(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025148905
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】フレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物及びそれを用いて得られるフレキソ印刷原版
(51)【国際特許分類】
G03F 7/004 20060101AFI20251001BHJP
G03F 7/031 20060101ALI20251001BHJP
G03F 7/095 20060101ALI20251001BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20251001BHJP
B41N 1/00 20060101ALI20251001BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
G03F7/004 501
G03F7/031
G03F7/095
G03F7/00 502
B41N1/00
B41C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049247
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀弥
(72)【発明者】
【氏名】芳本 和也
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 翔太
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084BB04
2H084CC01
2H114AA01
2H114AA23
2H114DA04
2H114DA74
2H114GA01
2H196AA02
2H196BA06
2H196EA04
2H225AC15
2H225AC31
2H225AC33
2H225AD05
2H225AM36P
2H225AM49P
2H225AM92P
2H225CA02
2H225CB01
2H225CC29
(57)【要約】
【課題】酸素バリア層を設けなくても、特別な装置や追加工程なしに、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現でき、かつ独立点の再現性に優れたフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物、及びそれを用いたフレキソ印刷原版を提供する。
【解決手段】(A)共役ジエン系重合体、(B)光重合性不飽和化合物、(C)光重合開始剤、及び(D)酸素阻害抑制剤を含有する、フレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)共役ジエン系重合体、(B)光重合性不飽和化合物、(C)光重合開始剤、及び(D)酸素阻害抑制剤を含有する、フレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(D)酸素阻害抑制剤が、分子内に少なくとも2個以上のプレニル基を有する、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)酸素阻害抑制剤が、両末端に前記プレニル基を有し、前記プレニル基がエーテル結合で結合されている分子構造を有する化合物である、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)酸素阻害抑制剤が、分子内に水酸基を一個以上有する化合物である、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)酸素阻害抑制剤が、感光性樹脂組成物中に0.3~8質量%含有する、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)光重合開始剤が、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、及びアセトフェノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種以上であり、感光性樹脂組成物中に0.5~9質量%含有する、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(B)光重合性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物と、数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物とを含む、請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項8】
水現像性を有する請求項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を含有する感光性樹脂層を用い、少なくとも、支持体、前記感光性樹脂層、及び赤外線アブレーション層の順に積層されている、フレキソ印刷原版。
【請求項10】
請求項9に記載のフレキソ印刷原版から露光、現像して得られるフレキソ印刷版であって、ベタ部分にマイクロセルを有する、フレキソ印刷版の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物及びそれを用いて得られるフレキソ印刷原版に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、印刷版材の凸部にインキを乗せ、印刷版材を被印刷体へ押し当てることでインキを版材から被印刷体へ転写させる印刷方式である。フレキソ印刷に用いる印刷版材は比較的柔軟であり、種々の形状に追従可能であることから、幅広い被印刷体への印刷が可能である。被印刷体としては、包装フィルムやラベル紙、飲料用カートン、紙器、封筒、ダンボール等が挙げられ、なかでも表面の粗い被印刷体には専らフレキソ印刷が用いられている。また、フレキソ印刷は、VOC排出量が少ない水性やアルコール性インキを用いることができ、環境適応性が高い印刷方式である。これらの被印刷体適応性や環境適応性といった利点により、グラビア印刷やオフセット印刷からフレキソ印刷への移行が進んでいる。
【0003】
一方、フレキソ印刷は、被印刷体がフィルムの場合の印刷においてグラビア印刷に比べてベタ部分のインキ乗りが劣る課題がある。フレキソ印刷のベタ部分のインキ乗りを向上させる一つの方法として、印刷版と被印刷物の物理的な押し圧を増加させる方法がある。しかしながら、微小網点部分が押し圧により変形し、微小網点の印刷性が損なわれる場合がある。
【0004】
フレキソ印刷におけるベタ部分のインキ乗りを向上させる他の方法として、印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルを設ける方法がある。マイクロセルとは印刷版のベタ部分の表面に形成された特定の微小凹凸パターンを意味する。表面にマイクロセルを設けることにより印刷版と被印刷体を押し当てた際にインクに適度な移動性を持たせることができ、ベタ部分のインク分布の均一性を高めることができる。
【0005】
フレキソ印刷用の印刷版を得るための前駆体的材料となるフレキソ印刷原版は、通常、支持体上に感光性樹脂層、赤外線アブレーション層が積層された構造を有する。感光性樹脂層を形成する感光性樹脂組成物は、一般に、エラストマーなどの高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤を必須成分として含有し、必要に応じて、安定剤、可塑剤等の添加剤が配合されている。
【0006】
しかしながら、フレキソ印刷原版の感光性樹脂層は酸素による重合阻害を受ける場合がある。その場合、露光時に感光性樹脂層中の架橋反応が十分に進まず、現像工程で感光性樹脂層表面が洗いだされてしまい、マイクロセルパターンをフレキソ印刷版の表面に忠実に再現することができなくなるという問題点があった。
【0007】
上述の問題に対して酸素重合阻害を抑制させ、マイクロセルパターンを忠実に再現するために、フレキソ印刷原版の感光性樹脂層と赤外線アブレーション層の間に酸素重合阻害を抑制するための酸素バリア層を設ける方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開公報WO2021/039263号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本印刷学会誌 第43巻4号(2006)、第261頁-第271頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のフレキソ印刷原版では、マイクロセルパターンの再現性が良好で、ベタ部分のインク乗りに優れるが、酸素バリア層を設ける必要があった。最近では、低温低湿で酸素バリア層に皺が入ることがあり、酸素バリア層を設けないフレキソ印刷原版が求められるようになってきている。酸素バリア層を設けない場合に、光重合開始剤を多量に用いると、酸素阻害はある程度抑制されるが、独立点再現性が得られないという点で問題があった。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、酸素バリア層を設けなくても、特別な装置や追加工程なしに、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現でき、かつ独立点の再現性に優れたフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物、及びそれを用いたフレキソ印刷原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
項1.(A)共役ジエン系重合体、(B)光重合性不飽和化合物、(C)光重合開始剤、及び(D)酸素阻害抑制剤を含有する、フレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項2.前記(D)酸素阻害抑制剤が、分子内に少なくとも二個以上のプレニル基を有する、項1に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項3.前記(D)酸素阻害抑制剤が、両末端に前記プレニル基を有し、前記プレニル基がエーテル結合で結合されている分子構造を有する化合物である、項1又は項2に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項4.前記(D)酸素阻害抑制剤が、分子内に水酸基を一個以上有する化合物である、項1~3のいずれか一項に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項5.前記(D)酸素阻害抑制剤が、感光性樹脂組成物中に0.3~8質量%含有する、項1~4のいずれか一項に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項6.前記(C)光重合開始剤が、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、及びアセトフェノン類からなる群より選ばれる少なくとも一種以上であり、感光性樹脂組成物中に0.5~9質量%含有する、項1~5のいずれか一項に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項7.前記(B)光重合性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物と、数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物とを含む、項1~6のいずれか一項に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項8.水現像性を有する項1~7のいずれか一項に記載のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物。
項9.項1~8のいずれか一項に記載の感光性樹脂組成物からなる感光性樹脂層を用い、少なくとも、支持体、前記感光性樹脂層、及び赤外線アブレーション層の順に積層されている、フレキソ印刷原版。
項10.項9に記載のフレキソ印刷原版から露光、現像して得られるフレキソ印刷版であって、ベタ部分にマイクロセルを有する、フレキソ印刷版の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、酸素バリア層を設けなくても、特別な装置や追加工程なしに、酸素重合阻害を抑制できるため、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができる。そのため、被印刷体のベタ部分のインキ乗りが良好であり、かつ独立点の再現性に優れたフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物、及びそれを用いたフレキソ印刷原版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳述する。
【0015】
<感光性樹脂組成物>
本実施形態にかかるフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物は、フレキソ印刷用の印刷版を得るための前駆体的材料となるフレキソ印刷原版における感光性樹脂層を形成するための組成物である。
【0016】
本発明のフレキソ印刷原版用感光性樹脂組成物は、(A)共役ジエン系重合体、(B)光重合性不飽和化合物、(C)光重合開始剤、及び(D)酸素阻害抑制剤を含有する。
【0017】
<(A)共役ジエン系重合体>
本発明は、(A)共役ジエン系重合体を含有する。(A)共役ジエン系重合体は、共役ジエンを重合して得られる。具体的には、共役ジエン系炭化水素を重合して得られる重合体、または共役ジエン系炭化水素とモノオレフィン系不飽和化合物とを共重合して得られる共重合体が挙げられる。例えば、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。これら重合体は、カルボキシル基、スルホン酸基、またはポリアルキレングリコールなどの親水性基を共重合させてもよい。(A)成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
フレキソ印刷版としての特性、すなわち版面の反発弾性、強伸度物性、印刷版硬度、及びフレキソ印刷原版としての特性、すなわち未露光時の形態安定性、及び水現像性等の観点から、(A)共役ジエン系重合体はラテックスであることが好ましい。具体的には、ブタジエンラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス、スチレン-ブタジエンラテックス、イソプレンラテックスからなる群から選ばれる1種類以上のラテックスを含有することが好ましく、ブタジエンラテックス及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックスの両方を含有することが水現像性の観点からさらに好ましい。
【0019】
(A)共役ジエン系重合体は、分子内架橋しているものが好ましい。また、所望により(メタ)アクリルやカルボキシ、シリコーン、フッ素などで変性されていてもよい。
【0020】
上記重合体は、水現像性や本発明の効果がより優れる理由から、(A)共役ジエン系重合体は、水分散ラテックスが好ましい。また、(A)共役ジエン系重合体は、水分散ラテックスから水を除去することで得られる重合体であることが好ましい。水分散ラテックスを用いる場合は、そのまま水分散ラテックスとして添加しても良いし、乾燥して水分を除去した後に固形樹脂として添加しても良い。なお、水分散ラテックスは、多数の様々な合成ラテックス及び天然ラテックスが市販されているので、そこから適当なものを選択すればよい。以下、「フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができる、及び/又は、独立点の再現性に優れる」ことを「本発明の効果等がより優れる」とも言う。
【0021】
本発明の感光性樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、10~80質量%が好ましく、さらには20~75質量%が好ましい。(A)成分の配合量が上記範囲内では、本発明の効果がより優れ、さらにフレキソ印刷版としての強度と、現像性のバランスが良好となり得る。
【0022】
<(B)光重合性不飽和化合物>
本発明は、(B)光重合性不飽和化合物を含有する。(B)光重合性不飽和化合物は、通常、1個以上の光重合性不飽和基を有する。本発明において、光重合性不飽和基とは、光によりラジカル重合することが可能な不飽和基を意味する。
【0023】
光重合性不飽和基は、(メタ)アクリロイル基、及び(メタ)アクリロイルオキシ基、からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0024】
(B)光重合性不飽和化合物としては、フレキソ印刷原版に使用される従来公知のものを使用することができるが、数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物を含むことが好ましい。
【0025】
数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物としては、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、ノナン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-ブチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ECH変性アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の単官能モノマーが挙げられる。また、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシ-1,3-アダマンチルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の多官能化合物等も挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、目的とするフレキソ印刷版の物性を良好にするために2種以上併用してもよい。
【0026】
数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物は、本発明の効果を奏する観点から、光重合性不飽和基を1個、2個、3個又は4個有することが好ましく、より好ましくは、光重合性不飽和基を2個、3個又は4個有することが好ましく、より好ましくは、光重合性不飽和基を2個又は3個有することが好ましく、より一層好ましくは、光重合性不飽和基を3個有することが好ましい。
【0027】
(B)光重合性不飽和化合物としては、数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物に加えて数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物を含むことが好ましい。ここで、数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物は、光重合開始剤により架橋、硬化して密な架橋ネットワークを形成するものであり、数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物は、光重合開始剤により架橋、硬化してゆるやかな架橋ネットワークを形成するものである。これらを組み合わせることにより、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により優れることが可能である。
【0028】
数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物は、例えば、共役ジエン系重合体の末端及び/又は側鎖に光重合性不飽和基が結合した重合体や、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。共役ジエン系重合体としては、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリル酸メチル-ブタジエン共重合体、アクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリル酸メチル-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-クロロプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。これらのうち、ゴム弾性と光硬化性の点で、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体が好ましく、特に好ましくはブタジエン重合体、イソプレン重合体である。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、目的とするフレキソ印刷版の物性を良好にするために2種以上併用してもよい。
【0029】
数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物は、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により一層優れる観点から、数平均分子量1000以上15000以下が好ましく、1500以上10000以下がより好ましく、2000以上6000以下がより一層好ましい。
【0030】
数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和基含有化合物は、本発明の効果を奏する観点から、光重合性不飽和基を1個、2個、3個又は4個有することが好ましく、より好ましくは、光重合性不飽和基を1個、2個又は3個有することが好ましく、より一層好ましくは、光重合性不飽和基を2個又は3個有することが好ましく、さらに好ましくは、光重合性不飽和基を2個有することが好ましい。また、光重合性不飽和基を末端に有することが好ましく、両末端に有することがより好ましい。
【0031】
本発明の感光性樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、5~50質量%が好ましく、より好ましくは、8~35質量%であり、15~30質量%がさらに好ましい。含有量が上記範囲内ではフレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により一層優れる観点と、印刷版の強靱性、及び印刷版としての硬度のバランスが良好となり得る。
【0032】
本発明の感光性樹脂組成物中の平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物の含有量は、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により一層優れる観点から、2~20質量%が好ましく、5~16質量%がより好ましく、7~13質量%がより一層好ましい。
【0033】
本発明の感光性樹脂組成物中の数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、3~30質量%が好ましく、10~25質量%がより好ましく、15~23質量%がより一層好ましい。
【0034】
本発明の感光性樹脂組成物において、数平均分子量600超20000以下の光重合性不飽和化合物に対する数平均分子量100以上600以下の光重合性不飽和化合物の含有量の比率は、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により一層優れる観点から、質量比で、2.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましく、0.7以下であることがさらに好ましい。上記比率の下限は特に限定されないが、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。
【0035】
(B)光重合性不飽和化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)での数平均分子量の測定は、例えば、次の条件の下で行うことができる。
GPC装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKGelSuperHM-H ×2+TSKGelSuperH2000(東ソー株式会社製)
移動相:クロロホルム
流量:0.6ml/min
濃度:0.1%
カラム温度:40℃
検出器:RI、UV254nm
換算:ポリスチレン
【0036】
<(C)光重合開始剤>
本発明は、(C)光重合開始剤を含有する。(C)光重合開始剤は、光によって重合性の炭素-炭素不飽和基を重合させることができるものであれば、特に制限されない。なかでも、光吸収によって、自己分解や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく用いられる。このような光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン、2-アリルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトンなどが挙げられる。光重合開始剤は、露光、及び殺菌灯による露光の光エネルギーを無駄なく利用する観点、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンをより一層忠実に再現することができ、かつ独立点の再現性により一層優れる観点から、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、及びアセトフェノン類からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましく、中でも、ベンジルアルキルケタール系やベンゾフェノン系の光重合開始剤を使用することがより好ましく、これら2種類を併用しても良い。
【0037】
一実施形態における感光性樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、本発明の効果等がより優れる理由から、好ましくは0.5~9質量%であり、3~7質量%がより好ましい。また、含有量が上記範囲内では、感光性樹脂組成物の表層から深部まで効率良く硬化反応が進行するため、独立点の再現性がより一層優れる。
【0038】
<(D)酸素阻害抑制剤>
本発明は、(D)酸素阻害抑制剤を含有する。(D)酸素阻害抑制剤を含むことにより、本発明の感光性樹脂組成物の露光時に、酸素重合阻害を抑制する性能が高く、酸素バリア層を設けなくても、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができ、独立点の再現性に優れる。
【0039】
(D)酸素阻害抑制剤は、一分子内に少なくとも二個以上のプレニル基を有することが好ましい。プレニル基としては、例えば、ジメチルアリル基、ゲラニル基、ファルネシル基、ゲラニルゲラニル基、ゲラニルファルネシル基、ヘキサプレニル基などが挙げられる。プレニル基としては、ジメチルアリル基、ゲラニル基を有することが好ましく、より好ましくは、ジメチルアリル基を有することが好ましい。
【0040】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、本発明の効果をより奏する観点から、分子内に少なくとも2個以上のプレニル基を有することが好ましい。分子内にプレニル基を2個、3個、4個、5個、6個、7個、又は8個有することがより好ましく、より一層好ましくは、プレニル基を2個、3個、4個、5個、又は6個有することが好ましく、さらに好ましくは、プレニル基を2個、3個、又は4個有することが好ましく、さらに一層好ましくは、プレニル基を2個、又は3個有することが好ましい。特に好ましくは、プレニル基を2個有することが好ましい。
【0041】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、本発明の効果等をより奏する観点から、化合物の両末端にプレニル基を有することが好ましい。
【0042】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、本発明の効果等をより奏する観点から、両末端にプレニル基を有し、プレニル基がエーテル結合で結合されている分子構造を有する化合物であることが好ましい。
【0043】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、本発明の効果等がより優れる理由から、分子内に少なくとも2個以上のプレニル基を有し、分子内に水酸基を1個以上有する化合物であることが好ましい。
【0044】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、本発明の効果等をより奏する観点から、両末端にプレニル基を有し、プレニル基がエーテル結合で結合されている分子構造を有し、分子内に水酸基を有する化合物であることが好ましい。
【0045】
一実施形態における(D)酸素阻害抑制剤は、下記式1:
R1-O-X-O-R2 式1
(式1中、R1、R2はそれぞれ独立に、プレニル基を表す。Xは、水酸基、(メタ)アクリロイル基、スチリルオキシ基、又はアルケニルオキシ基を有していてもよい炭素数1~15の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。)
で表される化合物であることが好ましい。
【0046】
上記式1において、Xは、好ましくは、水酸基、(メタ)アクリロイル基、スチリルオキシ基、又はアルケニルオキシ基を有していてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。
【0047】
上記式1において、Xは、より好ましくは、水酸基、(メタ)アクリロイル基、スチリルオキシ基、又はアルケニルオキシ基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。
【0048】
上記式1において、Xは、より一層好ましくは、水酸基、又は(メタ)アクリロイル基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。
【0049】
このような化合物としては、例えば、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン、又は1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンなどが挙げられる。
【0050】
上記式1において、Xは、さらに好ましくは、水酸基を有する炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖状のアルキレン基を示す。このような化合物は、例えば、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパンが挙げられる。
【0051】
本発明の感光性樹脂組成物中の(D)成分の含有量は、0.3~8質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~3質量%がより一層好ましい。含有量が上記範囲内であると、(D)成分が感光層表面にブリードアウトしにくく、好ましい。
【0052】
<その他の成分>
本発明の感光性樹脂組成物は、上記の(A)~(D)成分に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲において、種々の特性向上を目的として、可塑剤、紫外線吸収剤、熱重合禁止剤(安定剤)、親水性化合物、表面張力調整剤、熱可塑性樹脂エラストマー、固形ゴム、染料、顔料、消泡剤、凝集防止剤などの他の成分を適宜含有することができる。
【0053】
可塑剤は、感光性樹脂層に柔軟性を付与するものであり、液状であるものが好ましい。可塑剤としては、液状ゴム、オイル、ポリエステル、リン酸系化合物などを挙げることができる。液状ゴムとしては、例えば共役ジエン系構造を有する液状の化合物、あるいは、これらに水酸基やカルボキシル基、スルホン酸基を付与したものなどを挙げることができる。オイルとしては、パラフィン、ナフテン、アロマなどを挙げることができる。ポリエステルとしては、アジピン酸系ポリエステルなどを挙げることができる。リン酸系化合物としては、リン酸エステルなどを挙げることができる。この中でも、(A)共役ジエン系重合体との相溶性の観点より液状のポリブタジエン、水酸基やカルボキシル基を付与した液状ポリブタジエンが好ましい。カルボキシル基の場合、金属塩であっても良い。本発明の感光性樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、最大40質量%が好ましい。
【0054】
紫外線吸収剤は、感光性樹脂層の露光時間の許容幅を広げるものである。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダートアミン系、アントラキノン系、アゾ系、クマリン系、フラン系の化合物が挙げられる。この中でも、露光ラチチュードの観点よりベンゾトリアゾール系が好ましい。本発明の感光性樹脂組成物中の紫外線吸収剤の配合量は、最大0.1質量%である。具体的なベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-tert-ブチル-6-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3、-テトラメチルブチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(3,5-ジ-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-ベンゾトリアゾール-2-イル-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-[5-クロロ(2H)-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-メチル-6-(tert-ブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール等が挙げられる。
【0055】
熱重合禁止剤(安定剤)は、感光性樹脂組成物製造時の熱安定性や貯蔵安定性を高めるものであり、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類が挙げられる。例えば、ハイドロキノン、ベンゾキノンやナフトキノン等のキノン類、アルキルおよびアリール置換ハイドロキノン、p-メトキシフェノール、p-ブチルピロカテコール、ピロガロール、β-ナフトール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等のt-ブチルクレゾール類、フェノチアジン、ピリジン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼンやニトロソナフトール等のニトロ化合物、ヒドロキシルアミン誘導体等が挙げられる。具体的なヒドロキシルアミン誘導体としては、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩などのクペロン誘導体や、Nベンゾイルフェニルヒドロキシルアミンやベンゾヒドロキサム酸、3-ヒドロキシル-1,3-ジフェニルトリアジンなどのクペロン類似化合物の他、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン、N-(t-ブチル)ヒドロキシルアミン塩酸塩が挙げられる。本発明の感光性樹脂組成物中の熱重合禁止剤(安定剤)の含有量は、最大5質量%が好ましい。
【0056】
親水性化合物は水現像性を向上させるものであり、親水性化合物は、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、水酸基、アミノ基、リン酸基、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどの親水基を分子内に有する化合物であり、それ自体が水溶性であるか、水分散性である。親水性化合物としては、低分子化合物、オリゴマーや高分子化合物であっても良い。具体的な親水性化合物としては、多価アルコール、多価カルボン酸、多価カルボン酸のエステル化合物、アクリル重合体、ポリアルキレングリコール変性重合体、ウレタン重合体、ポリアミド重合体、ポリエステル重合体などが挙げられる。また、界面活性剤も使用することができる。
【0057】
表面張力調整剤は、フレキソ印刷版の表面張力を調整するものであり、フレキソ印刷版の表面張力を調整することで、インク転移性やフレキソ印刷版へのインク詰まりを調整することができる。表面張力調整剤としては、パラフィンオイル、長鎖アルキル化合物、界面活性剤、脂肪酸アミド、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フッ素化合物、変性フッ素化合物などが挙げられるが、その中でもアミノ基や芳香族環を有する変性シリコーンオイルが好ましい。表面張力調整剤は分子内に光重合性基を含有していてもよい。
【0058】
<フレキソ印刷原版>
一実施形態におけるフレキソ印刷原版は、本発明の感光性樹脂組成物を含有する感光性樹脂層を用い、少なくとも、支持体、感光性樹脂層、及び赤外線アブレーション層の順に積層されている構造を有することが好ましい。本発明の感光性樹脂組成物から感光性樹脂層を作製する方法としては、溶融成形法の他、例えば、熱プレス、注型、或いは、溶融押出し、溶液キャストなど公知の任意の方法が挙げられる。成形した感光性樹脂層は、支持体上に積層される。感光性樹脂層は接着層を介して支持体上に積層されてもよい。支持体としては、スチール、アルミニウム、ガラス、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムなど従来公知のものが使用でき、一般には50~500μmの範囲の厚みのフィルムが使用される。感光性樹脂層の支持体とは反対の面側には、赤外線アブレーション層を設けたカバーフィルムを積層することで、フレキソ印刷原版を作製することができる。カバーフィルムには50~200μmのポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムが一般に使用される。なお、赤外線アブレーション層と感光性樹脂層の間に酸素バリア層を設けることも可能である。
【0059】
酸素バリア層としては公知の酸素バリア層と組み合わせることが可能である。本発明のフレキソ印刷原版は、酸素バリア層を設けてもよいし、設けなくてもよい。本発明の感光性樹脂組成物は、酸素バリア層を設けなくても、特別な装置や追加工程なしに、フレキソ印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができる。マイクロセルの深度を確保する観点からは、酸素バリア層を設けない方が好ましい。酸素バリア層を設ける場合、酸素バリア層中のバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー、ポリアミドが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。酸素バリア性の点で好ましいバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、ポリアミドである。部分鹸化酢酸ビニルとしては鹸化率が60~98モル%の部分鹸化酢酸ビニルが挙げられる。ポリアミドとしては分子内に塩基性窒素原子を含有するポリアミド樹脂や分子内にアルキレングリコール構造単位を含有するポリアミド樹脂等が挙げられるが、分子内に塩基性窒素原子を含有するポリアミド樹脂と分子内にアルキレングリコール構造単位を含有するポリアミド樹脂とを含有する酸素バリア層(特許第7243076号)が好ましい。
【0060】
<フレキソ印刷版>
一実施形態におけるフレキソ印刷版は、フレキソ印刷原版から露光、現像して得られ、ベタ部分にマイクロセルを有する。
【0061】
一実施形態におけるフレキソ印刷原版からフレキソ印刷版を製造する方法としては、例えば、感光性樹脂層に対し、支持体側から裏露光を行い、次いで最上層のカバーフィルムを剥離して感光性樹脂層上に赤外線アブレーション層を残し、イメージング装置により赤外線アブレーション層に画像を描画したのち、その上方から活性光線を全面照射して露光が行なわれる。これにより露光部のみが硬化し、不溶化する。活性光線は、通常300~450nmの波長を中心とする高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、ケミカルランプ、LEDなどの光源を用いることができる。次いで、適当な溶剤、または界面活性剤を添加した水により非露光部分は除去され、後露光され、さらに殺菌灯により露光されることによって、鮮明な画像部を有するフレキソ印刷版を得る。現像装置としては、スプレー式現像装置、ブラシ式現像装置などを用いることが好ましい。
【0062】
フレキソ印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルを形成する方法としては、フレキソ印刷原版の赤外線アブレーション層のベタ部分にマイクロセルパターンをイメージングした後、露光・現像工程を経てフレキソ印刷版に再現させる方式が広く用いられている。典型的な例として、ESKO-Graphic社製のマイクロセルスクリーニングがある(非特許文献1参照)。マイクロセルスクリーニングには、長方形のセルを導入するMCタイプ、斜線状のセルを導入するGROOVYタイプ、特殊形状のセルを導入するシングルピクセルスクリーンなどがある。
【0063】
フレキソ印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルを形成する方法は、例えば、CDI(エスコ・グラフィックス社)に搭載されている各種マイクロセルパターンの中から好適なマイクロセルパターンを選定した後、コンピュータ上で画像にマイクロセルパターンを適用させ、その画像を用いて、イメージング装置により赤外線アブレーション層に描画させ、マイクロセルを形成することができる。
【0064】
フレキソ印刷原版に使用される赤外線アブレ―ション層は、公知の赤外線アブレーション層と組み合わせることができる。赤外線アブレ―ション層は、水現像性であることが好ましい。具体的な赤外線アブレーション層としては、極性基含有ポリアミドとブチラール樹脂とを組合せた赤外線アブレーション層(特許第4200510号)、分子内に塩基性窒素原子を含有するポリアミド樹脂と分子内にアルキレングリコール構造単位を含有するポリアミド樹脂とを含有する赤外線アブレーション層(特許第6414375号)、感光性樹脂層中のポリマーと同じ構造を持つポリマーとアクリル樹脂とを含有する赤外線アブレーション層(特許第5710961号)、酸価10~400mgKOH/gの酸性基を有する重合体を含有する赤外線アブレーション層(特許第6810251号)、アニオン性ポリマーと側鎖にエステル結合を有するケン化度が0%以上90%以下のポリマーとを含有する赤外線アブレーション層などが挙げられる。
【実施例0065】
本発明の感光性樹脂組成物を用いたフレキソ印刷原版の効果を以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、表中の組成割合を示す数値は、溶媒を揮発させた後の固形成分の質量部を意味する。
【0066】
実施例中の評価は以下の方法で行なった。
(1)フレキソ印刷版上でのマイクロセルの均一性(MC均一性)
後述するフレキソ印刷原版から作製したフレキソ印刷版のベタ部分の表面をキーエンス社製デジタル顕微鏡(VHX5000)で500倍に拡大して以下基準で判定した。判定は、WSI(エスコグラフィック(株)製)のマイクロセルパターンで、マイクロセルの頂部直径が15μmの箇所で行った。
◎:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが忠実に且つ鮮明に再現されている。
○:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが再現されている。
△:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが部分的にしか再現していない。
×:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが再現されていない。
【0067】
(2)フレキソ印刷版上でのマイクロセルの深度(MC深度)
上述と同様のフレキソ印刷版のマイクロセル頂部から凹部の深度をキーエンス社製レーザー顕微鏡(VK-X3000)を用いて、レンズ倍率50倍で深度(μm)を測定した。測定は、WSI(エスコグラフィック(株)製)のマイクロセルパターンで、マイクロセルの頂部直径が15μmの箇所で行った。
【0068】
(3)ベタ部分のインク乗り
後述するフレキソ印刷原版から作製したフレキソ印刷版について、フレキソ印刷機FPR302(エム・シーケー社製)と、900LPIのアニロックスロールとを用いて、被印刷体に印刷し、被印刷体のベタ部分のインク乗りを評価した。インクは、UVインク(商品名:FLEXOCURE CYAN(Flint社製))を用いて行った。被印刷体にはポリプロピレンフィルム(商品名:P4256 東洋紡製)を用いた。印刷速度は50m/分で行った。印刷での押し込み量は、フレキソ印刷版が被印刷体に接触した箇所をゼロとし、そこから90μm押し込んだ箇所とした。
マイクロセルパターンを適用したベタ部分の印刷物のインク隠ぺい率(インク均一性)をキーエンス社製デジタル顕微鏡(VHX5000)で測定して%で表わした。隠ぺい率が高いほど、インクが均一に乗っており、インク乗りに優れることを意味する。ベタ部分のインク乗りの評価基準を以下に示した。
◎:隠ぺい率が97%以上、100%以下
○:隠ぺい率が94%以上、97%未満
△:隠ぺい率が90%以上、94%未満
×:隠ぺい率が90%未満
【0069】
(4)独立点の再現性
後述する後述するフレキソ印刷原版から作製したフレキソ印刷版、フレキソ印刷版上での最小独立点の再現性を測定した。50μm刻みで、最小50μm、最大300μmの独立点を評価した。このうち、再現できた最小独立点が100μm以下であれば○、再現できた最小独立点が100μmより大きく200μm以下であれば△、再現できた最小独立点が200μmより上であれば×で判定した。再現する最小独立点が小さいほど、独立点の再現性に優れることを意味する。
【0070】
(実施例1)
感光性樹脂組成物の作製
(A)共役ジエン系重合体としてのブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、不揮発分55%、日本ゼオン(株)製)を固形分が55質量部になるように容器中に投入し、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、不揮発分42%、日本ゼオン(株)製)を固形分が10質量部になるように容器中に投入し、続いて、(B)光重合性不飽和化合物としての両末端にアクリロイルオキシ基を有するオリゴブタジエンアクリレート(BAC-45、大阪有機化学(株)製、数平均分子量:4100)20質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート(ライトエステルTMP、分子量:338、共栄社化学(株)製)10質量部、(C)光重合開始剤(イルガキュア651:ベンジルジメチルケタール)1質量部、(D)酸素阻害抑制剤(DPNG:1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン、クラレ(株)製)1質量部、可塑剤として、ブタジエンオリゴマー(LBR-352、(株)クラレ製)8質量部を容器中に投入して混合し、ドープを作製した。ドープを加圧ニーダーに投入して、80℃でテトラヒドロフランと水を減圧除去し、感光性樹脂組成物を得た。
【0071】
赤外線アブレーション層を有するフィルム積層体(I)の作製
カーボンブラック分散液(オリエント化学工業(株)製、AMBK-8)、共重合ポリアミド(PA223、東洋紡エムシー(株)製)、プロピレングリコール、メタノールを45/5/5/45の質量割合で混合し、赤外線アブレーション層塗工液を得た。ポリエステルフィルム(東洋紡(株)、E5000、厚さ100μm)の両面に離型処理を施した後、乾燥後の塗膜の厚みが2μmとなるようにバーコーターで赤外線アブレーション層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(I)を得た。光学濃度(OD値)は2.3であった。光学濃度は白黒透過濃度計DM-520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。
【0072】
フレキソ印刷原版の作製
次に、ポリエステルフィルム(東洋紡(株)、E5000、厚さ100μm)上に共重合ポリエステル系接着剤を25μmとなるように塗工した支持体の接着剤面側に、上記感光性樹脂組成物を配置した。この感光性樹脂層側と、上記で作製したフィルム積層体(I)の赤外線アブレーション層側が接するように重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PET支持体、接着層、感光性樹脂層、赤外線アブレーション層およびカバーフィルムがこの順で積層したフレキソ印刷原版を得た。版の総厚は1.14mmであった。
【0073】
フレキソ印刷原版からのフレキソ印刷版の作製
印刷原版のPET支持体側から裏露光を10秒行った。続いて、カバーフィルムを剥離した。この版を、エスコグラフィック社製 CDI4530に巻き付け、解像度4000dpiで赤外線アブレーション層に描画を行った。画像には、マイクロセルパターンを持たないベタ部分と、WSI(エスコグラフィック(株)製)のマイクロセルパターンを適用させたベタ部分を有し、最小50μm、最大300μmの独立点を50μm刻みで有するテストチャートを用いた。主露光はCDI4530に内蔵されているLEDで照度22mW/cm2で480秒行った。その後、版をCDIより取り外し、A&V(株)製現像機(Stuck System、現像液:1%洗濯石鹸水溶液、40℃)で8分現像し、版面の水滴を水きり棒で除去した。その後、60℃の乾燥機で10分乾燥した。続いて、後露光を7分間行い、最後に殺菌灯を5分間照射し、フレキソ印刷版を得た。裏露光、後露光はPhilips社のTL-K 40W/10Rランプ(ピーク波長370nm、350nmの照度が10mW/cm2)を、殺菌灯はパナソニック社製 殺菌ランプ GL-40(ピーク波長250nm、250nmの照度が4.5mW/cm2)を用いて行った。得られたフレキソ印刷版のレリーフ深度は0.6mmであった。
【0074】
(実施例2~3、5~11)、(比較例2、3、4)
感光性樹脂層を構成する感光性樹脂組成物中の各成分の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版を作製した。
【0075】
(実施例4)
感光性樹脂層を構成する感光性樹脂組成物中の各成分の組成を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版を作製した。なお、使用した(D)酸素阻害抑制剤(1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン)の合成例を下記に示す。
(D)酸素阻害抑制剤(1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパン)の合成方法
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応容器に、空気気流下、アセトニトリル16.1g(0.392mol)、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-ヒドロキシプロパン11.43g(0.050mol)、トリエチルアミン8.41g(0.083mol)を仕込んだ。内温を15℃以下に保持し、撹拌しながらメタクリル酸クロリド6.30g(0.060mol,重合禁止剤としてp-メトキシフェノール2200ppmを含有)を滴下した。滴下終了後、25℃に昇温し、撹拌しながら内温25℃で1.5時間反応を行った後、反応液にイオン交換水7.07g、p-ジメチルアミノピリジン61mgを加え、25℃で2時間反応を行った。副生物の無水メタクリル酸が分解したことで終点を確認後、酢酸エチルで三回抽出処理を行った。有機層を2質量%塩酸水溶液、3質量%炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。得られた有機層を蒸留により精製し、1,3-ビス(3-メチル-2-ブテノキシ)-2-メタクリロイルオキシプロパンを得た。
【0076】
(比較例1、5)
感光性樹脂組成物の作製
感光性樹脂層を構成する感光性樹脂組成物中の各成分の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物を得た。
酸素バリア層を有するフィルム積層体(II)の作製
鹸化度80%のポリ酢酸ビニル(KH20、三菱ケミカル(株)製)と可塑剤(グリセリン)を、70/30の質量割合で混合し、酸素バリア層塗工液を得た。実施例1と同様の方法で得られたフィルム積層体(I)上に、乾燥後の塗膜の厚みが2.0μmとなるようにバーコーターで酸素バリア層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(II)を得た。
【0077】
フレキソ印刷原版の作製
ポリエステルフィルム(東洋紡(株)、E5000、厚さ100μm)上に共重合ポリエステル系接着剤を25μmとなるように塗工した支持体の接着剤面側に、作製した感光性樹脂組成物を配置した。この感光性樹脂層側と、上記で作製したフィルム積層体(II)の酸素バリア層側が接するように重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、ポリエステル支持体、接着層、感光性樹脂層、酸素バリア層、赤外線アブレーション層およびカバーフィルムがこの順で積層したフレキソ印刷原版を得た以外は、実施例1と同様にして感光性樹脂組成物、フレキソ印刷原版、フレキソ印刷版を作製した。版の総厚は1.14mmであった。
【0078】
【0079】
表1の評価結果からわかるように、実施例1~11では、酸素バリア層を用いない場合においても、フレキソ印刷版上でのマイクロセルの均一性、深度が良好であり、マイクロセルパターンの再現性が良好な結果が得られ、ベタ部分のインク乗りも良好であった。また、独立点の再現性も良好な結果が得られた。本発明の要件を満たす実施例1~11はいずれも、十分なベタ部分のインク乗りと独立点の再現性が得られることが示された。
【0080】
これに対して、酸素阻害抑制剤を含有しない比較例1では、酸素バリア層を設けた場合においても光重合開始剤の配合量が少なく、フレキソ印刷版上でのマイクロセルパターンの再現性及びベタ部分のインク乗りに劣った。比較例2では、酸素バリア層を設けず、酸素阻害抑制剤を含有しないため、フレキソ印刷版上でのマイクロセルパターンの再現性及びベタ部分のインク乗り、独立点の再現性のすべての項目において大きく劣った比較例3では、比較例2と比べて、光重合開始剤を増量したが、酸素阻害抑制剤を含有しないため、マイクロセルパターンの再現性及びベタ部分のインク乗りに劣った。比較例4では、バリア層を用いていない場合において、光重合開始剤を多量に用いることで酸素阻害は抑制され、マイクロセルパターンの再現性は得られるが、ベタ部分のフレキソ印刷版硬度が高くなりすぎたためか、ベタ部分のインキ乗りに劣り、独立点の再現性が劣った。比較例5では、バリア層を設けた場合、酸素阻害抑制剤を含有しなくても、光重合開始剤を一定量量に用いることで、マイクロセルパターンの再現性が得られるがバリア層を設ける必要があった。