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特開2025-14781セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金
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  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図1
  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図2
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  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図6
  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図7A
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  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図8A
  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図8B
  • 特開-セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金 図9
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014781
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/04 20060101AFI20250123BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
E21D11/04 A
E21D9/06 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117606
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川島 広志
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岩元 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲寛
【テーマコード(参考)】
2D054
2D155
【Fターム(参考)】
2D054AA03
2D054AA04
2D054AC01
2D054EA09
2D155BA01
2D155BB10
2D155EB02
(57)【要約】
【課題】トンネルの軸方向や周方向の誤差を吸収可能とし、軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造と接合方法、この接合構造や接合方法に適用されるセグメントの長孔隙間閉塞用座金を提供する。
【解決手段】相互に隣接する第1セグメント20Cと第2セグメント20Bの接合板27,27Aを接合してトンネルを形成する、セグメントの接合構造70であり、接合板27,27Aにはボルト孔27c、27dが設けられ、少なくとも一方のボルト孔27dは長孔であり、接合板27Aとボルトの頭部51との間には第1貫通孔34を備えている第1座金30が介在し、長孔27dにおけるボルト50が存在しない隙間は間詰材40にて閉塞され、第1座金30は、厚み方向に延びて間詰材40が注入される第2貫通孔36と、第2貫通孔36と長孔27dを導通する導通孔37をさらに備えている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成する、セグメントの接合構造であって、
双方の前記接合板の対応する位置にはそれぞれボルト孔が設けられ、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、
前記長孔を備えている前記接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間には、その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔を備えている、第1座金が介在しており、
前記長孔のうち、前記ボルトが存在しない隙間は間詰材にて閉塞されており、
前記第1座金は、前記厚み方向に延びて前記間詰材が注入される第2貫通孔と、該第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、をさらに備えていることを特徴とする、セグメントの接合構造。
【請求項2】
前記第1座金は、前記接合板に当接する当接面における前記第1貫通孔の周囲において、該第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることを特徴とする、請求項1に記載のセグメントの接合構造。
【請求項3】
前記第1座金は、前記接合板に当接する当接面において、前記長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセグメントの接合構造。
【請求項4】
前記双方の接合板がいずれも前記長孔を有する場合に、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の双方に前記第1座金が介在している、もしくは、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の一方に前記第1座金が介在し、他方には前記第1貫通孔のみを備えて前記長孔をその側方から閉塞する第2座金が介在している、のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のセグメントの接合構造。
【請求項5】
いずれか一方の前記接合板のみが前記長孔を有する場合に、
前記長孔を備えていない前記接合板には、
予め溶接接合されていない前記ボルトの頭部もしくは前記ナットが当接している、もしくは、
溶接接合にて前記ナットが予め固定されている、もしくは、
前記ボルトが螺合する螺子溝であるボルト孔が設けられている、のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のセグメントの接合構造。
【請求項6】
前記第1セグメントと前記第2セグメントは、並設する2本のトンネルを繋ぐ切開きトンネルにおいて、その軸方向にリング継手を介して隣接する2つのKセグメント、もしくは、その周方向にセグメント継手を介して隣接するKセグメントとBセグメントであり、
前記接合板は、前記リング継手もしくは前記セグメント継手を形成する、継手板及び/又は主桁であり、
前記長孔は、前記Kセグメントもしくは前記Bセグメントの径方向もしくは略径方向に長いことを特徴とする、請求項1に記載のセグメントの接合構造。
【請求項7】
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成する、セグメントの接合方法であって、
双方の前記接合板の対応する位置にはそれぞれボルト孔が設けられ、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、
相互に連通する前記ボルト孔の一方側からボルトを挿通し、他方側において、ナットにより締め付ける、もしくは、他方側の螺子溝に螺合し、この際に、前記ボルトの頭部もしくは前記ナットと前記長孔を備えている前記接合板との間には、その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔を備えている、第1座金を介在させ、該長孔のうち、該ボルトが存在しない隙間を形成する、A工程と、
前記第1座金は、前記厚み方向に延びて間詰材が注入される第2貫通孔と、該第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、をさらに備え、該第2貫通孔を介して間詰材を注入し、該間詰材を該導通孔を介して前記隙間に充填して該隙間を閉塞する、B工程とを有することを特徴とする、セグメントの接合方法。
【請求項8】
前記双方の接合板がいずれも前記長孔を有する場合に、
前記A工程では、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の双方に前記第1座金を介在させる、もしくは、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の一方に前記第1座金を介在させ、他方には前記第1貫通孔のみを備えて前記長孔をその側方から閉塞する第2座金を介在させる、のいずれかを行うことを特徴とする、請求項7に記載のセグメントの接合方法。
【請求項9】
いずれか一方の前記接合板のみが前記長孔を有する場合に、
前記A工程では、
前記長孔を有する前記接合板に対して前記第1座金を当接させ、該第1座金の前記第1貫通孔に前記ボルトを挿通し、
他方の前記接合板にナットを当接させてボルト接合する、もしくは、
溶接接合にて前記ナットが予め固定されている他方の前記接合板の該ナットにボルト接合する、もしくは、
他方の前記接合板が備えている螺子溝であるボルト孔に対してボルトを螺合する、のいずれかを行うことを特徴とする、請求項7に記載のセグメントの接合方法。
【請求項10】
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成し、双方の該接合板の対応する位置に設けられているボルト孔のうち、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、一方側からボルトが挿通され、他方側において、ナットにより締め付けられる、もしくは、他方側の螺子溝に螺合されることにより形成される、セグメントの接合構造において、前記ボルトの頭部もしくは前記ナットと前記長孔を備えている前記接合板との間に適用されて、前記長孔のうち、前記ボルトが存在しない隙間を間詰材により閉塞する、セグメントの長孔隙間閉塞用座金であって、
その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔と、
前記厚み方向に延びて前記間詰材が注入される第2貫通孔と、
前記第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、を備えていることを特徴とする、セグメントの長孔隙間閉塞用座金。
【請求項11】
前記接合板に当接する当接面における前記第1貫通孔の周囲において、該第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることを特徴とする、請求項10に記載のセグメントの長孔隙間閉塞用座金。
【請求項12】
前記接合板に当接する当接面において、前記長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることを特徴とする、請求項10又は11に記載のセグメントの長孔隙間閉塞用座金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、軟弱な地盤が分布する都市部において道路トンネルを施工する場合、開削工法の適用が一般的であるものの、開削工法は、工事中の騒音や振動、交通規制等の課題を内在している。また、都市部の道路下空間は、複数の地下鉄や共同溝等の埋設物が輻輳していることから、新たに施工しようとするトンネルの設置深度は往々にして深くなる傾向にあり、設置深度の深層化は建設費の増大に直結する。このような背景の下、道路トンネルの施工に際してシールド工法を適用するケースが増加している。
ところで、道路トンネルの施工に当たり、一般の道路トンネルの施工では、例えば1台のシールド掘進機の掘進によって断面円形の本線トンネルが施工されることで足りる。一方、道路トンネルの分合流部の施工では、本線トンネルとランプトンネルの各断面を包括する、極めて大規模な地中拡幅が必要になり、その施工方法には様々な工夫を講じる必要がある。
施工方法の一例として、本線トンネルとランプトンネルの2つのトンネル間に円弧状もしくは直線状のパイプルーフを架け渡して先受け支保工を施工する方法が挙げられる。この先受け支保工を施工した後、トンネル内を支保工にて支持し、上方のパイプルーフ直下を掘削しながらトンネルの一部を撤去することにより、例えば多連円弧状の大断面空間が形成される。そして、このように形成された大断面空間において、上記する道路トンネルの分合流部等の構造物を構築することができる。
このように、相互に併設する本線トンネルとランプトンネルといった2本のトンネルを繋ぐトンネルは、切開きトンネルや切拡げトンネルと称することができ、この切開きトンネルにて使用されるセグメントは切開きセグメントや切拡げセグメントと称することができる。以下、「切開き」と「切拡げ」は同義として扱う。
【0003】
切開きトンネルの施工は、併設する2本のシールドトンネルを施工し、現地測量を実施した後に行われることから、切開きトンネルの軸方向(トンネル軸方向)や周方向において相互に接合される切開きセグメント同士の接合構造(セグメント継手構造やリング継手構造)は、この測量により生じ得る測量誤差と製作の際の製作誤差の双方を吸収する必要がある。
さらに、切開きトンネルのトンネル軸方向の切開きセグメント同士の接合構造(リング継手構造)には、リング間せん断力が十分に伝達される構造が必要とされる。
【0004】
以上のことから、切開きトンネルにおいて、そのトンネル軸方向及び/又は周方向の誤差を吸収可能とし、かつ、そのトンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造と接合方法が望まれる。
【0005】
ここで、特許文献1には、KセグメントとBセグメント、切開きトンネル、及びその施工方法が提案されている。この切開きトンネルにおいて、各セグメントリングを形成するKセグメントのリング継手には長孔であるリング継ぎボルト孔が設けられており、隣接するKセグメントの双方の対応する長孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、施工誤差を吸収しつつセグメントリング同士が接合されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-80676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のKセグメントとBセグメント、切開きトンネル、及びその施工方法によれば、切開きトンネルにおいて、そのトンネル軸方向や周方向の誤差を吸収することができる。しかしながら、例えばトンネル軸方向に隣接するKセグメント同士の双方の対応する長孔にボルトが挿通されてボルト接合される構造において、長孔の一部に隙間が残ることにより、リング間せん断力の伝達性能に関して改善の余地が生じ得る。
【0008】
本発明は、トンネル軸方向及び/又は周方向の誤差を吸収可能とし、かつ、そのトンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造と接合方法、さらには、この接合構造や接合方法に適用されるセグメントの長孔隙間閉塞用座金を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明によるセグメントの接合構造の一態様は、
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成する、セグメントの接合構造であって、
双方の前記接合板の対応する位置にはそれぞれボルト孔が設けられ、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、
前記長孔を備えている前記接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間には、その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔を備えている、第1座金が介在しており、
前記長孔のうち、前記ボルトが存在しない隙間は間詰材にて閉塞されており、
前記第1座金は、前記厚み方向に延びて前記間詰材が注入される第2貫通孔と、該第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、をさらに備えていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板の対応する位置にあるボルト孔の少なくとも一方が長孔であり、双方のボルト孔にボルトが挿通されてボルト接合されることにより、測量誤差や施工誤差、セグメントの製作誤差を含む誤差を吸収可能なセグメントの接合構造となる。
さらに、長孔を備えている接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間に第1座金が介在し、この第1座金が、間詰材が注入される第2貫通孔と、第2貫通孔と長孔を導通する導通孔とを備え、これらの貫通孔と導通孔を介して注入された間詰材が長孔の隙間を閉塞していることにより、トンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造となる。
【0011】
ここで、第1セグメントと第2セグメントは、トンネル軸方向にリング継手を介して隣接する例えば2つのKセグメント(最後に設置されるセグメント)を含むセグメントであってもよいし、周方向にセグメント継手を介して隣接するKセグメントとその側方にあるBセグメントであってもよい。前者の場合は、誤差を吸収できる効果に加えて、リング間せん断力を十分に伝達できる効果が奏される。
【0012】
また、「第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板の対応する位置にあるボルト孔の少なくとも一方が長孔である」とは、いずれか一方が長孔であり、他方がボルト径程度のボルト孔である形態と、双方がともに長孔である形態を含んでいる。
後者の形態では、双方の接合板に対して、第1座金が設置されてもよいし、一方の接合板の長孔の側方に第1座金が設置され、他方の接合板の長孔の側方には長孔を側方から閉塞するだけの座金(以下の第2座金)が設置されてもよい。また、第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板の対応する位置は、1つでもよいし、複数でもよく、対応する位置が複数の場合は、それぞれの対応位置において、固有の第1座金が設置される。
【0013】
また、「長孔を備えている接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間に第1座金が介在する」とは、例えば、第1セグメントのみが長孔を有する形態を例示すると、第1セグメントの長孔側から第2セグメントのボルト孔に向かってボルトが挿通される場合は、第1座金はボルトの頭部と第1セグメントの間に介在することになる。対して、第2セグメントのボルト孔側からボルトが挿通される場合は、第1セグメントの長孔と第1座金の第1貫通孔をさらに挿通されたボルトの先端がナットにて締め付けられることになるため、第1座金はナットと第1セグメントの間に介在することになる。
このように、第1セグメントと第2セグメントの双方が長孔を有する場合、いずれか一方のみが長孔を有する場合、さらに、ボルトの挿通方向により、第1座金は、ボルトの頭部もしくはナットと第1セグメントもしくは第2セグメントの間に介在することになり、様々なバリエーションを有することになる。
ここで、接合板は、セグメントの端部に設けられている継手板や主桁により形成される。また、間詰材としては、無収縮モルタル等の充填材を適用できる。
【0014】
また、本発明によるセグメントの接合構造の他の態様において、
前記第1座金は、前記接合板に当接する当接面における前記第1貫通孔の周囲において、該第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、第1座金が、接合板に当接する当接面における第1貫通孔の周囲において、第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることにより、仮に間詰材が粘性の高い充填材であったとしても、長孔の隙間に対して間詰材を効果的に充填することができる。
【0016】
また、本発明によるセグメントの接合構造の他の態様において、
前記第1座金は、前記接合板に当接する当接面において、前記長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、第1座金が、接合板に当接する当接面において長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることにより、間詰材が隙間に充填される際に、隙間に存在していたエアが抜かれて隙間に対して間詰材を十分に充填することができる。さらに、隙間を完全に充填した間詰材がエア抜き孔から吐出することを視認した際に、隙間に間詰材が完全に充填されたことを確認できて好ましい。
【0018】
また、本発明によるセグメントの接合構造の他の態様は、
前記双方の接合板がいずれも前記長孔を有する場合に、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の双方に前記第1座金が介在している、もしくは、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の一方に前記第1座金が介在し、他方には前記第1貫通孔のみを備えて前記長孔をその側方から閉塞する第2座金が介在している、のいずれかであることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板がいずれも長孔を有する場合に、双方の接合板と、ボルトの頭部及び/又はナットとの間の双方に第1座金が介在していることにより、双方の長孔の隙間に対して間詰材が確実に充填されたセグメントの接合構造を形成できる。
一方、一方の接合板と、ボルトの頭部及び/又はナットとの間に第1座金が介在し、他方には第1貫通孔のみを備えて長孔をその側方から閉塞する第2座金が介在していることにより、第1座金に比べて製作手間のかからない第2座金を利用することで、施工コストを可及的に削減しながら、双方の長孔に間詰材が効果的に充填されたセグメントの接合構造を形成できる。
【0020】
また、本発明によるセグメントの接合構造の他の態様は、
いずれか一方の前記接合板のみが前記長孔を有する場合に、
前記長孔を備えていない前記接合板には、
予め溶接接合されていない前記ボルトの頭部もしくは前記ナットが当接している、もしくは、
溶接接合にて前記ナットが予め固定されている、もしくは、
前記ボルトが螺合する螺子溝であるボルト孔が設けられている、のいずれかであることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、第1セグメントと第2セグメントのいずれか一方の接合板のみが長孔を有する場合に、長孔を備えていない接合板に予めナットが固定されていない形態では、通常のナット締めにより双方のセグメントが接合され、ナットが予め溶接接合されている形態では、このナットにボルトの先端を螺合することにより双方のセグメントが接合され、他方の接合板の厚みの内部に螺子溝であるボルト孔がある形態では、この螺子溝にボルトの先端を螺合することにより双方のセグメントが接合されることによって、様々な形態のセグメントの接合構造を形成できる。
【0022】
また、本発明によるセグメントの接合構造の他の態様において、
前記第1セグメントと前記第2セグメントは、並設する2本のトンネルを繋ぐ切開きトンネルにおいて、その軸方向にリング継手を介して隣接する2つのKセグメント、もしくは、その周方向にセグメント継手を介して隣接するKセグメントとBセグメントであり、
前記接合板は、前記リング継手もしくは前記セグメント継手を形成する、継手板及び/又は主桁であり、
前記長孔は、前記Kセグメントもしくは前記Bセグメントの径方向もしくは略径方向に長いことを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、第1セグメントと第2セグメントが、切開きトンネルにおける軸方向にリング継手を介して隣接する2つのKセグメントや、切開きトンネルにおける周方向にセグメント継手を介して隣接するKセグメントとBセグメントであって、長孔がKセグメントやBセグメントの径方向もしくは略径方向に長いことにより、切開きトンネルにおけるセグメント間の誤差を吸収しながら、トンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造を形成できる。
ここで、「長孔がセグメントの径方向もしくは略径方向に長い」とは、長孔が文字通りセグメントの径方向に長い形態の他に、径方向から例えば左右20度程度までの範囲でずれている方向に長い形態を含む意味である。
【0024】
また、Kセグメントの少なくとも一方のセグメント継手面は、径方向に傾斜するテーパー面であり、切開きトンネルの周方向において、Kセグメントの左右にあるBセグメントよりもKセグメントの径方向の高さが高い形態であってもよい。この形態では、Kセグメントが長孔を備えることに加えて、Bセグメントに対して径方向の高さが相対的に高いことによっても、誤差を吸収しながら左右のBセグメントとの接合を可能にできる。
最後に設置されるKセグメントは、誤差調整セグメントや誤差吸収セグメントと称することもできる。
【0025】
また、本発明によるセグメントの接合方法の一態様は、
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成する、セグメントの接合方法であって、
双方の前記接合板の対応する位置にはそれぞれボルト孔が設けられ、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、
相互に連通する前記ボルト孔の一方側からボルトを挿通し、他方側において、ナットにより締め付ける、もしくは、他方側の螺子溝に螺合し、この際に、前記ボルトの頭部もしくは前記ナットと前記長孔を備えている前記接合板との間には、その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔を備えている、第1座金を介在させ、該長孔のうち、該ボルトが存在しない隙間を形成する、A工程と、
前記第1座金は、前記厚み方向に延びて間詰材が注入される第2貫通孔と、該第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、をさらに備え、該第2貫通孔を介して間詰材を注入し、該間詰材を該導通孔を介して前記隙間に充填して該隙間を閉塞する、B工程とを有することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板の対応する位置にあるボルト孔の少なくとも一方が長孔であり、双方のボルト孔にボルトを挿通してボルト接合することにより、測量誤差やセグメントの製作誤差を含む誤差を吸収可能なセグメントの接合構造を形成できる。さらに、長孔を備えている接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間に第1座金を介在させ、この第1座金が、間詰材が注入される第2貫通孔と、第2貫通孔と長孔を導通する導通孔とを備え、第2貫通孔を介して注入した間詰材を、導通孔を介して長孔の隙間に充填して当該隙間を閉塞することにより、トンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造を形成できる。
【0027】
また、本発明によるセグメントの接合方法の他の態様は、
前記双方の接合板がいずれも前記長孔を有する場合に、
前記A工程では、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の双方に前記第1座金を介在させる、もしくは、
双方の前記接合板と、前記ボルトの頭部及び/又は前記ナットと、の間の一方に前記第1座金を介在させ、他方には前記第1貫通孔のみを備えて前記長孔をその側方から閉塞する第2座金を介在させる、のいずれかを行うことを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板がいずれも長孔を有する場合に、双方の接合板と、ボルトの頭部及び/又はナットとの間の双方に第1座金を介在させることにより、双方の長孔の隙間に対して間詰材を確実に充填することができる。一方、一方の接合板と、ボルトの頭部及び/又はナットとの間に第1座金を介在させ、他方には第1貫通孔のみを備えて長孔をその側方から閉塞する第2座金を介在させることにより、第1座金に比べて製作手間のかからない第2座金を利用することで、施工コストを可及的に削減しながら、双方の長孔に間詰材を効果的に充填することができる。
【0029】
また、本発明によるセグメントの接合方法の他の態様は、
いずれか一方の前記接合板のみが前記長孔を有する場合に、
前記A工程では、
前記長孔を有する前記接合板に対して前記第1座金を当接させ、該第1座金の前記第1貫通孔に前記ボルトを挿通し、
他方の前記接合板にナットを当接させてボルト接合する、もしくは、
溶接接合にて前記ナットが予め固定されている他方の前記接合板の該ナットにボルト接合する、もしくは、
他方の前記接合板が備えている螺子溝であるボルト孔に対してボルトを螺合する、のいずれかを行うことを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、第1セグメントと第2セグメントのいずれか一方の接合板のみが長孔を有する場合に、長孔を備えていない接合板に予めナットが固定されていない形態では、通常のナット締めにより双方のセグメントを接合し、ナットが予め溶接接合されている形態では、このナットにボルトの先端を螺合することにより双方のセグメントを接合し、他方の接合板の厚みの内部に螺子溝であるボルト孔がある形態では、この螺子溝にボルトの先端を螺合することにより双方のセグメントを接合することによって、様々な形態のセグメントの接合構造を形成できる。
【0031】
また、本発明によるセグメントの長孔隙間閉塞用座金の一態様は、
相互に隣接する第1セグメントと第2セグメントの双方の接合板を接合してトンネルを形成し、双方の該接合板の対応する位置に設けられているボルト孔のうち、少なくとも一方の該ボルト孔は長孔であり、一方側からボルトが挿通され、他方側において、ナットにより締め付けられる、もしくは、他方側の螺子溝に螺合されることにより形成される、セグメントの接合構造において、前記ボルトの頭部もしくは前記ナットと前記長孔を備えている前記接合板との間に適用されて、前記長孔のうち、前記ボルトが存在しない隙間を間詰材により閉塞する、セグメントの長孔隙間閉塞用座金であって、
その厚み方向に延びて前記ボルトが貫通する第1貫通孔と、
前記厚み方向に延びて前記間詰材が注入される第2貫通孔と、
前記第2貫通孔と前記長孔を導通する導通孔と、を備えていることを特徴とする。
【0032】
本態様によれば、長孔を備えている接合板と、ボルトの頭部もしくはナットとの間に介在して、ボルトが貫通する第1貫通孔と、間詰材が注入される第2貫通孔と、第2貫通孔と長孔を導通する導通孔とを備え、第2貫通孔を介して間詰材が注入され、導通孔を介して長孔の隙間に間詰材が充填されることにより、長孔の隙間を間詰材にて閉塞して、トンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造の形成に寄与できる。
ここで、本態様の長孔隙間閉塞用座金は、本発明のセグメントの接合構造や接合方法における第1座金に相当する。
【0033】
また、本発明によるセグメントの長孔隙間閉塞用座金の他の態様は、
前記接合板に当接する当接面における前記第1貫通孔の周囲において、該第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、第1座金が、接合板に当接する当接面における第1貫通孔の周囲において、第1貫通孔よりも大径の座刳り溝をさらに備えていることにより、仮に間詰材が粘性の高い充填材であったとしても、長孔の隙間に対して間詰材を効果的に充填することができる。
【0035】
また、本発明によるセグメントの長孔隙間閉塞用座金の他の態様において、
前記第1座金は、前記接合板に当接する当接面において、前記長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることを特徴とする。
【0036】
本態様によれば、第1座金が、接合板に当接する当接面において長孔に連通するエア抜き孔をさらに備えていることにより、間詰材が隙間に充填される際に、隙間に存在していたエアが抜かれて隙間に対して間詰材を十分に充填することができる。さらに、隙間を完全に充填した間詰材がエア抜き孔から吐出することを視認した際に、隙間に間詰材が完全に充填されたことを確認できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のセグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金によれば、トンネル軸方向及び/又は周方向の誤差を吸収可能で、かつ、そのトンネル軸方向のリング間せん断力を十分に伝達可能なセグメントの接合構造を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】道路トンネルの分合流部の施工方法と本設構造を説明する縦断面図である。
図2】セグメントの接合構造を形成する、Kセグメントの一例を主桁側から見た正面図である。
図3図2のIII方向矢視図であって、Kセグメントの一例をセグメント継手側から見た側面図である。
図4】実施形態に係るセグメントの接合構造の一例の縦断面図であって、周方向に配設されたKセグメントとBセグメントがセグメント継手を介して接合される接合構造を示す図である。
図5A】実施形態に係るセグメントの長孔隙間閉塞用座金の一例を、接合板と当接しない非当接面側から見た斜視図である。
図5B】実施形態に係るセグメントの長孔隙間閉塞用座金の一例を、接合板と当接する当接面側から見た斜視図である。
図6】実施形態に係るセグメントの接合構造の一例の縦断面図であって、軸方向に配設された2つのKセグメントがリング継手を介して接合される接合構造を示す図である。
図7A】モルタル充填性確認試験供試体の縦断面図である。
図7B】モルタル充填性確認試験供試体の透視斜視図である。
図7C】モルタル充填性確認試験供試体の外観斜視図である。
図8A】実施例の継手せん断試験供試体の側面図である。
図8B図8AのB方向矢視図であって、実施例の継手せん断試験供試体の正面図である。
図9】継手せん断試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施形態に係るセグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0040】
[実施形態に係るセグメントの接合構造と接合方法、及びセグメントの長孔隙間閉塞用座金]
まず、図1を参照して、実施形態に係るセグメントの接合構造と接合方法が適用される、道路トンネルの分合流部の構造について、その施工方法とともに説明する。ここで、図1は、道路トンネルの分合流部の施工方法と本設構造を説明する縦断面図である。
【0041】
道路トンネルの分合流部の施工方法においては、まず、地中に間隔を置いて、相対的に小断面のランプトンネル10Aと、相対的に大断面の本線トンネル10Bとを並設施工する。本線トンネル10Bとランプトンネル10Aはいずれも、シールド工法にて施工され、複数のセグメント20がリング方向(周方向)に接続されてセグメントリングを形成するとともに、複数のセグメントリングがトンネルの軸方向(延伸方向)に接続されることにより所定延長に亘るトンネル(シールドトンネル)を形成している。各セグメント20は、周方向に延びる湾曲した複数の主桁21と、主桁21の外周面に溶接接合されているスキンプレート24と、主桁21の周方向端部において当該主桁21とスキンプレート24に溶接接合される継手板22と、主桁21同士を繋いでセグメント20を補強する縦リブ23とを有する。
【0042】
ランプトンネル10Aと本線トンネル10Bが施工された後、各トンネル内において、パイプルーフ10Dとの交差位置を起点として鉛直方向に延設する、不図示の支保柱(鉛直支保工)を施工し、ランプトンネル10Aと本線トンネル10Bの上方において双方のトンネル間にパイプルーフ10Dを架け渡す。パイプルーフ10Dは、ランプトンネル100Aを発進側トンネルとし、ランプトンネル10Aから鋼管15を順次推進させながら到達側トンネルである本線トンネル10Bの手前まで湾曲線形を有して延設している。尚、ランプトンネル10Aが到達側トンネルであり、本線トンネル10Bが発進側トンネルであってもよい。また、直線状のパイプルーフが施工されてもよい。ランプトンネル10Aと本線トンネル10Bの下方位置においても、一点鎖線で示す下方のパイプルーフ10Dを必要に応じて施工する。そして、ランプトンネル10Aと本線トンネル10Bの下方位置には、双方のトンネル間に跨る不図示の先行仮設下部受けを架け渡す。
【0043】
次に、上方と下方のパイプルーフ10Dを支保工として、上方にあるパイプルーフ10Dの下方領域や、一点鎖線で示す下方にあるパイプルーフ10Dの上方領域を透かし掘り等して施工空間SPを形成し、切開きトンネル10C用のセグメント同士を継手部を介して接続しながら、本線トンネル10Bとランプトンネル10Aに掛け渡す。
【0044】
ここで、切開きトンネル10C用のセグメントは、本線トンネル10Bもしくはランプトンネル10A側に取り付けられるAセグメント20A及びBセグメント20Bと、左右のBセグメント20Bのテーパー状の端面の間に、施工空間SP側からX方向に落とし込まれる(もしくは差し込まれる)ことにより取り付けられるKセグメント20Cとにより形成される。
【0045】
図1に示すようなAセグメント20AとBセグメント20BとKセグメント20Cは相互にセグメント継手を介して接続され、切開き区間に亘り、各セグメントがリング継手を介して接続されることにより、切開きトンネル10Cが形成される。
【0046】
切り開きトンネル10Cにより本線トンネル10Bとランプトンネル10Aが繋がれた後、本線トンネル10Bとランプトンネル10A双方の内側の建築限界と干渉する領域を撤去することにより、大断面トンネルが施工される。
【0047】
ところで、図1に示す切開きトンネル10Cの施工においては、本線トンネル10B側から切開きトンネル10Cの周方向であるY方向にBセグメント20Bを施工し、ランプトンネル10A側から同様に周方向であるY方向にAセグメント20AとBセグメント20Bを施工した後、最後にKセグメント20Cを径方向であるX方向に落とし込む等することにより、図1に示す周方向の構造が形成される。そして、この周方向の構造が、トンネル10A,10Bの軸方向(延伸方向)に亘り、リング継手を介して複数接続されることにより、切開きトンネル10Cが施工されることになる。
【0048】
この切り開きトンネル10Cの施工において、最後に径方向にKセグメント20Cが落とし込まれる(もしくは差し込まれる)隙間が誤差のない態様で施工されている場合は、Kセグメント20Cが隙間に速やかに落とし込まれ、Bセグメント20BとKセグメント20Cの双方のセグメント継手面に開設されている複数組のボルト孔にボルトが挿通され、ボルト接合される。また、Bセグメント20BとKセグメント20Cのセグメント継手面の外周側には、シール溝が開設されており、双方のシール溝にシール材が収容され、双方のシール材が相互に圧縮された態様で当接することにより、シール構造が形成される。
【0049】
しかしながら、最後に径方向にKセグメント20Cが落とし込まれる隙間が誤差のある態様(隙間が周方向に短い態様、もしくは周方向に長い態様)で測量や施工が行われている場合や、Aセグメント20AやBセグメント20Bに製作誤差がある場合には、Bセグメント20BとKセグメント20Cの双方のセグメント継手において、ボルト孔が位置合わせできず、さらには、シール材同士を当接させることができない恐れがある。そしてこのことは、軸方向に隣接するセグメントリングのそれぞれのKセグメント20C双方のリング継手においても同様である。
【0050】
そこで、上記課題を解消可能な実施形態に係るセグメントの接合構造と接合方法に関し、切開きトンネル10Cにおける周方向のKセグメント20C(第1セグメント)とBセグメント20B(第2セグメント)の接合構造70(図4参照)、切開きトンネル10Cにおける軸方向のKセグメント20C同士(一方が第1セグメントであり、他方が第2セグメント)の接合構造80と、それらの接合方法について、以下説明する。尚、実施形態に係るセグメントの接合構造は、図示例の他にも、周方向と軸方向のいずれか一方のセグメント同士の接合構造であってもよい。
【0051】
図2乃至図6を参照して、実施形態に係るセグメントの接合構造と接合方法、さらには、長孔隙間閉塞用座金(第1座金)の一例について説明する。
ここで、図2は、セグメントの接合構造を形成する、Kセグメントの一例を主桁側から見た正面図であり、図3は、図2のIII方向矢視図であって、Kセグメントの一例をセグメント継手側から見た側面図であり、図4は、実施形態に係るセグメントの接合構造の一例の縦断面図であって、周方向に配設されたKセグメントとBセグメントがセグメント継手を介して接合される接合構造を示す図である。また、図5A図5Bはそれぞれ、実施形態に係るセグメントの長孔隙間閉塞用座金の一例を、接合板と当接しない非当接面側から見た斜視図、接合板と当接する当接面側から見た斜視図である。さらに、図6は、実施形態に係るセグメントの接合構造の一例の縦断面図であって、軸方向に配設された2つのKセグメントがリング継手を介して接合される接合構造を示す図である。
【0052】
Kセグメント20C(第1セグメントの一例)は、図4に示すように、並設する2本のトンネル10A,10Bを繋ぐ切開きトンネル10Cにおいて、その周方向に配設されている左右のBセグメント20B(第2セグメントの一例)の間の隙間に、切開きトンネル10Cの径方向に落とし込まれる(もしくは差し込まれる)セグメントである。
【0053】
Kセグメント20Cは、図2図4に示すように、周方向に延設する所定の曲率を備えた2つの鋼製の主桁25と、2つの主桁25の外周側(形成されるセグメントリングの外側(地山側))において主桁25(リング継手における接合板)同士を繋いで周方向に延設する鋼製のスキンプレート26と、主桁25及びスキンプレート26の両端部に取付けられている鋼製の継手板27(セグメント継手における接合板)とを有する。
【0054】
主桁25は、その側面に複数のリング継ぎボルト孔25aを備えている。Kセグメント20Cにおいて、リング継ぎボルト孔25aは、径方向に長い長孔として形成されている。また、2つの主桁25の間には、これら主桁25に亘る幅を有する鋼製の縦リブ28が配設されており、縦リブ28により、箱型のKセグメント20Cの剛性が高められている。
【0055】
接合板27のうち、主桁25の外周側には、径方向に長い、長さt1'のシール溝27aが形成されている。また、接合板27のうち、シール溝27aよりも主桁25の径方向内側には、所定間隔を置いて、丸孔からなる複数のボルト孔27c(セグメント継ぎボルト孔)が開設されている。尚、図示例は、一列に2つのボルト孔27cが2列設けられている形態であるが、ボルト孔の数や列には多様な形態がある。また、このボルト孔は、径方向に長い長孔であってもよい。
【0056】
Kセグメント20Cにおいて、左右のセグメント継手面はいずれも、外周側に向かって末広がりのテーパー面となっている。そして、図4に示すように、テーパー面におけるテーパー方向の長さt1は、Bセグメント20Bのテーパー面におけるテーパー方向の長さt2よりも長い。ここで、図4に示すように、図示例のKセグメント20Cは、上方の施工空間SPから径方向の下方に落とし込まれるようにして、左右のBセグメント20B間の隙間に設置されることから、図2図4に示すように外周側に向かって末広がりのテーパー面となっているが、Kセグメントが内側から径方向の上方に差し込まれる場合は、図2等とは異なり、径方向の内側に向かって末広がりのテーパー面を有する形態となる。
【0057】
このように、最後に落とし込まれるKセグメント20Cの径方向の高さが隣接するBセグメント20Bの径方向の高さよりも高く設定されていることにより、Kセグメント20Cを落とし込むに当たり、左右のBセグメント20B間の隙間が測量誤差や施工誤差、セグメントの製作誤差等によって周方向に大き過ぎたり、あるいは小さ過ぎる場合であっても、Bセグメント20BとKセグメント20Cの双方のセグメント継手面において、双方のボルト孔の位置合わせを行うことができる。そのため、切開きトンネル10Cの施工において、Kセグメント20Cの設置前の施工段階で周方向に誤差がある場合であっても、ボルト50(セグメント継ぎボルト)にてBセグメント20BとKセグメント20Cをボルト接合することが可能になる。尚、図示例と異なり、Bセグメントと同じ高さのKセグメントを適用してもよく、この形態であっても、Bセグメントの接合板の備える長孔にボルトが挿通されることで誤差を吸収可能となる。
【0058】
一方、Bセグメント20Bは、図4に示すように、周方向に延設する所定の曲率を備えた2つの鋼製の主桁25Aと、2つの主桁25Aの外周側において主桁25A同士を繋いで周方向に延設する鋼製のスキンプレート26Aと、主桁25A及びスキンプレート26Aの両端部に取付けられている鋼製の接合板27Aとを有する。
【0059】
主桁25Aは、その側面に、丸孔からなる複数のリング継ぎボルト孔25bを備えている。また、2つの主桁25Aの間には、これら主桁25Aに亘る幅を有する複数の鋼製の縦リブ28Aが配設されており、複数の縦リブ28Aにより、箱型のBセグメント20Bの剛性が高められている。
【0060】
接合板27Aのうち、主桁25Aの外周側には、Kセグメント20Cの有するシール溝27aよりも径方向の長さが短いシール溝27bが形成されている。また、接合板27Aのうち、シール溝27bよりも主桁25Aの径方向内側には、所定間隔を置いて、長孔からなる複数のボルト孔27dが開設されている。図示例では、図3に示すKセグメント20Cの有する4つのボルト孔27cに対応する位置に、同様に4つのボルト孔27dが開設されている。Bセグメント20Bにおいて、Kセグメント20Cと接続されるセグメント継手は、Kセグメント20Cのテーパー面と当接するテーパー面を有している。
【0061】
図4に示すように、Bセグメント20BとAセグメント20Aのセグメント継手は、双方の接合板27B,27Cに設けられている、相互に対応するボルト孔27e、27fにボルト50を挿通し、ナット55にて締め付けることにより形成される。また、このセグメント継手においても、接合板27B,27Cにおけるボルト孔27e、27fよりも地山側の対応位置には、シール溝27bが設けられており、双方のシール溝27bにシール材63,64が挿入されて相互に密着している。
【0062】
図4に示す切開きトンネル10Cは、その周方向に、測量誤差や施工誤差、セグメントの製作誤差等の何らかの誤差がある態様で、Aセグメント20AやBセグメント20Bが施工され、左右のBセグメント20B間の誤差のある隙間に対して、Kセグメント20Cが落とし込まれることにより、切開きトンネル10Cが形成されている。
【0063】
Bセグメント20Bの接合板27Aのボルト孔27dは長孔であり、Kセグメント20Cの接合板27におけるボルト孔27dに対応する位置にあるボルト孔27cは丸孔である。
【0064】
Kセグメント20CとBセグメント20Bのセグメント継手においては、接合板27Aの長孔27dの側方に、長孔27dを閉塞する第1座金(実施形態に係る長孔隙間閉塞用座金)40を配設する。
【0065】
図5A図5Bに示すように、第1座金30は、その厚み方向に延びてボルト50が貫通する第1貫通孔34と、厚み方向に延びて間詰材が注入される第2貫通孔36と、第2貫通孔36と長孔27d(におけるボルトが存在しない隙間)を導通する導通孔37とを有する。
【0066】
第1座金30は、長孔27dを備える接合板27Aに当接する当接面31において、第1貫通孔34の周囲に、第1貫通孔34よりも大径の座刳り溝35をさらに備えており、当接面31においてさらに、不図示の長孔に連通するエア抜き孔38を備えている。
【0067】
図5Bに示すように、第1座金30の非当接面32における第2貫通孔36からモルタル等の間詰材をY1方向に注入すると、注入された間詰材は、図5Bに示すように、接合板27Aに当接する当接面31にある導通孔37を流通し、不図示の接合板27Aに設けられている長孔27dのうち、ボルトが存在しない隙間へY2方向に充填され、隙間を閉塞することになる。
【0068】
また、間詰材が長孔27dの隙間に充填される際に、隙間に存在していたエアをエア抜き孔38を介してY3方向に抜くことにより、隙間に対して間詰材を十分に充填することができる。隙間に間詰材が完全に充填された際には、間詰材がエア抜き孔38からY3方向に吐出することから、間詰材の吐出を視認することで、隙間に間詰材が完全に充填されたことを確認することができる。
【0069】
さらに、当接面31における第1貫通孔34の周囲に、相対的に大径の座刳り溝35が設けられていることにより、長孔27dの隙間に対して間詰材を効果的に充填することができるため、特に間詰材の粘性が高い場合や、隙間が長孔27dの片側のみに形成されている場合においては、長孔27dの隙間に対して間詰材を確実に充填できることから好ましい。
【0070】
図4に戻り、相互に連通する接合板27のボルト孔27cと接合板27Aのボルト孔27d(長孔)のうち、長孔27dを備えている接合板27Aの側方に対して長孔27dを塞ぐようにして第1座金30を当接させ、その第1貫通孔34と長孔27dと丸孔27cにボルト50を挿通し、ボルト50の頭部51を第1座金30の非当接面32に係合させ、ボルト50の先端にナット55を螺合して締め付ける。この際、長孔27dのうち、ボルト50が存在しない領域に隙間が形成される。複数組のボルト孔27c、27dに対して固有の第1座金30を設置し、同様にボルト50とナット55による接合を行う(以上、接合方法のA工程)。
【0071】
次に、図5A図5Bを参照して既に説明したように、第1座金30の非当接面32における第2貫通孔36から間詰材40を注入し、当接面31にある導通孔37を介して、長孔27dにおけるボルトが存在しない隙間に対して間詰材40を充填することにより、隙間が間詰材40にて閉塞される。この際、エア抜き孔38からの間詰材40の吐出を視認することにより、隙間が間詰材40にて確実に閉塞されていることを確認できる。
【0072】
全ての第1座金30に対して間詰材40を充填することにより、接合構造70が形成される(以上、接合方法のB工程)。
【0073】
図4に示す接合構造70では、Bセグメント20Bの有するシール溝27bとそこに収容されているシール材62に比べて、Kセグメント20Cの有するシール溝27aとそこに収容されているシール材61が径方向に長いことから、シール材61,62は相互に圧縮された態様で当接されることができ、止水性の高いシール構造を形成することができる。
【0074】
以上は、切開きトンネル10Cの周方向における、Kセグメント20CとBセグメント20Bの接合構造と接合方法であるが、次に、図6を参照して、切開きトンネル10Cの軸方向における、2つのKセグメント20Cの接合構造と接合方法について説明する。
【0075】
2つのKセグメント20Cの主桁である接合板25はいずれも、対応する位置に長孔であるボルト孔25aを備えている。ここで、図6では、双方の長孔25aが同じ位置となるように図示されているが、双方のKセグメント20Cは、それぞれに固有の周方向の弧状リングにおける誤差を吸収しながら設置されていることから、長孔25a同士は若干上下にずれた位置となり得る。しかしながら、双方が長孔であることから、双方の長孔25aへのボルトの挿通は可能である。
【0076】
2つの接合板25がいずれも長孔25aを備えていることから、それぞれの長孔25aを側方から塞ぐようにして2つの第1座金30を設置し、一方側からボルト50を挿通し、他方側においてナット55により締め付ける(以上、A工程)。
【0077】
次に、双方の第1座金30の第2貫通孔36から間詰材を注入し、双方の長孔25aの隙間に間詰材40を充填して閉塞することにより、接合構造80が形成される(B工程)。
【0078】
この接合構造80は、長孔25aの隙間が間詰材40にて完全に閉塞されていることにより、トンネル軸方向のリング間せん断力の良好な伝達性を有する。
【0079】
ここで、図示例は、双方の長孔25aの側方に第1座金30を設置する形態であるが、一方の長孔25aの側方に第1座金30を設置し、他方の長孔25aの側方には、第1貫通孔34のみを備えて構造が相対的にシンプルな不図示の第2座金を設置してもよい。
【0080】
この場合は、第1座金30の第2貫通孔36から注入した間詰材40を、双方の長孔25aの隙間に充填することになる。また、第1座金30に比べて第2座金の製作コストが安価になることから、施工コストの削減に繋がる。
【0081】
図示するセグメントの接合構造70とその接合方法によれば、長孔27dを側方から塞ぐ長孔隙間閉塞用座金30を適用して、長孔27dの隙間を間詰材40にて閉塞することにより、切開きトンネル10Cにおいてその周方向の誤差を吸収することができる。
【0082】
また、セグメントの接合構造80とその接合方法によれば、長孔25aを側方から塞ぐ長孔隙間閉塞用座金30を適用して、長孔25aの隙間を間詰材40にて閉塞することにより、その軸方向の誤差を吸収することができ、さらには、軸方向のリング間せん断力を十分に伝達することができる。
【0083】
[モルタル充填性確認試験]
次に、本発明者等により実施された、モルタル充填性確認試験とその結果について説明する。このモルタル充填性確認試験は、Kセグメント等の誤差吸収セグメントの接合板の長孔の隙間(ボルトが存在しない領域の隙間)に対して、モルタルが充填されることの確認を目的として行ったものである。図7A乃至図7Cはいずれも、モルタル充填性確認試験供試体を示した図であり、図7Aはその縦断面図、図7Bはその透視斜視図、図7Cはその外観斜視図である。
【0084】
本試験では、注入孔である第2貫通孔からモルタルを加圧充填し、エア抜き孔からエアが漏出することの確認を行った。
【0085】
試験の結果、充填したモルタルはエア抜き孔から漏出しており、長孔の隙間はモルタルにより完全に閉塞されていることが確認されている。
【0086】
[継手せん断試験]
次に、本発明者等により実施された、継手せん断試験とその結果について説明する。この継手せん断試験は、誤差吸収セグメントの継手における耐荷力を確認することを目的として行ったものである。
【0087】
本試験では、載荷桁による中央1点載荷とし、両端単純支持の条件で実施した。尚、比較対象のために、長孔ではない通常のボルト孔(丸孔)を備えた供試体においても同様の継手せん断試験を行った。
【0088】
図8A図8Bはそれぞれ、実施例の継手せん断試験供試体の側面図、図8AのB方向矢視図であって実施例の継手せん断試験供試体の正面図である。比較例の継手せん断試験供試体は、上記するように、長孔ではなく、丸孔を備えている。
【0089】
実施例、比較例ともに、変位計測位置1,2,3,4を設定し、荷重載荷後の各位置における変位を計測した。試験結果を図9に示す。
【0090】
比較例と実施例のいずれも、設計上のボルトに作用するせん断力2980.8kNに対して、それを上回る荷重が作用した場合であっても、破損等が生じないことを確認している。
【0091】
また、比較例の変位平均は約5.4mmであり、これは、ボルト孔のあそびによる2.7mmの変位と、ボルトの変形による2.7mmの変位とによるものと考えられる。
【0092】
これに対して、実施例の平均変位は約3.2mmであり、これは、ボルトの変形による2.7mmの変位と、残りの0.5mmはモルタルの変形によるものと考えられる。
【0093】
このように、実施例における変位量は、ボルトのあそびがない分だけ比較例の変位量よりも小さくなっていることから、通常のボルト孔(丸孔)を備えた継手構造と同等以上の継手性能を有する継手構造であることが実証されている。
【0094】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0095】
10A:ランプトンネル(トンネル、シールドトンネル)
10B:本線トンネル(トンネル、シールドトンネル)
10C:切開きトンネル(トンネル)
10D:パイプルーフ
15:鋼管
20:セグメント
20A:Aセグメント
20B:Bセグメント(第2セグメント)
20C:Kセグメント(誤差調整用セグメント、第1セグメント、第2セグメント)
21:主桁
22:接合板(継手板)
23:縦リブ
24:スキンプレート
25:主桁(Kセグメントのリング継手の接合板、継手板)
25a:ボルト孔(長孔)
27:接合板(Kセグメントのセグメント継手の接合板、継手板)
27A:接合板(Bセグメントのセグメント継手の接合板、継手板)
27a、27b:シール溝
27c:ボルト孔(丸孔)
27d:ボルト孔(長孔)
27e:ボルト孔(丸孔)
28,28A:縦リブ
30:第1座金(長孔隙間閉塞用座金)
31:当接面
32:非当接面
34:第1貫通孔
35:座刳り溝
36:第2貫通孔
37:導通孔
38:エア抜き孔
40:間詰材
50:ボルト
51:頭部(ボルトの頭部)
55:ナット
61,62,63:シール材
70,80:セグメントの接合構造(接合構造)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9