(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014852
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】回転ベゼル構造及び時計
(51)【国際特許分類】
G04B 19/28 20060101AFI20250123BHJP
【FI】
G04B19/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117764
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】502366745
【氏名又は名称】セイコーウオッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】石田 正浩
(72)【発明者】
【氏名】上野 昂希
(57)【要約】
【課題】従来技術と比較して回転ベゼルをより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造及びこの回転ベゼル構造を備えた時計を提供する。
【解決手段】回転ベゼル構造1は、時計ケース2と、環状の弾性部材3と、回転ベゼル4と、を備える。弾性部材3は、時計ケース2の径方向の外周部に取り付けられる。回転ベゼル4は、時計ケース2よりも径方向の外側に設けられ、弾性部材3を介してのみ時計ケース2と係合するとともに、弾性部材3との摩擦係合によって時計ケース2に対して回転可能に保持される。時計ケース2の外周部には、弾性部材3の一部を収容する第一凹部27が形成されている。回転ベゼル4の内周部には、弾性部材3の一部を収容する第二凹部40が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ケースと、
前記時計ケースの径方向の外周部に取り付けられる環状の弾性部材と、
前記時計ケースよりも前記径方向の外側に設けられ、前記弾性部材を介してのみ前記時計ケースと係合するとともに、前記弾性部材との摩擦係合によって前記時計ケースに対して回転可能に保持される回転ベゼルと、
を備える回転ベゼル構造。
【請求項2】
前記弾性部材は、ゴム製の材料により形成されている請求項1に記載の回転ベゼル構造。
【請求項3】
前記回転ベゼルは、前記時計ケースの軸方向の一方側から前記時計ケースに取り付けられ、
前記弾性部材のうち少なくとも前記軸方向の一方側には面取り部が形成されている請求項1又は請求項2に記載の回転ベゼル構造。
【請求項4】
前記弾性部材の延在方向と直交する断面視において、前記弾性部材の内周部は、前記時計ケースの外周面に沿う平面部を有する請求項1又は請求項2に記載の回転ベゼル構造。
【請求項5】
前記時計ケースの前記外周部には、前記弾性部材の一部を収容する第一凹部が形成されており、
前記回転ベゼルの内周部には、前記弾性部材の一部を収容する第二凹部が形成されており、
前記第一凹部及び前記第二凹部に前記弾性部材が収容され、かつ前記時計ケースに前記回転ベゼルが取り付けられた状態において、前記時計ケースの前記外周部と前記回転ベゼルの前記内周部とは互いに隙間を有して対向する請求項1又は請求項2に記載の回転ベゼル構造。
【請求項6】
前記第二凹部は、前記第一凹部と比べて前記時計ケースの軸方向に沿う幅寸法が大きい請求項5に記載の回転ベゼル構造。
【請求項7】
前記第一凹部の前記径方向に沿う深さ寸法は、前記第二凹部の前記径方向に沿う深さ寸法よりも大きい請求項5に記載の回転ベゼル構造。
【請求項8】
請求項1に記載の回転ベゼル構造と、
前記時計ケースの内側に配置されたムーブメントと、
を備える時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転ベゼル構造及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腕時計等の時計のケースに回転ベゼルが取り付けられる構成が知られている。これらの時計では、時計ケース(時計本体)に対して回転ベゼルを好適に取り付ける技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、時計ケースに回転可能に取り付けられた回転ベゼルと、回転ベゼルの凹凸部と係合する係合突起を有し径方向に弾性変形可能な弾性部材と、を有する回転ベゼル構造が開示されている。凹凸部及び係合突起は、半径方向に対して所定角度で傾斜している。特許文献1に記載の技術によれば、凹凸部及び係合突起間の係合角度が比較的緩やかな順方向に回転ベゼルを回転させた場合には、弾性部材が径方向に弾性変形することにより回転ベゼルの順方向への回転が許容される。一方、逆回転力が作用した時には凹凸部及び係合突起が強固に係合することにより、回転ベゼルの逆回転が抑制される。よって、順方向への回転時に適度なクリック感を付与しつつ回転ベゼルの逆回転を抑制できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の技術にあっては、時計ケースに対する回転ベゼルの軸方向に関する保持方法について詳しく開示されていない。ここで、
図5は、従来技術に係る時計ケース902と回転ベゼル904の係合状態を説明するための時計910の断面図である。
図5に示すように、従来技術にあっては、時計ケース902の軸方向の一方(
図5の上方)から回転ベゼル904を嵌め込んだ後、時計ケース902に設けられた突起961と回転ベゼル904に設けられた突起962とが互いに係合することにより、回転ベゼル904が軸方向に離脱しないように保持される。また、径方向へのがたつきを抑制するために、時計ケース902の外周部と回転ベゼル904の内周部との間にOリング965が設けられる。
【0006】
しかしながら、このような従来技術にあっては時計ケース902と回転ベゼル904の係合部分が金属同士の食いつけとなるため、分解及び組み付けを複数回繰り返した場合に金属部品が削れて部品が劣化するおそれがあった。よって、長期的なメンテナンスが行い難いという課題があった。また、係合する部分(
図5の突起961及び962)について高い寸法精度が要求されるため、製造の難易度が高くなるおそれがあった。さらに、回転ベゼルの断面積が小さい場合に係合部分が変形したり、耐摩耗性の低い材料を用いた場合に組み付けが行えない等、製造性や設計自由度の点で課題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来技術と比較して回転ベゼルをより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造及びこの回転ベゼル構造を備えた時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一つの形態の回転ベゼル構造は、時計ケースと、前記時計ケースの径方向の外周部に取り付けられる環状の弾性部材と、前記時計ケースよりも前記径方向の外側に設けられ、前記弾性部材を介してのみ前記時計ケースと係合するとともに、前記弾性部材との摩擦係合によって前記時計ケースに対して回転可能に保持される回転ベゼルと、を備える。
【0009】
この構成によれば、時計ケースと回転ベゼルとが弾性部材を介してのみ係合するので、時計ケースと回転ベゼルとの係合部分において金属同士の食いつけが発生しない。これにより、時計ケース及び回転ベゼルの係合部分が削れることによる金属部品の劣化を抑制できる。また、係合強度が弱まった場合には弾性部材を交換するだけでよいので、繰り返しの分解及び組み付けが可能となる。よって、従来技術と比較して長期的なメンテナンスを行うことができる。また、時計ケースと回転ベゼルとの係合部分に弾性部材を用いることにより、弾性部材により加工精度の誤差を吸収できる。このため、時計ケースと回転ベゼルとが直接係合する従来技術と比較して、時計ケース及び回転ベゼルにおける係合部分の加工難易度を緩和できる。よって、製造性を高めることができる。また、時計ケースと回転ベゼルとが直接接触しないので、時計ケース及び回転ベゼルの材料に依らず組み付けを行うことができる。さらに、分解時における各部品の変形を抑制できる。すなわち、金属部品同士を係合させる従来技術にあっては、分解時に梃子の原理を利用した取り外し治具を使用しており、回転ベゼルの断面積が小さい場合には分解時の応力で部品が変形し易かった。これに対して本発明の構成によれば、金属同士の食いつけではないため分解時に部品が変形し難い。よって、従来技術と比較して回転ベゼル等の部品を小型化することができる。これにより、回転ベゼル構造の設計自由度を向上できる。
したがって、従来技術と比較して回転ベゼルをより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造を提供できる。
【0010】
また、前記回転ベゼル構造において、前記弾性部材は、ゴム製の材料により形成されている。
【0011】
この構成によれば、ゴムの弾性力により回転ベゼルを安定的に保持することができる。例えば回転ベゼルに斜め方向の荷重が作用した場合であっても、回転ベゼルを安定して保持できる。よって、回転ベゼルをより好適に取り付けることができる。
【0012】
また、前記回転ベゼル構造において、前記回転ベゼルは、前記時計ケースの軸方向の一方側から前記時計ケースに取り付けられ、前記弾性部材のうち少なくとも前記軸方向の一方側には面取り部が形成されている。
【0013】
この構成によれば、弾性部材のうち回転ベゼルが装着される側の面が面取り部となっているので、弾性部材に対して軸方向の一方側から回転ベゼルを取り付け易くなる。よって、回転ベゼルの組付け作業性を向上できる。
【0014】
また、前記回転ベゼル構造において、前記弾性部材の延在方向と直交する断面視において、前記弾性部材の内周部は、前記時計ケースの外周面に沿う平面部を有する。
【0015】
この構成によれば、弾性部材の内周部が平面状となっていることにより時計ケースとの接触面が増加するので、時計ケースに対する弾性部材の位置ずれ等を抑制できる。よって、例えばOリング等のように弾性部材の断面が全て曲面で形成される場合と比較して、時計ケースに対して弾性部材を安定して保持できる。
【0016】
また、前記回転ベゼル構造において、前記時計ケースの前記外周部には、前記弾性部材の一部を収容する第一凹部が形成されており、前記回転ベゼルの内周部には、前記弾性部材の一部を収容する第二凹部が形成されており、前記第一凹部及び前記第二凹部に前記弾性部材が収容され、かつ前記時計ケースに前記回転ベゼルが取り付けられた状態において、前記時計ケースの前記外周部と前記回転ベゼルの前記内周部とは互いに隙間を有して対向する。
【0017】
この構成によれば、第一凹部に弾性部材を収容することにより、時計ケースに対する弾性部材の軸方向への位置ずれを抑制できる。同様に、第二凹部に弾性部材を収容することにより、回転ベゼルに対する弾性部材の軸方向への位置ずれを抑制できる。さらに、第一凹部及び第二凹部を設けることにより、弾性部材の径方向の厚みを増加させることができる。これにより、弾性部材の弾性力を高く維持し、回転ベゼルの保持力を向上できる。よって、金属部品同士を食いつけさせない構成とした場合であっても、弾性部材を介して時計ケースと回転ベゼルと安定的に組み付けることができる。
【0018】
また、前記回転ベゼル構造において、前記第二凹部は、前記第一凹部と比べて前記時計ケースの軸方向に沿う幅寸法が大きい。
【0019】
この構成によれば、時計ケースと回転ベゼルとを組み付けた際における弾性部材の潰れ代を第二凹部側に確保できる。よって、弾性部材の変形に伴う位置ずれ等の発生を抑制できる。また、弾性部材が潰れることによる軸方向への拡がりを第二凹部で吸収できるので、変形した弾性部材が各凹部から飛び出すことによる組付け作業性の低下を抑制できる。よって、組付け時の安定性及び作業性を向上できる。
【0020】
また、前記回転ベゼル構造において、前記第一凹部の前記径方向に沿う深さ寸法は、前記第二凹部の前記径方向に沿う深さ寸法よりも大きい。
【0021】
この構成によれば、特に第一凹部が形成される時計ケースに対して安定的に弾性部材を取り付けることができる。よって、時計ケースにおける弾性部材の保持力を向上できる。
【0022】
本発明の一つの形態の時計は、上述の回転ベゼル構造と、前記時計ケースの内側に配置されたムーブメントと、を備える。
【0023】
この構成によれば、回転ベゼルを備える時計において、時計ケースと回転ベゼルとの金属部品同士の食いつけを抑制しつつ、回転ベゼルを取り付けることができる。
したがって、従来技術と比較して回転ベゼルをより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造を備えた時計を提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来技術と比較して回転ベゼルをより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造及びこの回転ベゼル構造を備えた時計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】第1実施形態の変形例に係る弾性部材の断面図。
【
図3】第1実施形態の別の変形例に係る弾性部材の断面図。
【
図4】第1実施形態の別の変形例に係る弾性部材の断面図。
【
図5】従来技術に係る時計ケースと回転ベゼルの係合状態を説明するための時計の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。以下の説明では、時計10の指針の中心軸Cに沿う方向を軸方向といい、軸方向に直交する方向を径方向といい、中心軸C回りの方向を周方向という場合がある。
【0027】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る時計10の断面図である。
時計10は、時計ケース2を含む回転ベゼル構造1や、時計ケース2の内側に収容されるムーブメント11、時刻に関する情報を示す不図示の目盛り等を有する不図示の文字板及び文字板を覆うガラス6、裏蓋7、不図示の各種指針等が組み込まれて構成されている。時計10は、回転ベゼル構造1と、ムーブメント11と、を備える。時計10は、例えば腕時計である。以下の説明では、裏蓋7から文字板(ガラス6)に向かう方向を上側、その反対側を下側として説明する。また、上側から下側を見ることを「平面視」と称する。
【0028】
回転ベゼル構造1は、時計ケース2と、弾性部材3と、回転ベゼル4と、クリック機構5と、を備える。
時計ケース2は、平面視において、円環状に形成されている。時計ケース2の内部には、ムーブメント11が収容される空間が設けられている。時計ケース2における上側の面は、例えばガラス6等の透明な材料により形成され、内部の文字板(不図示)が視認可能な上面となっている。時計ケース2における下側の面は、例えば裏蓋7により形成され、時計10の装着時に使用者の腕側に位置する下面となっている。
【0029】
時計ケース2の上面には、詳しくは後述する回転ベゼル4が回転可能に取り付けられている。時計ケース2は、外周部に段差部21を有する。段差部21は、時計ケース2の外周面及び上側の面に開口するとともに、時計ケース2の内周部及び下方に向かって凹んでいる。段差部21は、時計ケース2の平面視において円環状に形成されている。段差部21の内周部には、圧縮パッキン22を介してガラス6が取り付けられている。
【0030】
時計ケース2の段差部21のうち上面を向く面には、クリック機構収容部24が形成されている。クリック機構収容部24は、段差部21の上面から下方へ向かって凹むように形成されている。クリック機構収容部24は、例えば時計10の周方向に沿って等間隔に複数設けられている。なお、クリック機構収容部24は、例えば時計ケース2の周方向において任意の1箇所に設けられてもよい。クリック機構収容部24は、クリック機構収容部24の深さ方向と直交する平面視で円形状に形成されている。クリック機構収容部24の下端部は底部25とされており、時計ケース2の内部で終端している。クリック機構収容部24には、詳しくは後述するクリック機構5が収容される。
【0031】
時計ケース2の段差部21のうち径方向の外側(外周)を向く面には、第一凹部27が形成されている。第一凹部27は、段差部21の外周を向く面から内周側へ向かって凹むように形成されている。第一凹部27は、時計ケース2の周方向の全体に亘って形成されている。換言すれば、第一凹部27は、時計ケース2の平面視において円環状に形成されている。第一凹部27には、詳しくは後述する弾性部材3の少なくとも一部が収容される。
【0032】
弾性部材3は、時計ケース2の径方向における外周部に取り付けられている。弾性部材3は、円環状に形成され、時計ケース2の第一凹部27にその一部が収容されている。第一凹部27に弾性部材3が収容された状態で、弾性部材3の一部は、時計ケース2の外周部(すなわち、段差部21の外周部)よりも径方向の外側に突出している。すなわち、弾性部材3の径方向に沿う厚み寸法は、第一凹部27の径方向に沿う深さ寸法よりも大きい。弾性部材3の延在方向(時計ケース2の周方向)と直交する断面視において、弾性部材3の内周部は、中心軸線Cと平行な平面部31を有する。弾性部材3の平面部31は、第一凹部27の底部に当接している。これにより時計ケース2の第一凹部27に対して弾性部材3が安定的に保持される。
【0033】
時計ケース2の第一凹部27に弾性部材3が収容された状態において、弾性部材3のうち少なくとも軸方向の上側(請求項における軸方向の一方側)を向く面には面取り部33が形成されている。面取り部33は、平坦状に形成された傾斜面部及び曲面状に形成された曲面部を含む。本実施形態では、弾性部材3の延在方向と直交する断面視において、弾性部材3の径方向外側を向く面が円弧状に形成されることにより、弾性部材3の軸方向における上下両側の面に面取り部33が設けられている。
【0034】
本実施形態において、弾性部材3は、ゴム製の材料により形成されている。弾性部材3の硬度は、例えばA55以上かつA65以下とされている。弾性部材3は、例えばニトリルゴムやアクリルゴム等である。
【0035】
回転ベゼル4は、平面視において、時計ケース2と同等のサイズの円環状に形成されている。回転ベゼル4は、平面視において、時計ケース2と重なるように配置されている。回転ベゼル4の下部は、時計ケース2の段差部21と対応する位置に設けられる。具体的に、回転ベゼル4の下部は、時計ケース2の段差部21の外周部よりも径方向の外側において段差部21の外周部と対向するように設けられている。回転ベゼル4は、時計ケース2と直接接触することなく、回転ベゼル4を時計ケース2に保持する保持部材として実質的に弾性部材3を介してのみ時計ケース2と係合している。回転ベゼル4は、弾性部材3との摩擦係合によって、時計ケース2の外周部に対して回転可能に取り付けられている。
【0036】
時計ケース2と径方向に対向する回転ベゼル4の内周部には、第二凹部40が形成されている。第二凹部40は、回転ベゼル4の内周部から径方向の外側へ向かって凹むように形成されている。第二凹部40は、回転ベゼル4の周方向の全体に亘って形成されている。第二凹部40には、弾性部材3のうち第一凹部27より外周側に突出した部分が収容される。
【0037】
回転ベゼル4は、時計ケース2の軸方向の上方から時計ケース2に取り付けられる。第一凹部27及び第二凹部40に弾性部材3が収容され、かつ時計ケース2に回転ベゼル4が取り付けられた状態(
図1に示す状態)において、時計ケース2の外周部と回転ベゼル4の内周部とは互いに隙間Sを有して対向する。
【0038】
図1に示すように、第二凹部40の軸方向に沿う幅寸法は、第一凹部27の軸方向に沿う幅寸法よりも大きい。また、第一凹部27の径方向に沿う深さ寸法は、第二凹部40の径方向に沿う深さ寸法よりも大きい。これにより、特に第一凹部27に弾性部材3を安定して保持するとともに、時計ケース2と回転ベゼル4とを係合した際の弾性部材3の潰れ代を第二凹部40側に確保している。
【0039】
クリック機構5は、時計ケース2のクリック機構収容部24に収容されている。クリック機構5は、例えば不図示の付勢部材により頭部51が上下方向に移動可能に構成されており、この頭部51が回転ベゼル4の下部に形成された凹凸部41と係合することにより、時計ケース2に対して回転ベゼル4を回転させた際にクリック感を生じさせる。なお、クリック機構5の構成は上述した構成に限られず、例えば弾性部材3の弾性力によりクリック感を生じさせてもよい。また、回転ベゼル4の逆回転を抑制するラッチ機能を併せて設けてもよい。
【0040】
(第1実施形態の変形例)
次に、本発明に係る第1実施形態の各変形例について説明する。
図2は、第1実施形態の変形例に係る弾性部材203の断面図である。
図3は、第1実施形態の別の変形例に係る弾性部材303の断面図である。
図4は、第1実施形態の別の変形例に係る弾性部材403の断面図である。各変形例では、弾性部材3の断面形状が上述した第1実施形態と相違している。
【0041】
各変形例の弾性部材203,303,403は、第1実施形態と同様に、円環状に形成され、かつ時計ケース2に取り付けられた状態で軸方向の上側を向く面に面取り部33を有する。具体的に、
図2に示す変形例では、弾性部材203の延在方向と直交する断面視において、弾性部材203のうち径方向外側を向く面には、斜面235と、弧状部236と、が設けられている。斜面235は、弾性部材203の軸方向の上方の面に設けられている。斜面235は、径方向の内側から外側へ向かうにつれて上方から下方へ位置するように傾斜している。この斜面235が面取り部33とされている。弧状部236は、斜面235の下端部と弾性部材3の下端部とを接続する弧状に形成されている。
【0042】
また、
図3に示す変形例では、弾性部材303の延在方向と直交する断面視において、弾性部材303のうち径方向外側を向く面には、湾曲部345が設けられている。湾曲部345は、弾性部材303の軸方向の上方の面に設けられている。湾曲部345は、軸方向の上側及び径方向の外側へ向かって凸となるように湾曲している。この湾曲部345が面取り部33とされている。
【0043】
また、
図4に示す変形例では、弾性部材403の延在方向と直交する断面視において、弾性部材403のうち径方向外側を向く面には、第一斜面455と、第二斜面456と、接続部457と、が設けられている。第一斜面455は、弾性部材403の軸方向の上方の面に設けられている。第一斜面455は、径方向の内側から外側へ向かうにつれて上方から下方へ位置するように傾斜している。この第一斜面455が面取り部33とされている。第二斜面456は、弾性部材403の軸方向の下方の面に設けられている。第二斜面456は、径方向の内側から外側へ向かうにつれて下方から上方へ位置するように傾斜している。接続部457は、第一斜面455の下端部と第二斜面456の上端部とを接続しており、断面視において軸方向とほぼ平行な平面状に形成されている。
このように、各変形例で示す形状の弾性部材203,303,403を第1実施形態の弾性部材3に代えて用いてもよい。
【0044】
(作用、効果)
次に、上述の回転ベゼル構造1及び時計10の作用、効果について説明する。
本実施形態の回転ベゼル構造1によれば、回転ベゼル構造1は、時計ケース2と、環状の弾性部材3と、弾性部材3を介してのみ時計ケース2と係合するとともに、弾性部材3との摩擦係合によって時計ケース2に対して回転可能に保持される回転ベゼル4と、を備える。この構成によれば、時計ケース2と回転ベゼル4とが弾性部材3を介してのみ係合するので、時計ケース2と回転ベゼル4との係合部分において金属同士の食いつけが発生しない。これにより、時計ケース2及び回転ベゼル4の係合部分が削れることによる金属部品の劣化を抑制できる。また、係合強度が弱まった場合には弾性部材3を交換するだけでよいので、繰り返しの分解及び組み付けが可能となる。よって、従来技術と比較して長期的なメンテナンスを行うことができる。また、時計ケース2と回転ベゼル4との係合部分に弾性部材3を用いることにより、弾性部材3により加工精度の誤差を吸収できる。このため、時計ケース2と回転ベゼル4とが直接係合する従来技術と比較して、時計ケース2及び回転ベゼル4における係合部分の加工難易度を緩和できる。よって、製造性を高めることができる。また、時計ケース2と回転ベゼル4とが直接接触しないので、時計ケース2及び回転ベゼル4の材料に依らず組み付けを行うことができる。さらに、分解時における各部品の変形を抑制できる。すなわち、金属部品同士を係合させる従来技術にあっては、分解時に梃子の原理を利用した取り外し治具を使用しており、回転ベゼル4の断面積が小さい場合には分解時の応力で部品が変形し易かった。これに対して本発明の構成によれば、金属同士の食いつけではないため分解時に部品が変形し難い。よって、従来技術と比較して回転ベゼル4等の部品を小型化することができる。これにより、回転ベゼル構造1の設計自由度を向上できる。
したがって、従来技術と比較して回転ベゼル4をより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造1を提供できる。
【0045】
弾性部材3は、ゴム製の材料により形成されている。この構成によれば、ゴムの弾性力により回転ベゼル4を安定的に保持することができる。例えば回転ベゼル4に斜め方向の荷重が作用した場合であっても、回転ベゼル4を安定して保持できる。よって、回転ベゼル4をより好適に取り付けることができる。
【0046】
回転ベゼル4は、時計ケース2の軸方向の一方側(上方)から時計ケース2に取り付けられ、弾性部材3のうち少なくとも軸方向の上方には面取り部33が形成されている。この構成によれば、弾性部材3のうち回転ベゼル4が装着される側の面が面取り部33となっているので、弾性部材3に対して軸方向の一方側から回転ベゼル4を取り付け易くなる。よって、回転ベゼル4の組付け作業性を向上できる。
【0047】
弾性部材3の延在方向と直交する断面視において、弾性部材3の内周部は、時計ケース2の外周面に沿う平面部31を有する。この構成によれば、弾性部材3の内周部が平面状となっていることにより時計ケース2との接触面が増加するので、時計ケース2に対する弾性部材3の位置ずれ等を抑制できる。よって、例えばOリング等のように弾性部材3の断面が全て曲面で形成される場合と比較して、時計ケース2に対して弾性部材3を安定して保持できる。
【0048】
時計ケース2は第一凹部27を有し、回転ベゼル4は第二凹部40を有し、第一凹部27及び第二凹部40に弾性部材3が収容され、かつ時計ケース2に回転ベゼル4が取り付けられた状態において、時計ケース2の外周部と回転ベゼル4の内周部とは互いに隙間Sを有して対向する。この構成によれば、第一凹部27に弾性部材3を収容することにより、時計ケース2に対する弾性部材3の軸方向への位置ずれを抑制できる。同様に、第二凹部40に弾性部材3を収容することにより、回転ベゼル4に対する弾性部材3の軸方向への位置ずれを抑制できる。さらに、第一凹部27及び第二凹部40を設けることにより、弾性部材3の径方向の厚みを増加させることができる。これにより、弾性部材3の弾性力を高く維持し、回転ベゼル4の保持力を向上できる。よって、金属部品同士を食いつけさせない構成とした場合であっても、弾性部材3を介して時計ケース2と回転ベゼル4と安定的に組み付けることができる。
【0049】
第二凹部40は、第一凹部27と比べて時計ケース2の軸方向に沿う幅寸法が大きい。この構成によれば、時計ケース2と回転ベゼル4とを組み付けた際における弾性部材3の潰れ代を第二凹部40側に確保できる。よって、弾性部材3の変形に伴う位置ずれ等の発生を抑制できる。また、弾性部材3が潰れることによる軸方向への拡がりを第二凹部40で吸収できるので、変形した弾性部材3が各凹部から飛び出すことによる組付け作業性の低下を抑制できる。よって、組付け時の安定性及び作業性を向上できる。
【0050】
第一凹部27の径方向に沿う深さ寸法は、第二凹部40の径方向に沿う深さ寸法よりも大きい。この構成によれば、特に第一凹部27が形成される時計ケース2に対して安定的に弾性部材3を取り付けることができる。よって、時計ケース2における弾性部材3の保持力を向上できる。
【0051】
本実施形態の時計10は、上述の回転ベゼル構造1と、時計ケース2の内側に配置されたムーブメント11と、を備える。この構成によれば、回転ベゼル4を備える時計10において、時計ケース2と回転ベゼル4との金属部品同士の食いつけを抑制しつつ、回転ベゼル4を取り付けることができる。
したがって、従来技術と比較して回転ベゼル4をより好適に取り付けることができる回転ベゼル構造1を備えた時計10を提供できる。
【0052】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の第1実施形態では、弾性部材3が取り付けられた時計ケース2に対して回転ベゼル4を装着する構成としたが、これに限られない。弾性部材3が取り付けられた回転ベゼル4を時計ケース2に装着してもよい。この場合、弾性部材3の内周部かつ軸方向の下方に面取り部33を設けてもよい。
【0053】
弾性部材3の材料は、上述の実施形態の材料に限定されない。例えば弾性部材3は、シリコンゴム等、実施形態で挙げられたニトリルゴム及びアクリルゴム以外のゴムであってもよい。また、例えば弾性部材3は、樹脂製の材料により形成されてもよい。
なお、弾性部材3は、内周部に平面部31を有することなく形成されてもよい。すなわち平面部31はなくてもよい。この場合、弾性部材3の取り付けにあたり溝の深さを大きくする等、弾性部材3の伸ばし率を高めるように各部品の寸法又は形状を設定してもよい。但し、より簡素な構成で時計ケース2に対する弾性部材3の位置ずれを抑制できる点で、弾性部材3が内周部に平面部31を有する本実施形態の構成は優位性がある。
【0054】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 回転ベゼル構造
2,902 時計ケース
3,203,303,403 弾性部材
4,904 回転ベゼル
10,910 時計
11 ムーブメント
27 第一凹部
31 平面部
33 面取り部
40 第二凹部
S 隙間