(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149087
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】ジョセフソン素子、量子ビット、及びジョセフソン素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 60/12 20230101AFI20251001BHJP
H10N 60/01 20230101ALI20251001BHJP
【FI】
H10N60/12 A ZAA
H10N60/01 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049527
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AA02
4M113AA03
4M113AA05
4M113AA13
4M113AA17
4M113AA25
4M113AA26
4M113BB02
4M113BB03
4M113BB07
4M113BC02
4M113CA03
4M113CA04
(57)【要約】
【課題】特性のばらつきを抑えることが可能なジョセフソン素子の製造方法を提供する。
【解決手段】ジョセフソン素子100の製造方法は、スパッタリング法を用いてチタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜20とアルミニウムを含む第2導電膜22とを成膜して、第1導電膜20と第1導電膜20の上面に設けられた第2導電膜22とを含む下部電極14を形成する工程と、下部電極14上に絶縁膜16を形成する工程と、絶縁膜16を介して下部電極14に重なる領域を有するように超伝導材料を含む上部電極18を形成する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法を用いてチタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜とアルミニウムを含む第2導電膜とを成膜して、前記第1導電膜と前記第1導電膜の上面に設けられた前記第2導電膜とを含む下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有するように超伝導材料を含む上部電極を形成する工程と、を備える、ジョセフソン素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1導電膜は(111)配向を有する窒化チタン膜である、請求項1に記載のジョセフソン素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1導電膜と前記第2導電膜は真空中で連続して成膜される、請求項1または2に記載のジョセフソン素子の製造方法。
【請求項4】
前記下部電極を形成する工程は、前記第1導電膜を成膜する前にスパッタリング法を用いて(002)配向を有するチタン膜である第3導電膜を成膜して、前記第3導電膜と前記第3導電膜の上面に設けられた前記第1導電膜と前記第1導電膜の上面に設けられた前記第2導電膜とを含む前記下部電極を形成する、請求項2に記載のジョセフソン素子の製造方法。
【請求項5】
チタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜と、前記第1導電膜の上面に設けられ、(111)配向を有するアルミニウムを含む第2導電膜と、を含む下部電極と、
前記下部電極上に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有して設けられ、超伝導材料を含む上部電極と、を備えるジョセフソン素子。
【請求項6】
前記第1導電膜は(111)配向を有する窒化チタン膜である、請求項5に記載のジョセフソン素子。
【請求項7】
前記下部電極は(002)配向を有するチタン膜である第3導電膜を含み、
前記第1導電膜は前記第3導電膜の上面に設けられる、請求項6に記載のジョセフソン素子。
【請求項8】
前記第2導電膜はアルミニウムに他の元素が添加されたアルミニウム合金膜を含む、請求項5または6に記載のジョセフソン素子。
【請求項9】
前記第2導電膜は、アルミニウムに他の元素が添加されたアルミニウム合金膜と、前記アルミニウム合金膜と前記絶縁膜との間に設けられたアルミニウム膜と、を含む、請求項5または6に記載のジョセフソン素子。
【請求項10】
ジョセフソン素子を備えた量子ビットであって、
前記ジョセフソン素子は、
チタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜と、前記第1導電膜の上面に設けられ、(111)配向を有するアルミニウムを含む第2導電膜と、を含む下部電極と、
前記下部電極上に設けられた絶縁膜と、
前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有して設けられ、超伝導材料を含む上部電極と、を備える、量子ビット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジョセフソン素子、量子ビット、及びジョセフソン素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン素子を用いた超伝導量子ビットの開発が進められている。ジョセフソン素子は、超伝導材料を各々含む下部電極及び上部電極の間に絶縁膜が挟まれた構造を有する。下部電極及び上部電極はアルミニウム及び/又は窒化チタンにより形成されることが知られている(例えば特許文献1-5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-518112号公報
【特許文献2】特表2023-518348号公報
【特許文献3】米国特許第9515247号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2022/0416392号明細書
【特許文献5】米国特許第10256392号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現状の超伝導量子ビットは特性のばらつきが大きい。これは、ジョセフソン素子の特性のばらつきが大きいためと考えられる。
【0005】
1つの側面では、ジョセフソン素子の特性のばらつきを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、スパッタリング法を用いてチタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜とアルミニウムを含む第2導電膜とを成膜して、前記第1導電膜と前記第1導電膜の上面に設けられた前記第2導電膜とを含む下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有するように超伝導材料を含む上部電極を形成する工程と、を備える、ジョセフソン素子の製造方法である。
【0007】
1つの態様では、チタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜と、前記第1導電膜の上面に設けられ、(111)配向を有するアルミニウムを含む第2導電膜と、を含む下部電極と、前記下部電極上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有して設けられ、超伝導材料を含む上部電極と、を備えるジョセフソン素子である。
【0008】
1つの態様では、ジョセフソン素子を備えた量子ビットであって、前記ジョセフソン素子は、チタン膜及び窒化チタン膜の少なくとも一方を含む第1導電膜と、前記第1導電膜の上面に設けられ、(111)配向を有するアルミニウムを含む第2導電膜と、を含む下部電極と、前記下部電極上に設けられた絶縁膜と、前記絶縁膜を介して前記下部電極に重なる領域を有して設けられ、超伝導材料を含む上部電極と、を備える、量子ビットである。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面として、ジョセフソン素子の特性のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係るジョセフソン素子の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、アルミニウムの結晶粒子が大きい場合の平面模式図及び断面模式図、
図5(c)及び
図5(d)は、アルミニウムの結晶粒子が小さい場合の平面模式図及び断面模式図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、実施例1の変形例1及び変形例2に係るジョセフソン素子の断面図である。
【
図7】
図7は、実施例2に係るジョセフソン素子の断面図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、実施例2に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)及び
図9(b)は、実施例3及び実施例3の変形例に係るジョセフソン素子の断面図である。
【
図10】
図10は、実施例4に係るジョセフソン素子の断面図である。
【
図11】
図11(a)から
図11(d)は、実施例4に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図12】
図12(a)から
図12(d)は、実施例4に係るジョセフソン素子の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図13】
図13は、実施例5に係る量子ビットの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0012】
図1(a)は、実施例1に係るジョセフソン素子100の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)では、基板10上に設けられた下部電極14と上部電極18を図示し、その他については図示を省略している。基板10の上面に平行でかつ互いに直交する方向をX軸方向及びY軸方向とする。基板10の上面に垂直な方向をZ軸方向とする。
図1(a)及び
図1(b)のように、実施例1に係るジョセフソン素子100は、基板10上に絶縁膜12が設けられている。絶縁膜12の厚さは例えば50nm~200nmである。基板10は例えばシリコン(Si)基板である。絶縁膜12は例えば酸化シリコン(SiO
2)膜である。なお、基板10及び絶縁膜12はその他の材料により形成される場合でもよい。
【0013】
絶縁膜12上に下部電極14が設けられている。下部電極14は、第1導電膜20と、第1導電膜20の上面に接して設けられた第2導電膜22と、を含む。第1導電膜20はチタン(Ti)膜及び窒化チタン(TiN)膜の少なくとも一方を含む。実施例1では、第1導電膜20はTi膜又はTiN膜である場合を例に示すが、Ti膜とその上に積層されたTiN膜との積層膜の場合でもよい。第2導電膜22は(111)配向が支配的な結晶状態を有するアルミニウム(Al)膜である。本願において、Al膜はAl純度が99.0%以上の純Al膜のことを指す。第1導電膜20の厚さは例えば50nm~100nmである。第2導電膜22の厚さは例えば100nm~300nmである。第2導電膜22は例えば第1導電膜20よりも厚い。
【0014】
第1導電膜20がTi膜である場合、(002)配向が支配的な結晶状態を有するTi膜である場合が好ましい。第1導電膜20がTiN膜である場合、(111)配向が支配的な結晶状態を有するTiN膜である場合が好ましい。第1導電膜20及び第2導電膜22における配向が支配的とは、配向度が80%以上の場合であり、90%以上の場合でもよい。各膜の配向性は、例えばX線回折により測定することや、各膜の平面を電子顕微鏡で測定すること等により得ることができる。
【0015】
下部電極14上に絶縁膜16が設けられている。絶縁膜16は例えば酸化アルミニウム(Al2O3)膜である。絶縁膜16の厚さは例えば10nm~30nmである。絶縁膜16上に上部電極18が設けられている。絶縁膜16と上部電極18は平面視においてほぼ同じ大きさ及びほぼ同じ形状をしている。すなわち、絶縁膜16全体に上部電極18の全体が重なっていて、絶縁膜16と上部電極18は共に平面視において長方形状をしている。上部電極18は例えばアルミニウム(Al)膜である。上部電極18の厚さは例えば50nm~200nmである。絶縁膜16を挟んで下部電極14と上部電極18とが重なる領域がジョセフソン接合部19となる。
【0016】
下部電極14、絶縁膜16、及び上部電極18を覆って絶縁膜30が設けられている。絶縁膜30は例えば酸化シリコン(SiO2)膜である。絶縁膜30の厚さは例えば400nm~600nmである。絶縁膜30を貫通して下部電極14及び上部電極18に接続した配線32が設けられている。配線32は、例えばアルミニウム(Al)膜又はアルミニウム(Al)合金膜等の導電膜である。配線32を覆って絶縁膜30上に保護膜34が設けられている。保護膜34は例えば酸化シリコン(SiO2)膜等の絶縁膜である。保護膜34の厚さは例えば400nm~600nmである。
【0017】
[製造方法]
図2(a)から
図4(c)は、実施例1に係るジョセフソン素子100の製造方法を示す断面図である。
図2(a)のように、基板10上にスパッタリング法又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて絶縁膜12を成膜する。絶縁膜12上にスパッタリング法を用いて第1導電膜20及び第2導電膜22を順に成膜する。第1導電膜20と第2導電膜22は、真空を破ることなく、真空中で連続して成膜することが好ましい。例えば、第1導電膜20と第2導電膜22は、同一チャンバーで真空を破ることなく成膜してもよいし、相互に真空で接続された別チャンバーそれぞれで真空を破ることなくそれぞれを成膜してもよい。また、第2導電膜22を成膜する前に第1導電膜20に対して逆スパッタ処理を行ってもよい。第1導電膜20はTi膜又はTiN膜である。第2導電膜22はAl膜である。
【0018】
第1導電膜20としてTi膜をスパッタリング法で成膜する場合、Tiターゲットとアルゴン(Ar)ガスを用い、例えばRFパワー:7.0kW、ガス圧:1×10-2Pa、基板温度:523Kの条件で成膜する。基板温度を573K以下と低くした条件でのスパッタリングによってTi膜を成膜することで、(002)配向が支配的な結晶状態を有するTi膜が形成される(例えば「スパッタ条件がシリコン基板上のチタン薄膜の微細組織に及ぼす影響」、佐々木元 他4名、日本金属学会誌、2003年、第67巻、第12号、pp703~pp707を参照)。以下においてこの文献を資料1と称す場合がある。
【0019】
第1導電膜20としてTiN膜をスパッタリング法で成膜する場合、TiターゲットとArガスと窒素(N2)ガスを用い、例えばRFパワー:300W、到達圧力:1×10-4Pa、N2分圧:2~6×10-3Pa、Ar分圧:0.4Paの条件で成膜する(例えば「高周波反応性スパッタリング法による窒化物薄膜作製プロセスにおよぼすターゲット金属の影響」、井上尚三 他2名、精密工学会誌、2003年、Vol.69、No.7、pp976-980を参照)。N2分圧を2×10-3Pa以上とすることで、(111)配向が支配的な結晶状態を有するTiN膜が形成される(例えば「反応性スパッタ蒸着による窒化チタン膜特性の窒素ガス分圧依存性」、西村生哉 他2名、表面技術、1992年、Vol.43、No.6、pp584-588を参照)。
【0020】
第2導電膜22は、一般的な条件でのスパッタリングによってAl膜を成膜する。例えば、AlターゲットとArガスを用い、RFパワー:10W~80W、ガス圧:0.4Paの条件でのスパッタリングによってAl膜を成膜する。第2導電膜22は、Ti膜又はTiN膜である第1導電膜20の上面に形成されるため、(111)配向が支配的な結晶状態を有するAl膜が形成される。特に、Ti膜が(002)配向を有する場合、及び、TiN膜が(111)配向を有する場合に、(111)配向を有するAl膜が形成され易い(例えば上記の資料1を参照)。(002)配向を有するTi膜上又は(111)配向を有するTiN膜上にAl膜を成膜することで、(111)配向を有するAl膜が形成され易いのは、Tiの(002)面とTiNの(111)面の面間隔はAlの(111)面の面間隔に近いためと考えられる。
【0021】
図2(b)のように、第2導電膜22上に例えばALD(Atomic Layer Deposition)法を用いて中間絶縁膜50を成膜する。中間絶縁膜50は例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜である。中間絶縁膜50の厚さは例えば10nm~30nmである。中間絶縁膜50はALD法の代わりに陽極酸化を用いて形成してもよい。ALD法を用いて中間絶縁膜50を成膜することで、中間絶縁膜50の膜厚を良好に制御できる。
【0022】
図2(c)のように、中間絶縁膜50上に例えばスパッタリング法又は蒸着法を用いて超伝導膜52を成膜する。超伝導膜52は例えばアルミニウム(Al)膜である。超伝導膜52の厚さは例えば50nm~200nmである。
【0023】
図2(d)のように、超伝導膜52上に上部電極18を形成する領域を覆うレジストマスク層54を形成する。
【0024】
図3(a)のように、レジストマスク層54をマスクとして例えば塩素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより超伝導膜52をエッチングする。これにより、超伝導膜52からなる上部電極18が形成される。
【0025】
図3(b)のように、レジストマスク層54をマスクとして例えばイオンミリング法により中間絶縁膜50をエッチングする。これにより、上部電極18の下に重なって、平面視において上部電極18とほぼ同じ大きさかつほぼ同じ形状をした絶縁膜16が形成される。
【0026】
図3(c)のように、レジストマスク層54を除去した後、下部電極14を形成する領域を覆うレジストマスク層56を形成する。
【0027】
図3(d)のように、レジストマスク層56をマスクとして例えば塩素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより第2導電膜22と第1導電膜20をエッチングする。これにより、第1導電膜20と第2導電膜22の積層膜である下部電極14が形成される。絶縁膜16を挟んで下部電極14と上部電極18が重なる領域がジョセフソン接合部19となる。
【0028】
図4(a)のように、基板10上に下部電極14と絶縁膜16と上部電極18とを覆う絶縁膜30を成膜する。絶縁膜30は例えばCVD法を用いて成膜する。その後、下部電極14上及び上部電極18上において絶縁膜30を貫通する貫通孔58を形成する。貫通孔58は例えばフッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチングにより絶縁膜30をエッチングすることで形成する。
【0029】
図4(b)のように、貫通孔58に埋め込まれて、下部電極14及び上部電極18に接続した配線32を形成する。配線32は、例えばスパッタリング法を用いて貫通孔58に埋め込まれるように金属膜(例えばAl膜又はAl合金膜)を成膜し、その後、例えばフォトリソグラフィ法及びエッチング法により金属膜をパターニングすることで形成する。
【0030】
図4(c)のように、配線32を覆うように絶縁膜30上に保護膜34を成膜する。保護膜34は例えばCVD法を用いて成膜する。
【0031】
実施例1によれば、
図1(b)のように、下部電極14は、Ti膜及びTiN膜の少なくとも一方を含む第1導電膜20と、第1導電膜20の上面に設けられ、(111)配向を有するAlを含む第2導電膜22と、を含む。第2導電膜22が(111)配向のAlを含むことで、下部電極14の上面に結晶密度の高い面が現れて、下部電極14の上面での結晶性が安定する。このため、下部電極14の上面に絶縁膜16が安定して形成され易くなり、絶縁膜16の膜厚が安定する。また、下部電極14の上面の自然酸化が進み難くなるため、この点においても絶縁膜16の膜厚が安定する。第2導電膜22が第1導電膜(Ti膜又はTiN膜)の上面に形成されることで、例えば第2導電膜22がSiO
2膜の上面に形成される場合に比べて、Alの結晶粒径が小さくなる。これは、Ti及びTiNの結晶粒径は小さいため、その上に成膜するAlが下地の結晶の影響を受けて、Alの結晶粒径も小さくなるためである。これにより、ジョセフソン接合部19においてAlの結晶粒界が占める面積の割合のばらつきが小さくなる。このことについて、
図5(a)から
図5(d)を用いて説明する。
【0032】
図5(a)及び
図5(b)は、アルミニウムの結晶粒子が大きい場合の平面模式図及び断面模式図、
図5(c)及び
図5(d)は、アルミニウムの結晶粒子が小さい場合の平面模式図及び断面模式図である。
図5(a)のように、Alの結晶粒子60が大きい場合、ジョセフソン接合部19の形成位置がばらつくと、ジョセフソン接合部19においてAlの結晶粒界62が占める面積の割合がばらつく。一方、
図5(c)のように、結晶粒子60が小さい場合では、ジョセフソン接合部19の形成位置がばらついても、ジョセフソン接合部19において結晶粒界62が占める面積の割合のばらつきが小さく抑えられる。また、
図5(b)のように、結晶粒子60が大きい場合では、結晶粒界62での凹みが大きくなる。これに対し、
図5(d)のように、結晶粒子60が小さい場合では、結晶粒界62での凹みは小さい。これらのことから、結晶粒子60が大きい場合では、下部電極14上に形成される絶縁膜16の膜厚のばらつきが大きくなるが、結晶粒子60が小さいと、絶縁膜16の膜厚のばらつきが小さく抑えられる。
【0033】
以上のように、実施例1では、第2導電膜22が(111)配向のAlを含んでいることで、下部電極14の上面は結晶密度の高い面となるため、下部電極14上に形成される絶縁膜16の膜厚が安定する。更に、第2導電膜22がTi膜又はTiN膜である第1導電膜20の上面に形成されることで、Alの結晶粒子60が小さくなるため、これによっても絶縁膜16の膜厚が安定する。このように、絶縁膜16の膜厚のばらつきが抑えられるため、ジョセフソン素子の特性のばらつきを抑えることができる。
【0034】
また、実施例1の製造方法によれば、
図2(a)のように、スパッタリング法を用いてTi膜及びTiN膜の少なくとも一方を含む第1導電膜20とAlを含む第2導電膜22とを成膜する。
図3(d)のように、第1導電膜20と第1導電膜20の上面に設けられた第2導電膜22とを含む下部電極14を形成する。下部電極14上に絶縁膜16を形成する。絶縁膜16を介して下部電極14に重なる領域(ジョセフソン接合部19)を有するように上部電極18を形成する。例えば、蒸着法を用いて成膜する場合、高融点金属であるTiは蒸着法での成膜が難しいため、Ti膜及びTiN膜の少なくとも一方を含む第1導電膜20はスパッタリング法により成膜し、第2導電膜22のみ蒸着法により成膜することになる。この場合、第1導電膜20の上面に自然酸化膜が形成された状態で、第2導電膜22は第1導電膜20上に成膜されるようになる。第2導電膜22が自然酸化膜上に成膜される場合では、(111)配向を有するAlを含む第2導電膜22が形成され難い。一方、実施例1のように、第1導電膜20と第2導電膜22をスパッタリング法により成膜することで、第1導電膜20に続いて第2導電膜22を真空中で連続して成膜することができる。このため、第1導電膜20の上面に自然酸化膜が形成されない状態で、第2導電膜22が第1導電膜20の上面に成膜される。この場合、(111)配向を有するAlを含む第2導電膜22を形成することができる。また、第2導電膜22のAlの結晶粒径が小さくなる。よって、上述したように、絶縁膜16の膜厚を安定させることができ、ジョセフソン素子100の特性のばらつきを抑えることができる。また、第1導電膜20と第2導電膜22をスパッタリング法により成膜することで、第1導電膜20と第2導電膜22は共に緻密な膜となる。
【0035】
また、実施例1の製造方法では、
図2(a)のように、スパッタリング法を用いて第1導電膜20と第2導電膜22を成膜する。
図2(b)のように、第2導電膜22上に中間絶縁膜50を成膜する。
図2(c)のように、中間絶縁膜50上に超伝導材料を含む超伝導膜52を成膜する。
図3(a)のように、超伝導膜52上に形成したレジストマスク層54(第1マスク層)をマスクとして超伝導膜52をパターニングすることで上部電極18を形成する。
図3(b)のように、レジストマスク層54をマスクとして中間絶縁膜50をパターニングすることで絶縁膜16を形成する。
図3(d)のように、上部電極18と絶縁膜16を覆って第2導電膜22上に形成したレジストマスク層56(第2マスク層)をマスクとして第2導電膜22と第1導電膜20をパターニングすることで下部電極14を形成する。これにより、特性のばらつきが抑えられたジョセフソン素子を容易に形成できる。
【0036】
また、実施例1では、第1導電膜20は(111)配向を有するTiN膜である場合が好ましい。この場合、(111)配向を有するAlを含む第2導電膜22が形成され易くなる。
【0037】
[変形例]
図6(a)は、実施例1の変形例1に係るジョセフソン素子110の断面図である。
図6(a)のように、実施例1の変形例1では、上部電極18の上面を覆って被覆膜70が設けられている。被覆膜70は例えばTiN膜又は窒化シリコン(SiN)膜である。被覆膜70は
図2(d)におけるレジストマスク層54の代わりに形成し、被覆膜70をマスクとして超伝導膜52及び中間絶縁膜50をパターニングした後に除去せずにそのまま残したものである。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。中間絶縁膜50はイオンミリング法でエッチングするため、レジストマスク層54を用いる場合、レジストマスク層54が除去されて上部電極18がエッチングされる場合が考えられる。レジストマスク層54の代わりにTiN膜又はSiN膜である被覆膜70を用いることで、被覆膜70はイオンミリング法においてレジストマスク層54よりエッチングされ難いため、上部電極18がエッチングされることを抑制できる。
【0038】
図6(b)は、実施例1の変形例2に係るジョセフソン素子120の断面図である。
図6(b)のように、実施例1の変形例2では、平面視において絶縁膜16は上部電極18より大きい、上部電極18の上面及び側面を覆って絶縁膜16上に被覆膜72が設けられている。平面視において被覆膜72は絶縁膜16とほぼ同じ大きさをしている。その他の構成は実施例1と同じであるため説明を省略する。
また、実施例2では、下部電極14aは、絶縁膜12と第1導電膜20との間に設けられた、(002)配向を有するTi膜である第3導電膜24を含む。第1導電膜20は第3導電膜24の上面に設けられている。TiN膜である第1導電膜20と基板10との間にTi膜である第3導電膜24が設けられることで、下部電極14aと基板10との間の密着性を向上させることができる。第3導電膜24が(002)配向を有するTi膜であることで、(111)配向を有するTiN膜である第1導電膜20が形成され易くなる。第1導電膜20が(111)配向を有するTiN膜であることで、(111)配向を有するAl膜である第2導電膜22が形成され易くなる。よって、絶縁膜16の膜厚が安定し、ジョセフソン素子の特性のばらつきが抑えられる。
実施例2においても、実施例1の変形例1及び変形例2のように、上部電極18の上面に被覆膜70が設けられてもよいし、上部電極18の側面と上面に被覆膜72が設けられてもよい。