(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014734
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】インクセットおよびインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20250123BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20250123BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20250123BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06P5/30
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117530
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾中 賢一
【テーマコード(参考)】
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
4H157CB08
4H157CB18
4H157CC01
4H157DA01
4H157GA06
4J039BE01
4J039CA06
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】湿摩擦堅牢性、発色性、および風合いが良好な、インクセットを提供すること。
【解決手段】インクセットは、水溶性カチオン性樹脂および第1有機溶剤を含む第1処理液と、顔料、Tgが0℃以下のアニオン性樹脂および第2有機溶剤を含む第2処理液と、を含む。水溶性カチオン性樹脂のカチオン価は、1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下である。水溶性カチオン性樹脂の分子量は、500以上4000以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性カチオン性樹脂および第1有機溶剤を含む第1処理液と、
顔料、ガラス転移温度が0℃以下のアニオン性樹脂および第2有機溶剤を含む第2処理液と、を含み、
前記水溶性カチオン性樹脂のカチオン価は、1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下であり、
前記水溶性カチオン性樹脂の分子量は、500以上4000以下である、
インクセット。
【請求項2】
前記水溶性カチオン性樹脂は、3級アンモニウムまたは4級アンモニウムを含む、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記第1有機溶剤および前記第2有機溶剤は、いずれも沸点200℃以上のグリコール系、またはジオール系溶剤を含む、請求項1に記載のインクセット。
【請求項4】
前記アニオン性樹脂は、ウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のインクセット。
【請求項5】
前記水溶性カチオン性樹脂と、前記顔料および前記アニオン性樹脂の合計量とは、1:0.8~1:16の範囲内である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項6】
請求項1に記載のインクセットを用いて、布帛上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、
布帛上に、前記第1処理液を射出する工程と、
前記第2処理液を射出する工程と、
を含む、インクジェット記録方法。
【請求項7】
布帛の面積当たりの前記第1処理液および前記第2処理液における前記水溶性カチオン性樹脂のおけるカチオンの総量は、0.07mmol/m2以上0.43mmol/m2以下である、請求項6に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセットおよびインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、捺染方法として、染料で満たされた浴に布帛を浸漬して捺染を行う吸尽捺染が知られているが、染色に長時間を要することから、生産効率が低かった。近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いことなどから、インクジェット法により布帛への画像形成を行うインクジェット捺染が広く行われている。インクジェット捺染では、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドから吐出させ、布帛に着弾させて画像形成を行う(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
また、特許文献1には、繊維基材の表面にインク吸収層を有するインクジェット記録用布帛が記載されている。インクジェット記録用布帛には、顔料インクでインクジェットプリンタなどを使用して、画像などが形成される。
【0004】
特許文献2には、熱可塑性樹脂を付与した布帛に、カチオン系界面活性剤と、カチオン性またはノニオン性ポリマーとを含む処理液をインクジェット記録した後、アニオン性の分散剤および顔料を含むインクでインクジェット記録するインクジェット記録方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、カチオン性有機化合物を含有する前処理液により処理された布帛に対して、架橋性基を有するウレタン系樹脂を含有する捺染インク組成物を付着させるインクジェット捺染方法(インクジェット記録方法)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-293571号公報
【特許文献2】特開2006-342455号公報
【特許文献3】特開2018-3184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、特許文献1に記載のインクジェット記録用布帛に、特許文献2、3に記載のインクジェット記録方法で記録する場合、湿摩擦堅牢性、発色性、および風合いについて、改善の余地があった。
【0008】
本発明の目的は、湿摩擦堅牢性、発色性および風合いが良好な、インクセットおよび当該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の形態に係るインクセットは、水溶性カチオン性樹脂および第1有機溶剤を含む第1処理液と、顔料、Tgが0℃以下のアニオン性樹脂および第2有機溶剤を含む第2処理液と、を含み、前記水溶性カチオン性樹脂のカチオン価は、1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下であり、前記水溶性カチオン性樹脂の分子量は、500以上4000以下である。
【0010】
本発明の一実施の形態に係るインクジェット記録方法は、上記のインクセットを用いて、布帛上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、布帛上に、前記第1処理液を射出する工程と、前記第2処理液を射出する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、湿摩擦堅牢性、発色性、および風合いが良好な、インクセットおよび当該インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、捺染装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係るインクセットおよびインクセットを用いたインクジェット記録方法について説明する。
【0014】
[インクセットの構成]
本実施の形態のインクセットは、第1処理液と、第2処理液とを有する。
【0015】
(第1処理液)
第1処理液は、水溶性カチオン性樹脂と、第1有機溶剤とを含む。
【0016】
水溶性カチオン性樹脂は、第2処理液に含まれるアニオン性樹脂と反応または相互作用して凝集する。これにより、インクセット中の顔料などを布帛に定着させやすくする。水溶性カチオン性樹脂のカチオン価は、1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下であり、1.2mmol/g以上4.4mmol/g以下がより好ましい。当該カチオン価が、当該範囲内であれば、第1処理液に含まれる水溶性カチオン性樹脂および第2処理液に含まれるアニオン性樹脂の凝集力を適切にできる。
【0017】
カチオン価が1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下である水溶性カチオン性樹脂の例には、ポリアミン、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、アミン・エピクロロヒドリン縮合型ポリマー、ポリ-2-ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロルヒドリン縮合物、ジメチルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン縮合物が含まれる。
【0018】
水溶性カチオン性樹脂の市販品の例には、MPT-60(三菱鉛筆株式会社)、ユニセンスKHE100L、ユニセンスFPA101L(いずれもセンカ株式会社)、PAS-M-1L(ニットーボーメディカル株式会社)、PE-30、PAS-22SA-40、PAS-J-81L(いずれも四日市合成株式会社)が含まれる。
【0019】
水溶性カチオン性樹脂のカチオン価は、例えば以下の方法で求めることができる。まず、水溶性カチオン性樹脂の水分散液を調製する。次いで、水溶性カチオン性樹脂の水分散液に、指示薬としてトルイジンブルーを添加する。次いで、PVSK(ポリビニル硫酸カリウム)溶液を滴定試薬として用いて滴定する。分散液が青から赤に変色したときを終点とする。最後に、水分散液中の樹脂量(固形分)およびPVSK溶液の滴定量から、水溶性カチオン性樹脂のカチオン価を算出する。
【0020】
水溶性カチオン性樹脂の分子量は、500以上4000以下であり、600以上3000以下がより好ましい。水溶性カチオン性樹脂の分子量が500未満の場合、水溶性カチオン性樹脂が布帛から移行して、移染や汚染の原因になる。一方、水溶性カチオン性樹脂の分子量が4000超の場合、布帛に対して融着にくくなり、湿摩擦堅牢性が悪化する。
【0021】
水溶性カチオン樹脂は、加熱による布帛の黄変耐候性の観点から、3級アンモニウムまたは4級アンモニウムを含むことが好ましい。3級より低い級数のみだと、布帛を加熱した場合、温度によって黄変する場合がある。
【0022】
3級アンモニウムまたは4級アンモニウムの例には、アルキルアミン・エピクロルヒドリン付加物4級塩、アルキルアミン・アンモニア・エピクロルヒドリン付加物4級塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ポリメリルジアリルアミン塩酸塩重合体が含まれる。3級アンモニウムまたは4級アンモニウムは、加熱による布帛の黄変耐候性の観点から、4級アンモニウムを含むことがより好ましい。
【0023】
水溶性カチオン性樹脂は、第1処理液に対して、1.5~18質量%の範囲内が好ましく、3.5~18質量%の範囲内がより好ましい。
【0024】
水溶性カチオン性樹脂は、1種類で使用してもよいし、複数種類を使用してもよい。以下の実施例では、1種類の水溶性カチオン性樹脂を使用している。
【0025】
第1有機溶剤は、水溶性カチオン性樹脂を適切に分散させることができれば特に限定されない。
【0026】
第1有機溶剤の例には、単価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、トリメチロールプロパン)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル)、アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)、スルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0027】
第1有機溶剤は、沸点200℃以上のグリコール系、またはジオール系溶剤を含むことが好ましい。これによって、第1処理液が布帛を裏抜けしても、搬送ベルト上で乾燥しにくいため、ベルトクリーニング性が悪くなりにくい。
【0028】
沸点200℃以上のグリコール系、またはジオール系溶剤の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール、グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)が含まれる。
【0029】
第1有機溶剤は、1種類で使用してもよいし、複数種類を使用してもよい。以下の実施例では、複数種類の第1有機溶剤を使用している。
【0030】
(その他の成分)
第1処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて上記以外の他の成分を更に含んでいてもよい。他の成分の例には、水、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤が含まれる。
【0031】
水の例には、イオン交換水、蒸留水、純水が含まれる。
【0032】
界面活性剤の例には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤および両性界面活性剤が含まれる。
【0033】
防腐剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、PreventolCMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)が含まれる。
【0034】
(第2処理液)
第2処理液は、顔料と、Tgが0℃以下のアニオン性樹脂と、第2有機溶剤を含む。
【0035】
顔料は、有機顔料でもよいし、酸化チタンなどの無機顔料でもよい。一般的に、顔料はアニオン性である。顔料は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。以下の実施例では、顔料は、1種類を単独で使用している。
【0036】
有機顔料の例には、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロールが含まれる。
【0037】
マゼンタまたはレッド用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメント・バイオレット19が含まれる。
【0038】
オレンジまたはイエロー用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155が含まれる。
【0039】
グリーンまたはシアン用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7が含まれる。
【0040】
ブラック用の有機顔料の例には、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7が含まれる。
【0041】
酸化チタンは、屈折率が大きく隠蔽性が高い観点から、ルチル型の酸化チタンが好ましい。酸化チタンの市販品の例には、富士チタン工業社のTRシリーズ、テイカ社のJRシリーズ、石原産業社のタイペークが含まれる。
【0042】
顔料は、自己分散性顔料でもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0043】
親水性基の例には、カルボキシ基、スルホン酸基、およびリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0044】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0045】
第2処理液における顔料の含有量は、第2処理液の総量に対して、1~10質量%の範囲内が好ましく、1~5質量%の範囲内がより好ましい。
【0046】
ガラス転移温度Tgが0℃以下のアニオン性樹脂は、顔料のバインダーとして機能する。第2処理液がアニオン性の樹脂を含有することによって、顔料の定着性を向上させることができる。ガラス転移温度Tgは、-80℃以上が好ましい。また、Tgが0℃以下であることにより、凝集物が硬くなりにくいため、ベルトクリーニング性が向上する。
【0047】
ガラス転移温度Tgは、DSC(示差走査熱量測定装置)を用いて測定できる。具体的には、DSCを用いて-100~200℃の温度域で昇温速度10℃/分の条件で昇温させたときの吸熱ピークから、ガラス転移温度Tgを読み取ることができる。
【0048】
アニオン性樹脂の例には、カルボキシ基、スルホニル基、リン含有基(リン酸基またはホスホン酸基)などの酸性基を有するポリエステル、ポリウレタン、ポリアクリル、ポリメタクリルが含まれる。
【0049】
アニオン性樹脂の市販品の例には、日本触媒社製のアクリセットEMNシリーズ、楠本化成社製のNeoCrylシリーズ、BASF社製のJoncrylシリーズ、三井化学社製のタケラックシリーズ、ADEKA社製のHUXシリーズ、日華化学社製のエバファノールシリーズ、第一工業製薬社製のスーパーフレックスシリーズが含まれる。
【0050】
アニオン価は、10~60mgKOH/gの範囲内が好ましい。アニオン価が10mgKOH/g未満の場合、水性媒体中での樹脂の分散安定性が低下するおそれがある。一方、酸価が60mgKOH/g超の場合、カチオン性樹脂に対して急凝集してしまい、発色性が低下するおそれがある。
【0051】
アニオン性樹脂は、1種類を単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。以下の実施例では、アニオン性樹脂は、1種類を単独で使用している。
【0052】
アニオン性樹脂の含有量(固形分)は、第2処理液の総量に対して、5~15質量%の範囲内が好ましい。アニオン性樹脂の含有量が5質量%以上であれば、顔料の定着性をより向上させることができる。アニオン性樹脂の含有量が15質量%以下であれば、搬送ベルト上に付着する凝集物の量が多くなり過ぎず、ベルトクリーニング性の悪化を抑制できる。
【0053】
第2有機溶剤は、第1有機溶剤と同じ有機溶剤を使用できる。第2処理液における有機溶剤の含有量は、第2処理液の総量に対して、20~50質量%の範囲内が好ましい。
【0054】
(その他の成分)
第2処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて上記以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分の例には、第1処理液と同様に、水、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤が含まれる。
【0055】
水溶性カチオン性樹脂と、顔料およびアニオン性樹脂の合計量とは、1:0.8~1:16の範囲内であり、1:1.1~1:9.7の範囲内であることが好ましい。水溶性カチオン性樹脂と、顔料およびアニオン性樹脂の合計量が上記範囲内であることにより、発色性と風合いを向上できる。
【0056】
布帛の面積当たりの第1処理液および第2処理液における水溶性カチオン性樹脂のおけるカチオンの総量は、0.07mmol/m2以上0.43mmol/m2以下であることが好ましい。当該カチオンの総量が上記の範囲内であれば発色性と風合いを向上できる。
【0057】
(布帛)
布帛は、特に限定されない。布帛の例には、天然繊維(天然セルロース繊維、麻、羊毛、絹を含む。)、合成セルロース繊維(レーヨンなどの再生セルロース繊維、およびアセテートなどの半合成セルロース繊維を含む。)、ビニロン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、ポリエステル繊維が含まれる。
【0058】
布帛は、上記の繊維を、織布、不織布、編布などのいずれの形態にしたものでもよい。また、布帛は、二種類以上の繊維の混紡織布または混紡不織布でよい。
【0059】
(インクジェット記録方法)
本発明のインクジェット記録方法は、上述したインクセットを用いて、布帛上に画像を形成するインクジェット記録方法であって、布帛上に、第1処理液を射出する工程と、第2処理液を射出する工程と、を含む。すなわち、本発明のインクジェット記録方法は、第1処理液および第2処理液を布帛上で連続して付与する。第1処理液および第2処理液の付与は、布帛を搬送ベルトに担持させて行う。搬送ベルトには、粘着性のものなど、従来公知のものを用いることができる。
【0060】
ここで、「連続して付与する」とは、同一箇所への第1処理液および第2処理液の付与の間に乾燥工程などの工程を有さないことを意味する。なお、第1処理液の揮発成分の一部が、第2処理液の付与の前に、自然乾燥によって揮発することは、許容される。
【0061】
本発明においては、第1処理液および第2処理液を布帛上で連続して付与することにより、第1処理液および第2処理液がウェット・オン・ウェットで付与されるため、布帛の風合いが損なわれにくい。これは、ウェット・オン・ウェットの場合、各処理液の成分同士の接触度が高いことで、これらが布帛を構成する糸の中に浸透する前に凝集しやすいためである。糸の中に浸透する前に凝集することで、糸を構成する繊維同士を結着させないため、風合いの悪化が抑制される。
【0062】
第1処理液および第2処理液の付与の順序は、特に限定されない。第1処理液に含まれる水溶性カチオン樹脂がインク受容層として機能する観点からは、第1処理液を先に付与することが好ましい。第1処理液および第2処理液の付与は、同時でもよい。
【0063】
第1処理液および第2処理液の付与方式は、特に限定されない。第1処理液および第2処理液の付与方式は、同じでもよく、異なっていてもよい。付与方式の例には、スプレー方式、マングル方式(パッド方式またはディッピング方式)、コーティング方式、インクジェット方式が含まれる。第1処理液および第2処理液の付与方式は、高精度な印捺を行う場合にはインクジェット方式が好ましい。
【0064】
第1処理液の付与量は、特に限定されず、第1処理液における水溶性カチオン樹脂の含有量、第2処理液の付与量、布帛の種類などに応じて調整される。搬送ベルト上に付着する凝集物を減らす観点からは、第1処理液の布帛の裏抜けを抑制するために、第1処理液の付与量が、布帛の保水量よりも小さいことが好ましい。
【0065】
第2処理液の付与量は、特に限定されず、第2処理液の顔料の含有量、印捺する画像の濃度、布帛の種類などに応じて調整され得る。搬送ベルト上に付着する凝集物を減らす観点からは、第2処理液の布帛の裏抜けを抑制するために、第2処理液の付与量が、布帛の保水量よりも小さいことが好ましい。
【0066】
本発明のインクジェット記録方法は、第1処理液および第2処理液の付与工程の後に、布帛の乾燥工程を有することが好ましい。乾燥工程により、布帛に付与された第1処理液および第2処理液を布帛に定着させる。
【0067】
乾燥方法は、特に限定されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラーなどを用いた方法であり得る。中でも、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0068】
乾燥温度は、特に限定されないが、付与した処理液に含まれる溶剤を十分に除去する観点から、110℃以上が好ましく、130~180℃の範囲内がより好ましい。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば0.5~10分間の範囲内である。
【0069】
(インクジェット記録装置の構成)
次に、本実施の形態のインクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置(捺染装置)について説明する。
【0070】
図1は、インクジェット記録装置(捺染装置)1の構成を示す模式図である。
【0071】
図1に示されるように、インクジェット記録装置(捺染装置)1は、ベルト搬送部2と、画像形成部3と、搬送ベルト洗浄部4とを有する。
【0072】
ベルト搬送部2は、所定の間隔をおいて平行に配置された駆動ローラー21および従動ローラー22に亘って所定幅の無端状の搬送ベルト23が張架されている。駆動ローラー21および従動ローラー22に架け渡された搬送ベルト23の表面(上面)は、布帛Pを密着させて載置する載置面とされている。搬送ベルト23の表面には、搬送中の布帛Pを密着させるために、地張りと呼ばれる粘着剤が塗布されていてもよい。駆動ローラー21は、図示しない副走査モーターによって回転駆動される。
【0073】
ベルト搬送部2では、駆動ローラー21が、副走査モーターの回転駆動によって、
図1中の反時計周り方向(矢印参照)に所定速度で回転する。これにより、従動ローラー22との間に架け渡された搬送ベルト23が、回転移動する。この動作により、搬送ベルト23の表面に載置されている布帛Pは、副走査方向である
図1中の矢印A方向に向けて搬送される。
【0074】
布帛Pは、所定サイズに裁断されたシート状でもよいし、ロール状に巻回された元巻から連続して繰り出される長尺状でもよい。
【0075】
画像形成部3は、インクジェット方式の場合、搬送ベルト23上の布帛Pが載置される面の上方に所定の間隔をおいて配設されたインクジェットヘッドで構成される。各インクジェットヘッドは、上述のインクジェット記録方法に従い、その下面に設けられた多数のノズルから、搬送ベルト23よって搬送される布帛P上に、処理液を吐出する。これにより、布帛P上に、所望の画像が形成される。
【0076】
画像形成部3は、キャリッジに搭載されて、間欠的に搬送される布帛Pの搬送方向と直交する主査方向に往復移動するシャトル型でもよい。この場合、搬送ベルト23は、画像形成時に待機状態と駆動状態とを繰り返す間欠動作を行うように、駆動ローラー21の回転駆動によって制御される。また、画像形成部3は、搬送ベルト23の幅方向に亘って固定状に架け渡され、連続的に搬送される布帛P上にインク滴を吐出することによって画像を形成するライン型でもよい。この場合、搬送ベルト23は、画像形成時に連続的に移動(回転)動作するように、駆動ローラー21の回転駆動によって制御される。
【0077】
搬送ベルト洗浄部4は、ベルト搬送部2の下に配置されている。搬送ベルト洗浄部4は、搬送ベルト23の移動方向に沿って順に複数の洗浄手段などが設けられている。
【0078】
図1に示す搬送ベルト洗浄部4は、散水パイプ41、ブラシローラー42、クリーニングブレード43、クリーニングスポンジ44および加熱部45を有している。
【0079】
散水パイプ41は、搬送ベルト23の全幅に亘って架け渡されている。散水パイプ41には、搬送ベルト23の表面に対向する部位に、長さ方向に沿って多数のノズル(図示せず)が配列されている。散水パイプ41には、散水ポンプ(図示せず)の駆動によって散水チューブ41aを介して洗浄液が供給される。散水パイプ41は、供給された洗浄液をノズルから搬送ベルト23の表面に向けて吹きかけることにより、搬送ベルト23の表面に付着した異物を洗浄する。
【0080】
ブラシローラー42は、搬送ベルト23の全幅に亘って架け渡された回転軸の周囲にブラシ毛を束ねたブラシ束が複数植設されてローラー状に形成されている。ブラシ束の先端は、散水パイプ41による散水位置よりも搬送ベルト23の回転方向下流側において、搬送ベルト23の表面に常時接触状態にある。ブラシローラー42は、搬送ベルト23の表面に回転可能に接触し、搬送ベルト23の表面に残留する凝集物等の異物を除去する。具体的には、ブラシローラー42は、ブラシ駆動部(図示せず)の動力に基づいて、駆動ローラー21の回転方向と同一方向に所定速度で回転する。これにより、ブラシローラー42は、搬送ベルト23の移動方向に逆らう方向に移動して、ブラシ束の先端で搬送ベルト23の表面を摺擦する。この動作により、ブラシローラー42は、搬送ベルト23の移動方向上流側の散水パイプ41による洗浄液の散水によって洗浄された異物を除去する。
【0081】
ブラシローラー42の下方には、洗浄液を貯水する清掃桶(図示せず)が配設されていてもよい。この場合、ブラシローラー42の下部は、この洗浄液に一部浸漬しており、回転時に洗浄液を掻き上げることにより、異物の除去効果を高める。また、散水パイプ41へは、この清掃桶内の洗浄液が散水チューブ41aを介して供給されてもよい。この場合、搬送ベルト23の表面に噴射されて滴下した洗浄液が、再び清掃桶内に収容されて再利用される。
【0082】
クリーニングブレード43は、搬送ベルト23の回転方向におけるブラシローラー42の下流側に設けられている。クリーニングブレード43は、例えばゴムなどの弾性材や、PETシート、ストレート状のブラシなどによって平板状に形成され、搬送ベルト23の全幅に亘って架け渡されている。クリーニングブレード43は、その先端が搬送ベルト23の表面に当接または離間可能に構成されている。クリーニングブレード43は、搬送ベルト23の表面に当接し、搬送ベルト23の表面に残留する異物や洗浄液を掻き取ることによって除去する。
【0083】
クリーニングスポンジ44は、スポンジなどの吸水性を有する多孔質体であり、搬送ベルト23の全幅に亘って架け渡されている。クリーニングスポンジ44の表面は、クリーニングブレード43よりも搬送ベルト23の回転方向下流側において搬送ベルト23の表面に当接または離間可能に構成されている。クリーニングスポンジ44は、搬送ベルト23の表面に当接することにより、搬送ベルト23の表面に残留する洗浄液を吸収して拭き取る。
【0084】
加熱部45は、ベルトヒーターであり、搬送ベルト23の回転方向におけるクリーニングスポンジ44の下流側かつ従動ローラー22の上流側に設けられる。加熱部45は、搬送ベルト23の表面に残留する洗浄液を加熱して蒸発させる。
【実施例0085】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」、「ppm」および「部」は、それぞれ、「質量%」、「質量ppm」および「質量部」を意味する。
【0086】
[第1処理液および第2処理液の調製]
表1、2に記載の成分を混合し、第1処理液(1-1~1-14)および第2処理液(2-1~2~5)をそれぞれ調製した。
【0087】
各成分の詳細は表1、2および以下に示すとおりである。
【0088】
水溶性カチオン性樹脂として、MPT-60(三菱鉛筆株式会社)、ユニセンスKHE100L、ユニセンスFPA101L(いずれもセンカ株式会社)、PAS-M-1L(メチルジアリルアミン塩酸塩重合体)(ニットーボーメディカル株式会社)、PE-30(ジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリン共重合体)、PAS-22SA-40(メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体)、PAS-J-81L(メチルジアリルアミン塩酸塩重合体)(いずれも四日市合成株式会社)を使用した。
【0089】
アニオン性樹脂であるアクリル樹脂として、EMN-325E、EF-021(株式会社日本触媒)を使用した。アニオン性樹脂であるウレタン樹脂として、スーパーフレックス150、スーパーフレックス470(いずれも第一工業株式会社)、エバファノールHA-207(日華化学株式会社)を使用した。
【0090】
顔料分散液として、Cabo-Jet-4637M(キャボット社製)を使用した。活性剤(アセチレングリコール系界面活性剤)として、E1010(日信化学工業株式会社)を使用した。防腐剤として、Proxcel GXL(S)(ロンザ株式会社)を使用した。
【0091】
【0092】
【0093】
[捺染画像形成]
布帛として、綿サテン(綿100%:製品名60綿サテン、オカダヤ社製)を準備した。
【0094】
インクジェットヘッドKM1024i(コニカミノルタ株式会社)を搭載した簡易印画試験機に、調製した第1処理液および第2処理液を導入し、布帛上に、インクジェット方式で、第1処理液および第2処理液をこの順で連続して付与後、乾燥させて、捺染画像形成物を得た。インクジェットヘッドから第1処理液および第2処理液層形成液の吐出は、主走査540dpi×副走査720dpiにてそれぞれ行った。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。そして、ベルト搬送式乾燥機にて150℃で3分間乾燥させて、200mm×200mmの100%ベタ捺染画像形成物を得た。なお、第1処理液および第2処理液の付着付量は、それぞれ15g/m2および30g/m2であった。これらの付着量は、処理液の吐出量からそれぞれ求めた。
【0095】
[発色性の評価]
印画したベタ画像の表面反射率を、分光測色機CM-25d(コニカミノルタ株式会社)により測定し、540nmにおけるK/S値を算出した。K/S値は、下記式で定義される表面色濃度の指数である。
Kubelka-Munk式:K/S=(1-R)2/2R
(K:光の吸収係数、S:光の散乱係数、R:表面反射率)
K/S値が大きいほど色濃度が高く、小さいほど色濃度が低いことを意味する。算出したK/S値に基づいて、以下の基準で発色性を評価した。以下の基準で、AおよびBを許容範囲とした。
評価基準
A:K/S値が5.0以上
B:K/S値が4.0以上5.0未満
C:K/S値が3.0以上4.0未満
D:K/S値が3.0未満
【0096】
[湿摩擦堅牢性の評価]
布帛に形成された画像の湿摩擦堅牢性を、JIS L 0849の湿潤試験に準拠し、クロックメーター(摩擦試験機I型)で評価した。
【0097】
具体的には、形成した画像のうち100mm×100mmの領域に、200gの荷重で、摩擦用白綿布で100回往復して、摩擦を付与した。摩擦用白綿布には、水で濡らして約100%の湿潤状態にした白綿布を用いた。摩擦を付与した後、摩擦用白綿布への色移りを観察し、以下の基準で湿摩擦堅牢性を評価した。以下の基準で、AおよびBを許容範囲とした。
評価基準
A :ほとんど色移りがない。
B :色移りがあるが、許容範囲内である。
C :色移りがあり、許容範囲を超えている。
D :大きく色移りがあり、許容範囲を超えている。
【0098】
[風合いの評価]
捺染後の布帛の風合いの官能評価を、5人で行った。捺染前の布帛よりも捺染後の布帛の方が硬くなったと感じた人数に基づいて、以下の基準で布帛の風合いを評価した。以下の基準で、AおよびBを許容範囲とした。
評価基準
A:捺染後の布帛の方が硬くなったと感じた人数が、0~1人であった。
B:捺染後の布帛の方が硬くなったと感じた人数が、2~3人であった。
C:捺染後の布帛の方が硬くなったと感じた人数が、4人であった。
D:捺染後の布帛の方が硬くなったと感じた人数が、5人であった。
【0099】
使用した第1処理液および第2処理液と、発色性と、湿摩擦堅牢性と、風合いとの評価結果を表3に示す。
【0100】
【0101】
表3に示されるように、水溶性カチオン性樹脂のカチオン価が1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下であり、かつ水溶性カチオン性樹脂の分子量が500以上4000以下である実施例1~8では、発色性、湿摩擦堅牢性および風合いが良好であった。また、水溶性カチオン性樹脂のカチオン価が1.2mmol/g以上5.5mmol/g以下であり、かつ水溶性カチオン性樹脂の分子量が500以上1500以下であり、アニオン性樹脂のガラス転移温度[Tg]が、-29℃以下である実施例1~3では、発色性、湿摩擦堅牢性および風合いがさらに良好であった。
【0102】
一方、ガラス転移温度が0℃超のアニオン性樹脂を含む比較例1、2では、風合いが不良であった。これは、顔料の定着性が低下したためだと考えられる。また、水溶性カチオン性樹脂の分子量が4000超の比較例1~6は、湿摩擦堅牢性が不良であった。これは、水溶性カチオン性樹脂が布帛に対して融着にくくなったためと考えられる。水溶性カチオン性樹脂のカチオン価が1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下の範囲内にない比較例1、5では、発色性が不良であった。これは、第1処理液に含まれる水溶性カチオン性樹脂および第2処理液に含まれるアニオン性樹脂が適切に凝集しなかったためと考えられる。
【0103】
(効果)
以上のように、本発明によれば、アニオン性樹脂のガラス転移温度が0℃以下であり、水溶性カチオン性樹脂のカチオン価が1.2mmol/g以上6.2mmol/g以下であり、かつ水溶性カチオン性樹脂の分子量が500以上4000以下であれば、発色性、湿摩擦堅牢性および風合いが良好であることがわかる。
本発明に係るインクセットおよびインクジェット記録方法では、画像形成時に要求される諸特性に優れ、かつ良好な画像が形成されるインクセットおよびインクジェット記録方法が提供される。