(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014765
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】時計用部材、時計及び時計用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 45/00 20060101AFI20250123BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20250123BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
G04B45/00 V
G04B37/22 Z
G04B19/06 B
G04B37/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117579
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】長澤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】天野 正男
(57)【要約】
【課題】多様な形状を組み合わせて模様を表現できる時計用部材及び時計用部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
透光性を有する基材を含み、前記基材は、表面状態が異なり、異なる外観または質感を呈する複数の表示領域(加工領域134~137)を有し、前記複数の表示領域(加工領域134~137)の集合により所定の模様を呈する模様部(131b)を有し、前記基材の表面には、前記複数の表示領域に跨るように発色層が設けられている、、時計用部材(ベゼル13)。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材を含み、
前記基材は、表面状態が異なり、異なる外観または質感を呈する複数の表示領域を有し、前記複数の表示領域の集合により所定の模様を呈する模様部を有し、
前記基材の表面には、前記複数の表示領域に跨るように発色層が設けられている、時計用部材。
【請求項2】
前記複数の表示領域は、表面形状、表面の位置、表面粗さ、光の反射特性、光の散乱特性、光の干渉特性、明度、彩度、の少なくともいずれかを含む、状態が互いに異なる、請求項1に記載の時計用部材。
【請求項3】
前記複数の表示領域のそれぞれは、散在して配置される複数の単位領域により形成される、請求項1に記載の時計用部材。
【請求項4】
少なくともいずれかの単位領域は多角形状を呈し、
前記複数の表示領域間の境界ラインの少なくとも一部が屈曲する、請求項3に記載の時計用部材。
【請求項5】
前記発色層は、前記表示領域に重なる領域の一部が除去されていて、
前記発色層を除去した部分から前記発色層を残存させた部分にかけて跨るように設けられた第2発色層をさらに備える、請求項1に記載の時計用部材。
【請求項6】
前記複数の表示領域は互いに重畳しない、請求項1に記載の時計用部材。
【請求項7】
ケースと、
前記ケース内に収容された時計モジュールと、
前記ケースに組付けられた、請求項1乃至6のいずれかに記載の時計用部材と、
を備える時計。
【請求項8】
前記模様部は、前記時計用部材における、前記時計に組み込まれた際に内側となる面に設けられる、請求項7に記載の時計。
【請求項9】
前記基材は透明部材であり、
前記模様部と共通する模様を呈するとともに金属材料で構成される別部材を備える、請求項7に記載の時計。
【請求項10】
前記時計用部材は、前記時計のベゼルであり、
前記別部材は、前記時計の文字板である、請求項9に記載の時計。
【請求項11】
基材の表面の対象領域において互いに区画された複数の表示領域の集合により所定の模様を呈するように、前記複数の表示領域に対して互いに異なる加工条件でレーザー加工処理を行う、
時計用部材の製造方法。
【請求項12】
前記レーザー加工処理は光を照射する照射処理であって、前記複数の表示領域において、光の種類、光の強さ、出力、光照射の走査距離、光照射の走査方向、光照射の走査ピッチ、の少なくともいずれかを含む加工条件が互いに異なる、請求項11に記載の、時計用部材の製造方法。
【請求項13】
前記基材は、透光性を有し、
前記基材の表面の前記複数の表示領域に跨るように発色層を設ける、ことをさらに含む、請求項12に記載の時計用部材の製造方法。
【請求項14】
前記発色層を一部除去してから、前記発色層を除去した部分から前記発色層を残存させた部分にかけて跨るように第2発色層を設ける、ことをさらに含む、請求項13に記載の時計用部材の製造方法。
【請求項15】
基材の表面の対象領域において互いに区画された複数の表示領域の集合により所定の模様を呈するように、前記複数の表示領域に対して互いに異なる加工条件でレーザー加工処理を行い、
内部に時計モジュールおよび文字板が収容されたケースに前記基材を有する時計用部材を組み付ける、時計の製造方法。
【請求項16】
レーザー加工処理を行った前記基材の表面に、前記ケースに前記基材を組み付ける前に、発色層を設ける、請求項15に記載の時計の製造方法。
【請求項17】
前記ケースに前記基材を組み付ける前に、前記発色層の一部を除去し、前記発色層を除去した部分から前記発色層を残存させた部分にかけて跨るように第2発色層を設ける、請求項16に記載の時計の製造方法。
【請求項18】
前記文字板は金属材料から構成され、少なくとも視認側の表面が前記対象領域の前記模様と共通する模様を呈するように処理が施されている、請求項15に記載の時計の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部材、時計及び時計用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計の外装部材等の時計用部材において、表面に加工を施して様々な模様を形成している。
【0003】
このような時計用部材においては、より一層多様な外観デザインを表現できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多様な外観デザインを表現できる時計用部材、時計、及び時計用部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態にかかる時計用部材は、透光性を有する基材を含み、前記基材は、表面状態が異なり、異なる外観または質感を呈する複数の表示領域を有し、前記複数の表示領域の集合により所定の模様を呈する模様部を有し、前記基材の表面には、前記複数の表示領域に跨るように発色層が設けられている。
【0007】
本発明の他の一形態にかかる時計は、ケースと、前記ケース内に収容された時計モジュールと、前記ケースに組付けられた、請求項1乃至7のいずれかに記載の時計用部材と、を備える。
【0008】
本発明の他の一形態にかかる時計用部材の製造方法は、基材の表面の対象領域において互いに区画された複数の表示領域の集合により所定の模様を呈するように、前記複数の表示領域に対して互いに異なる加工条件でレーザー加工処理を行う。
【0009】
本発明の他の一形態にかかる時計の製造方法は、基材の表面の対象領域において互いに区画された複数の表示領域の集合により所定の模様を呈するように、前記複数の表示領域に対して互いに異なる加工条件でレーザー加工処理を行い、内部に時計モジュールおよび文字板が収容されたケースに前記基材を有する時計用部材を組み付ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば多様な外観デザインを表現できる時計用部材、時計、及び時計用部材の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る時計の構成を示す斜視図である。
【
図5】実施形態に係るベゼルの模様部の説明図である。
【
図7】実施形態にかかるベゼルの模様部を示す下面図である。
【
図8】実施形態にかかるベゼルの製造方法を示す説明図である。
【
図9】実施形態にかかるベゼルの製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の第1実施形態にかかる機器としての時計1、及び時計1の製造方法について、
図1乃至
図8を参照して説明する。
図1は時計1の構成を示す斜視図であり、
図2は時計の構成を示す平面図である。
図3は時計の構成を示す断面図であり、
図4はベゼル13の平面図である。
図5はベゼルの模様部を裏側から見た図であり、
図6はベゼルの断面図である。
図7はベゼルの模様部131bを示す下面図であり、
図8及び
図9はベゼルの製造方法を示す説明図である。
【0013】
図中X軸、Y軸、及びZ軸は互いに直交する3方向を示す。各図において、X軸はアナログ式の時計における3時-9時方向に沿い、Y軸は12時-6時方向、Z軸は時計1の正面-裏面方向(第1方向)に沿う姿勢を一例として示す。なお、各図において、適宜構成を拡大、縮小、省略して概略的に示す。
【0014】
本実施形態において、裏蓋12側を裏側とし、風防部材等のカバー14の外面が向く方を表側として、時計1を説明する。例えば時計1は、裏蓋12の外側の面が装着対象である腕に対向する姿勢で腕に装着される。
【0015】
図1乃至
図3に示す時計1は、例えば、ユーザの手首に装着される腕時計である。時計1は、時計ケース10と、時計ケース10の内部に設けられる表示部15と、時計モジュール20と、を備える。また、時計1は、時計ケース10の外周部に接続される時計バンドや、時計ケース10の外周に配された複数のスイッチやりゅうず16を備える。
【0016】
時計ケース10は、円形状に構成され、時計モジュール20の外周部に配されるセンター部材としてのセンターケース11と、時計モジュール20の裏側(裏面側)に配置される裏蓋12と、センターケース11の表側の外周部に配される機器用部材としてのベゼル13と、時計モジュール20及び表示部15の表側(正面側)を覆うカバー14と、を有する。時計ケース10は、センターケース11及び裏蓋12によって、時計モジュール20及び表示部15が配置される収容空間を構成する。
【0017】
例えば時計1は、一例として一方向に沿う中心軸を有する円形状に構成され、時計ケース10を構成するセンターケース11、裏蓋12、ベゼル13、カバー14が、同心円状あるいは同心円に近い形状に、それぞれ構成される。なお、時計1及び各部材の形状は円形に限られず、角形その他の形状であってもよい。
【0018】
センターケース11は、中央に開口部を形成する枠状に構成される。センターケース11は、開口部の表側がカバー14で覆われ、裏側が裏蓋12で覆われることで、内側に時計モジュール20及び表示部15が配される収容空間11a(収容部)を構成する。センターケース11は複数の部材を組み合わせて構成されていてもよい。例えばセンターケース11は、第1ケース部材111と、第2ケース部材112と、を備える。
【0019】
第1ケース部材111はチタン等の金属材料で、一方向に沿う軸を有する円筒状に構成される。第1ケース部材111は例えば時計モジュール20及び表示部15の外周に配される周壁部を有する。第1ケース部材111は、裏側の端部に、裏蓋12に係合する環状の保持部111aを有する。例えば、保持部111aは、第1ケース部材111の内周縁の裏側の縁部に形成され、裏蓋12の係合筒部1213に係合する係合構造を有する。保持部111aは、パッキンや接着剤などの接続部材51を介して嵌め込まれた裏蓋12を保持する。
第1ケース部材111の表側に、第2ケース部材112が配置される。
【0020】
第2ケース部材112は、チタン等の金属材料で、一方向に沿う軸を有する円筒状に構成される。例えば第2ケース部材112は、カバー14の外周部に配される周壁部を有する。
【0021】
また、第2ケース部材112は、表側に開口しベゼル13が配置される周溝状の凹部113を有する。例えば凹部113は、ベゼル13の形状に沿う所定の形状に構成される。一例として、凹部113は、ベゼル13の内周面13cに対向する第1周面113aと、ベゼル13の裏面13bに対向する座面113bと、ベゼルの外周面13dに沿う第2周面113cと、を有する。座面113bは、第1方向に直交する平面を形成する。第1周面113aは座面113bから軸方向に沿って表側に立ち上がる外壁面を形成する。第2周面113cは座面113bから軸方向に沿って表側に立ち上がる内壁面を形成する。
【0022】
また、第2ケース部材112は、表側の内周側に、パッキンなどの防水部材である接続部材52を介してカバー14を保持する保持枠114を有する。すなわち、周壁部の表側の内周側には、パッキンなどの接続部材52を介してカバー14が装着される。
【0023】
一例として、センターケース11、裏蓋12、ベゼル13、カバー14、文字板17等の各部の部材は、同心円状、あるいは例えば八角形などの角型の場合には同形状で、互いに組付けられる対象部材の外形状に沿う形状である。
【0024】
裏蓋12は、センターケース11及び時計モジュール20の裏側を覆う板状部材である。例えば裏蓋12は例えば金属材料で構成され、板状に構成され時計ケース10の底部を構成するプレート部1212と、プレート部1212の外周縁から表側に立設される係合筒部1213と、を一体に有する。
【0025】
係合筒部1213は表側に突出する筒状部材である。例えば係合筒部1213は、センターケース11の第1ケース部材111に係合する。係合筒部1213は、センターケース11の裏側の開口に挿入され、センターケース11に締結、接着、接合等により固定される。例えば裏蓋12は、センターケース11に対してパッキンや接着剤等の接続部材51を介して、接合される。
【0026】
図1乃至
図6に示すように、ベゼル13は開口部を有する環板状に構成される。例えばベゼル13は外装部材の一例であり、カバー14等の各種部品を保護及び支持する。ベゼル13はセンターケース11の正面側の外周に取付けられる。具体的には、ベゼル13は、第2ケース部材112に形成される凹部113に配される。ベゼル13は、例えば接着により、あるいは各種締結部材により、センターケース11に、固定される。一例としてベゼル13は接着剤や締結部材等の接続部材を介して、センターケース11に接合される。
【0027】
ベゼル13は、透光性材料で構成されるベゼルベース131と、ベゼルベース131の表面13aに形成される被膜部(発色層)132と、を備える。
【0028】
ベゼルベース131は、可視光を透過する透光材料で、円形あるいは多角形の環状に構成される。ベゼルベース131は、例えば単結晶構造であるサファイアガラスで構成される。具体例として、
図6に示すようにベゼルベース131は、表面13a、裏面13b、内周面13c、及び外周面13dを有し、矩形状の断面を有する環状に形成される。表面13aと内周面13c、表面13aと外周面13d、裏面13bと内周面13c、及び裏面13bと外周面13dの間に形成される角部は面取りされ、テーパ面13e、13f、13g、13hをそれぞれ形成する。ベゼル13の外面は、所定の平滑度まで鏡面仕上げが施されている。例えばベゼル13は、軸方向寸法である厚みが1.4mm以上に構成される。例えば厚みは2mm以上であり、好ましくは3mm以上の厚さを有する。ベゼル13は、平面視において第2ケース部材112の凹部113と同形状に構成される。
【0029】
ベゼル13の内周面13cは凹部113の第1周面113aと同径であって軸方向に延びる曲面状に構成される。ベゼル13の外周面13dは凹部113の第2周面113cと、略同径であって軸方向に延びる曲面状に構成される。すなわちベゼル13の外面と凹部113の内面との間はごく僅かな隙間が形成されるか、あるいは殆ど隙間が形成されない寸法に構成される。
【0030】
ベゼルベース131の表面には模様部131bが形成される。模様部131bは、時計1に組み込まれた際に内側となる面に設けられる。例えば模様部131bは、時計1の時計ケース10内に配置され、または他の部材と対向配置される、外面側に露出しない、内側の面に設けられる。一例として模様部131bは、ベゼルベース131の裏面13bに設けられる。一例としてベゼル13の裏面13bの全域に、模様部131bが形成される。
【0031】
図5乃至
図7に示すように、模様部131bは、互いに表面加工の加工条件が異なる複数の加工領域134~137(表示領域)の集合により、全体的に見ると、所定の模様を呈する。模様部131bは、表面状態が異なる複数の加工領域134~137間に生じるコントラストによって、所定の模様を呈する。
【0032】
表面状態は、例えば表面形状、表面の位置(深さ)、表面粗さ、表面における光の反射特性、光の散乱特性、光の干渉特性、明度、彩度、の少なくともいずれかを含み、これらのいずれかが異なることで、加工領域134~137毎に異なる質感等の異なるテクスチャーを呈している。実施形態にかかる模様部131bは、一例として4種類の加工領域134~137により結晶調の模様を形成している。
【0033】
複数の加工領域134~137は、散在して配置される複数の単位領域134a~137aを有する。
図7において、同一の加工領域134~137に属する複数の単位領域134a~137a同士は、互いに同種のハッチングで示している。同じ加工領域に属する複数の単位領域同士は同じ加工条件で加工され、同じあるいは表面状態、あるいは共通の表面状態を呈する。すなわち、第1の加工領域134は、散在する複数の単位領域134aで構成され、複数の単位領域134aは共通する加工条件によって加工され、共通する外観を呈している。複数の加工領域134~137は、異なる加工条件により異なる表面形状に形成される。例えば、複数の加工領域134~137は互いに重畳しない位置に設定される。模様部131bは、複数の加工領域134~137の単位加工領域134a~137aの集合によって、全体的に見ると、結晶調、繊維調、または迷彩柄といった所定の模様を呈するように視認される。
【0034】
本実施形態においては一例として形状や大きさが不揃いな多角形状に区画された複数の単位加工領域134a~137aの集合により、模様部131bに結晶調の模様が形成される例を示す。すなわち、模様部131bは、複数の単位領域134a~137aの集合で構成され、少なくともいずれかの単位領域134a~137aは多角形状を呈している。すなわち、複数の加工領域134~137間、単位領域134a~137a間の境界ラインの少なくとも一部は屈曲する角部を有する。
【0035】
複数の加工領域134~137は、表面加工の一例としてのレーザー加工処理によって形成される。例えば加工領域や処理条件を設定できるレーザー加工機などの処理装置を用いて表面加工を行う。処理装置は、例えば条件設定として、照射する光の強さ、光の種類、出力、やエッチングの深さ、走査方向や走査距離、走査ピッチなどの各種条件をエリア毎に設定可能に構成される。
【0036】
また、例えば、処理装置において、条件設定として、領域ごとに、ホーニング、ヘアライン、ホログラムなどの加工状態として選択し、あるいは加工の段階を選択設定して加工することで、各種の表面状態が形成される。
【0037】
図4及び
図6に示すように、被膜部132は、ベゼルベース131の裏面13bに形成される。被膜部132は、可視光に含まれるある波長域の光を反射するものであり、本実施形態では青色の薄膜である。一例として、被膜部132は、例えば蒸着処理により成膜される金属の蒸着膜である。被膜部132は、ベゼルベース13の裏面に形成された模様部131bの裏側の表面に重ねて配置される。被膜部132は、ベゼル13の裏面13bに加え、裏側のテーパ面13f、13gに形成されていてもよい。例えば被膜部132は、複数の表示領域に跨るように設けられる。
【0038】
皮膜部132は、発色層として機能する。皮膜部132を発色させる手法は、例えば、複数の膜を積層することで干渉によって発色させたり、視認性のある単層の膜を成膜することで発色させたりしてよい。また、皮膜部132の成膜方法も、蒸着やスパッタなどの公知の手法を用いてよい。また、皮膜部132の形成方法については、これらの例示した方法には限定されず、成膜方法や成膜に用いる材料は、成膜後の皮膜部132ないしはベゼルベース131の裏面13bが、所望する色として視認できるように適宜選択してよい。
【0039】
図4及び
図6に示すように、ベゼル13の裏面13bは、被膜部132の一部が除去されたエッチング部132aを有していてもよい。たとえば、ベゼル13の裏面の被膜部132において、文字や目盛りなどの記号の形状に対応するパターンで被膜部132の一部が除去されたエッチング部132aが形成されることで、表面側から当該文字や目盛りなどの記号の形状が視認可能に構成されている。
【0040】
表示部15は、時刻や日付などの情報を表示する文字板17や指針を備える。文字板17は、円板あるいは多角形の板状に構成され、センターケース11の収容空間11a内の上部に配置される。文字板17の一方の面側である表面外周部分には、各種の時字が設けられた見切り部材が配置されている。指針は、文字板17の中心部に設けられる指針軸に支持され回動する針体を備える。
【0041】
時計モジュール20は、表示部15を動作させるムーブメント、ICやアンテナ等の電子部品を搭載した回路基板、電池等、時計機能に必要な各種部品を備える。例えば表示部15は、デジタル表示機能を備える液晶表示パネル等を有するデジタル方式であってもよく、アナログ方式であってもよい。
【0042】
カバー14は、例えばSiO2ガラス等の無機ガラス等で形成された透明部材である。例えばカバー14は透明な円板形状の時計ガラスであり、時計モジュール20及び表示部15の表側に配され、時計モジュール20及び表示部15の表側を覆う。例えば、カバー14はパッキンなどの接続部材を介して、センターケース11の開口部の表側の内周縁に支持される。
【0043】
次に、実施形態にかかる時計1の製造方法について
図8及び
図9を参照して説明する。
図8及び
図9は、ベゼル13の製造方法を説明するための図であり、ベゼル13の製造方法の流れを示すフロー図である。
図8において、模様形成工程の各処理ST2~ST5では、前段階までに加工された領域は省略し、各処理工程ST2~ST5において加工される加工領域134~137をそれぞれ別別に示している。
【0044】
本実施形態にかかる時計1の製造方法は、ベゼルベース131を加工するベース加工処理と、ベゼルベース131の裏面に表面処理により模様を形成する模様形成工程と、作製されたベゼル13をセンターケース11に組み付ける組付け工程と、を備える。本実施形態にかかる時計の製造方法は、基材の表面の対象領域において互いに区画された複数の加工領域に、異なる加工条件で表面処理を行い、複数の加工領域間に生じるコントラストにより所定の模様を形成する。
【0045】
ベゼル13の作製において、まず、基材となるサファイアガラスを環状に形成する(ステップST1)。ここでは、サファイアガラスが各面13a~13hを有する最終形状まで加工された後に、各面13a~13hが鏡面仕上げされる。ステップST1により、ブランク状態(透明)のベゼルベース131が作製される。
【0046】
次に、加工工程後のベゼルベース131の裏面13bに、表面加工処理として、加工領域毎に異なる光の照射条件で光照射処理を行う。
【0047】
具体的には、
図8に示すように、ベゼルベース131の裏面において、第1の加工領域134に第1条件でレーザエッチング処理を施す第1表面処理(ステップST2)と、第2の加工領域に第2の条件でレーザエッチング処理を施す第2表面処理(ステップST3)と、第3の加工領域に第3の条件でレーザエッチング処理を施す第3表面処理(ステップST4)と、第4の加工領域に第4の条件でレーザエッチング処理を施す第4表面処理(ステップST5)と、を備える。
【0048】
表面加工装置の設定により、表面仕上げの状態を設定することで、加工条件を設定してもよい。例えばホーニング調、一方向に揃う複数の線状の模様が形成されているヘアライン調、微細な凹凸によって様々な方向に反射し反射光が互いに干渉しあうホログラム調、などの表面仕上げを、加工領域毎に選択してもよい。また、同じ仕上げの種類で、異なる条件を選択設定してもよい。一例として、第1の加工領域134は薄いホーニング調、第2の加工領域135は濃いホーニング調、第3の加工領域136はヘアライン調、第4の加工領域137はホログラム調等のように、各領域に異なる処理条件を設定することで、領域毎に異なる外観や異なる質感が形成される。以上により、複数の加工領域134a~137aに、異なる表面形状が形成され、全体として、
図7に示す結晶調の模様が形成される。
【0049】
次に、表面加工処理後のベゼルベース131の裏面13bに対し、蒸着により、金属蒸着膜である被膜部132を形成する(ステップST6)。
【0050】
さらに、
図9に示すように、被膜部132に所定のパターンでエッチング処理を行い、被膜部132が除去されたエッチング部132aを形成する(ステップST7)。このとき、例えば各種文字や目盛りや記号などの形状に対応したパターンでエッチング部132aを形成することで、各種文字や目盛りや記号を表面から視認することができる。
【0051】
なお、被膜部132やエッチング部132aの形成工程は、ベゼルベース131のレーザー加工処理後であって、センターケース11に組み付ける前のタイミングで、行われる。
【0052】
続いて、エッチングによって被膜部132が除去されたエッチング部132aを含む被膜部132の裏側の表面に、さらに、視認可能に発色する印刷層133(第2発色層)を重ねて形成してもよい(ステップST8)。すなわち、被膜部132を一部除去した後、除去した部分であるエッチング部132aから、エッチング部132a以外の被膜部132を残存させた部分132bにかけて跨るように、印刷層133を形成する。一例として印刷層133はベゼルベース131裏面の全面に被膜部132の金属蒸着膜に重ねて、形成される。
この場合、エッチングで除去されたエッチング部132aの透明なベゼルベース131の裏側の面に当該印刷層133の色が重ねて配置されることで、表側から視認した場合に
図2に示すようにエッチング部132aの各種文字や目盛りや記号が印刷層133の色として、表側から見えるようになる。
【0053】
以上により、裏面13b及び裏側のテーパ面13fに不透明層としての被膜部132が形成されたベゼル13が作製される。
【0054】
さらに、作製したベゼル13を、センターケース11の凹部113に挿入することにより、ベゼル13をセンターケース11に組付ける(ステップST8)。
【0055】
以上のように構成された時計1及び時計ケース10によれば、加工条件が異なる複数の加工領域の集合により模様を表現するため、多様な模様を表現できる。
【0056】
例えば蒸着などにより着色する場合、領域毎で異なる色を呈するためには蒸着と剥離を繰り返し行う必要があり、手順が非常に複雑となるが、透明な基材の表面加工においてレーザー照射の条件を変え、異なる外観や質感を表現した複数の領域の集合により、多様な模様を表現できる。このため、蒸着処理を一度だけ行うだけでよく、剥離処理は行わなくてもよい。例えば加工領域の形状を不揃いな多角形状とすることで結晶調の模様を表現することができる。
【0057】
なお、上述した実施形態は例示であり、発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
例えば上記実施形態において、4種類の加工領域を設定したが、これに限られるものではない。また、領域間が重ならない配置としたがこれに限られない。例えば複数の条件で重ねて加工する部位を形成し、別の領域として設定することもできる。
【0059】
例えば上記実施形態において表面領域は各種条件で加工が施された加工領域を例示したが、表面領域として、加工を行わない非加工領域を備えていてもよい。すなわち、加工条件の1つとして加工を行わない領域を含んでいてもよい。
【0060】
また、時計1の内側の面、すなわち上記実施形態の場合にはベゼル13の裏面に、模様部131bを形成する例を示したが、これに限られるものではない。例えば時計用部材の外面側に露出する部位に、模様部131bを形成してもよい。
【0061】
なお、上記実施形態において、ベゼル13の裏面に模様部131bが形成され、蒸着膜である皮膜部132がベゼル13の裏面側に模様部131b上に重ねて形成される例を示したが、これに限られるものではない。皮膜部132は、ベゼル13の面上において、模様部131bが形成される面とは反対側の面に形成されていてもよい。すなわち、模様部131bはベゼル13の表面、皮膜31はベゼル13の裏面に、それぞれ形成されていてもよい。場合によっては、ベゼル13の表面に模様部131bが形成され、皮膜部132がベゼル13の表面側に模様部131b上に重ねて形成されてもよい。
【0062】
また、模様部131bの模様は結晶調に限られるものではない。上述したように模様部131bの模様は例えば他に迷彩柄、カーボン調、平織り調、繊維調など、各種模様を形成することができ、異なる表面形状を有する部位が複数集まって形成できる各種模様に適用できる。例えば格子状に区分けされ、隣接する格子内に、縦方向あるいは横方向の繊維状の模様が形成された領域を縦横交互に配置することで、平織り状、カーボン調などの模様を表現することができる。なお、領域の形状は規則的であっても、不規則的であってもよい。
【0063】
また、他の実施形態として、例えば同じ機器を構成する他の部分のテクスチャーと共通性のある模様部を形成してもよい。例えば時計は、金属材料から構成されるとともに少なくとも視認側の表面が模様部と共通する模様を呈するように処理が施された別部材を備える。例えば時計において、表示部15を構成する文字板17として、金属材料の再結晶による結晶調の外観を呈する別部材を備え、ベゼルはサファイアガラスに異なる条件で加工した複数の加工領域を形成し、複数の加工領域の集合により結晶調の外観を呈する構成とすることで、機器全体として外観の統一性を持たせることができる。
【0064】
また、被膜部132の色は青色以外であってもよい。また、複数の非視認側面に対応した複数の被膜部132を形成する場合、これらの色が異なっていてもよい。
【0065】
また、蒸着膜である被膜部132が形成されなくてもよい。
【0066】
また、上記実施形態において機器の一例として時計ケース10を例示し、時計用部材としてベゼル13を例したが、これに限られるものではない。例えば時計1のカバー14、りゅうず16、文字板17、裏蓋12等の、他の時計用部材にも適用可能である。また、例えば時刻機能の他、生体情報を取り扱うリスト機器等の各種のウェアラブルデバイスに適用することもできる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1…時計
10…時計ケース
11…センターケース
12…裏蓋
13…ベゼル
14…カバー
15…表示部
16…りゅうず
17…文字板
131…ベゼルベース
13a…表面
13b…裏面
13c…内周面
13d…外周面
13e、13f、13g、13h…テーパ面
14…カバー
20…時計モジュール
51…接続部材
52…接続部材
113…凹部
114…保持枠
1212…プレート部
1213…係合筒部
132…皮膜部(発色層)
133…印刷層(第2発色層)