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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149022
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】駆動回路及び電気音響変換システム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20251001BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049448
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐司
(72)【発明者】
【氏名】小松 基
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA47
(57)【要約】
【課題】消費電力を抑制することが可能な駆動回路を提供する。
【解決手段】駆動回路10は、入力信号を増幅し、増幅した信号を出力信号として出力する増幅器12と、前記出力信号を、前記入力信号の電圧波形に基づき電圧値が変更されるプルアップ電圧VBSTにプルアップし、プルアップされた前記出力信号を駆動信号として、圧電素子21により駆動されるMEMSスピーカー20の前記圧電素子に供給するプルアップ回路と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅し、増幅した信号を出力信号として出力する増幅器と、
前記出力信号を、前記入力信号の電圧波形に基づき電圧値が変更されるプルアップ電圧にプルアップし、プルアップされた前記出力信号を駆動信号として、圧電素子により駆動されるMEMSスピーカーの前記圧電素子に供給するプルアップ回路と、
を備える駆動回路。
【請求項2】
前記出力信号の電圧が第1電圧のときの前記プルアップ電圧は、前記出力信号の電圧が前記第1電圧より高い第2電圧のときの前記プルアップ電圧より低い請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記出力信号の電圧が第1電圧のときの前記プルアップ電圧は、前記出力信号の電圧波形における最大電圧以下かつ前記第1電圧以上である請求項2に記載の駆動回路。
【請求項4】
前記入力信号の電圧波形に基づき前記増幅器の電源電圧が設定され、
前記プルアップ電圧は、前記電源電圧である請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動回路。
【請求項5】
前記増幅器は、G級アンプまたはH級アンプである請求項4に記載の駆動回路。
【請求項6】
前記駆動信号のうち可聴域の周波数成分を通過させ、かつ可聴域より高い周波数成分を抑圧するローパスフィルタを備える請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動回路。
【請求項7】
前記圧電素子は、圧電体と、前記圧電体に電圧を印加する第1電極及び第2電極と、を備え、
前記駆動信号は、前記第1電極に対し前記第2電極が正の電圧となるように前記圧電素子に供給される請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動回路。
【請求項8】
前記圧電体は、前記第1電極に対し前記第2電極の方が正に自発分極されている請求項7に記載の駆動回路。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動回路と、
前記MEMSスピーカーと、
を備える電気音響変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動回路及び電気音響変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換器として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いたスピーカーが知られている。MEMSの駆動部として圧電素子を用いることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7157332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電素子の圧電体に直流電圧を印加することで、圧電体が分極する。圧電体に印加された直流電圧を印加した後も圧電体は分極状態を維持する。このため、圧電体の圧電特性を高く維持することができる。圧電体に分極とは逆方向の電圧が加わると、分極が消失した状態となる、いわゆる脱分極が生じる。圧電体の脱分極を抑制するために、圧電素子には正の駆動信号を供給する。しかし、圧電素子に正の駆動信号を供給しようとすると、駆動回路の消費電力が大きくなる。
【0005】
本開示は、消費電力を抑制することが可能な駆動回路及び電気音響変換システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態によれば、駆動回路は、入力信号を増幅し、増幅した信号を出力信号として出力する増幅器と、前記出力信号を、前記入力信号の電圧波形に基づき電圧値が変更されるプルアップ電圧にプルアップし、プルアップされた前記出力信号を駆動信号として、圧電素子により駆動されるMEMSスピーカーの前記圧電素子に供給するプルアップ回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、消費電力を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る電気音響変換システムのブロック図である。
図2図2は、第1実施形態におけるMEMSスピーカーの平面図である。
図3図3は、第1実施形態に係る駆動回路のブロック図である。
図4図4は、第1比較例に係る駆動回路のブロック図である。
図5図5(a)及び図5(b)は、A級またはB級アンプ及びH級アンプの動作を説明する時間に対する電圧を示す図である。
図6図6(a)及び図6(b)は、第1比較例における時間に対する電圧を示す図である。
図7図7は、第2比較例に係る駆動回路のブロック図である。
図8図8(a)から図8(e)は、第1比較例における時間に対する電圧を示す図である。
図9図9(a)及び図9(b)は、第1実施形態における時間に対する電圧を示す図である。
図10図10は、第2実施形態に係る駆動回路のブロックである。
図11図11は、第2実施形態に係る電気音響変換システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について詳細に説明する。下記の実施形態は、発明の技術思想を具体化するための例示であり、本発明を記載された構成や数値に限定するものではない。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する場合がある。各図面が示す各部材の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために誇張して描かれている場合がある。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る電気音響変換システムのブロック図である。第1実施形態に係る電気音響変換システム100は、デジタルアナログ変換器(DAC:Digital Analog Convertor)30、駆動回路10及びMEMSスピーカー20を備えている。電気音響変換システム100には、デジタル音声信号生成部28から音声デジタル信号が入力する。
【0011】
DAC30は、入力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する。駆動回路10は、アナログ信号を増幅し、増幅された駆動信号をMEMSスピーカー20に出力する。駆動回路10は、例えば、オーディオアンプまたはピエゾドライバーである。
【0012】
MEMSスピーカー20は、MEMSを用いた電気音響変換器であり、イヤホンまたは設置型のスピーカーである。MEMSスピーカー20は、MEMSスピーカー20を駆動する圧電素子21を備えている。圧電素子21は、圧電体22と、圧電体22に電圧を印加する電極23(第1電極)及び24(第2電極)を備えている。圧電体22は、電極23に対し電極24の方向が正となるように自発分極(矢印29)されている。電極23に対し電極24に正の電圧となるように圧電素子21に駆動信号に供給される。
【0013】
(MEMSスピーカーの説明)
図2は、第1実施形態におけるMEMSスピーカーの平面図である。図2に示すように、MEMSスピーカーは、圧電体22、可動部25、トーションバー26、固定枠27、電極23a及び24aを備えている。固定枠27は剛体の枠体である。固定枠27の平面形状は矩形、多角形、円形または楕円形など適宜設定できる。固定枠27内に可動部25が設けられている。可動部25の平面形状は矩形、多角形、円形または楕円形など適宜設定できる。可動部25には複数のトーションバー26が設けられている。トーションバー26と固定枠27とは圧電体22により接続されている。
【0014】
固定枠27には、電極23a及び24aが設けられている。電極23a及び24aは、固定枠27に設けられた配線を介し、圧電体22に接触する電極23及び24(図1参照)に電気的に接続されている。電極23aと24aとの間に電圧が印加されると、電極23と24との間に電圧が印加される。これにより、逆ピエゾ効果により、圧電体22が歪み、可動部25が駆動する。電極23と24との間の電圧値により、可動部25の駆動量が異なる。電極23と24との間に信号S3またはS3aが加わることにより、可動部25が駆動してMEMSスピーカー20から音が出力される。可動部25、トーションバー26及び固定枠27は、例えばシリコン基板から形成されている。
【0015】
MEMSスピーカー20は、半導体プロセスにより製造されるため、性能のばらつきが小さく、小型、薄型、軽量及び低消費電力である。また、周波数特性が中高域まで平坦である。MEMSスピーカー20では、半導体プロセスより作製された後に、圧電素子21の圧電体に直流電圧を印加することで、圧電体22を自発分極させる。圧電体22に印加された直流電圧を印加した後も圧電体22は分極状態を維持する。このため、圧電体22の圧電特性を高く維持することができる。しかし、圧電体22に自発分極とは逆方向の電圧が加わると、自発分極が消失した状態となる。これを脱分極という。
【0016】
このような特性は、圧電体22としてペロブスカイト結晶構造を有する圧電体を用いたときに、特に大きい。ペロブスカイト結晶構造を有する圧電体としては、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PNZT(チタン酸ジルコン酸ニオブ酸鉛)、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、PLT(チタン酸ランタン鉛)、PMN(マグネシウム酸ニオブ酸鉛)、PMNN(マンガン酸ニオブ酸鉛)またはBaTiO(チタン酸バリウム)である。
【0017】
図2のMEMSスピーカー20の構造は、一例であり、MEMSスピーカー20は、圧電素子21を有しており、圧電素子21が可動部25を駆動させる構造であればよい。
【0018】
(駆動回路)
図3は、第1実施形態に係る駆動回路のブロック図である。図3に示すように、駆動回路10は、増幅器12及びプルアップ回路13を備えている。増幅器12は、H級アンプである。増幅器12は、前段アンプ14、H級段16及び昇圧器18を備えている。前段アンプ14及びH級段16は、差動入力、差動出力増幅器である。昇圧器18は、H級段16に電源電圧として電圧VBSTを供給する。
【0019】
前段アンプ14は、入力信号である差動信号S1+及びS1-を差動増幅し、増幅した信号を差動信号S2+及びS2-として出力する。H級段16は、電圧VBSTを電源電圧として差動信号S2+及びS2-を差動増幅し、増幅した信号を差動信号S3+及びS3-として出力する。
【0020】
プルアップ回路13は、キャパシタC1、C2、抵抗R1及びR2を備えている。増幅器12の正出力端子は、キャパシタC1を介し圧電素子21の電極24に電気的に接続される。増幅器12の負出力端子は、キャパシタC2を介し電極23に電気的に接続される。キャパシタC1と電極24との間のノードN1は抵抗R1を介して電圧VBSTに電気的に接続されている。キャパシタC2と電極23との間のノードN2は抵抗R2を介して接地されている。キャパシタC1及び2は、交流信号のカップリングコンデンサである。抵抗R1及び抵抗R2の抵抗値は、圧電素子21のインピーダンスに比べ十分に低く、かつ信号S3+及びS3-が電源及びグランドに漏れない程度の大きさである。ノードN1は、電圧VBSTにプルアップされ、ノードN2は、グランド電位にプルダウンされる。ノードN1及びN2の信号S4+及びS4-はそれぞれ電極24及び23に供給される。このように、プルアップ回路13は、増幅器12が出力した出力信号(S3+)-(S3-)を、電圧VBSTにプルアップし、プルアップされた信号(S4+)-(S4-)を駆動信号として圧電素子21に供給する。
【0021】
(第1比較例)
図4は、第1比較例に係る駆動回路のブロック図である。第1比較例では、プルアップ用の抵抗R1及びプルダウン用の抵抗R2が設けられていない。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0022】
図5(a)及び図5(b)は、A級またはB級アンプ及びH級アンプの動作を説明する時間に対する電圧を示す図である。図5(a)は、最終段がA級またはB級アンプの出力信号V3の波形と最終段の電源電圧を示す。図5(a)に示すように、A級またはB級アンプでは、最終段は電源電圧としてVDDを用いて増幅する。信号S3の波形は0VとVDDの間となる。
【0023】
図5(b)は、H級アンプのH級段16におけるの出力信号V3の波形と電源電圧を示す。図4及び図5(b)に示すように、H級アンプでは、H級段16は電源電圧として、昇圧器18が出力する電圧VBSTを用いて増幅する。昇圧器18は、信号S1、S2またはS3の波形に基づいて、電圧VBSTを生成する。例えば、昇圧器18は、過去の波形から信号S3の波形を予想して、電圧VBSTを生成する。その結果、信号S3の電圧が高いときには、電圧VBSTは高くなり、信号S3の電圧が低いときには電圧VBSTは低くなる。
【0024】
例えば、信号S3の電圧として電圧V1(第1電圧)と電圧V1より高い電圧V2(第2電圧)を仮定する。このとき、電圧V1のときのプルアップ電圧VBST1は、電圧V2のときのプルアップ電圧VBST2より低い。このように、プルアップ電圧VBSTを信号S3の電圧に基づき変更できる。上記では、電圧V1とV2を仮定しているが、任意の異なる2つの時間における信号S3の電圧とプルアップ電圧VBSTについて、上記の関係となっていればよい。また、図5(b)では、プルアップ電圧VBSTとして3段階の電圧を設定しているが、プルアップ電圧VBSTは4段階以上の電圧に設定されていてもよい。
【0025】
また、電圧V1のときのプルアップ電圧VBST1は、信号S3の電圧波形における最大電圧VM未満かつ電圧V1以上である。電圧V2のときのプルアップ電圧VBST2は、信号S3の電圧波形における最大電圧VM未満かつ電圧V2以上である。これにより、消費電力を抑制できる。
【0026】
図6(a)及び図6(b)は、第1比較例における時間に対する電圧を示す図である。H級段16の出力信号S3+及びS3-は、0Vを中心とする信号である。このため、図6(a)に示すように、信号S4+及び4-は、0Vを中心とする信号である。図6(b)に示すように、圧電素子21の電極23に対し電極24に加わる電圧(S4+)-(S4-)は、0Vを中心となる信号となる。このため、圧電素子21の圧電体22が脱分極する可能性がある。脱分極に至らない場合でも、圧電体22の分極状態に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
(第2比較例)
図7は、第2比較例に係る駆動回路のブロック図である。第2比較例では、H級段16の出力信号S3+及びS3-の最大値の電圧VMAXを準備する。ノードN1は抵抗R1を介して電圧VMAXにプルアップされ、ノードN2は抵抗R2を介し0Vにプルダウンされる。
【0028】
図8(a)から図8(d)は、第2比較例における時間に対する電圧を示す図である。表1は、信号S2+が最小、中点及び最大の時における信号S4+、S4-及び(S4+)-(S4-)を示す表である。
【0029】
【表1】
【0030】
図8(a)に示すように、信号S4+は、電圧VMAXによりプルアップされ、信号S4+は、電圧VMAXを中心とする信号となる。信号S4-は、0Vによりプルダウンされ、信号S4-は、電圧0Vを中心とする信号となる。表1のように、信号S4+は、信号S2+が最小、中点及び最大のとき、それぞれVMAX-VMAX/2、VMAX及びVMAX+VMAX/2となる。信号S4-は、信号S2+が最小、中点及び最大のとき、それぞれ-VMAX/2、0V、VMAX/2となる。
【0031】
図8(b)に示すように、圧電素子21に供給される信号(S4+)-(S4-)は、電圧VMAXを中心とする。表1のように、信号(S4+)-(S4-)は、信号S2+が最小、中点及び最大のとき、それぞれ0V、VMAX及び2VMAXとなる。このように、圧電素子21の電極23に対し電極24の電圧は負とならない。これにより、圧電体22の脱分極または悪影響を抑制できる。
【0032】
図8(c)に示すように、信号S4+及びS4-の振幅が小さい場合にも、信号S4+は電圧VMAXを中心とする信号となる。信号S4-は0Vを中心とする信号となる。
【0033】
図8(d)に示すように、圧電素子21に供給される信号(S4+)-(S4-)は、電圧VMAXを中心とする信号となる。このため、圧電素子21には、電圧VMAX程度の電圧が定常的に印加され、電流が流れる。これにより、消費電力が大きくなってしまう。また、電圧VMAXを供給する電圧生成回路を設けることになり、駆動回路10が大型化する。
【0034】
(第1実施形態)
図9(a)及び図9(b)は、第1実施形態における時間に対する電圧を示す図である。表2は、信号S2+が最小、中点及び最大の時における信号S4+、S4-及び(S4+)-(S4-)を示す表である。
【0035】
【表2】
【0036】
信号S4+及びS4-の振幅が最大値の時には、電圧VBSTは電圧VMAXであり、第1比較例の図8(a)と同じである。
【0037】
図9(a)のように、電圧VBSTは、信号S4+及びS4-の波形に応じて変化する。これにより、信号S2+及びS2-の振幅が小さい場合には、信号S4+は電圧VMAXより低い電圧となる。電圧VBSTは、いずれの時間においても信号S4+の電圧以上である。よって、表2のように、信号S4+は、信号S2+が最小、中点及び最大のとき、それぞれVBST-VBST/2、VBST及びVBST+VBST/2となる。信号S4-は、信号S2+が最小、中点及び最大のとき、それぞれ-VBST/2、0V及びVBST/2となる。
【0038】
図9(b)のように、信号(S4+)-(S4-)は、正の電圧であり、かつ信号(S4+)-(S4-)の電圧は電圧VMAXより低くなる。このため、圧電素子21には、電圧VMAXより低い電圧が印加される。これにより、第2比較例より消費電力を小さくできる。また、H級段16に用いる電圧VBSTを用いるため電圧VBSTを供給する電圧生成回路を設けなくてもよい。よって、駆動回路10を小型化できる。
【0039】
第1実施形態によれば、プルアップ回路13は、信号S3+を、入力信号S2+の電圧に基づき電圧値が変更されるプルアップ電圧VBSTにプルアップし、プルアップされた駆動信号S4+を圧電素子21に供給する。これにより、電圧VBSTを第2比較例の電圧VMAXより低くできるため、圧電素子21を流れる電流を抑制でき、消費電力を抑制できる。
【0040】
昇圧器18は、現在の信号S2+の電圧に基づき電圧VBSTを生成してもよいし、過去の信号S2+の電圧に基づき電圧VBSTを生成してもよい。昇圧器18は、信号S2+の包絡線に基づき電圧VBSTを生成してもよい。
【0041】
プルアップ電圧VBSTがH級段16の電源電圧である。これにより、プルアップ電圧VBSTを生成する生成回路を設けなくてもよいため、駆動回路10を小型化できる。このようなアンプとして、G級またはH級アンプが知られている。
【0042】
プルアップ回路13において、ノードN1の電圧のプルアップには抵抗R1を用いなくてもよく、ノードN2の電圧のプルダウンは抵抗R2を用いなくてもよい。ノードN1をVDDにプルアップし、ノードN2を0Vより高い電圧にプルダウンしてもよい。この場合にも、信号S3を(S3+)-(S3-)とし、信号S4を(S4+)-(S4-)とすれば、信号S3をプルアップ電圧にプルアップし、プルアップされた駆動信号S4を圧電素子21に供給することになる。増幅器12は、差動出力でなく、グランドに対し信号S3を出力し、電極23を接地してもよい。
【0043】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係る駆動回路のブロックである。図10に示すように、駆動回路10はローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)32を備えている。LPF32は、プルアップ回路13が出力した信号S4+及びS4-のうち高周波成分を抑圧し、低周波成分を通過させる。LPF32を通過した信号は、MEMSスピーカー20の圧電素子21に供給される。LPF32は、アナログフィルタである。その他の構成は第1実施形態と同じであり説明を省略する。
【0044】
圧電素子21は、容量成分が大きいため、周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなる。このため、圧電素子21に供給される信号に高周波成分が含まれると、消費電力が大きくなる。
【0045】
また、16kHz以上の高周波音は、人にはほとんど聞こえないが、強度の高周波音は、聴覚に悪影響を及ぼす。一例として、国際非電離放射線委員会(INIRC:International Non-Ionizing Radiation Committee)は、16kHz~20kHzの周波数を有する音波の周波数職業暴露に伴う音圧を70dB以下に、20kHz~100kHzの周波数を有する超音波の音圧の制限値を100dB以下に定めている。MEMSスピーカー20の音波の出力は高周波域まで平坦である。このため、MEMSスピーカー20に16kHz以上の信号が入力されると、MEMSスピーカー20は、16kHz以上の音波または超音波を出力してしまう。これにより、人の聴覚に悪影響が及ぶ可能性がある。
【0046】
そこで、第2実施形態では、LPF32は、信号S4+及びS4-の可聴域の周波数成分を通過させ、かつ可聴域より高い周波数成分を抑圧する。これにより、人の可聴域を超える超音波の周波数成分を有する信号S5+及びS5-がMEMSスピーカー20に入力することを抑制できる。よって、MEMSスピーカー20の消費電力を抑制できる。可聴域の周波数は20Hz以上かつ20kHz以下である。超音波の周波数成分は、20kHz以上である。
【0047】
LPF32の遮断周波数は、10kHz以上かつ20kHz以下であることが好ましい。これにより、人にはほとんど聞こえない高周波音の周波数成分を有する信号S5+及びS5-がMEMSスピーカー20に入力することを抑制できる。よって、MEMSスピーカー20の消費電力を抑制できる。また、人の聴覚に悪影響を及ぼす可能性のある音波の音圧を抑制することができる。
【0048】
図11は、第2実施形態に係る電気音響変換システムのブロック図である。LPF32aはデジタル音声信号生成部28が出力する信号を濾過し、濾過した信号をDAC30に出力する。LPF32aは、LPF32aはデジタルフィルタである。LPF32aは、デジタル音声信号生成部28内に設けられていてもよい。これにより、デジタル音声信号生成部28以降にLPFを設けなくてもよいため、部品数を削減できる。
【0049】
LPF32bはDAC30が出力する信号を濾過し、濾過した信号を増幅器12に出力する。LPF32cは増幅器12が出力する信号を濾過し、濾過した信号をMEMSスピーカー20に出力する。増幅器12の後段にLPF32cを設けることで、増幅器12に起因するノイズ由来の高周波成分を除去できる。
【0050】
駆動回路10は、LPF32aから32cのうち少なくとも1つを備えていればよい。駆動回路10がLPF32aを有する場合には、DAC30は、駆動回路10に含まれていてもよい。
【0051】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10:駆動回路
12:増幅器
13:プルアップ回路
14:前段アンプ
16:H級段
18:昇圧器
20:MEMSスピーカー
21:圧電素子
22:圧電体
23、24:電極
30:DAC
32、32a、32b、32c:ローパスフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11