(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025147594
(43)【公開日】2025-10-07
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20250930BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250930BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20250930BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 A
C12M1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024047920
(22)【出願日】2024-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 誠
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC02
4B029DA03
4B029DG08
4B029GB02
4B029HA05
4B029HA09
(57)【要約】
【課題】肝細胞を均一に且つ高密度で培養すると共に、排泄された胆汁を効率よく回収することができるマイクロ流体デバイスを提供する。
【解決手段】マイクロ流体デバイス1は、上面2a及び下面2bを有するデバイス本体2と、デバイス本体2の上面2aに平行な第1横方向D1に離間した位置においてデバイス本体2の上面2aにて開口する、細胞を培養するための第1凹部3及び流体を供給又は排出するための第2凹部4と、第1凹部3の底面3aと第2凹部4の底面4aとを連通するマイクロ流路5と、を備え、マイクロ流路5は、少なくとも第1凹部3の底面3aにおいて、第1横方向D1と直交する第2横方向D2に並べて形成された複数の第1溝51を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び下面を有するデバイス本体と、
前記デバイス本体の上面に平行な第1横方向に離間した位置において前記デバイス本体の上面にて開口する、細胞を培養するための第1凹部及び流体を供給又は排出するための第2凹部と、
前記第1凹部の底面と前記第2凹部の底面とを連通するマイクロ流路と、を備え、
前記マイクロ流路は、少なくとも前記第1凹部の底面において、第1横方向と直交する第2横方向に並べて形成された複数の第1溝を備える、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記マイクロ流路は、前記第1凹部と前記第2凹部の間に、第2横方向に並べて形成され、複数の前記第1溝の第1横方向の端部にそれぞれ接続される複数の孔を備える、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記マイクロ流路は、前記第2凹部の底面において、第2横方向に並べて形成された複数の第2溝を備え、
複数の前記第2溝は、複数の前記孔の第1横方向の端部にそれぞれ接続される、請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記第1凹部は、底面から上方へ延びる下部空間と、前記下部空間の上端で前記下部空間よりも断面積を拡大する段差部と、前記下部空間の上側に隣接し、前記段差部によって断面積が拡大された上部空間と、を備える、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記第1凹部及び前記第2凹部は、第2横方向に沿って複数設けられ、
隣り合う前記下部空間同士は独立し、隣り合う前記上部空間同士は連通する、請求項4に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記第1凹部は、第1横方向に沿って互いに独立して複数設けられる、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記第2凹部は、前記第1凹部を第1横方向に挟むように複数設けられる、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
複数の前記第1溝は、前記第1凹部の底面の全体に形成されている、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞を培養し、肝細胞から排泄される胆汁を回収して分析するために、マイクロ流路を配置したマイクロ流体デバイスを用いることが提案されている。例えば、下記特許文献1及び2では、管状のマイクロ流路の底面に櫛状の凹凸部分を有する肝細胞を培養する領域があり、マイクロ流路に培地の導入又は排出が可能なウェルが接続されて、前記凹凸部分が胆汁を回収する回収ポートまで延伸している胆汁回収チップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-20221号公報
【特許文献2】国際公開第2022/118885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、肝細胞を管状のマイクロ流路内の凹凸部分上で均一に高密度で培養することは難しかった。これは、マイクロ流路を用いると、培地の量が制限されるため、細胞の密度が高い培養液を用いる必要があったが、細胞が高密度な液体をマイクロ流路に入れようとしても流体抵抗が高くなり注入が困難であったり、注入の過程で細胞の分散が不均一になり、播種後の細胞分布にバラツキが生じたりするためである。また、細胞を培養する箇所は凹凸部分に限りたいが、マイクロ流路全体に細胞が播種され、凹凸部分以外の細胞を除去する必要があった。さらに、除去した細胞は破棄することとなるため、高価な細胞が培養対象の場合にはコスト高となる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑み、肝細胞を均一に且つ高密度で培養すると共に、排泄された胆汁を効率よく回収することができるマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るマイクロ流体デバイスは、上面及び下面を有するデバイス本体と、
前記デバイス本体の上面に平行な第1横方向に離間した位置において前記デバイス本体の上面にて開口する、細胞を培養するための第1凹部及び流体を供給又は排出するための第2凹部と、
前記第1凹部の底面と前記第2凹部の底面とを連通するマイクロ流路と、を備え、
前記マイクロ流路は、少なくとも前記第1凹部の底面において、第1横方向と直交する第2横方向に並べて形成された複数の第1溝を備えるものである。
【0007】
この構成によれば、細胞を培養するための第1凹部の底面に、マイクロ流路の一部である第1溝が形成されているため、肝細胞をマイクロ流路上に確実に播種することができ、肝細胞をマイクロ流路上で均一に且つ高密度で培養することができる。また、肝細胞から排泄された胆汁は、第1溝に流れ込むため、排泄された胆汁をマイクロ流路を介して第2凹部から排出して効率よく回収することができる。
【0008】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記マイクロ流路は、前記第1凹部と前記第2凹部の間に、第2横方向に並べて形成され、複数の前記第1溝の第1横方向の端部にそれぞれ接続される複数の孔を備える、という構成でもよい。
【0009】
この構成によれば、第1溝に流れ込んだ胆汁を孔を介して第2凹部に適切に導くことができる。
【0010】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記マイクロ流路は、前記第2凹部の底面において、第2横方向に並べて形成された複数の第2溝を備え、
複数の前記第2溝は、複数の前記孔の第1横方向の端部にそれぞれ接続される、という構成でもよい。
【0011】
この構成によれば、第1溝に流れ込んだ胆汁を孔及び第2溝を介して第2凹部に適切に導くことができる。
【0012】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第1凹部は、底面から上方へ延びる下部空間と、前記下部空間の上端で前記下部空間よりも断面積を拡大する段差部と、前記下部空間の上側に隣接し、前記段差部によって断面積が拡大された上部空間と、を備える、という構成でもよい。
【0013】
この構成によれば、下部空間が窪んでいるため、下部空間に肝細胞を播種しやすく、肝細胞を高密度で培養することができる。また、上部空間が下部空間よりも拡大されているため、上部空間で培地を灌流しつつ、下部空間で肝細胞を培養することができる。
【0014】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第1凹部及び前記第2凹部は、第2横方向に沿って複数設けられ、
隣り合う前記下部空間同士は独立し、隣り合う前記上部空間同士は連通する、という構成でもよい。
【0015】
この構成によれば、複数の第1凹部に対して、一つの上部空間で培地を灌流することができるため、細胞を効率よく培養することができる。
【0016】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第1凹部は、第1横方向に沿って互いに独立して複数設けられる、という構成でもよい。
【0017】
この構成によれば、複数の第1凹部で同時に細胞を培養することができるため、細胞を効率よく培養することができる。
【0018】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、前記第2凹部は、前記第1凹部を第1横方向に挟むように複数設けられる、という構成でもよい。
【0019】
この構成によれば、例えば、一つの第2凹部に液体を供給し、別の第2凹部から胆汁等の排泄物質を回収しながら液体を排出することができる。
【0020】
また、本発明に係るマイクロ流体デバイスにおいて、複数の前記第1溝は、前記第1凹部の底面の全体に形成されている、という構成でもよい。
【0021】
この構成によれば、細胞を培養する箇所を複数の第1溝の上に限定することができるため、肝細胞を高密度で培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るマイクロ流体デバイスの斜視図
【
図2】本実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図3】
図2に示すマイクロ流体デバイスのIII-III線断面図
【
図4】
図2に示すマイクロ流体デバイスのIV-IV線断面図
【
図5】
図2に示すマイクロ流体デバイス1のV-V線断面図
【
図6】
図2に示すマイクロ流体デバイス1のVI-VI線断面図
【
図9】マイクロ流体デバイスの使用方法の一例を示す斜視図
【
図10】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図11】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図12】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図13】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図14】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図15】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図16】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【
図17】他の実施形態に係るマイクロ流体デバイスの平面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るマイクロ流体デバイスにつき、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書に開示された各図面は、あくまで模式的に図示されたものである。すなわち、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しておらず、また、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0024】
図1は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1の斜視図であり、
図2は、本実施形態に係るマイクロ流体デバイス1の平面図である。
図3は、
図2に示すマイクロ流体デバイス1のIII-III線断面図であり、
図4は、
図2に示すマイクロ流体デバイス1のIV-IV線断面図であり、
図5は、
図2に示すマイクロ流体デバイス1のV-V線断面図であり、
図6は、
図2に示すマイクロ流体デバイス1のVI-VI線断面図である。
【0025】
マイクロ流体デバイス1は、略直方体状のデバイス本体2を備えている。デバイス本体2は、上下方向D3に対向する上面2a及び下面2bを有する。本実施形態の上面2a及び下面2bは、矩形状を呈している。以下の説明では、上面2aに平行且つ上面2aの一辺に沿った横方向を第1横方向D1とし、上面2aに平行且つ第1横方向D1に直交する横方向を第2横方向D2とする。
【0026】
マイクロ流体デバイス1は、デバイス本体2の上面2aにて開口する第1凹部3及び第2凹部4を備えている。第1凹部3及び第2凹部4は、デバイス本体2の上下方向D3の中途部に配置される底面3a,4aをそれぞれ備えている。また、第1凹部3及び第2凹部4は、デバイス本体2の上面2aに配置される開口3b,4bをそれぞれ備えている。
【0027】
第1凹部3及び第2凹部4は、第1横方向D1に並んで配置されている。また、第1凹部3及び第2凹部4は、互いに離間して配置されている。すなわち、第1凹部3の開口3b及び第2凹部4の開口4bは、互いに離間して配置されているとも言える。
【0028】
第1凹部3は、細胞を播種して培養するために用いられる。また、第2凹部4は、マイクロ流体デバイス1に液体を供給又は排出するために用いられる。本実施形態の第2凹部4は、第1凹部3を第1横方向D1に挟むように2つ設けられており、例えば、一方の第2凹部4へ液体を供給し、他方の第2凹部4から液体を排出する。
【0029】
第1凹部3は、
図3に示すように、底面3aから上方へ延びる下部空間31と、下部空間31の上側に隣接し、下部空間31よりも断面積が拡大された上部空間32と、を備えている。第1凹部3は、下部空間31の上端で下部空間31よりも断面積を拡大する段差部33を備えており、上部空間32は、この段差部33によって断面積が拡大される。
【0030】
底面3aは、特に限定されないが、
図2に示すように正方形状を呈している。下部空間31は、底面3aから上方へ一定の断面積で延びている。また、開口3bは、底面3aよりも広く、平面視において、底面3aよりも外側に位置している。また、開口3bは、特に限定されないが、
図2に示すように略楕円状を呈している。上部空間32は、開口3bから下方へ一定の断面積で延びている。開口3bは、第2横方向D2の幅が第1横方向D1の幅よりも大きくなるように形成されている。これにより、段差部33は、下部空間31から第2横方向D2の距離が第1横方向D1の距離よりも長くなっている。
【0031】
下部空間31は、例えば第1横方向D1の幅が4mm、第2横方向D2の幅が4mm、上下方向D3の高さが3mmである。また、上部空間32は、例えば第1横方向D1の幅が6mm、第2横方向D2の幅が12mm、上下方向D3の高さが5mmである。なお、上部空間32の第2横方向D2の幅は、第2横方向D2における曲線が最も広がる最大の幅とした。
【0032】
第2凹部4の底面4aは、特に限定されないが、
図2に示すように略楕円状を呈している。第2凹部4は、底面4aから上方へ一定の断面積で延びている。これにより、開口4bは、平面視において底面4aと重なる。第2凹部4は、例えば第1横方向D1の幅が2mm、第2横方向D2の幅が6mm、上下方向D3の高さが8mmである。なお、第2凹部4の第2横方向D2の幅は、第2横方向D2における曲線が最も広がる最大の幅とした。
【0033】
マイクロ流体デバイス1は、
図2及び
図6に示すように、第1凹部3の底面3aと第2凹部4の底面4aとを連通するマイクロ流路5を備えている。マイクロ流路5は、第1横方向D1に延びている。
【0034】
マイクロ流路5は、第1凹部3の底面3aに形成された複数の第1溝51を備えている。複数の第1溝51は、第2横方向D2に並んでいる。複数の第1溝51は、第1凹部3の底面3aの全体に形成されることが好ましい。本実施形態では、複数の第1溝51は、
図2に示すように、底面3aの第1横方向D1の全体に形成され、底面3aの第2横方向D2の略全体に形成されている。
【0035】
本実施形態の第1溝51の断面は、矩形状をしている。ただし、第1溝51の断面は、矩形状に限定されず、溝底へ向かって幅が狭くなった台形状や半楕円形状などでもよい。
【0036】
第1溝51の幅(第2横方向D2の幅)は、例えば、3~100μmであり、本実施形態では5μmである。また、第1溝51の深さ(上下方向D3の高さ)は、例えば5~150μmであり、本実施形態では10μmである。また、第1溝51同士の間隔は、幅の1~2倍であり、本実施形態では20μmである。第1溝51は、例えば20~1000本であるが、本実施形態では説明の便宜のため13本のみを図示している。
【0037】
また、マイクロ流路5は、第2凹部4の底面4aに形成された複数の第2溝52を備えている。複数の第2溝52は、第2横方向D2に並んでいる。第2溝52の幅(第2横方向D2の幅)は、例えば、3~100μmであり、本実施形態では5μmである。また、第2溝52の深さ(上下方向D3の高さ)は、例えば5~150μmであり、本実施形態では10μmである。また、第2溝52同士の間隔は、幅の1~50倍であり、本実施形態では20μmである。この間隔の幅は使用する細胞の接着性に応じて選択する。
【0038】
また、マイクロ流路5は、第1凹部3と第2凹部4の間に形成された複数の孔53を備えている。複数の孔53は、第2横方向D2に並んでいる。複数の孔53は、複数の第1溝51の第1横方向D1の端部にそれぞれ接続される。また、複数の第2溝52は、複数の孔53の第1横方向D1の端部にそれぞれ接続される。
【0039】
第1溝51、第2溝52、及び孔53は、すべて同じ断面形状となり連通していることが好ましい。これにより、第1溝51、第2溝52、及び孔53は、底面と側面が段差無く連続するため、液体の流れを阻害しない。孔53の長さは、例えば2mmである。また、孔53は隣接する孔と連結しても良い。これにより、孔内での流体抵抗が低下し、液体の流れがより良くなる。
【0040】
ところで、本実施形態のデバイス本体2は、
図7に示す第1基板21と、第1基板21の上面に部分的に接触して配置される
図8に示す第2基板22とを備えるようにしてもよい。すなわち、マイクロ流体デバイス1は、第1基板21の上面に、第2基板22の下面が部分的に接触するように積層し、接合されて形成されてもよい。このようなマイクロ流体デバイス1の製造方法の一例について、以下で説明する。
【0041】
(基板の準備工程)
マイクロ流体デバイス1を構成する、第1基板21及び第2基板22を準備する。この時点では、第1基板21及び第2基板22は、例えば矩形板状の部材である。
【0042】
第1基板21及び第2基板22を構成する材料には、好ましくは実質的に非多孔質体の材料を使用する。ここで、「実質的に非多孔質体」であるとは、基板の見かけ状の表面積が、実際の表面積に近似している状態を指す。上記のような非多孔質体を形成する材料の例としては、ガラスやシリコンなどの無機材料、又はポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン(PS)、シリコーン等の樹脂材料が挙げられる。なお、これらの樹脂材料が2種以上組み合わせられていても構わない。また、第1基板21と第2基板22とで使用する材料を異ならせてもよい。
【0043】
(第1基板21の形状加工)
第1基板21に対して、リソグラフィ技術を利用し、第1溝51、第2溝52,及び孔53の形成予定領域に対して、微細な深さでエッチングを行う。このエッチング深さは、上述した、第1溝51及び、第2溝52の深さ,並びに孔53の径に相当する高さに応じて設定される。第1溝51、第2溝52,及び孔53の断面形状が同じである場合、この加工によって、マイクロ流路5の形成予定領域の全体に凹凸溝21aが形成されることになる。その後、第1基板21の上面に第2基板22が接合されることで、凹凸溝21aの一部が第2基板22で覆われる結果、複数の孔53が形成される。
【0044】
(第2基板22の形状加工)
第2基板22に対して、第1凹部3及び第2凹部4の形成予定領域に、射出成型、切削加工等の方法により貫通孔22a,22bを形成する。
【0045】
(接合工程)
このように形状加工された第1基板21及び第2基板22が接合され、
図1に示すマイクロ流体デバイス1が得られる。接合方法としては、光やプラズマを使った表面改質を利用した接合、熱接合、接着剤を使った接着、溶剤を使った接合などを利用することができる。接合方法の一例は、以下の通りである。
【0046】
まず、第1基板21及び第2基板22のそれぞれの接合面に対して、表面を活性化する処理を行う。表面活性化処理の方法としては、紫外線を照射する方法が利用できる。具体例としては、紫外線光源から波長200nm以下の真空紫外線(VUV)を照射することで実行される。紫外線光源としては、ピーク波長が172nm近傍を示すXeエキシマランプ、185nmに輝線を有する低圧水銀ランプ、波長120~200nmの範囲に輝線を有する重水素ランプ等を好適に用いることができる。真空紫外線の照度は、例えば10~500mW/cm2であり、照射時間は第1基板21及び第2基板22の形成材料に応じて適宜設定されるが、例えば0.1~60秒間である。
【0047】
次に、表面活性化処理が施された第1基板21及び第2基板22のそれぞれの接合面を接触させ、プレス機等を利用して押圧し、両者を接合する。この工程は、接合を強固にするために、必要に応じて加熱された環境において行われる。接合工程において、加熱温度や押圧力等の接合条件は、第1基板21及び第2基板22の構成材料に応じて設定される。具体的な条件を挙げると、押圧する際の温度は例えば40~150℃であり、接合するための押圧力は例えば、0.1~10MPaである。この接合工程は、第1基板21及び第2基板22のそれぞれの接合面の表面活性化状態が維持された状態で行うのが好ましく、かかる観点から、紫外線照射完了後、例えば10分以内に行うとよい。
【0048】
なお、第1基板21及び第2基板22を加圧した後、必要に応じて更に所定時間加熱してもよい。詳細な一例として、第1基板21及び第2基板22の加圧状態を所定時間にわたって維持した後、その加圧状態を解除して所定温度まで上昇させ、その温度を所期の接合状態が得られるまで維持するようにしてもよい。ここで、所定温度とは、第1基板21及び第2基板22に加熱による変形が生じることのない温度である。
【0049】
その後、冷却工程を経て、第1基板21の上面に第2基板22が部分的に接触してなるマイクロ流体デバイス1が得られる。
【0050】
なお、第2基板22は、第1凹部3の段差部33の位置で分割した2つの板状部材で構成されても構わない。このとき、一方の板状部材に対して、下部空間31の形成予定領域に貫通孔を形成し、他方の板状部材に対して、上部空間32の形成予定領域に貫通孔を形成すればよい。
【0051】
次に、マイクロ流体デバイス1の使用方法の一例について説明する。ここでは、マイクロ流体デバイス1を肝細胞から分泌される胆汁の回収用として使用する例を示す。
【0052】
i)初めに、
図9に実線の矢印で示すように、第1凹部3の下部空間31に肝細胞を播種する。このとき、下部空間31が窪んでいるため、下部空間31に肝細胞を播種しやすい。なお、肝細胞は、分散細胞として投入されるのが好ましい。また、細胞塊として投入されてもよい。このときの細胞塊のサイズは、例えば30~100μm程度である。
【0053】
第1凹部3に投入された肝細胞は、底面3aに接着する。肝細胞は、第1溝51の上部を覆うように底面3aに接着する。
【0054】
ii)次いで、培養液(培地)を第1凹部3に供給し、肝細胞を培養する。このとき、
図9に一点鎖線の矢印で示すように、上部空間32の第2横方向D2の一方側から培養液を供給し、上部空間32に第2横方向D2の他方側から培養液を排出することで、上部空間32で培養液を灌流することができる。第1凹部3が、下部空間31よりも拡大された上部空間32を備えることで、上部空間32で培養液を灌流しつつ、下部空間31で肝細胞を培養することができる。このとき、下部空間31は窪んでいるため、下部空間31内の肝細胞への培養液の灌流の影響を小さくすることができる。肝細胞は、第1凹部3の底面3aの大部分または全てを覆うまでに増殖する。肝細胞が成長するにつれて、肝細胞中に毛細胆管(微小胆管)が形成される。毛細胆管から排泄された胆汁が第1溝51に流れ込む。
【0055】
iii)次いで、
図9に二点鎖線の矢印で示すように、一方の第2凹部4から液体を供給し、他方の第2凹部4からマイクロ流路5の胆汁を回収しながら液体を排出する。このとき、第1凹部3の底面3aの大部分または全てが肝細胞により覆われているため、第1凹部3中の培養液が第1溝51に流れ込むことを大部分または完全に抑制することができる。これにより、肝細胞から排泄された胆汁を高濃度で回収することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0057】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0058】
(1)上記の実施形態では、マイクロ流路5は、第1凹部3と第2凹部4の間に、第2横方向D2に並べて形成され、複数の第1溝51の第1横方向D1の端部にそれぞれ接続される複数の孔53を備えているが、これに限定されない。例えば、マイクロ流路5は、第1凹部3と第2凹部4の間に、複数の第1溝51の第1横方向D1の端部の全てに接続される一つの孔を備えていてもよい。
【0059】
(2)また、マイクロ流路5は、第1凹部3と第2凹部4の間に、第2横方向D2に並べて形成され、複数の第1溝51の第1横方向D1の端部にそれぞれ接続される複数の第3溝を備えていてもよい。
【0060】
(3)上記の実施形態では、マイクロ流路5は、第2凹部4の底面4aにおいて、第2横方向D2に並べて形成された複数の第2溝52を備え、複数の第2溝52は、複数の孔53の第1横方向D1の端部にそれぞれ接続されているが、これに限定されない。例えば、マイクロ流路5は、第2凹部4の底面4aに形成された一つの溝を備え、当該一つの溝は、複数の孔53の第1横方向D1の端部の全てに接続されていてもよい。
【0061】
(4)上記の実施形態では、第1凹部3は、底面3aから上方へ延びる下部空間31と、下部空間31の上端で下部空間31よりも断面積を拡大する段差部33と、下部空間31の上側に隣接し、段差部33によって断面積が拡大された上部空間32と、を備えているが、これに限定されない。例えば、第1凹部3は、段差部33を備えない円柱状の窪みであってもよい。
【0062】
(5)上記の実施形態では、第2溝52は、第2凹部4の底面4aの第1横方向D1の全体に形成されているが、これに限定されない。例えば、第2溝52は、
図10に示すように、第2凹部4の底面4aのうち第1横方向D1の中央まで形成されていてもよい。
【0063】
(6)上記の実施形態では、第1凹部3の底面3aは、正方形状を呈しているが、これに限定されない。例えば、第1凹部3の底面3aは、
図11に示すように、円形状を呈していてもよい。このとき、下部空間31は、円柱状を呈している。
【0064】
(7)上記の実施形態では、第2凹部4は、第1凹部3を第1横方向D1に挟むように2つ設けられているが、これに限定されない。例えば、第2凹部4は、
図12に示すように、第1凹部3に対して1つのみ設けられてもよい。なお、
図12では、説明の便宜のため、デバイス本体2を省略しており、また、マイクロ流路5(第1溝51、第2溝52、孔53)を簡素化して示している(
図13~
図17も同様)。
【0065】
(8)上記の実施形態では、第1凹部3は、1つのみ設けられているが、これに限定されない。例えば、第1凹部3は、
図13に示すように、第1横方向D1に沿って互いに独立して複数設けられてもよい。
図13に示す例では、第1凹部3は、第1横方向D1に沿って互いに独立して2つ設けられているが、3つ以上設けられてもよい。
【0066】
(9)また、第1凹部3及び第2凹部4は、
図14に示すような配置でもよい。
【0067】
(10)また、第1凹部3及び第2凹部4は、
図15に示すような配置でもよい。
図15に示す例では、第2凹部4は、第1凹部3によって第1横方向D1に挟まれている。
【0068】
(11)また、第1凹部3及び第2凹部4は、
図16に示すように、第2横方向D2に沿って複数設けられる、という構成でもよい。
図16に示す例では、第1凹部3及び第2凹部4は、第2横方向D2に沿って2つずつ設けられているが、3つ以上ずつ設けられてもよい。このとき、第1凹部3は、
図16に示すように、隣り合う下部空間31同士は独立し、隣り合う上部空間32同士は連通する、という構成でもよい。
【0069】
(12)また、第1凹部3及び第2凹部4は、
図17に示すような配置でもよい。
図17に示す実施形態は、
図14の形態と
図16の形態を組み合わせたものである。
【符号の説明】
【0070】
1 :マイクロ流体デバイス
2 :デバイス本体
2a :上面
2b :下面
3 :第1凹部
3a :底面
3b :開口
4 :第2凹部
4a :底面
4b :開口
5 :マイクロ流路
21 :第1基板
21a :凹凸溝
22 :第2基板
22a :貫通孔
22b :貫通孔
31 :下部空間
32 :上部空間
33 :段差部
51 :第1溝
52 :第2溝
53 :孔
D1 :第1横方向
D2 :第2横方向
D3 :上下方向