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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025148857
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】固体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/26 20060101AFI20251001BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20251001BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20251001BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/10
A61K31/353
A61K31/352
A61K31/343
A61K31/122
A61K31/575
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049186
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩木 徹
(72)【発明者】
【氏名】松本 恒平
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真衣
(72)【発明者】
【氏名】伊部 真央莉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓
(72)【発明者】
【氏名】照喜名 孝之
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076CC50
4C076EE10
4C076EE12
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE30
4C076FF33
4C086AA02
4C086BA08
4C086DA11
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA34
4C086MA52
4C086NA20
4C206AA02
4C206CB25
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA54
4C206MA72
4C206NA20
(57)【要約】
【課題】結晶性の難水溶性有機化合物の水に対する溶解性を向上する。
【解決手段】実施形態に係る固体組成物は、結晶性の難水溶性有機化合物を非晶質化した非晶質体、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、水溶性高分子、を含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性の難水溶性有機化合物を非晶質化した非晶質体、
モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、
水溶性高分子
を含有する固体組成物。
【請求項2】
前記難水溶性有機化合物が、フラボノイド、フェニルプロパノイド、スチルベノイド、フェノール酸、カロテノイド、レチノイド、ステロイド、アルカロイド、セラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
前記難水溶性有機化合物が、フラバノン、フラボノール、リグナン、クマリン、スチルベノイド、フェノール酸、キサントフィル、レチノイド、フィトステロール、アルカロイド、グルコシルセラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項4】
前記非晶質体に対する前記ショ糖脂肪酸エステルの質量比が0.2~30である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項5】
前記非晶質体に対する前記水溶性高分子の質量比が0.2~30である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項6】
前記ショ糖脂肪酸エステルに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項7】
前記水溶性高分子が、セルロースエーテル、セルロースエステル、N-ビニルラクタムのホモポリマー、N-ビニルラクタムのコポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、及びポリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の固体組成物を含む経口組成物。
【請求項9】
結晶性の難水溶性有機化合物、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得ること、及び、
前記溶液から前記溶媒を除去すること、
を含む、固体組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールは、動脈硬化や脳梗塞等を防ぐ抗酸化作用を持つことが知られている。また、カロテノイドやレチノイド、ステロイドについても、抗酸化作用などの生理効果があることが知られている。そのため、医薬品等の医療分野や、食品添加物等の食品分野への活用が期待されている。
【0003】
しかしながら、これらのなかには難水溶性のものが多く、経口摂取による体内への吸収効率が低い。消化管内での吸収効果を高めるために、水に対する溶解性を高めることが求められる。そのための方策として、結晶性の難水溶性有機化合物を結晶状態から非晶質化させることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、非晶質の難水溶性ポリフェノールと、親水性ポリマーと、非イオン界面活性剤とを含む固体組成物が開示されている。また、親水性ポリマーとしてポリビニルピロリドンが用いられること、及び、非イオン界面活性剤としてHLB値が10以上のショ糖脂肪酸エステルが用いられることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/061627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、結晶性の難水溶性有機化合物の水に対する溶解性を向上することができる固体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 結晶性の難水溶性有機化合物を非晶質化した非晶質体、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び、水溶性高分子、を含有する固体組成物。
[2] 前記難水溶性有機化合物が、フラボノイド、フェニルプロパノイド、スチルベノイド、フェノール酸、カロテノイド、レチノイド、ステロイド、アルカロイド、セラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の固体組成物。
[3] 前記難水溶性有機化合物が、フラバノン、フラボノール、リグナン、クマリン、スチルベノイド、フェノール酸、キサントフィル、レチノイド、フィトステロール、アルカロイド、グルコシルセラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載の固体組成物。
[4] 前記非晶質体に対する前記ショ糖脂肪酸エステルの質量比が0.2~30である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[5] 前記非晶質体に対する前記水溶性高分子の質量比が0.2~30である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[6] 前記ショ糖脂肪酸エステルに対する前記水溶性高分子の質量比が0.1~10である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[7] 前記水溶性高分子が、セルロースエーテル、セルロースエステル、N-ビニルラクタムのホモポリマー、N-ビニルラクタムのコポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、及びポリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の固体組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1項に記載の固体組成物を含む経口組成物。
[9] 結晶性の難水溶性有機化合物、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得ること、及び、前記溶液から前記溶媒を除去すること、を含む、固体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態に係る固体組成物であると、難水溶性有機化合物の水に対する溶解性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の固体組成物のXRDチャート
図2】比較例1の固体組成物のXRDチャート
図3】実施例3の固体組成物のXRDチャート
図4】比較例3の固体組成物のXRDチャート
図5】実施例5の固体組成物のXRDチャート
図6】比較例5の固体組成物のXRDチャート
図7】実施例7の固体組成物のXRDチャート
図8】比較例7の固体組成物のXRDチャート
図9】実施例8の固体組成物のXRDチャート
図10】比較例9の固体組成物のXRDチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る固体組成物は、(A)結晶性の難水溶性有機化合物を非晶質化した非晶質体、(B)ショ糖脂肪酸エステル、及び、(C)水溶性高分子、を含有する。
【0011】
[(A)非晶質体]
(A)成分の非晶質体は、結晶性の難水溶性有機化合物を非晶質化したもの、すなわち、結晶質であるために本来は水に難溶性(不溶性である場合も含む。)である有機化合物が非晶質化されたものであり、非晶質の難水溶性有機化合物とも称される。ここで、結晶性の難水溶性有機化合物(非晶質化する前の状態)の25℃における純水に対する溶解性(最大溶解濃度)は1mg/mL以下であり、100μg/mL以下でもよく、10μg/mL以下でもよく、1μg/mL以下でもよい。
【0012】
本実施形態において難水溶性有機化合物の具体例としては、
(A1)ポリフェノール: 例えば、フラバノン(例えば、ヘスペレチン、ノビレチン、スダチチン、ナリルチン、ナリンギン、ナリンゲニン、ヘスペリジン)、フラボノール(例えば、ミリセチン、ケルセチン、ティリロサイド、シリビニン、ルチン、イソクエルシトリン、ガランギン、ケンフェロール、フィセチン、ヒペロシド)、フラボン(例えばルテオリン、アピゲニン、バイカレイン、クリシン、5,7-ジメトキシフラボン、ジオスミン、ジオスメチン、フラボキサート)、フラバノール(例えばカテキン、エピカテキン、テアフラビン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、プロシアニジン)、イソフラボン(例えばゲニステイン、ダイゼイン、エクオール、プエラリン、イプリフラボン)、アントシアニジン(例えば、シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジン)、プロアントシアニジン、オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)等のフラボノイド; リグナン(例えば、セサミン、セサモリン、セサモール、セサミノール)、クマリン(例えば、オーラプテン、ウンベリフェロン、クメストロール)等のフェニルプロパノイド; レスベラトロール等のスチルベノイド; クロロゲン酸、ヒドロキシ桂皮酸(例えばコーヒー酸)、ヒドロキシ安息香酸(例えば没食子酸、エラグ酸)、ロスマリン酸等のフェノール酸; キサントン(例えばα-マンゴスチン)、イソフラバンジオール(例えばエクオール)、ギンゲロール、ショウガオール、ジンゲロン、
(A2)カロテノイド: 例えば、キサントフィル(例えば、アスタキサンチン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、ネオキサンチン)、カロテン(例えば、β-カロテン、リコピン)、
(A3)レチノイド: 例えば、レチノイン酸、レチノール、レチナール、アダパレン、タミバロテン、
(A4)ステロイド: 例えば、フィトステロール(例えば、β-シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、7-エルゴステノール、イソフコステロール、7-スチグマステロール、アベナステロール、ジオスゲニン、ジンセノサイド)、ビタミンD(例えば、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、
(A5)アルカロイド: 例えば、ベルベリン、モルヒネ、カプサイシノイド、
(A6)セラミド: 例えば、グルコシルセラミド、ヒト型セラミド、合成セラミド、及び、
(A7)リモノイド: 例えばリモニン、アザジラクチン
などが挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書では、上記の「ポリフェノール」、「カロテノイド」、「レチノイド」、「ステロイド」、「アルカロイド」、「セラミド」、及び「リモノイド」は、それぞれ、アグリコン、アセチル化物、脂肪酸エステル化物、アミド化物、マロニル化物、メチル化物、重合物、縮合物、塩、及び配糖体等の誘導体を包含する概念で用いる。
【0013】
これらの中でも難水溶性有機化合物は、フラボノイド、フェニルプロパノイド、スチルベノイド、フェノール酸、カロテノイド、レチノイド、ステロイド、アルカロイド、セラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、難水溶性有機化合物は、フラバノン、フラボノール、リグナン、クマリン、スチルベノイド、フェノール酸、キサントフィル、レチノイド、フィトステロール、アルカロイド、グルコシルセラミド、及びリモノイドからなる群から選択される少なくとも1種である。より好ましくは、難水溶性有機化合物は、フラバノン、フラボノール、リグナン、キサントフィル、及びフィトステロールからなる群から選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは、ヘスペレチン、ミリセチン、セサミン、アスタキサンチン、及びβ-シトステロールからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0014】
本実施形態の固体組成物は、上記難水溶性有機化合物を非晶質化してなる非晶質体を含む。難水溶性有機化合物の非晶質状態は、X線回折(XRD)において明確な回折ピークを有さないことにより確認することができる。固体組成物は、上記非晶質体とともに、結晶質の難水溶性有機化合物を含有してもよい。但し、結晶質の難水溶性有機化合物の量はできるだけ少ないことが好ましく、実質的に又は全く含有しないことが好ましい。
【0015】
固体組成物における上記非晶質体の含有量は、特に限定されないが、1~50質量%であることが好ましく、より好ましくは3~40質量%であり、より好ましくは4~40質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは6~20質量%である。
【0016】
[(B)ショ糖脂肪酸エステル]
本実施形態では、(B)成分として、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステルが用いられる。ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖のヒドロキシ基に脂肪酸をエステル結合させたものである。ショ糖1分子には8個のヒドロキシ基があり、脂肪酸がエステル結合した数に応じて、モノエステルからオクタエステルまである。本実施形態では、1個のヒドロキシ基に脂肪酸が結合したモノエステルの比率が、ショ糖脂肪酸エステル100質量%に対して85質量%以上であるものが用いられる。一般的なショ糖脂肪酸エステルではモノエステルの比率が80質量%以下であるのに対し、本実施形態ではモノエステルの比率が85質量%以上と高いものを用いる。これにより難水溶性有機化合物の水に対する溶解性を向上することができる。
【0017】
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率は、90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは97質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、100質量%でもよい。従って、ジエステル以上のエステルの比率は、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0018】
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率は、GPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)によりショ糖脂肪酸エステルのエステル分布を分析することにより求めることができ、全ピーク面積に対するモノエステル由来のピーク面積の比として求められる。GPCの分析条件は以下のとおりである。
【0019】
〈GPC条件〉
・装置:(株)島津製作所製「LC-6A」
・カラム:日本分光(株)製「Megapak GEL201」
・溶媒:THF
・流量:3mL/min
・試料濃度:6質量体積%
・試料注入量:50μL
・カラム温度:25℃
【0020】
ショ糖脂肪酸エステルは、構成脂肪酸として炭素数12~22の脂肪酸を含むことが好ましい。すなわち、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数12~22の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐を持つものが好ましく用いられ、これらを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。構成脂肪酸は炭素数12~22の脂肪酸を主成分とすることが好ましく、より好ましくは炭素数14~18、更に好ましくは炭素数16~18の脂肪酸を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とするとは、構成脂肪酸100質量%に対して50質量%以上であることを意味し、より好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0021】
ショ糖脂肪酸エステルの構成脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく、直鎖の飽和脂肪酸が好ましい。好ましい一実施形態において構成脂肪酸は、ステアリン酸を主成分とすることであり、ステアリン酸とパルミチン酸の混合物が好ましく用いられる。
【0022】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は特に限定されず、10以上でもよく、13以上でもよく、16以上でもよい。
【0023】
[(C)水溶性高分子]
(C)成分の水溶性高分子は、水に溶ける性質を持つ天然又は合成高分子である。水溶性高分子の水に対する溶解性は、25℃において純水に対する溶解性(最大溶解濃度)が0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上であり、1質量%以上でもよい。
【0024】
水溶性高分子の具体例としては、
・ポリビニルピロリドン(PVP)、コポビドン(即ち、N-ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体)、N-ビニルピロリドンとプロピオン酸ビニルの共重合体等のN-ビニルラクタムのホモポリマー及びそのコポリマー;
・アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース)、ヒドロキシアルキルセルロース(例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC))等のセルロースエーテル;
・フタル酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)等のセルロースエステル;
・ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)等の炭素数2~4のアルキレングリコールの重合体に相当する構造を持つポリアルキレングリコール(PAG);
・ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体等のポリアルキレンオキシド(PAO);
・メタクリル酸/アクリル酸エチルコポリマー、メタクリル酸/メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸ブチル/メタクリル酸2-ジメチルアミノエチルコポリマー、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)、メタクリル酸アルキル/メタクリル酸2-ジメチルアミノエチルコポリマー、メタクリル酸アルキル/メタクリル酸コポリマー、メタクリル酸アルキル/メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸アルキル/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドコポリマー等のポリ(メタ)アクリレート;
・ポリビニルカプロラクタム/ポリビニル酢酸/ポリエチレングリコールグラフトコポリマー;
・ポリアクリルアミド;
・ポリビニルアルコール;
・デンプン、変性デンプン、加工デンプン等のデンプン及びその誘導体;
・デキストリン、変性デキストリン、加工デキストリン等のデキストリン及びその誘導体; 並びに、
・カラギーナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、アラビアガム等のオリゴ糖及び多糖が挙げられる。これらはいずれか1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、ポリアルキレングリコールとポリアルキレンオキシドとは基本的に同じ構造を有する化合物であり、前者が平均分子量2万程度までのものを、後者がより分子量の大きいものとして当業者に知られているものが用いられる。
【0025】
これらの中でも水溶性高分子としては、セルロースエーテル、セルロースエステル、N-ビニルラクタムのホモポリマー、N-ビニルラクタムのコポリマー、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、及びポリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種(C1)を用いることが好ましく、より好ましくは、セルロースエーテル、セルロースエステル、N-ビニルラクタムのホモポリマー、及びN-ビニルラクタムのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種(C2)を用いることである。その場合、水溶性高分子100質量%は、当該少なくとも1種(C1)又は(C2)を、70~100質量%含むことが好ましく、より好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、更に好ましくは95~100質量%含むことである。
【0026】
一実施形態において、水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種(C3)を含むことが好ましく、より好ましくは、水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルセルロース(C4)を含むことである。水溶性高分子100質量%は、当該少なくとも1種(C3)又はヒドロキシプロピルセルロース(C4)を、70~100質量%含むことが好ましく、より好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、更に好ましくは95~100質量%含むことである。
【0027】
水溶性高分子の分子量は特に限定されず、例えば、重量平均分子量(Mw)が1000~600,000でもよく、1000~100,000でもよく、5000~80000でもよく、10000~60000でもよい。ここで、重量平均分子量(Mw)は、GPC法により測定した値である。
【0028】
水溶性高分子のK値は特に限定されず、例えば、5~100が好ましく、10~70が好ましく、15~50が好ましく、15~35が好ましい。K値は、フィケンチャー法による分子量の大きさを表わす値であり、公知の測定方法と下記フィケンチャーの式によって求めることができる。
K値={[300ClogZ+(C+1.5ClogZ)1/2+1.5ClogZ-C}/(0.15C+0.003C
式中、Cは試料の濃度(質量%)を示す。Zは濃度Cの溶液の相対粘度(ηrel)を示す。相対粘度ηrelは次式より得られる。
ηrel=(溶液の流動時間)÷(水の流動時間)
【0029】
一実施形態において、水溶性高分子として、HPC等のヒドロキシアルキルセルロースを用いてもよい。その場合、ヒドロキシアルキルセルロースとしては、2質量%水溶液とした場合の粘度(20℃)が0.1~10000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは0.3~5000mPa・s、より好ましくは0.3~3000mPa・s、より好ましくは0.3~1000mPa・s、より好ましくは0.5~500mPa・s、より好ましくは0.8~100mPa・s、より好ましくは1~20mPa・s、より好ましくは1.2~10mPa・s、より好ましくは1.5~8mPa・s、より好ましくは1.8~4mPa・sである。該粘度は、第9版食品添加物公定書の回転粘度計法に準じて測定される。
【0030】
また、ヒドロキシアルキルセルロースとしては、重量平均分子量(Mw)が1000~600,000、より好ましくは2000~500,000、より好ましくは3000~400,000、より好ましくは5000~300,000、より好ましくは10000~200,000、より好ましくは15000~150,000、より好ましくは20000~100,000、より好ましくは25000~80000、より好ましくは30000~50000である。ここで、重量平均分子量(Mw)は、GPC法により測定した値である。
【0031】
また、ヒドロキシアルキルセルロースにおいて、ヒドロキシアルコキシ基(HPCの場合はヒドロキシプロポキシ基)の置換度は、5~99質量%であることが好ましく、より好ましくは10~95質量%、より好ましくは15~90質量%、より好ましくは20~85質量%である。ここで、置換度は、第9版食品添加物公定書のヒドロキシプロピルセルロースに記載されているガスクロマトグラフによる測定方法に準拠した方法で測定される。
【0032】
[固体組成物]
本実施形態に係る固体組成物において、難水溶性有機化合物は水溶性高分子により非晶質化された状態で含まれている。一実施形態において、水溶性高分子が乳化剤であるショ糖脂肪酸エステルとともに難水溶性有機化合物の分子間に入り込んで、難水溶性有機化合物の結晶性を崩壊させ、非晶質化させてもよい。このようにして非晶質化された難水溶性有機化合物が、不活性担体である水溶性高分子中に分子レベルで分散している。そのため、一実施形態において、該固体組成物は固体分散体である。一般に、固体分散体では、難水溶性薬物が非晶質化し、非晶質状態にある固体の難水溶性薬物が不活性担体に分子レベルで分散しているため、水に溶けやすい。特に本実施形態であると、水溶性高分子とともにショ糖脂肪酸エステルを併用したことにより、難水溶性有機化合物の水に対する溶解性を向上することができる。
【0033】
本実施形態に係る固体組成物は、常温(25℃)で固体であり、より詳細には、常温で5時間以上放置しても固体である。
【0034】
固体組成物において、(A)難水溶性有機化合物の非晶質体の質量に対する(B)ショ糖脂肪酸エステルの質量の比である、質量比(B)/(A)は、0.2~30が好ましく、より好ましくは0.5~20であり、更に好ましくは1.0~15であり、更に好ましくは1.5~12であり、更に好ましくは2.0~10であり、更に好ましくは2.5~8.0であり、更に好ましくは3.0~6.0である。
【0035】
固体組成物において、(A)難水溶性有機化合物の非晶質体の質量に対する(C)水溶性高分子の質量の比である、質量比(C)/(A)は、0.2~30であることが好ましく、より好ましくは0.5~25であり、更に好ましくは1.0~20であり、更に好ましくは2.0~15であり、更に好ましくは3.0~12であり、更に好ましくは3.5~10であり、更に好ましくは4.0~9.0である。
【0036】
固体組成物において、(B)ショ糖脂肪酸エステルの質量に対する(C)水溶性高分子の質量の比である、質量比(C)/(B)は、0.1~10であることが好ましく、より好ましくは0.2~8.0であり、より好ましくは0.3~5.0であり、更に好ましくは0.5~4.0であり、更に好ましくは1.0~3.0であり、1.0~2.5でもよい。
【0037】
本実施形態に係る固体組成物は、上記(A)~(C)成分に加えて、その他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、特に限定されず、例えば、賦形剤、結合剤、充填剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、調味料、及び香料が挙げられる。
【0038】
一実施形態において、固体組成物は、賦形剤として、糖、糖アルコール、デンプン、デキストリン、結晶セルロースなどを含んでもよい。賦形剤を配合することにより、水に対する溶解性を更に向上することができる。賦形剤は、上記(A)~(C)成分を含む固体分散体に対して粉体混合することにより、固体組成物に配合されることが好ましい。
【0039】
上記糖及び/又は糖アルコールの具体例としては、乳糖、砂糖、ブドウ糖、マルトース、キシロース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール等が挙げられ、これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0040】
上記賦形剤の量は、特に限定されず、例えば、上記(A)~(C)の合計量100質量部に対して、10~500質量部でもよく、50~400質量部でもよく、100~300質量部でもよい。
【0041】
固体組成物の形態は特に限定されず、粉末状でもよく、当該粉末を造粒した粒状でもよく、各種固形製剤の形態をとることができる。
【0042】
[固体組成物の製造方法]
本実施形態に係る固体組成物を製造する方法は特に限定されない。一実施形態において、固体組成物の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)結晶性の難水溶性有機化合物、モノエステルの比率が85質量%以上であるショ糖脂肪酸エステル、及び水溶性高分子を、溶媒に溶かして溶液を得る工程、及び、
(2)得られた溶液から溶媒を除去する工程。
【0043】
工程(1)において、溶媒としては、難水溶性有機化合物、上記ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子を溶解可能な溶媒が用いられ、特に限定されない。溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等の酢酸エステル、ジエチルエーテル等のエーテル、プロパン、ブタン、ヘキサン等のアルカン、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の塩化炭化水素、シクロヘキサン等の有機溶媒が挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上の混合溶媒を用いてもよい。また、これら有機溶媒と水との混合溶媒を用いてもよい。
【0044】
工程(1)では、溶媒を加温しながら、難水溶性有機化合物、ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子を溶解させる。難水溶性有機化合物とショ糖脂肪酸エステルを先に溶媒に溶解させてから、水溶性高分子を添加して溶解させてもよく、溶解させる順序は問わない。溶解に際しては、攪拌したり、超音波装置により超音波振動を付与したりして溶解させることが好ましい。溶媒を加温する際の温度は、特に限定されず、例えば60~90℃であることが好ましい。
【0045】
工程(1)で調製する溶液において、各成分の濃度は特に限定されない。例えば、難水溶性有機化合物の濃度は、0.1~5質量%でもよく、0.2~3質量%でもよい。上記ショ糖脂肪酸エステル及び水溶性高分子の各濃度は、製造する固体組成物における上記各成分の質量比(B)/(A)、(C)/(A)及び(C)/(B)に応じて設定してもよい。
【0046】
一実施形態において、難水溶性有機化合物としてアスタキサンチンを用いる場合、アスタキサンチンを有機溶媒中で熟成させることにより異性化させてもよい。
【0047】
工程(2)では、上記工程(1)で得られた溶液から溶媒を除去することにより固体組成物を得る。溶媒を除去する方法は特に限定されず、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、加熱乾燥、自然乾燥等が挙げられる。溶媒を除去した後、粉砕処理を行ってもよい。
【0048】
[固体組成物の用途]
本実施形態に係る固体組成物は、医薬品、医薬部外品、保健機能食品(例えば特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、健康食品、栄養補助食品、サプリメント等の食品、ペットフード、化粧品等の用途に好適に用いられる。好ましくは、経口用製剤として用いられることである。すなわち、好ましい一実施形態に係る経口組成物は、上記固形組成物を含むものである。
【0049】
経口組成物は、上記固形組成物のみで構成されてもよいが、固形組成物とともに、他の食品素材、他の活性成分、及び/又は、添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、充填剤、滑沢剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、調味料、香料、及び着色剤等が挙げられる。
【0050】
経口組成物の形態は特に限定されず、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、及びカプセル剤等が挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る固体組成物は、難水溶性有機化合物の水への溶解性に優れるため、経口投与又は摂取された場合に、難水溶性有機化合物の体液への高い溶出性を発揮することが期待でき、難水溶性有機化合物の効率的な摂取を可能にする。
【実施例0052】
以下、実施例および比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0053】
表1,2中の成分についての詳細は以下のとおりである。
・HPT:ヘスペレチン、富士フイルムワコーケミカル(株)製「ヘスペレチン」、購入先:富士フイルム和光純薬(株)
・MIR:ミリセチン、Combi-Blocks製、3,3',4',5,5',7-Hexahydroxyflavone、購入先:富士フイルム和光純薬(株)、製品コードQA-0360
・SES:セサミン、Combi-Blocks製、(1S,3aR,4S,6aR)-1,4-bis(Benzo[d][1,3]dioxol-5-yl)tetrahydro-1H,3H-furo[3,4-c]furan、購入先:富士フイルム和光純薬(株)、製品コードQG-3906
・AST:アスタキサンチン、Combi-Blocks製、Beta-Carotene-4,4'-dione、購入先:富士フイルム和光純薬(株)、製品コードQA-1399
・β―SIT:β―シトステロール、MP Biomedicals, Inc.製、β-Sitosterol, practical grade、購入先:富士フイルム和光純薬(株)、製品コード102886
【0054】
・SE-SS:第一工業製薬(株)製「DKエステルSS」、構成脂肪酸が炭素数18のステアリン酸を主成分とするショ糖脂肪酸エステル。モノエステルの比率が99質量%、残部のジエステル及びトリエステルの比率が1質量%。HLB=19
【0055】
・HPC:日本曹達(株)製のヒドロキシプロピルセルロース「CELNY SSL」(粘度2.0~2.9mPa・s(20℃、2質量%水溶液)、重量平均分子量40000)
【0056】
[実施例1,2及び比較例1,2]
下記表1,2に示す配合(質量部)に従い、(A)難水溶性有機化合物としてのヘスペレチン(HPT)と、(B)ショ糖脂肪酸エステルと、(C)水溶性高分子としてのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)と、溶媒を合計40gになるように準備した。そのうち、ヘスペレチンとショ糖脂肪酸エステルと溶媒を50mLスクリュー管に仕込み、次いで、(1)該スクリュー管を75℃湯浴に4分間漬ける加温処理と、(2)該スクリュー管を小型超音波装置(ヤマト科学(株)製「BRANSON 2210」)の20~50℃の浴槽に漬ける4分間の超音波処理(上記装置で「SET SONICS min」を選択してON)とを行い、ヘスペレチンとショ糖脂肪酸エステルが全て溶解するまで上記(1)と(2)を繰り返した。
【0057】
得られた溶液を回転子で攪拌しながら、HPCを添加し、溶解するまで攪拌した。なお、溶解しない場合は、20~40℃で超音波処理することにより溶かした。次いで、エバポレーターで溶媒を留去した。エバポレーターによる処理は、75℃で160hPaまで減圧して、溶媒がほぼなくなるまで留去し、更に60~90hPaでその後10~50分間継続し、さらに3~20hPaで10~50分継続した。ナスフラスコの壁面に付着した固形物をスパチュラで削り取り、該固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、実施例1,2及び比較例2の固体組成物を得た。なお、比較例1では、ヘスペレチンの粉体をそのまま固体組成物とした。
【0058】
[実施例3,4及び比較例3,4]
ヘスペレチンをミリセチン(MIR)に変更した以外は、実施例1,2及び比較例2と同様にして、実施例3,4及び比較例4の固体組成物を得た。比較例3では、ミリセチンの粉体をそのまま固体組成物とした。
【0059】
[実施例5,6及び比較例5,6]
下記表1,2に示す配合(質量部)に従い、(A)難水溶性有機化合物としてのセサミン(SES)と、(B)ショ糖脂肪酸エステルと、(C)水溶性高分子としてのHPCと、溶媒を合計40gになるように準備した。そのうち、ショ糖脂肪酸エステルと溶媒を50mLスクリュー管に仕込み、回転子で攪拌しながら、HPCを添加し、溶解するまで攪拌した。次いで、セサミンを添加し、(1)該スクリュー管を75℃湯浴に4分間漬ける加温処理と、(2)該スクリュー管を小型超音波装置(ヤマト科学(株)製「BRANSON 2210」)の20~50℃の浴槽に漬ける4分間の超音波処理(上記装置で「SET SONICS min」を選択してON)とを行い、セサミンが全て溶解するまで上記(1)と(2)を繰り返した。
【0060】
次いで、エバポレーターで溶媒を留去した。エバポレーターによる処理は、75℃で減圧して、溶媒がほぼなくなるまで留去し、更に60~90hPaでその後10~50分間継続し、さらに3~20hPaで10~50分継続した。ナスフラスコの壁面に付着した固形物をスパチュラで削り取り、該固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、実施例5,6及び比較例6の固体組成物を得た。なお、比較例5では、セサミンの粉体をそのまま固体組成物とした。
【0061】
[実施例7及び比較例7,8]
アスタキサンチンが0.5質量%になるようにクロロホルムをメディウム瓶に仕込み、60℃の湯浴で4時間処理し、次いで常温で3晩熟成させ、更に60℃の湯浴で1時間処理することにより、アスタキサンチンの溶解と異性化を行って、アスタキサンチンのクロロホルム溶液を得た。
【0062】
上記アスタキサンチンのクロロホルム溶液40gを、55℃で溶媒がほとんどなくなるまで減圧留去した後、60~90hPaで30分間、さらに3~20hPaで30分間乾燥することにより固形物を得た。得られた固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、比較例7の固体組成物を得た。
【0063】
上記アスタキサンチンのクロロホルム溶液80gを回転子で攪拌しながら、HPC1.6gを添加し、溶解するまで攪拌することによりアスタキサンチンとHPCを含有するクロロホルム溶液を得た。得られた溶液を2等分し、一方を55℃で溶媒がほとんどなくなるまで減圧留去した後、60~90hPaで30分間、さらに3~20hPaで30分間乾燥することにより固形物を得た。得られた固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、比較例8の固体組成物を得た。
【0064】
もう1つのアスタキサンチンとHPCを含有するクロロホルム溶液にショ糖脂肪酸エステル0.8gを添加し、溶解するまで攪拌した。得られた溶液を、55℃で溶媒がほとんどなくなるまで減圧留去した後、60~90hPaで30分間、さらに3~20hPaで30分間乾燥することにより固形物を得た。得られた固形物をメノウ乳鉢で粉砕して、実施例7の固体組成物を得た。
【0065】
[実施例8,9及び比較例9,10]
ヘスペレチンをβ―シトステロール(β-SIT)に変更した以外は、実施例1,2及び比較例2と同様にして、実施例8,9及び比較例10の固体組成物を得た。比較例9では、β-シトステロールの粉体をそのまま固体組成物とした。
【0066】
得られた固体組成物について、非晶質化の評価として、X線回折(XRD)を行った。また、水に対する溶解性の評価として溶出試験1,2を行った。なお、これらの評価結果について、表1,2中の「-」は当該評価を実施していないことを示す。評価方法は次のとおりである。
【0067】
[非晶質化評価:XRD]
(株)リガク製「RINT UltimaIII 水平ゴニオメータ(D/teX-25)」を用いて、固体組成物のXRDチャートを得た。XRDの測定条件は、集中法、X線:Cu/40kV/40mA、走査範囲:3.0°~50.0°、走査軸:2θ/θとした。得られたXRDチャートから下記基準に従い、難水溶性有機化合物の非晶質化を評価した。
A:難水溶性有機化合物特有の結晶ピーク無し(非晶質状態)
B:難水溶性有機化合物特有の結晶ピーク有り(結晶質のものを含む)
【0068】
[溶出試験1:溶出量1]
(ヘスペレチンの場合)
溶出試験器として富山産業(株)製「NTR-6600AST」を用い、そのベッセルにイオン交換水900mLを仕込み、脱気のため、水温37℃±0.2℃で一晩、攪拌した。ヘスペレチン換算で8mgの固体組成物を充填したゼラチンカプセル((株)松屋製「HFカプセル」)をシンカーに収容し、ベッセルに投入した。所定時間後にベッセルから100μmフィルターを通してサンプリングを行い、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。所定時間としては60分、120分及び240分のそれぞれについて実施した。ろ液をエタノールで2倍希釈し、0.20μmメンブレンフィルターでろ過し、HPLCでヘスペレチンを定量した。各固体組成物について2点実施して平均をとり、小数第3位を四捨五入して溶出量を求めた。上記100μmフィルターとしては、富山産業社製「多孔質プレフィルターPoro Filter30」(フィルター材質:超高分子量ポリエチレン、目開き:100μm)を用いた。上記0.45μmメンブレンフィルターとしては、ADVANTEC社製「25HP045AN」(フィルター材質:親水性PTFE、目開き:0.45μm)を用いた。また、0.20μmメンブレンフィルターとしては、ADVANTEC社製「13HP020AN」(フィルター材質:親水性PTFE、目開き:0.20μm)を用いた。HPLC条件は、カラム:オクタデシルシリルカラム、移動相:アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム水溶液の混合液、波長:289nmとした。
【0069】
(ミリセチンの場合)
ゼラチンカプセルへの固体組成物の充填量をミリセチン換算で8mgとした。また、HPLC条件の移動相をメタノール/10mM酢酸アンモニウム水溶液の混合液とし、波長:371nmとした。その他は、ヘスペレチンの場合と同様にして、溶出量を求めた。
【0070】
[溶出試験2:溶出量2]
(アスタキサンチンの場合)
50mLスクリュー管にアスタキサンチン換算で0.4mgの固体組成物およびイオン交換水45mLを投入した。30分毎にスクリュー管を10回転倒混和しながら、25℃で120分間静置した後、0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。ろ液をエタノールで2倍希釈し、0.20μmメンブレンフィルターでろ過し、HPLCでアスタキサンチンの面積値を算出した。上記0.45μmメンブレンフィルターと0.20μmメンブレンフィルターは、ヘスペレチンと同じ物を使用した。HPLC条件は、カラム:オクタデシルシリルカラム、移動相:アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム水溶液の混合液、波長:470nmとした。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
ヘスペレチンの粉体をそのまま固体組成物とした比較例1では、図2に示されるようにXRDチャートにヘスペレチン特有のピークがあった。そのため、ヘスペレチンは結晶状態にあり、表2に示すように溶出試験1において水に対する溶解性に劣っていた。
【0074】
これに対し、実施例1では、ヘスペレチンをショ糖脂肪酸エステルSE-SSとともにHPCを用いて固体組成物を調製した。図1に示されるように、実施例1の固体組成物ではXRDチャートにヘスペレチン特有のピークがなく、ヘスペレチンは非晶質状態であった。そのため、実施例1では、非晶質のヘスペレチンを含む固体分散体が得られた。表1に示すように、実施例1では、溶出試験1において、比較例1に対して水に対する溶解性が改善されていた。実施例1に対してHPCを増量した実施例2では、実施例1と同様にヘスペレチンが非晶質化されており、水に対する溶解性については実施例1よりも更に顕著に改善されていた。
【0075】
比較例2では、ショ糖脂肪酸エステルSE-SSを用いることなく、HPCを用いて固体組成物を調製した。この場合、表2に示されるようにヘスペレチンは非晶質化されていたものの、水に対する溶解性は比較例1と同程度であり、実施例1,2に対して劣っていた。
【0076】
ミリセチンの粉体をそのまま固体組成物とした比較例3では、図4に示されるようにXRDチャートにミリセチン特有のピークがあった。そのため、ミリセチンは結晶状態にあり、表2に示すように溶出試験1において水に対する溶解性に劣っていた。これに対し、実施例3,4の固体組成物では、図3及び表1に示されるように、XRDチャートにミリセチン特有のピークがなく、ミリセチンは非晶質状態であり、非晶質のミリセチンを含む固体分散体が得られた。実施例3,4であると、また、溶出試験1において、比較例3に対して水に対する溶解性が改善されていた。一方、比較例4では、ミリセチンは非晶質化されていたものの、水に対する溶解性は比較例3と同程度であり、実施例3,4に対して劣っていた。
【0077】
セサミンの粉体をそのまま固体組成物とした比較例5では、図6に示されるようにXRDチャートにセサミン特有のピークがあった。これに対し、実施例5,6の固体組成物は、図5及び表1に示されるようにXRDチャートにセサミン特有のピークがなく、セサミンが非晶質状態であり、従って、非晶質のセサミンを含む固体分散体であった。一方、比較例6では、ショ糖脂肪酸エステルを用いることなく、HPCを用いて固体組成物を調製しており、この場合、表2に示されるようにセサミンは非晶質化不足であった。
【0078】
アスタキサンチンをクロロホルム中で熟成により異性化した粉体を固体組成物とした比較例7では、図8に示されるようにXRDチャートに異性化アスタキサンチン特有のピークがあった。そのため、異性化アスタキサンチンは結晶状態にあり、表2に示すように溶出試験2において水に対する溶解性に劣っていた。これに対し、実施例7の固体組成物は、図7に示されるようにXRDチャートに異性化アスタキサンチン特有のピークがなく、異性化アスタキサンチンが非晶質状態であり、従って、非晶質のアスタキサンチンを含む固体分散体であった。表1に示すように、実施例7では、溶出試験2において、比較例7に対して水に対する溶解性が改善されていた。一方、比較例8では、ショ糖脂肪酸エステルを用いることなく、HPCを用いて固体組成物を調製しており、この場合、表1に示されるように異性化アスタキサンチンは非晶質化されていたものの、水に対する溶解性は実施例7に対して劣っていた。
【0079】
β-シトステロールの粉体をそのまま固体組成物とした比較例9では、図10に示されるようにXRDチャートにβ-シトステロール特有のピークがあった。これに対し、実施例8,9の固体組成物は、図9及び表1に示されるようにXRDチャートにβ-シトステロール特有のピークがなく、β-シトステロールが非晶質状態であり、従って、非晶質のβ-シトステロールを含む固体分散体であった。一方、比較例10では、ショ糖脂肪酸エステルを用いることなく、HPCを用いて固体組成物を調製しており、この場合、表2に示されるようにβ-シトステロールは非晶質化不足であった。
【0080】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10