(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025149095
(43)【公開日】2025-10-08
(54)【発明の名称】制輪子及び鉄道車両用踏面ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20251001BHJP
B61H 1/00 20060101ALI20251001BHJP
F16D 65/06 20060101ALI20251001BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20251001BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520F
C09K3/14 520G
C09K3/14 520M
C09K3/14 530D
B61H1/00
F16D65/06 J
F16D69/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024049539
(22)【出願日】2024-03-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】門谷 英司
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA06
3J058AA17
3J058BA76
3J058CA02
3J058FA21
3J058GA28
3J058GA29
3J058GA35
3J058GA42
3J058GA43
3J058GA62
3J058GA92
(57)【要約】
【課題】適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数を向上させた、合成樹脂系摩擦材を備える制輪子を提供すること、及び、前記合成樹脂系摩擦材を備える制輪子を備える鉄道車両用踏面ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含有する合成樹脂系摩擦材を備える制輪子であって、前記合成樹脂系摩擦材は、前記摩擦調整材として天然黒鉛、人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含有する、制輪子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含有する合成樹脂系摩擦材を備える制輪子であって、
前記合成樹脂系摩擦材は、前記摩擦調整材として天然黒鉛、人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含有する、制輪子。
【請求項2】
前記合成樹脂系摩擦材中の前記天然黒鉛及び前記人造黒鉛の含有量の合計が15~35質量%である、請求項1に記載の制輪子。
【請求項3】
前記合成樹脂系摩擦材中の前記ケイ酸カルシウムの含有量が0.5~12質量%である、請求項1又は2に記載の制輪子。
【請求項4】
前記摩擦調整材として炭酸カルシウムを含有する、請求項1又は2に記載の制輪子。
【請求項5】
前記摩擦調整材として鋳鉄粉を含有する、請求項1又は2に記載の制輪子。
【請求項6】
鉄道車両用である、請求項1又は2に記載の制輪子。
【請求項7】
請求項6に記載の制輪子を備える、鉄道車両用踏面ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制輪子、特に鉄道車両の踏面ブレーキ装置に好適に用いられる制輪子に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両における制動装置として、車輪の踏面に摩擦材を圧接させて摩擦力を発生させ、その摩擦力を制動力として利用する踏面ブレーキ装置が知られている。この踏面ブレーキ装置は、円弧状に形成された台金と、この台金における車輪側主面に貼付される摩擦材とを備えた制輪子を有し、車輪の踏面に摩擦材を圧接させることによって制動力を得ている。
【0003】
摩擦材に求められる特性として、高摩擦係数(効き)、耐熱性、耐摩耗性(高寿命)、相手材に対する低攻撃性、低鳴き等が挙げられる。このような要求特性を満足させるために様々な技術が提案されている。例えば、ブレーキ装置の制輪子における摩擦材として、鋳鉄系制輪子の代替として合成樹脂系摩擦材を備える制輪子が提案されており、ドライ又はウェット条件下での制動性を十分に確保できたことが示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された合成樹脂系摩擦材は動摩擦係数(本明細書において「動μ」ともいう。)が低く、これを用いることにより鋳鉄系制輪子の代替となり得る。他方、合成樹脂系摩擦材を用いると、動摩擦係数のみでなく静止摩擦係数(本明細書において「静μ」ともいう。)も低下する。また、動摩擦係数が低すぎると、ブレーキをかけても車両が止まらないといった点で制動時のコントロールが難しい問題もあった。
近年、制動時のコントロール性のさらなる向上と車両停止時の転動のさらなる抑制の観点から、制輪子には一層高い性能が求められつつある。具体的には、適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数を向上させることが求められている。
【0006】
本発明の目的は、適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数を向上させた、合成樹脂系摩擦材を備える制輪子を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記合成樹脂系摩擦材を備える制輪子を備える鉄道車両用踏面ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、合成樹脂系の摩擦材を備えた制輪子(本明細書において「合成樹脂制輪子」ともいう。)において、合成樹脂系摩擦材が、摩擦調整材として天然黒鉛、人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含有することにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の内容に関するものである。
[1]
摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含有する合成樹脂系摩擦材を備える制輪子であって、
前記合成樹脂系摩擦材は、前記摩擦調整材として天然黒鉛、人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含有する、制輪子。
[2]
前記合成樹脂系摩擦材中の前記天然黒鉛及び前記人造黒鉛の含有量の合計が15~35質量%である、[1]に記載の制輪子。
[3]
前記合成樹脂系摩擦材中の前記ケイ酸カルシウムの含有量が0.5~12質量%である、[1]又は[2]に記載の制輪子。
[4]
前記摩擦調整材として炭酸カルシウムを含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の制輪子。
[5]
前記摩擦調整材として鋳鉄粉を含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の制輪子。
[6]
鉄道車両用である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の制輪子。
[7]
[6]に記載の制輪子を備える、鉄道車両用踏面ブレーキ装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制輪子は、適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数が向上しているため、特に前記制輪子を備える鉄道車両用踏面ブレーキ装置としたとき、制動時のコントロール性のさらなる向上と車両停止時の転動のさらなる抑制を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の制輪子の一実施形態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の制輪子の一実施形態の正面図である。制輪子1は、台金2、摩擦材3及び取付板4を基本として構成されている。台金2は、鉄道車両における車輪の円弧に沿った円弧状をなす略矩形の平板であり、その車輪側主面には、摩擦材3が貼付されている。取付板4は、図示しない車両側の制輪子頭に遊嵌し、制動時に生ずるトルクを受けるトルク受け部としての役割を担っている。このような制輪子1は、鉄道車両における制動装置における踏面ブレーキ装置を構成するものであり、制動時は、車輪の踏面に摩擦材3を圧接させて摩擦力を発生させ、その摩擦力を制動力として車両を停止ないし減速するものである。
【0012】
本発明の実施形態に係る制輪子は、摩擦調整材、結合材及び繊維基材を含有する合成樹脂系摩擦材を備え、前記合成樹脂系摩擦材は、前記摩擦調整材として天然黒鉛、人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含有する。
【0013】
黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。本発明の実施形態に係る制輪子では、合成樹脂系の摩擦材における低摩擦係数の実現と制動性の確保の観点から、所望の摩擦係数を得るために、天然黒鉛と人造黒鉛とを混合して用いる。
【0014】
天然黒鉛は、平均粒子径が1~200μmのものを用いることが好ましく、平均粒子径が20~60μmのものを用いることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲の天然黒鉛を用いることで、鉄道車両の車輪踏面等の相手材摺動面に対する潤滑性を向上させ、動摩擦係数を低下させることができる。
天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛を用いることができる。
【0015】
人造黒鉛は、平均粒子径が100~1100μmのものを用いることが好ましく、平均粒子径が400~800μmのものを用いることがより好ましい。平均粒子径が前記範囲の人造黒鉛を用いることで、成形性及び耐クラック性を向上させることができる。
人造黒鉛は、粒状黒鉛と呼ばれることもある。
【0016】
なお、本願明細書における平均粒子径は、レーザー回折式粒子径測定装置(例えば、ベックマン・コールター株式会社製「LS 13 320」)により測定された粒度分布から、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)として求めることができる。
【0017】
合成樹脂系摩擦材中の天然黒鉛及び人造黒鉛の含有量の合計は、15~35質量%が好ましく、18~32質量%がより好ましく、21~29質量%がさらに好ましい。天然黒鉛及び人造黒鉛の含有量の合計が15質量%以上であると、鋳鉄系の摩擦材と同等のレベルまで動摩擦係数を低下させることができるため、好ましい。また、天然黒鉛及び人造黒鉛の含有量の合計が35質量%以下であると、耐クラック性や相手材摺動面の清浄性を十分に保つことができるため、好ましい。
【0018】
天然黒鉛と人造黒鉛の質量比(天然黒鉛:人造黒鉛)は、1:1~5:1であることが好ましい。この質量比の範囲内であれば、鋳鉄系の摩擦材と同等のレベルまで動摩擦係数を低下させることができる。また、相手材摺動面の清浄性に関する効果を一層高めることができる。天然黒鉛と人造黒鉛の質量比(天然黒鉛:人造黒鉛)は、2:1~5:1であることがより好ましく、2:1~4:1であることがさらに好ましい。この好ましい範囲の質量比によれば、耐クラック性をさらに高めることができる。
【0019】
ケイ酸カルシウムは、ゾノトライト型とトバモライト型が挙げられる。ゾノトライト型の示性式はCa6Si6O17(OH)2で表され、その内部に針状の結晶が存在する多孔質の粒子であり、トバモライト型の示性式はCa5(Si6O18H2)・8H2O又はCa5(Si6O18H2)・4H2Oで表され、カードハウス状と呼ばれる板状結晶構造の多孔質の粒子である。
ケイ酸カルシウムとしては、ゾノトライト型であるプロマット社製「プロマクソン」(商品名)を使用することができる。
【0020】
ケイ酸カルシウムは、平均粒子径が好ましくは1~120μm、より好ましくは5~110μm、さらに好ましくは10~100μmのケイ酸カルシウムである。ケイ酸カルシウムは、制輪子に対して、適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数を向上させる働きを有する。
ケイ酸カルシウムの平均粒子径が1μm以上であると、静止摩擦係数を向上できるため好ましく、120μm以下であると、十分な機械的強度を確保できるため好ましい。
【0021】
合成樹脂系摩擦材中のケイ酸カルシウムの含有量は、0.5~12質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~8質量%がさらに好ましい。
合成樹脂系摩擦材中のケイ酸カルシウムの含有量が0.5質量%以上であると、静止摩擦係数を向上できるため好ましく、12質量%以下であると、十分な機械的強度を確保できるため好ましい。
【0022】
合成樹脂系摩擦材は、摩擦調整材としてカシューダスト及びゴムダストのうちの少なくとも1つ(本明細書において「カシューダスト及び/又はゴムダスト」とも表記する。)の有機充填材を含むことが好ましい。カシューダスト及びゴムダストのうちの少なくとも1つを含有することで、ドライ条件下での軽負荷時の摩擦係数を確保することができる。
【0023】
カシューダストは、カシューナッツの殻から採った油分を炭化し硬化させたものが挙げられる。カシューダストの平均粒子径は、10~500μmであることが好ましく、100~300μmがより好ましい。
ゴムダストは、タイヤ用ゴム(例えば、トレッド用ゴム)を粉砕したものが挙げられる。ゴムダストの平均粒子径は、10~1500μmであることが好ましく、300~600μmがより好ましい。
【0024】
合成樹脂系摩擦材中のカシューダスト及び/又はゴムダストの含有量の合計は、1~15質量%が好ましく、2~12質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。なお、合成樹脂系摩擦材中のカシューダスト又はゴムダストのいずれか一方のみを含有する場合、「カシューダスト及び/又はゴムダストの含有量の合計」は、カシューダスト又はゴムダストの含有量を示す。
合成樹脂系摩擦材中のカシューダスト及び/又はゴムダストの含有量の合計が1質量%以上であると、柔軟性が向上するため好ましく、15質量%以下であると、摩擦係数を確保できるため好ましい。
【0025】
その他の摩擦調整材としては、例えば、硫酸バリウム、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ(金雲母、白雲母、合成雲母、天然雲母)、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等の無機充填材や、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、マグネシア、クロマイト、四酸化三鉄、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム等の研削材や、二硫化モリブデン、硫化錫、硫化亜鉛、硫化鉄等の潤滑材や、亜鉛、錫、銅、鉄、アルミニウム等の金属粉末、天然黒鉛及び人造黒鉛以外の黒鉛等の固体潤滑材等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の摩擦調整材の総含有量は、所望する摩擦特性に応じて、適宜調整すればよい。その他の摩擦調整材の含有量は所望する摩擦係数に応じて、合成樹脂系摩擦材中、30~85質量%とすることが好ましく、40~80質量%とすることがより好ましい。
【0026】
制輪子を製造する際の成形性の観点から、摩擦調整材として炭酸カルシウムを含有することが好ましい。
炭酸カルシウムを含有する場合、合成樹脂系摩擦材中の含有量は8~45質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、13~35質量%がさらに好ましい。合成樹脂系摩擦材中の含有量が8質量%以上であると耐摩耗性向上のため好ましく、また、45質量%以下であると摩擦係数の確保のため好ましい。
【0027】
動摩擦係数の確保の点から、摩擦調整材として鋳鉄粉を含有することが好ましい。
鋳鉄粉を含有する場合、合成樹脂系摩擦材中の含有量は1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。合成樹脂系摩擦材中の含有量が1質量%以上であると、動摩擦係数を向上できるため好ましく、また、30質量%以下であると、適度な摩擦係数が確保できるため好ましい。
【0028】
鋳鉄粉は、平均粒子径が10~200μmのものを用いることが好ましく、30~150μmのものを用いることがより好ましく、50~100μmのものを用いることがさらに好ましい。
鋳鉄粉の平均粒子径が10μm以上であると、動摩擦係数を向上できるため好ましく、200μm以下であると、適度な摩擦係数が確保できるため好ましい。
【0029】
繊維基材は合成樹脂系摩擦材の補強に用いられ、繊維基材としては、例えば、耐熱性有機繊維、無機繊維、金属繊維が使用される。耐熱性有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、耐炎性アクリル繊維が挙げられ、無機繊維としては、例えば、チタン酸カリウム繊維やセラミック繊維(生体溶解性のものが好ましく用いられる)、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられ、また、金属繊維としては、例えば、スチール繊維等が挙げられ、これらを単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。繊維基材の含有量は、十分な機械的強度を確保するため、合成樹脂系摩擦材中、1~50質量%とすることが好ましく、3~45質量%とすることがより好ましい。
【0030】
結合材(バインダー)は、熱硬化性樹脂からなり、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂や、これら熱硬化性樹脂をカシューオイル、シリコーンオイル、各種エラストマー等で変性した樹脂や、これらの熱硬化性樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた樹脂等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。結合材の含有量は、制輪子としての十分な機械的強度、耐摩耗性を確保するために、合成樹脂系摩擦材中、5~25質量%とすることが好ましく、10~20質量%とすることがより好ましい。
【0031】
本発明の実施形態に係る制輪子は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、摩擦材を形成する摩擦材組成物の予備成形工程、予備成形工程で得られた予備成形体の加熱加圧成形工程を含む製造方法により製造できる。以下、各工程について具体的に説明する。
【0032】
まず、予備成形工程では、摩擦材を形成する原料を均一に混合し、得られた摩擦材組成物を加圧成形して予備成形体を得る。摩擦材組成物は、天然黒鉛及び人造黒鉛及びケイ酸カルシウムを含み、その他に前記した有機充填材やその他の摩擦調整材、繊維基材、結合材等を含むことができる。
摩擦材組成物は金型に投入され、混合性の向上と加熱加圧成形工程での作業性を向上させるために、6~14MPaの条件下で加圧成形されることが好ましい。圧力が6MPa未満であると予備成形体の形成が困難となるおそれがあり、14MPaを超える場合には、予備成形体にヒビが入る場合があるため好ましくない。
【0033】
加熱加圧成形工程では、予備成形工程で得られた予備成形体を熱成形型に投入して台金を重ねて加熱加圧成形を行い、所望の形状を有する制輪子を得る。
加熱加圧の条件としては、140~155℃の温度で、10~20MPa、20~60分間程度加熱加圧することが好ましい。
【0034】
本発明の実施形態に係る制輪子は、鋳鉄系の摩擦材と同じレベルの適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数が向上した摩擦材を備えてなることから、特に鉄道車両用の制輪子として有用である。
このことから、本発明の実施形態に係る制輪子は、これを備える鉄道車両用踏面ブレーキ装置とすることができる。
【実施例0035】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0036】
各例に対して行った試験は以下のとおりである。
【0037】
(1)動摩擦係数(軽負荷条件)
・相手材車輪:鍛鋼(Q3S)
・制動初速度:30、60、100、120km/h
・押し付け力:12、16、20kN
・相手材質量:1.8トン
上記の条件でダイナモメータ試験機を用い、上記の各制動初速度で上記の各押し付け力の試験を行い、軽負荷条件における相手材車輪に対する動摩擦係数(動μ)を測定した。なお、動摩擦係数の評価に用いたμは、制動初速度30km/h、押し付け力20kNにおける動μの数値である。
軽負荷条件における動摩擦係数μの評価(判定)は、下記のとおり行った。
A:0.22≦μ≦0.29
B:0.18≦μ<0.22、0.29<μ≦0.33
C:μ<0.18、0.33<μ
【0038】
(2)静止摩擦係数
・相手材車輪:鍛鋼(Q3S)
・押し付け力:5、14、30、40kN
上記の条件でダイナモメータ試験機を用い、上記の各押し付け力の試験を行い、相手材車輪に対する静止摩擦係数(静μ)を測定した。なお、静止摩擦係数の評価に用いたμは、押し付け力30、40kNにおける静μの数値である。
静止摩擦係数μの評価(判定)は、下記のとおり行った。
A:0.20≦μ
B:Aの範囲から外れる
また、上記静止摩擦係数μの評価を踏まえ、総合評価(判定)を下記のとおり行った。
A:押し付け力30、40kN条件下で、いずれも判定「A」であった
B:押し付け力30、40kN条件下で、判定「A」と「B」に分かれた
C:押し付け力30、40kN条件下で、いずれも判定「B」であった
【0039】
<合成樹脂系摩擦材の配合材料>
各例の合成樹脂系摩擦材の作製に用いた材料は以下のとおりである。
バインダー樹脂 :フェノール樹脂
ゴムダスト :平均粒子径500μm
硫酸バリウム :平均粒子径10μm
炭酸カルシウム :平均粒子径3.5μm
ケイ酸カルシウム:平均粒子径20μm
天然黒鉛 :平均粒子径40μm
人造黒鉛 :平均粒子径600μm
鋳鉄粉 :平均粒子径80μm
【0040】
(実施例1)
合成樹脂系摩擦材の配合材料を表1に示す配合処方(質量%)に従って混合機に投入し、ミキサーにて210秒間混合した。混合された合成樹脂系摩擦材組成物を、圧力7MPaで15秒間予備成形し、予備成形体を作製した。次いで、予備成形体を145℃の熱成形型に投入し、台金を重ねて圧力15.0MPaで27分間の加熱加圧成形を行い、加熱加圧成形体を得た。その後、この加熱加圧成形体に対して溝の加工を実施して、制輪子を作製した。
得られた制輪子に対し、上記の試験(1)~(2)を行った。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2~6、比較例1~4)
合成樹脂系摩擦材の配合材料及び配合量を表1に記載のものに変更した以外は実施例1と同様に合成樹脂系摩擦材を作製した。
得られた合成樹脂系摩擦材に対し、上記の試験(1)~(2)を行った。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1の結果から分かるように、実施例1~6の摩擦材は、適度に低い動摩擦係数を維持しつつ静止摩擦係数が向上していた。これにより、実施例1~6の摩擦材は、制動時のコントロール性と車両停止時の転動の抑制の観点から近年求められつつある制輪子の一層高い性能を具備するものであり、特に鉄道車両用踏面ブレーキ装置に有用であることが分かった。
これに対し、比較例1~4の摩擦材は、動摩擦係数及び静止摩擦係数の両者とも低い値を示した。