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特開2025-14845防曇性被膜形成用塗布剤、防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014845
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】防曇性被膜形成用塗布剤、防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20250123BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20250123BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20250123BHJP
   C09D 171/00 20060101ALI20250123BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D133/14
C09D183/04
C09D171/00
C09D143/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117750
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】523220503
【氏名又は名称】セントラル硝子プロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】楠木 りさ子
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓史
(72)【発明者】
【氏名】濱口 滋生
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CJ291
4J038DF001
4J038DG022
4J038DG262
4J038DG302
4J038DL032
4J038DL152
4J038NA06
4J038PA19
4J038PB06
4J038PB08
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】1液で、防曇性と防汚性に優れる防曇性被膜を形成することができる防曇性被膜形成用塗布剤、上記防曇性被膜形成用塗布剤を用いた防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品を提供すること。
【解決手段】(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオールと、(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーである第一撥水剤と、(E)溶媒と、を含む、防曇性被膜形成用塗布剤、上記防曇性被膜形成用塗布剤を用いた防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオールと、
(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーである第一撥水剤と、
(E)溶媒と、
を含む、防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項2】
前記シリコーン系アクリルポリマーが、シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体である、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項3】
さらに、(D)下記(D1)、(D2)及び(D3)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である第二撥水剤を含む、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
(D1)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)の数の平均が1~400である直鎖状ポリジアルキルシロキサン
(D2)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するフルオロアルキルシラン
(D3)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するパーフルオロポリエーテル
【請求項4】
前記化合物(D1)が、下記一般式[1-1]又は[1-2]で表される構造を有する直鎖状ポリジアルキルシロキサンである、請求項3に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【化1】

上記一般式[1-1]中、nは5~399の整数である。
は、下記一般式(T1)で表される基を表す。
【化2】

上記一般式(T1)中、L11、L12及びL13は、それぞれ独立に、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。R11は、前記ジアルキルシロキサン部位を含まない、一価の有機基を表す。*は、結合手を表す。
【化3】

上記一般式[1-2]中、nは1~399の整数である。
21及びR22は、それぞれ独立に、下記一般式(T2)で表される基を表す。
【化4】

上記一般式(T2)中、L21は、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。aは、1~50を表す。bは、1~50を表す。*は、結合手を表す。
【請求項5】
前記第一撥水剤(C)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項6】
前記第二撥水剤(D)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項7】
前記ポリオール(B)が、(B1)ポリエチレングリコール、及び(B2)オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットとを繰り返し単位として備える共重合ポリオールを含む、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項8】
さらに、(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項9】
さらに、(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオールを含む、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項10】
ウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)が1.0~3.0である、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項11】
前記ポリオール(B)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項12】
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法であって、
基材の表面に、請求項1~11のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(E)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法。
【請求項13】
前記基材はガラス基材である請求項12に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項14】
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、請求項13に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項15】
前記工程(2)において、前記ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、前記ポリオール(B)及び前記第一撥水剤(C)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成する、請求項12に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項16】
前記工程(2)において、前記塗膜を80~170℃で加熱する、請求項12に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項17】
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、請求項1~11のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタン樹脂を含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品。
【請求項18】
前記基材はガラス基材である請求項17に記載の防曇性物品。
【請求項19】
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、請求項18に記載の防曇性物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防曇性被膜形成用塗布剤、防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室用・洗面化粧台用の鏡、自動車の窓ガラスやカメラのレンズ等の透明基材の視認性を確保するために、これらの基材の表面に曇り防止機能を付与することが強く求められている。
【0003】
鏡やガラスなどのガラス基材の主面に生じる曇りは、無数の微小な水滴が基材表面上に生じる結露現象によって生じる。この曇りを防ぐために、基材表面上に生じた無数の微小な水滴を一様な水膜とする親水性被膜、水蒸気や水滴を被膜中に取り込むことで防曇性を発揮する吸水性被膜等を基材上に形成する技術が検討されている。
昨今、防曇性だけでなく、基材表面に汚れが付きにくい防汚性を兼ね備えることが求められることがある。特許文献1には、防曇性に加えて、防汚性を付与するために、基材上にポリウレタン被膜と、防汚剤を含む組成物の硬化物からなる被膜とを積層した構造を有する防曇性物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-4350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、基材上にポリウレタン被膜を設け、さらにその上に防汚剤を含む組成物からなる被膜を積層することにより、防曇性と防汚性に優れる防曇性物品としている。
特許文献1では、少なくとも、ポリウレタン被膜形成用の塗布剤と、防汚剤を含む塗布剤という2種の塗布剤が必要であり、かつ塗布工程を少なくとも2回行う必要がある。
【0006】
本開示は、1液で、防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる防曇性被膜を形成することができる防曇性被膜形成用塗布剤を提供することを目的とする。
また、本開示は、1回の塗布工程により防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる防曇性物品を製造できる防曇性物品の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本開示は、防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる、単層の防曇性被膜を有する防曇性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の課題は、下記構成により解決される。
【0008】
〔1〕
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオールと、
(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーである第一撥水剤と、
(E)溶媒と、
を含む、防曇性被膜形成用塗布剤。
〔2〕
前記シリコーン系アクリルポリマーが、シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体である、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔3〕
さらに、(D)下記(D1)、(D2)及び(D3)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である第二撥水剤を含む、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
(D1)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)の数の平均が1~400である直鎖状ポリジアルキルシロキサン
(D2)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するフルオロアルキルシラン
(D3)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するパーフルオロポリエーテル
〔4〕
前記化合物(D1)が、下記一般式[1-1]又は[1-2]で表される構造を有する直鎖状ポリジアルキルシロキサンである、〔3〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【0009】
【化1】
【0010】
上記一般式[1-1]中、nは5~399の整数である。
は、下記一般式(T1)で表される基を表す。
【0011】
【化2】
【0012】
上記一般式(T1)中、L11、L12及びL13は、それぞれ独立に、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。R11は、前記ジアルキルシロキサン部位を含まない、一価の有機基を表す。*は、結合手を表す。
【0013】
【化3】
【0014】
上記一般式[1-2]中、nは1~399の整数である。
21及びR22は、それぞれ独立に、下記一般式(T2)で表される基を表す。
【0015】
【化4】
【0016】
上記一般式(T2)中、L21は、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。aは、1~50を表す。bは、1~50を表す。*は、結合手を表す。
〔5〕
前記第一撥水剤(C)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔6〕
前記第二撥水剤(D)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔7〕
前記ポリオール(B)が、(B1)ポリエチレングリコール、及び(B2)オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットとを繰り返し単位として備える共重合ポリオールを含む、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔8〕
さらに、(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔9〕
さらに、(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオールを含む、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔10〕
ウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)が1.0~3.0である、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔11〕
前記ポリオール(B)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、〔1〕に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
〔12〕
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法であって、
基材の表面に、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(E)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法。
〔13〕
前記基材はガラス基材である〔12〕に記載の防曇性物品の製造方法。
〔14〕
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、〔13〕に記載の防曇性物品の製造方法。
〔15〕
前記工程(2)において、前記ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、前記ポリオール(B)及び前記第一撥水剤(C)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成する、〔12〕に記載の防曇性物品の製造方法。
〔16〕
前記工程(2)において、前記塗膜を80~170℃で加熱する、〔12〕に記載の防曇性物品の製造方法。
〔17〕
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタン樹脂を含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品。
〔18〕
前記基材はガラス基材である〔17〕に記載の防曇性物品。
〔19〕
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、〔18〕に記載の防曇性物品。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、1液で、防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる防曇性被膜を形成することができる防曇性被膜形成用塗布剤を提供することができる。
また、本開示によれば、1回の塗布工程により防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる防曇性物品を製造できる防曇性物品の製造方法を提供することができる。
さらに、本開示によれば、防曇性と防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)に優れる、単層の防曇性被膜を有する防曇性物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[防曇性被膜形成用塗布剤]
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオールと、
(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーであると、
(E)溶媒と、
を含む。
【0019】
<(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート>
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート(「ポリイソシアネート(A)」とも呼ぶ。)について説明する。
ポリイソシアネート(A)は、防曇性被膜(単に「被膜」とも呼ぶ。)の骨格成分を担い、被膜に吸水性と硬度を付与することができる。
ポリイソシアネート(A)としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート基を2つ以上5つ以下有する化合物が挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等が挙げられる。
また、ポリイソシアネート(A)は、多量体(例えば、二量体、三量体など)であってもよいし、アロファネート構造、アダクト構造、ビウレット構造及びイソシアヌレート構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有していてもよい。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたダイマー、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたアロファネート構造を有する化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット構造を有する化合物等であってもよい。ポリイソシアネート(A)が多量体である場合、数平均分子量は100~20000であることが好ましく、150~5000であることがより好ましく、200~2000であることが特に好ましい。
【0020】
ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基はブロックイソシアネート基であってもよい。ブロックイソシアネート基を有するポリイソシアネート(A)を「ブロックポリイソシアネート(AH)」とも呼ぶ。
【0021】
ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基をブロック剤で保護した基であり、熱処理によってブロック剤が解離し、イソシアネート基が再生するものである。
【0022】
ブロックポリイソシアネート(AH)は特に限定されず、例えば、前述のポリイソシアネートのイソシアネート基を公知のブロック剤で保護したものであってもよい。
【0023】
また、ブロックポリイソシアネート(AH)は、分子内にウレタン結合(-NHCOO-)を有していることが好ましい。
【0024】
ブロックポリイソシアネート(AH)の数平均分子量は100~20000であることが好ましく、150~5000であることがより好ましく、200~2000であることが特に好ましい。
【0025】
<(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオール>
(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するポリオール(「ポリオール(B)」とも呼ぶ。)について説明する。
ポリオール(B)はオキシエチレンユニットを繰返し単位として備えることで、防曇性被膜に吸水性を付与することができる。オキシエチレンユニットを繰返し単位として備えるとは、分子内に、「-(CHCHO)-」を含むことを示す。pは2以上の整数を表す。
ポリオール(B)はヒドロキシ基を分子内に3つ以上有することが好ましい。
ポリオール(B)としては、特に限定されないが、例えば、(B1)ポリエチレングリコール、(B2)オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットとを繰り返し単位として備える共重合ポリオール等が挙げられ、上記(B1)と上記(B2)を両方含むことが好ましい。
【0026】
上記(B2)の共重合ポリオールは、開始剤にフォスファゼン化合物、ルイス酸化合物またはアルカリ金属化合物触媒を用い、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを開環重合させて、ブロック付加またはランダム付加して得られる、ポリエーテルポリオールを使用することができる。
上記(B2)の共重合ポリオールのオキシエチレンユニット/オキシプロピレンユニットのモル比は、45/55~90/10としてもよく、好ましくは70/30~80/20としてもよい。
【0027】
ポリオール(B)の数平均分子量は、200~10000であることが好ましく、300~5000であることがより好ましく、400~2000であることが更に好ましい。
【0028】
ポリオール(B)は、分岐型ポリオール(分子内に分岐構造を有するポリオール)又は環状ポリオール(分子内に四員環、五員環、六員環などの環状構造を有するポリオール)であることが好ましい。分岐型ポリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパンエトキシラート、ペンタエリスリトールエトキシラート、ポリオキシエチレン(13)ポリグリセリルエーテル等が挙げられる。六員環型ポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレンメチルグルコシド(メチルグルセス-10、メチルグルセス-20など)、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。また、ポリオール(B)として分岐型ポリオールと環状ポリオールの両方を用いてもよい。
【0029】
ポリオール(B)は市中より入手可能で、例えば、東邦化学工業製のポリエチレン・ポリプロピレングリコール(商品名「トーホーポリオールPB-4000」)、Sigma-Aldrich製のトリメチロールプロパンエトキシラート及びペンタエリスリトールエトキシラート、阪本薬品工業製のポリオキシエチレン(13)ポリグリセリルエーテル(商品名「SCE-750」)、日油製のメチルグルセス-10(商品名「マクビオブライドMG-10E」)、日油製のメチルグルセス-20(商品名「マクビオブライドMG-20E」)、三洋化成製のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(商品名「ポリソルベートT-20C」)などが挙げられる。
【0030】
<(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーである第一撥水剤>
(C)ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーである第一撥水剤(「第一撥水剤(C)」とも呼ぶ。)について説明する。
第一撥水剤(C)は、防曇性被膜の骨格成分を担い、膜硬度の向上に寄与する成分であるともに、防曇性被膜に防汚性(特に、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対する防汚性)を付与する成分である。
第一撥水剤(C)としてのシリコーン系アクリルポリマーは、シリコーン部位(ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rはそれぞれ独立して、アルキル基を表す)の繰り返し構造)と、アクリルポリマー部位とを有しており、詳細な理由は定かではないが、このような構造を有していることによって、高い撥水性のみならず、高い撥油性を発現できる(すなわち、高い撥水撥油性を発現できる)結果、油性汚れ及び水垢汚れの双方に対して高い防汚性を発現できるものと推測される。
【0031】
第一撥水剤(C)は、ヒドロキシ基を分子内に2つ以上有するシリコーン系アクリルポリマーであれば特に限定されないが、好ましい一実施形態において、シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体である。
ここで、上記シリコーンモノマーは、典型的には、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rはそれぞれ独立して、アルキル基を表す)の繰り返し構造を有するモノマーであり、更に、CH=C(Rα)-で表される基(Rαは水素原子又はアルキル基を表す)等の重合性基を有するモノマーであっても良い。重合性基を有するシリコーンモノマーにおいて、上記ジアルキルシロキサン部位の繰り返し構造(シリコーン部位)がある程度の鎖長を有するシリコーンセグメントである場合には、グラフト共重合体の形態である第一撥水剤(C)を製造する際のマクロモノマーとしても使用可能である。
上記アクリルモノマーは、典型的には、重合性基として(メタ)アクリロイル基などのCH=C(Rα)-C(=O)-で表される基(Rαは水素原子又はアルキル基を表す)を有するモノマーである。
シリコーン部位(ジアルキルシロキサン部位の繰り返し構造)と上記CH=C(Rα)-C(=O)-で表される基とを有するモノマーは、本明細書において、上記シリコーンモノマーに相当し、上記アクリルモノマーには相当しないものと考える。換言すれば、上記アクリルモノマーは、シリコーン部位を有さないものを意図している。
【0032】
シリコーン系アクリルポリマー(典型的には、シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体)の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体及びグラフト共重合体などを挙げることができ、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であることが好ましい。
シリコーン系アクリルポリマー(典型的には、シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体)がグラフト共重合体である場合、グラフト共重合体は、主鎖及び側鎖の一方がアクリルポリマー部位(典型的には、上記CH=C(Rα)-C(=O)-で表される基から重合反応により形成されるポリマーセグメント部位)を含み、他方がシリコーン部位を含むグラフト共重合体であることが好ましく、主鎖がアクリルポリマー部位を含み、側鎖がシリコーン部位を含むグラフト共重合体であることがより好ましい。
シリコーンモノマーとアクリルモノマーの共重合体においては、シリコーンモノマーの少なくとも一部、又は、アクリルモノマーの少なくとも一部が、ヒドロキシ基を有するモノマーであることが好ましく、アクリルモノマーの少なくとも一部が、ヒドロキシ基を有するアクリルモノマーであることがより好ましい。
【0033】
第一撥水剤(C)の具体例として、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸第3ブチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸-n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸第3ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、N-メチロールアクリルアミド等のアクリルモノマーと、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等のシリコーンモノマーとにより得られたものを挙げることができる。
ここで、アクリルモノマーに由来する繰り返し単位にヒドロキシ基を付与する場合、アクリルモノマーの少なくとも一部は、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、N-メチロールアクリルアミド等のヒドロキシ基を有するアクリルモノマーであることが好ましい。
【0034】
また、第一撥水剤(C)としては、上記したモノマーと、2-ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸第3ブチルアミノエチル等のアミノ基含有モノマー、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジル基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミノ基含有モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、イタコン酸等の酸基含有モノマー、フマル酸エステル、イタコン酸エステル、又は、スチレン等をさらに共重合させて得られるものも挙げることができる。
【0035】
第一撥水剤(C)の数平均分子量は、200~100000であることが好ましく、500~80000であることがより好ましく、1000~60000であることが更に好ましい。
【0036】
第一撥水剤(C)は、例えば、シリコーンモノマーの重合により得られたシリコーン部位(シリコーンセグメント)と、アクリルモノマーの重合により得られたアクリルポリマー部位(アクリルセグメント)とを、架橋剤(ビニルトリエトキシシラン、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルなど)を用いて結合する方法や、モノマーの予備重合により得られたシリコーンセグメント及びアクリルセグメントのいずれか一方のセグメントと、上記架橋剤との存在下で、他方のセグメントを合成するためのモノマーを重合する方法などの公知の方法(特公平7-57737号公報、特公平7-91385号公報なども参照)に基づき製造できる。
また、第一撥水剤(C)は、市販品を用いることもできる。第一撥水剤(C)の市販品としては、例えば、「サイマックUS-270(東亜合成株式会社製)」、「8BS-9000(大成ファインケミカル製)」などが挙げられる。
【0037】
<(D)第二撥水剤>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、さらに、(D)第二撥水剤(「撥水剤(D)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
第二撥水剤(D)は、防曇性被膜に防汚性を付与する成分である。
撥水剤(D)は、下記(D1)、(D2)及び(D3)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である。
(D1)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)の数の平均が1~400である直鎖状ポリジアルキルシロキサン(「化合物(D1)」とも呼ぶ。)
(D2)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するフルオロアルキルシラン(「化合物(D2)」とも呼ぶ。)
(D3)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するパーフルオロポリエーテル(「化合物(D3)」とも呼ぶ。)
【0038】
上記化合物(D1)、(D2)及び(D3)における加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基としては、アルコキシ基が挙げられ、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0039】
(化合物(D1))
化合物(D1)は、滑り性に優れるジアルキルシロキサン部位を有するので、被膜に防汚性を付与することができる。
また、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、第二撥水剤(D)として、化合物(D1)を含有することにより、油性汚れに対する防汚性を、より良好なものにできる傾向となる。その詳細な理由は定かではないが、第二撥水剤(D)も撥水撥油性を発現することによるものと推測される。
【0040】
化合物(D1)において、防汚性と耐久性とがさらに良好な被膜とするためには、ジアルキルシロキサン部位(SiRO)の数の平均が20~50であることが好ましい。
SiROのRはメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0041】
化合物(D1)としては、例えば、下記一般式[1-1]~[1-3]のいずれかで表されるポリジメチルシロキサンが好適に用いられる。
化合物(D1)は、下記一般式[1-1]又は[1-2]で表される直鎖状ポリジメチルシロキサンであることが好ましく、下記一般式[1-1]で表される直鎖状ポリジメチルシロキサンであることがより好ましい。
【0042】
【化5】
【0043】
上記一般式[1-1]中、nは5~399の整数である。
は、下記一般式(T1)で表される基を表す。
【0044】
【化6】
【0045】
上記一般式(T1)中、L11、L12及びL13は、それぞれ独立に、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。R11は、前記ジアルキルシロキサン部位を含まない、一価の有機基を表す。*は、結合手を表す。
【0046】
【化7】
【0047】
上記一般式[1-2]中、nは1~399の整数である。
21及びR22は、それぞれ独立に、下記一般式(T2)で表される基を表す。
【0048】
【化8】
【0049】
上記一般式(T2)中、L21は、単結合、又は、ジアルキルシロキサン部位(SiRO、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)を含まない二価の連結基を表す。aは、1~50を表す。bは、1~50を表す。*は、結合手を表す。
【0050】
一般式[1-1]において、nは、10~200の整数であることが好ましく、20~100の整数であることがより好ましい。
一般式(T1)におけるL11、L12及びL13としての二価の連結基の具体例としては、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル結合等が挙げられ、R11としての一価の有機基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0051】
一般式[1-2]において、nは、1~100の整数であることが好ましく、1~50の整数であることがより好ましい。
一般式(T2)におけるL21としての二価の連結基の具体例としては、アルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル結合等が挙げられる。aは、1~30を表すことが好ましく、bは、1~30を表すことが好ましい。
【0052】
【化9】
【0053】
一般式[1-3]中、X及びXは、それぞれ独立に、一価もしくは二価の官能基を表す。a及びbは、それぞれ独立に、0~3の整数であり、nは10~400の整数である。ただし、a+bは1以上であり、X及びXの少なくとも1つは、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0054】
及びXが表す一価もしくは二価の官能基の具体例としては、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、アクリロイル基、アリル基、メルカプト基、-C(=O)-OR基(Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)、-O-C(=O)R基(Rは-C(=O)-OR基のRと同じ)、-A-B基(Aは二価の有機基を表し、Bはヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、-C(=O)-OR基(Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)または-O-C(=O)R基(Rは-C(=O)-OR基のRと同じ)を表す)、-A-C(A)(A)(A)基(Aは二価の有機基を表し、Aは水素原子または1価の有機基を表し、A及びAは、それぞれ独立に、二価の有機基を表す。BまたはBは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、アクリロイル基、アリル基、メルカプト基、-C(=O)-OR基(Rは炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)または-O-C(=O)R基(Rは-C(=O)-OR基のRと同じ)である。
【0055】
例えば、上記化合物(D1)は、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基(以下、「反応性官能基」ともいう)が直鎖状ポリジアルキルシロキサンの末端の一方に結合した片末端変性ポリジアルキルシロキサン(例えば、上記[1-1]で表される直鎖状ポリジメチルシロキサンなど)であっても、反応性官能基が直鎖状ポリジアルキルシロキサンの両方の末端に結合した両末端変性ポリジアルキルシロキサン(例えば、上記[1-2]又は[1-3]で表される直鎖状ポリジメチルシロキサンなど)であっても、反応性官能基が直鎖状ポリジアルキルシロキサンのシロキサン部位を構成するケイ素原子に、直接、結合した側鎖変性ポリジアルキルシロキサンであってもよい。
【0056】
(化合物(D2))
化合物(D2)におけるフルオロカーボン部位は、CF又はCFであることが好ましい。
化合物(D2)としては、下記一般式[2]で表される、片側末端に官能基を有するフルオロアルキルシランや、下記一般式[3]で表される、両側末端に官能基を有するフルオロアルキルシランが好適に用いられる。
【0057】
【化10】
【0058】
一般式[2]中、Yは、それぞれ独立に、一価の官能基を表す。pは1~3の整数であり、官能基の数を表す。mは2~6の整数である。ただし、少なくとも1つのYは、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つを表す。
【0059】
【化11】
【0060】
一般式[3]中、Y及びYは、それぞれ独立に、一価の官能基を表す。mは2~6の整数であり、フルオロカーボン部位の数を表す。q及びrは、それぞれ独立に、1~3の整数であり、一価の官能基の数を表す。ただし、Y及びYの少なくとも1つは、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つを表す。
【0061】
化合物(D2)は、皮脂成分、指紋、水垢等の汚れ成分に対する防汚性および除去性、さらに耐久性に優れたフルオロカーボン部位を有するため、得られる被膜の防汚性及び耐久性の向上に効果を奏する。
また、化合物(D2)の分子中にフルオロカーボン部位の数が2~6であるパーフルオロアルキル基(CF(CFt-1-)またはパーフルオロアルキレン基(-(CF-)を有するものが好ましい。フルオロカーボン部位の数が増加すると、得られる防汚性被膜の耐久性が増加する。t及びuは整数を表し、前記「-」は結合手を示している。
【0062】
(化合物(D3))
化合物(D3)におけるフルオロカーボン部位は、CF又はCFであることが好ましい。
化合物(D3)としては、下記一般式[4]~[6]のいずれかで表されるものが好ましい。
【0063】
【化12】
【0064】
一般式[4]中、Rfは、式:-C2pO-(pは1~6の整数である。)で表される構造、または、-C2q-(qは1~8の整数である。)で表される構造である。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。Rは炭素数が1~10のアルキル基であり、aは1~3の整数である。n及びn’はそれぞれ1~5の整数、m及びm’はそれぞれ0~2の整数である。
【0065】
【化13】
【0066】
一般式[5]中、rは1~200の整数を表す。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。
【0067】
【化14】
【0068】
一般式[6]中、sは1~100の整数を表し、tは1~10の整数を表す。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。
【0069】
化合物(D3)についても、化合物(D2)と同様に、皮脂成分、指紋、水垢等の汚れ成分に対する防汚性および除去性、さらに耐久性に優れたフルオロカーボン部位を有するので、得られる被膜の防汚性及び耐久性の向上に効果を奏する。
【0070】
<(E)溶媒>
(E)溶媒(「溶媒(E)」とも呼ぶ。)について説明する。
溶媒(E)として、酢酸エステル系溶媒又はケトン類を使用することが好ましい。具体的には、酢酸エステル系溶媒としては、酢酸アミル、酢酸アリル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸2-エチルへキシル、酢酸シクロへキシル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、酢酸メチル、酢酸メチルシクロへキシル等が挙げられる。ケトン類としては、アセチルアセトン、アセトン、イソホロン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジ-n-プロピルケトン、メチルオキシド、メチル-n-アミルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-ヘプチルケトン、ジアセトンアルコール、これらの混合物等が挙げられる。特に、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、メチルエチルケトン等が好ましい。
【0071】
<(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコール>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、さらに、(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコール(「ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)の数平均分子量は100~4000であることが好ましく、500~2000であることがより好ましく、800~1200であることが特に好ましい。
【0072】
<(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオール>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、さらに、(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオール(「短鎖ポリオール(G)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
短鎖ポリオール(G)は、数平均分子量が60~200の範囲にある、鎖長の短いポリオールのことである。
短鎖ポリオール(G)を含むことで、被膜の硬度が改善されやすくなる。短鎖ポリオール(G)の1分子あたりの水酸基数は、2又は3としてもよい。
【0073】
短鎖ポリオール(G)の例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,2’-チオジエタノール等のアルキルポリオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがあげられ、それらを単独、又は混合物、若しくはそれらの数平均分子量が60~200の範囲の共重合体等を使用することができる。
【0074】
これらの中では、エチレングリコール、トリエチレングリコールが、被膜の硬度改善の観点から好ましく、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールのような1級水酸基よりも活性の低い2級や3級水酸基を有する短鎖ポリオールは、塗布液の安定性(ポットライフの長期化)の点から好ましい。
【0075】
<ウレタン形成成分>
本明細書で、「ウレタン形成成分」とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤に含まれる成分のうち、ポリウレタンを形成する際の原料となる成分から、第一撥水剤(C)及び第二撥水剤(D)を除いた全ての成分である。
典型的には、「ウレタン形成成分」とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)、及び短鎖ポリオール(G)のことを表す。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、及び第一撥水剤(C)を含有し、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)、及び短鎖ポリオール(G)を含有しない場合は、「ウレタン形成成分」は、ポリイソシアネート(A)、及びポリオール(B)である。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、ポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、第一撥水剤(C)、及び第二撥水剤(D)を含有し、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)、及び短鎖ポリオール(G)を含有しない場合は、「ウレタン形成成分」は、ポリイソシアネート(A)、及びポリオール(B)である。
その他の場合についても、上記と同様に「ウレタン形成成分」を考えるものとする。
なお、第一撥水剤(C)又は第二撥水剤(D)に該当する化合物が、他の成分にも該当したとしても、この化合物は、第一撥水剤(C)又は第二撥水剤(D)に該当するため、本明細書における「ウレタン形成成分」には該当しないものとして扱う。
例えば、第二撥水剤(D)にもポリオール(B)にも該当する化合物は、「ウレタン形成成分」となるか否かの判断においては、第二撥水剤(D)に該当するため、「ウレタン形成成分」とは考えない。
【0076】
<各成分の含有量>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリイソシアネート(A)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、35~70質量%であることが更に好ましい。
【0077】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリオール(B)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、30~65質量%であることが更に好ましい。
【0078】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の第一撥水剤(C)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%であることが好ましく、0.005~5.0質量%であることがより好ましく、0.01~2.0質量%であることが更に好ましい。
【0079】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の第二撥水剤(D)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%であることが好ましく、0.005~5.0質量%であることがより好ましく、0.01~2.0質量%であることが更に好ましい。
【0080】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、5~15質量%であることが好ましく、8~10質量%であることがより好ましい。
【0081】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、短鎖ポリオール(G)を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の短鎖ポリオール(G)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、1~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることが更に好ましい。
【0082】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の溶媒(E)の含有量は、例えば、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の固形分濃度が10~50質量%となるように、調整することができる。固形分とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の全成分から溶媒(E)を除いた全ての成分のことであり、固形分濃度とは、固形分の濃度(含有量)である。
【0083】
<n(NCO)/n(OH)
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤におけるウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)は1.0~3.0であることが好ましく、1.1~2.5であることがより好ましく、1.1~2.0であることが更に好ましい。
なお、ブロックイソシアネート基の数も、イソシアネート基の数n(NCO)には含める。
【0084】
<その他の成分とその含有量>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、防曇性被膜形成用塗布剤を塗布してなる塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する際の硬化速度を速くするために、硬化触媒を含んでもよい。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、硬化触媒を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の硬化触媒の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~0.5質量%であることが好ましい。
硬化触媒の例として、有機錫化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物等の有機金属化合物や、アミン化合物等が挙げられる。
【0085】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、塗膜の基材上での平滑性を促進させるレベリング剤を含んでもよい。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、レベリング剤を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のレベリング剤の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.01~0.50質量%であることが好ましく、0.05~0.25質量%であることがより好ましい。
【0086】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、塗膜の耐熱性、耐候性、耐水性を改善させる添加剤を含んでもよい。
上記添加剤の例として、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、カルボジイミド系加水分解防止剤等が挙げられる。なお、上記添加剤は単独でも、複数のものを混合して用いても良い。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、上記添加剤を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の上記添加剤の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.2~10.0質量%であることが好ましく、0.5~2.0質量%であることがより好ましい。
【0087】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の用途は、特に限定されないが、建築用には、浴室用、洗面化粧台用等の鏡、窓ガラス等、車両、船舶、航空機等には、窓ガラスあるいは鏡、具体的にはルームミラー、ドアミラー等があげられ、その他に眼鏡やカメラ等のレンズ、ゴーグル、ヘルメットシールド、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、試験機、精密機器ケース等の開口部やのぞき窓、道路反射鏡、携帯電話等の移動通信体のディスプレー等が挙げられる。
【0088】
[防曇性物品の製造方法]
本開示の防曇性物品の製造方法は、
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法の製造方法であって、
基材の表面に、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(E)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法である。
【0089】
上記工程(1)と上記工程(2)をこの順に行うことで、防曇性物品が得られる。
【0090】
<基材>
基材としては、板状のものが好ましく使用され、代表的なものとしてはガラスが用いられる。そのガラスは自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられているソーダライムガラス製の板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。
【0091】
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等、銀引き法あるいは真空成膜法により作製された鏡、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。
【0092】
基材の板厚は特に制限されないが、1mm以上10mm以下が好ましく、特に1mm以上5mm以下が好ましい。
基材表面への防曇性被膜の形成は、基材の片面だけ、或いは用途によっては両面に行ってもよい。また、防曇性被膜の形成は、基材表面の全面でも一部分であってもよい。
【0093】
ガラス基材の表面は、ガラス基材と防曇性被膜との密着性を向上させるために、シランカップリング剤等のプライマー成分が塗布されたものであることが好ましい。前記基材への前記シランカップリング剤の塗布にあたって、前記シランカップリング剤は、アルコール及び水等で、0.05~2.0質量%程度に希釈されていてもよい。前記シランカップリング剤の例として、アミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。特には、アミノ基を有するシランカップリング剤が好ましく、γ-グリシドオキシプロピルトリメトキシ、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン等が特に好ましい。このように、基材上に上記カップリング剤を含む溶液を基材に塗布する工程は、前記基材と前記被膜との接着性が向上する、特に好ましい態様である。
【0094】
基材がガラス基材であり、かつガラス基材の表面には、アミノ基を有するシランカップリング剤が塗布されていることが好ましい。
【0095】
基材は、ガラス基材以外に、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート等の樹脂等であってもよい。これら樹脂透明基材表面に前記防曇性被膜を形成して防曇性物品とし、該物品をガラス基材に貼付してもよい。
【0096】
<工程(1)>
工程(1)は、基材の表面に、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程である。
工程(1)の前に、前述の基材と、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を準備する。
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の基材への塗布は、例えば、ディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段によって行うことができる。
【0097】
<工程(2)>
工程(2)は、前記塗膜から前記溶媒(E)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程である。
塗膜を硬化するということは、具体的には、塗膜中の原料を反応させてポリウレタンを形成し、塗膜を固化することを指す。
工程(2)では、ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、ポリオール(B)及び第一撥水剤(C)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成することが好ましい。
工程(2)では、室温で放置又は170℃以下の熱処理で、前記塗膜の硬化と共に溶媒(E)の蒸散がなされ、塗膜が固化されて防曇性被膜となる。
塗膜の硬化を促進させるためには、80~170℃で加熱を行うことが好ましく、100~165℃で加熱を行うことがより好ましく、120~160℃で加熱を行うことが更に好ましい。
【0098】
[防曇性物品]
本開示の防曇性物品は、
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタンを含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品である。
【0099】
防曇性物品の基材については、[防曇性物品の製造方法]で記載したとおりである。特に、基材がガラス基材であり、かつガラス基材の表面には、アミノ基を有するシランカップリング剤が塗布されていることが好ましい。
【0100】
防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmであり、10μm~45μmであることが好ましく、15μm~40μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることが特に好ましい。
【0101】
防曇性被膜の鉛筆硬度が2H以上であることが好ましく、3H以上であることがより好ましい。
【実施例0102】
以下、本開示の実施例について説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0103】
本実施例及び比較例では、防曇性物品を製造するための防曇性被膜形成用塗布剤(塗布液)を調製し、基材上に塗布された塗布液からなる塗膜を熱処理し、硬化して防曇性被膜とすることで、防曇性物品を製造した。該塗布液の調製方法及び防曇性物品の製造方法は後述の通りである。次に、得られた防曇性物品について、以下に示す方法により品質評価を行った。
【0104】
〔防曇性被膜の膜厚〕:防曇性被膜の膜厚は、防曇性被膜表面にカッターで切り込みを入れ、防曇性被膜表面と基材表面の段差を表面粗さ計(小坂研究所社製 Surfcorder ET-4000A)で測定し、5点の平均値を防曇性被膜の膜厚とした。
【0105】
〔外観評価〕:防曇性被膜の外観、透過性、膜のムラの有無を目視で評価し、全ての観点において問題ないものを合格(○)、1つ以上の観点において問題のあったものを不合格(×)とした。
【0106】
〔防曇性評価〕:温度10℃、湿度30%の室内において、防曇性物品の該被膜面に対し、15℃の飽和水蒸気を暴露させる。被膜面が曇り始めた時間を被膜の防曇時間とし、防曇時間が5分30秒を超えたものを合格(○)、超えなかったものを不合格(×)とした。
【0107】
〔鉛筆硬度〕:JIS K 5600 塗料一般試験方法(1999)に準拠して、荷重750gが負荷された鉛筆で防曇性被膜膜表面を5回引っ掻き、3回以上防曇性被膜膜の破れが無かった鉛筆の硬度を防曇性被膜膜の鉛筆硬度とした。
【0108】
〔耐油性マジック試験〕:油性マジックを用いて防曇性物品の該被膜面を汚染させ、以下の〔弾き性〕、〔払拭性〕及び〔除去性〕の評価を実施した。
【0109】
〔弾き性〕:油性マジックを弾いたものを○、掠れたものを△、弾かなかったものを×とした。
【0110】
〔払拭性〕:セルロース繊維からなるファイバー(商品名「ベンコット」、型式M-1、50mm×50mm、小津産業製)を用いて油性マジック汚染部を400g/cmの力で払拭する。引っかかりなく良く滑るものを○、多少引っかかるものを△、滑らないものを×とした。
【0111】
〔除去性〕:ベンコットを用いて油性マジック汚染部を400g/cmの力で5往復払拭する。油性マジックの汚染を完全に除去可能なものを○、除去可能だが膜中に色残りしたものを△、除去不可能なものを×とした。
【0112】
〔耐水垢試験〕:水平に置いた防曇性被膜表面に水道水を滴下し、60℃で1時間乾燥させる。乾燥後に水垢が除去可能なものを合格(○)、除去不可能なものを不合格(×)とした。
【0113】
[実施例1]
(防曇塗布液の調製)
ポリイソシアネート(A)としてブロックイソシアネート(商品名「デュラネートSBB-70P」;固形分濃度70質量%;旭化成製)38.22gを準備した。これを薬剤Aとする。
【0114】
また、以下にあげる各成分が、以下の指定量で混合され、総量62.388gの薬剤Bが得られた。
<溶媒(E)>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールとの混合液;48.53g
<ポリオール(B)>
以下の構造を持つ数平均分子量634の4官能ポリオールのメチルグルセス-10(商品名「マクビオブライドMG-10E」;日油製、六員環型ポリオール);13.25g
【0115】
【化15】
【0116】
a、b、c、dは正の整数であり、a+b+c+d=10である。
【0117】
<第一撥水剤(C)>
シリコーン系アクリルポリマーのサイマックUS-270(東亞合成製):0.20g
<第二撥水剤(D)>
片末端ジオール変性ポリジメチルシロキサン化合物のX-22-176DX(信越化学工業製):0.008g
<光安定剤>
ヒンダードアミン系光安定剤のアデカスタブLA-72(ADEKA製);0.40g
【0118】
上記の薬剤Aと薬剤Bを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.02gを添加することで、100.628gの塗布液2を調製した。
【0119】
塗布液2の総量を100質量%としたとき、塗布液2中のウレタン形成成分は、40質量%であった。また、塗布液2の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して1.1倍量であった。塗布液2において、イソシアネート化合物は、ウレタン形成成分の総量100質量%に対して66.9質量%含まれている。
【0120】
(基材の準備)
矩形状で、サイズが100mm×100mm×5mm(厚さ)のソーダライムガラス板の裏面に通常の方法で銀膜を形成して、鏡を準備した。89gのイオン交換水と、10gのプロパノールとの混合溶液と、アミノ系シランカップリング剤の、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成製)1gとの混合溶液を準備した。該混合溶液を染み込ませたセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M-1、50mm×50mm、小津産業製)で、前記鏡のガラス表面を払拭し、その後、水洗して、プライマー層が形成された鏡を基材として準備した。
【0121】
(防曇性物品の形成)
該基材のプライマー層が形成された主面に、前記塗布液2をスピンコートにより塗布して塗膜を形成し、その後、約170℃で約10分間熱処理することにより、膜厚25μmの防曇性被膜が形成された防曇性物品を得た。本実施例の防曇性物品の評価結果は、表1に示すとおり良好なものであった。
【0122】
[実施例2]
第一撥水剤をシリコーン系アクリルポリマーの8BS-9000(大成ファインケミカル製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0123】
[実施例3]
第一撥水剤のみ添加し、第二撥水剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0124】
[実施例4]
第二撥水剤を両末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物のKF-6123(信越化学製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0125】
[実施例5]
第二撥水剤を側鎖カルビノール変性ポリジメチルシロキサン化合物のX-22-4039(信越化学製)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0126】
[比較例1]
第一撥水剤と第二撥水剤を未添加とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。本比較例の防曇性物品の評価結果は、表1に示すとおり油性マジックの弾き性、払拭性、除去性、および水垢除去性が実施例より劣るものであった。
【0127】
下記表1中の第一撥水剤(C)及び第二撥水剤(D)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対しての値である。
【0128】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本開示の防曇性物品は、建築用には、浴室用、洗面化粧台用等の鏡、窓ガラス等、車両、船舶、航空機等には、窓ガラスあるいは鏡、具体的にはルームミラー、ドアミラー等に利用できる。その他、眼鏡やカメラ等のレンズ、ゴーグル、ヘルメットシールド、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、試験機、精密機器ケース等の開口部やのぞき窓、道路反射鏡、携帯電話等の移動通信体のディスプレー等にも利用可能である。