造(以下、本明細書において内径ねじナット構造という。)と、
図1に示すように、ナット部材10の外周面に設けられた雄ねじ部とホルダ主軸30に設けられた雌ねじ部とを螺合させる構造(以下、本明細書において外径ねじナット構造という。)と、が知られている。
【0008】
コレットチャックの締め付け構造として、
図1に示すような外径ねじナット構造を採用した場合、ホルダ主軸30からのナット部材10の飛び出し量L1を抑えることが可能となる。このため、刃物台表面からナット部材10の端面までの距離が短くなり、ワークの加工範囲を広く確保することができるという利点がある。また、刃物台表面から切削工具までの距離も短くなるため、回転工具装置全体の剛性を上げることができる。
【0009】
しかしながら、このような外径ねじナット構造は、ホルダ主軸30からのナット部材10の飛び出し量L1を短くすることができると同時に、ナット部材10の外周面の露出部が少なくなる。このため、ナット部材10の締緩作業を行う際に、フックスパナをナット部材10の外周面に係合させる範囲がナット部材10の軸方向に狭くなってしまう。これにより、フックスパナの厚みも薄くする必要があり、作業時のフックスパナの横滑りがより起きやすくなってしまうという課題があった。
【0010】
また、特許文献1に記載されるフックスパナは、横滑りを防止するために内径ねじナット構造のナット部材を締結する場合には適用することができるが、外径ねじナット構造のナット部材を締結する場合には、鍔部材がナット部材と干渉してしまうため適用することができない。
【0011】
そこで、本発明は上記の事項に鑑みてなされたものであり、コレットチャック式ツールホルダの締め付け構造が、ナット部材の外周面の露出部が少ない外径ねじナット構造であっても、締緩作業中のフックスパナの横滑りを防止し、作業安定性を高めることのできるナット部材と、このナット部材を締緩するためのフックスパナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0013】
本願発明に係るナット部材は、コレットチャック式ツールホルダのナット部材であって、基端方向に配置されるねじ部と、先端方向に配置される係合部と、前記ねじ部と同軸に配置される内周部と、を備え、前記係合部は、外周面に係止凹部と、嵌合溝と、を備え、前記係止凹部は、前記ねじ部の軸方向と直交する方向の断面形状が略矩形に形成され、前記嵌合溝は、前記ねじ部の軸方向の断面形状が略V字形に形成され、前記内周部は、前記先端方向の端面から前記基端方向の端面を貫通すると共に、押さえ面と、リブと、を備え、前記押さえ面は、前記基端方向に向かって拡径するように形成され、前記リブは、前記押さえ面に対して前記基端方向に配置されると共に、径方向内側に向かって突出するように形成されることを特徴とする。
【0014】
本願発明に係るナット部材において、前記係止凹部は、前記係合部の外周面に沿って等間隔に複数配置されると好適である。
【0015】
本願発明に係るナット部材において、前記係止凹部は、前記先端方向の端面と連通すると好適である。
【0016】
本願発明に係るナット部材において、前記嵌合溝は、前記係合部の外周面に沿って環状に形成されると好適である。
【0017】
本願発明に係るナット部材において、前記ねじ部は、外周面にねじ溝が形成されると好適である。
【0018】
本願発明に係るフックスパナは、本願発明に係るナット部材を回動させるためのフックスパナであって、柄部と、引掛け頭部と、を備え、前記引掛け頭部は、円弧部と、前記ナット部材の前記係止凹部に係合する係合爪と、前記ナット部材の前記嵌合溝に嵌合する嵌合部と、を備え、前記円弧部は、前記柄部の一方の端部から円弧状に延出し、前記係合爪は、前記円弧部の一方の端部から前記円弧部の半径方向内側に向かって延出し、前記嵌合部は、前記円弧部の他方の端部から前記半径方向内側に向かって延出することを特徴とする。
【0019】
本願発明に係るフックスパナにおいて、前記嵌合部は、前記円弧部の厚み方向の断面形状が前記嵌合溝に対応する略V字形に形成されていると好適である。
【0020】
本願発明に係るフックスパナにおいて、前記係合爪は、前記係合爪の延出方向の先端部に、前記円弧部の内面に向かって傾斜する傾斜面を備えると好適である。
【0021】
上記発明の概要は、本発明に必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るナット部材及びフックスパナによれば、ナット部材を締緩する際のフックスパナの横滑りを防止し、作業安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るナット部材が取り付けられるコレットチャックの一例を示す断面図。
【
図2】本発明の実施形態に係るナット部材の先端方向からみた正面図。
【
図4】本発明の実施形態に係るフックスパナを示す斜視図。
【
図5】本発明の実施形態に係るフックスパナを本発明の実施形態に係るナット部材に係合させた状態を示すナット部材の先端方向からみた正面図
【
図8】従来のナット部材が取り付けられる内径ねじナット構造のコレットチャックの一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係るナット部材が取り付けられるコレットチャックの一例を示す断面図であり、
図2は、本発明の実施形態に係るナット部材の先端方向からみた正面図であり、
図3は、
図2のA-A断面図である。なお、本明細書において「先端方向」及び「基端方向」とは、
図1及び
図3における矢印に示す方向及び向きと定義する。また、後述する
図8においてもこれらの矢印表示は同様とする。
【0026】
本発明に係るナット部材10は、
図1に示すように、工作機械に使用される回転工具装置のホルダ主軸30の先端部に着脱自在に取り付けられる。
【0027】
ホルダ主軸30は、略円筒形の部品であって、内径側には、コレット40と図示しない切削工具のシャンクが挿入される。ホルダ主軸30の先端部の円筒内面には、コレット40と当接する押圧面31が形成される。押圧面31は、ホルダ主軸30の先端面に向かって拡径するテーパ面に形成される。
【0028】
コレット40は、略円筒形の部品であって、基端方向の外周面には基端方向に向かって縮径するテーパ面41と、先端方向の外周面には先端方向に向かって縮径する先端部当接面42と、テーパ面41と先端部当接面42の間には環状溝43とが形成される。テーパ面41は、ホルダ主軸30の押圧面31と当接し、押圧面31に対応する角度のテーパ面に形成される。先端当接面42は、後述するナット部材10の押さえ面17と当接し、押さえ面17に対応する角度のテーパ面に形成される。コレット40の内側には、図示しない切削工具のシャンクを挿入するための工具挿入孔44が形成される。工具挿入孔44は、通常時においては拡径された状態にあって、切削工具のシャンクを容易に挿入することができる。また、コレット40には、軸方向に延びる図示しないスリットが複数形成される。コレット40は、先端側をナット部材10よって支持され、後端側をホルダ主軸30によって支持される。
【0029】
ナット部材10は、
図2及び
図3に示すように、略円筒形の部品であって、ホルダ主軸30と螺合するねじ部11と、ねじ部11に対して先端方向に配置される係合部12と、を備える。また、ナット部材10は、基端方向の端面から先端方向の端面を貫く内周部15を備える。
【0030】
ねじ部11は、一例として、ナット部材10の外周面にねじ溝が形成される雄ねじであって、ホルダ主軸30の先端部に形成される雌ねじ部と螺合する。ねじ部11のねじサイズは、ナット部材10が支持するコレット40の大きさによって適宜決定される。
【0031】
係合部12は、
図1に示すように、ナット部材10がホルダ主軸30に取り付けられた状態で、外周面が露出する。係合部12は、
図3に示すように、外周面に沿って環状に形成される嵌合溝13と、外周面から径方向に窪むように形成される係止凹部14と、を備える。
【0032】
嵌合溝13は、
図3に示すように、ナット部材10の軸方向の断面形状が略V字形に形成される。嵌合溝13の成す角度αは、略V字形の頂点を通り、ナット部材10の軸方向と直交する方向に延びる基準面Sに対して対称に形成されると好適である。また、角度αは、一例として、60~100度であると好適であり、より好適には90度であると好適である。また、嵌合溝13の中心軸方向の幅W1は、後述するフックスパナ20の厚みTよりも狭く形成され、一例として、1.5~3.5mmであると好適であり、より好適には2.0mmであると好適である。また、嵌合溝13の溝底部の形状は、小円弧状に形成されると好適である。
【0033】
係止凹部14は、
図2に示すように、ナット部材10の先端方向からみて略矩形に形成される。また、係止凹部14は、ねじ部11の軸方向と直交する方向の断面においても、略矩形に形成される。また、係止凹部14は、ナット部材10の外周面に沿って等間隔に複数配置されると好適である。係止凹部14は、一例として、外周面に沿って4~8箇所形成されると好適であり、より好適には外周面に沿って6箇所形成されると好適である。
【0034】
また、係止凹部14は、ナット部材10の径方向の深さD2が嵌合溝13の溝深さD1よりも深く形成される。係止凹部14の深さD2は、一例として、2~4mmであると好適である。これにより、後述するフックスパナ20の係合爪24を係止凹部14に確実に係合させることができる。
【0035】
また、係止凹部14の外周面の接線方向の幅W2は、後述するフックスパナ20の係合爪24の幅W3と対応するように形成され、一例として、3~6mmであると好適である。また、係止凹部14は、
図3に示すように、ナット部材10の先端方向の端面と連通するように形成されても構わない。
【0036】
内周部15は、ねじ部11と同軸に配置され、先端方向の端面から開口する貫通孔16を備え、先端方向の端面から基端方向の端面までナット部材10を貫通している。内周部15の内径には、基端方向に向かって拡径する押さえ面17が形成され、押さえ面17に対して基端方向には、径方向内側に向かって突出するリブ18が少なくとも一つ形成される。押さえ面17は、コレット40の先端部当接面42と当接し、先端部当接面42の形状と対応するように、基端方向に向かって拡径するテーパ面に形成される。リブ18は、コレット40の環状溝43に係合する。
【0037】
次に、本実施形態に係るナット部材10をホルダ主軸30に締結する際に用いられる、フックスパナ20について説明を行う。
【0038】
図4は、本発明の実施形態に係るフックスパナを示す斜視図である。
【0039】
フックスパナ20は、
図4に示すように、柄部21と、引掛け頭部22と、を備える。
【0040】
柄部21は、使用者が把持するための部位であって、一様な厚みTを有する細長い板状に形成される。柄部21の一方の端部は、引掛け頭部22と連続し、柄部21の他方の端部には、フックスパナ20を壁に吊り下げたりすることが可能な貫通孔が形成される。また、柄部21は、ナット部材10の締緩作業において必要な強度を確保したうえで、一方の端部に向かって、厚み方向と交差する方向の幅が狭くなるように形成されても構わない。
【0041】
引掛け頭部22は、柄部21の一方の端部から円弧状に延出するように形成された円弧部23と、円弧部23の柄部21から離れた側の端部(以下、円弧部23の一方の端部という。)に形成される係合爪24と、円弧部23の柄部21に近い側の端部(以下、円弧部23の他方の端部という。)に形成される嵌合部25と、を備える。
【0042】
円弧部23は、円弧状に形成され、
図4に示すように、柄部21と連続し、一様な厚みTに形成される。円弧部23の円弧状の内面の半径は、ナット部材10の外周面の半径に対応するように、ナット部材10の外周面の半径よりも僅かに大きく形成される。また、円弧部23は、ナット部材10の締緩作業において必要な強度を確保したうえで、一方の端部に向かって、円弧状の半径方向の幅が狭くなるように形成しても構わない。
【0043】
係合爪24は、円弧部23の一方の端部から円弧状の半径方向内側に向かって延出するように形成され、円弧部23と連続する一様な厚みTに形成される。係合爪24の延出量H1は、ナット部材10の係止凹部14の深さD2に対応するように形成され、2~5mmであると好適である。ただし、係合爪24は、後述するように係合爪24をナット部材10の係止凹部14に係合させた際に、係合爪24の延出方向の先端部が係止凹部14の底面と接しないように形成されることが重要である。また、係合爪24の幅W3は、ナット部材10の係止凹部14の幅W2に対応するように形成され、2~5mmであると好適である。また、係合爪24の延出方向の先端部には、円弧部23の内面に向かって傾斜する傾斜面26が形成されても構わない。
【0044】
嵌合部25は、円弧部23の他方の端部から円弧状の半径方向内側に向かって延出するように形成され、円弧部23と連続する一様な厚みTに形成される。また、嵌合部25が形成される円弧部23の周方向の位置は、係合爪24がナット部材10のいずれか一つの係止凹部14に係合した状態で、嵌合部25が他の係止凹部14と重ならない位置に形成される。嵌合部25の延出量H2は、ナット部材10の嵌合溝13の溝深さD1に対応するように形成される。
【0045】
また、嵌合部25は、後述する
図7に示すように、円弧部23の厚み方向の断面形状がナット部材10の嵌合溝13に対応するように略V字形に形成されたV字斜面27を有する。V字斜面27は、フックスパナ20の厚み方向の中央を通る基準面に対して対称に形成されると好適であり、ナット部材10の嵌合溝13の成す角度αと同等の角度に形成されると好適である。ただし、嵌合部25は、後述するように嵌合部25をナット部材10の嵌合溝13に嵌合させた際に、V字斜面27が嵌合溝13の斜面に確実に当接し、かつ、嵌合部25の延出方向の先端部が嵌合溝13の小円弧状に形成された溝底部と接しないように形成されることが重要である。
【0046】
なお、上記では、フックスパナ20の柄部21、円弧部23、係合爪24及び嵌合部25は、一様な厚みTを有する場合について説明を行ったが、各部の厚みはこれに限らず、ナット部材10の締緩作業において必要な強度を確保したうえで、各部の厚みを変化させても構わない。また、円弧部23、係合爪24及び嵌合部25の厚みTは、ナット部材10の飛び出し量L1に対応して設定され、従来のフックスパナ100の厚みT′に対して薄く設定しても構わない。
【0047】
次に、本実施形態に係るナット部材10の締緩作業を本実施形態に係るフックスパナ20を用いて行う方法について説明を行う。
【0048】
図5は、本発明の実施形態に係るフックスパナを本発明の実施形態に係るナット部材に係合させた状態を示すナット部材の先端方向からみた正面図であり、
図6は、
図5のB-B断面図であり、
図7は、
図6のC部拡大図である。
【0049】
先ず、
図5及び
図6に示すように、フックスパナ20の係合爪24をナット部材10の係止凹部14に係合させる。このとき、係合爪24には先端部に傾斜面26が形成されているため、係合爪24の係止凹部14への係合をスムーズに行うとこができる。また、係止凹部14は、ナット部材10の先端方向の端面と連通するように形成されているため、係合爪24を露出部の少ないナット部材10の外周面からだけでなく、ナット部材10の先端方向の端面からも係止凹部14へ係合することができるため、作業性に優れる。
【0050】
次に、フックスパナ20の嵌合部25をナット部材10の嵌合溝13に嵌合させる。このとき、嵌合部25は、あらかじめ係止凹部14と重ならない位置に配置されるよう設定されているため、確実に嵌合部25のV字斜面27を嵌合溝13の斜面に当接させることができる。
【0051】
このようにフックスパナ20の引掛け頭部22をナット部材10の係合部12に係合させた後、フックスパナ20の柄部21を
図5視において時計回りに回動させることにより、ナット部材10の締め作業を行う。また、フックスパナ20を
図5視に対し裏返しにして、ナット部材10に係合させて反時計回りに回動させることにより、ナット部材の緩め作業を行う。なお、上記説明は、ねじ部11が右ねじである場合について説明を行った。ねじ部11が左ねじである場合は、締め作業及び緩め作業の回動方向は上記説明とは逆の回動方向となる。
【0052】
上記のように、フックスパナ20のV字斜面27を嵌合溝13の略V字形に形成された斜面と当接させることにより、ナット部材10の締緩作業を行う際に、フックスパナ20とナット部材10は、ナット部材10の軸方向に強固に係合される。このため、ホルダ主軸30からのナット部材10の飛び出し量L1が少ない場合や、フックスパナ20の厚みTが薄い場合であっても、フックスパナ20の横滑りや脱落を防ぐことができる。
【0053】
なお、上記では、ナット部材10の締緩作業を行う際に本実施形態に係るフックスパナ20を用いる場合について説明を行ったが、本実施形態に係るナット部材10は、従来のフックスパナ100によっても締緩作業を行うことができる。この場合、従来のフックスパナ100の当接面102は、ナット部材10の嵌合溝13と嵌合することはないが、嵌合溝13の幅W1はフックスパナ100の厚みT′よりも狭く形成されているため、フックスパナ100の当接面102をナット部材10の係合部12の外周面に当接させて、ナット部材10の締緩作業を行うことができる。
【0054】
また、上記では、本実施形態に係るナット部材10は、ねじ部11がナット部材10の外周面にねじ溝が形成される雄ねじであって、ホルダ主軸30の先端部に形成される雌ねじ部と螺合する、外径ねじナット構造のコレットチャックに用いられる場合について説明を行ったが、ナット部材10に形成されるねじ部11はこれに限らず、ねじ部11がナット部材10の内周面にねじ溝が形成される雌ねじであって、ホルダ主軸30の先端部に形成される雄ねじ部と螺合する、内径ねじナット構造のコレットチャックに用いられても構わない。また、本実施形態に係るナット部材10は、回転工具のホルダに用いられる場合を例として説明を行ったが、固定工具のホルダに用いられても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0055】
10 ナット部材、 11 ねじ部、 12 係合部、 13 嵌合溝、 14 係止凹部、 15 内周部、 16 貫通孔、 17押さえ面、 18 リブ、 20 フックスパナ、 21 柄部、 22 引掛け頭部、 23 円弧部、 24 係合爪、 25 嵌合部、 26 傾斜面、 27 V字斜面、 30 ホルダ主軸、 31 押圧面、 40 コレット、 41 テーパ面、 42 先端部当接面、 43 環状溝、 44 工具挿入孔。