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特開2025-14878予測方法、予測システム及び予測プログラム、並びに新規ペプチド及びジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025014878
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】予測方法、予測システム及び予測プログラム、並びに新規ペプチド及びジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20250123BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20250123BHJP
   C07K 5/08 20060101ALI20250123BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250123BHJP
   G16B 40/20 20190101ALI20250123BHJP
   C12N 9/48 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C12Q1/37
A23L33/18
C07K5/08
A61K38/06
A61P43/00 111
A61P3/10
G16B40/20
C12N9/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023117806
(22)【出願日】2023-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草間 完太
(72)【発明者】
【氏名】新井 小百合
(72)【発明者】
【氏名】大河内 美奈
(72)【発明者】
【氏名】田中 祐圭
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME03
4B018ME14
4B018MF14
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QQ36
4B063QQ79
4B063QQ80
4B063QR48
4B063QR58
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA23
4C084BA43
4C084CA59
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA28
4C084MA31
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC351
4C084ZC352
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA12
4H045EA01
4H045EA20
4H045EA55
(57)【要約】
【課題】所定の生理活性を有するペプチドを同定するために要する工数を低減させる。
【解決手段】予測方法は、ペプチドの物性値と当該ペプチドの生理活性に関する評価指標との組合せを、学習対象の複数のペプチドについて読み出すことと、物性値と評価指標との関係を機械学習して予測モデルを作成することと、作成された予測モデルと、予測対象のペプチドの物性値とを用いて、予測対象のペプチドの生理活性に関する評価指標を予測することとを、1以上のコンピュータが実行する。また、ペプチドの物性値は、当該ペプチドを構成する各残基の等電点、疎水性度、分子量、極性及び芳香環の有無の少なくとも何れかである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドの物性値と当該ペプチドの生理活性に関する評価指標との組合せを、学習対象の複数のペプチドについて読み出すことと、
前記物性値と前記評価指標との関係を機械学習して予測モデルを作成することと、
作成された前記予測モデルと、予測対象のペプチドの物性値とを用いて、前記予測対象のペプチドの生理活性に関する評価指標を予測することと、
を、1以上のコンピュータが実行する予測方法であって、
前記ペプチドの物性値は、当該ペプチドを構成する各残基の等電点、疎水性度、分子量、極性及び芳香環の有無の少なくとも何れかである
予測方法。
【請求項2】
前記予測モデルは、SVR(Support Vector Regression)を含む1以上のモデルであ

請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記予測モデルは、線形モデルをさらに含む、
請求項2に記載の予測方法。
【請求項4】
前記生理活性は、疾患等の予防、治療、改善に関する因子に対する活性である
請求項1に記載の予測方法。
【請求項5】
前記生理活性は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害活性である
請求項1に記載の予測方法。
【請求項6】
前記ペプチドの物性値は、当該ペプチドを構成する各残基の等電点及び疎水性度を含む
請求項1に記載の予測方法。
【請求項7】
前記ペプチドは、トリペプチドである
請求項1に記載の予測方法。
【請求項8】
前記学習対象の複数のペプチドは、アミノ酸配列に20種類のアミノ酸をすべて含む
請求項1に記載の予測方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載された予測方法を実行する、1以上のコンピュータを備える予測システム。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載された予測方法を、1以上のコンピュータに実行させるための予測プログラム。
【請求項11】
以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチド。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Glu-Pro-Ile
【請求項12】
前記配列からなる、請求項11に記載のオリゴペプチド。
【請求項13】
以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドから選択される一種又は二種以上を含有する、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害用組成物。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Lys-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Val-Pro-Glu
Glu-Pro-Ile
【請求項14】
前記オリゴペプチドが前記配列からなる、請求項13に記載のDPP-IV阻害用組成物。
【請求項15】
医薬品である、請求項13又は14に記載のDPP-IV阻害用組成物。
【請求項16】
飲食品である、請求項13又は14に記載のDPP-IV阻害用組成物。
【請求項17】
以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドから選択される一種又は二種以上を有効成分として含有する、血糖値上昇抑制用組成物。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Lys-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Val-Pro-Glu
Glu-Pro-Ile
【請求項18】
前記オリゴペプチドが前記配列からなる、請求項17に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項19】
食後又は空腹時の血糖値の上昇を抑制するために用いられる、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項20】
飲食品である、請求項17又は18に記載の組成物。
【請求項21】
医薬品である、請求項17又は18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、予測方法、予測システム及び予測プログラム、並びに新規ペプチド、及びジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性を有するペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然の内因性又は外因性細胞プロセシング、輸送及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)提示と正の関連性がある特徴量を含むペプチドを同定する方法が提案されていた(例えば、特許文献1)。また、120の物理化学的特性を特徴量としてロジスティック回帰を行い、FFARアゴニスト活性の高いものを予測する方法も提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
また、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(di-peptidyl peptidase-IV:以下、「DPP-IV」ともいう)は、N末端ジペプチダーゼ活性を有する多機能性の貫通膜型糖タンパク質である。DPP-IVは、大部分の哺乳類の、肝臓、腎臓、小腸、唾液腺、血液細胞及び血漿等の種々の組織の細胞上に存在する。
DPP-IVは生体内での様々な役割が果たすことが想定されており、その1つとしてインクレチンであるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1:以下、「GL
P-1」という)及びグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(Glucose-dependent insulinotropic polypeptide:以下、「GIP」という)の分解酵素であることが知られている。
【0004】
GLP-1は、食後に放出されるものであり、インスリンの生合成及び分泌に対するグルコース誘導性の刺激、グルカゴン分泌抑制、遺伝子発現の調整、β細胞に対する栄養性の効果、食物摂取の抑制、及び胃内容排出の緩徐化をはじめとする、多面的な作用を有する。GIPもまた、食後に放出され、血糖濃度依存的に膵臓からのインスリン分泌を促進する作用を有する。
DPP-IVを阻害すると、GLP-1及びGIPの分解が抑制され、血中のこれらインクレチン濃度が上昇する。その結果、インスリン分泌が促進され、血糖値を低下させることが知られている。このインクレチンによるインスリン分泌促進の作動条件は血糖値が高いことであるため、2型糖尿病の中でもインスリン分泌低下による糖尿病において、DPP-IVを阻害することは、従前のインスリン分泌促進剤で生じる低血糖の副作用が生じにくいと考えられる。
【0005】
このように、DPP-IV活性を阻害する作用を有するDPP-IV阻害剤は、新しいタイプの糖尿病治療薬の有効成分として期待されており、すでに複数の医薬が上市されている。また、さらなるDPP-IV阻害剤となり得る成分の探索も、引き続き行われている(特許文献2等)。
【0006】
また、糖尿病治療においては食餌療法と運動療法が第一選択であり、それでも血糖値コントロールが不十分な場合に糖尿病治療薬を用いるのが通常である。かかる状況においては、DPP-IV阻害活性剤をサプリメントや食品添加物等の形態で食餌により摂取することの需要がある。
そこで、DPP-IV阻害活性を有し、さらに飲食品として適用し得る成分の探索も種々行われている。例えば、乳タンパク質由来のオリゴペプチドのいくつかについてDPP-IV阻害活性が見出されている(特許文献3~6)。特に、カゼイン由来のトリペプチドについてもDPP-IV阻害活性が確認されている(特許文献7~9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/186959号
【特許文献2】特表2008-527011号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0075904号明細書
【特許文献4】特許6026720号
【特許文献5】特許4915833号
【特許文献6】国際公開2006/068480号
【特許文献7】特許1453270号
【特許文献8】特許5832049号
【特許文献9】国際公開2022/186290号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Keitaro Yoshioka et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, 2021, Volume 550, p.177-183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
所望の生理活性を有するペプチドを同定するために、様々なアミノ酸配列を有するペプチドの各々に対してそれぞれ活性の程度を測定するようなスクリーニングを行う場合、一般的に多くの工数がかかる。一側面において、本発明は、所定の生理活性を有するペプチドを同定するために要する工数を低減させることを課題とする。
【0010】
他の側面において、本発明は、優れたDPP-IV阻害活性を有するペプチドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面に係る予測方法は、以下の態様によって実現される。
(態様1)
ペプチドの物性値と当該ペプチドの生理活性に関する評価指標との組合せを、学習対象の複数のペプチドについて読み出すことと、
前記物性値と前記評価指標との関係を機械学習して予測モデルを作成することと、
作成された前記予測モデルと、予測対象のペプチドの物性値とを用いて、前記予測対象のペプチドの生理活性に関する評価指標を予測することと、
を、1以上のコンピュータが実行する予測方法である。
また、前記ペプチドの物性値は、当該ペプチドを構成する各残基の等電点、疎水性度、分子量、極性及び芳香環の有無の少なくとも何れかである。
(態様2)
前記予測モデルは、SVR(Support Vector Regression)を含む1以上のモデルであ

態様1に記載の予測方法。
(態様3)
前記予測モデルは、線形モデルをさらに含む、
態様2に記載の予測方法。
(態様4)
前記生理活性は、疾患等の予防、治療、改善に関する因子に対する活性である
態様1から3の何れか1つに記載の予測方法。
(態様5)
前記生理活性は、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害活性である
態様1から4の何れか1つに記載の予測方法。
(態様6)
前記ペプチドの物性値は、当該ペプチドを構成する各残基の等電点及び疎水性度を含む
態様1から5の何れか1つに記載の予測方法。
(態様7)
前記ペプチドは、トリペプチドである
態様1から6の何れか1つに記載の予測方法。
(態様8)
前記学習対象の複数のペプチドは、アミノ酸配列に20種類のアミノ酸をすべて含む
態様1から7の何れか1つに記載の予測方法。
【0012】
なお、課題を解決するための手段に記載の内容は、本発明の課題や技術的思想を逸脱しない範囲で可能な限り組み合わせることができる。また、課題を解決するための手段の内容は、コンピュータ等の装置若しくは複数の装置を含むシステム、コンピュータが実行する方法、又はコンピュータに実行させるプログラムとして提供することができる。該プログラムはネットワーク上で実行されるようにすることも可能である。また、当該プログラムを保持する記録媒体を提供するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドが、高いDPP-IV阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の他の側面に係る第一の態様は、以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドである。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Glu-Pro-Ile
本態様において、好ましくはオリゴペプチドは前記配列からなる。
【0015】
本発明の第二の態様は、以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドから選択される一種又は二種以上を含有する、ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害用組成物である。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Lys-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Val-Pro-Glu
Glu-Pro-Ile
本態様において、好ましくはオリゴペプチドは前記配列からなる。
本態様の組成物は、好ましくは医薬品又は飲食品である。
【0016】
本発明の第二の態様は、以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドから選択される一種又は二種以上を有効成分として含有する、血糖値上昇抑制用組成物である。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Lys-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Val-Pro-Glu
Glu-Pro-Ile
本態様において、好ましくはオリゴペプチドは前記配列からなる。
本態様の組成物は、好ましくは食後又は空腹時の血糖値の上昇を抑制するために用いられる。
本態様の組成物は、好ましくは医薬品又は飲食品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面によれば、所定の生理活性を有するペプチドを同定するために要する工数を低減させることができる。
【0018】
本発明の他の側面に係るオリゴペプチドは優れたDPP-IV阻害活性を有することから、DPP-IV阻害剤として医薬組成物に好適に含有させたり、飲食品などの形態で食後血糖値上昇抑制用組成物とさせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、予測装置の一例を示す機能ブロック図である。
図2図2は、予測処理の一例を示す処理フロー図である。
図3図3は、記憶装置に格納されるデータの一例を示す図である。
図4図4は、Lasso回帰モデルにおける説明変数の影響度を表すグラフである。
図5図5は、Lasso回帰モデルの精度を評価した結果を表す図である。
図6図6は、Lasso回帰モデルにおける説明変数の影響度を表すグラフである。
図7図7は、分子量の有無によるLasso回帰モデルの精度を比較した結果を表す図である。
図8図8は、配列データの標準化の有無による予測モデルの精度を比較した結果を表す図である。
図9図9は、線形モデルによって活性率が上位であると予測されたトリペプチド、非線形モデルによって活性率が上位であると予測されたトリペプチド、及び両者に共通して活性率が上位であると予測されたトリペプチドを表す図である。
図10図10は、活性率が上位であると予測されたトリペプチドについて評価指標を測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一側面に係る実施形態について図面を用いて説明する。なお、実施形態は例示であり、本発明は下記の構成等には限定されない。
【0021】
本実施形態では、所定の生理活性を有するペプチドを同定するためのスクリーニングを予測により行う。スクリーニングは、学習対象(トレーニングデータ)のペプチドの物性
値と生理活性の評価指標との関係について機械学習を行うことにより予測モデルを作成し、予測モデルを用いて予測対象のペプチドの物性値に応じた評価指標を算出することにより行う。様々なアミノ酸配列を有するペプチドの各々に対してそれぞれ活性の程度を実測する場合と比較し、予測によるスクリーニングによれば、少ない工数で所望の生理活性を有するペプチドの候補を抽出することができる。
【0022】
ペプチドは、例えばトリペプチドであるが、アミノ酸残基の数は3には限定されない。生理活性は、例えばジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害活性であるが、これには限定されず、例えば、疾患の予防、治療又は改善に関する因子に活性を有するペプチドに適用することができる。予測モデルは、線形モデルであってもよいし、非線形モデルであってもよい。線形モデルは、Ridge回帰やLasso回帰等のような損失関数に正則化項を追加した線形回帰であってもよい。非線形モデルは、サポートベクター回帰(SVR:Support Vector Regression)、決定木(回帰木)等であってもよい。ま
た、物性値は、例えば各残基の等電点及び疎水性度である。ただし、これには限定されず、物性値は、等電点、疎水性度、分子量、極性(親水性度)及び芳香環の有無の少なくとも一部を用いることができる。学習対象のペプチドは、例えばペプチドアレイを用いて作成できるが、これには限定されない。なお、ペプチドアレイは、固相担体にペプチドを固定化した単位領域を複数設けたものである。固相担体に配置した単位領域ごとにペプチドの種類を変えて、ペプチド固相合成法によりペプチドをスポット合成することができる。また、学習対象のペプチドは、そのアミノ酸配列に20種のアミノ酸をすべて含むサンプルであることが好ましい。また、学習対象のペプチドは、既存の手法に基づいて生理活性の評価指標が予め測定されているものとする。評価指標は、阻害活性率(単に阻害率とも呼ぶ)であってもよい。また、評価指標は、IC50、pIC50、EC50等に基づく値であってもよい。なお、DPP-IV阻害活性、阻害率、IC50は、定法により確認することができる。このようにすれば、トレーニングデータ及びテストデータとして例えば900種程度のトリペプチドを用いて作成した予測モデルによって、8000種のトリペプチドについて生理活性の程度を予測できるようになる。なお、予測モデルにより所望の生理活性が高いと予測されたペプチドについて、活性率等を実測することにより、予測モデルの予測精度を評価することができる。
【0023】
<装置構成>
図1は、予測装置1の一例を示す機能ブロック図である。予測装置1はコンピュータであり、プロセッサ11と、記憶装置12と、入出力装置13とを備えている。プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置であり、プログラムを実
行することにより実施形態に係る処理を行う。図1の例では、プロセッサ11内に機能ブロックを示している。すなわち、プロセッサ11は、所定のプログラムを実行することにより、学習部111、予測部112及び評価部113として機能する。記憶装置12は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含む。主記憶装置は、プロセッサ11が読み出すプログラムを一時的に記憶したり、プロセッサ11の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ11が実行するプログラムやプログラムによって読み書きされる情報等を記憶する。記憶装置12は、トレーニングデータとして用いるペプチドの物性値及び生理活性の評価指標を予め記憶しているものとする。入出力装置13は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。
【0024】
学習部111は、記憶装置12に格納されたトレーニングデータを用いて、予測モデルを作成する。トレーニングデータは、阻害率が測定されたペプチドに関する情報である。学習部111は、ペプチドの阻害率を目的変数として、且つ当該ペプチドに含まれるアミ
ノ酸の各々の物性値を説明変数として、予測モデルを作成する。予測部112は、作成された予測モデル、及び予測対象のペプチドを構成するアミノ酸の物性値を用いて、ペプチドの阻害率を予測する。なお、特に実測値が未知であるペプチドについて予測するようにしてもよい。また、評価部113は、学習部111が作成した予測モデルについて、テストデータを用いて所定の評価指標を算出する。また、評価部113は、予測モデルに含まれる説明変数の各々について影響度を算出し、ユーザによる説明変数の取捨選択を支援してもよい。
【0025】
<予測処理>
図2は、予測処理の一例を示す処理フロー図である。図2の処理は、ユーザの操作に基づいて開始される。本実施形態では、トリペプチドのDPP-IV阻害活性を予測する例を説明する。また、記憶装置12には、阻害率が既知である複数のペプチドに関する情報が格納されているものとする。阻害率が既知である複数のペプチドは、トレーニングデータ及びテストデータとして利用される。なお、複数のペプチドをトレーニングデータ及びテストデータに分け、交差検証を行うようにしてもよい。阻害率は、例えばペプチドアレイ上に作成された複数のペプチドを用いて実測された値である。
【0026】
図3は、記憶装置12に格納されるデータの一例を示す図である。図3に示すテーブルは、「アミノ酸配列」、「特徴量」、「activity」の各属性を含む。「アミノ酸配列」の属性は、「1st」、「2nd」及び「3rd」の属性をさらに含み、それぞれのフィールドには、残基の種別を表す識別情報(略号)が格納される。なお、例えばN末端からC末端までの順に、1残基目から3残基目と呼ぶものとする。「特徴量」の属性は3つの残基に関する物性値が格納される。図3の例では、物性値として、等電点(pl)及び疎水性度(pH2A)を例示している。なお、これらの情報に加え、又はこれらの情報に代えて分子量、極性、芳香環の有無等の情報が記憶されていてもよい。なお、特徴量の値は、ペプチドを構成するアミノ酸の種別に応じて決まる。「activity」のフィールドには、各ペプチドについて測定された、所定の生理活性に関する阻害率を表す情報が格納される。また、トレーニングデータ及びテストデータ(以下、「トレーニングデータ等」とも呼ぶ)として利用するための複数のペプチドは、1残基目から3残基目までの各位置に20種のアミノ酸を網羅的に含むような組み合わせで作成されることが好ましい。すなわち、各残基に位置するアミノ酸は、複数のトレーニングデータによって20種をカバーされていることが好ましい。
【0027】
予測装置1の学習部111は、記憶装置12からトレーニングデータ等を読み出し、所定の前処理を行う(図2:S1)。前処理は、トレーニングデータ等を機械学習に適した形式に加工する処理である。例えば、学習部111は、カテゴリカルデータであるアミノ酸配列をダミー変数に変換してもよい。また、学習部111は、物性値又は阻害率を、平均が0になるように且つ分散が1になるように標準化してもよい。また、学習部111は、所定の条件を満たす外れ値を除外する処理を行ってもよい。
【0028】
また、学習部111は、読み出したテストデータを用いて予測モデルを作成する(図2:S2)。本ステップでは、1以上の予測モデルを作成する。予測モデルは、既存の機械学習手法を用いて作成することができ、線形モデルであってもよいし非線形モデルであってもよい。例えば、Ridge回帰、Lasso回帰、SVR及び回帰木による4種の予測モデルを作成するようにしてもよい。予測モデルの目的変数は、ペプチドの阻害率である。また、予測モデルの説明変数は、ペプチドを構成するアミノ酸の物性値である。具体的な物性値の種別やその組合せは、ユーザによって設定されるものとする。
【0029】
そして、評価部113は、作成された予測モデルの性能を評価する(図2:S3)。本ステップでは、評価部113は、テストデータを用いて予測処理を行い、評価指標として
例えば二乗平均平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)、決定係数(R)、その他の指標を算出する。算出された評価指標は、例えば入出力装置13を介して出力される。
【0030】
また、評価部113は、予測モデルの精度は十分であるか判断する(図2:S4)。本ステップでは、例えば入出力装置13を介して入力されるユーザの操作に基づいて判断される。なお、予測精度が十分であるか否かの基準は、ユーザが適宜決定できる。予測モデルの精度は十分でない旨の入力を受けた場合(S4:NO)は、学習部111は、ユーザの操作に基づいて予測モデルの修正指示を受け付け(図2:S5)、S1の処理に戻る。S5においては、ユーザの操作に基づいて、例えば予測モデルにおいて説明変数として用いる特徴量が変更される。
【0031】
一方、S4において予測モデルの精度は十分である旨の入力を受けた場合(S4:YES)は、予測部112は、S2において作成された予測モデルを用いて、予測対象のペプチドについて所定の生理活性に関する評価指標を予測する処理を行う(図2:S6-S8)。予測対象のペプチドは、例えば1残基目から3残基目までの各位置に20種のアミノ酸を含むすべての組合せ(すなわち8000種類のトリペプチド)とする。
【0032】
まず、予測部112は、所定の前処理を行う(図2:S6)。本ステップの処理は、基本的にS1と同様である。すなわち、予測部112は、予測対象のペプチドについて、アミノ酸配列をダミー変数に変換してもよい。また、予測部112は、予測対象のペプチドを構成するアミノ酸の物性値を標準化してもよい。
【0033】
また、予測部112は、予測対象のペプチドの各々について所定の生理活性に関する評価指標を予測する(図2:S7)。S2において複数の予測モデルが作成された場合は、本ステップでは、各予測モデルによって、予測対象のペプチドの各々の予測結果が算出される。したがって、予測モデルごとに予測結果は異なり得る。
【0034】
そして、予測部112は、予測結果を出力する(図2:S8)。本ステップでは、例えば入出力装置13を介して予測結果が表示される。予測結果は、阻害率の予測値が上位の所定数のペプチドを特に出力するようにしてもよい。また、S2において複数の予測モデルが作成された場合は、本ステップにおいて、複数の予測モデルに共通して、予測値が上位所定数の集合に属すると判断されたペプチドや、一部の予測モデルによって予測値が上位所定数の集合に属すると判断されたペプチドを識別可能に出力してもよい。
【0035】
S8における出力は、所望の生理活性を有するペプチドの候補となる。ユーザは、予測値が上位のペプチドについて優先的に阻害率を測定することにより、好適なペプチドを同定するために要する工数を低減し得る。
【0036】
<予測方法の実施例>
ペプチドアレイを用いて作成したトリペプチド907種について、目的変数であるDPP-IV阻害活性の阻害率を測定し、トレーニングデータ及びテストデータとした。また、1残基目、2残基目及び3残基目の各々の、等電点(PI)、疎水性度(PH2A)、分子量(MW)、極性(Po)及び芳香環の有無(Aroma)を説明変数としてLasso回帰を行い、特徴量の影響度を算出したところ、図4に示す結果が得られた。なお、説明変数において各残基のアミノ酸の種別は区別していない。また、説明変数は適宜標準化を行った。図4は、Lasso回帰モデルにおける説明変数の影響度を表すグラフである。図4に示すように、等電点(PI)、疎水性度(PH2A)及び分子量(MW)の影響度が比較的高いといえる。
【0037】
また、説明変数として、等電点(PI)のみを用いた場合、疎水性度(PH2A)のみを用いた場合、分子量(MW)のみを用いた場合、等電点(PI)、疎水性度(PH2A)及び分子量(MW)の全てを用いた場合について、それぞれ予測モデルの精度を評価したところ、図5に示す結果が得られた。図5は、テストデータを用いてLasso回帰モデルの精度を評価した結果を表す図である。特に等電点(PI)、疎水性度(PH2A)及び分子量(MW)の全てを用いて予測モデルを作成した場合の予測精度が特に高いといえる。
【0038】
次に、1残基目、2残基目及び3残基目の各々の、等電点(PI)、疎水性度(PH2A)及び分子量(MW)、並びにアミノ酸の種別を説明変数としてDPP-IV阻害活性の阻害率を予測するLasso回帰モデルを作成し、各説明変数の影響度を算出したところ、図6に示す結果が得られた。なお、各物性値ごとに標準化を行った。図6は、Lasso回帰モデルにおける説明変数の影響度を表すグラフである。図6の例によれば、2残基目にプロリン(P)を有するアミノ酸配列が、DPP-IV阻害活性の阻害率が高いと予測される。また、物性値のうち影響度の高い説明変数としては、1残基目の疎水性度、1残基目の等電点、3残基目の疎水性度、3残基目の等電点、2残基目の疎水性度、2残基目の分子量が挙げられる。
【0039】
図7は、分子量の有無によるLasso回帰モデルの精度を比較した結果を表す図である。図7に示すように、1残基目、2残基目及び3残基目の各々の、等電点(PI)、疎水性度(PH2A)及び分子量(MW)、並びにアミノ酸の種別を説明変数とした場合よりも、1残基目、2残基目及び3残基目の各々の、等電点(PI)及び疎水性度(PH2A)、並びにアミノ酸の種別を説明変数とした場合の方が、わずかに予測モデルの精度が向上した。また、分子量を説明変数から除外した分、予測モデルの作成に要する計算量が減少する点でメリットがある。以上より、説明変数に用いる物性値は、等電点(PI)及び疎水性度(PH2A)が好ましい。
【0040】
また、さらに配列データの標準化を行った場合の予測モデルの精度を評価した。図8は、配列データの標準化の有無による予測モデルの精度を比較した結果を表す図である。配列データも標準化するケースにおいては、アミノ酸配列をエンコーディングして作成した数値と物性値とを含む説明変数全体を標準化した。配列データを含めて標準化を行うことにより、予測モデルの精度がわずかに向上した。また、図示していないが、説明変数の影響度のスケール(差)が小さくなると共に、予測結果の多様性を向上させることができた。
【0041】
以上を踏まえ、等電点及び疎水性度を用いてRidge回帰、Lasso回帰及びSVRによる予測結果の各々において阻害率が高いと予測された上位15種のトリペプチドの中には、阻害率が未知であり(すなわち、トレーニングデータ及びテストデータに含まれておらず)複数の予測モデルによって重複して見つかったものは10配列(LPI、LPH、LPF、LPD、LPR、LPK、MPV、VPV)あった。また、阻害率が未知でありいずれか1つの予測モデルにより見つかったものは8配列(PPV、PPI、APV、IPV、LPA、MPV、API、VPH)あった。また、阻害率が既知(すなわち、トレーニングデータ及びテストデータに含まれる)であって上位15配列に含まれるトリペプチドのうち、いずれかの予測モデルによっても阻害率が高いと予測されたものは7配列(VPI、IPI、LPV、APF、PPQ、PPT、IPT、VPA)あった。
【0042】
以上の予測結果を、線形モデル(Ridge回帰及びLasso回帰)、非線形モデル(SVR)という観点で阻害率が未知であった予測結果を整理すると、図9のようになった。図9は、線形モデルで阻害率が上位であると予測されたトリペプチド、非線形モデルで阻害率が上位であると予測されたトリペプチド、及び両者に共通して阻害率が上位であ
ると予測されたトリペプチドを表す図である。
【0043】
図10は、阻害率が上位であると予測されたトリペプチドについて阻害率を測定した結果を表すグラフである。図10に示すように、阻害率が上位であると予測された17種類のトリペプチドのうち、10種類は、50μM濃度で阻害率が40%を超えた。以上のように、比較的高いDPP-IV阻害活性を有する未知のペプチドを抽出することができた。
【0044】
また、図10からわかるように、非線形モデルの予測精度が比較的高かった。したがって、予測モデルは、SVRを用いることが好ましいといえる。また、非線形モデルのみで阻害率が上位であると予測されたトリペプチドにも阻害率の比較的高いものは含まれるため、例えば線形モデルの予測結果と非線形モデルの予測結果との和集合をとることにより、漏れなくスクリーニングされることが期待できる。また、スクリーニングにより抽出されたペプチドの作用を検証し、本発明の他の側面に係る新規ペプチド、DPP-IV阻害用組成物等として利用してもよい。
【0045】
<その他>
実施形態における構成等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない限り、構成の付加、省略及び変更が可能である。また、本明細書に開示された態様は、本明細書に開示された他の態様と組み合わせることができる。
【0046】
実施形態に示した構成により、DPP-IV阻害活性以外の生理活性についても比較的高い予測性能が期待できる。また、実施形態に示した構成は、トリペプチドに限らずペプチド全般に適用できる。なお、実施形態における生理活性は、いわゆる生物活性を含むものとする。
【0047】
また、予測装置1の機能の一部は、1つのシステムが備える複数のコンピュータに分散して実装してもよいし、同一の機能を複数のコンピュータが並列に処理するようにしてもよい。また、予測装置1は、ネットワークに接続されたサーバであってもよい。この場合は、予測装置1は、他のコンピュータからの要求に応じて処理を行い、要求元のコンピュータへ処理結果を送信する。また、予測装置1の機能の一部を、いわゆるクラウド上で提供してもよい。また、図2に示したS1からS8までの処理は連続して実行される必要はなく、S1からS4において作成された予測モデルを予め備えるコンピュータによって、S5からS8の処理のみを行うようにしてもよい。
【0048】
また、図3に示したテーブルのデータ構造は一例であり、適宜、正規化して複数のテーブルに情報を分けて記憶させたり、非正規化して1つのテーブルに情報をまとめて記憶させたりしてもよい。
【0049】
本発明は、実施形態に係る処理を実行するコンピュータプログラムや、当該プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を含む。記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータが実行することにより、実施形態に係る処理が可能となる。
【0050】
コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ、メモリカード等がある。また、コンピュータに固定された記録媒体としては、HDDやSSD、ROM等がある。
【0051】
<新規ペプチド及びDPP-IV阻害活性を有するペプチド>
次に、本発明の他の側面に係る実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0052】
本発明は、以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドを提供する。これらの配列は、天然のタンパク質から新たに見出されたものである。
Ala-Pro-Val
Pro-Pro-Ile
Pro-Pro-Val
Ala-Pro-Ile
Leu-Pro-Ile
Met-Pro-Val
Val-Pro-His
Glu-Pro-Ile
【0053】
また、本発明は以下に記載のいずれかの配列を含むオリゴペプチドをも後述の組成物に含有させるものとして提供する。前述の8種類の配列と以下の2種類の配列のいずれかを含むオリゴペプチドを、以下、「本発明のオリゴペプチド」ともいう。
なお、これらの本発明のオリゴペプチドは、前述した本発明の予測方法によりDPP-IV阻害活性を有するとして抽出されたアミノ酸配列を含むペプチドを含む。
Lys-Pro-Ile
Val-Pro-Glu
【0054】
ここで、Ala(A)はアラニン残基を、Pro(P)はプロリン残基を、Val(V)はバリン残基を、Ile(I)イソロイシン残基を、Leu(L)はロイシン残基を、Met(M)はメチオニン残基を、His(H)はヒスチジン残基を、Glu(E)はグルタミン酸残基を、Lys(K)はリジン残基を、それぞれ示す。いずれのアミノ酸も、L-型アミノ酸であることが好ましい。
【0055】
本発明のオリゴペプチドは、前述の10種類のいずれかの配列を含む限りにおいて特に限定されず、前記配列のN末端及び/又はC末端に任意のアミノ酸残基が付加したものでもよい。
本発明においてオリゴペプチドは、アミノ酸長が3~10残基のものが好ましく、3~7残基のものがより好ましく、3~4残基のものがさらに好ましい。
【0056】
本発明のオリゴペプチドとしては、以下に記載のいずれかの配列からなるトリペプチド(以下、「本発明のトリペプチド」ともいう)が特に好ましい。
Ala-Pro-Valからなるペプチド(「APVペプチド」ともいう)
Pro-Pro-Ileからなるペプチド(「PPIペプチド」ともいう)
Pro-Pro-Valからなるペプチド(「PPVペプチド」ともいう)
Ala-Pro-Ileからなるペプチド(「APIペプチド」ともいう)
Leu-Pro-Ileからなるペプチド(「LPIペプチド」ともいう)
Lys-Pro-Ileからなるペプチド(「KPIペプチド」ともいう)
Met-Pro-Valからなるペプチド(「MPVペプチド」ともいう)
Val-Pro-Hisからなるペプチド(「VPHペプチド」ともいう)
Val-Pro-Gluからなるペプチド(「VPEペプチド」ともいう)
Glu-Pro-Ileからなるペプチド(「EPIペプチド」ともいう)
【0057】
前述の10種類のいずれかの配列を含むオリゴペプチドは、フリー体であっても、その塩の形態であってもよい。塩としては、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属
類;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属類等が挙げられる。また、塩酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩等の酸付加塩の形態であってもよい。
【0058】
本発明のオリゴペプチドは、例えば、(1)前述の10種類のいずれかのアミノ酸配列のうち所望の配列を含むタンパク質やペプチドを加水分解酵素等にて分解し、得られた分解物から分離精製して得る方法、(2)ペプチドの合成法によって本発明のオリゴペプチドを合成した後、得られた粗合成物から所望の本発明のオリゴペプチドを分離精製して得る方法、(3)本発明に係る本発明のオリゴペプチドを生産する植物、動物又は微生物から抽出し、得られた抽出物から分離精製する方法等により得ることができる。
以下に(1)及び(2)の方法について具体的に説明する。
【0059】
(1)加水分解により得る方法
本発明のオリゴペプチドは、前述の10種類のいずれかのアミノ酸配列のうち所望の配列を含むタンパク質やペプチドをタンパク質加水分解酵素や、酸・アルカリ等により加水分解し、得られた加水分解物から本発明のオリゴペプチドを分離精製して得ることができる。原料となるタンパク質やペプチドを含むものとしては、例えば、乳、大豆、えんどう豆、稲(米)、小麦、大麦、じゃが芋、さつま芋、トウモロコシ、卵、畜肉、魚肉、魚介などに由来するタンパク質などが挙げられる。
【0060】
以下に一般的なタンパク質を原料として用いる場合を例に挙げて、加水分解酵素による処理によって本発明のオリゴペプチドを得る方法を説明するが、タンパク質原料の種類に応じて適宜改変してオリゴペプチドを得ることができる。
タンパク質原料は、本発明のオリゴペプチドを一次構造中に含むタンパク質であって、適宜加水分解酵素で消化したときに本発明のオリゴペプチドが生成可能なものを用いる。
まず、酵素で加水分解する前に、原料タンパク質を水又は温湯に分散し、溶解してタンパク質水溶液を調製する。当該タンパク質を可溶化させるために、適宜pH調整を行ってもよい。当該タンパク質水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、タンパク質濃度として2質量%以上、さらに好ましくは5~30質量%程度の濃度範囲に設定するのが好適である。
さらに、前記タンパク質水溶液を、ナトリウム型又はカリウム型陽イオン交換樹脂(好適には強酸性陽イオン交換樹脂)を用いたイオン交換法、電気透析法、限界ろ過膜法、ルーズ逆浸透膜法等で脱塩し、適宜pH調整やカルシウム濃度調整を行うのが好適である。脱塩の際には、カラム式やバッチ式の何れを採用してもよい。また、タンパク質水溶液を、脱塩前等に適宜、加熱殺菌をおこなってもよい。
【0061】
次いで、前記タンパク質水溶液を、加水分解処理する。当該加水分解処理として、例えば酵素処理、酸処理、アルカリ処理、熱処理等が挙げられ、これらの2種以上の処理を適宜組み合わせてもよい。
酵素処理には、植物由来、動物由来、微生物由来等のタンパク質分解酵素を使用でき、これらから1種又は2種以上組み合わせて使用できる。当該タンパク質分解酵素としては、エンドプロテアーゼが好適である。
前記エンドプロテア-ゼとしては、例えば、セリンプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼが挙げられ、これらを1種又は2種以上選択して用いることができる。このうち、セリンプロテアーゼ及び/又はメタロ
プロテアーゼを用いるのが好適である。
また、プロテアーゼは、アルカリ性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ及び酸性プロテアーゼに分類される。このうち中性プロテアーゼを用いるのが好適である。
【0062】
前記タンパク質分解酵素は、市販品を用いることができる。前記タンパク質分解酵素として、例えば、スミチームLP(新日本化学工業社製)、ビオプラーゼ(ナガセケムテッ
クス社製)、プロレザー(天野エンザイム社製)、プロテアーゼS(天野エンザイム社製)、PTN6.0S(ノボザイムズ社製)、サビナーゼ(ノボザイムズ社製)、GODOB.A.P(合同酒精社製)、プロテアーゼN(天野エンザイム社製)、GODO B.
N.P(合同酒精社製)、ニュートラーゼ(ノボザイムズ社製)、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製)、トリプシン(ノボザイムズ社製)、キモトリプシン(ノボザイムズ社製)、スブチリシン(ノボザイムズ社製)、パパイン(天野エンザイム社製)、ブロメライン(天野エンザイム社製)等が挙げられ、これらから1種又は2種以上の酵素を選択して用いてもよい。
【0063】
前記タンパク質に対するエンドプロテア-ゼの使用量は、特に限定されず、基質濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間等により適宜調整すればよいが、一般的には、タンパク質中のタンパク質1g当り100~30,000活性単位の割合で添加することが好ましい。
前記タンパク質分解酵素による加水分解条件を適宜調整することにより、所望のペプチドを得ることができる。
【0064】
前記タンパク質分解酵素による加水分解前に、前記原料タンパク質溶液のpHを、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の食品上使用可能な塩類を用いて、使用酵素の至適pHに調整することもできる。前記原料タンパク質溶液のpHは、好ましくは5~10、より好ましくは7~10に調整する。
【0065】
前記タンパク質分解酵素の反応温度は、使用酵素の最適温度の範囲で行うことが望ましく、好ましくは30~70℃、より好ましくは40~60℃で行う。
前記タンパク質分解酵素の反応保持時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達するまで反応を続ければよく例えば0.5~24時間で行うことが可能であり、好ましくは1~15時間、より好ましくは3~10時間である。分解率は、特に限定されないが、10~40%であることが好ましい。
【0066】
なお、原料タンパク質の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0067】
前記タンパク質分解酵素による加水分解は、当該酵素を加熱して失活させて終了させればよい。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。例えば、100℃以上(好適には120~140℃)で失活させる場合には1~3秒間、100℃未満60℃以上で失活させる場合には3~40分間で行うことが好適である。
加熱処理の方式としては、バッチ方式、連続方式のいずれの方式も可能であり、連続方式として、プレート熱交換方式、インフュージョン方式、インジェクション方式等の方式を用いることができる。
なお、前記の加熱失活処理は、加水分解物の殺菌処理として併用することも可能であり、常法による加熱処理方法等を用いることができる。
加水分解終了後、必要に応じて分解液のpHを、好ましくは6~8、より好ましくは7.0±0.5、さらに好ましくは7.0±0.3とするのが好適である。
【0068】
なお、本発明に係るタンパク質分解物の製造において、カルシウム濃度未調整の溶液を
加水分解した場合には、得られた分解液を、前記のような脱塩処理し、カルシウム濃度を調整してもよい。次いで、常法により加熱して酵素を失活させる。反応加熱温度と反応保持時間は使用した酵素の熱安定性を配慮し、十分に失活できる条件を適宜設定することができる。加熱失活後、常法により冷却し、そのまま利用することもでき、必要に応じて濃縮して濃縮液を得ることもでき、更に濃縮液を乾燥し、粉末製品を得ることも可能である。
【0069】
また、前記タンパク質水溶液を酸処理又はアルカリ処理にて加水分解する際には、タンパク質水溶液のpHを調整して処理すればよい。当該pH調整による処理の場合には、タンパク質水溶液のpHが、好ましくはpH5以下又はpH9以上であり、より好ましくはpH4以下又はpH10以上である。このようにpH処理された水溶液は、室温にて数分以上、好ましくは5分~1時間、放置又は撹拌することによって、酸処理又はアルカリ処理の加水分解物を得ることができる。ここで、「室温」とは、4~40℃程度であるが、10~30℃が好適である。
また、前記タンパク質水溶液を、熱処理にて加水分解してもよい。このタンパク質水溶液は、pH未調整でもよく、またpH調整(具体的には、酸性(pH5以下)、中性(pH6~8)、アルカリ性(pH8以上))してもよい。熱処理は、4~100℃程度で、上記酸アルカリ処理のような条件にて行えばよい。
【0070】
タンパク質加水分解物中の本発明のオリゴペプチドの含有率は特に限定されないが、その下限値は、本発明の効能をより良好に発揮させる観点から、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらに好ましくは0.01質量%以上であり、その上限値は、本発明の分解物の製造効率の観点から、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0071】
なお、本発明において、対象のペプチド含有量は、下記の方法にて測定できる。
(a)試料粉末を、1.0mg/mLとなるように、0.2%ギ酸水溶液に希釈溶解し、10分間超音波破砕したのち、0.22μm口径のPVDFフィルター(Millipore社製)でろ過して粉末溶液を調製し、下記測定条件によるLC/MS分析を実施する。一方、測定対象のペプチドの化学合成標準ペプチド(ペプチド研究所社製)の溶解液を濃度別に数点調製し、下記測定条件によるLC/MS分析を実施し、検量線を作成する。
前記粉末溶液の分析におけるピークのうち、標準ペプチドと分子量及びリテンションタイムが一致するものを、標準ペプチドと同一の配列として同定する。標準ペプチドのピーク面積と資料粉末のピーク面積を対比することにより、前記粉末溶液中に対象ペプチドの含有量を求める。
【0072】
(b)対象ペプチド含有量(mg/タンパク質加水分解物1g)
対象ペプチド含有量(mg/タンパク質加水分解物1g)=〔得られたタンパク質加水分解物中の対象ペプチド測定値(mg)〕/〔得られたタンパク質加水分解物の質量(g)〕
〔得られたタンパク質加水分解物中の対象ペプチド測定値(mg)〕は、下記「LC/MS」による、試料中の対象ペプチドの測定値である。
【0073】
(c)LC/MS使用機器
質量分析計:TSQ Quantum Discovery MAX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)。
高速液体クロマトグラフ:Prominence (島津製作所社製)、カラム:XBridgeBEH300 C18 φ2.1 mm×250 mm,3.5μm(Waters社製)。
【0074】
(d)LC/MS測定条件
移動相A:0.2重量% ギ酸-水溶液
移動相B:0.2重量% ギ酸-アセトニトリル溶液
タイムプログラム:2%B(0.0分)-25%B(5.0分)-65%B(5.1分)-65%B(10分)-85%B(10.1分)-85%B(13.0%)-2%B(13.1分)-STOP(30.0分)。
試料注入量:10μL、カラム温度:40℃、液体流量:200μL/min
分析モード:SRM測定。
Product Mass:m/z=260.10(Parent m/z = 375.21)
【0075】
得られたタンパク質加水分解物は、未精製のままの状態で使用しても効能を発揮することが可能である。すなわち、タンパク質加水分解物を後述の飲食品や医薬組成物の態様として、摂取や投与に供してもよい。
また、さらに、得られたタンパク質加水分解物に対して、適宜公知の分離精製を行ってもよい。例えば、得られたタンパク質加水分解物に対して分子量分画を行い、本発明に係る本発明のオリゴペプチドの分子量に該当する分画を含むタンパク質分解物を得ることができる。目的物質を含む画分は、後述するDPP-IV阻害作用を指標として決定することができる。
分子量分画として、例えば、限外ろ過、ゲルろ過等の方法が採用でき、これにより不要な分子量のペプチドや遊離アミノ酸の除去率を高めることができる。
限外ろ過の場合には、所望の限外ろ過膜を使用すればよく、ゲルろ過の場合には、所望のサイズ排除クロマトグラフィーに用いるゲルろ過剤を使用すればよい。
さらに、脱塩や不純物を除去したり、純度を高めたりするために、公知の分離精製方法例えば、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶媒沈殿、塩析、2種の液相間での分配等の方法を用いてもよい。
【0076】
分離精製したペプチドの分画物は、本発明のオリゴペプチドが含まれているかどうかを確認することを目的として、質量分析法によりペプチドの同定を行うことができる。
このようにして得られた本発明のオリゴペプチドは、ペプチド溶液のまま使用することもでき、また、必要に応じて、該溶液を公知の方法により、濃縮した濃縮液として使用することもできる。また、該濃縮液を公知の方法により乾燥し、粉末にして使用することもできる。
【0077】
(2)合成により得る方法
本発明のオリゴペプチドは、化学合成又は生合成によっても製造することができる。
ペプチドの化学合成は、オリゴペプチドの合成に通常用いられている液相法または固相法によって行うことができる。合成されたペプチドは必要に応じて脱保護され、未反応試薬や副生物等を除去して、本発明のオリゴペプチドを単離することが可能である。このようなペプチドの合成は、市販のペプチド合成装置を用いて行うことができる。
ペプチドの生合成は、宿主生物にペプチド発現ベクターを導入して生成・分泌させるといった常法により行うことができる。
目的とするペプチドが得られたことは、後述するDPP-IV阻害作用を指標として確認することができる。
【0078】
本発明のオリゴペプチドは、DPP-IV活性を阻害する作用を有する。
ここで、DPP-IV阻害活性を有するとは、本発明のオリゴペプチド存在下におけるDPP-IV活性が、非存在下における活性に比べて小さいことをいい、同条件における
阻害率が好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上であることをいう。また、酵素の50%阻害濃度(IC50)が、好ましくは1000μM以下、より好ましくは500μM以下、さらに好ましくは100μM以下であることをいう。
なお、DPP-IV阻害活性、阻害率、IC50は、定法により確認することができる。
【0079】
したがって、本発明のオリゴペプチドは、DPP-IV阻害剤の有効成分として好ましく含有させることができる。ここで、本発明のオリゴペプチドはタンパク質加水分解物の態様で剤に含まれていてもよく、言い換えると本発明のオリゴペプチドを一種又は二種以上を含むタンパク質加水分解物は、DPP-IV阻害剤の有効成分として好ましく含有させることができる。
【0080】
DPP-IVが、生体内の生理機能に関与している物質を分解することで、種々の疾患や症状が生じる場合がある。このため、DPP-IVを阻害すると、通常DPP-IVによって分解される生体内の生理機能に関与している物質の分解が抑制されその寿命が延びることを利用して、DPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能となる。
前記生理機能に関与する物質として、例えば、GLP-1やGIPといったインクレチンが挙げられる。GLP-1の分解を抑制することによって、インスリンの生合成及び分泌に対するグルコース誘導性の刺激、グルカゴン分泌抑制、遺伝子発現の調整、β細胞に対する栄養性の効果、食物摂取の抑制、及び胃内容排出の緩徐化などが作用する。また、GIPの分解を抑制することによって、膵臓からのインスリン分泌に対するグルコース誘導性の刺激が作用する。これらによって、上昇した血糖値の正常化、並びに空腹感及び体重の改善・調整に寄与することが可能である。
【0081】
また、DPP-IVの作用によって、血管の内皮細胞の機能が低下したり、血管の内皮細胞が障害されることが知られている。この血管の内皮細胞の機能低下や障害によって、血管の緊張増加による血管収縮、動脈硬化、血栓形成等の血管障害が生じ、これらの原因によって臓器の血流障害が生じ、臓器機能不全となり、糖尿病の合併症が誘発されることとなる。
近年、DPP-IV阻害薬を投与することで内皮細胞の機能が改善することが多数報告されている(例えば、Endocrine Journal 2011, 58 (1), 69-73、J Am Coll Cardiol. 2012, 59(3), 265-76、Diabetes Care. 2011, 34(9), 2072-7、Cardiovascular Diabetology 2011, 10(85)等)。かかる内皮細胞機能改善効果は、単に血糖値を下げることによる改善の他に、インクレチンによる血管の保護作用を介していると考えられている。高血糖により内皮細胞の機能が低下し、血管のしなやかさが失われると、血圧が上昇し、上昇した血圧がさらに血管を傷めるという悪循環が、心臓・腎臓・脳といった臓器への悪影響となって現れる。そのため、DPP-IV阻害剤は循環器系の治療においても、重要な役割を果たすものと考えられている。
【0082】
以上のことから、本発明のオリゴペプチド及び本発明のオリゴペプチドを一種又は二種以上を含むタンパク質加水分解物、並びにこれらを含有する本発明のDPP-IV阻害剤は、DPP-IV阻害活性を有することにより、血糖値上昇抑制作用、高血糖改善作用、血管内皮機能低下抑制作用、血管内皮障害抑制作用、血管障害抑制作用、血管内皮細胞の保護作用、食欲抑制作用等を示す。
なお、本明細書における「血糖値上昇抑制」とは、血糖値低下を含む意味であるが、特に「正常値以上又は必要以上に上昇した血糖値を下げることができること」を意味するものである。血糖値の正常値の判断は、日本糖尿病学会の診断基準(2012年改訂)を参考にすればよい。なお、血糖値上昇は、食後に生じる上昇を指すものであってよい。
さらに、本発明のオリゴペプチド及びそれを含有する本発明のDPP-IV阻害剤は、DPP-IV阻害活性を有することにより、DPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療が可能と考えられる。よって、本発明のオリゴペプチド及びそれを含有する本発明のDPP-IV阻害剤は、ヒトを含む動物に摂取又は投与して、DPP-IVに起因する疾患や症状等の予防、改善及び/又は治療を図るための方法に使用することができる。
ここで、疾患や症状等の予防とは、疾患や症状等を罹患(発症)していない適用対象において、疾患又は症状等の発生を防止すること、該発生を遅延させること、及び該発生の危険性を低下させることを含む。
【0083】
本発明のオリゴペプチドを投与する対象(被投与者)及び摂取させる対象(摂取者)は、動物であれば特に限定されないが、通常はヒトである。また、成人、小児、乳児、新生児等のいずれであってもよい。また、性別は特に限定されない。
【0084】
本発明の別の側面は、DPP-IV阻害剤、又はDPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善及び/若しくは治療のための組成物の製造における、本発明のオリゴペプチドの使用である。
本発明の別の側面は、DPP-IV阻害、又はDPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善及び/若しくは治療における、本発明のオリゴペプチドの使用である。
本発明の別の側面は、DPP-IV阻害、又はDPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善及び/若しくは治療のために用いられる、本発明のオリゴペプチドである。
本発明の別の側面は、本発明のオリゴペプチドを動物に投与することを含む、DPP-IVを阻害する、又はDPP-IVに起因する疾患や症状を予防、改善及び/若しくは治療する方法である。
【0085】
なお、本明細書において「本発明のオリゴペプチドを動物に投与すること」は、「本発明のオリゴペプチドを動物に摂取させること」と同義であってよい。摂取は、自発的なもの(自由摂取)であってもよく、強制的なもの(強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、具体的には、例えば、本発明のオリゴペプチドを飲食品や飼料に配合して対象に供給し、以て対象に本発明のオリゴペプチドを自由摂取させる工程であってもよい。
【0086】
本発明のオリゴペプチドの摂取(投与)時期は、特に限定されず、投与対象の状態に応じて適宜選択することが可能である。
【0087】
本発明のオリゴペプチドの摂取(投与)量は、摂取(投与)対象の年齢、性別、状態、その他の条件等により適宜選択される。
本発明のオリゴペプチドの摂取(投与)量は、本発明に係る本発明のオリゴペプチド1種類ずつの摂取量として、例えば、成人において1μg/日~10mg/日の範囲が好ましく、5μg/日~5mg/日の範囲がさらに好ましい。
なお、摂取(投与)の量や期間にかかわらず、本発明のオリゴペプチドは1日1回又は複数回に分けて投与することができる。
【0088】
本発明のオリゴペプチドの摂取(投与)期間は、特に限定されないが、好ましくは12週間以上、より好ましくは24週間以上とすると、効果が得られやすい。また、摂取(投与)期間の上限は特に設けられず、継続的な、長期の摂取(投与)が可能である。
【0089】
本発明のオリゴペプチドの摂取(投与)経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
【0090】
本発明のDPP-IV阻害剤は、前述の通りDPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療に好適に用いることができるため、医薬組成物に含有させる態様が好ましい。すなわち、DPP-IVに起因する疾患や症状の予防、改善又は治療のための医薬組成物も本発明の一態様である。
DPP-IVに起因する疾患や症状として、例えば、高血糖症、糖尿病、糖尿病合併症、血管内皮障害、血管障害等が挙げられるがこれらに限定されない。糖尿病としては、好ましくは2型糖尿病が挙げられ、より好ましくはインスリン分泌低下による2型糖尿病が挙げられる。なお、DPP-IVに起因する疾患や症状には、DPP-IVが直接的に関与するものの他、DPP-IVが間接的に関与するものであってよい。
さらに、高血糖症、糖尿病及び高血糖状態によって引き起こされる種々の疾患や症状も、本発明の医薬組成物の対象となり得る。かかる疾患や症状としては、例えば、糖尿病性の細小血管症(例えば、網膜症、腎症、神経障害等)及び大血管合併症(例えば、狭心症・心筋梗塞等の虚血性心疾患、脳梗塞、閉塞性動脈硬化、壊疽等)等が挙げられる。
【0091】
医薬組成物の投与経路は、経口又は非経口のいずれでもよいが経口が好ましい。また、非経口摂取(投与)としては、経皮、静注、直腸投与、吸入等が挙げられる。
医薬組成物の形態としては、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤、注射剤等に製剤化することができる。
製剤化に際しては、本発明のオリゴペプチドの他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。また、他の薬効成分や、公知の又は将来的に見出されるDPP-IVに起因する疾患や症状を予防、改善及び/又は治療し得る成分等の他の医薬を併用することも可能である。
また、本発明の効果を妨げない限りにおいて、他のペプチドが併存してもかまわない。
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、通常製剤化に用いる担体を配合して製剤化してもよい。かかる担体としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0092】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0093】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0094】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0095】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等
の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0096】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0097】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤等が挙げられる。
【0098】
本発明の医薬組成物を摂取するタイミングは、例えば食前、食後、食間、就寝前など特に限定されないが食前が好ましい。
【0099】
本発明のオリゴペプチドを経口摂取される組成物とする場合は、飲食品の態様とすることが好ましい。
【0100】
本発明のオリゴペプチドは、前述のようにDPP-IV阻害活性を有することにより、血糖値上昇抑制作用、高血糖改善作用、血管内皮機能低下抑制作用、血管内皮障害抑制作用、血管障害抑制作用、血管内皮細胞の保護作用、食欲抑制作用等を示すため、これらの作用を企図して用いられる組成物の態様とすることができる。特に好ましい態様としては、食後血糖値上昇抑制用の組成物が挙げられる。
本発明のオリゴペプチドは、特に用途を限定せずに飲食品の態様とすることができる。また、前述した種々の作用に係る用途に供される飲食品とすることもでき、特に好ましくは食後血糖値上昇抑制用の飲食品とすることができる。
【0101】
飲食品としては、本発明の効果を損なわず、経口摂取できるものであれば形態や性状は特に制限されず、本発明のオリゴペプチドを含有させること以外は、通常飲食品に用いられる原料を用いて通常の方法によって製造することができる。
【0102】
飲食品としては、液状、ペースト状、ゲル状固体、粉末等の形態を問わず、例えば、錠菓;流動食(経管摂取用栄養食);パン、マカロニ、スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉、パン粉等の小麦粉製品;即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席スープ・シチュー、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズ・ドライ食品、その他の即席食品等の即席食品類;農産缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物、煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)等の農産加工品;水産缶詰め、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、つくだ煮類等の水産加工品;畜産缶詰め・ペースト類、畜肉ハム・ソーセージ等の畜産加工品;加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料類、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリーム、その他の乳製品等の乳・乳製品;バター、マーガリン類、植物油等の油脂類;しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類等の基礎調味料;調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類、その他の複合調味料等の複合調味料・食品類;素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品等の冷凍食品;キャラメル、キャンディー、チューインガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、米菓子、豆菓子、デザート菓子、ゼリー、その他の菓子などの菓子類;炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳、豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、その他の嗜好飲料等の嗜好飲料類、ベビーフード、ふりかけ、お茶漬けのり等のその他の市販食品等;育児用調製粉乳;経腸栄養食;機能性食品(特定保健用食品、栄養機能食品)等が挙げられる。
【0103】
また、飲食品の一態様として飼料とすることもできる。飼料としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
飼料の形態としては特に制限されず、本発明のオリゴペプチドの他に例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエイ、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トルラ酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有するものであってよい。
【0104】
本発明のオリゴペプチドが飲食品(飼料を含む)の態様である場合、DPP-IVに起因する疾患や症状の改善に関する用途や、脳機能低下予防、記憶力低下予防等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。また、本明細書に係る本発明のオリゴペプチドは、これら飲食品等の製造のために使用可能である。
【0105】
かかる「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本発明における「表示」行為に該当する。
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0106】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0107】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一年内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0108】
かかる表示としては、例えば、「食後の血糖値上昇を緩やかにする」、「食後の血糖値上昇を抑える」、「食後の血糖値が気になる方へ」、「高めの血糖値を下げる」、「高めの血糖値が気になる方へ」、「高めの空腹時血糖値を下げる」、「高めの空腹時血糖値が気になる方へ」、「高めのHbA1c(糖化ヘモグロビン)値を下げる」、「高めのHbA1c(糖化ヘモグロビン)値が気になる方へ」、「高血糖の改善のために」、「血管内皮細胞をまもる」、「食欲を抑えたいときに」等と表示することが挙げられる。
【実施例0109】
以下に実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限
定されるものではない。
【0110】
<トリペプチドのDPP-IV阻害活性の評価>
本発明のトリペプチドについてDPP-IV阻害活性をIC50値で評価した。比較のため、本発明のトリペプチドと同じアミノ酸残基を含むが配列が異なる他のトリペプチドについても同様に評価した。
DPP-IV阻害活性評価はカトウらの方法(Kato , T. et al., Biochem. Med. 19, p351, 1978)に準じて行った。すなわち、酵素(DPP-IV)としてRecombinant human DPPIV(Enzo Life Sciences社製)、基質としてGly-Pro-AMC(Enzo Life Sciences社製)を用いた。384ウェルブラックプレート(nunc社製)の各ウェルにDP
P-IV溶液(10.4 μU/μL)を5μL、各濃度のペプチド溶液を5μL添加し
、37℃で10分間インキュベートした。各ウェルに10μM Gly-Pro-AMC
を10μLずつ添加して混合後、37℃で15分間インキュベートした。蛍光強度値の測定にはマイクロプレートリーダー(SH-9000, コロナ電気株式会社製)を用いた(Ex.380nm/Em.460nm)。
阻害率は下記の式で算出した。
阻害率(%)=[1-(Y/X)]×100%
X:「水+酵素+基質」の蛍光強度値
Y:「試験物質(ペプチド)+酵素+基質」の蛍光強度値
IC50算出のため、ペプチド濃度を段階的に希釈し、それぞれの阻害率を求め、その結果を基にペプチド濃度と阻害率の関係式を求めた。この関係式を用いて50%阻害率となるペプチド濃度を算出し、IC50とした。
【0111】
結果を表1に、各トリペプチドのIC50を示す。本発明のトリペプチドであるAPVペプチド、PPIペプチド、PPVペプチド、APIペプチド、LPIペプチド、KPIペプチド、MPVペプチド、VPHペプチド、VPEペプチド、及びEPIペプチドについては、高いDPP-IV阻害活性が認められた。一方、本発明のトリペプチドと同じアミノ酸残基を含むが配列が異なる他のトリペプチドについては、いずれもIC50が著しく大きく、DPP-IV阻害活性が低いと認められた。
【0112】
【表1】
【符号の説明】
【0113】
1:予測装置
11:プロセッサ
111:学習部
112:予測部
113:評価部
12:記憶装置
13:入出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10