(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014828
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/028 20190101AFI20250123BHJP
G01M 13/02 20190101ALI20250123BHJP
【FI】
G01M13/028
G01M13/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117703
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武居 康仁
(72)【発明者】
【氏名】上山口 勉
(72)【発明者】
【氏名】川野 守治
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AB01
2G024BA04
2G024BA07
2G024BA21
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA06
2G024FA14
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査すること。
【解決手段】車両の駆動源として搭載されたモータにより発生したトルクを伝達する変速機におけるギヤの損傷を検査する検査装置は、ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する検出部と、AE信号に基づいて、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する処理部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源として搭載されたモータにより発生したトルクを伝達する変速機におけるギヤの損傷を検査する検査装置であって、
前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する検出部と、
前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する処理部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記車両の停止状態で、前記モータに所定のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、前記ギヤを噛み合い状態にすることを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記処理部は、前記車両の自動運転制御において計画された目標停止位置を、前記検査の対象の前記ギヤの噛み合い位置で前記車両が停止するように、前記目標停止位置を更新することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項4】
前記AE信号に基づいて行った検査日時情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記処理部は、前記検査日時情報のうち、前回の検査時点からの未検査期間の最も長いギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記車両の自動運転制御において計画された目標停止位置における噛み合い位置を基準として取得した、所定範囲の噛み合い情報のうち、前記未検査期間の最も長いギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定することを特徴とする請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記AE信号の波形に基づいて、前記損傷の発生の有無を判定することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
前記処理部は、前記車両の停止状態で、前記所定のトルクとして、予め設定した周期と振幅とを有する正弦波のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、前記ギヤを噛み合い状態にすることを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項8】
前記記憶部は、前記検査日時情報と共に前記検査の回数情報を記憶し、
前記処理部は、前記未検査期間の最も長いギヤの組み合わせとして、複数の噛み合い情報が特定された場合には、前記回数情報に基づいて、前記検査の回数が最も少ないギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定することを特徴とする請求項4に記載の検査装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記判定に基づいて前記損傷の発生を報知する報知信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項10】
車両の駆動源として搭載されたモータにより発生したトルクを伝達する変速機におけるギヤの損傷を検査する検査装置の検査方法であって、
前記検査装置の検出部が前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する工程と、
前記検査装置の処理部が前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する工程と、
を有することを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転軸を回転させて、複数段の歯車を噛み合わせながら、回転軸の振動と、回転軸の回転角を検出し、振動検出波形と回転角の検出値とにより歯車における打痕の有無及び打痕の発生位置を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両においては、車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査することが好ましいが、走行中に検査をするため車両の安定などの懸念がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて、車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査することが可能な検査技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る検査装置は、車両の駆動源として搭載されたモータにより発生したトルクを伝達する変速機におけるギヤの損傷を検査する検査装置であって、
前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する検出部と、
前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する処理部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様に係る検査方法は、車両の駆動源として搭載されたモータにより発生したトルクを伝達する変速機におけるギヤの損傷を検査する検査装置の検査方法であって、
前記検査装置の検出部が前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する工程と、
前記検査装置の処理部が前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る車両およびその制御装置のブロック図。
【
図2】実施形態に係る車両のパワーユニットの構成例を示す図。
【
図4】AEセンサの信号波形を例示的に説明する図。
【
図5】ギヤ(DR、DN)の噛み合いを例示的に説明する図。
【
図6】記憶部に蓄積された検査日時情報の例を示す図。
【
図7】未検査期間が最も長いギヤの検査を行いために車両の停止位置を制御する処理例を説明する図。
【
図8】検査装置及び電子制御ユニットにおける処理の流れを説明する図。
【
図9】
図8のステップS1における具体的な処理の流れを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<自動運転車両の概要>
本実施形態の車両V(自動運転車両)は、一例として、四輪の電動車両であり、
図1では、車両Vの概略が平面図と側面図とで示されている。本実施形態の電子制御ユニット1(ECU:Electronic Control Unit)は、油圧装置3やモータ11や変速機12、各種センサ8a、8b等の制御を行う。電子制御ユニット1は、1つのユニットとして構成されるだけでなく、例えば、モータ11を制御するためのECUや変速機12を制御するためのECUなど、複数のECUから構成されてもよい。
【0012】
電子制御ユニット1は、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ、半導体メモリ等の記憶デバイス、外部デバイスとのインタフェース等を含む。記憶デバイスには、プロセッサが実行するプログラムやプロセッサが処理に使用するデータ等が格納される。インタフェースは、入出力インタフェースや通信インタフェースが含まれる。
【0013】
電子制御ユニット1は、パワーユニット2を制御することによって車両Vの駆動(加速)を制御する。パワーユニット2は、車両Vの駆動輪を回転させる駆動力を出力する走行駆動部であり、モータ11および変速機12を含むことができる。モータ11は、車両Vを加速させる駆動源として利用可能であるとともに、減速時等において発電機としても利用可能である(回生制動)。
【0014】
パワードライブユニット(PDU)5は、モータ11の回転制御及び停止制御を行う装置である。電子制御ユニット1は、モータ11を制御するための制御信号を生成し、PDU5に出力する。PDU5は、電子制御ユニット1から取得した制御信号に基づいて、モータ11の回転制御及び停止制御を行うことができる。電子制御ユニット1は、車両Vの自動運転制御として、例えば、目標の停止位置に車両Vを停止させる停止制御や、車両Vの加速または減速を制御する加減速制御と車線維持制御と車線変更制御等とを行うことができる。
【0015】
電子制御ユニット1は、アクセルペダルAPに設けられた操作検知センサ2aやブレーキペダルBPに設けられた操作検知センサ2bにより検知した運転者の運転操作や車速等に対応して、モータ11の出力を制御したり、変速機12の変速段を切り替えたりする。なお、モータ11には車両Vの走行状態を検知するセンサとして、モータ11の出力軸の回転角度や回転数を検知するセンサ2cが設けられている。車両Vの車速は、センサ2cの検知結果から演算可能である。
【0016】
電子制御ユニット1は、油圧装置3を制御することによって車両Vの制動(減速)を制御する。油圧装置3は、ブレーキマスタシリンダBMから伝達された液圧に基づいて、四輪にそれぞれ設けられたブレーキ装置3a(例えばディスクブレーキ装置)に供給する作動油の液圧を制御可能なアクチュエータである。電子制御ユニット1は、油圧装置3が備える電磁弁等の駆動制御を行うことにより、車両Vの制動を制御することができ、車両Vを所定の目標位置に停止させる停止制御を行うことが可能である。
【0017】
電子制御ユニット1は、電動パワーステアリング装置4を制御することによって車両Vの操舵を制御する。電動パワーステアリング装置4は、ステアリングホイールSTに対する運転者の運転操作(操舵操作)に応じて前輪を操舵する機構を含む。電動パワーステアリング装置4は、操舵操作のアシストあるいは前輪を自動操舵するための駆動力を発揮するモータを含む駆動ユニット4a、操舵角センサ4b、運転者が負担する操舵トルクを検知するトルクセンサ4c等を含む。
【0018】
電子制御ユニット1は、変速機12のパーキングギヤ50、パーキングポール51を制御するとともに、後輪に設けられている電動パーキングブレーキ装置3cを制御することにより、車両Vを停止状態にする。
【0019】
電子制御ユニット1は、車両Vに設けられた各種の検知ユニットの検知結果に基づいて車両Vの運転支援または自動運転を実行する。車両Vには、車両Vの外部(周囲状況)を検知する外界センサである周囲検知ユニット8a~8bが設けられている。電子制御ユニット1は、周囲検知ユニット8a~8bの検知結果に基づいて車両Vの周囲状況を把握し、当該周囲状況に応じて自動運転支援を実行することができる。周囲検知ユニット8aは、車両Vの前方を撮影する撮像装置であり(前方カメラ8a)、電子制御ユニット1は、前方カメラ8aで撮影された画像を解析することにより、物標の輪郭抽出や道路上の車線の区画線(白線等)を抽出することができる。
【0020】
周囲検知ユニット8bは、ミリ波レーダであり(レーダ8bと表記することがある)、電波を用いて車両Vの周囲の物標を検知し、物標までの距離や、車両Vに対する物標の方向(方位)を検知(計測)する。なお、車両Vに設けられる周囲検知ユニットは、上記の構成に限られず、車両Vの周囲の物標を検知するライダ(LIDAR:Light Detection and Ranging)が設けられてもよい。
【0021】
電子制御ユニット1は、車両Vの現在位置および進路(姿勢)を認識・判定する。本実施形態の場合、車両Vには、ジャイロセンサ7aと、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ7bと、通信装置7cとが設けられる。ジャイロセンサ7aは、車両Vの回転運動(ヨーレート)を検知する。GNSSセンサ7bは、車両Vの現在位置を検知する。また、通信装置7cは、外部の装置や検査装置と無線通信を行い、各種の情報の送受信を行う。ジャイロセンサ7aおよびGNSSセンサ7bおよび通信装置7cから取得した情報はデータベース7d(記憶デバイス)に格納される。本実施形態の場合、電子制御ユニット1は、ジャイロセンサ7aおよびGNSSセンサ7bの検知結果に基づいて、車両Vの現在位置を特定し、車両Vの進路や目標位置に車両Vを停止させる制御を行うことが可能である。
【0022】
電子制御ユニット1は、種々を報知する情報出力装置6を制御する。情報出力装置6は、例えば、運転者に対して画像により情報を報知(表示)する情報表示装置6a、および/または、運転者に対して音声により情報を報知する、例えば、スピーカなどの音声出力装置6bを含む。情報表示装置5aは、例えばインストルメントパネルに設けられうるインジケータであってもよい。
【0023】
<パワーユニットの概要>
図2に示すように、車両Vのパワーユニットは、内部にモータ11、変速機12およびディファレンシャルギヤ13を収納するハウジング14を備えており、ハウジング14は車幅方向に3分割された左ハウジング15、中央ハウジング16および右ハウジング17からなる。左ハウジング15および中央ハウジング16の間には第1収容部43が区画され、中央ハウジング16および右ハウジング17の間には第2収容部44が区画される。
【0024】
第1収容部43に配置されたモータ11は、左ハウジング15および中央ハウジング16にそれぞれボールベアリング18,19を介して支持されたモータ軸20と、モータ軸20に固定されたロータ21と、ロータ21の外周を取り囲むように中央ハウジング16に固定されたステータ22とを備える。ハウジング14の底部にはオイルが貯留されている。
【0025】
第2収容部44に配置された変速機12は、右ハウジング17から右側に突出するモータ軸20の先端に固定された第1減速ギヤ23(第1駆動ギヤ)を備える。また、変速機12は、中央ハウジング16および右ハウジング17にそれぞれアンギュラローラベアリング24,25を介して支持された減速軸26と、減速軸26に固定されて第1減速ギヤ23に噛合する第2減速ギヤ27(第1従動ギヤ)とを備える。また、変速機12は、減速軸26に固定されたファイナルドライブギヤ28(第2駆動ギヤ)と、ディファレンシャルギヤ13の外周に固定されてファイナルドライブギヤ28に噛合するファイナルドリブンギヤ29(第2従動ギヤ)とを備える。
【0026】
第2収容部44に配置されたディファレンシャルギヤ13の外郭を構成するデフケース30は、中央ハウジング16および右ハウジング17にそれぞれアンギュラローラベアリング31,32を介して支持されており、デフケース30から左方向に延びる長い左出力軸33の先端に設けたインボードジョイント34が左ハウジング15から外側に突出し、デフケース30から右方向に延びる短い右出力軸35の先端に設けたインボードジョイント36が右ハウジング17から外側に突出する。左側のインボードジョイント34は、不図示の左ハーフシャフトを介して左後輪に接続され、また左側のインボードジョイント36は、不図示の右ハーフシャフトを介して右後輪に接続される。右端をディファレンシャルギヤ13に支持された左出力軸33の左端は、左ハウジング15にボールベアリング37を介して支持される。右出力軸35には、パーキングギヤ50が固定されており、右ハウジング17にはパーキングポール51が取付けられている。パーキングギヤ50の外周面には、凹部と凸部とが周方向交互に形成されている。パーキングポール51は、パーキングギヤ50の凹部に係合可能な爪部を備える。パーキンング時に、パーキングギヤ50の凹部と、右ハウジング17に取付けられたパーキングポール51の爪部とが係合することによりパーキングギヤ50が回転不能なロック状態になる。
【0027】
<検査装置300の機能構成>
図3は、本実施形態の検査装置300の機能構成を示す図である。検査装置300は、処理部301、通信部302、記憶部303を有する。処理部301は、CPUに代表されるプロセッサであり、記憶部303に記憶されたプログラムを実行してAEセンサ320で検出された信号の処理を行う。記憶部303は、ROM、RAM、HDD等の記憶デバイスであり、処理部301が実行するプログラムの他、各種の制御情報やAEセンサ320で検出された信号を処理した履歴情報(検査日時情報)を記憶する。通信部302は他の外部装置等と通信を行う通信デバイスである。処理部301は、通信部302を介して電子制御ユニット1と通信を行う。
【0028】
処理部301の機能構成は、記憶部303に記憶された所定のコンピュータプログラムがRAMに読み出されて、検査装置300のCPUが処理を実行することで実現される。また、同様の機能を果たすのであれば、それらは集積回路などで構成してもよい。
【0029】
AEセンサ320は、ある特定の振動(AE信号)を検出するセンサセンサである。AEとはアコースティックエミッション (Acoustic Emission)の略であり、AEセンサ320は、物体の一部が変形・破損した際、もしくは衝撃が加わった際に生じる音響が弾性波として放出される振動(AE信号)を検知する。AE信号は物体が完全に破損するより前に起こる微小な劣化により発生し得るため、物体の劣化の初期段階を検知することができる。振動(AE信号)の周波数は、金属の種類によって決まっているような弾性波であり、ギヤにピッチング、剥離、亀裂が生じると、瞬間的に振動の波形が不連続に大きく変化する突発波形が生じる。本実施形態では、AEセンサ320を、変速機12におけるギヤ(DR,DN)の非破壊検査に用いる。変速機12におけるギヤ(DR,DN)には、第1減速ギヤ23と第2減速ギヤ27との組み合わせと、ファイナルドライブギヤ28とファイナルドリブンギヤ29との組み合わせが含まれる。本実施形態の検査装置300は、ギヤの欠陥(損傷)として、ギヤ(DR,DN)のピッチング、剥離、亀裂の発生の有無を検出する。ここで、ギヤのピッチングとは、材料が疲労破壊を起こし、歯面に微孔が生じる損傷をいい、剥離とは、歯面から材料が脱落する損傷をいう。また、亀裂とは、ギヤにクラックが発生したり、発生したクラックが伝播(進展)する損傷をいう。
【0030】
AEセンサ320は、パワーユニットのハウジング14の側面に設けられる。AEセンサ320で検出された信号は検査装置300に入力され、検査装置300の処理部301は、AEセンサ320で検出された信号を処理して、ギヤ(DR,DN)における損傷(ピッチングや剥離や亀裂)の発生の有無を判定する。
【0031】
検査装置300は、ギヤ(DR,DN)にトルクをかけて、その荷重によりギヤ(DR,DN)の状態を把握するものである。走行中に状態把握を行う場合には、運転者の介入によるトルクが付加される可能性がるために、検査条件にばらつきが生じ、安定的な状態推定ができない場合が生じ得る。そこで、安定的な条件の下に検査を行うため、本実施形態では、検査装置300(検査ユニット)は、車両Vの停止時において、ギヤ(DR,DN)の検査を行うものとする。検査装置300は、車両Vの停止時において、ギヤの欠陥(損傷)として、ギヤ(DR,DN)における損傷(ピッチングや剥離や亀裂)の発生の有無を検出する。
【0032】
停止状態で検査を行う場合には、検査の対象となるギヤ(DR,DN)における歯の噛合いは数歯分になり得る。このため、本実施形態の検査装置300は、車両Vの自動運転制御との協調により、車両Vの停止位置を制御して、前回の検査時点からの未検査期間が最も長いギヤの噛み合いを優先して検査を行いギヤの損傷を早期に検出することが可能な技術を提供するものである。
【0033】
長期間にわたり検査をしていないと、未検査期間において、ギヤの損傷(ピッチングや剥離や亀裂)が発生する可能性が高くなるため、検査を行っていない時間的な期間として、未検査期間が最も長いギヤ(DR,DN)の噛み合いを優先して検査を行う。
【0034】
検査装置300は、車両Vの停車時において、駆動源であるモータ11に所定のトルク(例えば、正弦波形のトルク)を発生させて、ギヤ(DR,DN)の噛み合い時に発生する振動(AE信号)をAEセンサ320から取得する。検査装置300は、電子制御ユニット1からモータ11が停止した信号を受信すると、検査装置300の処理部301は、モータ11に所定のトルクを発生させるための駆動要求信号を出力する。電子制御ユニット1は処理部301から受信した駆動要求信号をPDU5に出力し、モータ11に所定のトルクを発生させる。
【0035】
<AE信号波形の例>
図4は、AEセンサ320の信号波形を例示的に説明する図である。トルク波形401は、モータ11が駆動要求信号に基づいて発生するトルクの波形を例示するものであり、
図4では、正弦波形のトルクの例を示している。
【0036】
また、AE波形402は、モータ11のトルクの印加によるギヤ(DR,DN)の噛み合い時に、AEセンサ320が検出する振動(AE信号)の波形を例示するものである。処理部301は、車両Vの停止状態で、所定のトルクとして、予め設定した周期と振幅とを有する正弦波のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、ギヤを噛み合い状態にする。
【0037】
検査装置300の処理部301は、駆動要求信号に基づいて、モータ11にトルクを発生させたときに、AEセンサ320の検出信号を取得する。処理部301は、AE信号の波形に基づいて、ギヤ(DR,DN)の噛み合いにおける損傷の発生の有無を判定する。処理部301は、検査対象のギヤ(DR,DN)の噛み合いにおいて、
図4で示したような突発信号403が発生したか否かを判定する。突発信号403が検出された場合、処理部301は、ギヤの噛み合いにおいて、剥離や亀裂が発生したと判定する。処理部301は、剥離や亀裂の発生を報知する報知信号を出力する。
【0038】
一方、ギヤに剥離や亀裂が生じていない場合には、例えば、高周波の連続信号404の信号がAEセンサ320から出力される。高周波の連続信号404の信号がAEセンサ320により検出された場合に、処理部301は、ギヤ(DR,DN)において、剥離や亀裂は発生していないと判定する。
【0039】
図5は、ギヤ(DR、DN)の噛み合わせパターンを例示的に説明する図である。噛み合わせパターン501では、簡単化のため、駆動側のギヤDRの歯数を3、従動側のギヤDNの歯数を5とした場合の噛み合いの組み合わせを例示している。噛み合いの組み合わせのパターンは15(=3×5)通りとなる。
【0040】
通常のギヤ設計においては、同じの組み合わせが噛み合うことによる摩耗を抑制するために、歯数比が整数倍にならないように設計する。
【0041】
図2のドライブユニットで示した、ギヤの噛み合いにおいて、第1減速ギヤ23(第1駆動ギヤ:DR)の歯数をDR1とし、第2減速ギヤ27(第1従動ギヤ:DN)の歯数をDN1とすると、レシオ(DR1/DN1)は整数倍にならないように設計されている(例えば、
図5の502)。また、ファイナルドライブギヤ28(第2駆動ギヤ:DR)の歯数をDR2とし、ファイナルドリブンギヤ29(第2従動ギヤ:DN)の歯数をDN2とすると、レシオ(DR2/DN2)は整数倍にならないように設計されている(例えば、
図5の502)。ギヤ(DR,DN)における諸元値は、データベース7d(記憶デバイス)に記憶されており、電子制御ユニット1は、車両Vの停止制御において、データベース7dの情報を参照して、ギヤ(DR,DN)の噛み合い情報を取得することができる。
【0042】
<検査日時情報の蓄積>
検査装置300は、ギヤの噛み合いの組み合わせをモニタリング(検査)して、検査の履歴情報として、検査を実施した年月日を含む検査日時情報を記憶部303に蓄積する。処理部301は、検査日時情報のうち、前回の検査時点からの未検査期間の最も長いギヤの噛み合いを検査の対象として特定する。
【0043】
図6は、記憶部303に蓄積された検査日時情報の例を示す図である。ここでは、一例として、駆動側のギヤDRの歯「1」と、従動側のギヤDNの歯「1~17」の噛み合いにおける検査日時情報の蓄積例601を示している。検査日時情報の蓄積例601において、縦軸は時間軸を示し、蓄積例601の上端は、基準とする時刻(例えば、現在時刻)を示している。各噛み合いにおける棒グラフの上端は、AEセンサ320を用いて検査が最後に実施された検査日時情報を示している。基準とする時刻(現在時刻)と棒グラフの上端との間は、ギヤ(DR,DN)の噛み合いにおける未検査期間を示す。
【0044】
図6に示す蓄積例601では、駆動側のギヤDRの歯「1」と従動側のギヤDNの歯「9」との組み合わせが最も未検査期間が長いギヤの噛み合いとなる。検査装置300は、未検査期間602に示すように、駆動側のギヤDRの歯「1」と従動側のギヤDNの歯「9」との組み合わせを優先して検査を行うことができるように、車両Vの自動運転制御との協調により車両Vの停止位置を制御する。
【0045】
<停止位置の更新例>
図7は、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いを優先して検査を行いために車両Vの停止位置を制御する処理例を説明する図である。例えば、現在位置における駆動側のギヤDRの歯「1」と、従動側のギヤDNの歯「1」とが噛み合っている状態とする。この状態から、ベースとなる自動運転の走行計画に従って、計画された停止位置(目標停止位置)まで走行した場合、駆動側のギヤDRの歯「8」と、従動側のギヤDNの歯「48」とが噛み合っている状態となる。
【0046】
本実施形態の検査装置300は、目標停止位置の噛み合いの組み合わせに対して、記憶部303に蓄積されている検査日時情報を取得する。車両Vの停止状態で検査できるギヤの噛み合いは数歯であるため、目標停止位置における噛み合いの組み合わせ(噛み合い位置)を基準として、所定範囲の検査日時情報を取得し、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いの組み合わせを特定する。ここで、所定範囲には、例えば、基準とする噛み合い位置に対して前後数歯における噛み合いの検査日時情報が含まれる。
図7の検査日時情報の取得例704では、目標停止位置705の噛み合いの組み合わせを基準として、前後5つの噛み合いに関する検査日時情報を取得する例を示している。
図7の取得例704では、処理部301は、取得した所定範囲における検査日時情報のうち、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いの組み合わせとして、駆動側のギヤDRの歯「10」と、従動側のギヤDNの歯「50」との噛み合いを特定する。処理部301は、車両Vの自動運転制御において計画された目標停止位置705を、検査対象のギヤの噛み合い位置で車両Vが停止するように、目標停止位置705を停止目標位置706に更新する。
【0047】
処理部301は、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いの組み合わせを特定すると、特定した噛み合いの組み合わせで検査を行う要求(検査要求)を電子制御ユニット1に送信する。処理部301は、通信部302を介して、電子制御ユニット1との間で相互通信を行うことが可能であり、処理部301は、通信部302を介して、送信した検査要求に対して、許可または不許可の判定結果の信号を受信する。
【0048】
電子制御ユニット1は、検査要求における噛み合いの組み合わせで、車両Vを停止できるか判定する。電子制御ユニット1は、検査要求に基づいて車両Vを停止できると判定した場合に、目標停止位置を検査要求に基づいた停止位置に更新して、車両Vの停止制御を行う。すなわち、電子制御ユニット1は、検査装置300で特定された噛み合いの組み合わせに基づいて、更新された停止位置で車両Vを停止するようにモータ11を制御する。
図7の取得例704において、補正量は、基準とする目標停止位置に対する相対的な停止位置の変化の数値を例示的に示すものである。数値の単位は、ギヤの諸元により決まる数値であり、メートルでもセンチメートルであってもよい。
【0049】
<処理の流れ>
検査装置300及び電子制御ユニット1における処理の流れを
図8のフローチャートを参照して説明する。S1において、検査装置300の処理部301は、電子制御ユニット1から、自動運転制御において計画された停止位置(目標停止位置:例えば、
図7の705)まで走行した場合における、ギヤ(DR、DN)の噛み合い情報を取得する。ここで、噛み合い情報には、ギヤ(DR、DN)の噛み合い位置の他、噛み合い位置を基準として前後数歯の噛み合い範囲も含まれる。処理部301は、取得した噛み合い情報に基づいて、検査対象の噛み合い位置を特定し、噛み合い情報に基づいて検査を行うための停止目標位置(例えば、
図7の706)を確定する。そして、処理部301は、確定した停止目標位置706で車両Vを停止するための停止位置要求(検査要求)を電子制御ユニット1に送信する。
【0050】
S2において、電子制御ユニット1は、目標停止位置を更新した停止位置要求(検査要求)に基づいて、車両Vを停止することを許可できるか、不許可とするかを判定する。電子制御ユニット1は、車両Vの周囲の検出情報に基づいて、停止位置要求(検査要求)を許可できる場合には許可の判定を行い、停止位置要求(検査要求)を許可できない場合には不許可の判定とする。
【0051】
電子制御ユニット1は判定結果を処理部301に送信する。処理部301は、受信した許可または不許可の判定結果の信号に基づいて、車両Vが、更新前の目標停止位置で停止するか、更新した停止目標停止位置で停止するかを特定することができる。
【0052】
S3において、電子制御ユニット1は、モータ11を制御するための制御信号を生成し、PDU5に出力する。PDU5は、電子制御ユニット1から取得した制御信号に基づいて、モータ11の回転制御及び停止制御を行う。
【0053】
判定結果が不許可の場合に、電子制御ユニット1は、更新前の目標停止位置で停止するように、モータ11を制御するための制御信号を生成する。また、判定結果が許可の場合に、電子制御ユニット1は、更新した停止目標停止位置で停止するように、モータ11を制御するための制御信号を生成する。パワードライブユニット(PDU)5は、生成された制御信号をモータ11に出力する。PDU5は、モータ11の停止制御が完了すると、モータ11の停止状態を示す停止信号を電子制御ユニット1に出力する。
【0054】
電子制御ユニット1は、PDU5から出力される停止信号の有無に基づいて、モータ11が停止したか判定し、モータ11が停止していない場合(S4-NO)、モータ11の停止判定の監視を継続する。一方、Sの判定で、モータ11が停止した場合(S4-YES)、停止完了を通知する信号を検査装置300に送信する。
【0055】
S5において、検査装置300は、電子制御ユニット1から、停止完了の通知信号を受信すると、検査装置300の処理部301は、モータ11に所定のトルクを印加するための駆動要求信号を生成し、電子制御ユニット1に出力する。処理部301は、車両Vの停止状態で、モータ11に所定のトルクを発生するための駆動要求信号を生成し、ギヤを噛み合い状態にする。処理部301は、車両Vの停止状態で、所定のトルクとして、予め設定した周期と振幅とを有する正弦波のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、ギヤを噛み合い状態にする。処理部301は、生成した駆動要求信号を電子制御ユニット1に出力する。
【0056】
S6において、電子制御ユニット1は、検査装置300から受信した駆動要求信号をPDU5に出力し、PDU5は、駆動要求信号に基づいて、モータ11に所定のトルクを発生させる。モータ11が発生するトルクは、例えば、
図4のトルク波形401に示すようなトルクである。
【0057】
S7において、モータ11のトルクの発生により、変速機12のギヤ(DR,DN)を噛み合い状態にする。
【0058】
S8において、検査装置300の処理部301は、トルクをかけたときのAEセンサ320の信号(AE信号)を取得する。処理部301は、AE信号を受信すると、検査日時情報を更新して記憶部303に蓄積する。
【0059】
処理部301は、電子制御ユニット1から取得した、許可または不許可の判定結果の信号に基づいて、車両Vが、更新前の目標停止位置で停止するか、更新した停止目標停止位置で停止するかを特定することができる。処理部301は、特定した停止位置に対応する噛み合い情報に基づいて、検査日時情報を更新する。例えば、
図7の目標停止位置705で停止した場合には、処理部301は、DR8-DN48の噛み合い情報における検査日時情報を更新する。また、更新した停止目標位置706で停止した場合には、処理部301は、DR10-DN50の噛み合い情報における検査日時情報を更新する。
【0060】
なお、走行中にギヤに亀裂が発生した場合であっても、停止状態の検査時において、所定のトルクをギヤに印加することにより、亀裂が進展(伝播)する場合には、AE信号が発生するため、処理部301は、亀裂の発生を検出すること可能である。
【0061】
S9において、処理部301は、検査対象のギヤ(DR,DN)の噛み合いにおいて、
図4で示したような突発信号403(
図4)が発生したか否かを判定する。突発信号が検出されず(S9-NO)、高周波の連続信号404(
図4)が検出された場合には、処理部301は、正常判定として(S12)、処理を終了する。
【0062】
一方、S9の判定において、突発信号403が検出された場合(S9-YES)、処理部301は、検査対象のギヤ(DR,DN)の噛み合いにおいて、剥離や亀裂が発生したと判定する(S10:異常判定)。
【0063】
S11において、処理部301は、剥離や亀裂の発生を報知する報知信号を電子制御ユニット1に出力する。
【0064】
電子制御ユニット1は、報知信号を受信すると、スピーカなどの音声出力装置6bから報知音を発生させてもよい。あるいは、電子制御ユニット1は、インジケータなどの情報表示装置6aの表示を点灯させてもよい。
【0065】
<ステップS1における処理の具体例>
図8のステップS1における具体的な処理の流れを
図9のフローチャートを参照して説明する。S21において、電子制御ユニット1は、自動運転制御における目標停止位置の情報を取得する(例えば、
図7の705)。この目標停止位置の情報には、走行中における車両Vの周囲の情報の変化など、自動運転制御における種々の要因を考慮して、所定の許容範囲を設定してもよい。
【0066】
S22において、電子制御ユニット1は、現在の位置から目標停止位置までの距離を算出する。電子制御ユニット1は、目標停止位置と現在の位置との差分により距離を算出する。
【0067】
S23において、電子制御ユニット1は、算出した距離と、車輪の径(タイヤ径)とに基づいて、目標停止位置までの車輪の回転数を算出する。電子制御ユニット1は、距離/(2×車輪の半径×π)により、車輪の回転数を算出する。
【0068】
なお、車輪の径(タイヤ径:2×車輪の半径)は固定値であってもよいし、自動運転における走行履歴、走行距離を考慮した車輪の径(タイヤ径)の摩耗量に応じて、車輪の径(タイヤ径)を補正することも可能である。車輪の径や、走行履歴、走行距離を考慮した車輪の径(タイヤ径)の摩耗量の情報は、例えば、データベース7d(記憶デバイス)に記憶されており、電子制御ユニット1は、データベース7dの情報を参照して、車輪の回転数を算出する。あるいは、電子制御ユニット1は、データベース7dの情報を参照して、車輪の径(タイヤ径)を補正して、車輪の回転数を算出する。
【0069】
S24において、電子制御ユニット1は、算出した回転数と、現在の歯の噛み合い位置(噛み合いの組み合わせ位置)とから、目標停止位置まで走行した際における、歯の噛み合い位置(範囲)を算出する。算出する歯の噛み合い位置は、一つの噛み合い位置に限られず、例えば、前後数歯の範囲を歯の噛み合い位置として取得してもよい。電子制御ユニット1は、算出した歯の噛み合い位置(範囲)を自動運転制御における予想噛み合い位置(範囲)として検査装置300に出力する。
【0070】
次に、S25において、検査装置300の処理部301は、電子制御ユニット1により、算出された予想噛み合い位置(範囲)に基づいて、記憶部303から所定の範囲(
図7)の検査日時情報を読み込む。
【0071】
S26において、処理部301は、所定範囲における検査日時情報のうち、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いの組み合わせ(噛み合い位置)を特定する(例えば、
図7の706)。
【0072】
そして、S27において、処理部301は、特定されたギヤの噛み合いの組み合わせに基づいて、停止目標位置706を確定する。
【0073】
処理部301は、車両Vの自動運転制御において計画された目標停止位置を、検査の対象のギヤの噛み合い位置で車両Vが停止するように、目標停止位置を更新する。処理部301は、例えば、
図7の706に示すように、未検査期間が最も長いギヤの噛み合いの組み合わせ(DR10-DN50)を特定し、この噛み合いの組み合わせによる車両Vの停止位置を、停止目標位置706として確定する。確定した停止目標位置706は、自動運転制御における目標停止位置705を更新した停止位置である。
【0074】
先の
図8のS1において説明したように、処理部301は、確定した停止目標位置706で車両Vを停止するための停止位置要求(検査要求)を電子制御ユニット1に送信する。
【0075】
(変形例)
なお、上記の実施形態では、記憶部303に検査日時情報を記憶する例を説明したが、記憶部303に記憶する情報は、検査日時情報に限られず、各噛み合いの組み合わせにおける検査の回数情報(評価回数)を、検査日時情報と共に記憶してもよい。
【0076】
処理部301は、未検査期間の最も長いギヤの組み合わせとして、複数の噛み合い情報が特定された場合には、回数情報に基づいて、検査の回数が最も少ないギヤの噛み合いを検査対象として特定してもよい。例えば、未検査期間の最も長いギヤの組み合わせとして、複数の噛み合い情報(D1、D2、D3)が特定された場合には、検査装置300は、記憶部303の検査の回数情報(評価回数)を参照して、複数の噛み合い情報(D1、D2、D3)のうち、検査回数の組み合わせが最も少ない組み合わせ(例えば、D1)を優先して検査を行うようにしてもよい。
【0077】
また、上記の実施形態では、車両Vの停止時において検査を行う構成例を説明したが、車両Vの走行時において、AE信号を取得して複数のギヤを複数回検査できるようにしてもよい。
【0078】
また、AEセンサ320の数は、一つに限られず、複数のAEセンサ320の情報を用いて検査を行うことも可能である。例えば、処理部301が各AEセンサ320からの信号を取得するまでの時間的な差分情報を、各AEセンサ320について設定しておくことで、突発信号403がどのAEセンサ320で検出されたか判定することができる。これにより、変速機12に含まれる複数のギヤについて、ギヤ単位で損傷の有無を判定することができる。
【0079】
(実施形態のまとめ)
上記実施形態は、少なくとも以下の検査装置および検査方法を開示する。
【0080】
構成1.実施形態の検査装置は、車両(V)の駆動源として搭載されたモータ(11)により発生したトルクを伝達する変速機(12)におけるギヤの損傷を検査する検査装置(300)であって、
前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する検出部(320)と、
前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する処理部(301)と、を備える。
【0081】
構成1の検査装置によれば、車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査することができる。
【0082】
構成2.前記処理部(301)は、前記車両の停止状態で、前記モータに所定のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、前記ギヤを噛み合い状態にする。
【0083】
構成2の検査装置によれば、車両の停止状態では、運転者の介入によるトルクが付加される可能性がないため、検査条件のばらつきを低減しつつ、安定的な状態で検査を行うことが可能になる。
【0084】
構成3.前記処理部(301)は、前記車両の自動運転制御において計画された目標停止位置を、前記検査の対象の前記ギヤの噛み合い位置で前記車両が停止するように、前記目標停止位置を更新する。
【0085】
構成4.前記AE信号に基づいて行った検査日時情報を記憶する記憶部(303)を更に備え、
前記処理部(301)は、前記検査日時情報のうち、前回の検査時点からの未検査期間の最も長いギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定する。
【0086】
構成5.前記処理部(301)は、前記車両の自動運転制御において計画された目標停止位置における噛み合い位置を基準として取得した、所定範囲の噛み合い情報のうち、前記未検査期間の最も長いギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定する。
【0087】
停止状態で検査を行う場合には、検査の対象となるギヤ(DR,DN)における歯の噛合いは数歯分になり得る。このため、構成3乃至構成5の検査装置によれば、車両Vの自動運転制御との協調により、車両Vの停止位置を制御して、前回の検査時点からの未検査期間が最も長いギヤの噛み合いを優先して検査を行いギヤの損傷を早期に検出することが可能になる。
【0088】
構成6.前記処理部(301)は、前記AE信号の波形に基づいて、前記損傷の発生の有無を判定する。
【0089】
構成7.前記処理部は、前記車両の停止状態で、前記所定のトルクとして、予め設定した周期と振幅とを有する正弦波のトルクを発生させるための駆動要求信号を生成し、前記ギヤを噛み合い状態にする。
【0090】
構成6及び構成7の検査装置によれば、AE信号は物体が完全に破損するより前に起こる微小な劣化により発生し得るため、ギヤの劣化の初期段階を早期に検知することができる。
【0091】
構成8.前記記憶部(303)は、前記検査日時情報と共に前記検査の回数情報を記憶し、
前記処理部は、前記未検査期間の最も長いギヤの組み合わせとして、複数の噛み合い情報が特定された場合には、前記回数情報に基づいて、前記検査の回数が最も少ないギヤの噛み合いを前記検査の対象として特定する。
【0092】
構成8の検査装置によれば、検査日時情報に基づいて、検査の対象を特定できない場合であっても、検査日時情報と回数情報とを用いて、検査の対象の特定を行うことが可能になる。
【0093】
構成9.前記処理部(301)は、前記判定に基づいて前記損傷の発生を報知する報知信号を出力する。
【0094】
構成9の検査装置によれば、ギヤの劣化の初期段階を早期に運転者に報知することが可能になる。
【0095】
構成10.実施形態の検査方法は、車両(V)の駆動源として搭載されたモータ(11)により発生したトルクを伝達する変速機(12)におけるギヤの損傷を検査する検査装置(300)の検査方法であって、
前記検査装置(300)の検出部(320)が前記ギヤの噛み合い状態におけるAE信号を検出する工程と、
前記検査装置(300)の処理部(301)が前記AE信号に基づいて、前記ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を判定する工程と、を有する。
【0096】
構成10の検査方法によれば、車両にモータを搭載した状態で、ギヤの噛み合い状態における損傷の発生の有無を検査することができる。
【0097】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステムまたはシステムを構成する検査装置に供給し、その検査装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出して、検査装置の処理を実行することも可能である。
【0098】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1:電子制御ユニット(車両制御装置)、11:モータ(電動機)、12:変速機、300:検査装置、301:処理部(信号処理部)、302:通信部、303:記憶部、320:AEセンサ(検出部)